女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART7 COMMEMORATION

「追跡! スレの真相!」

「第133スレ、船通山で怪奇現象!?」

「真相追求のため、私達は実際に現場まで来ちゃいました~」

 

 朝にも関わらず、重い雲が垂れ込めている船通山の麓で、人気アイドルユニット《MUSES》の三人が人気番組の収録を行っていた。

 MUSESの一人、リサ・シルバーマンはまるで山その物を畏怖するかの如く、上空で渦巻く暗雲に言い知れぬ不安を覚えていた。

 

「どしたの、リサ?」

「うん、何か変な予感がするの………」

「マジ? リサって霊感有るからね~」

 

 メンバーの未歩と麻美が、リサの言葉に不安げに山の方を見詰め、続くようにその場にいるスタッフ全員が不安にかられるように空を見る。

 

「チーフ、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ、天気予報はちゃんと調べてんだし」

「でも、昨夜から入山規制がしかれてるはずじゃ………」

「火山じゃあるまいし、猛獣が出るわけでなし、何が危険だっての? スケジュールも押してるし、いい絵が取れるじゃないの」

 

 チーフディレクターの女性の指示に皆がしぶしぶ従おうとした時だった。

 

「!?」

 

 リサの背を、強烈な悪寒が襲う。

 

「? 大丈夫?」

「……来る!」

「何が?」

 

 思わずリサが体をすくめた瞬間、それは現れた。

 

「ギャギャギャギャ!」

「えっ…キャアアァァ!」

 

 奇声と共に、側の藪から何かがチーフプロデューサーの女性に襲い掛かる。

 

「チーフ!」

「六舞さん!」

「何!? こいつ何!?」

 

 襲い掛かってきたそれを払いのけようとする女性が、それを間近で見てパニックに陥る。

 それは、幼児くらいの体躯に突き出た腹と長い手足、そして死人の肌を持つ奇怪な子鬼だった。

 

「ば、化け物!?」

「ガキ!?」

 

 襲い掛かってきたその怪物が、不規則に伸びた乱杭歯を女性に突き立てようとした時、突然乾いた音が響くと同時に、怪物が血飛沫を上げて吹っ飛んだ。

 

「え?」

「お前ら、何をやっているんだ!」

 

 響いてきた音を探ると、その先には体をプロテクターで覆い、左腕にキーボードと小型ディスプレイがセットされた奇妙な篭手をつけ、それから伸ばされたコードが接続された分厚いゴーグルをかけた高校生くらいの少年と、ミニスカート姿に同じようなプロテクターを身に着けた少年と同年代の少女がそこにいた。

 

「ここは立ち入り禁止です!」

「そ、それ以前になんでアンタ拳銃なんて持ってるんだ!」

 

 混乱しつつも、少年の手に硝煙を上げる拳銃が握られているのに気付いたスタッフがそれを問いただす。

 しかし、それは周囲から先程と同じ奇声が無数に聞こえてきた事で中断された。

 

「ま、まだいるのか!?」

「チ、チーフ…………」

 

 スタッフ達が震える声でチーフに指示を仰ごうとした時、周囲から一斉に怪物達が襲い掛かってきた。

 

「うわああぁぁぁ!!」

「パスカル!」

「ゴガアアアァァ!」

『ジオンガ!』

 

 皆が絶叫を上げる中、少年と少女だけが別の言葉を叫ぶ。

 少年の声に応じるように、どこからか現れた獣がその口から業火を吐き出し、少女の手から放たれた電撃と相まって怪物達を薙ぎ払う。

 

「ギギギ!」

「しまった!」

 

 だが、業火と電撃の隙間を縫って突破した怪物の一匹が、MUSESへと襲い掛かり、少年はとっさに銃口を向けようとする。

 

(間に合わ…)

「ハィィイヤアアァ!」

 

 怪物の顔面に、気合と共に強烈な真空飛び膝蹴りが炸裂する。

 

「……え?」

「ホアタタタタ、ホァチャア!」

 

 そのまま拳が連続で打ち込まれ、駄目押しの掌底打が怪物の体を吹っ飛ばした。

 

「ヒュウウゥゥ……」

「カンフー使いのアイドルかよ………」

「つ、強い……」

 

 カンフー技で怪物を倒したリサを、少年と少女は呆然と見つめる。

 

「リサすごい!」

「かっこいい~!」

「う、うん………」

 

 反射的に怪物を倒してしまった自分の拳を、不思議そうな顔でリサは見る。

 

(何で、わたしこんな事出来るの?それにどこかで似たような事をしてる?)

「ボサッとしてるな、まだいるぞ!」

「ウソ!?」

「ひぃっ!」

 

山の方から、奇妙な唸り声が無数に迫って来ている事に気付いたスタッフが悲鳴を上げて後退る。

 

「ここは私達が死守します!」

「とっとと逃げろ!」

「そんな訳にはいかないわ! これ程のスクープ!」

「アイヤー!? 六舞さん、本気!?」

「チーフ! そんな状態じゃ有りませんよ!」

「黙りなさい! こんなおいしいネタから逃げ出すなんてTVスタッフの名がすた……」

 

 逃げ出そうとするスタッフ達を叱咤するチーフディレクターの鼻先をかすめ、何かが天から降ってくる。

 

「……え?」

 

 いきなり轟音と共に自分の前に出現したそれを確認しようと、チーフディレクターは数歩下がる。

 そして、それが日本の昔話に欠かせないある怪物の愛用武器である事に気付いた。

 

「か、金棒?」

「なんでこんな物が降ってきたん………」

「グウウゥゥ………」

 

 疑問は即座に氷解する。

 一同の前に悠々と現れた、一体の鬼の出現によって。

 

「うそぉ!?」

「ま、マジ!?」

「マジだ! 早く逃げろ!!」

 

 拳銃を鬼へと向けて乱射しつつ、少年が叫ぶ。

 だが、逃げ出したスタッフ達を囲むように、無数の怪物達が出現する。

 

「ひいいぃぃ!」

「ホァチョー!」

 

 腰を抜かしたスタッフの前に素早く出たリサが、迫ってきていた鬼に旋風脚を叩き込むが、鬼はそれをモロに食らっても平然としている。

 

「唔可似(ンホーイ)!」

「どいて!」

 

 少女は腰から下げていた鞭を手に取り、それを鬼の目めがけてふるって牽制し、少年は弾が切れた拳銃をホルスターに仕舞うと、腕のアームターミナルを操作。

 小型ディスプレイから突如出現した角を持った白馬と、体が水で出来た男が鬼へと襲い掛かる。

 

「夜が明けたのに、なんでこんなに!?」

(召喚陣だけじゃなく、封印陣まで張り巡らされている! 何とか持ち応えないと!)

 

 怯えすくむスタッフ達を守りながら、少年は状況の打開策を思考してた時だった。

 突然、騒々しいローター音が上空から轟く。

 

「あれは………」

 

 人間達も怪物達も思わずその音の方を向いた時、上空に飛来した大型ヘリから何かが射出された。

 

「今度は何!?」

「なんだあれは!」

 

 そのシルエットを認識すると同時に、凄まじいまでの銃火が怪物達の体を貫く。

 ヘリから降下したそれは、パラシュートと己のバーニアで姿勢を制御しつつ、呆然とするスタッフ達の側へと降り立った。

 それは、SFアニメにでも出てくるような大型のパワードスーツだった。

 青い塗装が施され、右肩に《N・SST XX―1》と刻印されているパワードスーツは、その頭部のセンサーで周囲を探る中、一機、もう一機と計三機がヘリから降りてきた。

 

「ホオオォォォウ! このミッシェル様が相手になってやるぜ!」

 

 最初に降りてきた青い塗装が施され、左肩に《blau(ドイツ語で青)》と刻印された一機が、手にしたM134バルカンを乱射して、怪物達を瞬く間に掃討していく。

 

「………オレ達、夢見てるのか?」

「ひはうみはいはよ?」

「ふん」

 

 未歩と麻美があまりの現実離れした光景にお互いの頬をつねりあっているが、その目に涙が浮かんでいる事からどうみても現実だった。

 

「な、何やってるのよ! 撮りなさい! 凄まじいスクープよ!」

「は、はい!」

 

 カメラマンがカメラを回そうとするが、飛来した妙なメカユニットが付いた槍がカメラを粉砕する。

 

「悪いが、トップシークレットだ」

「すいませんね、部外秘にしてくれとの指示でして」

 

 最初の一機に続いて、槍を投じた左肩に《schwarz(黒)》と刻印された黒いパワードスーツと、大型のライフルを装備して左肩に《weis(白)》と刻印された白いパワードスーツが着地する。

 

「そちらが葛葉の方々ですね?」

「ええ、そうですけど……」

「アンタ達は?」

「私達は南条財団特殊警備部の者です。葛葉の方達をバックアップするようにとの命令を受けてきました」

「もっとも、これが初仕事だがな」

「南条のアニキもハードなバイトさせてくれるぜ………」

「自己紹介は後にした方がいいみたい………」

 

 山麓から、また新たな影が来るのを確認した皆が、一斉に戦闘体勢を取る。

 

「あなた方はすぐに逃げてください!」

「あ、あんた達は?」

「決まってんだろ、戦うんだよ。邪魔だからとっとと失せろ」

 

 黒いパワードースーツが、槍の穂先でスタッフ達を追い払う。

 その間にも、影は更に迫ってきていた。

 

「さあ、何匹でもかかって来やがれ!」

「この対悪魔戦闘用機動装甲 XX(ダブルエックス)―1の実戦テスト、させてもらいます」

「ホオオオォォォゥ!」

「来るぞ!」

 

 激戦の戦端が、今ここで開かれた。

 

 

 

「夜明け後もなお悪魔はその数を増加。夜明けをキーとした封印陣の存在を多数確認した模様です。先行隊はすでに交戦状態に突入しました」

「開発中の物でも構わん! 動かせるXX―1を全てこちらに回せ! 幾ら掛かっても構わん! 騎乗候補者をリスト上位から引き抜いて来い!」

 

 業魔殿の各種のレーダーやセンサーを操作しながらのメアリの報告を聞きながら、南条が携帯電話で矢継ぎ早に指示を出す。

 船通山へと向かう業魔殿の中で、予想を上回る速度で悪化していく事態に、皆は焦燥感を募らせていった。

 

「これはもう、ノンビリしてられる状況じゃないわね………」

「いや、おそらくこれは陽動だ。今出てる連中を叩けば一息つける」

 

 ただ一人平然としている八雲の言葉に、全員が首を傾げる。

 

「……その言葉の根拠は?」

「簡単だ。封印陣の開放には条件の成立が必要だが、そうホイホイ出てくるような封印だとすれば、封印自体は簡単な物だ。そして、それを自動的に解く条件はそんな多くない」

「Sun…………」

「なるほど、数秘術封印で日にちだけ封印しておいて、後は日が昇れば勝手に解けるって訳ね」

「そういう事。一体どれだけ手間隙かけたらそんだけ仕掛けられるのか、見当もつかないがな」

「つまり、アレンジも無い一発芸ってワケ?」

「しかも誰かさんみてえにくだらないな」

「あにぃ~! もっぺん言ってみろ!」

「およし!」

 

 戦闘前にダメージ(軽微)を負ったブラウンとマークが涙目で脳天を押さえる中、業魔殿のエネミーソナーが捕らえた悪魔と、目的地の地図が重ね合わせて表示される。

 

「特に多いのは北側登山道近辺ね、あからさまな妨害よ」

「だが、効果的ではあるな」

「異界化の影響で上から特攻は無理だな。地道に登ってくしかないって寸法か………」

「あたし達で突破口開くっきゃないね」

「ハードな登山になりそうだな。アウトドアは趣味じゃねえんだが………」

「そう言ってられる状況でもあるまい。到着予定時刻は?」

「あと15分くらい~」

「みんな、準備はいい?」

『おう!』

「メアリ、アリサ。皆さんを案内してくれ」

「分かりました、ヴィクトル様。それでは皆様こちらへ」

「パパ、後よろしく」

「任せたまえ」

 

 二人の案内で皆がゾロゾロと移動する。

 通されたのは、降下用デッキだった。

そこでメアリとアリサが手分けして、全員にパラシュートとインカムを渡していく。

 

「……オイ」

「すかいだいびんぐ?」

「正確には空挺作戦と言った所だろう」

「スカイダイビングなんてやった事ある?」

「Noですわ」

「お、降ろしてくれるんじゃないの?」

「悪魔がわんさかいる所にノンキに降りてくつもりか?」

 

 手際よくインカムを付け、パラシュートを背負う八雲の言葉に、皆が顔を見合わせる。

 

「ま、前に炎上する飛行船から飛び降りた時に比べりゃマシか………」

「あの時は本気で死ぬかと思ったしね~」

「だが、危険度は今回の方が上かもしれんぞ」

「現在の高度ですと、飛び降りて三秒立ってから右のフックをお引きください。注意して点検はしておりますが、もし開かなかった場合は、右上部の切り離し用フックをお引きの上、左側の予備パラシュート用のフックをお引きください」

「こ、こっちだな?」

「も、もし開かなかったら?」

「ちゃんと香典出すぞ」

「ちょっと!?」

「だだだ、大丈夫だよよよよ、たた、多分………」

 

 手持ちのバッグを前に担ぎ、パラシュートを背に背負って大荷物になっているただしが、蒼白になった顔で震えながら明後日の方向に呟いている。

 彼ほど極端でないとしても、他の者達もどこか顔色は優れていない。

 

「いざという時、我々はペルソナが自動発動して何とかなると思うが……」

「あ、そっか」

「ちょっと待って、それじゃあたし達は?」

「なるようになるしかないだろ」

「心配なら、飛行系の仲魔呼んでおけば?」

「ストックにあったかな~?」

「そろそろ第一ポイントです」

「じゃあ、第一陣は誰から行く?」

「おし、このブラウン様のブラボ~なダイビングを見せてやるぜ!」

「大丈夫? 膝震えてるけど」

「ふっ、武者震いって奴よ」

 

 パラシュートを背負ったブラウンが、ぎこちない足取りで点検用の開閉ハッチを開け、その下に広がる風景に絶句する。

 

「……ゴクリ」

「替わろうか?」

「芸能人ナメんなよ、オラ~!」

「では、先に行ってくる」

「じゃ、行ってくるぜ」

 

 ブラウンに続いて、南条、レイジが宙へと踊り出す。

 

「ぐぇ、いっぱいいやがるぜ」

「ペルソナが疼いてやがる……」

「注意しろ、着陸寸前に…」

 

 地表へと向けて降下しながらも己のペルソナから伝わる反応に、三人が身震いしながらパラシュートを開こうとした時だった。

 

「ん?」

「何だ? 何か……」

「来る!」

「うわああぁぁ!」

 

 突然強力な突風が吹き上げ、三人の体を木の葉のように巻き上げる。

 

 

「何だい、ありゃ!」

「おい、どうなってやがんだ!」

「南条君! 上杉君! 城戸君!」

「急激的な上昇気流が発生! 気象学的には有り得ません」

「しまった、待ち伏せだ!」

 

 業魔殿よりも高くまで吹き上げられる三人の姿を見た者達が騒ぐ中、眼下に広がる山野から妖魔 テング、凶鳥 オンモラキ、妖獣 ヌエ、妖鳥 タクヒ等の飛行系悪魔が一斉に飛び立ち、宙を舞う三人と業魔殿に群がってくる。

 

 

「熱烈歓迎、ありがとォう! ビシャモンテン!」『ジオダイン!』

「ヤマオカ!」『刹那五月雨撃!』

「ニャルラトホテプ!」『ムドオン!』

 

 体勢が立て直せない中、三人はそれぞれ《JUSTICE》《HIEROPHANT》《TOWER》と振られたカードをかざしてペルソナを発動させ、仏法にて北方を守護する武神の放った電撃が、悪魔から女性をかばって死んだ南条家の老執事の放った無数の矢の雨が、クトゥルー神話において「這い寄る混沌」と称される邪神の放った即死の呪破が群がってきた悪魔達を薙ぎ払う。

 だが、更なる突風と共に新手が押し寄せて来る。

 

 

「どうしよう、このままじゃ………」

「待ってろ、今行く!」

「馬鹿…」

 

 静止も聞かず、マークが外へと飛び出す。

 すぐにその体は突風にあおられ、激戦を繰り広げる仲間達の元へと向かった。

 

「私達も!」

「これ以上馬鹿を増やすな! 他にやる事がある! アリサ、サーチサポート!」

「了解!」

 

 トルネードもかくやという突風で揺られる業魔殿の中で、八雲はストームブリンガーを起動させ、構える。

 アリサがストームブリンガーの制御部の端子にコードを差し込むと、自らをインターフェイスにして業魔殿のセンサーとストームブリンガーを直結させた。

 

「いきなりこんな状態で使うとはな……」

 

 トレードマークの額のサングラスを降ろし、それにストームブリンガーから伸ばしたコードを接続、サングラスに無数の敵影が表示されていく。

 

「SET」

 

 短くコマンドを呟くと、ストームブリンガーのレーザーデバイスの照準用レーザーが目標を補足。八雲のサングラス内に照準マークが現れる。

 

「RUN」

 

 八雲は実行コマンドを呟きながら、トリガーを引いた。一瞬レーザーデバイス部の銃口が光ったかと思うと、照準されていたテングに光の魔法陣が現れ、直後テングの体がまるで砂像のように崩れていく。

 

「うわ………」

「すげえ威力だな、オイ」

「メアリ! エネミーソナーで地面を直接サーチしてくれ! この状態を作り出している奴がいるはずだ!」

「先程から行っているのですが、発見できません」

「じゃあ逆だ。まったく反応の無い所にいる! そいつを叩けば……」

「だが、どう降りる?」

 

 立っているのも困難な程揺れ始めた業魔殿のキャビンで、皆があちこちに掴まって体を支えつつ、外を見た。

 脳内で素早く現在の状況と打開策を考えた八雲が、通信用コンソールへと駆け寄り、スイッチを入れる。

 

「おっさん、非常脱出用の射出ポッドが有ったはずだな? 耐魔法性が掛かってるはずだから、それを逆用して魔法を食らわせて撃ち出せば、この風を突破できないか?」

『上手くいけば、の話だな。だが、可能性は有るだろう。すぐに準備しよう』

「で、誰が行く?」

 

 通信を聞いた者達が顔を見合わせ、何人かが頷いた。

 

「僕が行こう。容疑者の発見は得意だ」

「じゃ、私も」

「魔法で撃ち出すんだったら、サマナーじゃ無理ね。私も行くわ」

「た、たまきが行くならオレも」

「Oh、Occult知識も必要ですわ。お供しますわ」

「脱出ポッドはその通路をまっすぐ、非常用の表示看板に従ってお進みください」

 

 克哉(+ピクシー)、舞耶、たまき、ただし、エリーの五人が名乗り出、メアリの指示に従ってその場を飛び出す。

 

「トンでもない無茶考え付く野郎だな」

「サマナーやる前はもうちょっと大人しかったぞ」

「どうだか?」

 

 会話は、強化ガラスの破砕音で中断した。

 

「こっちまで来やがった!」

「ちっ!」

「お任せください」

 

 ガラスを突き破って進入してきた悪魔達が、メアリのデューク・サイズの一閃で薙ぎ払われる。

 

「あの、この飛行船、簡単には落ちませんよね?」

「大丈夫です。聖書級災害、もしくは反応兵器影響下までは無理ですが、全天候性及び物理、魔法両耐久性は十二分に考慮されて設計、建造されております」

「それって、戦艦って言わない?」

「武器一つしか付いてないから、戦艦とはちょっと違うと思うけど」

「付いてるの!?」

「話は後にしときな、来やがったぞ!」

 

 女性陣の会話を黙らせつつ、パオフゥの指弾がガラスの破れた個所から進入しようとしていたテングを迎撃する。

 

「ヴェルザンディ!」『終焉の青!』

「カーリー!」『メギドラ!』

『サイオ!』

 

 麻希が《PRIESTESS》、ゆきのが《EMPLESS》と振られたカードをかざして己のペルソナ、北欧神話の運命を司る三女神の現在を司る女神の火炎魔法が、ヒンドゥ神話の破壊の女神の核熱魔法を放ち、レイホウが衝撃魔法を発動させる。

 連続の攻撃魔法が、続けて進入してきた悪魔と外壁の一部をまとめて吹き飛ばす。

 砕かれた破片が突風と共に内部へと吹き込み、中にいる者達の肌を打つ。

 

「あまり派手にやるな! 自分達で墜落させる気か!」

「じゃあどうしろってのよ!」

「この状態じゃ、銃も剣も使えないわね………」

 

 突風と吹き飛ばされてくる破片から顔をかばいつつ、レイホウが必死になって空中戦を演じているペルソナ使い達に視線を向ける。

 

「ぁぁぁぁあああっ!」

「稲葉君!?」

 

 大音響と共に、こちら側に吹き飛ばされてきたマークの体が壊れかかっていた窓枠に直撃した。

 

「大丈夫!?」

「わり、園村回復頼む………」

「いま治してあげる!」『ディアラマ!』

 

 血まみれで窓枠にしがみ付いているマークに、マキが慌てて回復魔法をかける。

 

「サンキュ、行くぜスサノオ!」『血の烈風!』

 

 傷が癒えると即座に、マークは《CHARIOT》と振られたカードをかざして自らのペルソナ、イザナギの鼻から生まれたとされる日本神話の有数の軍神を発動させ、再度宙へと舞い上がりながら疾風魔法を繰り出す。

 

「RUN」

 

 マークの背後から襲いかかろうとしていたタクヒにプログラムを撃ち込んだ八雲が、歯軋りしながらイジェクトレバーを操作、微かにスパークしているフラッシュメモリを排出して〈次弾〉を装填する。

 

「くそ、使えるのはこいつだけか………」

「この距離と強風じゃ、魔法のサポートも届かないし………」

「そういや、カチーヤちゃんは? 姿見えないけど?」

「ああ、疲労でぶっ倒れたから強引に眠らせておいた。奥にいるはずだ」

「じゃ、戦闘は無理ね!」

 

 応えつつレイホウが吹き荒れる風に乗せて振り回した三節棍が、悪魔と一緒に周辺の花瓶やライトを粉砕する。

 

「ちょ、それ高そうよ!?」

「マイセンの官窯です。時価にして…」

「弁償は八雲にお願い!」

「なんでオレが……っ!」

 

 さらりととんでもない事を行っているレイホウに文句を言おうとした所で、自分へと襲い掛かってきたヌエに八雲はとっさにストームブリンガーの狙いをそちらへと代えてプラグラムを機動、その鋭い爪が八雲へと届く寸前でヌエの体は光の粒子となって分解する。

 

「文句言ってる暇も無いってか!」

「防御用シャッター、降ろします」

「7、12、22、31は閉めるな!そこから援護する!」

「了解しました」

 

 状況不利と見たメアリが、室内のコンソールを操作すると、分厚いシャッターが次々と外に面した窓全てに降りていく。

 

「どういう仕掛けしてるの、これ?」

「いや、設計段階にパパがあちこちのサマナーの意見取り入れてたら、こんな船になっちゃったらしくて………」

「なお、脱出ポッドと防御シャッターは八雲様のアイデアです。他に人型変型機能、分離・合体機能を申し出た方々もおりましたが、技術上却下されました」

「誰だ、そんなアホ考えた奴」

「たまきちゃんと私」

「前にオレにドリル持たせようとしたり、キョウジさんにトマホーク持たせようとしてたのはそのためか………」

『射出準備が出来た、射出してほしい』

「その話はあと、行くわよみんな!」

「おうさ!」

「じゃ、頼んだぜ!」

「了解。アリサ、サポートを中止してメアリと右舷につけ、オレは左舷につく」

「OK、お兄ちゃん」

「了解しました、八雲様」

 

 アリサに繋いでいたコードを抜くと、八雲はそれをGUMPに繋ぎなおし、さらにGUMPを操作してケルベロスとジャンヌ・ダルクを呼び出す。

 

「ケルベロス、そっちから入ってこようとする奴を蹴散らせ! ジャンヌは二人のサポート!」

「グルルル!」

「はっ! 心得ました、召喚士殿」

「よーし、姉さん私達も召喚いくわよー」

 

 その言葉と同時にアリサの瞳に光のロジックが浮かび上がる。そして左手を高々とかざす。

 

「SUMMON SYSTEM START、D―DATA DEVICE SET。お願い姉さん!」

「分かったわ、アリサ」

 

メアリもアリサと同じように右手をかざす。それにあわせるように、メアリの瞳には魔力の輝きが浮かび上がる。

2人の瞳の輝きが同調し、明滅する。

そして、その明滅が最高に早くなった途端、2人は背中合わせに立ち、かざした手を重ね合わせて前へと突き出す、そこに瞳と同じロジックと魔力の融合した輝きが出現する。

 

『SUMMON』

 

 内蔵COMPシステムを起動させたアリサに、メアリが召喚命令を出す。

 2つの輝きは融合し魔法陣と化して、仲魔達を召喚する。

 

「ヒ~ホ~、呼ばれて参上だホ!」

「ご命令はなんでしょうか?」

 

 召喚された沼地に住む悪戯好きの妖精 ジャックランタンと、天使階級第八位に属する天使 アークエンジェルが二人のサポートへと回る。

 

「それが限度か? まだまだだな」

「こ、これでも頑張ったんだから!」

「申し訳ありません、未熟でして………」

「これが終わったら鍛えてやるよ。来たぞ!ここは任せて、早い所連中をポッドに連れてけ!」

 

 メイド姉妹に微笑しつつ、八雲は迫ってきている悪魔に向けてストームブリンガーのトリガーを引いた。

 

 

「こいつかい、ポッドてのは………」

「ふぇ~、まるでSF映画ね」

 

『緊急脱出用 使用の際はスタッフの指示に従ってください』と書かれたプレートの張られたポッドとその射出装置を見ながら、《発射要員》達がおのおの適当なポッドに並ぶ。

 それに合わせるかのように、すぐ側の通信用コンソールにヴィクトルが現れる。

 

『全員が乗り込んだな? これは本来はメインがエーテルカタパルト、サブはリニアカタパルトで射出するのだが、この強風ではまともに射出する事すら難しいと思われる。頼むぞ』

「思いっきりやっちゃっていいんですか? 爆発したり、中の人潰れたりしません?」

「それが問題ね」

『さすがにマハインクラスになると問題だが、それ以下なら耐えられる設計になっている』

『お、お手柔らかにお願いします………』

『うらら、これ中すごいわよ♪ うららも乗ってみたら?』

『こちらはいつでもいいぞ』

『急いで!』

『Good Luckですわ』

 

 船長室からポッド内部の映像を映し出してる小型ディスプレイの様子を確認すると、ヴィクトルが射出用コンソールを操作する。

 

『上部のランプが青から赤に変わると同時に、ロックが外れる。その瞬間に当てて欲しい』

「じゃ、ちょっと力を抜いて思いっきりね」

「マーヤ、潰れないでね」

「こっちもいいぞ」

「では……」

 

 ヴィクトルの操作で、ポッドの射出装置が重々しい音と共に起動を始める。

 射出装置に青いランプが点り、最後のロックが外れる音と同時に赤へと変わった。

 

『マハ・サイオ!』

「アステリア!」『ガルダイン!』

「プロメテウス!」『ザンダイン!』

「カーリー!」『メギドラ!』

「ヴェルザンディ!」『終焉の青!』

『うぎゃあああぁぁぁぁ』

『ヤッホー~~~』

『くっ!』

『キャアァァ』

『Waaaooooo』

 

 悲鳴や絶叫を残しつつ、ポッドは弾丸のごとき勢いで地面へと向けて降下していく。

 

「……あれでホントに大丈夫か?」

「ちょっと威力強かったかも………」

『本来は業魔殿の物と同じエーテルクラフトで減速しパラシュートを開くのだが、今回は両方とも切ってある。内部の衝撃緩和能力と各々の体力に期待するしかない』

「ただし辺りやばそうね…………」

「ショックはあるかもしれんが、重傷や致命傷は負わないはずだ」

「それなら大丈夫か」

「そうかな~?」

 

 そこで、突風に煽られた業魔殿の船体が大きく揺れる。

 

「きゃっ!」

「ちっ、向こうよりもこっちの心配が先みてえだな。オレとうららは上に回る!」

「私は前に回りながら進入してきた悪魔を駆除してくわ」

「それじゃ、あたしと園村は後ろに!」

『私は引き続き、船長室でサポートに回ろう』

 

 どこかから響いてくる破壊音に、三手に分かれたメンバー達はそれぞれの配置へと駆け出した。

 

 

 

 大きな騒音と共に、五つのポッドが地表に突き刺さる。

 騒音を聞きつけ、悪魔達がポッドへと集まり始めた。

 幽鬼 ガキがポッドへと群がり、次々とポッドに齧りついていく。

 特殊合金と複合素材製のポッドに乱杭歯が突き立てられ、噛み千切られる異音が周囲へと響き渡る

 

『Crime And Punishment!』

『Twilight Phantom!(薄命の幻影)!』

『リリーズジェイル!』

 

 突如として、五つのポッドの内の三つから無数の光の弾丸が、触れた物を瞬時にして氷結、分解して消滅させる純白の霧が、捉えた、物を逃がさぬ氷結の檻がポッドを粉砕しながら放たれ、周囲に群がっていた悪魔達を吹き飛ばす。

 

「無事か!?」

「大丈夫!」

「fineですわ!」

 

 自らのペルソナを発動させたペルソナ使い三人が半壊したポッドから飛び出しながら、周囲を警戒する。

 未だ開かないポッドの一つから、突然剣が突き出され、ポッドが強引にこじ開けられる。

 

「問題ないようだ、召喚士殿」

「うう、狭い………」

 

 こじ開けられたポッドの中から、インド神話の女神 カーリーの次女とされる四腕の鬼女 ダーキニーと、それを召喚したたまきが出てくる。

 

「ただし、生きてる?」

 

 たった一つだけ突き刺さったまま微動だにしないポッドをたまきが駆け寄ってノックするが、変化は無い。

 

「まさか、怪我でもしたか!?」

 

 異変を察した克哉がヒューペリオンでポッドを強引にこじ開ける。

 ポッドの中には、上下反転した状態で頭を打って目を回しているただしの姿があった。

 

「ちょっと、起きなさいよ!」

「おぶわ!?」

 

 たまきの容赦ない往復びんたがただしの目を強引に覚ます。

 

「うう、落っこちてくる途中で何かに当たったら急に重力が反転を……」

「悪魔でも引っ掛けたみたいね」

「追突事故が起きたのか………」

「Oh、DANGERですわ」

 

 たまきに助け起こされたただしが何か呟きながらなんとか立ち上がる。

 

「こちら降下部隊、無事着地に成功。敵の予想地点は?」

『そこから南西方向、距離にして約200mの地点と思われるが、エネミーソナーの反応が多数出ている。注意されよ』

「了解」

 

 周囲を警戒しつつ、克哉が広げた地図を覗き込んだ皆がヴィクトルからの通信を元にポイントを推定する。

 

「多分ここいら辺ね」

「Well、風水学と気学から見れば西からの木気を受けて術を発動させられるPoint。この辺りで間違いないと思いますわ」

「近いわね」

「道があったらだけど………」

 

 大体の予想を付けたポイントへと向かおうとする面々の前に無数の悪魔達が立ちはだかる。

 

「ここは私が!」

 

 たまきが自らのGUMPを抜いてトリガーを引いて起動させて素早くタイプ、手持ちの仲間を次々と召喚する。

 

「行くわよ、Tamakiガールズ!」

『おう!』

 

 召喚された二股の尾を持つ猫人の姿をした魔獣 ネコマタ、インド神話の主神シヴァの后とされる女神 パールヴァディ、ギリシャ神話の黒い衣をまとった夜の女神とされる夜魔 ニュクスと召喚されていた鬼女 ダーキニーがたまきの号令と共に、一斉に悪魔へと襲い掛かる。

 

『ムハマド!』

『マハンマ!』

 

 ダーキニーの呪殺魔法と、パールヴァディの破魔魔法が悪魔達をまとめて仕留め、それを逃れた悪魔にはニュクスの吐き出した極寒の息吹がその動きを封じ、ネコマタとたまき、ただしがそれを打ち砕いていく。

 

「やる~♪」

「これくらいはね♪」

「一気に行くぞ! ヴリトラ!」

「アルテミス!」

「ガブリエル!」

『アイスジハード!』

 

 克哉がペルソナをチェンジし、舞耶は《MOON》のカードをかざしてギリシャ神話の月と狩猟を司る純潔の女神アルテミス、エリーが《JUDGEMENT》のカードをかざして聖母マリアに受胎告知したとされる四大天使の中で唯一の女性の天使ガブリエルのペルソナを呼び出すと、合体魔法を発動。周囲の敵をまとめて氷で覆い尽くす。

 

「すげ……」

「感心してないで行くわよ!」

 

 襲ってくる悪魔達を次々と倒しつつ、五人+悪魔四体は予想されるポイントへと向かう。

 

「そろそろのはずなのですが………」

「何も無いような? ねぇヴィクトルさん、本当にここなの?」

『何かはある筈だ。そこだけ不自然なまでにエーテル反応が安定している』

 

 山間の何も無い林の中を、注意しながら探索するが、悪魔がときたま襲ってくる以外は別におかしい所はなかった。

 

「………そこか!」『ジャスティスショット!』

 

 突然、克哉がヒューペリオンで強い輝きを持った光の弾丸を何も無い空間へと撃った。

 光の弾丸は何も無い空間を破砕し、その中に有った祭壇と、そこに潜んでいた者を露わにした。

 

「ほう……人間のくせに気付きおったか」

「やるじゃないか………」

「オモイカネにタケナミカタ!? 神格クラスが二体一緒とはね…………」

 

 巨大な脳の怪物の姿をした日本神話で知識を司る天津神 オモイカネと、鬼神のごとき姿をした暴風と戦を司る国津神 タケナミカタが、こちらを見て楽しげに口を歪める。

 

「あなた達ね! 上を楽しくない遊園地にしたのは!」

「集団騒乱、傷害、器物破損の容疑で捕縛する! おとなしくしろ!」

「人の法で神を縛ろうとは、片腹痛いの………」

「その通り。やめてほしくば、力ずくで来い!」

「ならば、行かせてもらう!」

 

 克哉がホルスターから素早くデザートイ―グルを抜く。

 重々しい銃声が、戦いの始まりを告げた。

 

 

同時刻 業魔殿船長室

 

「むう、これは………」

 

 無数の計器が並ぶ船長室の中、複数の制御用コンソールを操作して業魔殿に取り付けられた各種センサーからの情報を解析しつつ、強風に煽られる業魔殿の舵を取るヴィクトルが地上からの反応を見て眼を細めた。

 

「これ程までに安定した状態で神格レベルを召喚出来るとは、少々予測が甘かったかもしれん………」

 

 地上からの情報を解析していた時、横殴りの衝撃で船体が大きく揺れる。

 

「右側面エーテルクラフト、出力12%上昇、2秒後に標準値に修正」

 

 ヴィクトルは慌てる事なくボイスコマンドで出力を制御しつつ、ゲームのコントローラーのような制御舵を使って船体を安定させる。

 

「さて、出来る限りの事をせねばな」

 

 再度センサーからの情報を解析に移ったヴィクトルは、ふとそこで空中にも強力なエネミー反応が出現した事に気付いた。

 

「これは、幻魔クラスだと……!?」

 

 

同時刻 業魔殿 上部デッキ

 

「くうっ!」

 

 攻撃をモロに食らって弾き飛ばされた南条の体が、業魔殿の上部デッキのそばに叩き付けられる。

 

「南条君!」

「大丈夫か!」

「問題ない……」

 

 上部デッキで固定用の命綱を付けて戦っていたうららとパオフゥに応えながら、立ち上がろうとした南条の体が強風で再度舞い上がろうとする。

 

「こっちに!」

「すまない!」

 

 自らのペルソナで強風を和らげつつ、うららがロープを南条へと伸ばす。

 南条は這うようにしてなんとかロープに手を伸ばすが、その手がロープを掴んだ瞬間、同じように弾き飛ばされてきたレイジの体が間近に叩き付けられた。

 

「城戸! 手を伸ばせ!」

「ダメだ! 来やがった!」

 

 動きの取れない二人に向かって、悪魔達が襲い掛かってくる。

 

「危ねぇ!」『ワイズマンスナップ!』

 

 プロメテウスの放った超高速の漆黒の弾丸が、強風を貫きながら悪魔を撃ち抜く。

 

「あと何匹いやがる!」

「半分は倒したはずだ、だが………」

 

 トルネードにさらわれた木の葉の如く、空中で上下左右の区別無く振り回されながらも必死に戦っている者達を見ながら、全員がこの状況の打開策を必死になって考える。

 

「周防の奴はまだなのか!? このままじゃやべえ!」

『すでに下に下りた者達は術を執行している者と交戦状態に突入しておる。しばしもたせて欲しい』

「そいつらがくたばるのが先か、オレ達がくたばるのが先か…………」

 

 業魔殿の外壁にしがみ付きながら、レイジは迫ってきている悪魔を睨みつける。

 

「城戸! アレを行くぞ!」

「はっ、そうだな! モト!」

 

 外壁に片手でしがみ付きながら、レイジが《DEATH》と振られたカードをかざし、古代バビロニアの死の神をペルソナとして発動させ、南条のペルソナ ヤマオカと共鳴させて合体魔法を発動した。

 

『アブソルト・コンデネィション!(絶対の断罪)』

 

 業魔殿に群がろうとしていた悪魔達を、光の呪縛が一斉に取り押さえ、虚空に出現した無数の大鎌が、動けない悪魔達の首を一撃の元に切り落としてまた虚空へと消える。

 絶命した悪魔達の体が、光の呪縛が消えると同時に地面へと落ちていく。

 

「強烈~………」

「またすげえ合体魔法だな」

「ああ、だが強力過ぎる………」

 

 今の合体魔法で精神力を使い果たした南条とレイジのぺルソナが、霞むようにして消える。

 

「! こっちに、早く!」

「ああ……!」

 

 外壁を這ってデッキへと向かおうとしていたレイジの体が、突然の横殴りの強風で大きく業魔殿が揺れた拍子に宙へと投げ出され、再度強風へとさらわれていく。

 

「城戸!」

「まずい!」

「オウリャアアア!」

 

 レイジは自分に群がってきた悪魔を力任せに殴りつけ、蹴り飛ばす。

 しかし、ぺルソナが使えないと分かったのか他の悪魔達も一斉にレイジへと向かってくる。

 

「パオ!  ロープ長いの!」

「ダメだ!この風じゃ届かねえ!」

「やむをえん…………!」

 

 南条が懐から取り出したチューインソウルを咀嚼もしないで飲み込みつつ、ロープを手放そうとした時だった。

 

「んぎゃあああああああああああああー!!」

「ぐおっ!?」

 

 悪魔数体を巻き込み、吹き飛ばされてきたブラウンの体がレイジの脳天に直撃する。

 

「今だ!」

 

 もつれた二人の体を、南条が自らのペルソナを使ってこちらへと手繰り寄せる。

 

「よ、ただいま…………」

「ちょ、血まみれじゃない! すぐ回復しないと!」

「先にこっちを……」

 

 ブラウンが自らの上着を使って手首に結び付けておいた瀕死状態のマークをデッキ上に引き上げる。

 

「! 何があった……!」

「いるぜ、すこぶるつきでヤベえのが………」

 

 ブラウンが指差した先、もっとも風が強い中心部に一つの影がその場に微動だにしないで仁王立ちしていた。

 

「! あいつが空のボスか!」

 

 全員のペルソナが、一斉にそれの脅威を感じ取る。

 高く伸びた鼻、山伏を思わせる装束、右手にヤツデの扇、左手に一際大きな錫杖を持った日本妖怪の中でも最強クラスの一角を占める幻魔 オオテングがこちらを鋭すぎるまでの視線で射抜く。

 

「随分と図に乗ってやがるぜ、野郎………」

「確かに、正真正銘テングになっているからな」

「少しだけもたせて、二人を回復する間」

「安心しな、ダチをやられた分はたっぷりとやり返させてもらうからな」

 

 レイジがチューインソウルを数枚まとめて咀嚼しながら、拳を鳴らして凄みのある笑みを浮かべる。

 何かを察したのか、オオテングは手にした錫杖で合図して他の悪魔達をその場から退かせる。

 

「てめえだけで大丈夫かい、ナメられたモンだな」

「ならば、来い!」

 

 オオテングは無言で、手にした扇を大きく横薙ぎに振るう。

 突如として、殺人的という表現その物の突風が、一同を襲う。

 

「くっ!」

「そこか!」

 

 命綱を必死に掴み、目を開ける事すら不可能な突風の中、南条が半ば本能的に腰の刀を抜いて風の中を突撃してきたオオテングの錫杖を受け止める。

 

「出来るな」

「そちらこそ」

 

 初めて口を開いたオオテングが、奇襲を防いだ事を素直に誉める。

 だが、錫杖は徐々に受け止めている刃を押していた。

 

「ふっ!」

「ほお……」

 

 死角から近寄ったレイジの拳が、オオテングの扇で無造作に受け止められる。

 

「若輩の割には出来る。だが、それだけだ」

「ふざけんじゃねえ!」

 

 レイジの更に背後から近寄ったパオフゥが、指弾の連射を避け様のない距離でオオテングの顔面を狙う。

 

「カハアアアァァ!」

 

 しかし、必殺の攻撃はオオテングの口から吐き出された水流で弾き返される。

 

「人如きの技で天狗を超えられると思うたか?」

『思ってるよ!!』「ティール!」「スサノオ!」

 

 まだ回復しきっていないブラウンとマークが、己がペルソナの北欧神話の隻手の神と日本神話有数の闘神を発動させ、オオテングへと襲い掛かる。

 

「ハードに行こうぜ!」

「おお! 食らえ必殺!」

『ウルトラハイパーグレードデリシャスワンダホーデラックスゴールデンラッシュ!』

 

 ティールが北欧神話の巨狼フェンリルを封じた魔法の紐でオオテングの上半身を、スサノオが手にした七枝刀でオオテングの足を貫いて動きを封じると、身動き出来なくなったオオテングに向かって凄まじいまでのパンチとキックのラッシュを叩き込む。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!』『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄!』

「がっ、この!」

『オラァ!!』『無駄ァ!!』

 

 トドメのティールのパンチとスサノオのキックが、オオテングの顔面を前後から挟み込む。

 オオテングは口から血反吐を吐き出し、その場に片膝を落とす。

 

「へへっ、思い知ったか………」

「オレ達がちょっとその気になりゃてめえなんか………」

 

 言葉の途中で、力を使い果たしたマークとブラウンの体が崩れ落ちる。

 

「おい、大丈夫か!」

「中に!」

「そうはさせん………」

 

 猛烈な攻撃にダメージを負ったオオテングが、腰の後ろに吊るしておいた法螺貝を取ると、それを咥えてマークとブラウンの方へと向けた。

 

『鵺鳴きの笛!』

 

 法螺貝から、衝撃すら伴った音が二人とその周囲にいた者達を同時に襲う。

 

「!! なんだ、これ!」

「ああああぁぁ!」

「耳が、頭が!」

「わ、割れちゃいそう!」

「てめえ、何を!」

 

 レイジがオオテングの攻撃を止めさせようと襲い掛かるが、目標をそちらへと変えた法螺貝の音の直撃を食らって彼もその場に崩れ落ちる。

 

「超音波か! セイリュウ!」『大気の壁!』

 

 攻撃の正体を見破った南条が《WORLD》のカードをかざして中国で四方の内の東方を守る四聖獣を召喚し、大気の防御場を作り出して攻撃を相殺させる。

 

「天狗道を舐めぬ方がいいわ!」

「なんの!」

 

 法螺貝を戻したオオテングが、南条へと向けて錫杖を上段から振り下ろす。

 南条は刀でそれを受け流すが、流されたはずの錫杖は瞬時に横薙ぎの軌道に変じて南条の胴に食い込んだ。

 

「うっ……!」

「五十年早いわ!」

 

 錫杖は即座に引かれ、山なりの軌道を描いて南条の反対側の胴に更なる一撃を叩き込む。

 

「ぐぅ……」

「滅!」

 

 一度手元に引かれた錫杖が、真槍の一撃をも上回る力を秘めた突きと化して南条の喉を狙う。

 しかし、必死確定の一撃は飛来したコインが直撃した事によって狙いがそれ、南条のこめかみをかするだけに終わった。

 

「いつまで調子こいてやがる…………!」

「こなくそ!」

「なめんな~!」

 

 パオフゥの指弾が錫杖に続いて、オオテングの持ち手と肩を狙い、マークとブラウンが余力を振り絞ってオオテングの手足を押さえ込む。

 

「離せ下郎!」

「誰が離すもんか!」

「ツれない事言うなよ、旦那~」

「この!」

「野郎!」

 

 もがくオオテングのボディにうららとレイジのダブルストレートが食い込む。

 

「二人とも離れて! パオ!」

「おうよ!」

『Black Howl(黒き咆哮)!』

「甘い!」

 

 アステリアの旋風で加速したプロメテウスの放った漆黒の弾丸に、束縛から開放されたオオテングは真っ向から扇の剛風で対抗する。

 衝突する二つの旋風の衝撃波が、周囲一体に吹きすさぶ。

 

「こぅのおおおお!」

「ちぃい!」

「はははは!」

 

 うららとパオフゥは自らのペルソナに力を込めるが、徐々に漆黒の弾丸は押し返されていく。

 

「そうれ、どうした!」

 

 オオテングが大きく扇を振るう度に、剛風は勢いを増していく。

 

「あう……!」

「ダメだ、押し負ける………」

「ジーザス! サイテンタイセイ!」『メギドラ!』

 

 用意しておいたチューインソウル全てを強引に喉の奥に飲み込んだマークが、孫悟空の名で有名な石から生まれたとされる猿神のペルソナを発動させてオオテングへと向けて核熱魔法を打ち出す。

 

「!?」

「これは!?」

 

 ペルソナの共鳴に皆が気付いた時、押されつつあった漆黒の弾丸は放たれた核熱魔法を取り込み、灼熱の弾丸へと変わっていくのが見えた。

 

「こいつは!」

「いけるぜ! ビシャモンテン!」

『ストライク・コメット!』

 

 合体魔法発動の予兆である共鳴に、自分のペルソナが反応しているのを知ったブラウンが、包みを取らずにチューインソウルを咀嚼してペルソナを発動させる。

 ビシャモンテンの放った重力魔法が、拮抗状態にあった灼熱の弾丸を撃ち出す。

 拮抗状態から放たれた弾丸は、自らの衝撃波と高音で周囲を陽炎のように揺らめかせながら、オオテングへと向けて突き進む。

 

「おおおおぉぉぉおお!」

 

 必死になってそれを押し戻そうとするオオテングの腕を扇ごと吹き飛ばしつつ、灼熱の弾丸はその胴に炸裂した。

 

 

同時刻 地表

 

「ふんっ!」

「ぐふっ!」

「ふぎゃ!」

 

 タケナミカタの強力な張り手が克哉の腹に直撃し、一撃で吹き飛ばされた克哉の体が背後にいたただしを巻き込んで樹木へと激突する。

 

「克哉さん!」

「Mr Suou!」

「ただし!」

「大丈……夫だ」

「みぎゅうぅぅぅ………」

「回復してあげる!『ディアラハン!』」

 

 口の端から血を滴らせながら立ち上がろうとする克哉に慌てて飛び寄ったピクシーが(克哉だけに)回復魔法を掛ける

 

「ふん、一撃で逝かぬとは中々の奴よ」

 

 さも愉快そうに口の端をゆがめながら、タケナミカタは大きく足を左右に広げ、深く腰を落とす日本人なら誰でもよく知っている構えを取る。

 

「なんで神様がスモウ取る訳!?」

「Oh、タケナミカタと言えば軍神タケミカヅチとSUMOUでDuelしたAnecdote(逸話)が有りますわ」

「腕っ節に自信ありか……それにひきかえ………」

 

 たまきがちらりと克哉と木にサンドイッチされて目を回しながらも、のそのそと回復アイテムを取り出そうとしているただしを見て小さくため息をもらす。

 

『ブフダイン!』

「フウウウゥゥ!」

 

 パールヴァディの氷結魔法とニュクスの氷の吐息がタケナミカタを狙うが、素早くタケナミカタの前に出たオモイカネが防御もせずにそれらをモロに食らうが、その体に魔法が触れた途端に、まるで砂地に巻いた水のようにそれはタケナミカタの体に吸い込まれていった。

 

「魔法吸収か! ならば!」『ジャスティスショット!』

「ふんっ!」

 

 ヒューペリオンが放った光り輝く弾丸にタケナミカタは無造作に腕を振るい、なんとそれを明後日の方向へと弾き飛ばしてしまう。

 

「ぬるい!」

「そこだ!」

「そこぉっ!」

 

 体勢の崩れたタケナミカタに、克哉と舞耶が同時に銃口を向け、トリガーを引いた。

 情け容赦ない銃撃が立て続けにタケナミカタの体に突き刺さる。

 

「ぐぅ……!」

「のこってないで、逝きなさい!」

 

 たまきも自らの銃を抜くと、タケナミカタの頭部に狙いを定める。

 

『矢返しの奉り!』

「!?」

 

 たまきがトリガーを引く寸前、オモイカネが薄明かりの障壁を作り出す。

 経験からの直感でたまきはとっさに銃口を上げる。

 しかし、一瞬反応が遅れた克哉と麻耶の放った弾丸は、光の障壁に触れると同時にベクトルを反転させ、自らを放った者へと襲い掛かった。

 

「物理反射!」

「くっ!」

 

 反射的に克哉は自らのペルソナで弾丸を防ぐが、まともに食らった麻耶の腕から血が滴り落ちる。

 

「天野君!」

「麻耶さん!」

「大丈夫……これくらいならすぐ癒せるし」

「それはどうかな、『静寂(シジマ)の呪法(しゅほう)!』」

 

 一瞬、オモイカネから黒い波動が放たれ、その場にいる者達を突き抜ける。

 それが通り過ぎた時、ペルソナ使い達が一斉に異変に気付いた。

 

「No!」

「しまった、魔法封じか!」

 

 ペルソナが出せなくなった事を知ったペルソナ使い達は、絶対の防御状態になった二人の神を歯噛みしながら見た。

 

「何も出来まい、そちらからは! ふんっ!」

「ああっ!?」

 

 タケナミカタが障壁の中から張り手を突き出すと、そこから放たれた衝撃波が麻耶を突き飛ばす。

 

「Miss Amano!」

「余所見してる暇なぞ無いぞ、食らえ『連ね旋風(つむじ)!』」

 

 タケナミカタの手から、連続して衝撃波が放たれる。

 その圧倒的な攻撃量に、その場にいる者達が木々諸共次々と弾き飛ばされていく。

 

「ウッ………」

「フギャン!」

「がはっ!」

「ああっ!」

「ぐふっ!」

「ふはははは、弱い、弱いのう。まるで木っ葉のようじゃ」

「ほほほほ、このままこの場で木々の肥やしにするも一興………」

 

 傷つき倒れていく者達を笑う二神の元に、ふいに何かが飛んできた。

 ゆっくりとした放物線を描いて飛んできたそれは、物理防御の障壁を超えて彼らの足元に転がった。

 

「? なんじゃこれは?」

「いかん、それは!」

 

 その転がってきた物を拾おうとしたタケナミカタを、オモイカネが止めようとする。

 しかし、タケナミカタが手を伸ばした瞬間、飛んできたその物体、安全ピンの抜かれたチャイカムTNTは爆発を起こす。

 

「な、なに!?」

「しまった! これは………!」

「物理反射は攻撃の意思を持つ物にしか反応しない、例えば爆発してない爆弾なんかには何の意味も無いんだよね…………」

 

 いの一番に吹き飛ばされて木にもたれかかっていたただしが、苦笑しながら懐から次のチャイカムTNTを取り出してピンを抜いた。

 

「という訳でホイ♪」

「させるか!」

 

 飛んできたチャイカムTNTをタケナミカタは衝撃波で吹き飛ばすが、その隙を狙って地面を転がってきた次弾が足元で炸裂する。

 

「この程度で!」

「じゃ、もっと」

 

 ただしが背中のサックから、次々と攻撃アイテムを投げていく。

 

「同じ手をそう何度も!」

 

 タケナミカタが頭上に来た小さなボンベを撃墜すると、その中から解放された液体窒素をモロに浴びてしまう。

 

「な、なんだこれは!?」

「液体窒素も知らないなんて、遅れてるな~」

「舐めるな、凡人風情が!『神凪衝(かんなぎしょう)!』」

「がふっ!」

 

 オモイカネの放った強力な衝撃波が、ただしの体を凄まじい勢いでもたれかかっていた木ごと吹き飛ばす。

 

「ただし!」

「………八雲の言う通りだな、凡人はまともに戦ったら勝てないって」

 

 重傷で身動き出来ない状態で、ただしは何気に上の方を見た。

 

「ふん、すぐに全員冥土に送って……」

「せ~のっ!」

 

 凍りついた体を強引に動かそうとしているタケナミカタの頭上から、小さな気合の声が響く。

 

「今度は何だ?」

「それっ!」

 

 何気なく頭上を見たタケナミカタは、そこに飛んでいるピクシーが真っ赤になりながら両手で抱えたミニペットボトルを振り落とすのを見た。

 

「またつまらん事を!」

 

 落ちてきたミニペットボトルを、タケナミカタは片手で振り払う。

 が、何か細工されていたのか、ミニペットボトルはタケナミカタの手に触れると同時に破砕し、中身を二神へとぶち撒けた。

 

「何だこれは、毒ではないようだが………」

「妙にすえた匂いがするが?」

「! 離れて!」

「危ない、危ないよ~!」

 

ぶちまけられた液体をいぶかしむ二神から漂ってきた匂いを嗅いだたまきが、それが何か気付いて慌てて身を伏せる。

 警告しながらピクシーもその場を離脱し、慌てて克哉の懐に潜り込んで隠れる。

 

「タイムオーバー、答えはナパームオイルでした……」

 

 何とか半身だけ起こしたただしが、懐からオイルライターを取り出し、それに火を付けてタケナミカタへと投じた。

 

「まずい!」

 

 オモイカネがなんとかライターを弾こうとするが、ナパーム弾の原料にもなる極めて気化性・燃焼性が強いオイルはライターが触れる前に着火した。

 

「ぐぎゃあああああぁぁぁぁ!」

「ごおおおぉぉぉぉぉおおぉ!」

「……神様ってよく燃えるな~」

 

 周囲を照らし出す業火を見ながら、全員が唖然と燃える二神と平然としているただしを見た。

 

「おおおおぉぉ、のおおぉぉぉ、れええええぇぇぇ!!! この程度で神を殺せるとでも!」

「思ってないよ、オレの役目は時間稼ぎだから」

「アタック!」

 

 炎に包まれ、物理反射の障壁が掻き消えてもなおこちらに向かってくるタケナミカタに、号令と共にたまきの仲魔達が一斉に襲い掛かる。

 

「じゃ、悪いけどあと頼みます」

「分かった、休んでいるといい」

 

 魔法封じが時間切れになると同時に、ペルソナ使い達は一斉に己のペルソナを発動させる。

 

「急いでいるのでな、これで終わりだ!」

「こんな小細工で、神に勝てるとでも!」

 

 襲ってきた仲魔達を薙ぎ払い、更にヒューペリオンの放った三連射の弾丸をタケナミカタは全て叩き落す。

 

「邪魔はさせぬ! 神々の世の再来の礎となれ!」

「NO Thank youですわ」

「あたしもゴメンだわ、そんなの」

『アイスブラスト!』

「がはあっ!」

 

 ガブリエルとアルテミスの放った氷結魔法が融合し、巨大な氷柱となってタケナミカタの体を貫く。

 しかし、それでもなおタケナミカタはペルソナ使い達に向けての戦意を落とそうとしなかった。

 

「こんな物で我を倒したつもりか! こんな氷なぞ砕いてしまえば…」

「砕ければな、ヒューペリオン!」『ジャスティスショット!』

『メギドラオン!』

 

 ヒューペリオンの放った光り輝く弾丸と、ピクシーの放った凝縮された魔法の光球が、重なり合うような螺旋を描きながら氷柱から逃れようともがくタケナミカタへと向かう。

 

「お、おのれえええええぇぇぇぇぇ!!!」

 

 壮絶な断末魔を咆哮しながら、タケナミカタの体が光の爆発と共に崩壊していく。

 二つの魔力が融合した爆発が、タケナミカタの体を貫いていた氷柱ごと、跡形も無く吹き飛ばした。

 

「ロンド!」

 

 息もつかせず、たまきの号令と共に仲魔達がオモイカネの周囲を包囲し、輪舞を舞うがごとく回りながら攻撃しては離れる。

 

「そのような子供だましで倒せると思うたか!」

 

 オモイカネが立て続けに衝撃波を放つが、巧みにリズムを変え、距離を変える仲魔達にただ闇雲に周囲を破壊するだけだった。

 ダーキニーの四刀とネコマタの爪がオモイカネの半ば炭化した体を切り裂き、ニュクスとパールヴァディーの魔法がサポートする。

 四体の女魔達に囚われ、オモイカネは徐々に追い詰められていく。

 

「いい気になるな、下郎!」

 

 何を思ったのか、オモイカネはダーキニーの突き出した刃に無造作に身を乗り出す。

 

「なっ……!」

『神凪衝!』

「RETURN!」

 

 己の体で相手の動きを止めたオモイカネの衝撃波がダーキニーに直撃しようとするが、とっさにGUMPのRETURNキーをたまきが押す方が早かった。

 幾分ダメージを食らいながらも、ダーキニーが光の粒子となってGUMPへと戻る。

 

「形勢逆転よの………」

「フウゥゥ!」

「くっ………」

「このままでは………」

 

 フォーメーションの崩れた仲魔達が、お互いに目配せして次の手を算段する。

 

「ジョスト!」

『! 了解!』

 

 たまきの号令と同時に、仲魔達は一度退いたかと思うと、いきなり一塊となってオモイカネに向かって突撃を開始する。

 

「馬鹿が!」

 

 あまりの密着体勢に回避も出来ないだろうと読んだオモイカネが、無造作に仲魔達へと向かって衝撃波を放った。

 

「ALL RETURN!」

 

 衝撃波が炸裂する寸前、突如として仲魔達が一斉に光の粒子と化した。

 

「!?」

 

 それが、全員同時にRETURNされたという事をオモイカネが悟った時、身を低くして仲魔の影に隠れて突撃していたたまきが、光の粒子を突っ切り、オモイカネの体に鍔元まで雷神剣を深々と突き刺した。

 

「ば、ばかなあああぁぁぁ!!」

「認めることね、あなたの負けよ!」

 

 柄を強く握り締め、全身全霊を込めてたまきがオモイカネの体を両断する。

 驚愕のまま、オモイカネの体から力は抜けていき、焦げた不定形の物体となってその場に崩れ落ちた。

 

「神様って、なんでいっつも人間ナメてるんだか…………」

「強大な力を持つが故の驕りだろう、人にも言える事だがな」

「だから、こんな貧弱な手に引っかかる…うつっ!」

「大丈夫? 今回復するから」

「手伝った分、約束のイチゴショート忘れないでね♪」

「これでこちらはMission Completeですわ」

 

 並んでいた祭壇を、エリーが手際よく解除していく。

 やがて、吹き荒れていた強風は徐々に霧散していき、ただどこか重苦しい曇天だけが空に残った。

 

 

再度 上空 業魔殿

 

「うざいんだよ!」

 

 ティーサロンの中で、圧し掛かってきたテングの口の中にソーコムピストルを突っ込んだ八雲が、ためらいなくトリガーを連射。かわしようのない弾丸がテングの口腔を通って後頭部へと貫通する。

 

「くそ、悪魔に襲われる趣味はないぞ………」

 

 力を失ってもたれかかってきたテングの体をぞんざいに押しのけ、立ち上がろうとしていた八雲は、業魔殿の揺れが無くなってきているのに気付いた。

 

「やったか」

『術式の解除に成功したそうだ。もう大丈夫だろう』

「こっちももうちょい!」

「あとはこれで最後です」

「ゴガアアアァァ!」

 

 アリサのESガンが頭を覗かせたオンモラキを撃ち落し、メアリのジャッジメント・トマホークが通路を塞いでいたヌエの頭を叩き割る。

 進入していた最後の悪魔をケルベロスが噛み殺し、ようやくサロン内に静寂が訪れた。

 

「こっちは片付いた。他に反応は?」

「無い模様です。上部デッキでの戦闘は今だ続行中ですが、レイホウ様、麻希様、ゆきの様が増援に向かわれた模様です」

「そうか」

 

 床に投げ捨てておいたストームブリンガーを拾い、損傷と残弾数をチェックした八雲はそれを再度肩へと掛けた。

 

「体勢を整え直した方がいいな、もう猶予は無いようだし…」

 

 背中のパラシュートが使えるかどうかチェックをしようとした時、突然また大きな揺れが業魔殿を襲った。

 

「何が起きた!?」

「これは?」

 

 事態を示すがごとく、八雲のGUMPは甲高い警戒音を鳴らした。

 

 

 数分前 業魔殿 上部デッキ

 

「風が……!」

「どうやら、連中上手くやってくれたようだな………」

 

 風が吹かなくなった事でようやく安定した業魔殿の上で、ペルソナ使い達は安堵の息を漏らす。

 

「おのれ……………」

「諦めの悪い旦那だな………」

「まったく、モテねえぞ、そんなじゃよ~」

 

 彼らの見る先、強力な合体魔法の直撃を食らい、片腕を失い満身創痍ながらもまだ殺気の衰えないオオテングが凄まじいまでの形相でペルソナ使い達を睨みつける。

 

「勝った気か! 今それを吹き飛ばしてやる!」

「! 気をつけろ! まだ何かするつもりのようだ!」

 

 南条の言葉を聞くまでも無く、全員が一斉に臨戦体勢を取る。

 

「疾風(はやて)よ! 旋風よ! 巻け! 吹き荒べ! 荒れ狂うがよい!!」

 

 残った左腕で高々と錫杖を掲げ、オオテングが高らかに叫び、あちこち千切れてかろうじて原型を留めているだけの翼を羽ばたかせる。

 翼が一度羽ばたくと風が吹き、二度羽ばたくと疾風となり、三度羽ばたくとそれは旋風となっていく。

 そしてそれは数秒と置かず、大竜巻へと成長していった。

 

「これぞ天狗道が奥義、《神風》」

「うわああああぁぁ!」

「んぎゃあああぁぁ!」

「おぼろげえええぇぇぇ!」

 

 大竜巻に囚われた業魔殿が、その船体を風にさらわれた木の葉のように揺らし、その余りの衝撃に船体その物が軋み始める。

 デッキ上にいた者達は、船内に逃れる事も適わず、風に巻かれ、気圧差で発生したカマイタチにその身を切り刻まれていく。

 

「セイリュウ!」『大気の壁!』

「無駄だ!」

 

 とっさに南条が張った大気の防御場も、あまりのエネルギー量の違いに一瞬にして霧散する。

 

「全て微塵となりて吹き飛ぶがいい!」

「それはごめんだわ、『リフトマ!』」

 

 荒れ狂う嵐の中に、突然無風状態の空間が出現し、吹き飛ばされる寸前だったペルソナ使い達がデッキ上に落ちる。

 

「あだっ!」

「ぶげっ!?」

「おがっ!」

 

 情けない悲鳴を上げるペルソナ使い達が、デッキ上に結界を張った人物を見上げる。

 

「この神風を防ぐとは………何者だ?」

「葛葉筆頭術士、レイ・レイホウ」

 

 三節棍を肩に回し、片手で印を組んで結界を張っているレイホウが、こちらを睨みつけるオオテングと相対する。

 

「その程度の結界で、防ぎきれると思うたか!」

 

 オオテングが扇を縦横に振るう度に風は業魔殿を揺らし、生じたカマイタチが結界を震わせる。

 

「これくらい……!」

「ならば、もろとも死ね!」

 

 オオテングが大きく扇を振り下ろす。空間が揺らいで見える程の風、いや圧力を持った空気の渦がレイホウを狙う。

 だが、誰もが恐怖するような破壊力を前にして、レイホウは小さく笑った。

 

『シャッフラー!』

「!?」

 

 レイホウは突然結界を解除すると、両手で瞬く間に印を結び、前へと突き出す。

 それと同時に、彼女を狙っていた渦はその姿をそのままに一枚の大きなカードへと変じた。

 

「封印術………!」

 

 オオテングがその術の正体に気付いた時には、その体も一枚のカードへと変じていく途中だった。

 

「今よ!」

「カーリー!」「ヴェルザンディ!」

『始原の炎!』

 

 デッキの入り口でタイミングを待っていた麻希とゆきのの二人が同時にペルソナを発動、カーリーの放った超高熱のミサイルをヴェルザンディの青い炎が覆い、熔けあってあらゆる物を焼き尽くす極限までの高温を持った剛炎がカードを瞬時に焼き尽くし、消滅させた。

 

「一丁あがり、と」

「スゲ…………」

「みんなが頑張ってくれたお陰よ、抵抗が強いと封じられてくれない術だから」

「大丈夫!? 今回復させるから集まって!」

「だ~れか~……」

「誰か手貸しておくれ、稲葉の奴があそこで逆さ吊りになってやがる」

「なんつう強運………」

「下の状況は? 装備の補充もせねばならん」

『葛葉の者達が頑張っているようだ、大分沈静化してきておる』

「だが、ボスをやらなきゃ、どうしようもねえ………」

「これで前座かよ………」

「アタシ達も早く下に降りないと!舞 耶や克哉さん達は大丈夫!?」

「落ち着いて、まずは体勢を整えるのが先よ」

『そういう事だ。じゃ、お先に』

「え?」

 

 通信から響いてきた八雲の声に訝しげに下を見た者達の目に、業魔殿から飛び降りる三つの人影が見えた。

 

「行動早~………」

「またあいつは勝手に………」

 

 大きく開いた三つのパラシュートを呆れた顔で見つつ、レイホウも回復に回る。

 すでに、太陽は中天を回ろうとしていた…………

 

 

 落ち続ける糸の前に、幾多の壁が立ちはだかる。

 それらの壁を打ち破り、それでもなお糸を掴もうと手は力強く差し出される。

 だが、糸はまだ掴まれてはいない…………

 

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