夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 EXゴモラの瞳がギラリと光る。

 全身からトゲの生えた巨大な恐竜が、一斉に突進を開始する。

 その数、おおよそ20。

 ティガの役割は、誰よりも前に出て敵の進行を食い止めることだ。

 

『あんま近寄ってくんなよ!』

 

 ゴモラ軍団の一体に、ティガダークが八つ裂き光輪を投げつけた。

 ゴモラの腹を掻っ捌くつもりで放った、単発の強威力の八つ裂き光輪。

 だが、EXの腹にびっしりと生えたトゲが、それを受けてしまう。

 八つ裂き光輪は腹のトゲのいくつかを削っただけで、逆に粉砕されてしまい、闇の粒子に還されてしまった。

 

 当然である。

 この量産タイプの元になったオリジナルのEXゴモラの表皮は、"一兆度の火球"を食らってもビクともしなかったという代物なのだから。

 

『!』

 

 一瞬動揺した竜胆だが、ティガへの援護に飛んで来たパワードのメガ・スペシウム光線がゴモラの一体を消し飛ばし、その向こうのゴモラを吹っ飛ばし、別のゴモラを巻き込んだのを見て気合いを入れ直す。

 無敵、ではない。

 倒せないというわけではない。

 パワードがゴモラの陣形を崩し、個々の突撃タイミングをズラしてくれていた。

 これで、個々のゴモラを一体ずつ対処できる。

 

 先陣を切り、突撃する一体のEXゴモラ。

 ティガはしかと構え、その角を掴み、ゴモラの突撃を受け止めた。

 突進するゴモラをティガが受け止めただけで、空気が震える。

 

 前後に動く足の構えと、左右に動く足の構えは違う。

 速く動く足の構えと、力強く目の前の物を押す足の構えは違う。

 更に言えば、拳足を振り回すための姿勢と、体ごとぶつかっていく姿勢は違う。

 

 ゴモラの突進を受け止められたのは、竜胆にボブのそれらの技術が継承されたからだ。

 竜胆は角を掴んで、ゴモラの体を左右に揺らす。

 前後では力勝負になってしまうので、敵の力を横に逸らすのである。

 

 そしてゴモラの体がふらついたところで、ゴモラの膝の横を強烈に蹴り込む。

 ゴモラの膝を少し傷めて、流れるようにゴモラの顎に掌底のアッパーを叩き込んだ。

 膝の横、顎の下と、打たれ弱いところを連続で打たれても、ゴモラは少し呻くのみ。

 

 そして、手が届く距離でのEXゴモラとティガダークの競り合いが始まった。

 

 EXゴモラの腕は、太く鋭い爪、ガチガチの豪腕、ティガの頭なら2~3個はまとめて掴めそうなほどに大きな手の平を備えている。

 それが振るわれるという脅威。

 ティガはずば抜けた竜胆の才能と、仲間から学んだ武術にてそれに対抗する。

 

 結果、互角。

 

『ぐっ……』

 

 極端に高い防御力と、トゲだらけで殴れば殴った拳が壊れる表皮。

 極端に高い筋力と、それを生かす腕の爪等々。

 そして、見た目の印象以上に機敏な動き。

 EXゴモラは、一体でティガダークに匹敵する強敵であり、純粋なゴモラの上位互換だった。

 

 人類戦力の方が数が少ない現状、理想的な撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)は最低でも1:10。

 一対一で手こずっていては話にならない……のだが。

 量産型らしきEXゴモラでさえ、一対一でもティガとほぼ互角。

 まともにやりあっていられない、強敵であった。

 

(これは後ろに通せないぞっ……!)

 

 このゴモラとパワードや勇者が近接戦を吟じた場合、その結果がどう転がるか竜胆には分からなかった。

 一体ずつであっても、確実に、かつ早急に、このゴモラの数を減らさねばならない。

 ティガはバック転でゴモラから少々距離を取り、飛び上がった。

 

『ゴモラは飛べない、これは弱点だろ!』

 

 自分の強み、敵の弱みを土俵に上げて勝負する、というオーソドックスな戦術。

 

 ティガは空を舞い、ゴモラを翻弄するようにその周囲を飛ぶ。

 飛べる、という強みを敵に突きつける。

 飛び回ってゴモラの背後を取り、ティガを見失ったそのうなじに強烈な一撃を叩き込んで、その首を切り落とそうとして――

 

『っ!?』

 

 ――ティガの右肩を、ゴモラの尾の先端が貫いた。

 

『尾が……伸びた!?』

 

 EXゴモラはティガに背を向けたまま、音を頼りに背後のティガを突き刺したのだ。

 ゆえに完全な不意打ちであったのに、尾の先端はティガの急所を外れた。

 不幸中の幸い、と言うべきだろうか。

 

『痛っ……!』

 

 ティガは右肩を抑え、空を飛んでゴモラの尾の追撃をかわす。

 まるで、木を突くキツツキのようだ。

 トン、トン、とハイテンポで突き出される、先端鋭い伸縮自在なゴモラの尾。

 そのくせ威力は桁違いで、ティガの腹に大穴を開けるには十分な威力があった。

 

(! ゴモラが何体も……)

 

 そして、回避している内に、ティガを狙うゴモラが三体に増える。

 三方向から伸びてくる必殺の尾の先端がティガに迫り、ティガは空中で身をひねった。

 一本、尾を腕でそっと受け流す。

 一本、尾を豪快に蹴りで弾いて流す。

 最後の一本はかわしきれず、脇腹を抉られてしまった。

 

『ぐうっ……!』

 

 落下したティガは、樹海を傷付けないよう地面手前で飛行能力を発動、軟着陸して転がるように立ち上がる。

 そして、50mほどの至近距離にいたザンボラーに向けて踏み込み、蹴り込んだ。

 蹴り込んだ足がザンボラーに命中し、ザンボラーを吹っ飛ばし、ティガを火傷させる。

 

『熱っ! 熱っ!』

 

 ザンボラーの体温は十万度。

 ソドムが二千度だったことを考えれば、その熱量は実に五十倍だ。

 熱気を体外に放出している状態のザンボラーには、光の巨人ですら容易には触れられない。

 そこに、ティガを援護する杏の精霊・雪女郎の吹雪が飛ぶ。

 

「今の内に!」

 

『助かる!』

 

 体内からの加熱と、体外からの冷却。

 ザンボラーの表皮は、無理をすればティガが触れられなくもない程度の温度に落ち着いた。

 その首に叩き込まれるは、拳より生えた八つ裂き光輪。

 ティガの腕力で強引に叩き込まれたそれが、ザンボラーの太すぎる首を切り裂いて、その命を強引に絶命させた。

 

 だが、飛び散った血液などがティガの手にかかり、その手を火傷させた。

 血液さえも十万度。当然のことだ。

 だからこそザンボラーは、八つ裂き光輪にて近接戦の残虐ファイトを行うティガダークに対し、強烈なメタとして機能する。

 

『熱っ、くそ、熱い!』

 

 杏が体外をいくら冷やしても、血液が十万度では、攻撃時に飛び散る血液のせいでどの道ティガは大変なことになってしまう。

 更には強大な熱気による上昇気流で、展開した吹雪が暖められつつかき混ぜられ、杏の吹雪はあっという間に消されてしまった。

 杏が頬の汗を拭う。

 

「熱い……何百mも離れてるのに、ここまで熱い……」

 

 十万度、と言うと数字が大きすぎてピンと来ないかもしれない。

 だが十万度とは、そもそも核爆弾等が出す温度。物質がプラズマ化する温度だ。

 太陽の表面温度(六千度)の何倍か、と考えれば想像に難くない。

 ここが神の制御する樹海でなければ。

 勇者が勇者の衣装を着ていなければ。

 巨人が巨人の体を持っていなければ。

 とっくの昔に、ザンボラーの熱で皆死んでいる。

 

(この強度なら、俺の八つ裂き光輪は十分に通じる。

 ソドムに似たこの怪獣を残しておくわけにはいかない!

 距離を空けて、遠距離から八つ裂き光輪を投げ込み、全部倒す。その後ゴモラを止めて……)

 

 遠距離からザンボラーの数を減らし、EXゴモラに集中する。

 そう考えたティガが、ザンボラーを狙って八つ裂き光輪を投げ―――"ザンボラーの蜃気楼"を、八つ裂き光輪が突き抜けた。

 

「!?」

 

 ここで一つ、ザンボラーの別個体を例に挙げてみよう。

 『パワードザンボラー』という個体が存在する。

 かつてパワードがここではない地球で戦った、ザンボラーの別個体だ。

 

 パワードザンボラーの体温は五百度以上。

 ザンボラーほど高い体温を持たなかったが、周囲の木々を自然発火させ、周囲の大気を高熱で歪め、あらゆるレーザー兵器を無効化した。

 自分に放たれたミサイルを命中前に高熱で溶かし、無力化したこともあったという。

 更には自身の体温で上昇気流や異常気圧を発生させ、台風などの異常災害を発生させたとか。

 

 今、ザンボラーが発現させている現象は、これに近い。

 ザンボラーの周囲の樹海が、高熱のせいで自然に焼けている。

 加え、光が屈折してしまうほどに、高熱で大気が歪められている。

 これでは遠くのものの正確な位置が見えず、遠距離攻撃も当て難い。

 先程倒したザンボラーに至っては、高熱の血液が樹海に垂れてしまったことで、神樹の根が炎上を始めてしまっていた。

 

 ……消火に使える精霊持ちの杏が居なければ、杏に丸亀市一つを単独でカバーできる技量と出力がなければ、人類は今日ここで滅びていただろう。

 神樹とその根が全焼すれば、人類はその日の内に絶滅する。

 

 ソドムが対城の炎怪獣なら、この怪獣は対樹海の炎怪獣。

 十万度の個体を20体前後並べるという、目を疑うような炎の進撃。

 ティガにもパワードにも、冷却技や水技はない。

 ザンボラーの血液をぶちまけてしまいかねない攻撃技ばかりだ。

 ティガは一気に攻めあぐねた。

 

(仕方ない、まずゴモラ軍団の進撃の阻止から考えて……って、友奈!?)

 

 飛び上がり、飛翔し、後退するティガ。

 ティガの目に見えたのは、進撃していく一体のEXゴモラと、その進行先で棒立ちになっている友奈の姿であった。

 ティガは、ゴモラと友奈の間に割って入り、友奈を守るようにゴモラに立ち向かう。

 

『バカ、友奈! なにやってん――』

 

 そうやって、友奈に背を向けたティガの背中を、友奈が突き刺した。

 

『――だ、う、ぐっ』

 

 けたけたけた、と友奈が嗤う。

 友奈の姿が、あっという間に亜型タウラスの姿へと戻っていく。

 タウラスとドギューの中間体が持つ能力は、音響攻撃と変身能力。

 人間に化けられるバーテックスは、戦場においていくらでも悪辣な立ち回りが可能だ。

 

 ティガが冷静に周りを見ていた段階では仕掛けず、EXゴモラとザンボラーによって竜胆の余裕が削ぎ取られたタイミングで、冷静に判断しきれないタイミングで、仕掛けた。

 タウラスの目論見は見事に成功。

 ティガの背中に、牛の角が突き刺さっていた。

 

『何度も、同じ手、使いやがって……!』

 

 角を抜き、怒りを滲ませ振り返るティガ。

 友人の姿を悪辣に使われた怒りがティガの闇を増強し、瞬間的に倍以上に跳ね上がったティガダークの腕力が、背中に刺された牛の角を叩き折る。

 タウラスは音響攻撃でティガを苦しめ、音をぶつけながら後退していった。

 そしてタウラスと入れ替わりに五体のEXゴモラがティガを囲む。

 

『っ』

 

 痛みが体に走る。

 肩、脇腹、背中と肉は抉れ、火傷した部分には激痛が走る。

 ティガの体内で、ギチギチと嫌な音がしていた。

 

(ヤバい、けど……敵の注目がこっちに集まってるならなんとかなるか? いや、無理か)

 

 絶体絶命のピンチ。

 そこに飛び込む、閃光の如き人影があった。

 

 跳ぶ。

 跳ぶ。

 ひたすらに跳ぶ。

 跳ぶたびに加速し、もはや飛んでいると言っていいほどに加速する。

 

 閃光の如く飛び込んだ若葉が、ティガを狙うザンボラーの首に全力の斬撃を叩き込んだ。

 刀を超高速で振り、刀に熱が伝わる前に振り切る。

 これではザンボラーは殺せない。

 だがそれでいいのだ。狙いはそこではない。

 

 ザンボラーから吹き出した血が、右隣にいたゴモラにかかった。

 十万度の高熱血液がゴモラを絶叫させ、モロに血がかかった左腕を溶解させる。

 左腕にかかった高熱血から逃げるようにして、激痛から右に倒れたゴモラが、右隣にいた別のザンボラーを押し潰した。

 押し潰されたザンボラーが痛みの咆哮を上げ、ゴモラが十万度のザンボラーにのしかかってしまったせいで、また焼かれてその熱量に絶叫する。

 

 若葉の計算通りに、ティガを囲んでいた包囲網の一角が崩れた。

 

「熱い、熱いが……この攻撃手段は使えるな」

 

『わ……若ちゃん!』

 

「大丈夫か? 竜胆」

 

 ザンボラーの体の近くの空気は、勇者の衣装を着て通り過ぎるだけでも、皮膚を火傷させる。

 ザンボラーの近くを若葉が通ったのは一瞬で、一瞬で切り捨てその場を離脱した。

 にもかかわらず、若葉の肌には痛々しい火傷が見える。

 

 ザンボラー相手に接近戦は危険だ。

 それを分かった上で、若葉は竜胆を助けに来てくれた。

 

「やるぞ。諦めるにはまだ早い」

 

『……ああ!』

 

 若葉が囮を、ティガダークがアタッカーを努め、二人が敵陣に突っ込んでいく。

 そんな中、ザンボラーの高熱で焼死しながら、次々とザンボラーに飛びかかり、ザンボラーの目を鎌で潰していく勇者の姿があった。

 熱ダメージすら無効にする分身の勇者、千景である。

 

「突出しすぎよ、竜胆君」

 

『悪い。敵の動きはちゃんと見れたか?』

 

「ええ。それなりには、皆見れたと思うわ」

 

 パッと現れ、パッと殺され、パッと再生する。

 前に出した六体が何度焼死しようが千景は痛くも痒くもない。

 ザンボラーやゴモラの体において、千景が傷付けられる部分は眼球くらいしかないが、目を潰せるのであれば果たす役割としては十分だった。

 

(……このゴモラ、眼球まで頑丈ってどういうこと……?)

 

 だが、腰を入れて全力で叩きつけなかった斬撃は、ゴモラの眼球にさえ弾かれる。

 EXゴモラは恐るべきことに、眼球ですら硬かった。

 神の刃ですら、千景が今日まで真面目に鍛錬をしていなかったなら、きっと刺さらなかっただろう。

 千景が目を潰したゴモラの首に、ティガの強烈な回し蹴りが突き刺さる。

 

 敵の攻撃に絶え間はなく、別のゴモラがティガへと噛みつきにかかった。

 そんなゴモラの顔面に若葉が切りつけ、噛みつきの動きの邪魔をする。

 隙は一瞬。

 その一瞬で、ティガはゴモラの頭を両腕で抱えるようにガッチリ固めた。

 

 頭を掴んで、ゴモラの首に何度も何度も膝を叩き込む。

 ムエタイの技、首相撲だ。

 時に殺人技にすら発展するそれが、ゴモラの首に連続で大きなダメージを叩き込んでいく。

 

 だが敵はゴモラだけではない。

 四方八方からの攻勢は止まらない。

 ザンボラー達がゴモラ一体にかかりきりになっていたティガに接近し、その全身から発する高熱でティガを丸焼きにせんとしていた。

 

「一度冷やします!」

 

 ザンボラーの高熱を、後方から杏がフィールドごと吹雪で中和する。

 杏の冷却のおかげで、ティガが丸焼きになるまでに僅かな時間が出来る。

 その僅かな時間で、ティガはゴモラを離し飛翔。

 ザンボラーとゴモラの包囲を僅かに抜けた。

 

 着地した地点に千景が居たので、竜胆は千景を守るように立つ。

 そしてそんな千景を、後ろから球子の旋刃盤の刃が真っ二つにした。

 

『!?』

 

「あれこれ工夫してるよな、こいつら。だがタマの目は誤魔化せんぞ」

 

 真っ二つにされた千景が、タウラスの形に戻り、消滅していく。

 

「小さくなってる時は脆いんだな。

 いや、こりゃ驚いた。

 "七人の千景が八人になっていてもパッと見は気付かない"。

 そりゃこのタイミングになるまで誰も気付かないわけだ。タマげた」

 

『タウラス……!』

 

「でもなー、バーテックスは知らないかもしれないけどなー。

 千景はいつも、竜胆先輩のこと心配そうな目でチラチラ見てるんだ。

 姿は真似られても、千景のちとウジウジして口数の足りない所は真似られないようだな!」

 

「土居さん? まさか私に聞こえるように言ってたりするのかしら?」

 

「千景はそれでいーんだよ! タマのお墨付きだ!」

 

 嫌な見分けられ方をした千景がむっとして、続く言葉に少し照れて目を逸らす。

 そこで何も言わずに黙るから千景なのだが、彼女はそれでいいのかもしれない。

 少なくとも、球子はそう思っているようだ。

 

「ほらーこっちこっち!」

 

 友奈がザンボラーの周りを跳び回り、高熱で意識が飛びそうになりながら、時には火傷を負いそうになりながら、ザンボラーの位置を誘導する。

 そして縦並びになった瞬間、ザンボラーを三体まとめて、メガ・スペシウム光線が貫通する。

 血が吹き出て、十万度の血が樹海を炎上……させは、しなかった。

 

『……フゥ。コノイリョクヲ、イチイチダスノハ、ツライネ』

 

 昔パワードは、パワードガボラという怪獣と戦ったことがある。

 パワードガボラは大量のウランを溜め込んだ怪獣で、ミサイルで攻撃すると連鎖反応で極大の核爆発を起こす危険があり、「どうすればいいんだ!」と人間は嘆いた。

 そこに、パワードは平然と最強光線を全力でぶちかます。

 

 結果、パワードガボラは()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、パワードが普段以上のパワーを込めて放ったメガ・スペシウム光線は、なんと十万度の血液を一滴も垂らすことなく、ザンボラー三体をまとめて蒸発させてしまったのだ。

 忘れてはならない。

 ザンボラーが十万度であろうとも、パワードの光線の熱量は『一億度』である。

 狙ったもののみを焼き尽くすパワードの光線制御は、いっそ芸術的ですらあった。

 

 竜胆は、そこに勝利のとっかかりを見つけた。

 

『ケン、あのあっつい奴、任せていいか』

 

『イイケド、キミニアノゴモラハ、タオセルノカ?』

 

『やってみるさ。任せて』

 

『マカセタ。シンジル』

 

 パワードがザンボラーに、ティガがEXゴモラに立ち向かう。

 総数千体の星屑も、常時勇者が倒しているのに一向に減る気配がないが、勇者達は歯を食いしばって星屑の津波から巨人達の背中を守る。

 ティガも足場にして空を跳び回っている若葉は、ティガの肩に着地し竜胆に声をかけた。

 

「竜胆! 敵の弱い部分を狙え!」

 

『ああ! 心当たりはある!』

 

 若葉が肩から飛び去ったと同時、ティガは接近してきたゴモラの"口の中"に、右腕を強引に突っ込んだ。

 

『ウルトラヒートハッグッ!!』

 

 そして、突っ込んだ腕から必殺の自爆技を発動。

 右腕が丸焼けになるのと引き換えに、EXゴモラを内側から爆散させることに成功した。

 

『へへっ……腕一本で敵一体か……』

 

 自分の体が全部爆発に巻き込まれる自爆技の応用で、犠牲になるのは片腕のみ。

 竜胆に言わせれば、かなり賢い発想からくる便利な応用技、といったところか。

 表皮が硬い敵でも、内側から爆発させられたならひとたまりもない。

 奇しくも、竜胆は杏が言っていた、対ゼット戦略の有用性への確信を深めていた。

 

 他のゴモラが竜胆に走り寄って来るが、竜胆との距離が縮まると流石に口を閉じようとする。

 二の舞はごめんだ、と言わんばかりだ。

 だがゴモラが閉じようとしたその口に、千景の一人が飛び込んで、鎌をつっかえ棒にした。

 鎌のせいで、ゴモラは口を閉じられない。

 

「竜胆君の攻撃って、時々開いた口が塞がらないでしょう? ……竜胆君!」

 

 千景の声に頷き、竜胆は今度は左腕を、ゴモラに突っ込もうとする。

 

(八つ裂き光輪なら、どうだ……!?)

 

 ティガは八つ裂き光輪を展開しながら、左腕をゴモラに突っ込む。

 八つ裂き光輪がゴモラの食道から胃腸までの経路を切り刻み、ティガの左腕が喉に詰まっている状態で、ゴモラは無理矢理に咆哮する。

 だが、死なない。

 こんなにも残酷で破壊力のある攻撃をしても、EXゴモラは死ななかった。

 

『これでも即死しないとかどういう生命力だよ! ……ちくしょうっ!』

 

 左腕をゴモラの口の中に突っ込んだ状態で止まってしまったティガを、ゴモラの怒りの爪がザクリザクリと切り抉っていく。

 

 そも、バーテックスは"まともな生物"ではない。

 星屑など最たるものだ。星屑には人間を食い殺す口はあるが、肛門はない。人間を消化して栄養として吸収するわけでもない。食物連鎖の一環で人間を殺しているわけでもない。

 このEXゴモラもまた、普通の生物に見せかけられているだけの、星屑の集合体。

 胃腸をズタズタにされた程度なら、生命活動に支障はないのだ。

 

 もっと大きく、もっと激しく、もっと徹底的に、体内を破壊しなければならない。

 生命力が桁外れに強いEXゴモラ相手なら、尚更に。

 

『ウルトラヒートハッグっ……!』

 

 結局、竜胆はウルトラヒートハッグを発動。

 左腕をこんがりと焼く痛みに耐え、ゴモラを内側から爆発四散させる。

 ズタボロになって震える両腕を構え、ティガはまだ15体前後残っているEXゴモラを見据える。

 あと腕が十五本あれば、と竜胆は思った。

 

『ん……?』

 

 ゴモラが一斉に、ティガに向けて角を構えた。

 なんだ、と思い、ティガは受け身の姿勢に移る。

 それを見ていた者達は皆"なんかヤバい"と感じてはいたが、個々の反応は違った。

 ティガは撃たれてから見切るか受けるかを正確に判断しようとし、そのタイミングでティガの一番近くに居た勇者・友奈は、それを遮二無二避けるべきだと判断した。

 

「避けてっ!」

 

『―――』

 

 そしてその瞬間、竜胆は自分の感覚ではなく、友奈の声を信じた。

 

 発射前に飛ぶティガ、回避に移る仲間達、そして多数のEXゴモラが発する『EX超振動波』。

 樹海の中に、激震が走った。

 

 超振動波は、一部のゴモラが地中を進むのに使う、物質を破砕する振動波だ。

 物理的に叩き込んでも、光線のように発射しても、当たったものを破砕する。

 EXゴモラのこれは、その強化版。

 オリジナルのそれであれば、光の巨人すら一撃で粉砕しかねないものである。

 

 空間を埋め尽くす多数のEXゴモラの超振動波。

 最高の判断と、そして運の良さが重なって、巨人と勇者はその全てを回避した。

 だが、これは危険だ。

 樹海に向けて撃たれたら?

 もっと、逃げ場が出来ないように撃たれていたら?

 十数体のEXゴモラが揃っている現状を、竜胆は大きな危機感をもって再認識する。

 

(……ん?)

 

 だがティガの目は、目ざとくEXゴモラ達の僅かな変化を見逃さなかった。

 

(バテてる? このゴモラ達、今の振動波を連発できないのか……?

 そうか、だから最初から使わなかったのか。今のは結構、賭けに出てたんだな)

 

 回復すればまた撃たれる。

 そう判断したティガが動くが、そのティガを横合いから狙う影があった。

 若葉がザンボラーの血液を飛ばしたことで、ザンボラーに焼かれてダメージを受け、今まで転がっていたEXゴモラである。

 完全に奇襲な形で、EX超振動波がティガに向けて解き放たれた。

 

「さーせーるーかーっ!」

 

 友奈が、一番最初にメガ・スペシウム光線で爆散させられたゴモラの残した尻尾を、ジャイアントスイングの要領で投げる。

 と、同時。

 竜胆は、友奈を狙うザンボラーを見た。

 これもまた、若葉が切ったあのザンボラーであった。

 ザンボラーから、友奈に向けて高熱熱線が発射される。

 

 ティガはそれを見て、両手の間に広げたティガ・ホールド光波のネットにて、友奈を守る。

 

「―――!」

『―――!』

 

 友奈の投げたゴモラの尻尾が、ゴモラに当たって、EX超振動波を明後日の方向に放たせる。

 竜胆のティガ・ホールド光波が友奈を守り、熱線を跳ね返してザンボラーの表皮を焼いた。

 その一瞬、巨人と人間は互いを守り合っていた。

 

『「 ありがとう! 」』

 

「『 …… 』」

 

「お互い様、だねっ!」

 

『ああ!』

 

 ティガ・ホールド光波には、敵の攻撃も捕まえ(ホールドし)て、跳ね返す能力もある。

 極めて汎用性の高い技なのだ、これは。

 球子との特訓で編み出したというのは伊達ではない。

 汎用性の高い技は、一度生み出せばずっと使える。

 使うたびに球子との特訓を思い出して心強くなる、という意味でも、頼りがいのある技だった。

 

『ゴモラと燃えてるヤツの強さは見えてきた。あとは……』

 

 あとは、と竜胆が言いかけた、その時。

 

「"あとはあの謎のゼットンだ"……あたりかな?」

 

『!』

 

「期待して待たせてしまったようだな。ティガダーク。そして……ウルトラマンパワード」

 

 それは、ゼットンだった。

 なのに、ゼットンには見えなかった。

 

 その体色は白。

 ゼットンといえば基本の体色は黒であるはずなのに、その全身は白かった。

 紛れもなくゼットンである姿なのに、黒さがほとんどない白だった。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()不可思議な白。

 

 その怪獣の名は『クローンゼットン・ホワイト』。

 だが、この状況において、この名は一切の意味がない。

 オリジナルのクローンゼットン・ホワイトが、なんであるかを知る意味すらない。

 

『その声……ゼット!?』

 

「ウルトラマングレートの命を懸けた、あの一撃。

 アレの傷が中々治らないものでな。

 だがただ待つというのも退屈だ。

 白き星屑を捏ね、当座の肉体を作り、そこに私の細胞を一つ加えた。

 私の細胞は一つしか使われていないが……擬似的に、私のクローンのようなものだな」

 

『ゼットノ……クローン……』

 

「無論、貧弱な肉体を私自身が遠隔操作しているため、私の足元にも及ばないが」

 

 ゆらり、と白きゼットンが構える。

 

「お前達と遊ぶには十分だ。

 来い、ウルトラマンパワード。

 貴様が人間の希望、ウルトラマンである所以(ゆえん)を見せてみろ」

 

 ここに来ての、ゼットの参戦。

 ゼット本人の参戦であれば絶望的だっただろうが、クローンゼットンのスペックであれば、まだ戦いになる可能性はある。

 ケンは、ウルトラマンとの一騎打ちにこだわるゼットの性格につけ込み、これを自分一人で倒せたならば、と考えた。

 

 今の数のEXゴモラとザンボラーにゼットンが連携してしまったら、かなり不味い。

 ゼットはゴモラやザンボラーと違って知性もある。

 知性を使って連携が可能なゼットが混ざると、一気に詰む可能性が出るのだ。

 

『イップンクレ。イップンデ、ヤツヲタオシテミセル』

 

「ケン……やる気か。私達と竜胆で、他の敵を抑えればいいんだな?」

 

『アア』

 

 若葉が冷静に戦場を見回し、敵の数を測定する。

 ゴモラが15、ザンボラーが12、星屑が400から500。

 ……ティガ一人で何体抑えられるかを考えれば、頭が痛くなる数の差だった。

 だが、まだ誰も諦めてはいない。

 

『スマナイ。モエテルヤツト、ゴモラ、スコシデイイカラオサエテオイテクレ』

 

『余裕だよ。任せて』

 

 ゼットンとパワードが、対峙する。

 

「貴様をここで終わらせよう。ウルトラマン」

 

『ソンナパチモンノゼットンジャ、マケテヤレネーナ』

 

「言うではないか、ウルトラマンパワード!」

 

 パワードの掌底を白きゼットンの槍が受け止め、火花が散った。

 

「! リュウくん目を閉じて! 魚のアレだよ!」

 

『!?』

 

 そこで地中から現れたるは、ピスケス・サイコメザード。

 千景特攻ではなくなったものの、相も変わらずティガ特攻の中間体である。

 ティガは友奈の声のおかげで間に合い、目を隠して幻覚からの精神操作を回避するが、目を閉じてしまったティガの全身を、ピスケスの雷、ザンボラーの熱線、ゴモラの尾が貫く。

 

『ぐあああああっ!!』

 

「くっ、このっ!」

 

 ザンボラーに杏が吹雪、ピスケスに友奈が拳、球子が旋刃盤を向け攻撃を押し返す。

 ゴモラも高速で跳ぶ若葉と分身する千景が止めるべく猛攻を仕掛ける。

 だが、足りない。

 亜型ピスケスも加われば、大型バーテックスは28体。対し勇者はたったの5人。

 質でも量でも上回られては、勇者の力でティガを守ることなど叶わないのだ。

 

『く……そっ! 一分どころか、何秒保つか……!』

 

 ティガが両手から、八つ裂き光輪を投げる。

 二体のEXゴモラがそれを受け止め、容易く片手で握って砕く。

 そして三体のEXゴモラが横並びに突撃してきて、ティガが空中に跳ね飛ばされる。

 

『ガッ!?』

 

 跳ね飛ばされたティガに向け、十体のゴモラが伸長した尻尾を突き出し、十本の内七本が、その鋭い尾先をティガの体に突き刺していった。

 

 

 

 

 

 ゼットは強い。

 圧倒的なスペックに、反則的な能力も強い。

 だが何よりも、それを制御するゼットの思考と技量、この二つが強かった。

 

「どうした、こんなものか?」

 

『クッ』

 

「それでもウルトラマンか、パワード」

 

 槍が走る。

 拳が舞う。

 白きゼットンとパワードによる接近戦は、一方的にゼットが圧倒していた。

 パワードの攻撃は一つも届かず、ゼットの槍はパワードの全身を切り刻んでいく。

 

(速い、いや、上手い……!)

 

 ケンは心中で思わずゼットの技量を称賛してしまう。

 

 身体能力で言えば、パワードの方が圧倒的に上だ。

 速さも、一撃の重さも、パワードは明確にこのゼットンを上回っている。

 なのに、圧倒されている。

 それはこのゼットンの強さが、白いこの肉体ではなく、肉体を操作しているゼットの技量に依存しているからだ。

 

 パワードが蹴ると、槍で柔らかく受け止め、蹴り足を押してパワードの姿勢を崩しに来る。

 パワードが両手で連打を当てようとしても、ゼットは円と直線を組み合わせた独特の槍の軌道を展開し、パワード以上の手数で槍突きを連打してくる。

 たまに光線を撃ってみても、弱い光線は打ち払われ、強力な光線でも流れる川の水のようにゆらりと受け流してしまう。

 

 そのくせ、槍の一撃一撃にしっかりと体重と威力を乗せてくる。

 半端な受け方をしようものなら、肉を抉られながらガードをぶち破られるほどだ。

 剛柔一体。

 技力自在。

 攻防共に隙がなく、パワードのガードを崩し、パワードの行動を誘導するのが異様に上手い。

 

 パワードが攻めればパワードが一方的に傷付けられる。

 パワードが受けに回っても同じ。何もしなくても同じだ。

 身体スペックにおいては、パワードの方が圧倒的に上のはずなのに。

 

 ゼットは自分よりも強い相手に手を尽くすやり方を知っており、力の差を埋めるために技を尽くすやり方を知っていた。

 ゼットは、自分よりも力の強い相手に、技のみで勝利できるゼットンなのだ。

 

「こんなものか! ウルトラマンパワード! グレートが墓下で泣くぞ!」

 

『―――!』

 

 その技の数々を。

 

 優しきケンは、怒りでぶち抜く。

 パワードの目が赤く染まり、猛然とその拳が叩きつけられた。

 ゼットは槍でそれを受けるが、一億トンの腕力が槍をミシリと軋ませる。

 

「っ、この一撃の、重みは……!」

 

 力を逃し、ゼットの返しの槍がパワードの頬を削る。

 頬を削られても、パワードは怯えの欠片も見せなかった。

 

『キサマガ……カレノナヲ……クチニスルナ……!』

 

 パワードの目は、激しい高揚、激しい怒りで赤く染まる。

 真っ赤に染まったパワードの目は、仲間を殺した敵に対する怒りそのものであり、今は亡きボブ/グレートを思うケン/パワードの想いそのものだった。

 

 槍が振るわれる。

 両の腕が自在に振り回される。

 神速の槍の刺突の嵐を、馬鹿げた筋力のパワードの腕が、片端から叩き落としていった。

 槍も拳も、突き出される速度は銃の弾丸並みと言える領域の戦い。

 ゆえに、激烈。

 その戦いはあまりにも激しく、あまりにも速い攻防の応酬だった。

 

「そうだ、それでいい……生死問わず、仲間のためにお前達(ウルトラマン)が強くなるとは真実だったか!」

 

『グッ……!』

 

「それでこそ、終わらせる意味がある!」

 

 だが、パワードの怒りの猛攻を受けてなお、ゼットは優勢だった。

 パワードの怒りの猛攻を押し返し、逆に押し込んでいく。

 怒りで跳ね返そうとしても、ゼットの技量に無理矢理押し込められていく。

 

 パワードのカラータイマーが、点滅を始めた。

 

 

 

 

 

 ティガの拳がEXゴモラの表皮を打つ。

 だが、ダメージはほとんど通らない。

 首を狙って拳を打つが、その拳をゴモラに掴まれてしまい、ティガは無理矢理地面に投げ倒されてしまった。

 

『ぐあっ!』

 

 完全に力負けしている。

 倒されたティガが必死に地面を転がると、一瞬前までティガが居た場所をゴモラが踏み、そこにあった神樹の根が粉砕されていた。

 踏まれていたら、粉砕されていたのはきっとティガの頭だっただろう。

 

 ティガのカラータイマーが点滅を始める。活動時間、残り一分。

 

『くっ……』

 

 EXゴモラが初期個体数20、現在14。

 ザンボラーが初期個体数20、現在11。

 亜系十二星座が初期個体数4、現在2。

 星屑が初期個体数1000、現在200。

 星屑は減らせているとはいえ、大型個体は活動時間の2/3を使って半分も減らせていない。

 このままでは時間が尽きる。

 亜系十二星座の生き残りに至っては、どこに隠れているかも分からない。ピスケスがどこに潜っているのか、竜胆にもまるで見当がつかなかった。

 

 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という、困難と絶望。

 

「竜胆、星屑が散りすぎた。一部が神樹の方へ向かっている」

 

『……人を分けるしかないだろ』

 

「……それしかないか。

 千景! 友奈! 私達から離れて星屑の殲滅に専念しろ!

 私、球子、杏でティガをサポート! 大型を抑えるぞ!」

 

 勇者も皆消耗が激しい。

 戦いの消耗もそうだが、精霊の多用の負荷が露骨に顕れている。

 特にザンボラーの熱を常に中和しないといけない杏の消耗は、とても酷いものだった。

 ……だが、最悪なのは。その杏以上に、ティガが消耗しているということだ。

 膝に手をついているティガの肩に着地し、若葉は竜胆に声をかける。

 

「暴走は大丈夫か?」

 

『結構限界近いけど、まだ大丈夫だ』

 

 心の闇の侵食も辛いだろう。

 ウルトラヒートハッグなど、技の負荷も大きいに違いない。

 だがそれ以上に、ティガの全身が穴だらけなことの方に、若葉は危機感を覚える。

 攻撃を受けすぎだ。

 変身が解けた瞬間に即死してもおかしくないレベルのダメージを、竜胆は全身に叩き込まれていた。

 どれほどの痛みを負っているのか、若葉にも想像できないレベルの重傷である。

 

 そしてティガの怪我を気遣うバーテックスなどいない。

 ティガの怪我をこれ幸いと喜ぶバーテックスは居る。

 ザンボラーが三体、ゴモラが三体、ティガの近距離にまで距離を詰めて来た。

 

「休む間が……無いなっ!」

 

『全部倒して、休憩はそれからだっていいさ!』

 

 勇者三人でザンボラー三体を、巨人一人でEXゴモラ三体を抑えにかかる。

 一気に処理しないと意味がない。時間をかけてしまうと敵の数が一気に二倍、三倍になる。

 絶望的な状況で、ティガがゴモラに殴りかかった。

 心の闇がボロボロな竜胆の制御を一瞬離れ、理性が一瞬飛び拳の威力が三倍になる。

 三倍の威力の拳を喉に食らっても、EXゴモラは死なない。

 だが痛そうにして、ティガの体を掴んで固定した。

 

『くっ、離せっ!』

 

 一体のゴモラがティガを捕まえ、他二体のゴモラがティガを殴り、噛みつき、蹴り飛ばし、尾で刺し、爪で切り裂き、角で穴を空けていく。

 

『ぐっ、がっ、ぎっ、づっ、あ゛っ、ぐっ、ぎえっ、い゛っ、ガハッ、ゲホッ―――』

 

 竜胆に群がるゴモラが、3体、4体、5体と増えていく。

 リンチに参加する数が増えていく。

 そうしてゴモラの壁がティガを覆い隠すような形になり―――ゴモラの壁が、まとめて吹っ飛んだ。

 

『はぁ、ハァ、はぁ、ハァッ、う、ぐぅっ……!』

 

 ウルトラヒートハッグ。

 自分をリンチするために至近距離に寄ってきたゴモラ全てを掴み、そのまま発動したウルトラヒートハッグで、ゴモラを五体まとめて内側から爆発させたのだ。

 代償は大きい。

 五体まとめての爆発を食らったのだ。自爆技に相応のダメージ×5が、ティガの体に叩き込まれた計算になる。

 先にウルトラヒートハッグを二回、腕だけとはいえ使っていたのも大きい。

 もはやティガの体は、体のどこかを怪獣が小突けばそこがちぎれそうな状態であった。

 

 とはいえ、代償が大きいだけに得られたものは大きかった。

 あのEXゴモラを五体もまとめて倒したという大快挙。

 あとはEXゴモラが9、ザンボラーが11、亜系十二星座が2、合計22体。

 今の自爆も見て学習したバーテックス達に、今のを五回やればいい。

 竜胆が完遂前に必ず死ぬという点にさえ目を瞑れば、それが現状一番希望と可能性のある戦術だろうから。

 

「竜胆、なんて無茶を……!」

 

『言ってる場合か若ちゃん! 次は、今の数の倍が来るぞ!』

 

「っ!」

 

 若葉は目眩を覚え、精霊の負荷でガタガタになった体で、刀を杖のようにして立つ。

 体力の限界か手足は震え、視界の焦点が合わなくなり始めていた。

 球子は荒い息を吐き、青い顔で杏の近衛に付いている。

 息が荒いのに、いくら激しく息をしても、呼吸が整えられる気配がない。

 杏は頑張って立とうとしているが、膝をついたまま立ち上がれていない。

 青い顔でしきりにむせこんでいて、戦闘どころか自分で歩けるかさえも怪しい。

 

 ザンボラーとEXゴモラ相手では、精霊の連打以外の手段など選べない。

 球子と杏はもう精霊も使えない状態だろう。若葉でさえ、使わせるのは危険が伴うはずだ。

 

(俺が、守らないと、駄目だ。俺が、多少無茶でも、やらねえと)

 

 ティガダークが、穴だらけで火傷だらけのボロボロな体で構える。

 体の中でギチギチと音がしている。

 まだ拳がある。

 硬く握れる拳がある。

 だから戦える、そう自分に言い聞かせるティガが構えた、その瞬間に。

 

 ―――『それ』は、来た。

 

 

 

 

 

 パワードの赤き瞳が煌めく。

 ゼットンの黄色い発光体のような目が煌めく。

 槍先が突き出され、拳がそれを叩き落とした。

 その瞬間、パワードの回し蹴りが放たれた。

 

 幾百、幾千の攻防の果てに、ケンが見出した一瞬のチャンス。一度のみの好機。

 全身切り傷だらけのパワードが放ったボブの如き回し蹴りが、かすり傷一つ負っていない無傷のゼットンに迫る。

 

「この程度の蹴りで――」

 

 その蹴りが。

 空中にて、"ありえない角度で"曲がり。

 ゼットが操作するゼットンの首に、命中した。

 

「――な、に? なん……だと……?」

 

 ウルトラマンパワードのキック力は『二億トン』。

 その威力は、パンチ力の実に二倍だ。

 光の国の強さの頂点・ウルトラ兄弟達の十数万トンという力の基準を遥かに上回っている。

 当然ながらゼットンですら耐えられるものではなく、一撃にて首がゴキリと折れた。

 

『ゼェー、ゼェー、ゼェー……ア、アタッタ、カ……』

 

「今のは……そうか。"ウルトラ念力"だな?

 これは驚いた。こんなものもあるのか。

 全力で蹴り込み、蹴り込む途中にウルトラ念力で蹴りの軌道を変えた……

 蹴り込みの姿勢ごと変えれば、キックの威力は変わらない。まさしく、異端の蹴り」

 

 首が折れたゼットンから、ゼットの称賛の声が届く。

 

「素晴らしい。

 これは光の国のウルトラマンにはない発想だろう。

 発想したのはおそらくだがケン・シェパード、お前だな」

 

『……アア』

 

「地球人の発想と、ウルトラマンの技と強さ。

 どちらか片方だけでも完成することのない蹴りだな、これは。

 地球人とウルトラマンの融合体でなければ生まれない、地球人とウルトラマンの絆の強さ!」

 

『……』

 

「ゼットンの一部は、"これ"に負けたのだったな。

 いやはや、勉強になった。

 ゼットンの一人として……ここで貴様らに負けておいてよかった」

 

 白いゼットンの肉体が消えていく。

 

「これで、貴様らの敵が私だけだったなら、尋常な勝負の余韻だけで終わったのだろうがな」

 

『……っ』

 

 まるで"ゼットに忠告されたような形"で、パワードは仲間達の危機を思い出し、ゼットに背を向け駆け出した。

 ふぅ、とゼットは白い肉体で溜め息を吐く。

 

「これは戦争だ。

 生存競争に近い戦争だ。

 一つの戦いの勝敗だけで、全体の勝敗が決まることはない……」

 

 ―――白いゼットンが消えた頃、"それ"はそこに姿を現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、長くても一秒のこと。

 

 宇宙の年齢は、大雑把に138億年。

 その138億年の中で、地球が存在したのが46億年。

 46億年の内、現生人類が生きた時間が20万年。

 その中で、西暦はせいぜい2000年。

 人の人生が100年。

 竜胆と仲間達が出会ってから約三ヶ月。

 ウルトラマン達が戦えるのが三分間。

 『それ』が人間達に接近するまでに要した時間、三秒。

 

 "それ"は、上記のどの時間にすら及ばない、ほんの一瞬の、長くても一秒のこと。

 

 

 

 

 

 突如空間に、巨大なサソリが現れる。

 二足歩行のサソリ。

 両の手と両の足にハサミを持つ、大きな尻尾を持ったサソリ。

 いつ、どうやって、そこに現れたのか、まるで分からない(さそり)の使徒。

 

 ―――亜型スコーピオン・バーテックス。

 

 『それ』は、人類戦力の現在陣形から見て、最悪の位置に突如出現した。

 

 『それ』は勇者のレーダーを誤魔化すため、体を小さく変化させ、地面に潜行可能な魚座の口の中に潜み、最高のタイミングで魚座の口の中から飛び出して、三秒で陣形の急所を取った。

 

 巨大な尾から、蠍座の針が放たれる。

 

 

 

 

 

 そこからの一瞬、人類の反応と反撃は、控え目に言っても常軌を逸したものだった。

 

 その時EXゴモラに襲われていたパワードは、反射的にゴモラに背を向ける。

 ゴモラが噛み付く。

 凶悪なその歯がパワードの肩に深々と食い込む。

 だが、パワードは意にも介さない。

 痛みに耐えながらその両手を十字に組んで、メガ・スペシウム光線を放った。

 

 球子と杏と共に、その位置で遊撃に動いていた若葉は、尋常ではない反応で精霊を使った。

 天駆ける武人、源義経。

 速度と技巧に補正をかけるこの精霊が、若葉の疾走と剣技をブーストしてくれる。

 

 光線が針を薙ぎ払い、若葉は針を蹴り落としながら足場として跳び回り、加速した剣が針を切り落としていく。

 

 だが、尋常ならざる針の弾速はほんの一瞬しか迎撃の時間を許さない。

 パワードも若葉も、全て落とせないことは理解していた。

 だから仲間に当たりそうな六割のみを落とす。

 仲間に当たりそうにない四割は叩き落とすのを諦める。

 彼らは最速の反応、最高の迎撃、最適の行動を並立する最優の戦士達だった。

 

 最優で最適なその判断を、"直線的に飛んでいたはずの針が空中で曲がる"という理不尽が、あざ笑うように踏み躙った。

 

 

 

 

 

 直進していた針が、空中で物理法則を無視して曲がる。

 発射から着弾まで一秒未満。

 満足な反応をすることなど、本当はできようはずもない。

 

 その瞬間、杏は球子を見ていた。球子は杏を見ていた。ティガは二人を見ていた。

 向き合う二人の少女と、それを見ている巨人という位置関係。

 

 杏は球子の背後から迫る針を見た。

 球子は杏の背後から迫る針を見た。

 ティガは、左右から弧を描いて曲がる針が、二人の少女の背中を狙うのを見た。

 

 『守らないと』と、その一瞬、三人の思考が一致する。

 

 球子が精霊も使えない体で旋刃盤を投げ、杏の後方の、杏を狙う針に当てる。

 何十本もある針の内、一本しか落とせなかった。

 無数の針が杏の背中に向かっていく。

 

 杏が精霊も使えない体でボウガンを撃ち、球子の後方の、球子を狙う針を撃つ。

 何十本もある針は、一本も落とせなかった。

 無数の針が球子の背中に向かっていく。

 

 ティガは必死に手を伸ばし、二人の少女を両手で覆う。

 巨人の手が、少女を守る盾となる。

 そして。

 針は無情に、巨人のその手を貫通していく。

 

「―――あ」

 

 その声は、誰が漏らしたものだっただろうか。

 

 針はいくつかが巨人の手で止まり、いくつかが巨人の手を貫通した。

 ハリネズミのようになった巨人の手の内で、杏の左右を針が通過した。

 だが、杏には当たっていない。

 奇跡のように当たっていない。

 杏は奇跡的に無事だった。

 

 だが、杏が撃ち落とせなかった一本が、ティガの手を貫通した針の一本が―――背中側から、球子の胴へと深々と刺さる。

 

 人間に刺されば、どう足掻いても助からない猛毒を含んだ針が、球子の心臓を貫いていた。

 

 球子を守ろうとした杏の目の前で、球子を守ろうとしたティガの手の中で、土居球子はバーテックスによって殺された。

 "運良く"杏は助かって、"運悪く"球子は殺された。

 運悪く、球子を守れなかった。

 そんな事実が、降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の、頭の中で声がする。自分自身の、心の声が。

 

『あーあ』

 

『僕らが光なんてものを求めなければ、彼女は死ななかったのに』

 

『心が光を得れば、ティガダークの身体強度は低下する』

 

『身体強度さえ下がっていなければ、今この瞬間、タマちゃんは助けられたのに』

 

『身体強度が下がった分、針はティガの手を深く貫通して、彼女に刺さった』

 

『土居球子と出会ったから』

 

『彼女に貰った光があったから』

 

『その光の分、手の強度が下がったから、彼女は死んだ』

 

『―――これってさ。御守竜胆が悪いのか、土居球子が悪いのか、どっちだと思う?』

 

 それは、確かに、御守竜胆自身の脳から生まれる心の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サソリの毒を受けたティガの手が、その手を腐らせ始める。

 それすら構わず、ティガは自分の体全部でドームを作るようにして、球子を守った。

 ……いや、守ろうとしていた。

 

 今の球子にはもう守る価値はない。

 土居球子はもう助からない。

 されどティガダークはその事実から逃げるように、全身で球子を守ろうとしていた。

 胸に穴が空いた球子が、それを見上げる。

 

『―――っ、―――ッ!』

 

 竜胆が何を言ってるのか、球子にはまるで分からなかった。

 他の人も何かを叫んでいる。

 けれど、球子にはまるで分からない。

 肉体は既に死に始めて、激痛と倦怠感が球子の全身を満たしている。

 

 球子を全身で守ろうとするティガの背中に、次々とサソリの射撃針が突き刺さっていく。

 何本も、何本も。

 針には人間をあっという間に殺す猛毒が含まれていて、針が刺さったティガの背中が加速度的に腐っていく。その痛みと苦しみは、想像を絶するものだろう。

 だがティガは動かない。

 そんな肉体の痛みより、もっと大きな心の痛みがあったから。

 

 球子は死にかけの体で、"守らないと"と、竜胆を見上げ想った。

 

「わひゅ……」

 

 輪入道、と球子は言おうとした。

 だが言えなかった。

 針の毒が、球子の心臓を腐らせている。肺を腐らせている。気管支を腐らせている。

 もう声も出せない。呼吸もできない。

 そんな状態の使い手の意志を反映して、輪入道は旋刃盤へと宿り、巨大な炎の円盤となってティガを守る壁となった。

 

(何があって痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しいタマどうなってそうだあんずは痛い痛い痛い痛い痛い苦しい先輩を守らない苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい痛い痛い痛い駄目だ何も考えられな痛い痛い痛い痛い痛い辛い痛い痛い痛い先輩を痛い痛い痛い辛い痛い痛い痛い)

 

 球子の絶命に従い、精霊と旋刃盤に力を供給する球子という経路が失われ、精霊の力が失われた旋刃盤が落ち、ピスケスにぱくりと食べられる。

 

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い先輩を助けないと苦し苦し苦し痛い痛い痛いなんでこんなことに痛い辛い苦しい嫌だこんなのは嫌だ痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い)

 

 針が胴を貫いた痛み。

 針に含まれる、最大級の激痛と苦しみを与えながら、全身を腐敗させる毒。

 二つが地獄の苦しみを球子に与える。

 そんな中、球子の目が、ティガの目を見た。

 

(―――あ)

 

 表情が変わらないはずのウルトラマンの顔を見て、そこから気持ちを読み取れるのは、その人が他人の気持ちを分かってあげられる、優しい人間である証。

 

(泣かせちゃった……先輩を……タマの……馬鹿野郎っ……)

 

 死ねるか、まだ死ねるか、泣かせてたまるか、と球子は拳を強く握る。

 

 ……握ろうとしたが、もう指一本動かなかった。

 

(死ねるか死ねるか死ねるか痛い痛い死ねるか痛い痛い痛い痛い死ねるか痛い痛い痛い痛い)

 

 地獄の激痛と苦しみの中、球子の心は叫ぶ。

 

(―――まだ、しにたく、ない)

 

 死にたくない、と。

 

 その願いを聞き届ける神様なんてものは、この世にはいなかった。

 

 

 

 

 

 土居球子は絶命した。

 

 血を吐き、涙を流し、毒のせいで耳からも血を流しながら、生きたいと願いながら死んだ。

 

 ティガを下から突き上げるようにして現れたピスケスが、球子の死体をぱくりと食べて、そのついでにティガの巨体を跳ね飛ばしていく。

 

 旋刃盤は残らない。

 球子の死体も残らない。

 バーテックスは何も残さない。

 死者が後に何かを残すことさえ許さない。

 

 生者が死者の亡骸を葬式に使い、その死を弔うことすら、許しはしなかった。

 

 

 

 

 

 炎が消える。

 

 闇の中でずっと竜胆を導いてくれていた篝火が、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右の脳から左の脳に語りかけてくるような感覚があった。

 前の脳から後ろの脳に語りかけてくるような感覚があった。

 自分じゃない自分が、自分である自分に話しかけてくる感覚があった。

 

(おまえ)のせいだ』

 

 声がする。竜胆の頭の中で声がする。

 

『覚えてるよな。御守竜胆が、明確な憎しみをもって殺したあの村の女の子達の名前』

 

―――杏寿(あんず)

―――タマミおねーちゃん!

 

『あの時の憎しみ、消えてないもんな。

 消そうとしても消せないんだもんな。

 憎い奴を思い出す名前だから、わざと死ぬようにしたんじゃないのか?』

 

「違う! そんなこと、思ってない!」

 

『でもさー、最初の暴走の日にさ。

 このいじめっ子の姉妹の名前は殺意と共に(おまえ)の記憶に刻まれたわけだ。

 前に、(おまえ)が暴走して伊予島を潰そうとしたのと、この記憶は完全に無関係じゃないよ?』

 

「っ」

 

『忘れるなよ。

 過去からは逃げられないことを。

 今日、土居球子を殺したことを。一生忘れるな。一生自分を責めろ』

 

 御守竜胆が、土居球子を殺した。

 

『なんで希望とか持っちゃったんだ?

 なんで幸福とか感じちゃったんだ?

 なんで土居球子を大切に思っちゃったりしたんだ?』

 

 全く救いのない人生を送っていれば。

 心に光が差さない人生を送っていれば。

 何の希望も幸福もない人生を送っていれば。

 もしかしたら……今日この瞬間に、球子を守れる手の平は、残っていたかもしれなかったのに。

 

『あーあ、そんなこと思わなければな。

 あの子を守れる手は、自業自得でとっくに失われてたってわけだ』

 

 心が闇に沈んでいく。

 

『じゃあ、暴走行ってきな。

 なあに、今のお前に"三分"なんて制限はない。

 何もかも壊してこい。心に光の部分がなくなったら、またこうして心の中に落ちてきな』

 

 心が、暴走を始める。

 

『だって(おまえ)、あの子が死んだら世界の全てを壊していいってくらいには……』

 

 心が壊れる。

 

『……あの子のこと、好きだったろ?』

 

 湧き上がるそれは、マグマのような絶望。

 

『良いのさ。僕ら人間は、大切な友達が殺されたら、癇癪で世界を滅ぼしても良いんだ』

 

 タマちゃん、と。

 

 竜胆の心に残った最後の光が、泣きながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば竜胆が、球子に好感を持っていなければ。

 球子の影響で、竜胆が少し、自分を好きになれるようになっていなければ。

 彼女の行動で、日常に幸福を感じていなければ。

 土居球子は今日、死ななかったかもしれない。

 あと少し、あと少しの身体強度さえティガにあれば、球子は死ななかったかもしれない。

 

 そんな無駄なもしも(IF)の話。

 

 竜胆は友情を手に入れたから、仲間を手に入れたから、優しくされたから、幸福になったから、仲間を好きになれたから、自分を少し好きになれたから、未来を望んでしまったから、前を向いてしまったから、心の闇を克服したから、過去に自分なりの決着をつけてしまったから、皆と一緒に生きていたいと思ってしまったから、球子を守れなかった。

 これは、単純な計算式だ。

 心の光がもう少し少なかったなら、という単純な計算式。

 

 そして、ここから始まるものも、単純な計算式である。

 

 御守竜胆の内に湧き上がる絶望と、悲嘆が、イコールで土居球子への好意の量の証明となる。

 憎悪が、友への愛を証明する。

 絶望が、土居球子をどれだけ大切に思っていたかを証明する。

 

 全て壊せばいい。

 

 敵も、味方も、世界も、神も。

 

 壊したものの数が、土居球子への彼の想いを、証明してくれるのだから。

 

 

 

 ティガダークが、絶叫のような咆哮を上げた。

 

 

 




 2/12

【原典とか混じえた解説】

●さそり怪獣 アンタレス
 嫌になるくらい多彩な能力を持つ二足歩行のサソリの怪獣。
 まず両手と尻尾にはあらゆる物を引き裂くハサミ。足にも敵を掴むハサミ。尻尾には猛毒。
 口からは炎を吐き、目からはビームが発射され、煙幕の展開能力もある。
 更にはどんなものにも変身できる能力と高い知能もあり、人間に化けて変身前のウルトラマンを殺しに来たりもする。
 怪獣図鑑には、その尻尾の一振りで『富士山の五合目から上が吹っ飛ぶ』と書かれており、搦手を使う癖に素のスペックも吹っ飛んでいるというまさしく怪物。
 また、弧を描き敵を穿つ尻尾攻撃が、蠍座の針射撃攻撃においても再現される。
 一撃確殺の蠍座と、一撃必殺の怪獣の中間体。
 亜型スコーピオン・バーテックス。

※走り書き
 これで亜型は七体登場。残り五体も追加予定
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