女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART6 MEMORIAL

 

夕刻 南条財団ビル 屋上ヘリポート

 

 大型ヘリの二重ローターの風切り音が周囲に響き渡り、ローターの巻き起こす突風がヘリの周囲に立つ者達に容赦なく吹き付ける。

 

「ひゃー、こいつはすげえね、オイ」

「事は重大らしい。出し惜しみをしている場合ではないのでな」

 

 薄地のカラーサングラスを掛けた、軽薄とも能天気とも取れる雰囲気のカジュアルな男性と、その隣にいるめがねを掛け生真面目を絵に描いたようなスーツ姿の青年実業家風の男性が、ヘリへと乗り込む。

 

「克哉さんにうらら、それにパオフゥまで一緒で解決出来ない事件なんて…………」

「相当やばいね、これは」

「Oh、Full Armamentsでとの話ですし」

 

 肩口で髪を切りそろえ、軽快な服装の温和な女性、いかにも姉御肌の強気そうなGパンルックの女性、クールな雰囲気を漂わせる、英語訛りのある女性がそれぞれヘリへと向かう。

 見た目の華やかさとは裏腹に、それぞれの腰にはホルスターに収められた二丁の拳銃、ベルトに繋がれた無数のチャクラム、細身のレイピアが鈍い光を放っている。

 

「ったく八雲の奴、余計な面倒を…………お陰で予定が………」

「有給取れて三日だけなんだよな………それまでにもし終わらなかったら…………」

「あそこ二人、なんか暗いな」

「まあ、色々あるらしくて………」

 

 腰にGUMPを吊るしている茶色地のパンツスーツ姿の女性と、整えられたスーツ姿が逆に違和感をかもし出しているやや凄みのある男性が何か呟いているのを、帽子がトレードマークのお調子者そうな男性とショートカットの優しげな雰囲気の女性が心配そうに見る。

 

「……無理に呼んでしまったようだな」

「あ、いいのいいの、文句はあのろくでなしにまとめてつけとくから。式の予定は来月だから、数日くらい準備が遅れたって大丈夫」

 

 額に目に見えるほど青筋を立て、背後に灼熱のオーラのような物(多分、目の錯覚)をまとっているGUMPを持った女性を、皆がやや遠巻きにする。

 

「Tamaki、何か随分とご機嫌斜めですが?」

「確か、明日ウェディングドレスの寸法合わせって聞いてたけど………」

「バッドタイミングって奴?」

「本番で無い分、マシなんでない?」

「十分悪いわよ」

 

 軽口を叩いたカラーサングラスの男性の頭を、Gパンルックの女性が小突く。

 

「うん、いいのよ。別に。所長は「ちょっと悪いが」の一言で済ますし、レイホウさんからは「頼りにしてるから」って言われるし………なんで八雲の奴はこうも面倒事ばっか………」

 

 背に暗雲(雷鳴付き)を背負いつつ、GUMPを持った女性がヘリへと乗り込む。

 

「城戸、なんなら今から帰ってもいいぞ?」

「………そういう訳にもいかないだろ」

「来年二人目が生まれるんだろう? 何かあったら困るんじゃないのか?」

「え、マジ?」

「それ初めて聞きましたわ」

「私も」

「ああ、先週分かったばっかりだったんだ」

「大変じゃない、それなら私達だけでなんとか………」

「………友人見捨てる父親にはなりたくない」

「じゃあ、行くか」

 

 鋭い瞳でこちらを見る凄みのある男性に微笑しつつ、皆がヘリへと乗り込んでいく。

 

「準備はいいか? すぐにでも出るぞ」

「待って、ただしとレイホウさんがまだ………」

「お~い………」

「待って~」

 

 今にも飛び立とうとするヘリに、屋上への直通エレベーターから出てきた、大荷物を背負った少し頼り無さそうな青年と、白地にストライプ柄のパンツスーツに身を包んだショートカットの女性が慌てて乗り込んでくる。

 

「遅いです!」

「ゴメンゴメン、ちょっと準備に手間取って」

「ちょ、ちょっと、装備多すぎ………」

 

 GUMPを持った女性にスーツを着た女性が小さく謝る。その隣ではヘリに乗り込むと同時に力尽きた青年が、荷物に潰されるようにへたり込んで肩で息をしていた。

 

「こんなに何持ってきたんです?」

「大丈夫、みんなの分もたくさん持ってきたから」

 

 スーツの女性が青年の背負っていた中身がみっちり詰まった登山用リュックを開ける。

 その中には、無数の攻撃・回復アイテムから弾薬、予備の武器などが所狭しと詰められていた。

 

「これはまた」

「重装備~」

「みんなで必要なのは分けて持って。回復アイテムは絶対ね」

「つまり、それだけの装備が必要な事態という事か」

「そうよ」

 

 実業家風の男性の言葉を、スーツの女性はあっさりと肯定する。

 リュックの中身を騒ぎながら広げていた面々の手が止まり、緊張が走る。

 

「ま、こんだけの面子がそろってんだ。矢でも鉄砲でも持ってこいってんだ」

「お前、アメリカ行っててなまってねえだろな?」

「荒事の本場仕込みの技を見せてやるってよ」

「あら、そう言えばNaoとAyaseは?」

「藤堂は現場の側にいるから直接向かうそうだ。あやせは来月臨月らしくてな」

「あいつが? ちゃんと育児出来るのかね~」

「案外いい母親になれるかもしれんぞ。名前をどうしたらいいか相談されたしな」

「拓哉とか慎吾なんて付けんじゃね~の?」

「双子だから男の子だったら光一に剛、女の子だったらジュリアとレナにしようかなってこの間電話で言ってたけど………」

「止めさせた方がいいんじゃない? さすがにそれは」

「後で皆で考えよう、帰ってきてからな」

『賛成!』

 

『いかに強大な敵であろうとも恐れない』強い信頼で結ばれた仲間達を乗せたヘリは、まっすぐに《戦友》の元へと向かっていた。

 

 

同時刻 業魔殿

 

「ふむ………」

「広えな」

「どう行くべきか、だ」

「ふ~ん」

 

 船内のティーサロン内、大型テーブルに偽装された大型ディスプレイに映し出される地図に、ヴィクトル、パオフゥ、克哉、そしてなんでか克哉の肩に留まっているピクシーの三人+一体が顔を突き合わせて唸っていた。

 

「僕はくわしくないからよく分からないが、本当にこの山河その物が魔法陣となると?」

「正確な意味では少し異なるが、伝承によればヤマタノオロチは斐伊川から発生したと言われている。このポイントそれぞれにて召喚術式を起動させれば、漏れでた瘴気は川の流れをさかのぼり、水源の船通山の山頂へと運ばれる。伝承に基づき、《神》と呼ばれるだけの存在を確実に召喚させたければこれだけ大規模にならざるを得んのだ」

「マジかよ、一体直径何kmに渡って幾つ有りやがるんだ……」

「これは八雲殿の話から私が推測した物だ。しかもこれは予測される最低数値から換算した物になる故に、これ以上の可能性も有り得る」

「悪魔がらみでは、県警の応援も望めない。僕達だけでやるしかないか…………」

「いま、葛葉の全サマナー達もこちらへと向かっている。アルゴン・スキャンダル以来の大仕事になりそうだな」

「皆様、ご夕食の準備が整いました。ラウンジへとお越しください」

「ご飯~」

 

 男三人が悩んでいる所に、何でか相変わらずメイド服の上からブレストアーマーを着けたままのメアリがうやうやしく夕食を告げ、それを聞いたピクシーが即座に飛んでいく。

 

「ああ、いただこうか」

「小岩と嬢ちゃんは?」

「八雲様は相変わらず部屋にこもって出てこられません。泣き寝入りしてるから、後で適当に持ってきてくれと言い付かっております。カチーヤ様はアリサが呼びに行きました」

「まあ、泣き寝入りしたくなるのも分かるが…………」

 

 ラウンジへと向かう克哉の脳裏に、先程のダイダラボッチとの戦闘の余波で、事務所兼住居のコンテナトレーラーから、ただのタイヤの付いた金属隗になってしまった物を思い出す。

 

「ありゃ、修理効かねえかもな。あのままスクラップ置き場に置いてたって違和感ありやしねえ」

「愛機のPCがオシャカになったとも言っていたな………もっとも、そう簡単に寝込むようなタイプにも見えないが」

「はい、室内からずっとキーボードを叩く音が聞こえておりました」

「何か秘策を練っておるのかもな……」

「秘策……か」

 

 ラウンジへと到着すると、うららとカチーヤが席へと腰掛け、うららはすでに目の前の皿に盛られた料理に夢中になっていた。

 

「あ、パオ! このビーフシチューすごいおいしいわよ!」

「貪るな、みっともない………」

 

 舌の上でとろけるヒレ肉に感動しているうららに呆れつつ、パオフゥがその隣の席に腰を降ろす。

 ヴィクトルと克哉がその隣のテーブルに付き、テーブルの上を旋回していたピクシーが克哉の頭上に滞空する。

 

「どうでしょう? 皆様今日はお忙しくて疲れておられるようなので、正規のディナーではなくなるべく食べやすい簡素な物にさせていただきましたが………」

「すごいおいしいです~♪」

 

 克哉達の皿にメインのビーフシチューを盛り付けながらのムラマサの言葉通り、テーブルにはサラダやパンが並び、コースではなくセットメニューのような夕食が用意されていた。

 

「フルコース食いたい状況じゃねえしな」

「そんな大層な物出されたら流石に経費に出来ないだろうし…………」

「状況が状況だ。代金は考えずとも結構」

「いいんですか?」

「私からの僅かながらの力添えとお考えください」

「そいつはありがたいな」

 

 後ろから突然聞こえてきた声に、皆が振り返る。

 そこには、少し目が血走っている八雲が気だるげにラウンジへと入ってくる所だった。

 

「泣き寝入りしてんじゃなかったの?」

「ちょっとな、オレの分あるか?」

「ただ今用意致します。席に座ってお待ちを」

「ちょっと待っててね~」

「ああ、頼む」

 

 食器を用意するためにメアリとアリサ(こちらもメイド服の上からタクティカルジャケットを着たまま)が厨房へと向かう中、八雲は空いていたカチーヤの隣の席へと無造作に腰を降ろした。

 

「何をしていたんだ? 寝ていたようには見えないが」

「ちょっと悪あがきって奴」

 

 ムラマサの手によってグラスへと注がれた赤ワインを味わいもしないで飲み干し、八雲は目じりを揉む。

 

「大丈夫ですか八雲さん。休んだ方がいいんじゃ………」

「ああ、飯食ったらそうさせてもらう。明日は忙しくなりそうだからな」

 

 八雲は用意された皿に盛られたシチューにパンを突っ込み、そのまま貪り食うというテーブルマナーを根底から無視した食い方で夕食を平らげていく。

 

「少し聞きたいがいいか?」

「ん?」

「……これはなんで僕に付いているんだ?」

 

 克哉がテーブルの上でティースプーンを使って克哉の皿からビーフシチューを食べているピクシーを指差す。

 

「ああ、予想以上にそいつの魔力が強くてな、媒体となるCOMPがショートしちまってオレの契約から外れたんだ」

「ではなぜ僕に?」

「なんかいいニオイするから~」

「ニオイ?」

 

 ピクシーの返答に首を傾げる克哉に、カチーヤが笑いながら説明する。

 

「本来、ピクシーはお菓子を捧げて契約するんです。克哉さんの体からケーキの匂いがするからなついたんじゃないですか?」

「そういう物なのか?」

「相手を好くからこそ、仕える。人も悪魔も本来そういう物だ。恩義を持って接すれば、かならずや応えてくれる」

「へ~、そうなんだ」

「なんならくれてやってもいいぞ、そいつをSUMMONするには専用システムが必要なんだが、どうにも専属COMPじゃないとシステムがかち合って上手くいかねえんでな」

「週別ケーキ1ピース、希望時以外同種連続は禁止、危険手当は気持ち次第でいいわよ♪」

「まあ、それで力を貸してくれるなら安い物だが………」

「随分と俗っぽい契約なんだな」

「雲母1トンとか処女の生贄とか言われたいのか?」

「それコスト高過ぎ」

「原初派の方々は今でもそうしてるそうですけど……」

「やってるの!?」

「それを防ぎに行くんだろが」

 

なごやか(?)に食事が進む中、八雲がサラダにフォークを逆手で底まで貫通させたところでふと手を止める。

 

「……おっさん、アレ出してくれるか?」

「使うのか、《ストームブリンガー》を」

 

 自らが言ったその言葉に、ヴィクトルの眉が微かに跳ね上がる。

 

「もう四の五の六の言ってられる状態じゃないんでな」

「ストームブリンガー?」

「名前から察するに、武器の類か?」

「ああ、理論上最強のな。食後に見せてやるから」

「最強………」

 

 皆の疑問の視線に答えず、八雲はただ黙々とテーブルマナーを無視しつつ食事を続けた。

 

 

 

「…………で」

「ここにあんのか?」

「でもここって………」

 

 食後、八雲とヴィクトルを先頭に、後片付けをしているムラマサを除いた全員が、船体中央のある扉の前に立っていた。

 

「〈気嚢部立ち入り禁止〉とあるが?」

「名目上はな。この船はガスで飛んでいる訳ではないのでな」

「………何で飛んでいるのよ、それ」

「エーテルを利用した浮揚機関に、精霊石を用いた補助機関を助装させて推進には」

「あ、あとでお願いします」

 

 手にデザートのクリームプリン(三個目)を持ったままのうららがヴィクトルの説明に思わず逃げ出しかける。

 

「では、ここには何が?」

「これ」

 

 八雲が無造作に鍵を開けて無造作にドアを開くと、そこには表面に魔法陣が描かれたもう一つのドアがあった。

 

「……封印か」

「そ、業魔殿の封印庫って奴だ。やばいのもあるから勝手に手ぇ出すなよ」

「何を引っ張り出すつもりなんです?」

「見てのお楽しみ」

 

 ヴィクトルがドアに描かれた魔法陣に手をかざす。

 すると、ヴィクトルの手と魔法陣の双方が淡い光を放ち始め、程なくしてロックの外れた音が響く。

 

「では、注意して後を参るがいい」

「魅惑の力を持った呪具も有るからな~」

「……物騒な飛行船なこった」

 

 ドアの向こうに進むヴィクトルと八雲の後に一行が続く。

 室内には、なにか奇怪な人形、厳重に注連縄の掛けられた刀剣、デスマスクを思わせる古代の石仮面、紅い布が何十にも巻かれて吊るされている古い槍、ガラスケースの中で不可思議な発光を続ける香炉、ビンの中に満たされた濁った液体の中で蠢いている物体、中央にローマ数字の刻印が入った材質不明の六角形の金属片、その他不気味な物が整然と並んでいた。

 

「肝試しするには絶好の場所ね………」

「肝だけじゃなくて実力とソウルの強さも試す羽目になるぞ」

「あのフランス人形、見るたびにこちらに向き直ってきているのだが………」

「ロゼッタは寂しがりやなので、あまり相手になさると永久に遊び相手にされますからご注意を」

「さっきからペルソナが反応しっぱなしだ。一体こんな物騒なとこから何を引っ張り出すつもりだい?」

「こいつだ」

 

 封印庫の奥、大型の金庫の前でヴィクトルと八雲の足が止まる。

 そして、八雲とヴィクトルがそれぞれ懐から鍵を取り出すと、二つある鍵穴に入れてロックを外す。

 さらにテンキーに八雲がパスコードを入力し、重々しい音を立てて金庫が開いていく。

 

「………これが?」

「最強?」

 

 その中から出てきた物に、皆が首を傾げる。

 それは、砲身にも見える長い金属筒と、それに繋がれた制御部からなる、奇妙な機械だった。

 

「てっきり、何か強力な悪魔の具象武器かと思っていたのだが………」

「何も感じないわね?」

 

 うららがスプーンを口に咥えたまま、その機械を突付いてみる。

 しかし、機械は何も反応しない。

 

「そりゃそうだ、そいつはただの機械だからな」

「何のための機械なんです?」

「デバイスだ」

『は?』

 

 意味がまったく分からない皆が更に首を傾げる中、八雲は金庫の中から小さな手提げ金庫を取り出す。

 

「こいつはオレが偶然作り出した、ある物の入力用デバイスだ。本命はこっち」

 

 八雲が手提げ金庫を開けると、それからは小さな御札が貼られたフラッシュメモリが大量に出てきた。

 

「ひょっとして、こいつはCOMPなのか?」

「まあな」

「こんな大きいCOMP、見た事ないんですけど……………」

「通常のCOMPの逆の機能しかもってないがな」

「逆? まさか、悪魔を退去させられるのか?」

「ご名答」

 

 八雲が、手提げ金庫から取り出したフラッシュメモリを手に説明を始める。

 

「そもそも、悪魔の召喚っていうのは、召喚、契約、退去の三つからなる。COMPはこの召喚、契約の部分をプラグラムで簡易化した物だ。オレは、その召喚プラグラムを独自に研究し、反転させる事に成功した」

「反転?」

「そう、この中に入っているのはオレが作り出した、悪魔の強制退去プログラムだ。こいつをこのデバイスを使って悪魔にレーザー投射する事で入力する。すると、こいつを食らった悪魔は物理具現マトリクスが崩壊し、物理世界に存在する事が不可能となる寸法だ」

「! 可能なのか!?」

「実験は成功した。こいつを食らって無事な悪魔は存在しない」

「スゴイ…………」

「じゃあ、なんでこいつは封印されてんだい?」

「あ」

 

 パオフゥのもっともな質問に、うららが間抜けな声を漏らして咥えていたスプーンを落とし、八雲が表情を固くした。

 

「……こいつは、強力過ぎる。いや、元の悪魔召喚プログラムが完璧過ぎたのかもしれない。効果があるのは悪魔だけじゃないんだ」

「まさか、人間にも!」

「理論上はな。悪魔が食らえば、魔界に強制送還されるだけで済む。だが、人間が食らえばどうなるかは分からない。元々物理的存在である肉体は影響がないが、精神やソウルはただじゃ済まない。オレも試した事が無いから断言は出来ないが、運がよければソウルが強制剥離されて植物人間になるし、悪ければあの世に直行する。まあ、気合があれば戻って来れるが」

「………来れるの?」

「轟のおっさんがいい例だが」

「ウソっ!?」

「あれ、知らなかったんですか?」

「オレも初耳なんだが………まあ前からなんか妙だとは思ってたが………」

「そろそろ新しい体が欲しいとか言ってたな」

「悪魔より達が悪いな…………」

 

 八雲がその悪魔強制退去プログラム入力用レーザーデバイス《ストームブリンガー》を起動させ、チェックしていく。

 カートリッジを取り出すと、それにフラッシュメモリをマガジンに弾丸を込めるように装填していく。

 

「なんだ、ワンウェイ(使い捨て)プログラムなのか?」

「安定性に問題が有ってな、一度起動させると二度目からはバグが生じた挙句に内部素子まで影響受けやがる。お陰で一発一発が高くつきやがんだよな、これ」

 

 装填の終わったカートリッジをセットすると、イジェクションレバーを操作して《初弾》を装弾する。

 

「チェックシーケンス問題なし、レーザー投射システム問題なし、と。試射してみたいところだが………」

 

 八雲がストームブリンガーを構えると、即座にうららとピクシーがパオフゥと克哉の背後に隠れる。

 

「……冗談に決まってるだろ。ぶっつけ本番だ」

「実戦に使用した事は?」

「試験的にはな。報酬よりも弾代の方が高くついたんで後は使ってない」

「そっちが封印した本当の理由なんじゃねえか?」

「経費に認めてもらうにゃ、ちと高過ぎてな………」

「サマナーも大変ね~」

「オレにはGUMPを扱える以外の特殊能力は無いからな。勇気と努力とイカサマでどうにかするしかない」

「……何か違くありません?」

「いや、間違っちゃいねえ」

 

 ニヤリとパオフゥが含み笑いしたのを、八雲が同じ笑みで返す。

 

「応援とやらはあとどれくらいで到着するんだ?」

「装備を整えてから出たので夜中になるそうだ」

「じゃあ、それまで一寝入りしとくか。来たら作戦会議だ」

「了~解。あたしも休ませてもらうわ」

「オレはちょっとここに使える物が無いか探しとく」

「私もお手伝いさせていただきます」

「では僕は県警に連絡して周辺に異常が無いか確かめておこう」

「じゃあ私はネットに何か噂が流れてないか確かめとくね~」

「それじゃ私は装備の準備を…」

 

 封印庫から倉庫へと向かおうとするカチーヤの首根っこを八雲は引っつかんで制止。

 

「お前も休め。まだ疲労が回復してきてないはずだ」

「大丈夫です、これくら……」

 

 最後まで聞かず、八雲はストームブリンガーのレーザー投射砲身でカチーヤの膝裏を軽く薙いだ。

 

「あ……」

 

 軽い一撃だったにも関わらず、カチーヤの膝が崩れそうになるのを彼女はなんとか堪えた。

 

「言わんこっちゃない。足腰に来るようじゃヤバイぞ。休める時に休んでおけ」

「……はい、分かりました………」

 

 肩を落とし、しょげ返ったカチーヤがすごすごと用意された部屋へと戻っていく。

 

「大丈夫なのか、あの嬢ちゃん」

「余力と無理の区別が付いてないだろうからな。それに………」

「あの力か」

 

 克哉の指摘に、八雲の表情が曇る。

 

「……ネミッサの時は、まだしもあいつは力を失っていたから症状はゆっくりと進んだ。だが、カチーヤは力は更にその上だ。もしこれ以上あの力を使えば、あいつのソウルが耐え切れるかどうか………」

「使うな、つっても聞きそうにねえな」

「そうね、あの性格じゃ」

「………どうするつもりなんだ?」

 

 しばし悩んだ後、八雲は鼻を鳴らして悩むの止めた。

 

「一寝入りしてから考える。流石に今回はハードなんでな。メアリ、後でドリンク剤でも持ってきてくれ、カチーヤのとこにもな」

「かしこまりました」

 

 ストームブリンガーを肩越しに抱えつつ、八雲はその場を後にする。

 

「さて、どうしようかね…………」

 

 

 

 深い闇の中、どこまでも駆けていく。

 どこかから聞こえる、絶叫。

 息を切らせ、必死になって走る。

 辿り着いた先にいたのは、異形の影と、それに襲われている見知らぬ男性。

 ためらわず、力を異形の影へと解き放つ。

 断末魔の咆哮。

 凍りついた影は、そのまま粉々に崩れ落ちていく。

 

「大丈夫ですか?」

 

 安堵の息を漏らしつつ、男性へと振り返って気付く。

 そこに浮かぶのは、恐怖。

 

「あ、悪魔………」

「え………」

「よるな、悪魔!」

「あの、落ち着いて……」

 

 自らを振り払おうとする男性をどうにかなだめようとして、ふと気付く。

 男性の顔と声が、見知った物へと変わっていた。

 

「パ、パパ………」

「来るな、悪魔!」

「落ち着いて、パパ。私よ……」

「悪魔、 悪魔!!」

「イヤアアアァァァ! 」

 

 

「ハァ……ハァ………」

 

 自らの絶叫で、カチーヤは目覚めた。

 

「ゆ、夢………」

 

 言葉に出して、気付く。

 先程まで見ていた夢が、過去に本当に有った事だと。

 乱れている息を整えようとして、カチーヤは目尻が濡れているのを感じた。

 

「何事!?」

 

 いきなり、ドアを突き破ってうららが室内に突入してくる。

 

「カチーヤちゃん大丈夫!? 今の悲鳴何!? 思い余った馬鹿が夜這いでも掛けた!?」

 

 突入してきたうららがまくし立てつつ、素早く室内に目を走らせる。

 

「あ、あの大丈夫です。ちょっと怖い夢見ちゃって………」

「夢?」

「何事だ!」

「カチーヤ!」

「敵襲か!」

「なに? なに?」

「ご無事ですか!」

 

 ベッドから体を起こしたカチーヤが説明しようとした所に、ワンテンポ遅れて武装した面々が部屋へと突入してくる。

 

「あ、なんでもないなんでもない、あたしの勘違いだった」

「勘違いって、今彼女の悲鳴が」

「いいから女の部屋に大勢で押しかけない!」

 

 うららが力任せに突入してきた面々を部屋から叩き出し、ちょっと壊れているドアを閉めて鍵を掛けた。

 

「これでよし、と」

「え~と、何もそこまでしなくても………」

「目、涙」

「あ………」

 

 呆然としていたカチーヤが、目一杯に溜まっていた涙が起きた拍子に頬を伝っているのに気付いて慌てて拭う。

 

「いやさ、部屋の前通ったらなんかうなされてるし、挙句に今の悲鳴でしょう? てっきりなんかまずい事でも起きてんじゃないかと思っちゃって」

「すいません、お騒がせして………」

「だいぶひどい夢だったみたいね、あんなうなされてたんじゃ。ちゃんと寝れた?」

「ええ、少しは」

「ホントにだいじょぶ? 無理しちゃダメよ」

「大丈夫……です」

 

 何か沈んだ表情のカチーヤに、うららは何かを察したのか微笑を浮かべつつ、カチーヤの隣に腰掛ける。

 

「ま、その歳でこんな仕事やってんだから、訳ありなのは当たり前か」

「そう……ですけど………」

「あたしもそう。昔ね、友達を呪い殺そうとした事有ったんだ」

「えっ………」

「パオは昔パートナーを死なせちゃってるし、克哉さんは夢を諦めてまで刑事になった。誰もそんな物よ。気にしちゃダメダメ」

「はあ…………」

「でも、捨てちゃダメ。それを乗り越えないとね。後で気が向いたら、話してみて。話ちゃえば結構すっきりするから」

「そう……ですね」

「そうそう簡単な事じゃ驚かないから。実は男でしたとかあたしよか年上ですとか言われたら驚くかもしんないかも」

「あの、ら……」

「ん?」

 

 遠くから響いてくるローター音に、うららが天井を見上げ、それにつられてカチーヤも上を見る。

 ローター音はだんだん大きくなっていき、やがて真上から直に響くようになった。

 

「おっと、みんな来てくれたみたい。続きは全部終わった後でね」

「はい」

 

 ウインク一つ残して部屋を出ていくうららに元気付けられたカチーヤは、ベッドから出ると身支度を整えて自らも出迎えへと向かった。

 

 

 

「ヘリポート付きなんて、すごい飛行船ね」

「あれ。飛行船ってでっかい風船じゃないっけ? なんでヘリが降りれるんだ?」

「ひねくれてんだからじゃねえの? 何せ非行船って言うくらいだから」

 

 絶対零度のブリザードが吹き荒れる(ような気がする)空気の中、駆けつけたペルソナ使いとサマナー達が続々と業魔殿へと降り立つ。

 

「諸君、業魔殿へヨーソロー。私がこの船の船長、ヴィクトルという者だ」

「南条 圭という。お呼びに預かり、微力ながら仲間と共に助勢に参上した」

 

 メアリを伴って出迎えに参上したヴィクトルに、青年実業家風の青年―南条が右手を差し出す。

 

「ペルソナ使い達がこれほど大勢来てくれるとはな」

「共に苦楽を乗り越えた仲間が助けを求めているとあっては、駆けつけぬ訳には行くまい」

「わりぃな」

「ありがとう」

 

 南条とヴィクトルの握手に、パオフゥと克哉が自らの手を重ねる。

 

「うらら、大丈夫?」

「ダイジョブよ、マーヤ。結構ハードだったけどね」

「敵はどこだ! このブラウン様がぜ~んぶケチョンケチョンにしてやるぜ!」

「何を~! オレの方がもっと倒してやる!」

「数なんてどうでもいい、全部殴り倒してやる…………」

「このairship、ガスも入ってないのに飛んでますわ……それに表面一面に刻まれたこのmagic pattern、mysteriousですわ~」

「ちょっとうるさいかもしんないけど、アレで結構頼りになる連中だから」

「アレってのは言い過ぎじゃ………」

 

 いろいろな意味でやる気満々のエルミンOBペルソナ使い達に、初めて会うカチーヤなどはちと押され気味になった所に、何か殺気(っぽい物)をまとった女性サマナー たまきが歩み寄って肩を叩く。

 

「カチーヤちゃん、あの馬鹿は?」

「えと、八雲さんなら多分まだ寝てるかと………」

「ふ~ん、じゃあ起こさないとね」

「お、落ち着けたまき」

 

 ホルスターからベレッタM92Fを取り出して初弾を装弾しつつ向かおうとするのを、大分減ったがそれでもまだ大荷物を背負った青年―たまきのパートナーにして婚約者のただしがなんとか背後から止める。

 

「ハードな初仕事になっちゃったわね。怪我とかしてない?」

「はい、八雲さんが守ってくれましたから」

 

 白地のパンツスーツ姿の女性―カチーヤの師であり、葛葉屈指の術者でもあるレイ・レイホウがカチーヤに声を掛けた所で、ふと彼女の気配が微妙に変わっている事に気付く。

 

「とりあえず、積もる話も有るかもしれないけど、現状把握が先ね。ヴィクトルさん、会議の準備は?」

「出来ておる」

「じゃあ、カチーヤは八雲起こしてきて。当事者が寝てるんじゃ話にならないから」

「はい」

「みんなはこっちに。メアリ、コーヒーお願い」

「すでにアリサが準備しております」

「ありがと、じゃあ作戦会議といきましょうか」

 

 

 

「八雲さん、起きてください。皆さん来ましたよ」

 

 八雲が寝ている部屋のドアをカチーヤがノックすると、即座にドアが開く。

 

「これはカチーヤ殿」

「八雲さんは?」

「まだお休みになられております」

 

 ドアを開けた先には、SUMMONされていたらしいジャンヌ・ダルクがおり、カチーヤを中へと通す。

 一歩入ったカチーヤは、その室内を見て驚愕する。

 そこには、種々の機械や起動しっぱなしのPCとそれに接続されているらしいスパコン(スーパーコンピューターの略)、製作中と思われるなんらかの装置が所狭しと並んでいた。

 

「これ………」

「召喚士殿の研究室です。ヴィクトル殿の研究を全面的に補助する代りに、こちらの部屋を無償で貸してもらっているのです」

「一体、何の研究を?」

「私もよく知りませぬが、召喚システムの改良や再構築を行っているとか」

「…………」

 

 八雲の意外な一面に、カチーヤが絶句する。

 部屋の片隅、ソファーの上で毛布を被っていびきをかいている八雲は、カチーヤの来室にも気付かず、そのまま爆睡を続けている。

 

「あの、八雲さん起きてください・レイホウさんが読んでますよ」

「グゥ~~~~~………」

「あの、起きてください。たまきさんがちょっと怖いんですけど………」

「ガァ~~~………」

「カチーヤ殿、これを」

 

 まったく目を覚まそうとしない八雲にカチーヤが困っている所に、ジャンヌ・ダルクが散らかりまくっている机の上に用意されていた刻印の施された小さな石を手渡す。

 

「メ・パトラの石?これで起こすんですか?」「睡眠効果のある秘薬で眠っておられます。普通の起こし方では目覚められません」

「秘薬!? そんなので寝てるんですか!?」

「グゥ~~~~……」

「体を完全に休養させるためだそうです。これだけの激戦は久しぶりですので………」

 

 微動だにせず爆睡を続ける八雲を起こすべきかどうかカチーヤが悩んでいる時、部屋のドアが荒々しく開かれる。

 

「……寝太郎は起きたかしら?」

「あ、今起こしますから………」

 

 全身から瘴気(っぽい何か)を漂わせているたまきが、ぎらついた目で室内を舐めまわすように睨む。

 そのあまりの迫力に、カチーヤとジャンヌ・ダルクが思わずたじろぐ。

 たまきの視線が、爆睡している八雲を見つけると怪しく光った(ような気がした)。

 

「大変ね、起こすの手伝ってあげるわ」

「あの、大丈夫ですから」

「そ、そうです。だからそれを収めてくださいませんか」

 

 たまきが刀身から雷気を放ち続ける合体剣、雷神剣をゆっくりと鞘から抜こうとするのを、二人がかりで必死に止める。

 

「八雲さん起きてください!」

「んが?」

 

 慌ててカチーヤがメ・パトラの石を使用し、八雲が目を覚ます。

 

「ん~?」

 

 頭をかきながら八雲は起き上がると、寝ぼけ眼で左右を見回し、また横になる。

 それを見たたまきの額に、音を立てて青筋が浮かんだ。

 

<big>「起・き・ろ~!!」</big>

「おごぼげ!?」

 

 ぶち切れたたまきの真空肘鉄が八雲のみぞおちに直撃。珍妙な断末魔と共に八雲の体がくの字に折れ曲がる。

 

「さあ、ちゃっちゃとサロンに来て説明する! みんな待ってるし!」

「八雲さん泡吹いちゃってますけど………」

「失神されたのでは?」

「貧弱ね~、よくそんなのでサマナーが勤まるわ」

「お前が無茶苦茶過ぎるんだ………」

 

 遅れて部屋に訪れたただし(なぜか頭にコブ付き)が、部屋の惨状に呆れ果てる。

 

「とにかく、連れて行きましょう。そっち持って」

「荷物扱いですか…………」

「目を覚まされないのではいたしかたないかと」

「本当に大丈夫か? こいつ………」

 

 結局、たまきとただしが手足を持って、荷物がごとく八雲は連行されていった。

 

 

 

「……で、作戦会議を始めたいんだけどいいかしら?」

「よくない」

 

 居並ぶ面々とテーブル状の大型ディスプレイに表示されている無数の情報から、さながら作戦司令部と化しているティーサロンで、レイホウの言葉に苦虫を噛み潰した顔の八雲一人が異論を唱える。

 

「うう、うずきやがる………」

「見事に痣になってやがったからな~」

「たまきさん、やり過ぎじゃ?」

「起きない方が悪いの」

 

 みぞおちをさすっている八雲に、たまきは悪びれもせずに言い放つ。

 

「ま、ともかく始めましょう。とりあえず、今分かっている事を」

「では僕から」

 

 克哉が進み出ると、ディスプレイに彼の捜査データが表示される。

 

「まず、九日前に起きた誘拐事件から事は始まる。被害者が戸塚 秋代(あきよ) 24歳。勤めていた会社からの帰り道、突如として姿を消した。繁華街から住宅街に抜ける道の途中で消息を立ったにも関わらず、目撃者は皆無。捜査は暗礁に乗り上げかかっていたが、五日前、今度はこの被害者の叔父に当たる戸塚 裕彦 61歳が自宅の神社内で何者かに惨殺され、奉られていた宝剣が奪われるという事件が起きた。死因は巨大な刃物、というよりは爪による刀傷で即死。この二つの事件に関連性が有ると見た僕は、この事件を捜査した結果、ある人物に行き当たった」

 

 そこでディスプレイに一人の男のモンタージュが映し出された。

 

「この男、安部 才季 42歳。民俗学者を自称するこの男が、数日前に戸塚神社を訪れていた事が判明。だが、この男を調査していた途中、僕は突然この男の部下と思われる悪魔使いに襲われた」

「ちょっと待った。部下って事は、彼は何らかの組織を構成しているのか?」

「生憎と、詳細は不明だ。だが、彼の部下もしくは彼が使役したと思われる悪魔に幾度となく遭遇している」

 

 南条からの問いへの克哉の返答に一同がざわめく。

 

「しかも、魔神 オーディン、邪神 ヒルコガミ、巨神 ダイダラボッチと神格クラスのオンパレードだ。ボスはどれだけの力持ってるのか見当もつきやしねえ」

「マジ!?」

「なんの冗談よ…………」

 

 八雲の説明に、葛葉の面々も頭を抱え込む。

 

「問題はこれだけじゃない。昨夜、僕達は戸塚神社の再調査に赴き、そこで地下にある隠し社を発見。そこから驚くべき物が発見された」

「驚くべき物?」

「草薙の剣だ」

「Really!? GenPeiWARでLostしたのでは?」

「葛葉でもそう思ってたわ。まさか本物が現存していたとはね………」

「ホントにモノホンかよ? ズバズバ鑑定団に出したのか?」

 

 クールな雰囲気の英語訛りの女性―ペルソナ使いにして有数のオカルトマニアのエリーこと桐島 英理子が驚くが、先程から絶対零度のギャグばかりとばしている軽薄そうなカジュアルな男―ブラウンこと上杉 秀彦がそれに異を唱える。

 

「鑑定なんてオレは出来ねえが、ペルソナがかなり反応してやがった。相当な力を持った剣だった事は確かだな」

「ボロかったけどね」

「で、それはどこにあるの?」

「奪われた」

『!』

「草薙を封じ続けてきた神剣と、草薙を封じ続けてきた一族の末裔。自ずと導かれる答えは一つだ」

「なに?」

 

 状況を理解してないのか、生来の能天気か自分のした質問の返答に首を傾げる軽快な服装の女性―うららの親友でルームメイトの天野 舞耶に八雲が胡乱な目を向ける。

 

「……ペルソナ使いは全員ただ力持ってるだけか?」

「A Reverse Feast Ritual…………」

「なんだそれ?」

 

 エリーの呟いた言葉に、帽子をかぶったお調子者の男性―マークこと稲葉 正男が疑問符を浮かべた。

 

「日本語で言えば祭り返し、本来祭りとは奉りを意味し、神話や伝承に基づいた儀礼を行う事で神仏に力を与え、加護を賜る物だけど、黒魔術なんかではそれを逆に行う事によって伝承の逆を引き起こす。つまり、この場合は姫を召し出し、剣を奉じる事によって滅ぼされた神、ヤマタノオロチを黄泉帰らせようとしている訳よ」

「へ~、そうなんだ」

「つまり、え~とアレだ」

「分かってないだろ、お前ら」

 

 レイホウの説明にうなずくマークとブラウンに、スーツ姿の凄みのある男性―レイジこと城戸 玲司が一言呟くと二人の動きが完全に止まる。

 

「知ったかぶりは止めときな。痛い目見ても知らないよ。アタシもよく分かんないけど」

「悪魔相手にするなら神話と魔術の基礎くらい知っておけ!」

「あんたもサマナーなったばっかの頃は全然知らなかったじゃない」

「う!」

 

 Gパンルックの姉御肌の女性―ゆきのこと黛 ゆきのの発言に怒鳴る八雲を、たまきが混ぜ返す。

 

「さて、その儀式と我らを呼んだ理由は?」

「ただ儀式を行っただけでは、神を呼び出す事は出来ても、完全な復活までは出来ん」

「そなの?」

「顔見せだけで帰っちまうってワケ? ノリわりぃね~」

「それをノせる準備を阻んでほしいんだが」

「じゃあオレ様のギャグ百連発で…」

「あんた黙ってなさい!」

 

 ゆきのの拳がブラウンの脳天に振り下ろされ、ブラウン沈黙。

「この手の復活儀式を行うには、そうとう量の瘴気もしくはマグネダイトが必要になるわ」

「なる程、媒介か」

「Oh、japan神話最大のEvil GODを復活に必要な量といったら……………」

「見当もつかねえ。今、葛葉の先遣隊が調査に向かってるはずだが………」

「ちょっと連絡取ってみるわ」

 

 レイホウが携帯を取り出し、短縮ダイアルで先遣隊の一人をコールしてみる。

 しばし電話が繋がるのを皆が無言で待つ中、やや長めのコールの後に相手が出た。

 

「あ、小次郎君、そちらの様子は……ちょっ、大丈夫!? もうそこまで!?」

 

 レイホウのただならぬ様子を察したメアリがイヤホンコードをレイホウの携帯に繋ぎ、アリサが手早くそれを艦内放送へと接続した。

 

『すでに船通山は異界化してます! 周辺にも最下級クラスですが悪魔の実体化を確認しました!』

 

 スピーカーから少年の物といって差し支えない若い男性の声の報告に、銃声や獣の咆哮が混じってティーサロン内に響き渡る。

 

『召還陣は多すぎて特定不能! 幾つか発見しましたが、まだ正式起動しているのは僅かです!』

「必要以上の交戦は避けて! もう直夜明けだから、下級の悪魔は実体化を維持できないわ!」

『了解しました! 退くぞパスカル!』

『ガアアァァ!』

 

 魔獣の咆哮を最後に、電話は切られた。

 後には、思い沈黙だけがその場を支配していた…………

 

「予想的中だ。相手は無数の小型の召還術式を用意し、それを一斉に起動させてそれから沸いた瘴気を持ってヤマタノオロチを復活させるつもりだ」

「無数って、どれくらい?」

「予想図はこれだ」

 

 舞耶の問いに、ヴィクトルが予想図を表示させる。

 

「こんなにかよ!?」

「なる程、猫の手も借りたいわね、こりゃ」

「ドラ猫ばかりがそろってやがるがな」

 

 表示された地図上の無数の光点に、全員が絶句する。

 そこへ、レイホウが淡々と作戦概要の説明を始めた。

 

「これは一応予想であって、正式じゃないわ。みんなにお願いしたいのは、この場所とそれ以外の召喚陣の捜索と発見、そして破壊。ただし、これは陽の気が強い日中に限られるわ」

「日が暮れっとどうなんだ?」

「簡単だ、日没と同時に強くなる陰の気によって、一斉に全部の召喚陣が起動する。そうなったらもう前代未聞の大乱戦になるな」

「………チューインソウルだ! チューインソウルをトラック一台分!」

「チャカと弾! なるべくデカイの!」

「ベルベットルーム! ここから一番近いベルベットルームどこだ!」

「落ち着くんだよ!」

 

 ゆきのの拳(×2)が慌てふためくマークとブラウンを沈黙させる。

 

「すぐに松岡に手配させよう。人員も多い方がいいだろうな」

「装備はともかく、人員はやめとけ。どんなトラップが仕掛けられてるか分からん。対悪魔戦が出きる奴ならともかくな」

「む、そうだな」

 

 八雲の指摘を元に、南条が自らの携帯で連絡を取り始める。

 

「で、オレ達はまずどうすればいい?」

「準備を整えて夜明けと同時に数チームに分かれて予測ポイントに向かって。あと何人かは遊撃部隊としてここに待機してくれる?」

「じゃあ私が。回復魔法が得意なペルソナを待機させておいた方がいいでしょうし」

「じゃ、じゃあオレも残る!」

「そうだな、では待機班は園村と稲葉に任せよう。残ったメンバーで班割とルートの作成を」

「Oh、全てを破壊しなくても、瘴気のルートをCutしてしまえば………」

「だとしたらまずどこから当たるべきだろうか?」

「広えぜ、何で移動すんだヨ? クルマか?」

 

 作戦を話し合う中、八雲は無言で席を立つ。

 それに気付いたカチーヤが、何気なく八雲の後を追った。

 ティーサロンから少し離れたフロアのソファーに八雲は腰掛け、首筋を鳴らしていた。

 

「……大丈夫ですか?」

「ん? 流石に今回はハードだからな」

 

視線だけカチーヤに向けた八雲は、大きく伸びをするとソファーにもたれかかる。

 

「…………アルゴン・スキャンダルを思い出すな」

「八雲さんがサマナーになるきっかけになった事件でしたっけ」

 

 八雲の隣にチョコンと腰掛けたカチーヤに、八雲は語り始めた。

 

「ま、あん時はこんなもんじゃなかったな。トレーラーに爆弾仕掛けられるわ、仲間誘拐されるわ、挙句に指名手配されるわ…………何度も死にそうな目に有った」

「でも、生きてますよ」

「運が良かったんだろ。もっとも運なんてのは実力で自分の所に引きずり込むモンだがな」

「はぁ…………」

 

 そのまま、しばし無言で八雲はカチーヤを見ていたが、そこである事を切り出した。

 

「カチーヤ」

「なんですか?」

「お前もここに残れ」

「え!?」

「もし、もう一度あの力を使えば、お前の精神はどうなるか保証出来ない。これ以上使うな」

 

 驚くカチーヤに向けて、八雲は断言する。

 

「で、でも……」

「レイホウさんと相談して、制御法を見つけるまで、術も使うな。すでに何らかの形で影響も出始めているはずだ」

「そ、そんなの在りません!」

 

 否定するカチーヤに、八雲は無言で立ち上がり、側に飾ってあった花瓶を取ると無造作にカチーヤの顔面に向けて投げつけた。

 

「キャァ!」

 

 思わず両手を上げてカチーヤは身構えるが、衝撃は来ず、何かが床に転がる音だけが響いた。

 両手を下げ、床を見たカチーヤの視界に、氷の塊に覆われた花瓶が転がっているのが飛び込んできた。

 

「!!」

「多少疲れ目だが、オレの目はさっきお前が手にしたコーヒーから瞬時に湯気が消えるのが見えてたぞ」

「あ、あれアイスじゃなかったんですか?」

「カップにアイスを入れる訳ないだろ? 自覚無しで力が発動するのは危険レベルだ。おとなしくしていろ。じゃなければ………」

「イヤです!」

 

 強い口調で叫びつつ、カチーヤは八雲にすがりつく。

 

「私も葛葉の一員です! 一緒に戦います!」

「………分かったよ」

 

 カチーヤの肩が震えているのを見た八雲が、諦めたような口調でカチーヤの頭を叩く。

 

「作戦の立案は賢い連中に任しておいて、少し休んでいろ。山登りの途中で倒れられたら適わん」

「……はい」

 

 小さく頷いてその場を去るカチーヤの姿が見えなくなってから、八雲は再度ソファーに腰掛ける。

 

「あんないい子泣かせるつもり?」

「生憎と、オレはいつも泣かされるほうですよ」

 

 頃合を見計らっていたのか、気配すら感じさせなかったレイホウが、通路の影から現れた。

 

「まさか、あの子の力がここまでとはね」

 

 つま先で花瓶を内包した氷塊を軽く蹴飛ばし、レイホウは八雲の側へと歩み寄る。

 

「あいつ、何の血を引いているんです?」

「分からないわ。少なくても、両親は普通の人間だったみたい」

「んな馬鹿な」

「これは推測だけど、おそらくは両親の両方の先祖の血が、あの子に受け継がれたとしたら?」

「! 隔世のハイブリッド………」

「仮説でしかないわ。それに、カチーヤの父親は力を持った彼女を恐れていたらしいの。母親は彼女を生んですぐ死んだらしいしね。そこを私が拾って修行させたのよ」

「……ま、この業界じゃ珍しくも無い話か」

「私としちゃ、あの子にあそこまで信用されてるのが不思議だけどね。結構人見知りする子なんだけど」

「さあ? インプリィンテイングでもしたかな?」

「ヒヨコじゃないのよ。信用されてる分はしっかり面倒みてあげなさい」

「ハッカーが信用されたら元も子も無いんだけどな~…………」

 

 山積みとなっている問題をどこから片付けるか、八雲は脳内に無数のフローチャートを思い浮かべつつ、頭をかきむしっていた。

 

 

 

「か・つ・や・さ・ん♪」

「ああ、舞耶君か」

 

 各々が準備に取り掛かり、誰もいなくなったティーサロンで都合三杯目のコーヒーをすすりつつ、作戦概要を地図と照らし合わせていた克哉に舞耶が寄ってきた。

 

「すまなかったね、仕事で忙しかったんじゃないのか?」

「いいえ、克哉さんやうららが困っているって聞いて、じっとしてられなかったし」

「そうか……」

「ねえ、この人コレ?」

「な!」

 

 克哉の肩に止まっていたピクシーが小指を突き出して動かすのを見た克哉の顔が赤くなった。

 

「図星?」

「う~ん、どうかな? 克哉さん、この子どこから?」

「いや、ちょっとなつかれてね」

 

小さく笑いながら、舞耶がピクシーを指差すと、赤面したまま克哉が説明する。

 

「あなたも一緒に行くの?」

「うん、ボーナスもらえるし♪」

「……フルーツタルトでいいかな?」

「あ、それ私も食べたい♪」

「……了解した」

 

 事件後の予定がすでに一つ出来た事に、克哉は諦めの溜息をもらした。

 

 

 

「ん………」

 

 微かに感じた気配に、カチーヤは目を覚ます。

 

「……起こしたか」

「あ、八雲さん。もう時間ですか?」

「いや、まだちと早い」

「でも、そろそろ準備しておいた方が」

 

 ベッドから起き上がったカチーヤは、そばに置いてあった上着に手を伸ばす。

 しかし、その手を八雲の手が掴んだ。

 

「?」

「今なら、まだやめられるぞ」

「……いえ、行きます」

「そうか」

 

 八雲の言葉をきっぱりとカチーヤは否定する。それを聞いた八雲は突然カチーヤの体を抱きしめる。

 

「なな、何を!?」

「覚悟は出来ているようだな、餞別くらいはやっておこう」

 

 赤面するカチーヤの顔をこちらに振り向かせて、八雲はその瞳を深く覗き込む。

 そのままゆっくりと、八雲の顔がカチーヤに近づいていく。

 

(え? えええ? これってひょっとして!?)

 

 耳まで赤くしながら、カチーヤが近づいてくる八雲の顔を見るが、やがて直視できなくなってまぶたを閉ざし、されるがままにする。

 カチーヤの唇に暖かい感触が触れるのと同時に、首筋に鋭い痛みが走った。

 

「!?」

「悪いな」

「八雲…さ……」

 

 何をされたのか理解する前に、カチーヤの意識が深く沈んでいく。

 ベッドに倒れこんだ時には、すでにカチーヤの口からは静かな寝息が漏れていた。

 

「………端から見れば犯罪だな」

 

 八雲が手の中に隠し持っていた無針注射器を一度跳ね上げると、それを受けとってポケットへと仕舞う。

 カチーヤをベッドへと横にし、その体に毛布を掛けてやると黙って部屋を出た。

 部屋を一歩出た所で、何時からいたのか克哉がそこに立っていた。

 

「見てたのか?」

「最後の方だけな。あれがお前の選択か?」

「一遍パートナーが目の前からいなくなればあんたにも分かるさ」

 

 それだけ言うと、八雲はその場を後にし、克哉も黙ってその後へと続いた…………

 

 

 滑り落ちた糸へと伸ばす手は、それを支える多くの手によって、その端を掴もうとする。

 ただ、己を傷つけても伸ばそうとする一つの手を静かに押さえながら…………

 

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