夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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「心は簡単には捨てられない」
「捨てられるはずはない。その感情が……優しさであるのなら」

発言者:ヒビノ・ミライ
発言話:ウルトラマンメビウス10話『GUYSの誇り』


再起 -リフォーメーション-

 黒い巨人の拳が振るわれる。

 心の闇でブーストがかかったティガダークの拳は、グレートの腕力さえも上回る。

 だが、格闘技の世界において拳は大抵の場合"受け止めない"。

 

 敵が10の力で殴って来た場合、これを真正面から受け止めるには10の力が要る。

 されど敵の拳を横から叩いて力を"散ら"せば、10の威力のパンチは1の力で無力化できる。

 ボクシングではこれを"パリング"、空手では"受け"と言う。

 ボクシングは内側に叩き落とすが、空手は基本的に外へと流す。

 グレートの"受け"は、ティガダークの獣じみた連撃を全て受け流していた。

 

 カウンターで、グレートの貫手による喉突きがティガダークに綺麗に決まる。

 

『ガッ―――■■■―――ッ!!』

 

 猛獣のように飛びかかるティガだが、グレートはそれを綺麗に投げた。

 地面にすら叩きつけない、ダメージ0の綺麗な投げ。

 一瞬一瞬の攻防が、互いの戦闘技量の差を明白にしていく。

 ティガが攻めれば攻めるほど、グレートのカウンターがティガの体に叩き込まれていった。

 

 ティガダークが一方的に攻め、ティガダークに一方的にダメージが蓄積されていく。

 グレートは防御とカウンターしかしていないというのに、あまりにも圧倒的だった。

 ティガが『暴』ならば、グレートは『力』と『理』。

 それは、例えるならば―――力任せに暴れる悪魔の獣を、技で制する人の姿。

 グレートの動きは豪快で俊敏ながらも地味な技の連続であったが、ティガダークの桁違いなパワーとスピードを技で圧倒しているがために、一種の感動すら覚えさせるものだった。

 

「球子、杏、怪我は響いていないか」

 

「タマは平気だぞ」

「私も大丈夫です。前に出ていなかったので」

 

 若葉は仲間を集め、仲間の状態を把握していく。

 戦いの前に軽い怪我を負っていた二人だが、問題は無さそうだ。

 

「友奈、千景、準備はしておけ。万が一の時はこちらも動く」

 

「うん!」

「……」

 

 友奈は元気だが、千景は無言だ。

 竜胆の参戦を一番喜んだのが千景であれば、それを一番に拒み苦しんでいるのも千景だろう。

 良い意味でも悪い意味でも、竜胆と千景は互いに対する影響が大きすぎる。

 若葉には、仲間であるはずの千景の行動が読めなくなりつつあった。

 

「若葉さん、カラータイマーが!」

 

 杏の声を聞き、若葉が巨人二人の胸を見る。

 グレートとティガの胸で、同じようにカラータイマーが点滅していた。

 

「グレートとティガダークのタイマー点滅タイミングは同じか……

 なら、グレートと同じで、活動限界三分、点滅から一分で限界に至るはず」

 

 カラータイマーは危険信号。ウルトラマンの活動限界を示す指標だ。

 これで、ティガダークの活動時間限界も確認できた。

 "ティガダークの危険性"同様に、大社がこの戦いで竜胆について確認しておきたかった事柄は、この時点で全て確認が完了された。

 

「ティガもあと一分で消えてくれるはずだ」

 

 敵も残っていない。

 残っていた最後の敵も、残り一人の巨人がカタをつけてくれていた。

 

「パワードは仕事人だな……残りもきっちり片付けてくれたか」

 

 あとは、長くても一分。この一分を乗り切ればいい。

 

「……?」

 

 若葉はグレートとティガダークの凄まじい攻防を見ながら、違和感に気付いた。

 

「あいつ……強くなっている……?」

 

「え? 若葉ちゃん、どういうこと?」

 

「友奈、フットワークと手先のスピードを集中して見てみろ。

 ティガの方は、どんどん速く、どんどん力強くなっている」

 

「……ホントだ」

 

「理性をもって戦い始めていた時は、このレベルじゃなかった。

 パワーもスピードも、明らかに十倍近くまで跳ね上がっている……」

 

 今やティガダークは凄まじい速さで跳び回り、恐ろしい腕力で殴り、絶大な闇を纏う闇の巨人と化している。

 勇者の力の補正がなければ目で追えない速度は、もはや瞬間移動に近く、その腕力は頑強な怪獣を一撃で粉々に粉砕するレベルに到達していた。

 戦い始めの頃は、流石にここまでおぞましい存在ではなかったはずだ。

 若葉と友奈の見ているものは違ったが、今のティガダークが何かおかしなものに変わっているということだけは、共通認識であった。

 

『■■■■ッッッ!!!』

 

「私は、御守さんのこの叫びが、なんていうか……

 どんどん憎しみが強くなって、苦しみが増してるように聞こえる方が、気になるかな」

 

「憎しみ? ……確かに、よく聞けば、そんな風にも聞こえるが」

 

 若葉は身体の強さを見ていた。だからティガダークの変化に気付いていた。

 友奈は心の叫びを聞いていた。だからティガダークの変化に気付いていた。

 杏は二人の会話を横で聞き、一つの仮説を立てる。

 

「あの、若葉さん。少しいいでしょうか」

 

「どうした杏」

 

「事前に聞かされていた、彼の情報からの推測になりますが……

 彼は心の闇で変身する闇の巨人・ティガダークであると聞いています。

 心の闇、というものがどう定義されるのか分かりませんが……

 憎しみ、苦しみ、敵意、殺意。そういうものが、彼を強くする力の源なのでは」

 

「!」

 

 若葉が強さを見て、友奈が心を見て、杏が正解と言っていい仮説を立てた。

 

「……杏の仮説が、正しいかもしれないな。

 暴走状態が、心の闇を制御できない状態であるとすれば……

 今の暴走状態は、心の闇が最も力を発している状態。

 逆に暴走を抑えて理性で戦っている時は、今ほどの力は出せないのかもしれない」

 

 ティガダークは心の闇を暴走させればさせるほどに、戦い方が邪悪になればなるほどに、スペックが上昇していく。

 逆に、良心や倫理はスペックを抑える枷にしかならない。

 だが暴走すればまともな精神状態で戦うことは不可能になり、獣のような戦い方をせざるを得ない状態となる。そうなればグレートの技の前に屈するしかないのだ。

 空手を始めとする格闘技とは、知性ある者の暴力を制圧するために発展したものであり、それに似通うグレートの体術が、人の暴力を圧倒できないわけがない。

 

 要は相性の問題だ。

 グレートは暴走したティガダークに対し相性が良く、暴走したティガダークはスペックの関係上バーテックスを圧倒できる。

 ティガダークがグレートに勝つには、もっと深く闇に落ちなければならない。

 だが、そんな風にしか強くなれないのであれば、その先に待っているものは―――

 

「タマげたな。じゃああいつは、憎い敵を殺す時だけ強いってことか?」

 

 球子がそう言うと、真っ青な表情をした千景が球子に掴みかかる。

 

「お、おい千景、何すんだ!」

 

「違う! そんなはずない!」

 

「離せよ千景!」

 

「憎い敵を殺す時だけ強いなんてこと、あるわけない!

 彼が……彼が一番強い時は! 私が見た、彼の一番強い背中は……!」

 

「千景!」

 

 球子に掴みかかる千景を、周りの皆が引き剥がす。

 友奈が、若葉が、杏が、千景を止める。

 

 千景には、この状況が耐えられない。

 大事な仲間だと思っている球子が、竜胆をそういう目で見ることが耐えられない。

 球子がティガダークに向ける"心底侮蔑した目"は、かつての千景が村の全員に向けられていた目と、どこか似通ったものだったから。

 

「違う……そんなんじゃない……そんな人じゃないのにっ……!」

 

 千景が苦しみの声を漏らし。

 

 戦う力の全てを削ぎ取られたティガダークが、倒れる。

 

「……『ウルトラマン』が、勝った」

 

 勝者のグレートが見下ろす先で、ティガダークの巨体が竜胆の体に戻る。

 グレートの空手は見事なもので、竜胆の体は打撲だらけではあったが、体へのダメージは最小限に抑えられていた。

 光線も使わず綺麗に気絶に追い込んだその技は、達人と言う他ない。

 

 気絶した竜胆を若葉が抱えようとして、千景がその手を弾いた。

 竜胆の気を失った体を、千景が抱える。

 守るようにして抱える。

 自分にはそれくらいしかできないと、言わんばかりに。

 

「千景……」

 

「来ないで」

 

 樹海化が解けていく。

 世界が元の形に戻っていく。

 結界の内部を塗り替え戻す光の中で、千景はとても悲惨に、とても弱々しく、少年を抱きかかえていた。

 

「……誰も、近寄らないで」

 

「ぐんちゃん……」

 

 敵を全滅させて勝利しただなんてとても思えない、後味の悪い戦いの終結だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めた時、竜胆はまた椅子に縛り付けられていた。

 

「……ん」

 

 ここは丸亀城に用意された竜胆の宿舎であり、彼の部屋であり、彼のための牢獄である。

 竜胆が内側からドアや窓を自分の意志で開けることは許されておらず、彼を拘束しておくための設備がいくつも取り付けられている。

 複数の監視カメラと熱源探知の赤外線センサー、有事に使われる床下の爆薬など、竜胆にも勇者にも明言されていない備えも無数に仕込まれていた。

 

(随分拘束が甘いな……)

 

 左耳に空けられた穴に通されている発信機ピアスもそのまま。

 両手に付けられた頑丈な手錠もそのまま。

 胴体をしっかりと固定するベルト、腰を椅子に固定するベルト、足を床に固定する鎖と足枷が追加されているくらいだろうか。

 身じろぎ出来てしまう時点で、あまり厳重な拘束ではないと竜胆は考える。

 

 ブラックスパークレンスも無い。おそらく誰かに取り上げられている。

 それはまあ、当然のことだろう。

 竜胆はまた暴走してしまったのだから。

 

「……はぁ」

 

 また暴走してしまった。

 三年前の最初の変身の時とは違う。

 今度はちゃんと"暴走するかもしれない"と分かった上で、"暴走しないように"と心がけた上で、暴走してしまったのだ。

 言い訳などしようもない。

 自分の中にある闇に、竜胆は負けたのだ。

 

 三年前、竜胆の心の闇に引っ張られてティガの力は闇に染まり、巨人の闇が竜胆の心に闇の衝動を植え付け、それは三年間絶え間なく膨らんできた。

 彼の心の闇は絶大であり、生半可な怪獣では太刀打ちすらできまい。

 そしてそれだけ絶大な心の闇を、理性だけで完全に制御できるはずもない。

 

「……」

 

 グレートに圧倒された最大の理由はそこにある。

 

 ティガダークは自分の力に振り回される獣だったが、グレートは自分の力を100%完璧に使いこなせる武道家だったから。

 

「……ウルトラマン、か」

 

 輝く銀河の星、光の戦士ウルトラマン。

 グレートは竜胆の目から見ても、本当に素晴らしい戦士だった。

 ティガダークが勇者の方を向かないように、樹海の破壊を考えないように、ティガダークの攻撃が余計なものを壊さないように、常に気を使っていた。

 その上で、ティガダークに余計な怪我を負わせないように制圧してみせた。

 

 星屑の掃討や大型への攻撃・足止めなどの仕事もきっちりやっていた勇者も、一人残らず自分の仕事を完遂していた姿が、竜胆の記憶に残っている。

 ウルトラマンと勇者は、世界と人々を守るため、とても正しい行動をしていた。

 竜胆は自分とウルトラマンを比べ、溜め息を吐く。

 

(確かに、僕はアレと同じにはなれない。

 僕とウルトラマンが同種扱いされるのを怒る人の気持ちも分かる。

 共通点は巨人だってことくらいだ。

 綺麗だった。綺麗な光だ。あれは僕とは逆で……何かを守る時、強くなる類の者)

 

 竜胆の中の、その感情は。

 

 きっと『憧れ』というのだろう。

 

(強かった。それに優しかった。

 暴走してた僕は本気で殺す気で行ったのに……

 あっちにはまるで殺す気がなかった。

 体はまだ少し痛むけど、逆に言えば少し痛むだけだ。

 怪我が後に残らないように、的確な武術で的確な制圧をしてくれたんだろうな)

 

 ウルトラマングレート。

 

 竜胆が生まれて初めて出会ったウルトラマン、になるのだろうか。

 

(……僕が最初に闇の巨人として世界に現れたことで、どのくらい迷惑をかけたんだろう。

 そりゃ、大量殺人鬼の後追いだ。

 生半可な苦労じゃなかったはずだ。

 ……くそっ。

 なんで三年も、こんな当たり前のことちゃんと認識してなかったんだ。

 悪行はやって終わりじゃない。

 後を引くんだ。悪行ってのはやった後に何年も、誰かを苦しめることもあるんだ……)

 

 球子の言葉が、脳裏に蘇る。

 

―――お前のせいでな! お前が最初に現れた巨人だったせいでな!

―――後から現れた巨人は皆苦労したんだ!

―――みんなみんな、お前のせいで悪者の仲間みたいに扱われて……!

―――ずっと皆苦労して、逆境の中で頑張って、長い時間をかけて信用を勝ち取ったんだぞ!

 

―――皆……皆! タマでも見てんのが辛いくらい、頑張ってたんだ!

 

―――お前、それでもウルトラマンかよ! ……しちゃいけないことって、あっただろ!

 

(そうだよな)

 

 過去は変わらない。かけた迷惑が消えることはない。

 "あれ"に迷惑をかけたのだと思うと、少年の心は重くなる。

 今回、仲間や街までもを攻撃しかけたのだから、なおさらに。

 

(しちゃいけないことは、あったんだ。

 "どんな理由があろうとそれは許されない"ことっていうのは、あるんだ)

 

 どうすればいいのか。

 どう生きれば良いのか。

 どう死ねば良いのか。

 竜胆には、分からなってきた。

 彼は、自分を見失っている。

 

「ちょっといいか?」

 

 その時、部屋のドアが空いた。

 救急セットを持った小さな体の少女が、部屋に踏み込んで来る。

 竜胆を前にしても、敵意はあれど恐怖が見えないのは、その少女が勇気ある者だからか。

 小学生程度に小さな少女は、あの残虐な戦いを見せたティガダークその人を前にしても、毛の先程の怯えのすら見せていない。

 

「お前は……」

 

土井(どい)球子(たまこ)だ。覚えとけ」

 

 忘れるわけがない。

 最初に会った時、竜胆に彼の罪を()()()()()()()()少女だ。

 

―――杏寿(あんず)

―――タマミおねーちゃん!

 

 名前を聞くだけで、竜胆の胸が抉られ、トラウマが心を刺してくる。

 伊予島杏や土居球子と、竜胆が殺した子供の名前が少し似ている、ただそれだけで、竜胆の心には痛みが走る。

 

「お前が反省してるかどうか見に来させてもらったぞ。

 毎回今日みたいなことして、暴走したらタマんないからな」

 

「……」

 

「反省してるか? 反省してるよな?」

 

「……何か、勘違いしてないか」

 

「何?」

 

「反省しようと、後悔しようと何も変わらない。僕は何も変わらない。あれが、本当の僕だ」

 

 球子は一歩下がる。

 

 彼女は竜胆の言葉の中に、とても歪んだものを見た、気がした。

 

「本当の自分が何か?

 分からない。ずっと分からなかった。

 僕は正しく義に背かない生き方をしていこうと思ってた。

 間違っていることはちゃんと間違っていると言いたかった。

 ……でも僕は、結局、悪でしかない人間だったんだ」

 

 本心を隠していた竜胆の中にあった弱さと弱音が、一瞬言葉の中に混じる。

 球子は竜胆の言葉を聞き、彼の本質を見極めようとしていた。

 

「土居。悪は誰にとっての敵だと思う?」

 

「えー、なんだよ難しいこと聞いてきて……そりゃ『正義』じゃね?」

 

「僕は『善』だと思う。悪の敵が正義。善の敵が悪。正義の敵が悪だ」

 

 正義、悪、善とは何か?

 

「正義は見る人によって、正義にも悪にも見える。

 正しそうに見える正義でも、罪の無い人を多く犠牲にするなら論外だし……

 悪行でも、それで救われる人がいるなら、救われる人達にとっては正義だろう。

 ならどこで正義と悪を決めるか。

 それは『善』の人を対比に置いておかなければ決められない。善は守るべきものだから」

 

 闇の中で三年間、竜胆はずっと善悪について考えていた。

 

「善は、とても分かりやすいものだ。

 人殺しはしちゃいけないからしない。これは善。

 隣に居る人に優しくする。これも善。

 困っている老人や子供を助ける。これも善。

 死にそうになっている人の命を救う。これも善。

 ……友達を大事にする。きっと、これも、善だろう」

 

 控え目に言って、竜胆は自分自身を完全に見失っている。

 

「善の味方なら分かりやすく正義だし、善の敵なら分かりやすく悪だ」

 

 竜胆は自分が悪だと、盲目的に決めつけている。

 

「正義ってのは強い概念だから。

 悪人だって、正義を掲げて善人を虐げることはできる。

 正義は度々悪人の看板になる。

 正しさだ義だのと言っていたのに、その本質は憎しみで誰かを殺す人間だった僕のように」

 

 黙って話を聞いていた球子は、よく分からなくなってきた。

 この男が善なのか、悪なのか。

 ただ、まともでないことだけは理解できてきた。

 

「僕は正義も語ったし、悪にも堕ちた。

 そして人殺しであって、絶対に善人ではない。

 だから僕に反省を求めない方が良い。

 反省した僕が改心するなんて考えない方が良い」

 

 竜胆のこれは、釘刺しだった。

 救急セットを持ってきてくれた球子を、自分から遠ざけるための言い草だった。

 

 球子は、竜胆を嫌っている。

 だが同時に、心配もしてくれていたのだ。

 その手の中の救急セットがその証拠。

 竜胆が反省し謝罪する様子でも見せたなら、星屑に齧られた皮膚やグレートに殴られた箇所に、痛み止めの軟膏でも塗ってくれるつもりで持って来てくれたのだろう。

 

 球子にとって、それは優しい友達(伊予島杏)の真似のようなものであったが。

 竜胆はそこに、誰かの真似でない球子の優しさを見て取った。

 

「君は『善い奴』だな。

 『正義の人』とは違う。

 悪行に厳しいのが正義の人で、悪党にも優しいのが善人だ。君は優しい」

 

「な、なんだ藪から棒にっ」

 

「ありがとう、その気持ちだけで十分だ。だからもう僕に近寄るな。特に戦いの場では」

 

 だから、少年は冷え切った声で突き放す。

 

「踏み潰すぞ」

 

 要するに竜胆は、『善人には自分に近寄ってほしくない』のだ。

 そうなるくらいなら、孤独なまま死ぬ方がマシだと、そう考えている。

 

 竜胆にとっての"自分に近寄ってほしくない人"が増えていく。

 最初に千景。次に人の良さそうな友奈。善良であることが確認できた球子もそう。

 好意を持ててしまったから突き放す。

 球子にはその思考回路が理解できない。

 

「……なんだよお前……タマにはわけわかんないぞ……頭おかしいのか?」

 

「ああ」

 

「……なんでこんな問いだけスパッと言い切るんだよ、お前。お前への悪口だぞ」

 

「この世で一番嫌いな奴への悪口に同意することは、何か変なことか?」

 

「―――」

 

「僕は僕が嫌いだ。大嫌いだ。

 嫌いな奴にはできる限り苦しんで、償いの人生を送ってから悲惨に死んでほしいものだろ」

 

 少年は当たり前のように言い、少女は当たり前のようにその思考を理解できなかった。

 

 球子が竜胆が何を言っているか、何を考えているか、それを一部だけでも理解できるようになったのは、彼が彼の友達を話題に出し始めてからであった。

 

「ちーちゃんは、周りの皆と上手くやってる?」

 

「え、なんだ突然。……どうだろうかな。

 仲間としては信じられるけど、うーん……

 タマにはあんま心開いてない気がする。

 つか、あいつが心開いてんのは友奈だけって感じがするな」

 

「そっか」

 

 友達のことを話し出すと、少年は無自覚に声が優しくなる。

 千景の親しい友達が多くないと聞くと、少年は途端に心配そうな様子を見せる。

 "ごく普通の少年のような"挙動まで見せてきた竜胆に、球子は本気で混乱した。

 この少年の本質が、分からない。

 

「ちーちゃんのこと頼むよ、善い人。

 またなんか、泣きそうな顔してた気がするから。君、ちーちゃんの友達だろ?」

 

「友達、って」

 

「頼むよ」

 

 だけど、友達(千景)を想うその気持ちは本物だと、球子は思った。

 

 

 

 

 

 竜胆の部屋を出て、球子は小さな手で頭を掻く。

 部屋に来る前よりもっと、御守竜胆という男のことが分からなくなってしまった。

 

(あいつが分からない……間違いなく悪人、だと思うのに、悪人だと思えない……)

 

 球子は確信を持っていた。

 竜胆は悪人であると。

 確信を持っていた、はずだった。

 

 球子の感覚は正しい。

 あの心の闇は、間違いなく竜胆の一部だ。

 あの残虐な暴走は、竜胆の心の一部が原因で発生したものである。

 だが、それで竜胆の全てが語れるわけでもない。

 

 そもそもの話、竜胆は勇者達に地下室から出してもらってすぐ大社に運ばれ、大社から丸亀城に移送されてすぐに初陣に放り込まれ、そこで気絶・目覚めて今に至る。

 球子と竜胆は会話した時間を総計しても、おそらく30分に満たないだろう。

 彼と彼女の間には、あらゆる面で相互理解が足りていない。

 

(あいつ、心のどこか、壊れてるんじゃないか)

 

 土居球子は少し考えてから、御守竜胆と本気で向き合うことを決めた。

 

「あんずー? 居ないか……本借りるぞ」

 

 球子が向かったのは、伊予島杏の部屋であった。

 勇者は皆同じ宿舎に住まわされており、球子と杏は特に仲が良いために、互いの部屋を自分の部屋のように行き来している。

 そのため、互いの部屋に何があるかも知っていた。

 

 杏は脳筋と脳筋以下しか居ない初代勇者チームの中で、唯一の知能派である。

 かつ、無類の読書好きであった。

 その部屋は右を見ても左を見ても、壁を覆う大きな本棚に埋め尽くされている。

 

 その本棚も恋愛小説! 恋愛小説! 少女小説に恋愛小説! と、これでもかと頭の中ピンク色な嗜好向けの小説が並んでいるという、少女趣味の塊であった。

 本棚を見ているだけで目が滑るので、球子が覚えてるのは「必殺技みたいな名前だな」と思ったワザリングハイツというタイトルくらいのもんである。

 

 杏の趣味は読書だ。で、あるからこそ。

 昔の本も、探せばそこにある。

 球子は三年前にはよく出ていた、"御守竜胆についての本"を探した。

 日本全土の大部分が陥落したのは約半年前だ。

 三年前ならまだ、竜胆を責めたり、当時の事件の真相を追求する本がいくつも出ていたくらいには出版業界も余裕があった。

 

「お、あったあった。さて、読んでみて、と……」

 

 目当ての本を見つけて、球子はそれを読み始める。

 球子はページに詰まった活字を読んでいると頭が痛くなるタイプであったが、なんとか頑張って読み進めていた。

 

「……改めて見ても、ひっどいな。

 "悪逆非道の虐殺者"。

 "癇癪で罪も無い人を大量に殺した小学生"。

 "妹まで殺し、里親候補だった人まで殺害"。

 "親は既に事故死していて、そのせいで心が歪んだ最悪の悪魔"……」

 

 本の中で、千景の故郷のあの村の大人が、コメントを載せている。

 『我々は何も悪いことをしてなかったのに―――』

 『あの御守竜胆って子は村でも評判が悪く―――』

 『何が何だか分からない内に理不尽に皆殺された』

 と、竜胆の虐殺に、自分なりのコメントを載せている。

 家族を黒い巨人に殺された人の嘆きなど、目を覆いたくなるものがあった。

 それを読んだ球子は、竜胆は悪人であるという確信を、更に強める。

 

「ああ、こんなのもあったか。

 "少年法に守られた悪魔"……

 "本来は死刑で当然の極悪"……

 "巨人達の恥、唯一の悪人である巨人"……

 "矯正は不可能、法改正で死刑にすべき"……

 行方不明になったとかいう噂が流れて、なんか有耶無耶になったんだっけ」

 

 あの頃、竜胆は日本において誰よりも死を望まれた者であったと言える。

 紛れもない重犯罪者。

 とても分かりやすい悪人だ。

 球子が気になっているのは、自分の中にあった竜胆のイメージと、実際に会った竜胆のイメージが全く重ならないこと。

 そして、千景と竜胆はただならぬ関係にありそうだということだ。

 

「……千景は何か知ってるのか? 聞いてみるか……いや、答えてくれるのか、あいつ?」

 

 千景は昔のことを語らない。

 家族のことも話さない。

 と、いうか。

 高嶋友奈を除いた仲間全員と、深いコミュニケーションを取ってくれないのだ。

 その友奈が友好的なのに他人の事情や身の上に踏み込まないタイプなのもあって、千景の過去の境遇は周りにあまり知られていない。

 

 人には触れられたくない部分、というものがある。

 千景と竜胆の間にあるのはまさしくそれだ。

 そのくらいは、球子にも分かる。

 千景のそこに下手に触れれば、友奈以外の勇者なら平気で敵に回して大暴れしてしまいそうな予感があった。

 

 若葉の喉に鎌を突きつけていた千景の姿を思うと、その辺に無策で突っ込むのはちょっと怖い。

 

「んー……友奈に問い質させてみるのが一番かなー」

 

 球子は本を本棚から引っ張り出して散らかした杏の部屋をそのままに、片付けもせずふらっと丸亀城の外の街に出た。

 丸亀城の外の街は、まばらに見える人も活気付いている。

 自由に外出することすら許されていない罪人(竜胆)の姿を先に見ていたせいか、球子は今の自分が……自由な自分が、とても恵まれているように感じられた。

 

「あれ、球子?」

 

 そんな球子に、声をかける者が居た。

 その声に聞き覚えがあったから、球子は驚き振り向く。

 

「……真鈴さん!?」

 

 安芸(あき)真鈴(ますず)

 球子と杏と……そして"もうひとり"と旧知の仲である巫女が、そこに居た。

 

 

 

 

 

 三年前、世界が終わった崩壊の日、西暦2015年7月30日。

 その日、神に選ばれた勇者が生き残ることができたのは、勇者の力だけが理由ではない。

 

 若葉は幼馴染の巫女ひなたに導かれたから。

 友奈は四国外部の神に縁深い地・奈良の人間であったから。

 千景は竜胆が敵の全てを殺してくれていたから。

 そして球子と杏は、ある巫女に導かれてバーテックスの群れの中で合流できたから。

 その巫女こそが、安芸真鈴である。

 

 最高値の巫女適正を持つひなたにこそ及ばないが、土居球子と伊予島杏という二人の勇者を、大社に保護されるまで導いた功労者だ。

 明るく快活、面倒見も良い中学三年生。

 最優秀であるがために勇者とセットにされているひなたと違い、真鈴は大社の本社にずっと詰めて巫女としてのお役目を果たしている。

 そのため、球子や杏と関係浅からぬ仲でありながら、一年以上も会うことが敵わないという難儀な環境に置かれていた。

 

 球子からすれば、久しぶりに会った恩人になるわけで、会えただけでも嬉しく感じられる。

 

「やっ、久しぶり! 元気してた?」

 

「そりゃもう! タマに来たかと思えば真鈴さんは相変わらずだなあ」

 

「話す時間が欲しかったから予定より早くに来ちゃった。

 それに、確かめないといけないこともあったしね」

 

 安芸は私服で、謎のアタッシュケースを抱えていた。

 彼女は、実はお仕事の一環でここに来ている。

 丸亀城に"あるもの"を運ぶお仕事を、強引に自分がやると引き受けて、ここに来たのだ。

 なので、彼女が純粋に遊びに来てくれたんだろうと思っていた球子はタマげる。

 

「御守竜胆って人、どこに居るかな」

 

「……!?」

 

 安芸の口からその名前が出てくるだなんて、球子は想像もしてしなかった。

 

 球子に案内され、安芸は竜胆に割り当てられた部屋に入る。

 相も変わらず椅子に縛り付けられたままの竜胆が、安芸真鈴の顔を見て、心底驚いた様子を見せた。

 

「―――まっちゃん?」

 

「久しぶり、御守くん先輩」

 

「え? 知り合い?」

 

「まね。この人、一時期アタシの小学校にも居たからさ。

 ちなみに学年もクラスもおんなじ。

 ご両親が事故で亡くなるまでは……同じ習い事にも通ってて。

 ふざけて先輩後輩とか言ってたもんよ。ま、後々引っ越して行っちゃったんだけど」

 

 竜胆は親が死んだがために引っ越し、里親探しがなされ、その過程で千景のあの村を訪れた。

 なので当たり前のことだが、引っ越す前の知り合いも居て当然なのだ。

 球子、杏、安芸の地元は愛媛。

 千景の地元は高知。

 この二県は密着しているお隣さんである。

 しからば、そういうこともあるのだろう。

 

「僕の方は真鈴だからまっちゃんて呼んでたんだよなあ、懐かしい」

 

「御守っち、みもりん、御守くん、御守くん先輩、御守先輩、あとなんかあったっけ?」

 

「ねえよ」

 

「まあそんな感じ?」

 

「まあこんな感じだ」

 

「なるほど……タマげた。まさかこんなところに繋がりがあったとは」

 

 タマは三重に驚いた。

 まず、この二人が知り合いだったことに。

 次に、恩人だと思っていた安芸と悪人だと思っていた竜胆が、こんなにも真っ当な仲の良さと親しさを見せたことに。

 最後に―――竜胆が見せた笑顔に。

 安芸は気心知れた昔の友達であり、罪悪感なく付き合える人間であり、突き放す必要のない来訪者だ。だから竜胆も、つい油断して自分らしい笑顔を見せてしまったのだろう。

 

 彼が友達に向ける笑顔を見た球子の中で、"この男は悪人"という確信がどんどん揺らいでいく。

 うんうん考えている球子の視線の先で、安芸は竜胆との会話を続けていた。

 

「なんだか本当……色々あったみたいね」

 

「色々あったんだよ。だから……」

 

 竜胆の記憶の中には、妹の花梨と安芸が一緒に遊んでいた想い出もあった。

 彼が殺した妹。

 校舎の跡地から後にぐちゃぐちゃになった死体が発見された妹。

 安芸の友人だった御守花梨を、竜胆は殺した。

 

「……ごめん。まっちゃんと花梨が仲良かったのは、今でも覚えてる。だけど……」

 

「長くなりそうな話はいいわ」

 

「……」

 

「また会えて嬉しい。アタシが言いたいのはそれだけ」

 

「……まっちゃん」

 

「うん、また会えて嬉しい。生きててくれて、本当に良かった」

 

 安芸は、触れれば痛い部分には触れない。

 触れるべきでない部分に触れないようにして、竜胆が生きていたことを喜ぶ。

 それは、とても優しい話し方だった。

 竜胆の心の傷を避ける話し方だった。

 

「三年前はアタシも巫女の力に目覚めて忙しかったからね。

 ……事件と騒ぎに気付いたのは、随分後になってからだったよ」

 

「そっか」

 

「まあどうせデマだろうって思ってたけど」

 

「……えっ」

 

「やだなあもう、何か誤解とか誤報とかあったに決まってるじゃん。

 事件の残酷さが御守パイセンのキャラと合ってなさすぎじゃない?

 アタシは未だに"残虐非道の御守竜胆"とか非実在青少年だと思ってますよ」

 

「なん、で」

 

 竜胆は、呆然とも歓喜ともつかない表情を浮かべ。

 安芸は、朗らかに笑って当たり前のことのように話していた。

 

「だって御守先輩、バカじゃん」

 

「んんっ」

 

「悪者やっていけるほど頭良くないじゃん? 小学校のテストの点数も常にゴミカスで」

 

「少しは歯に衣着せろ!」

 

「何が一番バカかって……

 "自分のため"に他人に嫌な思いさせるのが大嫌いで。

 "自分のため"に悪事を働くことが絶対できないくらい苦手だったじゃん?」

 

「……っ」

 

「うちの学校の皆はニュースは絶対デマだって言ってたわよ。

 いやだって、ありえねーわ、御守先輩の性格考えろっての。

 できるわけないじゃんあんなこと。もうちょっと常識的なニュース流してほしいわ」

 

「―――!」

 

 竜胆はまだ15歳で、その人生の内3年間を暗闇の中で生きている。

 家の外で友人を知り合いを作った年数で言えば、長く見ても10年には満たないだろう。

 だが、その10年未満の時間の中で、御守竜胆という少年とちゃんと触れ合っていた人達は……その多くが、竜胆が悪者になっただなどという報道を、信じてはいなかった。

 竜胆は恐る恐る問いかける。

 

「……『もしかしたら』とか、一瞬でも思わなかった?」

 

「いやまったく」

 

 安芸はきっぱりと切り捨てる。

 

「ああでも、心配はあったかな。

 御守くんはほら、いじめられてる子がいたら世界全部と戦ってでも守る気配があったから。

 御守先輩くんは絶対悪いことに加担しないから、困った事になってるかもなー、ってさ。

 そういう心配はしてたわよ。

 正しくしないと、優しくしないと、ってこだわりすぎて死んじゃいそうな気配があったしね」

 

「……そっか」

 

「だってホラ、バカじゃん、御守先輩」

 

「うるせぇ」

 

 竜胆が思わず笑みを零して、安芸が笑顔になった。

 

「お、いい顔。なんか暗いなー、って思ったけど……

 今の笑顔は昔の御守くんっぽくて良かった。その顔ができるなら大丈夫そうかな」

 

「―――」

 

 竜胆が虐殺をしたのは事実だ。

 だが、事実だったとしても何も変わらない。

 安芸は過去に見た竜胆の善性を信じる。

 他人から聞いた竜胆ではなく、想い出の中の竜胆を信じる。

 "何か事情があったんだろう"程度に思うだけで、彼女はその事実を流して終わるだろう。

 

 竜胆は自らを恥じた。

 『安芸が信頼し好感を持っていた人物(じぶん)』を、心底嫌い全否定したことを、恥じる気持ち。

 彼女が好感を持ってくれた自分から、今の自分に変わり果ててしまったことを恥じる気持ち。

 そして、胸を張って彼女に向き合えない、今の情けない自分を恥じる気持ち。

 多くの羞恥が、彼の胸の内を渦巻いていた。

 

「真鈴さん、それ、マジな話なのか? だとしたらとんでもなくタマげるんだが」

 

「なーによ球子、アタシを疑うの?」

 

「いや、そういうわけでは」

 

「屋上から飛び降りて自殺しようとした後輩を、窓から飛び出してキャッチした話。

 雨水流すパイプ掴んで、後輩をキャッチしながら着地した話。

 それで手の皮ビリビリになって、落ちて足が折れて、第一声が『大丈夫か!?』だった話。

 血を流しながら心配してくれる御守くんに、なんか色々感じ入って号泣した後輩の話。

 その後の御守くん先輩の説得で以後自殺しなくなった後輩の話。

 その後来た救急車と御守先輩の超絶笑ったコント的やり取りの話、どれからしよう……」

 

「全部ひと繋がりの同じ話で僕の話じゃねえか……」

 

「あれはうちの小学校の伝説だもの」

 

 球子にはもう本当にわけが分からなくなってきた。

 せめてティガダークであんな残虐な戦いさえやらかしていなかったならば、こんな困惑はなかっただろうに。

 

「球子はニュースとか周りの人が言ってる話と、御守くんの性格が違い過ぎて戸惑ってる?」

 

「タマには信じられん」

 

「まーなんというか。

 正義の人だったよ。

 正しさと仁義、ってやつ?

 一つの正義が絶対って思わない人だった。

 正義で他人への攻撃を正当化するのが嫌いな人だった。

 で、他人にとっての正義とかも一々考えちゃう人だった。今でもそうだったりするかも」

 

「……」

 

「今のこの陰気で粗雑な感じは……ほら、御守パイセンも思春期だから。気難しい時期だから」

 

「まっちゃん、思春期で何でもかんでも片付けられるとは思うなよ」

 

 タマが信じられないようなものを見る目で竜胆を見て、竜胆が"顔向けできない"と言わんばかりに、二人から顔を逸らした。

 安芸のノリは軽く、竜胆の調子は重い。

 安芸は竜胆が変わっていないと思っているし、竜胆は自分が変わり果てていると思っている。

 そして安芸と竜胆の考えは、どちらも()()()()()()()()()()

 

「……あんましたくないけど、大社からの厳命だから。

 やらないともっと状況悪くなりそうだし……ごめんね」

 

 安芸は会話が一区切りついたところで、申し訳なさそうに、アタッシュケースから取り出した首輪を竜胆の首に嵌めた。

 

「これは……?」

 

「……爆弾」

 

「ああ、なるほど」

「!?」

 

 竜胆は首に付けられた首輪型爆弾に納得し、球子は驚愕した。

 

「いい? 御守先輩。間違えて爆発させることがないように、説明はよく聞いて」

 

「ああ」

 

「まずこれは、外部からの衝撃じゃ爆発しないわ。

 でもあなたが無許可で変身しようとすると0.000001秒以内に爆発するんだって。

 だから変身が完了する前に首が吹っ飛ぶ、そういう仕組みなんだって。

 段階を見て、その許可認証を出せる巨人と勇者を増やしていくって聞いてる。

 今認証を出す許可が与えられてるのは乃木ちゃんだけだから、そこは気を付けて」

 

「まあ、妥当な処遇かな。戦闘時以外の恒久的外出禁止とかも来るかと思ってたけど」

 

「爆発したら、本当に死んじゃうから……本当に、気を付けて」

 

 これが、暴走のペナルティ。

 まだ誰にも信じられていない竜胆に対する妥当な処置。

 無許可での変身には死が与えられるという、大社の合理的な対応であった。

 だが。

 球子は、そこに反感を覚えた。

 竜胆の耳に穴を空けて発信機を付けて、両手に手錠を嵌め、自由を奪い、爆発する首輪を付け……()()()()()()()()()()()()()()と、根っから優しい球子は、思ってしまったのだ。

 

「いや、これ……どうなんだ?

 ここまでやったら、流石に……人間扱いじゃないっていうか……駄目なんじゃないか?」

 

「……言いたいことは分かるわ、球子。

 でも今、大社は彼の戦力採用でかなりパッシング受けてるの。

 巨人が前の戦いで三人抜けて、市民も相当不安になってるって話よ。

 御守くんの身の安全のためにも、御守くんに首輪付けてるってことをアピールしないと……」

 

「平気平気。気遣ってくれてありがとな、まっちゃん、土居」

 

「「……」」

 

 今この瞬間、この三人の中で一番"竜胆みたいなクズは死んでもいいじゃん"と思っているのが、竜胆本人であるというのが、なんとも奇妙な話だった。

 

「ちょっと、外の空気でも吸いに行こうぜ」

 

 竜胆の提案で、三人が外に出ていく。

 球子は竜胆のことがちょっと分かった気になっていたが、また少し分からなくなってきた。

 何故この少年は、自分の首に即死級の爆弾を付けられて、付けられる前より安心した顔をしているのか。

 

 少年は大社から支給されたらしきカードを自動販売機に差し込んで、少女二人を手招きする。

 

「?」

 

「まっちゃんが好きな飲み物、これで良かったよな」

 

「! おおっ、細かいこと覚えてる男の子は好感触だね」

 

「土居は?」

 

「え、タマにもくれるのか? じゃ、適当にその辺りのを」

 

 二人の手の中に、暖かな飲み物が置かれる。

 ……少女二人は、知る由もなかったが。

 安芸が今日ここに来てくれたことで、少年の胸の中にも、暖かなものが置かれていた。

 

「ありがと、まっちゃん」

 

「え、どうしたの急に」

 

「思い出せた。再確認できた」

 

 千景と竜胆の関係は複雑過ぎて、深すぎる。

 その関係はシンプルから程遠い。

 だからこそ、昔の友人以上でも以下でもない安芸とのシンプルな関係が、竜胆にシンプルな感情を思い起こさせた。

 

 安芸が元気そうで良かったと、竜胆は思った。素直に思った。

 幸せでいてほしいと、素直に思った。

 そう素直に思える自分に、竜胆は少し驚き、納得した。

 まだ自分にそういう部分が残っていたということを、竜胆はちゃんと認識できたのだ。

 

「僕はまだちゃんと、普通の友達の幸せを、素直に喜べる人間だったんだ」

 

 逆に言えば。

 

「僕には、大切に思ってる物以外にも、大切な物がいっぱいあったことを、思い出せた」

 

 この再会がなければ、そんなことすら認識できていなかったほどに、竜胆の心はガタガタで、心の闇と闇の力に蝕まれていた。

 

「ありがとう。君のおかげだ」

 

「……何かしたっけ? と思うけど、どういたしまして」

 

 安芸が帰路につくまで、安芸と竜胆はずっと思い出話をしていた。

 

 球子はその間ずっと、その話を横で聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安芸が帰った後、二人は丸亀城のベンチでちびちびと飲み物を飲んでいた。

 買った時は熱々だった飲み物も、すっかり冷めてしまっている。

 球子の中に最初はあった熱い怒りの如き敵意も、すっかり冷めてしまっていた。

 二人はベンチに並んで座り、互いに距離を測りかねている。

 

「なあ」

 

 竜胆が、球子に話しかける。

 

「その、さ。他の巨人……ウルトラマンって、どんな奴なんだ? 性格とか」

 

 その内容に、球子は溜め息を吐いた。

 呆れの溜め息であり、安心の溜め息であった。

 球子はこの瞬間にようやく、竜胆を"仲間を見る目"で見てくれるようになった。

 

「やっと仲間に興味持ったのか」

 

「え?」

 

「若葉が言ってたぞ。

 御守竜胆は仲間に興味すら持ってない、って。

 タマから見ても仲間のことも知ろうとしてないし、周りを見ようともしてなかったなお前」

 

「……うっ」

 

「そりゃ、暴走するや否や周りが見えなくなるのも当然だろ」

 

「……かもなぁ」

 

 安芸が来る前の竜胆であれば、一週間共闘しようが、一ヶ月共闘しようが、仲間のことを知ろうとなんてしなかっただろう。

 拗らせ方次第では、仲間を捨てて一人で戦うことを選んでいたかもしれない。

 

「でもちょっと安心したぞ。

 仲間のことなんてどうでもいい奴なんじゃないかって思ってたからな」

 

「!」

 

「お前、戦ってる時、仲間の方見ないで敵だけ凝視してるんだもんよ。

 暴走する前も暴走した後もそうだ。

 足元から見上げてるタマ達からすりゃそりゃ怖いって思わないか?

 タマ視点、お前は守るのに興味は無いけど殺すのは大好きって感じに見えたぞ」

 

「そんなっ! ……そんな、ことは……」

 

―――お前らの動きに興味は無い。僕も好き勝手に動くから、そっちも好き勝手にしてろ

 

 過去に若葉にそう言っていたから、竜胆は反論できない。

 球子の不安も、球子の安心も、その理由に納得してしまう。

 敵ばかり見ていた。

 敵だけを見ていた。

 仲間の個性に興味すら持っていなかった。

 

 バーテックスが罪の無い人を殺すことを恐れ、自分が暴走することを恐れ、親しくなった仲間を自分の手で殺してしまうことを恐れ、竜胆はひたすら恐れながら戦っていた。

 この三年間で竜胆から失われたものがあるとするならば。

 それはきっと、勇気だろう。

 敵に立ち向かう勇気があっても、"自分を信じる勇気"は彼の中から完全に失われている。

 

 それは、仲間を見ず仲間と向き合わず戦うという愚行に直結してしまっていた。

 

「……ごめん」

 

 素直に謝る竜胆の表情を覗き込んで、球子は何故か納得した様子を見せていた。

 

「友奈がさ」

 

「……?」

 

「お前はずっと泣きそうな顔してるって言ってたんだ。

 タマは何言ってんだこいつ、と思ったものだが。

 ……友奈の勘は本当にタマげる。今やっと、タマにも友奈が何言ってるのか分かったぞ」

 

「何を……」

 

「おっと、他の巨人がどういう奴らかって話だっけか。

 ガイアの変身者の三ノ輪さんとアグルの変身者の鷲尾さんは今は居ない。

 前の戦いで小惑星サイズの怪獣とかが沢山来たんだ。

 それを迎撃する戦いの最後で行方不明になったけど……誰も死んだとは思ってない」

 

「なんで?」

 

「ガイアとアグルはそう簡単に死ぬか。

 あの二人は強いからな、ハートもパワーも。

 三ノ輪さんに至ってはウルトラマン達のリーダー任されてたくらいだ」

 

「へぇ……」

 

 行方不明になっているというのに、生存が確信されている。

 単純な強さ以上に、信じられている"何か"があるのだろう。

 

「ネクサスの変身者のアナは、最近ちょっと心配だ。

 前の戦いで重傷を負わされて以来、塞ぎ込むことが多くなった。

 本当は明るくて快活な奴なんだけど、最近滅多に笑わないし、退院もできてない」

 

「ガイアとアグルが行方不明、ネクサスが重傷、と」

 

「で、グレートに変身するボブ。パワードに変身するケンが残ってる。

 ボブは音楽で世界を獲るとか言ってた筋肉ムキムキの黒人。

 ケンはにこやかな笑みが似合ってるでっかい白人だな。

 ケンが30代後半で、ボブが20代前半で、三ノ輪さんと鷲尾さんが高校生で、アナが小三」

 

「小三……って小学三年生!?」

 

「おう。明るい小三の良い子だぞ。

 退院したらお前も可愛がってくれタマえ。

 ボブはあんま日本語喋れないけど日本語勉強中だ。

 ケンは頭良いから片言だけどすぐに喋れるようになってたぞ。

 鷲尾さんは落ち着いた感じの高校生だな。

 三ノ輪さんは胸が大きい女の言うことなら大抵聞いちゃいそうな最低野郎だ」

 

「個性に溢れてるなウルトラマン……

 情報量で頭パンクしそうだ……え、ちょっと待て今最後になんか変なの混ざらなかった?」

 

「む、これで頭パンクって、もしや勉強苦手なヤツだなお前」

 

「おう、自慢じゃないが僕の頭は悪いぞ」

 

「親近感湧くじゃないか。まあ仲間のことなんだから頑張って覚えてくれタマえ」

 

「へいへい」

 

 ガイアの三ノ輪、アグルの鷲尾、ネクサスのアナ、グレートのボブ、パワードのケン、と覚えるのに苦労しそうな固有名詞を頭の中で繰り返し、竜胆は覚えていく。

 

グレート(ボブ)パワード(ケン)ネクサス(アナ)は外人さんなんだ。

 元は遠い国で戦ってたんだけど、そこが滅ぼされた後に日本に来てくれたんだぞ」

 

「そうなのか」

 

「まだ滅ぼされてない日本を守りに来てくれたんだ。ありがたいだろ?」

 

「……うん、そりゃ、間違いなく"善い人"だな」

 

 ガイアとアグルが日本のウルトラマン。

 竜胆のティガも日本のウルトラマンと言っていいだろう。

 グレート・パワード・ネクサスが外国から来たウルトラマンであるらしい。

 

「最初はお前のこともあって結構怪しまれてたりもしたけど……

 日本全国をずっと守ってくれてたから、皆次第に信じるようになったんだ。

 半年くらい前までは、日本の国土の大半は残ってたんだぞ。今はもうほとんどダメだけど」

 

「グレートの強さはもう見てる。あのレベルの巨人が何人も居たのに負けるもんなのか?」

 

「いや、前はマジでウルトラマン無敵だったぞ! 負けなんてありえないってくらいに!」

 

 ティガを除く五人のウルトラマンは、以前は無双していたようだ。

 

「ただ、なんて言うか……

 勇者システムが敵に合わせてアップデート、巨人の力参考にしてアップデート。

 バーテックスがウルトラマンの新技や勇者の対応に合わせて進化。

 んでバーテックスの新しい特性に合わせて勇者システムアップデート。

 バーテックスがウルトラマンや勇者の弱点を突くため進化。

 こんなこと繰り返してたから、ウルトラマンが追いつかれ始めたんだ、敵に」

 

「うっへぇ」

 

「ウルトラマンは基本的に鍛錬と新技で強くなるしかないからなー。

 ポンポン新しいのを出して来るバーテックスの方が、どうにも成長は早い気がする」

 

 勇者システムは改良できる。

 バーテックスは進化する。

 ウルトラマンは自らを鍛える。

 三年前の世界であれば、ウルトラマンは飛び抜けて強かったのかもしれない。

 それももう、昔のこと。

 追いつかれる前の、昔のことだ。

 

「以前はタマ達が死ぬ気で攻撃しても十二星座にダメージも通らなかったもんだ、うん」

 

「インフレ激しそうだな……

 ん? ちょっと待った。

 じゃあ四次元怪獣ブルトンってのが、四国結界を脅かすようになったのは……」

 

「割と最近だな。ブルトン倒したら次の脅威が現れそうな気もする」

 

「……」

 

「言いたいことは分かる。……タマんないよなこの繰り返し。

 でも言うぞ。はっきり言うぞ。タマ達の勝利条件は未だにハッキリしてないんだ」

 

 敵を倒す。

 もっと強い敵が来る。

 その敵を倒すと、もっと強い敵が来る。

 それを延々と繰り返し、地球のほとんどを敵に制圧されたのが今のこの世界だ。

 

 人はそれを、ジリ貧とも言うし、敗戦間近の末期戦じみているとも言う。

 

「どうすればタマ達の勝ちになるのか、未だに分からん」

 

「……なるほど」

 

「それでも四国が落ちたらヤバいし、タマ達は四国を死ぬ気で守るしかないのだ。

 四国以外で残ってる勢力なんて諏訪しか確認できてない。

 北海道と沖縄には生存者居るかも? って話はタマーに聞くな。日本の外は全滅したらしいが」

 

「それっぽく打開策になりそうなものとかはないのか?」

 

「さっき言ったアナって子いるだろ?

 小学生でネクサスの変身者の女の子。

 あの子が最近四国結界と樹海の強化を段階的にやってるって話だ」

 

「……ああ、なるほど。

 四国の結界が頑丈になれば、僕らが守る必要性が薄れるのか。

 そうすればこっちから打って出たり、敵の根本を叩いたりできるかもしれない?」

 

「うむ。まあ希望的観測ってやつだ。余計なこと考えてないで、今はブルトンだな」

 

「一回樹海で戦ってみて、ブルトンの危険性はよく分かった。

 神樹の神の力、だっけか。時間と空間を操る力。

 あれが四国を結界で守り、樹海化で街の時間を止め、街を守ってくれてた。

 時間と空間を滅茶苦茶にするっていうブルトンが、あれに干渉して来たら……」

 

 もしも、結界と時間停止という守りが失われてしまったならば。

 

「……僕が、街と人を、暴走で潰していたかもしれない」

 

 結界や樹海化の妨害、なんてことをされてしまったら。

 怪物は人を喰らい、街を壊し、竜胆も多くの人を暴走で殺しかねない"最悪"が来る。

 そういうものだ。

 

 飲み切った空のペットボトルを、球子が投げる。

 

「タマやお前や、皆が負けたら」

 

 投げられたペットボトルは、綺麗に自動販売機脇のゴミ箱に入っていった。

 

「樹海に守られてた全部が守られなくなって、皆死ぬんだ。真鈴さんも」

 

「―――」

 

「結界の外でも敵を倒して生きられるかもしれない、タマ達とは違う。

 街の力の無い人達は、神樹が倒されて、ここの結界が消えたらおしまいなんだ」

 

 後は無い。

 この四国に、後は無いのだ。

 決定的な敗北一つで、全ては終わる。

 

「タマにはお前の考えてることがさっぱり分からん!

 いつも陰気な顔でジメジメした雰囲気してるし!

 戦い方は気持ち悪い上にグロテスクで、最悪だ!

 仲間を踏み潰そうとするわ、街を攻撃しようとするわ……いいところはひとっつもない!」

 

「……だよな」

 

「でも」

 

 だが、まだ、終わってはいない。多くが失われても、未来はまだ残されている。

 

「今日、思った。守りたいものは一緒なんじゃないか、って」

 

「土居」

 

「立ち向かう敵が一緒で、守りたいものが同じなら、一緒に戦えるんじゃないか、って思った」

 

 安芸真鈴が、今日ここに来てくれたことで、球子は知った。

 自分と竜胆が、同じ人を守ろうと思えるということを。

 自分と竜胆が、同じものを守って戦えるということを。

 

「ん」

 

 球子が竜胆に手を差し伸べる。

 その手を取れば、球子は竜胆を一応は仲間と認めてくれるだろう。

 竜胆はその手を取りそうになった。

 手を伸ばしかけた。

 ずっと積み上げられていた"寂しさ"が彼を突き動かしかけたが、竜胆は必死に自らの手を抑え、伸ばしかけた手を引っ込める。

 

「僕は……僕の力を制御できない。

 暴走したら周りが見えなくなる。

 僕を信用するな。僕に、仲間として近寄ったりは―――」

 

 伸ばされ、引っ込められて戻っていく竜胆の手を、球子が掴んだ。

 

「―――」

 

「タマはお前を信じてない。

 これっぽっちも信じてない。

 でも仲間なら、最低でもほんのちょっとは信じる」

 

 誰だって知っている。仲間に何よりも必要なものは、『信頼』であると。

 

「次の戦い、タマと一緒に戦え」

 

「……君と?」

 

「タマはまだお前を信じられてない。

 あんずの背中をお前に任せたくない。

 あいつはタマよりずっと繊細で脆いんだ。

 だからタマは、お前を信じる理由か、信じない理由が欲しい」

 

「……僕は、僕が、信じられない」

 

 竜胆には、自分の手を掴むタマの手が、とても熱く感じられた。

 

「期待されたら、信じられたら、それを裏切るのが、怖い」

 

「お前……誰かの信頼を裏切るのが、怖いのか? 暴走が怖いのか?」

 

「今は、何もかもが怖いよ。

 敵も、自分も、周りの壊れやすいものも。

 本当は何も信じられないし、誰にも信じてほしくない。

 でも、また人が殺されるのが怖いから、戦ってる。それだけなんだ」

 

「……」

 

「君はほんのちょっとって言ったけど、君の信頼も怖い」

 

 握った手を握り返してこない竜胆の弱々しい姿に、タマはムッとした。

 残虐非道の御守竜胆に対する敵意、なんてものはもう無い。

 ただ、剥き出しになった竜胆の弱さを見て、見捨てておけない気持ちが湧いた。

 

「かっこ悪いぞ。そこは、こう……なんかかっこいいこと言え! 男だろ!」

 

「そう言われると、いや本当に情けない自分だな、なんて思うけどさ……」

 

「タマはしょっちゅう男の子みたいって言われる。

 女の子らしくしろと親に怒られるのもしょっちゅうだ。

 クラスの男子に男女と言われた回数も数え切れない。

 そのタマから言わせれば、お前には男らしさがちょっと足らないんじゃないか?」

 

「うっ、女の子にそう言われると胸が痛い……例えば、どういうのが男らしいのかな」

 

「ええっ、んー……?

 いや"信頼されるのが怖い"って信頼から逃げるのはダメだろ。

 "何が何でもこの信頼を裏切らない"って誓う方が男らしいんじゃないか?」

 

「おお、男らしい」

 

「なんでタマは女なのに男に男らしさ説いてるんだ……?」

 

「かっこいいぞ、土居」

 

「うん、あんまり嬉しくないな!」

 

「……ああ、そうだ。

 信頼されないように行動するより、信頼を裏切らないために頑張る方が、かっこいいよな」

 

 球子は未だに握り返して来ない竜胆の手を握りながら、思う。

 

 竜胆が善なのか悪なのか、正直言って球子は未だに判別がついていない。

 だが、一つだけ確信を持てることがあった。

 善だろうと、悪だろうと。

 この少年はきっと、『優しい』。

 この少年が『優しさ』を捨てることは、きっとできない。

 優しくない正義も、優しくない悪も、きっとこの少年は忌み嫌っているだろうから。

 

「お前の周りが見えなくなって暴走するっていう恐怖、ちゃんと分かったぞ。

 タマをちゃんと信じさせたら、お前の背中をタマが守ってやる。

 周りが見えなくなるって言うなら、なおさらお前の背中を守る誰かが要るだろ?」

 

「―――善い人だな、土居は、本当に」

 

「いやいや、そういうのじゃないから! 心底ー、って感じにそんなセリフ言うなよ!」

 

 球子が竜胆に対しそう思うのと同様に、竜胆もまた、照れる球子の優しさを感じ取っていた。

 球子はちょっと話を逸らす。

 

「カラータイマー。知ってるか?」

 

「カラー……タイマー……?」

 

「変身した後のお前の胸にあるやつだ。

 お前の体力や活動時間が残り少なくなると赤く点滅するやつだな。

 ウルトラマンには皆胸に付いてるんだ。赤く点滅するとピンチだってことになる」

 

「自分だけが知る分には便利だけど、敵にまでピンチ知られるとかなんて厄介な……」

 

「それ禁句! まーそうなんだけどさ。デメリットだけの物を皆付けてるわけないだろ?」

 

「?」

 

「タマはアレ、"ピンチだから助けてくれ"って仲間に知らせるためのもんだと思ってる」

 

「!」

 

「"お、ウルトラマンがピンチだ!"って、アレ見れば仲間はひと目で分かるだろ?」

 

 これは球子の個人的な考えである。

 真実である保証も、正解である保証もない。

 だが、球子の性格が垣間見える『球子なりの解釈』は、竜胆が自然と受け入れたくなるような、彼の好みの解釈だった。

 

「巨人は人間よりもずっとずっと、"仲間を信じて一緒に戦う"前提の奴らなんだ」

 

「そう、なのか」

 

 球子にとって、ウルトラマンの限界を知らせるカラータイマーは、ウルトラマンを周りの人が助けるためにある、そういうものであるようだ。

 

(カラータイマー……ピンチに助けを求める部分、か。

 僕は助けを求めてた? 誰に? ……仲間に?

 それとも巨人体のただの仕様?

 僕の中に『助けて』って気持ちがあった?

 ……バカな。無い。そんなものはない。

 被害者じゃなくて加害者の僕が、『助けて』なんて思うだなんて、そんなこと……)

 

「ピンチに助けてって素直に言わない奴でもカラータイマーは素直だからなー」

 

「おい出会って間もないくせに僕を素直じゃないやつ扱いすんのやめろ」

 

「あははっ」

 

 球子はなんとなくだが、竜胆と付き合う際の距離感を掴みかけてきたようだ。

 

「お前のカラータイマーが鳴った時は、タマとか千景とかが助けに来るさ。

 あ、暴走してなければ、の話だぞ?

 だからお前は頑張って暴走しないようにすること!

 お前はまだタマの信用を全く勝ち取ってないんだからな。分かったか?」

 

「……ああ」

 

「うむ、よろしい。

 お前が頑張ればタマも頑張ろう。

 周りが見えなくなりそうな時も、お前の背中はタマに任せタマえ!」

 

 竜胆は苦笑して――本人にはその自覚なく――嬉しそうに、頷いていた。

 

 仲間が出来てから少年の内に芽生えた、仲間と親しくなって、親しくなった仲間を暴走で潰してしまうんじゃないか、という恐怖。

 竜胆の中にあったその恐怖を乗り越える『勇気』の一欠片を、球子がくれていた。

 

 少年は、少女の手を強く握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日が経過した。

 12/24、町の人々がクリスマスに賑わうにわかな活気の中、若葉は雪降る雲を見上げる。

 吐いた息も白くなる、寒空の下。

 若葉は白い息を吐きながら、白い建物に歩を進める。

 

 扉を開き、その奥で厳重に椅子に縛り付けられている竜胆に呼びかける。

 

「行くぞ。全員に集合をかけた。状況は全員が揃ってから話す」

 

 竜胆は枷を外してもらい、若葉の後に続いた。

 若葉の呼びかけに応えない竜胆は、どことなく感じが悪い。

 だが"作られたような感じの悪さ"で、どことなく悪ぶっている印象を受ける。

 城の外縁に繋がる屋外の石の階段を登る若葉を見て、竜胆は"つい"言ってしまった。

 

「乃木、雪降ってるから足滑らせないように気を付けろ」

 

 思わず吹き出しかけた若葉は悪くない。

 

「? なんだよ」

 

「お前という人間が分かってきた。

 悪ぶるのは仲間と距離が取りたいからか?

 だが、悪ぶる才能がない。お前の本来の性格は、言動や行動に滲み出ているんだな」

 

「……勘違いも甚だしいな」

 

 他人の心配をしてつい口を滑らせてしまう人間に、他人を突き放すことなどできるものか。

 

「この雪も結界の中のもの。

 神樹が作り出したものでしかない。

 本物の雪を見られるようになるのは、いつになることやら」

 

 神様の作った人造の天気……否、神造の天気に、若葉は思うところがあるようだ。

 そして竜胆は、天気ではなく若葉を見て、少し不安そうにしていた。

 

「乃木。前の戦いの時、グレートが来ていなかったら、お前は僕の首を刎ねてたか?」

 

「……ああ」

 

「良かった。なら、まだ、少しは保険があると思える」

 

 竜胆がほっとする。

 球子は竜胆に一つの道標を示した。

 だが、仲間との間に情が湧けば湧くほど、竜胆の中に膨らむ不安もある。

 "有事に自分を殺してくれる仲間はいるのか"という不安だ。

 暴走した自分をちゃんと殺してくれそうな仲間がいないと、竜胆は不安で不安でしょうがない。

 

「僕の戦いは、君の目にはどう映った?」

 

「凄惨だった。他人と共闘する者の戦い方としては、0点としか言えない」

 

「だろうなあ」

 

 だからだろう。

 竜胆が今のところ、乃木若葉を最も信頼しているようにも見えるのは。

 それは、彼にとって庇護対象である千景に彼が向ける感情とは真逆の気持ち。

 真っ直ぐで生真面目な若葉に対し抱いた、"彼女は介錯してくれるだろう"という信頼だった。

 

「だが、何故だろうな……私にはお前が他人のように思えなかった」

 

「え?」

 

「私は杏や球子のように、お前を恐怖や敵意の目で見れそうにない」

 

 この時の竜胆には、若葉のこの言葉の意味が分からなかった。

 

「竜胆。お前は、少しは私の介錯の刃を信じているんだろう?」

 

「……ああ」

 

()()()が来ればちゃんとお前の期待に応えてみせる。心配はするな」

 

 竜胆は若葉のことを多く知らない。

 彼女が仲間を攻撃できる人間なのか、できない人間なのか。

 彼女が、仲間が望むならその首を切り落としてくれる人間なのか。

 本当は、何も知らない。

 だが、堂々とした若葉の言葉が、竜胆に一定の安心を与えてくれていた。

 

「あ、ちーちゃん。早いね」

「千景か」

 

「……乃木さん、竜胆君」

 

 若葉に連れられた先には、既に千景が到着していて、携帯ゲームをやっていた。

 そういえばゲームが好きとか言ってたっけ、と竜胆は三年前の記憶を引きずり出す。

 千景の変わらないところに、竜胆は少し安心を覚える。

 そして雪降るクリスマスの空の下、傘を差して一人でゲームをやっている友達(ぼっちかげ)の姿に、ちょっと親心に近い心配を覚えた。

 寒くないだろうか、とかついつい思ってしまう。

 

「大丈夫? 今日結構冷え込んでるけど、厚着してる? 風邪引かないようにな」

 

「……そういうところよ、竜胆君」

 

「え、なんだそれどういう意味? いや風邪引かないようにって心配以上の意味は無いぞ」

 

「……そういうところよ」

 

 三年間地下に居た竜胆に、2018年現在のインターネットミームは通じない。

 千景は意味を解説して墓穴を掘るのを避け、沈黙に逃げた。

 千景は端的に言えばネトゲ厨であり、『郡千景』でエゴサをするし、匿名掲示板のスレッドも結構見ている、そんな勇者だ。

 竜胆の前ではちょっと立派な自分で居たい千景にとって、その辺はちょっと隠しておきたい自分であったらしい。

 

「ああ、そうだ、ちーちゃん」

 

「何?」

 

「前回の戦いの時、最後、僕の攻撃を避けようとしなかったよね」

 

「……」

 

「あれ、二度とするな。次にやったら本気で怒る」

 

「!」

 

 あれは、あれだけは、竜胆にとって許せないことだった。

 

「僕はちーちゃんを恨んでない。憎んでない。生きていてほしいと思ってる」

 

「―――っ」

 

「どんな時でも、それだけは真実だから。

 僕がどんなものに成り果てても……この言葉を信じて。

 僕が暴走して敵に回ってしまっても、この言葉を信じて、抵抗してくれ」

 

「……私は」

 

 千景は三年間、ずっと謝りたかった。

 竜胆は三年間、ずっと千景の心配をしていた。

 ならば、千景の行動が、こう受け止められてしまうのは当然のこと。

 二人は互いの歯車がまだ綺麗に噛み合っていないだけで、互いの幸福を願っている。

 

「……わかった」

 

「うん」

 

 千景が頷き、竜胆もほっとした様子で頷く。

 そこに千景をぼっちかげじゃなくしてくれた少女がやって来た。

 

「ぐんちゃんと御守さんって仲良いよね?」

 

「高嶋さん」

「げっ」

 

 高嶋友奈である。

 千景は表情を明るくして反射的に友奈の方に一歩踏み出し、竜胆は表情を固くして反射的に一歩足を引いた。

 

「御守さん、ぐんちゃんと仲良いんだね。かくいう私も、ぐんちゃんと仲が良―――」

 

「壁にでも話してろよ」

 

「し、辛辣!」

 

「どうせ僕はロクな返答しねえんだから同じことだぞ。

 百の善意で話しかけても一の善意さえ返さない男なんて放っておけ。

 お前の時間の無駄遣いにしかならないんだから、そこのところいい加減理解して……」

 

「あ、でも返答はしてくれるんだね。壁よりは優しそう」

 

「……」

 

 対友奈における竜胆の最も駄目なところは、竜胆に"徹底して悪役を演じる才能"が微妙に無いというところにあった。

 友奈はぐいぐい距離を詰めるタイプなので、竜胆は思わず距離を取ってしまう。

 良い子を見ると汚い自分には近寄ってほしくないと、彼はどうにも思ってしまう。

 それを見るたび、千景は少し悲しくなる。

 三年前の竜胆は、まさしく今の友奈のようなタイプであったことを、覚えているから。

 

「高嶋さん、彼には迷惑かもしれないから、ぐいぐい行くのはその辺に」

 

(ちーちゃんナイス! 空気を読んで助け舟が出せるとか、立派に成長したなあ……)

 

「あ、そうかな」

 

「そうだぞ高嶋。これに懲りたら僕から距離を取ることを心がけろ」

 

「ちょっと竜胆君。

 高嶋さんの好意を無下にしておいてその言い草は無いんじゃないかしら?

 それに高嶋さんが親しく話しかけてくれたことに嫌な気はしてないんでしょう、なら……」

 

「お前は僕を一体どうしたいんだ郡千景! 一貫性を持て!」

 

「え? 嫌な気持ちはないの? うーん、ぐんちゃんも御守さんも難しい……」

 

 千景が竜胆にも友奈にも助け舟を出すせいでしっちゃかめっちゃかになってきた。

 竜胆の味方もしたいし、友奈の味方もしたい、どっちにもいい顔したいし、どっちにも嫌われたくない。そんなコミュ障千景の今日この頃。

 千景は二人に同時に"これでもか"と好かれるのが理想なのだがそんな上手く行くわけもなく。

 

 そうこうしている内に、竜胆に唯一『近くに来るな』と言われなさそうなポジションを獲得した球子と、未だに竜胆に恐怖心を抱いている杏もやって来た。

 

「おっ、なんか盛り上がってるな。タマも混ぜろ!」

 

「タマっち……」

 

「先輩付けろあんず!」

 

「タマっち先輩今日なんでそんなに気合入ってるの?

 戦いの前からもう変身してるし……気合いが半端じゃないよ」

 

「いいだろ別に、タマには最初から気合い入ってたって!」

 

 球子は既に勇者衣装に変身済み。

 他の勇者が制服なだけに、なおさら目立つ格好だった。

 丸亀城では勇者達に対し戦闘訓練と義務教育の両方が行われるため、皆基本的に学生服なのだ。

 なので球子の勇者衣装は結構浮いているが、それを気にする球子でもない。

 

「HAHAHA!」

 

 そして待たれていた最後の一人もやって来た。

 ボブ・ザ・グレート(自称)(本名不明)である。

 

楽しそうじゃねえかお前ら(Seems like you're having a great time)

 

「ボブ!」

 

 周りの反応を見る限り、ボブは球子と杏と仲が良さそうに見えた、が。

 

(うおっ)

 

 ここで初めてボブの姿を見た竜胆は、ちょっと気圧された。

 竜胆の身長は中三ながらに176cm。ところがボブはゆうに180半ばはありそうだ。

 黒人にドレッドヘアというだけで威圧感があるのに、筋肉も相当にあり、拳の骨の分厚さは人を殴り慣れていそうな印象すら受ける。

 格別小さい147cmの球子と並べると、40cm近い身長差があり、まさに小人と巨人である。

 ボブは二十代半ばを過ぎているので、年齢でも球子の一回り上の大人であった。

 

 一瞬気圧された竜胆の肩に手を置き、ボブは朗らかに笑う。

 

頼りにしてるぜ(I’m counting on you)

 

 朗らかな笑顔。子供を緊張させないための落ち着いた声色。

 そして、子供にも分かりやすい単語を選び、ゆっくり話し、リスニングをしやすくした話し方。

 分かる人には分かる、丁寧な気遣いが見える話し方であった。

 

「は、はい!」

 

 なお、2015年度時には竜胆の通っていた小学校で英語教科はなく、竜胆は英語教育を受けたことがなかったため、ボブが言っていることはさっぱり分からない。

 なんか分かったふりして頷いてるだけだ。

 千景だけがそれを見抜き、呆れた顔をしていた。

 

 対しボブはそんな少年の内心を知ることもなく、元気な返事に満足そうに頷いて、少年の頭をガシガシ撫でる。

 そして、何かを言った。

 

「―――」

 

 何かを言って、ボブは竜胆から離れて若葉の方に話しかけていく。

 

「土居、今あの人なんて言った?」

 

「……ちょっと待て。

 ボブの言葉を理解するため、タマはいっぱい勉強したのだ!

 結論、勉強は楽しくない。英語は特に。まあ翻訳はタマに任せタマえ! ええっと……」

 

 ボブの少し長かった英語の台詞を、球子はゆっくり頭の中で噛み砕き、翻訳した。

 

「『暴走しても何度でも止めてやる、安心しろ』……だってさ」

 

「……!」

 

「ボブのタマらん頼りがいのある言葉であった」

 

 "暴走するな"、ではなく。

 "自分が何度でも止めてやる"、という言葉。

 それが竜胆の肩の力を抜いてくれる。

 ボブは堂々と、敵を殲滅し、仲間を守りながらでも、竜胆の暴走を止めて見せると言い切ったのである。

 

 大人だ。ボブは大人なのだ。

 子供のヤンチャを止めるのは大人の仕事だと、ボブは認識している。

 竜胆は撫でられてクシャクシャになった髪を撫でつけて、自分の手よりも遥かに大きかった大人の手の平の感触を、思い出していた。

 

「英語勉強しようかな。僕、元から頭悪い上、中学校にも行ってないからなあ」

 

「タマが勉強教えてやろうか?」

 

「え、土居って勉強できんの? 見えねえ」

 

「タマより勉強ができなそうな奴はそうそう居ないからな。

 これを逃せばタマが誰かに勉強を教える機会とか一生なさそうだ」

 

「……そういう理由で他人に勉強教えようとするやつとか初めて見たぞ!」

 

 はぁ、と少年は溜め息一つ。

 

「よろしく、"タマちゃん"。勉強苦手な上に小学生レベルの男なんで、よろしく頼むよ」

 

「!」

 

 呼び名が変わった。

 少年はまた変わり始めている。きっと良い方向に。

 その変化が良い結果に繋がるか、悪い結果に繋がるか、今はまだ分からないけれど。

 

「全員揃ったか」

 

「ケンがまだ来てないぞ若葉」

 

「ケンは今回不参加だ。追って説明するぞ」

 

 若葉曰く。

 

 本日ウルトラマンパワードは四国結界の外、いわゆる"壁の外"の調査に向かっていたらしい。

 ブルトンの現在位置等も確かめておかなければならないので、当然の調査である。

 ところが、運が良いのか悪いのか、敵の侵攻タイミングと調査のタイミングが被ってしまったのだとか。

 

 パワード変身者ケン・シェパードは調査を中止して接敵、交戦。

 敵を一定数減らしたものの、全滅させられないまま三分の限界が来てしまい、四国に帰還して敵の襲来を教えてくれたのだそうだ。

 こういうところでウルトラマンの三分はネックになりがちである。

 パワードは三分間が経過したため、今回の戦闘には参加できないらしい。

 

「参加できない……?」

 

 少し首を傾げた竜胆の袖を、千景がちょこんとつまんで引いて、彼に自分の方を向かせる。

 

「竜胆君。巨人は連続で変身ができないのよ」

 

「そうなのか? やったことないけど、僕も?」

 

「多分、貴方も。

 三分しか戦えない巨人は、連続で変身すると肉体に異常な負荷がかかるの。

 負荷を自覚できなくても、変身できなくなることも多いわ。きっとあなたも同じ」

 

「そうなのか……教えてくれてありがと、ちーちゃん」

 

「変身は一日に一回、三分間のみ。気をつけて」

 

 若葉が皆をここに集めたのは、パワードが撃ち漏らした敵を、皆で迎撃するためだ。

 

「敵がすぐに来る。パワード抜きだが、我々だけで迎撃するぞ」

 

 元より、偶発的に発生した戦闘で発覚した侵攻だ。

 敵はすぐそこまで迫っていると思われる。

 そう若葉が伝えるやいなや、世界の時間が止まった。

 

「って、言ってる傍から来たー!」

 

 友奈がびっくりして声を上げ、時間の止まった世界が神樹の根に覆われる。

 時間の停止と神樹の加護が、四国の街と人々を守る。

 竜胆の目には、それが、何故か。

 神樹が自らの一部()を使って、体を張って、人々を守っているように見えた。

 

「行くぞ!」

 

 かくして、変身済みの球子を除いた勇者が端末に触れ、巨人が変身アイテムを取り出し。

 

 時間の止まった樹海の中に現れた怪獣が、何かを放出した。

 

 

 

 

 

 その瞬間、勇者達の取り出した端末……変身に使われるアプリケーションが入ったスマートフォンの電源が、一斉に落ちた。

 

「何?」

 

「あれ?」

 

 若葉が首を傾げ、スマートフォンを叩き始める。

 杏もまた、動かない端末の電源ボタンを何度もカチカチ押していた。

 

「あれ? 動かない? ぐんちゃん、私の端末が……」

 

「私の方も動かないわ……これは、いったい?」

 

 友奈も千景も、端末は動いていない様子。

 竜胆は今の一瞬、敵側の攻撃に対し瞬時に対応。

 自らの属性に沿った"干渉"……一概に言ってしまえば、闇を薄く放出しての防御を直感的に実行し、防いでいた。

 よく分からないまま防いだがために、竜胆はその攻撃が何であるかすら、正確には把握していなかったが。

 

「今、何か空中を走ったな。目には見えない何かが。

 思わず防いじゃったけど、ほんの僅かにだけどピリっとした」

 

 その言葉がヒントになって、この中で最も知識豊富な杏が何かに気付いた。

 

「ピリっと……まさか」

 

 杏がポケットの中の音楽プレイヤーを取り出す。

 スマホだけでなく、そちらも壊れていた。

 クリアパーツの奥を覗けば、音楽プレイヤーの電子部品の一部が壊れているのが分かる。

 知能派の対極ばかりな仲間達と違い、杏はあっという間に真相に辿り着いていた。

 

「若葉さん! これはEMP攻撃です!」

 

「いーえむぴー?」

 

「電磁パルスです! 強力な電磁波で、スマートフォンの中が焼け付いちゃったんですよ!」

 

 強力な電磁波は、大抵の場合人間には無害だが、精密な電子機器の中身をぶっ壊してしまう。

 これは核兵器の使用時などに発生し、単純な破壊以上の被害をもたらすものだ。

 説によっては、核兵器による物理的な破壊よりも、核兵器の電磁パルスによる電子機器破壊によってもたらされる被害の方が大きくなる、と言う者もいるくらいだ。

 

 これが、EMP攻撃。

 今勇者達がされたもの。

 電子機器を破壊する強力な電磁波の放射。

 ()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()勇者への封殺攻撃であった。

 先に変身しており、端末を勇者衣装のポケットに入れていた球子のもの以外は、勇者の端末全てが焼き付いていると考えていい。

 

「なんという……恐ろしいな、いーえむぴー」

 

「多分タマちゃん先輩以外は誰も変身できませんよ、勇者に!」

 

「くっ、奴らまた新種の手を打ってきたか……!」

 

 遠目に見える限りでは、樹海を進んで来る大型バーテックスは前回竜胆が戦ったソドム・ゴモラ・ガゾートのみ。大型は他にもいそうだが星屑の群れに阻まれて見えない。

 星屑は実に二千弱は飛翔していた。

 

「ああ、そういう」

 

 竜胆は味方の現状と敵の現状を見比べ、納得した。

 

「勇者を変身不可にして頭数を減らす。

 とにかく雑魚の数を多く揃える。

 そうやって、頭数の減った人間側を翻弄する。

 星屑もこんだけ居れば、どんな攻め方だってできるだろうな……」

 

「やっべ、タマだけかよ動ける勇者!」

 

「僕と、グレートと、タマちゃんだけだな。気合い入れないとダメそうだ」

 

 あいつら進化でタマーにこういう対策打ってくるんだよなー、と球子が頭を掻く。

 杏が心配そうに、球子に声をかける。

 

「タマっち先輩、大丈夫?」

 

「おう、あんずは皆と一緒に隠れてるんだぞ。タマに任せタマえ!」

 

「……気を付けて」

 

 丸亀城は樹海化中も神樹の根に完全には覆われていない。

 防衛拠点でもあるここなら、戦えない人間も隠れる場所はある。

 ボブは未だに心配そうにしている杏の頭を優しく撫で、力強く胸を叩いた。

 

心配するな(Not to worry)

 

「ボブ……」

 

 ボブが敵の軍勢を睨み、若葉は竜胆の首輪に指を当て、変身の許可認証を出す。

 これで首輪は爆発機能を一時的に止め、竜胆は変身が可能となった。

 

「認証、と」

 

「乃木、僕はどうすればいい?」

 

 若葉は顎に手を当て考える。

 この状況では作戦よりも、リーダーが決める"どういう方向性を持って戦うか"が重要になる。

 若葉は堅実に、妥当な方向性を定めた。

 

「……ティガダークを一番前に出そう。

 今度はグレートを最終防衛戦に使う。

 理性を維持できるウルトラマンに防衛戦を任せないと、一気に瓦解しかねない。

 私達はここで端末が再起動できないかどうか、色々と試してみる」

 

「分かった」

 

 周りにあるもの全てを破壊する暴走をしかねないティガを、一番前に。

 これなら暴走しても敵の被害は最大、それ以外への被害は最小になる。

 後衛の防衛戦にグレートを配置し、後は……三分間で敵を殲滅できるかどうか、だ。

 流石に球子一人では、できることにも限界がある。

 

「気を付けて!」

「気を付けて」

 

 友奈と千景が前回の戦いを思い出し、不安になりながらも努めて信じようとして、戦いに臨む竜胆に声をかけようとし、ハモって、二人して笑っている。

 

「ハモった!」

「……ハモったわね」

 

「仲良いな君ら」

 

 竜胆も自然と笑っていた。

 球子も仲間達に声をかけられている。

 ボブは逆に、皆に声をかけて皆を勇気付けていた。

 

 丸亀城に敵が迫る。

 竜胆とボブが、変身アイテムを取り出した。

 竜胆は神器ブラックスパークレンス。

 ボブはペンダントのデルタ・プラズマー。

 

 水晶のような透明感に、闇のように黒い大理石風のラインが入ったブラックスパークレンス。

 純銀のような三角形に、翠の宝石を嵌めたような形のデルタ・プラズマー。

 二つは色合いと輝きだけを見ても、対象的だった。

 

一緒に変身といこう(Let's change together)

 

「はい!」

 

 ボブが呼びかけ、竜胆が応える。

 バカの竜胆には英語の意味がまるで分からなかったが、とりあえず元気よく返事をしておいた。

 少年の良い返事に、ボブが"アメリカン"な良い笑顔を浮かべる。

 

 竜胆とボブは並び立つ。

 ボブはペンダントのデルタ・プラズマーを握り、目を閉じた。

 対し竜胆は、ブラックスパークレンスを見つめ、自分の内側を見つめる。

 

(頼む、闇よ。お前が僕の言うことを聞かないなんて今更だ、だけど)

 

 竜胆の中で闇が膨らみ、ボブの手の中のデルタ・プラズマーが、プラズマ状の緑光を外部へと放ち始める。

 また、御守竜胆の心の中で、戦いが始まる。

 

(僕の祈りは裏切っても……僕を信じてくれた人だけは、裏切らないでくれ)

 

 両の腕を時計回りに大きく回し、竜胆はブラックスパークレンスを掲げた。

 デルタ・プラズマーから弾けた光が、ボブの体を包み込む。

 

 

 

「―――『ティガ』」

 

 

 

 光の爆発の中から生まれるように現れる、白きウルトラマングレート。

 闇の柱の中から拳を突き出し現れる、黒きティガダーク。

 二人の巨人が、丸亀城を挟んで並び立つ。

 

 ティガダークの身長は53m、グレートの身長は60m。

 人間で言えば159cmと180cm程度の身長差だ。

 だからか、並び立つグレートとティガはどこか、似ていない白黒の兄弟のようにも見えた。

 

『ぐっ、うううっ、ウウウッ、ぎっ、ギッ、ぐううウううウううっッ……!』

 

 苦悶する竜胆。

 グレートは進撃する敵を待ち受け、防衛戦を作る。

 暴走の抑制に苦しみながらも、ティガダークは前に出た。

 ティガダークを狙う敵、迂回して丸亀城や神樹に向けて進む敵、ティガダークに襲いかかられたがゆえに迎撃以外の選択肢が消えた敵。

 敵は各々が各々の反応を示す。

 

 竜胆は正気と狂気を行ったり来たりする精神を、必死に正常に保ちながら拳を引き絞る。

 チカチカと意識が点滅する。

 闘争心を高めるだけで、理性が吹っ飛びそうになる。

 

―――タマはお前を信じてない。

―――これっぽっちも信じてない。

―――でも仲間なら、最低でもほんのちょっとは信じる

 

 だが、一歩進むたびに、仲間の言葉を思い出し。

 

―――タマはまだお前を信じられてない。

―――あんずの背中をお前に任せたくない。

―――あいつはタマよりずっと繊細で脆いんだ。

―――だからタマは、お前を信じる理由か、信じない理由が欲しい

 

 球子の言葉を思い出し、歯を食いしばる。

 

―――いや"信頼されるのが怖い"って信頼から逃げるのはダメだろ。

―――"何が何でもこの信頼を裏切らない"って誓う方が男らしいんじゃないか?

 

 闇の力が、心の闇を片っ端から励起させ、暴走させようとする。

 歯を食いしばってそれに耐え、周りをちゃんと見るようにする。

 

―――タマをちゃんと信じさせたら、お前の背中をタマが守ってやる。

―――周りが見えなくなるって言うなら、なおさらお前の背中を守る誰かが要るだろ?

 

 殺したいから殺すのではなく。

 壊したいから壊すのではなく。

 もう二度と、()()()()()()()()()()()()に。

 自分自身という悪魔にも殺させないために。

 

 人を守るために、人を殺す敵を殺して、人を守る。そのために殺す。

 

―――だからお前は頑張って暴走しないようにすること!

―――お前はまだタマの信用を全く勝ち取ってないんだからな。分かったか?

 

 理性をもって、ティガダークは接近したゴモラの顔面を殴り抜いた。

 

『くっ、クソっ』

 

 だが、ゴモラは即死しない。

 ゴモラが強靭な恐竜怪獣であるというのもあるが、それだけではない。

 今のティガダークの腕力は、強力なウルトラマンと比べてもその上を行くだろう。

 されど暴走していた時ほどの腕力はまるでない。

 心の闇が抑えられているからだ。

 

 絶望すればするほど、憎悪すればするほど、ティガダークは強くなる。

 しからば仲間のために戦うティガダークが、過去最弱になるのは当然のことである。

 ゴモラは痛みに呻いたが、死にはしなかった。

 ティガダークはもう一発ゴモラの顔を殴るが、それでもゴモラは叫ぶだけで死にはしない。

 

『くそっ、くそっ、くそっ、まともに戦ったらこんなもんかよ、僕は!』

 

 竜胆は心の中で自分自身と戦いながら、敵とも戦わねばならない。

 必然的に、敵の前で苦しみ、止まってしまうこともある。

 

『ぐっ……くっ……暴走、して、たまるか!』

 

 止まってしまったティガダークを狙って、ゴモラが鋭い歯で噛み付こうとする。

 身体強度の低下したティガダークの皮膚など、容易に貫ける鋭い歯だ。

 そうして、無防備な闇の巨人へと古代恐竜の歯が突き立てられ――

 

 

 

「ぶっ飛べ、『輪入道』!」

 

 

 

 ――る、寸前に。

 その顔面に、燃える炎の円盤が叩きつけられた。

 それは、巨大化し燃え上がった球子の旋刃盤。

 

 彼女が精霊・輪入道の力を引き出した結果、普段は少女が手に持てるサイズであった旋刃盤は一気に巨大化し、10m近いサイズになってゴモラの顔面に激突したのだ。

 旋刃盤の周りでは燃える炎の刃が回転しており、これがゴモラの顔面を焼きながら切り刻む。

 怪獣にすら通じるその大火力は、まさしく炎の竜巻(トルネード)

 ゴモラは絶叫し、ティガダークに噛み付くのを中止して、たたらを踏んだ。

 

「見たか! これぞタマの『切り札』だ!」

 

『タマ、ちゃん……?』

 

 球子がティガダークの肩に着地する。

 仲間の声を聞き、竜胆の心が正気に寄った。

 

 土居球子と伊予島杏の精霊攻撃は、特に大規模攻撃に特化している。

 この二人が戦死すれば勇者達の総合火力が洒落にならないくらい下がってしまう、と言われるくらいには、中距離・遠距離間での火力を想定されている勇者なのだ。

 その火力は、当て所を考えれば大型バーテックスにさえ致命傷を与えることが可能である。

 

 球子は巨大化した旋刃盤を高速でティガダークの周りに飛翔させ、ティガに群がろうとする敵を蹴散らし、ティガを守る。

 旋刃盤を足場にして飛び乗って、巨人の肩の上から巨人の頬をぺちぺち叩いた。

 

「平気か?」

 

『……まだ、平気っ』

 

「よし。一緒に戦うぞ! タマには男らしいとこ見せろよ、ティガ!」

 

『……っ、分かった、カッコつけてやるよ! カッコよくても惚れんなよ、女の子!』

 

「惚れるかバーカ!」

 

 心の闇を振り払うように、球子の炎を目指すように、ティガダークが一歩を踏み出す。

 

 古来より炎は、闇の中で惑う人間を導く目印である。

 それは星のような"最初から自然にあった目印"ではなく、"人が作った人のための目印"だ。

 どんなに暗い闇の中でも、人は炎を目指して歩けば、迷わず真っ直ぐ歩いて行ける。

 多くの神話の中でも、炎は人を闇の中で導く目印となった。

 

 火を灯すとは、そういうことだ。

 心の闇の中で迷う竜胆を、球子の炎が導く。

 闇の中で、少女の炎と言葉が道標になってくれる。

 顔面が燃え上がっているゴモラに向かって、ティガダークが踏み込んだ。

 

 その瞬間、不思議な感覚があった。

 力を抑えることを意識しなくても、力が自然と制御できている。

 自然と力を抑え、自然と力を出し、自然に最良の一撃を出せた一瞬があった。

 ティガダークの突き出した拳の周りに、闇の光輪が発生し、それがゴモラの首に直撃し―――ゴモラの首が、回転する闇の光輪によって切り落とされた。

 

 球子を肩に乗せた巨人が構え、自分を取り囲むバーテックスの群れに闇の光輪を向ける。

 

『制御……できる!』

 

 竜胆は、そう意識してはいなかったが。

 球子が顔を燃やしたゴモラに、ティガダークが闇の技でトドメを刺す……それは竜胆にとって初めての、"共に戦う者との連携"であった。

 球子がニッと笑う。

 

「タマがその技に名前をつけてやろう。ズバリ『八つ裂き光輪』だ!」

 

『名前がこえーんだよ! そんな名前付けたら恐ろしさ倍増じゃねえか!』

 

「お前の戦い方は最初っから怖いんだから誤差だ誤差!」

 

 ソドムが火炎を吐き出す。

 2000度近い高熱の火炎であったが、球子の旋刃盤が空中でそれを受け止めた。

 炎の旋刃盤に、大抵の炎攻撃は通用しない。

 そして旋刃盤がその場をどいて、入れ替わりに飛んで行った八つ裂き光輪が、ソドムの体を真っ二つにした。

 

 竜胆は周りを見る。

 バーテックスの多くは、グレートの方に行ったらしい。

 ティガダークの周囲にもう大型は一匹しかおらず、小型個体である星屑もせいぜい100体程度しか飛び回っていない。

 グレートの方が激戦区になっているのだ。

 

『早くグレートの応援に行かないと』

 

「……周り見えてるじゃんか。タマの教育のおかげだな」

 

『そうだな、タマちゃんの教育のおかげってことにしといてやる』

 

 嬉しそうな声色で球子がそんなこと言うもんだから、竜胆はちょっと気恥ずかしくなった。

 そんな竜胆に向けて、ティガダークと対峙していた最後の大型がプラズマ弾を吐き出す。

 

『!』

 

 竜胆は球子が落ちないように手を添え、優しく横に跳んでそれをかわす。

 敵陣に突っ込み、今はグレートの下へ戻ろうとする竜胆の前に立ちはだかったのはガゾート。

 ただのガゾートではない。

 その名は『ガゾートII』。

 前回戦ったガゾートを強化した、ガゾートの強化形態であった。

 

 ガゾートIIの体表で、凄まじい規模の電気が弾ける。

 

「ニンゲン、トモダチ! トモダチ、ゴチソウ!」

 

『この電力……こいつがさっきのいーえむぴー攻撃したやつか!』

 

「じゃあいーえむぴー攻撃したコイツ倒せば皆また変身できるんじゃないか!?」

 

『分からない……けど、やってみる価値はある!』

 

 EMP攻撃は電子機器の中身をぶっ壊すものなので、電磁波の源を倒しても別に元通りというわけにはいかないのだが、この二人がそんなことを理解できるはずもない。

 この二人は比較的馬鹿(控え目表現)であるからだ。

 

『行くぞ!』

 

「おうっ!」

 

 かくして。

 

 ガゾートIIに、一人の巨人と一人の勇者が立ち向かった。

 

 

 




 グレートの変身登場シーン等で流れる『Great Friendship』は、アデレード交響楽団が演奏しておりまして、多くの人が大好きな『オーケストラバージョン』じみた名曲戦闘BGMなのです。
 知らない人には聞いてもらいたい……通常版だと盛り上がる所まで3分かかりますが。
 偉大なる友情(Great Friendship)とかいう曲名と副題からして、グレートは友情のウルトラマンですね。愛や希望ではなく、友情のウルトラマン。
 なのでタマちゃんと良相性。
 ちなみに『偉大なる友情』は東郷さんの勇者意匠・朝顔の花言葉でもあります。

【原典とか混じえた解説】

●変形怪獣 ガゾートII
 前回の戦闘でも登場したガゾートの強化体。
 パワー、スピード、電力、凶暴性、全てが向上している。
 その最大の特徴は、半径10km以内の全ての電子機器を強烈な電磁波で狂わせること。
 自動車程度であれば即座に走行不能に陥り、対怪獣仕様の戦闘機ですら機器が動かなくなり墜落させられてしまうほどに、デタラメな強力さを誇る。
 言うなれば、歩くEMP攻撃。
 電磁パルスのみを発生させるEMP兵器の有効半径がせいぜい100mと言われる西暦の時代の兵器と比較すれば、その能力の規格外っぷりが伺える。
 単純なプラズマ攻撃も変わらず強力である。
 天の神が送り込んだ『スマートフォンで変身する勇者の天敵』。

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