夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 仲間が死ぬたびに強くなる。

 心の光が身体強度から順にスペックを低下させる。

 ボブと球子の死を越えたティガダークは、以前戦った時の理性あるティガダークを遥かに超える力強さと速さを持って、ゼットと技巧戦を吟じていた。

 

 ゼットが何よりも評価したのは、力でも速さでもなくその技だ。

 技が何よりも伸びている。

 その技量はゼットを超えており、竜胆は絶対に認めないが、既にボブをも超えている。

 最高の才能。

 武器持ちの若葉との数えきれない特訓。

 絶え間ない鍛錬。

 それらが、ある程度の格上であれば技だけで制圧できるほどの技量を、竜胆に身に着けさせていた。

 

 槍と剣はかなり違うが、若葉との特訓で対武器戦闘術はしっかりと身に着いている。

 ティガが流麗に自分の刺突を受け流すのを見て、ゼットはその技に思わず見惚れていた。

 

「随分と技を練り上げてきたと見える」

 

 地球人最高の戦闘の才を、ゼットは駄菓子のように楽しむ。

 ゼットが小手調べを終わりにして、槍の威力を倍にした。

 槍を拳で弾いていたティガダークの手に残る手応えが、一気に重くなる。

 

『っ』

 

 黒き姿から、黒赤の姿へ。

 ティガがタイプチェンジに要する時間は、設定上0.5秒。

 バランスの取れた形態から攻防力が上がる剛力形態(パワータイプ)へと変わり、槍の重い一撃を拳で弾いた。

 

「ティガトルネード……力に偏重する形態変化(タイプチェンジ)か」

 

『仲間が俺にくれた力だ!』

 

「仲間が死んで強くなった、の間違いだろう」

 

 突くか、振るか。

 点攻撃か線攻撃か、槍の攻撃はこの二つに分けられる。

 更に手足を狙って敵の戦闘力を削ぐ突き、急所を狙う必殺の突き、重力を味方につける打ち下ろしの振りや、遠心力を乗せた横薙ぎの振りなど、ここから更に細分化していく。

 

 ティガトルネードの拳が槍を叩いて弾き、掌が槍を弾いて逸らす。

 黒き体が膨大な力を吐き出して、赤い光が闇の力の手綱を握る。

 パワーだけなら、ゼットの剛槍を弾き続けられるレベルにまで上昇していた。

 

(いける!)

 

 相手の攻撃の前に攻撃を察知し、攻撃前の敵の予備動作を見切り、敵の攻撃に対し最適な対応を返すのみならず、何手か先まで読んでこの時点で布石を打つ。

 過去にボブは竜胆の動きを、そういう風に分析した。

 竜胆はどっしりと構え、力と技で真正面からゼットにぶつかる。

 ゼットは未だ無傷だが、ティガもまた、無傷だった。

 

「なら、こういう攻め手はどうだ?」

 

『!?』

 

 ゼットの重い槍の連撃を、ティガトルネードの豪腕・技巧が弾いていた流れが終わる。

 槍の一撃が少し軽くなり、槍の速度が一気に上がった。

 槍が突き出される速度も、一秒あたりに槍が突き出される回数も、段違いに上昇する。

 スピードが下がっているティガトルネードでは、それらは受けきれない。

 

 ティガダークよりも強固なはずのティガトルネードの体が、絶え間なく切り裂かれ、毎秒のように全身に切り傷が増えていった。

 

「やはり速度が下がっている。それでは、技も活かしきれんだろうな」

 

『くっ……!』

 

 竜胆の戦闘センスと才覚がなければ、この速度に圧倒され、あっという間にみじん切りにされていたかもしれない。

 先を読み、ゼットの攻撃を誘導し、速度で負けても防御を成立させる。そうやって竜胆は、深い切り傷と急所への一撃だけは徹底して避けていた。

 

 やはり、ゼットは強い。

 地力からして圧倒的に強いがために、ちょっとした工夫が必殺の対応になる。

 根本的に応用力が高く、柔軟な戦闘スタイルは、対策困難なほどに多様な攻め手と受け手を繰り出してくるものだった。

 

「私の存在価値とはなんだ」

 

 一息にも満たない一瞬で、いくつもの槍の軌跡が空中を走る。

 一つを除いて全てをティガトルネードが弾き、一つがティガの頬を抉るように削った。

 

「私が生まれた意味とはなんだ」

 

 同時に突き出されているようにしか見えない、超高速の三段突き。

 ティガトルネードの両腕が二つを弾き、一つがティガの首筋をかする。

 

「光の巨人が、私でなくても殺せる矮小な命なら……私が生まれた意味など無い!」

 

 ゼットは、生み出された命だ。

 "ウルトラマンを倒し、その歴史を終わらせる"という使命を与えられ、この世に生まれた。

 与えられた心は、『意志の力』を持ち、ウルトラマンの全てを抹殺せんとする。

 心あるからこそ最強のゼットン。

 だが、心とは、なんなのだろうか?

 

 心とは、生涯が育むものだ。

 このゼットにはこのゼットの人生がある。

 与えられた心は、この地球での物語と、この地球での戦いが育んでいく。

 そう、ゼットの心は今この瞬間も、ウルトラマン達との戦いで変化し、成長しているのだ。

 

「もっと速く打て、もっと重く打て!」

 

 そして竜胆もまた、成長している。

 ゼットの攻撃を必死に弾きながらも、ゼットの動きを目に焼き付け、その行動パターンを常に頭に叩き込み続けていた。

 徐々にゼットの動きを見切り、その動きの先読みの精度を上げている。

 秒単位で成長を重ねるという、恐るべき規格外の天才。

 

 だが、それでも、ゼットという頂は遠い。

 この程度の成長では追いつけない。

 

「『ゼットン』は―――()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ!」

 

 槍薙ぎの直撃を受け、ティガの体が浮き、地面を転がされる。

 

「ウルトラマンが強くなければ、ゼットンが強いなど誰も思わない!

 ゼットンは強きウルトラマンを倒して初めて、その価値を証明する!

 強く在れ! 私を楽しませろ! その輝きが強ければ強いほど―――私が挑む価値がある!」

 

 追撃の槍突きを、生み出した旋刃盤で受け止めた。

 ミシリ、と旋刃盤が嫌な音を立てる。腕が痺れる。

 真っ向から受け止めるのは、やはり悪手だ。

 腕が痺れたティガへと、追撃のもう一刺しが迫る。

 

 そうして、"そこに槍を誘い込んだ"ティガの狙い通りの位置に、槍が来て。

 横から突っ込んだ若葉の斬撃が、槍の軌道を僅かに変えた。

 ティガの首の横を、槍が何も貫かず通り過ぎていく。

 ゼットの想定外に槍は外れ、そのチャンスに竜胆が旋刃盤を叩きつけようとするが、バックステップでかわされてしまった。

 

「ほう」

 

 ゼットはティガを見ている。

 ティガの動きを見切っている。

 ゆえに、ティガの創意工夫だけではその意表を突けない。

 

 だが、仲間との連携があれば。

 正面からでは突破できないベムスターでも、仲間と連携すればその背後を突けるように、仲間との連携があれば、違う結果が出せるかもしれない。

 

 ネクサスが歯を食いしばって、後方で手刀を突き出した。

 突き出した手刀から放たれる光刃……『パーティクル・フェザー』である。

 極めて鋭い、三日月状の刃が飛んで、ゼットの槍がそれを弾いた。

 

 砂糖菓子でも砕くかのように、軽く斬撃光線を弾くゼットは恐ろしい。

 だが、予想済みだ。

 砕かれて舞い散る光刃の破片。

 迎撃のせいでゼットに出来た死角に潜り込むティガ。

 そうして、ティガの拳が初めて、ゼットの腹に叩き込まれた。

 

『もしも俺に……お前に勝る力があるとすれば……!』

 

 仲間が作ってくれた隙を、ティガが突く。

 

 それこそが、"一人でない"という強さ。

 

『それは、"これ"だけだ!』

 

 飛び退ったティガの足元左右に、二人の勇者が立つ。

 ゼットは恐るべき敵だ。

 出し惜しみして勝てる敵ではない。

 誰もが限界を超えねば勝てない……だからこそ、若葉と友奈の決断は、速かった。

 

「降りよ―――『大天狗』!」

 

「来い―――『酒呑童子』!」

 

 友奈の身に纏われる、敵を壊す攻撃だけを考えているかのように、腕部の攻撃ユニットである腕甲だけが大型化した勇者衣装。

 若葉の身に纏われる、修験者のような服、巨大な黒翼、変形し巨大化した太刀、それらの全体バランスを取る勇者衣装。

 

 禁じられた精霊が、二人の体に憑依した。

 

 

 

 

 

 四国の守護神。

 天に仇なす大化生。

 日本三大怨霊すら内包する、大妖怪のカテゴリー。

 それこそが、若葉の降ろした『大天狗』の特性である。

 

 そして酒呑童子も神にして鬼、日本三大妖怪の一角。

 本来ならば、人間一人の体の中に収まるような規格(スケール)の存在ではない。

 鍛えた体でも、一瞬気を抜けば内側から弾け飛ぶだろう。

 

 あまりに危険な精霊だが、二人は比較的安定してその身に精霊を宿していた。

 今日まで地道にやってきた、ひなた先生による精霊イメージを深める勉強の成果である。

 より深く精霊を理解したことで、精霊から安定して大きな力を引き出せるようになり、戦闘力の向上のみならず勇者にかかる負荷も軽減することができていた。

 

「竜胆!」

 

『応!』

 

 若葉が剣を振り、竜胆が旋刃盤を掲げた。

 剣と盾に炎が宿る。

 大天狗は、天上世界を焼き尽くしたとされる大天魔だ。

 必然、その能力は天を討つ神殺しの炎である。

 

 振り下ろされた剣から、炎の斬撃が飛ぶ。

 投げつけられた旋刃盤が、炎の竜巻(トルネード)を纏い飛ぶ。

 息を合わせた、二人の炎の連携だった。

 

「ぬるい炎だ」

 

 並みの怪獣なら必殺であるそれを、ゼットは左手を振ってかき消した。

 軽く火傷した様子すらない。

 されどこの炎は連携の起点。ゼットの視界を炎で塞ぎ、次に繋げる一手だった。

 

「『 うおおおおっ!! 』」

 

 巨大化した友奈の腕甲と、ティガトルネードの拳がゼットに向けて振るわれる。

 山をも砕く二人の拳の一点突破。

 ゼットは二人の拳を、右手に握った槍で受け止めた。

 拳が着弾しただけなのに、ダイナマイトが爆発したような音が響き渡る。

 これも容易く防がれたが、そんなゼットの視界がまた塞がれた。

 

「これは」

 

 若葉の背中に生えた黒翼が拡大化し、ゼットの視界を一瞬塞いだのだ。

 そして、その一瞬に、三人が仕掛ける。

 竜胆・若葉・友奈は、一つの心で三つの体を動かしていると思えるほどの完璧な連携にて、三方向からゼットに攻撃を仕掛けた。

 

「悪くはない、が」

 

 だがゼットは、槍をその場で回すように投げ若葉に当て、槍投げに動かした右腕をそのまま友奈に叩きつけ、ティガに左拳でカウンターを見舞う。

 何気ない反撃に見えるが、"視界を塞いでからの三方向同時攻撃"に対し的確にこれができるという時点で、異常過ぎる反撃であった。

 

「きゃっ!?」

「ぐっ」

『ぎっ……!』

 

「力が足らんな」

 

 若葉と友奈は己の武器で受け止めたものの、やはりゼットの一撃は重い。

 友奈の腕甲にヒビが入り、若葉の肋骨にヒビが入った。

 腹に直撃を貰ったティガトルネードの内臓もグチャグチャに潰れていたが、こちらはほどなくして治った。

 

 その時、竜胆はゼットの細かな挙動を見抜く。

 それはゼットが前の戦いの時、瞬間移動の前に見せた小さな挙動であった。

 

『! させるかッ!』

 

 即座に放たれる、ティガ・ホールド光波。

 それがゼットの瞬間移動のエネルギーを奪い、ゼットの瞬間移動能力を封印した。

 

「……!?」

 

 瞬間移動をしようとしたが、できなかった、という一瞬の戸惑いと隙。

 ゼットにしては珍しく、竜胆達にとっては千載一遇のチャンスであった。

 ホールド光波の発射と同時に飛び出していた千景がゼットの顔面に斬りかかる。

 ダメージは0。だが、ゼットの視界は千景の体と攻撃で僅かに塞がれる。

 そうして友奈の拳、若葉の斬撃、竜胆が投げ込んだ旋刃盤が、ゼットの体に命中した。

 

「楽しませてくれる」

 

 ……命中した、ように見えた。

 だが、ちゃんと命中してはいなかった。

 友奈の拳は丁寧に流され、若葉の燃える斬撃も紙一重で届かず、旋刃盤はゼットのこめかみあたりをかするだけに終わる。

 

 ゼットは攻撃を極限まで引きつけ、"命中した"と錯覚するほどに紙一重でかわしながら、"命中した"ものも綺麗に体で受け流していたのである。

 後退した千景、若葉、友奈をティガが庇うように立つ。

 

「瞬間移動封じ……どうやら十分に準備をしてきたようだな。面白い」

 

『ゼット……!』

 

「来るがいい、闇の巨人。闇の巨人らしくないその強さを見せてみろ」

 

 ゼットが槍を嵐のように繰り出して、ティガは旋刃盤で必死に受けた。

 

 一兆度、瞬間移動と、ゼットには数々の恐るべき能力がある。

 それを越えても、封じても、ゼットには単純に高すぎる技量がある。槍の防御を抜けない。

 一撃当てるだけでも一苦労なのに、一撃当てられたとしても、ゼット自身の強固な皮膚と身のこなしによってダメージが通らない。

 ティガ、酒呑童子、大天狗を持ってしても、攻めきれないほどだった。

 

 それでも、人とウルトラマンは力を合わせてゼットンの猛威にぶつかっていく。

 友奈は立ち回りを考えつつ、ゼットとティガの攻防を見て歯噛みした。

 

(迂闊に踏み込めない……!)

 

 パワーに特化したティガと、それを容易に凌駕するパワーのゼットの戦いに変に巻き込まれ、防御すらできなかったなら、勇者は確実にミンチになる。

 それは酒呑童子を宿した友奈も例外ではない。

 ティガですら防御を間違えれば一撃で即死するゼットの一撃に、勇者が耐えられるわけがない。

 

(考えろ、考えろ、リュウくんを守るには、どう立ち回れば良いのか……)

 

 迂闊に踏み込めば、最悪軽くぷちっと踏み潰され、それで終わりだ。

 そして仲間の死はティガを動揺させ、ゼットによるティガの殺害という最悪の結果を招く。

 迂闊な行動を選べば、その時点で連携が瓦解するだろう。

 だが。

 

「くくっ……追い込んでからが強いところまで、グレートの面影が見えるぞ」

 

『ぐっ、くそっ、余裕ぶりやがって……! ボブの技がそんなに面白いかよ!』

 

 迂闊な行動を恐れて援護をやめれば、すぐにティガが潰される。

 今ティガとゼットが攻防が戦いになっているのは、仲間の援護あってこそなのだ。

 そして友奈視点、ゼットは本気の本気を出しているように見えなかった。

 ティガは目の前に迫る死を感じ、限界を超えるような攻防を必死に繰り返しているが、ゼットは"それなり"に本気を出している程度にしか見えない。

 

(あの時も恐ろしいと感じたけど、今はもっと恐ろしく見える。

 私も、若葉ちゃんも、リュウくんも、あの時とは比べ物にならないくらい強いはずなのに!)

 

 迂闊に突っ込んで行けるのは千景だけだ。

 不死を保証された千景でなければ、ゼットの足元をうろちょろして、効果の薄い足止め攻撃を繰り返すなんてことはできない。

 

 酒呑童子のパワー、大天狗のスピードがあっても、千景ほど積極的に前に出たら確実に死んでしまう、嵐のような巨人達の攻防。

 そこに友奈と若葉が踏み込めるのに、『勇気』以外の理由はない。

 勇気ある踏み込み、勇気ある援護。

 嵐の合間を抜け、酒呑童子と大天狗の力を叩き込む。

 それがゼットの攻撃の圧力を僅かに弱め、ティガの死を回避させてくれる。

 

 一方その頃。

 竜胆は、真正面からティガと相対する者として、ゼットの危険性を再確認していた。

 

(ゼット……なんでだ……なんで、『前に戦った時より強い』……!?)

 

 槍が、ティガの腹を抉る。

 ティガの旋刃盤は、ゼットの体にかすりもしない。

 ゼットにまともなダメージも与えられないほどの力の差を感じながら、竜胆は戦慄する。

 

(―――こいつ。これで、まだ、発展途上だ。俺達と同じ……成長する余地がある……!)

 

 ウルトラマンとの戦いが、ゼットを強くする。

 ウルトラマンとの戦いが、ゼットの心を成長させる。

 竜胆との戦いですら、ゼットを強くさせてしまう。

 心があるということは、生涯を通し、成長できるということだ。

 心あるゼットンは、人間やウルトラマンのような成長もしてしまう。

 

 最悪に危険だ。

 ここで倒せなければ、次はもう太刀打ちすらできないかもしれない。

 

「ティガ。力こそ全てだ。

 力こそが何よりも価値あるもの。

 もっとお前の力を見せ、そして、潰えるがいい」

 

『違う!』

 

 友奈を狙ったゼットの槍を、ティガが旋刃盤で防いで守り、叫ぶ。

 

「何が違うというのだ? 私達の世界では、力こそが全てのはずだ」

 

『違う!』

 

「違わない。

 何よりも力が大切だろう。

 力があれば、お前も仲間を守りきれたはずだ」

 

『―――』

 

「力があれば守れた。

 力がないから守れなかった。

 お前の後悔は、自分に力が無かったから生まれたものだろう。違うか?」

 

『……それでも、力が何よりも価値があるだなんて、力が何よりも大切だなんてのは、違う!』

 

 ゼットの力を込めた一撃を、旋刃盤が真正面から受け止めて、拮抗する。

 ティガ一人の力では拮抗できるはずがないのに。

 想い一つで奇跡のように拮抗し、けれど押し返すことはできないままで。

 

『何よりも大切なのは、力じゃない!』

 

 ティガ一人の腕力では押し返せないはずのそれを……勇者三人が、旋刃盤の裏を体当たり気味に押し、三人分の力が加わって、押し返した。

 予想外に槍を押し返されたゼットが、たたらを踏む。

 

 

 

『力は―――力よりも大切な物を守るためにあるんだッ!』

 

 

 

 そして旋刃盤の刃を叩きつける強烈な一撃が、ゼットの胸を横一直線に切り裂いた。

 初めてゼットに刻み込んだ、明確で大きな傷。

 光を束ねた、光の一撃。

 

『力よりも大切なものが、いっぱいあるから!

 それを守るために必要な力を! 俺は求めた!

 ……力よりも大切なものがあると知らない、お前なんかに! 俺達は、負けない!』

 

 更に距離を詰め、追撃に走る竜胆。

 踏ん張り、ほくそ笑み、槍を更に強く握るゼット。

 

()()()()()()()()()ことを言うな、ティガよ。

 ならばその叫びの正当性、ここに力で示してみるがいいっ!」

 

 ティガと呼吸を合わせた若葉が飛び込む。

 大天狗の火炎がゼットの顔に絶え間なく放射され、その視界を塞いだ。

 視界を塞ぐだけでダメージにはならないが、その一瞬に、ティガがゼットに抱きつく。

 

(ウルトラヒートハッグか)

 

 感触だけで敵の次の一手を見抜くゼット。

 ゼット相手なら、ウルトラヒートハッグは有効かもしれない……そう話したのは、竜胆と球子と杏の三人で話した時だった。

 もう戻らない時を想い、ティガの腕にも力が入る。

 されど目が見えなくともゼットは、『抱きつく』『爆発する』の間にある一瞬の時間で、ティガを突き殺すことなど造作もないという男だった。

 

「高嶋さん!」

 

「ぐんちゃん、お願い!」

 

 ティガに向けられる槍先。

 千景が全力で振るう大鎌。

 そして、鎌を踏み、千景の力を上乗せして跳躍して、拳を突き出す友奈。

 

 千景に打ち上げられた友奈が狙うは槍先ではなくその反対、石突。そこを思いっきり殴る。

 テコの原理の作用が働き、ティガに突き出された槍の軌道が大きく外れる。

 一瞬の間に、複数の人間が一つの意志で動いているかのように連携するその動きが、ほんの一瞬のみゼットを凌駕する。

 そしてゼットは、遠くで高まる光の力の気配を感じ取った。

 

(そうか、ウルトラマンネクサス。弱りながらもここでは一手を叩き込んで来るか)

 

 ゼットは、この連携の肝を理解した。

 

 勇者達がティガを援護する。

 援護されたティガが、ウルトラヒートハッグを叩き込む。

 ウルトラヒートハッグ直撃直後のゼットに、ネクサスが必殺の分解光線を叩き込む。

 本来ならティガへの光線誤射、光線巻き込みを考える必要がある連携だ。

 だが、この場合はその心配もない。

 ネクサスの光線が命中する直前に、ティガは自爆でバラバラになっているからだ。

 

 自分の体をバラバラにすることで、仲間の光線に当たることを回避する連携ギミック。

 

『ストライクレイ・シュトローム!』

 

『ウルトラ―――ヒートハッグッ!!』

 

 ゼットとティガを大爆発が飲み込んで、そこにネクサスの必殺光線が直撃した。

 

 

 

 

 

 友奈が息を切らして、膝をつく。

 若葉が剣を突き立て、それを杖のようにして立つ。

 

「乃木さん、高嶋さん、大丈夫?」

 

「……まだ、やれる」

「頑張れば、まだなんとか……」

 

 酒呑童子の拳を振るえば、あまりの威力にそれだけで腕の肉が千切れていく。

 大天狗の翼で空を飛べば、あまりの速度にそれだけで内臓が傷んでいく。

 このレベルの精霊は、そういうものなのだ。

 精神面への影響も大きい。短時間であっという間に精神状態が悪化していく。

 

 イフというバーテックスは未だ動いていない。

 ここで戦いが終わってくれれば、と思い、祈るように千景はゼットの方を見て。

 爆焔と爆焔が晴れた先に―――()()()()()()を見て、思考が停止した。

 

「嘘……」

 

 バラバラになったティガが再生を始める。

 無理をして光線を撃ったネクサスが、息も絶え絶えに、体を地面に横たえる。

 ネクサスの消耗がそのまま顕れたかのように、メタフィールドの構成も揺らぐ。

 

 そんな中、ゼットは"ゼットン特有のバリアー"を解除し、余裕綽々に首を鳴らしていた。

 

「あまり使う気はなかったが、シャッターまで使わされることになるとはな」

 

 『ゼットンシャッター』。

 ゼットが持ち、他のゼットンも持つ、強力なバリアー能力。

 物理攻撃も光線攻撃も一緒くたにして遮断し、無敵とも言える防御力を誇る光の壁である。

 

 シャッターはウルトラヒートハッグのエネルギーを完璧に反射し、ティガの体の内側に熱爆発のエネルギーを注ぎ、逆にティガを爆発させてしまった。

 更にネクサスの分解光線まで弾き切り、ゼットに傷一つ付けることも許さない。

 最大のチャンスに、最高の連携を叩き込んだ人間勢に対し、ゼットは"最強の自分"だけでそれを悠々と乗り切ったのだ。

 

 見方を変えれば、ここまでゼットは、シャッターを使うほど『全身全霊』で戦ったことが一度も無かった、ということでもあった。

 

『く、そっ!』

 

 とにかく突破口を探して、ティガトルネードが手裏剣のような光弾・ハンドスラッシュを撃つ。

 だがその光線も、ゼットの指先に吸い込まれ、消滅してしまった。

 

『うっ……!』

 

「私にそんなものが効くとでも思ったのか?」

 

 単純に高すぎるスペック。

 竜胆以外対抗できない、桁外れに高い技量。

 一兆度。

 瞬間移動。

 ゼットンシャッター。

 そして今見せた、光線吸収能力。

 

 "どんな敵にも勝てる自分になれる"のが『イフ』なら、"どんな敵にもそのままの自分で勝てる"のが『ゼット』であると、言えるのかもしれない。

 

『諦めるな!』

 

 竜胆/ティガが叫ぶ。

 

『勝つんだ! 守るんだ!

 ここで終わらせていい安い命の人間なんて、俺の仲間には一人もいない!』

 

 その声が、言葉の力が、仲間達の心を折らせない。

 

 だが、その時、不意にゼットが横を向いて。

 

「始まったか、イフ」

 

 ブラックホールの流れ弾が、ティガの下半身を消し去った。

 

 

 

 

 

 ブラックホールはありえない速度で生成され、射出され、一瞬で消える。

 だがその一瞬で、ティガの下半身はブラックホールに潰された。

 再生はするものの、意識外からのブラックホール攻撃のダメージは残る。

 

『ぐ……あっ……!』

 

「外部からの刺激に対応する最強の一角。

 敵の全てを模倣し、容赦なき模倣でオリジナルを超える者。

 まともにやれば私でも勝てるかどうか……いや、まともにやれば勝てんだろうな」

 

 飛んで来たブラックホールの流れ弾を、展開したままのゼットンシャッターが弾く。

 シャッターを解除し、流れ弾の一兆度を何気なく槍で粉砕し、悠々自適にゼットはそこに立っている。ゼットは様子見に入ったようだ。

 

「!? な、なによあれ!」

 

 勇者達に、地球に氷河期をもたらしそうな速度の流星と彗星の落下が迫る。

 ネクサスに、小さな太陽が射出される。

 若葉が友奈を抱え飛び、ティガダークが千景とネクサスを抱え飛び、それで回避が間に合ったのは、本当に奇跡だった。

 

「あ、ありがとう若葉ちゃん!」

 

「礼には及ばない。だが、あれは……」

 

「ありがとう……竜胆君」

 

『完全生命体、イフ……あたしが見た、事前の対策なんて何の意味もない最悪の敵……』

 

『あれがイフ……マジか。

 クソ、危険過ぎるが、ゼットは一旦置いておくしかない!

 このままじゃメタフィールドの中に何も残らないぞ!

 パワードも……駄目か、あの様子じゃ、起き上がるのも厳しい……!』

 

 流星、彗星、太陽、一兆度、ブラックホール、メガ・スペシウム光線を絶え間なく周囲に発射している完全生命体・イフ。

 その圧倒的火力は、明らかに人間に向けられている。

 ゼットも巻き込んでいるあたり、攻撃範囲が広すぎてフレンドリーファイアもしてしまっているようだが、それでも明確に照準は人間達の方を向いている。

 

『少しでも、動きを、止めれば……』

 

 地に降りるティガ達。

 ナターシャ/ネクサスが、手元から光の帯を生成し、鞭のようにイフへと絡ませる。

 ネクサスの捕縛光帯・セービングビュートだ。

 光の帯はイフの全身を絡め取り、動きを止め―――られず、イフは一瞬で次の進化形態へと移行し、"拘束技が効かないイフ"になり、ネクサス達にそのままセービングビュートを返した。

 

 ティガが旋刃盤で受けて弾くが、返されたセービングビュートの性能は、そのままだった。

 

「な……何これ!? どうなってるの!?」

 

『攻撃したらそのまま返される……攻撃だけじゃなくあたしの拘束技もコピー対象……!?』

 

 攻撃技だけでなく拘束技まで連射するようになったイフ。

 もはや接近すら不可能だ。

 距離を詰めれば拘束技に捕まって、そのままブラックホールや一兆度の連発を受け、回避も防御もできずに消滅させられてしまう。

 

『ナターシャ、大技もう一発撃てるか?』

 

『……やってみる』

 

『若ちゃん、合わせてくれ。今飛び道具がある勇者は君だけだ』

 

「同時攻撃だな。今出せる最大火力を叩き込み、コピーして返される前に、終わらせる」

 

『そうだ。……というか、それしかないだろ? これで決められなきゃ、本当に打つ手無しだ』

 

 刀を腰だめに構える若葉。

 腹から血のような光を漏らしながら、両腕に稲妻のような光を集めるネクサス。

 炎にして光である粒子を拡散し、一点に集めて凝縮、炎球を作るティガ。

 

「『大天狗』!」

 

『ストライクレイ……シュトローム!』

 

『―――デラシウム光流ッ!』

 

 大太刀より放たれるは、天上を焼く業火。

 打ち合わせられた拳から放たれるは、万物を分解する直射光線。

 投げ放たれる、必殺の光流。

 竜胆と若葉の炎が混じり合い、イフの全身を焼き尽くし、そこにネクサスの光線が直撃。

 

 ネクサスの光線が、炎によってバラけたイフの細胞を一つ残らず、分子レベルで分解した。

 

『よしっ……! これで後は、最悪に厄介なゼットだけ――』

 

 ネクサスの光線が、イフの細胞を一つ残らず、分子レベルで分解した。

 

「――え?」

 

 分子レベルで、欠片も残さなかった。

 

『……嘘、だろ?』

 

 細胞は一つも残らなかった。

 分子レベルで分解された。

 ただ、それだけだ。ただそれだけの話でしかなく、イフは死んでなどいない。

 

 あっという間に再生し、更に次の形態へと進化するイフ。

 天狗のような翼を生やし、巨人の光流と天魔の業火を纏い、万物を分解する光線を連射することもできる存在へと変化する。

 

 その瞬間、ティガは仲間を守るべく、仲間を庇うように踏み込んだ。

 飛んで来たのは、一兆度の炎、メガ・スペシウム光線、ストライクレイ・シュトローム、デラシウム光流。全てが一緒くたに飛んで来た。

 防げなければ仲間が死ぬ。

 ティガは渾身の力で巨大な旋刃盤を作り上げ、盾としたが―――まるで薄いガラスのように、いとも容易く割られてしまう。

 

 旋刃盤でいくらか威力は削げたはずなのに、貫通した光線達の直撃を受けてしまったティガの体は見るも無残で、中々再生が始まらないほどのダメージを叩き込まれてしまっていた。

 完全に分解された左半身あたりは、特に痛々しい。

 

『う……ぐ……あ……』

 

「竜胆!」

「リュウくん!」

「竜胆君!」

 

『竜胆おにーちゃ……あ……やっぱり……やっぱり、未来は……』

 

 細胞一つ残さなくても、その体を分子レベルで分解しても殺せない、人の敵。

 

 まさに"神の如き"存在。

 

 今、イフに対し戦士達が抱いている気持ちは、人がバーテックスに抱いた気持ちに近い。

 

 そう、これが。

 

 "人を滅ぼそうとする絶対的な神"を、"無力な人間"が見上げる気持ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ウルトラマンは最強に負けないといけないのか?』

 否、否である。

 最強が相手でも、無敵が相手でも、勝たなければ世界が滅びるのであれば、ウルトラマンはそれに対しても勝たなければならない。

 

 真に無敵、真に最強、などというものは、本質的には存在しない。

 創作の物語でさえ、そうで在ることが許されるのは、意志無き者などの"例外"だけだろう。

 それでさえ、現実的な話をすれば、『意志が有るより無い方が強いだなんておかしいのでは?』という話になっていく。

 「無敵という設定だから無敵」なんていうのは、大体の場合許されないだろう。

 強いから強い、強いから無敵、なのではなく。

 創作者や読者に無敵であることを許され、納得を得られるかどうかが、『無敵の資格』になるという、なんとも奇妙な話になる。

 現実に滅多に存在しない『無敵』が存在できる創作の世界ですら、そうなのだ。

 

 作品Aで『絶対に負けない無敵キャラ』が登場し、それが作品Bに登場させられ、作品Bのキャラ相手に『無敵だから』という設定主張だけで蹂躙をしたらどうなるのだろうか。

 少なくとも、それは物語としては成立しない。

 真に無敵、真に最強、などというものは、本質的には存在しない。

 戦いの場が広がっていけば、どんな無敵も、どんな最強も、そうでなくなることは多い。

 

 しからば、最強とは? 無敵とは? どういうものなのか。

 

 少なくとも、それは能力だけで決まるものではないだろう。

 "こういう能力があるからこいつは無敵で最強"という理屈が、通らなくなる時はある。

 少なくとも、ウルトラマンとは、そういった能力を持つ数々の敵を打ち倒してきたからこそ、『光の戦士』と讃えられ、『ヒーロー』として信じられてきた。

 彼らは人々の平和と世界の命運がかかったその時、最強であり、無敵である。

 

 "あいつは最強だから勝てませんでした"。

 "あいつは無敵だから勝てませんでした"。

 "勝てなかったので守れませんでした"。

 本当は、ウルトラマンに、そんな主張は許されない。

 

 子供達がその背中を信じているなら、なおさらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケンは光の中に居た。

 光の庭園。

 花、水、光、綺麗なものが詰まった世界。

 あまりにも綺麗だったせいで、ケンは即座にこれが夢であると思った。

 

 綺麗過ぎる。世界はこんなに綺麗ではない。汚いものも入り混じってこそ、人の世界だ。

 ケンは世界の形を知っている。

 人というものを、人の社会というものをよく知っている。

 ケンは白いテーブルの前で、白い椅子に座っていた。

 

 ケンの対面の席に、二人の女性が座る。

 一人は大人の綺麗な女性で、一人はケンに目元が似た少女。

 その二人を見て、ケンは息を呑んだ。

 

「ローズ……アリッサ……?」

 

 その二人は、死んだケンの妻と子……いや、"殺された"ケンの妻と子だった。

 妻ローズは微笑み、娘アリッサもニコニコしている。

 

「二人なわけがない……二人は、僕の前で死んだんだ……」

 

「あら、このフランス語なまりの英語をもう忘れたの?」

 

「忘れてない……これは、間違いなくローズの喋り方だ……だけど……」

 

「パパー、お久しぶりだね」

 

「アリッサ……」

 

 会えるわけがない。

 会えるわけがないのだ。

 ケンは妻を愛した。

 愛した妻が星屑に噛み潰され、人の口の中のハンバーグのようになっていた姿を、ケンは今でも夢に見る。

 ケンは娘・アリッサを守ると約束した。

 約束したのに守れず、ゼットンに娘を踏み潰された。

 

 二人が生きているわけがない。

 そう思ったところで、ケンは一つの答えに行き着く。

 

「そうか、僕は死んだのか」

 

 ローズは夫の勘違いに微笑み、首を横に振った。

 

「いいえ、あなたはまだ死んでいないわ。まだあなたの戦いは終わっていない」

 

「……そうか。まだ、終わっていないのか」

 

 まだ戦いは終わっていない。

 なればこそ、ケンの胸中に浮かぶのは、"まだ頑張らないと"という奮起と、"まだ戦わないといけないのか"という悲嘆。

 そこで奮起が勝つからこその、ケン・シェパードであった。

 

 ケンは席を立つ。

 殺された妻と娘。

 言いたいことはたくさんあるだろう。

 聞きたいこともたくさんあるだろう。

 ケンと妻子がお互いに、生前の心残りになったことを余すことなく語り合えば、きっと丸一日だって話していられる。

 

(そうだ。

 僕は何度も後悔したじゃないか。

 ローズが最近嫌いな食べ物が増えた理由を知りたかった。

 アリッサが学校で好きになった男の子のことを知りたかった。

 あまり聞けていなかったローズの学生時代の話を、もっと聞きたかった。

 将来の夢について、もっとアリッサと話して、未来を思って語り合いたかった)

 

 ケンの中にある、無数の逡巡。

 

(もっと僕のことを知ってほしかった。

 ローズに、僕が好きな本のことを知ってもらいたかった。

 妻に、僕が昔野菜が嫌いな子供だったことや、色んなことを知ってほしかった。

 アリッサに、世界の広さと、そこを家族と旅する楽しさを知ってほしかった。

 僕が学生時代、スポーツでどれだけ凄かったかを知ってほしかった。

 たくさん知りたくて、たくさん知ってほしくて……

 ……二人が死んだ後にそう思っても……それは後悔にしかならなくて……)

 

 もっと話したい。

 もっと触れたい。

 二人と、ずっと一緒にいたい。

 それは、一人の夫として、一人の父親として、当然の気持ち。

 

 だが、ケンがその椅子に再び座ることはなかった。

 ローズが微笑み、アリッサが寂しそうにする。

 

「私達、死んでから、あなたと話したいことが沢山あったの」

 

「アリッサもー!」

 

「うん。僕もそうだ。

 君達を、世界の何よりも愛してる。今でもそうだ。

 できれば、ずっと君達とずっと一緒にいたい。

 この奇跡の時間を、ずっとずっと感じていたい。この夢に溺れたい」

 

 ケンは、自分らしく在り。

 自分らしく在る彼を、妻と娘は愛した。

 

 

 

「だけど、僕は『ウルトラマン』だから」

 

 

 

 その言葉には、"僕は大人だから子供を守る"といった言葉と同じ響きがあった。

 "僕は警察官だから皆を守る"といった言葉と同じ響きがあった。

 これは、ケンの信念である。

 

 勇者達の、竜胆の、父親のように振る舞ってきた。

 人々の前で、人々の希望として振る舞ってきた。

 彼は最後まで、そう在り続ける。

 

「そうね、私の夫は、ウルトラマンだもの」

 

「……パパは、正義の味方だもんね」

 

 妻と娘は、最初からケンの選択を分かっていたようだった。

 

「僕は僕のためだけに生きてるんじゃない。

 今を生きている人々の幸せのために、生きている。

 ここを去ることが、残念じゃないと言えば嘘になる。

 本当に……本当にたくさん、二人に言いたいことがあった。

 伝えたい愛があった。伝えきれてない愛があった。

 もっとたくさん、手渡したい想いがあった。

 でもきっと、それを全部話していたら、"三分"なんてあっという間に過ぎてしまう」

 

 竜胆を、若葉を、友奈を、千景を、アナスタシアを。

 

 放っておいてここで楽しく話すことなど、ケンにはできない。

 

「僕に許された"三分"は、死した愛する家族ではなく、今を生きる子供達のために使いたい」

 

 彼は奇跡の如く与えられた夢のような一時を、この幸せな救いを、捨てようとしている。

 

 今を生きる子供達を、救うためだけに。

 

「行くのね、ケン」

 

「ああ」

 

「私は笑って送り出すわ。だって、ウルトラマンの妻だもの」

 

「……行ってほしくない……行ってほしくないけど……私も、ウルトラマンの子供だもん……」

 

「いい子だ、アリッサ。ありがとう、ローズ」

 

「行ってらっしゃい、あなた。

 私達はいつでもあなたの味方よ。

 たとえ世界の全てが、神様が、あなたを否定しても。

 私達だけは、あなたの選択が正しいと、あなたの傍で言い続ける」

 

「パパ! 頑張って! いつも近くにいるから!」

 

 綺麗な世界が終わる。夢が終わる。

 

 

 

「「 ―――私達の、誇りのお父さん 」」

 

 

 

 それは幻覚か、臨死体験か。

 何にせよ、一時の夢であることに変わりない。

 もう見ることはないかもしれない、そんな夢。

 

「……ありがとう」

 

 ケンが、勇者達を娘と重ねて見ていなかったと言えば、嘘になる。

 勇者に選ばれる資質があったというだけで、戦場に放り込まれた勇者達。

 理不尽な運命の中でも、勇者達は頑張っていた。

 努めて笑顔を浮かべる女の子もいた。

 そんな彼女らを、ケンが娘と重ねて見ていなかったと言えば、嘘になる。

 

 そうだ。

 ケンは、生きてほしかったのだ。

 ケンは、幸せになってほしかったのだ。

 ケンの娘は、生きることも大人になることもできなかったから。

 

 ケンは、勇者達が大人になっていく未来に胸踊らせた。

 勇者達に竜胆が絡むようになると、それを幸せそうに見るようになった。

 大人になっていく勇者達の姿を見るだけで、そこに生を実感するようになった。

 

 彼はかつて娘に対し思った気持ちを、勇者の少女達に対し、ずっと抱いていたのだ。

 

 勇者を娘の代わりにしたことなど無い。

 ケンの娘は一人が殺され、六人増えた。

 皆等しく、自分の本当の娘のように、愛していた。

 

 球子が死んだ時、愛娘が二度も死んでしまったような、痛みと苦しみがあった。

 もう誰も死なせない。強く、強く、ケンはそう思う。

 球子の死が、ケンの内に密かに、自分の命を投げ出してでも娘の未来を守ろうという想いを、宿らせていたのだ。

 

「僕で最後にはならないのかもしれない。……リンドウ、ごめん。君を信じて、未来を任せる」

 

 ボブの子供を守るという信念が好ましかった。

 若葉の誠実な真面目さが好ましかった。

 友奈の努めて明るくあろうとする姿が好ましかった。

 球子の人の盾になろうとする心が好ましかった。

 杏の女の子らしい気遣いが好ましかった。

 千景の幸せになろうとする姿勢が好ましかった。

 ひなたの友達想いなところが好ましかった。

 アナスタシアを、救ってやりたかった。

 竜胆という少年が自分を好きになれることを、幸せになれることを、願っていた。

 

 だから、この先に果てたとしても、後悔は無い。

 

「すまない、パワード」

 

 光の国から来た光と、心の中で対話をする。

 

―――謝る必要など何もない。謝る理由も一つもない。

―――君の人生は、胸を張っていいものだった。

―――謝るべきは、私の方だ。

―――君の願いを叶えられるだけの力を持たなかった私を、許してくれ。

 

「あなたこそ、謝る必要はない。

 何年も、付き合ってくれてありがとう。

 あなたのおかげで救えた命は、本当に多かった」

 

―――私が守ったのではない。私と君で守った命だ。

―――それは、最終的に見れば、多くはないのかもしれない。

―――だが、確かに君が守った命だ。

 

「僕と出会ってくれたウルトラマンが、あなたで良かった」

 

―――ケン

 

「拳で敵を傷付けることを好まず。

 それでも、殺さなければ守れない時は、その選択を迷わない。

 甘くはなくとも優しいウルトラマンであった貴方と出会えたことが……僕の幸運だった」

 

―――私も、そう思う。

―――拳で敵を傷付けるより、開いた手の平で敵を抑え、傷付けず無力化する警察の男。

―――優しい個人であり、法の守護者でもあった者よ。

―――人の善と悪をありのままに見ていた君と出会えたことが、私の幸運だった。

 

「これで、最後かな」

 

―――私達はこれで最後だろう。

―――だが、君が愛した血の繋がらない息子や娘達は、これで最後にはならない。

―――まだ先に、続いていける。

 

「そうだね。それじゃあ、最後に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう会えない悲しみより。

 

 出会えたことの嬉しさを語ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち上がったパワードが、子供達を守った。

 竜胆を、若葉を、友奈を、千景を、アナスタシアを守った。

 子供達を守りながら、必死に腕を十字に組むパワード。

 そして、過剰な威力を込められた光線とブラックホールの融合砲撃が放たれる。

 

 その一撃が、"パワードの首"を、欠片も残さず吹き飛ばした。

 

『―――え―――あっ―――』

 

 呆然とする竜胆。

 ケンの笑顔を。

 頭を撫でてくれた手の感触を。

 肩車してくれた時に感じたケンの暖かさを。

 竜胆はまだ、覚えている。

 

 それは今、永遠に失われた。

 

『ああああああああああッ!!』

 

 絶叫するティガ。

 だが、体を動かす力が残っていない。ダメージが体に残りすぎている。

 勇者が、アナスタシアが、声も上げられないまま絶句し、目の前の現実を拒絶する。

 そしてパワードは、首を吹っ飛ばされてもなお、動いていた。

 

『……え?』

 

 放たれるメガ・スペシウム光線。

 首がなくなったはずのパワードが、光線を発射する。

 それがイフに直撃し、メガ・スペシウム光線に対応した体になったイフには効かず、イフがメガ・スペシウム光線をカウンターでパワードに放った。

 パワードの体が、メガ・スペシウム光線で、徐々に溶けていく。

 

『ケン……? 生きて……いや、死んでいるはずなのに……ケン……?』

 

 頭が消えても、パワードは光線を打ち続ける。

 イフが放つ幾多の流星、彗星、光線をその体で受け止め、後ろに一つも通さない。

 イフに攻撃されようと、その体が死体に成り果てようと、撃ち続ける。

 

 その姿はまるで、"死んでも子供達を守る"という意志を体現しているかのようだった。

 

 撃つ。

 撃つ。

 ただひたすらに撃つ。

 イフには効かなくとも、メガ・スペシウム光線を撃ち続ける。

 ケン・シェパードとウルトラマンパワードという二人は、死すらも休む理由にはせず、休まず子供達を守ろうとし続けた。

 

『ケン! パワード! もういい……もういいから!』

 

 撃ち続ける。

 効かなくとも、撃ち続ける。

 その時、奇跡が起きた。

 光線の熱量が上がっていく。

 パワードの方の光線の熱量が、一億度、二億度、三億度、とドンドン上がっていく。

 イフもそれに合わせて、光線の熱量を引き上げていく。

 

 イフの体表から放たれるブラックホールや一兆度などが、パワードのメガ・スペシウム光線に押し込まれ、イフの体表で何やら変な反応を起こし始める。

 だが、それだけだ。

 

 パワードは死んでいる。

 イフにメガ・スペシウム光線は効かない。

 死者が生者を守る奇跡が続いても、イフを倒せるなんていう奇跡は起こらない。

 第三番惑星地球に、最後の奇跡は起きない。

 パワードのそれは大海を殴るに等しい、無駄な積み重ねにしか見えなかった。

 

 だが死してなお子供達を守るパワードの姿は、ゼットの心を揺り動かしたらしい。

 

「なんだこれは……理解できん」

 

 ゼットにはこれが分からない。

 何故こうなっているのか分からない。

 それは、彼が人間でもなく、人間を理解できるウルトラマンでもないから。

 

『分からないだろうな、ゼット。

 分からないだろうな、バーテックス!

 お前らには分からない! 俺達には分かる! これが……お前達に無いものだ!』

 

「そうよ……私みたいな……私みたいなやつにだって……分かる!」

 

 ティガトルネードと、郡千景。

 『情熱の赤』を身に纏う二人が、戸惑うゼットへ向かって声を上げる。

 

「これこそが、人間の」

 

『愛と!』

 

「勇気と!」

 

『―――(たましい)ってやつだあああああああッ!!!』

 

 涙をこらえるような、叫びだった。

 叫び立ち上がるティガトルネードが、旋刃盤でパワードの死体を必死に守る。

 パワードは光線を撃ち続ける。

 ティガ達を守るために、そこに立ち続ける。

 

 涙が出そうで、でもこらえて、竜胆は必死にケンとパワードの死体を守る。

 ケンはいつも笑顔だった。

 いつも竜胆達を見て、微笑んでいた。

 その微笑みに、どれだけの愛が込められていたのだろう。

 

 もう、それはない。もうこの世のどこにも、それはないのだ。

 

『ケン……ケンっ―――!!』

 

 子供達の涙、悲しみ、叫び、感謝。

 思い思いに叫びを上げる子供達の声に、それらが混じる。

 

 そして、子供達に見上げられたパワードの背中が、奇跡を呼ぶ。

 ただ、子供達のためだけに……ケンとパワードは奇跡を起こした。

 死してなお、子供達を救う奇跡を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間に穴が空き、イフがそこに吸い込まれ、消えていく。

 竜胆達も、ゼットも、そしておそらくは天の神も、揃って驚愕した。

 こんな奇跡が起こるだなどと、誰が予想できただろうか。

 

『な、なんだ……? 何が起こったんだ……』

 

「……今のは、まさか」

 

 ウルトラマンを倒すため、様々な知識を得たゼットだからこそ、知識と洞察力とセンスを併せ持つゼットだからこそ、今の奇跡を理解することができた。

 

「時空エネルギー……そうか、メタフィールドに、ブラックホールか」

 

 ブラックホールは別の宇宙に繋がっている、というのは、西暦の時代の地球の科学レベルでもよく語られることである。

 イフが出していたブラックホールは、別宇宙に繋がるものにも成り得た。

 可能性レベルでは、あったのだ。

 

 ゼットが倒す想定をしていたウルトラマンの中には、『レボリウムウェーブ』という、ブラックホールで敵をこの宇宙にない次元の狭間に送り込み、そこで押し潰すという技を使うウルトラマンも居た。

 また、シャドー星人が作り上げた怪獣兵器『時空破壊神・ゼガン』は、時空エネルギーと光線エネルギーの作用で、別宇宙の異次元に繋がる穴を空ける可能性を指摘されている。

 

 そう、肝心なのは、『時空に空いた穴』と、『膨大なエネルギー』なのだ。

 ブラックホールと膨大なエネルギーを組み合わせるというものは、別宇宙への移動・ワームホール・タイムマシンの実現に至るものとして、理論物理などの世界でしっかりと研究されている。

 これこそが、"別宇宙へ繋がる穴"を完成させる。

 

 イフは、この穴に放り込まれたのだ。

 

 ここは不連続時空間・メタフィールド。

 この宇宙であってこの宇宙でない、時空のエネルギーに満ちた異空間。

 しからば、通常宇宙よりも遥かに、隣の宇宙へと繋がりやすい空間であるとも言える。

 パワードの光線は信じられないパワーで一兆度やブラックホールを押し込み、絶え間なく膨大なエネルギーを注ぎ込み続け、イフの周囲に時空の穴を作った。

 

 宇宙に穴を空ける行為は、イフに対しては行われていない。

 イフはただ光線を受けていただけで、イフの周囲に勝手に穴が空いただけだ。

 そして"イフに刺激が与えられないまま"、転がり落ちるようにして、時空の穴にイフは転がり落ちていった。

 人間なんて一人も居ない、天の神も勿論知らない、どこかの並行宇宙へと。

 

 あのイフが人を殺すことは、もう無いのだ。

 

「クォーク・グルーオン・プラズマ状態を作り圧縮するほどの光線……なんと凄まじい」

 

 人への敵意、悪意を植え付けられたものの、あのイフに高度な知性はない。

 その本質は、刺激を受ければ外部に返すだけの存在でしかない。

 宇宙の壁を越えられるだけの能力を獲得していない以上、あのイフがもうこの宇宙に戻って来ることは不可能だ。

 無数に広がる多元宇宙、無限数存在する別宇宙の中から、この宇宙をピンポイントで探し出すことなど、あのイフの知性でできるはずもない。

 

「信じられん。

 私より確実に強いイフを……

 あの最強の生命体を相手にして……

 勝利したというのか―――ウルトラマンパワード」

 

 ゼットの驚愕の声には、どこか称賛の色が混じっていた。

 勝者はパワード、敗者がイフ。

 他の誰でもなく、ゼットというバーテックスがそれを認める。

 

 ケンとパワードは勝ったのだ。

 絶対に勝てない無敵の存在に勝ち、世界の未来と、子供達の命を守りきったのだ。

 これを奇跡と言わず何と言う?

 

 彼らはどこまでも、ウルトラマンだった。

 ありえない奇跡を起こし、世界を守る。

 子供達を守り、子供達の期待に応える。

 ウルトラマンを信じる人々の気持ちを力に変え、どんな強大な悪にも立ち向かい、奇跡を掴み―――その果てに、"みんなのため"に死んだ。

 彼らは、自分以外の全てを守りきったのだ。

 

 思わず、ゼットは笑みを漏らす。

 その姿に、ティガトルネードは激怒した。

 

『笑ってんじゃねえ……人が死んで、笑ってんじゃねえッ!』

 

 殴りかかる、赤黒の巨人。

 怒りによってもはやほぼ暴走状態にありながらも、その心を赤き光が制御する。

 暴走状態に近い力を、ティガトルネードは拳に込めて叩きつけた。

 

 ゼットは槍すら使わず、片手で軽くその拳を受け止める。

 

「強い。間違いなく強い。

 先程より間違いなく強いが……ウルトラマンらしくはない強さだ」

 

 ケンの死が、また竜胆を強くした。

 心の闇が一気に膨らむ。

 ティガトルネードの黒い部分が活性化し、赤い部分が光を放ってそれを無理矢理に抑え込む。

 だが、もう無理だ。

 赤色だけで、黒色を抑えることが出来ていない。

 球子のおかげで得た光だけでは、もはや竜胆の闇を抑え込み、制御することができない。

 赤い光の制御を抜けて、完全暴走するのも時間の問題だろう。

 

 ティガトルネードの怒りと憎悪の連続正拳を片腕で捌きながら、ゼットは冷めた目で竜胆を見つめる。

 ゼットの目は、目の前の竜胆だけでなく、時折パワードの死体の方を向いていた。

 はぁ、とゼットは溜め息一つ。

 

「萎えるな」

 

 そして、ティガの腹を蹴り、蹴り一発で悶絶させた。

 

『かっ……はっ……』

 

「やはり貴様はまだ、『ウルトラマン』ではない。

 あれが……あれが、本物だ。

 ウルトラマンを超えるべく在るゼットンを、奇跡の果てに超える者……」

 

『なに、言って……』

 

「叶うなら、私が殺したかった。

 ウルトラマンパワード……

 ウルトラマングレートと同等に、私の心を震わせた、一流のウルトラマンだ」

 

『……!』

 

「イフは無敵だ。

 絶対に勝てない存在だった。

 それは運命だったのだ。

 ウルトラマンパワードは、絶対の運命を、絶対に覆すウルトラマンだったのだ。

 それは偶然ではなく、未来を変えたのでもない。必然だ。この結末は、必然だったのだ」

 

 パワードは意志で奇跡を起こし、必然の結末へと至らせたのだと、ゼットは尊ぶ。

 "それでこそ私が潰す価値がある"とでも、言わんばかりに。

 

「次に戦う日までに、奴らを見習い少しでもウルトラマンらしくなっておけ。ティガ」

 

『……次?』

 

「貴様らが勝てたなら、生きて帰ることを保証するという約束だ。そこは違えん」

 

『……あ』

 

―――貴様らが勝てば、今回は貴様らも生きて帰れることを保証しよう。

―――このゼットン軍団が手を出すこともありえん。我らに勝てるなら、だがな

 

 パワードがイフに勝った。

 その時点で、ゼットの中では、この約束の履行条件を満たしていたらしい。

 ゼットは最初は、見逃す気などなかった。

 この条件も人間の全滅を半ば確信していたからこそ、設定した条件だったと言える。

 この結末を勝ち取ったのは、ケンとパワードだ。

 

「5月17日、夕刻。その時貴様らと本当の決着をつけよう、ウルトラマン」

 

(決闘の申し込みかよ……しかも、三日後)

 

 ゼットは無数のゼットン軍団をひとまとめに整列させ、ティガとネクサスを見てそう言った。

 人間の方は見もしていない。

 ウルトラマンの起こす奇跡のみを、ゼットは警戒していた。

 

「次は貴様らだ。次に会う時までには、少しはマシなウルトラマンになっておけ」

 

 メタフィールドが解除され、ゼットとゼットン軍団が撤退していく。

 これは天の神のやり口ではない。

 最初から最後まで、"ゼットの流儀"だったということなのだろう。

 そしておそらく、次もゼットの流儀によって戦いが行われることになる。

 

 各々の変身が解け、車椅子の上でぐったりしたアナスタシアが呟く。

 

「竜胆おにーちゃん」

 

「どうした、ナターシャ。今急いで救急車呼んだから……」

 

「ケンと、パワードの死体……私が未来に見た死体そのまんまの、形だったよ」

 

「―――え」

 

「……私一人の有無、っていう大きな要素があったのに。やっぱり未来って、変わらないね……」

 

 運命は、真綿で首を締めるように、子供達を苦しめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘後の精密なメディカルチェックが行われた。

 伊予島杏、戦闘参加不可の状態、回復せず。

 高嶋友奈、乃木若葉、共に消化器系、循環器系、感覚器系、運動器系にかなりのダメージ。変身禁止と戦闘参加禁止が通達。

 アナスタシア・神美は緊急搬送、緊急手術。

 次回戦闘に参加は不可。一ヶ月の休養を待たずに変身すれば、変身完了前に絶命することは確実と見込まれる。

 

 現在戦闘可能人員、御守竜胆、郡千景のみ。

 

 大社は次回戦闘を"捨て"た。

 次回戦闘で死ぬのは、予言通りであれば上里ひなたのみ。

 貴重な最高値の巫女適性持ちではあるが、勇者や巨人と違い、巫女は代わりがいくらでもいる。

 大社としても死なせたくはないが、ひなたを助けるために無理な戦力投入をしても、この状況では貴重な戦力をすり潰し、未来を悪化させるだけにしかならない。

 大社は、次回の戦いで、上里ひなたが死ぬことを受け入れた。

 

 その約二週間後に迫る、千景と杏が死亡する戦闘に焦点を当てている。

 どうせ、ティガと千景だけでは次の戦いでゼットには勝てない。

 気合いの問題ではなく、どう足掻こうが勝てるわけがない。

 ならば約二週間でどれだけ戦力を回復させられるか、次の次の戦いでどう千景と杏を生き残らせるか、そこを考えて布石を打っていった方がいい。

 とても、合理的な判断だった。

 

 各々が、各々の思惑を抱え、各々の事情を抱え、各々の思考を持っている。

 

 ここに一つ、言えることがあるとするならば。

 

 ひなたに生きてほしいと思う者はいても、『()()()()()()()()()()()()()()』者は、もう一人も居ないということだろう。

 

 御守竜胆、ただ一人を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜胆参戦時、丸亀城陣営暫定数。

 ウルトラマン六人、勇者五人、巫女一人。合計十二人。

 

 ケン・シェパード死亡。

 

 ウルトラマン、残り四人。健在一名。

 神樹の勇者達、残り四人。健在一名。

 神樹の巫女、残り一人。

 

 残り、九人。

 

 

 




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