女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART5 COUNT

 

「間違いない………」

 

 薄暗い洞窟内で、使役した霊鳥 ヤタガラスから渡された古びた銅剣を手にした才季は、その感触を確かめてほくそ笑んだ。

 

「まごうことなき、草薙。まさか十柄の力で封ぜられていたとはな…………」

 

 銅剣を撫で回しながら、才季は低く笑う。

 

「これで、供物はそろった。あとは時を待つだけ………」

 

 草薙の剣を、洞窟の奥に設えた祭壇に飾る。

 ろうそくの明かりで照らされた祭壇の中央には行方不明になっている女性が、そして祭壇の手前の段にはそれぞれ少し質が違う、女性の物と思われる髪が奉られていた。

 

「向こうも手傷は負っている。が、回復に左程もかかるまいな………」

「確かに」

 

 才季の声に、応える声があった。

 いつの間にか、彼の背後にスーツ姿の壮年の男が立っていた。

 

「お任せください、才季様」

「注意しろ、相手は相当な力を持った者達だ。油断をしてはならぬ」

「我が力、油断するべき個所なぞありませぬ。では………」

 

 男の気配が消え、あとにはただ時を待つだけの者と物が残った。

 

 

 

「だから、なるべくデカイのだ! あ? 非売品? じゃあレンタルだ! ……そこんとこはまけろ。ああ、分かった。すぐ頼む!……割増分は費用として回しておいてくれ! できれば今日中! じゃあ頼んだぞ!」

 

 パオフゥの運転で移動するトレーラーのコンテナ内で、ゼリー状栄養食をすすりながら何件か電話していた八雲が、最後の一件を終えた所ですすり尽くした容器をゴミ箱に放り込み、備え付けのレンジで冷凍していたのを解凍したおじやを掻きこみ始める。

 

「にしても、まあ………」

「なんだ?」

 

 片手だけでおじやを貪り食う八雲を見ながら、渡されたバナナの皮をむいていた克哉が呆れるように八雲の様子を観察する。

 負傷した傷は回復魔法や回復アイテムでふさいだが、回復していない体力を補うべく、右手には食料、左腕には冷蔵保存していたリンゲル点滴を摂取する八雲の様子は、ある種壮絶だった。

 

「準備いいのね~」

「まあな。こんな事はザラだ」

 

 同じように渡された梅干を齧っていたうららが、炭酸を抜いたコーラ(1・5リットル・ペットボトル)をラッパ飲みする八雲を呆然と見る。

 

「いいのかい、盗まれた剣を追わなくてよ」

「相手の目的は大体分かった。どうせほっといても向こうから来るだろうしな、今は体力の回復が先だ」

 

 それだけ言うと、用意した食料を食い尽くした八雲は横になる。

 ほどなく、寝息が響いてきた。

 

「寝てる…………」

「大分疲労しているのだろう。しばし寝かせておいた方がいい」

 

 探していた手がかりが盗まれたにも関わらず、平然といびきをかいている八雲の姿に克哉も少し呆れ気味に言い放つ。

 

「それに、これじゃね~」

 

 半ばジャンクと化したGUMPを持ち上げつつ、うららがすでにレム睡眠に突入したらしい八雲の幸せそうな寝顔に呆れた視線を送る。

 

「修理できる奴を呼ぶって行ってたが、どこで待ち合わせするつもりなんだ? 市街地からドンドン離れていきやがるぜ?」

 

 八雲が入力した座標に従い、道順を表示していくカーナビを見ながらハンドルを操作するパオフゥが、行き先の方向を見て首を傾げる。

 

「そもそも、それ作った人ってどんな人?」

「たまき君が、全てのCOMPを作ったのは同じ一人の人間だと言っていたが…………」

 

 そこで、イザナミと闘った後から妙に口数の少ないカチーヤがそれが自分への質問だと気付いてようやく口を開く。

 

「………ヴィクトルさんっていう、稀代の悪魔研究家の方です。悪魔召喚プログラムの基礎は違う人が作ったそうですけど、それを簡略化、及びデバイスの製作をしたのはその人だそうです」

「ふ~ん、頭いいんだ、その人」

「紙一重って奴じゃねえのか?」

「会ってみれば分かるだろう。僕も多少興味がある」

「それもそうね~」

 

 そこで、会話が途切れる。地下ダンジョンでの疲労に付け加え、カチーヤの見せた圧倒的な潜在能力を誰もがあえて明言を避けるため、ただ気まずい沈黙だけがその場を支配していた。

 

「……………」

「……………」

「…………………あ、あのさ」

「…………何でしょう」

「あの、そのね、言いたくなかったら別に言わなくてもいいんだけど………」

 

 言いよどむうららに、何を言いたいのかを察したカチーヤが、わずかに身を固くする。

 

「その、カチーヤちゃんて………」

「うご!?」

 

 八雲の体が、妙な寝息と共にビクッっと跳ね上がる。

 それに驚いたうららが、思わず口を閉ざした。

 ほどなく、八雲が何かうなされ始める。

 

「何か悪い夢でも見てるのか?」

「さあ………」

「……やめろ、やめてくれ、ネミッサ…………」

「ネミッサって、女の名前か?」

「さあ? 私も知らない人ですが…………」

「頼む、やめてくれ………これ以上買われたら、財布が、残高が……………」

「女に貢がされる夢でも見てるんじゃあねえのか?」

 

 多分、正解。

 

「食ったり寝たりうなされたり、忙しい奴だな………」

「でも、いい人ですよ」

「いや、それは間違いないんだけどね…………」

 

 まだ何かぶつぶつと言いながらうなされている八雲を叩き越すかどうか悩んでいる内に、うららは質問の続きを聞く事をすっかり忘れていた。

 

 

2時間後

 

「ここか?」

 

 八雲が入力した場所、山の中の開発途中で廃棄されたらしいなんらかの工事現場の空き地に、トレーラーは停止した。

 

「こんな所で待ち合わせ?」

「こんな所じゃないと、ちょっと問題が有るんで」

「問題? 何の?」

 

 外へと降りたうらら、カチーヤ、克哉の三人が、周囲を見回す。

 

「誰もいないみたいだけど?」

「そろそろなんですけど…………」

 

 そこで、コンテナの中から何かの電子信号が響く。

 

「なに?」

「…………来たか」

 

 それで目を覚ましたらしい八雲が、着替えて車外へと出てくる。

 

「はて、仮眠取った割には妙に疲れてる気がする。しかも精神的に」

「………覚えていないならそれがいいかもな」

「何が?」

「女の名前呼びながらうなされてれやがったぜ、それ以上買うなとか、どうとかって」

「ああ、あの時の事か」

「苦労してたのねえ~」

「あ、来ました」

「………どこにかね?」

「あっちだよ、あっち」

 

 八雲が指差す方向、東側の空を見たペルソナ使い達が思わず絶句する。

 

「な!?」

「おいおい…………」

「あ、あれって………」

「見りゃ分かるだろ。飛行船だ」

 

 東の空からこちらへと向かってくる大型飛行船『業魔殿』の姿が、どんどんと大きくなってくる。

 

「でけえ…………」

「どうやってこんな物を保有しているんだ?」

「表向きは観光遊覧船、裏の顔は世界有数の悪魔研究所って寸法だ。見学してみるか?」

「いいの?」

「口外しないと約束してもらえるのなら、問題は無いと思います」

「しゃべった所で、どこの誰が信じるってんだよ」

「それもそうだ」

 

 ちょうど頭上に来た所で、乗降用と思われるゴンドラがゆっくりと降りてくる。

 ゴンドラが地面へと降りた時点で、そのゴンドラに乗っていた赤い瞳に首にエメラルドをあしらったチョーカーを着けたメイド姿の若い女性が深々と一礼しました。

 

「ようこそ業魔殿へ。お待ちしておりました、八雲様、カチーヤ様」

「メアリ、お久しぶり。連れがいるんだが、いいかな?」

「承りました」

 

 そのメイド、メアリがゴンドラのドアを開き、皆を中へと招き入れると、ゴンドラが上昇を始める。

 

「こってるわねー」

「普段は観光用のお客様を乗せるための物ですので」

「お陰で近くに来てたのを呼べたのが救いだったな。ヴィクトルのおっさんはいるかい?」

「ヴィクトル様はいつもの場所にてお待ちです」

「HDバックアップとスキャンを頼みたいが、準備は?」

「万全です。アルファ様とベータ様から幾つか新しいソフトもいただいております」

「最悪、システムのフルコンパーチプルが必要になるな…………」

「代替機を用意いたしましょうか?」

「いい、下手に替えると使いこなすのに手間がかかるからな」

「了解しました」

 

 6人の乗員を乗せたゴンドラが客室部へと収納される。

 客室部の中には、まるで高級ホテルのようなシックな装飾が広がり、初めて訪れたペルソナ使い達を絶句させた。

 

「ふえ~、高そうなインテリア………」

「事実、高級品だなこいつは」

「不用意に破損したら、確実に弁償せねばなるまいな………」

 

 足元に広がる真紅の絨毯を踏みしめつつ、一行は客室の奥へと進んでいく。

 先頭を行くメアリと、その後ろを歩いていた八雲があるドアを通り過ぎた途端、そのドアが内側から勢いよく開かれた。

 

「お兄ちゃん来てるって!?」

 

 ドアが開く音に、何かがぶつかる音が続き、程なく何かが崩れ落ちる音が響く。

 

「え?」

 

 開いたドアから出てきたのは、メアリと瓜二つの同じメイド姿の女性だった。

 唯一の違いといえば、首にサファイアをあしらったチョーカーを付けているのと、メアリの物静かな雰囲気とは対照的な活発な雰囲気を持ったメイドは、皆の視線が自分の開けたドアに向いているのを確認すると、恐る恐るドアの向こうに顔を覗かせる。

 そこには、床にノビたカエルのような状態で這いつくばっている八雲と、それを心配そうに見ているメアリの姿が有った。

 

「あ…………」

「直撃したな、こいつは」

「八雲さん?」

 

 開けたままのドアから縦に並んで覗き込む視線群の先で、八雲の手足がびくびくとケイレンしている。

 だが、いきなりその状態から八雲はがばっと立ち上がると、ドアを開けたメイドへと詰め寄る。

 

「アリサ~!!」

「ゴ、ゴメン!」

 

 憤怒の表情で怒鳴りつける八雲に、加害者のメイドーアリサは両手を合わせて必死に謝る。

 

「申し訳ありません、八雲様。お怪我はございませんでしょうか?」

「ああ、コブくらいは出来たかも……」

 

 メアリの心配そうな問いに、後頭部を押さえ込みながら八雲が涙目で答える。

 

「ねえ………」

「気付いてるよ」

「だが……」

 

 その様子を見ていたペルソナ使い達が、小声で何か話し合いつつ、二人のメイドを見る。

 

「……どうかしました?」

「いや、その………」

「少し、な」

「何で人形がしゃべってるんだ? 悪魔か?」

「パオ!」

「あら」

「……分かるのですか?」

 

 平然と聞いたパオフゥをうららがたしなめるが、《人形》と呼ばれた二人は、意外そうな顔でペルソナ使い達を見ただけだった。

 

「ペルソナ使いってのは、そういうのも分かるのか?」

「ああ、だが悪魔にしてもこの二人は……」

「少し違います。この船の主であらせられるヴィクトル様が悪魔研究の一環として作られたテトラ・グラマトン式成長型人造魂魄保有型半有機自動人形初期型、それが私、メアリです」

「そして、そのノウハウを応用して作られたパーソナル デバイス設定式二期型が私、アリサって訳。驚いた?」

「いや、妙な物だったら散々見てきたんでな。今さら自我を持った人形くらいじゃ…」

「え~と、保有ペルソナがHANGEDMAN プロメテウスにCHARIOT マハーカーラにTOWER ハスター? 随分と攻撃的ね」

「な!?」

 

 所持していたペルソナを言い当てられたパオフゥが驚いてアリサを見て、彼女の瞳の中に文字列が次々と浮かび上がっていくのを発見する。

 

「ANALYSEシステムをバージョンアップしたのか?」

「うん、属性相性と憑依・降神状態の確認機能追加してみたの」

「……彼女自身がCOMPなのか?」

「機能は付いてるんだがな、こいつはまだソウルの発展が途上だから一人じゃ召喚も制御も出来ない」

「う~……………」

「なんとも中途半端な機能がついてやがるもんだな」

「悪かったな、付けたのはオレだよ」

「アリサのパーソナル デバイス・マトリクスと、付随機能は全て八雲様の手による物です。そのどれもが余程のプラグラム能力が無ければ出来ない物なのです」

「……失敗してない?」

「ああ、甘えてくれる妹系メイドを目指したつもりだったのに…………やはりシ○プリではなく、双○を参考にするべきだった…………」

「ひど~い!」

 

 むくれるアリサを横目兼遠い目で見つつ、八雲が視線を明後日の方向へと向ける。

 

「随分とにぎやかな事だな」

 

 そこへ、赤地のマントと水夫帽に杖をついた、まるで前時代の海賊船長のような格好をしたどこか威圧感を漂わせるひげ面の壮年男性が現れた。

 

「あ、ヴィクトルさん。こんにちは」

「よ、おっさん久しぶり」

「業魔殿へヨーソロー。ペルソナ使いの方が訪れるとは珍しい。私がこの船の船長、ヴィクトルという者だ」

「港南警察署 刑事一課所属の周防 克哉警部補だ。今回捜査していた事件が悪魔使いがらみで、彼らと知り合った」

「あたしは芹沢 うらら。職業はマンサーチャー。克哉さんの仲間よ」

「パオフゥだ。そこの堅物とは腐れ縁ってとこだ」

「さて、緊急の要件と聞いていたが詳細は?」

「こいつ」

 

 八雲が、故障したGUMPをヴィクトルへと手渡す。

 それを受け取ったヴィクトルが、鋭い視線で各所を操作しながら破損状況をチェックしていく。

 

「メインCPUまでは破損しなかったのが不幸中の幸いだな。ただ、内部プログラムをスキャンして見ないと使用可能かどうかは不明だ」

「大至急で。次がいつ来てもおかしくないんでね」

「うむ、了解した。アリサ」

「OK、パパ。2時間もあれば………」

「90分」

 

 八雲の言葉に、アリサの片頬が微かに引きつるが、即座にそれを消すと、にこやかな笑顔でメイド服のポケットをまさぐると、何かのチラシのような物を手渡した。

 

「明後日発売なの、初会予約入れ忘れちゃって♪」

「…………分かったよ、なんとか入手しておく」

「ありがと、おにいちゃん♪」

 

 手渡された人気アニメ初回限定DVD(ネット上ではプレミア必至との評判)発売予定のチラシを引きつりまくった顔でポケットにねじ込む八雲にアリサは笑顔で礼を言いつつ、片袖を捲り上げ、手首を軽く捻る。

 

「え!?」

「な………」

「ほう………」

 

 手首を軽く捻ったとたん、腕から現れた無数のPC接続端子が並んでいるのを見たペルソナ使い達が絶句するが、アリサは気にもしないでポケットから接続コードを取り出し、手馴れた手つきで腕の端子の一つとGUMPを接続していく。

 

「ACCESS」

 

 アリサの瞳に、無数のプログラムの文字列が浮かび上がり、すさまじいスピードでロールしていく。

 数秒間それを続けながら気難しい顔をしていたアリサの顔が、ふいに微笑を浮かべる。

 

「何とかなりそ、ちょうどいいソフトがあるし」

「入れるならオレの見ている前でな。妙なソフト入れられたらかなわん」

「……ダメ?」

「女悪魔の服をシースルーに、男悪魔をフンドシにするソフトなんてどこから手に入れた!?」

「アルファさんとベータさんにおねだりしたら作ってくれたの」

「あのカマ双子が…………」

「オレも見学させてもらっていいか? 興味があるんでな」

「いいけど、手伝ってね」

「他の方はこちらへ、今お茶をお出しします」

「それはすまない」

 

ヴィクトルの操作で上階に上がる階段が反転し、船内図に存在しない下階へと続く階段を下がる八雲とパオフゥを見送りつつ、残った面々はメアリの後に続いて食堂へと向かう。

 窓から雲の流れていく様を間近で見られる絶景の食堂のテーブルの一つに、カチーヤ、克哉、うららの三人が腰掛ける。

 メアリが厨房からティーセットを載せた台車を持ち寄り、洗練された動きでティーポットにお湯を注ぐ。

 程よく蒸らし、香りを引き出された紅茶がカップを満たし、三人へと配られる。

 

「ほう、これはいい葉を使っているね。シッキムとは珍しい。入れ具合もちょうどだ」

「お褒めに預かり、光栄です」

 

 ゆっくりと香りをかぎながら口に含む克哉の脇で、味も見ない内にうららが用意されてあったブランデーを、カチーヤが砂糖とミルクを入れていく。

 

「せめて、味を見てから入れたらどうかね?」

「あ、あたしはいつもこうしてるから」

「私もです」

「スーパーのティーパックとは物が違うのだが………」

「カチーヤ様にはいつも召し上がってもらってます。克哉様はストレートでよろしいのでしょうか?」

「ああ、こんないいお茶は滅多に飲めないからね」

「そうですか、八雲様はいつもミルクとハチミツを入れてシナモンスティックで混ぜた後、スコーンに浸して召し上がられるので」

「………ジャンクフード食べながらキーボード叩くタイプね……」

「マナーという物を知らないのか?」

「冷ましたのをティーポットから直に飲まれたりもしますが」

「…………後でテーブルマナーを一から教えておこう」

「そうしてもらえるとうれしいですね、ムッシュウ」

 

 背後から掛けられた声に克哉が振り返ると、そこに派手な赤地のコック服に身を包んだ男性が、大きめのトレーを載せた台車を押してテーブルのそばまで来ると、優雅に一礼する。

 

「ボンソワール・ムッシュウ! ボン・ソワール・マドモワゼル! 私、ここを取り仕切るシェフ・ムラマサと言います。お茶請けに焼きたてのスコーンなぞいかがですか?」

「う~ん、あんまりお腹減ってないけど、少しもらおっかな?」

 

 差し出されたスコーンの香ばしいニオイに、三人の手が伸びる。

 

「ふむ、いいバターを使っている。しかも地卵を使っているとは………」

「よくお判りで、ムッシュウ。北海道産の無塩バターの直送品と、岩手産の地鶏の物を使用しております」

「地卵は前に使ってみた事があるんだけど、僕が作った時はどうにも味がまとまらなくてね」

「オゥ、それは粉の選別と焼き方にコツが………」

「………克哉さんて、お菓子作りが趣味なんですか?」

「刑事目指す前はお菓子職人になりたかったらしいわよ。去年のクリスマスなんてスゴイの作ってたし」

「多芸な方のようですね」

 

 ムラマサとお菓子作りで熱論を交わしている克哉を女性陣が少し引き気味で見つつ、ティータイムが進んでいた頃………

 

「ほう、こいつはすげえ」

「私が作り出した悪魔合成機だ。悪魔をテトラ・グラマトン方式で数式化した後、それを合体ソフトで数値、因子双方に融合・変換させて新たな存在とする」

「なんなら合体してみる?」

「遠慮しとく。ペルソナだけで十分だ」

「何だ、残念」

「……用心しろ、こいつは本気でやりかねないぞ」

 

 目の前に広がる巨大なマシン(なぜか、上に「力が欲しければ、くれてやる!」と書かれた横断幕付き)を眺めていたパオフゥが、周囲に広がる無数のマシン群を観察する。

 

「勝手に触んないでね、危ないから」

「また妙な物でも作ったか?」

「お兄ちゃんが前に考えたアレの試作品があるの。安定化に問題があるのもあるから、下手に触ると封印してる悪魔が開放されるかも」

「何を作ってやがるんだか」

 

 バスーカだかただの煙突だか区別のつかない物や妙にごついガントレットのような物、長い竿のような物などをよけつつ、その奥に無数のマシンを複雑怪奇な結線でLANを構築している超ハイスペックPC(こちらは『MAGIプロトタイプ』とマジックで書かれている)へと皆が歩み寄る。

 アリサは本体部(と思われる物)から伸ばしたコードをGUMPが繋いであるのとは別の腕の端子に接続し、自らを媒介としてGUMP内の全データを無数のディスプレイに表示させていく。

 

「あら~………これは………」

「結構やられてやがるな」

「ふむ、召喚マトリクスの損傷もあるな……」

「こっちも欠損してやがるな」

「よくまあさっき動いたもんだな」

 

 展開されたデータを見ながら、皆がそれぞれを解析する。

 

「ストック用の欠損はそのまま合体にまわした方がいいかもな」

「ふむ、だが召喚マトリクスの欠損を補うには素体が必要だ」

「御魂のデータがこっちに入ってる。これで」

「ふむ、これならなんとかなりそうだ」

「じゃあ、召喚プログラムの方はこっちでなんとかしとくわね」

「これならオレでもなんとかなりそうだ。手伝うぜ」

 

 アリサとパオフゥがプログラムの修復に取り掛かる中、八雲は手持ちの悪魔のデータを幾つか悪魔合成機へと移動させていく。

 

「確か、ニャルモットがストックにあったな」

「ふむ、ヨモツイクサとでいいのだな?」

 

 同一の種族同士をセットした悪魔合成機の起動手順をヴィクトルが行うと、セットされた悪魔の存在その物が機械内部で数値へと変換、それを数秘学的に合成させ、それで導き出された数値を存在へと変換、まったく違う存在へと変質させる。

 同一種族同士の因子が合成により純化され、もっとも因子の存在が強い《精霊》が合成された。

 合成された土を司る妖精 ノームに、今度はストックしておいた風の精霊 シルフを合成させ、更に因子を純化させた《魂》が作り出された。

 

「こいつはジャンヌに、と」

 

 欠損していたマトリクスに御魂が補充され、ジャンヌ・ダルクのマトリクスの数値が正常化される。

 

『我が博愛、あなたに捧げましょう……』

「ああ、頼むぜ」

「ほう、悪魔合体ってのはそうやるのか」

 

 作業を進めながら、パオフゥが悪魔合体を興味深そうに見る。

 

「こいつが合体用プログラムか。計算シーケンスは複雑だが、あとは結構単純に出来てやがるんだな」

「下手にいじるなよ。すごい事になるから」

「テトラ・グラマトンが解析できれば改造も可能だがな」

「オレは前に失敗したけどな。意味不明の悪魔が出来た挙句、襲い掛かってきて苦労したっけ………」

「あ、召喚ソフトの新型入れとくね」

「あんまり妙なのは入れるなよ………」

 

 他の仲魔のマトリクスをチェックしていた八雲が、ふと克哉が言っていた事を思い出す。

 

「そういやおっさん。光線銃みたいなCOMPって覚えあるか?」

「光線銃型? 確か前に試作した中にあったはずだが、知人にゆずってしまったが」

「……その知人って、安部 才季って奴じゃねえか?」

「ああ、そうだが知っているのか?」

「今回の事件の黒幕だよ。どうにも八又ノ大蛇の復活をたくらんでるらしくてな」

「! オロチを!? なる程それでか…………」

「知ってる事が有ったら教えてくれ。どんな奴なんだ、そのイカレ学者は?」

 

 八雲の問いに、ヴィクトルはしばし考えると、口を開いた。

 

「あれはそう、十年は前になるか………悪魔合成機の製造に成功した私の元を、彼が尋ねてきた。お互い、悪魔研究に身を置く者として、色々な事を話し合った。彼がある妄執に取り付かれていなければ、よき友となっていただろう………」

「妄執?」

 

その一言にヴィクトルの表情が一瞬陰る。

 

「……完全なる、神の復活だ」

「……正気か? 創生の混沌期ならともかく、現在に完全な神は呼び出せないはずじゃ?」

「それを成し遂げる方法を、彼は研究していたのだ。そして、ある結論に辿り着いた」

「どうやるんだい、そいつは?」

「幾つか方法はある。何らかのネットワークを通じてソウルを収集し、それをくべてやるか、極めて純粋に近い空間で召喚を行うか」

「少し違うな。彼は、異界の因子を大量に満ちさせ、そこで古式に準じた儀礼を行う事で《神》を復活させるという手を考え出した」

「因子っていうと、何をするつもりなんだ?」

「馬鹿でかい門でも開く気か? そんな事すりゃ一発で葛葉が気付くし、下手すりゃ呼んでない奴まで這い出てくるが」

「いや、大きな門を開かず、小さな門を無数に作ればいい。小中クラスの悪魔は大量に出てくるが、上位ランクが出てきて因子を食う事は無くなる」

 

 それを聞いたパオフゥと八雲の手が、同時に止まる。

 

「正気の沙汰じゃあ無いな。」

「そいつは、どれくらい掛かる?」

「準備さえ済ませれば、一日もかかるまい。もし阻止したいのなら、その前だ」

 

 八雲の顔に苦笑が浮かぶ。

 

「おそらく、そっちは手遅れだな。明日あたりにはどこかに雲霞がごとく悪魔が湧いてくる。………儀式を阻止するなら、そのど真ん中に突撃かますしかないな」

「………てめえも正気か?」

 

パオフゥの苦笑に八雲が皮肉った笑みで返す。

 

「これがオレの仕事だ。なんなら今から逃げても文句は言わねえぜ?」

「ここまで関わっといて、今更尻尾巻いて逃げ出せるかい。人手を集めとくぜ」

「そいつはありがたいな。こっちも集められるだけは集めるが…………」

「あ、お兄ちゃんコレ」

「完成したのか?」

 

 それまで無言で作業していたアリサが投げた物を、八雲は受け取る。それは、最新型のメモリ内蔵型腕時計だった。

 

「そいつもCOMPかい」

「ああ、もっともワンウェイ(使い捨て)が限度だろうけどな。ちょっとした奥の手が入ってる」

「仕掛けが好きな奴だな」

「小心者なんだよ」

 

 クスリと笑うと、八雲もGUMPの修理へと取り掛かった。

 

 

「大多数召喚の可能性だと!?」

 

 手にシェフ・ムラマサから分けてもらったハチミツだの小麦粉だのをいっぱい持っている克哉が、八雲の言葉に仰天する。

 

「それって、どれくらい?」

「神一体分ってとこか?」

「……数で言えば?」

「聖書的、仏経典的、その他もろもろ、どれで言ってほしい?」

「そんなに!?」

 

 うららが唖然とする中、八雲は修理の終えたGUMPの状態をチェックする。

 

「南条の坊ちゃんには連絡しといた。おっつけ、増援が来るぜ」

「こちらもマダムが動いてくれる。派手になりそうだ」

「で、でも………」

「マドモアゼル・カチーヤ、これを忘れる所でした」

 

 顔を蒼くしているカチーヤに、シェフ・ムラマサがトレーに載せたある物を渡す。

 

「マドモアゼル・レイホウからオーダー頂き、腕によりを掛けて仕上げた一品です。どうぞご賞味を」

「これ…………」

 

 そこには、槍の穂先の両側に三日月状の刃を付けた、方天戟(ほうてんげき)と呼ばれる中国の武器だった。

 

「女性の守護を司る天仙娘々のソウルを宿しておる空碧双月(くうへきそうげつ)です。味わい深い一品になっていると思いますが………」

 

 30cm程のそれをカチーヤが手に取り、一振りすると収納されていた柄が伸び、槍程の長さになる。

 その穂先からは、月光を思わせる光が湛えられていた。

 

「ありがとうございます」

「満足いただいて何よりです、マドモアゼル」

「八雲様」

「ん?」

「先程より、八雲様のお車のそばに不審人物がおられるのですが」

 

 メアリが持ってきた小型ディスプレイの中には、この飛行船のどこかに設置されているらしい望遠カメラの映像が映され、そこには八雲のトレーラーの側に立つ男が映し出されていた。

 

「見覚えない奴だな、あんたらは?」

「いや、知らない人物だな」

「そうね」

「じゃあ……」

「もう来やがったらしいな。せめて昼寝くらいはしたかったが………」

 

 それを、敵だと判断した八雲は、懐から取り出したソーコムピストルの残弾を確かめる。

 

「休んだら働けって事?」

「どうやらそうらしい」

「オレは休んでねえぞ」

「それじゃあ休んでいてください。私達でなんとか………」

「ま、いいさ」

 

 おのおの戦闘準備を整える中、メアリが昇降用のゴンドラの扉を開く。

 戦闘準備を終えた皆がそれに乗ると、メアリはそれを操作する。

 

「お兄ちゃん頑張って!」

「おう」

「ムッシュウ・克哉、いつでもおいで下さい。まだ教えていないレシピがありますから」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 降りていくゴンドラの中、業魔殿の乗務員達が思い思い声を掛ける。

 静かに下りていくゴンドラが地表に着き、扉が開かれる。

 

「八雲様、ご無事で………」

「分かってるさ」

 

 メアリの頭を軽く叩きながら、八雲がゴンドラから降りて待っていたスーツ姿の壮年の男へと向き直る。

 

「どうも、小岩探偵事務所 代表取締役、小岩 八雲です。仕事のご依頼で?」

「ええ、すごく簡単な仕事を頼みたいのです」

 

 事務的な口調とは裏腹に、両者の間に濃密な殺気が満ちていく。

 

「それで、ご依頼内容は? 素行調査、浮気調査、ストーカー対策等うけたまわっておりますが?」

「生憎と、そのどれでもありませんね………」

 

 男は、腕に嵌めていた妙にゴツイ腕時計の文字盤を押し込む。

 それが機動スイッチだったのか、男の腕時計型COMPから突如として膨大な光の粒子が噴き出す。

 

「やはりサマナーか!」

「来るぞ!」

「先手必勝! アステリア!」

『ツインクルネビュラ!』

 

 うららのペルソナ、アステリアが旋風を男へと叩きつけようするが、それは男の足元へと溜まっていく膨大な光の粒子から突き出した、とてつもなく巨大な《腕》に阻まれた。

 

「えっ?」

「何を召喚しやがった!」

「ふ、はははははは!」

 

 膨大な光の粒子は、地面へと降り積もっていき、やがて何かの形を取りながら男を押し上げていく。

 

「うそ………」

「そ、そんな!」

「ふ、ははははは!」

 

 それは、正真正銘の《巨人》だった。

 肩に乗せた男の身長よりもなお大きい顔が、皆を見る。

 

「私が依頼したいのは皆さんの死です。行け、ダイダラボッチ!」

『ゴガアアア…………』

 

 男の命令で、巨人―神話で日本の山々を作ったとされる巨神 ダイダラボッチが、地響きのような咆哮をあげつつ軽自動車程はある拳を振り上げる。

 

「! 来るぞ!」

「マジか!」

 

 全員が慌てて散開し、誰もいなくなった地面に巨大な拳が振り下ろされる。

 直下型地震のような地響きと共に、地面が爆発したような粉塵と衝撃を巻き上げ、隕石が落ちたかのようなクレーターが穿たれる。

 

「ちょ、ちょっと洒落になってないわよ!」

「こんなのとどう戦えば………」

「今考える!」

 

 八雲がGUMPを起動させ、先程インストールした新型召喚ソフトを立ち上げる。

 

「出し惜しみ無しだ!」

 

 手持ちの仲魔を全て選ぶと、新型召喚ソフトの特性である一斉召喚を起動させる。

 

「なんと、これは……」

「グルルルル……」

「このような者相手にどう戦えば………」

「は、斬りがいがあるじゃねえか!」

「いざ、参らん!」

「行くぜぇ!」

 

 召喚された妖精 オベロン、魔獣 ケルベロス、英雄 ジャンヌ・ダルク、地母神 カーリー、全身から光を放つ白装束の戦士の姿をした幻魔 クルースニク、全身から水を滴らせる大蛇の龍王 ミズチが、ある者は目前の巨大すぎる敵影に絶句し、ある者は闘争本能を剥き出しにする。

 

「ジャンヌ、補助魔法をありったけ使え! 他の奴はかく乱させつつ、足を集中攻撃! 無理はするな! お前らも少し時間を稼いでくれ!」

 

 指示を出しつつ、八雲は装備を取りにコンテナの中へと駆け込む。

 

「早めに頼むぜ、プロメテウス!」

『雷の洗礼!』

「ヒューペリオン!」

『ヒートカイザー!』

「アステリア!」

『ツインクルネビュラ!』

 

 ペルソナの放つ三種の攻撃魔法がダイダラボッチに命中するが、腹に炸裂した無数の雷も、足を覆い尽くす超高温の熱波も、巨人を中心として渦巻いた旋風も、それが消えた後にはかすり傷しか負っていないダイダラボッチの姿が現れるだけだった。

 

「ゾウ相手にアリが勝てるとでも思っているのか?」

 

 悠然と巨人の肩で男はほくそ笑む。

 

「イヤアアアァァ!!」

 

 気合と共に、カチーヤが空碧双月でダイダラボッチのかかとを切り裂く。

 月光のごとき残光を帯びつつ繰り出された刃が岩のような強度の表皮を切り裂き、肉をえぐるが、ダイダラボッチの巨体の前には小さな切り傷程度のダメージにしかならない。

 

「パオ! あれ行くわよ!」

「おう!」

『Black Howl(黒き咆哮)!』

 

 プロメテウスの放った超高速の闇の弾丸が、アステリアの旋風を砲身とし、更なる加速を持ってダイダラボッチの胴体へと炸裂する。

 周囲一帯に響き渡る爆音と共に、ダイダラボッチの体が大きく揺らいだ。

 

「ダイダラボッチ!?」

『ゴグルルル………』

 

 肩に乗っていた男が振り落とされそうになりながら、ダイダラボッチを見やる。

 地から響くような唸り声を上げながら、ダイダラボッチの体から、淡い光を生じる。

 

「ディアラハンだと!」

「回復魔法まで使えるのか!」

「パオ! もう一回…」

『浮嶽震鳴(ふがくしんめい)』

 

 再度合体魔法を放つ前に、ダイダラボッチが大地に両手を叩きつける。

 そこから、余震も無しに突如として起きた強力な直下型地震が皆を襲った。

 

「うわっ!」

「ちっ!」

「これはっ!?」

「きゃああ!」

「くそっ!」

「ガルルル!」

 

 立つ事すらままならない震動が、人間も悪魔もお構いなしに大地を荒れ狂わせる。

 

「あっ!?」

「! 周防!」

「周防殿!」

 

 震動で突如生じた地割れに克哉の体が飲み込まれるのを、とっさにパオフゥとジャンヌ・ダルクがそれぞれ片手を掴んで止める。

 

「くっ………」

 

 地割れの底に、懐に仕舞いこんでおいたもらったばかりの材料が吸い込まれていくのを克哉は悔しげに見ながら、揺れが収まりかけた所で這い上がろうとするが、そこに巨大な影が差した。

 

「……手を貸そうか?」

「ちぃ……」

「卑怯な!」

 

 こちらを見下ろす男とダイダラボッチの視線が、動くに動けない三人を捕らえる。

 

「パオ、克哉さん!」

『ブフーラ!』

「アアアアァァ!」

「グルオオオオオ!」

『マハ・ラギオン!』

 

 拳を振り上げようとするダイダラボッチにありったけの攻撃が加えられるが、蚊でも刺したかのように気にも止めず、巨拳が振り下ろされる。

 だが、その寸前にダイダラボッチの肩口で大きな爆発が起こり、その巨体が大きく揺らいだ。

 

「!?」

「こっちを無視すんなよ…………」

 

 コンテナからありったけの武器を持ち出した八雲が、手にしたチャイカムTNTの束を再度ダイダラボッチへと投げ付ける。

 振り返ったダイダラボッチの手がそれを払おうとするが、振り払う前にそれは爆発し、ダイダラボッチの手を焦がした。

 

『ゴガアアア………』

「貴様ぁ!」

「お次はこいつだ!」

 

 八雲が背からパイプの先にポットのような部品の付いた物、通称RPG7と呼ばれる対戦車用ロケットランチャーを取り出し、ためらわずトリガーを引いた。

 

「!?」

 

 噴煙を上げながら飛んでくるロケット弾に男が度肝を抜かれている間に、ロケット弾が目標に命中、大爆発を起こす。

 

『ガアアアア!!』

 

 爆炎の中から衝撃を伴った絶叫が、ダイダラボッチの口から吐き出される。

 煙が晴れると、そこには胸からおびただしい血を溢れ出させるダイダラボッチの姿が有った。

 

「高いだけあって、結構効いたか」

「八雲さん、どこからそんな物騒な物……………」

「今度シックスにねだってみろ。かわいい子だったら、リボン付けてプレゼントしてくれるかも」

「……後でその人物に事情聴取させてもらえるかな?」

「後でな! 一斉攻撃、ヒット&アウェイ!」

 

 回復させる間を与えないために、八雲の指示でフォーメーションを組んだ仲魔達が一斉に攻撃を開始する。

 

『マハ・ラギオン!』

「ガアァァ!!」

 

 オベロンとクルースニクの火炎魔法とケルベロスの口から放たれた業火が、一点に集中されてダイダラボッチのくるぶしを焼く。

 

「ハッ!」

「アアアァァ!」

「イヤァ!」

 

 ジャンヌ・ダルク、カーリー、それにカチーヤが突撃し、炎を浴びせたのとは反対のくるぶしを通り過ぎざまに剣、六刀、空碧双月で斬り裂いていく。

 

「おのれ、ちょこざいな!」

「どっちがだ!」

 

 八雲がM249ミニミマシンガンをフルオートでダイダラボッチの目に向かって乱射しまくり、ミズチがその体をダイダラボッチに巻きつかせて頭部まで昇ると、零距離でダイダラボッチの顔面に吹雪を吐き出して即座に離れていく。

 

「やれ、やってしまえダイダラボッチ!」

『ゴグググ………』

 

 集中して攻撃してはすぐに散開し、そしてまた別個に集中し、を繰り返す相手に、ダイダラボッチの巨拳が闇雲にクレーターを穿つ。

 

「ヴリトラ! 行くぞ!」

「おうよ!」

『ゴッドハンド!』

 

 克哉が《STRENGTH》と振られ、炎から生み出されたとされる魔龍が描かれたタロットをかざしてペルソナをチェンジさせると、パオフゥとの合体魔法を発動。

 天からダイダラボッチのよりも大きな拳が振り下ろされ、ダイダラボッチは両手を上げてそれをなんとか受け止める。

 

「おのれ!」

「ボディが甘いわよ!」

『Gone With the Wind!』

『ゴガ……アアアアァァァ!!』

 

 アステリアの必殺技が炸裂し、超高圧の風の炸裂に、ダイダラボッチの体が揺らぎ、そして力が緩んだ隙にゴッドハンドの拳がダイダラボッチを打ち据え、空気その物を震動させる咆哮を上げながら、とうとうその巨体が崩れ、膝をついた

 

「いけるぞ!」

「一斉攻撃、フルバースト!」

「行くぞ!」

「アアアァァァ!!」

 

 よろめいたダイダラボッチに向けて、クルースニクのイナズマ突きが、カーリーの木っ端みじん斬りがその皮膚を貫き切り裂く。

 

「はっ!」

「ガルルル!」

「シュー…………」

 

 切り裂かれた皮膚から露出した肉へとジャンヌ・ダルクの剣とケルベロス・ミズチの二種の牙が突き立てられ、その傷口を広げていく。

 

「ヤアアアァァ!」

 

 さらにそこに全力を込めてカチーヤが空碧双月を深々と突き刺し、そのまま一気に振り上げて傷を一気に拡大させる。

 

「立て、ダイダラボッチ!」

『マハ・ブフーラ!』

 

 体勢を立て直そうとするダイダラボッチの顔面にオベロンの氷結魔法を食らう。

 

「克哉さん、ここならアレいけるわ!」

「分かった、ヒューペリオン!」

「一気に仕留めるぞ!」

『トリニティー・ロンド!』

 

 おのおのが最高のペルソナの必殺技を同時に繰り出す協力無比な合体魔法が、ダイダラボッチの体を埋め尽くす。

 

『ゴ…グウウウウ……』

「うわあああぁぁ!」

 

 ダイダラボッチの苦痛のうめきと、男の絶叫が響き渡る。

 誰もが勝機を確信し始めた時だった。

 

『大神(震)祭!』

 

 突然、今までで最大規模の地震が全員を襲った。

 

「うわ…」

「キャ…」

 

 悲鳴までもが凄まじい地鳴りの音にかき消され、立つどころか体その物が上下に激しく揺さぶられる凄まじい震動が、皆の体を幾度となく地面へと激突させる。

 さらに生じた地割れや、突き出てきた大地の槍が、駄目押しとばかりに襲い掛かる。

 

「ジャスティスショット!」

 

 飛んできた岩をペルソナで砕きながら、克哉が皆の安全を確認しようとするが、激しく揺れる視界ではそれすらもままならない。

 

「こんヤロー!」

 

 近くに生じた地割れからうららが気合と共にペルソナで強引に抜け出すのが分かったが、視界の向こうで仲魔のどれか一体が光となってGUMPへと戻るのもわずかに見える。

 

「ぐっ!」

 

 再度地面に叩きつけられた衝撃で克哉のトレードマークでもあるカラーサングラスが外れ、地面で粉々に砕け散る。

 そして、嵐のような震動が収まった時、その場に立っていたのはそれを引き起こしたダイダラボッチと、その肩にいる男だけだった。

 

「バカめ、あなどるからだ……………」

 

 他の者は皆、地面にうずくまってダメージのため動けず、仲魔の半数はGUMPへと戻っている。

 

「さて、どいつからトドメを刺すか………」

 

 男の視界に、一番体重が軽かったためにダメージが少なかったカチーヤが、なんとか立ち上がるのが見えた。

 

「よし、そこの…」

 

 カチーヤに狙いを定め、ダイダラボッチが腕を伸ばそうとした瞬間、突然その手首が飛来した何かに切り裂かれた。

 

「!?」

 

 さらに、ダイダラボッチの頭部に無数の炎の弾丸が炸裂し、体勢が揺らぐ。

 

「まだ仲間がいたのか!?」

 

 男が驚いて、弾丸の飛来してきた方向を見た。

 そこには、上空にいる飛行船から降りてきているゴンドラと、そこにいる二つの人影があった。

 人影の一つは、手を上げるとダイダラボッチの手首を切り裂いてブーメランのように戻ってきたそれ、死神が使うような巨大な漆黒の大鎌を受け止める。

 

「八雲様、及ばずながら御助勢致します」

 

 大鎌を構え、メイド服の上からブレストアーマーを装備し、頭にインカムを付けたメアリが、ゴンドラから地面へと降り立つ。

 

「お兄ちゃんは私が守るんだから!」

 

 その後ろ、こちらはメイド服の上からタクティカルジャケットを装備したアリサが、両腕に装備したガントレット状の銃―アームガンと呼ばれるタイプーをダイダラボッチへと向ける。

 

「ぶ、ドヒャヒャヒャヒャ!何が来たかと思えば、メイドが二人!? 何の冗談だ!」

「何よ! 最強属性 メイドをバカにするの!」

「冗談ではございません、参ります」

 

 新手の二人を姿を見た男が爆笑する中、メアリとアリサの二人が突撃を開始する。

 

「潰せ、ダイダラボッチ!」

『ゴガアア……』

 

 ダイダラボッチの繰り出す巨拳をわずかに身をよじってかわしたメアリが、すれ違い様に大鎌でその拳を切り裂く。

 さらに、フレアスカートのすそがひるがえったかと思うと、そこから無数の攻撃アイテムがばら撒かれ、立て続けに発動する。

 

「ちっ!」

「こっちもよ!」

 

 ばら撒かれた炎や液体窒素に相手が気を取られた隙に、ダイダラボッチの横へと回り込みながらアリサが銃口を向けるとグリップスイッチ型のトリガーを引いた。

 銃口から放たれる炎の弾丸が炸裂するが、大したダメージにならないと判断した男は、アリサへの攻撃をダイダラボッチに指示する。

 

「そちらから潰せ!」

「そう簡単にはやられないわよ!」

 

 振りかぶられる拳を見ながら、アリサは素早くタクティカルジャケットのポケットからサブマシンガンのマガジンを思わせるカートリッジを二つ取り出すと、それを手早くアームガンにセットされているのと交換する。

 

「食らいなさい!」

「そんなチンケな炎など!?」

 

 アームガンの銃口から、炎ではなく氷の弾丸が次々と放たれる。

 虚を突かれたダイダラボッチの眼球に、人の拳ほどはある氷の弾丸が突き刺さる。

 

『グガアアア………』

「ダイダラボッチ!? くそ、魔法銃だと!」

「どう?私のES(エレメント・ソウル)ガンの威力!」

「アリサ、誇るのは勝機を確信した時だけです」

 

 目を押さえてうめくダイダラボッチのかかとを、大鎌が切り裂く。

 

『ゴオオオオ………』

「くそ、ただの鎌じゃないな!」

「魔界公爵が一人、バールのソウルを封じたこの《デューク・サイズ》に切れない物はございません」

「ほう、そうか!」

 

 メアリの一言に、男は懐から素早く退魔の水の入った小ビンを取り出し、大鎌へと向けて投げ付ける。

 カオスの属性を持つであろう鎌を封じる策は、意外な事で破られた。

 メアリが柄尻を回すと、瞬時にして漆黒の大鎌は純白のハルバードへと変化した。

 

「!?」

「その程度は予測済みです」

 

 ハルバードを一閃してメアリは小ビンを払い落とす。

 

「この《ジャッジメント・トマホーク》、天使位階第三位 座天使が一人、オファニムのソウルを封じてあります。破邪の力は効きません」

「属性が変化する武具だと!」

「そういう事♪」

 

 アリサのESガンの銃口から、今度は圧縮された疾風の弾丸が吐き出され、命中した地点を中心に無数のカマイタチとなって弾ける。

 

「その程度!」

 

 おされ気味になりながらも、目から血を滴らせたダイダラボッチが憤怒を込めた拳を繰り出した。

 

 

「つ、強い………」

「あの二人、あんなに強かったのか?」

「オマケに闘い方が誰かにそっくりだ」

「悪かったな」

 

 メイド姉妹が戦っている間に、カチーヤとペルソナをLOVERS ヴィヴィアンにチェンジしたうららが回復に回りながら、二人の戦いぶりを見ていた。

 

「まずいな………」

 

 全員が驚嘆する中で、唯一八雲だけが顔を曇らせていた。

 

「あの闘い方に何か問題でも?」

「ああ、オレが前に送った戦闘シュミレーションその物なんだよ。そぞろボロが出るぞ」

 

 そう言う八雲の視線の先で、攻撃を完全にかわし損ねたメアリが、攻撃の余波で宙へと舞って地面に叩きつけられる。

 

「まずい、行くぞ!」

「克哉さん、肩がまだ!」

 

 先程の大地震で骨折していた肩を回復魔法で癒したばかりで、まだ思うように動かせないにも関わらず、克哉は銃を構える。

 

「オレに考えがある。とにかく、あの男の気をそらし続けてくれ」

「イヤでもそうするしかねえだろ!」

 

 メアリの元に駆け寄ろうとしたアリサに拳が向けられたのを見たパオフゥとうららが、即座にペルソナを発動させ援護に入る。

 

「他の連中も援護に向かえ! カチーヤは下がって回復に重視してくれ」

「は、はい!」

 

 何とか残っているカーリー、オベロン、ミズチが突撃を掛ける中、八雲はカチーヤだけ下がらせて自らも合体剣を片手に突撃する。

 連続する攻撃で傷を負っていたダイダラボッチが、攻撃の隙に回復魔法を発動させるのを見たカチーヤは、手の空碧双月を強く握り締める。

 彼我の能力差が大き過ぎる。このままではジリ貧になるのも時間の問題だった。

 

(あの力………)

 

 ふいに、地下迷宮で無意識に発動させた、自分の潜在能力の事を思い出す。

 

(あれなら、勝てる……)

 

 ペルソナ使い達の合体魔法が再度炸裂するが、致命傷には遠い。

 

(あれなら!)

 

 メアリとアリサをかばって、八雲が横殴りの拳を食らって吹っ飛んだ瞬間、カチーヤの意識が、弾けた。

 

 

「なんだ?」

 

 突然感じた威圧感に、男はそちらを見た。

 そこに居た者を理解するのに、男は数秒を要した。

 そこには、目に怪しい光を宿し、全身から凄まじいまでの冷気を噴出しているカチーヤの姿があった。

 

「悪魔憑き、いや混血か! あいつを全力で潰せ!」

『地裂牙(ちれつが)!』

『アブソリュート・ゼロ!』

 

 ダイダラボッチが放った大地を引き裂きながら疾走する震動と、カチーヤの放った万物を氷結させる冷気が、正面からぶつかり合う。

 お互いを砕き、凍らせる壮絶な死闘が両者の中間で段々とその規模を増していく。

 

「う、うそ!?」

「あの力、まるでネミッサ様のよう………」

「やめろカチーヤ! それ以上その力を使えば!」

 

 アリサとメアリが初めて見る自分達のレベルを遥かに超えた戦いに呆然とする中、八雲が叫ぶ。

 だが、カチーヤの目は怪しい光を湛えたまま、更に凄まじい凍気を放出し続ける。

 

「くそっ、間に合え!」

 

 八雲が合体剣を投げ捨て、カチーヤの元に向かって走る。

 ぶつかり合う二つの力の余波を食らいながらも、八雲は必死にカチーヤの側へと駆け寄ると、自らが凍るのも構わず、カチーヤの体を抱きながら横へと跳んだ。

 力の均衡を失い、震動が八雲の足をかすめるようにして大地を引き裂いて通り過ぎる。

 

「八雲……さん?」

 

 意識を取り戻したカチーヤは、自分に覆い被さるようにしている傷だらけの八雲の真剣な表情に、言葉を詰まらせる。

 

「よく聞けカチーヤ! お前の力は恐らく神格か精霊王クラス、そんな力を使い続ければ、お前のソウルは力に耐え切れない! 最悪、力にソウルを飲み込まれてお前の意識は永遠に消滅するぞ!」

「え………」

「ネミッサは、オレの前の相棒はそれで危うくオレの幼馴染のソウルを消しちまう所だった! それを知っていたから、お前はオレに預けられたんだ! 分かるか!」

「で、でも…………」

「大丈夫、勝機は見えた。オレ達の勝ちだ」

「自分から攻撃を止めさせておいて、下らん負け惜しみを言うな! 2人揃って潰せ、ダイダラボッチ!」

 

 ダイダラボッチが再度、拳を振り上げる。

 

「そうはさせん!」

「そうよ!」

「ったり前だ!」

 

 ペルソナ使い達が最後の力を振り絞って一斉攻撃をかける。

 それを援護に仲魔達とメイド姉妹がダイダラボッチに突撃していく。

 

「小癪な!」

 

 男の注意が一瞬、完全にこちらからそれた瞬間に八雲がニッと笑いながら、凍傷に侵されかかっている手で、左手の腕時計を取った。

 それを、オーバースローで振り被り、ダイダラボッチの肩にいる男へと投げた。

 

「SUMMON!」

「! COMPか!」

 

 思わず身構えた男の眼前で、投じられた腕時計から光の粒子が吹き出し、召喚された悪魔が具現化する。

 召喚された悪魔、小さな有翼の少女の姿をした妖精 ピクシーが、その透き通った羽を羽ばたかせながら男に向かって身構える。

 

「ピクシーだと? そんな最弱クラスの悪魔を呼び出して何をする気だ?」

「こうするの♪」

 

 あざ笑う男にピクシーは可愛くウインクすると、両手を上へと掲げる。その先に、魔力が凝縮していくのを見た男の顔色が変わった。

 

「は?」

『メギドラオン!』

「ダイダラ…!」

 

 凝縮された魔力を爆発させる最強クラスの攻撃魔法が、男を飲み込む。

 まったく予想外の攻撃に、ダイダラボッチに防御させることすら出来なかった男は、驚愕の顔のままメギドラオンをまともに食らい、断末魔の絶叫も上げられぬまま爆発四散した。

 爆風が消えていく中、主を失ったダイダラボッチも、具現化する力を失って光の粒子となって霧散していく。

 

「油断大敵だ、バーカ。悪魔に頼りすぎなんだよ」

 

八雲は捨て台詞を吐きながら、その場に崩れるように座り込む。

途端に残っていた仲魔達がピクシー一体だけを残して光となってGUMPに戻っていく。

 

「八雲さ…」

「八雲様!」

「お兄ちゃん!」

 

 カチーヤが助け起こすより早く、メアリとアリサが八雲に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?す ぐに治療の手はずを!」

「魔石! 魔石!」

「……すぐに死ぬような怪我じゃないから、ゆっくりでいいぞ………」

「というか、出来ればこっちを先にしてほしいんだがよ…………」

 

 額から血を垂れ流しているパオフゥが、こちらそっちのけで八雲の治療に当たるメイド二人を冷めた視線で見るが、二人は気付かず八雲の治療に当たる。

 

「あの、私が」

「おう、頼むぜ。あっちのバカはほっといて」

「結構モテるのね~、ただし人間以外に」

 

 うららが笑いながら、カチーヤと分担して傷の回復をする。

 

「それにしても、このピクシーはどうやってあれだけの力を?」

「こう見えても、あたしは悪魔合体研究の粋を尽くして作られたハイブリッドなの。バカにしないでね♪」

「そうなのか? でも何故ピクシーに………」

「さあ? 彼の趣味じゃないかしら?」

「さてな」

 

 そこに、業魔殿から降りてきたヴィクトルが言葉を掛ける。

 

「あ、パパ…………」

「ヴィクトル様………」

 

 ヴィクトルの姿を認めたメイド達が、思わず手を止める。

 

「あ、あの………」

「申し訳ありません、勝手に出撃などして………」

「やっぱ勝手に出てきやがったのか」

 

 ヴィクトルに頭を下げる二人を見た八雲が、ため息一つ漏らしてヴィクトルへと歩み寄る。

 

「オレが貧弱だから、こいつらが勝手に飛び出してきただけだ。問題があるとしたら、オレの方だろ?」

「八雲様………」

「お兄ちゃん!?」

「最早、それは問題ではない」

 

 ヴィクトルが周囲の惨状を見回す。

 

「あのCOMPにあれだけの悪魔を封ずるとは、どうやら彼は容易ならざる者を配下に加えているようだ。無論、それらを従えるだけの実力を持って、の事だろう」

「だろうな………」

「これから予想される災害からかんがみて、我も中立の立場を破棄せざるをえない。微力ながら、二人を助力として遣わそう」

「ヴィクトル様………ありがとうございます」

「ありがとう、パパ!」

 

 メアリはヴィクトルに深々と頭を下げ、アリサは歓喜しながらヴィクトルに抱きついた。

 

「あれ以上の敵と戦わなくてはならないのか……」

「やめとくか? 別に一人二人抜けてもオレは構わないぞ」

「今更何言ってるのよ、すでにみんな一蓮托生よ」

「そん通りだ」

「そうですね、こんなに頼もしい仲間がいるんだから、きっとなんとかなりますよ」

「そうだな、じゃ行くか」

『オ~!』

 

 

 見失った糸の導く先には、想像も出来ない試練が待ち受けていた。

 だが、それを追おうとする者はあえてその試練に挑む。

 糸のその先にある、僅かな光を追い求めて…………

 

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