夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

40 / 63
2

 竜胆は諏訪から、四国へと連絡を送る。

 歌野が四国へ連絡を送ってくれたおかげで、ブルトンの影響が通信可能なレベルにまで薄まったことは確認済みだ。

 若葉と歌野が使っていた通信機を使って、四国に事細かに状況を伝えていく。

 

「―――というわけで、諏訪の人達の準備完了次第、すぐ四国に出発する。

 諏訪はもう結界無いから、大至急四国に避難させないとヤバい。

 予定通りの帰還にはならないと思う。大社はどうだ、ひーちゃん」

 

『受け入れに関する問題点を散々言われちゃいました。

 でも、受け入れに関しては大丈夫みたいですよ。五百人と少しなんですよね?』

 

「ああ、そのくらいだ。とにかく土地が狭かったからな」

 

『気を付けて帰って来て下さい。バーテックスが出たというならなおさらに』

 

「おう」

 

『御守さん達が無事に帰って来ること以上のことは、望みませんから』

 

 ひなたは竜胆達の身を案じている様子。

 ちゃんと無事に帰らないとな、と竜胆は自分に言い聞かせる。

 

『リュウくん、お腹空いてない? 大丈夫?』

 

「インスタントのうどん食ったけどこれ美味いな」

 

『インスタントで満足してちゃ駄目だよー。

 今はリュウくんも香川県民だから、本場の味を求めないと!』

 

「雑な味も良いもんだぞ」

 

『リュウくんの奥さんになる人は料理に気合いの入れ甲斐がなさそう……

 いやそうでもないか。美味しい美味しいってリアクションはするからなぁ……』

 

「変な仮定で変な想像をするんじゃない」

 

『あはは』

 

 通信機越しに、友奈の笑い声や牛鬼の鳴き声が聞こえた。

 

『御守、聞こえるか』

 

「あれ……その語調、もしかして正樹さ……三好さんですか?」

 

『ああ。帰還ルートはどういう道を考えている?』

 

「基本的には来たルートを逆回しにするつもりです。

 ただ、星屑は街や街路の多くを破壊していたようです。

 勇者の脚力じゃないと越えられない道がいくつかあったので、そこは避けます。

 500kmと少しってとこですね。迂回込みで600kmを超えることはないと思ってます。

 移動手段は途中で確保することも考えて、食料と応相談です。

 万が一の時は若ちゃんが先に帰って、四国から食料を持って行くということも考えて……」

 

『……ふむ。その考え自体は悪くない、悪くないが……』

 

 元正樹、現三好が通信機の向こうで悩むのが伝わってくる。

 どうしたんだろう、と竜胆は首を傾げた。

 

『すみません、三好さん、ちょっといいですか?

 りっくん先輩、杏です。少し聞いてもいいかな?』

 

「どした、杏」

 

 通信機の向こうに、入れ替わりに杏が来たのが分かった。

 

『多分だけど、りっくん先輩は車をどこかで確保できたら、って思ってると思うんだ』

 

「まあ……そうだな。なんでもいいんだけど」

 

『ガソリンは腐るよ?』

 

「……え?」

 

『ガソリンは密閉されたタンクの中でも、半年で腐っちゃうんだよ。

 動く車なんかあるはずないでしょ?

 長期保存用の缶詰ガソリンでも三年が限界。

 バーテックス襲来から四年が経った今、普通に考えたら……』

 

「……どこを探しても車を動かせるガソリンなんかない、か。まいったな」

 

『五百人分の自転車とか、そういうのだってそれこそ現実的じゃないよね。

 それだと皆で歩いて四国まで移動しないといけないと思うんだけど……』

 

「キツいな、遠い。どのくらいかかるか……」

 

『徒歩旅行の本だと、"一日30km"が合言葉だったかな。

 軍隊の本だと、"装備を持った大部隊は一日24kmの移動を標準とする"って書いてた。

 食料や生活に必要なものも、皆が持っていかないといけないだろうから……

 二週間以上は絶対にかかると思う。それも、最高に理想的な形で、と頭に付いての話で』

 

「……そうだな。

 毎日何時間も歩かせてたら、子供や老人が足を痛める可能性もある。

 食料だって、それだけの日数を保たせる量が諏訪にあるかどうか。

 運ぶ食料と水の量が増えたら、それだけ荷物の重量と負担が増えるし……

 何よりバーテックスだ。襲来されると、そこから状況がどう転がるか分からん」

 

『諏訪の人達は弱ってそうなのかな?

 徒歩旅行の本は、一日八時間の徒歩っていう前提だったよ。

 軍隊の本も、移動で体力を使い果たさない前提だったはず。

 移動だけを考えられる諏訪の人達は、もう少し無理をさせることもできると思う』

 

「皆農作業とかやってるから体力はありそうだ。

 でも焼け石に水じゃねえかな……日数かかるのは変わらなそうだし」

 

 竜胆に足りない部分、特に知力は、仲間(あんず)が補っている。

 

「杏、何か良い案はないか?」

 

『うーん……』

 

「頼む、今頼れそうなのは杏だけなんだ」

 

『……私だけ。うん……そっか、私だけなんだ……』

 

 通信機の向こうで、杏が考え込んでいるのが伝わってくる。

 

『そうだ、りっくん先輩の旋刃盤、炎を出さないようにすれば、人を乗せられないかな?』

 

「え? そりゃ乗せられるが」

 

『確か全身を守るくらいの大きさにまでできてたよね、旋刃盤。

 ということは直径50m以上の円だったはず。

 すると最低でも25m×25m×3.14=1962.5平方m。

 1m×1mの範囲に一人立たせるとしても、500人と少しなら余裕で乗せられるよね?』

 

「……ああ、なるほど!」

 

『飛行する時に旋刃盤に乗っている人を、振動や衝撃波から守らないといけないけど……』

 

「それなら大丈夫だ。俺ができる」

 

『うん、よかった。大丈夫そうだね』

 

「サンキュー杏。杏は頼りになるな」

 

『ふふっ』

 

「帰ったらまた何か礼するよ。お菓子とかうどんで」

 

『期待しないで待ってるね』

 

 数百人程度なら、ティガで運搬できる。

 ウルトラマンを運搬力のみに使うという、四国全体で見てもコロンブス的発想。

 皆が戦闘に使うことを考え、三分しか使えないというネックにばかり注目する中、"三分で目的を達成する"という思考から生まれた、ウルトラマンの力の新しい使い方だ。

 この発想は、球子が生きていた頃から、竜胆と杏の会話の中でその片鱗を見せていた。

 

■■■■■■■■■■

 

「でも、危険な結界外での活動か……荷物とかあんまり持って行けなさそうだな」

 

「御守さんがいるじゃないですか」

 

「?」

 

「巨人なら、テント一式に数カ月分の食料だって運べます。

 三分が過ぎたら、その後の潜伏や戦闘は勇者が担当すれば良いんです。

 24時間に1回の変身でも、その3分が24時間の価値を一気に高められるんです」

 

「!」

 

「結界内で敵を迎え撃つ戦いが一区切りついても、私達の戦いはまだ先がありますからね」

 

■■■■■■■■■■

 

 "三分間の超効率輸送"。

 以前杏と話していたことを、竜胆が実行に移せばいい。

 とはいえ、それも明日になるだろうが。

 

「ひーちゃん、留守を頼む。

 友奈、杏、四国を守ってくれよ。

 三好さん、大社としてのサポートをお願いします」

 

 各々が思い思いに最後の言葉を口にして、通信は切れた。

 

「ふぅ」

 

 巨人への変身は一日一回。

 それ以上は体がどうなってしまうか分からない。

 今日の分の変身はもう使ってしまっている。

 移動するにしても、明日だ。

 

(……一番嫌なのは移動中に襲撃されることだな。若ちゃん達と話詰めとくか)

 

 思えば、今日までの戦いは全てが拠点防衛。

 移動する一般人達を護衛しながら、敵の勢力圏を抜けるという戦いは、竜胆にとっても四国の勇者にとっても初めてだ。

 四国以外は全て敵の勢力圏。

 諏訪ですら安全圏ですらなくなった以上、最大限に頭を使っていかなければ負ける。

 

 そんな竜胆を、部屋の外から若葉と歌野が見つめていた。

 

「竜胆の話は終わったようだな」

 

「はー、仲間が多いというのはグッドなものね。

 こんなに離れてても、連携と助け合いができるものだとは」

 

「ああ、竜胆はな。彼は頼るし、頼られる、そういう男だ」

 

 くすり、と歌野が笑む。

 

「こうして顔を突き合わせていると、なんだか変な感じ。

 本当は会えると期待してなかったから。

 会えないまま死別してしまうかも、なんて思ってたわ」

 

「会えて嬉しい。諏訪の勇者、白鳥歌野」

 

「ええ、私も嬉しいわ。四国の勇者、乃木若葉さん」

 

 通信機を通し、歌野はかしこまった話し方を心がけていて、若葉は自然で自分らしい話し方を選んでいた。

 実際に会うことで、二人は"イメージの中の彼女"と、目の前の人の実像をすり合わせる。

 

「実は、白鳥さんには姿勢正しく礼節を重んじる人間というイメージを持っていた。

 ……少しばかり私のイメージとは違ったが……大まかにはイメージ通りだったな」

 

 通信機越しの歌野は丁寧な話し方だったが、実際はかなりロックな話し方だった。

 無意味に英字混じりの話し方をする歌野のキャラ付けに少し戸惑いはあったが、歌野は自分の性格を偽っていたわけでもなかったので、大まかなイメージは崩れない。

 

「私は乃木さんは武士のような人だと思ってたわね。

 うん、イメージ通り……ううん、イメージ以上にクールだったわ」

 

 そして歌野の中の若葉評に至っては、ほんの僅かな変化すらない。

 実際に会ってみた若葉の姿は、歌野の中のイメージそのままの少女であった。

 

「歌野と呼んでいいだろうか?」

 

「ええ、私も若葉と呼ぶわ。いいでしょう?」

 

「ああ、もちろん。今日からは共に戦う仲間だからな」

 

 こつん、と若葉と歌野の拳がぶつかる。

 

 竜胆は二人を横目に見ながら、スマホを操作して千景に電話をかけた。

 バーテックスが破壊したものの中で特に重いものの一つが、"通信網"だ。

 中継局も全滅。

 電話線も全滅。

 有線無線問わず多くの通信網は断絶し、人類の最たる発明の一つ『電気と電波の通信網』は完全に全滅してしまったと言える。

 

 これを解決したのが神樹の力と、大社の弛まぬ技術開発だ。

 神の力を織り交ぜた通信技術により、中継局も全滅したこの世界においても、勇者達は相互に連絡・四国と連絡を取り合うことができる。

 竜胆にも"そういうスマホ"が渡されていた。

 手錠があるせいでスマホを耳まで持っていくと時々鎖が顔に当たるのだが、それはもうしょうがないとしか言えない。

 

「どうちーちゃん、見つかった? 武器」

 

『古いものはいくつか見つかったけど、武器はまだ見つかってないわ』

 

「そっか」

 

 今千景は、水都と共に先行して近隣の土地の祠を捜索していた。

 竜胆・若葉・歌野が合流し、本格的に探す前に、二人で先に探してくれていたようだ。

 されど先行した二人はまだ、めぼしいものを見つけられていない様子。

 

「周りに気を付けて。

 まだバーテックスが出て来る可能性もある。

 ちーちゃんの身の安全が第一だけど、万一の時はちーちゃんが周りの人を守ってな」

 

『信頼の言葉として受け取っておくわ……きゃっ!?』

 

「!? どうした!? 大丈夫か!? ちーちゃん、ちーちゃん!」

 

『……コケで滑って転んだだけよ』

 

「人騒がせなっ……!」

 

『あなたが私のことを心配し過ぎなだけよ。

 大事にしすぎ……もうちょっと粗末に扱ったって、私は文句言わないわ』

 

「粗末に扱うとか無理に決まってんだろ」

 

『……』

 

 電話越しだと、表情は見えない。

 

『それにしても』

 

 千景は話を逸らした。

 

『ゼットは嘘つきだったわ』

 

「ああ、バーテックスのことか」

 

 竜胆は、ゼットの言い草を思い出す。

 

■■■■■■■■■■

 

「喜べ、ウルトラマンガイア。

 大侵攻は地球上のバーテックスほぼ全てを使った『史上最大の侵略』だ。

 つまり現在、地球上には動いているバーテックスなどほとんど存在しない」

 

「そして今、補給も断った。

 再度バーテックスの数を揃えるにしても、相当に時間がかかるだろう。

 今、お前達を滅ぼす者として地上に立っているのは私だけだ」

 

「天の神に他地域を野放しにする気もあるまい。

 増産したバーテックスを各地域に分散させれば、密度は下がる。

 勇者数人で鼻歌交じりに片付けられる、その程度の存在でしかなかろう。ゆえに」

 

「私に勝てれば、束の間とはいえ平和が来るぞ」

 

■■■■■■■■■■

 

 バーテックスはもうしばらく来ないはずだと、地球上のバーテックスはほぼ全て倒されたはずだと、ゼットの言葉から竜胆はそう認識していた。

 だが、現実はどうか。

 氷の中に封じられていたコダイゴンはともかく、あのゾイガーは明らかにこの地球上で生存していた存在だ。

 

 ならばおかしい。

 ゼットの言葉と矛盾が生じる。

 "天の神の配下のバーテックスは全て大侵攻に投じられたはずなのに"。

 大型をもう一度作れるほどの日数も、星屑の在庫も、天の神にはなかったはずだ。

 ならば、何故?

 ゼットが嘘をついていたのか? 皆ゼットに騙されたのか?

 

 竜胆は、そうは思えなかった。

 

「あいつが嘘を言っていたとは思えないんだよな。

 ゼットが騙されていたか、ゼットも勘違いをしていたか……」

 

『敵よ?』

 

「敵だよ。

 だけどあいつは、殺すことは躊躇わないが、そういう嘘はつかない。

 俺達に対して残虐だが、誠実だ。

 人を殺す邪悪さを躊躇いなく実行するが、嘘で騙す醜悪は見せないと思う」

 

『……』

 

「あいつは悪だが、悪を裏切ることはあっても、善を裏切ることはない」

 

 ゼットはただひたすらに、『終焉』だった。

 竜胆はそこを疑うことはない。

 ……たとえ、心の底で、仲間達を何人もその手にかけたゼットを、憎んでいても、だ。

 千景の村の人間を憎みながらも、憎い者達の幸を願った竜胆が、憎しみでその瞳を曇らせることはありえなかった。

 

「何かトリックか、見落としがあるのかも。

 あの紫の鳥みたいなやつは、どこから来たのか……」

 

 四国に帰ってから、色々と調べなければならなそうなことが増えてきた。

 

「とにかく気を付けて。

 俺達も後から行くけど、どうせ一日はここにいるんだ。急ぐ必要はないからさ」

 

『はい、はい。……またコケを踏んで転ばないように気を付けるわ』

 

 一拍、会話に間が空いて。

 

『コケで滑ってコケそうに……なんでもないわ』

 

「え、なんだって?」

 

『……』

 

「ごめん、今よく聞こえなかった、なんだって?」

 

『……』

 

「なあちーちゃん今なんて」

 

 通話が切れた。

 

 竜胆はスマホを見て、ボソっと呟く。

 

「あいつホント可愛いな……」

 

 千景達に合流する前に、やるべきことがある。

 明日の出発のための準備というやつだ。

 歌野が始めたそれに、若葉と竜胆は自然と手伝いの名乗りを上げていた。

 微笑む歌野が感謝して、手伝いの提案を受け入れる。

 

「ではまずそちらの野菜を私と一緒に洗ってくれると嬉しいわ。

 あ、そちらに並んでる野菜は洗わないでね。洗うと長持ちしなくなるから」

 

「ん? 洗った方が綺麗になって長持ちするんじゃないのか?」

 

「竜胆さんは鶏の卵を洗った方が長持ちすると考えるタイプね」

 

「え……そりゃそうなんじゃないのか?」

 

「いいえ、鶏の卵は洗うと表面のクチクラ層が剥がれてしまうの。

 そうすると菌が入りやすくなって腐りやすくなってしまうのよ」

 

「へぇ……洗うと駄目なのか」

 

「鶏の卵の表面には、呼吸のための小さな穴が空いているのは知ってる?

 そこから洗った時の水と一緒に菌も入ってしまうから、更に腐りやすくなってしまうの」

 

「ほぉー」

 

「根菜の一部は、その卵と同じイメージを持てばいいわ。

 泥や土が付いたままの方が長持ちする、なんて言われているの。

 それは新聞紙に包んで袋に入れて持っていきましょう。それが一番だから」

 

 歌野の知識に、竜胆だけでなく、若葉も感心している様子だ。

 

「詳しいな、歌野」

 

「ふふ、若葉にもその内分かるわ。農業と畜産の深い関係の歴史がね……!」

 

「い、いや、それは分からないままで一向に構わないのだが」

 

「ええっ、四国に農作業の相棒たる家畜はいないの……?」

 

「いるが、私はそういうことに詳しくない。興味も無い。それだけだ」

 

「自分達の食べるものを作る方法に興味も無いとか、変わってるわねー」

 

 ここまで農業が似合うお前が変わってるんだ、と思い、若葉と竜胆は苦笑した。

 

 歌野の頭には麦わら帽。

 ポケットには引っ掛けられた、泥だらけの軍手。

 足には土が染み込んで取れなくなったスニーカー。

 服は上から下まで、土と汗が染み込んだ芋っぽいジャージ。

 ジャージの内の肌着のシャツには、でかでかと刻まれた『農業王』の文字。

 

 色気の欠片もない。

 女を捨てていると言われれば納得してしまいそうだ。

 だが"農業に従事する者"としてみれば、本当に農地にマッチした姿だと言えよう。

 

 何より、野菜に触れている時の歌野は、本当に楽しそうだ。

 その笑顔は太陽である。

 花咲くような笑顔、という表現があるが。

 彼女の笑顔は人の心の内にある蕾を花開かせる太陽であると、そう言っても何ら誇張表現にはならないだろう。

 

 心に光がなくとも、1から光を作り、努めて周りを照らそうとするのが友奈なら。

 自然と周りを照らし、己の心に生まれる小さな陰りを頑張って消していくのが、歌野である。

 友奈と歌野の違いは、根本にあるメンタリティの絶対的強度か。

 

「竜胆さん、才能あるわね」

 

「野菜洗いの才能か? あんま嬉しくないな」

 

「いやいや、私の見立てでは、農業全体への才能があると見た!」

 

「は?」

 

「よく鍛えられた肉体。

 丁寧な野菜の扱い。

 何より、大地に立つその立ち姿。

 農地の大地が似合う人というのはそうそういないのよ……」

 

「すげえ、わけが分からん」

 

「農業貴族の称号をあげるので、バーテックスの件が片付いたらうちの農地に来ない?」

 

「……え」

 

 ごく自然に"戦いの後"のことを語る歌野の言葉に、"戦いの後どう生きるか"に期待も希望も展望も持っていなかった竜胆の心が、揺れた。

 

「何を隠そう、私はいずれ農業王になる女!」

 

「ガンダム知らない人に突然ガンダムの専門用語出すような真似やめない? 農業王って何?」

 

「農業王の上には農業大王。

 農業大王の上には農業神。

 果てしなく続く農業ロード……

 けれど、農業王となった私の下に、農業貴族になったあなたがいれば……!」

 

「待て、待て待て! 流石に野菜洗ってるところを見ただけで過大評価しすぎだ!」

 

「でも、竜胆さんはなんとなく農業の匂いがするの」

 

「うっ、心当たりが無いでもないのが憎い……」

 

 竜胆と最も付き合いが長い土地神は、千景の守護神、阿遅鉏高日子根神。

 雷神にして、農業神である。

 だからこそ元は農具である鎌が千景に与えられたのだ。

 更に言えば、竜胆の祖母は農業をやっていた人間である。

 

「あなたの中に農の血が流れてる気がするのよね……」

 

「農の血ってなんだよ!」

 

 竜胆は、闇化した体の化物っぷりに言及されたことはあっても、農の血(理解不能)について言及されたことはなかった。

 

「やべーぞ若ちゃん、こいつ凄い奴だ多分」

 

「そうだな。今お前が歌野に感じている気持ちが、私が最初お前に感じた気持ちだ」

 

「え゛っ」

 

 若葉から見れば、どちらも変わらない。

 竜胆も、歌野も、常人には見えない何かを感じ取り、只人には見えない何かを見て、人間とは思えないような凄まじい何かを成し遂げる『天才の中の天才』である。

 よくある話だ。

 飛び抜けた天才は、何かよく分からないものを見ているというアレ。

 竜胆の視点は戦闘に突き抜けすぎているために共感を得られず、歌野の今の視点は農に突き抜けすぎているために共感を得られない、それだけのこと。

 

 若葉視点、二人は同類だった。

 

「さ、野菜を洗うのを続けましょう。

 何かあれば、道中でこの食料が生命線だもの。

 何かなくても、四国の皆さんにお近付きの印にと振る舞ってあげるから!」

 

「ブレねえなあ」

 

 例えば、歴史を見てみると、国は政治や金を優先して食料という一番大事なところが疎かになることがある。飢餓輸出やら、人為的要因飢饉というやつだ。

 また、内政より軍事に予算を割きすぎて国内が荒れる、ということも往々にしてある。

 そういうものは、"バランスを欠いている"と言えるだろう。

 

 軍事や戦いのような、『しなくても生きられること』に力を注がないといけない状況というものは結構多い。

 だがそういったものに力を注ぎすぎた結果、食料などの『生きるために必要なこと』を疎かにしてしまうこともままあることも事実。

 この時代、そういったことがいくら起きてもおかしくはない。

 

 戦いにのめり込みすぎると、人は当たり前のことすら忘れてしまう。

 だが歌野は、いかなる時も"当たり前"を忘れない、強い心の持ち主だった。

 

 生きるということ。

 食べるということ。

 作るということ。

 

 白鳥歌野の生き方は、いつも地に足がついている。

 大地(ガイア)に根を張る植物や木々のようだ。

 彼女は、人類の歴史が、食べ物を作る歴史と、それを食べて生きてきた歴史であったことを、本能的に理解している。

 人が食べ物を作るという行為から、一度も離れられなかったことを知っている。

 

 古い土地を離れないといけなくなっても、めげることはない。

 新しい土地で畑を耕し、種を蒔き、水を撒き、また食べるものを作っていけばいい。

 そうすれば、人は生きていける。

 大地とささやかな恵みさえあれば、人はどこでも生きていける。

 白鳥歌野は、そう思う。

 

 だから、諏訪の結界が破壊された大ピンチの現在も揺らがず、野菜を洗って、最後のお別れとばかりに農地を耕して、次の土地で蒔く野菜の種を握り締め、上を向いていられるのだ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜胆の変身が可能になる時まで、やれることをやる。

 竜胆と若葉は、地図を見ながら諏訪の祠を捜索していた。

 竜胆達はチームを分けていくつもある祠を探しているものの、中々目当てのもの――神様の言っていた武器――は見つからない。

 明日にも見つからないようなら、千景の分身手分け捜索も考慮する段階になってきた。

 

「駄目だ、ここにも無いな」

 

「もうちょっと深く探してみよう、若ちゃん。隠されてるものとかあるかも」

 

「そうだな……戸棚の裏にはお菓子があるものだ」

 

「若ちゃんのお菓子の隠し場所は聞いてねえ……

 ……いや、昔の人も今の人も、もしかしたら物を隠す場所は同じか?」

 

 二人は会話しながらも、手足を動かすのを止めない。

 祠の中と周りを入念に調べ上げていく。

 並列思考(マルチタスク)も鍛え上げ、本気の模擬戦の中でも会話できるようなこの二人に、この程度はお茶の子さいさいといったところだろう。

 

「みーちゃんって子さ、いるじゃん」

 

「ああ、いるな。実は少し驚いている。

 千景は初対面の相手と二人きりでの探索を嫌がると思っていたんだが」

 

「あんま社交的じゃないからな、ちーちゃん。

 ただなんというか、ちーちゃんとみーちゃんは、根っこの部分が少し似てそうな気がした」

 

「……言われてみるとそんな気がしてくるな」

 

「一人でいると、とことんネガティブになる子らだろうな」

 

 郡千景と藤森水都、二人揃って内向的。

 どちらにもネガティブ思考の資質あり。

 見方を変えれば二人揃って後ろ向き、とも言える。

 

 だが千景の内側には"幸せになりたい"というエネルギーがあり、水都の中には"どうせ私なんか"という負のエネルギーがある。

 つまり千景は「好かれるために頑張る」という考え方をする資質があり、水都の中には「皆に好かれてるけどどうせ私なんか」という考え方をする資質があるわけだ。

 周囲の人間に恵まれていない状況から何かを勝ち取ろうとしていく資質と、周囲の人間に恵まれていてもネガティブになる資質、と言い換えても良い。

 ゆえに二人は似て非なる。

 

 友奈と千景の関係と、歌野と水都の関係は、少し似ている。

 

 千景は友奈と一緒に居ると心地良くて、水都は歌野と一緒に居ると心地良い。

 そういう性格タイプなので、千景と水都は一緒に居ても心地良くはないだろう。

 だが、ある意味では似た者同士だ。

 

 竜胆の見立てでは、相性が悪いということはない。

 心地良くはなくとも、互いが互いの劣等感を刺激しない、優しい関係にはなれるだろう。

 互いに対して踏み込みすぎると、ネガティブ思考の相乗効果を起こしそうなところは、怖いところであるが。

 

「そうか、それでか。水都も千景も、他人の心に光を見て、見上げた者だったのだな」

 

「ああ、そう言うのが正しいのかも」

 

「私も見習いたいものだ。

 友奈や歌野には、希望の光を見せる力があるんだろうな」

 

「はははっ、何言ってんだ。それなら若ちゃんにだって十分あるっての。光だろ?」

 

 互いの会話の呼吸を知る二人の会話が、一瞬止まった。

 武器を探す手を止めないままに、若葉の口が、少しの間止まったのだ。

 竜胆も何かを察したのか、若葉の次の言葉を待つ。

 

「竜胆は光と闇の狭間で、よく頑張っていると思う」

 

「ん? ああ、ありがとう」

 

「憎しみに身を任せて戦うのは楽だった。

 今振り返ると、私はそう思う。

 憎い者、嫌いな者のことだけ考えて、ひたすら切り捨てていくだけで良かった。

 敵を倒すこと、仲間を守ること、人々を救うこと、戦友と連携すること……

 色んなことを考えながら戦う方が、ずっと難しく、ずっと苦労して、ずっと辛かった」

 

「……」

 

「人間は何故、こんなにも、憎しみに引きずられやすい心を持っているんだろうな」

 

「そこは、"堕ちる"って言うしな」

 

「……堕ちる」

 

「俺も分かるよ。登るのは辛いが、落ちるのは一瞬。崖を登るようなもんだ」

 

 静かな共感と相互理解が、二人の間に横たえられている。

 

「前に竜胆は、昔の自分の話をしてくれたな。

 周りに嫌われることも恐れずに。

 つまらない話だが、私も私の話をしよう。

 ……情けない話だが、私の醜態の話だ。嫌われるのを恐れ、ずっと話せずにいた」

 

 竜胆は、以前ひなたとした会話を思い出す。

 

■■■■■■■■■■

 

「植物も、人も、光だけで大きくなるわけではありませんよ。

 若葉ちゃんにだって闇はあって、憎悪や復讐心に囚われていたことはありました」

 

「あいつが?」

 

「若葉ちゃんもいつか話すと思います。良い仲間で、良いお友達みたいですから」

 

「そっか……じゃあ、待つかな。話してくれるのを」

 

「植物の種を発芽させるのに、光が求められる時も、闇が求められる時もあります。

 好光性種子や嫌光性種子と言われるものですね。

 人も同じです。光だけでも、闇だけでも、それだけで良いというわけではないと思います。

 私が見た限りでは……

 自分の闇を乗り越えた時の若葉ちゃんは、生涯で一番に、大きな成長を遂げていましたから」

 

「……光と闇か」

 

「光と闇が、大きな花を咲かせる。そこは、人も植物も同じですね」

 

■■■■■■■■■■

 

 諏訪の風が二人を撫でる。

 どこか混沌としていて、どこにも光や闇がありそうな四国の空気とは違う、開放的で明るげな諏訪の空気が、若葉の口を少しだけ軽くさせていた。

 諏訪の空気が、若葉の背中を押してくれていた。

 空気の違いは、住民の性質の違いゆえのもの、なのだろうか?

 

「四年前、私のクラスメイトは、私の目の前で食い殺された。

 友達ではなかった。

 友達になれたかもしれなかった。

 友達になれなかったかもしれなかった。

 全ては分からない。

 未来にどうなっていたかなんて分からない。

 分かったことは一つだけ。

 私の目の前で、『未来』が奪われ、命が食い潰されたということだけだった」

 

 それは、勇者乃木若葉の始まりの夜(ビギンズナイト)の物語。

 

「その時だった。生太刀が、神が私を選んだのは」

 

「戦ったんだな」

 

「ああ。それが私の初陣。

 "許せない"という心のままに、無我夢中で刀を振るった。

 巫女として目覚めたひなたの導きに従い、生き残りを従え、私は敵から逃げ切った」

 

「許せない……そうだよな」

 

「……ああ。

 死んだ人はそれだけではなかった。

 逃げる途中、多くの死体を見た。

 四国の安全圏まで逃げ延びても、次から次へと死のニュースが流れ込んできた。

 人が死んでいったんだ。無念のままに、理不尽に襲われ、悲しみの中、沢山の人が……」

 

 人々の苦痛を、若葉は自分のことのように感じ、自分のことのように怒ることができる。

 

 その在り方はまさしく、英雄譚の勇者のよう。

 

「何の罪もない人が殺されるなど、私は許せなかった。

 人を殺すバーテックスが憎かった。

 世界の理不尽に怒っていた。

 ……お前と同じだ、竜胆。

 お前がいつも口にしていた想いは、私が抱いていたものと同じだった」

 

「若ちゃん」

 

「私はずっと、お前に自分を重ねていたんだ。

 憎しみに突き動かされ、泣き叫ぶように、心の闇を周囲にぶつけるお前に」

 

 最初からずっと、若葉は竜胆のことが他人のように思えなかった。

 いつも共感があり。

 いつも理解があった。

 竜胆が想いを叫ぶたび、同意してやりたい気持ちでいっぱいになっていた。

 

「痛みを。

 苦しみを。

 絶望を。

 死を。

 一方的に人間に与えるバーテックスが、どうしても許せなかった……」

 

 だが、若葉も、竜胆も、その気持ちが"間違い"に繋がるものであることを知っている。

 二人は同じ気持ちを抱きながら、同じようにその気持ちを克服したものだだったから。

 

「仲間が出来てもそれは変わらなかった。

 私は一人バーテックスに切り込むようになり……

 戦いの度に、防御は疎かに、攻撃は苛烈になっていった、らしい。

 後になってから千景に聞いた話だがな。

 無茶を重ねれば重ねるほど、当然私の危険度は増し、そして―――」

 

 もう、年単位で前のこと。

 憎悪と応報に心を囚われた若葉は、バーテックスを斬る。

 斬る。

 斬る。

 斬る。

 そして、そんな無謀な日々の果てに。

 

「―――バーテックスの攻撃から私を庇った友奈の胴に、大穴が空いた」

 

「!」

 

「致命傷……致命傷だった、と思う。

 その時の記憶は、曖昧なんだ。曖昧だが、きっと一生忘れることはない」

 

 若葉の愚かしさのツケは、()()()()()()()()

 

 それが、仲間と共に戦うということだ。

 自分の愚かしさが、自分の死だけで終わらない。

 愚かしい行動の結果は、仲間にまで波及する。

 

「……心臓が、止まるかと思った。

 いや、違う。

 あの時……私のせいで……友奈の心臓が、止まりかけたんだ」

 

 それは、一生消えることのない、後悔だった。

 

「私はその時のことを覚えていない。

 だが、大地が友奈の傷を治してくれたのだと聞いた。

 その時まで回復の技を持っていなかった大地が、土壇場で回復の技を編み出したらしい」

 

「……ホント、土壇場に強いし、かっけえなあ、大地先輩は……」

 

 だが、取り返しのつかないことにはならなかった。

 大地が例の回復の技を編み出し、友奈を治したのだ。

 結果から見れば……憎悪に駆られた若葉の愚行のツケは、友奈と大地の二人が払い、帳消しになったと言えるだろう。

 

 しかし。帳消しになったと思わない者もいる。

 友奈のこととなれば烈火の如く怒る、千景がまさにそうだった。

 

「千景には随分責められたものだ。

 復讐のために戦っているから、仲間が見えないのだと。

 敵を殺すために戦っているから、仲間を守れないのだと。

 自分を守ることさえしていないから……仲間に庇わせて仲間を死なせるのだと」

 

「それは……」

 

「その通りだ、と私は思い。死ぬほどの後悔に蝕まれた」

 

 若葉は、千景が"責めてくれた"ことも、今となっては幸運に思える。

 仲間達は、若葉に気を使っていたから。

 若葉に気を使わない千景の口撃が、いっそ救いですらあった。

 

「だがな、何よりも後悔したのは、病院に見舞いに行った時のことだ。

 精密検査から戻って来た友奈は、ベッドに腰掛け、私を見て、満面の笑みでこう言った」

 

 千景だけが、若葉をちゃんと責めてくれた。

 友奈ですら、若葉を責めることはなく……むしろ、若葉を見て、喜んだのだ。

 

「『よかった、若葉ちゃんは無事だったんだね』と―――友奈は言った」

 

「……友奈らしいな」

 

「胸が張り裂けそうだった。"私はなんということをしてしまったのか"と……」

 

 諏訪の風が、優しく二人を撫でる。

 辛い記憶の想起が、若葉に拳をぎゅっと握らせた。

 

「私は、誰も死なせたくなかったのだ。

 誰も殺させたくなかったのだ。

 だから敵を憎み、仇に怒り、自らを責めた。

 ……そうして、そんな気持ちに支配され、仲間を傷付けてしまったんだ」

 

 そんな若葉を、失意の若葉を、仲間達が助けてくれた。そんな想い出。

 

「どん底に落ちた私を助けてくれたのも、仲間だった。

 球子はぶっきらぼうに励ましてくれた。

 杏は気分転換に街に連れ出してくれた。多くのものを見せてくれた。

 千景はゲームに誘ってくれた。

 アナスタシアはおこづかいでアイスを買ってきてくれたな。

 ボブは私のためだけに一曲作って、弾いて、プレゼントしてくれた。

 ケンは穏やかに、暖かに、時におどけて接してくれた。

 海人は、よく分からないことをもごもご言っていたが、励ましの気持ちは伝わった。

 大地は……あいつらしい褒め言葉をくれたよ。

 ひなたは優しく、厳しく、私を突き放してくれた。甘やかさないでくれた。

 みんな、みんな……私にとってかけがえのない、愛すべき、大切な仲間達だった」

 

 そんな仲間達も、もう半分いない。

 

「竜胆なら、私の気持ちを分かってくれると思う」

 

「……ああ。分かる。俺も……皆のおかげで立ち上がれたから」

 

 そう、若葉が皆の心から貰ったそれは。

 竜胆が皆の心から貰ったものと、違うようで同じもの。

 竜胆と若葉が仲間達にしてもらったことは、細かに見れば全然違うことであったが、貰った想いの暖かさは同じであった。

 差し伸べられた手は、同じであった。

 

 仲間達から多くを貰い、多くの仲間を失い、今ここに立っている。

 そういう意味でも、若葉と竜胆は同類である。

 

「……バーテックスに奪われたことが、許せなかった。

 だから武器を取った。だから戦った。けれど、戦えば戦うほど失ったものは増えていく」

 

 四国から遠く離れたこの地で、若葉はこれまでの戦いを振り返り、その凄惨さに反吐が出そうな想いとなる。

 

「私達の戦いに、終わりはあると思うか? 竜胆」

 

「ある」

 

 若葉の問いに、竜胆は言い切った。

 

「無いなら、俺達で作るんだ、若ちゃん。この戦いの終わりってやつを」

 

「―――」

 

 戦う力においても、戦いに向かう心においても、二人は互いに影響を与え合い、高め合う。

 

 ふっ、と、若葉が笑んだ。

 

「お前がいなければ、私はここまで来れなかった気がする」

 

「俺がいなくても、若ちゃんはどこまでだって行けただろうさ。君は強いから」

 

「いや」

 

 若葉が振り向き、竜胆もつられて振り向く。

 祠のある高台から、諏訪の土地とその向こうの諏訪湖が一望できた。

 風景の多くはバーテックスに破壊されていたが、バーテックスが手を出すことのなかった美しい自然が、神々に愛された美しい景色を彩っている。

 

 空の青。

 湖の青。

 山の緑。

 それらが入り混じる風景は、とても美しい。

 

 ナターシャが予言した若葉の死は6月2日。

 ナターシャが予言した四国だけが残る人類の敗北が6月末。

 まだ人が生きている諏訪を、こうして若葉が見下ろしていることが、既に奇跡だった。

 

「こうして諏訪(ここ)に立っていることが、奇跡のように感じられてならない」

 

 若葉の感覚は、至極正しい。

 

「竜胆、今日からは若葉と呼べ」

 

「……なんで?」

 

「お前が女子を呼び捨てで呼ぶ枠と、愛称で呼ぶ枠、その違いが分かってきたからだ」

 

「……」

 

「正直に言ってもらいたいが、名前を呼び捨てにしたことのある女子、何人いる?」

 

「……あー、片手で数えられるくらいだな」

 

「だろうな。そうだと思った」

 

 人間の目は、鏡がなければ自分の顔を見ることもできない。

 自分のことで、自分が知らないこともある。

 竜胆のことを、竜胆以上に他人が理解していることもある。

 

「深読みしてるとこ悪いが、呼び分けにそんな深い意味はねえよ、『若葉』」

 

 呼び方をあっさり変えた竜胆だが、声はほんの僅かに上ずっていて、気恥ずかしさが見えた。

 

「いいや、意味はある。きっとな」

 

「ないって」

 

「お前は……最後の最後の戦いに、愛称で呼んでいる者は、連れていかないタイプだ」

 

 一瞬の呼吸の間。竜胆は、若葉の指摘をきっぱりと否定する。

 

「……ないっての、そういうのは」

 

 ボブは一貫して呼び捨てだった。

 ケンは一貫して呼び捨てだった。

 大地と海人は、先輩付けだったが愛称ではなかった。

 ナターシャに対しては、一貫して愛称だった。

 友奈と杏は呼び捨てで、千景は愛称だった。

 そして今、あっさりと若葉を呼び捨てにした。

 

 竜胆が他人に使う呼称は、竜胆がその人間に対し抱く感情を、如実に証明する。

 

「……」

 

 そんな竜胆の肩を、若葉が軽く叩く。

 

「気張るな。『私達の最後のウルトラマン』」

 

「―――」

 

「お前が最後のウルトラマンとして気負っていることは分かっている。それは私だけじゃない」

 

 若葉は竜胆に、話したくないことまで話した。

 自分の思い出したくない過去を、見せたくない恥部を晒した。

 "お前と似た者はここにいるぞ"と言わんばかりに。

 "私はお前を見捨てない"と言わんばかりに。

 "お前はひとりじゃない"と言わんばかりに。

 

 その上で、竜胆を引っ張っていく。

 

「信じろ。応えてやる」

 

 諏訪の風の中、乃木若葉は凛々しく、輝かしく在った。

 

 竜胆は誰にも聞こえない声量で、ぼそりと呟く。

 

「……ほんっとうに、骨の髄まで勇者だなぁ。惚れそうだ」

 

 また祠の周りを調べ始めた若葉に、竜胆は歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になった。

 が。

 武器とやらは、どこにも見つからなかった。

 

「今日はうちに泊まっていってね、最高のお野菜晩御飯をご馳走するから!」

 

 竜胆、若葉、千景は歌野の家――諏訪がこの状況になってからあてがわれた家――に招かれ、そこで一晩を過ごすことになった。

 

「お泊りか……」

 

「どした、ちーちゃん」

 

「私……他の勇者の家に止まるのは初めて。私達は丸亀城の寄宿舎暮らしだから」

 

「ああ、そっか。実家まで行く機会無さそうだもんな、ああいう状況だと」

 

「でも……正直言うと、お泊まり会して夜通しスマブラ、みたいなのには憧れる……」

 

「ないと思うぞスマブラ」

 

「まあ、そうなんだけど」

 

 千景は友達の家に泊まったことすらないだろう。

 あの村での状況と家庭環境を考えれば、自分の家に誰かが遊びに来たことも、誰かの家に遊びに行ったことがあるかも疑わしい。

 千景を優しく迎えてくれた家屋など、四年前、まだ惨劇が起きてなかった時の、竜胆と花梨の仮の住まいだけしかないと言い切れる。

 千景の家ですら、千景を歓迎はしていなかったから。

 

「どうぞ、濃厚な味わいのナスを麺つゆに浮かべ、他野菜も並べた至高の麺!

 麺類の王者、信州そばですとも! どうぞご賞味あれ、よ! さあさ食べて食べて!」

 

「ん?」

「ん?」

「いただきます!」

 

 "麺類の王者"という言及に、若葉と千景の内に根付いた香川の魂が反応した。

 竜胆は特に気にしてもいない。

 太陽の笑顔の歌野が出した、彼女の愛する信州そばを、三人はすするように口に運ぶ。

 美味。

 それ以外の表現が陳腐な程に、美味であった。

 

 やや熱めの麺つゆに、ご飯のおかずにできそうなほどに濃厚な味を放つナスが浮かべられ、そこにすっと蕎麦を通すだけでも美味い。

 ナスと蕎麦を一緒に食べる、他の野菜を麺つゆに浮かべるなど、無限の可能性を感じさせる野菜盛り沢山蕎麦であった。

 野菜そのものの味わいが嫌味がなく濃厚なため、味に飽きも来ない。

 

「美味しい、とても美味しいな。だが麺類の王者ではない」

 

「ええ、そうね。乃木さんの言う通りよ。

 これはとても美味しい。私の食べたことのある蕎麦の中で一番。でも、麺類の王者ではない」

 

「なんですって!?」

 

 だがやはり、香川の魂が、若葉と千景にこれを"麺類の王者"とは認めさせなかった。

 

「―――王者はうどんだ」

 

「またそれ!? 至高は諏訪の蕎麦なのよ!」

 

「いいや、香川のうどんに勝るものなどない!」

 

「歌野、おかわり。美味しいなこれ」

 

「あっはい、ちょっとお待ちを」

 

 論争の最中も竜胆は黙々と蕎麦と野菜を食べ、さっさと食べ終わり、おかわりを要求した。

 

 そんな竜胆に、歌野は嬉しそうにして、若葉と千景は非難するような目を向ける。

 

「いや同じくらい美味しいんじゃないかなって俺は思―――」

 

「竜胆……うどん派閥を裏切る気か?」

「竜胆君、言葉には気を付けた方がいいわ」

 

「うっわめんどくせー気配!」

 

 竜胆は闇さえ周りにあれば、それを食べて生きていける。

 蕎麦もうどんも娯楽、生の楽しみでしかない。

 しかしながらそうして食べ物の世界に戻って来てしまったことで、食べ物論争という至極くだらない争いにも巻き込まれるようになってしまったのである。

 

 喧嘩(けんか)にはならないが、喧喧囂囂(けんけんごうごう)にも侃侃諤諤(かんかんがくがく)にもなるかもしれない。

 

 歌野は戦場で鍛え上げた洞察力をフル回転。

 若葉、千景が不動のうどん派であることを察知。

 ここで竜胆を味方に付けねば、という的確な判断をした。

 

「二対二にするにはこれしかない! さあ竜胆さん! 蕎麦に永遠の忠誠を誓って!」

 

「うるせえ静かに食べさせろッ!」

 

 諏訪の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 詩人は、たびたび"夜が長い"という表現を使う。

 秋の夜長、などという言葉は、人類史の中で何度使われてきただろうか。

 

 その日の夜は、諏訪の誰もが長く感じた夜だっただろう。

 諏訪の結界は無い。

 もう何も諏訪を守ってはくれない。

 

 バーテックスが来ても誰も気付けないかもしれない。

 寝床の傍で火を焚けばバーテックスに見つけられてしまうかもしれない。

 だから見張り役を立て、その傍でだけ火を焚き、バーテックスの襲来を警戒する。

 ほとんどの者は自分の近くに明かりを灯すことすら許されない。

 少しでもバーテックスに見つかる確率を減らすため、彼らは闇の中で震えていた。

 

 七月のこの時期の、長野の日没時刻は大まかに19:10、日出時刻は大まかに4:40。

 夜の時間は九時間半、と言えるだろう。

 

 安眠などできようはずもない九時間半。

 無力な人間が交代しながら見張りに立つ九時間半。

 無力な諏訪の人々は、早く終わってくれ、早く終わってくれと夜に祈るも、人々の祈りで時計の針が速く進むはずもない。

 

 喉にナイフの先が突きつけられているような気持ちを、全ての人間が感じていた。

 

 竜胆は月を眺めて家の中を歩いている。

 夜闇の中の方が、竜胆は調子が良い。そういう生物だからだ。

 寝る前にふらふらと歩いていた竜胆は、家の門前で鞭を握り、勇者の衣装を身に纏った歌野を見つける。

 

(何やってんだか)

 

 家を出て、歌野の傍に行く。

 

「よ」

 

「あ、竜胆さん」

 

「夜更かしは趣味か?」

 

「そんなわけないじゃない。早寝早起きが農業の基本よ?」

 

「だよな」

 

 月光の下、大地の上、夜風の脇。

 二人は並び立ち、穏やかに会話を始める。

 

「怖いか?」

 

 竜胆は問う。

 

「何がかな?」

 

「俺が死んで、諏訪の人達が全員助かる可能性がぐっと下がるのが」

 

「……うん、そうね。それは怖い。今の私を見ただけで分かっちゃうもんなのね」

 

「俺達を守ろうとしてくれたんだな。夜通し、徹夜してでも」

 

 歌野が起きている理由も、臨戦態勢でそこに立っている理由も、単純明快。

 竜胆/ティガを、諏訪の皆が助かるまでは、何が何でも生かすためだ。

 夜闇に紛れて襲来するバーテックスの一体さえも見逃さない、とばかりに、歌野は気合いを入れている。

 

「皆を守るのは、私の役目だから。

 戦えない全ての人の代わりに、私が戦わないと。

 皆の希望が絶えてしまったら台無しでしょう?

 だから私は、念には念を入れて、希望が絶えないよう気を使っておかないとね」

 

 歌野と交わした言葉の数々。

 そこから読み取れた歌野の性情。

 判断材料としては、十分過ぎる。

 竜胆はこの諏訪における歌野が背負っていた役割を理解し、それを一言でまとめた。

 

「お前は全ての人を守らなくてはならなくて、お前を守る人は一人もいなかったのか」

 

「―――」

 

「ずっと、そうだったんだな」

 

 竜胆の言葉には、悲惨な境遇の少女に向けられる同情ではなく、気高い使命をやり遂げた少女に対する尊敬がにじみ出ていた。

 

「少し羨ましいよ。それがお前の誇りだったんだな」

 

「……え」

 

「お前は皆を守る。

 皆はお前に守られる。

 お前の背中を誰も守らなかった。

 それでも、歌野が戦い続けられたのは……

 頑張ろうと思えるくらい、周りがいい人で、守り甲斐がある人達だったからなんだろ?」

 

 すとん、と、その言葉が歌野の胸に落ちる。

 

 その言葉はとても的確で、歌野の中で言語化できていなかった気持ちを、歌野の代わりに綺麗に言語化してくれたものだった。

 だからこそ、なめらかに歌野の心に受け入れられる。

 

 最初の一年は、周りの反応は良いとは言えなかった。

 だが一年を過ぎた頃、皆が助けてくれるようになった。

 そんな皆を大切に思うようになったからこそ歌野は、二年目、三年目と、心も体も摩耗していく中でも、頑張ってこれたのだ。

 

 歌野は頑張った。

 周りの皆はその頑張りに応えてくれた。

 だから戦い抜くことができた。

 歌野は今日までの皆との日々を、戦いの日々を、胸を張って誇ることができる。

 

「歌野の仲間は、無力ではあっても、善良だった。

 力ではないものでお前を支えてくれていた。

 話を聞いてると、俺にはそうとしか思えない。

 お前が一人でも戦えたこと……それ自体が、俺にはとても素晴らしいものに見える」

 

「……竜胆さん」

 

「お前の心が弱くても駄目だった。

 お前が頑張らなくても駄目だった。

 周りが善良じゃなければ駄目だった。

 周りも頑張ってなければ駄目だった。そういうもんであったように見える」

 

 竜胆は歌野個人への称賛を滲ませながらも、"諏訪"という括りで称賛してもいる。

 

 『歌野一人』ではなく、『皆』への敬意を見せる竜胆に、歌野は素直な好感を持った。

 

「うん、そうだな。よく頑張った。お前はよく頑張った。

 だから俺達の力を借りて、仲間に任せて楽して、これからは報われていいんだ」

 

 ずっと一人だった。

 最初は、訓練も、戦闘も、農業も、漁業も、全部一人だった。

 途中からは一人ではなくなった。

 そして今日、知らず知らずの内に歌野に課せられていた"諏訪唯一の希望"という重荷が、すっと消えていく。

 

「……ああ、なんでかな。

 今、私すっごく報われた気がする。

 今の一言で、今日まで頑張って走ってきたのが報われた、そんなアトモスフィア」

 

「お疲れ様。そして、明日からはどうぞよろしく」

 

「うん、まっかせなさい!」

 

 もう歌野は、一人ではない。一人で戦う必要もない。

 そう思うだけで、歌野の気持ちは小気味よく跳ねる。

 ニッコリ笑って、歌野は諏訪に伝わる口伝の話をした。

 

「気のせいかもしれないけど。

 竜胆さんは出会ったばかりの人に、

 『この人といると安らぐなぁ』

 って思ったりしたことはある?」

 

「ん……あったかもしれない。ハッキリとは言えないけど」

 

「遺伝子はね、記憶を保存するんだって。

 ずっと昔のことでも、三千万年前のことでも、覚えてることはあるんだってさ」

 

 竜胆は、カミーラとの初遭遇の時、カミーラの名前を何故か知っていた自分を思い出す。

 何故自分がカミーラのことを知っていたのか、竜胆自身にも分かっていなかった。

 その理由も今、判明する。

 

 竜胆の遺伝子は、三千万年前のことを覚えている。

 カミーラのおぞましさを覚えている。

 もしかしたら……三千万年前以外の時代のことも、遺伝子は覚えているかもしれない。

 

「もしかしたら、私達のご先祖様が、どこかで一緒に戦ってたりするかもしれないわね」

 

「そりゃまた、夢のある話だ。先祖も子孫も助け合ってるなんてな」

 

「ふふっ」

 

 歌野は夢のような話をする。

 何の根拠もない、夢のある話をする。

 夢見るように夢想を語る。

 それは歌野が現実逃避を好むことではなく、歌野が素敵な話を好むことの、証明であった。

 

「何十年前か、何百年前か、何千年前か、何万年前か。そういうことがあったら……」

 

 そんな歌野の話を。

 

 無粋な闇の襲来が、中断させる。

 

「―――来やがった」

 

 誰よりも早く、見張りよりも早く、歌野よりも早く、竜胆の感覚がそれを察知した。

 

 咄嗟に取り出したブラックスパークレンスに、力が溜まらない。

 

(駄目だ、まだ変身できない……!)

 

 命が惜しくないのであれば、再変身すればいい。

 どうなるかは分からない。

 "あとひと押しで闇落ちする"とカミーラが判断したティガが無理をすれば、十中八九暴走し闇へと堕ちるだろう。

 自分が死ぬか、闇落ちして仲間を殺すかの二択。

 変身したいのであれば、好きな方を選べばいい。

 

 そんなティガを嘲笑うように、遥か遠き海より来たりて、怪物達は嬌声を上げた。

 

 

 

 

 

 空より舞い降りる、赤紫の怪鳥の怪獣、ゾイガー。

 邪悪なる神ロイガーと、かつて地球人に呼ばれたその身を唸らせて、超古代尖兵怪獣 ゾイガーが『四体』、諏訪に舞い降りる。

 

 魚に手足を生やしておぞましくすればこうなるのだろうか、と思わせる、新顔の怪獣型バーテックスが現れる。

 半人半魚(インスマス)をもっと魚に寄せ、巨大化させればこうなるのだろうか?

 二足歩行の魚の怪物が、諏訪湖の中央に陣取る。

 その名は『ボクラグ』。大怪魔の二つ名を持つ者。

 かつて地球人に邪悪なる神ボクルグと呼ばれたその巨体を、諏訪湖にて震わせている。

 

 更には大型と小型の中間、中型バーテックスとでも言うべき存在が現れる。

 それは虫か魚か判別できない姿で、鳥のように空を飛んでいた。

 "昆虫的なトビウオ"とでも言うべき巨体で、星屑と共に諏訪の力無き人々を狙っている。

 その名は『バイアクヘー』。

 根源破滅飛行魚 バイアクヘー。

 かつて地球人に奉仕種族ビヤーキーと呼ばれた通りに、大きなバーテックスにとことん従い、奉仕する存在。

 

 あえて、神話をなぞる天の神のそれに倣い、神話"らしい"呼び方をしよう。

 

 旧支配者、邪神ロイガー/ゾイガー四体。

 旧支配者、邪神ボクラグ/ボクルグ一体。

 奉仕種族、神話生物バイアクヘー/ビヤーキー二十体。

 そして、星屑五十体。

 

 ゾイガー四体が、口を開く。

 "文明殺し"たる光球がその口より放たれ、山々へと衝突する。

 

 諏訪南部にそびえ立つ大きな山々―――守屋山と入笠山が、まとめて、跡形も無く消し飛んだ。

 

 山を消し飛ばすほどのバーテックス達が、叫び声を上げ、人間を殺すべく殺到する。

 手加減などない。

 容赦などない。

 慈悲などない。

 殺到するバーテックス達の目的は、唯一つ。

 

 人間の、絶滅だ。

 

 

 




【原典とか混じえた解説】

●大海魔 ボクラグ
 クトゥルフ神話における旧支配者、『邪悪なる神』ボクルグ。
 原作ウルトラマンガイアにおいては、根源的破滅招来体(天の神)に起こされた怪獣の一体であり、ガイアである主人公・高山我夢の生まれ故郷を襲撃した。
 体が海水と同じ成分で出来ている。
 そのため、海に潜るとセンサーの類に一切引っかからなくなってしまう。
 更には体構造も構成成分に準ずるため、光の巨人が切り刻もうが、ミサイルを打ち込もうが、頭を蹴りで粉砕されようが、死ぬことはない。
 水分さえ補給できれば、再生のための体組織に困窮することもない。
 腕に備わったハサミの飛び抜けた切れ味、エネルギー吸収能力、放電攻撃などが武器。

●根源破滅飛行魚 バイアクヘー
 クトゥルフ神話における化生、『邪神に仕える奉仕種族』。
 Byakhee/ビヤーキーと書くと、見覚えのある人も多いかもしれない。
 群体として海を泳ぎ、空を舞う、おぞましい形のトビウオ。
 組み付いた相手からエネルギーを吸う能力、鎌状の刃などが武器。
 だが、体長18mと半端な大きさであるため、ウルトラマンからすれば"面倒臭い小さな敵"で、勇者からすれば"面倒臭い大きな敵"である。

 バイアクヘーは本来、海の底に潜む神、『根源破滅海神 ガクゾム』に仕えるとされている。
 ガクゾムは"神"と、そして"根源的破滅招来体の一体"の両方の呼称を持つ。
 原作の時点で"神であり根源的破滅招来体"として扱われているものは珍しい。
 原作の関係からして、バイアクヘーの主ガクゾムは、クトゥルフ神話におけるハスターに相当すると考えられる。

 星屑が、天の神によって、遣わされるものならば。
 バイアクヘーが、『海の底の神』によって、遣わされるものならば―――

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。