夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 土日が休日じゃない
+ぐっすり寝てた
+文字数が膨らんだ(今回また四万字行きそうになった)
という最悪の三連コンボ! おまたせしました


2

 素早き天狗ブリッツブロッツ。

 無限の光線ゼルガノイド。

 ガイアはギガバーサークを蹴りで浮かせて振り向いて、背中に迫る光弾と光線を凝視した。

 

『せいッ!』

 

 左手でバリアを張って攻撃を受け止めながら、右手で牽制光弾ガイアスラッシュを放ってブリッツブロッツの顔面にぶち当てる。

 昨日までのガイアのガイアスラッシュなら、ブリッツブロッツはかわしていただろう。

 当たっても少し怯んだだけだっただろう。

 ブリッツブロッツは、そういう風に調整されていた。

 

 だが、牽制の光弾であるというのに、それはブリッツブロッツの顔の表面を相当に破壊し、その体を後方に吹っ飛ばした。

 小技の一つ一つまでもが、天井知らずに強化されている。

 地球そのもののエネルギーを味方に付けた今のガイアに、怖いものなど何もない。

 

『アグルブレード』

 

 ガイアのバリアのエネルギーが折り畳まれ、アグルの光の剣へと変わる。

 ゼルガノイドのソルジェント光線から、海人のアグルブレードがガイアを守り、ガイアは光線を切り裂きながら一気に接近。

 ソルジェント光線を両断し、ゼルガノイドのバリアも切り裂き、ガイアとアグルの二人の力で、ガイアはゼルガノイドを両断した。

 

 剣を持つガイアを見て、レオに拳を叩き込んでいたティガトルネード/竜胆は思う。

 

(なんていうか、そう)

 

 剣の扱いは、若葉と比べれば拙い。

 それでも竜胆は、思うのだ。

 大地の剣の扱いはどことなく彼女に似ていると。

 

(……剣の使い方が、若ちゃんに似てるな。なんとなくだけど)

 

 若葉が剣でも指南して、剣を携えたガイアと若葉が共闘でもすれば、その光景はたいそう映えるだろうと、竜胆は思った。

 とはいえティガに、ガイアの方に集中を割いていられるほどの余裕はない。

 

『らぁッ!!』

 

 ティガトルネードのアッパーがレオ・アントラーの、クワガタムシのような大アゴの右一本を殴ってへし折った。

 

 同時に、ブリッツブロッツがガイアへと爪を突き立てんとしたが、猛回転しながら空に舞う。

 至高(スプリーム)の力が、ブリッツブロッツを投げ飛ばしたのだ。

 ブリッツブロッツはあまりにも鮮やかな投げに、一瞬自分がどうなったのか分からず、混乱を抑えながら空中で姿勢を整える。

 羽ばたき、空中で回転を止めたブリッツブロッツが見たのは。

 跳躍し、眼前に迫るガイアSV。

 

『首、貰った』

 

 するりと腕がブリッツブロッツの首を決め、跳躍の勢いのまま体をひねったガイアによって、ゴキンと首がへし折られた。

 

 ()()()()

 

 ガイアSVの身体能力に、神樹と地球による全力のバックアップ、三ノ輪大地の体術が加わった結果、何やらとんでもないものが生まれていた。

 投げて、投げた相手に跳躍で飛びつき、空中で首を折るというとんでもない技巧。

 挙動が独特すぎて、全くもって動きが読めない。

 竜胆ティガでも、初見で首を折られない自信が持てない……そんな格闘技であった。

 

 突撃するギガバーサーク。

 巨大な光弾を連射し、全身から高圧電流を放ちながら、電流チェーンをガイアにぶつける。

 光弾はガイアに殴り砕かれ、高圧電流はガイアの表皮に弾かれ、鎖は容易く千切られた。

 そして、9900万tの体当たりを、ガイアは空中で真っ向から受け止める。

 

 50mサイズのガイアが、990mのギガバーサークを簡単に止められているというこの光景が、既に何にも勝るファンタジーだった。

 

『仲間の光を受け継いでるんだ』

 

 ガイアSVの筋肉が、ぐぐっと隆起する。

 

 そのほとんどがスタイリッシュで細身なウルトラマンだが、その瞬間のガイアは、怪獣にも負けず劣らずに太い筋肉の腕をしていた。

 

『ワシが―――負けるわけがねえだろうがッ!!』

 

 そして、そのまま、ギガバーサークを投げた。

 

 ガイアの20倍近い全長に、ガイアの250倍近い体重のギガバーサーク。

 それを投げたことに、それを目にしていた杏や千景が絶句する。

 それは、身長1.7m体重60kgの人間が、34m15tの巨人を投げたに等しい体格差。

 見て驚かないなど、ありえない。

 結界端の四国の海へと、玩具のようにギガバーサークが投げ込まれた。

 

 空まで届かんとばかりに上がる水飛沫を、遥か遠くから人々が見つめていた。

 

「地面が揺れてる……」

 

「ガイア……ティガ……頑張れ……!」

 

「勇者様、どうか……!」

 

「ガイアー! 負けるなー!」

 

「……ティガ……ティガ! 勝てー!」

 

 ガイアを心底信じているが、ティガは全く信じられていない人。

 勇者こそを信じる人。

 戦う者達全員を応援する人。

 そして、ティガ一人に声援を送るもの。

 人は皆、各々の想いで戦う者に声と想いを送る。

 

「もう終わりだ……こんなところまで敵が来たなら……」

 

「おじいさん……四年も待たせてごめんなさいねえ。今、そちらに行きますよ」

 

「……ティガの奴、最初から今までずっと、他の誰よりも街を気遣って、街を守って……」

 

「今……僕らを守ったのか? ……いや、そんなわけない、だって、ティガは……」

 

 絶望する者。

 死を思う者。

 敵を倒すことより、街を守ることに集中するティガを見て、何かを感じる者。

 他人から聞いた話と、今自分が見ている光を心の中で比べている者。

 街の人々は、各々の心で違う想いを胸に抱く。

 

 何度でも、何度でも、ティガは街を守る。

 ティガは街を守り、ガイアは敵を倒し、勇者達は二人に足りない部分を補う。

 樹海化のせいで普段は人々の目に見えない戦いが、しっかりと皆の目に焼き付けられていく。

 

 レオ・アントラーが全力で射出した、広範囲に拡散する無数の炎弾。

 狙うは街。

 見るからに罠だが、ティガは体を張って守らざるを得ない。

 無数の炎弾を手刀で切り裂くティガブラスト。だがそれは案の定の罠で、低空に誘い込まれたティガブラストをタイラントの口から吐かれた爆焔が襲う。

 炎の柱の如くそれを、ティガは真っ向から受け止めた。

 彼の後ろには、街がある。

 

『ぐううううっ……!!』

 

 大社の作戦本部とでも言うべきところから、ひなたがティガの背中を見ていた。

 

「……御守さんは……」

 

 全身が焼け焦げたティガが、レオの連発する火球を全身を使ってでも受け止めている。

 その光景が、ひなたの目には、バーテックスが投げたものを体で止めているように見えた。

 投げられた物から、街の人々を守っているように見えた。

 

「自分が石を投げられても……

 自分に石を投げた人が石を投げられたら、守るんですね。

 石を投げられる痛みを、苦しみを、分かっているから……だから……」

 

 ひなたはその時、竜胆ただ一人のために祈り、若葉が彼を助けてくれることを願った。

 

 ティガの活動時間、残り十秒。

 

 

 

 

 

 レオ・アントラーとティガブラストが空を飛び回る。

 高々度、低空、東西南北と飛び回る、高速飛行者二体の激突だ。

 弾ける大気。

 吹き荒ぶ暴風。

 引っ張られた大気は烈風へと変わる。

 もはや四国の街にある空気は、一欠片でさえも停止することを許されてはいなかった。

 

 レオはティガを狙い、街を時々狙い、四国中心部にある神樹を狙う素振りを見せる。

 そうすることで戦いを有利に進めるが、あくまで狙いはティガだった。

 ティガを倒してこそ、人間を滅ぼすことができる。

 倒せなければ、滅ぼせない。そう確信してレオはティガを追い詰め続ける。

 胸のカラータイマーの点滅が止まるのを、レオは攻めながらひたすら待った。

 

 レオとティガが空を舞う。残り9秒。

 

 ティガは街を守り、神樹を守り、自分を守らずその分のリソースを攻撃に回す。

 ティガスラッシュを連射してレオと拮抗するが、レオ・バーテックスと磁力怪獣アントラーの組み合わせは、街の上空においては厄介すぎる。

 竜胆がランバルト光弾の光を溜めても、正面にいると磁力で光を拡散されてしまう。

 火球は連射できるくせに発射後の誘導も可能で、そういう意味でも街を守るのが難しい。

 されどティガは、街を守りきる。

 敵に傷一つ付けさせない。

 

 レオとティガが遥か高くで衝突する。残り8秒。

 

 狙いは悪くはないレオであったが、ティガは一人で戦っているのではない。

 レオの行く手を塞ぐように先回りし、若葉がその大太刀を振り下ろす。

 ティガの手刀が二、若葉の太刀が一。

 レオを囲む三本の閃光が、レオの手足を三本同時に切り落とした。

 

 だが、止まらない。

 捩じ込むように体を飛ばし、レオは更に加速し飛翔する。

 一対一の猛烈な空中戦は、二対一の壮絶な空中戦へと移行した。

 虫の羽とレオの火球さえあれば、どこまでだってこのバーテックスは戦える。

 

 残り7秒。

 

 ティガが飛ぶ。

 若葉が飛ぶ。

 レオが飛ぶ。

 恐るべきことに、この中でもっとも速いのはレオであった。

 数で勝るティガと若葉は追い込むが、命を削るようにして加速するレオを追い込み切れない。

 

 ティガと若葉の追い込みをかわし、レオはそこで一気に高度を下げ―――ティガと若葉に誘導された事実に、そこでようやく気付いた。

 高度を下げたレオを見据えて、千景が鎌を掲げた。

 

「私が止める!」

 

 千景の鎌は大葉刈。

 死の穢れの逸話を持つ鎌。

 玉藻前の呪詛が鎌を通して発射され、レオの背中の羽へと当たる。

 一秒間、羽が完全に動かなくなり、飛翔能力が失われた。

 

 空中で動きが止まるレオ。

 真下から回り込むティガ。

 真上から落ちるように突撃する若葉。

 

 残り6秒。

 

『ランバルト光弾ッ!!』

 

 真下からレオの喉にあたる部分に光弾が放たれ、真上からうなじに燃える剣が叩き込まれる。

 首に与えられた上下二撃の致命打が、レオ・アントラーの命を刈り取った。

 

 残り5秒。

 

 吹雪が津波を凍らせ、暴風で押し止める。

 振り下ろされる足を、酒呑童子の拳が殴って押し返す。

 『津波と地震』という、たった一体でも人の世界を滅ぼし得るカプリコーン・タイラントに、杏と友奈が決死の足止めを試みている。

 

「くっ……うっ……!」

 

「てやあああああっ!!」

 

 ラスト5秒。

 文字通りの1秒を競う戦いにおいて、0.1秒単位の時間稼ぎはまさしく勝敗を分ける。

 迫る津波に、ギガバーサークと戦っているガイアと、飛んで来てくれたティガの凍結光線が当たって、四国は津波から守られた。

 

「りっくん先輩! 三ノ輪さん!」

 

 残り4秒。

 

 飛来したティガの飛び蹴りがタイラントの顔面に命中し、頭に生えた角がバキッと折れた。

 山羊座(カプリコーン)の地震を起こす角と、タイラントの津波を引き起こす角の両方が、宙を舞う。

 クロスカウンター気味に腕の刃――手首から先の鎖鎌――を放っていたカプリコーン・タイラントだが、その刃もティガの喉に届く前に、若葉の剣に叩き落とされていた。

 

「『 だあらッ!! 』」

 

 友奈とティガブラストのダブルアッパーが、タイラントの顎を撃ち抜く。

 ことここに至っては、0.5秒を使ってしまうタイプチェンジに使っていられる時間もない。

 防ぎ難いほどに速いが力の下がったティガブラストのアッパーと、ティガブラストほどのスピードはないがパワーのある友奈のアッパー。

 その二つが僅かな時間差でタイラントの顎に当たり、向きの違う二つの衝撃が頭を揺らす。

 

 残り3秒。

 

 だがここに来てなんと、タイラントは新たなる技を出してきた。

 腹にあるベムスターの口から、冷気とガスを噴出してきたのだ。

 そこに口から吐く火炎も織り交ぜて、氷熱の攻撃をティガに叩き込む。

 

「!?」

 

 これは地球周辺で発生したタイラントの系列の力ではない。

 おそらくは、もっと別のタイラントの概念記録から引き出したもの。

 奇襲を受け、トドメに動いていたティガの動きが止まる。

 残り2秒。

 

「……っ!」

 

 その時。

 タイラントの業火と冷気の混沌の中で、ティガの耳が、仲間の声を聞いた。

 行け、と言われた。

 だから下がらない。

 手刀を構えて、前に踏み込む。

 

 千景の"口封じの呪詛"と、杏の腹を氷雪で凍らせ閉じる吹雪の二つが、タイラントの攻撃を的確に封じる。

 ティガの手刀が、一筋の閃光となった。

 タイラントが、最後の悪足掻きに、左腕のトゲ付きハンマーを振り上げる。

 残り1秒。

 

「―――スラップショット」

 

 振り下ろされるハンマー。

 横薙ぎに振るわれる手刀。

 

 体に残った全ての力を、ティガはその瞬間の手刀に込めた。

 叩き込む。

 切り裂く。

 皆と勝つ。

 純なる想いを込めた一閃。

 ランバルト光弾を筋力と体技で叩き込むような一撃が喉へと当たり、ティガとタイラントがすれ違った。

 

 タイラントの首が落ち、ティガの変身が解ける。

 変身が解けて落ちて来た竜胆を、空中で若葉がキャッチした。

 

「よくやった、竜胆」

 

「お互い様だろ、俺達」

 

 若葉は男らしさすら感じる凛とした表情にふと一瞬、女の子らしい笑みを浮かべた。

 これで残るは、ギガバーサークのみ。

 そちらの戦いも今、決着しようとしていた。

 

 投げる。

 投げる。

 ひたすら投げる。

 相手が人間サイズなら、関節を取って折るまでいけるが、ギガバーサークにそれは無理だ。

 地面に叩きつけるのも、ギガバーサークの体重のせいで四国に被害が積み重なってしまう。

 ガイアSVの"投げ"という強みを、ギガバーサークはほぼ潰している。

 

 ……だが、それでも。

 ガイア・スプリームヴァージョンの力は、圧倒的だった。

 

 ギガバーサークの尾を掴み、空中でジャイアントスイングをする。

 これならばどこかに叩きつけなくても、遠心力が十分な負荷となる。

 ド派手な攻撃方法に、町の人々から歓声が上がった。

 凄まじく勢いをつけ、海面に叩きつける。

 

 海面は、高さ15mから飛び降りれば、コンクリートに等しい硬さで人を迎える。

 30mの高さから海面に落ちた人間はまず助からないらしい。

 なればこそ、ガイアは1000mの高さから加速をつけ、990mのギガバーサークを、海面へと叩きつけたのだ。

 

 爆弾のような爆音。

 弾ける海水。

 飛び散る水飛沫。

 四国の上に、雨のように小さな海水の粒が降り注ぐ。

 

 津波すら起こす一撃を放ち、ガイアは海を凍らせ、津波を防ぐ。

 海の中で、ギガバーサークが海水を撒き散らしながら、フラフラと立ち上がった。

 海岸線に着陸したガイアが、光を(えが)いて腕を回し、光を溜める。

 揃えた手と手、その間に収束された、輝ける光。

 

 ズラされた手が、光を迸らせた。

 

『―――フォトンストリームッ!!』

 

 放たれる極大光線。

 耐えるギガバーサーク。

 更に力を入れるガイア。

 光線の規模と破壊力は一気に増すが、それさえもギガバーサークは耐える。

 

 なんという耐久力か。

 効いてはいるようだが、決めきれない。

 星のバックアップを身に着けたガイアでもなければ、倒し切ることは不可能だっただろう。

 

 ギガバーサーク"改"としての強化が、天の神の刻んだ黒き雷の祟りの紋(ダークサンダーエナジー)の強化が、ギガバーサークを『星よりも大きな剣』でも殺せないほどの存在にしている。

 星の力を受け取ったガイアでも、押し切れない。

 そんな大地のウルトラマン、ガイアの光を。

 

『輝け――』

 

 神樹様/大地の神々と、地球/星の大地の力が、一気に後押しした。

 

 星と神の力を乗せて、一気に押し切る。

 

『――光よォぉぉぉっッ!!!』

 

 姫百合の光、グレートの光、パワードの光、ネクサスの光、アグルの光が、混じった。

 極大規模の光線がギガバーサークを飲み込み、消し飛ばす。

 四国から怪獣の全てが消え去った。

 街の各所から、歓声が上がる。

 

『む』

 

 だがそこで、結界外から星屑とブルトンがなだれ込んできた。

 ガイアは反射的に腕を組み、クァンタムストリームで全体まとめて焼き払う。

 

『外にまだいるのか……よし。

 ワシが外に出て一掃してくる!

 若葉、仲間の指揮を取れ! 結界内の防御を頼んだぞ!』

 

「分かった!」

 

 ガイアがアグルブレードを抜き、若葉が生太刀を収め、二人は正反対の方向へ飛ぶ。

 若葉に街と、人々と、三分が過ぎた竜胆ら仲間達を任せ、ガイアは結界端に向かう。

 

(さて、大侵攻に投入された大型は50はいた。

 量産型じゃない大型も含めて50じゃ。

 十二星座全てが投入されて一掃された、そういうレベルの戦力投入……

 外には多くいるはずがないと思いたいが……ワシが楽観するわけにはいかんな)

 

 だが、壁の向こうから現れたその存在を見て、ガイアは思わず飛翔を止めていた。

 

『!』

 

 壁の向こうから現れたるは、黒き人型。

 

 空に立つガイア。空に立つ黒き人型。

 

 二つは張り詰めた空気の中、対峙する。

 

『お前、は……』

 

「タケミナカタの神話を越えたか、ウルトラマン」

 

『……生きていたのか』

 

「ああ、生き恥を晒している」

 

 最後の敵の名はゼット。宇宙恐魔人ゼット。倒したのだと思われていた、悪夢の具現。

 

「私は今勝者となったお前達に、敗者として挑もう。

 弱者として挑もう。今、私は……強者たるお前に挑む、挑戦者だ」

 

 大侵攻の最後に、未来を望む者達の前に立ちはだかった、最終最後の存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し、時間を巻き戻そう。

 

 速きゼットンがいた。

 強きゼットンがいた。

 大きなゼットン、頑丈なゼットン、固有の能力を持つゼットン。

 様々なゼットンが、ゼット率いるゼットン軍団の中にいた。

 

 その全てを、ゼットは、その手で打ち倒していた。

 死屍累々。ゼットン軍団はその全てが、ゼットの前に屍を晒している。

 カミーラが呆れた表情を浮かべている。

 

「仲間を倒して楽しい?」

 

「天の神が急ごしらえで作ったゼットンだ。生来のゼットンなどいない」

 

「そういうことを言っているんじゃないわ。分かるでしょう?」

 

「……」

 

「気に入った命も、仲間も、殺すことに躊躇いがない。闇の者の気質だわ」

 

 仲間を絶対に死なせられない者もいれば。

 理由があれば、殺せてしまう者もいる。

 

「私は負けた。私は弱い。

 弱者が強者に勝ちたいのなら、努力する以外にあるまい。

 私が強くなるのは戦いの中だけだ。"ゼットン"という強い存在は、それに相応しかった」

 

「ふぅん」

 

 ゼットは確かに強くなっていた。

 再現個体とはいえ、ハイパーゼットン、EXゼットン、マガゼットン、クローンゼットンファイナルなど、強力な個体を全てその身一つで倒しきったのである。

 時には通常ゼットン三体をまとめて蹴散らしたりと、技量とスペックの両方で以前とは比べ物にならないほどに鍛え直していたのだ。

 軍団全てが、ゼットの経験値になったというわけなのだろう。

 

 だがそれは、天の神の意に半ば反することだ。

 ゼットはそれを利用し、祟りの痛みをこらえて戦うすべを身につけたが、祟りによって命はどんどん削られて、長生きなど望めない体になっていっている。

 命を引き換えにして、僅かな強化を得た形だ。

 

 それでもゼットが生きているのは、"カミーラの意には反していない"からだろう。

 カミーラはゼットン軍団などどうでもいい。

 余計な要素、過剰な戦力は無いに限る、とすら思っているかもしれない。

 ゼットに対し、カミーラは敵意を持っていない。むしろ好意すら持っていた。

 

 仲間を容赦なく殺すような闇の存在は、カミーラの()()()()に合っているから。

 

(……ふふっ)

 

 カミーラは、三千万年前のことを思い出す。

 かつて、カミーラには三人の仲間がいた。

 

 愛憎戦士カミーラ。

 剛力戦士ダーラム。

 俊敏戦士ヒュドラ。

 そして、闇の最強戦士ティガ。

 四人全員が強力な闇の戦士であり、光を滅ぼす闇だった。

 

 裏切ったティガの手により、ダーラムは粉微塵にされ、ヒュドラは燃え尽き、カミーラは死体も残らぬほどに砕かれた。

 あの時のティガの姿を、カミーラは今も愛していた/憎んでいた。

 自分を砕いた光が羨ましかった/憎かった。

 光になっても自分達を容赦なく砕きに来るティガの姿に、惚れ惚れした/憎かった。

 ティガの本質は、変わっていないのだと/変わり果てたのだと確信した。

 

 "仲間を躊躇なく殺せる"在り方は、カミーラにとってとても好ましいものである。

 

(ああ、ティガ、もう少しよ。もう少し、来週には、闇のあなたを……)

 

 カミーラは、修練を越えたゼットを前にして、闇に堕ちたティガとの再会に胸踊らせた。

 

 そして今、ふてくされてやる気を無くしている。

 

「カミーラ」

 

「今の私に話しかけるな」

 

「……」

 

「忌々しい女どもが……郡、千景……!

 まあいい……その死と死体は、存分に使わせてもらうこととしましょう……」

 

「ふん」

 

「……何か言いたげね?」

 

「女はおぞましく、醜く、怖いものなのだな……と、思ったが」

 

 ゼットは鼻を鳴らした。

 カミーラの意に沿わない言動に、祟りがその身を蝕む。

 ゼットは眩しいものを見るような目で、カミーラの陰謀を跳ね除け、天の神の必勝の策・大侵攻を打ち砕いていく人間達を見ていた。

 そしてカミーラを、見下していた。

 

 ゼットが思い返すは、貧弱な人間の身で、ウルトラマンと共闘する少女達。

 "地球の防衛隊"というものは皆ああいうものなのだろうかと、ゼットはふと思う。

 ほとんどの地球において、ウルトラマンは防衛隊と共に戦っているということを、ゼットは知識のみでだが知っていた。

 

「お前よりも綺麗で、美しい女を、人間の中に見た。

 女だから醜いのではなく、お前が醜い。それだけの話なのだと、思ってな」

 

 カミーラの氷の鞭が、嗤うゼットの強固な皮膚をこそぎ取るように抉る。

 

「次に何か余計なことを言えば……」

 

 ゼットの皮膚を貫くとは、どんな攻撃力なのか。

 鞭に込められているのは単純なエネルギーだけではない。

 天井知らずに膨らむ憎悪がそのまま込められて、相手を傷付ける苦痛の刃と化している。

 

「……私に、あなたを生かしておく理由なんて無いのよ?」

 

「死を受け入れていた私を蘇らせておいて、よく言う」

 

 銃のような『殺すために無駄をとことん削った武器』の対極にあるような、『込められた力のほとんどが殺傷能力ではなく苦痛付与に使われている』鞭の攻撃。

 ゼットの傷口には、とてつもない痛みと苦しみが走っていた。

 

「美しい愛とは、強いのだ。無敵ではなくとも、愛醜き者よりは、きっと強い」

 

「何が言いたいの?」

 

「お前の愛は負ける、何度でも、必ず負ける。奴らの愛は強いからだ」

 

 鞭がゼットの額を割るが、ゼットは痛みの声を抑えて、鼻でカミーラを笑ってみせる。

 

 "千景(せんけい)を一緒に見に行こう"という約束を交わすような者達の、友情、信頼、親しみ、理解などの先にある『愛』。

 それに挑む資格を得るため、ゼットは槍を握った。

 

「―――なればこそ、私は"奴ら全ての強さ"に挑む。強さこそが、私の全てだ」

 

 ゼットが見据えるは結界周りの、出雲から四国へと進軍してきたバーテックス達。

 竜胆達と戦っていたギガバーサーク達と"ほぼ同格の戦力達"が、そこにいた。

 ギガバーサーク達より質では劣るが、数では圧倒的に勝っている。

 

 竜胆達が倒した戦力は、前半分でしかない。

 後ろ半分は、これから投入されるのだ。

 この数が投入されれば、ガイアSVの存在ももう認知されている以上、ガイアの力で死人を出さないというのも難しいだろう。

 

 ゼットは無数のバーテックス軍を見据え、額に何かを埋め込んだ。

 何かを額に埋め込んだゼットが、苦しみ始める。

 

「ぐっ、うっ、ぐっ……!」

 

「ゼット、あなた何を……」

 

 カミーラが怪訝な目でゼットを見ていると、ゼットの目から光が消える。

 機械的な動きに変化したゼットが槍を掲げ、空に吠えた。

 ゼットらしくない、動物的な叫び。

 ゼットらしくない、機械的な挙動。

 カミーラは目を剥き、ゼットから距離を取る。

 

 そうしてゼットは、結界外の後詰めたるバーテックス達に襲いかかった。

 

 嵐が砂を吹き飛ばすように、結界外のバーテックス達が吹き飛んでいく。

 一兆度、槍の強撃、破壊の光線。

 仲間だと認識していたゼットからの急襲に、四国へ攻め入ろうとしていた後詰めのバーテックス達は戸惑い、為す術もなくやられていった。

 ようやくゼットに反撃できるようになった頃には、既に部隊は半壊状態。

 

「……!?」

 

 カミーラは目を見開き、片っ端から消されていくバーテックス達と、機械的にそれらを消していくゼットの姿を、交互に見ていた。

 ありえない。

 祟りが気合いでどうにかなるなら、崇徳天皇も平将門も、あんなに人間社会を苦しめる大怨霊になれるはずがない。

 戦いすら成立しないはずなのだ。

 

 ゼットン軍団を修行に使い潰してしまうことすらギリギリなのに、大侵攻の戦力半分を敵に回して戦うなど、明らかに利敵行為だ。

 神の意に沿わぬ行為は、その度合いに比例して強くその存在を蝕む。

 今のゼットの行為は、明らかに人へと味方するもの。

 生きていられるはずがない。

 

 にもかかわらず、ゼットは戦いを続けている。

 止まる気配はどこにもない。

 加速度的に、結界外のバーテックスが消え去っていく。

 

「……祟りで身を蝕まれながらも、何故こんな……!?」

 

 やがて結界外のバーテックスは残らず消え去る。

 竜胆達は預かり知らぬことではあったが、ゼットを除いた大侵攻勢力の最後の一体を倒したのはガイアではなく、ゼットであった。

 大侵攻の軍勢を倒しきったゼットの目が、カミーラを捉える。

 

 ゾクリとするような、無機質な死の気配。

 悪くない感触に、カミーラは口角を上げた。

 襲いかかるゼットの割れた額を見やり、そこにねじ込まれた何かを狙って、鞭を振った。

 

(脳味噌ごと引きずり出してやろうかしら)

 

 頭の中身が吹き出しても構わない、くらいの気持ちでカミーラが鞭を額に叩き込む。

 そうして、ゼットの額に埋め込まれていた謎の機械を、カミーラの鞭先が掴み出した。

 謎の機械が排出された瞬間、ゼットは正気を取り戻し、膝をつく。

 

「これは一体何? ゼット」

 

「はぁ……はぁ……ハイパーゼットンデスサイスの、機構だ……」

 

「ハイパーゼットンデスサイス?」

 

 そういえばそんな個体がゼットン軍団の中に居たわね、とカミーラは思い出す。

 

「私を生み出したのは……バット星人という宇宙人だ」

 

「ええ、そう聞いているわ」

 

「バット星人は私に心を持たせた。

 だが、あくまで私のコンセプトは"一つの形の最強"であったらしい。

 私の前に作られた『最強のゼットン』は、むしろ心の要素を排していたと聞く」

 

「あら」

 

「その名は『ハイパーゼットン』。

 無機質で、機械的で、昆虫的で……

 基本的には、中に誰かが乗り込むことで運用する、そんなゼットンだ。

 聞くところによると、本家のゼットン星人までもが盗用したこともあり……

 ハイパーゼットンデスサイスという、改造型まで作られた。傑作中の傑作のゼットンだ」

 

「あなたのように余計な口を利かないなら、最高のゼットンなのでしょうね」

 

 有能なバット星人は、有能なゼットンメイカーでもある。

 ゼットの前にも、バット星人は最強のゼットンを生み出そうとしていた。

 

 それが、"滅亡の邪神"ハイパーゼットン。

 全平行宇宙に存在するありとあらゆるウルトラマンを対象にして、「ハイパーゼットンにウルトラマン一人分の力で勝てる者はほとんどいない」と言い切れるほどの存在だ。

 『最強のゼットンは何か?』と聞けば、必ず名前が挙がるほどに強いゼットンである。

 

 さて、そのハイパーゼットンだが。

 それの改造型のハイパーゼットンデスサイスは、更に機械的に、他者によって操作されることを想定されたフシがあるゼットンである。

 中に宇宙人が乗り込んで操作する機能をデフォルトで備えている他、外部から操作用腕輪で操作することが可能となっている。

 ここまで来ると、そんじょそこらの人型ロボットよりもそれらしい。

 

 更には、このデスサイスの操作腕輪だが、中に意識を入れておくことができる。

 ゼットン星人マドックはこれを利用し、他人に殺されても意識をこの腕輪に移しておき、腕輪を装着した少女の意識を乗っ取って、デスサイスを操作した。

 重要なのはただ一点。

 

 ハイパーゼットンデスサイスには、デフォルトの機構として、『意識を入れておく腕輪』『その腕輪で装着者の意識を乗っ取る』『腕輪でゼットンを操作する』という三つの流れが備わっているということだ。

 

「……呆れるわね」

 

 ゼットからここまで聞けば、カミーラにも分かる。

 

 ゼットはカミーラが割った額から、"その腕輪と似て非なるもの"を、自分の頭の中に力尽くでねじ込んでいたというわけだ。

 

「目の前のバーテックスを皆殺しにしようとする。

 けれど天の神に逆らう気もなく、逆らっている自覚もない。

 そういう意識を機械の中に作って、自分の頭の中に埋め込んだということかしら」

 

「そうだ」

 

「あなたの体を動かしていたのは、機械の意識。

 "天の神に逆らう意識"などないままに、天の神の手駒を一掃した。

 ……肉体と意識が完全に独立しているのなら、機械の内部の意識にまで祟りは及ばない」

 

 カミーラは心底呆れる。

 まるで、反抗心の塊のような男だ。

 どれだけ前からこの反逆を考えていたのか?

 大侵攻の最終段階にギリギリ作成を間に合わせるために、どれだけ心血を注いだのだろうか?

 

 気に入らないものへの攻撃性。

 何を気に入り、何を気に入らないかという信念の絶対性。

 どちらも異常なほどに強い。

 バット星人がゼットに何故心を入れたのか、カミーラは嫌々ながらに理解していた。

 

「でも、体への負担は大きかったでしょうに」

 

 されども、ゼットの目標は"大侵攻の戦力を皆殺しにする"ことのみだ。

 祟りは、"天の神に逆らう意識が無いのに逆らっている"という抜け道を使ったゼットの体を、極限まで蝕んでいた。

 でなければ、ゼットが今、膝をついている理由が説明できない。

 

 抜け道のおかげで、ゼットの命は尽きなかった。

 だが、随分と削れてしまったらしい。

 カミーラの目から見ても、あと一時間足らずの命。

 神の奇跡に等しい治癒を施したところで、一年は保ちそうになかった。

 

「愚かに命を削ったわね」

 

「命など、寿命など、いくら削れても構わん。三分の寿命が残れば十分だ」

 

「……三分?」

 

「奴らはいつも三分間の命を生きている。条件が対等になるだけの話でしかない」

 

 それはゼットの矜持であり、信念だった。

 

 大侵攻の後半の半分もまた、強くはあった。

 ゼットは奇襲を仕掛け一掃したが、そうでなければそれなりに時間はかかっていただろう。

 "天の神が人を滅ぼすために十分に用意した戦力"という敵を仕留め、戦闘経験を餌と喰らい、ゼットはまた強くなった。

 

「十分に戦い、経験値を積んだ。大侵攻の戦力と戦った記憶は、私の体に残っている」

 

 そして、空を見上げる。

 

「さあ、天の神よ」

 

 ゼットは、"天の神の側で戦ってくれる最後の一人"として立ち、神に呼びかけた。

 

「ここで人を滅ぼしたいのであれば―――()()()()()()()()()()()ぞ?」

 

 ゼットは、人間の味方をしたわけではない。

 天の神の敵になったのでもない。

 どこまで行っても、その目的は"ウルトラマンの打倒"ただ一つ。

 

 そして、ゼット以外の全員が死んだこの状況で、天の神の手駒はゼット一人だけ。

 

 妥協のような、苦渋の決断のような、そんな光が瞬いた。

 空から黒い雷の力(ダークサンダーエナジー)が降る。

 天雷は古来より、天の神の権能。

 大地に落ち、そこに新たなる命を降り注がせる、神の加護だ。

 

 ゼットの祟りの紋に力が注がれ、ゼットの消耗した体力が復活し、その力が増大する。

 祟り自体は発動しない。

 何故ならば、今、天の神とゼットの想いは一つだからだ。

 "ウルトラマンを必ず倒す"。

 ゼットの思考は、今この瞬間は、天の神の意に沿ったものとなった。

 

「さあ、行くぞ、ウルトラマン、勇者。

 お前達は地球と地の神の力を受けた。

 私は空の星と天の神の力を受けた。

 条件は対等だ。

 ……が、そんなことはどうでもいいだろう。

 私も、お前達も、神のために戦っているのではないと……そう信じる」

 

 バット星人は、ウルトラマンを『光の戦士』と呼ぶ。

 そしてゼットを、『全てのゼットンの頂点に立つ最強の戦士』と呼んだ。

 戦士と戦士が出会うなら、そこは戦場以外にありえない。

 

 ゼットはバット星人に―――全てのゼットンの頂点(バーテックス)たる存在として、生み出された者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットは横目に竜胆を見る。

 ぐったりした竜胆が、若葉に運ばれているのが見えた。

 既に三分を使い切ってしまった竜胆を見て、ゼットは心底残念そうにする。

 ブリッツブロッツが活動時間を削ってしまったせいで、ゼットの参戦は、ティガの変身時間の間に間に合わなかったようだ。

 

(外の戦いに時間をかけすぎたか。せめて後一分早ければ……まあいい)

 

 天の神の配下の代表者としてここに立つがゼットなら、その向かいにて、地球に生きる命の代表者として立っているのがウルトラマンガイア。

 星の未来を決める戦いは、両勢力が全ての戦力を投入した果てに、両勢力における最強の存在をぶつけ合う一騎打ちの様相を呈していた。

 

 ゼットがガイアの前で手を広げて見せると、そこに不思議な形の石のようなものがある。

 

「これが何か分かるか」

 

『? なんじゃそら、ゴミクズか?』

 

「この無機物のような有機物のような塊が、ブルトンの本体だ」

 

『!』

 

「最初に作られたブルトンだ。

 これが平行世界を利用して、ブルトンを呼び寄せている。

 これを潰さない限り、ブルトンも星屑も無限に流入する」

 

 地球に隠されていた、"最初のブルトン"。

 平行世界からかすめ取るように、ブルトンや星屑を流入させていた元凶。

 ゼットやイフ同様に、西暦の時代で決着をつけるという前提であれば、ブルトンの再生産は時間とコストがかかりすぎて現実的ではない、と言える。

 これが隠されていたということは、このブルトンだけは、絶対に潰されたくなかったということなのだろう。

 

 ウルトラマンの手に乗るサイズの、本体ブルトン。

 これが地球のどこかに隠されていたなら、人間やウルトラマンが何百年探しても見つからないという可能性は十分にあった。

 そんなブルトンを―――ゼットが、握り潰す。

 

「それも、過去形の話だがな」

 

『……お前、何を』

 

「喜べ、ウルトラマンガイア。

 大侵攻は地球上のバーテックスほぼ全てを使った『史上最大の侵略』だ。

 つまり現在、地球上には動いているバーテックスなどほとんど存在しない」

 

『!』

 

「そして今、補給も断った。

 再度バーテックスの数を揃えるにしても、相当に時間がかかるだろう。

 今、お前達を滅ぼす者として地上に立っているのは私だけだ」

 

 地球上の全てのバーテックスを集めた大侵攻の戦力の半分は竜胆達が、半分はゼットが殲滅し……なればこそ、今現在、ゼットこそが最後の一体。

 

 "今日までの戦い"という意味で言えば、これが間違いなく最終決戦。

 

「天の神に他地域を野放しにする気もあるまい。

 増産したバーテックスを各地域に分散させれば、密度は下がる。

 勇者数人で鼻歌交じりに片付けられる、その程度の存在でしかなかろう。ゆえに」

 

 ここで、ゼットを倒せたならば。

 

 天の神が四国に放り込めるバーテックスは、一時的に一体もいなくなる。

 

 巨人が拳を構え、恐魔人が槍を構えた。

 

「私に勝てれば、束の間とはいえ平和が来るぞ」

 

『……そいつはいいことを聞いた』

 

「勝てれば、の話だがな」

 

『勝つさ。負けられない。ゆえに負けるわけがない』

 

「良い答えだ……()()()()()()ッ!!」

 

 踏み込みは同時。

 拳が消える。

 槍が消える。

 もはや頂上にして超常の存在でなければ影も追えないほどの速度で、拳と槍が空を裂く。

 

 一瞬後、ゼットは地面を転がされていた。

 

「!?」

 

 ガイアには触れられていない。

 触れられた感触も残っていないから、それは確かなはずだ。

 なのにゼットは、間違いなくガイアに"転がされて"いた。

 瞬時に飛行能力も織り交ぜ、跳ねるようにして立ち上がる。

 

(投げ!? "槍を掴んで投げ転ばした"のか!? なんという……!)

 

 ゼットは一瞬で推測を立て、自らの推論の正しさを確かめるために槍を突く。

 槍の速さを上げて掴み辛くして、怒涛の連撃にて全身を狙った。

 

 ガイアはその全てを受け流す……なんて面倒なことはせず。

 最初の一突きを的確に掴む。

 そしてゼットの重心を見切り、ゼットが込めた力の流れを把握し、的確な向きと力加減で槍を引いた。

 槍にゼットの体が引かれ、ゼットの力が逆利用され、ガイアはほどほどな力でゼットの体を投げ転ばした。

 

 (やわら)という文字を体現するような、柔らかな技。

 

『大した槍術じゃ。ヒヤヒヤする』

 

「綺麗に受け流しておいてよく言う!」

 

 ゼットは空に飛び上がろうとする。

 ウルトラマンガイアのフォトンエッジなどは、大地のウルトラマンらしく、大地を踏み締めることで放つ光線だ。

 空中戦であれば別の強みで競えるだろう、という戦術である。

 

 だが、地上から100mほどのところで上昇は止まる。

 跳躍一跳び、ガイアがゼットの腕に組み付いて来たのだ。

 

「!」

 

 ガイアは槍の内に入り、ゼットの腕を関節技に極める。

 

(折られる!)

 

 ゼットは自分の腕関節を決めているガイアの腕の筋肉の厚み、伝わってくる感触から、腕を折られることを確信した。

 兎にも角にも関節を抜かなければならない。

 抑え込みや関節取りを外すのに必要なのは筋力ではない、技だ。

 

「!?」

 

 だが、そこからの一瞬の攻防はまさに目を疑いたくなるほどのものだった。

 

 ゼットが腕を押し、極められた腕の周りに僅かな隙間を作る。

 足を使い、体全体を跳ねさせるようにして、僅かに作った隙間を使って腕を滑らせるように引き抜こうとした……のだが。

 ガイアがそのタイミングで腕の極めを外し、ゼットが体を跳ねさせようとした力を使い、空中で投げたのである。

 ゼットの力とガイアの力が合わさって、ゼットの体が海岸に強烈に叩きつけられた。

 海岸が、目に見えて崩壊する。

 

「がはっ!?」

 

 絶大なガイアSVの力に、卓越した技量が合わさった、豪快にして精緻な投げ。

 ゼットは深くダメージを受け、仕切り直しに瞬間移動。

 ガイアから距離を取り、槍先をガイアに向けた。

 

「……分かっていたことだが、信じられん強化度合いだな、予想以上だ……!」

 

『地球が、いい目といい体をくれた。

 ようやく、ワシの技が力尽くで潰されない程度には身体能力の差が埋まったわけだ』

 

 ガイアが一気に接近する。

 ゼットは一兆度火球を連発するが、ガイアはバリアで受け止めながら一気に距離を詰め、殴りかかる。

 ガイアの拳を槍が受け、されどガイアは拳を広げて手首を返し、槍を掴む。

 そして足先をゼットのカカト辺りに引っ掛けて、転ばすように投げた。

 おそらくは、小内刈という技の変形型。

 投げられたゼットは、瞬間移動でなんとかそこからの追撃をかわす。

 

 移動先は当然ガイアの背後だ。

 ゼットはガイアの背中を狙い俊敏に槍を突く。

 槍先が僅かにガイアの肌に触れ―――されど食い込まず、ガイアは胴体を僅かに横にズラし、体を丸ごと回してひねって、胴体の表面を流すように槍を受け流した。

 

 "胴体をナイフで刺された時に胴を動かして刺突を流す"技術の応用。

 ロシアの武術、システマの応用である。

 友奈の話を参考に竜胆が身に着け、竜胆から大地に伝わった技であった。

 

(背後からの刺突を体術のみでいなすだと!?)

 

 回転して背後からの槍突きを受け流したガイアは、回転の勢いのまま裏拳をゼットのこめかみに叩き込む。

 続き掌底を鳩尾に叩き込み、流れるように背負い投げを繰り出した。

 投げ飛ばされたゼットが、飛行能力と体捌きでなんとか地面への衝突を回避する。

 

「まさか、ここまでのものとは……!」

 

 強化されたはずのゼットが、まるで相手になっていない。

 槍はガイアの胴体に確かな切り傷を付けてはいたが、"槍が命まで届く気がしない"という感覚もゼットは得ていた。

 今のウルトラマンガイアが致命傷を当てさせてくれる気がしないという、半ば確信に近い敗北の実感。

 

『技だけで見るなら、化け物じみた御守の才能の技の方が、ずっと怖かった』

 

「……! くくっ、全くだ。三ノ輪大地、あれと毎日特訓していたな?」

 

『ああ』

 

「動きの質が上がっているわけだ……これだから人間とウルトラマンは面白い」

 

 前回ゼットとガイアが戦ったのは二ヶ月近く前。

 ガイアSVのスペックアップも凄まじいものがあるが、その陰に隠れて確かに、大地自身の技や強さも鍛え上げられていたのだ。

 ゼットの目には、大地の動きの影に、竜胆の技の姿が見える。

 

「一ヶ月でここまでの成長を見せてくるからこその、短命の者の強さか」

 

『鍛錬相手が居ないぼっちとは違うんじゃ』

 

 鍛錬において、仲間と戦い殺して強くなってきたゼット。

 鍛錬において、仲間を殺させないために仲間と高め合ってきた大地。

 二人は対称だ。

 その結果、大地の方が強いとは、なんと皮肉なことか。

 

(私とガイアの技にそう差はない。

 現状はまだ私が上だが、技量の上下は状況次第であっさりと覆る。

 問題は天の神の後押しを受けた私ですら敵わない、このスペックの高さ……!)

 

 構えた槍をどこに突けば倒せるのか、そのイメージが湧いて来ない。

 

(剛力と技術が合わさり、最強。何と分かりやすい強さであることか)

 

 薙いだ槍は受け流され、突いた槍は掴まれる。

 ガイアは掴んだ槍ごと投げる……と見せかけて、投げに意識がいっていたゼットの手を取り、手首の関節を極めた。

 ゴキッ、とゼットの手首から嫌な音がする。

 

「ぐっ」

 

『"コツを掴む"という言葉がある』

 

 ゼットは極めを振り解き、手首を癒やす時間を得るためバリアを展開する。

 

 様々な宇宙で無敵と謳われたゼットンのバリアが、ガイアの強烈な掌底を受け止めた。

 構わず、ガイアは掌底を打ち続ける。

 打って、打って、打ちまくる。

 掌底が拳より優れたものである、と主張する者は多くいるが、その最たる理由は『硬いものを打っても拳と違って壊れない』からであるという。

 

 どんなに硬いバリアに繰り返し打ち込んでいっても、掌底ならば壊れない。

 

『元は"(こつ)を掴む"と書く。

 物事の芯、本質を掴むという意味じゃ。

 格闘技においては、動きの要領、技の拍子、間を掴む技術の習得などを言う。

 打撃においては……力を伝えるべき箇所に伝え、(こつ)まで徹すことなども言う』

 

 そして、ガイアSVの筋力はもはや、あらゆる常識が通じないレベルにあり―――繰り返し打ち込むことでバリアにヒビを入れ、やがて粉砕した。

 

 "無敵のバリアは頭を使って攻略する"などではない、"無敵のバリアが壊れるまで殴ればいい"の境地。恐ろしいまでの力技だった。

 

『お前の(コツ)、掴んだぞ』

 

「―――!」

 

 竜胆が使っていた歩法で一瞬にして距離を詰め、柔術の踏み込みで大地をしっかりと踏み締め、海人が使っていたアグルブレードを出し、若葉のように振る。

 竜胆のような天才でないため、その繋ぎは酷く拙い。

 技のキレもよくはない。

 だが、"仲間の力"は確かに大地の助けとなり、ゼットの体を深く切り裂いた。

 

「がっ―――!?」

 

 強い。

 圧倒的に強い。

 あれほどまでに強かったゼットが、まるで赤子扱いだ。

 相手があまりにも強いがために、圧倒しているガイアSVの強さが相対的に引き立つという、この光景。

 ゼットの強さを知っている者ほど、この光景が異常であることを理解できる。

 

 そしてその強さを一番に実感しているのは、ガイアと戦っているゼット自身だろう。

 

(―――素晴らしい)

 

 竜胆のティガと戦っていた時も、薄々感じていたことだ。

 ティガといい、ガイアといい、とことん距離を詰めた肉弾戦を得意としている。

 ゼットンには光線が効かない。

 それ以外の飛び道具もバリアに防がれる。

 それは、ウルトラマン殺しとして名の知られたゼットンの特徴のようなものだ。

 

 なのでゼットンを倒したウルトラマン達は、新規の武装を装備してみたり、格闘戦を極端に強力にしてみた者が多い。

 近接戦は、対ゼットン戦略としては有効なものの一つなのである。

 

(柔術、と言ったな)

 

 三ノ輪大地の技は、『人が人を壊さず勝利するために生み出された技』だ。

 柔術はそういった側面を常に持っている。

 警察官が使う柔道などはかなり有名なものだろう。

 大地の技は、それを『バーテックスを倒し人を守るための技』に改良したものだ。

 

 なればこそそれは、一から十まで、"人を守るためにある技"であった。

 

「ウルトラマンガイア」

 

『なんだ』

 

「私は、いい気分だ」

 

『……?』

 

「お前達ウルトラマンを滅ぼす存在として生まれたことが、こんなにも誇らしい」

 

『―――』

 

「お前達の価値を素直に認められる心を持って生まれたことが、私の幸運だった」

 

 右肩から左腰にかけて深く切り傷を刻まれても、ゼットは止まらない。

 

 ウルトラマンを見るゼットの目は輝いていて、その手の槍は止まらない。

 

「私は、お前達を滅ぼすために生まれてきた! その、輝ける光を滅ぼすために!」

 

『何のために生み出されたかとか、なぁにいつまでそんなこと気にしとんじゃ!』

 

 突き出されたゼットの槍を、ガイアが圧縮したバリアで受ける。

 

『スポーツマンの親が子供にプロになることを願う。

 よくあることじゃ。

 似たようなものもいっぱいある。

 だがそうした子供の大半は、プロスポーツ選手になどなれはしない!』

 

「くっ」

 

 バリアごと槍を一気に押し返せば、ゼットの体が背中側に倒れかけ、姿勢が崩れた。

 

『"生まれた時に何を望まれた"かなんて、世界で一番どうでもいいことの一つじゃ!』

 

「!」

 

『自分の生きる意味は! 生まれた瞬間に与えられるもんじゃなく、自分で勝ち取るものだ!』

 

 姿勢が崩れたゼットの足を、ガイアが持ってグイッと持ち上げていく。

 投げ倒しの技、朽木倒しだ。

 ゼットは背中から落ちそうになったが、ガイアに持たれなかった方の足でガイアを蹴り、後方宙返りして回避する。

 

『ウルトラマンもそうじゃ! パワードもグレートも言っていた!』

 

 ゼットのどこかを掴もうとするガイアの猛烈な手技の応酬を、ゼットの槍が必死に弾く。

 

『ウルトラマンは戦うために生まれてくるのではないんだとさ!

 人と同じく、愛の結果として生まれ、愛されて生まれてくるんだと!

 ワシはな、ちょっと感じ入るものがあったんじゃ!

 人間も、ウルトラマンも、同じで……愛から生まれた命で!

 同じように、他人を愛せるんだと知って!

 ウルトラマンは、人が人を愛するように、人を愛してくれてるんだと知ったからな!』

 

 だがあえなく、槍を掴んでいたゼットの手首が、ガイアの手に掴まれてしまう。

 

『そもそも"ウルトラマン"ってもんが偶然生まれたとか聞いた!

 偶然人工太陽から漏れた光線が、人間のようだったウルトラマンを巨人に変えたと!

 そんなもんじゃ。

 ウルトラマンみたいな特別な存在ですら、そうなんじゃ!

 生まれた意味なんて、もっとふわっと考えたっていいと、ワシは思うがなっ!』

 

「っ」

 

『生まれた意味など、生み出された意味など! 考えるだけ無駄じゃ無駄!』

 

「がっ!?」

 

 ガイアがゼットの防御を投げ崩し、地面に叩きつける。

 

 戦うだけなら、ただ無言で戦えばいい。

 だが彼らは、"力以外"もぶつけ始めた。

 自らの信念、考え方、心、意志、嗜好、人生の全てをぶつけ始めた。

 

「それはお前の考えでしかない」

 

 ゼットは距離を取り、一兆度火球を連発する遠距離戦へ。

 ガイアもそれを受けて立った。

 二人揃って、四国の上空へ。

 

「生まれた後に、自らに別の意味を見つけられた、恵まれた者の主張でしかない」

 

 一兆度の火球が十数個、様々な軌道で空を飛ぶ。

 

「バーテックス。

 頂点を意味する言葉。

 この名前を付けたものは、本当に本質をよく分かっている。

 ……いや、そうではないか。

 天の神の考えに対する解釈が、おそらく私ととても似通っている」

 

 海人の狙撃技(リキデイター)が、ガイアの手から放たれて、それを全弾撃ち落とす。

 

 空に太陽のような形の花火が、いくつも花開いた。

 

 ゼットはガイアに全力を出させるために。

 ガイアは街を守るために。

 戦うならば極力街を巻き込まないように、という無言の合意の下、戦っていた。

 

「お前達は、人間が自由で脅かされない世界を目指しているのだろう?」

 

『ああ、一言で言えばそうじゃな!』

 

「それはつまり、人間が頂点(バーテックス)である世界だということだ」

 

『―――は?』

 

 ゼットの言い草に、一瞬、大地は呆けた。

 

「人間が脅かされるということは、人間が生態系の頂点(バーテックス)でないということだ。

 人間を脅かす、勢力として人間より強大な、生態系の頂点(バーテックス)がいるということだ」

 

『……それは』

 

「神が用意したのはそれだ。

 人間という頂点(バーテックス)とは別の、生態系の頂点(バーテックス)

 他の生物をいくらでも喰らえる食物連鎖の頂点だった人間を、更に喰らう頂点(バーテックス)

 

 ゼットは語りながらも、攻撃の手を緩めない。

 

「何故今の人間には平和がない?

 何故今の人間には自由も安息もない?

 簡単な話だ、今の人類は生態系の頂点(バーテックス)ではないからだ。

 一番強い生物は、いつだって安心して生きていられる。安心して寝ていられる。

 だが弱い生物は、いつだって自分が食われることを恐れ、敵を警戒して生きている」

 

 ライオンはぐっすりと眠り、小動物は寝ていても小さな物音で飛び起き逃げ出すという。

 弱い生物は捕食の危険性が一生あるため、一生平和など得られない。

 下手な行動を取ればすぐさま捕食されるため、生涯に完全な自由もない。

 強い生物であるライオンですら、人間にはあっさりと狩り殺されてしまう。

 

 平和と自由と生存権が真に保証される生物というものは、生態系の頂点(バーテックス)しかいないのかもしれない。

 

『人間が弱い生物になっただけだと言いたいんか?』

 

「現状の一側面、というものだ。人間の弱さなど……言うまでもない!」

 

 巨大な一兆度の火球と、クァンタムストリームが空の高みで衝突する。

 

「人間の安心とは……()()()()()()()()()()()()()()にしかない! 違うか!」

 

『……否定はしないっ!』

 

「人間より強い生物勢力が存在しない世界でなければ、安心できない。

 人間より強い生物を駆逐しなければ平穏を得られない。

 ウルトラマンのような全面的に好意的な存在以外は受け入れられない。

 ……だからこそ! 愚かしいことに! 今でも、ティガダークを多くが忌み嫌っている!」

 

『―――』

 

「ティガに殺されるのでは、という恐怖からくる嫌悪で、多くの者が排除しようとしている!」

 

『がっはっは! ……まさか、こんなところで!

 ぶっ倒さんといかん忌まわしい敵の発言に、ちょっと共感することになろうとはな!』

 

「本当の頂点は神だ。人にそうであると許していただけだ。違うか?」

 

『知るか。お天道様が一番上にあります、だからどうした、知ったことか!』

 

 イスラム教におけるサタンは、神が人間を天使の上に置いたことに怒り、「天使が人間よりも劣っているはずがない」という考えから、神に反旗を翻し堕天したとされる。

 神話の世界の神と御使いですらそうなのだ。

 天使でさえ、神の下に新たなる頂点(バーテックス)が用意され、自分達が神の下の頂点(バーテックス)の座から転がり落ちることに耐えられなかった。

 

 もしも、幾多の神話にあるように、人間でさえ、神が作ったと仮定するならば。

 

「皮肉だろう? 神は()()()()()()()()()を用意しただけなのかもしれないというのは」

 

『答えは同じだ。知ったことか!』

 

 クァンタムストリームが巨大な火球を貫いて、ゼットに命中する。

 

「ぐあっ……!」

 

『この宇宙の全ての存在が、

 "人間は滅びろ"

 "お前達には罪がある"

 "思い上がりの罰を受けろ"

 と言おうが! ワシの言うことは一つじゃ!』

 

 怯んだゼットに、ガイアは急接近。そして叫ぶ。

 

『"うるせえ死ね"!』

 

 ゼットの体を肩に抱え、肩車という技の形で、大地に急降下。

 

『人間を滅ぼそうとしてる時点で逆にやられる覚悟を持っとけ、このスカタンどもがッ!』

 

 四国北東部最大の大橋・瀬戸大橋へと墜落した。

 

「がはっ……!」

 

 香川の名物・瀬戸大橋がひしゃげ、へし折れ、粉砕される。

 瀬戸大橋はその建材の関係上、ぶつけた際の瞬間的な威力であれば地面にぶつけるよりも威力が出る可能性が、十分にある。

 その上、四国の地盤に大きな揺れを発生させることもない。

 なればこそ、三ノ輪大地が選んだ処刑台であった。

 

『殴られたら、殴り返す! 殴られたままでいられるか! それだけの話じゃ!』

 

「……ウルトラマンらしさではなく、人間らしい、返答だなっ……!!」

 

 崩壊した瀬戸大橋の残骸が、海上にそれなり程度の足場を作る。

 ガイアSVはそこに悠然と立っており、ゼットはフラフラになりながらもそこに立ち上がった。

 今にも崩れそうな橋の残骸の上で、決着の時が近付いてくる。

 もはやゼットに長く戦う力はない。

 そしてガイアSVのライフゲージは点滅する気配すら見せていない。

 

 光が勝ち、闇は負ける。

 守護者は勝ち、破壊者は負ける。

 そんな、いつもの世界の形。

 

「……見えるか、ガイア。消えていっている、海に浮かぶ、無数のバーテックスの死体が」

 

『見えるが?』

 

「くくくっ……いくらでも代わりのいるバーテックス。

 私とて、いくらでも複製品でなら作れるだろう。

 ……死ねば代わりのいない人間やウルトラマンとは違う。葬式、とやらもないのだろうな」

 

 瀕死のゼットの口から言葉が零れ落ちる。

 無数のバーテックスが戦い、死に、その死体が消えていく。

 まだ消えていない死体を眺め、瀕死のゼットはポツリと呟いた。

 

「バーテックスも生きている」

 

『……だからワシに見逃せとでも言う気か?』

 

「違う。……バーテックスは生きている。

 人間を殺すためだけに生み出され、人間を殺すためだけに生きている。

 何も生み出さず。

 価値ある軌跡など、この世に何も残さず。

 価値あるものをすり潰すだけの害悪でしかない存在だが……生きている」

 

 一度、死んだ。

 ティガに負け、カミーラに末路を穢されてしまったが、一度終わりを迎えた。

 今、二度目を迎える。

 二度目の"自分の終わりの際"が近付くのを感じているゼットの心は、不思議と穏やかだった。

 

「天の神にとってはいくらでも代わりのいる存在。

 人間から見れば生まれたことそのものが悪。

 ……笑える話だ。

 バーテックスに『生きてほしい』と願ってくれる存在など、一人もいない。そうだろう」

 

『……』

 

「同様に、バーテックスが『生きてほしい』と願う相手など、一人もいないのだがな」

 

『……』

 

「死ぬべくして死ぬのだ。バーテックスは」

 

 死の際に、ゼットの目に映る大侵攻の死骸の群れは、酷く無様なものに見えた。

 

「―――こんなにも無価値で、哀れで、みじめな命が他に存在するか?」

 

 様になる、という言葉がある。

 様になる死に方は、多くの者が望むものだろう。

 だがゼットが見たバーテックスの死骸は、そのことごとくが無様だった。

 

「人間を殺す以外に、バーテックスは存在意義を果たせない。

 我らゼットンが、ウルトラマンを殺してこそ、その存在意義を果たせるのと同じように」

 

 『バーテックス』は、人を滅ぼすために生まれてきた。

 『ゼット』は、ウルトラマンを滅ぼすために生まれてきた。

 

「全てのバーテックスは、人を滅ぼすために生まれてきた。

 だが、人は滅びていない。

 ならば、バーテックスの全てが存在意義を果たせず死んでいったとも言える」

 

『当たり前じゃ。滅ぼさせてたまるか』

 

 迷いなく言い切るウルトラマンガイアを見て、ゼットはこれまでのバーテックス達が負けてきた理由を、改めて実感する。

 

「三ノ輪大地よ……一番哀れな生き物とは、なんだ?

 虫か?

 魚か?

 鳥か?

 滅ぼされる運命にある人間か?

 ……本当の意味で、この地球上で最も哀れな生き物は、バーテックスなのではないか?」

 

『……お前』

 

「信頼もなく、夢もなく、幸福もない。こんなみじめな生物が他に存在するのか?」

 

『……』

 

「幸せもない、笑顔もない、何も得られず、何も成せず、死んでいく。

 自分が死んでも、同じ存在がいくらでも生産される。こんなみじめなものが他にあるか?」

 

 ゼットの肉体は、変質した星屑で出来ている。

 性能は以前のままそのままだったとしても、事実上ゼットの今の肉体は、周りのバーテックス達と同じ作り方で作られた同じ物である。

 バーテックス達にゼットが今向ける感情に、名前を付けるなら。

 

 きっと『同情』『憐憫』という名前が付けられるだろう。

 

「慈愛の戦士と呼ばれるウルトラマンを、私は記録で知っている。

 そのウルトラマンなら、このバーテックス達にも同情し、愛を向けただろう」

 

『ワシらに慈悲をよこせと?』

 

「違う。お前達はお前達で、全力でバーテックスを滅ぼせばいい。

 だが……そうだ、そうだな。私は、想像もしていないお前達に、知ってほしかったんだろう」

 

 その瞬間、ガイアの目には、ゼットが無機質な殺戮者には見えなかった。

 

「この地球上で最もみじめで、哀れで、無価値で、人を殺すためだけに生まれてきた――」

 

 哀れなものを憐れむ、人間に見えた。

 

「――そんな、最底辺の生き物(バーテックス)のことを」

 

 カチリと、何かが動いた。

 

 

 

 

 

 バット星人は、ウルトラマンを『光の戦士』と呼ぶ。

 そしてゼットを、『全てのゼットンの頂点に立つ最強の戦士』と呼んだ。

 戦士と戦士が出会うなら、そこは戦場以外にありえない。

 

 ゼットはバット星人に―――全てのゼットンの頂点(バーテックス)たる存在として、生み出された者。

 

 

 

 

 

 倒され、殺され、砕け、死骸を晒し、消滅していったバーテックス達の残滓が、闇となってゼットの周りに集まっていく。

 光は無い。

 全てが闇だ。

 悪しき者は死の果てに闇へと還り、ゼットの周りに集まっていく。

 

「……そうか」

 

 ゼットの憐れみの言葉が、四国結界内部に充填された過剰なまでに大きなエネルギーが、バーテックスの残滓に僅かな作用と力を与えた。

 それらをトリガーとして、死したバーテックス達が瀬戸大橋跡地に集まっていく。

 上から見れば台風か何かにも見えるであろう、黒い瘴気の渦が生まれる。

 その中心点に立つは、宇宙恐魔人ゼット。

 

「まだ死ねないか、お前達も」

 

 ゼットは腕を広げ、闇を受け入れた。

 

 神の生み出した頂点(バーテックス)が、ゼットンの頂点(バーテックス)に殺到する。

 

「いいぞ、来い。利用してやる。

 お前たちが生まれた意味を、生まれた理由を……私が果たしてやろう!」

 

 ゼットはその全てを、全身で飲み込む。

 タイラントは、怪獣の怨念が集合して生まれた怪獣である。

 ゆえに、それが混ざった"これ"は、"そう"在れる。

 

 ゼットの"先輩"とも言えるハイパーゼットンは、様々な並行宇宙から採取した無数の怪獣を食わせることで進化を繰り返し、最強のゼットンとなったという。

 今のゼットも同じだ。

 概念記録から様々な宇宙の怪獣を再現し、大侵攻に加えた天の神の行動は今、ゼットをハイパーゼットンと同じ進化の過程に乗せていた。

 

 ゼットに殺されたゼットン達も、その渦の中に巻き込まれていく。

 ゼットン達はゼットに対して特に何も思っていない。

 今も変わらず、ゼットに味方し、ゼットに従う。

 "心を植え付けられていないゼットン"など、そんなものだった。

 

 かくして、ゼットは『次』に進んだ。

 

 

 

 

 

 全身に生えた、動きの邪魔にならない程度に大きな黒きトゲ。

 流れ落ちる水流を思わせる形状で、全身に走る黄色の発光体。

 黒と銀の体色のためか、遠くから見ると、黒い筋肉の上に銀の鎧が付いているように見えた。

 輝く青い目。

 鎌の刃のような形の、金色の触覚。

 そして胸には、カラータイマーのように赤く輝く宝石状の硬質器官。

 

 終焉は、形を変える。

 より強き終焉へと姿を変える。

 ゼットン軍団ではなく、バーテックスの残滓を率いる者へと。

 

 終焉の名は、『ハイパーゼット』。

 

 この宇宙、この平行世界、この世界線にしか誕生しなかった者。

 

 かつて存在した全てのゼットンを超越し、神の領域へと足を踏み入れた、黒き終焉であった。

 

 

 

 

 

 ゼットの言う通りだ。

 バーテックスは、救われない命である。

 人を滅ぼそうとして人に滅ぼされるか、人を滅ぼした後用済みになるか。

 そのどちらかでしかない。

 彼らにあるのは"人を滅ぼす"という、生み出された意味と意義のみ。

 それ以外には何も無い。

 それ以外の何かを得られる可能性も無い。

 

 人を終わらせるためだけに生み出され、殺し、人に終わらされるためだけに生きているかのような、頂点でありながら最下層の存在。

 その幸せの総量は、竜胆を遥かに下回るだろう。

 なればこそ、生きている間は何も思わなかったバーテックスですら、ゼットの言葉を聞き、死後に思ったのだ。

 

「今、私の下に、全ては一つとなった」

 

 このまま、消えて無くなってしまうなら、せめて、せめて―――

 

「我らの想いは一つ」

 

 ―――『自分が生まれた意味を果たしたい』という祈り。

 

「終われ、ウルトラマン。……滅びろ、人間!」

 

『……ふざけるな!』

 

 天の神、空の星、バーテックス。それらを背負い、ゼットが闇の槍を突き出す。

 地の神、地球、人間。それらを背負い、ウルトラマンガイアが光の拳を突き出す。

 二つは空中で衝突し、光と闇が喰らい合い、爆発した。

 

『御守風に言うなら、こうじゃ』

 

 槍か腕を掴み、投げる。

 それを目指して槍を捌き、前に踏み込む。

 だが、その手は届かない。

 槍の圧力が以前とは比べ物にならないほどに上昇していた。

 

『ワシらは滅びたりしない。絶対に!』

 

 されどガイアSVは、今や星を背負う者。

 この程度の強化であれば、圧倒はされない。

 逆に攻め手の圧力をぐんと引き上げ、槍が攻める余裕がないほどに、槍を使った防戦一方へと追い込んだ。

 

「ティガ風に言うなら、こうなるな」

 

 とにかく掴まれたら終わり、という意識で、ゼットは槍を振り続ける。

 この流れで防御は切り捨てられない。

 攻防どちらにも全力を込め、ひたすらもガイアSVと凌ぎを削る。

 突き殺す。

 掴み投げる。

 両者共に"強力な一発"を持っているがために、一瞬の隙すら見せられない、そんな攻防。

 

「全ての者の死を無駄にしない……いや、私の場合は違うか」

 

 皮肉にもほどがある話だ。

 ゼットの心は、日々成長し、変化し、様々な想いを獲得している。

 そうして今、ゼットの精神性は、"誰の死も無駄にしない"という竜胆の精神性と似て非なるものへとなりつつあった。

 ずっと戦ってきたティガという好敵手の精神性が、ゼットへ強い影響を与えていたのだ。

 

「その誕生を、意味の無いものにしない!

 バーテックスは、確かに生まれたのだ! この世界に!

 私と同じように生まれた! なればこそ! ―――その誕生を、意味のあるものにしよう!」

 

 戦いながら、ゼットは叫ぶ。

 

 "我らは生まれた意味を果たすのだ"と。

 "自分達は望まれて生まれてきたのだ"と。

 "倒されるためだけの怪物などではない"と。

 叫び、戦う。

 ゼットとして、バーテックスとして。

 

()()()()()()()()()()()()と、叫ばせてもらうぞ!」

 

『……その願いが! 人間を滅ぼしたいってもんじゃなけりゃ!

 願いの純粋さに感心して、肯定してやりたいところじゃ! だがな!』

 

 だが、そんな想いに負けてやるわけにはいかないのだ。

 ウルトラマンガイアには、守るべき命がある。

 守りたい人間達がいる。

 守らねばならない世界がある。

 全てを、星に託されたのだ。

 

『悪いが……一から十まで、全否定させてもらうッ!!』

 

 この世界における強者の戦いは、神話に喩えられる。

 山を砕き、海に穴を空け、雲を散らす。

 まさに神話の神々の権能だ。

 

 だが、この瞬間のゼットとガイアの戦いは違う。

 これはもはや、サイエンス・フィクションの世界の戦いだった。

 

 一撃一撃に、星を砕く威力がある。

 ガイアとゼットに地球を砕く意思がないために地球がまだ保っているだけであって、攻撃の向きを下に向ければ、即座に地球は崩壊する。

 両者の攻撃が速すぎて、重すぎて、人が容易に死ぬ余波がポンポンと発生している。

 

 ゼットの動きの中で最も速い瞬間を見て、その瞬間の槍の最先端の速度を計測してみれば、その速度に目眩がするだろう。

 現在の人類に残された速度計測機器では、その速度を計測することすら困難である。

 ここまでくればもう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そういうレベルの攻撃速度だった。

 

 空気が弾け、裂け、かまいたちやらソニックブームやらが宙を舞う。

 神樹が自らの意志で、寿命を削ってでも力を絞り出し、街を守る急場しのぎの力場を作った。

 だがその力場すら突破されかけている。

 ゼットが槍を振った瞬間に巻き起こる余波の風は、神樹の力場すら突破し、街の人々を惨殺してしまえるレベルにあった。

 

 そしてゼットは、そうやって巻き込まれる程度の人死になど、気にしなかった。

 

「ぐんちゃん!」

 

「大丈夫、振り向かないで!」

 

 友奈は振り向かず、一目連にて嵐を纏う。

 そんな友奈を、後方から千景と玉藻前が支える。

 友奈と千景のコンビネーションが、四国をゼットの攻撃余波から守り切る。

 街を襲うのが衝撃波(暴風)であるのなら、友奈を軸にしたこのコンビネーションで、いくらでも相殺が可能である。

 

「やっぱりぐんちゃんは頼りになるね!」

 

「……そう?」

 

「リュウくんが抜けた分、頑張ろっ」

 

「ええ」

 

 二人きりで四国を守り、やがて杏が戻ってくる。

 

「壁の外、見てきました! 外に敵はいません、ゼットが最後です!」

 

 杏は精霊の負担で顔を青くしながらも、有用な情報を持って帰ってきてくれた。

 もう精霊の使用に耐えられる状態ではないが、それでも彼女は勇者。できることはある。

 杏が状況確認、友奈と千景が防衛に動いている間、若葉は"今敵に最も狙われやすい"変身解除後の竜胆を、後方に置きにいっていた。

 

 ティガは厄介だが、今の竜胆は変身どころか立っていられるかさえ怪しく、殺しやすい。

 敵が狙う前に、仲間に預けておく必要があった。

 

「ひなた、竜胆を頼む」

 

「若葉ちゃん」

 

「お前にしか預けられない。信頼して任せるとしたら、私はお前を選ぶ」

 

「……分かりました。任せてください! 御守さんは私がちゃんと守ります!」

 

「頼んだぞ」

 

「若ちゃん、気を付けて。あと、しにくいだろうけど……ガイアの援護を頼む」

 

 竜胆の台詞は、ガイアの勝利を信じていた若葉の心に波紋を起こす一石としては、十分すぎた。

 

「お前がそう言うということは……援護しなければガイアは負けるのか?」

 

「正直、五分五分だと思う。どっちが勝つか分からない」

 

 竜胆は勇者などの要素を加味して考えて、勝率50%と推測する。

 

「だけど、単純な強さを比べるなら、多分……」

 

 仲間がいるガイアSVと、仲間がいないゼットが五分五分ということは、つまり―――

 

 

 

 

 

 ガリッ、と音が鳴る。

 ゼットの槍がガイアの手の肉を切り裂き、その奥の骨を削り取った。

 

(なんちゅうこった)

 

 どちらが勝つかも分からない接戦。

 されど大地の視点から見れば、力の差ははっきりと分かった。

 

(―――今のワシより、ゼットの方が、強い)

 

 一定以下の速度で戦っている時はいい。

 千景の呪力攻撃や、若葉の炎が援護してくれる。

 そうしている時は、明確に優位を保てる。

 だが、速度を上げるともう無理だ。

 仲間の援護がなくなれば、ガイアSVは途端に不利になる。

 

 このまま戦っていても、ジリ貧は確実。

 ガイアは踏み込み、賭けに出た。

 

『喰らえ―――!』

 

「隙だらけだぞ!」

 

 踏み込んだガイアの無防備な腹に槍を突き出しながら、ゼットはガイアの伸ばした手が当たらないよう、間合いを見切る。

 槍と腕。

 両者が同時にそれを突き出したなら、槍だけが当たるのは明白である。

 

 かくして、ゼットの二股の槍がガイアの腹に深々と刺さり。

 柔術の基本の初手、相手を掴もうとする手に見せかけた右腕から、生成されたアグルブレードがゼットの右肩に突き刺さった。

 

『!』

 

 これまでさんざん見せてきた、柔術の腕の動き。

 まず掴む手の動き。

 それらを十分にゼットの目に焼き付けてからの、フェイント・アグルブレード。

 ゼットの右肩に刺したアグルブレードを捻り、振る。

 

 ガイアの一閃が、ゼットの右腕を空に舞わせた。

 

「……ぐっ、うっ……! 誘い込まれたのは私の方か……!」

 

『がっ、がっはっは……腹の穴二つで、腕一本か……』

 

 腹に穴が空きながらもガイアは立ち上がり、ゼットは左腕一本で槍を持つ。

 

「天の神は"これ"を無価値、傲慢、不遜と断じたのか」

 

 ゼットはガイアを見る。ガイアを助けようとする勇者達を見る。

 『人間』を、真っ直ぐに見る。

 

「天の神は"これ"を滅ぼすべきものだと断じたのか」

 

 そして、呟くように想いを口にする。

 

「信じられん」

 

『……人間、知った気になっとるな。ワシとしちゃあ、なんと応えたものやら』

 

「この強さ、この輝き。これのどこに滅ぼされる謂れがある?」

 

 ゼットは、ガイアの強さが想いから来るものであることを理解していた。

 

 守ろうという想い。

 他者を愛する想い。

 世界を守り、救い、未来に繋ごうとする想い。

 そして、ウルトラマンガイア/三ノ輪大地に、皆が向ける想い。

 

 死して神樹に溶けた者達も。

 街の力無き人達も。

 勇者達も。

 この星も。

 皆が皆、ガイアを信じ、彼に全てを託していた。

 

「命とは……想いで、この領域まで来れるものなのか……」

 

『なんだ、羨ましいのか?』

 

「……」

 

 大地にはゼットの内心が分からず、ゼットもまた、自分の中の感情に名前が付けられない。

 

「そうか」

 

 だが、一つだけ、ゼットにも出せた答えがあった。

 

「そうか―――これが、これが『光』か!」

 

 それは、今この瞬間にガイアを最強足らしめているものが何かという答え。

 

「"これ"こそが、ゼットンに必然の敗北を、人とウルトラマンに奇跡の勝利を約束したもの!」

 

 心を得たゼットンは、これまでのどのゼットンも理解することができなかった『ゼットンが敗北してきた理由』を、身に染みて理解する。

 

「私はお前に……いや、お前達に勝とう。ウルトラマン! 勇者! ―――人間っ!」

 

『負けるかぁ! ワシらの明日は、お前になどやらん!』

 

 腹に穴が空いたまま、片腕を失ったまま、二人は近接戦を吟じる。

 ダメージのせいで動きが随分と悪くなっているが、それでも桁外れに強いままだ。

 ハイパーゼット。

 ウルトラマンガイア・スプリームヴァージョン。

 この二人ほどに強ければ、腹の穴も、片腕の喪失も、二人を弱者の位置まで落とさない。

 

 だが神は、それを唯一無二の好機と見たようだ。

 

「『 ! 』」

 

 空から、四国結界を貫いて、黄金の雷が落ちて来る。

 

 神にも届き得る領域の力を手に入れたガイアSVなら、防ぐ可能性はあった。

 腹に、穴さえ空いていなければの話だが。

 今の状態のガイアには、それを防ぐのも回避するのも間に合わない。

 

『がああああっ!?』

 

 古来より、雷に撃たれて死んだ人間は、たびたび"天の神の怒りに触れて殺された者"として扱われる。

 ガイアは死ななかった。

 だが、死ななかっただけで、全身が黒焦げになるほどに焼かれてしまっていた。

 

『ぐ……かぁーっ、効かん効かん! ワシには屁でもないわ!』

 

 空を見上げるガイアとゼット。

 空には、異質さと神聖さを感じさせる銅鏡のようなものが浮かんでいた。

 その鏡こそ、天の神の化身。

 天に連なる神々の中心に座す、日輪そのものである神性が、自らの力を扱える一端として送り込んだものであった。

 

 将棋で言えば、綺麗な詰み。チェスで言えば、完璧なチェックメイトの流れ。

 大侵攻は全くと言っていいほど計画通りにいかなかったが、結果論で見れば、これで予定通りの結果に終わると言えるだろう。

 あとは、天の神の化身とゼットがガイアを倒し、人を滅ぼし、神樹を折ってそれで終わり。

 

 それで終わる、はずだったのに。

 

「『 失せろッ!! 』」

 

 クァンタムストリームと一兆度火球が、何故か同時に、空の化身へと叩き込まれた。

 

 もはや神の領域にある二者の全力同時攻撃は、化身に抵抗すら許さず、消滅させる。

 

 ガイアとゼットは向き合い、互いの目を見て、ふっと笑った。

 想いは同じ。

 敵同士で、分かり合うこともなく、手を取り合うこともなかったが―――今の一瞬、間違いなく二人の想いは、一つだった。

 

「くっ、が、がががっ、ぎぃっ……!!」

 

『!?』

 

「くっ、くくくっ……今のは、流石に、祟りのことを考えれば、最悪か……!」

 

 だが、天の神の祟りは、勿論の今の行動にも容赦なく作用する。

 ゼットの命が加速度的に削られ、呪死するには十分過ぎるほどの祟りがゼットを襲う。

 皮肉にも、ゼットを即死させなかったのは、ゼットを後押しするために天の神が注ぎ込んだ神通力であり、天の神に未だ従順なバーテックス達の生命力だった。

 

 全身を黒焦げにされたガイア同様に、ゼットもまた、命残り少ない体で膝をつく。

 

『なんで、今、ワシを助けた』

 

「お前達を助けた覚えなどない」

 

『……』

 

「お前も、お前達も、私が滅ぼす。

 天の神ではない、私が滅ぼすのだ。

 お前達は、無価値ゆえに滅ぼされるのではない。

 思い上がったがために滅ぼされるのではない。

 神の怒りに触れたがために、神の正義に滅ぼされるのでもない。……私に、滅ぼされるのだ」

 

 ゼットは、人間に生きる価値が無いとも、滅ぼされるべき存在であるとも言わない。

 人間は生きるべきだとも言わず、人間の死が悲劇であるとも言わない。

 それが、全てだった。

 

「忘れるな。

 私は、お前達ウルトラマンの滅びと、ついでに人間の滅びにしか、興味はない。

 お前達のような正義は……私にはない。

 お前達の価値は認めよう。

 だが、価値がある者を生かそうとする善性など、私の中にはこれっぽっちも無いのだ」

 

『そうか』

 

「御守竜胆が教えてくれた。

 お前達を滅ぼし、生み出された意味を完遂する……それが、私の『夢』なのだ」

 

 焼け焦げた体で、ガイアが拳を握り締める。

 祟りに蝕まれた体で、ゼットが槍を握り締める。

 

『なら……ワシはお前にだけは負けられんなぁっ!!』

 

 叩きつけられたガイアSVの剛拳が、ゼットの槍をへし折った。

 

「……!」

 

『その夢は、ここで終わりじゃぁっ!!』

 

 始まる肉弾戦。

 二人の命が尽きる瞬間が、すぐそこまで迫っている。

 それが先に尽きた方が、この戦いの敗者だろう。

 

 殴る、殴る、殴る、殴る。

 

 命は尽きかけであろうとも、神々を初めとする多くの者から得た力は、まだ両者の体の中に漲っている。

 命尽きることはあっても、力尽きることはないという異様な構図。

 そして心が折れることもまた、ありえない。

 大地とゼットは、体より先に心がくたばるような軟弱な心の構造をしていない。

 

 蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。

 

 攻撃されればその痛みで意識が飛びかけ、攻撃すれば手足に返って来た反動だけで意識が消えかける。

 もはや二人共、全身で傷んでいない箇所、痛んでいない箇所が無い。

 殴り合いをすればするほど全員が痛み、命が吹き飛んでいく実感がある。

 それでも、手は止めない。

 

 ゼットを投げて、手刀をガイアに刺して、勇者が援護してくれて、ゼットが一人で跳ね除けて。

 

 ボロボロになりながら、両者はひたすらにぶつかり合う。

 ゼットの反撃が若葉を、友奈を、千景を、杏を傷付ける。

 仲間を傷付けられたことに怒り、ガイアの投げ関節技がゼットの足を折る。

 構わず反撃したゼットの一撃が、ガイアの目を抉る。

 どちらかが死ぬまで止まることはなく、互いに勝つまで死を受け入れない、しぶとさの塊。

 

「ふ、ふふ……」

 

『なに、笑ってんじゃ、こら……』

 

「ここでお前に負けて、終わっても。悔いはないが……ああ、そうだ」

 

 ゼットは、ふっと笑った。

 

「負けたくない。お前に……お前達に、勝ちたい」

 

『そうかい。ワシはな、死にたくないぞ』

 

 町の人間がずっと見守る戦いも、終わりが近い。終焉はすぐそこにまで来ている。

 

「それでいいのだろうな。

 お前は終わりを嫌い、終わりを倒そうとすればいい。

 終わりを拒絶し、足掻くものにこそ、私は終焉をもたらそう」

 

『黙ってろ終焉キチガイが。……終わりなど、受け入れてたまるか!』

 

「私が、お前の終わりだ」

 

『終わらん!』

 

 ゼットは戦いながら、ふと思う。

 ガイアと戦っていて、思った。

 ティガと戦った時も、思った。

 与えられた"生まれた意味"とは違う、"自分が生まれてきた意味"を、ガイアやティガと戦っている時に、感じる。

 

(―――私は、この者達と戦うために、生まれてきたのだと思うのは、幻想か)

 

 終わりをもたらす。

 終わりを越える。

 二人の心は唯一つの目標に向かい、まっすぐに進んでいく。

 

(ワシが、あいつらを守ってやらないと)

 

 ここで終わりではない。

 ここから始まるのだ。

 三ノ輪大地は、ここから先も、長く続く戦いの中で、自分よりも年下の子供達を守って、皆の世界を救わなければならない。

 天の神を倒すまでの長い道のりは、まだ始まったばかりなのだ。

 人類は地球という自分達の陣地すら、取り戻せてはいない。

 

 だから、こんなところで負けていられるわけがない。

 

(―――生まれた意味なんぞいらん。

 ワシがこう在ることに、生まれのああだこうだは一切関係がない。

 ワシが守りたいと思った。だから守る。それが全てじゃ。生まれた意味なんぞ必要ない)

 

 攻撃し、防御し、回避し、その繰り返しの果てに、秒単位の隙間ができる。

 どう動いてもいい、両者にとっての絶好のチャンス。

 その好機に、ガイアとゼットは同時に足を止め、両者同時に力を溜めた。

 莫大なエネルギーが、二人を中心にして収束していく。

 

(ただ、この胸の奥に、"守る"という燃える意志があればいい!)

 

 腕を大きく回し、光を集めるガイアSV。

 腕を絞るように捻り、腕先に作った火球に闇を注いで、闇を薪のように使うゼット。

 光が、炎が、強く強く世界を照らす。

 そして、光線と火球が、同時に放たれた。

 

 

 

『―――フォトンストリームッ!!』

 

「―――ハンドレッド・トリリオンメテオッ!!」

 

 

 

 アグルから受け継いだ光を混ぜて、初めて使えるようになった、最強光線。

 ゼットン軍団の一体が使っていた100トリリオンメテオという技の応用、百兆度火球。

 二つがぶつかれば、拮抗することは間違いなかった。

 

 だからこそ、大地は驚愕する。

 百兆度火球が"途中で軌道を曲げて"、光線を避けたからだ。

 

「―――!?」

 

 ゼットは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 言い換えるならば……この瞬間に光線と火球がぶつかったとしても、ウルトラマンがゼットンに力負けすることはないと、信じていた。

 ゼットの最強光線を切り裂くランバルト光弾の輝きを、ゼットは今も覚えている。

 

 だからこそ、その瞬間のゼットの選択の要を、あえてこう言おう。『勇気』だと。

 

 火球は光線を避け、カーブしながら飛翔する。

 直進したフォトンストリームが、ゼットの胴を貫通した。

 光線を避けた火球が、ガイアの胴体を貫通した。

 

 ゼットは首だけになった状態から蘇生した。

 ゆえに、胴の肉の2/3は綺麗に消し飛んでいたが……死んではいない。

 ガイアのカラータイマー周りに、大穴が空いている。

 誰がどう見ても、致命傷。

 ゼットは死なず、ガイアの死は確定した。

 なればこそ、この結末は……"ガイアの敗北"と、そう言うのだろう。

 

「が……はっ……!」

 

『私の……』

 

 ゼットは一度、全力を尽くした上でウルトラマン達に負けた。

 負けて、そこから這い上がった。

 ゼットはウルトラマン達を信じていた。

 その強さに敵としての信頼を向けていた。

 この結末を招いたのは、ゼットがウルトラマンから貰った強さであり、ゼットがウルトラマンを信じたがゆえの決断だ。

 

『私の……勝ちだ……!』

 

 だからこそ得られた―――宇宙恐魔人ゼットの、勝利であった。

 

 

 

 

 

 ウルトラマンは、心で強くなる。

 人間は、心で強くなる。

 だからこそ、自分達よりも強いゼットンにだって勝ってきた。

 

 心こそが強さをくれる。それは、ゼットという存在においても同じこと。

 

 タケミナカタがタケミカヅチに負けるという"日本の始まりの神話"は覆された。

 ウルトラマンがゼットンに負けるという"伝説の始まりの神話"は、なぞられる。

 

 

 

 

 

 ゼットは、胸に大穴が空いたガイアを前にして、拳を解いた。

 

「最後に残す言葉はあるか」

 

『ゼット、お前……』

 

「遺言を残すなら早くしろ。

 お前に残された時間は多くなく……天の神がまた来たなら、私も時間を多くは稼げない」

 

『……悪いな』

 

「お前を殺した男に何を言う。お前には、私を罵倒する権利があるのだ」

 

『要らない権利じゃな。それじゃ、長くて三分で……終わらせてくる』

 

 ガイアが街を飛ぶ。

 街の中に漂うは、困惑、焦燥、悲嘆、憤怒、不安、そして絶望。

 誰もが、ほどなくして死ぬガイアと、ガイアを倒したゼットの姿を見ていた。

 胸に大穴が空いた死に体の状態で、大地はふらふらと飛び、竜胆の前に降りる。

 

 竜胆もひなたが抱きしめるようにして支えなければ、立っていられないような状態だった。

 だが、今の竜胆には自分も、周りも見えていない。

 見えているのは、死が確定したガイアの肉体。

 ……いや、もしかしたら星の光が支えているだけで、もう大地の体と命はとっくのとうに死んでいるのかもしれない。

 

「大地先輩……そんなっ……!」

 

『託したくないんだがな……お前、ちょっと重荷を背負い過ぎだから。

 じゃが、なんつーか、ワシが信じて全部任せられるの、お前しかいない気がしてな』

 

「大地先輩!」

 

『がっはっは! ……あー、なんだ。お前がいてくれて、良かった』

 

 安心して任せられる、と、大地は言う。

 

 

 

『竜胆。優しさを失わないでくれ』

 

 

 

 三ノ輪大地の、最後の願い。

 

『その優しさが裏切られたなら、優しさを捨てて好きに生きたっていい。

 だが、叶うなら、優しさを捨てなくていい未来に行ってくれ。

 優しさを捨てなくていい人生を生きてくれ。

 皆が死んだらワシは悲しいが……お前が優しさを捨てることになったとしても、ワシは悲しい』

 

 大地は竜胆に力ではなく、優しさを求めた。

 竜胆に強き者としての価値ではなく、優しき者としての価値を見た。

 強い竜胆ではなく、優しい竜胆こそが全てを救うと、そう期待した。

 

『優しいお前になら、ワシは自分の大切なものの全てを、安心して託せる』

 

「先輩! 待て……待って!」

 

『友奈。お前に柔術の投げ教えてやるって約束、ろくに果たせず悪かった』

 

 大地は一人一人、遠くの仲間へと遺言を残していく。

 

『杏。

 ちょっと四国出てる間にお前が迎えていた成長、実は、自分のことのように嬉しかった。

 だけどそいつが球子の死によるものなんだと分かって、自分のことのように辛かった。頑張れ』

 

 言葉を紡ぐのも億劫なのか、絞り出すような声色で、大地は言葉を思念波に乗せる。

 

『千景。

 ワシもカイトも、お前を素晴らしい仲間だと思っていた。

 カイトの奴はどうせ何も言ってなかっただろうし、ま、言っておく』

 

 これが最後だ。言いたいことを言う。けれど、多くを語る余裕はない。

 

『ひなた。若葉を頼む』

 

 言うべきことを言って、別れを告げていく。

 

『若葉。……竜胆には優しさを求めたが。

 ワシは、お前には強さを求める。ウルトラマンと同じくらいには強くなれ。必ず守れよ』

 

 だがそこで、正樹圭吾が駆けてきた。

 若葉がひなたに竜胆を預けたということは、ひなたが守られていた大社の作戦本部近くということであり、そこに正樹が居たのは必然である。

 

「馬鹿野郎! こらえろ三ノ輪! 死ぬ気で生きろ! ()()()はどうするんだ!」

 

「―――え?」

 

 正樹の叫びに、ひなたの思考は止まり、竜胆の思考は一瞬で高速回転した。

 記憶の中から、過去の大地の発言が掘り返される。

 

―――まあ、惚れた女の誕生日とかなら……

 

 誕生日を祝うような、惚れた女の話を出していた。

 

―――御守お前好きな子とかいる?

 

―――そーじゃそーじゃ。ワシはいるぞ。丸亀城にはいないが

 

 丸亀城の外に、惚れた女がいる話を、大地は酒の勢いで口に出していた。

 連鎖的に、海人が言っていたことも思い出す。

 

―――パイセンが昔結構女遊びしてたこと知ってるんだからな。

 

 昔女遊びをしていた、ということは、今はそうではないということ。

 女遊びを辞めた理由があったとしたら?

 今現在惚れた腫れたの関係にある女性がいるのに、海人が女遊びをしていない判定なのは、何故なのか。

 

 大地は、正樹にこう言っていた。

 

―――あんたなら……ワシを捨て駒にしてでも、世界を守ってくれると信じてた

 

 もしもその言葉の裏に、竜胆も知らないような意味があったとしたら。

 その裏に、隠された意味があったとしたら。

 友情だけを理由に、大地を死なせたくないと思う正樹が、"友情以外の理由"で大地を死なせたくない理由が、あったとしたら。

 

「親なし子と未亡人を生み出す気か馬鹿野郎! 生きろ! ……生きてくれ、三ノ輪っ!」

 

『そこは本当に意見が噛み合わんな、ワシらは。

 正樹先輩は、妻と子供のために父親は生きろと言い。

 ワシは、この命を使い切ってでも、妻と子供が生きる未来を勝ち取りたかった……』

 

「お前が死ぬ必要なんてない! 代わりが死ねばいいんだ! お前は家族のために―――」

 

『正樹先輩のそういう本音を持っているところ、ワシは好きでもあるし、嫌いでもある』

 

 大地を想い、大地の家族を想い、生存を望む正樹圭吾/三好圭吾という男がいた。

 不良らしく酒を飲み、若くしてさっさと結婚し、20歳になる前に子作りを成して、今妻と子供を残して死んでいく、三ノ輪大地という男がいた。

 

 "仲間にそれを教えなかった理由"も、竜胆は理解できてしまう。

 

『……ああ、でも』

 

 大地は命を軽率に投げ出したわけではない。

 

 彼はただ、こんな地獄のような世界で、自分の子供が育っていくことに、異を唱えたのだ。

 

『ワシの子供が生まれて来る前に、この世界を平和にしたかった。

 ささやかな願いだったんじゃ。……それが成せなかったのが、本当に心残りじゃな』

 

「―――っ」

 

 それはきっと、鷲尾海人以外の誰にも教えていなかった、大地の抱えたささやかな願い。

 自分の命と引き換えにしてでも、これから生まれて来る子供に未来をあげたいという祈り。

 自分の子供は、最悪な世界に生まれるのではなく、平和になった世界に生まれてきてほしいという、この世界ではどう足掻いても叶わぬ望み。

 

 正樹と大地、どちらの考えが正しいのだろうか。

 妻と子を持つ者は、家族のために何を犠牲にしてでも、何が何でも生き残るべきなのか。

 妻と子の未来のために、そして多くの人々や仲間の命のために、家族を残して死ぬことも覚悟の上で、命を懸けるべきなのか。

 正しいとすれば、どちらなのか。

 

『未来が欲しかった。ワシの、ではなく、ワシの家族の未来が。

 ……ワシに幸運があるとすれば、後を託す仲間に恵まれたことか』

 

「大地先輩!」

「三ノ輪ぁ!」

 

『ゼット! 聞け!

 ワシは、自分が死ぬ未来が無いと思ったことはない!

 戦いに参加したその日には、十中八九死ぬだろうと思ってはいた!』

 

 大地が、ゼットに向けて叫ぶ。

 

『だがワシが勝利する未来を疑ったことはない!

 ワシは死ぬが! ワシは勝つ! ……『ワシ達』が、勝つ!

 人はいっぱい死ぬが! 人は勝つ!

 神はたくさん殺すだろうが、それでも神は負ける! ワシは、信じている!』

 

 ウルトラマンガイアの体が、光になって消えていく。

 

『"ワシが信じたもの"は―――神にも、悪にも、理不尽にも負けはしない!』

 

 その言葉の数々が、御守竜胆の心に染みていった。

 消えない色として、竜胆の心の一部を染めていく。

 完全に消えてしまう前に、光に包まれたガイアが振り向き、竜胆達に小さく手を振る。

 

『またね、なんて言えないな』

 

 街の各所から、嘆きの悲鳴が上がる。

 

 竜胆の口からは、もう声すら出ない。

 

『あばよ』

 

 そうして、地球最後の希望・ウルトラマンガイアは、消えていった。

 

 星が託した、最後の力と共に、光になって消えていった。

 

 町の人々が見た希望と共に、消えていった。

 

 

 

 

 

 悲鳴。

 絶望。

 激怒。

 街のいたるところから、人々が各々の感情を込め、それぞれ違う叫びを上げる。

 

「偉大な戦士の偉大な勇姿と、偉大な死に様だ。

 本質的に死をも恐れぬその最期―――なんと美しい」

 

 ウルトラマンが負けた、と誰かがうつむいた。

 ふざけるな、と誰かが叫んだ。

 こんなの見たくなかった、と誰かが泣いて座り込んだ。

 各々の感情に差異はあれど、四国の者達が一斉に絶望を抱いたのは事実である。

 

 ゼットンがウルトラマンを抹殺し、それを見ていた人間達は絶望する。

 過去にあった、伝説の一幕の繰り返し。

 喪失と絶望のリピート・エンド。

 皆の希望を背負ったウルトラマンがゼットンに負ける、という結末の形。

 

「そうだ、私は……見る者の心を動かす"この光景"を生み出すために、生まれて来たのだ」

 

 民衆が抱くその絶望こそ、初代ゼットンが初代ウルトラマンを倒し、人々に与えた感情だ。

 

「生き残るべき正義が、勝つべきでない悪に負け、人の心を動かす。

 これこそが、私の生まれた意味の一つ。かつてゼットンが望まれたもの……」

 

 ウルトラマンが倒されたのを見た民衆の絶望こそが、ゼットが正しくウルトラマンの神話をなぞったことの証明となる。

 

「私は今、正しく―――『ゼットン』となった」

 

 そして、"ウルトラマンを倒したゼットンには、人間が最後の一撃を加える"。

 その一撃が致命打となる。

 定められた運命、と言うとまた違うだろう。

 諦めない人間がいるのなら。

 ウルトラマンがやられても、自分達でどうにかしようとする人間がいるのなら。

 

 ウルトラマンがゼットンにやられた後に、ゼットンを倒してウルトラマンの仇を取ってくれる者が現れるのは、必然である。

 

「―――!」

 

 超高速で飛翔し接近した乃木若葉が、ゼットの胸に大太刀を刺していた。

 剣先から膨大な炎が注ぎ込まれ、体内を焼く。

 ゼットが痛みに苦しんで、しゃにむに若葉を掴み、海に投げ捨てる。

 巨大な水柱が上がって、ゼットは胸を抑えてふらついた。

 

「……人間の、意地、か。やってくれる……!」

 

 今の一差しが、最後のトリガーとなった。

 ゼットの体が崩壊を始める。

 ゼットの体に最後に残されていた余力が、全て消える。

 若葉が見せた最後の意地が、ゼットから戦えるだけの力を根こそぎ刈り取っていってしまった。

 

(あの勇者は、いい目をしていた)

 

 ゼットは今の一瞬に見た、若葉の目を思い出す。

 惚れ惚れするほどに熱い感情が燃えていた、燃える炎を宿す目だった。

 あれは何度でも挑んでくるだろうという、不思議な確信があった。

 

 若葉の勇気の一太刀は、ゼットが今日人を滅ぼす権利を綺麗に切り捨てた。

 今日のところはもうゼットに、戦闘関連で何かできることはない。

 だが、それ以外のことになら、ある。

 

 自らの内のバーテックス達に。

 遠く彼方のカミーラに。

 天に座す日輪の神に。

 まとめて、言い放つ。

 

「ここは私の矜持を通させてもらう」

 

 ボロボロの肉体で、ゼットは四国の全域に届くような声を、思念波に乗せて拡散した。

 

「聞け!」

 

 街の多くの者は、ガイアの死を見て、ウルトラマン達が負けたのだと確信していた。

 もう自分達は守られないのだと思い込んでいた。

 だからこそ、ゼットを見上げながら、死刑宣告を聞いている死刑囚のような表情で、ゼットの言葉を黙って聞いていた。

 

「もはや四国に残された巨人はティガダークのみ。

 御守竜胆とその仲間だけが、私を倒すことができるだろう。

 次の戦い、御守竜胆達が負ければ、私はそのまま世界を滅ぼす。せいぜい勝利を祈るがいい」

 

 ゼットは本気だ。

 次の戦いで勝利したなら、そのまま世界を滅ぼすことを本気で宣誓している。

 抜き身の殺意を肌に受け、四国の住民全ての背筋に嫌な汗が流れていく。

 

「もはやお前達は他人事ではいられない。当事者だ。

 いつまでも弱いまま、醜いまま、そのままでいられるとは思うな」

 

 一つの終わりは、一つの始まり。

 

 戦いの終わりは、次の戦いの始まり。

 

「私は、守ってもらっておいて、他人事のようにウルトラマンを見る者を許さん」

 

 ゼットは、四国の者達の心を侮蔑し、叱咤し、『次』があることを明言した。

 

「信じるがいい! 私が貴様達を滅ぼす未来を!」

 

 人の未来。

 

「信じるがいい! ただ一人残った最後のウルトラマンが、奇跡を起こす僅かな可能性を!」

 

 世界の未来。

 

「天はいつでも―――貴様らを見ているぞ!」

 

 戦う者達の未来。

 

 全ての未来は未だ未確定ながら、絶望の色に彩られている。

 

 地球と地の神のバックアップを受けたウルトラマンガイアでも勝てなかった、"ハイパーゼット"―――それに勝てる存在など、この地球のどこにいるというのか?

 いるわけがない。

 そんなものは今の地球のどこにもいない。

 可能性レベルの話で、もしも、そんな存在がいると仮定するならば。

 

 大切な人を全て失い、絶望に堕ちたティガダーク……それ以外には、ありえないだろう。

 

 滅びは。

 終わりは。

 絶望は。

 幾度となくこの世界に、人々に、子供達に、降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜胆参戦時、丸亀城陣営暫定数。

 ウルトラマン六人、勇者五人、巫女一人。合計十二人。

 

 三ノ輪大地死亡。

 

 ウルトラマン、残り一人。

 神樹の勇者達、残り四人。

 神樹の巫女、残り一人。

 

 残り、六人。

 

 

 




 6/12

 個人的にゼットの『貴様』は敵意寄り、『お前』は好意寄りで書き分けてます
 その時々によって色々塩梅が変わったりしますが
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