女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART9 PRESENTATION(後編)

 

 神話において、八つの山と八つの谷を跨いだとされる体が、実体化して大地を鳴動させる。

 ホオズキがごとくとも称される血走った紅い瞳が、山頂でこちらを呆然と見ている者達を捕らえた。

 人間どころか軽自動車でも一口で飲み込めそうな巨大な口からは、割れた細い舌が艶かしく蠢いている。

 

「お、大きい………」

「マジかよ…………」

「クソ、最後の最後でとんでもないイカサマかましやがって…………」

「どうする?」

「どうするもこうするも、考えられる最悪のパターンになっただけだ。やる事は変わらねえだろ」

「……そうだな」

 

 愕然とする皆を差し置いて、八雲が布都御魂を手に取り、克哉がチューインソウルをかみながらヒューペリオンを呼び出す。

 

「神を相手にするのは初めてじゃない」

「奇遇だな、オレもだ」

「じゃあ、やるか」

「ああ、相手が神だろうか大蛇だろうが…」

『倒すまでだ!』

 

 ヒューペリオンの放った光の弾丸が、大蛇の顔面の一つに炸裂する。

 

<big>「シュゴオオオオォォ!!」</big>

 

 鎌首の一つがたじろいた隙を突いて、八雲がその首の胴に布都御魂を叩きつけるように振り下ろす。

 噴き出した血飛沫が八雲を染め上げる中、大蛇は更なる絶叫を上げた。

 

「効いてる!」

「は、実体化した分、攻撃も当たるようになった訳だ!神話通り首一本ずつ…」

「お兄ちゃん!」

「八雲様!」

 

 続けて布都御魂を振り被った八雲の体が、横から迫ってきた別の鎌首に弾き飛ばされる。

 

「がはっ!」

「八雲!」

「この野郎!」

 

 ただしが残った僅かな攻撃アイテム全てを投げ付け、鎌首の一つにぶつけて爆発させるが、爆風の中から無傷の鱗が現れただけだった。

 

「うっ………」

「ただし、その人連れて逃げて!一般人のアンタじゃこいつの相手は無理よ!」

「で、でもたまき………」

「いいからとっとと行け!!」

「は、はいぃ!」

 

 未だ意識を失っている生贄の女性を背負い、ただしが猛烈な勢いで登山道を下っていく。

 それを横目で見ながら、たまきは雷神剣を構える。

 

「と言った物の、ちょっとキツイかも………」

「頑張って!みんなが今急いでこっちに来てる!」

「例え相手がどれだけ大きかろうと、これだけの精鋭が揃えば……」

 

 ヒューペリオンで絶え間なく攻撃を続ける克哉に向かって、鎌首の一つが大きく口を広げる。

 その咽喉の奥から、何か轟音のような物が響いてくる事に気付いた克哉が慌てて横へと飛ぶ。

 克哉の足先を、鎌首の一つが吐き出した膨大な量の土砂混じりの激流がかすめ、そのまま軌道上の木々を根こそぎ薙ぎ払い、山を穿ち、地形までをも変えていく。

 

「何だこれは!?」

「こいつ、土石流を吐いてくるのか!」

「No!あんな物食らったら一撃でDeadですわ!」

「!また来るよ!」

 

 他の鎌首からも轟音が響いてきているのを気付いたピクシーが叫ぶ。

 しかし、八つの鎌首全てがこちらを狙い、逃げ場は一切無い。

 

「くそっ!持ってくれ!」

 

 八雲がありったけの物反鏡と魔反鏡を向けようとした時、突然飛来した何かが鎌首に命中し、大爆発を起こす。

 

「砲撃!?」

「どこから!?」

「克哉さん!あれ!!」

 

 登山道から、大きな機動音と共に巨大な鉄の箱に手足を付けたような異形の二足歩行戦車、X―1が登ってくるのを見た克哉の目が驚愕で大きく見開かれる。

 

『待たせたな八雲!ご注文の品到着だぜ!』

「遅いぞシックス!」

『無理言うなよ、昨夜から店長と徹夜で無理やり起動状態まで持ってったんだぜ?レンタル料ボるからな!』

 

 X―1のスピーカーから搭乗しているシックスの声が響く。

 それから味方だと判断したペルソナ使い達がそちらに向けていた緊張を解いた。

 

「レンタル料は領収書付けてマダムに経費で請求してくれ!出前を早く!」

『それ!こいつだ!』

 

 X―1のハッチが開き、そこから長大な電磁レールバレルを持ったレールガンが投じられる。

 

『ビデオ・マッスル2の待望の最新作だぜぇ!大事に使えよ!』

「言ってる場合か!来るぞ!」

 

 再度土石流を吐こうとする鎌首の群れに、シックスは手早く火器管制を制御して狙いを付ける。

 

『このX―1C(カスタム)をなめるなよ!FIRE!』

 

 X―1Cの両腕のM249MINIMI機関銃が、背中の81mm迫撃砲L16が、両脇の増加ウエポンパックの対戦車用TOWミサイルが一斉に放たれる。

 壮絶な轟音とも取れる無数の銃声と砲声、爆音を響かせ、放たれた火器が次々と八又ノ大蛇に炸裂する。

 

『おっと、やり過ぎちまったかな?』

「いいえ」

「全くそんな事はないな…………」

 

 ペルソナの反応が全く衰えていないのに気付いているペルソナ使い達が、信じられない物を見る目で大蛇を見る。

 壮絶な爆発の中から、わずかに負傷した鎌首が憤怒の表情でX―1Cを狙って飛び出してきた。

 

『んげ!?』

「馬鹿避けろ!」

 

 とっさの回避行動が遅れたX―1Cが巨大な顎(あざと)に飲み込まれそうになった瞬間、横合いから飛び出したたまきの雷神剣とエリーのレイピアが大蛇の目を貫く。

 

「うわっ……」

「No!」

 

 目を貫かれた大蛇が咆哮を上げつつ、二人をぶら下げたまま鎌首を振り回す。

 

「まずい!」

「反対側を狙うんだ!ヒューペリオン!」『ジャスティスショット!』

『メギドラオン!』

 

 レールガンから放たれた超高速弾と、光り輝く弾丸、魔法の光球が炸裂し、一時的に動きが止まった瞬間に二人は同時に剣を目から引き抜く。

 

「お願い!」

「心得ました!」

 

 落下する二人の体を、たまきの仲魔達が受け止める。

 

「他の連中が来るまで持ち堪えろ!八又も相手にしてられねえ!」

「じゃあ一本こっちで受け持つぜ」

「そうね」

<big>『Black Howl!』</big>

 

 疾風で加速された超高速の闇の弾丸が、鎌首の一つに炸裂する。

 

「パオフゥ!」

「うらら!」

「Yukino!Makiも!」

「間に合ったみてえだな………」

「それはどうかしら?改めて見るとスンゴイんだけど………」

「倒しちまえばおんなじさ、カーリー!」

「行くわよヴェルザンディ!」

<big>『始原の炎!』</big>

 

 駄目押しとばかりにあらゆる物を焼き尽くす極限の剛炎が鎌首に叩き付けられる。

 鱗と肉が焼ける異臭をあげながら鎌首が焼け焦げ、大きな咆哮を上げる。

 だが、別の二つの鎌首が即座にこちらを狙って迫る。

 

<big>『ウルトラハイパーグレードデリシャスワンダホーデラックスゴールデンラッシュ!』</big>

<big>『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!』『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄!』</big>

「パスカル!」

「ゴガアアァァ!」

『マハ・サイオ!』

『ジオンガ!』

 

 鎌首の片方に魔法の紐が結びつき、そこにすさまじいまでのパンチとキックのラッシュが叩き込まれ、もう片方には魔獣の吐く業火と衝撃魔法、電撃魔法が炸裂する。

 

「間近で見ると随分とでけえな、オイ!」

「USAじゃこれくらいレギュラーサイズだったぜ!」

「小次郎君はサポート!咲ちゃんは負傷者の治療に当たって!八雲は査定覚悟しなさい!」

「了解!」

「分かりました!」

「なんでオレだけ!」

 

 八雲の意見を完全に無視しつつ、レイホウが眼前の“神”と相対する。

 

「正真正銘、上位神格の完全召喚………最悪のパターンね」

「葛葉にこのような場合の対処法は?」

「巨神相手にマトモに闘う馬鹿はいないわ、普通はね」

「いるぜ、ここにいっぱいな」

「確かに」

 

 レイホウの言葉を裏切るがごとく、レイジと南条が自らのペルソナを呼び出す。

 

「これが本当に神話通りの存在なら、それになぞらえて倒すのみ!撃て!」

『了解!』

 

 上空を飛来した大型ヘリが、偽装されたミサイルポッドから大型ミサイルを連続して発射する。

 目標寸前で近接信管が発動して爆発したミサイルから、無数の飛沫が八又ノ大蛇へと降りかかる。

 

「これは!?」

「酒か!」

 

 辺り一帯に満ちていくアルコール臭に、何人かが慌てて口と鼻を塞ぐ。

 

「さて、こいつで効いてくれれば………」

 

 八雲の呟きを否定するように、三つのCOMPから同時に警告音が鳴り響く。

 

「!逃げて!」

「回避だ!」

「えっ……!」

 

 たまきの絶叫と、南条の指示でヘリの操縦桿を握っていたユミは慌てて機体を逸らす。

 大蛇の口全てから一斉に激流が放たれ、大気中の酒を洗い流しつつ、圧倒的な質量をもった水が全員に襲い掛かってくる。

 

『!!』

「守れラーマ!」

『大地の壁!』

 

 膨大な水が皆を押し潰す寸前、突如として周辺の地面が盛り上がり、巨大な壁となって水を押し返す。

 

「これは………」

「何やってやがるんだ、雁首そろえててこずりやがって」

「キョウジ!」

「キョウジさん!」

「あの人まで来てたのか………」

 

 皆の背後、白のスラックススーツの男―葛葉筆頭の最強サマナー、葛葉キョウジが呆れ顔で苦戦している後輩達を見た。

 

「馬鹿丁寧に神話になぞらえる必要は無え、ようは倒せばいいんだよ」

「そう言っても、オレ達の仲魔はあんた程強くないんだが………」

 

 キョウジに付き従う仲魔、破壊神 シヴァ、インド叙事詩ラーマヤーナの主人公で半神とされるヴィシュヌの化身・英雄 ラーマ、その目が昼夜を司るとされる中国神話の龍神 ショクイン、エジプト神話の大気の神とされる魔王 シュウ、どれもが八雲やたまきの仲魔とは比べ物にならない程ハイレベルの悪魔達だった。

 

「仲魔の強さだけが戦いを決める訳じゃねえ、押して駄目なら引いてみろ」

「そういう手もありでしょうね、アメン・ラー!」『集雷撃!』

 

 大蛇の右端の鎌首に、横から強力な雷撃が炸裂する。

 雷撃を放った人物へと視線を向けたエミルンOBペルソナ使い達が破願する。

 

「藤堂!」

「Nao!」

「藤堂君!」

「お久しぶり、話はあとで」

 

 微笑を浮かべながらエミルンペルソナ使いの元リーダー、藤堂 尚也はペルソナの攻撃の手を休めようとしない。

 

「何人かでチームになって、首を一本ずつ相手するんだ。そうすればこいつの攻撃力は八分の一で戦える」

「その通りだ、やっちまえ!」

『オオ!』

 

 キョウジの号令と共に、彼の仲魔達が左端の鎌首へと一斉に攻撃魔法を解き放つ。

 壮絶な雷撃や衝撃、魔力などがまとめて吹き荒れ、鎌首が大きく揺れる。

 しかし、そこで隣の鎌首がキョウジへと向かってきた。

 

「レイ!頼むぞ!」

「任せて!行くわよ小次郎君!咲ちゃん!」

「は、はい!」

「行きます!」

「お手伝いしますわ、ガブリエル!」

「行きな!カーリー!」

<big>『Saint’s mother audience(聖母拝謁)!』</big>

 

 三節棍を構えるレイホウの両脇で、サマナーの少年と術者の少女がベレッタM92とMP5マシンガンを襲ってくる鎌首へと向けて乱射する。

 それを弾きつつ迫る鎌首を、2つのペルソナの前に生まれた光の十字架を中心とした慈愛の光で形勢された壁が阻んで拮抗する。

 

「じゃあこっちはオレ達で!ビシャモンテン!」

「アレやるぜナオ!ティール!」

「ああ!味あわせてやろう、ペルソナの恐ろしさを!」

 

 アメン・ラーの生み出した純白の光に、ビシャモンテンの雷撃とティールの衝撃波が融合され、太陽を思わせん限りの閃光の塊へと変じていく。

<big> 『煌陽投射(おうようとうしゃ)!』</big>

 

 光り輝く巨大な光球が、大気までをも燃やしつつうねりくねって鎌首へと迫る。

 絶叫すらもかき消され、すさまじいエネルギーの奔流が鎌首の一つを焼いていく。

 

「行けえぇ!」

「いや!」

 

 決まるかと思った瞬間、隣の鎌首が自らを焼きながらも、光球を横から弾き飛ばす。

 上半分を焼き、片目を焼け爛れさせながらも、紅い瞳がこちらを見る。

 

「個別の攻撃ではダメだ。防がれるか、弾かれてしまう!」

「八本全部を相手にしろってか………モト!」『ウルバーン!』

 

 ペルソナの力で人狼と化したレイジが、鎌首の一つに突撃をかける。

 

「総員、出撃体勢は!?」

『完了しました!』

『いつでも行けるぜアニキ!』

「全機出撃!目標、八又ノ大蛇!」

『了解!!』

 

 南条の命令の元、六機のXX―1が次々とヘリから射出される。

 

「助太刀致します!」

「くたばりやがれ!」

 

 純白の《weis》機と漆黒の《schwarz》機がレイジの援護について鎌首への攻撃を始める。

 人狼の爪が鎌首の鱗を抉り、大型ライフル弾が穿ち、槍がその身を貫くが、巨大な鎌首には大したダメージにもならない。

 

「効かぬか、ならば行くぞヤマオカ!」『ガーディアンハンマー!』

 

 南条が大上段から振り下ろした刀に、ヤマオカの雷撃が直撃し、雷気を伴った大斬撃が鎌首を大きく斬り裂く。

 

「これぞ南条一刀流最終奥義、紫電一文字斬り!」

「さすがアニキ!」

「何してんの、こっちも来るわよ!」

 

《blau》機に怒鳴りつけながら、《rosa》機が迫り来る別の巨大な口腔へと向かって構える。

 

「激氣(ケッヘイ)!来なさい!」

「ホオォォウッ!」

 

 こちらを飲み込まんとする口腔内へと向けてM134ガトリングが乱射されるが、勢いは一切衰えない。

 

「くっ………」

「アルテミス!」『クレセントミラー!』

「!ハイッ!」

 

 上空から飛来した月光が、鎌首を打ち据えた隙を狙って、《rosa》機の蹴りが突き上げられ、開いていた口が強引に閉じられ、そのまま打ち上げられる。

 

「真正面からは無理よ、ちょっとずらしてやるのがコツね」

「あ、ありがとう…………」

「フッ………!」

 

 舞耶と《rosa》機の攻撃で崩れた体勢を立て直そうとした鎌首に、突然無数のニードルが突き刺さり、その針がバラのようなスパークを散らした瞬間、爆発する。

 

「何あれ?」

「“ローズ・トゥーン”って言うニードルガンだそうです。内部に封入してあるエネルギーが着弾と同時に放出、爆発するとかどうとか…………」

 

 舞耶の背後に降り立ったエメラルドグリーンの《Grün》機から響いた少し気弱そうな声が機体の両手にセットされたニードルガンを構えながら説明する。

 

「あ、僕は橿原 淳って言います。よろしく」

「ええ!?ひょっとして橿原先輩!?」

「?ひょっとして三科君?番長やってた………」

「自己紹介はあと!チョメチョメタイムの最中よ!」

 

 舞耶の指摘と同時に、三機は同時に構える。

 

「奇遇っすね。先輩もこれに選ばれるなんて………」

「そうかな?何か前にもどこかで………」

「ホオォー!」

 

 言葉の途中で、リサの声に我に返った二機は同時に攻撃を開始した。

 

 

「ミギャァッ!」

「ガフッ…………」

「ネコマタ!ニュクス!」

 

 攻撃を仕掛けた仲魔が相手のあまりの巨大さになす術もなく弾き飛ばされ、たまきは思わず声を上げる。

 

「パールヴァディ、回復に回って!ダーキニーも一度下がって…」

 

 指示を出している途中で、仲魔達を弾き飛ばした鎌首がこちらに向かってくるのに気付いたたまきは、半ば弾き飛ばされながらもなんとか雷神剣でそれを受け流しつつ、横に転がって直撃を避ける。

 

「う、痛………」

「こっちへ!」

 

 ダーキニーに手を引かれて再度の攻撃から逃れたたまきが立ち上がって雷神剣を構えようとする。

 しかし、これまでの戦闘で数度の直撃を食らった刀身は、先程の攻撃で限界に達していたのか半ばから折れて地面へと落ちた。

 

「……予備の剣用意しとくんだった」

「有るぜこっちに!」

 

 八雲の声と同時に、長大な布都御魂が彼女の元に飛んでくる。

 

「借りるわよ!」

「お構いなく!」

 

 レールガンを連射している八雲に礼を述べつつ、たまきが布都御魂を構える。

 再度たまきに狙いを定めた鎌首に、上空を飛来するヘリが銃撃を加えて牽制をかける。

 

『援護するぜ、たまき!』

「ユミ!?あんた何で……」

 

 ヘリの外部用スピーカーから聞こえてきたかつてのパートナーの声にたまきが驚くが、銃撃にもだえながら鎌首がヘリへと襲い掛かろうとしているの見ると同時に驚愕を瞬時に思考の隅に退けて布都御魂を振り下ろす。

 

<big>「シュゴオォォ!」</big>

「うるさい!黙って倒されなさい!」

 

 その身を大きく斬り裂かれた鎌首が絶叫を上げるのも構わず、たまきは振り下げた布都御魂を構え直し、野球のバッターのような構えから思いっきり横薙ぎにスイングする。

 

「行けぇ!」

 

 しかし渾身の力を込めて振り被られた布都御魂の刃は、刀身が多少埋没した所で屈強な筋肉で阻まれる。

 

「うっ!?」

「危ない!アステリア!」『ツィンクルネビュラ!』

 

 真上からたまきを飲み込もうとしてた鎌首を、旋風が弾き飛ばす。

 

「あれで致命傷になってない!?」

「つくづく頑丈な蛇だぜ、手っ取り早く行くぜ!」

<big>『Black Howl』</big>

「こっちも行くよ!」

「OKユミちゃん!」

 

 旋風で超加速された漆黒の弾丸と、ヘリから発射された対戦車ミサイルが同時に鎌首へと炸裂した。

 

 

「八雲さん!」

「……来ちまったか」

 

 パラシュートでヘリから降りてきたカチーヤの姿を認めた八雲が、苦い顔で彼女を見る。

 

「すいません、遅れました!」

「約束してた覚えはないぞ……」

「八雲さんがあんな事するからです!」

「後だ!システムは完成してるのか?」

「はい!あとは起動コマンドを八雲さんに入力してもらえって………」

「そうか……」

 

 肩越しに構えたレールガンを的確に連射しつつ、八雲は複雑な顔でカチーヤの体に取り付けられた二つのエレメント・クリプトチップが内蔵されたデバイスを見る。

 

「今ならやめられるぞ」

「やります!」

 

 空碧双月を手に、カチーヤが戦闘態勢を取るのを見た八雲は数瞬迷ったが、やがて決意する。

 

「起動コマンド《Wake up,a Black Witch》、デバイスコネクト、セットアップ。《NEMISSA》システム、起動!」

 

 八雲のボイスコマンドが入力されると、カチーヤが身に付けた《NEMISSA》システムが起動、カチーヤの魔力を取り込んでそれを外部防護フィールドへと一部変換して常時消費状態を確保しつつ、両手に嵌められたエクスポート・グローブのエミッション・オーブへと伝達されていく。

 

「それは?」

「オレが設計したソウル磨耗防護用の常時魔力放出システムだ!シュミレーションが正しければ、これを使ってる限り力の暴走は起こらない!」

「来ます!」

 

 メアリの一言で、克哉と八雲は正面へと向き直る。

 どうやっても分散不可能な中央の鎌首二本が、同時に襲い掛かってくるのをそれぞれ左右へと飛んで避ける。

 

『ブフーラ!』

 

 避けながらもカチーヤが氷結魔法を放つ。それと同時にエミッション・オーブが白く輝き、周辺の大気を氷結させながら進む強力な氷結魔法が鎌首へと炸裂する。

 

「す、すごい………」

「それが《NEMISSA》システムの効果だ。ソウルを磨耗させる程の大技が出せないよう、常時魔力を吸収してチャージさせる。効きすぎる事も有り得るから注意しろ」

「はい!」

 

 強く返答しながら、カチーヤが再度氷結魔法を放とうとするが、回り込んできたもう一つの鎌首が背後からカチーヤを狙う。

 

「ヒューペリオン!」『ジャスティスショット!』

『食らいやがれ!』

 

 光り輝く弾丸とX―1Cの銃撃が鎌首の眉間に突き刺さり、絶叫を上げて鎌首は怯む。

 

『冗~談、鉄鋼炸裂弾だぜ?なんで死なねえんだ?』

「常識で闘える相手だったら苦労しねえよ、カーリーとオベロンはそっちの相手を!ケルベロスはこっち、ジャンヌはサポートに徹しろ!」

「分かったよ!」

「分かり申した」

「ガルルル!」

「心得ました!」

 

 仲魔達に指示を与えつつ、八雲はレールガンを再度構える。

 

「くそ、効いてやがるのか?」

「少しは効いておるようです」

「こっちはダメみたい………」

 

 刃が半分しか残ってないデューク・サイズを構えるメアリと、ESガンを連射しつつもそれがほとんど効いてないのに気付いているアリサが八雲の左右に立つ。

 

「ESガンの精霊弾程度じゃ神格相手は無理か………メアリ、アリサ、戦闘不可能になったら迷わず退けよ」

「退ける状況ではないと思いますが」

「退かない!」

 

 傷は回復させたが足元がふらついているメアリと、生まれて初めて出会う強敵の前に足がかすかに震えているアリサが、それでもなお闘おうと前へと進む。

 

「お前らに何かあったらオレがヴィクトルのおっさんに殺されそうなんでな。下がってサポートに当たってくれ」

「しかし……」

「でも!」

「オレを信じろ!勝機は必ず有るはずだ!お前達はそれを見つける手助けをしてくれればいい!」

「……分かりました、八雲様」

「了解、お兄ちゃん!」

「来ます!『マハ・ブフ!』」

「ヒューペリオン!」『ヒートカイザー!』

 

 左右から同時に襲ってくる鎌首に、周辺の大地までも凍らせる冷気と、超高温の熱波がそれらを迎え撃つ。

 

「くそ、かっこつけてる暇も無しか!」

「来たよ!」

 

 ピクシーの指摘通り、片方の鎌首は冷気でその動きを一時的に封じられたが、もう片方は熱波を突破してその巨大な口腔を開く。

 

「ヒュー…」

「セィッ!」

 

 ペルソナで更なる追撃を加えようとした克哉の前に、真紅のXX―1《Rot》機が進み出ると手にした大剣を振り下ろす。

 振り下ろされた大剣はその重量とXX―1のパワーと相まって、鎌首の目尻あたりを深く切り裂いた。

 

「シュウウゥゥ………」

「来い!」

 

 噴き出した血で片目を染める鎌首に、《Rot》機は大剣を構え直す。

 同時に、剣の表面に走る急性温度変換素子のラインにエネルギーが送り込まれ、超高温のヒートブレードと化した大剣の周囲が陽炎を上げ始めた。

 

「兄さんは、オレが守る!」

「!?達哉、達哉が乗っているのか!」

「知り合いか?」

「弟だ!だがなぜここに!」

「説明は後だ兄さん!」

 

 八雲と克哉の言葉もそこそこに、再度うねり来る鎌首に皆が左右へと散る。

 

「しぶとすぎるんだよ!」

 

 八雲が連射するレールガンの弾丸が、鎌首に突き刺さって弾痕を穿っていくが、相手との圧倒的な質量差がそれを致命傷へとは至らせない。

 

「燃えろ!」

「アアァァ!」

『トリプルダウン!』

 

《Rot》機のヒートブレードとカーリーの六刀が左右から鎌首の胴体を斬り裂き、そこに克哉がヒューペリオンの三連射を撃ち込む。

 

「行かせません!」

「あなたの相手は私達です」

「やらせないんだから!」

 

 カチーヤとメアリが注意を八雲から逸らさせるべく頭部へと向けて攻撃を繰り返し、アリサがESガンの唯一効くポイント、眼球を精霊弾で狙い撃つ。

 

<big>「シュゴオオォォ………」</big>

「何だ?」

 

 八雲達が相手した鎌首が突然上を向くと、高く鳴いた。

 すると、周辺の人、悪魔、植物や大地と言った辺りにある物すべてから光の粒子がこぼれ落ち始め、鎌首の口へと吸い込まれていく。

 

「攻撃か!?」

「違う!こいつ生体マグネタイトを直接吸い取ってやがる!!」

 

 GUMPから送られてくるデータから信じられない現実を見た八雲が叫ぶ中、全ての鎌首の傷が癒えていく。

 

「う………」

「姉さ……あ………」

「グルルル………」

「力が…………」

「これは………」

 

 メアリやアリサを始めとして、存在するためにマグネタイトが不可欠な仲魔達が次々と力を奪われ、ヒザをついていく。

 

「このままじゃまずいわよ!」

「皆であれを狙え!」

 

 事態に気付いたペルソナ使い達が中心となって、マグネタイトを吸い続ける鎌首に一斉に攻撃を集中させる。

 

「このゲテモノ食いが!」

「頭じゃない!首元を狙え!」

「了解!」

「そこね!」

 

 キョウジの指示で八雲がレールガンを首の根元に連射し、たまきがその弾痕目掛けて布都御魂を突き刺す。

 

「こちらも続け!」

「くたばりやがれ!」

「ハイッッ!」

 

 たまきに続いて《Rot》機のヒートブレードと《schwarz》機の槍、カチーヤの空碧双月が突き立てられ、傷口から膨大な血が吹き上げる。

 

「せぇの!!」

 

 たまきの号令と同時に、四つの刃が一斉に横へと引かれ、鎌首を半ばまで一気に切り裂かれる。

 

「レッツ・エブリバデ!」

「そこです!」

「ハァッ……!」

 

《blau》機、《weis》機、《Grün》機の銃撃が傷口を広げ、鎌首が絶叫と共に根元から大きく揺らぐ。

 

「ヤァアーッ!」

 

 トドメとばかりに《rosa》機の飛び蹴りが炸裂し、勢いで千切れる形となって首の一つが千切れ飛び、地響きを立てて地面へと落ちた。

 

「やった!」

「まだ7つも残ってやがるぞ、安心すんじゃねえ!」

 

 キョウジの激が示す通り、一本の鎌首への攻撃に気を取られていた者達に他の七本が一斉に反撃に移った。

 

「うわあっ!」

「キャアァ!」

「ぎゃふっ!」

「No!」

「くそったれ!」

 

 飲み込まれかかりそうになるのをからくも逃れた者達が、鎌首の胴体に弾き飛ばされ、負傷していく。

 

「なめるなよ!」

 

 端の一本の攻撃から逃れたキョウジが、その頭部へと飛び移ると手にした七枝刀を脳天へと突き刺す。

 

「キョウジ!」

「ち、おとなしくくたばれ!」

 

 キョウジを振り落とそうと暴れる鎌首に、キョウジは振り落とされまいと七枝刀の柄を強く握り締める。

 

「構うな、やれ!」

『オオオォォ!』

 

 キョウジの仲魔達が、一斉にキョウジを振り落とそうとする鎌首に攻撃を開始する。

 ラーマの曲刀が鎌首に突き刺さり、シュウの剣が霞みとなって斬り裂く。

 

『マハジオンガ!』

『ブレインバースト!』

 

 シヴァの雷撃が鎌首の胴体をくまなく走り、ショクインの無数の魔法弾が炸裂する。

 

「すごいな………」

「オレらなんかとは仲魔のレベルがまるで違うからな」

 

 圧倒的な強さを見せるキョウジとその仲魔の戦いに他の者達が一瞬我を忘れるが、響いてきた轟音に我に帰る。

 

「まずい、また吐いてくるぞ!」

「させるかぁ!」

 

 土石流を吐こうとしている鎌首の真下へと八雲は向かうと、背中から寝転びちょうど真上にある鎌首の下あごへと狙いを定める。

 

「てめえで飲み込みやがれ!」

 

 そのままの状態で八雲は立て続けにレールガンを連射、連続しての高速弾の連撃に、顎を突き上げられる形で強引に土石流の放射を中断させる。

 

「そのネタもらい!ティール!」『洩光倶梨伽羅蹴(えいこうくりからげり)!』

「スサノオ!」『神等去出八百万撃(からさでやおろずうち)!』

 

 ティールの蹴りとスサノオの鉄拳が開かれていた顎をかち上げ、吐きかけていた土石流を明後日の方へと逸らす。

 

「吐こうとした時の顎が弱点か!」

「狙えればの話だ!肉弾系のペルソナでもない限り無理だ!」

「だめ、来る……!」

 

 他のペルソナ使い達も同様の手段を用いようとするが、間に合わずに残った鎌首から土石流と水流が吐き出される。

 吐き出された土石流と水流はお互いが混ざり、山その物を覆うような“質量”となって迫ってくる。

 

「Yukino!」

「間に合え!」

<big>『Saint’s mother audience!』</big>

 

 慈愛の光の障壁が大型のバリアーとなって圧倒的な大質量を阻むが、誰の目から見てもそれほど持たないのは目に見えていた。

 

「く……」

「No………」

「黛、桐島、しばし持たせてくれ!」

「こうなったら吹き飛ばしてやる!」

「こっちもだ!」

「おうよ!」

<big>『煌陽投射!』</big>

<big>『トリニティー・ロンド!』 </big>

 

 うねりを上げて飛ぶ強大な光球と、光と闇の弾丸を伴った旋風が光の障壁を貫き、その向こうにあった質量を軒並み吹き飛ばす。

 だが、その向こうから都合六つの大顎が迫っていた。

 

「プラフ!?」

「逃げろ!」

「おわあぁ!」

「きゃぁ!」

「ちぃっ!」

 

 上空から“降ってくる”という表現が正しいような勢いで巨大な口腔が迫る。

 皆が慌てて回避するが、それはお構いなしに地面へと喰らい付いた。

 

「あ………」

「アリサ!」

 

 一瞬反応が遅れたアリサが飲み込まれそうになる寸前、八雲が彼女を突き飛ばす。

 

「お兄ちゃん!」

「八雲様!」

「八雲さん!」

「このっ………」

 

 巨大な顎に捕らえられた八雲がもがく中、彼の体を咥えた鎌首がそのまま上へと上がっていく。

 

「オイ!誰か食われてるぞ!」

「助けるんだ!」

「来るな!」

 

 助けを拒んだ八雲は、ジャケットの下に着込んでいた物に付いていたピンを掴むと、一気に安全帯を引き抜く。

 瞬間、彼を咥えていた顎が爆発を起こす。

 

「まさか、自爆!?」

「八雲さん!!!」

「がはっ!」

 

 爆発のショックで捕らえれていた顎から吹き飛んだ八雲が、受身も取れずに地面へと落ちる。

 

「へ、ざまあみやがれ…………」

「喋らないで下さい召喚士殿!」

「今回復させます!」

 

 ジャンヌ・ダルクとカチーヤが慌てて駆け寄り、八雲に回復魔法を掛ける。

 

「八雲!てめえアレを使いやがったのか!」

「おう、思ってたより威力弱かったな………不良品か?」

「生身でリアクティブ・アーマー使う馬鹿がいるか!指向性爆薬でもダメージはモロに食らうってオレ説明したよな!?」

「リアクティブ・アーマーだと?てめえ、正気か!」

 

“リアクティブ・アーマー”、本来は戦車等の装甲に用いられる爆薬装甲、攻撃が命中した瞬間に対爆発を起こす事によって攻撃を防ぐ代物を生身で使った事にシックスとパオフゥは絶句する。

 

「正気?そんな物持ってたら神と戦おうなんて思わないだろうな………」

 

 なんとか回復した体で八雲は立ち上がると、手早くGUMPとレールガン、背のストームブリンガーの状態をチェックする。

 

「よし、いけるな」

「無理です!その体じゃ………」

「人手が足りないんだ、動けりゃ猫の手よりはマシさ」

「………よくない」

 

 カチーヤの制止を振り切ってレールガンを構えようとする八雲の肩を、アリサが掴む。

 

「私が、あいつを倒す!!」

「無理言うな、お前のレベルじゃとても……」

「出来るもん!タイタニア・キャノン、発動承認!」

 

 アリサがエプロンの裏ポケットに入れておいた“葛葉目付け役承認”と刻まれた黄金のキーを取り出すと、それを腕のスロットに入れる。

 それと同時に上空の業魔殿へと発動承認シグナルが放たれ、それを受理した業魔殿から一つのコンテナが射出された。

 射出されたコンテナは程なくシグナルの発信点へと到着し、地面を削りながら着地する。

 

「何だぁ!?」

「こいつは………」

「キャノン・コネクト!」

 

 アリサのボイスコマンドに応じて、コンテナ外装の爆発ボルトが作動、外装をバージする。

 中から現れたのは巨大なユニット部を持つ割には小さな口径を持った“砲塔”だった。

 ユニット部には白、赤、青、茶の輝きを持つカートリッジが飛び出しており、その中には風、火、水、土の四種の精霊が無数に封じ込まれていた。

 

「イグニッション!」

 

 砲塔のユニット部に開いているデバイスポートにアリサが右腕を突っ込む。

 ポート内部で彼女の腕のスロット全てにコネクターが接続され、砲塔とアリサが一体化した。

 

「衝撃のシルフ・ブリッド!」

 

 白いカートリッジが接続され、風の精霊が無数に砲塔へとチャージされていく。

 

「灼熱のサラマンダー・ブリッド!」

 

 赤いカートリッジが接続され、火の精霊がチャージ、その力にアリサの意識が揺らいでいく。

 

「流転のウンディーネ・ブリッド!」

 

 青いカートリッジが接続、水の精霊がチャージされている途中でアリサの体が崩れそうになる。

 

「止めろアリサ!お前のソウルじゃそんな大量の精霊を御しきれない!」

「う、うUUU……」

 

 途切れがちになる意識の中、アリサはなんとか最後のカートリッジを接続させようとするが、意識と直結しているプログラムがなかなか起動させられない。

 

(私がyaらなきゃ………)

 

 大量の精霊の力を御するべくアリサが意識を集中させようとした時、誰かが彼女を抱き締めた。

 すると、ウソのように負担が減り、意識が明確になっていく。

 

「姉さん!?」

 

 アリサはメアリが自分の体を後ろから抱きしめいてるのに気付く。

 

「落ち着いてアリサ、あなたと私のソウルを共鳴させて負担を共有化させます。二人で八雲様の敵を倒しましょう」

「……うん!」

 

 自分の体を抱き締め、襲い来る負荷を自らにバイパスさせているメアリの姿を認めたアリサが、強く頷いて最後のカートリッジを接続させる。

 

「激震のノーム・ブリッド!」

 

 茶のカートリッジが接続され、砲塔内に四元の精霊の力が融合、増幅されていく。

 

「エレメントチャージャー、マックシング!メイドソウル・ダブルドライブ!」

 

 アリサの目にロジックの輝きが、メアリの目に魔力の輝きが生まれる。

 そして砲口が鎌首の一つに向けられる。

 

「ターゲット、インサイト!」

 

 アリサの目に砲塔の照準補正プログラムが

走り、表示されたサイトが異変を感じ取ってこちらに向かってくる鎌首の一つを完全に捕らえた。

 

「総員対閃光防御!」

「何それ?」

 

 八雲が叫びながら半分砕けているサングラスを下げて目をつぶる中、砲塔内から眩いばかりの閃光が漏れ始めていく。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「オイ、マジか!?」

「皆ふせるんだ!」

 

 膨れ上がっていくエネルギーに危機感を覚えた全員が地面へと伏せる中、鎌首が砲塔ごと二人を飲み込もうと迫る。

 

「行くわよ姉さん!」

「いいですよアリサ!」

「タイタニア・キャノン、FIRE!!」

 

 目前まで迫った口腔の中に向かって、アリサが発射コマンドを叫ぶ。

 砲塔から、四元全ての属性を持った純粋なエネルギーの塊が烈光となって放出される。

 烈光は鎌首の中を突き進み、その軌道周辺にある物全てを対消滅させていく。

 押し寄せるエネルギーの本流に負け、鎌首の胴が膨らんだかと思うと各所から閃光が漏れ始める。

 次の瞬間には、鎌首は内部から爆発し、木っ端微塵になって吹き飛んだ。

 

「………マジ?」

「すごい………」

「波動砲?それともグラビティ・ブラスト!?」

「SF兵器と一緒にするな、四大元素の同時発射とは無茶な物作りやがって………」

 

 余力を完全に振り絞って倒れているメイド姉妹を介抱しながら、八雲は残った鎌首を見据える。

 

「これだけやってまだ六本残ってやがるし」

「いや、五本だぜ」

 

 巨大な咆哮と共に、大蛇の脳天に深々と突き刺した七枝刀をキョウジが一気に振り抜き、頭部の上半分を両断する。

 

「吹き飛ばせ!」

 

 首を伝って滑り落ちながらのキョウジの号令と共に、仲魔達の一斉攻撃が両断された頭部に集中し、二つに割れた頭部がそれぞれ左右へと飛んだ。

 顎だけになった鎌首はそれでもしばしの間暴れまくったが、やがて力尽きて地面へと倒れる。

 

「さすが!」

「出来ればその調子で他のも………」

「悪ぃ、無理だ」

 

 降りてきたキョウジがバツの悪い顔で頬を掻く。

 彼の懐でGUMPがビープ音を立て、同時に彼の仲魔達が霧散していく。

 

「……へ?」

「キョウジ!この大事な時にマグネタイト切れ!?」

「いや、こんな長期戦になるなんて思ってなくてだな………」

 

 仲魔を物質的に具現化させるのに必須となるマグネタイトが尽きた事に気付いたサマナー達がポカンとする中、レイホウがキョウジを怒鳴りつける。

 

「……あ!?」

「そういえば!」

「こっちも時間の問題か……」

 

 二人のやりとりを見ていたサマナー達が思い出したかのように自らのCOMPをチェックし、そのマグネタイト残量の少なさを確認して愕然とする。

 

「しまった、スペアも使い果たしてる!」

「こっちもです」

「さて、どうするべきかな……」

 

 八雲は冷静に今の状態を分析する。

 激戦が続くこの状態で仲魔の召喚を解除するのは自殺行為に等しい。

 

「残る五本だ!速効で決めてやる!」

「それしかないわね………」

「まだ五本……じゃ?」

「そう考えるのはルーキーの証拠だぜ」

「そういう事」

 

 立てた指を左右に振って小次郎の意見をあっさりと無視した八雲がレールガンを構え、八雲の意見を肯定しつつたまきは布都御魂を構える。

 

「覚えておけ、相手の頭が八本だろうが百本だろうが、一本でも潰せれば」

「他のも、倒せるのよ!行くわよ皆!」

<big><big>『オオゥ!』</big> </big>

 

 八雲とたまきの背後に集った彼らの仲魔達が、一斉に咆哮を上げる。

 

「負けたくないなら着いてこいルーキー!」

「モタモタしてると置いてくわよ!スタンビート!」

『オオオォォォ!!』

 

 号令と同時に、仲魔達が一斉に鎌首の一つに猛烈な突撃を開始する。

 

「ゴガアアァ!!」

「アアアアァ!」

 

 先陣を切ったケルベロスの業火とダーキニーの四刀が鎌首を焦がし、切り裂く。

 

『ブフダイン!』

『マハブフーラ!』

「アアァァ!」

 

 パールヴァディとニュクスの氷結魔法が凍らせた部位を、カーリーの六刀が肉ごとまとめて砕いていく。

 

『マハ・ラギオン』

「フウウゥ!」

「はあっ!」

 

 オベロンの火炎魔法が焼いた鱗を、ネコマタの爪とジャンヌ・ダルクの剣が穿つ。

 

『ブフーラ!』

『マハ・サイオ!』

『ジオンガ!』

「くたばれ!!」

「食らいなさい!」

「いけえ!」

 

 術者達の一斉攻撃魔法が炸裂する中、サマナー達が一斉に得物を振るう。

 

<big>「シャアアァァ!!」</big>

「ちっ、まだダメか!?」

『どきな!』

 

 傷つき、鮮血を垂れ流しながら悶える鎌首に、上空のヘリから駄目押しのミサイルが叩き込まれる。

 

「これでどうだい!?」

「まだ動いてるよユミちゃん!もうミサイル無いよ!」

「OK、充分よユミ!」

 

 一番傷が深い場所、ミサイルが叩き込まれた傷口に、たまきが横殴りに布都御魂を叩きつけるように薙ぐ。

 

「ボルテクス界帰りは伊達じゃないわよ!」

 

 刀身が半ばまでめり込んだ所で、今度はそれを引き抜きながら遠心力を付けて反対側へと叩きつける。

 神剣の刃が、鋼のような鱗を裂き、強靭な肉を斬る。

 

「あああぁぁっ!」

 

 全身に噴き出した返り血を浴びながらもたまきは気合と共に神剣を薙ぎ、骨を割り、そして反対側の傷へと貫いた。

 鈍い音と共に鎌首は傷口から斜めにずれ、地面へと落ちて暴れる。

 

「こいつで半分!」

 

 切り落とされた鎌首の脳天に超高速弾を打ち込んで完全に絶命させた八雲は、即座に次の目標を狙う。

 だがそこで八雲のGUMPがビープ音を立てた。

 

「ちっ………」

「あ!?」

 

 マグネタイトが切れた事に八雲が舌打ちしたのと同時に、八雲の仲魔達が霧散し、GUMPへと吸い込まれていく。

 

「大丈夫か?場合によっては撤退した方がいい」

「仲魔が使えないサマナーは役立たずとでも思ってるのか?」

 

 克哉の忠告をアッサリと無視して八雲は手早くGUMPを操作して召喚プログラムを閉じる。

 

「手が足りなくなってるのは向こうも同じだ、なんとかなるだろ」

「そうとも言い切れないぞ」

「ちっ!」

「パオ!」

「ヴェルザンディ!」『ディアラマ!』

「園村、こちらも頼む!」

「まずい、ジェネレーターをやられた!」

「こっちは脚部が損傷しました!」

 

 半分になったにも関わらず、むしろ攻撃が苛烈となっていく八又ノ大蛇に対し、こちら側は負傷者が出始めていた。

 

「ちっ、二段変身しなけりゃ問題ねえ」

「そういう場合じゃないでしょ!」

 

 負傷した者達の前にキョウジとレイホウが立って七枝刀と三節棍を振るってなんとか攻撃を逸らしていく。

 

「戦闘不能になった機体は後退しろ!」

「おおおおぉぉ!」

「無理するな達哉!」

「どけその赤いの!巻き込まれっぞ!」

「もう一発行く…ちっ!」

 

 交互に吐き出される水流や土石流が、合体魔法に入ろうとするペルソナ使い達を的確に狙い、散会させてペルソナの同調を防ぐ。

 

「さっきから戦い方が変わってきている。こちらの手を確実に読んできているな………」

「蛇風情が高度な真似しやがって………」

「攻撃魔法も根元なんかには当たらないように動くようになってきました。これじゃとても致命傷には…………」

「くそ、首根っこひっ捕まえて引き抜くか?」

「出来ればな!」

 

 こちらに向かってきた鎌首を左右へと飛んで避けつつ、八雲と克哉はすかさず弾丸を叩き込んでいく。

 至近距離から撃ち込まれたにも関わらず、克哉の銃弾は頑強な鱗に阻まれ、八雲の超高速弾は弾痕を刻む事には成功したが、その巨体からしてみれば微々たる物だった。

 

「くそっ、劣化ウラン弾でも用意しとくべきだったか…………」

『後で問題になるからいらねえって言ったのはてめえだろうが!』

「一発で仕事料吹っ飛ぶような代物使えるか!」

「……非核三原則という物を知っているか?」

 

 片腕がもげたX―1Cを駆るシックスと八雲の会話に確実な疑念を抱きつつ、克哉が再度攻撃に移ろうとした時、単機で突撃を架ける《Rot》機が視界に飛び込んできた。

 

「オオオォォ!」

「無理だ達哉!」

 

 ヒートブレードを大上段に構えて正面の鎌首へと向けて突撃する弟を制止しようと克哉が叫んだ時、突如として横から突撃してきた鎌首が《Rot》機を跳ね飛ばす。

 

「グゥッ………」

「達哉ぁ!」

 

 跳ね飛ばされた《Rot》機が体勢を立て直そうとするが、それより早く跳ね飛ばした鎌首がその巨大な口腔を開き、一瞬にして《Rot》機を丸呑みにする。

 

「た、達哉ぁぁぁぁ!!」

「達哉君!?」

「まだだ!まだ完全に飲み込まれいちゃいねえ!」

「くそっ!飲み込まれる前に吐き出させるんだ!」

「全機、《Rot》機を救出!」

 

 全員が《Rot》機を完全に飲み込もうとする鎌首に攻撃を開始するが、他三つの鎌首が攻撃を阻み、その間に鎌首の喉のふくらみがゆっくりと下へと向かっていく。

 

「達哉!達哉!」

「落ち着け!あいつはあのパワードスーツの中だ!胃袋に到着するまでは死にはしない!」

『そうでもないよ!《Rot》機のダメージがひどくなっていく!中で締め上げられてるんだ!このままじゃ胃まで持ちそうにないよ!』

「最悪の事をあっさりと言うな!」

 

 ダメージモニターの情報を包み隠さず報告するユーイチに怒鳴りつけつつ、八雲も必死になってレールガンを連射する。

 

「達哉ぁ!!」

 

 弟の名を叫びながら、克哉はヒューペリオンにありったけの力を注ぎ込もうとしていた……

 

 

 

「くっ、動け………」

 

 自分の今の状況を理解しながら、達哉は必死になって機体を動かそうとしていた。

 

「もう、兄さんの足手まといにはならない!なりたくない!」

 

“兄を助けたくないか?”、そう言った男の言葉に従ってここに来たはずの自分が、今兄の足かせになろうとしている。

 機体内全てのモニターにWARNINGの表示で埋め尽くされる中、達哉は脱出すようともがく。

 しかし、機体は締め付けてくる食道の圧力で圧壊を始め、最早持ちそうになかった。

 

「まだだ………まだ燃え尽きちゃいないッ!」

 

 最後の抵抗をしようとした時、突然正面のモニターに一つのウインドウが表示された。

 

「何だ!?」

『FInal Battle system,Seal release.

start?Y/N』

「YES!」

 

 それが何かを考えず、達哉は叫ぶ。

 同時に、彼の機体にだけセットされていたシステムが起動した。

 

『DEVA SYSYTEM・2nd Ver START』

 

 

 

 突然、《Rot》機を飲み込んだはずの鎌首の口から業火が吹き出す。

 

「火も吐きやがんのか!?」

「No、何か変ですわ………」

 

 新たな攻撃を警戒した者達が、ふと火を吐いた鎌首がもだえて苦しんでいるのに気付く。

 

「……燃やされてる?中から?」

「誰が?XX―1にはそんな武装は………」

『ノヴァサイザー!』

 

 超新星のプロミネンスに匹敵する超高温の熱波が、鎌首の中から食道を通って口から外へと噴出する。

 同時に、全てのペルソナが鳴動した。

 

「な!?」

「ペルソナ!?」

「馬鹿な、あいつはもう使えないはず……」

「違うわ!これは、これは!!」

 

 内側から焼かれていく苦痛に激しく悶えながら業火を吐き出し続ける鎌首の口から、何かが飛び出す。

 それは、全身に炎を纏いながら地面へと降り立つ。

 

「馬鹿な、あれは!」

「アポロ!?」

 

 その降り立った者、かつての珠閒瑠スキャンダルで“向こう側”の世界の達哉が使っていたペルソナ、ギリシャ神話の最高神ゼウスの息子たる太陽神・アポロの姿にそれを知る者達が驚愕する。

 

『ゴメン兄さん、心配かけた………』

「た、達哉……なのか?」

 

 アポロの口から発せられた弟の声に、克哉が呆然とする。

 

「ペルソナじゃない、実体?」

「そんな馬鹿な、ペルソナに変身するなんて聞いた事も……」

「出来るわ、“ある物”を使えば」

 

 マキの言葉に、エミルンペルソナ使い達が一斉に顔を見合わせる。

 

「南条!てめえアレをあのスーツに組み込みやがったのか!!」

「落ち着け城戸!」

 

 激昂して南条の襟首を掴み上げるレイジを尚也が止める。

 

「ああ、開発データが入手出来たのでな。改良を加えた物を《Rot》機にだけ組み込んでおいた」

「何故だ!アレが、DEVAシステムがどんなに危険な代物かお前が分からない訳ないはずだ!」

「無論、心得ている。だからこそ、特異点であった彼なら扱えると思った」

「もし、彼が私みたいにシステムに飲み込まれたら、どうするつもりだったの?」

「それは在りえない。彼は、自分のために戦っているのではないからな」

『ギガンフィスト!』

 

 アポロと化した達哉の拳が、克哉に襲い掛かろうとしていた鎌首を弾き飛ばす。

 

「達哉………」

『体が、熱い……力が、溢れ出してくる………これなら、兄さんと戦える!』

「ああ………そうだな!戦おう、一緒に!」

『うん!』

 

 漆黒の古代神と、深紅の太陽神がその手を重ねるように突き出す。

 

「会わせろ、達哉!」

『分かった、兄さん!』

<big>『ヒートブラスト!』</big>

 

 高温の熱波が、衝撃となって焼かれていた鎌首に突き刺さり、完全に炭化させながらそれを引き千切る。

 

「これで、あと三つ!」

「手っ取り早く行くぜ、うらら、天野、周防!」

「よっしゃ! 行ったれ~!」

「レッツらゴ~!」

「達哉、力を最大まで上げて同調させるんだ!」

『ああ、分かった!』

「行くぞ!」

<big>『ドラゴンクロス!!』</big>

 

 プロメテウス、アステリア、アルテミス、ヒューペリオン、アポロの最大限の力が同調し、混ざり合った力は七色の龍となって駆け巡る。

 七色の龍は天空を駆け、残る三本となった鎌首へと襲い掛かる。

 

<big>「フゥオオオオ!」</big>

<big>「ゴガアアアァァ!」</big>

 

 龍と大蛇が真っ向からぶつかり合い、辺り一帯に響き渡る咆哮を轟かせあう。

 

「ちぃっ………」

「しぶとい……」

「うう……」

「くうう……」

『うう、おおおぉぉ!!』

 

 五人は更に力を高め、徐々に龍が大蛇を押していく。

 

『行ッけえぇぇ!!』

 

 達哉の叫びに呼応するように、龍は大きく鳴くと大蛇を一気に貫く。

 

「そこぉっ!」

 

 龍は身を翻し、先程の軌道と十字を描くように再度大蛇を貫く。

 

「こちらも行くぞ!」

「ホォォォウ!」

「夜・露・死・苦っ!」

「ゆけ……!」

「ッ消えな…!」

<big>「スター・コンダクト!」</big>

 

 アメン・ラー、スサノオ、ティール、ヤマオカ、モトが頂点となって五芒星を描き、、その五芒星が光となって天空へと吸い込まれ、天空の無数の星々を露わにする。

 姿を表した無数の星々が煌き、自らの力をその煌きに込めて次々と解き放つ。

 無限にも見える星々の煌きが、八又ノ大蛇の首にあきたらず、全身を射抜いていく。

 残っている三つの口全てから壮絶な咆哮を上げながら、八又ノ大蛇の全身が朱に塗れ、その身を大きく揺るがす。

 

「とっとと、くたばれってんだ!」

 

 八雲のレールガンを筆頭に、無数の銃口が一斉に銃火を吐き出し、のたうち回る鎌首の鱗を穿っていく。

 

『ジオンガ!』

「ヴェルザンディ!」『終焉の蒼!』

『マハ・サイオ!』

「カーリー!」『ニュークリアミサイル!』

『ブフーラ!』

『メギドラオン!』

「ガブリエル!」『リリーズジェイル!』

 

 雷撃、火炎、衝撃波、核熱、氷結、魔力球、ありったけの攻撃魔法が叩きつけられ、鎌首の傷を更に深く傷付けていく。

 

「行くぞ、突撃!」

「デストラクション!」

「くたばりやがれ!」

「ハアアァイィヤアァ!!」

 

 キョウジの七枝刀が一撃の元に鎌首を斬り飛ばし、仲魔達の突撃に続いてのたまきの布都御魂が鎌首を貫き、《schwarz》機の槍が穿った鎌首を《rosa》機の旋風脚が千切り飛ばす。

 残った三本の鎌首が宙を舞い、立て続けに巨大な地響きと震動を持って地面へと降る。

 

「おわあっ!」

「退避!!」

「きゃあきゃあ!」

「ごべ!?」

 

 のたうつ鎌首に何人か弾き飛ばされるが、程なくして鎌首は動きを止めた。

 

「勝った………な」

「ああ、手間掛けさせやがって……!?」

 

 誰もが勝利を確信して一息つこうとした瞬間、全ての首を失ったはずの胴体が動いた。

 

「……へ?」

「おい………」

「ちょっと待った~!!」

 

 首を全て失った胴体が、全身の傷から血を滴らせながらもこちらに背を向け、地響きを上げて逃亡しようとしていた。

 

「It cannot be!伝説ではオロチは首を切り落とされて………」

「そんなのは後だ!止めるぞ!」

「どうすんだよ、あんなデカブツ!」

「もう一度行く…」

 

 慌てながらも再度攻撃を開始しようとした皆を、横から迫ってきた物体が一斉に弾き飛ばす。

 

「がはっ!」

「あうっ!」

「きゃあぁ!」

「尾、だと!?」

「くそおぉ!」

 

 ふいの事で対処出来なかった皆が、宙を待って地面へと叩き落される。

 

「ヴ、ヴェルザンディ………」『メディアラハン!』

 

 ショックで身動き出来ない状態からも、マキが強引にペルソナを発動させてかけられるだけの回復魔法を皆にかけていく。

 なんとか傷が回復した者達が立ち上がり、逃げようとする八又ノ大蛇の胴体を睨みつける。

 

「舐めやがって……」

「追わなきゃ!異界化したここから出たら大変な事になるわ!」

「あれ、八雲とカチーヤちゃんは?」

「克哉さんもいないわ!」

「達哉もいやがらねぞ!」

「まさか……あいつら………」

 

 

 

「ちっ、最悪の乗り心地だな」

「これは乗ると言わないだろう」

「でも、他に方法は無かったですし」

『………』

 

 薙ぎ払ってきた尾にとっさにHVナイフと空碧双月を突き刺してしがみ付いている八雲とカチーヤ、ペルソナでへばりついた克哉、変身したアポロの身体能力で飛び乗った達哉が逃亡しようとする胴体の方を見る。

 

「なんとか胴体まで辿り着ければ…………」

「だが、どうやって?お互いこうやってるのが精一杯だ」

「……私がなんとかします。この尾を凍らせて動きを封じれば………」

『出来るのか?ダメならオレ一人で……』

「一人で出来ると思ってるのか、達哉」

「ちょっと手を貸せ周防弟、下手したらこっちまで凍る。火の属性のお前なら冷気を阻めるはずだ。カチーヤ、システムの限界まで出力を上げろ」

「はい」

 

 アポロと化している達哉に尾の上に引っ張り上げられた八雲と克哉が、炎その物の熱を放っている達哉の両脇に着く。

 

「いいぞ、カチーヤ!」

「行きます!『マハ・ブフ!』」

 

 両胸のエレメント・クリプトチップが白く輝き、両手のエミッション・オーブから凄まじい凍気が放出される。

 

「うわっ!」

『くぅ……』

「こいつは………」

 

 周辺一帯を霜が多い、それが晴れた時には凍りついた尾と、それを気にせず進む大蛇の姿が有った。

 

「急げ!完全に凍った訳じゃない!」

「だが、どうする?どうやって止める?」

「そんなの後で考える!」

 

 カチーヤを引っ張り上げて凍った尾の上を走る八雲に、周防兄弟も続く。

 

(考えろ………なんで伝説と違ってこいつは動いている?伝説と違う点はどこだ?)

 

 凍り付いているとはいえ、上下左右に激しく動く尾の上を走りながら、八雲は考える。

 

「まずい、端の方から氷が砕けてきている!」

「デカ過ぎたんだ!」

「急いでください!もう一度凍らせるには時間がかかります!」

「陸上は大嫌いなんだがな!」

 

 必死の思いで走る四人の背後から、氷が砕けて自由を取り戻した尾が迫る。

 

「間に合う!」

「!右………」

 

 胴体まであと少しという所で、もう一本の尾がこちらへと迫ってくる。

 

「ヒューペリオン!」『ジャスティスショット!』

『ノヴァサイザー!』

 

 光り輝く弾丸と超高温の熱波が迫ってくる尾に直撃するが、わずかに速度が鈍っただけだった。

 

「まずい!」

『メギドラオン!』

 

 尾が直撃する寸前、真下から放たれた凝縮された魔法球が打ち上げ、寸での所で尾は四人の頭上(カチーヤ除く)を通り過ぎる。

 

「ヤッホ~、来ちゃった」

「ピクシー!」

「ありがとう、助かった」

「ボーナス、ケーキ一種多くね♪」

「……了解した」

「急げ!」

 

 四人(+ピクシー)は背後まで動き始めている尾を駆け上り、八又ノ大蛇の背を登っていく。

 

「で、どうやって止める?」

「……それが問題だ。手持ちのオモチャは使いきっちまった………」

 

 八雲が今の武装を確かめる。

 尾にしがみ付いた時に反動でレールガンは放り出され、手元に残っているのはソーコム・ピストルとHVナイフ、最後のマガジンだけが入っているストームブリンダーとマグネタイトの切れているGUMPのみ。

 

「どうする?もう直こいつは外界に出てしまうぞ!」

「落ち着け、そして考えろ。伝説と違う点は何か?それを排除すれば、こいつはこの世界に存在できなくなるはずだ………」

「……依代!」

「そうか、安部 才季がこいつを操っているのか!」

「多分、当たりだ。そいつを殺せば終わりだ」

『そいつは、どこにいる?』

「こいつの腹の中」

 

 達哉の質問に八雲は自分の足元、今立っている背を指差す。

 

『……分かった』

「おい達哉、お前まさか………」

『ギガンフィスト!』

 

 達哉が拳を振り下ろし、自分の足元に深々と突き刺す。

 

『ノヴァサイザー!』

 

 そのまま内部へと向かって超高温の熱波を直に叩きつける。

 熱風が周辺を荒れ狂い、蒸発した血と吹き飛ばされた肉片が宙を舞う。

 

『………ダメか』

 

 熱風が拭き抜けた後、肉が焦げる異臭が立ち込める達哉の足元には、大きく吹き飛ばされいるが、それでも内臓まで届いていない傷のクレーターがあった。

 

『もう一度!』

「よし、こちらも……」

「やる事が原始的過ぎるぞ、そんな事して辿り着くのに何時間かかる?」

「しかし!」

「もうちょっと物事をオカルティックに考えろ。ようはオロチからあいつの存在だけ消去すればいい」

「どうやってです?」

 

 カチーヤの問いに八雲は不敵な笑みを浮かべる。その視線の先には八又ノ大蛇の進行方向上に浮かぶ、業魔殿の姿が有った。

 

「こうする。おっさん、コードα!」

 

 

 

業魔殿 船長室

 

「よもや、これを使う時が来ようとはな………」

 

 八雲からの通信を受けたヴィクトルが、傍らのコンソールに有るカバー付きで表面に“α”と刻まれたスイッチに手を伸ばす。

 

「万物は流転し、生まれし物は必ず滅びん。世の綻びをすくいて紡ぐ、これ錬金の法則。我、万物の理に持ち、紡がれし綻びを流転へと返さん」

 

 ヴィクトルはコマンドワードを唱えながらカバーを押し上げ、スイッチを押し込む。

 変化は急激的に現れた。

 業魔殿の気嚢部の先端中央部が開き、そこにちょうど気嚢部中央を貫く形の内部砲身が露わになる。

 砲身内には無数のルーン文字やシジル(魔術サイン)がちょうどライフリング(銃のバレル内にある渦上の溝)のように刻まれ、その一番奥、砲ならば薬室に当たる部分には、膨大な量のマグネタイトが封入され絶え間なくその色彩を変える巨大なオーブが設置されていた。

 船長室内部にも変化は現れる。

 ヴィクトルの座る椅子の前方の床から一つのトリガーレバーと、ターゲット用コンソールがせり出す。

 ヴィクトルはターゲット用コンソールから取り出したスコープゴーグルを掛け、それに映し出される外部カメラからの映像を目標へと調節する。

 

「目標、認識。フレーム設定、確認。照準固定、完了」

 

 手早く照準補正をかけ、ヴィクトルは目の前のトリガーレバーに手を掛ける。

 

「業魔殿主砲、“α”発射体勢!」

 

 ボイスコマンドの入力と同時に、砲身内のオーブが明滅を始める。

 色彩が目まぐるしく変化していき、それに応じるようにオーブ表面からスパークが発生し始める。

 オーブから発したスパークが砲身内のマジックライフリングに触れると、触れた地点からルーン文字やシジルが発光し、連なるラインが次々と発光していく。

 やがてオーブその物が重低音のうなりを上げ始め、砲身内の文字全てが輝きを放っていく。

 

「マグネタイト・オーブ臨界。キャスター・ライフル発動確認。最終安全装置、解除。“α”発射準備完了…………」

 

 

 

「ありったけの防御を施せ!とんでもないのが来るぞ!」

「何だ、何が来るんだ!?」

 

 懐から僅かに残った防御アイテムを総動員させていく八雲に、克哉が怪訝な顔をする。

 

「こいつのオリジナルが来る!艦砲クラスの退去魔法だ!こっちまでまとめて消去されかねないぞ!」

「じゃあ逃げた方が……」

「ダメだ!逃げたらトドメを刺せない!」

『どうやって刺すつもりだ?』

 

 達哉の問いに、八雲は不敵な笑みを浮かべる。

 

「多分、あいつを食らってもこいつは消去できない可能性がある。しかし食らってしばらくはこいつの存在は極めて不安定になる。その間にこいつの中に潜り込んで、あいつを探してぶっ殺す。それで終わりだ」

「危険じゃないのか!?下手したらこちらの存在も不安定に、最悪の場合は一緒に消滅しかねないのでは!?」

「そうだ、だからイヤだったら来なくていいぞ」

「そんな!私も行きます!」

「安心しろ、この中で一番消去される可能性が少ないのはカチーヤ、お前だ。次が周防弟、次があんたで一番ヤバいのはオレだろうな」

「!それが分かってて…」

「後だ!こいつが異界から出た瞬間にぶち込まれる!もうすぐだ!」

「くっ……ムチャリンダ!」『マカラカーン!』

『マハ・ブフ!』

『マハラギダイン!』

「緊急退避~!」

 

 菩提樹の下に住み、嵐から仏陀の悟りを守ったとされる巨大な蛇の精霊へとペルソナをチェンジした克哉が対魔法結界を張り、カチーヤと達哉が凍気と火炎で分厚い障壁を作り上げ、ピクシーが克哉の懐に潜り込む。

 

「今だ、撃て!!」

 

 

 

 八雲達のやり取りを聞いていたヴィクトルに笑みが浮かぶ。

 

「行け、そして人の世界を守るのだ、若者達よ」

 

 ヴィクトルの顔から笑みが消え、静かな気迫が船長室に満ちる。

 

「……“α”発射」

 

 ヴィクトルの指が、トリガーを引いた。

 同時に、オーブから噴出した膨大なマグネタイトが莫大なエネルギーとなって放出される。

 放出されたエネルギーは砲身を通り、刻まれたルーン文字やシジルがそのエネルギーに術式を付与、変質させていく。

 それ自体が一つの術と化したエネルギーが、砲口から飛び出す。

 余剰エネルギーが雷となって荒れ狂う中、純白の閃光が砲弾となって天空を突き進む。

 しかし膨大なエネルギーの負荷に、業魔殿は大きく揺さぶられる。

 

「ぬ、左側面エーテルクラフト出力24%上昇、ジャイロバランサー水平確認シーケンス起動、船体ダメージチェック……」

 

 反動でふらつく業魔殿をなんとか建て直しながら、ヴィクトルは画面に映し出される八又ノ大蛇の胴体を見つめる。

 

「決まるか……それとも?」

 

 

 

「来た!」

 

 大気を力任せに押しのけ、凄まじいまでのエネルギーが極大の閃光となって突き進んでくる。

 

「対ショック!」

「どうしろと!?」

 

 身を丸めて衝撃に備える八雲に、克哉やカチーヤも慌てて習う。

 直後、閃光が大蛇の胴体に直撃した。

 いきなり太陽でも出現したかのような眩いばかりの光の爆発が大蛇の体を飲み込んでいく。

 

「ちいぃ………」

『うっ………』

「きゃあ……」

「つっ………」

 

 爆発音とはまた違う軋み音のような轟音が轟き、四人の体を熱く、かつ冷たい異様な風が叩きつけられる。

 

「……どうだ!?」

 

 まだ余波が消えない内に、八雲は立ち上がって足元を見た。

 

「これは……!」

 

 彼らの足元、大蛇の胴体は出来の悪いCGのように不規則に乱れ、場所によっては霞んで消えそうになる。

 

「うっ……」

『なんだ……?』

 

 あまりにも強力な術の影響か、克哉のペルソナも時々霞み、達哉もアポロの姿と破損しかけたXX―1の姿が不規則に入れ替わっている。

 

「は、あぁ………」

「ソウルを強く持て、引きずられるなよ」

 

 自らの体を抱きつつ、カチーヤが両膝をつく。

 取り付けられたエレメント・クリプトチップが激しく瞬き、吸収する力を弱めてカチーヤへの供給を強くする。

 

「……やっぱりか」

「……どうやらそのようだ」

 

 八雲と頭を抑える克哉が同時にそれに気付いた。

 先程まで消えつつあった大蛇の体が、段々とまた輪郭を取り戻していく。

 

「誰かが、こいつの存在を再構築してやがる」

「そのようだ、どうする?」

「こうする、んだよ!」

 

 八雲は背のストームブリンガーを持ち上げると、バーストユニットをセットしてスリットに次々とメモリーカードを差込み、それを自らの足元、大蛇の体に突き刺す。

 

「Huck you!」

 

 ハッキングパイルが打ち込まれ、八雲の足元がまた不規則に乱れていく。

 

「今なら、まだこいつの中に入れる!Crack!」

 

 残ったプログラム全てが撃ち込まれ、消去された部分が完全に虚無となり、それは一つのホールとなった。

 

「じゃ、行くか」

「はい!」

 

 ストームブリンガーを投げ捨て、八雲がためらいもなく漆黒のホールへと飛び込み、カチーヤがそれに続く。

 

「達哉、ここで残っていてくれ!」

『……断る』

 

 飛び込みながらの克哉の言葉を無視し、達哉もホールへと飛び込む。

 

「わ………」

「これは……」

『スゴイ………』

 

 ホールの向こうに広がる空間に、八雲を除いた皆が絶句する。

 そこには、闇と光が交錯し、それらは絶えず互いを生み出し、侵食する。

その光と闇の交叉点を、何かが絶えず飛び交う。皆の体をそれが通り過ぎると、それが持つ力、知識、精神が一瞬脳内に広がって消えていく。

 

「これが、神の中か……」

「正確には神を構成する情報の中だ。これの再構築が済む前に片をつけないと、オレ達も情報の一部となって取り込まれっぞ」

「で、でもどこを探せば」

「そいつはすぐに分かる。感じ取れ、情報がどこから放たれているかを」

 

 八雲はGUMPのサーチ用プログラムを起動させ、周辺を飛び交うエネルギーの流れをサーチさせてモデリングさせていく。

 

「……見つけた」

「こちらもだ!」

 

 八雲のシーケンスの終了と、克哉がペルソナ反応を探しあてるのは同時。

 

「急ぐぞ!もう時間が無い!」

「やだ!ケーキ食べられなくなるのヤダ~!」

「そっちじゃない、こっちだ!」

 

 懐から飛び出したピクシーの足を掴み、再度懐へと入れながら克哉が探り当てた地点へと向かう。

 

「……あと、何分くらい持つでしょうか?」

「さあな、良くて10分か?」

「それまでに、相手を倒せば……」

「事件は解決する」

 

 足元が不安定な感覚の中、“進む”という感覚だけで皆の体は進んでいく。

 程なくして、光と闇が行き交う情報の中枢、虚空に佇み再構成の情報を放ち続ける人影を発見した。

 

「そこまでだ!」

「……まさか、こんな所まで来るとはな」

 

 克哉の警告に、人影はゆっくりと振り返る。

 そこにいたのは確かに八又ノ大蛇に飲み込まれたはずの阿部 才季当人だった。

 しかし、負傷していたはずの体は傷一つ無い上に何一つ纏わぬ全裸で、その体内にちょうど剣の形をした何かが埋め込まれ、それ自体が生き物の様に脈動していた。

 

「なるほど、こいつに取り込まれて分解される隙を利用して草薙を取り込んで逆に乗っ取った訳か。アナクロのクセに器用なこった」

「そちらも、まさか消去術で分解寸前の所に乗り込んでくるとはな………見上げた度胸のようだ」

「安部 才季!貴様を大量破壊及び大量殺人未遂容疑で検挙する!おとなしくするんだ!」

「ふん、この場に及んでまだ人の法をかざすか?この神の中を見て、何も感じないと?」

「悪いが、オレは情報の中に入るのは得意なんでね。もう時間が無い、とっとと死んでくれ!」

「そちらこそ、神の贄となれ!」

「イヤアアァァ!」

「ヒューペリオン!」『トリプルダウン!』

『ギガンフィスト!』

 

 八雲がソーコムピストルから立て続けに銃弾を放ち、克哉のヒューペリオンが光弾を三連射、すかさず空碧双月をかざしたカチーヤと拳をかざした達哉が突撃する。

 

「馬鹿が!」

 

 才季が手を前へと突き出すと、彼の背後の闇が突然直径20cmくらいの無数の鎌首となって攻撃を全て受け止めた。

 

「ここが神の中だと忘れたか?」

「覚えてるよ!」

 

 弾丸の尽きたマガジンを素早く交換し、八雲が再度ソーコムピストルを連射する。

 鎌首が素早く弾道上にまとまり、肉の壁となって弾丸を阻む。

 

「ブフ…キャアア!」

「カチーヤ君!」

 

 氷結魔法を放とうとしたカチーヤが、鎌首に体を絡め取られて捕縛され、克哉が救助を試みるが、彼の背後にも鎌首が忍び寄る。

 

「来るな~!『メギドラオン!』」

 

 ピクシーが魔法を連発して鎌首の接近を阻もうとするが、鎌首は無限とも思われる程沸いてくる。

 

「この、くそっ!」

「無駄だ無駄、そろそろ本当に諦めたらどうだ?」

 

 無数に迫る鎌首に、八雲はHVナイフを振り回して抵抗するが、程なくして捕らえられてしまう。

 

「贄を切らして下僕の召喚も出来ない悪魔使いが、この状況で何が出来るというのだ?」

「てめえの気を引くくらいは出来る。このようにな!」

『おおぉぉぉ!』

 

 迫る鎌首全てを焼き尽くしつつ、達哉の炎を纏った拳が八雲に気を取られていた才季の腹に直撃する。

 

「ぐふっ!こやつ法神変化か!」

『行っけえぇぇ!』

 

 再度炎の拳が迫るのを、才季は後ろへと下がり、その体が情報の中へと融けて消える。

 

『どこだ!?』

「こっちだ」

 

 相手を探す達哉の背後に突然出現した才季が、その手を達哉の背へと向ける。

 そこから放たれた闇のエネルギーの塊が、達哉を背後から撃った。

 

『ぐっ……!』

「達哉!」

 

 片手片足を絡め取られながらも必死に鎌首を払おうとしていた克哉が、直撃を食らった弟を見て絶叫する。

 

「いかに神の体へと変じようと、ここでは無意味」

『く、そ……』

「勝負は、まだ決まってません!」

 

 カチーヤが叫びながら、全身から凄まじい凍気を噴出させて自らを縛る鎌首を全て氷結させ、それを空碧双月で打ち砕いて脱出する。

 

「ほう、なかなか……」

「全力で行かせてもらいます!」

「!やめろカチーヤ!システムの限界が…」

(大丈夫、力を貸したげるから)

 

 エレメント・クリプトチップが限界に達しよとしているのに気付いた八雲がカチーヤを止めようと叫んだ時、ふとその耳に声を聞いた。

 

「ネミ……ッサ?」

 

 呆然とする八雲の目前、カチーヤのポケットから小さな光が飛び出し、それは半透明な女性の姿となってカチーヤへと重なった。

 その途端、カチーヤの周辺に膨大な量の凍気が生まれ、それは空碧双月の刃へと集束される。

 

『アブソリュート・ゼロ・クリスタリゼーション!』

 

 カチーヤと、もう一人の女性の声が一緒になってカチーヤの口から響く。

 正面に向け突き出された空碧双月から、集束された万物を氷結させる絶対零度の鋭い凍気が放たれ、それは周辺にある情報を氷結させながら才季へと迫る。

 

「馬鹿な、なんだこの力は!」

 

 無数の鎌首を出現させて凍気を防ぎつつ、才季は驚愕する。

 無限とも思える鎌首が、津波となって立ちはだかるが、凍気はそれを全て凍らせ、飲み込んでいく。

 

「そんな事が……」

 

 凍気が才季の体を飲み込んでいく。

 周辺に微細情報が氷結したダイヤモンドダストが舞う中、カチーヤは荒い息を吐いた。

 

「やった……のか?」

「え~と……」

 

 ダイヤモンドダストが舞う中、恐る恐るピクシーが近づいていく。

 だが、そのダイヤモンドダストの中からいきなり腕が飛び出した。

 

「ひっ!」

「まだ生きてるのか!」

「今のは、効いた………」

 

 ダイヤモンドダストの中から、才季は姿を現す。

 髪は白く凍りつき、全身が死人のような色と化した肌となり、あちこちが温度変化に耐え切れず裂けている。

 なにより、凍りついた右足を根元から、右腕を二の腕から引き千切っていた。

 

「何者かは知らんが、神の力を振るう我を倒すにはもう少し足らなかったな」

「もう一回……」

 

 再度凍気を放とうとしたカチーヤの視界が、突然霞む。

 

「あ、れ?」

 

 そのまま、全身を急激的な虚脱感が襲い、カチーヤはなす術もなくその場に倒れてしまう。

 

「カチーヤ!」

「力を使い果たしたか……これで障害は消えた」

「……何勝手ほざいてやがる、貴様……」

 

 鎌首に全身を絡め取られ、全身を締め上げられている八雲が凄まじい形相で才季を睨む。

 

「残るは下僕を呼び出せない悪魔使いと、ロクに力も残っていない神降ろし。何が出来る」

「なめるな!まだ戦える!」

「そんな僅かな力で?お前達の勝機は消えているのだよ………」

「く、ふふふふ………」

 

 八雲の口から、いきなり笑いが漏れ始める。

 才季と克哉は、そちらを怪訝な顔で見るが、八雲の笑いは止まらない。

 

「ふふふ、はっ、あははは」

「勝機を失って気が触れたか。醜い物だな」

「いや、勝機を失ったのはてめえだ。お前の古臭い脳味噌じゃ思いつかない手を使って、オレはお前に勝つ」

「ほう、どうやって?下僕も呼び出せない貴様が?」

「それが間違いなんだよ、マグネタイトなら“ここ”にあるじゃねえか」

 

 八雲は、手にしたHVナイフでためらいなく自分の右頸部(首の右側)、頸静脈を切り裂いた。

 

「!?」

「何を!」

 

 鮮血が溢れ出す中、八雲は傷口にGUMPからのジャックを突き刺す。

 

「SUMMON!!」

 

 叫びながら、八雲はGUMPの召喚プログラムを起動、自らの血液から直接体内の生体マグネタイトを急激的に消費しつつ、仲魔を呼び出す。

 

「行っけええええぇぇぇ!!!」

『オオ!!』

 

 八雲の咆哮と共に、召喚されたジャンヌ・ダルクが、ケルベロスが、カーリーが、オベロンが才季へと襲い掛かる。

 

「な、何という!」

「ハアァァ!」

「ゴガアアアァ!」

「アアアァ!」

『マハ・ラギオン!』

 

 驚愕する才季に、ジャンヌ・ダルクの剣が繰り出され、ケルベロスの牙が突き刺さり、カーリーの六刀が振るわれ、オベロンの火炎魔法が降り注ぐ。

 

「この程度の悪魔で!」

「だからお前は勝てないんだよ!」

 

 仲魔達の攻撃を耐えきった才季の心臓に、鎌首から脱出していた八雲のHVナイフが、深々と突き刺さった。

 

「いい加減くたばれ、これからの時代に邪魔なんだよ、てめえ………」

「ば、馬鹿な、こんな、こんな若造に………」

 

 HVナイフがえぐられ、才季の口から鮮血が溢れ出す。

 同時に、八雲の傷口からジャックが落ち、仲魔達が霧散していく。

 

「こ、この程度で我を倒せると思うなああああぁぁ!!」

「じゃ、追加頼む」

「ああ」

 

 HVナイフを抜きながら八雲が膝が崩れ落ちる。

 その背後には、克哉と無数の光弾を作り出しているヒューペリオンの姿があった。

 

「これで、最後だ!」『Crime And Punishment!!』

 

 克哉の最後の力を込めた光弾が、倒れた八雲の上を通り、才季へと炸裂する。

 

「!!!」

 

 絶叫をもかき消しながら、無数の光弾が才季を穿ち、吹き飛ばし、霧散させていく。

 光弾の乱流が過ぎ去り、後には虚空に浮かんだ剣の束の破片だけが残っていた。

 それも力を失って下へと落ち、乾いた音を立てて転がる。

 

「終わった………」

「ああ、終わった」

「それにしても無理をする。あんな真似をして死ぬと思わなかったのか?」

「それは死んでから考える」

 

 倒れた八雲に肩を貸して立たせつつ、克哉が苦笑する。

 

「ピクシー、彼と皆にも回復を……」

「OK、『ディアラハン!』」

 

 回復魔法で傷が塞がった八雲が、よろける足取りでカチーヤを抱き上げる。

 

「彼女にも回復を……」

「どうやら、そんな暇は無いみてえだ………」

「……!これは!」

 

 彼らの周囲、飛び交う情報がまるでデタラメに動き、時に互いにぶつかって消滅し、光と闇が端から消えて虚無へと変わっていく。

 

「大蛇が消滅しようとしているんだ!脱出しないと巻き添えを食うぞ!」

「達哉!走れるか!」

『なんとか……』

 

 システムの限界が来てるのか、アポロの姿にXX―1の姿がだぶってきている達哉が立ち上がる。

 

「急げ!」

「やだ~、消えるのやだ~!」

 

 ピクシーを先頭に、カチーヤを抱いた八雲、克哉、達哉が順になって走り出す。

 すでに足元すら虚無へと変じつつある中、三人は必死になって走る。

 

「見えたよ!」

「よし、もうちょっと……」

 

 ストームブリンガーで開いたホールが見えてきた時、突然八雲が足を取られる。

 

「足場が……」

「あと、もう少しなのに!」

「こっち、こっちだよ!」

 

 進もうとする空間その物が消失し、進もうとする意思に反して三人は進む事すら出来なくなる。

 

「う~ん!」

「ダメだ、君だけでも逃げろ!」

「でも!」

「行くんだ!」

 

 克哉の裾を掴んでなんとかホールまで運ぼうとするピクシーを、克哉は強引に掴むとホールへと放り投げる。

 

「力を貸せ!カチーヤだけでも…」

「何言ってンのよ、まったく」

 

 同じようにカチーヤを投げようとした時、彼女の口から別の女性の声が漏れる。

 

「相変わらずアンタはダメね、あたしがいないと何も出来ないんだから」

「誰だ!?」

「ネミッサ……」

 

 呆然と八雲がその声を持っていたかつての相棒の名を呼ぶ。

 

「少し違うわ、あたしはネミッサの残滓。ちょっとだけ残ってたのをヒトミちゃんが託しくれたの。だから、今ここで消えるわ」

「ネミッサ!」

「じゃ、ちょっと力借りるわね」

 

 カチーヤの体から、凍気が吹き出す。

 吹き出した凍気が、消失しようとする情報を凍らせ、留めて通路へと変じていく。

 

「行って、すぐに消えるわ」

「ネミッサ!オレは!」

「早く!」

 

 カチーヤの中から、淡い光で形成された女性が抜け出す。

 

「ネミッサ……さん?」

 

 僅かに意識を取り戻したカチーヤの耳元に、その女性は何かを囁くと、カチーヤはそれに頷き、又意識を無くす。

 それを微笑して確認した女性は、彼女から後ろへと距離を取ってから両手を凍りついた壁にあてがい、自らの力を通わせて、それを押し留める。

 そして、視線が八雲を正面から見据える。

 

「行きなさい!私が支えている間に!」

 

 八雲が何かを告げようとするが、彼女に促された通り、黙って走り出す。

 

「急いで!閉じてきてる!」

 

 ホールの向こうでピクシーが叫ぶ。

 ホールはそれを見分けられなくなる程薄く、小さくなっていた。

 

『うおおおぉぉ!』

 

 達哉が前へと飛び出すと、ホールに手をかけ、それを強引に広げていく。

 

『飛び込め!』

「ああ!達哉も来るんだ!」

 

 強引にこじ開けられたホールから都合四人が同時に飛び込む。

 ふと、八雲は消えていく空間の中で、彼女が手を振っているのが見えた気がした。

 

「ん?」

「わあああぁぁ!」

 

 飛び出した先、現実空間に戻った四人は、そこが空中だと知って表情を凍りつかせる。

 

「のわあああぁぁ!」

『うわああぁぁ!』

「くううううぅぅ!」

 

 男三人がなんとも情けない悲鳴を上げつつ、もつれるようになって地面へと落ちる。

 それ程高くなかったため、四人は無事に不時着する。

 

「あ痛たたた……」

「全員、無事か?」

「降りてくれ………」

 

 限界が来たのか、元のXX―1へと戻っている《Rot》機の上に腰掛けている克哉と八雲がよろよろとどける。

 

「どうなった?倒せたか?」

「一応はな、だが………」

 

 八雲は鋭い視線で八又ノ大蛇を見た。

 完全に制御を失い、体を崩壊させつつも八又ノ大蛇はでたらめに暴れまくっていた。

 

「あれだけデカいと、消滅しきる前に山が無くなりかねんな」

「どうする?こっちはもう………」

「後は任せな!」

 

 上空から聞こえた声に、八雲と克哉は上を向く。

 そこには、八又ノ大蛇へと向かうヘリと、それから手を振っているペルソナ使い達の姿が有った。

 

「行くぞみんな!」

『おー!』

 尚也を先頭に、ペルソナ使い達が次々とヘリからダイブしつつ、ペルソナカードを宙へと撒いていく。

 各々が所持するアルケナ、全22が全て宙でそろっていく。

 

「行くぜ、究極合体技!」

<big><big>『パ・ン・ド・ラ!』</big></big>

 

《MAGICIAN》、《PRIESTESS》、《EMPLESS》、《EMPEROR》、《HIEROPHANT》、《LOVERS》、《STRENGTH》、《CHARIOT》、《HERMIT》、《FORTUNE》、《JUSTICE》、《HANGDMAN》、《DEATH》、《TEMPERANCE》、《DEVIL》、《TOWER》、《STAR》、《MOON》、《SUN》、《JUDGEMENT》、《WORLD》、《FOOL》、それぞれのアルケナを象徴するペルソナが顕現し、暴れ狂う八又ノ大蛇を取り巻く。

 それぞれのペルソナが、八又ノ大蛇から己に近い因子を取り込み、分解させていく。

 

「帰れ、お前達の世界へ!」

 

 やがてそれはペルソナの始原たる普遍的無意識の海への扉を開き、八又ノ大蛇はゆっくりとその中へと消えていった。

 

「……終わったか」

「ああ、終わった」

 

 八又ノ大蛇が完全に消えたのを見た八雲が、その場に背中から倒れ込む。

 必然的に抱きかかえていたカチーヤの体も転がり、偶然腕枕をするような形で八雲の隣に並ぶ。

 

「かっ、はあ………」

 

 あちこち歪んでいるXX―1から苦労した出た達哉が、寝っ転がっている二人を怪訝そうな顔で見た。

 

「ちと疲れた。後片付けは頼むってレイホウさんに言っといてくれ」

「生憎と、こっちもそんな状態じゃないな」

「そうか。ま、なるようになるか………」

 

 全身を襲う猛烈な虚脱感に身を任せ、八雲は眠りの世界へとその身を任せていった……………

 

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