夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 とじみこコラボで神樹は異世界の神を取り込んでパワー補強してるみたいな話が出て、なんかちょっとウルトラマン取り込んで補強してるうちの作品思い出したり。
 新作のドラマCDで芽吹の部屋は防人達のたまり場になってるという話が出て、これ絶対同じ境遇で話が合うから竜児と頻繁に飲みに行ったり相談しあってるやつだ、と思ったり。
 最近の新情報は楽しいですねえ……

 RPGで言うところの『ラスボス皇帝の前に主人公に立ちはだかる四天王』くらいのパートに入りました。
 ソシャゲのゆゆゆいで棗&水都のハッピーバースデーイベントが始まりましたね。いえ、だからどうっていう話ではないんですが。
 『オール・エンド・スタート』は最後まで読んでいただけると嬉しいです。featの『立花響のラブコール』とかでも同じこと言ってたな自分……


2

 友奈は北海道から逃げて来た者を見つけた。

 山間の、真っ直ぐ伸びる道の端に、その人を見つけた。

 杏は沖縄から逃げて来た者達を見つけた。

 海沿いの、海岸に並ぶ船の前に、その人達を見つけた。

 

 友奈が見たのは、勇者以外の全員が殺された後の光景だった。

 杏が見たのは、勇者が殺され、けれどそれ以外の全員が生きている光景だった。

 友奈と杏の視界には、無数の星屑が転がっていて、ここで戦闘があったことは明白だった。

 

 北海道の勇者は、全力で戦った。

 死力を尽くした。皆を守ろうとした。

 けれど、自分以外の何も守れなかったのだ。

 

 沖縄の勇者は、全力で戦った。

 死力を尽くした。皆を守った。

 けれど、自分だけは守れなかったのだ。

 

 だから北海道の勇者だけが生き残った光景と、沖縄の勇者だけが死んだ光景が出来た。

 

 北海道の勇者の名は、秋原(あきはら)雪花(せっか)

 沖縄の勇者の名は、古波蔵(こはぐら)(なつめ)

 歌野同様、四国の如く自分達の土地の人々を孤独に守り続けてきた強き勇者達。

 その戦いが、今ここに、終わろうとしていた。

 

 雪花は、守るべきものを全て殺されてしまったから。

 棗は、守るために自分の命を使い切ってしまったから。

 戦って、戦って、群がってきた星屑を全て倒して、力尽きかけた二人は、最後の僅かな攻防で、自分を守るか、人々を守るかの二択を迫られた。

 そして、雪花と棗は、違う選択肢を選んだのだ。

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 友奈が血まみれの雪花を抱き起こす。

 全身傷だらけで、服には血が染み込んでいた。

 どのくらい頑張って人を守ってきたのか、その体を見ればひと目で分かる。

 他人のためにすり減らしてきた、細く儚い少女の体であった。

 

 その体を、友奈が優しく抱いている。

 雪花は友奈の顔を見ようとするが、見えない。

 短めに切り揃えた茶の髪の前髪が、血でべっとりと眼鏡にはり付いていて、雪花は眼鏡に貼り付いた髪を取り、血を拭って、友奈の顔を見た。

 

「……あー、誰?」

 

「四国の勇者、高嶋友奈! 神樹様に言われて、助けに来たんだよ!」

 

「助け……助け、か。要らなかったなあ」

 

「え?」

 

「私が助けてほしかった人達はさ、そこに死体になって転がってるわけよ」

 

「……あ」

 

「皆が生きてたら、嬉しかったんだけどなあ……でも、ほら、もう、間に合ってないから……」

 

「そんな……」

 

「……結局私は、自分さえよければいいやつなのか。守れないと、やんなるね……」

 

 死屍累々。

 もはや北海道の一般人に生き残りはいない。

 生き残ったのは雪花のみ。

 

 後悔にまみれた雪花とは対照的に、棗はどこか満足そうだった。

 死が怖くないわけがない。

 生きたくないわけがない。

 けれども、守りたかったものは守れた。だからどこか、満足そうだった。

 

「しっかりしてください!」

 

「……あなた、誰?」

 

「伊予島杏と言います。神様からの伝言で、沖縄の皆さんを助けようと……」

 

「……ああ……よかった。私が……命がけで戦ってきたことは……無駄じゃ、なかった……」

 

「そんな、遺言みたいなこと言わないで!」

 

「……みんなを、お願い。

 私が守りたかった人を……お願い。

 安全な場所まで……連れて行って……」

 

 雪花は"この先"を生きる気が、折れてしまっていたから。

 棗は、"もう自分は死ぬ"ことを自覚していたから。

 北海道と沖縄でずっとずっと守られてきた『それ』を、雪花と棗が託された『それ』を、四国の二人の勇者に託す。

 

「私はいいから、この秘宝を、ティガに届けて」

 

「私はいいから、この秘宝を、ティガに届けて」

 

 友奈と杏が二人から受け取った『それ』は、格で言えば若葉の闇薙の剣と、同格と言っていいレベルの力を秘めた神器であった。

 

「―――希望を」

 

「―――希望を」

 

 友奈と杏が、神器を受け取る。

 そしてその手が、雪花と棗の手を掴んだ。

 諦めるなと、死ぬなと、想いを込めて雪花と棗の手を掴む。

 

 友奈の手は雪花の命を掬い上げ、杏の手は既に手遅れだった。

 友奈が暖かな手を握り、杏の手が既に冷たくなった棗の手を握る。

 間に合った手と、間に合わなかった手。

 人生の最期に棗が杏に何かを囁こうとして、雪花が戸惑いの目で友奈を見る。

 

「まだ、終わりじゃないよ。北海道の勇者さん」

 

「……置いていきなよ、どうせ、こんな弱い勇者じゃ役に立つことも……」

 

「役に立つとか、立たないとか、そういうことじゃない!

 私は目の前で困ってる人、泣いてる人がいたら、絶対助ける! それだけだから!」

 

「―――」

 

 友奈は雪花に微笑みかける。

 絶望した雪花の手に伝わる友奈の手の温度は、暖かった。

 

 杏の耳が、棗のかすれた声を拾っていく。

 

「これだけ、聞いて、伊予島杏さん……」

 

「喋ったら傷が」

 

「いいから聞いて。()()()()()()()()()()()()は、四国を『ルルイエ』に変えるつもり」

 

「―――え?」

 

 友奈の優しさに何も言えなくなった雪花とは対照的に、棗は命を絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「最初のルルイエは海の底。

 二番目のルルイエにするのに狙われたのは沖縄。

 三番目が、四国。次のルルイエにするために狙われた島。……四国は、狙われている」

 

「ま、待って下さい! あ、頭が追いつかない……」

 

「私達は、沖縄が奴らに利用される前に、沖縄を爆弾に変換させて奴らに叩き込んだ。

 沖縄の土着の神には、沖縄を創った、創造の神もいた。

 奴らに利用されるくらいなら、沖縄を爆弾にして叩き込んだ方がマシだった……」

 

「!?」

 

「だから……今の、奴らの一部は……ダメージを負っているはず……チャンス……」

 

 三千万年前、超古代の戦士達と、世界を滅ぼそうとする化物達が戦っていた超古代の都市―――名を、『ルルイエ』と言う。

 ここに海の邪神は封印され、粉砕されたカミーラの残骸と怨念は転がっていた。

 オリジナルルルイエは三千万年前のティガに封印され、今は海の底に沈んでいる。

 

 敵は沖縄を、第二のルルイエに改造し、何かに利用しようとした。

 だが沖縄の神々と人々の決死の特攻作戦により、沖縄本島は丸ごと爆弾に変換され、海より来たる敵へとぶつけられたというのだ。

 沖縄爆弾は、棗の言い草から見るに、それなりの効果を発揮したらしい。

 

 棗の説明の文字列からしておかしい沖縄だが、そも神樹を構成する国津神等の土着神とは違い、沖縄には独自の太陽神やその配下の創造神もいて、独自の神話体系を構築している。

 沖縄では"女性は皆巫女であり神である素質を持っている"と信じられており、兄弟を持つ女性は全てその兄弟の守護神である、とされる『ヲナリ神信仰』というものまである。

 沖縄においては女性は皆神であり、巫女なのだ。

 

 古波蔵棗もまた、勇者でありながら、海の神の声を聞く巫女であり、変身することで髪の色が異様なまでに変化する勇者でもある。

 それらの神話と勇者の特殊性が、特殊な反撃を成立させたのだろう。

 

 それも、もう終わりだ。

 沖縄の神々も、沖縄の土地も、沖縄の勇者も、全て潰えた。

 それは四国の未来の姿でもある。

 何もしなければ、四国もそうして滅びゆく定めなのである。

 

「みんなを……沖縄の皆を……おねがいする……」

 

 古波蔵棗は、そうして最後に残った人々を、杏に託した。

 何もかも失ったかもしれない……それでも、守りたかった人達は、守れたから。

 最後に残ったものを託して、棗は瞳を閉じる。

 

「……っ」

 

 棗はもう微笑むことはない。

 杏の手に伝わる棗の手の温度は、冷たかった。

 

「背中に乗って。超特急で、四国まで一直線に行くから!」

 

 雪花を背負い、走り出す友奈。

 

「……皆さん、私の言う通りに移動して下さい。四国まで、私が皆さんをお守りします!」

 

 沖縄の人々を先導し、四国を目指す杏。

 

 北の地の友奈も、南の地の杏も、四国の現状を知らぬまま、四国へと一直線に動き出す。

 

 彼女らの手には、手渡された希望が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マガエノメナの電波は、あっという間に人間を発狂状態に導き、人間達を"人間の意志"で同士討ちの殺し合いに導くことができる。

 電波は脳細胞を破壊するため、大半の治療手段や回復手段も意味が無い。

 しかも電波によって正気を失った人々が互いに殺し合い、死者が出始めれば、本当に取り返しのつかないことになる。

 

 不幸中の幸いは、四国結界が電波の99.5%をカットしてくれていたということだ。

 土着神とウルトラマン達のパワーを取り込んだ神樹の力が、電波から人々を守ってくれた。

 おかげで本格的に暴走したのは、四国住民の全体の三割程度、といったところ。

 神樹は最高のセーブをしてくれた、と言えるだろう。

 

 三割の暴徒に、一部の大社職員は胸を撫で下ろし、一部の大社職員は眉間に皺を寄せた。

 

「よかった、まだ三割なら……」

 

「馬鹿者! 三割が襲撃者になっているということは!

 最悪、他三割の人が襲われてるということだ!

 そうなれば、最低でも四国全域の六割は機能不全だということだ!

 半分以上が暴徒とパニックに陥った被害者なら、残り半分もすぐに呑まれる……!」

 

「!」

 

 四国総人口、約400万人。

 その三割なら、暴徒は約120万人。

 

 一例を挙げると、誰でも"名前だけなら聞いたことがある"と答える有名な『ノルマンディー上陸作戦』がある。

 人類史上最大規模の上陸作戦、と言われるものだ。

 これはイギリス・アメリカ・カナダ・フランス・ポーランド・オーストラリア・ベルギー・ニュージーランド・オランダ・ノルウェー・チェコスロバキア・ギリシャの連合軍による、極大規模の上陸作戦である。

 15万6千人を投入して交戦開始。

 最終的に連合軍は133万2000人を投入して決着したという。

 『120万人』というのは、そういうレベルの規模のものなのだ。

 

 顔を青ざめさせている大社職員の方が正しい。

 今現在、各地の大社に関わる者達が暴動を鎮圧・沈静化させるために頑張っている。

 だが、駄目だ。

 人数も武装も、全く足りていない。

 と、いうか、大社の人間の一部までもが破壊活動に加わってしまっていた。

 大社という組織は、マガエノメナの電波で既に、その一部に機能不全を起こしてしまっているのである。

 

 しかもこの120万人の暴徒は怪我や死を恐れない。

 何故なら、彼らは脳がぶっ壊れているからだ。

 自分の体の安全など考えていないからだ。

 正気の警官に足を撃たれても、おそらく彼らは止まらない。

 

 しかも暴走しているだけで、彼らは罪の無い一般市民でしかないのだ。

 暴れ回る彼らを力任せに捕まえようとすれば、怪我をさせてしまう可能性、最悪事故が起きて死なせてしまう可能性もある。

 男も暴れている。

 女も暴れている。

 90代の老人も脳を破壊され、暴れさせられている。

 幼稚園児ですら脳を破壊され、ハサミ片手に親に襲いかかっている。

 状況は最悪だった。

 

「樹海化、始まりませんね」

 

「敵が結界の中にいないからだろう」

 

「それに加えて、長時間の樹海化は神樹様に多大な負荷をかけます。

 今から樹海化を始めていたら、最悪の場合一日二日展開しっぱなしになりますよ。

 そうなったら、樹海化解除後に神樹様に負荷が来て、食料やインフラの供給が破綻します」

 

 結界の中の人を守るため、結界の外の敵を倒さねばならない。

 時間を止めて人々を守るのは、本当に最後の最後の手段になる。

 

「自衛隊の人達が海から攻撃して、ティガが街と仲間を守ってる……なんてことだ」

 

「藤森さんが巨大化してますね。何故?」

 

「各地からの救援要請が止まりません! これ、絶対どこかでもう死人出てますよ!」

 

「分析班から仮説検証上がってきました!

 人の頭を狂わせているのは特殊な電磁波で確定です!

 心の弱い人、他人に対して攻撃的な人ほど、電磁波の影響を受けやすいそうです!

 現地から報告!

 以前ティガ排斥デモに参加していた者達の多くが現在暴走している可能性あり、とのこと!」

 

「怪我人が運び込めてないぞ!

 病院でも暴徒が暴れてる! これをまず誰か止めろ!

 救急車が一部暴走して人を撥ねてる!

 つか、道路が暴徒に埋められててまともな救急車も通れてない!

 頭がおかしくなった怪我人は救急車に乗せると暴れて、救急隊員にも危険が及ぶぞ!」

 

「避難所のバリケードが壊されました!

 避難所に逃していた人達が危険です! どうしますか!?」

 

 大社に、何もできない無力感に満ちた大人達の声が響く。

 

 大社は、嘘つきだ。

 彼らは情報操作を行い、真実を隠し……人間から自由や、知る権利、自分の未来を自分で選ぶ権利を徐々に奪っていった。

 他人を罵倒する権利を奪い。

 真実を知った人間が愚かしい行動を取る権利を奪い。

 悲観的・暴力的になった人間が、最悪の未来を選ぶ権利を奪ってきた。

 

 彼らの嘘は、既得権益や私腹を肥やすためではなく、全て未来を守るためにあった。

 余計な加害や人間からの攻撃から、勇者達を守るためにあった。

 

 だが、それもここではもう役には立たない。

 『嘘』では『力』には勝てない。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「いえ、分析班が仮説を挙げてきて……

 これからしっかり検証するそうなんですが……

 謎の現象での人間の凶暴化ですが、暴走しにくい人間がいるようなんです」

 

「! なんだ!? どういう人間だ!?」

 

 されど。

 

「―――ティガに守られて、ティガを信じていた人達です」

 

「な……に……?」

 

 『力』に勝る『信』がある。

 

「心弱い者は暴走しにくいと分析されていたな。

 なら、信じられるものがあれば……

 ティガを信じる気持ちが心を強くし、抵抗力となったのか? いや、それとも……」

 

 その事象に、明確な理屈と理由など、本当にあるのかも分からない。

 

「正樹……じゃなかった、三好さん。どうしますか?」

 

「最優先で各地の被害状況、暴動状況を調べろ。

 それをマッピングして、暴動の密度の偏りを調べ上げてくれ」

 

「暴動の偏り……ですか? 分かりました」

 

 三好圭吾は頭を抱える。

 頭の中の細胞が壊れていくのが、なんとなく分かる。

 自分の中の攻撃衝動が膨らんでいくのが、なんとなく分かる。

 "他の人もそうなのだろう"と推察し、三好は眉間に皺を寄せる。

 勇者も、巨人も、巫女も、大社も。皆、脳を破壊される過程にあった。

 

「それと、今日の元自衛隊武装船団の移動ルートを調べろ。

 彼らはプロだ、事前に何時何分にどこにいるかまで綿密に事前申請しているはずだ」

 

「分かりました。

 担当の部署に問い合わせておきます。

 これで何か分かるんですか? 三好さん」

 

「段階的にでも情報が出てくれば分かる」

 

 デジタルに表示された四国全域の地図に、暴動が起きた場所……つまり、暴徒が一定数以上現れたことが報告された場所が、赤い点で表示される。

 地図に落ちた赤い点が、まるで暴動で流れた血のようだった。

 

「これは……

 香川と愛媛の境界での暴動率が最も高く、そこから遠いとそうでもない?

 まるで電波の減衰のような……かなり曖昧ですが、これは、もしかして……」

 

「そうだ。この、人をおかしくしている謎の電磁波……

 これがどこから来ているか、大雑把な手がかりになるものだ」

 

「!」

 

 三好は何よりも優先して、暴徒と暴動の位置をマッピングした。

 結果、香川と愛媛の県境から少し香川寄りな位置が一番暴徒と暴動が多く、そこから離れるにつれ暴徒と暴動が減っていることが判明した。

 人を狂わせているのは電磁波。

 電波は発信源から広がるもの。

 

 心弱い人間、攻撃的な人間がこれを受けて発狂するなら、それらがより多く発生する場所は、電波の発信源により近い場所であるということになる。

 三好は地図の香川と愛媛の県境から、広島の方に指を動かす。

 

「この方向にあるのは出雲。

 大侵攻の時、バーテックス戦力が集結していた出雲の方向だ」

 

「それは、つまり……!」

 

「敵は大侵攻と同じ方向から来ているんだ。

 出雲か……あるいは、この方向の海のどこからか、四国へ電磁波を飛ばしてきている」

 

 三好に元自衛隊がどの時刻、どの海域を見回っていたかのデータが届けられる。

 地図の上に、三好がそれを記していく。

 

「電磁波が飛んで来たのがこの方向。

 戦闘直前の時刻、武装船団が通っていた場所が、予定通りならこの場所。

 電波が通ってきた経路の予想エリアと、武装船団の位置を地図の上で塗り潰せば……」

 

「……重なった!」

 

「決まりだな。

 これなら、フェイントの可能性も低い。

 敵は確実にこの辺り、この方向から、この海上を通して発狂電磁波を飛ばしてきている!」

 

「いけますね、これなら」

 

「まあ、当然のことだ」

 

「え?」

 

「心の弱い者、攻撃的な者。

 ……どちらも、自衛隊の者達には当てはまらない。

 少なくとも、私はそう信じている。

 そしてこの電磁波は発信源に近い者の方が強い影響を受けている。

 ならば、そう……彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

 

「!」

 

「この仮説が正しいのなら……

 敵がまだ移動していないのなら……

 敵はほぼ確実に、武装船団が動いていた海上のこの位置にいる!」

 

 暴徒、暴動の位置から敵のいる方向を見極め。

 自衛隊を判断材料として、敵の位置を特定する。

 特別な能力ではなく、人らしい知恵で、確実とは言えないものの、現状最も有力な仮説を立てる三好圭吾。

 普通の人間にできるのは、ここまでだ。

 

「動ける勇者に……いや、飛べる乃木若葉に一報を入れろ!」

 

 あとは、勇者と巨人がなんとかしてくれることを祈るのみ。

 

「これは―――敵の毒牙にかかった自衛隊が、最後に残してくれた情報だ!」

 

 大社は、希望を戦士に託した。

 

 

 

 

 

 しょうがねえなと、牛鬼は思った。

 

「きゅい」

 

 街はいたるところが混乱の極みにある。

 攻撃衝動、破壊衝動が全てになった人間は、人口の一割程度でも社会を崩壊させてしまいかねない危険な存在であった。

 しかも、その人数はどんどん増えている。

 

 仕組みを理解していれば、それは当然のことだと分かるだろう。

 この電磁波は脳のいたるところを破壊する。

 今は平気な人も、まだ脳が破壊しつくされていないというだけの話だ。

 いずれは脳の破壊が積み重なり、四国全土の人間全員が発狂するだろう。

 

 ウルトラマンも、勇者も、である。

 

 ゆえに、牛鬼は立ち上がった。

 牛鬼からすれば、助けてやってもいいし、助けてやらなくてもいい。

 そのあたりの判断は全て牛鬼に一任されている。

 ビーフジャーキー一袋分くらいは、あのウルトラマンを助けてやろうと、そう思ったのだ。

 

「きゅっ」

 

 牛鬼が地面を踏み、結界内の空間を踏む。

 様々な怪獣・バーテックスを食らって来た牛鬼のエネルギーが、結界全体に染み込むようにふわりと広がっていった。

 結界のフィルタリング能力が向上する。

 電磁波を遮り、濾過して、人々への電磁波の影響を軽減していく。

 

 くてっ、と牛鬼は倒れた。

 脳が破壊された人は戻らない。

 牛鬼にできることは、脳の破壊速度を遅くすることだけ。

 それですら、四国全域への大規模干渉は、牛鬼が指一本動かせなくなるほどの消耗を生んだ。

 

「きゅ……」

 

 力尽き、牛鬼は昼寝を始める。

 

 牛鬼は、希望を戦士に託した。

 

 

 

 

 

 脳が壊れる。

 攻撃的になるよう心を改造される。

 破壊的になるよう脳を弄られる。

 そうなった人達は、自らの意志で周囲の全てを破壊する。

 

 近くにある建物の窓を割る。

 コンビニのガラス張りに車を突っ込ませる。

 家族を探して、家族を殺しに行く。

 とりあえず目についた人間を、石ブロックで殴りに行く。

 

 心弱き者は皆流される。

 臆病な者も。

 優しい者も。

 人を信じられない弱さ、人を傷付けてしまう弱さ、ティガを受け入れられない弱さ、戦いを嫌ってしまう弱さ、全てにマガエノメナの電磁波はつけ込んでしまう。

 

 攻撃的な者は皆流される。

 殺人鬼以外には辛辣な言葉すら言えないような者も。

 毎日、ニュースやネットで"叩いてもいい誰か"を探しているような者も。

 嫌いな人に対し、目障りな人に対し、鬱陶しい人に対し、自分と違う意見の人に対し、"つい"攻撃的になってしまう人は軒並みおかしくなってしまう。

 

 脳が、どんどん壊れていく。

 

 壊れた脳で、皆が皆、自らの意志で隣人を攻撃する。

 

「お前、前にティガの排斥デモに参加してたよなあ!」

 

 ティガを支持するある者は、ティガを非難していた友人の一人を、金属バットで叩いた。

 骨が折れる音がする。

 

「俺達みたいな弱い人間はよぉ! ティガに守ってもらわないと死んじまうんだよ!」

 

 ティガを支持する言葉を吐き、"ティガは殺人鬼だから信用できない"と常日頃から公言して憚らないその友人へと、金属バットを振り下ろし続ける。

 

「俺は死にたくねえんだよ、お前らみたいなバカのためになんてなぁ!」

 

 脳は更に壊れていく。

 

「ティガに味方しない奴なら、死んでいいぞ!」

 

 だが、金属バットに殴られながらも、殴られている方は反撃すらしなかった。

 

「うるさい」

 

 その人は、叩き折られた腕をだらりと下げて、歯噛みする。

 嫌いで嫌いで仕方がなかった。

 大量殺人鬼ティガも。

 その信者も。

 ()()()()()()()()()()()()()()と、その人は脳をマガエノメナに破壊されながらも、一切反撃することはなかった。

 誰も、傷付けたくはなかったからだ。

 

「他人を傷付ける奴、殺す奴が嫌いだ……それの何が悪い!」

 

 ティガという免罪符を掲げて人を傷付ける者と、ティガもこの暴徒も等しく嫌う者。

 

「だから"お前達"が、嫌いなんだ! 私達は!」

 

 ティガを『悪』だと思い、『人殺しは許されない』と言い、『ティガは信じられない』と声高に叫んでいる人の中にも、強い心で人を傷付けることを拒む者はいる。

 ティガを『善』だと言い、『俺達はティガに守ってもらっているんだ』と言い、『ティガの悪口を言う奴は皆死ねばいいじゃん』と言う人も居る。

 

 心の善性が強いからこそ、ティガを嫌い、今被害者になっている人がいて。

 心の悪性が強いからこそ、ティガを応援し、ティガを嫌う人を軒並み嫌い、今加害者になってしまっている人がいた。

 

 その光景は、ただひたすらに皮肉だった。

 

 ゆえにこそ、彼女らはそこに飛び込んだ。

 

「白鳥さんは、あっちを任せるわ」

 

「分かった。郡さんも街を頼んだわ!」

 

 郡千景と、白鳥歌野。

 二人が飛び込み、歌野は水都とティガの下へと向かい、千景は街に火まで放ち始めた暴徒達の下へと向かう。

 

 千景は、怒りを顔に滲ませた。

 『民衆』には色んな人がいる。

 ティガが好きな善い人も。

 ティガが好きな悪い人も。

 ティガが嫌いな善い人も。

 ティガが嫌いな悪い人も。

 それぞれの主張があって、考えがあって、好き嫌いがあって。

 

 それでも、千景はこう思わずにはいられない。

 

「ティガを好きに叩けるサンドバッグにした後は……

 "他人を叩くための都合のいい棒"として、ティガを使うのね」

 

 理不尽にティガを攻撃した後は、ティガを攻撃していい理由を探し、今また他人を攻撃する理由に『ティガ』を使っている民衆に。

 千景は、腸が煮えくり返りそうなほどの怒りを覚えた。

 

「いいわ、好きにしなさい。

 あなた達の考えなんて知らない。

 私は竜胆君の味方で―――人を傷付けて竜胆君を泣かせる者は、全て私の敵だ!」

 

 その怒りが、玉藻前から、過剰なまでに力を引き出した。

 

 

 

「掲げた敵意はその身に返れ。人を呪わば穴二つ―――『呪詛返し』」

 

 

 

 ごぽっ、と、重いものが海に沈んだような音がした。

 玉藻前の呪力が四国全域に広がり……暴徒になっていた人間達が、バタバタと倒れていく。

 正確には"他者に過剰な害意をぶつけていた者達"が一人残らず倒れていた。

 

 "人を呪わば穴二つ"。

 呪いとは元来、他者への怒りや憎しみなどの害意が力を持ったもの、とされる。

 それを返すのが呪詛返し。

 玉藻前の時代における日本でも、盛んに研究されたものである。

 しからば、玉藻前が呪詛返しを仕損じるわけがない。

 

 脳を破壊された四国の人々は、過剰に生成されたホルモンのせいで他人に過剰な害意を向け、それを全て自分自身へと返されてしまった。

 結果、全員その場で気絶してしまったのである。

 

 今の四国の暴徒が全員、ただの人間であるがためにできた、そんな荒業であった。

 

 通常の精霊である雪女郎ですら、無理せずとも丸亀市一つを丸ごと飲み込めるだけの広範囲攻撃は可能であるという。

 ならば酒呑童子、大天狗と同格の玉藻前ならば、千景が無理をすることで四国全域に呪術を展開することは可能だろう。

 相手が一般人なら、呪術の濃度も薄くていい。

 

(うっ……負荷が重っ……でも、これで何とか……

 状況は全く理解できないけど、これで暴走した瞬間にその人が気絶する状況は出来た!)

 

 もう二度とやりたくない、と千景が思うほどの大負荷。

 だがその呪術が四国を包んでいる間は、マガエノメナの電磁波は事実上無力化される。

 また新たに一人暴走し、暴走した瞬間に千景の呪術で気絶する。

 

 千景が四国全域を一人で支えるが如く無茶をしている間に、歌野は水都を守って武装船団に良いようにされているティガの下まで辿り着く。

 歌野の手の鞭が唸り、武装船団の砲弾全てが叩き落とされた。

 

「みーちゃんを守るのは私の役目、かつ私の専売特許!」

 

『歌野!』

 

「うたのん!」

 

 ティガと水都を守る歌野へと、水都がその巨大な手を振り下ろす。

 歌野はひょいと跳び、それをかわした。

 空振った手がビルの屋上にぶち当たり、ビルが揺れる。

 

「おおっと。嫌な予感がしたから跳んでみたけどドンピシャ。

 この位置取りだとちょーっと覚が使いづらいのが難点ね……」

 

「う、うたのん! ごめんなさい!

 でも、変なの! さっきから体が勝手に動いて……」

 

「あらあら、私の親友の体を勝手に操作するなんて、お行儀がなってない人もいたものね」

 

 武装船団は攻撃的にさせられている。

 ティガも電磁波の影響を少しずつだが受けている。

 水都に至っては、巨大化させられた肉体を時折操作されていた。

 

 もっと最悪なのは、歌野の脳もどんどん破壊され、攻撃衝動を継続して膨らまされているという現在の状況にあった。

 

「みーちゃん! 気合で耐えて! 体が動きそうになっても気合いで耐えて!」

 

「ええええええ!? ぐ、具体的な対策とかは!?」

 

「無いわ!

 でも流石の私も、みーちゃんが意識してないのに動く肉体は対応できないの!

 みーちゃんは自分の腕がどう動くか分かってないから!

 多分これ仕込んだ性格悪いカミなんとかさんはそれも狙ってるんだと思うわ!」

 

「で、でもっ」

 

「信じてる! みーちゃんは本当は強いから、できるって信じてる!」

 

「―――」

 

 水都が歌野に向けて右手を振り上げそうになるが、水都が自由に動く左手でそれを掴んで必死に抑える。

 どこまで効果があるか、どこまで止めていられるかは分からないが、水都は自らの意志で歌野を守ってみせたのだ。気力一つで。

 

「が、頑張ってみる……!」

 

「その意気よ!」

 

 安心はしていられない。

 これだけ不安要素を抱えている戦いを、長々と続けてなんていられない。

 "短期決戦"以外の選択肢はありえなかった。

 

「竜胆さん! みーちゃんと武装船団の対処は私に任せて! 結界の外に!」

 

『……分かった!』

 

 歌野が武装船団の処理と水都の護衛に周り、群がる民衆、飛んで来る砲撃、その両方を鞭で巧みに処理していく。

 

 まるで魔法のように、歌野は怪我人の一人も出さないまま、綺麗に民衆と自衛隊を処理しきっていく。

 

「うーん、何度やっても楽しいわね。

 持ち場を他人に任せられる。

 仲間の役目を自分が引き受けて、仲間を別の場所に送れる。

 ……そうやって助け合えるのはとてもグッドだわ。色々できるから、何でもできそう」

 

 すっ、とその身に精霊・覚が宿る。

 どこもかしこも人間ならば、この精霊ほど有用なものはない。

 脳を壊されて攻撃的になっている――別の言い方をするなら、思考が単純化している――人間の思考を読むのは、大した負担にもならなかった。

 

「うたのん、大丈夫?」

 

「ええ。後は……若葉と竜胆さんを、信じるだけ!」

 

 ありったけ伸ばした鞭で武装船団のスクリューを腐食破壊しながら、歌野は水都を民衆の攻撃から守り、跳び回る。

 

 同時刻。

 

 自衛隊の犠牲が伝えてくれた情報と、かき集めた各地の情報から、大社が推測した敵の現在位置へと、若葉が飛ぶ。

 元自衛隊の武装船団が頭を壊されてから、まだ五分も経っていない。

 だというのに、若葉はもう、海に立つマガエノメナの前にいた。

 あまりにも速い対応に、マガエノメナは危機察知も逃走もできなかった。

 

 疾風の如く接近し、閃光と火炎を叩きつける。

 神刀と聖剣の圧力が、一瞬マガエノメナの体を浮かせた。

 そこに、いいタイミングでティガが加勢する。

 

『若葉!』

 

「いいタイミングで来てくれたな、竜胆! 合わせろ!」

 

 若葉が囮になってティガが攻める、と見せかけて、ティガがハンドスラッシュをマガエノメナの顔に撃ち込み、ティガが囮になることで若葉が決めに行く。

 聖剣と神刀を同時に喉に叩き込もうとする若葉の殺意たっぷりの斬撃を、マガエノメナは海に向かって転ぶようにして回避した。

 

 転がったマガエノメナの体に、飛翔中のティガブラストのキックが突き刺さる。

 だがなんとここで、マガエノメナは咄嗟に蹴りを合わせてきた。

 ティガダーク以下の耐久力しかないティガブラストにカウンターが叩き込まれ、そのせいで蹴りのダメージも半減してしまう。

 

『ぐっ……!』

 

 マガエノメナの体が浮き、ティガの体が後方に流れる。

 だが、ティガは瞬時にタイプチェンジ。

 背中側に旋刃盤を発生させ、それに背中をぶつけるようにして空中で静止し、旋刃盤に背中を預けたまま、必殺光線を撃ち込んだ。

 

『デラシウム光流!』

 

 炎と光の奔流が、マガエノメナに直撃し、その体を押し―――四国結界の内部にまで、マガエノメナを押し込んでいった。

 ティガと若葉も、飛んでその後を追う。

 

 樹海化でマガエノメナを迎えた四国結界内部では、マガエノメナがフラフラとしながらも、ダメージはそこそこといった様子で、立ち上がっていた。

 

『デラシウムで死なないのか……なんつーやつだ』

 

「だが、十分だ。作戦の目的は達成された」

 

 四国内部は樹海化が完了した。

 これで、街の人間がこれ以上暴走することもない。

 樹海化を長時間展開した結果世界が滅亡する、なんてこともない。

 あとは、戦いを長引かせないようにしてマガエノメナを倒すだけだ。

 

 何故か勇者だけでなく巨人化した水都まで樹海化に巻き込まれていたが、今の水都は控えめに言っても普通の人間ではない。そこは仕方ないことだろう。

 水都をマガエノメナから守りながら、マガエノメナを倒す。

 攻守を分担して仕留めきる。

 今の彼らなら、それができるだけの実力と絆があった。

 

『行くぞ皆! この三分で片付ける! 見せてやろうぜ、俺達の勇気を!』

 

「応!」

「ええ」

「やってやりましょうね!」

 

 ティガトルネードの足が振るわれる。

 極真空手の流れを汲むローキックは、かわし難い足狙いの一撃だ。

 マガエノメナは、それを"瞬間移動"にてかわす。

 

『!』

 

 ティガの背後を取るマガエノメナ。

 だが、瞬時に反応したティガが振り向きつつ、抜き撃ちのハンドスラッシュを放った。

 それすらも、マガエノメナは連続瞬間移動で回避する。

 

 瞬間移動時の僅かな気配の動きを感知し、背後に回られても瞬時に見切る竜胆が化物なのか。

 連続瞬間移動ができるマガエノメナが化物なのか。

 一概には言い切れないのが恐ろしい。

 彼らの戦いは、既に神話の領域にある。

 

『瞬間移動か……皆、背後に気を付けろ!

 マガエノメナが視界から消えたら振り向くことを心がけて!』

 

 マガエノメナが瞬間移動を連続して発動し、樹海のいたる所にて出現と消失を繰り返す。

 的が絞れない。

 接近できない。

 

「そっちにムーブしてるわ!」

 

 巨人と勇者達は互いが互いの背中を守れる陣形を組み、マガエノメナの現在位置を互いに教え合うことで死角を塞ぎ、マガエノメナの奇襲を抑制する。

 特に、マガエノメナの瞬間移動に完璧に対応しているティガと歌野がいることで、布陣の隙は極限まで削られていた。

 

(ゼットほど瞬間移動の『入り』と『終わり』に丁寧に気配を消してない……)

 

 右にマガエノメナが現れた。

 と思ったら消えて、頭上に現れ、そこで光弾を発射してくる。

 光弾を竜胆がティガ・ホールド光波の光ネットで受け止めて反射しようとするが、光弾が受け止められる前には、マガエノメナはティガの側面を狙える位置に瞬間移動していた。

 頭上からの光弾を受けていれば回避が間に合わないタイミングで、マガエノメナはティガの側面へと光弾を放つ。

 

 大天狗の大火炎、千景の大呪術が頭上からの光弾を受け止め、勇者と巨人が一緒に横っ飛びに跳び、頭上からの光弾と側面からの光弾を必死に回避する。

 諏訪に行った時の連戦の負荷がまだ体に残っている若葉と千景が、大威力攻撃の発動の負荷で、表情を顰めた。

 

(……だけど、十分に脅威ッ!)

 

 そうして勇者と巨人が回避した隙に、マガエノメナは再度瞬間移動。

 水都を狙える位置に移動して、容赦なく水都を狙い撃つ。

 

「みーちゃん!」

 

 そこで歌野が、腐食能力をカットした鞭を伸ばし、水都の襟首を掴んで引っ張った。

 歌野に巨人を押して助けられるほどの筋力はない。

 だが人体は構造上、服の襟を不意打ちで引っ張って転ばせるのであれば、かなり少ない力で引っ転ばせることができる。

 

 とはいえ、"これから転ばせるよ"と言っておくと妙に抵抗されて上手く行かず、何も言わず引っ張って転ばせると、変な転び方をして怪我をさせてしまう可能性がある。

 歌野は立っていた水都に声をかけつつ転ばせることで、抵抗させずに最小限の力で後ろに体を倒させつつ、水都に受け身を取らせるという絶妙な塩梅を成立させていた。

 

 水都が尻もちをつき、光弾は命中せず通り過ぎていく。

 

「あ、ありがとう、うたのん。私、いつも助けられっぱなしで……」

 

 お礼を言いながら、水都は歌野に拳を振り下ろした。

 巨大な拳は威力があると言えるし、水都のもやし腕ではそんなに威力が無いとも言える、けれど間違いなく人は死ぬ威力の攻撃を、歌野は横に跳んで回避する。

 

「あっ……」

 

「お礼は嬉しいけど、気は抜かないでねみーちゃん!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 続きエノメナが連発してきた光弾を、割って入ったティガブラストが手刀で切り落としていく。

 が、エノメナの光弾は弾速も速く、かつ一発一発が十分な威力を持っていた。

 真っ当に力技で受け止めず、手刀に纏わせた光の刃でスパッと切ったはずなのに、手が衝突の衝撃で痺れてしまう。

 

『ぐっ……速く重い……!』

 

 マガエノメナはまた高速で瞬間移動を繰り返し、離れた場所からの光弾攻撃を続けてくる。

 ランバルト光弾も、デラシウム光流も、スペシウム光線も、この距離では当たらない。

 ホールド光波を当てれば、ゼット同様に瞬間移動は封じられる可能性は高い。

 だがそれを警戒しているのか、マガエノメナはかなり距離を取って光弾を連発し、ティガの動きを特に注視しているようだった。

 

 ティガの肩に、若葉が降りる。

 

「地味に厄介だな。瞬間移動を多用する遠距離火力タイプか」

 

『どうする若葉? この手合いは地味に厄介だぞ』

 

「奴の認知範囲からの攻撃は一切通じないだろう」

 

『だよな』

 

「ならば、意識外からの攻撃を叩き込む。それが一番だ」

 

 若葉が囁き、竜胆が頷く。

 

『歌野、みーちゃんの護衛に専念してくれ』

 

「ラジャー・ザッツ・ライト! まっかせて!」

 

 仲間に指示を出す竜胆。

 水都の護衛に歌野、後方バックアップに千景、前衛の攻め手はティガと若葉が務める。

 

『ちーちゃん、バックアップ頼む』

 

「任せて」

 

『頼りにしてるぜ』

 

「知ってる」

 

 玉藻前の殺生石伝承に基づく毒の呪いが、霧のようにぶわっと広がっていく。

 マガエノメナはそれを避けるように瞬間移動を繰り返したが、そこにティガダークの闇の八つ裂き光輪が飛んで来る。

 弾速と切れ味に特化させた、誘導もクソもない直進弾、闇の切断技である。

 

『油断したら、真っ二つだ。分かるだろっ!』

 

 しかも、連射速度が速い。

 心の闇の成長は、そのまま闇の技の成長に直結する。

 威力、弾速、連射速度全てをハイエンドにまで高めた闇の八つ裂き光輪は、怖気がするほどに闇と殺意が込められていた。

 マガエノメナが先程の光弾を十数発連射しても、闇の光輪一つで全部切り裂かれてしまう。

 

 さしもの光ノ魔王獣も、こんな闇の光輪は受けていられない。

 瞬間移動を連発するマガエノメナに対し、ティガは闇の光輪の連射速度を引き上げた。

 敵が消え、現れ、八つ裂き光輪が絶え間なく放たれ、結界の外に突き抜けていく。

 

 マガエノメナは巧みに八つ裂き光輪をかわし、時に反撃も織り交ぜながらティガの一挙一動に注視し、小さな動きや予備動作も見逃さない。

 ティガが何か小細工を仕掛ければ、それを一つも見逃さない、そんな姿勢であった。

 

 だが、だからこそ。

 正面から飛んで来た八つ裂き光輪の全てを、マガエノメナは回避したが。

 異様なタイミングで、異様な軌道で、その背中を襲った八つ裂き光輪の直撃を受ける。

 悶え声を出すマガエノメナの後方で、若葉が剣を構えていた。

 

「知らなかったのか?」

 

 ティガが攻撃し、攻撃し、マガエノメナの注意を最大限まで引いて―――マガエノメナの注意がティガ以外の皆から逸れたその一瞬に、若葉は聖剣で闇の光輪を受け止めた。

 

「この剣は、()()()()()()()()んだ」

 

 そして反射し、マガエノメナの背中に当てたのだ。

 

 攻撃が成立したことを喜ぶべきか……ティガの闇が"聖剣が跳ね返すべき邪悪"として判定されていることに、不安を覚えるべきか。

 余計な思考を後回しにして、若葉はマガエノメナの目を狙って火炎をぶつける。

 痛そうに目を押さえるマガエノメナに、ティガのホールド光波が直撃した。

 

『これでお前はもう、瞬間移動できない!』

 

 電磁波汚染。

 瞬間移動。

 共に最悪な能力だが、竜胆達に対処できないものではない。

 

 地獄なら、いくつも越えてきた。

 最強となら、何度でも戦ってきた。

 ただ厄介で強いだけの敵など、もはや彼らの敵ではない。

 

『ちーちゃん! 頼む!』

 

「……」

 

『ちーちゃん?』

 

「なんか、こう……

 マリンスペシウムに必要なのは分かってるけど……

 竜胆君を攻撃するのは嫌……なんだか凄く嫌……」

 

『……頼むから!』

 

「……ええいっ!」

 

 千景の呪術を、腕に溜めた光と光をぶつけて生んだスパークにて、受け止める。

 溜めた光に、千景の力が混ざる。

 破壊の光線と破壊の呪術が混じった、物理と概念の同時破壊エネルギー。

 十字に組まれたその腕から、混ざりに混ざった最高の一撃が解き放たれる。

 

 竜胆と千景の絆を形にしたそれが、過去のマリンスペシウム光線のどれよりも強い力を発しているように見えるのは、きっと気のせいではない。

 

『これで決まりだ!』

 

 呪を練り込んで、光を放つ。

 

『―――マリンスペシウム光線ッ!!』

 

 十字を組んで狙った敵に、光り輝く必殺技の贈り物。

 

 天の太陽神、海の邪神の力を併せ持っている、最強最悪のカテゴリと言っていい"星辰の魔王獣"ですら、マリンスペシウム光線は単体では防げない。

 絶殺。

 必殺。

 確殺。

 闇の者達からすれば、悪夢のような必殺光線であった。

 

 なのに。

 

(吐き気がする)

 

 竜胆は、何か、違和感を抱いていた。

 

(なんだ、この感覚)

 

 何か、とてつもないことを、やらかしてしまったような。

 

 マガエノメナが光弾発射能力と雷爪能力を組み合わせ、光と雷が混じった爪でマリンスペシウム光線を受け止める。

 だが、マリンスペシウムはそんな急場しのぎの防御では受け止められない。

 二つの神の力を受けた魔王獣バーテックスにも受けきれない。

 爪が、手が、溶けていく。

 

 だがそこに、『闇』が湧いてきた。

 

 あまりにも濃く、どこから湧いてきたかも分からない闇。

 それがマリンスペシウム光線の光を削り、急速にマガエノメナの体を修復していく。

 が。

 命中したマリンスペシウム光線は、『闇』とマガエノメナの両方が全力で抵抗しているというのに、容赦なくマガエノメナの腕をドロドロに溶かし、マガエノメナを殺すべくぶつかり続ける。

 

「マリンスペシウム光線。

 良い技ね……敵に回すなら、あんな恐ろしい技はないわ。

 事実上、防御も吸収も不可能な技。

 三千万年前のティガにそんな技はなかったはずよ。

 あなたは与えられた力を使うだけでなく、仲間の力で伝説を塗り替えた」

 

『! この声、カミーラ!?』

 

 その闇を操っているのは、カミーラだった。

 

「―――だから、それを奪おうとするのは、当然のことよね」

 

 ふっ、と闇のエネルギーが転換される。

 マガエノメナの防御エネルギー。

 マリンスペシウム光線のエネルギー。

 そして、闇が吸い上げたマリンスペシウム光線のエネルギーと、闇自体のエネルギー。

 混ぜてはいけない薬品の如くそれらが混ざり、閃光を主とする大爆発を起こした。

 閃光が、勇者と巨人の目を焼く。

 

 カミーラの計算により、巨人と勇者の目を焼き、その視界を完全に奪うのに十分な閃光が発せられたのだ。

 

「うわっ!」

「きゃっ!?」

 

 マガエノメナをカミーラが助け、そして、"もう一体"が参戦する。

 

「お初にお目にかかる。最も、私が生まれたのは最近のことだがなぁ」

 

 "三体目"は流暢に、煽るように喋りながら、勇者達に手を向け、空気を伝って何かを放った。

 空気を伝ってその何かが、"三体目"に近い順に……若葉と千景に、浸透していく。

 

「私の名は『マガヒッポリト』。

 土ノ魔王獣、マガヒッポリトだ。どうぞよろしく……存分に泣き喚くがよろしい」

 

 ()は、地球の地のエレメントと結びつき生まれた魔王。

 地に根付く神々の一柱。

 神であり、魔王であり、星辰であり、バーテックスであるもの。

 土の星辰、星辰ノ魔王獣。

 

 三体目の敵……"土ノ魔王獣・マガヒッポリト"。

 

 有する能力は――

 

「え―――あ、え?」

 

 ―――『対象をブロンズ像化させ、生命活動を停止させる能力』である。

 

 生命活動の停止……つまり、『即死』だ。

 

 千景と若葉が足先から順に、"空気を媒介にしてブロンズ化能力を発動した"ヒッポリトの力によって、強制的にブロンズ化させられていく。

 

「体が固まっ……嘘っ……」

 

 歌野は目も見えていないのに、"嫌な予感がした"というだけで後方に跳んで回避していた。

 更には立ち上がっていた水都の体を鞭で引っ張り、今度は"怪我をしてもいい"くらいの意識で全力で転ばせ、ヒッポリトの青銅化攻撃を回避させる。

 だが、若葉と千景は、間に合わない。

 

 カミーラは目が完全に潰れているのに回避した歌野を見て、ため息を吐きつつ、どこか納得した様子だった。

 

「でしょうね、白鳥歌野。

 あなたはそうする。あなたならそれができる。

 だから私のティガを手にするためには……あなたをこうして、封じるしかなかった」

 

「カミーラ……あなたはまさか、最初からこの悪辣なストラテジーのために!?」

 

「ええ」

 

 歌野は、心が読めるから。

 知性がある存在を存在を元に作られた星辰のバーテックスであるマガエノメナとマガヒッポリトを効果範囲に捉えてしまえば、完全な奇襲も先読みしてしまう。

 カミーラの悪辣な企みも全て見抜いてしまう。

 

 だから、水都を使った。

 水都を"攻撃しやすく守りにくい大きな的"にした。

 歌野を自由に動き回れない位置に固定した。

 水都がいたせいで、歌野は結界外に出て行くことも、結界内に来たばかりのカミーラやマガヒッポリトから情報を速攻で引き抜くこともできなかった。

 

 水都に対する一手は、白鳥歌野を完封するためにあった。

 精霊・覚がその脅威を発揮するのを、封じ込めるためにあった。

 "マガヒッポリトが何かやらかす前に歌野がその企みを見抜く"という1%はあった勝機が、奇跡が起こる余地が、カミーラの手で念入りに潰されていた。

 

「心が読めるあなたをどうやって処理するか。

 どうやって私の盤上で、私の思う通りに動く駒にするか。考えるのに、少し難儀したわ」

 

 奇跡は起こらないから奇跡、と言う者もいる。

 奇跡は起こったことがあるから奇跡、と言う物もいる。

 だが、カミーラは違う。

 奇跡は"光の巨人なら起こして当然のもの"であるからこそ奇跡であり、"自分の手で潰せるからこそ"の奇跡なのだ。カミーラにとっては。

 

 奇跡は潰れる。

 

 若葉と千景の体が、ブロンズ化し、死に至っていく。

 

「くっ……あっ……体、がっ……」

 

「くるっ、苦しいっ……!」

 

 ティガは苦しがっている仲間達の声を聞き、いてもたってもいられなくなり、自分の目を自分の手で抉り取った。

 高速回復の条件を満たし、高速で目を回復し、仲間達の状態を見る。

 

 ……この行動は、正解ではなかったかもしれない。

 だって、ティガには何もできないのだから。

 救うことも、助けることもできないのだから。

 なのに、ブロンズ化して苦しむ仲間達の姿を見て、トラウマとして心に刻んでしまう。

 

 何もできないのなら、せめてその姿だけは、見ない方が良かった。

 

『若葉! ちーちゃん!』

 

 竜胆が手を伸ばす中、二人の即死とブロンズ化が、完了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頼りになる男だった。

 信じられる男だった。

 不思議な男だった。

 

 私はそう思っていたが、ひなたは、どう思っていただろうか。

 友奈は、千景は、杏は、歌野は、あいつをどう思っているのだろうか。

 

 最初の印象は良くはなかったが、話し合い、助け合い、守り合う内に、そんな最初の印象はどこかに行ってしまった。

 暴力と秩序が入り混じっている。

 光と闇が入り混じっている。

 個人の正義と、全体の正義、どちらにも偏りきれず雁字搦めになってしまっている。

 相反する二極を抱え込み、生きている人間。

 なのに。

 『善と悪が入り混じっている』とだけは、思えなかった。

 

 なんでだろうか。

 なんで私は、あいつを悪と思えないのだろうか。

 ちょっとくらいは、あいつに悪いところがあったと言えるはずなのに。

 いつから私は、あいつを一欠片も悪だと思えなくなってしまったんだろうか。

 

 報われてほしい。

 あいつに、報われてほしい。

 『報い』こそが乃木の生き方だと、祖母から教わった私だ。

 

 頑張った者に報われてほしいと思うのは、当然のことだろう?

 ……いや、違うか。

 そういうのとは関係なしに。

 私は、あいつ個人に、報われてほしいんだろうな。

 昔辛い思いをした分、いい思いをしてほしいんだろう。甘い考えかもしれないが。

 

 頼っているし、頼られている。

 助けているし、助けられている。

 あいつが私を成長させて、私があいつを成長させている。

 私はあいつを大事に思っているが、私と同じくらいにはあいつも、私のことを思ってくれていると信じている。

 

 それは思い上がりじゃない、確かな事実だ。

 私とあいつは対等だ。

 これまでも、これからも。

 

 だから。

 助けないと。

 守らないと。

 止まってなんていられるものか。

 

 頑張った人達に、報われる未来をあげられていない。

 バーテックスに、報いの滅びを与えてやれていない。

 何より、あいつが報われていない。

 

 まだだ。

 だから、まだだ。

 まだ止まれない。

 こんなところで終われない。

 

 死にたくない。

 まだやりたいことがある。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 そんなことは些事だ。

 私のことより、あいつのことだ。

 

 なんて顔をしてるんだ、あいつは。

 そんなに心配そうな顔をするな。

 大丈夫だ。

 今、私がまた、お前を守りに飛んで行くから。

 

 任せろひなた。

 お前の幼馴染は、お前が誇れる乃木若葉のままでいる。

 戦えないお前の代わりに、お前がしたいことを私が果たしていこう。

 まずは、あんな風になっている竜胆を落ち着かせることからだな。

 

 ―――安心―――させて―――やらないと―――

 

 

 

 

 

 私は村で、何も悪いことをしてないのに悪いことをされてきた。

 そんな思いが、ずっと自分の中にあった。

 私は無価値だと、ずっと思ってきた。

 皆がそう言ってる気がして、ずっとそう感じていた。

 だから、生きているのが辛かった。

 

 "楽しい"をくれて、世界を変えてくれた人がいた。

 竜胆君は、あの地獄のような世界の中で、私に笑顔と、小さな幸せをくれた。

 

 竜胆君は何も悪いことをしてないのに、"私に"悪いことをされた。

 私は最悪だった。

 なのに、竜胆君は、一度も。

 ただの、一度も。

 私を大きな声で罵らなかった。

 私を責めなかった。

 私のせいだとは、言わなかった。

 

 だから、そう。

 幸せになってもらいたかったんだ。竜胆君に。

 竜胆君を一人にしたくないって、そう思ったんだ。

 世界の全てを敵に回してでも、竜胆君の横にいようと思ったんだ。

 

 その願いが、空高くに在る星に触れるくらいに無理なものなら、私だって諦めていた。

 でも、そうじゃなかった。

 高いところにある願い、ではあったけど。

 それでも頑張れば、届かない高さにあるものじゃないと、そう信じて、頑張った。

 

 だって、そうだ。

 竜胆君は私が微笑みかけると、嬉しそうにする。

 私が無事だと知ると、とても安心した顔をする。

 私が幸せそうだと、竜胆君も幸せそうだ。

 どのくらいかは分からないけど……竜胆君は間違いなく、私のことが大好きだから。

 

 私はその分、大好きを返さないと……いけないけれど、気恥ずかしくて、何もできない。

 優しくしてもらった分だけ、優しくし返せない。

 高嶋さんに対してもそうだ。

 私は私の想いを、私の外に出していけない。

 

 それでも、竜胆君も高嶋さんも、優しくて寛容だから。

 そんな私に無言のまま"ゆっくりでいいんだよ"と言ってくれている。

 "ぐんちゃんのペースでいいんだよ"って、接し方で伝えてくれている。

 それに甘えて、私は私のペースで、ここまで来てしまった。

 

 まだ、全部、返せていないのに。

 二人に救ってもらった分、二人を救い返せていないのに。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 なんで私はいつも、いつも、こんなに―――手遅れになってから―――願いを―――

 

 ―――私はまだ―――泣いてしまう―――竜胆君―――泣かせたくない―――

 

 ―――嫌―――消えたくない―――抱きしめて―――愛して―――助けて―――

 

―――竜胆君を―――誰か―――助けてあげて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想いだけで奇跡が起こるなら、苦労はないでしょう?」

 

 完全にブロンズ像化した千景と若葉を、カミーラが踏んで粉砕する。

 二人に向けて手を伸ばしたティガの目の前で、二人のブロンズ像を粉砕する。

 欠片になっても踏み続ける。

 原型が何も残らないように、徹底的に。

 

「ふふ、ふふっ……あははははははっ!!」

 

 ブロンズ像が、『千景だったもの』と、『若葉だったもの』に変わる。

 

「ああ、私のティガに群がる薄汚い雌豚共が、ようやく少し死んでくれたわ」

 

 ティガの全身から闇が吹き出す。

 絶望。無力感。現実逃避。自己嫌悪。そして……憎悪。

 ティガの全身から吹き出した闇を真紅の光、青紫の光が、"止まれ"とばかりに拘束するが、光はあっという間に闇に飲み込まれていった。

 カミーラもまた、その全身を己が闇に飲み込ませていく。

 

『カミーラあああああああああッ!!!』

 

「―――素敵な憎悪」

 

 飛びかかるティガ。

 狙うはカミーラ。

 もはや竜胆は、カミーラがこの地上に生きていることを許さない。

 

 そしてカミーラは一瞬で、その身を"変身"させていた。

 それは先日、心が読める歌野に対し見せた、『今のカミーラの真の姿』。

 

「改めて名乗りましょうか」

 

 強化変身を遂げたカミーラはティガの突撃をひらりとかわし、カミーラの手がティガのカラータイマーに触れる。

 その瞬間、ティガの胸で闇が弾けて、ティガのカラータイマーの光が消えた。

 

 破滅魔人ブリッツブロッツが使っていたのと同じ、『対ウルトラマンの即死技』。

 手でカラータイマーに触れることで、相手の体内の光を0にしてしまう最悪のスキル。

 

「闇ノ魔王獣『マガカミーラ』。

 それが今の私の名。

 ティガ、あなたに殺され、原型も残らないほどに体を粉砕された女よ」

 

 魚のような鱗。巻き貝のような甲殻、タコのような異質な肉、歪んだ顔の造形。

 先程まで曲がりなりにも"闇のウルトラマン"と言うべき姿だったカミーラは、闇ノ魔王獣と化すことで、完全に"ウルトラマンだった怪獣"と言うべき姿に成り果ててしまっていた。

 

 変身が解けた竜胆が地に落ち、その手からブラックスパークレンスが転がり落ちる。

 

 マガカミーラの手から放たれた氷の槍が、ブラックスパークレンスを粉砕した。

 

「これで、第一段階は終了」

 

 竜胆の体を光に変換する機能を持った『スパークレンス』が失われた以上、もはやティガが光の巨人になることはできない。

 仲間から受け継いだ光はもう使えない。

 使える力はもはや、純然たる闇の力のみ。

 

 千景は死んだ。

 マガエノメナの電磁波への呪術的対処はもはや不可能。

 若葉は死んだ。

 ティガが失われ若葉が死んだ以上、飛翔できる戦闘要員はもう存在せず、四国の外をマガエノメナが動き回っていても、それに対処できる移動方法を持つ者はいない。

 海上の敵には、もう手が出せない。

 

 御守竜胆が最も頼りにした勇者と、最も頼りにされたかった勇者が、終わりを迎えた。

 それは、希望の終わりでもある。

 

「ちーちゃ……わかば……」

 

「あら、リンドウ。

 この期に及んで他の女の名前?

 悲しいわ、悔しいわ、妬ましいわ―――ふふっ、まだ周りの女の死が足りない?」

 

「……っ!」

 

「追加してあげましょうか?」

 

 大切なもの重みは、失ってから実感するもの。

 大切なものの喪失の痛みは、失った後の地獄の日々が叩きつけるもの。

 カミーラは竜胆にトドメを刺さない。

 "大切な人を失ってからの地獄の日々"を、プレゼントする。

 

 ―――とても長く、とても短い、最後の地獄の日々が、開幕を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無様に樹海に転がる竜胆を見下ろし、マガヒッポリトは鼻で笑った。

 

「終わりだな、『星の戦士』」

 

「ヒッポリト、次にティガをその名で呼べば―――殺すわ」

 

「……む」

 

 『星の戦士』。

 それはクトゥルフ神話に語られる、(ふる)き神。

 炎、あるいは光で出来た肉体を持ち、赤い火の玉となって宇宙の彼方から地球に飛来する。

 悪を察知してはそれを素手で叩きのめし、死の光線を撃ち放って邪神を打ち倒し、海の底に封印すると言われている存在だ。

 善なる神であり、人によっては星の戦士を"人にとって唯一の味方である神"とすら言う。

 共通点は、ある。

 

 星の戦士は、オリオン座から飛来すると言われている。

 オリオン座には『M78星雲』という星雲がある。

 三千万年前の『大本のティガ』は、空の彼方からやって来て世界に平和をもたらし、地球にティガの光を残し、故郷の宇宙の彼方へと帰って行った……と、伝えられている。

 共通点は、ある。

 

 初出の"潜伏するもの"では、邪神とその信奉者に抗う人間達の思いに応え、星の戦士が降臨し、世界を滅ぼさんとしたロイガー/ゾイガー達とその信奉者達を光線にて焼滅。

 "ハスターの帰還"では、復活した海の邪神とハスター/ガクゾムが戦っているところに星の戦士が現れ、二体まとめて叩きのめし、投げ飛ばし、再封印したと描かれている。

 共通点は、ある。

 

 マガヒッポリトは、ティガを星の戦士と呼んだ。

 宇宙の彼方から飛来し、光線を撃ち、三千万年前に海の邪神を封印したティガを、星の戦士と呼び、蔑んだ。

 "そんな姿に成り果てた"光の巨人を、マガヒッポリトは鼻で笑った。

 

(ブザマなものだ。かつては邪神を封印したと語られる、善なる星の守護神がこれか)

 

 もはや戦えるのは歌野のみ。

 歌野は既に気軽に立ち回れない状況下にあった。

 ここからカミーラが何をするにしても、歌野以外の人間の誰もが戦闘力を持っていない。

 この状況では軽挙妄動など許されないのだ。

 

 カミーラは歌野が大人しくしていることを確認し、歌野や水都が余計なことをしないよう一瞬たりとも目を離さず、魔王獣達に指示を出す。

 

「さあ、始めましょう」

 

 マガエノメナが動く。

 マガヒッポリトが動く。

 そして、結界外から()()()()()()()()()()()()()

 

 三体の魔王獣は沖縄爆弾の影響で負傷している。

 だが、動くこと自体に問題はなさそうだった。

 沖縄爆弾はこの三体の魔王獣の参戦を遅らせてくれたものの、倒すまでは至らなかったらしい。

 

 そのおかげで、四国が六体の魔王獣に蹂躙されて確定敗北する未来は回避された。

 だがそれも、延命に過ぎなかったのかもしれない。

 

「北に光ノ魔王獣。

 東北東に風ノ魔王獣。

 西北西に土ノ魔王獣。

 南南東に水ノ魔王獣。

 南南西に火の魔王獣。

 そして中央に私……闇ノ魔王獣、マガカミーラ」

 

 魔王獣の総数は六体。

 カミーラが中央に立ち、樹海化した四国に立つ他五体の魔王獣が、星の形を作り上げる。

 中心のカミーラが手を掲げると、歪んだ星と、その真ん中に浮かぶ目の意匠が見えた。

 

 竜胆の遺伝子は、それがなんであるかを覚えている。

 

「……エルダー……サイン……」

 

 クトゥルフ神話において海の邪神を封印した『星の戦士』は、旧神と呼ばれる存在である。

 旧神は、邪神を封じた存在であると語られている。

 この旧神の力を宿した印が、"エルダーサイン"と呼ばれるものである。

 

 エルダーサインは、旧神による封印の証。

 その形状は、五つの頂点を持つ星と、その中央の目であると言われる。

 カミーラは六体の魔王獣を用いて、中央の目と五つの頂点による星を作り上げた。

 そして、そこに邪悪な力を循環させたのである。

 

 それは、"海の底の邪神を封じている"エルダーサインの逆位相。

 海の底の邪神を封じるエルダーサインを右回転だと例えるなら、これは左回転の逆エルダーサインとでも言うべきもの。

 これで、海の底の封印は解ける。

 四国もまた、一気に汚染される。

 神樹は闇に飲み込まれ、四国は人類最後の方舟から一気に、"人が怪物の餌となる地獄"に変わり果てるだろう。おそらく、一瞬にして。

 

 四国人口・四百万人は海の邪神に捧げられた生贄となり、四国は新たなるルルイエと化し、邪神の生み出す地獄が蘇る。

 星は、邪神に食い尽くされるだろう。

 

 

 

「今ここに、完全なる形で我らが主―――魔王邪神『マガタノゾーア』の復活を!」

 

 

 

 世界が終わる。

 けれど、竜胆にとっては、もはやそんなことはどうでもよかった。

 カミーラが、ずっと千景と若葉の残骸を踏んでいる光景が見えていたから。

 燃え盛る怒りと、煮え滾る憎悪以外の何もかもが、竜胆の頭から消え去っていた。

 

「二人を、二人を―――汚え足で踏むんじゃねええええええええッ!!!」

 

 爆発的な感情の本流が、スパークレンス抜きで竜胆を闇の巨人に変える。

 竜胆の感情が。心の光が。希望が。明るい思い出が。

 闇に呑まれて、消えていく。

 光の混じっていない最高純度のティガダークが、憎悪によって顕現する。

 

「どのくらい()()()()()()、確かめてあげましょう」

 

 カミーラはそんなティガを見て、優雅に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 歌野参戦時、丸亀城陣営暫定数。

 ウルトラマン一人、勇者五人、巫女二人。合計八人。

 

 乃木若葉、郡千景死亡。

 

 ウルトラマン、残り一人。

 勇者、残り三人。

 巫女、残り二人。

 

 残り、六人。

 

 

 




6/14


 ゼットの言葉を覚えているでしょうか?
 グレート死亡時点で「あと八人死ねば私と互角になるな」と言っていたあれです
 はい、あと一人死ねば、あの時ゼットが言及した数字に届きます

【原典とか混じえた解説】

●闇ノ魔王獣 マガカミーラ
・愛憎戦士 カミーラ
 闇の星辰。
 原作における、『邪神の闇すら歪んだ愛で従えた者』。
 クトゥルフ神話における、邪神クトゥルフの愛娘、旧支配者クティーラ。
 クティーラの命と肉体は、海底に封印されたより恐ろしく強大な邪神を蘇らせる、とクトゥルフ神話においては語られている。
 また、その名から美しき美女・吸血鬼カーミラの逸話とも同一視された。

 武器は氷の鞭カミーラウィップ、それを変化させたアイゾード。
 氷を槍として放つ連射可能なデモンジャバー、それを凝縮し数十倍レベルの連射速度で放ち、遠目には光線のようにしか見えなくなるジャブラッシュ。
 また、人間形態においてすら使用可能な雷撃能力も持つ。
 それぞれが、ティガを絶命させるには十分な威力を持っている。

 肉体を失いながらもその愛憎だけで三千万年を生き延びたカミーラが、天の神、『海の底の邪神』、『魔王の獣』の力の一端と、ルルイエに蓄積された膨大な闇と一体化して変じたもの。
 まごうことなく、"地球の闇"。
 地球で生まれた闇のエレメント。
 地球に生まれ心持つ存在ならば、誰もが心に持つ可能性のある、『愛憎の闇』の化身。
 原作ティガとの対峙において原作カミーラは、人間の心の闇を否定するティガを前にして、
「何故闇の力を否定する」
「それが人間の本質だというのに!」
 と、憎しみを募らせた。

 三千万年前、彼女の(あい)を光に変えて、ウルトラマンティガは完成した。
 原作におけるティガがパワータイプで使用する雷撃や、スカイタイプで使用する氷撃は、カミーラの使用する雷と氷であると推測されることもある。

●土ノ魔王獣 マガヒッポリト
・地獄星人 ヒッポリト星人
 土の星辰。
 "ウルトラマンSTORY0"における、『人を騙し神として崇められた宇宙人』。
 すなわち、地球の地に根付く天候神としてのヒッポリト星人。
 生物を強制的にブロンズ像化させ、即死させる能力を持つ。
 マガヒッポリトが最も好むのは、"ブロンズを空気感染させる"技。
 青銅(ブロンズ)にする能力をもってして、地球の地のエレメントを体現する。

 オリジナルのヒッポリト星人は、当時地球を守っていたウルトラマンエースをブロンズ化し、救援に来たウルトラマン、セブン、ジャック、ゾフィーのウルトラマン四人もブロンズ化、防衛隊の戦闘機も全滅、更に助けに来たウルトラの父をも倒してしまった。
 近接戦闘力も悪くはないが、真に恐るべきはその知略。
 丁寧に罠を準備し、的確な場所に仕掛け、最適なタイミングで使用、敵の弱みを見逃さない。
 そのため、知略を尽くして"自分より強く多い敵を倒す"ことにとことん向いた存在であるとも言える。

 また、ウルトラの星の強さの頂点・ウルトラ兄弟だが、11人中9人がヒッポリト星人にブロンズ化され負けたことがあるという。
 TV主役経験者だと8人中7人。
 ……多い!
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