夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 ゆゆゆいの雪花ちゃんの精霊は創作においてものっそく燃える展開に使える精霊なんだと周知していきたい。
 先日、今回の豪雨で丸亀城一部崩落してて笑っちゃいました。

 さて、今日は『ウルトラマンの日』です。
 日本で初めて、世界で初めて、ウルトラマンがお茶の間のTVに映った日なのです。
 始まりのウルトラマンの日です。
 日本記念日協会にも認可されている、立派な記念日なんですよ。
 なのでサービスとしてこの日のため、後書き含めて5万4千字用意しました。
 じっくり楽しんでくださいませ。


5

 荒ぶる神、荒御魂。

 今のティガダークをカテゴライズすれば、間違いなく荒御魂となるだろう。

 その戦いはまさしく、荒々しさを具現化したものだった。

 

『うおおおおおおッ!!』

 

 日本の荒ぶる神の代表格、スサノオは嵐の神である。

 嵐は荒々しき神であり、荒々しき神は嵐そのもの。

 そういった同一視を体現するかのように、竜胆の両拳は嵐を作った。

 

 攻める竜胆、攻められるゼットの間から、空気が消える。

 あまりにも高速で連打された左右交互の正拳突きが、両者の間の空気を殴って吹き飛ばし、一種の真空状態を作り出したのだ。

 ゼットはその真空や、真空に自分の体が引っ張られるのを気にもせず、竜胆の拳撃と同速度で槍を振るって攻撃を切り弾く。

 ティガの腕を切り裂いた感触はあったが、ティガの腕は止まらない。

 切られても、切られても、止まらない。

 

 肉の体で生きている人間を辞め、精"神"の比重が上がった竜胆ティガは、そんなものでは止まらない。

 怒り。

 憎しみ。

 怨念。

 全てを拳に込め、怒涛の連打を浴びせていく。

 

 ティガとゼットが戦う横で、マガヒッポリトは歌野と雪花に襲いかかっていった。

 

「さて、貴様らのブロンズをカミーラ様の下へと届けようか!」

 

 マガヒッポリトの役目は、歌野と雪花の排除と抹殺。

 カミーラの指示を形にすべく、マガヒッポリトは指を振る。

 歌野と雪花の頭上の"空気"がブロンズ化し、二人を押し潰す超重塊となった。

 

(空気をブロンズ化させた!?)

 

 歌野と雪花は左右に跳んで、それを回避。

 瞬時の判断の速さはまさしく一流の勇者のそれであったが、敵もさるもの。

 回避直後の歌野を狙い、マガヒッポリトは空気を媒体にしたブロンズ化攻撃を仕掛けた―――のだが、歌野は空から落ちて来たブロンズ塊を盾にして、それを悠々と回避した。

 

「やーね、怖い怖い」

 

「精霊・覚か……」

 

「これ以上の不意打ちストラテジーは……あんまないか。よかったよかった」

 

 マガヒッポリトの心を読み、これ以上の悪巧みが無いことを確認する歌野。

 こうした情報戦で歌野は常に優位に立てる。

 敵を効果範囲に捉えられるのであれば、奇襲も9割がた防げる。

 更に言えば、空気を媒介にした攻撃も先読み可能なため、回避は容易であった。

 

 いいなあ精霊、と雪花は羨ましそうに見る。

 雪花はまだ、自分の精霊・切り札を一度も使ったことがなかった。

 

「精霊、精霊ね。一度も使ったことないけど……こうでいいのかな」

 

 それを今切り、感覚で行使する。

 

「―――『コシンプ』!」

 

 感覚で切られた切り札は、通常の精霊のように使用者と一体化せず、かといって敵に向かっていくでもなく、ティガへ向かって飛んで行った。

 そして、ティガの肉体と融合。

 ゼットと戦っていたティガのスペックが、急速に上昇する。

 

『!?』

 

 急激な攻速の上昇は竜胆とゼットの両方を驚かせ、ティガの拳がゼットの頬を殴り抜ける。

 ふらり、とよろめくゼットが後退した。

 

「一本取られた、といったところか」

 

『これは、一体……?』

 

 四国の勇者システムの特徴の一つ、精霊システム。

 精霊の使用には、勇者個人の個性が出るものだ。

 雪花が引き当てた精霊、名を『コシンプ』という。

 北海道や樺太に伝わる伝説の精霊だ。

 伝承に残る、その能力は。

 

『自分の体ではなく、他人の体に取り憑かせる精霊?』

 

「後で消せるとしても、自分の体に精霊の穢れ溜めるとかそういうのは嫌だしね」

 

 "他人の体への憑依"である。

 精霊は、基本的に使用者である勇者の肉体に憑依する。

 そのおかげで精霊は固有の能力だけでなく、身体能力の上昇などの効果ももたらすのだが、反面精霊の穢れの蓄積などのデメリットも発生してしまうものだ。

 

 雪花が引き当てたのは、その中でも異端の精霊。

 北海道において、人間に惚れた動物が人間に憑依するという、精霊の一種である。

 

 コシンプは、人間に憑依する動物霊の総称。

 多くの場合、メスの動物が人間の男に惚れたことによって発生する。

 コシンプは絶世の美女となって男の前に現れ、男に憑くのだ。

 オスのコシンプが女性に憑いた場合不幸と死しかもたらさないが、女性のコシンプが男に憑依した場合、その男を良い運命に導くという。

 

 一言で言えば、"好ましく思う男を強化する"精霊。

 雪花が『その男のことをどれだけ好きか』が強化度合いに反映される、そんな精霊である。

 

 そりゃそうだ。

 この精霊は、そもそも惚れた男に憑依させる精霊なのだ。

 友情、信頼、恋慕、憐憫。

 なんであれ、雪花自身が向ける感情の大きさがそのまま強さになる。

 竜胆と雪花の付き合いはまだ数日しかなく、されど雪花が竜胆に向ける感情は、数日の付き合いにしては随分と大きかった。

 

「やっちゃえ、御守先輩!」

 

『……感謝する!』

 

 スペックアップしたティガダークの力は、技は、今、ゼットを超える。

 

「数々の絶望の踏破。

 祟り神への成り果て。

 精霊の付与。

 メタフィールドの強化。

 そして、数々の戦いの経験と、無数の努力」

 

 ティガが放つローキックを、ゼットがスネで受ける。

 竜胆は蹴り足から対角線コンビネーションに繋ぎ、左右の拳を連打。

 受けに回ったゼットの槍を掴み、上手い具合に柔術で投げ飛ばす。

 ゼットはその力を上手く利用し、投げられている途中でティガの体を蹴り、跳んで一気に距離を取った。

 

「なるほど、強い」

 

 ティガダークは、攻撃の一発一発が重く、速い。

 打撃、投げ、極め、どれも高水準だ。

 ただ、その攻撃の破壊力が怨嗟から生まれているということだけが、ゼットにとっては少し不満なところである。

 

「勇者が、困難と絶望に立ち向かう勇気の体現なら……

 さしずめお前は、天の神とバーテックスに殺された者の恐怖と怨念による応報者か」

 

 ティガダークの向こうに、70億人の人間の無念と怨念が見えるかのようだった。

 殺されてきた人々の存在が、ティガダークに力を与えている。

 友を殺され。

 先輩を殺され。

 大切な人を殺され。

 ()()()()

 ティガダークは、最強と成ったのだ。

 

『殺されてきたんだ。踏み躙られてきたんだ』

 

「ああ、そうだ」

 

『俺の大切な人が殺されたように、色んな人が大切な人を殺されて……

 俺と違って、力のない人は、きっと復讐を誓ってもそのまま無残に殺されて……!』

 

「そうだ」

 

『友達を殺された男が!

 恋人を殺された女が!

 親を殺された子が!

 子を殺された親が!

 俺だけじゃない―――殺されて、絶望した人が、たくさん、たくさん―――!』

 

「そうだ! 私達バーテックスが殺した!

 お前達人間には、私達を恨み、憎み、祟る権利がある!」

 

『殺してやるッ! 一匹残らず! 俺の何を代価に捧げても、皆殺しにしてやるッ!』

 

「だが……甘んじて殺されるかどうかは、私達が決めることだ!」

 

 タイプチェンジ能力は、もう無い。

 されどティガダークは、ティガブラストより速く踏み込み、ティガトルネードよりも力強く回し蹴りを叩き込む。

 ゼットが槍にて、その蹴りを柔らかく受け止めた。

 

「祟り神と成り果て、恩讐に全てを投げ打ち!」

 

 蹴り足を槍で押し返し、薙いでティガの頭を打とうとするも、ティガの腕に受けられる。

 返しの上段蹴りを肩で受け、突いた槍をはたき落としで流される。

 一瞬の内に完了していく、神速の攻防。

 

「それはそれで、よかろう!

 光の意志の代行者がいるのなら、闇の意志の代行者がいてもいい! 存分に祟れ!」

 

 祟り神として成立する、人類からバーテックス達へと向かう恨み・怒り・祟りの代行者。

 

「だが、ウルトラマンであるとは認めん!」

 

『ああ、それでいい!』

 

 怨みで戦い、人々に恐怖され、人間性を切り捨てながら心の闇で戦う巨人。

 

 それのどこがウルトラマンであるというのか?

 違う。

 そんなものは、竜胆が見てきたどのウルトラマンとも違う。

 彼が見てきたウルトラマンは、もっと優しくて、もっと暖かくて、もっと輝いていた。

 

『こんな穢らわしいものが、あの人達と同じものであってたまるか!』

 

 闇を纏ったティガの拳が、ゼットの喉に突き刺さる。

 ゼットの破壊力のある蹴りが、ティガの腹に突き刺さる。

 自己を否定し、他者を否定し、全てを壊す黒き魔人は今、黒きゼットンを超えんとする。

 

『俺が、俺みたいな何も守れないクズが―――ウルトラマンであってたまるかッ!』

 

 泣きながらもがくが如く、拳を叩きつけるティガダーク。

 

『あの人達の力は、人の未来を守るためのもので……!

 俺のこの力は、お前達の未来を全て消し去るためのものだ!』

 

「殺意の残虐性が随分と増したな、ティガッ!」

 

 ゼットの槍がティガの顔面をガリガリガリ、と切り抉るが、同時にティガの蹴りがメリメリメリとゼットの腹へとめり込む。

 

 この状態での戦いは、僅かにティガダークが有利。

 

「ぐ……互いにウォーミングアップは終わりだ。全力で行かせてもらうぞ!」

 

 ゼットがその身を、一気に変化させる。

 強化変身・ハイパーゼットだ。

 戦いの中で戦意を高め、取り込んだバーテックス達の力を一気に覚醒させる。

 桁違いのパワーとスピードに、ティガはあっという間に防戦一方となった。

 

『俺は! みんなのために!』

 

「お前が本当に守りたかった"みんな"などもう死んでいるだろう!」

 

『―――っ!』

 

「絶望から逃げるように戦うのであれば、お前は私には勝てん!」

 

 必死に、ゼットが突き出した槍を両手で掴んで止める。

 力負けしているせいか、槍はどんどん押し込まれていき、ティガの腹に食い込んでいく。

 

「今のお前になど負けるものか」

 

『ぐっ……!』

 

「お前が強かった理由が! お前の横から消えている!

 お前が強かった理由は、お前とお前の仲間の間にこそあったのだ!」

 

 ティガが勝てる理由が、ゼットが負ける理由が、理由になってくれる人が、皆死んでいて。

 

 何もかも見透かすようなゼットの物言いに、竜胆は激昂する。

 

『―――知ってんだよッ! そんなことはッ!!』

 

 ティガとゼットの姿がかき消える。

 両者共に、超高速移動戦闘に突入した。

 ゼットは瞬間移動を駆使し、瞬間移動なしでも超高速での飛行を織り混ぜる。

 ティガはただガムシャラに飛ぶ。

 

 瞬間移動能力はティガにはなく、飛行速度でもハイパーゼットには負けている。

 それでもセンスと才能、加えてずば抜けた精神力で、ティガはゼットに食らいつく。

 放たれるホールド光波。

 迎え撃つ一兆度火球。

 

 超高速で戦う両者は衝撃波を撒き散らし、その攻防の余波はマガヒッポリトと二人の勇者を巻き込みかけ、爆発と衝撃で歌野達を吹き飛ばしかけていた。

 

「雪花さん伏せて!」

 

「うわきゃっ!?」

 

 歌野がなんとか雪花の頭を押し下げて、二人揃って伏せることで爆発と衝撃波をかわす。

 マガヒッポリトは巨体ゆえか、かわしきれず尻もちをついていた。

 それは、幻想の光景。

 それは、神話の戦い。

 初速から音速の数十倍というレベルの戦いで、ティガとゼットは互いの命を削り合う。

 

 強さで言えば、ゼットが圧倒し。

 執念で言えば、ティガが圧倒していた。

 

 超高速の戦いは、上を見上げた雪花の目ではとても追いきれない。

 辛うじてその動きの残影を追うので精一杯だ。

 だが自分に精霊を宿している歌野は、元々目がいいのもあって、ちゃんと追えている様子。

 流れ星のように、軌跡だけを残して飛び回っている両者をちゃんと目で追いつつ、雪花の身を的確に伏せさせて衝撃波を回避させていた。

 

「何これ……」

 

「雪花さん、雪花さん、また伏せて」

 

「あ、うん。ありがとね、歌野」

 

「気を付けて。雪花さんがやられたら、ティガの精霊強化も消えてしまうんだから」

 

「うん、分かってる。だけど……」

 

 雪花はティガの軌跡を見上げ、見惚れるようにそれらを見つめる。

 

「光が戦場の中飛び回って、流星を互いに撃ちまくって、雷を置き去りにしてるみたいな―――」

 

 詩的に、感激を、言葉にして述べる。

 

 雪花は空に見惚れていた。

 樹海の作り物の空に、爆発と攻撃の軌跡が、作り物の流星を刻み込んでいる。

 攻撃するたび、防御するたび、ティガとゼットの間に生まれるエネルギーの炸裂が、空に輝く絢爛な星のよう。

 

 ゼットは悪のはずだ。

 ティガも闇のはずだ。

 なのにその戦いが生む光の光景は、人の心を奪うほどにとても綺麗で。

 雪花は、ゼットは敵だと分かっているのに、竜胆は闇に堕ちていると分かっているのに……「あの二人の心ってこんな綺麗だったりするのかな」と、ふと、思ってしまった。

 

 歌野は覚をその身に宿して、ティガの戦いを目で追いながら、チャンスを待つ。

 

(なんて次元の戦い)

 

 飛べる勇者は乃木若葉しかいない……歌野はそう聞いていたが、こうして見ていると、この次元の戦いに若葉がついていくため、どれだけ頑張っていたか、歌野にもよく分かる。

 

 大天狗を得てから、若葉はどれだけ鍛錬を重ねていたのだろう。

 どれほど飛行の鍛錬を重ねていたのだろう。

 本来飛べないはずの人間の体で、どれだけ頑張っていたのだろう。

 ティガと高度な空中戦連携を見せていた若葉の姿を、歌野はよく覚えているから、今更に若葉の存在の大きさを再認識する。

 

(若葉は、本当に頑張ってたのね。

 置いていかれないように、ついていけるように、竜胆さんを一人にしないために……)

 

 若葉が死んでしまったことへの悲しみと、若葉への尊敬が混ぜこぜになって、歌野は何度も「ここに若葉がいてくれたら」と思う。

 空の竜胆を援護する手段を、歌野は持っていない。

 マガヒッポリトもティガとゼットの戦いに巻き込まれないよう、樹海に伏せていた。

 

 何かする時間はある。

 何かする余裕もある。

 だが、何ができるだろうか。

 

(なら、若葉がいなくなってしまった今、私がすべきことは―――)

 

 歌野は思考する。

 感覚的に優れた彼女が意識して戦術を考えた時、それは時に常軌を逸した最適解となる。

 

 音ですら置いていかれる、極超音速の戦場。

 速すぎて歌野には手が出せない。

 声を出して連携しようとしても、音なんていう遅いものでは今のティガに追いつけない。

 と、いうか、大抵のウルトラマンの飛行速度は音速を超えているものである。

 

 歌野は期を見出し、その身に宿した覚の感覚を研ぎ澄ます。

 読心の範囲を絞り、細長く上方に伸ばすイメージで、上方向に集中させる。

 チャンスは一度。

 低空で衝突し、鎬を削りながら飛んで来たゼットとティガを見て、歌野はゼットだけを読心範囲に捉えて叫んだ。

 

「顔狙い、槍突き!」

 

『―――』

 

 音よりも速く飛ぶティガに、声などという遅いもので呼びかける。

 速いティガに、狙いをつけて、遅い音を当てる。

 ゴム鉄砲で銃弾を狙って撃ち落とすようなものだったが、歌野はそれをやってのけた。

 

 歌野が読んだゼットの心が、歌野が読んだ通りの攻撃を繰り出す。

 それを歌野のおかげで巧みに回避し、ティガはゼットの顔を猛烈に殴った。

 闇がこもった一撃が、ゼットの顔面にて特大のエネルギー爆発を起こす。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()吹き飛ばされたハイパーゼットが、地面を転がり、間を置かずに立ち上がった。

 

「空中戦で私がお前に当てた攻撃回数十二。私が喰らった攻撃、一」

 

 ハイパーゼットの力は、強化変身前と比べれば雲泥と言えるほどに強化されている。

 ウルトラマン四人・土着の神々・地球のフルパワーバックアップを受けたガイアSVすら凌駕したハイパーゼットに、スペックで追いすがれるわけもない。

 だから、ティガの攻撃が当たるわけがなかった。

 なのに、当たった。

 圧倒されていたティガが一発だけ当てた、逆襲の一撃。

 

「奇跡のような一だ。そして」

 

 ゼットの攻撃十二回分の傷とダメージはティガの体から消え失せ、ゼットの体にだけ傷とダメージが残る。

 結果だけ見れば、ティガの優勢に見えさえする、そんな結果。

 

 ゼットは笑みを零した。

 怨念だけで戦うティガなど、怖くはなかった。

 ハイパーゼットに当てられたティガの攻撃は、やはり絆の一撃だった。

 

 どんなに闇に堕ちようと"そう"である竜胆達に、ゼットは胸踊らずにはいられない。

 

「これだから、お前達との戦いは面白い……!

 私の方が強いはずだというのに! 私はいつも、勝利を確信することができないッ!」

 

『そうかよ!』

 

 ハイパーゼットの槍の一撃と、投げ込まれた闇の八つ裂き光輪が衝突する。

 衝撃。

 轟音。

 粉砕する槍撃と、切り刻む一撃がぶつかりあう。

 闇の八つ裂き光輪が粉砕されたと同時に、"樹海化が解除"された。

 

『!? 樹海化が!?』

 

「無理をしすぎたようだな」

 

 物理法則を無視して、海上に立つゼット。

 海岸線に立つティガダーク。

 四国の街が攻撃に巻き込まれて人が大勢死ぬデッドラインは、すぐそこに。

 

「神樹の疲労限界だ。

 人間どもを守るために、結界のフィルタリング能力を上げすぎたのだ。

 もはや樹海化を展開するための余力すら残っていないのだろう」

 

『そんな……!』

 

「私はあえて街を狙いはしないが、マガヒッポリトまでは止められんぞ」

 

 マガヒッポリトが街の人間を狙おうとし、それを歌野と雪花が止めに行く。

 歌野はカミーラ相手にも足止めをした、思考持つ者の天敵だ。

 だが勇者を既に二人抹殺しているマガヒッポリト相手に、どこまで戦えるのか。

 

(……メタフィールドの強化効果は辛うじて残ってる。だけど、消えるのも時間の問題か)

 

 ゼットが放つ一兆度火球。

 避ければ、余波だけで街に被害が出る。

 牽制の一撃だと分かっていた。

 これをかわしてからの攻防が本番だと、分かっていた。

 

(俺は)

 

 分かっていても。

 

(街を見捨てて、敵を、倒して……人を見捨てて……見捨てて……)

 

 避けられなかった。

 街を守るようにして、ティガがクロスした腕で一兆度を受け止める。

 両腕が肩まで巻き込み吹っ飛んで、激痛と自己嫌悪で竜胆は歯を食いしばる。

 両腕は瞬時に再生し、ゼットに向けて構えられた。

 

(見捨て、られないっ……!)

 

 こんな甘いことをしていてはゼットに勝てない、そう分かっているのに、街を守ろうとする自分を捨てきれていない。

 

 勝つためには人間性と優しさをもっともっと捨てなければならないというのに。

 

 御守竜胆はまだ、祟り神としての純度が足りていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティガが参戦してから勇者や巨人が死に始めたことで、自分では論理的な思考ができていると信じている人は、ティガを怪しんでいた。

 殺人を忌避する人は、ずっとティガを嫌っていた。

 中立的だった人ですら、今やティガを非難する側に立っていた。

 

 攻撃的、破壊的にさせられてしまった脳に、竜胆が悪役を演じる放送をしたことで、四国中から憎悪と恐怖がティガへと向けられている。

 ティガはそれらを背中で受けながら、街を庇いつつ、ゼットと戦っていた。

 

 絶対的格上に対し、街という足手まといを抱えながら戦う。

 普通、そうなればあっという間に押し切られてしまうだろう。

 なのに、ティガは食い下がっている。

 まだ負けていない。

 まだ押し切られていない。

 奇跡のように、まだ十数秒だが、街に被害を出さずにゼットに食い下がっている。

 

 "人を守って"明らかに実力以上の強さを絞り出しているティガに、ゼットは人知れず笑み、人々はその背中を見つめた。

 

 ティガの姿を見て、戸惑う人が現れ始めた。

 ある者は、オコリンボールが街を襲ったあの日の、人々を守っていたティガの姿を思い出し。

 ある者は、ティガの放送を思い出し、敵意と好感の間で揺れ。

 ある者は、人を守るティガの背中に見惚れ。

 ある者は、ティガを悪だと思う気持ちが薄れていく自分に戸惑っていた。

 

 悪だと言われているティガが、放送で自分が悪だと言っていたのに、何故その言葉を、盲信できないのだろうか。

 

(なんで、俺は)

 

 ティガを信じる気持ちとは、どこにあるのだろう。

 

 諏訪の人達はティガの善性を信じ、悪性を信じなかった。

 四国の一部の人間はティガの善性を信じず、悪性を信じた。

 ティガの何もかもを信じない人がいて。

 ティガの何を信じればいいのか分からなくなっている人がいた。

 

(なんで、私は)

 

 強くなければ街を守れない。

 強さを得るにはもっと人間性を捨てないといけない。

 人間性を捨てていけばいつかは街を守る気も失せる。

 光と闇の矛盾といい、ティガは矛盾だらけだ。

 

(なんで、僕は)

 

 矛盾を抱えて苦しみながらも戦うティガを見て、人々は何かを思う。

 

(このティガの方が……『本当のティガだ』って……思ってるんだろう……)

 

 心で何かを感じ、心が感じた何かに、人々は戸惑う。

 

(なんでこの背中を、嫌いになれないんだろう)

 

 ハイパーゼットの槍の振り下ろしが、ティガの左肩から両足の間までを切り抜け、左腕と胴体の左下半分と左足が切り落とされる。

 ティガの体が、倒れる。

 

「ああ、ティガっ!」

 

 だが瞬時に再生し、再生した足で踏ん張った。

 "絶対に倒れない"という鉄の意志で、ティガは怪物と人の間に立ち続ける。

 ゼットに一方的にやられながらも、全身全霊でゼットに立ち向かい、ティガは戦い続ける。

 

 人々は"なんてことを"と思い、ゼットへと敵意を向けていく。

 ティガへの敵意がゼットへの敵意へと置き換わっていく。

 殺人をしても平気な者、他人を傷付けて平気な者を嫌うのが、ティガを非難する者達の主流層である。

 街を守るティガではなく、そちらに敵意が向かうのは当然の話であった。

 

 ティガを非難していた一部の者は、言葉で非難するのは言論の自由だが、物理的に傷付けるのは本当に嫌いであるため、本気でゼットを嫌う。

 普段はティガを非難していたのに、いざティガが物理的に痛めつけられると嫌悪感が湧いてきてしまい、ティガに「さっさと反撃して倒しちまえ」と思う者までいた。

 「お前ならバーテックスも人間も簡単に皆殺しにできるはずだろ、なにやってんだ」と歪んだ信頼をティガに向けるものまでいた。

 

 攻撃的になった彼らの意識が、ゼットを始めとした天の神側の全てに向いていく。

 

『うらああああああッ!!』

 

「遅い」

 

 ティガの猛攻がゼットの動きを抑え込むが、一瞬の隙を突いて放たれた槍の一撃が、ティガの両足と下半身を粉砕する。

 だが、瞬時に再生し、再度ティガは猛攻を繰り返す。

 防御を捨て、全てを攻撃のために使い、攻撃の圧力で街に飛んでいきそうな攻撃を弾き、防御を捨てているがために頭以外の全身を何度も破壊されている。

 防御を捨て、攻撃に集中し、負傷は瞬間再生で補うというあまりにも捨て身なスタイル。

 

 街を庇う前の戦いからずっと、ティガは頭以外の部分の、全ての防御を捨てていた。

 

「ここまで、防御を捨てられるとはな」

 

『守りたいものがあった。守りたいものができたから、守りの技を覚えた』

 

 攻めて、攻めて、攻めて、攻めて。

 街を結果的に守るが、自分は欠片も守らない。

 

『俺の守りは! 俺を守るためじゃなく! 俺の大切なものを守るためにあった!』

 

 竜胆の脳裏に浮かぶ、ボブと球子が笑い合っていた光景。

 杏にケンが料理を教えている厨房での姿。

 従兄弟同士ということで、競うように鍛え合っていた大地と若葉の姿。

 照れている友奈と、褒めている海人。

 抱きしめているひなたと、抱きしめられているアナスタシア。

 もう見ることもできない……千景の微笑み。

 

 守りたかった。

 守ると誓った。

 皆は優しくしてくれたから、皆を守りたかった。

 そのために、竜胆は頑張って強くなってきたのに。

 

 結局何も、守れなかった。

 

『守りなんてもう必要ない! 俺が本当に守りたかったものは、もう……もうっ!』

 

 失いたくないと願うからこそ、失えば失うほど強くなる、それがティガダーク。

 

『海人先輩は最期に叫んでた!

 "オレ達からこれ以上何も奪うな!"って!

 あの人の叫びは……俺達皆の叫びだったんだ!』

 

 竜胆の絶望が、皆の希望になる。

 

 彼の叫びは、滅びの運命を覆し、人々の未来に希望と幸福をもたらすかもしれないもの。

 

 けれども、竜胆自身の未来に希望と幸福をもたらすことはない。

 

『たくさん背負ってきた。

 重いものを、大切なものを、たくさん背負って、走ってきた。

 荒れ地を、上り坂を、苦難の道を走ってきた。

 俺が大事に背負ってきた全てのものを―――お前達が、奪ったから』

 

 大切なものを守り続ける日々は、少し重荷ではあっただろう。

 仲間を気遣い、仲間を守るために思考を割き、常に仲間を守るために頑張る。

 大切なものの重さを感じながら、困難という坂道を登り続けるような日々だった。

 

 大切なものの重みは、もうほとんど感じられていない。

 重荷を全て下ろした方が、速くは走れる。

 心配する仲間が少ない方が、集中力は一つの事柄に集中できる。

 庇う仲間が少ない分、戦闘には集中できる。

 

 悲しすぎる重荷降ろし。

 

『今の俺は、過去最高に身軽で、過去最強に強い』

 

 神速の踏み込み、神速の突撃、神速の体当たり。

 

 体に突き刺さる槍には目もくれず、ティガダークの体当たりが、ゼットを結界端まで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 大社はもうてんてこ舞いである。

 まだ正気な人の避難誘導。

 捕まえて収容していた百数十万人の人間の運搬と避難先での再収容。

 ゼットとティガの戦いも危険域だが、それ以上にマガヒッポリトと歌野&雪花の戦いの方が危険になっている。

 

「逃げ遅れた人がブロンズ化されました! 現在、被害総数8人!」

 

「勇者の援護を最優先! まずは避難だ! 一般人が残ってるとまともに戦えないぞ!」

 

 マガヒッポリトの進軍は、もはや香川市街地に食い込んでいる。

 マガヒッポリトはもう街の中に侵入しており、一般人のブロンズ化が始まっていた。

 カミーラの要望で、四国の人間の大半は残すようにマガヒッポリトは動いているが、土ノ魔王獣の魔の手は"ちょっとつまみ食い"程度の感覚で人を殺していく。

 

「くそ、好き放題やりやがって……!」

 

 大社の人員的リソースはもう限界だ。

 そんな中、通信機を通して、どこかの避難所から大きな声が飛んで来る。

 

『頑張れ、ティガ!』

 

『負けんなー! 頑張れー!』

 

『無茶すんじゃねえぞー! 死ぬなよー!』

 

『歌野ちゃーん! 北海道の勇者さーん! 頑張るぇッー!!』

 

 四国の片隅で、たった五百人だが、確かに声を上げる者達がいる。

 ティガを信じて、勇者を信じて、脳がどんどん壊れているのに、まっすぐな気持ちを竜胆達に届けている者達がいる。

 

「……諏訪の人達は元気ですね」

 

「……ああ、負けてられないな。四国の意地を見せてやるぞ!」

 

 忙しく動き回る者達の中心で、三好圭吾はモニターを見つめ、祈った。

 

「頼む、運命の女神とやらが、天の神と地の神以外にいるのなら、どうか叶えてくれ」

 

 画面の向こうのティガに、祈りを届ける。

 

「戦える奴だけに、責任を全部を押し付けるんじゃなく」

 

 その無事を、その勝利を、その未来に幸あらんことを願う。

 

「一度くらいは私達にも、責任を取らせてくれ……!」

 

 助けられるものなら、助けてやりたかった。

 助けられる力があるなら、力を貸してやりたかった。

 だが大社の人間でしかない彼は、どこまで行っても無力だった。

 

 

 

 

 

 諏訪の人間の声が遠くから響いてきて、それを聞いた雪花は苦笑してしまった。

 

「ちょっと怪しく思ってたけど、結構愛されてんじゃん、御守先輩」

 

 槍を手の中で生成し、槍をマガヒッポリトに投げつける。

 目を狙って投げられた投槍を、マガヒッポリトは忌まわしそうに腕で弾いた。

 

「こんなに愛されてんのに、あんな放送で切り捨てんの、よろしくないと私は思うな」

 

 続き槍を生成し、投げつける。

 四国勇者は全て、"武器に選ばれた勇者"達だ。

 どこかの神社に奉納されていた武器に呼ばれ、神がそこに"霊力として"神の武器を宿し、成立した神の武器を掴んだ少女。それが四国の勇者である。

 よって、武器は基本的に使い捨てられない。

 

 だが、雪花は違う。

 雪花の武器は"投げ槍"だ。

 幾度となく槍を生成し、幾度となく槍を投げつけることで、飛び道具の圧力で敵を近付かせないタイプの戦闘者。

 広大な北海道を守り抜くため、投げ槍による弾幕スタイルという、世にも奇妙なスタイルを雪花は身に付けていた。

 神に選ばれ勇者になり、その力で武器を作る雪花は、武器の喪失という弱点が一切存在しない。

 

 中衛バランス型の歌野と後衛火力型の雪花が、マガヒッポリトに攻撃の連打を浴びせていく……が、マガヒッポリトを止められない。

 ダメージすら蓄積してはいなかった。

 天の神、海の神、星の力。三位一体の魔王獣の表皮は硬い。

 

「無駄、無駄よ。勇者の力などでは歯が立たない……ゆえにこその、星辰の魔王獣!」

 

 戦線が押し込まれていく。

 人々が恐怖し、敵意を時にヒッポリトに向け、時に"しっかり戦ってくれよ"という怒りを勇者やティガに向ける。

 脳が壊れている人々の敵意だが、雪花はこういうのにも慣れていた。

 

(ま、いつものことだしね)

 

 小さな沖縄を守っていた古波蔵棗とは違う。

 四国程度の範囲を、皆で守っていた竜胆とも違う。

 北海道という広大な範囲を、最終的に一人で守っていたのが雪花だ。

 守れなかったものの数も、守れなかったことで罵られた数も、雪花はそれこそ桁違いに多い。

 

 誰かが死に、どこかで負け、侵略された地域が増える度に響く罵声。

 誰かを守るために命をかけられる人間から順に死んでいって、罪のない人を平気で囮にできる人ばかりが生き残って、北海道の生き残りはどんどん醜悪化していった。

 他人を平気で殺せる人間は生き残り、他人を殴れない優しい人間はそういった人間に殺され、食料や住む家を奪われた。

 それが、末期の北海道だった。

 

 雪花は社交的な人間だ。

 竜胆がこんなになっても会話はしっかりしていたし、歌野とも連携ができる程度には会話して親交を深めていた。

 だからか、勇者になる前から友人も多かった。

 そんな友人達が、いつからか自分を良いように利用しかしてないと、雪花が気付いたのはいつのことだっただろうか。

 

 戦いの初期に、人々は雪花を讃え、おだて、守ってもらおうとした。

 中期には次第に犠牲が出始め、雪花は利用されることで自分の価値を示し、人々は雪花を戦闘力でしか見なくなった。

 末期には、広大だった北海道も、550万弱いた生存者も、そのほとんどが失われ。

 雪花は家族も、守りたかった人も、居場所も、諸共に全て失っていた。

 

 罵声なんぞ慣れたもの。

 人間はそういうものであり、善悪は状況によって出たり引っ込んだりするものであることを、雪花はよく知っている。

 バカみたいな話をするし、雨の日に野良犬を助けるくらい優しくて、いじめを止めるくらい正義感のある友人が、自分を利用し、守ってもらおうとしていた姿も、雪花は見てきたから。

 人間は黒でも白でもない灰色だと、雪花はよく分かっている。

 

「駄目だ、やっぱティガじゃ……」

「あの放送は本当なのか……ちくしょう、分かんねえよ、ティガ……」

「ティガが自分で言ってたことなんだ。

 あの振る舞いは真実のはずなんだ……なのに、私はなんでまだ、ティガを信じて……」

 

 だが、なぜだろうか。

 今の四国の人達を、雪花は放っておけなかった。

 いや、違う。

 四国の人達から竜胆へと向かう気持ちを、放っておけなかった。

 

「大丈夫、信じて!」

 

「あ、あれは」

「北海道の勇者?」

「確か、秋原雪花っていう……」

 

「"怪しいな"って思ってる時は、心の中で信じる気持ちより疑う気持ちが大きな時!

 "信じていいのか"って思ってる時は、信じる気持ちが大きくなってる時!

 私はそう思うな!

 そこから理性で何を選択するのは人の自由だけど、信じるかどうかは心で決めたっていい!」

 

 雪花の叫びが、人々の心にまた僅かな変化をもたらす。

 叫びつつも手は止めず、雪花は空から降り注ぐ大量のブロンズ塊を飛んで回避し、飛んで来たブロンズ化カプセルを蹴ってかわした。

 

(なんだかにゃー。半信半疑で皆に見られてる先輩と、自分が重なって見えたからかな)

 

 マガヒッポリトは、どの攻撃も勇者にとっては即死攻撃。

 一発ももらってはいけない、と覚悟して回避しつつ、槍を投げてマガヒッポリトの足止めもする雪花の脳裏に、自分を省みる思考が流れた。

 

(本当に、何言ってんだかなぁ、私は。

 頑張っても信じてもらえないってこと、分かってるのに……

 頑張ったことは、認められる理由にはならないって知ってるのに……)

 

 利用されて戦うだけの毎日の中、色んなことを諦めてきたはずだったのに。

 

(……頑張ったのに、信じてもらえなかったこと、今でも引きずってんのかな、私)

 

 雪花は、ありえる竜胆の未来の一つ、と見ることもできる。

 頑張って、守って、走り続けたけど、『みんな』に信じてもらうことはできず、利用され、守りきれず、全てを失った。

 その後悔が、四国をずっと守ってきた戦士達の最後の一人であるティガに対し、とても大きな共感を呼ぶ。

 

 雪花の竜胆に対する好意が膨らみ、コシンプがその分ティガを強化する。

 

(なっさけないなあ。

 御守先輩と自分をこんな情けない理由で重ねてるとか。

 でも……うん。先輩に報われてほしいってのは、昔叶わなかった私の願いでもあるんだ)

 

 顔を狙って槍を投げ、注意を引きつけ、マガヒッポリトのつま先に投槍を当てる。

 ヒッポリトが痛みに足を抑えて、進軍が止まった。

 飛び回っていた雪花は、歌野と共に止まり、呼吸を整える。

 

「生きる気とか、あんまなかったんだけどね」

 

 精神を集中し、神樹に繋がる。

 沖縄の神も北海道の神も合流した今の神樹の概念記録から、精霊の力を選択する。

 コシンプでのティガの強化も続けながら、新たな精霊を探し当てる。

 

(擦り切れても頑張ってそうな、あのバカ先輩が……ちゃんと報われるまで)

 

 そうして、雪花は"二体目の精霊"を引き当てて。

 

(友奈が願った未来が、あいつに訪れるまで)

 

 続けて、"三体目の精霊"まで引き当てた。

 

「私みたいな『守ろうとしたもの全滅』にならないよう、私が頑張んなくちゃね!」

 

「貴様……このマガヒッポリトを見ず、どこの誰に語りかけている!」

 

 マガヒッポリトが空の空気をブロンズ化し、それを落として街の多くを巻き込みながら、雪花を押し潰さんとする。

 

「さあね、想像してみなさいな!」

 

 更には街が粉砕したことで巻き上がった土煙等を目くらましとし、空気を媒介として、ブロンズ化攻撃を仕掛けた。

 この攻撃は見切れない。

 見切れない、はずだった。

 

「雪花さん! 攻撃来てるわ!」

 

「分かってる! 『角盥漱(つのはんぞう)!』」

 

 角盥漱(つのはんぞう)は、角盥(つのだらい)が妖怪化したと言われるもの。

 要するに、固有の逸話すら存在しない、無数の付喪神の内の一体だ。

 鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』において、小野小町が洗面器具の角盥を使った逸話を元に創作された付喪神の妖怪、であると説明されている。

 

 かつて、偉い人が小野小町の歌をパクって自分のものとして発表した。

 小野小町はそれが自分のものであることを証明するため、角盥で偉い人の歌の紙を洗うと、嘘にまみれた文字は流れ落ち、真実が判明した。

 これが、角盥の逸話である。

 角盥漱は、これが妖怪化した付喪神だった。

 

 有する能力は、この精霊を憑けた対象に、"真実を見抜く"能力を付与すること。

 角盥漱を体に付けた雪花は、視認不可状態になったはずの空気媒介ブロンズ化攻撃を見切り、跳んでかわす。

 

「なんだと!?」

 

「続けて、『桂蔵坊(けいぞうぼう)!』」

 

 角盥漱を解除して、次は桂蔵坊。

 桂蔵坊は人間に化け、殿様に可愛がられていた、人間に愛された狐である。

 軽功の術の類を持ち、長距離をかなり短い時間で移動することができたという。

 

 精霊としての能力は、"少ない負荷で大きな加速を得られる"というもの。

 若葉の義経ほどの最高速度も、加減速能力もない。

 だが、消耗と加速の費用対効果で言えば義経よりも遥かに優れ、長時間継続して加速を得るという点では極めて優秀な精霊であった。

 

「精霊を新たに二体!? グレートオブグレートじゃない、雪花さん!」

 

「コシンプは私の体に負担かかんないみたいだからねー。

 ま、やや弱めな精霊を複数集めて状況に合わせて使う方が、私の性に合ってますわ」

 

 雪花は器用だ。

 目立って飛び抜けた能力はない。

 歌野のように、目に見えて凄まじい戦士であるわけでもない。

 攻撃力、防御力、速度、読心などの特殊能力、どれを見ても他の勇者の上には行っていない。

 

 だが、器用だった。

 頭も良く、身体能力も悪くない。

 あっという間に精霊を三体獲得し、それらを使い回すことで自己強化と仲間の強化を並行し、投槍の援護も十分過ぎるほどに強い。

 

 速い足で長時間安定して敵を接近させず、距離を取って槍を投げ続ける。

 精霊込みの戦闘スタイルも、合理性の塊だった。

 コシンプや角盥漱で仲間の強化もできるため、彼女一人の働きだけで、チームメンバーの総戦闘力が飛躍的に上昇するタイプ。

 

 単体として笑えるくらいに強い歌野と組ませることで、星辰の魔王獣を倒すことはできないとしても、足止めするくらいはできる。

 

 マガヒッポリトの侵攻をとうとう止めた勇者達の姿が、人々の心にまた変化を迎えさせた。

 

「負けるな」

 

 逃げながらも、せめて応援をと、声を張り上げる。

 

「頑張れ、勇者!」

 

 それは、戦いを見ていた、ほんの少数の人間のものではあったが。

 

「負けんな、頑張れ、ティガ!」

 

 確かな信頼と、応援だった。

 

「……自分でも本当なんでかと思うけど、酷いところを見ても、見捨てるのは嫌なのよね」

 

「あら、雪花さんもそういうこと思う人なのね。分かるわ」

 

「『も』って……歌野もそういう経験あったの?」

 

「まーね。諏訪も最初はよろしくなかったから。

 そういうことなら話は速い。互いの気持ちが分かる同士、トゥギャザーしましょう!」

 

「共闘はするけどトゥギャザーはいいやー」

 

 この世界では誰もが、各々の苦しみに、似たような苦しみを感じていた。

 誰もがそのままでは、いられなかった。

 けれど、それだけでもなかった。

 

「じゃあ、この気持ちを分かる三人目を、ちゃんと四国のヒーローにしてやりましょうか!」

 

「それは楽しそうね! トゥモローから……いいえ、トゥデイからトゥギャザーしましょう!」

 

 勇者は前を向く。

 

 竜胆とは違い、歯を食いしばって、前を向いていく。

 

 

 

 

 

 ティガの弱点は、頭だ。

 竜胆にたびたび悪意を囁いている頭の中の新造脳こそが、再生の核である。

 このウルトラ新脳が破壊されない限りティガは即死せず、敵対者はティガの全身を砕きながら、地道にティガにダメージと消耗を与えていき、そのエネルギーが尽きるのを待つしかない。

 全身を破壊するほどの大規模攻撃もいいが、ティガは首を自分で切り離して自分で投げ、そういった攻撃を回避したことすらある。

 

 狙うならば、頭なのだ。

 

(―――あ、死んだ)

 

 ハイパーゼットの神速の突きがティガの全ての防御を崩し、額に向かった。

 竜胆一人の力ではどうにもならない一撃。

 それがティガの額の中央を貫く―――ことは、なく。

 横合いから当てられた収束吹雪が、槍を弾いた。

 音速の数十倍クラスの速度の突きは、吹雪という名の強大な『空気抵抗』にぶつかることで、強烈に弾かれてしまったのだ。

 

 その吹雪を撃った少女の、計算通りに。

 

『……杏?』

 

「はぁ、はぁっ、えうっ、げほっ、こほっ」

 

『バカお前……そんな体で!』

 

 杏は勇者の戦装束を身に纏い、死体と変わらない顔色で、竜胆を助けにきた。

 しかも、精霊も使ってしまっている。

 精霊を撃った瞬間など、明確に心臓が止まっていたというくらい、ありえない……やってはならない無茶だった。

 ビルの屋上にへたり込み、立ち上がれなくなり、むせこむ杏。

 

 それでも、杏は助けたかったのだ。

 竜胆の悲しみの声が、彼の涙が落ちる音が、聞こえた気がしたから。

 

 一瞬心臓が止まって、一瞬心臓が動く。

 そんな危うい繰り返し。

 精霊を撃った彼女の体は、もういつ心臓が止まってしまってもおかしくはない。

 全身が死の一歩手前の苦しみに包まれていて、エネルギーも酸素も足りていない全身の細胞が、不規則な脈の中で悲鳴を上げている。

 

 マガヒッポリトが杏を見る。

 カミーラが"本気で殺したい者"の一人である、三千万年前にカミーラからティガを奪った者……マガヒッポリトが、目を細めた。

 

「祟りで動くことすら敵わんはずだが、ユザレの遺伝子か。

 流石に光の遺伝子はしぶとい……

 が。カミーラ様の計画だと、貴様は既に死んでいるはず。計画は修正しなければ」

 

 マガヒッポリトは歌野と雪花の妨害を受けながらも、ビルの屋上で孤立している杏を狙い、走った。

 その手にもブロンズ化能力は宿っており、触れた者を即死はさせないものの、ブロンズ化させることで実質即死させることができる。

 

 攻撃一回で杏は屋上にへたり込み、立ち上がれなくなってしまっていた。

 マガヒッポリトからは逃げられない。

 伸ばされたマガヒッポリトの手が、杏の体に影を落とした。

 

『させるか』

 

「!」

 

『―――殺すぞ』

 

 杏に手を伸ばされたヒッポリトの手を、横合いからティガが掴む。

 そして、殴った。

 単純に最強クラスの速さと、最強クラスの力強さを込め、殴った。

 マガヒッポリトの巨体が吹っ飛び、ビルを飛び越え、街を飛び越え、広場に落ちる。

 

 昔オコリンボールが街を襲った時、レオ・アントラーがもたらした破壊の跡地を整地した結果出来上がった、香川の土地的空白部分だ。

 マガヒッポリトは混乱している。

 ティガはゼットが抑えているから、自分は安全なはずなのに、と困惑している。

 なのに何故、ティガが自由になっているのか。

 

 マガヒッポリトがゼットの方を見ると、ゼットは地面に槍を突き刺し、その槍に寄っかかって何もせずに戦いを見守っていた。

 

「おいゼット、何をやっている!」

 

「私はティガと尋常に戦えればいい。ティガの心残りが減るならそれでいいのだ」

 

「矜持に拘泥する役立たずめが!」

 

 ゼットの行動がちぐはぐなのは天の神の祟りが存在の芯に組み込まれているからなので、祟りに行動を強制されない限り、ゼットは常に自己判断で動く。

 ゼットはマガヒッポリトが倒された後、ティガとまたタイマンで戦うつもりでいた。

 だから、何もしていない。

 ゼットはティガの敗北を、想像さえしていなかった。

 

「だが―――貴様の力など必要ない!」

 

 マガヒッポリトが両手を巧みに動かし、攻め立てる。

 手で触れることで強制ブロンズ化させる技は、まだティガには見せていない。

 手で触れればそれで勝てるというのは、最悪と言っていい初見殺しであった。

 

 なのに、当たらない。

 ティガは足の動きをボクシング系の細かく刻むものに変え、総合格闘技系の側面にとにかく回り込む動きをして、上半身を振ってマガヒッポリトの手をかわす。

 細かい体の動き、目線の動き、腕の構えの変化によるフェイントをこまめに入れ、小刻みなステップで動き回りつつマガヒッポリトの側面を取り、脇腹に蹴りを入れて呻かせたりして、その手に触れられないようにする。

 

 初見殺しのはずなのに、見られていないはずなのに、何故かヒッポリトは手で触れられない。

 

「何故、分かる!」

 

『勘だ。昔から、本当にヤバいもんは感覚で分かる。

 後はまあ……"触れればいい"って思考の人間の動きは、見りゃ分かる。

 空手は拳を十分勢い付けて叩きつける。

 柔道は触れればいい、掴めればいいから、独特の動きになる。

 お前の手は叩きつける動きじゃない。掴みの動きでもない。触ればいい、そういう動きだ』

 

 過去は無くならない。

 悲しい過去も、嬉しい過去も。

 ボブや友奈に大地と、過去に触れ合ってきた格闘技経験者達との想い出が、竜胆に敵の動きを見切る力をくれる。

 

 仲間との想い出がもう半分ほど消えている。

 感覚で分かる。

 でも、感覚でしか分からない。

 どの想い出が消えたのか、分からない。

 

 想い出が力をくれるのに、強くなればなるほど、消えていく想い出があって。

 

「だが、分かったからといって何ができる!」

 

 マガヒッポリトは空気を媒介にしたブロンズ化を発動し、ティガは後退。

 ハンドスラッシュでブロンズを"感染させる空気"を焼き散らして、攻撃的に舌打ちした。

 

『チッ』

 

 ブロンズ攻撃は防げず、治せない。受けたら終わりだ。

 なのに。

 なのに。

 ヒッポリトの視線が下を向きティガの視線がそちらを向く。

 以前助けた子供―――犬吠埼という名前の小さな子が、そこにいた。

 

 ブロンズ攻撃は防げず、治せない。受けたら終わりだ。

 なのに。

 

 なのに。

 

「ほら、助けるがいい、"ウルトラマン"」

 

『―――』

 

 何故、竜胆は……祟りでもなく。怨念でもなく。復讐でもなく。

 

 人に向け、手を伸ばしてしまうのか。

 

(助けないと)

 

 杏がビルの屋上で立ち上がる。

 マガヒッポリトが何を考えているかは分からない。

 カミーラから、ティガだけは殺すなと言われているはずだ。

 けれど、何をしてくるか分からない。何が起こるか分からない。それが戦場だ。

 

 何かしなければ、何とかしなければ。

 そう思うのに、立ち上がるだけで力は尽きてしまう。

 もう指一本動かせない。

 

(動いて、動いて、私の体、じゃないと……)

 

 球子が死んだ時の光景が、瞼の裏に蘇る。

 杏の心に刻まれた、消えない傷だ。

 竜胆に励まされ、それでなんとか乗り越えた傷だ。

 

 杏は球子に向けて放たれたサソリの針を弾けなかった。

 球子は杏に向けて放たれた針を弾き、杏を守った。

 あの時の光景も、想いも、死にたくなるほどの絶望も、杏は死ぬまで忘れないだろう。

 

 だからこそ沸き立つ、"今度こそ"という想い。

 

(また、失ってしまう。私の……大切な人を……!)

 

 誰も彼もが神話の領域の力を行使し、人が成った祟り神がいて、神たる神樹は限界を迎え、人は神の祟りに苦しめられる、神話の世界。

 その戦場は、生も死も、この世か死後の世界かさえも曖昧になっているかのような世界になっていて、何より杏が生と死の境を彷徨っている。

 

(いやだ……死なないで……もう、お別れなんて、嫌……!)

 

 一瞬死に、一瞬生き、心臓が止まったり動いたりを繰り返す臨死状態。

 杏はそんな中でも、竜胆を助けるため、クロスボウの引き金に指をかけた。

 狙うは、ティガに向けて手を伸ばすマガヒッポリト。

 自らの生死すらも後回しにし、精霊を武器に宿そうとした瞬間、杏の肉体は死に――

 

 

 

 

 

「―――撃て、あんず。大丈夫だ、自分自身を信じろ。タマは信じてる」

 

 

 

 

 

 ――死んだ肉体が、また生の領域に戻って来た。

 

 誰かの声が聞こえた、気がした。

 懐かしい声だった、気がした。

 その声が大好きだった、気がした。

 いつもその声を求めていた、気がした。

 

 気がしただけで、気のせいだったのかもしれない。

 ただの幻聴だったかもしれない。

 杏の願望が耳に届かせた、頭の中だけの声だったかもしれない。

 ひょっとしたら、死の世界に片足を突っ込んだから聞こえたものだったのかもしれない。

 

 それでも、嬉しかった。だから、杏にとっては、十分だった。

 

 

 

「『雪女郎』―――『輪入道』ッ!!」

 

 

 

 自分を信じて、"精霊二体"を同時に二体宿し、撃つ。

 精霊は一体しか宿せないと、二体以上宿しても宿しきれない上に体が壊れると、杏達は大社から厳重に注意されていた。

 なのに何故か二体同時に宿せた上、体にかかる負担は限りなく0に近かった。

 

(なんだろう―――体から―――よく分からない力が湧いて来て―――それが使える―――)

 

 "遺伝子の覚醒"。

 杏にすら何がなんだか分からない内に、その肉体が精霊二体を問題なく制御させる。

 それは"精霊を二体同時にノーリスクで扱える"という、他の地球人類の誰もが持たない、彼女だけの異能だった。

 

「当たれッ!」

 

 放たれた攻撃は、雪女郎の氷雪と輪入道の炎の二重奏。

 西暦勇者チームで最初から範囲攻撃を持たされていたのは、球子と杏の二人だけ。

 その二人の相反する範囲攻撃を束ね、収束砲撃としてマガヒッポリトに叩き込んだ。

 

「……!? なんだ、この力は!?」

 

 そしてマガヒッポリトは―――結界外にまで、一瞬で吹っ飛ばされた。

 

「!?」

 

 氷雪と火炎は混じり合い、概念的矛盾と相反するエネルギーの衝突により、破壊力を伴わない大爆発を起こして、マガヒッポリトの七万トンはある巨体を吹っ飛ばしたのだ。

 "吹き飛ばす力"。

 それが、相反する力をその身に備えた杏の新たなる力。

 杏と球子の力を高度に融合させた、『どんなに硬い敵にもとりあえず効果はある』技である。

 

 どんなに固くて倒せない敵が何体襲いかかってこようと、この技でとりあえず吹っ飛ばせる。

 吹き飛ばせなくとも、ゲーム的に言えば被弾後退(ノックバック)は免れないだろう。

 例えば、魔王獣が六体同時にティガに襲いかかっても、杏が五人にノックバック弾を連射して、その間にティガが一体を相手にして倒すだけで、六体順番に倒すことが可能である。

 

 後衛に杏が一人いるだけで、どんなに数と質で勝ろうと、バーテックス側は多対一の状況を作ることが難しくなる。

 "どんな攻撃でもダメージを受けない敵がティガにトドメを刺そうとしている"という状況ですら射撃一発で解決できる、ティガに今一番必要だった、バックアップノックバッカー。

 

 友奈も、若葉も、千景も、基本は"アタッカー"である。

 杏ほど"攻撃的サポーター"、あるいは"後衛ブロッカー"に特化した勇者は、かつて居なかった。

 呪術後衛の千景の多様性、器用に色んなことができる後衛の雪花とも違う、一芸だけで様々な役割を果たすことができる、球子の戦闘スタイルにも似た特性である。

 

 それはかつて、勇者として杏と球子に求められた役目の兼任であった。

 杏は後衛射撃を求められ、球子は仲間を守ることを求められた。

 後衛から敵を撃って倒すのではなく、後衛から敵を吹っ飛ばして仲間を守る力。

 『撃つことで皆を守る防衛ラインを作る』という、後衛から全員のための盾役をすることができる今の杏は、ティガにとっては最高の盾役だった。

 

 ―――その覚醒が、もう少し早ければ、どこかで何かが違ったかもしれないのに。

 

 祟りが削った杏の命がとうとう限界を迎え、倒れていく杏を、ティガの大きな手の平が受け止める。

 そのままそっと、公園のベンチの上に杏を寝かせる。

 精霊二体を行使した杏は強かった。

 が。

 もう指一本動かせないほどに命が尽きかけているのなら、その強さも意味がない。

 

 ティガは犬吠埼少年を逃し、杏に呼びかける。

 呼びかけなければ、杏の意識が消えてしまいそうだったから。

 

『おい杏! 大丈夫か!? 意識はあるか!?』

 

「特別な遺伝子とやらで……ちょっとは、大丈夫だった、みたい……」

 

『バカ、なんて無茶を!』

 

 ユザレの遺伝子が、杏に少しの異能と、少しの祟り耐性を与えてくれていた。

 仮にも三千万年前、ティガと戦った子孫だ。

 少々の特別性はあってしかるべきだが……それも既に、薄れた血。

 杏に少しの無茶を可能とさせるも、杏はその少しの無茶で、長めに見てもあと一時間は生きられない体になってしまっていた。

 

「りっくん先輩、辛い?」

 

『ああ、辛いに決まってんだろ』

 

「私が苦しくて……苦しい……?」

 

『ああ、苦しい。ちくしょう、なんて顔色で頑張ってんだ、お前は……』

 

「私にこんな無茶、してほしくなかった……?」

 

『ああ!』

 

 杏は、優しい子だ。

 

「それが……さっきまでのりっくん先輩を見てた、私の気持ち……」

 

『―――』

 

「私ね……りっくん先輩が無理してると……いつも……胸の奥がキュってなって……」

 

 だからその言葉は、刃の如く竜胆の心に刺さった。

 

『じゃあどうすりゃ良かったってんだよ』

 

 分かる。

 竜胆は、何故こんなことを言われているのか、ちゃんと分かっている。

 そして人間性が削れているから、仲間に向かって"そう"叫んでしまう。

 

『他に、どんな道があったっていうんだよ!』

 

 無茶をするなと言うのなら、代案を出してほしかった。

 その言葉に優しさがあるのは分かっていても、代案が無いなら黙っていてほしかった。

 他に皆を守る方法があるなら、教えてほしかった。

 死んだ人を今からでも救える手段があるなら、教えてほしかった。

 

 けれど、そんなものは、どこにもなくて。

 

『ごめん……本当に、ごめんな。

 でも、俺は。杏の未来を勝ち取れるなら、死んだっていいんだ』

 

「……そういうの……そういうところは……あなたの、そういうところが……」

 

『生きてくれ』

 

 杏が弱々しく声を漏らし、竜胆は力強くその生を願う。

 

『俺は人を愛してるけど……杏はその中でも特別愛してるくらいなんだ。大切な友達なんだ』

 

「……うれしい……」

 

『だから、杏も』

 

「……」

 

『杏?』

 

 杏の口が開かなくなった。

 杏の目が開かなくなった。

 杏が動かなくなった。

 心臓と呼吸が、完全な停止に向かう。

 

『生きてくれよ、頼むから』

 

 祟りによる命の減少と、死の成立。

 その瞬間が来るのは、数分後か、数十分後か。

 少なくとも、一時間保つことはありえない。

 

『俺が死んでも……君が生きて……生きていてくれれば……』

 

 杏の勇者衣装が消え、杏のスマホの勇者アプリがエラーを吐いた。

 かつん、と地面にスマホが落ちる音がする。

 "もうこの使用者は勇者になれない"と、端末が判断したのだ。

 精神的に不安定だったり、敵に対して怯えを抱く勇者が、勇者システムに弾かれて変身できないのと同様に、今ここに、勇者の資格不十分とみなされる者が出た。

 

 "体に傷はなくてもこんなにも命が尽きている者は駄目だ"という、判定。

 それは神々の感覚が、『伊予島杏はもう終わりだ』と判定したということに他ならない。

 

 杏がこの先も生きていけるなら、この先も勇者として戦っていけるなら、端末が杏を拒絶するわけもない。

 ゆえにこれは、神の感覚による死の宣告だった。

 

(いや、まだだ、まだ……まだ!

 あと数分で、ゼットも魔王獣もカミーラも、天の神も全員殺す!

 祟りはそれで不成立になる! そうすれば、まだ杏は助かるはずだ!)

 

 会話が終わるまで待っていたゼットが、市街地のティガに向けて足を踏み出す。

 その前に立ちはだからんとする、二人の勇者。

 ゼットの前で、雪花と歌野が武器を手に構えていた。

 

「お前はいい仲間と出会う幸運には恵まれているな。そこだけは断言できる」

 

 静かに、されど堂々と、ゼットはティガの背中に語りかける。

 

「だが、仲間に向けるその言い草はなんだ。

 お前も巨人なら、言い切ってしまえばよかったのだ」

 

 "自分が死んでも君が生きていてくれれば"といった風味の竜胆の発言が、ゼットは心底気に入らなかった。

 

「『俺達全員で生き残ろう』、と。

 それだからお前は……ウルトラマンに成りきれないのだ」

 

『お前を相手にして、そんな甘い幻想抱けるわけねえだろ』

 

「違う」

 

 普通の人の目には、竜胆は人間性を切り捨てているように見えただろう。

 だがゼットの目には、"ウルトラマンらしさ"も一緒に切り捨てられているように見えた。

 輝かしいものが切り捨てられ、醜怪な祟り神に成っていくように、見えた。

 

「美しい大団円を目指すのではなく、美しい自己犠牲を選ぶから、お前は光の巨人でないのだ」

 

 美しい大団円と、美しい自己犠牲。

 どちらが美しいか、などという判断基準はない。

 それに優劣をつける指標は存在しない。

 だがそんなことは知ったことじゃないと言わんばかりに、ゼットは美しい大団円を目指す心意気の方を持ち上げていた。

 

「以前戦った時のお前なら……美しい大団円を目指していた。

 そう思うのは私の勝手な思い込みか? 私は、お前を過大評価していただけなのか?」

 

 大団円か、と竜胆は胸の奥で呟く。

 

 確かに俺はそういうの目指す気持ちはあったな、と竜胆は思う。

 最初に虐殺から始まったから、最初はそういうものを目指していなかったのは確実。

 仲間が死ぬ度に、そういうものを目指す気持ちが薄れていったのも事実。

 ならそういう気持ちはいつからあって、いつからなくなったんだろうと、竜胆は考える。

 

 そもそも、大団円なんてものはこの世界にあったんだろうかと、ふと思った。

 

『大団円を目指すには、大切な人が死にすぎた。それだけなんだよ、ゼット』

 

 死にすぎた後の大団円など無いと、竜胆は言い切った。

 

 ゼットはそこで、竜胆に対し何か失望した様子を見せる。

 無言の失望だった。

 今のティガの力を認めながらも、ゼットは何か失望していた。

 

 そんなティガの背後から、誰かが狙う。

 音もなく飛んで来たブロンズ化カプセルを、歌野の鞭と雪花の槍が粉砕した。

 

「やーな心ってのはね、私の精霊に引っかかるもんなのよ」

 

「……!」

 

 結界の外まで吹っ飛ばされたことを逆利用して、結界の外を移動し、密かに結界に侵入してティガを背後から狙う。

 マガヒッポリトの狙いは悪くはなかったが、姑息であり、歌野がいる戦場では通じるはずもない奇襲であった。

 苛立たしげに、マガヒッポリトはゼットに罵声を浴びせる。

 

「ゼット貴様、何故悠長にティガと話をしている!

 貴様が戦いでティガを止めている間に、私がカミーラ様が満足する十分な準備をせねば……」

 

「黙っていろ。吐き気がする」

 

「っ」

 

 マガヒッポリトに二の句を継がせない、槍のように鋭い一言。

 

「相手をどう苦しめて倒すかを考える貴様らには、常にうんざりしている。ゆえに、黙れ」

 

 カミーラとその配下の玩具になるくらいなら、勇者も巨人も人間達もいっそここで全員殺してやろうと、ゼットは考えてしまう。

 それほどまでに、ゼットはカミーラも魔王獣も、心底嫌っていた。

 

「私に力をくれた無数の意志無きバーテックス達の方が、意志無き分まだマシに見える」

 

 ゼットはティガを見る。

 不思議な一瞥だった。

 どこか、不思議な共感があった。

 

 あるいは、"民衆の愚かしさに苦しめられているティガ"を、"仲間の醜さに辟易している自分"と重ねたのかもしれない。

 仲間を、味方を、選べないのはティガもゼットもお互い様で。

 共に戦う者は、"誰と出会うか"に左右されてしまっていて。

 だからこそ、ゼットは先程『お前はいい仲間と出会う幸運には恵まれているな』と言ったのかもしれない。

 竜胆に対する少しの羨ましさが、そこにはあったのかもしれない。

 

「これ以上萎える前に終わりにしよう、ティガ。

 私もお前も、次の一撃で敗北しようと、消滅しようと、悔いはあるまい」

 

 最大の一撃を放つべく、ゼットが力を溜め始める。

 ティガもまた、雪花の精霊コシンプの強化を受けつつも、仲間を離れさせ、闇を溜める。

 こうして相対するのは約三ヶ月ぶりだ。

 前の戦いは、ティガブラストのお披露目戦であり、途中でアナスタシアが自決して、途中でガイアとアグルが参戦して、最後にティガが決めて、そうして決着した。

 

 あの時のゼットは光線を撃ち、あの時の竜胆はランバルト光弾を撃った。

 そして、ティガが撃ち勝った。

 まごうことなく、ティガは勝者で、ゼットは敗者だった。

 カミーラに結末を穢されたあの日の戦いの続きが、今始まろうとしている。

 

 そして、今、終わろうとしている。

 

『皆、この世界で生きていて、笑っていて、幸せで、明日に期待して、大切な人がいて』

 

「バーテックスは誰も彼もが意志もなく、笑わず、幸福もなく、未来も大切な人もなかった」

 

 ティガは語り、ゼットは語る。

 

『全て、奪われた』

 

「何も、価値あるものを生み出せない生物として生み出された」

 

 御守竜胆は、殺された全ての人の代行者として、復讐と怨恨を祟りとして成すために。

 ゼットは、自分をかつて倒した、この世で最も敬意を払える巨人に勝つために。

 その一撃に、全てを込める。

 

『だから、許さない』

 

「だから、勝つ」

 

 このまま人が滅びれば、全ての死は無為になるから。

 それは、嫌だから。

 讃えられるべき強き光の巨人を打ち倒さなければ、自らの命の価値を証明できないから。

 それは、嫌だから。

 

 ティガは敵を(たた)り、ゼットは敵を(たた)え、絶対に負けられない理由を叫んだ。

 

『全ての死を―――無駄にしないために!』

 

「生まれてきた意味はあったのだと―――言うために!」

 

 ティガは手を十字に組む。

 ゼットは拳を突き出す。

 そこから放たれるであろうものは、ティガの黒き光線と、ゼットの赤紫色の光線。

 

 構えてから光線を撃つまでのほんの一瞬に、ゼットはふと思考する。

 自分のこの光線には、ウルトラマン達のような、光線の名前がないと。

 

(名もなき光線に、名を付けよう。

 あの時ティガに負けた自分に決別するために。

 彼らウルトラマンを超え、ウルトラマンの全てを終わらせる、その意志を光線の名に込める)

 

 ゼットは葬送の言葉を選ぶようにして、自らの最強光線に名を付ける。

 その光線こそが、ハイパーゼット最強の必殺技。

 

(殺す、殺す、殺す―――先に殺さないと、じゃなきゃ、また殺される!)

 

 真に絆で結ばれた仲間を全て失い、四国の共闘者の全てを失った竜胆は。

 

 もう、マリンスペシウム光線を撃つことができる"人の心"さえも、失っていた。

 

 心通じた最高の仲間達を失った彼に、人と繋がり受け入れる心を失った彼に―――撃ち放つことができる虹など、無かった。

 

『おおおおおおッ!』

 

 叫び、高めた闇を、黒き光線として撃ち放つ。

 静かに、百兆度級のエネルギーを、赤紫の光線として撃ち放つ。

 

 

 

『―――スペシウム光線ッ!!』

 

「―――ゼットシウム光線ッ!!」

 

 

 

 ウルトラマンの代名詞、スペシウム光線。

 その名に敬意を払い、ゼットンだからこその名を付けた、ゼットシウム光線。

 二つが空中でぶつかり、一方的にゼットシウム光線が押し始めた。

 

 竜胆は、『全て奪われた』と言った。

 だが、違う。

 まだ彼には大切なものがあり、守りたいものがある。

 ベッドに寝かされている仲間が、この戦場で助けてくれる仲間が、死んでほしくないと思う街の人間達がいる。

 残されたものがあり、それらを守りたいという気持ちが胸の中にある。

 その分だけ、想いの純度は下がり、この一撃に一途になれない。

 

 だが、ゼットは違う。

 ゼットは一途で真っ直ぐだ。

 ティガを前にすれば、ティガの全力とどうぶつかり、どう攻略して、どう倒すかしか考えていない。ティガのことしか見ていない。

 他の余計なことは一切考えず、精一杯、一心不乱にティガに立ち向かっている。

 

 スペシウム光線を一方的に押し切る、ゼットシウム光線。

 想いと力の両方で、ゼットはティガを上回った。

 

 ゆえに、ゼットシウム光線は、ティガの胸を深くにまで貫く。

 身体の再生などという能力が成立しないほどに、魂まで響く衝撃。

 物理破壊などという概念では語れないほどの破壊が、ティガの胸部を貫いた。

 

「終わりだな。見事な奮闘だった、ティガよ」

 

 ウルトラマンがスペシウム光線を撃ち、ウルトラマンはゼットンに敗北した。

 

 神話はまた、繰り返されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身が解けた竜胆は、胸に大穴が空いた状態で大地に放り出されていた。

 だが、動きは止まっていない。

 祟り神として自分を固定化した竜胆は、この程度では死なない。

 胸の大穴から血すら流れない。

 立ち上がろうとする竜胆は、"まだ戦える"と言わんばかりであった。

 

 そう叫んでいないということは、もう戦える力の全ても、叫ぶだけの力も、今ゼットに粉々に砕かれてしまったということだ。

 

「竜胆さん!」

 

「あーもう! ……世話が焼ける!」

 

 歌野と雪花が援護に向かう。

 ゼットはここで、尊厳ある戦死を全員に与えるだろう。

 その手に槍を持ち、ゼットがそれを振り上げる。

 

「さあ、終焉だ。お前達もここで―――」

 

 そんなゼットの背後に、瞬間移動でマガエノメナが現れた。

 ゼットが反応する前に、ゼットと、ゼットを羽交い締めにしたマガエノメナが消える。

 そして、マガエノメナだけが戻ってきた。

 雪花が戸惑い、歌野が目を細める。

 

「な、何事?」

 

「ご苦労さま、マガエノメナ。

 予定通り異次元にゼットを捨ててきたようね。

 これでゼットはしばらくは地球まで戻って来れない」

 

「!」

 

「私の目的が果たせるわ」

 

 そして、もう一体。

 マガエノメナとマガヒッポリトが跪くようなその存在が、現れる。

 おぞましき、怪物としか言えない姿の、その闇の巨人は。

 

「マガカミーラ……!」

 

「また会ったわね、白鳥歌野。その顔を見るのも、今日で最後になるのかしら? ふふ」

 

 雪花は冷静に目を走らせ、歌野に疑問を耳打ちした。

 

「歌野、他三体は? 来てない?」

 

「火、風、水の魔王獣ね。

 前回の戦いで暴走ティガのアタックを食らってたけど、もしかしたらそれで……」

 

 カミーラが醜悪に微笑んだ。

 その微笑みは、魔王獣三体が負傷していることを肯定するもの。

 

「沖縄、ティガダークと予想外が続いて、今は三体に大事を取らせてるけど……

 私を含めて星辰の魔王獣が三体もいれば、あなた達ごときには十分すぎるでしょう?」

 

「っ」

 

 口調は、一見歌野と雪花を甘く見ているように見える。

 だがその実、まったくもって逆だ。

 ただの人間の勇者二人を相手取るならば、星辰の魔王獣三体は明らかに過剰戦力である。

 この布陣は、カミーラが歌野と雪花――特に歌野――を警戒していることの証明だった。

 

 カミーラがティガに手を伸ばし、歌野と雪花がそれを止めようとするが、そこに飛んで来るマガヒッポリトの破壊光線、マガエノメナの破壊光弾。

 攻撃を回避した二人だが、分断され、歌野はマガヒッポリト、雪花はマガエノメナとの一対一に持ち込まれてしまう。

 マガヒッポリトが笑った。

 

「お前達の相手は、私達だ」

 

「くっ、邪魔よ!」

 

 雪花は舌打ちする。マガエノメナもまた、笑っていた。

 

「やな流れね、ホント」

 

 連携できなければ、質で劣る人間側に勝ち目はない。

 これは"万が一の敗北"を徹底して避ける戦術手腕と言えるだろう。

 そうして、フリーになったカミーラは、悠々と地表の竜胆に歩み寄る。

 カミーラは竜胆に手を向け、空中に闇の川を作るが如く、竜胆の体に闇を注ぎ込んだ。

 今の竜胆には、走って避ける程度の体力も残っていない。

 

「が、あ、ア、ウガアアアアァッ!?」

 

「さあ、この闇を受け入れて。

 私の闇を受け入れて。

 私の闇に染まって。

 ……真のティガダークの誕生よ」

 

 闇なら変換できる、そう思い、竜胆は歯を食いしばった。

 だが、変換できない。

 竜胆/ティガに備わっている闇を光に変える力が、上手く作用しない。

 カミーラの闇を、光に変えられないのだ。

 

 竜胆の中に注がれた闇が、カミーラが望む方向へと竜胆を変質させていく。

 『人間性』を削り、純粋な祟り神へと進む方向性が。

 『竜胆』を削り、素晴らしきティガダークを成立させる方向性へと変えられていく。

 竜胆が皆のために自分を消し去る道筋が、カミーラのために竜胆が消し去られる道筋へと、変えられていく。

 

(変換、できる、気配がない! 間違いなく闇であるはずなのに!)

 

 ただの闇なら変換は可能だっただろう。

 そうでないということは、これはただの闇ではないということだ。

 

 そう、それは、超高純度の愛。

 混じりっけなしの純粋な黒い愛。

 歪み以外の何も無い、そんな愛だった。

 

 能力だけでどうこうできるかと言えば、ノー。

 闇を光に変える力などでは歯が立たない、同量以上の正方向の純粋な愛でもなければ、そもそもまずぶつかり合いですら成立しない、歪んだ闇の愛。

 そんな(あい)が、竜胆の中に注がれていく。

 

「ぐ、が、がっ……!」

 

「祟り神止まりのつまらない存在になんてならないでね、ティガ。ふふ、ふふふっ……」

 

 マガエノメナと戦いながら、マガエノメナの電磁波を近い距離で受け、脳が加速度的に壊れていくのを感じ取りつつ、雪花は槍を投げる。

 投げた槍が、カミーラと竜胆の間に突き刺さった。

 

 ゆったりと、雪花の方を見るカミーラ。

 ティガに憑けていたが外れてしまっていた精霊・コシンプを憑け直し、"雪花から竜胆への好感"で、竜胆を強化する。

 焼け石に水程度の効能ではあったが、竜胆の抵抗力を強化し、カミーラの闇に抵抗する力をブーストさせていた。

 

「あなた何がしたいのかなー? 話聞いてる限りだと頭おかしいとしか思えないんだけど」

 

 それはマガエノメナの相手をしながら、カミーラの注意も引き、竜胆を守るような行為。

 はっきり言えば、自殺行為であった。

 一匹のアリがライオンと戦いながら、仲間のアリを守るために、仲間のアリを襲っている虎を挑発するような愚行。

 

 滑稽すぎて、カミーラは思わず嘲笑ってしまった。

 マガヒッポリトの目を狙わないとダメージを狙えないような雪花が、体格差を埋めるような飛び抜けた技能やスペックを持たない雪花が、無理に無茶をして背伸びをしている。

 無力な下等生物の足掻きを、カミーラは嘲笑していた。

 

「本当のティガは、虫一匹殺せないような優しい人だったのよ。本当に優しい人だったの」

 

「はーん、惚気かな?

 でもそういうの、御守先輩とは関係ないからさ。

 よそでやっててくんないかな。できれば私達に一生関わらないところで」

 

「ティガはティガよ。乳臭い小娘が何も知らずに口を出していい関係じゃないの」

 

「ババ臭い女の粘着質な妄執よりはフレッシュでいいんじゃないかなー」

 

 雪花はおそらく、この世代の勇者で一番口喧嘩が強いだろう。

 一番悪意に強く、口が回り、他人がぶつけてきた悪意に微笑みながらさらりと皮肉混じりの返答を返すのが上手いタイプ。

 その上で、仲間とは口喧嘩をしないタイプだ。

 

 雪花は口が悪いのではない。悪い奴相手に口を使うのである。

 そんな彼女が、狙わずして、カミーラの内にある新たな一面を引き出していた。

 

「虫一匹殺せないようなティガ……そんな人が、私を殺してくれた!

 死体の原型が残らないくらいに、徹底的に!

 光の巨人として、闇の巨人である私が二度と蘇らないよう、ちゃんと殺してくれたの!

 それはティガにとって私が特別であるという証明の一つ。

 慈悲と優しさに溢れたあのティガが、私を殺したことが、嬉しくて、苦しくて、辛くて――」

 

 闇に苦しむ御守竜胆を前にして、カミーラは恍惚とした表情を浮かべていたが、その表情が一瞬で切り替わる。

 

「――憎い。そう、憎いのよ。

 愛していたのに! 返って来たのは、愛ではなく殺意!

 ああ、憎い。何故私を愛さない。愛してくれない。こんなに愛しているのに!

 愛しているのなら! 光よりも、ユザレよりも、私を選んでほしかったのに!」

 

 歪み、壊れ、色んな人を死の内側に巻き込んでいく愛憎。

 そう、これが三千万年前ティガが封印や説得の道を諦め、カミーラを殺した理由だ。

 

「だから作りましょう。

 ティガを。私が失ったティガを。

 私が愛した、私を愛するティガを! そのための生贄なら四国に山のようにある!」

 

 人々の平和と安全を守るには、未来の罪無き人間の日々を守るためには、()()()()()を生かしておくわけにはいかなかったのだ。

 ティガがカミーラをどう思っていようが、()()()()()はみんなのために、殺しておかなければならなかったのだ。

 

 どんな過去があろうと、どんな愛が基点にあろうと、結論を変えてはいけない。

 カミーラに同情するのもいい。謝罪するのもいい。だが、受け入れてはいけない。

 だから、三千万年前のティガはカミーラを受け入れなかった。

 ティガですら侵し、竜胆でも光に変換できず、世界を喰らう歪みの愛。

 世界でさえも殺す毒。

 

「あっきれた」

 

 "それ"を、雪花は心底呆れた顔で、一言で切り捨てた。

 瞬間移動高火力という殺人的なマガエノメナの攻勢を、桂蔵坊による高速移動で紙一重でかわしつつ、雪花はカミーラに言葉を叩きつける。

 

「こんなに"素敵な恋愛"をする『才能』が無い人、初めて見たわ」

 

「―――」

 

「私も異性との恋愛経験なんて無いけどさ。

 ま、好きな男に夢見るのはいいよ。

 でもさ、現実のその人見ないで、夢押し付けんのはどうなのかな。

 この世に"カミーラの夢を叶えるために生まれてきた"人間なんていないんだからさぁ」

 

 雪花はよく回る口で、カミーラに言うだけ言いつつ。

 

「愛は、他人を変えて好きな人を作るもんじゃなくて……

 好きな人のために、ちょっとでいいから自分を変えるもんじゃないの?」

 

 カミーラに言いたいこと言うためとはいえ、愛を語ってる自分がなんだか恥ずかしくなって、雪花の声に照れが入った。

 対し、カミーラは馬耳東風。その愛憎は、ティガ以外の誰にも変えられない。

 

「一万年も生きていない小娘が愛を語るな! 片腹痛いわ!」

 

「小娘に否定されちゃうような愛掲げてる方が悪いんじゃないか、なんて思うんだけどなぁ!」

 

 そうして、カミーラは挑発してくる雪花に氷槍を発射し―――雪花はそれを避けて、マガエノメナに当てようとした。

 マガエノメナは咄嗟にギリギリで、氷槍をかわす瞬間移動回避を成功させる。

 

「!」

 

「む、上手く行かなかったか」

 

 カミーラを挑発し、攻撃させ、それをマガエノメナに当てさせて倒させる策略。

 言うなれば、弱者の工夫。

 横目に見ていた歌野の口角が上がった。

 

「いやはや、雪花さんはかっこいいわ!

 寒い地方から来ただけあって、冷静(クール)瀟洒(クール)ね!」

 

 マガヒッポリトの攻撃力は、かすっただけで歌野を即死させる。

 歌野の攻撃力では、マガヒッポリトの皮膚は千回叩いても貫けない。

 だから歌野は、心を読んでひたすら打っていた。

 打つ。

 打つ。

 マガヒッポリトの胸部下部辺りを狙い、寸前違わず同じ場所を狙い撃ち続ける。

 

 歌野の武器に宿る腐食の力を用いても、十回同じところを叩いても傷すらつかない。

 だが百回を超えたあたりで、胸の一ヶ所に跡が残り始めた。

 五百回を超えたあたりで、薄皮一枚分の腐食が始まった。

 恐ろしい速度で鞭による攻撃サイクルを加速回転させ、歌野の連続攻撃はどんどん攻撃間隔を狭めていった。

 

(やはり、今はこの女が一番危険……!

 強さの数値以上の危険度がある!

 白鳥歌野だけは、カミーラ様に近付けた時、万が一がありかねん!)

 

 だからこそマガヒッポリトも、無理はしない。

 焦りから最悪の選択は選ばない。

 マガヒッポリトが攻撃に一気に注力すれば、歌野は90%の確率であっという間に死ぬ。

 だが、残り一割ほどの可能性で、攻撃に回ったマガヒッポリトの隙を突き、竜胆の救援に駆けつけることができてしまう。

 

 マガヒッポリトは無理をせず、歌野の封殺に努め、役割を果たした。

 それは、マガエノメナも同様だった。

 

 歌野も、雪花も、闇を注ぎ込まれた竜胆の下に一秒でも早く駆けつけたいのに。

 

(行けない……!)

 

(越えられない……!)

 

 カミーラから竜胆を助けたい勇者二人。

 カミーラが竜胆を闇に堕としきるまで、勇者二人を止めて完全な詰みに持っていく魔王獣。

 部下を使い、集団戦というものを理解し、徹底して可能性を摘み取るカミーラ。

 

 人、それをチームプレイと言う。

 カミーラは昔からずっと、単独で戦う者ではない。

 闇の巨人四人で戦い、司令塔として闇の巨人四人の共闘を成立させる者だった。

 

 "あの頃が一番楽しかった"と思っている者だった。

 "あの頃に戻りたい"と心のどこかで思いながら、握り潰した人間の悲鳴を恍惚と思い出すような者だった。

 "もしも取り戻せるならば"と思い、あの頃のティガを想う者だった。

 ティガに仲間二人と自分自身を殺された時点で、もうどうしようもなく手遅れだというのに。

 

「くっ、ぎぃぃぃぃぃ、頭、頭ン中、がッ……!」

 

「抵抗せず受け入れなさい、リンドウ。

 その苦しみは最後に残ったあなたの光を捨てる苦しみ。

 抵抗するから苦しいのよ。

 光が残っているから苦しいの。

 闇を受け入れ、まだ残っていた僅かな光を、完全に捨て去ってしまいなさい……」

 

 優しく、カミーラが語りかける。

 

 あまりにも醜悪な優しさだった。

 

「?」

 

 その時、風が吹く。

 

 カミーラが言葉に乗せた醜悪な優しさを吹き散らすような、優しい風だった。

 

「よかった、間に合った」

 

 弱々しい足取りで、その少女はやって来る。

 

「……友……奈……?」

 

「……リュウくん、私と同じくらい、苦しい感じになってるね」

 

 注ぎ込まれた(あい)に苦しむ竜胆に、土気色の顔をした友奈が寄り添う。

 

 杏と同様の祟りを受けているはずだ。

 杏と違い、遺伝子の守りもないはずだ。

 友奈は普通の家の生まれの、特別なものなど何も持っていない普通の少女でしかないはずだ。

 その命は底をついていて、今死んでいないのが不思議な状態であるはずだ。

 歩く余裕などないはずだ。

 

 それでも友奈は、病院から友達のため、一歩歩く度に命を削って、駆けつけてくれた。

 

「今更役立たずな死にかけが一人増えたところで、何ができるというの?」

 

 カミーラが鼻で笑う。

 杏がそうだったように、天の神の祟りに蝕まれた人間は命を削られ、仮に何かしらの覚醒を迎えたとしても、何もできない。

 無力な友奈を、カミーラは妥当に見下していた。

 だが友奈は、竜胆だけを見ていて、カミーラの言葉に反応すらしていなかった。

 

「リュウくんさ、タマちゃんから勇気を貰ってから、時々言ってたよね」

 

―――見せてやる、俺達の勇気を!

 

「リュウくんが時々言ってたあの台詞。私も……ぐんちゃんも好きだったよ」

 

 傷付き、命は尽きかけ、心は涙を流し。されど、友奈は折れず、投げ出さず、諦めない。

 

 友を想い、前に進み続ける。

 

「皆で勇気を出してる……そんな感じがしててね……」

 

「待て、友奈、病院にっ……戻れっ……

 俺がお前の命が尽きる前に、全てを倒して、お前の命もっ……!」

 

「皆、ひとりじゃない。リュウくんはいつも……けほっ、けほっ、そう叫んでて……」

 

 苦しむ竜胆を庇うように、守るように、その前に立つ友奈。

 立って睨むは闇ノ魔王獣・マガカミーラ。

 これ以上竜胆に闇を注ぎ込むことは、高嶋友奈が許さない。

 

「リュウくんが皆と作った勇気、ずっと見てたよ。だから見てて」

 

 弱々しく、端末を持っているだけでも震えるほどに弱りきった手で、友奈は端末を握った。

 

「今度は……私の勇気を」

 

 そんな友奈を嘲笑し、カミーラは手先から小さな電気を放つ。

 大気を走った電気の力が、友奈の手の中の端末をいとも容易く破壊した。

 ガゾートのEMP攻撃があったために、大社が死ぬ気ですぐさま対電処置を施し、大抵の電気攻撃は効かないよう加工されていたはずだったのに。

 

「!?」

 

「雷を操る私の前で、電子機器に頼る者が変身できるわけがない。

 スパークレンスが優れた変身アイテムであるのは、そういうことでもあるのよ」

 

「……!」

 

 恐るべきは、マガカミーラの力。

 人類の小賢しい工夫などものともしない、恐るべき固有技能をいくつも持っている。

 これで友奈は変身できない。

 それどころか、僅かな電流の刺激だけで、残り少ない命が一気に半減してしまっていた。

 

「こほっ、ごほっ、ゲホッ」

 

 むせこむ友奈。

 口を抑える手の内側を、吐血が赤く染めていた。

 あまりにも悪すぎる顔色に、あまりにも色が悪い血の色が全く映えていない。

 

 竜胆は友奈を庇おうとするが、竜胆の体は友奈以上に動かない。

 友奈を助けられる者が誰も居ない。

 そして、カミーラは、ティガの周りにいる女を殺害することに何の躊躇もない女だった。

 

「端末もなく、そんな体で何ができるというの?」

 

「ここで友達を見捨てるような奴は、勇者じゃないよ」

 

「そう……じゃあ、死になさい」

 

 端末もない。

 神の力も、勇者の力もほとんどない。

 あるものと言えば、その手に装着された"天ノ逆手"くらいのもの。

 それさえも、今の弱りきった友奈には心強い武器ではなく、ただ重いだけで捨てたくてたまらない手甲でしかなかった。

 

 カミーラの指先が、友奈の胸に向けられる。

 

「嫌なんだ。誰かが傷付くこと、辛い思いをすること。

 友達がそんな思いをするくらいなら―――私が、頑張る!」

 

 弾丸の如く放たれる、必殺の氷槍(デモンジャバー)

 防御力が高いウルトラマンの表皮ですらも貫く邪神の一撃が、ただの人間でしかない友奈に向けて放たれる。

 かわせない。

 防げない。

 高嶋友奈は、ここで死ぬ。

 竜胆は叫び、友奈を何が何でも救わんとして、手を伸ばした。

 

「友奈っ!!」

 

 

 

 そして、勇気に溢れた友奈の右拳が、氷の槍にぶつかり。

 

 氷の槍に叩き込まれた右拳が、山桜の様な光に包まれ、勇者のそれに変わった。

 

 

 

「……何!?」

 

 友奈の右拳に弾かれた氷槍が、その場でふわりと僅かに浮く。

 

 友奈が右足を踏み込む。

 右足が勇者のそれに変わった。

 後ろの蹴り足である、左足で強く地面を踏む。

 左足が勇者のそれに変わった。

 

 振り上げた左腕までもが、勇者のそれに変わる。

 僅かに浮いた氷槍に左拳を叩きつけた瞬間にはもう、友奈の全身は勇者のそれに変わっていた。

 

「―――変わった!? 端末もなしに!?」

 

 高嶋友奈は勇者である。

 勇気持つからこその勇者。

 神が未来を託したからの勇者。

 その心で奇跡を起こすからこその、勇者である。

 

 拳の二連打で打ち返された氷槍が、カミーラの眉間に命中する。

 氷の槍は深くにまでは刺さらなかったが、その切れ味で眉間を浅く切り、カミーラの眉間に切り傷を刻み込んでいた。

 

「ぐっ、くっ……!」

 

「私は友奈! 高嶋友奈! 勇者、高嶋友奈だっ!!」

 

 命尽きる寸前に起こした奇跡。

 それは、燃え尽きる寸前のロウソクが強く輝くようなものなのだろうか。

 されど、そう思うには……友奈の心が放つ輝きは、あまりにも眩しかった。

 

「たとえ、端末がなくたって!

 この勇気だけが、私が勇者に選ばれた理由だから!」

 

 カミーラが忌々しげに追撃に放った雷も、友奈の拳が殴って砕く。

 

「この勇気は―――何にも、負けないッ!」

 

 命が尽きかけているはずなのに、平時の友奈よりも拳が力強い。

 どこか、何かが、神がかった動き。

 臨死状態が可能とさせた、無我の境地とでも言うのだろうか。

 追い込まれた状況においても友奈は強い。

 

 ピンチの中、窮地の中、絶望の中でこそ、友奈という少女の輝きは際立って見える。

 

「ぐあ、あああ、あああっ……!!」

 

「! リュウくん!?」

 

「でも、もう手遅れよ。ティガの闇の覚醒は……この私の手で、次の段階へ進む!」

 

 カミーラの闇の侵食が、竜胆の体内で最終段階に入った。

 少年の皮膚が、心が、魂が、白紙に墨汁を垂らしたように一気に黒く染まっていく。

 苦しむ竜胆。

 高笑いするカミーラ。

 雷を殴り砕く友奈。

 誰も何もできないその空間の中、竜胆の手を取る少女がいた。

 

「りっくん先輩、しっかり」

 

 駆けつけた杏の顔色の悪さ、焦点のあってない目、元気のない声に、竜胆は一瞬、死体になってしまっているのではとすら、思ってしまった。

 杏が触れた部分から、竜胆の皮膚を走る闇が消えていく。

 手を握ったことで、少年のその手から闇が消えていく。

 

「あん、ず……」

 

 ユザレの遺伝子の、光の力。

 命も体力も完全に尽きた杏にできることなど、遺伝子が宿す力を触れることで作用させることくらいしかない。

 幸い、カミーラの闇はユザレの光をゴキブリのように嫌っていた。

 カミーラ本体の意に反し、杏の手に触れないように、ゴキブリから逃げるようにその部分から離れ、竜胆の心臓や脳の方を先に侵食完了させようとする。

 

「友奈さん、りっくん先輩の手を! 友奈さんのポケットの中にあるものも一緒に!」

 

「え!? なんでアンちゃんこれがここにあるって知ってるの!?」

 

「分かりません! 勘です! でも、何となく分かるんです!」

 

 杏に呼ばれ、後退した友奈が雪花から託された神器を手の中で握る。

 それは、菱形の石だった。

 少し青みがかった透明な石。

 ティガの額にあるクリスタルと、同じ形の石だった。

 友奈が握り込むと、その石は僅かに光の点滅を始める。

 

「手を……」

 

 友奈は左手で神器を握り、右手で杏が握っていた竜胆の手を握る。

 杏が闇をどけてくれた竜胆の手を握った瞬間、友奈の手の中の神器が光の瞬きの強さを増し、光が友奈と竜胆を包んでいく。

 

「……リュウくん」

 

 させるか、とばかりにカミーラと魔王獣二体が竜胆に近付こうとするが。

 

「お二人が友達を助ける時間くらいは、私達二人で稼いでみせますとも」

 

「グッドな気合いね雪花さん! 嫌いじゃないわ!」

 

 三体の魔王獣が竜胆に気を取られた瞬間、歌野と雪花は上手く立ち回り、竜胆達を守る立ち位置を取って魔王獣の前に立ちはだかった。

 

「その光は―――その光はまさか―――!!」

 

 カミーラが叫ぶと同時、竜胆の体から吹き出した闇と光が、竜胆と友奈を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友奈が最初に覚えた感覚は、嘔吐感だった。

 

「うっ……こ、ここ、どこ?」

 

 気持ちが悪い。

 どこもかしこも闇、だけど僅かに光も混じっている不思議な空間。

 だが、それだけでなく、生理的嫌悪感を覚える空気で満ちていた。

 

 空気が闇で、空気が腐っていて、空気が粘着質。

 そんな印象すら受ける。まるで、空気そのものがヘドロになってしまっているかのようだ。

 

「考えたくないけど……」

 

 そう、これが。

 

「これが……リュウくんの、今の心の世界……?」

 

 最悪の人生を生き、シビトゾイガーに煽られた民衆によってどんどん悪化していき、人の死によって傷付き打ちのめされ、祟り神化と闇のティガ化の進行が進んでいる竜胆の心である。

 

 心は焼け付き。

 溶け。

 腐食し。

 煮立ち。

 切り刻まれ。

 食い散らかされ。

 汚染されていた。

 

 よく見れば心のそこかしこで、腐った肉が延々と自殺を続けていた。

 かと思えば、肉塊Aが肉塊Bを殺している。

 殺した肉塊Aが、肉塊C・D・Eに「殺人をしたな」「許されない」「許されるわけがない」と責められ、公開処刑された。

 そして殺した肉塊C・D・Eが「殺人をしたな」「許されない」「許されるわけがない」と更に多くの肉塊に囲まれ、更に公開処刑されていく。

 

 飛び散った血、砕けた肉がまた新たな肉塊となり、これの繰り返し。

 

「うっ」

 

 他の仲間の心がこうだったなら、友奈は混乱し、疑問に思っていただろう。

 何故こんな闇を抱えて、人間の味方ができるのか。

 何故こんな闇を抱えて、他の生物との共生ができるのか。

 せいぜい15年程度の人生で、何をやればこんな闇が育めるのか。

 どんな環境で、どれだけ憎めば、何をどう憎めば、こんな闇を創り上げられるのか。

 わけが分からなくて、戸惑ってしまっていただろう。

 

「リュウくんなら……そうだよね」

 

 『疑問』ではなく、得たのは『納得』。

 この心の状態を見て『納得』してしまうことが、本当に悲しかった。

 彼ならそうだろうと思ってしまう自分が、彼の心がこうなることを止められなかった自分が、悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

「……これを」

 

 友奈の左手には、まだ神器が握られている。

 聖石の神器は、友奈の手の中でまばゆく点滅していた。

 この聖石の光が竜胆の心に光を与えてくれるということは、なんとなく感覚で分かる。

 そういうものであるらしかった。

 

「リュウくんの心の一番奥にまで、届けないと」

 

 友奈が闇の中を進んでいく。

 進んでいく途中、闇に飲み込まれた竜胆の記憶や人間性が、闇の中に浮かんでいるのが見えた。

 闇は今も、竜胆の大切な何かを喰らい続けている。

 

―――嫌いだ

 

「これ……リュウくんの声?」

 

―――周りに優しくできない人が、嫌いだ

 

「心の声……心の断片……?」

 

―――なんでだ。簡単なことだろ。皆が皆に優しくなればいい、それだけじゃないか

 

「……リュウくん」

 

―――嫌いな人からは離れればいい。距離でも取ればそれでいいじゃないか

―――どうしても優しくできない人からは離れればいいじゃないか

―――皆、優しくされたいんだろ

―――攻撃なんてされたくないだろ

―――優しくされるだけの人生を望んでるんだろ

―――じゃあ、周りの人には、優しくだけしていてくれよ

 

「……」

 

―――なんで傷付け合う

―――なんでいじめを始める

―――なんで四六時中、叩きのめしていいサンドバッグをインターネットで探してる

―――なんで家族にすら、悪態をつくんだ

―――家族ですら、憎み合うのは、なんでなんだよ

―――俺は

―――もう、会いたくても、父さんにも母さんにも、妹にも、会えないのに

 

「……なんで、だろうね」

 

―――嫌いだ

―――愛してるけど

―――同じくらい、みんな嫌いだ

 

「リュウくんは……酷いことされてたことも、多いもんね」

 

―――嫌いだ

―――俺が守りたい人達の中に、俺が嫌いな、人の愚かさがあって

―――愚かさがない人なんて、本当はいなくて

―――俺は、ちーちゃんが持っていた醜さを、愛おしく思って

―――皆が分からない

―――俺が分からない

―――なんで俺は、愛してるのに、嫌いなんだ

 

「嫌いな人でも愛せる人は、生きてるの、本当に辛そうだ……」

 

 闇の中を進みながら、友奈は竜胆の心を受け止め、噛み締めていく。

 

「リュウくんが苦しいのは……

 自分が一番悪者だと、思ってるから。

 どんな人でも、沢山殺した自分よりは悪者じゃないと、思ってるから」

 

 山のように積み上がっている、竜胆の心を苦しめている理由。

 その一つ一つを、友奈は見つめていく。

 

「でも、それが全てじゃない。私は、リュウくんが悪者だなんて思わない」

 

 闇を踏破し、心の奥の奥へと進む。

 友奈はそこで、幼い竜胆を見つけた。

 闇の奥、心の奥、誰にも触れられるはずのない場所で、幼い竜胆の姿をした心が無言でうずくまっている。

 幼い竜胆の年頃は、小学六年生程度。

 つまり、千景と出会い、別れた頃の、あの頃の竜胆の姿をしていた。

 

 竜胆の心の奥にあった、静止した心の一部。

 あの日からずっと時間が止まったままの竜胆の心を、友奈は見つけた。

 

「リュウくん」

 

 友奈が呼びかけると、幼い竜胆が顔を上げる。

 

「要らなかった

 要らなかったんだ!

 神様も、怪物も、ウルトラマンも!

 何もかも要らなかった!

 歩くだけで人を踏んで殺せてしまう生き物なんて、要らなかった!

 俺は要らなかった!

 居るべきじゃなかった!

 生まれてこなければよかった!

 生きていなければよかった! 生きたい気持ちだなんて、最初に捨てておけばよかった!」

 

 竜胆は友奈に対し、いつも思っていた。

 友奈は竜胆に対し、いつも思っていた。

 "辛い時でも笑顔なこの人は、とても強くて尊敬できる人なんだ"と。

 "この人が何の憂いもなく笑える日が来るといいな"と。

 

 ずっと、ずっと、竜胆の笑顔の下には、『これ』があった。

 友奈はそれが悲しくて、それが悔しくて、抱きしめたくて、けれど手を伸ばしても、何かに阻まれて手は届かなくて。

 

「人を殺して笑う闇の巨人なんて!

 村で、人を握り潰して上機嫌で!

 人を踏み潰して咆哮して!

 家族すら殺して!

 力はあるのに、いつも守れなくて!

 殺せるのは、罪のない人か、力のない人ばかりで!

 なんだよ!

 なんだよそれは!

 大好きな人と明日、また会いたい! そんな願いですら過分だって言うのかよ!」

 

 幼い竜胆は、泣いていた。

 四年前の村の虐殺の時からずっと、泣いていた。

 

「心を、制御できてないから。

 闇で暴走するような俺だから、誰も守れないのかな」

 

 友奈は歯を食いしばって、前に踏み出す。

 距離は縮まらない。

 幼い竜胆に手は届かない。

 それでも、前に踏み出し続けた。放ってなんておけなかった。

 

「俺は、人の世界に、いちゃいけなかったんだ。

 癇癪を起こして、腕を振るえば、人が死ぬ。

 そんな子供は、生きてちゃいけなかったんだ。それが全ての間違いだったんだ……」

 

 闇の力に心を暴走させられた子供の癇癪だから仕方ない、なんて理由で、大量殺人を正当化できるものなのだろうか?

 少なくとも竜胆は、できないと思っている。

 だが、それがどうしたというのか。

 それは友奈が、竜胆に救いの手を伸ばすことを、止める理由にはならない。

 

「違うよ」

 

 友奈が心の力を振り絞って踏み出せば、その手の中の聖石が光り輝く。

 

「リュウくんには、生きる権利も、幸せになる権利もある。何も間違いなんかじゃない」

 

 神器としての光を放つ聖石が、闇の妨害を祓う。

 一歩、また一歩と、友奈が竜胆に近付いていく。

 

「だから私は、ここに来たんだ」

 

 幼い竜胆が、泣きながら、くしゃっと微笑んだ。

 

「そんな友奈が、大好きで、けれど、最初の頃は苦手だった。君は、眩しすぎたから」

 

 子供の頃からずっとずっと優しさを捨てられず、ゆえに苦しむ竜胆を見て、友奈は三ノ輪大地の最後の言葉を思い出す。

 

■■■■■■■■■■

 

『竜胆。優しさを失わないでくれ』

 

『その優しさが裏切られたなら、優しさを捨てて好きに生きたっていい。

 だが、叶うなら、優しさを捨てなくていい未来に行ってくれ。

 優しさを捨てなくていい人生を生きてくれ。

 皆が死んだらワシは悲しいが……お前が優しさを捨てることになったとしても、ワシは悲しい』

 

『優しいお前になら、ワシは自分の大切なものの全てを、安心して託せる』

 

■■■■■■■■■■

 

 

 竜胆は、本当に優しくて。

 優しいからこその後悔があって、それゆえに自分を否定して。

 三ノ輪大地は、その心をずっと見ていてくれたのだ。

 

 大地には、いつか竜胆が優しさを捨ててしまうかもしれない可能性が、見えていたのかもしれない。

 大地が祟り神化のことを予想していたわけがない。

 だが、竜胆が大切なものを守るために優しさを捨てて力を得ようとして、捨てきれずあがきもがき苦しむ人間であることは、大地にも分かっていたということだ。

 

 今、竜胆は、大地が危惧した優しさを失う過程にある。

 その失われゆく優しさを繋ぎ止められるかもしれないのは、友奈一人だけだった。

 

「もう、俺は、これ以上頑張れない。もう嫌だ。限界だ。これ以上頑張れない」

 

「うん、リュウくんがこれ以上無理をする必要なんて……」

 

「でも、もっと頑張らないと」

 

「え?」

 

「もっと頑張らないと、皆が幸せになれない。

 皆の笑顔を守れない。だから、だから、もっと頑張らないと。そうだ、頑張りが足りない」

 

「リュウくんっ……!」

 

 手を伸ばす。手を伸ばす。手を伸ばす。けれど、届かない。

 助けたいといくら願っても、友奈の手は届かない。

 届くのは言葉くらいのもので、想いが届いているかは分からない。

 

「いいんだよ。

 もう、いいんだ。

 周りを見て。

 私は、あなたにもっと頑張れ、なんて言ってない。

 仲間の皆も、あなたに頑張りが足りてないだなんて言ってないよ」

 

「だけど……だけど……」

 

「よく頑張ったね」

 

 頑張ってきた竜胆に、『よく頑張った』という言葉は、よく響いた。

 

「リュウくんが頑張ってたから、みんなリュウくんのことを好きになったんだよ。

 リュウくんが頑張ってたから、みんなリュウくんに託したんだよ。

 リュウくんは、もう十分に頑張ったんだ。

 だから、『これ以上頑張っちゃ駄目』。

 人間の限界以上に頑張るために……神様になんて、なったりしないで、リュウくん」

 

 ぐらり、と幼い竜胆の体が揺れる。

 

「違う。

 僕が。

 俺が。

 俺の頑張りが、足りなかったから。

 死んだ、死んだ……みんな、死んだ。

 もっと僕が頑張ってれば……僕の大好きな人は、誰も死ななくて済んだはずなのに……!」

 

「リュウくん!」

 

「俺は!

 頑張らなかったから失って!

 頑張りが足りなかったから、こんなにも、泣きたいんだ!

 でもな、泣いてるような弱さが邪魔だ!

 だからケンから貰ったんだ! 涙をこらえる強さを!

 その強さのおかげで……こんなにも泣きたいけど、泣かないで頑張っていられてるんだ!」

 

「っ」

 

「だから、もっと頑張るんだよ! この泣きたい気持ちが消えてくれるように!」

 

 頑張れば、全てを守れて、悲しい気持ちも苦しい気持ちも泣きたい気持ちも消えてくれるはずだと、幼い竜胆の心が叫ぶ。

 本当は、球子の母との会話のおかげで、"そんなわけがない"と分かっているのに。

 心の奥底にいた幼い竜胆は、こんな子供らしい叫びを上げてしまう。

 

 もっと頑張れば、悲しくなくなるはずだと。

 

「リュウくんは、頑張ったから泣きたいんだよ」

 

「―――」

 

「リュウくんの頑張りが足りなかったなんて、リュウくんにだって言わせない」

 

 違う、頑張ったから悲しいんだよと、友奈は言い切る。

 竜胆はもう十分に頑張っていて、神様になってまで、人間の限界を超えて頑張らなくていいんだと言ってやる。

 

「頑張った後に駄目だったら、泣いていいんだよ」

 

 幼い竜胆の目から溢れる涙は、今日までの日々の中、ずっと溜め込まれていた感情の濁流。

 

「だって、私は!

 リュウくんにも笑ってほしくて!

 その笑顔が見たくて!

 ずっとずっと、頑張ってきたんだから!」

 

 闇の中、踏み出す。

 距離が縮まらない。それでも懸命に踏み出し続ける。

 少しずつ、少しずつ、友奈が伸ばした救いの手が、竜胆の心に近付いていく。

 

「一緒に泣いてくれたリュウくんの傍にいるために!

 またいつかどこかで、リュウくんと一緒に泣いてあげるために!

 楽しいことは共有して、辛いことは半分こして、それが友達だと思うから!」

 

 あと少し。

 あと少し。

 泣いている友達に向けて友奈が伸ばしたその手が、幼い竜胆の手に近付いていく。

 

「だから!」

 

 けれど届かない。

 あと少し、あと少しなのに。

 竜胆の手に、もう少しで届かない。

 が、友奈が諦めるわけもなく。

 

「私は、リュウくんを―――諦めないッ!!」

 

 左手に握られていた神器が輝き、友奈が伸ばしていた右手に光が宿る。

 友奈に加護を与えていた神が、ほんの少しの手助けをする。

 

 友奈の右手に、酒呑童子の腕甲が現出した。

 友奈の右手に沿って具現化するものでありながら、友奈の胴体にも匹敵するサイズを誇るそれが現れたことで、友奈の手が結果的に"伸びる"。

 伸びた分、遠くまで届かせられる。

 

 酒呑童子の力が宿った神器・天ノ逆手は、友奈が必死に伸ばした手は、そうしてようやく、幼い竜胆の小さな手を掴んだ。

 

「何もかも失ったような顔をしないで。私はまだいるから。私が、そばにいるから」

 

「友、奈」

 

 掴んだ手を引き寄せて、友奈は幼い竜胆の体を抱き締める。

 

「私の手。神様から貰った手――」

 

 天ノ逆手は、天への呪いと解釈することも、祝であると解釈することもできる、伝承からしてあやふやなもの。

 これが何であるかを決めるのは、与えられた友奈自身。

 

 友達の手を掴んだ友奈の手を、どんなものからも守る腕甲を、神様が与えてくれた。

 生身の手では届かなくても、この腕甲なら届くかもしれない。そういう手を、神様はくれた。

 友奈は、そう思う。

 

「――きっとこうして、友達の手を掴むために、神様がくれたものだったんだね」

 

 友奈は泣いている竜胆を抱き締めて、離さない。

 

「あなたが特別な人間だから友達だと思うようになったんじゃない」

 

 千景もこうして抱きしめられて、友奈に癒やされたことがあった。

 友奈に抱きしめられ、竜胆は柔らかさと、暖かさと、優しさを感じる。

 とても優しい、抱きしめ方だった。

 

「友達だと思ってるから、特別なんだよ」

 

 強いからだとか、凄い天才だからとか、超古代の遺伝子を持っているからだとか、ティガだからとか、昔の恋人の子孫だからだとか、そういう理由は一切なくて。

 友奈は竜胆という一人の少年を見て、その心を見て、友達になってくれた。

 友達だから特別なんだと、言ってくれた。

 それが、竜胆の心には、この上ない救いとなる。

 

「辛かった、辛かったんだ」

 

「うん。よく頑張ったね」

 

「助けてほしかったんだ」

 

「私がいつでも、助けに行くよ」

 

「ああ、くそ。俺もしかしたら、今友奈のことが一番、好きかもしんない」

 

「……へ? あ、ああ、そうなの……そうなんだー……」

 

 二人揃って、なんだか照れながら、笑い合う。

 

 三千万年前ティガは、ティガダークからティガトルネード、そしてティガブラストの力を得て、ウルトラマンティガへと戻り至ったという。

 竜巻(トルネード)

 突風(ブラスト)

 この名の共通項は偶然か?

 否、違う。

 

 "オリジナルのティガ"は、()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 友奈が最初に手に入れた精霊は『一目連』。暴風にして嵐の精霊。

 竜胆が初めに得た光が、竜巻(トルネード)

 次に得た光が、突風(ブラスト)

 そして今ここに、最後の……"三つ目の光の風"が、友奈と一目連から彼に託される。

 

 光の風が、竜胆と友奈を包み込み、心に満ちていた闇を晴らした。

 竜胆の心の中に、光が満ちていく。

 友奈の真っ直ぐな友への愛が、二人の間の繋がりが、カミーラの歪んだ愛そのものである注がれた闇を片っ端から光に変えていく。

 

「もう、大丈夫?」

 

「ああ、少しは大丈夫になった」

 

 微笑む友奈に、見惚れる竜胆。この子が友達でいてくれてよかったと、竜胆は心底思う。

 

 高嶋友奈は、山桜の勇者。

 

 山桜の花言葉は―――『貴方に微笑む』。

 

 その微笑みを、いつまでも守りたいと、竜胆は思った。

 

 

 

 

 

 人生とは、向かい風の中走り続けるようなものだ。

 

 向かい風に向かって行ってもいい。

 風に流されて楽をしてもいい。

 向かい風に無理して立ち向かわなくても、少し足を止めて考えて、向かい風に立ち向かわないで進んで行く道を探してもいい。

 

 竜胆は見えない今日の向かい風に立ち向かっていく。

 これまでも。

 これからも。

 友の微笑みを見て、いつまでも守りたいと、その微笑みが好きなんだと、そう思ったなら。

 

 逃げてはならない竜巻(トルネード)や、突風(ブラスト)に立ち向かわなければならない日が、いつの日かきっと来る。

 その日は、一度ならず、きっと何度もやって来る。

 けれども立ち向かい、越えていかなければならない。

 

 その微笑みを、守りたいと思ったのなら。

 

 

 

 

 

 

「覚えてる? 竜胆おにーちゃん」

 

 ナターシャ、と竜胆は呟いた。

 

「光は絆。

 誰かに受け継がれ、再び輝く。

 光はね、いつだって、誰かとの絆から貰うものなんだよ」

 

 そうだったな、と竜胆は呟いた。

 

「こういうの、言っていいのか分かんないけど。

 幸せにならなかったら、許さないからね、兄貴!」

 

 『妹』が、『二人同時』に、言葉をくれた、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 そして、もうひとり。

 

「タマはいつだって傍にいるぞ。近くにいるけど、二度と会えないだけだ」

 

「だから、頑張れ」

 

「かっこいい先輩の姿、タマに見せ続けてくれ」

 

 誰かが近くにいてくれている、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 竜胆の心の中から二人は帰還し、二人を飲み込んでいた光と闇も消えていく。

 

「俺さ、希望も、友奈も好きだ。

 どっちも眩しくて、暖かくて、導いてくれるから、大好きだ。

 自分勝手な言い草だよなって思うけど……ずっと近くにいてほしいなって思う二つなんだ」

 

 友奈が頬を掻き、照れた様子で微笑む。

 竜胆の中ではもう、希望と友奈が同列であるらしい。

 

「リュウくんがリュウくんのままで居る限り、きっと皆、ずっと近くにいてくれるよ」

 

 誰もが、そのままではいられなかった。

 

 変われないという嘆きがあった。変わりたいという願いがあった。

 

 その願いが、叶う時がきた。

 

「友奈の勇気、見せてもらった」

 

―――リュウくんが皆と作った勇気、ずっと見てたよ。だから見てて

―――今度は……私の勇気を

 

 他人の心に踏み込み、友達の心にぶつかっていく勇気。

 嫌われることを恐れず、本気で友達にぶつかっていく勇気。

 それは、かつての友奈にはなかった勇気。

 今日、竜胆を救うため、高島友奈が振り絞った勇気だった。

 

―――聞き上手、気遣い屋、なんて言われるけどね。

―――本当は、強く自己主張できないだけなんだ。

―――喧嘩したくないから。他の人と争いたくないから。

―――自分を出さないようにして、周りに合わせて、自分を出して喧嘩になるのが怖くて……

 

 月明かりの教室での会話を、竜胆はちゃんと覚えている。

 友奈は他人に対し、踏み込むことを恐れる子だった。

 自分を出してぶつかっていって、その結果として嫌われることを恐れる少女だった。

 他人との距離を常に測り続け、踏み込みすぎないよう注意している女の子であった。

 

 でも、あの日に、竜胆が友奈の心を少し柔らかくしてくれたから、今日の友奈は竜胆の心の中に踏み込んでいって、思いっきりぶつかっていくことができた。

 友達は助け合うものだ。

 そこに上下はない。

 昨日助けて、明日助けられて、その繰り返し。

 

 友奈は竜胆の成長を喜び、竜胆は"嫌われる恐怖を飛び越える友奈の勇気"を見て、友奈の成長を喜んだ。

 そんな二人の関係。

 

「今度は、俺が友奈に勇気を見せる番だ」

 

「リュウくん」

 

 勇者に恥じない勇気を見せたい。そう思う彼の心は、とても男の子らしかった。

 

「だから見ていてくれ、俺の勇気を」

 

 光と闇の濁流が消え、悠然と立つティガを見て、カミーラが顔色を変える。

 

 それは、ありえてはならない希望を見てしまったがゆえの、絶望の表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本神道の解釈において、神は荒御魂(あらみたま)和御魂(にぎみたま)の二つの側面を持つとされる。

 そしてこの和御魂(にぎみたま)もまた、幸御魂(さきみたま)奇御魂(くしみたま)の二つの側面を持つという。

 この四つの総称を、四魂と言う。

 

 荒御魂(あらみたま)は、今の竜胆のことだ。

 祟る神。災いの神。荒ぶる神である。

 ……そして。

 ()()()()()()()()()は、()()()()()()

 荒御魂(あらみたま)は、人の中にもある前に進む力である、と解釈されることもある。

 

 荒御魂(あらみたま)とは、神が示す『勇気』そのものでもあるのだ。

 

 和御魂(にぎみたま)はその逆だ。

 優しさ、慈しみ、愛を与える、(なご)ませる神。

 攻撃的な祟り神の逆、人を愛し救う守り神としての神である。

 

 和御魂(にぎみたま)を構成するものは、幸御魂(さきみたま)奇御魂(くしみたま)

 幸御魂(さきみたま)は他人を思いやり、相互理解を求め、人を愛し育てる側面。

 奇御魂(くしみたま)は物事を学び、目の前の現実を理解し分析する知性の側面。

 この二つの側面が合わさり和御魂(にぎみたま)となる。

 

 和御魂(にぎみたま)の特性は、人と(なご)やかに話し、親しく交わり、平和をもたらすというものだ。

 

 だからこそ、この概念はこうまとめられている。

 『荒御魂は勇、和御魂は親、幸御魂は愛、奇御魂は智』。

 

 他人を思いやり、相互理解を求め、人を愛し育てる高嶋友奈が、ここにいる。

 物事を学び、目の前の現実を理解し分析する知性を持つ伊予島杏が、ここにいる。

 荒御魂である御守竜胆が、ここにいる。

 二人が助け、光を導いたことで、竜胆は闇の中より帰還した。

 

 竜胆が勇。

 友奈が愛。

 杏が智。

 少女二人の救済行為にて、親。

 勇、親、愛、智は、ここに揃っている。

 

 荒御魂のみが突出した神などを曲霊(まがひ)と言い、これは暴走する邪悪な状態の神である、とされる。

 そして上記の四魂バランスを整え元の状態に戻ったものを、直霊(なおひ)と言う。

 

 直霊(なおひ)が司る機能は『省』。そして『良心』。

 "過去の行為を省みる"ことと、"その結果として良心を獲得する"こと。

 それが、直霊(なおひ)の表すものだ。

 

 荒ぶる勇気から始まり、友奈の愛と杏の智にて、二人の少女に親にして手を引かれ、自らの過去を省みて―――大きな一歩で、全てを乗り越える。

 二人から色んなものを受け取って、乗り越える。

 

 今の数分の間に、神としての竜胆が『荒御魂』から『直霊』と成った道筋は、竜胆の人生全てを総括するようなものだった。

 

 

 

 

 

 ここではない世界において、カミーラの歪んだ愛は、ティガとその恋人の愛によって浄化され、光に変換され、ティガダークは完全にウルトラマンティガとなった。

 カミーラの(あい)は、正しい愛にぶつかることで、(あい)へと変換される。

 闇の愛は、光の愛に負ける。

 そんな運命にある。

 

 竜胆は、誰よりも多くの者に笑顔を向け、誰よりも多くの者を大切にし、誰よりも多くの人間を心に想う友奈の愛こそが、誰よりも大きな愛であると思っていた。

 彼女の心は普通の少女のそれであったが、その勇気と、優しさと、愛こそが、どんな人間にも勝るものだと、竜胆は心の底から信じていた。

 友奈の愛を、信じていた。

 

 ―――御守竜胆を闇の中から救ってくれたのは、『高嶋友奈の愛』だった。

 

 

 

 

 

 カミーラは、自分に近い性格の千景を警戒していた。

 次に、聖剣に選ばれた若葉をもっと警戒した。

 その若葉以上に、ユザレの子孫である杏を警戒した。

 歌野もまた、その精霊で一気に警戒度を引き上げられたと言える。

 

 だが本当は、一番に警戒すべきは、高嶋友奈だったのだ。

 『友奈』以上に愛が深く大きな勇者など、他にはいなかったのだから。

 

「リュウくん」

 

 雪花が友奈に託した神器は、『ティグの紋章』。

 ティガの覚醒を導き、光の目覚めを誘発させる聖石の神器。

 それが今、友奈から竜胆に手渡される。

 

「りっくん先輩」

 

 棗が杏に託した神器は、『青銅のスパークレンス』。

 大昔作られた、青銅製のスパークレンス。金属器として作られた神器。

 それが今、杏から竜胆に手渡される。

 

「また、勇者に勇気を貰っちまったな」

 

 何一つとして、無駄ではなかった。

 諏訪の奮闘も。

 北海道の奮闘も。

 沖縄の奮闘も。

 今、ここに繋がっている。

 

 竜胆/ティガがここで終わらせなければ、ここから先へも、繋がっていく。

 

「俺になかった勇気。それは……

 どんな時でも、『ウルトラマンを名乗る勇気』だ」

 

 名乗れば、その瞬間に不退転となる。

 

 もう二度と闇に堕ちることは許されず、情けないことをすることも許されない。

 正しいことをしていくことを約束し、義を裏切らないことを誓い、正義を胸の中に秘め、光の戦士として戦っていかなければならない。

 

 ウルトラマンの名を名乗れば、新たに背負う重荷がある。

 投げ捨ててはならない責任を得る。

 貫くべき在り方がある。

 

 "自分なんかがウルトラマンを名乗ることが許せない"という気持ちを越えられなければ、どんな者もその名を名乗ることはできやしない。

 

 竜胆は思い出す。

 ボブを思い出す。

 ケンを思い出す。

 ナターシャを思い出す。

 海人を思い出す。

 大地を思い出す。

 一つ、一つ、それぞれ違う形の『ウルトラマン』を思い出す。

 

 万人に認められなくてもいい。

 でも、彼らの後に続く者として恥じない自分になろうと、そう心に決める。

 

「俺はもう二度と、闇には支配されない。

 光だけに焦がれない。

 皆がくれた勇気で―――過去の全てを、乗り越えてみせるッ!!」

 

 叫び、掲げた青銅のスパークレンスが起動する。

 青銅を塗り潰す光。

 青銅であったはずのスパークレンスが、『竜胆色のスパークレンス』に塗り替わっていく。

 

 カミーラの(あい)が、友奈の愛で変換された、友を想う(あい)がそこにあった。

 

「―――光よぉぉぉぉぉッ!!」

 

 闇に包まれるティガダークへの変身プロセスとは真逆の、光に包まれる変身プロセス。

 

 光の柱が、地より伸びて天を衝く。

 

 その光景を、何もできぬままただ呆然と、カミーラは見つめていた。

 

「光が上がっていく……もっと、もっと高く……もっと高く(TAKE ME HIGHER)……」

 

 『嵐が丘』を手癖で『ワザリングハイツ』と綴ってしまう癖があるような杏の口から、ごく自然と、言葉が漏れる。

 立ち上る光に、誰もが見惚れていた。

 勇者も。

 四国も。

 魔王獣も。

 カミーラでさえ、恋する乙女の瞳と、怨敵を見る殺人者の瞳が入り混じった目でそれを見る。

 

 杏は弱りきった体で、拳を突き上げ、叫ぶ。

 

「天の神よりも、もっと高く。もっと貴く。行って、私達の『ウルトラマン』!」

 

 光の柱が消えた時、そこには、虹の光と黄金の光に包まれた、闇の気配など微塵も感じさせない『光の巨人』が立っていた。

 

 闇など欠片も無いというのに。

 光があまりにも大きすぎて、体色すら見えないというのに。

 これまでの彼と、あまりにも違う姿であったというのに。

 誰もがその姿を見て、「ティガだ」と疑いもしていなかった。

 

 

 

 

 

 カミーラが震える。

 三千万年前、カミーラを粉砕した光と、似た光の波動を感じる。

 そう、これこそが、三千万年前に世界を救った光の巨人。

 

 闇の巨人として、三千万年前の文明のほとんどを消滅させ、当時の光の巨人全てを皆殺しにし、その後カミーラ達三人を一人で撃滅したことで、世界を救った光の巨人。

 邪神を討つ、"神殺しのウルトラマン"。

 

「この、光は……!」

 

 カミーラの声は震えていた。

 

『いつもより皆を近くに感じる……"ウルトラオーバーラッピング"ッ!!』

 

 叫び、ティガが光を爆発させる。

 神樹が放った幾多の光が、ティガの全身に結合した。

 何か。今、とてつもない何かが起こった。

 

 ティガが空に向けて手を回すと、腕の軌跡に炎が走り、炎の円が出来上がる。

 それを投げ、魔王獣へと叩きつけた。

 

(オーブ)……タマっち先輩……?」

 

 紅蓮の炎がマガカミーラ、マガヒッポリト、マガエノメナを包み込む。

 炎は敵へ纏わりつき、その動きを完全に封じた。

 その炎は、間違いなく精霊・輪入道の力。

 敵の動きを止めたティガが、空へと腕を掲げる。

 その手の先で、精霊・一目連が実体を形成する。

 

「あれは輪入道……あっちは、一目連!」

 

 友奈は知っている。

 ウルトラマンでありながらも、精霊の力を使える存在のことを。

 ウルトラマンの肉体で、精霊を使える少女のことを。

 今のティガの動きは、戦いの時のあの子の動きにそっくりだった。

 

「アナちゃんの、力だ……!」

 

「りっくん先輩と、一緒に戦っている……?」

 

 友奈の精霊・一目連は、鍛冶神の力を持つ。

 球子が死ぬ戦いの前、アナスタシアが一目連の力を使って、粉砕された球子の旋刃盤を直していたのは記憶に新しいだろう。

 金属の全ては、鍛冶神の力に司られる。

 金属であれば、鍛冶神はいくらでも直すことができる。

 

 だからこそ、その力の行使は、マガヒッポリトを驚愕させた。

 

「!? 粉砕したはずの、乃木若葉と郡千景の破片が……!?」

 

 ブロンズ化された?

 ブロンズ化された後に粉砕された?

 結構。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 金属(ブロンズ)なのだから。

 

 生身であれば、治す方法はなかっただろう。

 だがブロンズになって粉砕された、それだけだ。

 友奈ですら一目連から引き出せない鍛冶神の力を、"アナスタシアのように"引き出し、手も触れずに破片を集め、元の人型に再構築する。

 

 そうして完成したブロンズ像完成品二体に、ティガはビームを撃った。

 

『セルチェンジビーム』

 

 ブロンズ化していた細胞の一つ一つを、丁寧に、かつ一瞬で元の細胞に還元していく。

 ヒッポリトのブロンズ化は一瞬で生命活動を停止させ、一瞬で肉体をブロンズ化させるため、全身の細胞一つ一つが完全に無傷なまま死んでいる、という状態になっていた。

 ブロンズ化を解いても、止まった生命活動は蘇らない。

 

 だが、医学を知る者ならば、こんな苦境でも諦めることはないだろう。

 肉体の損傷が少ないならば、心臓や脳が止まって"死んで"も、そこから蘇生することはある。

 二人の肉体の損傷は0、ゆえにティガには打てる手があった。

 

『クリスタルパワー!』

 

 ティガの額から光が放たれ、ティガの生命エネルギーを変換した光が、生身に戻った若葉と千景に注ぎ込まれた。

 

 それはかつて、どこかの宇宙で、クィーンモネラという怪獣の力によって倒され、"生命活動を停止した"と明記されたウルトラマンダイナを、蘇生させた技。

 "停止させられた生命活動を再開させる技"である。

 死者蘇生? 否。

 あくまで、エネルギーを注いで停止した活動を再開させる、それだけの技だ。

 

 なればこそ、"対象の生命活動を停止させる"と明記されたヒッポリトの天敵。

 この技は大怪我で死んだ人間には何の効果もないが、マガヒッポリトのブロンズ化で死んだ人間に対しては、成功確定の蘇生魔法に等しかった。

 

「む……む? なんだ、これは。神刀と聖剣は……あるな」

 

「ふわぁ……ね、寝ぼけてないわよ。あれ? ここどこ? 竜胆君や高嶋さんは……あ、いた」

 

 蘇る、乃木若葉と郡千景。

 

 笑えるくらいに能力相性が突き刺さった、ウルトラCのちゃぶ台返し。

 

「ば、バカな! ありえん! 私のブロンズ化が!

 精霊行使に、細胞還元光線に、生命エネルギーの譲渡だと!?」

 

 輪入道、一目連をアナスタシアレベルで行使。

 細胞を還元するセルチェンジビーム。

 生命エネルギー譲渡による、生命活動停止状態の者の蘇生。

 どれもこれもが、これまでのティガにはなかった能力だ。

 

 黄金と虹の光に包まれているティガは、未だその姿すらまともに見えない。

 

「……マガヒッポリト! マガエノメナ! 手加減は無用よ!」

 

 マガカミーラの、憤怒と絶望の声が響く。

 

 マガエノメナが全力で発狂電磁波を、マガヒッポリトが全力でブロンズ化する空気を拡散し、ティガを飲み込まんとする。

 だが、足りない。

 あまりにも、力が足りなかった。

 ティガが、空手の構えで、裂帛の気合いを放つ。

 

『はあああああッ!!!』

 

(!? 私とマガエノメナの特殊能力が―――ただの光に、押し返されている―――!?)

 

 ティガの光が、気合いでティガの体から広がっていっただけの光が、マガヒッポリトとマガエノメナの特殊攻撃を全て押し返していく。

 それだけではない。

 四国内部に満ちていた発狂電磁波もその全てが押しやられ、消し去られ、四国内部にほんの僅かな残留電磁波もないレベルで、駆逐していった。

 

「おい、この光……」

 

「ああ……」

 

「ティガの心の光だ……触れると分かる……ティガの心が、伝わってくる……」

 

 その光は、四国の隅々にまで広がっていく。

 ティガが自己再生の度に使っている治癒能力を上乗せしているため、四国全土の脳を破壊された全ての人達が、破壊された脳を治されていった。

 

 更に、祟り神として完成しなかったものの、その存在は光の側の神として完成。

 闇を浄化し、闇を光に変える力も同時に拡散されたことで、友奈と杏の体を蝕む祟りも消える。

 そう。

 今この瞬間、『ティガ』は『天の神』と同格の『光もたらす神』となったのだ。

 

「……俺、もしかしたら、ティガのこと、とんでもない勘違いを……」

 

「そうか……あの放送は……私達のためについた、真っ赤なウソで……」

 

「痛い、痛い、なんだこれ……こんな痛みに耐えて、戦ってたってのか……?」

 

 伝わる気持ち。

 伝わる感情。

 伝わる心。

 竜胆の記憶がそのまま流れ込んでいるわけではない。

 だが、皆が皆、光を通して、御守竜胆の心に触れていった。

 

「僕は……僕は信じないぞ! あいつは悪者だ! ずっと、皆、そう言ってきたじゃないか!」

 

 頑なに認めない者もいる。

 

「だって……だって!

 それを認めたら!

 こんなに頑張ってくれてた子供を!

 こんなに悲しくて、辛い想いをしてた子供を!

 折れたっていいのに、諦めないで、僕らを守ってくれた彼を!

 僕達は……僕達は……ずっと、なんてことを……なんて言葉を……!」

 

 認められない者が、いる。

 

「信じるか! 信じられるか! トリックかなにかで、偽装か、欺瞞で……だから……!」

 

 けれど、その者も膝は折れ、地面に拳を叩きつける。

 

「……分かってる! 伝わってるよ! 御守竜胆の心が、光を通して伝わってくる……!」

 

 民衆に攻撃された時の竜胆の悲しみ、痛み、怒り、憎しみ。

 民衆に攻撃された時の竜胆の辛さ、自己嫌悪、苛立ち、絶望。

 それら全てが伝わってくるのに―――同時に、竜胆が民衆の皆の笑顔、幸福、平和な日常を願っていることも、伝わってきて。

 幾多の人達が、自らを責めて涙を流していた。

 自らの罪を悔いていた。

 

 なんてことをしてしまったんだ、と。

 それは奇しくも、大量虐殺をした後の竜胆が自分の罪を悔いていた時に思っていた言葉と、同一の言葉であった。

 

「ちくしょう、ちくしょう……

 なんでこんなに優しいのに……!

 なんでこんなに暖かいのに……!

 お前は何で、人を殺して……何の言い訳もしないんだ……しろよ……バカ野郎……!」

 

 四国に満ちるティガの光は暖かく、優しい。それが罪悪感を倍加させる。

 

「なんでそんなんで……自分が悪いだなんて思っちゃうんだよ、ウルトラマンっ……!」

 

 ティガを心底嫌う者は、この瞬間に、四国全土で0となった。

 

 シビトゾイガーも消えていく。

 ティガの光が四国内部に満ちたことで、闇の生物であるシビトゾイガーは即座に消滅。

 この四国から、消えていく。

 どうやらこの光の中では、弱い闇は消滅するしかないらしい。

 

 そして水都は、そんな四国を大社から見回しながら、自分の手を見る。

 

「……体が、治った?」

 

 水都の体内に入れられていた、合図一つで水都を巨人化させ、自我を喪失させ、街を破壊する巨人にしてしまう京個単位のナノロボット。

 その全てが、活動を止めていた。

 治癒能力と同様に、四国に満ちるこの光にはセルチェンジビームが僅かに混合されており、それがナノロボットを変質させてしまったのである。

 

 もう、水都が巨人化させられることはない。

 もう、ナノロボットは無いに等しい。

 ティガがやってくれたのだ。

 光を通して竜胆の心と繋がっている水都には、それが分かる。

 

 水都は遠くのティガを見て、四国に満ちる光に触れ、それを通してティガの心に触れる。

 竜胆の心から、水都を弱虫なんかじゃないと本気で思っていることが伝わってきて、水都の強さを認める心が伝わってきて、なんだかそれが、嬉しかった。

 

「御守さん……私、あなたを信じてます。うたのんだって、諏訪の皆だって、絶対に信じてます」

 

 信じる心を、光に乗せてティガに届ける。

 

 水都同様に、頭に包帯を巻いたひなたもまた、光に乗せて想いを届ける。

 

「私が願うことは、いつも一つです」

 

 勝てとか。

 平和を勝ち取れとか。

 厄介な敵は殺してくれとか。

 そんな大きなことを、ひなたは望まない。

 

 ただ、自分の腹を刺したような女友達でさえ後回しにせず、むしろ最優先で脳を治して起こしてしまうような、あのお人好しな少年が。

 乃木若葉と一緒に、無事で、笑顔で帰って来ることだけを願う。

 

「どうか無事に、帰って来てください。叶うなら、若葉ちゃんと一緒に」

 

 避難所からは、安芸真鈴が想いを送り。

 

「頑張れ、マイフレンド」

 

 黙って念じれば想いは届くのに、何故かついつい叫んで想いを届けようとする、大社の三好圭吾の姿もあって。

 

「勝て、俺達のウルトラマン!!」

 

 皆の想いを受けたティガは、更にその全身を光り輝かせる。

 

「は……ははっ、あはははっ!」

 

 合理思考が基本の雪花は、もう笑うしかない。

 もうむちゃくちゃだ。

 何もかもを一切合切蹴っ飛ばして、全部まとめて強引に解決してしまった。

 何というパワー、何というゴリ押しか。

 "皆の幸せのためなら奇跡なんていくらでも起こしてやる"と言い、実際に奇跡をありったけぶち撒けたような奇跡のオンパレード。光の大行進。

 

 合理性やら計算やらをしていた自分があまりにもバカに見えて、雪花は腹を抱えて笑う。

 ひーひー言って、息ができないくらい笑ってしまう。

 嫌いじゃなかった。

 合理性を重んじる雪花だが、こんな奇跡は、嫌いじゃなかった。

 

 特に悪党のリーダーと見ているマガカミーラが、広がる光を見て呆然としているのが痛快で、とても気持ちが良くて、ついつい竜胆をもっと好きになってしまいそうだった。

 こんな奇跡を見せてくれる男なら、まぁ満点だよ、と雪花は想う。

 

「人間って、こんな、光になれるんだ」

 

 雪花は、思い出す。

 北海道に一時いて、一時共に戦ってくれていたウルトラマンガイアのことを。

 何故だは分からないが、雪花の目には、ティガとガイアの背中が、重なって見えた。

 

「また見れるなんて、思ってなかった。人間を守る、光の巨人……」

 

 四国全てを救ってみせた光の巨人のその偉業に、雪花は笑い、マガヒッポリトは狼狽した。

 

「バカな……ありえない!

 それは、普通のウルトラマンにできることではない!

 四国全土の、多様な問題を全て一挙に解決する、広域干渉技だと!? ありえん!」

 

 マガヒッポリトの叫びに交じる、現実逃避気味の感情の色。

 

 仲間の力を受け継ぎ、使う。

 セルチェンジビームで、細胞を元の形に戻す。

 クリスタルパワーで、生命活動の停止を再開させる。

 治癒能力で傷を癒やす。

 全て、多様性に富む『ウルトラマンティガ』が本来得意としていた技の数々だ。

 

 ならば、今ここにいるのは? ティガダークではないなら、ここにいるのは?

 ()()()()()()を発揮している、この巨人はなんなのか?

 

『返してもらうぞ。俺達の、明日を!』

 

 光り輝くティガの体周りから光が消えていく。

 ティガの体の中に、体を覆っていた光が収納されていく。

 膨大なエネルギーを、ティガ自身が制御できるようになってきた証拠だ。

 

 光が消え、体色があらわになったティガを見て、マガヒッポリトは目を剥いた。

 更に、接近してきた『真紅のティガ』が、ティガトルネードのスペックをあらゆる点で凌駕していたがために、驚愕の隙を突かれたことで、一方的に追い込まれてしまう。

 真紅のティガが、力を溜める。

 

「黒く、ない。ティガが―――黒く―――ない―――!?」

 

 体色に、真紅はある。銀もある。だが、『黒』が無かった。

 それはまさしく、闇の混ざらない光の形態である証明である。

 驚愕するマガヒッポリトを一気に追い込み、真紅のティガは溜めたエネルギーを至近距離から叩き込んだ。

 

『デラシウム光流』

 

 マガヒッポリトが死に、消滅したのを見て、マガカミーラとマガエノメナは一気に心の余裕を失った。

 マガエノメナが瞬間移動でティガの背後に回るも、動きは既に読まれている。

 

『遅い!』

 

 『黒』無き、青紫のティガ。

 体色から黒を抜いたティガブラストの如きその形態は、ティガブラストの完全上位互換。

 そのスピードは、もはや瞬間移動でも容易に対応できるものではない。

 

 真紅、青紫とタイプチェンジしたティガはマガエノメナの腕を掴んだまま、タイプチェンジ。

 かくして、"漆黒の形態"にチェンジする。

 漆黒の形態は、そっくりそのままティガダークであった。

 

『俺を信じてくれた人がいた。俺を、大事にしてくれた人が居た。俺の、友達が、仲間が……』

 

 だが、パワーは段違い。

 マガエノメナの腕を掴んだまま、もう片方の腕をマガエノメナの胸に叩き込む。

 その腕の一撃が、マガエノメナの胸部を背中まで貫通し、胸に巨大な大穴を空けていた。

 ティガはマガエノメナを空に投げ、黒いスペシウム光線で残った体を消し飛ばす。

 

『……もう二度と! 壊させてたまるか! 奪わせてたまるか! 俺達の、明日のために!』

 

 最初にティガが使っていたバランスのタイプ。

 マガヒッポリトを殺したパワータイプ。

 マガエノメナを処理したスピードタイプ。

 そして、ティガダークそのままである闇のタイプ。

 

 組み合わされ、用途に応じて使い回されるは四つの形態。

 

「そうか……ティガを基点とした、疑似ウルトラマン六体合体……!」

 

 カミーラはその力のタネを、見抜きつつあった。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

『ああ、それでいい!』

 

『こんな穢らわしいものが、あの人達と同じものであってたまるか!』

 

『俺が、俺みたいな何も守れないクズが―――ウルトラマンであってたまるかッ!』

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 自分がウルトラマンであることを否定していた竜胆だが、今の彼をウルトラマンではないと否定する者などどこにも、誰一人としていまい。

 

 己を信じる勇気を持つ者。

 それこそが、勇者。

 ウルトラマンと名乗る勇気を持ち、その名に恥じない生き方をする覚悟を決めた者。

 それこそが、ウルトラマン。

 

「私、覚えてる。この光の暖かさ…この心の輝きと、暖かさ……覚えてる……」

 

 千景は威風堂々とする今のティガを見て、「僕が君を守ることは絶対に正しいことなんだ」と言い切っていた頃の、竜胆の背中を思い出す。

 あの日、虐殺をしてしまってから。

 竜胆はずっと、あの頃のような"正義語り"を、しなくなってしまっていたから。

 

「これ、本当の、竜胆君だ。

 私と出会ってすぐの頃の……

 『正義』を胸に抱いて。

 いつも『誠実』で。

 『悲しんでいるあなたを愛する』を体現していて。光の中にいた、あの頃の……」

 

 勇者の中で、千景だけが見たことのあるその姿。

 千景以外の誰も知らない、闇に堕ちる前の、陰りなき光の心持つ竜胆。

 竜胆ですら見失い、忘れていた最初の自分。本当の自分。

 誰も彼もが見失っていた最初の御守竜胆を、友奈が見つけ、引き上げてくれた。

 

 竜胆はようやく、最初の自分(オリジン)を取り戻したのだ。

 

 闇の中に埋まっていて、見つけ出したものの名は、正義。

 自分の正義と、自分が光の巨人・ウルトラマンであることを認めるために、必要なもの。

 悪を討ち、善を守り、弱者の未来を創るために掲げられるべき光の刃。それが正義。

 あの日竜胆が虐殺を行った日に、竜胆の胸の内から失われたもの。それが正義。

 

 人を救い、人に優しくし、人を守る自分の行動に『正義』が宿ることを、頑なに認めなかった竜胆はようやく、自分の行動に宿る『正義』を認めることができた。

 自分が生きる価値のない悪であるという認識を、ようやく乗り越えることができた。

 

 カミーラがシビトゾイガーを用いて竜胆から奪った、カミーラにとって何よりも目障りなもの、『竜胆が光の巨人となるために必要なもの』だった。

 

 

 

『これが―――本当の俺だ!』

 

 

 

 真紅のパワーの力。

 青紫のスカイの力。

 漆黒のダークの力。

 そして、その三つが均等に混ざった基本形態、マルチの力。

 今のティガが持つ力は、基本四形態。

 

 『マルチタイプ』を見上げ、若葉は特異なその体色に、全てを察する。

 

「ガイアSVの体色は、赤金銀に青と黒が加わったものだった。

 そして、今のティガは……

 剛力の真紅、俊敏の青紫、巨人の銀に、光の金、闇の黒……」

 

「若葉ちゃん、それって」

 

「―――至高の(スプリーム)ティガ、か」

 

 使っている色だけで見れば、今のティガ・マルチタイプは、ウルトラマンガイア・スプリームヴァージョンとほぼ同じ。

 間違いなく、ガイアSVが、大地が竜胆に力を貸している。

 体色からその事実が伝わってきて、若葉は思わず、涙が出そうになってしまった。

 

 対し、カミーラは触手の髪を振り乱す。

 光のティガが現れただけでも発狂ものだというのに、そのティガが明らかに()()()()()()()()()

 カミーラにとって、それは受け入れがたい事実だった。

 

「そんな……バカな!

 ティガは、闇の巨人か光の巨人かのどちらかのはず!

 両方を持ち合わせた状態のティガなんてありえない!

 そんなティガが……『闇を受け入れる光のティガ』なんてものがいるはずがない!」

 

『いるさ、ここに。

 皆のおかげで。

 皆のために。

 今ここに、"この形の俺"は、形を成した』

 

 かくして竜胆は、"俺みたいな悪が名乗ってはいけない"という想いから、今まで一度も使ったことのなかった、その名乗りを上げる。

 

 

 

「俺はティガ。『ウルトラマンティガ』!」

 

 高らかに名乗れ。今や君は、闇を受け入れた光の巨人。

 

 ()は、幾多の絶望を越え、闇夜を照らす光の戦士。

 

「―――闇を照らして、悪を撃つ!」

 

 君の名は、『ウルトラマン』。

 

 

 

 蘇る起源(RE:ROOTS)。『ウルトラマンティガ リ・ルーツ』。

 

 ()は、超古代の始原のティガ。光にも闇にも転じ得る、風纏う光の巨人。

 

 今日までの奇跡は、時に砕かれ、時に敗北し、時に積み重ねられてきた奇跡は。

 

 死んでいった大切な仲間達が、後に残った仲間達に、竜胆に多くのものを託していったのは。

 

 全て、この一瞬のためにあった。

 

 

 




BGM:TAKE ME HIGHER Remix Version
https://www.youtube.com/watch?v=qT5OhMP4bb0
 山場最終決戦。愛、勇気、足りてなかった二つは今、どちらも足りてます

 劇場版ティガパンフ等から引用すると、ティガトルネードは闇の巨人の攻撃、ティガブラストも闇の巨人の攻撃を光に変換することで、形態獲得してるんです。
 でも最後に"ウルトラマンティガ"になるための過程は、『主人公とヒロインの純粋な愛でカミーラの歪んだ愛を光に変えた』って表現されてるんですよね。
 ティガは、最後に愛を変換した光を得て完成するんです。
 愛がなきゃウルトラマンじゃないってことでもあるんでしょうね。
 『愛がなければ完成しないウルトラマン』なんです、ウルトラマンティガは。

 今月始めのアリオジードトークイベントで
質問BOX「兄と弟どっちが欲しい?」
リク「弟かな、一緒にドンシャイン見てドンシャインオタクに育てたい」
 とかいう一幕があったので、時拳時花の劇場版の展開もちょっと変わりました。さーていつ書こうかな……ルシエドのハートを打ったんですよ、こんなありきたりな一言が。


【原典とか混じえた解説】

■主人公

●ウルトラマンティガ リ・ルーツ
 RE:ROOTS。
 始まりのティガ。
 最新にして最古の形。
 究極の先祖返り。
 最初のティガは三千万年前、地球にやってきた『光』が与えた力そのもの。
 ゆえに変身者の心次第で、光にも闇にもなってしまうものであった。
 "光と闇のどちらにもなれる力"こそが、『始原のティガ』の証明である。
 『光にも闇にもなれる巨人』という意味でこれは最古のティガであり、『過去のティガが使った光の形態と闇の形態全てを使える』という意味では最新のティガでもある。

 心の闇、心の光、どちらも力として出力可能な巨人。
 マドカ・ダイゴのティガが『人間は皆自分自身の力で光になれる』ことを証明する巨人であるならば、このティガは『誰の心にも光があり闇がある』ことを認める巨人。
 その上で、『闇があっても生きていていいんだ』と伝える優しさと寛容の巨人。
 人間の美しさを愛し、人間の醜さを嫌い、美しく在れない人間を排除しようとする者達に立ち向かい、己の弱さと醜さを嘆く人達に寄り添う、御守竜胆の"他者を愛し受け入れる心"を力に変えた無敵の光の巨人。

・マルチタイプ
 全ての力が均等に混ざったバランス形態。
 体色は真紅、青紫、漆黒、銀、金。
 光の力を器用に、かつ多様に扱うのに長ける。
 闇を照らして悪を撃つ、至高の多様形態(スプリームマルチタイプ)

・パワータイプ
 筋力、攻撃力、耐久力に特化した真紅の形態。
 水中戦を得意とする。
 紅に燃える、至高の剛力形態(スプリームパワータイプ)

・スカイタイプ
 速度、器用さ、飛行に特化した青紫の形態。
 空中戦を得意とする。
 光を越えて闇を斬る、至高の瞬速形態(スプリームスカイタイプ)

・ダークタイプ
 暴走、暴虐、暴威に特化した漆黒の形態。
 地上戦を得意とする。
 心の成長で苦難を乗り越えても、悲しみは消えない。憎しみは消えない。恨みは消えない。
 制御ができるようになっただけで、闇はいつもそこにある。
 だが、敵に向けられるその憎しみの大きさこそが、竜胆がかつての仲間へ向けた愛の大きさを証明する。
 闇を抱いて光となる、至高の暴乱形態(スプリームダークタイプ)



■使用アイテム

●闇薙の剣
 『ウルトラマンティガ外伝 古代に蘇る巨人』に登場する聖なる剣。
 諏訪の神域に収められていた三千万年前の秘宝。
 【剣】。

●ティグの紋章
 『ウルトラマンティガ外伝 古代に蘇る巨人』に登場する聖なる石。
 ティガの額にある光エネルギーを蓄積するクリスタルと同じ形のもの。
 ウルトラマンティガへ変身可能な者の覚醒を促し、光り輝き明滅し、選ばれし者を導く聖石。
 北海道のアイヌ達が守ってきた三千万年前の秘宝。
 【宝珠】。

●青銅のスパークレンス
 『ウルトラマンティガ外伝 古代に蘇る巨人』に登場する聖なる神器。
 いわゆる"変身できるようになったらいつの間にか懐にあったアイテム"とは異なる、現実に存在する物。
 そのため、その時代にティガが存在するか、ティガの変身者が存在するかにかかわらず、この地球に青銅のスパークレンスとして存在している。
 使用者の内なる光を引き出し、光の遺伝子を変換、その体を光の巨人へと変える。

 スパークレンスは単体で光を生み出すことはできず、光持つ者が扱わなければ光を発しない。
 0から光を生み出すことはできないがために、使用者の光を増幅して反射すことで使用者自身を光へと変える、『鏡』としての側面を持つ光の反応変換器。
 沖縄の聖地にて聖職の女性と獅子聖獣達に守られてきた三千万年前の秘宝。
 【鏡】。



■使用技

●ウルトラオーバーラッピング
 別名、ウルトラ・シックス・イン・ワン。
 光の国の英雄たる存在、ウルトラ六兄弟という者達がいる。
 ウルトラマン、セブン、ジャック、エース、タロウ、ゾフィーの六人だ。
 そんな六兄弟の力を束ね、ウルトラマンタロウが編み出した究極の技。
 『六人の力を一つに束ねて爆発的な力を得る』という合体技法。
 使用者はウルトラマンタロウ、ウルトラマンメビウス。
 また、設定レベルの話ではあるが、ウルトラマンオーブのオーブリングにメビウスカードとウルトラ六兄弟のカードをリードすることでも、ウルトラオーバーラッピングは発動する。

 グレート、パワード、ネクサス、ガイア、アグル、ティガの力が高度に融合している。

●セルチェンジビーム
 設定上は、細胞を還元させる光線。マルチタイプが使っていた技。
 還元するということは、元に戻すということ。
 これまでは主に竜胆の肉体変異として発現していた。

●治癒能力
 自らの肉体を治す能力。スカイタイプが使っていた技。
 竜胆がこれまで自爆の度に使用していた技。
 自分しか治せないティガの治癒能力と、他人しか治せないガイアの治癒能力が合わさることで、ようやく完全な治癒能力として完成した。

●クリスタルパワー
 劇場版『光の星の戦士たち』で生命活動が停止し、物言わぬ死体となったダイナにエネルギーを注ぎ込み、一気に復活させた技。
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