夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した 作:ルシエド
「若ちゃんの誕生日の反省会をします」
6月20日、14時50分。
本日乃木若葉の誕生日。
竜胆は若葉の誕生日に日清ラーメンセット(1000円)を持って来た大地、スポーツドリンク詰め合わせ(12本入り700円)を持って来た海人を、誕生日会の後道場に呼び出していた。
「誕生日プレゼントにあれはねーなと俺は思います」
「えー」
「えー」
「他の勇者の皆は普通にまともだったじゃないですか!
だから先輩方のプレゼントことさらに浮いてたんですよ!」
「さーすがハイセンスなシャンプーとか石鹸とか贈った人は違うっすね、パイセン。
けっ、どうせオレはローセンスだってのクソクソクソ……
あーあ、高嶋ちゃんの誕生日の時だけハイセンスになる魔法とかねえかなー!
あ、そうか。
これはもしや、乃木ちゃんがその洗剤で体洗ってるとこ想像する御守の高度なプレイ……」
「なんて気持ち悪い発想じゃ、まるでカイトの発想じゃ!
しかしそうなると、胸が無いわけじゃないが、若葉くらいの大きさが好みなんか御守。
ワシはひなたくらいでっけー方が好きなんじゃがさぞ特殊な性癖をなさってることで……」
「違う! 息合わせておちょくってくんのやめろ!」
ナチュラルに気持ち悪さを出してくる海人と、巨乳好きの大地が会話でコンビネーションを決めてくると、一瞬気を抜いただけで会話のペースを持って行かれかねない。
「そもそもどういう考えでああいう贈り物を選べたのか、ワシにはさっぱり分からん」
「例えば指輪とかネックレスは地味に重い贈り物だな、とか思いました。
あとひーちゃんあたりと万が一被ったらどうしよう、とかも。
調べたら贈り物の基本は失せ物とかあったので、また迷いました。
どうしようかな……と悩んだので、結局花の香りのする洗剤セット買って。
桔梗、姫百合、桜、彼岸花、
全部入れられるちょうどいい箱がなかったので、作って、入れて……」
「……意外過ぎる。竜胆らしくないぞ!」
「俺らしさってなんですか!?
というか最近気付いたんですけど……
相手が喜ぶものを想像するのと、デリカシーって別物ですね。
デリカシーは細やかな気遣いの問題で、プレゼントは相手を理解してるかの問題ですし」
「お前……あとは異性感覚が芽生えりゃお前は完璧なんじゃが」
「やだなー、何言ってんですか、大地先輩。
俺ももう高一相当の年齢ですよ? そういう感覚無いわけないじゃないですか。
女の子と肩が触れ合うような距離ではちょっとドキドキしたりしますよ」
「小学生並みの感想……」
「海人先輩、今何か呟きました?」
「お前は言うことが時折小並感だなって」
「粉蜜柑……?」
会う機会こそ多くは無かったが、親戚である大地は、若葉を幼少期から継続して見ている。
彼はひなたほど若葉の色んな表情を見ているわけではないが、それでも赤の他人と比べれば、若葉のことを理解していた。
「若葉が贈り物貰ってああいう顔してるの見たの初めてじゃな、ワシは」
「皆もっと若ちゃんを相応に女の子らしく扱ってやればいいんですよ。そしたら毎日見れます」
「ちゃうわこのバカ。
お前は普段若葉を頼りがいのある仲間、男の仲間のように扱ってるからだ。
だからお前がたまーに女の子らしく扱うと、若葉はぐっと来るのだ。ワシにも分かる」
「ああ、若ちゃんが下ろした髪かき上げてるの見るとドキっとする、みたいな」
「おう、それこそがギャップパワーじゃ。
お前はもしかすると、ひなたのハードルを超え、若葉を落とせる百年に一人の逸材かもしれん」
「は?」
「ワシの又従兄弟が嫁に行った時はよろしく頼むぞ、うっ、ううっ……」
「論理の飛躍っー!
なんで若ちゃんの誕生日プレゼントに気合い入れただけでここまで言われんの!?」
「並の男ではあのゴリラは落とせん。
というかむしろ、若葉は同性異性問わず若葉の方が落とすタイプじゃ。
そこに加わるひなた防壁……あのやや鈍感で主人公気質なゴリラを落とせる者は多くない!」
「いい加減にしないと若ちゃんとひーちゃんの代わりに俺が怒りますよ」
「そこでひなた入れるあたりよく分かっとるのうお前。ワシ震えるわ」
「なんというか、大地先輩の若ちゃん評は半分くらい親戚風味というか……雑なので」
「がっはっは! 確かにその通り!」
「なのですみません、半分くらいは信じてないです。
ただ、同性異性問わず若ちゃんの方が周りを落としてるってのは分かります」
「ほう」
「俺が若ちゃんに惚れ込んでるって言われたら、否定できませんから」
「……うひょー」
竜胆が、あの地下から連れ出されて、最初に心動かされたことは、友達が出来て背も伸びた千景と再会した時の『安心』。
次が、誰よりも先に手を差し伸べてきた友奈がくれた『暖かさ』。
そして、丸亀城に向かって歩いていく途中で、石を投げる民衆から庇ってくれた若葉に感じた『感動』。
あの時、投石から庇ってくれた若葉に対し抱いた感情を、竜胆が忘れることはない。
竜胆が若葉の誕生日に気合いを入れないわけがないのだ。
近しい人に竜胆が向ける揺るぎない"愛"に、大地は聞いていて少しこっ恥ずかしくなった。
「話を戻しますが、普通女の子に誕生日の贈り物ってなったら色々考えたりしませんか?」
「まあ、惚れた女の誕生日とかなら……」
「まあ、高嶋ちゃんの誕生日とかなら……」
「いやだって、女の子ですよ?」
「……」
「……」
「おい、若ちゃんも女の子だぞ」
「ダチの誕生日に贈るプレゼントなんて大体ウケ狙いじゃ」
「そうっすよねー」
「おい!」
せめて九月の杏の誕生日には、と二人の意識改革を狙っていた竜胆だが、"これ絶対不毛だ"という確信がふつふつと湧いてきた。
「オレ愛媛県民だから香川県民が喜ぶものなんて知らねえしー」
「ワシは香川県民じゃがそういや若葉の好きなもんとかあまり知らんな」
「うどんと鶏肉好きみたいなので、せめて食べ物ならそちらにしましょう……」
「おお、サンキュー。あ、高嶋ちゃんだったらどうだ? 何が好きそう? 教えてくれよ」
「食べ物で好きなものなら肉系うどんとか……
でも贈り物なら無難に可愛いタオルとかでも良いんじゃないですか?
友奈はよく体動かしてますし、これから夏ですし、無駄にはならないかと。
あとは純粋に友奈に喜んでもらえる物……格闘技のDVDとかどうでしょうか?」
「今の世界情勢じゃDVDなんてレア物にもほどがあるが……
なるほど、参考になった。
サンキューベリマッチ。うへへへ、これで好感度アップだぜ……」
「あ、ちなみにですね、今日から一番近い杏の誕生日ですけど、あいつの好みは……」
「オレは高嶋ちゃんの好きなものしか聞いてないぞ」
「……ひでえ」
友奈の好きなもの以外に興味はなく、友奈の誕生日以外に気合いを入れる気がなく、けれど友奈以外の誕生日に何も贈らないわけではなく、誕生日を祝わないわけでもない。
海人にとって、友奈以外の他人の誕生日はそういうものだった。
「海人先輩は、どうしてそんなに友奈を気に入ってるんですか?」
「お、聞くか? それ聞くか?
あれはなんかもう戦いやだなーって思い始めた頃の話だ。
初陣は上手く行ったがオレは命懸けの戦いなんて嫌だと思っていた。
だがそんな時期、始まった勇者とウルトラマンの共闘!
高嶋ちゃんの勇気! 勇猛果敢な突撃! 仲間を庇うその勇姿!
ビビったね、ビビっときたね。オレは心底痺れたよ。
あまりにもカッコいいもんだからオレもその後に続いちまった。
戦いが終わった後に高嶋ちゃんが『大丈夫?』とか言ってきたもんだからオレもう崇拝よ。
この女神なら信仰して良いなって思ってたら『震えてるように見えたから』とか言ってさ。
そうしてオレはその時めっちゃビビってたってことをようやく自覚したわけだ。
マジ天使。マジ女神。他人の心の痛みや恐れが分かる人が凡庸な子なわけないんだよなぁ……
聞けば郡ちゃんとかも高嶋ちゃんにその心の恐れを振り払ってもらったとか。流石だぜ。
自分を勇気で奮い立たせるだけじゃなく、他人を勇気で奮い立たせる者こそ勇者だわ。
つまり本当の意味での勇者とか高嶋ちゃん以外には一人もいないんだよなぁ……うん。
勇者の中の勇者とも言うべき高嶋ちゃんは一目連使っても酒天童子使っても素敵。
勇者の衣装って精霊使うと変わるけど高嶋ちゃんの衣装変化の良さはその中でも群を抜く。
かくいうオレも、高嶋ちゃんの一目連姿に勇気を貰い戦えるようになった奴だからな。
高嶋ちゃんはキュートでクールでベリーベリースタイリッシュ。や、褒め言葉が足りねえな。
その後の戦いでも、オレは高嶋ちゃんの勇姿と可愛さを存分に目に焼き付けて―――」
「カイトが友奈のことになると早口になるのクッソ気持ち悪いと思わんか?」
「やめましょうよ」
ドルオタとは聞いていたが、ここまで
海人は友奈を実像の数倍は美化していた。
しかも美化している自覚があるというのが恐ろしい。
アイドルが理想的な人間であると、心の底から信じている人間はそう多くない。
だがファンはアイドルを美化して見て、心のどこかで美化していることを自覚しながら、美化したアイドルを応援し、極大の好意を持ち続ける。
海人が友奈を見る目もこれだ。
彼は半ば自覚的に友奈を美化しながら、友奈の友達というより、ファンをやっている。
友人をやるということは、相手の長所や短所を理解していくということだ。
ファンをやるということは、相手の上っ面を信じ、短所を見なかったことにして、とことんまで美化して肯定していくということだ。
短所も長所も含めて理解し愛するのが竜胆ならば、相手を理解することで"愛せなくなる短所"を見つけてしまわないように、理解の度合いを調整するのが海人のタイプのファンである。
短所を知った上でファンをやるファンもいるが、海人はそういうタイプではないのだ。
良い意味でも悪い意味でも、海人が友奈に幻滅することは絶対にない。
こんなに癖があるのに友奈の戦友をやれている海人が凄いのか、ここまで癖がある男に好意的に接し友人として振る舞える寛容な友奈が凄いのか。
竜胆は、海人を"落ち着いた感じの高校生"と評した球子の人物評価を、『もしかしてタマちゃんの前だとオタク気質で無口になってただけじゃないの?』と思い始めていた。
「つかカイトがこういうので饒舌になる理由の半分は、自分語りが好きだからなんじゃ」
「パイセーン! 変なイメージ植え付けないで!」
「ああ、普段の何十倍かってレベルでまくしたててましたからね……」
「……オレが黙ってる時ってそんな多く感じる?」
「まあ、ちょっとは。
でも海人先輩、時々会話に加わるの完全放棄してスマホ弄ってますよね。
あれちょっとどうかと思います。友奈だってああいうのは気にしますよ」
「あ、はい」
「がっはっは! カイトぉ、年下の後輩に正論言われとるぞ!」
「分かってますよ!」
海人は頭を掻いて、竜胆の肩を叩いた。
「分かるかね御守君。オレは高嶋ちゃんにずっと綺麗なものでいてほしいんだ」
「は、はぁ」
「男の影とか無い存在で居てほしいんだ。
直球で言うけどあんま仲良くしないでくれよな高嶋ちゃんと」
「ええと……海人先輩が友奈と恋人になりたいとか、そういう?」
「バカだな俺すら邪魔に決まってんだろ! 殺すぞ!
男の影を高嶋ちゃんの周囲から一切排除したいんだよ!
綺麗なものだけの園をそこに維持したいんだよ!
分かんねえなら言ってやるが高嶋ちゃんにずっと処女でいてほしいんだよ!」
「気持ち悪っ」
「男の自慰の対象にはなるけど男が触れられない存在でいてほしいんだよ!」
「気持ち悪っ!」
「分からないのか!
この地球上で高嶋さんが一番可愛い!
そんな高嶋さんに男が出来るとか興奮と嫌悪を覚えて体の震えが止まらないんだ!」
「気持ち悪ッ! え、なんですか!?
先輩って俺の参戦前からこういうキャラだったんですか!?」
「いや、流石に女性が目の前にいる時はこんなオープンじゃねえよ。
今は男子会だからオレもこんなにオープンなだけで……あ、でも、そうか。
高嶋さんに会えなかった半年近くの時間が、オレの愛をこんなにも膨れ上がらせていたんだな」
「もうやだ気持ち悪い! この人俺が出会ったことのない人種だ!」
好きなものを病的に愛し、好きなものを語る時にとことん早口になる。
行くところまで行った友奈愛。
鷲尾という名字に、変なイメージを持ってしまいそうだった。
「しかしなぁ……友奈にも自由ってもんがあるんですよ、海人先輩。
友奈の幸せを望むなら、友奈に彼氏が出来たら喜んでやるべきじゃないでしょうか」
「そんなおりこうさんの倫理知ったことか。
"好きな人に好きな人が出来たら黙って身を引くのが愛"?
かーっ、おこちゃまか!
それじゃ他人にとって都合の良いだけの人間、幸福になれない人間にしかなれんわ!
高嶋ちゃんに彼氏なんぞできるのはオレは絶対に許さんぞ! 断固抗議する!」
「そうしたら俺が止めますよ?」
「はっ、お前が止めに来たところで―――」
ふっ、と竜胆の肘から先が消えた。
前兆モーションが要らない、肩・肘・手首を回してスナップを利かせるだけの、超高速パンチが海人の前髪を打つ。
海人の前髪が一本、ぷつりと切れてはらりと落ちた。
竜胆は微笑んでいる。
「あっはっは、面白いこと言いますね。
俺が仲間の幸せの邪魔する人を本気で殴れないと思ってるんですか?」
「……お、おう」
「実害が出ない内は海人先輩に干渉もしませんよ。
海人先輩は『理想の友奈』を求めてればいいです。
でも、それが何か実害を出すようであれば……
俺は『友奈の幸福』のために何とだって戦いますよ?」
「この後輩やべーぞ……!」
「ところで話は変わりますけど、俺最近それなりの厚みの鉄板なら殴って凹ませられるんです」
「話が変わってない!」
どうせこのチキン野郎に高嶋の恋人に何かする度胸なんてないぞ、と大地は思っていたが、流れが面白かったので何も言わなかった。
「まあ友奈は彼女にしたいと思う男多いじゃろ。ワシもアリだと思う」
「殺すぞ」
「うおっ」
「パイセンが昔結構女遊びしてたこと知ってるんだからな。
高嶋さんに本当に手を出したら絶対に殺す。竜胆なら半殺しだが、あんたは全殺しだ」
「無敵のガイア&アグルコンビ解散の危機じゃあ……」
「こんなことで解散しないでください!
って、なんで俺もしっかり話の仮定の対象に入ってんだ……!」
竜胆はふと、大地の発言に疑問を持った。
「あれ? 大地先輩って巨乳好きなんじゃないんですか? 友奈は、その……」
「まあ平均以下じゃな」
「……え、ええ、まあ、そうですが」
仲間の胸の大きさを改めて語るのが気恥ずかしくなったのか、竜胆は頬を掻く。
「ワシ、おっぱい好き。大きなおっぱい大好き。大きくないおっぱい普通に好き」
「あ、明け透けに! オープンに言っていいことじゃない!」
「へっ、素直になりな。ワシだけじゃない。お前もそうであるはずだ」
「俺は勇者全員にドキドキしたことがあるような人間なので……」
「……あっ、そういう?
とまあ、ワシは胸が好きだ。外も内も、他の奴と違う奴が好きだ」
「外と内?」
「胸の内に輝く物があるか、胸の外にデカい物があるか、その二択!」
「ど……堂々と言い切った!」
「まあそれはそういうものが好きというだけの話!
実際に恋人にするっちゅうわけでもないわけだ。
胸の内の輝きはワシの心が惚れる、胸の外の膨らみはワシの股間が惚れる!」
「先輩二人はさぁ!」
明け透けな、胸の内と外への好意。
一言で言うなら、大地は"顔で女を選ばない男"だった。
そう言うと立派な男であるように思えるが、実際は恐ろしくシンプルな思考によって動いている豪放磊落な男、というだけのことである。
竜胆は、球子の大地評を思い出した。
―――三ノ輪さんは胸が大きい女の言うことなら大抵聞いちゃいそうな最低野郎だ
なるほど、と竜胆は納得する。
海人は相手によって対応を変えたり、素の自分を出せなくなってしまうようだが、大地にはそういう気質が一切見えない。
誰に対しても同じような対応をしている姿しか想像できない。
球子の人物評が海人に対しては正しくなく、大地に対しては正しい理由を竜胆は察し、色々教えてくれていた球子に心の中で感謝した。
竜胆の心の中で、土居球子は永遠に特別枠な女の子である。
「じゃから発育いい杏も割と好き。心が打たれ弱いのはあんまりって感じじゃが」
「杏は成長してますよ」
「ん?」
「半年前の四国基準で語ってませんか、先輩?
俺はあいつを信じて背中任せてますよ。伊予島杏は弱くたって強いんです」
「ほー。なるほど、なるほど」
大地は、杏に対し"球子がいなくなったら終わり"という印象を持っていた。
そうならなかったのには相応の理由があったのだろうと、竜胆を見て推し量る。
(確かに、ワシが知っている伊予島杏は、土井球子の死に耐えられるような女ではなかった)
竜胆の指摘に、海人も頷いている。
「まーそうですね。
オレとパイセンが居なかった数ヶ月で、皆結構成長した気がするっす。
郡ちゃんとか頻繁にドブの底の腐った泥みたいな目してたのに、超ウケますね」
「海人先輩、表に出てください」
「おいその握った拳を下ろせ後輩」
「これこれ、脅すのはやめんか竜胆。
海人は千景と同じ陰キャゆえに、同族嫌悪があるんじゃ」
「「 陰キャ!? 」」
「ちょっと待ってください!
オレは郡ちゃんと違って割とメンタル強いですよ!
ボソボソ何か言ってる郡ちゃんよりは陽キャで価値があるはずです!」
「あ、そういうこと言うんですか!?
じゃあ俺も言いたいこと言いますけど!
顔が可愛い分海人先輩よりちーちゃんの方が万倍価値ありますからね!」
「ぐあああっ反論し辛い言い方しやがってっ! 顔の出来を引き合いに出すな! 泣くぞ!」
「ワッシー蚊帳の外でも楽しいわ」
一々何かを貶したりして相対的に何かを上げるタイプの海人と、とことん全方位に好意的な竜胆の主張は大体の場合噛み合わない。
「郡ちゃんは顔が良くても無愛想とか色々な要素で損なってるとオレは主張してみます」
「笑顔も性格も挙動も、正負合わせて全部可愛いから良いんですよ、ちーちゃんは」
「……オレも話に聞いただけだが。
亜型ピスケスに洗脳された郡ちゃんは、お前に醜いところ沢山見せたそうじゃないか」
「醜いところだって可愛いもんですよ。
だってそれはちーちゃんにしかない個性ってことでしょう?
ちーちゃんの個性が好きってことは、そういう部分も好きってことなんですよ」
「個性って言うと大体その人のプラスの部分を語るもんだと思うがなあ……」
「他の人に無い欠点があるっていうのも十分に個性ですよ。
愛おしいじゃないですか。
ちょっと別の話になりますけど、俺にだって好きじゃない他人の欠点とかありますし」
「例えば?」
「海人先輩がナチュラルにちーちゃんに辛辣なとことかですね」
「おおっと、そこはしょうがないな。オレの優しさはお前と違って有限なんだ」
竜胆と海人は、優しさの形も愛の形も違う。
竜胆のそれは若葉や友奈のようなそれであり、海人のそれは千景のようなそれ。
広く向けられる博愛が竜胆のそれなら、海人の愛の範囲は狭く重い。
だからこそ竜胆と海人の間には、若葉と千景のような相性の悪さと、友奈と千景のような相性の良さが混在していた。
"高嶋ちゃんと仲良くして羨ましいぞ"という羨望や敵意もあり。
"こんなに自分を曝け出しても普通に受け入れてくれてるの嬉しい"という友情や喜びもあり。
海人は友奈と仲の良い竜胆が嫌いであったが、嫌いなのと同じくらいには好きだった。
若葉の誕生日であっても、バーテックスは変わらず攻めてくる。
敵に人間の事情を慮る義務など無い。
若葉の誕生日であることに気を使うのは、同じ人間だけだった。
『若ちゃんは休んでろ。今日くらいは、ゆっくりしてな!』
ティガトルネードの電撃パンチが、ゴモラの胸を打ち、その内側を焼く。
誕生日くらいは若葉をゆっくりさせてやろうと、ティガトルネードの拳が唸った。
ゴモラのパワーも、パワー特化のティガの形態とは比ぶべくもない。
張り切る竜胆を目にして、若葉は呆れたように表情を緩めた。
軽やかに跳んで、ティガの肩に乗る。
「いらぬ気を使うな」
『……お、お前な。今日くらいは良いだろ』
「構わん、共に戦わせろ。その方が私は嬉しい。
私の誕生日なら、少しくらい願いを聞いてくれてもいいだろう?」
『わかったよ』
連携し、バーテックス軍団に挑む。
日々怪獣の割合は減り、星屑の割合が増えてきた。
今日に至っては、メインターゲットの一般人もいないというのにオコリンボールが投入されている始末。
怪獣、星屑、オコリンボールの全てに、天の神の祟りの紋が刻まれていた。
(……あれ、なんだ?)
戦いながら、竜胆は敵を分析する。
刻まれたタタリの紋を見て、竜胆は怪訝に思う。
紋を刻まれたバーテックス個体は、日々動きから無駄が減っていき、スペックが増していく。
昨日よりも今日の敵の方が強い。
まだ対処できる怪獣だからいいが、本当に強い個体にこの紋が刻まれたならどうなるか。
竜胆は横目に仲間達を見る。
星屑やオコリンボールを相手にしている勇者達の表情に、余裕はない。
"タタリをその身に刻まれた"星屑やオコリンボールは、数の驚異はそのままに、勇者の戦装束の守りを貫きかねない存在になってしまっていた。
ティガは旋刃盤を投げ込んで蹴散らし、勇者達が追い込まれないよう、援護を継続する。
(なんだ……あの紋章みたいなのが強化要因……?
バーテックスは毎日無駄が減り、スペックが上がって……だとしたら……
何故、強い個体が出てこない?
最近の戦場に出てこなくなったような怪獣ばかり出てくる?
実験? テスト? それとも今投入されてるバーテックスが捨て石?
怪獣は減っていても、投入される星屑の数が多いままなのは何か理由があるのか?)
ティガブラストの目が、冷静に戦場を見渡す。
ゴモラの死体から湧き、杏を狙う精神寄生体を発見したティガの
(危ない、危ない。
精神干渉なら、ピスケスが一切出て来なくなったのはどういうことなんだ?)
お礼を言う杏とティガの同時冷気攻撃が、低温に弱いソドムやゴモラを追い詰めていく。
(精神寄生体はピスケスの上位互換じゃない。
視線を合わせたらすぐ幻覚洗脳できるピスケスとは住み分けできる。
精神寄生体は触れて取り付くタイプのようだし……
遠距離から幻覚を見せるピスケスと組み合わせた方が強いはずだ。
なんで出て来ない?
ゼットが余計なバーテックスの参戦を止めて一対一を作ってた状況ももう終わった。
亜型十二星座は継続して何度も出てたし……大侵攻の戦力として温存されている……?)
竜胆の考察は、知能の高さから来るものではない。
言うなれば、戦闘者の嗅覚。
"こういう理由があるからおかしさに気付く"という理性の思考ではなく、"なんかおかしい"という勘による前提ありきの推測。
勘が気付いたものに、理性と思考が理屈を付けていく。
(だとしたら、こいつらは大侵攻には全く関係ない先遣隊とかか?
先遣隊と、大侵攻の本隊を分けたとか……だとしたら、どのくらい戦力に余裕があるんだ?
本隊は……どのくらい数が多いんだ……? 何か、嫌な予感がする……)
今、巨人と勇者の中で一番に、"抱いている危機感と、大侵攻の正確な危険度の度合いが近い"のは、竜胆だった。
竜胆は杏に――勇者の中では一番慎重で、臆病で、それを踏破する勇気も持つ杏に――この状況をどう見ているかを問いかける。
『杏、このこまめな侵攻をどう思う?』
「先遣隊、偵察、挑発……何でもあると思うかな。
でも本気で潰す気が無いのは確かだと思う。
だって神樹様に向かっていく個体が一つもいないもの」
『……あ、確かにそうだ』
杏は竜胆と似た結論を既に出しつつ、竜胆の一歩先の推測を立てていた。
樹海の中心には神樹が立ち、これにバーテックスが到達することが神樹の終わりであり、竜胆達の敗北である。
バーテックスには基本的に人間を感知して狙う習性があり、だからこそ勇者や巨人とバーテックスが互いを狙う戦いが成立するのだが、戦術的に無視して樹海を狙うこともある。
細かい星屑の殲滅は巨人より勇者の方が向いているので、樹海狙いのそういった星屑には勇者が対応することも多い。
だが、大侵攻の事実が明らかになってからのバーテックス侵攻は、神樹狙いの侵攻が明らかに少なく……否、皆無になっていた。
つまり、神樹を倒して勝つ気がない。
竜胆たちの視点だと分からないが、これが大侵攻前の戦力整理と、あわよくば勇者の一人でも潰せれば、という目的のものである以上、それは当然のことだった。
竜胆の中に、嫌な予感が積み重なっていく。
過去最大に嫌な予感が積み重なっていく。
ティガダークに初めて変身した日も、朝からこういった感覚を覚えていたが……その時とは比べ物にならないほどに、嫌な予感。
ゼットを前にしても、彼がこれほどの悪寒を感じたことはなかった。
「……海人さん、まだ星屑に接近されると苦手なんだ……」
杏がボソッと呟いた。
ティガがそちらを見ると、アグルが数体の星屑に襲われていた。
『ええい潰せねえ……夏場の蚊かお前らは!』
変身者補正を考慮しなければ、アグルの光単体の力は、ガイアの光単体の力より強い。
なのでアグルの皮膚強度はガイアのそれより強く、星屑に食い破られるティガダークのような脆さは一切無い。星屑では歯が立たない。
が、アグル自身の体術が未熟すぎて、飛び回る数体の星屑を叩き潰せていないようだ。
海人のイライラが、巨人の巨体から伝わってくる。
『どっかいけや!』
その時、アグルの手から光の剣が生えた。
"アグルブレード"。
必殺光線に等しいエネルギーを凝縮した、光を固めた剣である。
それを一振りすると、やや油断していた星屑達が、あっという間に真っ二つになった。
『えっ、な、なんですかそれ』
『アグルブレード。オレの奥の手だ』
『か、カッコいい! え、なんですかそれ!?
今まで見たウルトラマンの斬撃技の中で一番綺麗でカッコいいんですけど!』
『羨ましいだろ? ん?』
「竜胆、海人の剣技はヘタクソにも程がある。見るなら私の剣の方がいいぞ」
『あ、ひっで!』
「そう言われるのが嫌なら、剣の自主練も真面目にやっておけ。まったく」
『若ちゃんの剣筋は確かに綺麗だよなあ……海人先輩も教わってみたらどうですか』
『オレは射撃訓練だけで手一杯だっての』
光の剣が消える。
これは確かに、純後衛でスナイパーの海人にとって、使いたくない奥の手だろう。
剣技にはちょっとうるさい若葉が面白くて、竜胆は心中でくすりと笑った。
『そうだ御守、せっかくだから前に話してた"あの技"、ここで試してみようぜ』
『え、ここでやるんですか?
確かにこんなに余裕ある戦い、次にいつ出来るか分かりませんけど……』
『どうせ実戦の中でウルトラマンに変身してる時しか練習はできないんだ。
イメージトレーニングで特訓繰り返すより、一発実戦で試しに撃って見た方がいいだろ』
『……ですね』
『今のアグルブレード見たろ?
大丈夫だ、安心しろ。オレは光線制御なら一番上手いからな。
新しい技を身に着けてオレを守ってくれ。痛いのも嫌なんだよオレは』
『分かりました。強くなって、俺が皆を守ります』
ガイア・千景・若葉が押し留めている敵の中で、一体だけ突破して来たガゾートに狙いを定めたティガダークの肩に、アグルが手を置いた。
(オレの光をティガに流し込んで……
赤と紫の光、これか。
これをティガダークの状態でも少しは扱えるようにすればいい。
ティガの体の中を、光をぐるぐる回す。
光を腕に集めさせる。
ティガダークの状態で、トルネードとブラストの光を引き出す感覚を覚えさせて……)
光線系のエネルギーの制御において、鷲尾海人を超える者はいない。
『どうだ? この感覚、覚えとけ。次は一人で撃てるようにな』
『了解です。ありがとうございます、』
『へへっ、礼を言うほどのことじゃねえのさ。なんだかんだ言って、オレ達は仲間……』
「リュウくん、頑張れー!」
『何高嶋ちゃんから可愛い声援貰ってんだ殺すぞ』
『情緒不安定か! しっかりしてください!』
ネガティブで湿っぽい発言だけは小声なのが、友奈の前でいい顔したい海人らしかった。
迫るガゾート。
ティガの両手の間に溜まる光のエネルギー。
手と手の間で、光のスパークが弾け始めた。
『よし、撃て!』
『―――スペシウム光線ッ!!』
其はウルトラマンの代名詞、"スペシウム光線"。
真っ黒なスペシウム光線がガゾートに直撃し、その体を爆発四散させた。
『おお……』
『前に、グレートが俺達に教えてくれたんだよな』
海人/アグルは得意げに腕を組む。
『基本的に、スペシウム光線を撃てないウルトラマンってのはいないらしい』
『そうなんですか!?』
そういえば……と、竜胆はゼットに首をねじ切られそうになった時、パワードとグレートのダブル・スペシウム光線に助けられたことを思い出す。
スペシウム光線は、基本中の基本の技だ。
全てのウルトラマンの必殺光線の基礎にはこれがある、と言われることもある。
ガイアやアグルも普段は使わないだけで、設定上はスペシウム光線を使用可能なのだ。
なればこそ、ティガにこの基本の光線を教えることができた。
それはティガが既に、"闇の巨人"の一言では言えない存在になっていることを意味していた。
トルネードとブラストの光の獲得により、闇の巨人と光の巨人の間にある境界線を、光の巨人側に一歩分踏み越えているということを意味していた。
ティガダークが、光線を撃った。
それすなわち、闇を抱えながらも、竜胆の心と属性が新たなる光と成り始めていることの証明。
「……黒い、光……」
ガゾートを粉砕する黒い光に、千景は安心と不安の両方を感じた。
ガイアとアグルの帰還から一ヶ月以上が経った。
連携は十分なレベルに達し、四国外部を観測したところ、四国への侵攻も一区切りがついたと推測されている。
今がチャンスだ。
大侵攻が始まる前に、回数を分けて先制攻撃を仕掛け、敵戦力を削る時が来た。
このチャンスは逃せない。
とてつもなく忙しないことだが、若葉の誕生日である20日で、最初の先制攻撃の日が21日に決定した。
今日片付けた敵の分が補充されてまた敵が攻めて来る前に、ということだ。
この最初の先制攻撃で、せめてブルトンは倒しておきたい。
ただでさえ敵が多いなら、ブルトンを倒して樹海の中に敵を引き込んで……それでようやく勝機がある、といったところだろう。
数で負けているのなら、最低限ホームゲームで戦えなければ話にならない。
「それを伝えに来ただけっすか、正樹さん」
「そう思うか、鷲尾」
「いや、それならあんた丸亀城にすら来ないでしょ。
上里ちゃんに何か伝えてハイ終わりってのがあんたのキャラでしょうね。
丸亀城にわざわざあんたが来て伝えて、こんな別室でオレにだけ話っていうのは……」
「ああ、そうだ。他の者にはあまり聞かれたくない話だ」
「ほーらやっぱり」
丸亀城に突然やって来て、明日の先制攻撃を通達し、海人を別室に呼び出して内緒話をしているこの男は、
以前、大社の運営方針について会議で強固な過激派主張を掲げていた男だ。
偉い人なのに前に出ていた蛭川。
現地で竜胆を助けてくれた万。
大社本部で巫女としてあくせくしている安芸真鈴。
そして、竜胆を犠牲にするやり方を肯定していた正樹。
大社の人間達は竜胆の視点の物語にはあまり映らないが、いつも懸命に四国を守るため粉骨砕身で頑張っている。
「―――」
「―――!」
正樹は海人に何かを頼み、頭を下げた。
海人はいつも偉そうにしている正樹が頭を下げたことに驚き、その頼みの内容に眉を顰める。
「いや、普通に嫌だよ。正樹さんはむしろなんでオレがイエスって言うと思ったの?」
「……だろうな」
「正直、あんたの頼みを聞いてやりたい。
気持ち分からないでもないからさ。
でもなぁ……死ぬかもしれないのは流石に嫌だわ」
海人に正樹が頼んだことは、海人の耳には"死ね"という頼みに聞こえた。
「あんたがオレに言ってることはさ。
要するに"信じられるし死んでもいいウルトラマン"がオレだけだってことで。
ティガは信じられないウルトラマンで、ガイアは死んでほしくないウルトラマンってことだろ」
「―――」
「命懸けの重要な作戦に、信じられない奴を投入したくないのは分かる。
死なせたくない奴を投入したくないのは分かる。でもなあ、オレだって死にたくねえよ」
海人は正樹が何歳なのかも、何ができるのかも、何が好きなのかも、どうやってその若さで大社という組織のトップ近くまで上り詰めたのかも知らない。
だが、三ノ輪大地と正樹圭吾が"高校時代の友人"であることは知っている。
三ノ輪大地が巨人として戦いながらも、大社に一度も文句を言わない男である理由は。
正木圭吾が、大地がウルトラマンになった後に大社に入り、短期間で上り詰めた理由は。
そこに、理由はあるのか?
海人は知らない。
聞いても二人が答えてくれたことは、一度も無いからだ。
海人が知っていることは多くない、けれども。
巨人として戦う者と、大社として戦う者。
別々の戦場で戦う二人の間に、友情があることは知っている。
「あんたは万が一にも友達を死なせないために、オレに死ねと言うわけだ」
死ぬかもしれない頼みとは、生贄になってくれと頼むのに等しい。
「まあそれを言うなら、神樹の勇者システムの開発起案の時から、ずっとそうだったんだよな」
勇者もそう、巨人もそう。
危険な場所に送り出し、危険な事柄を任せるということは、生贄の側面を持つ。
だが海人は聖人でもなんでもないので、"生贄は嫌"とすっぱり言える男だった。
「でもやっぱ死にたくないから、駄目だ」
正樹は気落ちした様子で、組んでいた指を組み替える。
「ああ、そうだな。
私はティガを全く信じていない。
ガイアを……三ノ輪を死なせたくない。
君を選んで頼んだのは、最低な話だが、消去法だ」
「でっしょうねー。
ん? そういえば、大社内でもティガって信用されてないんすか?」
「2/3はティガ支持、1/3が様子見と未だ怪しんでいる、といったところだ。
これまでの戦いの実績から、大社の2/3はもう暴走しないと信用している。
大社の巫女達は総じて、以前からずっと全面的にティガを信じているようだがな」
「え、何故巫女」
「上里と、安芸という巫女がいてな。
上里はまあ時折こちらに来て、こちらの巫女と話をする程度だが……
安芸という巫女の活動によって、巫女の間では前々からティガ支持が根強かったようだ」
「……へぇー」
「巫女は今や私達大社のギア、神樹に繋がる唯一のコネクターだ。
そこが揺らがずティガを支持しているということは、君が思っている以上に大きい」
竜胆の目に映らない場所にも、物語はある。
「正樹さんさ、オレに兄弟いるから家名も血脈も絶えない、だから死んでもいい……
みたいなこと考えてねえ? オレ兄弟が残るとしても死ぬのは嫌っすよ」
「バカを言うな。それを言うなら、三ノ輪にだって兄弟は四人もいるだろう」
「マジで!? 長男?」
「君と同じ長男だ。君は弟二人で、あちらは弟四人だが」
「そっか、パイセンにそんな弟が……あ」
話の拍子に、海人は『何か』を思い出した。
「―――あぁ、そういうことか」
その気付きが、海人と、そしてそれ以外の全員の運命を、決定付けた。
「そうか、そうだったのか」
「鷲尾?」
「オレには、あいつのために命をかける理由があった」
海人は納得したように頷く。
「やれるだけやって次の希望のきっかけ、掴んでくるっす。
ただ生還第一でやりますんで、期待はしないでください」
「……どうした、急にやる気になって」
「まあ死ぬ"かもしれない"くらいなら別に良いかなって、そう思ったんすよ」
死にたくはないので、海人はやるだけやって足掻くことを決めた。
「あー、死なないように頑張らねえとなー!」
怯えて逃げるよりは、足掻いて戦い生き残ろうとする気概が、海人の内に湧いていた。
どこかに私の死に場所はあるのだろうか、と、ゼットは思った。
その胸には刻まれた天の神の祟りの紋。
苦しみながら、ゼットは大侵攻の部隊の最後尾にて腰を降ろしていた。
天の神の意に沿うためには、大侵攻に参加しなければならない。
だが戦う気はまるで見えない。
苦虫を噛み潰すようにして、ゼットは大侵攻の軍勢を見回した。
「美しさの欠片もない。虫を踏み潰すような、当たり前の勝利を妥当にもたらすものだ」
ゼットですら、そう言うほどの戦力。
イフ、ゼットすらも跳ね除けた四国を潰すほどの恐るべき軍勢の群れ。
それぞれが山程の星屑を凝縮して作られた恐るべき怪獣、恐ろしいバーテックスでありながら、一体一体が天の神の祟りという名の『強化』を受けていた。
(……私で反省を得たつもりか?)
ゼットにもし、心から生まれる『余計』が無かったなら。
そもそも、四国での初陣でゼットがグレートを倒した後、竜胆達も皆殺しにして神樹も倒してしまえば、その時点で全ては終わっていたのだ。
グレートにゼットが敬意を払わなければ、あの時点で人は滅んでいた。
天の神からすれば、矜持などという邪魔なものはバーテックスには要らない。
叶うなら、何も考えない無機質なバーテックスこそが望ましい。
だからこそ、"ゼットのように強い存在"を求めながらも、"ゼットのような不確定要素"を持たない個々の存在を作り上げた。
それらを揃えて叩き込む、かつてない侵攻、ゆえに『大侵攻』。
祟りを見た人間が、神地や首塚に対しバカにするような行動を一切取れなくなるように、大侵攻のバーテックスは全てが天の神の意に沿う存在である。
祟りに込められたエネルギーによって、力も強化されている。
加え、数自体も桁外れだった。
人間は負けるだろうと、ゼットは予測する。
(いや)
なのに、自分の予測を、自分で否定した。
(逆転がありえない、なんてことはありえないな。
何故なら私がこうして負けている。あのウルトラマンと、人間どもならば、あるいは……)
大侵攻の中核戦力の一つに、"ゼットン軍団"があった。
ここではない世界においては、光の国の滅びを想像させるほどの戦力であったという、宇宙恐魔人ゼットのゼットン軍団。
全てのゼットンの頂点に立つ能力を持つゼットは、それら全てを支配することができる。
だが、ゼットは腰を降ろしたまま動かない。
ゼットン軍団も石のように動いていなかった。
限りなく、不動。
ゼットはウルトラマンとも、人間とも、戦おうとしていない。
ゼットン軍団もその意を反映してしまっている。
大侵攻の中核戦力の一つが、完全に沈黙した形だ。
当然それは天の神の意に沿わない行動であるため、ゼットの体に途方もない量の祟りが降り掛かっている。
人間であれば、とっくの昔に発狂しているレベルの苦痛だ。
ゼットの精神力をもってしても、耐えるので精一杯というレベルの地獄。
命令無視ですらこのレベルの苦痛が走るのであれば、天の神に直接逆らいでもすれば、ゼットにとって最悪の形で―――ゼットは死ぬかもしれない。
「沈黙と無行動くらいは選ばせろ……! 私が戦う時と、相手は、私が選ぶ……!」
ゼットは動かない。
ゼットン達も動かない。
苦悶の声を漏らすゼットが、その時突然、顔を上げた。
「来たか……ウルトラマン」
光が、来る。
遠くの空に飛翔するガイア、アグル、ティガブラストの姿が見えた。
島根県北東部、出雲の地。
天の神と敵対したスサノオが降り立った地であり、ヤマタノオロチが剣にて倒され、聖なる剣を取り出された地でもあり、地の神が国作りをした地でもあり。
……地の神が天の神に敗北した結果、天の神に国譲りをした地でもある。
雲、すなわち天。
天出づる天の神の地。
無限にも思えるバーテックスの軍勢が、出雲の地に集結していた。
星屑がうようよと居るせいで、出雲の地は地表すらまともに見えてこない。
『見えてきたな、大侵攻の軍勢』
大進行前に敵戦力を削るには、攻撃した後撤退し、また再度攻撃を仕掛け、それを繰り返していくしかない。
よって勇者全員を連れて行くと、最悪撤退に支障が出る。
最大戦力をぶつけるのが重要なのではなく、撤退できる人数で行くことが重要なのだ。
なので勇者は千景と杏が留守番、友奈と若葉のみが出撃。
身体能力がバカみたいに上がる友奈と、空を高速で飛べる若葉が、ティガブラストの手に乗せられて一緒に飛んでいた。
『結構飛ばしてるが、寒くないか、二人共』
「私は大丈夫だ」
「ティガの手が暖かいから大丈夫だよ」
『今の俺の手は分厚いだけでそんなに暖かくもないと思うけどな……来るぞ!』
出雲の地より、まだ総数も把握できていないバーテックス達が攻撃を始める。
炎、雷、溶解液、振動波、ビーム、レーザー、水攻撃と、あまりの数と多様性の暴力に、ウルトラマン達は全力の回避行動を取る。
『さて、マジモンの大侵攻の前哨戦が始まる……と、言いたいところじゃが』
ガイアが鼻の下を擦って敵の放つ弾幕の隙間を見極めようとした、が。
突破して接近できるような隙間は一切なく、弾幕の密度は時間経過で増す一方だった。
『……何体居るんじゃこいつら……!』
接近して、少しずつ見てくるようになると、分かる。
出雲の空も、出雲の大地も、その向こうの出雲の海も。
その全てが、バーテックスによって覆われていた。
その時、早く帰りたくて帰りたくて仕方ない海人が目当てのものを見つける。
『あ、ブルトン! 今ブルトンが見えたぞ!』
四国――正確には愛媛――から変身して飛んで来たため、ティガ達は南から北へと真っ直ぐに北上して来た形になる。
そしてブルトンは、バーテックスの大軍勢の中でも南端近くに居た。
敵戦力のほとんどは、前衛近くにいるブルトンを守れる位置にいない。
(ブルトンはかなり前衛寄りな位置に居るな。チャンスかも)
竜胆はこの気を逃さぬよう、思念波の声を張り上げた。
『一掃しましょう。
若ちゃん、友奈を頼む。
俺と二人の先輩の光線で弾幕、空中の星屑、できれば数体大型も片付けます!』
『おう!』
『了解!』
「リュウくん達も気を付けて!」
ティガが腕を十字に組む。
ガイアが腕を十字に組み、L字に組み直す。
アグルが光を両手で集め、両拳を揃えて突き出す。
『スペシウム光線ッ!!』
放たれるは黒き光線。
『クァンタムストリーム!』
放たれるは炎のような光線。
『リキデイター! 連射ぁ!』
放たれるは青き光弾の高速連射。
みるみる内に、空中にいた星屑達が消し飛んでいく。
だが地表に群れ成す大型へと届く前に、光線と光弾は、五体の大型バーテックスに吸収されてしまった。
『ベムスター……!?』
ティガの手足に光線と、なんでも食う大怪獣ベムスターが、三人の巨人の攻撃をシャットダウンしていた。
そこに追加される、五体のバードン。
合計十体の"恐るべき怪獣"達が、ティガ達を囲んだ。
ガイアとアグルは、初見の敵を前にして慎重に対応した。
ティガは前の戦いで間合いを見切っていたので、積極的に落としに行った。
その差が、命取りになった。
(!? 前より早く、力強い!?)
前回よりも速い飛行速度。
前回よりも強いパワー。
前回よりも無駄が減った動き。
ベムスターとバードンの胸には、天の神の紋が刻まれていた。
『ぐっ……!』
「竜胆っ!」
ティガが叩き落とされて、ベムスターがそれを追っていく。
若葉は友奈を抱えたまま、ティガを援護すべくその後を追った。
ガイアとアグルはバードンと空中戦のドッグファイトを繰り広げながら、なんとかブルトンを狙えそうな位置の地面に着地する。
『やっと地面に降りられたが……御守! 大丈夫か!』
『大丈夫です! そっちはそっちで気を付けてください!』
『気を付けろって言って……も……あれ……なんだ、あれ……?』
地に落ちたガイアとアグルを出迎えたのは、
全長990m、体重9900万t。
その敵は、あまりにもデカすぎた。
あまりにも巨大過ぎる、鉄の馬のような、鉄の牛のような、何かだった。
ウルトラマンガイアが50m、4.2万t。
ウルトラマンアグルが52m、4.6万t。
あまりにも、差がありすぎる。
ガイアの20倍近い全長ということは、身長1.7mの人間から見た34mの人間に等しいということだ。
ガイアの250倍近い体重ということは、体重60kgの人間から見た15tの人間に等しいということだ。
これではまず、殴り合いが成立しない。
もぞり、とその巨体が動く。
その足が前に踏み出される。
ただそれだけで、ガイアとアグルは踏み潰されそうになり、必死にその足をかわした。
990mの身長があるということは、軽く足を踏み出すという一行為ですら、100m先の敵をワンアクションで踏み潰せるということなのだ。
踏まれれば、最悪ウルトラマンでも致命傷。体重9900万tは伊達ではない。
この怪獣の名は『ギガバーサーク改』。
ウルトラマンの数十倍は大きく、ウルトラマンを踏み殺せる重さとパワーを持ち、ウルトラマンの光線が効かない装甲と、ウルトラマンを撃ち殺せる兵装を装備した、戦艦の如き怪獣だ。
『なんだこいつ、アリでも踏み潰すみたいに気軽な一歩で……!』
『カイト新手だ! 前を見ろ!』
『!?』
そうして回避したガイアとアグルの前に、新たなる怪獣が立ち塞がる。
アグルに襲いかかったのは、ファンタジーのドラゴンのような怪物だった。
二足歩行で、腕の指がレーザー砲になっていて、首がキリンのように長い。
あまりにも異質なそれに、アグルはリキデイターを抜き打ちで打ち込んだ。
青い光弾が怪獣に命中し―――ダメージはなく、吸い込まれてしまった。
『!?』
その名は『シラリー』。伝説宇宙怪獣、シラリー。
"天空に追放された者"。
ベムスターと同じく、エネルギー吸収捕食能力を持つ、ドラゴンの怪獣。
その指先の銃口が、アグルへと突きつけられた。
アグルを助けに行こうとするガイアの前に、水色の怪獣が立ち塞がった。
『どけ!』
水色のトカゲをデブらせたらこうなるのだろうか、と思わされる怪獣。
ぶよぶよと太った体に、ガチッとした爬虫類らしい強固な皮膚、両手の爪と口元の牙がとても大きい、そんな怪獣だった。
ガイアが接近戦を吟じようとするが、水色の怪獣はそんなガイアをパンチ連打で圧倒する。
(!?)
なんというハンドスピードか。
遠目には肥満体に見えるのに、ハンドスピードは明らかにガイアよりも速い。
大地の柔術がなければ、ガイアもいいパンチをもらってしまっていたかもしれない。
(真正面に立ってるとヤバい!)
ガイアは水色の怪獣のパンチラッシュを受け流しながら、サイドステップで水色の怪獣の側面に回る。
側面から脇腹に一発蹴りを入れ、怪獣をうめかせたところで、瞬時に構えてクァンタムストリームを叩き込んだ。
『邪魔だ!』
ガイアはトドメの光線のつもりで撃った。
それで殺すつもりで撃った。
だから"その光線が水色の怪獣に吸収反射された"せいで、光線を胸にモロに喰らってしまい、息が止まるほどの衝撃を受ける。
『があッ……!?』
この怪獣の名は『コダラー』。伝説深海怪獣、コダラー。
"深海に閉ざされし者"。
(くそっ、ワシが海人の援護に行くにはどうすれば……!)
ドラゴンの如きシラリーの、指のレーザー砲が、アグルを滅多撃ちにする。
アグルの遠距離攻撃は全てシラリーに吸収され、シラリーの遠距離攻撃は一方的にアグルを打ち据える。
これでは勝てるわけがない。
ふらふらと立ち上がったガイアが、コダラーの水色の腕に殴り飛ばされる。
殴り飛ばされて吹っ飛んだガイアを、990mのギガバーサークが跳ね飛ばした。
無残に地面に転がるガイア。
そして、倒れたアグルとガイアの上に、新手が飛び降りて来た。
『がッ!?』
『ぐぅ……!?』
ガイアとアグルを強く踏む、新手の二体。
アグルを踏みつける怪獣の名は『ブリッツブロッツ』。
天狗のような姿をした、破滅魔人ブリッツブロッツ。
ガイアを踏みつける怪獣の名は『ゼブブ』。
ハエのような姿をした、破滅魔人ゼブブ。
ブリッツブロッツはアグルを踏みつけながら光弾をアグルに連発し、ゼブブはガイアを踏みつけながら電撃を叩き込む。
『があああああっ!』
『ぐっ、うっ、ぐぐっ……!』
苦しむアグル、ガイア。
日本の神話において、地の神である力自慢のタケミナカタは、天の神であるタケミカヅチに敗れ去る。
それは、運命だ。
タケミカヅチは刀の神と対になる雷神であり、雷神にして剣の神であると言われる。
タケミナカタとの戦いの時、タケミカヅチは雷神としての力を使わず、その腕を刀に変化させてタケミナカタと戦ったという。
破滅魔人ゼブブは『電撃を主武器とする』怪獣であり、『右腕が刀になっている』という、ハエの怪獣だ。
ガイアは、
ガイアは
ゼブブは
運命はするりと、未来を決定する流れへと入り込んでくる。
神話から逃れること叶わず、神話はなぞられるだろう。
ブリッツブロッツが光弾を叩き込みながら、アグルを何度も踏む。
ゼブブが雷撃を叩き込みながら、ガイアを何度も蹴る。
990mのギガバーサークが、歩み寄ってくる。
アグルの光弾を吸収消化したことで、より元気になったシラリーが寄ってくる。
ガイアとアグルの逃げ道を塞ぐように、水色体のコダラーが立つ。
ベムスターが何体も飛んで来た。
バードンがガイアとアグルの肉をついばみに、その上空へとやって来る。
EXゴモラ達が、脇からガイアとアグルを突き殺すチャンスを窺っていた。
ピスケス・サイコメザードが幻覚をかけるチャンスを窺っている。
ジェミニ・レッドギラス&ブラッグギラスが、ガイアとアグルの隙を窺っている。
キャンサー・ザニカが、ガイアの火系の技を消す泡を口の中に溜めていた。
アクエリアス・アクエリウスが、強力な火力の銃口をガイアとアグルに向けている。
その全てが、天の神の紋によって強化済み。
それが、彼らの戦場だった。
地面に叩き落とされたティガへと襲いかかったのは、レオ・アントラー。
レオ・バーテックスに磁力怪獣アントラーを加えた中間体である。
あの時の戦いの傷などまるでなかったかのような体で、炎球をティガに叩き込んできた。
(あの時の……!)
ティガダークは何とか火球に耐えて、腕を十字に組む。
『スペシウム光線!』
だが、レオの黒い表皮を貫ききれず、弾かれてしまう。
接近してきたレオに対抗すべく、ティガトルネードに変身して構えた、が。
その背中に、サソリの針が刺さった。
『ぐ、あっ……!?』
その背中を刺したのは、スコーピオン・アンタレス。
強力な怪獣アンタレスを要素に取り込んだスコーピオン・バーテックスだった。
ティガの体に猛毒が流れる。
レオにとってティガは自分を存分に破壊してくれた因縁の敵であり、ティガにとってスコーピオンは球子を殺した因縁の敵。
優しい戦いになど、なるはずがなかった。
そこに来た、かなりの高度からティガへと爆撃してくるヴァルゴ・アプラサール。
あのヴァルゴにはホールド光波以外の全ての攻撃がすり抜けてしまうという、アプラサールの最悪の力があるのに、これだけ距離があるとまずホールド光波が当たらない。
最悪の位置取りだった。
ここは四国結界ではないので、結界の高さ上限が無いのである。
そこで、空から若葉と友奈が来てくれた。
毒でふらつく体に必死に鞭打ち、ティガは降りて来てくれた若葉と友奈に礼を言う。
このピンチに仲間が居てくれることは、それだけで心強い。
『助かった、良かった合流できて。若ちゃん、友奈、敵は―――』
「竜胆! 偽物だ!」
『―――!?』
"本物の若葉"が、上空で叫んだ。
何度同じ手を使おうと、見破られない"悪辣な工夫"というものはある。
ティガが猛毒で弱った瞬間を狙えば、"仲間に化ける"というタウラス・ドギューの戦術は、何度だって成功する。
"若葉と友奈"に化けていたタウラスの角が、ティガトルネードの脇腹を刺し抉った。
タウラスは嘲笑うように音響攻撃をかましながら逃げていく。
『野郎っ……!』
ふらついたティガを一体の怪獣が掴み、もう一体の怪獣が殴る。
『!?』
掴んだ怪獣はゼルガノイド。
ウルトラマンの死体の成れの果て、エネルギー無限の人型怪獣。
殴っている怪獣はキリエロイド。
三形態に変身し、ティガを翻弄した人型怪獣。
かつてコンビで当たってきた二大怪獣のみならず、星屑までもがティガに寄ってきて、その肉を貪ろうと群がってくる。
竜胆はとっさに、最大威力の技を当てた。
『ウルトラヒートハッグッ!』
ティガの全身から放たれた赤熱のエネルギーが、星屑達を爆散させ、ティガの体を巻き込んで爆散させる。
スコーピオンの毒も体内から全て吹っ飛び、ティガは多大に消耗しながらも、なんとか体を再生させる。
ゼルガノイドとキリエロイドはとっさに飛び退き、爆発から逃げ切った様子。
ティガは再生終了後の体を動かし、反撃の狼煙を上げようとして―――その首が、落ちた。
「……え?」
唐突に落ちたティガの首。
否。
『―――!!』
竜胆はパワードに地球一の天才と呼ばれた才覚で、あっという間に首から下を再生させる。
首から下が再生したその頃には、残された胴体は、切れ味鋭い剣技にて細切れにされていた。
その怪獣は、まるで閻魔大王のような服を着ていた。
いや、体がウルトラマン級に大きくなければ、きっと誰もが人間の姿をした閻魔大王だと断言するだろう。
それほどまでにそのバーテックスは、人間に似た形をしていた。
右手には剣、左手には天秤型の盾を持っている。
だが、違う。
人間より優れた、人間を滅ぼすべく在るバーテックスが、人の姿に進化するわけがない。
これは、恐れそのものだ。
死を恐れる人間の恐れ、死後を恐れる人間の恐怖。
死後の人間を『裁く』閻魔大王への恐れそのもの。
生きた人間を『裁く』天の神とは似て非なるもの。
この怪獣の名は『エンマーゴ』。えんま怪獣、エンマーゴ。
罪を測る閻魔と、罪を測る天秤座の中間体。
ここではない世界で、ウルトラマンのタロウの首を切り落とした怪獣だった。
『ぐっ、冷たっ―――』
エンマーゴと相対するティガの体に、冷気がぶつかった。
杏の雪女郎と同質……いや、完全に上位互換の吹雪が吹く。
ティガの下半身は瞬時に凍結させられ、解凍の目処が立たないほどに凍りついていた。
竜胆が遠くを見やれば、そこには吹雪を吐き出す怪獣がいた。
ビッグフット・雪男・犬を混ぜたような、白い毛皮のバーテックス。
其の名は『スノーゴン』。雪女怪獣、スノーゴン。
その口から放たれる吹雪はウルトラマンを瞬く間に即死させ、氷像へと変えてしまう。
吹雪の射程、実に半径100km。
長距離狙撃も範囲攻撃も可能な、射手座とスノーゴンの中間体だ。
竜胆はアグルという純後衛の頼もしさを最近実感した。
純後衛の杏の吹雪の頼もしさは、何度感じたか分からない。
そして今ここに、射手座とスノーゴンの中間体であり、アグルと杏のいいとこ取りをしたような純後衛型の敵が参加したという、この最悪。
『く、そっ!!』
エンマーゴが、ティガの脳ごと頭を真っ二つにすべく、剣を振り上げる。
解凍している時間はない。
ティガは自分の腹に八つ裂き光輪を叩き込み、上半身と下半身を切り離した。
凍ったのは下半身のみ。
腹を両断すれば、上半身はごろりと落ちる。
そうやって、ティガはエンマーゴの斬撃をかわした。
エネルギーを多大に消費し、無理をしてティガは下半身をすぐさま直す。
スノーゴンは、サジタリウス・バーテックスが得意とする矢の攻撃を、氷の矢に昇華させて連発してきた。
ティガはティガブラストに瞬時にタイプチェンジし、サジタリウスの狙撃をかわしつつエンマーゴから距離を取る。
(何体いるんだ、このレベルの敵が……!?)
そうして回避行動を取っていたティガに、背後から光線が当たった。
『え?』
光線が当たった部分のティガの肉が、溶ける。
両足と右脇腹が完全に溶解し、奇妙な形の溶けた肉へと変わった。
(再生しない!?)
溶けた肉は再生しない。
これは特殊な溶解だ。
殺すための溶解ではない。
溶解させてそのまま一気に食う溶解でもない。
"獲物を全身溶解させてもなお生かし"、
ティガの足は無くなったのではなく、溶けた状態でそこにくっついている。
そのため、再生が行われないのだ。
そうやってティガを生きたまま、意識があるままにドロドロに溶かし、ドロドロに溶けた状態で泣き叫ぶティガを食おうとしているバーテックスが居た。
内臓と血管の一番気持ち悪いところだけを集めたかのようなその怪獣は、『ディーンツ』。
現在の巨大怪獣としての名は『マザーディーンツ』。
奇怪生命体・マザーディーンツだ。
オコリンボールとどこか似た怪獣であり、グロテスクな本体に、グロテスクな分体が無数に融合して完成した、いわば『ウルトラマンを殺せるオコリンボール』である。
その本質は増殖、捕食、そして合体。
なればこそ、増殖能力を持つアリエス・バーテックスの片割れ足り得る。
だからこそ、ディーンツとアリエスの中間体が、ここに成立していた。
その光線を浴びれば、何でも溶ける。
ウルトラマンでも。
勇者でも。
溶けた後は、マザーディーンツに食われる。
ディーンツは食って、また増える。
先程エンマーゴが首を切り落とした、ティガの首から下の体をディーンツはもぞもぞと食い、その体積を順調に増やし、更に増殖しようとしていた。
……ゴキブリが人間の死体を食っているのを見た人は、こういう気持ちになるのだろうかと、竜胆はおぞましい光景に舌打ちする。
『気持ち悪いな、こいつ……!』
ティガはまだティガブラストだ。
無事な両手をすっと構え、必殺のランバルト光弾を放つ。
光の矢が最高の鋭さと最高の速さでディーンツへと飛んでいく。
だがそれを、割り込んできた別の怪獣が、腹の器官で吸収してしまった。
吸収されたランバルト光弾が、ふっと消える。
『……!?』
ダメ押しとばかりに、参戦した最後の大型バーテックス。
その名は『タイラント』。
暴君怪獣、タイラント。
海王星でゾフィーを倒し、天王星で初代ウルトラマンを倒し、土星でセブンを倒し、木星でジャックを倒し、火星でAを倒し、地球でようやくタロウに倒された恐るべき怪獣である。
ベムスターを始めとした数々の怪獣を繋ぎ合わせているため、ベムスターなどの怪獣の長所をいいとこ取りした、合体怪獣。
両手が武器になっているだけでなく、全身がトゲや刃だらけであり、体当りするだけで敵にダメージを与えることもできる、全身武器怪獣でもある。
そして、地震を引き起こす能力を持つという、カプリコーン・バーテックスとの中間体。
タイラントは単体でも、その素材に使われた怪獣の力によって、津波を操る能力を持つ。
地震。
津波。
その二つの間にある密接な関係を、日本人で知らない者はほぼ居ないだろう。
タイラントが地面を踏む。
地震が地表の物の多くを粉砕し、出雲に存在する人間製の建物全てが倒壊していく。
カプリコーンの力が、タイラントの全力によってスケールアップして行使されたのだ。
ここが、出雲でよかった。
このタイラントとの初戦が、樹海でなくて良かった。
その地震攻撃は、樹海の中で使用していたなら、樹海の全てに傷を付け、樹海化解除後に四国を壊滅させるほどのダメージを与えていただろうから。
『ヤバ、い……!』
そしてタイラントとカプリコーンの力の相乗により、発生した強烈な津波が、ティガを飲み込んでいく。
海岸線に無数の星屑を壁として並べておけば、狙った相手にだけ津波をぶつけることなど、造作もない。
両足が溶けた状態でティガは押し流され、身動きが取れなくなる。
更には、ライブラ・エンマーゴ、タウラス・ドギューまでもが攻撃を加える。
ライブラ・バーテックスの能力は竜巻操作。
タウラス・バーテックスの能力は音響攻撃。
津波、台風、騒音が、ティガから抵抗する力を根こそぎ奪うべく襲いかかっていた。
『う、があああああああッ!?』
動きが止まったその頭を、スコーピオン・アンタレスとライブラ・エンマーゴが狙う。
前から迫るエンマーゴの剣。
後ろから迫るアンタレスの針。
もはやこれまでか、と思われたその時、やっと空から追いかけてきていた若葉と友奈が、間に合ってくれた。
大天狗・若葉の剣技がエンマーゴの連続斬りを受け流し、酒呑童子・友奈の拳が迫る無数の毒刺を殴って弾く。
頭を潰せば再生はない、というティガの攻略法を敵全員が共有していることに、若葉と友奈は寒気を覚えた。
「若葉ちゃん!」
「分かっている! ……だから、言うな! ティガを守れ!」
大怪獣ベムスターがやって来た。
怪鳥バードンもやって来た。
キリエロイドが、戯れのように形態変化を繰り返す。
ゼルガノイドのエネルギーは無限、ゆえに消耗もまだない。
ヴァルゴ・アプラサールは空高くで爆撃準備を完了した。
タウラス・ドギューは次に何に変身して人間をハメるかを考えている。
スコーピオン・アンタレスは、また勇者を刺し殺す機会を窺っていた。
アリエス・ディーンツはティガの体の残骸を食って、増殖を繰り返している
ライブラ・エンマーゴは、いつでもティガの首を切り落とせる姿勢だ。
サジタリウス・スノーゴンは、純後衛として杏のように立ち回っている。
カプリコーン・タイラントに至っては、そこに居るだけで脆弱な者の心を折ってしまいそうなほどに、絶大な力を雰囲気に滲ませていた。
そして十一体のバーテックスを従えるレオ・アントラーを加えて、十二体。
ティガ達の前で吠えているのは、十二体の大型バーテックス達。
その全てが、天の神の紋によって強化済み。
それが、彼らの戦場だった。
ガイア達の方で戦っている亜型四体と、ここで戦っている亜型八体。
亜型十二星座は、これで出揃った。
十二の星座は、ガイア、アグル、ティガの上げた顔の先で、絢爛に輝いている。
怪獣の咆哮という形で、輝いている。
空が見えないほどに、四方八方に星屑がひしめいている出雲の地にて、無数の怪獣達が、十二の星座達が、殺意の咆哮という形で輝いている。
いつも人並みに恐れを感じていて、それを勇気で踏み越えている友奈の足が、小さく震える。
若葉は叫んだ。
「これが……これが、四国に攻め入ってくるというのか!? 七月中にこの全てが!?」
無理だ。
この数と、この質は、何回か分けて攻撃して戦力を削る、なんて小細工が通じない。
そんな小細工をやっていたら、その過程で勇者と巨人が全滅する。
数だけならなんとかなった。
質だけならなんとかなった。
だがその両方が揃っていて、そのどちらもが過剰に飛び抜けている状況を、三人のウルトラマンと四人の勇者でどうしろと言うのか。
ウルトラマンと勇者が十人ずつ居ても、普通に戦力不足で敵わない。
せめてブルトンを倒せたらな、と想定して、先制攻撃に出て来たはずなのに。
もう、ブルトンが今どこにいるかすら、分からなかった。
友奈は周囲を見回して見る。
周囲全てにバーテックスが多すぎて、遠くの景色が見えない。
どちらが北なのかも分からない。
どっちの方向に突破すれば四国に帰れるのかすらも分からない。
退路が既に無いどころの話ではなく、どちらの方向に退路を作れば良いのかすら、分からなかった。
天の神「とりあえずこのくらい並べてみるか……」
※のわゆ原作で星屑百体投入して駄目だと判断したら、次回の戦いでとりあえず数を十倍にして千体以上投入して勇者をほぼ全員病院送りにした畜生。なおその次で更に増やした結果敵の数は千や二千どころでなく計測不能になった模様
イフとゼットの同時投入で駄目だったので、その十倍以上の戦力をとりあえず投入した的な
この後書き3700字もあるので、後書きの解説を読みながら頑張って本編を読んでくださっている原作未視聴の方には、めっちゃ負担になるというか、解説だけの文字列は負担になってると思います。すみません。
【原典とか混じえた解説】
▲ガイア・アグルサイド
●火山怪鳥 バードン
ウルトラマンを『殺した』怪獣。
●宇宙大怪獣 ベムスター
ウルトラマンに『勝った』怪獣。
●EXゴモラ
ゼットンを倒した怪獣。
●亜型十二星座
魚座のサイコメザード。幻覚使用者。
双子座のレッドギラス&ブラックギラス。小型の高速戦闘タイプ。
蟹座のザニカ。堅固な甲殻、複数の鋏、火を消す泡。
水瓶座のアクエリウス。超獣と合体した火力特化。
●伝説深海怪獣 コダラー
その名は
シラリーの対たる怪獣。
あらゆるエネルギーを吸収し、倍の威力で跳ね返す能力を持つ。
原作ではグレートの必殺光線を吸収して跳ね返し、グレートが反射技でなんとか跳ね返した光線を更に跳ね返し……と繰り返すことで、反射合戦に耐えきれなくなったグレートを地上から消し去った。
強力な電撃技を持つが、とてつもないハンドスピードと怪力から放たれるパンチのラッシュこそが脅威であり、正面から挑めばウルトラマンすら圧倒される。
光線も吸収されるため、並のウルトラマンでは初見で一対一ならまず勝てない。
本来ならば『地球の味方』の怪獣であり、天の神の敵に近い存在であるはずだが……
原作でウルトラマングレートを打倒している。
●伝説宇宙怪獣 シラリー
その名は
コダラーの対たる怪獣。
あらゆるエネルギーを吸収し、体内に溜め込む能力を持つ。
原作では地球の総力を上げた核ミサイルの一斉発射攻撃に平然と耐え、核ミサイル全てのエネルギーを吸収するというとてつもない規格外さを見せた。
鋭利な嘴、高熱の火炎放射、生体レーザー砲になっている指などが武器。
光線も吸収されるため、並のウルトラマンでは初見で一対一ならまず勝てない。
本来ならば『地球の味方』の怪獣であり、天の神の敵に近い存在であるはずだが……
●機械獣 ギガバーサーク(改)
この世界線において、洗脳された地下棲の知的生命体達が作り上げた最終兵器。
全長990m、体重9900万tという化物の中の化物。
東京タワーですらこの怪獣と比べれば1/3程度の大きさしかないというとてつもなさ。
加え、天の神襲来前の地球全人口の体重を合計してようやく一億tになると言われていたことを考えれば、それでようやくこのスケールが実感できる。
勇者が1.5m前後、ウルトラマンが50~60mと見ても、足元にも及ばないサイズである。
サイズ、馬力、攻撃出力、強度、継戦能力、その他諸々全てにおいて"ウルトラマンでも足元にも及ばない"レベルに仕上がっているため、巨人の必殺技の直撃にすら平然と耐える。
強力なウルトラマンであっても、一対一であれば勝ち目は薄い。
原作でウルトラマンマックスを打倒している。
●破滅魔人 ブリッツブロッツ
天の神の使徒・根源的破滅招来体が一端。
若葉の大天狗にどこか似た、カラス天狗のような姿をした魔人。
両手に鋭い爪、胸には光線を吸収して倍の威力で返す器官を備える。
相手のカラータイマーに手を当て、破壊しながらエネルギーを強奪し、即座に変身解除に追い込む能力を持つ。
強力なウルトラマンであっても、一対一であれば勝ち目は薄い。
原作でウルトラマンアグルを打倒しており、ガイアも一人であれば勝ち目は薄かった。
●破滅魔人 ゼブブ
天の神の使徒・根源的破滅招来体が一端。
昆虫の頭、悪魔のような体、死神の意匠を併せ持つ。
右腕の刀はウルトラマンの体を豆腐のように貫き、光弾や電流を攻撃手段として備える。
特に電流は強力で、これを応用した電磁バリアはゼブブの全身を包み、格闘攻撃や光線などの攻撃を一切通さない無敵のバリアである。
必殺の攻撃手段と無敵の防御手段を常時行使可能な、まさしく『矛盾』の死神。
様々な理由から、"タケミカヅチ"にキャスティングされている。
強力なウルトラマンであっても、一対一であれば勝ち目は薄い。
原作でウルトラマンアグルを打倒しており、ガイアも一人であれば勝ち目は薄かった。
▲ティガサイド
●精神寄生体
隙を見せれば憑依しに来る。
●炎魔戦士 キリエロイドII
ウルトラマンに対応した、三形態を切り替える人型怪獣。
●超合成獣人 ゼルガノイド
ウルトラマンの死体から作られた、人造兵器ウルトラマンの成れの果て。エネルギー無限。
●亜型十二星座
乙女座のアプラサール。あらゆる物理攻撃が無効。
牡牛座のドギュー。変身能力と音響攻撃。
蠍座のアンタレス。球子を殺した毒針の使い手。
獅子座のアントラー。強大なスペックと磁力使い。
●奇怪生命体 マザーディーンツ
天の神の使徒。微生物の根源的破滅招来体、と言われている。
人間の内臓に、その微生物が取り憑き融合変異した、無数の小型個体の集合怪獣。
グロテスクな見た目は見るだけで生理的嫌悪感をもよおさせ、更には人間を言語でも形容し難いほどに醜悪な姿へと変える、光線や溶解液を放つ。
この攻撃を受けた人間は生きた染み・溶けた肉塊・紫色の吐瀉物とでも表現されるおぞましい状態となり、死ぬこともできないまま、その醜悪な状態で放置されることとなる。
紫色の肉状の吐瀉物の中で、人間の目玉だけが動いているのを想像すればいい。
更にはディーンツが体を大きくするために人間の有機物を使うため、この状態で怪獣に捕食されていくことになる。まさに生き地獄。
何よりも恐ろしいのは、この光線がウルトラマンにも有効であるという点だ。
これを受けたウルトラマンガイアの足は、グロテスクに溶解した。
子供番組ってこと忘れてない?
原作のディーンツは医学のために博士が作ったクローン臓器を素材とし、発展を願う人類の祈りを嘲笑うものであったが、このディーンツは普通の人間の臓器を素材としている。
つまり、どこかの生きた人間から引きずり出した、生きた臓器を素体に使用している。
分裂増殖能力を持つ牡羊座と、分裂増殖能力を持つ怪獣の中間体。
亜型アリエス・バーテックス。
●えんま怪獣 エンマーゴ
タロウ世界において、江戸時代に街のほとんどと付近の山全てを崩壊させた怪獣。
当時の者達が地蔵に祈り、地蔵が封印していた、閻魔大王を思わせる巨人の怪獣である。
手に持つ盾は強力無比なストリウム光線を余裕で防ぎ、剣技は比類なき体術の強さを誇るタロウを圧倒し、鋭き剣の切れ味はタロウの首を刎ね飛ばした。
なお、この怪獣が登場した回のタイトルは『タロウの首がすっ飛んだ!』。
子供番組ってこと忘れてない?
地蔵――すなわち"地に根付いた神"――の敵対者。
罪を測る天秤の天秤座と、罪を裁く閻魔の怪獣の中間体。
亜型ライブラ・バーテックス。
●雪女怪獣 スノーゴン
雪女のような人間の姿と、雪男のような怪獣の姿を使い分ける、用心棒怪獣。
恐るべきはその氷の息吹。
射程は半径100km全てという規格外で、ウルトラマン相手でも収束すればあっという間に氷漬けにしてしまう。
原作においてもウルトラマンジャックをあっという間に氷像にしてしまった。
更にはTV放送実時間で30秒ほどジャックを延々と解体し、解体したパーツを投げ捨て、解体したウルトラマンの首を子供の前に投げ落としたという。
子供番組ってこと忘れてない?
雪女から雪男に変わる存在であり、精霊で言えば『雪女郎』に相当する。
長距離攻撃&範囲攻撃に長けた射手座と、長距離攻撃&範囲攻撃にも長けた怪獣の中間体。
亜型サジタリウス・バーテックス。
●暴君怪獣 タイラント
無数の怪獣達が一つになった合体怪獣。
ウルトラ兄弟達が地球を守る過程で、何年もの間絶え間なく倒し続けてきた怪獣の怨念が、海王星で凝縮・一体化して生まれた怪獣。ヤプールの同類かな?
海王星でゾフィーを倒し、天王星で初代ウルトラマンを倒し、土星でセブンを倒し、木星でジャックを倒し、火星でAを倒し、地球でようやくタロウに倒された恐るべき怪獣。
当時居たウルトラマン達が揃ってほぼ全滅させられており、ウルトラマンを倒して得られるトロフィーのコンプでも狙っているのかというレベルであった。
全身武器のような出で立ちに加え、その腹は一説にはベムスター以上の吸収捕食能力を持つと言われ、振動波ですら食べてしまう。
ウルトラマンを倒した怪獣、その代表格の一体。
ティガとは『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』で戦った因縁を持つ。
光線を吸収するベムスターの力等を駆使し、一分未満でティガのカラータイマーを鳴らしエネルギーを枯渇させ、そのまま倒す……寸前まで行ったが、思わぬ援軍により逆転され敗北した。
地震能力を持つ山羊座の力を加え、最強の直接戦闘力と災害能力を持つ怪獣を、厄災の国潰しに仕上げた中間体。
亜型カプリコーン・バーテックス。