夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 コダラーとシラリーって最低でも200万年前から生きてるんですよね
 原作グレートのエピソードではその時代の古代文明を滅ぼした設定なので
 ティガの力は三千万年前から地球に残っていて、度々誰かに力を貸しているもの
 ガイアの光やアグルの光も、地球がある限りいつの時代に存在してもおかしくないものです
 彼らは過去に面識があるかもしれませんし、面識はないかもしれません
 彼らは昔に共闘したことがあるかもしれませんし、ないかもしれません
 コダラーとシラリーが人にそれを教えてくれることはありません

 さて、大侵攻です。音楽でも聞きながらまったりどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=Q7ioLlRztKg


大侵攻 -デッド・オア・アライブ-

 天秤(ライブラ)の盾を片手に、切れ味鋭い剣を片手に、エンマーゴがティガブラストに切り込んだ。

 ティガトルネードの旋刃盤が、エンマーゴの剣を弾いて盾にて強打(シールドバッシュ)

 エンマーゴが盾にて防ぎ、盾と盾がぶつかるが、エンマーゴが力負けして一方的にその体を浮かされる。

 

 ティガブラストの光を纏った手刀連撃が、体の浮いたエンマーゴに向け放たれた。

 通常ならば、これで決まる。

 だがエンマーゴの剣技は異常なまでに卓越していた。

 体が浮いた状態で、肩と肘と手首だけで剣を振り、ティガブラストの両手手刀の剣戟を、十数回に渡って切り弾いていた。

 

 ここまでの攻防に要した時間は、普通の人間がまばたきを一度する時間の半分以下。

 エンマーゴの体が浮いて、重力に引かれて落ちるまでの一瞬の刹那。

 その刹那に、竜胆は手刀の中に凍結光線(ティガフリーザー)を織り交ぜた。

 巨人の手刀と、怪物の剣がぶつかり合う軌跡の合間を、光線が抜けていく。

 

『まず』

 

 エンマーゴの体が凍り、剣捌きが止まり、両手の手刀がエンマーゴの首をハサミのように挟み込む。

 

『一体!』

 

 エンマーゴの首が飛び、シールドバッシュで浮いていた体が地に落ちる。

 

『っ』

 

 だが一対一にだけ集中していられるほど、この戦場は生易しくはない。

 アクエリウス・アクエリアスのロケット攻撃、ブリッツブロッツの光弾、ゼブブの放電、ゼルガノイドの必殺光線が、四方からティガを狙った。

 必殺の包囲攻撃である。

 

 されど今は、かつてはいなかった仲間がいる。

 シラリーがその巨体と大翼で、ティガを包み込んだ。

 四方八方から飛んで来た攻撃も、吸収能力を持つシラリーに覆われたティガの体には届かない。

 

『ありがとう』

 

 ティガの感謝の言葉に、シラリーは頷いた。

 とても首の長い二足歩行のドラゴンたるシラリーが頷き、その首が動くと、それだけでかなりの迫力があった。

 

 タイラントが火を吹く。

 レオ・アントラーが火球を放つ。

 キリエロイドが獄炎弾を発射する。

 狙われたのは、四人の勇者達。

 

 その時、コダラーが吠え、勇者達を守るように飛び込んだ。

 

 全ての炎攻撃を吸収し、一点集中、倍の威力にして返す。

 タイラント、レオ、キリエロイドは必死にかわしたが、反射炎はそのまま直進、遥か彼方のサジタリウス・スノーゴンに向けて飛んで行った。

 大慌てで、吹雪をぶつけるスノーゴンだが、業火に吹雪は焼け石に水。

 抵抗にすらならず、業火に飲まれてあっという間に消し飛んでしまった。

 

 コダラーはエネルギーをそのまま反射するのではなく、一旦吸収し、反射をするかしないか・どう反射するかさえ自由自在だ。

 更には反射した時、その威力は倍になっている。

 これに耐えられるわけがない。

 

「……高嶋さん!」

 

「頼もしいね! さあ行こう、ぐんちゃん!」

 

 そうしてコダラーが盾になっている隙に、千景/玉藻前が右腕を掲げ、友奈/酒呑童子が右拳を握り締めて踏み込んだ。

 千景の右腕から放たれた『呪詛』がキリエロイドを蝕み、眉間の強度を引き下げる。

 間髪入れず叩き込まれた友奈の拳が、酒呑童子の力を一点集中で眉間に炸裂させ、叩き込まれた拳がその脳髄を破壊した。

 

 千景と友奈の息の合ったコンビネーションに、強大な精霊の二段重ねの破壊力は凄まじい。

 後衛砲台と後方支援が、玉藻前を宿した千景のポジションであり、それを酒呑童子の絶大な威力の拳に加えれば、まさに"鬼に金棒"である。

 アクエリアス・アクエリウスの水攻撃、ヴァルゴ・アプラサールの広範囲爆撃が飛んできたが、友奈が後方に跳ぶと、友奈と千景をまとめてコダラーの腕が守ってくれる。

 

「ありがとう!」

 

 友奈が可愛らしい笑顔でお礼を言えば、コダラーは厳つい顔で頷いて、ヴァルゴにエネルギーをそのまま反射したのだが、万物透過能力でスルー。

 ヴァルゴを仕留められなかったコダラーは、露骨にイラッとした顔をしていた。

 

 コダラーの足元で庇われている杏が、精霊をその身に宿して狙いを定める。

 彼女が狙える位置には、アンタレス・スコーピオンがいた。

 球子を殺した、杏にとっても因縁の的。

 なればこそ、ボウガンを握る手に力が入り、心は熱く、頭は冷える。

 

「……二度と、誰も、殺させない!」

 

 スコーピオンが勇者達を狙って撃った針を吹雪が逸らし、収束された吹雪がスコーピオンの足に集中して命中した。

 ここは四国から見て北方、海をスノーゴンが凍らせて作った氷の大地。

 その上に足を乗せているのなら、スコーピオンの足を地面に接着することなど、伊予島杏と雪女郎には朝飯前である。

 

 そうして、()()()()()()に、足を止められたスコーピオンは、唯一の遠距離攻撃手段である尻尾を前に出してくる。

 

「今です若葉さん!」

 

 その尻尾を、吹雪に紛れて接近していた若葉の大太刀が、切り上げにて切り飛ばした。

 スコーピオンの必殺の尻尾が宙を舞い、若葉がそれを抱きしめて飛び、大天狗の力で最高速度まで加速して、隕石の如くスコーピオンの頭へと体当たりした。

 

 大天狗の速度とパワーで、必殺の尻尾がスコーピオンの頭に突き刺さる。

 それが、スコーピオンを一撃にて絶命させていた。

 

「若葉さん後退を!」

 

「ああ!」

 

 50mのマザーディーンツ総勢五体が、若葉を問答無用で溶かす溶解光線を発射する。

 若葉は、人間の虫取り網をかわすトンボの動きを数十倍にまで加速したような機敏な動きで、その光線をかわしながら一気に後退。

 一定ラインまで下がったところで、コダラーが全ての光線を反射してくれた。

 

 他生物を強制的に溶解肉塊に変えるマザーディーンツが、光線をそのまま反射され、逆に五体全てが溶けた肉塊に変えられてしまう。

 大天狗が天上を焼いた火を放てば、ディーンツ達はその大半があっという間に燃え尽きた。

 

 やはり、シラリーもコダラーも強い。

 インファイトも十分過ぎるほどに強いが、あらゆるエネルギーを吸収して利用する能力が、他者との共闘においてあまりにも強すぎる。

 最強の盾と究極の盾が、自らの意志で人を守っているようなものだ。

 相互に助け合える位置取りを意識しておけば、コダラーとシラリーを使って敵を的確に追い込んでいけるかもしれない。

 

 問題は、今ガイアが一人で相手をしている、ギガバーサークなどであった。

 

(やはり、こいつはヤバい。ワシじゃ勝てん。

 ゼブブ、ブリッツブロッツ、ギガバーサーク、タイラント。

 このあたりは明らかに『量産』がされていない……力の入った強個体……!)

 

 あまりにも大きい。

 あまりにも硬い。

 あまりにも重い。

 あまりにもパワーが高い。

 だから殴っても、炎の必殺光線(クァンタムストリーム)を当てても、倒せるどころかビクともしない。

 それが、ギガバーサークという存在の恐ろしさであった。

 

 空中を飛び回り、ギガバーサークの放つ巨大光弾や高電圧が流れる鎖をかわしながら、ガイアは"残る敵はどのくらいだ"と思考し、周囲に視線を走らせる。

 そこで気付いた。

 ブルトンの姿が、一体も見えない。

 

『うおっ!?』

 

 空を飛んでいたガイアが、空間を捻じ曲げられ地面に叩き落とされる。

 ブルトンは居ないのではない。

 そこにいたが、空間が捻じ曲げられていたせいで、誰も視認できていなかったのだ。

 ガイアは両手の指で数え切れないほどのブルトンを見やり、そこで気付く。

 

(待てよ、これだけ空間が捻じ曲げられているのなら……怪獣の現在位置は……)

 

 ブルトンが、空間を捻じ曲げて、自分の姿を見せないようにしていたのなら……他の怪獣の一部の姿も同様に、見えなくなっているのでは?

 そう気付いた時には、時既に遅し。

 四国を囲む四国結界の壁を越え、カプリコーン・タイラントが、四国の領域へと足を踏み入れてしまっていた。

 

『しまった!』

 

 結界の外で市民を巻き込まず敵を倒すという机上の空論は弾けて砕け、四国の全ての人間が、大侵攻の軍勢を目にする次の段階がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイラントの結界侵入を皮切りに、次々とバーテックスが結界内に侵入を開始する。

 樹海化がカットされた四国結界は、多くのブルトンの干渉を受けながらもメタフィールド効果を発生させていたが、もはや戦いを市民から隠す効果を持てない。

 

 ある者は、悲鳴を上げた。

 ある者は、恐怖で半ば発狂した。

 ある者は、世界の終わりを見て諦めた。

 ある者は、「何してるんだ」と勇者や巨人に毒づいた。

 ある者は、「頑張って」と竜胆達の勝利を願った。

 正樹圭吾は、慌てず騒がず仕事をこなした。

 安芸真鈴は、神樹の神に皆の無事を祈った。

 上里ひなたは、勝利を信じ、手を合わせて瞳を閉じた。

 

 何体ものバーテックスが四国へと接近する中、結界外から飛び込んでくる一つの黒い影。

 

 バーテックス達が炎や雷で市街地への攻撃を開始したのと、ティガブラストがバーテックスと街の間に割って入ったのは、ほぼ同時であった。

 

『させねえよ、絶対に!』

 

 ティガブラストが、体を張って街を守る。

 超高速で飛び回り、光を宿した手刀にて敵の攻撃を斬撃一閃。

 街に傷一つ付けないままに、敵の攻撃の全てを切り落としていった。

 

 ギガバーサークの巨大光弾を切り落とせば、光弾の巨大さに飲み込まれる。

 タイラントが収束して吐き出した炎を切り落とせば、強力な炎に肌を焼かれる。

 アクエリウスのロケット攻撃を切り落とすと、必ずロケットの爆風にやられる。

 四国上空に来たヴァルゴの爆撃を全て叩き落とすには、爆撃を切り落としながらもその体で受け止めていかなければならなかった。

 

 それを延々と繰り返す。

 攻撃力と防御力を低下させ、スピードとテクニックを向上させるティガブラストは、確かに多くの攻撃から街を守るのには最適だった。

 だが、ティガが自分を守るという点で見れば、最悪だった。

 

 たった一人で街を守ることの代償は、敵の全ての攻撃を全てその身で受け止めること。

 人々が見上げる青い空を縦横無尽に飛び回り、ティガブラストは街を守る。

 青い光と紫の光が空に綺麗な軌跡を描き、二つが混じり合った青紫の竜胆色が、街に降り注ぐ柔らかな光の粒になっていく。

 その光の粒は、とても美しかったけれども。

 見ようによっては、ティガが流す血のしずくにも見えた。

 

 光の血を流しながら、ティガは街を守り続ける。

 勝つためではなく、倒すためでもなく、守るために飛び回る。

 そんなティガを見て、ある者は目を逸らした。

 ある者は目を逸らせなかった。

 ある者はその背中に見惚れた。

 超遠距離から空のティガへと放たれたEXゴモラのEX超振動波が、ティガの全身を余すことなく粉砕していく。

 

『ぐうううううっ……!!』

 

 体を文字通りにほとんどバラバラにしながら、ティガは海岸線に落ちていった。

 メタフィールドの強化効果のおかげでティガは街をまだ守れているんだな、とこの状況をプラスに捉えるべきなのか。

 メタフィールドの強化効果があってギリギリティガは死なずに済んでいるぞ、とこの状況をプラスに捉えるべきなのか。

 何にせよ、プラスに捉えるにも限界がある。

 

『負けっ……るっ……かッ……!!』

 

 ただただ、人を守るウルトラマン。

 ただただ、人を殺すバーテックス。

 

 人は醜い。

 だから滅ぼす。

 人は美しい。

 だから守る。

 

 結局のところその主張のぶつかり合いは、どちらも間違ってはいないのかもしれない。

 

 優しい人間達を殺すバーテックスは間違っている、と言うこともできる。

 あんな醜い人間達も守るウルトラマンは間違っている、と言うこともできる。

 物は言いようだ。

 最大の違いは、戦いの中で彼らが奮い立たせる心を覗いて見れば分かるだろう。

 竜胆の中には『愛』があり、バーテックスには『愛』がない。

 それが全てだ。

 ゆえにこそ、人を守る者(ウルトラマン)人を殺す者(バーテックス)に和平交渉などはなく、相争う。

 

『俺達の世界は……滅びたりしない!』

 

 海に移動を阻害されない飛行タイプのバーテックス……ヴァルゴ、タウラス、レオ、星屑、そしてブリッツブロッツが飛んで来るのが見えた。

 タウラスの音響攻撃とレオの火球攻撃を牽制光弾(ハンドスラッシュ)で封じながら飛び、ヴァルゴにティガ・ホールド光波を叩き込んで透過能力を封印し、星屑をハンドスラッシュで蹴散らして街を守り、最後にブリッツブロッツに―――対応は、間に合わなかった。

 

 当たり前だ。

 この数全てに的確な反撃と対応を叩き込むことなど、到底間に合うはずがない。

 強き個体は、片手間に対処して倒せるほどに弱くはないのだ。

 ブリッツブロッツの掌底が、ティガの胸に当たる。

 

『がっ―――』

 

 一瞬遅れ、苦し紛れのティガの手刀がブリッツブロッツの喉を浅く切り裂いた。

 喉を抑えて、ブリッツブロッツがティガから離れる。

 ブリッツブロッツの手が触れたティガの胸のあたりは、カラータイマーも含めてズタズタになっていた。

 

『―――う、ぐ、あ』

 

 破滅魔人ブリッツブロッツ。

 その最も恐ろしい能力は、相手のカラータイマーにその手で触れることで、カラータイマーをズタズタにしながら全てのエネルギーを抜き取ってしまう力だ。

 胸に触れられればほぼ、終わり。

 エネルギーは尽き、ウルトラマンは即座に消滅させられてしまう。

 

 ティガがそれを乗り切れたのは、竜胆が異常な反応速度で即座に反撃し、ブリッツブロッツを引き剥がしたからだ。

 エネルギーを吸われたのはほぼ一瞬。

 だがその一瞬で、ティガのエネルギーも随分吸われてしまった。

 

 総エネルギーの二割……活動時間に換算して36秒ほどを、削り取られた。

 残り時間が一気に30秒以上削られて、戦う力を抉られた倦怠感がティガの全身を包む。

 意識が薄れ、ティガが落ちていく。

 夢見るように、竜胆は過去の記憶の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 若葉には意外と知識があることを、付き合いの長い人は知っている。

 竜胆もまた、付き合う内にそういう彼女の一面を理解していった。

 例えるならば、若葉はポケモンで『四つの技を』『全部同じタイプの』『タイプ一致攻撃技』で埋めるタイプの子であるだけで、ポケモンの知識は十分にある子なのだ。

 日本や香川の伝統などに関しては、勇者の中で一番に知識があると言っても過言ではなかった。

 

 だから彼女は、竜胆の名字についても、竜胆以上に知っている。

 

「お前の名字は、よくよく人を守るという意味を持つな」

 

「? 俺の名字?」

 

 特訓の合間の、休憩の中の、若葉と竜胆の語り合いの一幕。

 

御守(みもり)御守(おまも)りは同じ漢字を持つ。

 御守りは災厄から人を守り、祟り神からも守るなどというものもあるんだ」

 

「へー……」

 

「それに、名字の『御守』なら、私の精霊とも因縁が浅くない逸話がある」

 

「精霊……って、義経とか、大天狗とか?」

 

「義経の方だ。

 平安時代、義経の兄・頼朝が敗走中の窮地に、頼朝を善意で守った者がいた。

 頼朝はいたく感激し、その者に『御守(おんもり)』の名字を与えたという。

 御守(おんもり)は転じて御守(みもり)となった。

 お前の名字は、おそらくだが、お前の先祖が人を守った結果貰ったものなのだろう」

 

「おお、そりゃすごい」

 

 ずっとずっと昔の、竜胆のご先祖様かもしれない、一人の男のエピソード。

 

「お前の名字が教えてくれる」

 

 名は体を表す、と言うが。

 親が付けてくれた名前がその人間の性質を表すこともあれば、先祖代々受け継がれた名字に、その人間の性質を見ることもできるだろう。

 

「竜胆の中に流れる血が大昔から、"人を守る者"のものであったということを、な」

 

 若葉に言われたことが、竜胆はなんだか、無性に嬉しくてたまらなかった。

 

「お前は血脈からして筋金入りだ。

 遺伝子レベルで人を守る人間なのだろうな。

 守るのと殺すのなら、お前は守ることの方が似合っている」

 

 お前は守っていいんだ、と言われた気がして。

 一緒に守ろう、と言われた気がして。

 何かを守ろうとした時、彼女はいつも力を貸してくれるのだと、そう思えた。

 

 

 

 

 

 気を失ったティガが墜落していき、ブリッツブロッツが追撃をかける。

 振り上げられる鋭い爪。

 されど、ティガの喉に突き立てられそうになっていたその爪を、割り込んだ剣が切って弾いた。

 

 天狗の爪を切って弾くは、天狗の剣。

 天狗の翼を羽ばたかせるブリッツブロッツの眼前を、天狗の翼を羽ばたかせた若葉が舞った。

 大太刀を構え、若葉は気を失ったティガを守る。

 

「この男は」

 

 戦闘力差は十倍か、百倍か、ひょっとしたらもっと大きいか。

 にもかかわらず、若葉の表情に怯えはない。その剣筋に迷いもない。

 突き出されるブリッツブロッツの爪の連打、放たれる光弾を、炎を纏った若葉の大太刀が的確な角度と力で切り弾いていった。

 

「この男は、お前達が殺していいほど、安い男ではない―――!!」

 

 力の差は歴然。

 なのに防御が成立しているのは、熟達した若葉の技と、的確な判断を可能とする動体視力と……何よりも、気合いの凄まじさだ。

 一瞬一瞬に自分の限界を越えていくような若葉の剣閃。

 それが、ブリッツブロッツの魔の手からティガを守りきっていく。

 

 ピッ、と、ブリッツブロッツの頬に小さな切り傷が一つ。

 すばしっこく飛び回っていた若葉の全力の反撃が、ブリッツブロッツの頬に小さな傷を付けたのだ。

 若葉は叫ぶ。

 

「起きろ、竜胆っ!」

 

 落ちていくティガ。

 一度ティガを狙うのをやめ、本気で若葉を狙い始めたブリッツブロッツ。

 ブリッツブロッツが本気を出して狙ってくれば、十秒と保たないと自覚している若葉。

 巨大な天狗の本気の魔手が、小さな天狗の命に迫る。

 

『う―――』

 

 なればこそ、竜胆が、こんな状況で寝ていられるわけもなく。

 

『―――あああああああッ!!』

 

 ティガブラストの光斬手刀(スラップショット)が、若葉に向け伸ばされたブリッツブロッツの左腕を深く切り裂き、若葉を救った。

 若葉とティガブラストが急降下し、飛べない仲間達との合流を目指す。

 

『!』

 

 そこに介入するは、ピスケス、キャンサー、ゴモラの三体。

 ピスケス・サイコメザードが放電し、ティガと若葉は回避した結果引き離されてしまう。

 孤立したティガへキャンサー・ザニカが泡を吐き、視界を塞ぐ。

 そして回りが見えなくなったティガへと、EXゴモラが伸縮自在の尾を伸ばした。

 EXゴモラの尾先は、並みのウルトラマンのバリア程度なら打ち貫く。

 

(この音、攻撃!? どこからだ!?)

 

 音でゴモラの尾の接近を知覚しても、尾が来る方向が分からない。

 ティガは焦り、ゴモラはよく狙ってティガの脳味噌を粉砕する軌道に尾を乗せ、殺害を確信したキャンサーがハサミを打ち鳴らし―――ゴモラが、転んだ。

 尾先が明後日の方向へと伸びていく。

 

「はあああああああっ!!」

 

 何が起きた、とバーテックス達が状況を把握する前に、ゴモラのカカトを殴って転ばせた友奈がキャンサーに殴りかかる。

 酒呑童子のパワーなら、カカトを殴って転ばせられる。

 全身が転べば、尻尾も一緒に巻き込まれる。

 ティガを助ける、友奈のインターセプトであった。

 

 友奈のパワーがEXゴモラのパワーを上回った……なんて、ことはないが。

 力をぶつける場所さえ間違えなければ、小石だって人間を転ばせることはできる。

 そしてキャンサーは、以前友奈に殴って粉砕されている。

 キャンサーからすれば、一番来てほしくない勇者であった。

 

 キャンサーが飛び道具を反射する反射板を展開する。

 ピスケスはキャンサーの援護をすべく、幻術準備。

 EXゴモラも必死に素早く立ち上がろうとしていた。

 

 その一瞬、竜胆、友奈、若葉の呼吸が完全に合う。

 

 キャンサーの反射板の合間を駆け抜け、友奈がキャンサーを殴り飛ばす。

 ピスケスの背後にティガが回って、ハイキックで蹴り飛ばす。

 EXゴモラの顔面を、若葉の炎が焼き尽くす。

 

 そうして、前が見えなくなったゴモラに、キャンサーとピスケスがぶつかった。

 

 仲間にぶつかり混乱したキャンサーの眉間に、若葉の剣が突き刺さる。

 ピスケスの肉体を、友奈の拳が真正面から粉砕する。

 前が見えないEXゴモラへと、デラシウム光流が叩き込まれる。

 

「「『 よし! 』」」

 

 三体のバーテックスが大爆発し、ティガ・友奈・若葉の声が揃った。

 呼吸も揃えて、声も揃えて。

 互いが互いの考えを、理解しながら行う連携。

 心の絆が生み出す力を、如実に見せつけるかのような三対三だった。

 

 だが、仲間を見捨てない連携が人間の強みなら、バーテックスには仲間をいくらでも見捨てられる連携の強みがある。

 仲間を犠牲にし、結果論の連携を成立させる悪辣な攻め手を選ぶことができる。

 

 "仲間達が死ぬのを待って"、精神寄生体達は動き始めた。

 敵を倒した一瞬の心の緩みを狙い、友奈や若葉の背後から迫る。

 精神に寄生し、同化し、操っての同士討ちを狙う。

 精神寄生体達は、このチャンスをずっと待っていた。

 

 そしてその蛮行を、郡千景は許さなかった。

 

「ここはもう、私の領域よ」

 

 精神寄生体達が、何かに阻まれ、友奈と若葉に辿り着けない。

 彼らは何もできぬまま、呪殺され消滅していった。

 これは、千景が展開した玉藻前の力の領域。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 玉藻前は人の心を操る九尾の妖狐。精神干渉系などお手の物である。

 千景がやろうと思えば、不意を打って竜胆と友奈を愛の奴隷にすることだってできるかもしれない。やらないだろうが。

 その呪術は心を呪う。ゆえに、心を守ることもできる。

 

 かつてピスケスに操られて竜胆を攻撃した苦い記憶が、千景に"そういったもの"を無効化し、仲間を守るための技を身に着けさせていた。

 

『ナイス、ちーちゃん! ありがとう!』

 

「感謝は行動で示して」

 

『ああ、戦いが終わった後にでもな!』

 

 残るは双子座、水瓶座、乙女座、牡牛座、獅子座。

 大小様々なアリエスのディーンツ、ゼルガノイド、ギガバーサーク。

 ブリッツブロッツ、ゼブブ、そしてカプリコーン・タイラント。

 加えて、星屑が二千体ほど。

 ……結構な時間とエネルギーを費やしたにもかかわらず、特に厄介な個体はそのまま残っている上、まだまだかなりの数の大型が残ってしまっている。

 

 ブリッツブロッツに活動時間を削られたティガのカラータイマーが、点滅を始めた。

 

(あと一分……!)

 

 レオ・アントラーは磁力を放射。

 タウラス・ドギューは音波攻撃を放射。

 アクエリアス・アクエリウスは、不定形の水の弾丸を発射。

 全員が、防御し辛い攻撃をした……の、だが。

 

 海棲生物であるコダラーが、ヴァルゴを殴り潰して、海を泳いですっ飛んでくる。

 飛行生物であるシラリーが、ディーンツ全てをレーザーで焼き払い、その翼ですっ飛んで来る。

 割り込んだコダラーとシラリーは、なんとも意味の分からないことに、『磁力も音波も水の弾丸も、全て吸収か反射してしまった』。

 コダラーが照準を合わせたタウラスが、粉々に吹っ飛んでいく。

 

『今日のMVPは本当にちーちゃんだな』

 

「あの二体の怪獣が強いだけよ」

 

『それを味方につけてくれたのがちーちゃんだろ!』

 

 ティガは一匹残らずレーザーで焼き尽くされたディーンツ達を踏み越えながら、四国に上陸し、地面を踏もうとするタイラントの足に組み付いた。

 

(あのレベルの地震なんて起こされたら街の人全員死ぬ……!)

 

 タイラントの足をティガトルネードで抱え、飛翔し、海の中に再び投げ込む。

 上陸を遅延させるだけの時間稼ぎだが、この状況では絶対に必要なことだった。

 

 もはやこのレベルの戦いになると、海で足止めできず四国に上陸された時点で、四国の人間を皆殺しにできるバーテックスがゴロゴロ出て来る。

 例えば、今上陸しかけていた地震と津波使いのタイラント。

 例えば、まだ上陸はしていない990mのギガバーサーク。

 例えば、四国全土を焦土にしてもエネルギーが切れないゼルガノイド。

 例えば……今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(クソっ、かなり、かなり理想的に戦いを進められてるはずなのに)

 

 シラリーがギガバーサークを足止めしようとしているが、苦戦している。

 コダラーがブリッツブロッツ、ゼブブ、ゼルガノイドに囲まれ、殺されそうになっている。

 勇者達はコダラーの援護に向かっていた。

 

(それでも、手が足りない……!)

 

 竜胆が海の上を転がってくるブルトンに、ハンドスラッシュを連射する。

 だが駄目だ。

 空間が捻じ曲げられて、一発もブルトン達に当たらない。

 いや、当たったとしても倒せたかどうか怪しいものだ。

 ブルトンは徒党を組んで、津波のように海の上を転がってくる。

 他のバーテックス達も、小型大型問わず津波のように押し寄せてきて、竜胆達ではそれを押し返すことが敵わない。

 

 ()()()()()()。竜胆の心に、ほんの僅かな弱気が湧いた。

 

「りっくん先輩! 私達の背後には……沢山の人がいるんだよ!」

 

 その弱気を、杏の叫びが蹴り飛ばす。

 海を通って四国に上陸しようとするバーテックスを、片っ端から海ごと凍らせ、凍った海を用いてなんとか時間を稼ぐ。

 海の上を転がって来るブルトンを、凍った海に接着して進軍の邪魔をする。

 諦めない杏の頑張りが、また少しの希望をくれた。

 

『―――ああ、分かってる!』

 

 戦いの最中、ティガとガイアが肩を並べる。

 

『声、合わせろよ! 御守!』

『合わせるのは息でしょう!』

 

 二人は同時に、腰だめに構えた。

 

『ハンドスラッシュ!』

『ガイアスラッシュ!』

 

 二人の手から放たれた光弾が、双子座の小さなレッドギラス&ブラックギラスに命中、木っ端微塵に粉砕する。

 更に二人は跳び上がり、アクエリアス・アクエリウスへと飛びかかる。

 

『ティガフリーザー!』

『ガイアブリザード!』

 

 水を操る水瓶座へと、冷気攻撃を叩き込むという的確な戦法。

 アクエリアスはあっという間に氷漬けになり、ティガ&ガイアのダブル飛び蹴りがそこに炸裂、氷漬けになったバーテックスの体を粉砕した。

 時間が足りない。

 手が足りない。

 四国へと侵入を果たした星屑が、あと一秒で市街地へと突入してしまう。

 

『『 ダブル・スペシウム光線ッ!! 』』

 

 それを、アグルがティガに教えた光線と、ガイアの合体光線が阻止した。

 薙ぎ払われる星屑達。

 街は何とか守られたが、ティガとガイアが肩で息をし始める。

 

 敵を倒せば次の敵、倒せなくても次の敵。

 右を見ても左を見ても敵が居て、すぐ近くには人住む市街地。

 一体でも後ろに通してしまえば、大虐殺は目に見えている。

 

 ガイアが炎の必殺光線(クァンタムストリーム)でブルトン軍団を薙ぎ払おうとして、予想以上の耐久力に全体は倒しきれない事実に歯噛みし、あまりの疲労に膝をつく。

 

(いかん、ワシも、こんなに光線連発したのは初めてじゃ……)

 

 膝をついたガイアの胸に、ゼルガノイドの必殺技・ソルジェント光線が突き刺さった。

 

『ぐあっ……き、効いたっ……なんじゃこの威力……!』

 

『大地先輩!』

 

 ガイアの消耗とダメージが、とうとう胸のライフゲージを点滅させる。

 

 敵はまだ、数百体の星屑、十数体のブルトン。

 レオ・アントラー、ゼルガノイド。

 ギガバーサークに、ブリッツブロッツに、ゼブブに、カプリコーン・タイラント。

 

 ティガの残り活動時間も30秒を切っていた。

 

『―――フォトンエッジッ!!』

 

『―――デラシウム光流ッ!!』

 

 ゼルガノイドに向けて放たれたガイアの必殺・フォトンエッジは、無敵バリアを貼ったゼブブが割り込んで来たことで、笑い混じりに弾かれる。

 ギガバーサークに向けて放たれたティガの必殺・デラシウム光流は、ギガバーサークの装甲に当たって"ガンッ"という音を鳴らす。

 けれど、それだけ。

 装甲が傷付き凹みはしたが、ただそれだけで、いとも容易く弾かれてしまっていた。

 

『……ここまでやっても、ここまで味方に寝返らせても、駄目なのか……!』

 

 雑魚は多くを片付けた。

 だが、残った強い個体が、ウルトラマン達が一対一でも勝ち目の薄い強個体の軍勢が、どうやっても仕留めきれない。

 残り時間が足りない。

 エネルギーが足りない。

 手が足りない。

 戦力の質と数が、足りていない。

 

 ブリッツブロッツが天狗の羽を折りたたみ、強力な光弾をコダラーに向けて発射した。

 コダラーが受け止め、倍の威力にして反射する。

 反射されたそれを―――ブリッツブロッツの胸部器官が吸収し、倍の威力にして反射した。

 

 コダラーが受け止め、それを倍の威力にして返し。

 ブリッツブロッツはそれすら受け止め、倍の威力にして返す。

 コダラーが必死に受け止め、倍の威力にして返す。

 それすら受け止め、ブリッツブロッツは倍の威力にして返す。

 もう無理だ。

 次は受け止められない。

 次は返せない。

 64倍化した威力の光線を返すなんて不可能だ。

 光線の反射合戦は、祟りの紋によって底力を増していたブリッツブロッツに軍配が上がった。

 

 コダラーは反射された光線を、転がるように飛んでかわそうとする。

 だが、その一歩を踏み出す前に。

 コダラーは、自分がその光線を避けた場合、その光線が当たってしまう人間達の姿を見てしまった。地球が愛した命が、そこにいることに気付いてしまった。

 

 コダラーの後ろには、千景と友奈。

 

 だからコダラーは、動かなかった。避けられなかった。

 

 64倍化された光弾が、コダラーとブリッツブロッツが延々と強化した光弾が、コダラーの胸に直撃する。

 そして―――コダラーは、その体の内側から、爆散した。

 死体の原型が残らないほどに、木っ端微塵に爆散した。

 

「―――え」

 

 呆然とする勇者達をよそに、シラリーが吠える。

 獣の叫び。

 いや、竜の叫びか。

 コダラーの死に、シラリーがバーテックス達へと向けて咆哮する。

 

(お前……そうか、そういうことか。ワシにも……その気持ちは分かる)

 

 その咆哮に、ガイア/大地だけが、共感を覚えていた。

 

 水色の相棒を殺された、シラリーの叫びが。

 青色の相棒を殺された時のガイアの想いと、シンクロしていた。

 コダラーを、アグルを、片割れを殺されたがゆえの怒り。

 

 それは、人間と似て非なる怪獣が持つ感情であったが、生物として精神構造が違うだけで、きっと『友情』や『仲間意識』と呼ばれるものだった。

 許さない、と言わんばかりに、シラリーが立ちはだかるギガバーサークに立ち向かっていく。

 腕のレーザー砲でギガバーサークをいくら撃っても、その巨体の表面に僅かな焦げ目がつくだけであったが、シラリーは怒りのままに撃ち続けた。

 

 巨大光弾を連打するギガバーサーク。

 シラリーはそれを吸収しながら突撃する。

 だが、それは囮だった。

 

 光弾を隠れ蓑にして伸ばしていた電流チェーンで、空を舞うシラリーを捕らえ、雁字搦めにするギガバーサーク。

 チェーンを鞭のように振り、シラリーを地面に叩きつける。

 そして、9900万tの体重をかけ、踏み潰した。

 

 ブヂッ、と嫌な音が鳴る。

 1億トンの踏みつけなど、普通の生物が耐えられるようなものではない。

 コダラーの仇を取ろうとしたシラリーも、またやられてしまう。

 

 そんなシラリーを見て、ゼブブが腹を抱えて笑っていた。

 

『……てめえっ!!』

 

 ティガダークの腕が唸りを上げて、無敵バリアを展開中のゼブブへと殴りかかる。

 だが、無駄だ。

 このバリアは破れない。

 西暦の基準を遥かに超えた超科学技術による分析でもなければ、ゼブブのバリアの攻略法は分からない。

 攻略法が分からないということは、倒せないということだ。

 

 ティガダークのスペックは、また少し上がっていた。

 怪獣の仲間が死んでも悲しむ心優しい竜胆を見て、愚か者を嘲るようにゼブブは笑う。

 無敵のバリアを身に纏うゼブブは、竜胆が心底忌み嫌う、"他人を一方的に攻撃し続ける"卑劣漢そのものだった。

 

 スパンッ、と、ゼブブの腕の刀がティガの両腕を切り飛ばす。

 だが竜胆は一瞬たりとも怯むことなく、腕なしの体でハイキック。

 バリアは突破できないものの、ハイキックが終わる頃には生え変わった二本の腕で、間断なくゼブブへと攻撃を仕掛けていった。

 

『諦めるか!』

 

 ティガが叫ぶ。

 

 その力強い叫びを聞き、ゼルガノイドの無限必殺光線を回避し続けていた友奈が、花のような微笑みを浮かべた。

 

「諦めないで!」

 

 二人の声を聞き、ブリッツブロッツと一人で相対していた若葉が、剣を強く握り締める。

 

「諦めるものか!」

 

 星屑を呪殺し、タイラントの足止めをし、レオにも攻撃を飛ばす千景もまた、『仲間の中でも特に好きな三人』の叫びに、心震わせる。

 

「……諦めない!」

 

 海を凍らせ、ブルトン軍団を必死に足止めしていた杏の心に、皆の叫びが力をくれる。

 

「諦めるわけがない!」

 

 もはや全員がギリギリだった。

 頑張って、踏ん張って、されどピンチの後にピンチが続く、絶え間のないピンチの連続。

 仲間と共に支え合い、仲間がくれた勇気の光を掴み立ち、諦めずに立ち向かい続ける。

 その心は、絢爛だった。

 その魂は、無敵だった。

 誰もが市街地に到達するギリギリのラインで、頑張って、踏ん張って、皆の世界と皆の街を守ってくれていた。

 

『……ああ、そうだ』

 

 そんな皆の姿が、ウルトラマンガイアに、ギガバーサークに立ち向かう勇気をくれる。

 これ以上の進軍を許せば、ギガバーサークは市街地を蹂躙する。

 それを止められる位置に居るのは、もはやウルトラマンガイアだけだった。

 

『その程度でワシらを折れると思ったか、うぬぼれじゃな』

 

 "人を滅ぼす"という邪悪な願いの詰まった、990mの巨体を、ガイアが見上げる。

 

『ここからは、一歩も退()がらん』

 

 最後の力が枯れようとも、ガイアがそこから後退することはない。

 

『貴様は、ここから一歩も通さん』

 

 大切なものを守るためなら、ウルトラマンはどこまでだって戦える。

 

『何も守れないのなら! ワシらがウルトラマンに選ばれた意味が無いっ!!』

 

 力任せに人を潰そうとする邪悪な願いに、負けてたまるものか。

 

『そうだろう―――カイトぉッ!!』

 

 友の名を叫び、ガイアは構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだよ」

 

「オレ、今でも信じてる」

 

「この星を救えるウルトラマンは、三ノ輪大地だって、信じてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤と青の光が入り混じった、崇高な光の柱が屹立する。

 ティガが、勇者が、バーテックスが、その光を見て目を見開いた。

 一般市民は、その光のあまりのまばゆさに、直視することすらできなかった。

 

 地球は、ウルトラマンガイアを選んだ。

 ガイアに全てを託した。

 未来を守るために必要な全てを、ガイアに任せた。

 ガイアが負けたら地球の負けでいい、というレベルの全賭けをした。

 

 地球には命があり、意思がある。

 それを、ウルトラマン達の世界では『ビクトリウム』と呼んでいる。

 

 地球の力があり。

 地球の光があり。

 地球の意志があるのなら。

 それはいつも、「地球の子らに滅びるべき罪などない」と優しく語りかけている。

 

 地球は、地球の滅びも、地球人の滅びも認めてなどいない。受け入れてなどいない。

 だからこそ、ウルトラマンに地球人を選ぶのだ。

 この星を守り、地球というものの在るべき姿を守ってくれと、祈りながら。

 そうして生まれたウルトラマンは、片や『ガイア』、片や『アグル』と言った。

 

 ビクトリウムのエネルギーは、扱うために必要なツール、あるいは扱うに相応しい命でなければ正しく使えない。

 だが正しく使えるのなら、"エネルギーは無限大"と評されるだけのエネルギーを自由自在に使うことが出来る。

 地球の大地の光であるガイアに、地球の命(ビクトリウム)の力が使えぬわけがない。

 

 この星に生きる生きとし生ける全ての命の母、地球。

 

 母なる星・地球は、ウルトラマンガイアを選んだ。

 

 そして地球の命の力、その無限のエネルギーの全てを、ウルトラマンガイアに託した。

 

 

 

 

 

 それはきっと、天の神も、地の神も、誰もが知らない奇跡であった。

 

 

 

 

 

 赤きウルトラマン、ガイア。

 青きウルトラマン、アグル。

 人々は、二人のウルトラマンをそう区別していた。

 だが赤と青の光の柱が消えた後、そこにいたのは、『そのどちらでもないガイア』だった。

 

 赤と青と銀の体、胸周りを縁取る金色、それらを際立たせる黒いカラー。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()ような、アグルの体色を体の一部にあしらっている、これまでになかった形のウルトラマンガイア。

 

『……至高の形態(スプリーム・ヴァージョン)

 

 既に、ライフゲージすら点滅していない。

 否、このウルトラマンガイアに、胸のライフゲージが点滅するという概念は無い。

 

 大地と海の光を合わせた、地球そのものを体現する、ウルトラマンガイアの最強形態。

 

『―――ウルトラマンガイア・スプリームヴァージョン。この名を、地獄の底まで持っていけ』

 

 ウルトラマンガイアSV。

 地球が生み出せる力の中でも、最大最強のウルトラマン。

 ()()()()()の力と言ってなんら差し支えない、地球の光の巨人であった。

 

 決して諦めない人間達の想いに、母なる地球が応えてくれた、星を救うための力だった。

 

『とりあえず、邪魔じゃ!!』

 

 ガイアSVが跳び、殴る。

 ただそれだけで、ギガバーサークは横倒しに倒れてしまった。

 ギガバーサークの超重量の巨体が倒れたことで、四国全域の地面が揺れる。

 何という跳躍力。

 何という腕力。

 9900万tの巨体の安定感は、言うまでもない。

 これだけの重量を横倒しにするなど、ミサイルでも種類によっては不可能だろう。

 パンチ一発で、ガイアSVはその規格外さを知らしめた。

 

『次!』

 

 ガイアは一切の容赦をしない。

 自身の周囲に複数の円を描くように腕を回して、光を集め、重ねた手の中に圧縮する。

 そして、()()()()

 手と手をズラすと、膨大な光の圧力が、ズラした手の合間から膨大な光線を放出する。

 

 地球のバックアップを受けた"それ"は、竜胆が見てきた全ての光線――メガ・スペシウム光線も含む――の中で、最も強く、最も輝き、最も凄まじい光線であった。

 

 

『フォトンストリームッ!!』

 

 

 ガイアが狙うは海上のブルトン。

 ブルトン達は咄嗟に時空を捻じ曲げ、自分達の身を守った。

 時間が逆行し、加速し、空間は滅茶苦茶に捻じ曲がり、変なところと変なところの空間が繋がっている、異常な四次元空間が出来る。

 空間を真っ直ぐに進む光線では、この捻じ曲げられた空間を直進することはできず、ブルトンに光線が当たらないことは明白だった。

 

 

『―――知るかぁくたばれッ!!』

 

 

 そんな、捻じ曲がった四次元空間を。

 "知ったことか"とばかりに、フォトンストリームが粉砕していく。

 時間の捻じれも空間の歪みも粉砕し、海上を転がっていたブルトン十数体を、一瞬にして一匹残らず蒸発させた。

 一瞬。

 ほんの一瞬で、目に見える範囲のブルトンは一匹もいなくなる。

 

『なっ……なッ……!?』

 

 竜胆は、空いた口が塞がらない。

 なんという強さか。星の力を受けたガイアは、まさしく桁が違う。

 

 そんなガイアの前に立ちはだかるは、破滅魔人ゼブブ。

 ゼブブには無敵のバリアがある。

 光線も、物理攻撃も、何もかもを防ぐ電磁波のバリアだ。

 これが在る限り、無限のエネルギーを持つガイアとだってやり合える。

 

 そして、神話のなぞりが始まる。

 

 ガイアSVは、ウルトラマンガイアの最強形態。

 その身体能力の全てが強化されている。

 だが、最も強化されているものは『腕力』だ。

 腕力だけは頭二つほど抜けて極端に強化されている。

 タケミナカタが神話で腕っぷしを誇っていた神であることを考えれば、ここまでの流れすら、見ようによっては神話の"なぞり"であると見ることもできる。

 

 タケミカヅチは、タケミナカタを倒した。

 神話のなぞりが、始められようとしている。

 

『カイト』

 

 ゼブブは、ガイアの構えを見て怪訝な目をした。

 光を集め、渦を作り、手と手の間で光弾と成す。

 ガイアSVがその構えから放とうとしている技は、アグルの技"リキデイター"だ。

 

 それは、アグルの光と共に、地球から授かった海人の技。

 当然ながら、ガイアSVの他の技よりも威力は低い。

 ゼブブは自分のバリアを到底貫けなさそうな技を見て、鼻で笑った。

 

『世界の平和は、生きているワシらで成し遂げる。必ずだ。約束する』

 

 過剰なまでに光が凝縮されていくリキデイター。

 余裕ぶっているゼブブ。

 その時、ゼブブの足に何かが噛み付いた。

 

『―――必ずだッ!!』

 

 ガイアの手から、アグルの遺した一撃が放たれた、その瞬間。

 ゼブブの全身から、無敵の電磁波バリアが消えた。

 

 リキデイターが、ゼブブの胸に大穴を空ける。

 

 ゼブブの足に噛み付いたのは、瀕死のシラリーだった。

 体には潰れていない部分がなく、砕けていない部分を探す方が難しい。

 だがその状態で這うように動き、シラリーはゼブブに噛み付いて―――体に触れたありとあらゆるエネルギーを吸収する能力を、発動させたのだ。

 かくして、バリアはそのエネルギーを全て吸われてしまった、というわけである。

 

 今は亡き片割れの技を使い、弔うように撃ったガイア。

 今は亡き片割れを想い、最後の最後に意地を見せたシラリー。

 二つの力が重なって、天の神が用意した『タケミカヅチという悪意』は粉砕される。

 

 神話におけるガイア/タケミナカタはたった一人でゼブブ/タケミカヅチに挑み、敗北した。

 だが、ガイアは一人では挑まなかった。

 仮の仲間とはいえ、仲間に助けられ、そうして勝ったのだ。

 

 タケミナカタ/ウルトラマンガイアは、神話を塗り替えた。

 

 "天の神が勝つ"という神話のなぞりは、もはやもう起こることはないのかもしれない。

 

『御守』

 

『残り時間少ないですよ、俺』

 

『構わん。背中は任せたぞ』

 

『こっちの台詞です。さあ、もうひと踏ん張りだ!』

 

 未来を変える男、神話を塗り替えた男。

 人に託された男、星に託された男。

 最強の闇と呼ばれたティガと、究極の光と言っていいガイアが背中を合わせる。

 若葉が、剣を杖にして立ち上がった。

 友奈が拳を打ち合わせた。

 千景がほっと息を吐く。

 杏がボウガンを額に当てる。

 

 相対するは、大侵攻最後の戦力。人を滅ぼさんと走る者達。

 

『目ん玉ひん剝いて見さらせ―――これが! ワシらが掴んだ! 勇気の光じゃ!』

 

 ガイアSVの体表で、赤と青の光が輝いた。

 

 

 




https://www.youtube.com/watch?v=o3MYlijgGfo
BGM:フォトンストリーム

次回、大侵攻、決着

【原典とか混じえた解説】

●ウルトラマンガイア スプリームヴァージョン
 ガイアの大地の光、アグルの大海の光が一つになった、ガイア最強形態。
 ガイアの赤銀金の体色は、アグルの色を加えた赤青銀金黒の体色に変化し、全身の筋肉も隆起した筋肉質なものへと強化されている。
 全ての身体能力が強化されているが、特に筋力が強化されており、パワーの強化度合いは脅威の二倍以上。
 アグルが使えた技は全てガイアに継承されている上、各種光線技の威力もデタラメなレベルに跳ね上がっている。
 光線技の威力に至っては、設定上二倍どころではない強化がなされているという。

 大地と海の全ての命を一身に集めたかのような、地球の代表者にして地球の守護者。
 星を滅ぼす者に抗う、地球の守護神とも言えるもの。
 この星に生きる全ての命の諦めない想いが、今その身に結集している。

 "地球が持つ無限のエネルギー"である『ビクトリウム・コア』を地球のウルトラマンであるガイアが行使しているため、活動時間と使用可能エネルギーは無限。

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