夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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朝更新して夜も更新と


畏怖 -イフ-

 次の戦いの日が迫る。

 あのゼットと、アナスタシアが畏怖(イフ)と呼んだ、ゼットと同格以上の敵が追加されるという次の戦い。

 『追加』だ。

 これまで出て来た敵は、全て次の戦いに出てくる可能性がある。

 それに加えて、ゼットと、ゼット以上の存在が参戦するという最悪。

 

 畏怖(イフ)とやらの強さは、アナスタシアの主観だ。

 ゼットより弱いかもしれない。

 逆に、ゼットとは比べ物にならないくらい強いかもしれない。

 それでも、アナスタシアがゼットと同格以上に見たことは変わらない。

 

 ゼットはあの時、勇者五人とウルトラマン三人を完全に圧倒し、グレートが起こした最後の奇跡によって撃退された。

 対し、今の人間陣営は酷いものだ。

 万全な状態で戦えるのはティガのみ。

 これに加えて、軽い負傷やダメージが残っているパワードと、若葉、千景、友奈。

 戦力は実質これで全部だ。

 杏は次の戦いまでに退院できない見込みであるし、アナスタシアを戦力に数えるなどそれこそ論外である。

 

 ゼット一人を相手にしてすら、勝てるかどうか。

 次が正念場だ。

 勝率は1%もなく、0.1%の勝率があると思っているようなら楽観的だと断言できる。

 

 竜胆の想定では、ゼットと同格の敵がいるのであれば、最低でも"自分一人でゼットを倒す"くらいはできなければ、勝機はない。

 そして仲間全員と一緒にゼットに戦いを挑んでも勝機はないと、竜胆は確信している。

 竜胆の中の戦いの才能が、それを確信している。

 にもかかわらず、その心は、敵わない敵に諦めることなく挑もうとしていた。

 

 絶対に勝てない敵への恐怖、勝てない絶望、ボブを殺された憎悪。

 憎い敵を殺したいという想いがあるのに、勝てないという確信がそれを抑え込む。

 恐怖と絶望が強敵から逃げ出したい気持ちを生むのに、"逃げられない理由がある"という、覚悟がそれを抑え込む。

 莫大な負の感情を生み出す気持ちと、それを抑え込む気持ちが拮抗し、胸の奥で際限なく負の感情が膨らんでいく。

 

 未来を願う心の光が、その闇と拮抗していた。

 光と闇が、竜胆の中でどんどん膨らんでいく。

 竜胆はこの気持ちのループを、自分の中で意図的に繰り返していた。

 来たるべきゼットとの決戦の日に、最大級の闇と光をぶつけるために。

 

 あまり賢いやり方とは言えない。

 心は動かせば動かすほど疲れるものだ。

 "心が癒やされる時間"というものは大抵、心が動いていない時間のことである。

 心の中で激情を常に渦巻かせるという行為は、心を疲弊させかねない。

 竜胆もそれを実感しているのか、ゼットとの再戦までと区切っており、そう何度も使える自己強化法ではないと自戒しているようだ。

 

 強くならなければならないのに。

 強くなければ守れないのに。

 今のティガには、闇も、光も、足りていなかった。

 全てを破壊する絶望、全てを救う希望、どちらかでもあれば違ったかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 戦いの後、竜胆は一人一人に声をかけていった。

 

「ありがと。でも、私は大丈夫っ!

 元気いっぱい、勇気満タン! 抜けたアンちゃんの分まで、私が頑張るから!」

 

 友奈は今日も元気で明るい。

 だがそれは、彼女が作った明るさだ。

 周りの皆を照らすために作った明るさだ。

 花咲く笑顔と、その明るさに、竜胆の心は何度救われたことだろうか。

 彼女がいなければ、丸亀城の空気は、きっともっと暗くなっていた。

 

「ガンバッテルナー、エライエライ。

 デモ、ソンナニセキニンカン、セオワナクテモイインダゾ」

 

 ケンは微笑み、竜胆の頭を撫でた

 ケンはいつでも自然体で、竜胆を子供扱いし、その心を気遣ってくれている。

 何故、そこまで自然体でいられるのか。

 それはケンが、何度も『全て』を失っているからなのかもしれない。

 『全て』を失った後立ち上がることを、何度も経験しているからなのかもしれない。

 

 あるいは、彼が大人だから、"気負いすぎた結果としての失敗"を実体験として経験していて、竜胆をそういう面で諌めているのかもしれない。

 だとしても、ケンは、竜胆の頑張りを褒めてくれていた。

 

「私にできることは多くない。

 その中でも最も他人のためになることは、剣を振ることだ。

 その中でも最も価値のあることは、お前の背中を守ることだと、今、ふと思った。

 ……そう変な顔をするな。お前は多くを守れる男だと、私がそう思っただけだ」

 

 若葉は冗談めかした表情で、そんなことを言っていた。

 竜胆と若葉は互いが互いを信じ、頼りにしている。理想的な信頼関係だ。

 "あいつがいてくれるから自分は強くなれる"と思っているくせに、そのくせ個々の心が強くて、尋常でないことでも起こらない限り、一人でも強く在れる。

 二人なら、もっと強く在れる。そんな二人。

 竜胆が若葉に向ける褒め言葉は、『格好いい』『美しい』『綺麗』と聞いている方が恥ずかしくなるほどにストレートで、そのくせてんで的外れではなかった。

 

「若葉ちゃんも御守さんも、本当に心配症ですね。

 はい、確かに怖いです。

 もしかしたら私の命は、あと一週間も無いかもしれない。

 ……でも、本当は、毎日のように、私は怖い思いをしているんです。

 皆が戦いで死んでしまったら、竜胆さんが、若葉ちゃんが、死んでしまったら……

 そう思う毎日が本当に怖いって、知ってましたか?

 卒業式の時も……皆で笑い合っていたら、突然球子さんが死んでいて、本当に、本当に……」

 

 強く、弱い人だと、ひなたを励まし慰めながら、竜胆は思った。

 自分の死を前にして、いつも通りの自分を取り繕う強さがある。

 死を前にして、恐怖に震える弱さがある。

 仲間の死を恐れ、自分の死を恐れる弱さがある。

 その上で、仲間の前ではずっと優しい微笑みを浮かべてきた、強さがあった。

 

 竜胆は、「守らなければ」と思う。

 死の未来を突きつけられ、死の恐怖を飲み込み、必死に気丈に振る舞う、上里ひなたという少女を、守らなければと思った。

 この少女が、何の不安もなく友達と笑い合える未来を、勝ち取らなければと、決意した。

 

「ちーちゃん」

 

「何?」

 

「これ、受け取って」

 

 そして千景には、お守りを渡す。

 

 竜胆は千景から、元いじめっ子と千景の話を全て聞かされていた。

 過去に何をされたかも、戦いの中で見捨てようとしたことも、そこで何を思ったかも、結局助けてしまったことも、全部、全部。

 竜胆は千景の選択を肯定した。

 千景は正しいとも言わず、千景が優しいとも言わなかった。ただ、肯定してくれた。

 

 そうして、千景の話を聞き終わった竜胆は、千景にお守りを渡した。

 千景が小首をかしげて、竜胆が苦笑する。

 本当に覚えていないらしい。

 あの日、竜胆、千景、若葉が"あの村"から帰ったあの日。

 村から帰る竜胆達を走って追いかけて来た子が、渡してくれたお守りは、『二つ』だった。

 

 千景はあの子がお守りをくれたことすら忘れていたようだ。

 だが竜胆は、あの子がお守りを二つ……竜胆と千景の二人分くれたことを、忘れていなかった。

 

 千景に今日までお守りを渡していなかった理由は明白だ。

 この前までの千景なら、確実にお守りをゴミ箱にシュートしていた。

 酷い話だが、竜胆はそこに確信を持っている。

 そして、今の彼女であれば捨てないだろうという確信も持っていた。

 

「今のちーちゃんになら、渡せる。捨てちゃ駄目だよ」

 

「……うん」

 

 千景は竜胆からお守りを受け取る。

 とても、とても複雑な気持ちだったが、千景の胸中にお守りを捨てる気は湧いてこない。

 ふと、千景が竜胆の方を見る。

 千景の手の中にあるお守りと、竜胆の手の中にあるお守りは、同じものだった。

 

(あ……おそろいだ……)

 

 捨てる気はなかったものの、大切にする気もなかったお守りだが、『おそろい』と思った途端になんだか大切にしようと思ってしまう。千景は現金な女だった。

 

「ちーちゃんは立派になったなぁ」

 

「……そう?」

 

「そうだよ。ちーちゃんの成長見てると、俺相対的に全然成長してないじゃんって思うレベル」

 

「そうでもないと……思うけど」

 

「いーや、そうだね」

 

 竜胆は、千景の成長を千景以上に喜んでいる。

 そして千景の方も、自分以上に自分の成長を喜んでくれている竜胆に、嬉しさを感じている。

 

 初めて出会ったあの日から、もう四年が経とうとしている。

 お互いに、背も伸びた。

 子供らしかった二人は、共に男らしく、女らしくなってもいる。

 成長により『魅力』や『違い』として表出する性差を、竜胆は人並み以下に気にしていなかったし、千景は人並み程度には気にしていた。

 

「昔はちーちゃんも子供に見えてたけど、今は昔ほど子供に見えないしさ」

 

 からからと笑う竜胆の台詞に、千景はちょっと気恥ずかしさを感じた。

 

「……なんだかやらしい意味に聞こえるわ」

 

「えっ」

 

「子供に見えないとか、なんとか……」

 

「いや、そういう意図は一切ないぞ」

 

 千景の気の迷いのような台詞に、竜胆が覚えたての言葉を返し、流れが一気に変わった。

 

「すぐそういう発想に繋げるのって、ちーちゃんムッツリなんじゃね?」

 

「!?」

 

「ちーちゃんはエロい子だなあ」

 

 "ムッツリは恥ずかしい"という感覚は、大体の場合、中学校の学校生活など、思春期真っ只中の社会生活の中で育まれると言われる。

 そこがスッポリ三年以上抜け落ちている竜胆には、ムッツリが恥ずかしいという感覚がなく、千景にはそれがあった。

 

「え……あ……む、ムッツリじゃないわ!」

 

「いや正直打ち明けると、ちーちゃんがムッツリなんじゃないかって疑惑は前から……」

 

「!?!?!?」

 

「いいんだよ、ムッツリでもいいじゃないか。

 俺はちーちゃんのこと嫌いにはならないし、好きなままだから」

 

「待って、そんな私じゃない私を好きにならないで!」

 

 千景は咄嗟に、ターゲッティングを逸らす技術を披露する。

 

「乃木さんは学級委員長だったと聞くわ。

 真面目な学級委員長なんて絶対ムッツリよ。

 あの真面目な顔の裏にムッツリの素顔を隠しているのよ」

 

「若ちゃんが? そんなわけ……いやでも割と俗っぽいとこあるしな若ちゃん……」

 

「そうよ、私はムッツリじゃないけど、乃木さんはムッツリの可能性はあるわ」

 

「そうかな……そうかも……」

 

「ムッツリは乃木さんだけよ……」

 

「いやそれはまた別の話なんじゃないか」

 

(逸らしきれなかった……)

 

「しかし丸亀城の勇者はムッツリっぽい勇者ばっかな気がしてきたな……」

 

「何? 気に入ったの? ムッツリって単語」

 

「いや別に気に入ったわけじゃないけど……

 杏からさ、色々本借りて勉強してたわけさ。

 それによると無口でエロいこと考えてる人をむっつりスケベって言うらしくて。

 ……ん? あれ、この定義だと、若ちゃんはムッツリじゃないのか……」

 

「伊予島さんっ……!」

 

 この後の会話の流れで、竜胆は千景の嫌がる言葉は千景の前では使わないという、彼らしさをまた発揮し。

 

 千景の決死の説得と話術により、千景はムッツリではなく、若葉はムッツリ、そういうことになった。

 

 

 

 

 

 若葉との特訓の日、竜胆は手伝いに来ていたひなたに、直球で問いかけた。

 

「ひーちゃん、若ちゃんってムッツリだと思う?」

 

「あらあら」

 

 ひなたはイエスともノーとも言わず。

 呆れた顔をするアナスタシアの真横から、突き出される木刀一閃。

 竜胆の白刃取りが、額への突きを受け止めていた。

 若葉の頬が、うっすらと赤い。

 

「今の木刀の一閃、若ちゃんの過去最高の剣速だったと思うぞマジで……!」

 

「私は恥辱には報復で応える。誰がムッツリだ!」

 

「分かった、謝る、謝る、ごめん! でもちょっと気になったんだよ!」

 

「気になったからといって聞くやつがいるか!」

 

「違う! 待って! 俺は仲間のこととかよく知っておきたいって思って!」

 

「それは私に『よく知りたいからスカートの中身見せて』と言うようなものだ!」

 

「え!? マジで!? そこまで!? それは本当にごめん!」

 

「お前は本当にっ……!

 ……ああ、もういい。お前がそういうやつだということは分かってる。

 というか、なんで私のそんなところを、ひなたに聞くほど興味持ったと言うんだ」

 

「若ちゃんがすけべだったらすけべなりの友達付き合いの仕方があるよなって思って」

 

「おい、言い方」

 

 竜胆が「俺が思ってた以上に地雷なのかな、この話題……」と呟き、若葉がその頭を小突いていた。

 私のそういうところに興味を持つな、俺が悪かったごめん、と二人は会話しながら流れるように軽く打ち合い、合図も掛け声もないまま、自然と模擬戦に移行した。

 

「若葉おねーちゃんと竜胆おにーちゃん、いつもこんななんだね……」

 

「二人とも素の自分で接してますから。遠慮がないんですよ。

 御守さんはちょっとデリカシーが足りませんけど、そこはありあまる友情でカバーして……」

 

「カバーできてないよ」

 

「し、辛辣……」

 

「いやあ、でも、あの話題を許せるのは凄いなあ。

 もっと怒ってもいいのに。若葉おねーちゃんは寛容だ。

 それはそれとしてあたしも若葉おねーちゃんが真面目な顔してすけべだったら面白いと思う」

 

「アナちゃん!?」

 

「面白いって思うだけならタダだもんね」

 

 めまぐるしく、剣持つ若葉と、盾持つ竜胆の攻防が入れ替わる。

 今ちょっと軽く言い争ったばかりだと言うのに、竜胆の若葉への理解、若葉の竜胆への理解に、微塵の揺るぎもない。

 互いの強さを完全に理解した上で、その上を行こうとする切磋琢磨。

 竜胆が若葉を、若葉が竜胆を、鍛え上げる繰り返しである。

 

 微笑ましそうにそれを見守るひなたを見て、アナスタシアは溜め息を吐いた。

 

「どうですアナちゃん? かっこいいでしょう、二人共」

 

「でも、未来を変えられるほどの強さじゃないよ」

 

「かっこよさは強さではなく、懸命でひたむきな背中に宿るものですよ?」

 

「……」

 

 この人の周りはかっこいい人が育つんだろうなあ、と、アナスタシアは思った。

 ひなたおねーちゃんは美人だし、普通の男の人ならこういうこと言われたら絶対奮起するよ、とも思った。

 

「アナちゃん、未来はきっと変えられますよ。若葉ちゃんがそう信じていますから」

 

 けれどもし、彼女に好かれようとして頑張る普通の男の人がいたとしたら、この目に折られてしまうのだろうと、アナスタシアは思う。

 若葉を信じ切った目。

 全幅の信頼を若葉に向ける目。

 ひなたはきっと、この世の何よりも乃木若葉を信じている。

 

 ひなたの中で永遠に『二番』になることを覚悟し、割り切れる精神性でも持っていなければ、ひなたの伴侶にはなれないだろう。

 心の強度が普通で、仲間の死に打たれ弱いひなたが立っていられる理由は、ここにもある。

 ひなたは若葉を信じている。

 絶対的に信じている。

 世界を若葉が救ってくれると、揺らがぬ心で信じているのだ。

 

 そう、ここが、アナスタシア・竜胆・若葉と、ひなたの決定的に違うところ。

 

 ひなたが未来を変えられると信じているのは、"若葉が変えられると信じているから"なのだ。

 

「若葉おねーちゃん」

 

 竜胆と打ち合っている若葉に、アナスタシアが声を掛ける。

 言葉なくとも若葉の意を察した竜胆が攻め手を緩め、若葉が感謝を攻防の流れにて示す。

 アナスタシアと話しながらでも打ち合えるだけの余裕が出来た。

 

「若葉おねーちゃんは、本気で未来を変えられるって信じてるの? どうして?」

 

「小難しい理由はない。私は、許せないだけだ」

 

「何を?」

 

「未来を変えられたかもしれないのに、怠けたせいで変えられなかったという結果をだ。

 良き未来があったはずなのに、自分のせいでそこに辿り着けなかったという結果をだ。

 手を抜いてそんな道筋を辿ってしまったなら、私はその時、自分で自分を許せないだろう」

 

「……若葉おねーちゃんらしいや」

 

 どこまでも真面目に、誠実に、自らの全力を尽くし続ける。それが乃木若葉だ。

 

「でも、変わらない未来を見続けたら、若葉おねーちゃんだって折れるよ」

 

「折れん」

 

「……」

 

「未だ来ていないから未来なのだ。ならば存分に抗ってやる価値はある」

 

 竜胆の言葉も、若葉の言葉も、アナスタシアの胸を打つ。

 

 戦って、高め合う竜胆と若葉を見ていると―――何故だろうか。

 

「そうだろう、竜胆!」

 

「ああ!」

 

 アナスタシアの胸の内に、"もしかしたら"という気持ちが湧いてくる。

 人はそれを、『希望』と言うのだろう。

 アナスタシアは、若葉と竜胆の姿に、希望を見た。見てしまった。

 希望を持ってしまえば、もう諦観の終わりは迎えられないというのに。

 

 ひなたが、アナスタシアを横からぎゅっと抱きしめる。

 柔らかく、暖かく、優しい包容だった。

 

「若葉ちゃんはきっと、世界が燃え尽きる瞬間を目にしても、世界を諦めたりしません。

 未来の滅びを見たくらいじゃ、きっと諦めないですよ。本当に強い人ですから」

 

「……知ってるよ」

 

 そう、だからこそ。

 "若葉を殺す"には、"ひなたを殺す"のが一番の近道であることを、アナスタシアは知っている。

 アナスタシアは、最後に仲間へと問いかけた。

 

「―――全て無駄だと分かっていても、何もかも無駄だとしても、それでも戦える?」

 

 返って来た答えは、アナスタシアの予想していた通りのものだった。

 

 未来は変わらない。

 アナスタシアはそう確信している。

 それでも、諦められないものはあり。

 せめて、未来は変えられなくても、生き残る人を一人でも増やせたなら―――そんな希望にすがって、アナスタシアは足掻くことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人の絶望と、子供の絶望は違う。

 どちらが上だ、下だ、という無粋な話ではない。ただ、質が違うのだ。

 少なくともケンだけは、そう思っていた。

 

 ケン・シェパードは、元警官である。

 12歳の時、母と姉と妹が強姦殺人で殺され、父親が自殺した一連の流れを全て見たケンは、せめて自分は"正しくあろう"と考えた。

 間違ったものを倒す。

 自分で自分を守れない人達を守る。

 弱き人達が、力がないせいで掲げられない小さな正義。その正義の味方になる。

 そう志して、警官になった。

 

 願ったものはたったひとつ。悲しみなんて、ない世界。

 

 その後も、多くの凄惨な事件を見てきた。

 ケンという個人として、心に従い人を救ってきた。

 一人の警察官として、法に従い人を救ってきた。

 醜いものも、綺麗なものをたくさん見てきた。

 その上で、ケンが人を救うことを止めたことは、一度もなかった。

 

 だからこそ、ケンは知っている。

 

 何の罪も無い人が理不尽に殺されるのは、どこにでもあることだと。

 そして、それを止めようとすることは、当たり前のことだということを、だ。

 

 世界は理不尽に溢れている。

 犯罪者のような、理不尽に殺そうとする者はどこにでもいて。

 警察官のような、それを止めようとする者はどこにでもいる。

 ケンに言わせれば、世界は何も変わっていない。

 殺す者の名前と、守る者の名前が変わっただけで、世界は何も変わっていなかった。

 

 ケンは知っている。

 天の神とバーテックスの全てを倒した後は、人間が理不尽に罪の無い人を殺す『元の世界』が戻ってくるだけだということを、知っている。

 

 だからこそ。

 罪の無い人が理不尽に傷付けられてはいけない、と大声で叫ぶ竜胆を、ケンはずっと幼稚なものを見るような目で見ていた。

 そんな竜胆を、ケンは尊く感じていた。

 そんな竜胆を、ケンはとても大切にしてくれていたのだ。

 

 バーテックスが居ても居なくても、罪の無い人が理不尽に殺されることはなくならない。

 それは当たり前のこと。

 世界から犯罪がなくならないのと同じで、当たり前のことだ。

 

 天の神が居ても居なくても、人を守ろうとする者はいなくならない。

 それは当たり前のこと。

 様々な治安維持組織が社会から消えることがないのと同じで、当たり前のことだ。

 

「だから僕は人を守り続けよう。

 僕がここにいる。皆がここにいる。

 ならば守ることこそが、僕にとっての当たり前。ケン・シェパードの正義だ」

 

 平和、幸福、笑顔を脅かす者は、永遠に居なくなることはない。

 だからこそ、自分がそれらからずっと人々を守り続ける。

 それが、警察官としてのケンの信念だった。

 

 故郷をバーテックスに滅ぼされても、大切な人をバーテックスに皆殺しにされても、何度も何度も大切なものを奪われても、一度も揺らがなかった、彼の信念だった。

 だからこそ、パワードは彼を選んだのだ。

 

「これが僕の正義。僕の誓いだ。だけど、心残りが一つだけ」

 

 ケンにとって、戦いとは"いつか終わって日常に帰るもの"ではない。

 "人の営みが続く限り永遠に続くもの"だった。

 生きる限り人のために戦い続けるという、警察官の覚悟を持っていたケンが、持ってしまった心残りはただ一つ。

 

「……僕はリンドウに、普通の子供でいてほしかったんだろうな。

 少しずつでいいから、肩の力を抜いて、笑って、穏やかな日々の中で……未練だろうか」

 

 竜胆だけではない。他の子供達にも、ずっと普通の子供でいてほしかった。

 でも、もうそれは、叶いそうにない願いだったから。

 せめて、子供達が普通の子供に戻れるかもしれない未来を、懸命に守るしかなくて。

 

「だけど、もう、僕が最後まで走り切るしかない。

 どうかこの願いが叶うなら、僕が最後の死者になりますように」

 

 せめて、自分の命を捨ててでも、全ての戦いに決着をつける。

 

 それが、ケンの決めた最後の覚悟。

 もうこれ以上、子供達に地獄の苦しみを味わわせないために。

 子供達の幸福を祈って死んでいった、ボブの冥福を祈るために。

 自分を最後の死者とする覚悟を、ケンは決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、仲間達が次々と死んでいくと予言された最初の日、運命の時がやって来る。

 ひなたは戦いに赴く仲間達に、凛とした声をかけた。

 

「自己犠牲は尊く、美しいのかもしれません。

 けれど辛いものであり、正しいとも限らないものです。

 そして大抵の場合、周りにとっては優しくないものなのです」

 

 ひなたは深々と、頭を下げる。

 

「どうか、ご武運を。皆さん揃って、帰って来てください」

 

 ひなたの不安そうな顔を見て、竜胆は一計を案じる。

 

「ひーちゃん、手を上げて」

 

「? こうですか?」

 

 ひなたが手を上げると、竜胆はそこにハイタッチ。

 まったく、と言わんばかりに、若葉も後に続いてハイタッチ。

 はいたーっち! と声を上げ、友奈もハイタッチ。

 ケンもノリノリでハイタッチ。

 千景もおずおずと、ハイタッチ。

 ひなたにハイタッチした戦士達が、ひなたに背を見せ歩いていく。

 

「……誰も、死なないでください! それ以上は、何も求めませんから!」

 

 ひなたの声に、"悲しませたくない"と強く思ったのは、竜胆だけではないだろう。

 

「だってさケン。死を宣告されてるケンは、特に張り切らないとな」

 

「……ウン、マア、デモ」

 

 運命に勝てれば、ケンは生き残る。

 運命に負けれは、ケンは死ぬ。

 なのに、熱量を感じる竜胆の言葉とは対照的に、ケンの口調は穏やかなものだった。

 

「キミタチノシアワセガ、ボクノシアワセ。

 キミタチガイキルコトガ、ボクガイキルコト。

 ボクガシンデモ、キット、ソコデゼンブオワリジャナイ」

 

 ケンの大きな掌が、竜胆の頭を撫でる。

 彼の表情は死を受け入れつつも、今日という日に戦いを終わらせるにはどうすればいいかを、考えている顔だった。

 

「違う」

 

 竜胆は死を無意味なものにしない者。

 だが、だからこそ、死ぬべきでないと叫ぶものだった。

 

「全ては、生きてこそだ。ケン」

 

 感情と論理を、竜胆は一緒くたにしてぶつける。

 

「数日後にはひーちゃんが死ぬかもしれないんだぞ、ケン。

 だから、俺はまず第一歩としてケンを助ける。

 ウルトラマンだから、一番死ににくいはずだ。

 運命は一番変えやすいはずだ。

 そして、ケンという戦力を増やすことで、ひーちゃんの運命を変える。

 その次の、ちーちゃんと杏の未来も変える。全ての鍵はケンなんだ。ここが肝なんだよ」

 

 竜胆が語る理屈は、誰を助けたら誰を助けられない、といった選択性の救済の話ではなく。

 "全員生存を目指す"からこそ、"最も多くの者を生かせる"という理屈。

 皆で生きて明日を目指す理屈である。

 

「生きてくれ、ケン。皆のために」

 

 今日ここで死んでもいいと覚悟を決めていたケンの覚悟が、大きく揺らいだ。

 

「……キミノホウガ、ボクヨリタダシイコト、イッテルナア」

 

「俺が言ってるのは正しいことじゃない。

 当たり前のことだ。ケンが死んだら悲しむ人が何人いると思ってるんだよ」

 

「ウン……ソウダ」

 

 子供は少し目を離した隙に成長していく。

 ケンは竜胆を子供と見て甘やかしてやりたい気持ちと、立派な男として認めてやりたい気持ちの間で、少し揺れていた。

 子供と大人の中間にいる子の扱いは難しい、とケンは思う。

 だからこそ見ていて面白いのかもしれない、とも思った。

 

 出会った頃の竜胆は、ケンを正しい方向へと導こうとする子供ではなかった。

 理詰めで誰かの中に"生きる理由"を作ろうとする男ではなかった。

 でも、今はそうではない。

 ケンにとって、それはたまらなく嬉しいことであったのだ。

 

「来た」

 

 竜胆が気配を感じ取り、結界の端が揺れる。

 樹海化は発動しない。

 ブルトンによる無効化は、今この瞬間も続いている。

 

 気のせいか、四国結界そのものすら揺らがされているようだった。

 ブルトンの干渉度合いは日に日に増している。なんと恐ろしいことか。

 だが、今はそのブルトンよりも遥かに恐ろしいものが、結界の向こう側からやって来ている。

 

「ゼット……!」

 

「久しいな、ティガ、パワード。それに……ネクサス」

 

 終わりの名を持つ者が、再び四国内部へと君臨した。

 最悪なことに、グレートが与えたダメージも全て完治してしまっている様子。

 ここにいる三体のウルトラマン全てと過去に戦い、全てに決定的敗北を叩き込んだゼットは、ただそこにいるだけで四国全域に重圧を与えている。

 心弱きものでは、立っているだけでも辛いだろう。

 

 勇者は端末、ケンはフラッシュプリズム、竜胆がブラックスパークレンス、そしてアナスタシアもエボルトラスターを取り出した。

 竜胆が思わず、車椅子のアナスタシアを止める。

 

「ナターシャ、無理は……」

 

「あたしも戦う。あたしの見た未来では、この戦いにあたしは参加してなかったもん」

 

「!」

 

「できることは多くないけど、あたしもやれることをやってみる」

 

「……助かる。頼りにしてるが、無理はするなよ、ナターシャ」

 

 運命を変えようとする、アナスタシアの選択。

 やはりアナスタシアは、諦められない少女であった。

 折れた心に鞭打って、ケンが死ぬ可能性を覆すために、その先のひなた達の死の運命を覆すために、無理をしてエボルトラスターを握っていた。

 

「行くぞ、皆! 見せてやる! 俺達の勇気を!」

 

 勇者の端末が起動。

 フラッシュプリズムが光を放つ。

 ナターシャが、若葉のような抜刀で、エボルトラスターを引き抜く。

 ブラックスパークレンスが、高く空へと掲げられる。

 

 三人の勇者と三人のウルトラマンが、光闇渦巻く丸亀城の正面に、降り立った。

 

 

 

 

 

 敵勢が全て結界内に飛び込んだのと、ネクサスのフェーズシフトウェーブがメタフィールドの展開を完了させたタイミングは、ほぼ同時だった。

 敵の全てと味方の全てが、メタフィールドによって市街地から隔離される。

 赤土の荒野にて、竜胆は絶句した。

 

『ゼットン……!? 待て、何体居るんだこれ……!?』

 

 ゼットン、ゼットン、ゼットン。

 右を見ても左を見てもゼットン。どこを見てもゼットンの群れ。

 無数のゼットン達が、キロメートル平方という規模で、遠巻きに竜胆達を取り囲んでいた。

 ゼットン達が円形に竜胆達を囲んでいるせいで、まるで黒一色の壁のようですらある。

 

「ゼットン・リングだ」

 

 ゼットがゆらりと手を広げ、立ち並ぶゼットン達を手で示す。

 

『ゼットン・リング……?』

 

「安心するがいい。

 このゼットンどもがお前達に手を出すことはない。

 こやつらはただの見届人であり、壁だ。宇宙で一番強固な闘技場(リング)でもある」

 

 ティガ達と相対するのは、ゼットと、その横の奇妙な怪物のみ。

 

 その怪物は、なんとも奇妙な怪物だった。

 これまで出て来たバーテックスは、どれもこれもが"何かに例える"ことができた。

 鳥のよう、恐竜のよう、クラゲのよう、と。

 だが、これは違う。

 ゼットの横にいる怪獣には、あらゆる形容が不可能な形状をしていた。

 ただ、その容姿は、おぞましさに溢れた印象と感想を叩きつけてくるものだった。

 

(これが……イフ?)

 

 例えるなら、神。

 例えるなら、概念。

 例えるなら、宇宙の現象。

 よく分からない何かが、ゼットの横で蠢めいている。

 竜胆はその存在を、上手く言語化して理解することができなかった。

 

「天の神側で貴様らと戦うのは、私とこのイフ、二体のみ。

 そちらは何人でかかってきても構わん。ただ、全力で来い」

 

 ゼットとイフ、二体のみが戦うという。

 それは人類側にとってはとても助かることであったが、天の神側に一つの得も無いことであり、竜胆はそこを訝しがった。

 

「貴様らが勝てば、今回は貴様らも生きて帰れることを保証しよう。

 このゼットン軍団が手を出すこともありえん。我らに勝てるなら、だがな」

 

『随分こっちに有利な条件だな。全員でかかってこないのかよ、ゼット』

 

「イフを投入した時点で、天の神は人類の滅亡を確信している」

 

『―――なっ』

 

「ならば後は自由ということで、この一戦は私の流儀でやることを許可してもらった。

 私の流儀であろうとなかろうと関係なく……

 イフを投入した時点で、全て終わったということなのだろうな。

 天の神は既に、人類の掃滅を完了したつもりでいる。それだけの話だ」

 

『……舐めやがって』

 

 竜胆達は二体の敵に対し、二手に分かれた。

 千景の分身六体と、パワードがイフへ。

 ティガ、若葉、友奈、千景がゼットへ。

 ネクサスは後方待機。状況に合わせて対応していく。

 

 くるりと手の中で槍を回すゼットと、ティガダークが対峙する。

 

「死力を尽くすがいい。一対一でなければ卑怯、などとは言わん。

 絆、友情、連携……何もかもを積み上げるが良い。全てまとめて、灰にしてやろう」

 

『俺達が遊んでたわけじゃないってことを見せてやる! 吠えヅラかきやがれ、ゼット!』

 

 ゼットが槍を振り、ティガの蹴りがそれを弾く。

 

 黒き終わりと黒き巨人、宿命の対決が今、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、悪夢がもう一つ。

 

 パワードは千景の無謀な突撃を手で制し、イフの様子を窺っていた。

 イフはまだ動いていない。

 パワードもまだ動いていない。

 いや、パワードの方は、"動けなかった"というのが正しい。

 

 対峙して分かる、あまりにもおかしい、異様な存在感。

 どう攻めても終わる、そんなイメージしか湧いてこない。

 時間が経つ。

 時間が流れる。

 ティガとゼットはもう幾度となく攻防を繰り返しているというのに、パワードは前に踏み込むことすらできていない。

 

「ケン、どうしたの?」

 

 千景の声にも応えられない。

 イフに向かって踏み込めない。

 イフに向かって攻撃できない。

 イフから目を離せない。

 何かをすれば、何かした、ただそれだけで、全てが終わってしまいそうな恐怖がある。

 

『ハァ……ハァ……』

 

 何もしていないのに、息が切れる。

 ケンとパワード、その両方が、この存在の恐ろしさを本能で感じてしまっていた。

 イフ相手に何かを仕掛けて、その先で、自分が生きていられる気がしない。

 だから何もできない。

 あまりにもおかしな、非現実的な敗北の未来の認識。

 

『!』

 

 だが、イフはいつまでも待ってはくれなかった。

 イフが()()()()()()()()()()()()()()

 

 パワードはそこに異常な違和感を覚えた。

 イフが人間に敵意を持ち、自分から人間やウルトラマンに襲いかかっていくことに、何故こんなにも違和感を抱くのか、パワード自身にも分からなかった。

 何故かイフには、自分から他人に襲いかかるその姿が、酷く似合っていなかった。

 

『クッ!』

 

 パワードが思わず、迎撃の拳をイフへと叩きつける。

 その瞬間にパワードが感じた手応えを、なんと表現すればいいのだろうか。

 宇宙。

 そう、宇宙だ。

 ()()()()()()()()()手応え。

 

 "こんなものを壊せるわけがない"という確信が手に残る、異様な手応え。

 "イフを殴って壊すのは、宇宙を殴って壊すようなもの"だと、パワードは理解した。

 そして、イフの全身から腕が十数本と生え、それぞれがパワードを殴打する。

 

『―――ガッ!?』

 

 拳の一発一発が、僅かな誤差もなく、パワードが先程打ち込んだ拳と同威力であった。

 すなわち、威力一億トン。

 それが十数本の腕で、パワードの全身を殴打していく。

 拳の連打でついでとばかりに潰されていく千景達は、イフの体から発射される水色の無数の輝きを見た。

 

「彗星に……流星……流星群……!?」

 

 小さくとも確かに星であるものが発射され、パワードの全身を打ち据えていく。

 

「太陽!?」

 

 小さくとも確かに太陽であるものが発射され、パワードの顔面に激突する。

 

「今度は、ゼットンの一兆度……」

 

 そして、パワードの右足が、ゼットンの一兆度によって穿たれ。

 

「ブラックホール……!?」

 

 しまいには、極小のブラックホールまでもが発射された。

 流石にこれを喰らえばパワードとて一撃死だ。

 必死の思いでブラックホールを飛んで回避したものの、ブラックホールが異常な挙動で消失したことで、イフの不気味さは更に増していった。

 

『ナンダ……コイツ……!』

 

 パワードが空中から、最強のメガ・スペシウム光線を解き放つ。

 一億度の高熱が、イフの全身を崩壊させ―――イフはあっという間に再生し、"コピーした"メガ・スペシウム光線を四方八方に連射する。

 

『―――!?』

 

 パワードがメガ・スペシウム光線を一度撃つ間に、イフは十数発のメガ・スペシウム光線を連射し、その内四発がパワードへ向かい、その内一発が直撃した。

 威力はそのまま、パワードが先程撃ったメガ・スペシウム光線そのもの。

 

『ウ……ガアアアッ……』

 

 胸を焼かれたパワードが落ちる。

 イフは変わらず、一億度のメガ・スペシウム光線を四方八方に連射していた。

 淡々と、人間とウルトラマンへの殺意以外、何の感情も見せないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全生命体イフ。

 

 それは、語られる最強の一体、無敵と言われるものの一つ。

 持つ能力はただ一つ。

 外部からの刺激に反応して進化し、外部から受けた刺激をそのまま外部へと返す、これだけだ。

 ここに不死身の再生能力が加わることで、イフは最悪の悪夢となる。

 

 彗星や流星をイフにぶつけた。

 イフは彗星や流星で死なず、それらを外部に絶え間なく連射する存在に進化した。

 太陽にイフを放り込んだ。

 イフは太陽では死ななくなり、太陽を外部に射出する存在に進化した。

 ゼットンと戦わせた。

 当然のように、一兆度を習得した。

 ブラックホールにイフを放り込んだ。

 イフはブラックホールでは死ななくなり、ブラックホールを外部に発射する存在に進化した。

 今、パワードの光線を受けた。

 ゆえに、光線が効かず、光線を絶え間なく連射する存在になった。

 

 やろうと思えば、イフにビッグバンだってぶつけられただろう。

 そうなれば、もしかしたらイフはそれにも耐えて、ビッグバンを連発する存在として、この結界の中に現れていたかもしれない。

 そうならなかったのは、きっと"これでもう十分"だと天の神に判断されたから。

 

 天の神はイフという駒の用意に、年単位の時間をかけた。

 そして、人間とウルトラマンへの殺意を植え付けたイフを完成させ、投入したのだ。

 

 イフは意志無き存在として在る時点で最強、無敵。

 にもかかわらず。

 今ここにいるのは、"悪意あるイフ"であり、"敵意あるイフ"。

 

 これが、ナターシャに未来を諦めさせたもの。アナスタシアが見た絶望の一つ。

 

 絶望の序幕を飾る、最強にして無敵の怪物。

 

 その名は畏怖(イフ)。災害神の如く、絶望する人間達に恐怖で見上げられし者。

 

 

 

 




【原典とか混じえた解説】

●完全生命体 イフ
 ウルトラシリーズ52年の歴史の中で、『最強の怪獣』を一体決めるとするならば、間違いなく最終候補の五指に入る存在。
 最強論争という、果てしなく不毛で無駄であるはずの論議において、まごうことなく最強と呼ばれる『規格外』の内の一体。

 イフは外部から受けた刺激を、そのまま外部へと返す。
 ミサイルを受ければ、ミサイルを外部へと連射する存在に。
 ウルトラマンの光線を受ければ、ウルトラマンへとその光線をそのままの威力で連射する。
 その強さに上限はない。
 その強度にも上限はない。
 強力なウルトラマンが全力で光線を一発撃っても、イフが消え去ることはなく、イフは受けた光線をウルトラマンに連射して返し、ウルトラマンを倒してから地球を焦土へと変える。
 宇宙を粉砕する一撃を当てれば、宇宙は壊れてもイフは残り、イフは宇宙を粉砕する一撃を振り撒きながら宇宙を渡る存在となるだろう。

 誰も倒せない。ゆえに無敵。
 全てを返す。ゆえに最強。
 付け入る隙の無い完全。ゆえに畏怖。

 イフを相手にして戦おうとすること、それ自体が間違いになる存在。
 イフを相手にして勝とうとすること、それ自体が間違いになる存在。
 "力で敵を倒すことのみを考える愚かしさ"を伝えるために、『世界に無敵であることを約束されたかのような』、強さという概念を超越した生命体。
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