夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 原作ティガだと"ウルトラマンティガ"が『光の英雄戦士』、ティガダークが『闇の最強戦士』って一貫して表現されてるの面白いですよね。
 『英雄』と『最強』が良い感じに光と闇の違いを示してくれてる気がします。


2

 天の神との戦いは、同種同士の戦いになりがちだ。

 

 最初にあった天の神と地の神の激突。

 これは神同士の衝突でしかない。

 天の神とグレート達は、共に宇宙より来た人間視点での超越者同士。

 人間にとって敵であるか味方であるか、その程度の違いしかない。

 そして勇者とバーテックスの対決。

 これは天の神の力で生み出された怪物と、地の神の力で戦う勇者の衝突であり、力を借りている神の種類が違うだけ。

 

 今、行われている戦いもそうだ。

 宇宙の概念記録から引き出された情報により、作成されたガゾートII。

 地球の概念記録から引き出された情報により、形を成した妖怪・輪入道。

 プラズマと炎が激突し、威力が減衰したプラズマが炎を突き抜けた。

 

「うわっと!?」

 

 螺旋状(トルネード)の炎を突き抜けたプラズマを、ティガダークの拳が砕いて球子を守る。

 少女を守るのと引き換えに、巨人の拳が高熱で焼き付いた。

 

『っ』

 

「大丈夫か!?」

 

『大丈夫だ。だけど、あんま受けてられないな、これ』

 

 ティガは球子を手の中に抱え、跳ぶ。

 彼は闇の巨人。

 心に光が宿れば、それに応じて弱体化する。

 弱体化が真っ先に"身体強度低下"という形で現れる彼は、敵の攻撃を真っ当に受けていたらあっという間に瀕死になりかねない。

 しからばかわすしかないのだ。

 

『っ、こいつ、この威力を連発できるのか……!』

 

 だが、ガゾートIIの恐ろしさはこの大威力のプラズマを連射できるという点にある。

 力を制御したティガダークはマッハ2~3で地上を走り回っていたが、ガゾートはプラズマの連打でティガを追い込み、確実に当てる一発を放ってきた。

 

「させっか!」

 

 だがそれを、精霊を宿した球子の旋刃盤が受け止め、竜胆を守った。

 

 球子に力を貸している神は、神屋楯比売命(かむやたてひめ)

 マイナー過ぎる神で逸話がほぼ無く、名から『守り』に関する神であると推測される女神だ。

 そして、事実そうであった。

 球子はこの神の力が宿った盾を授けられ、その盾を旋刃盤に改造し、攻撃にも用いている。

 だが、その本質は守り。

 守りこそが彼女の本質。

 破壊しかできないと自分を嫌う竜胆にとって、その守りは眩しささえ感じられる。

 

「大丈夫だ、タマが全部防いで……や、うっ」

 

 だが、少し無理をしすぎだ。

 球子がくらりと目眩を感じ、巨人の手の中で膝をつく。

 少女の顔は青くなっている。これだけの火力を小さな体を通して放出しているがために、かなりの負荷がかかっているのだろう。

 竜胆は優しく、球子を樹海の根の上に降ろした。

 

『精霊が強烈な負荷をかけるのは知ってる。少し休め。奴は僕一人で片付ける』

 

「……悪い」

 

 竜胆は呼吸を整え、周りを見る。

 周りを見る余裕は無かったが、周りを見るという約束があった。

 闇の力に引きずられつつある心で、周りを見る。

 グレートは本当に強い。敵の大半を一人で引き受け、互角以上に戦っていた。

 早めにガゾートIIを倒して援護に行きたいところだろうが、今のティガダークは、暴走時と比べれば遥かに弱い。

 

『くたばれ!』

 

 上手い具合に接近し、ガゾートIIに接近戦を仕掛けるティガ。

 だが強化されたガゾートは、スピードもパワーも向上しており、ティガのそれを上回る。

 ティガの拳は胴で受けられ、ガゾートの殴打がカウンターでティガを殴った。

 ガゾートに殴られるたび、ガゾートに対する敵意・怒り・憎悪が僅かに湧いて、それが心の闇を爆発的に増加させる。

 

 攻撃されればされるほど、ティガダークが暴走する可能性は高まっていく。

 

『ぐっ』

 

 まさしく自分との戦いだ。

 竜胆はガゾートを殴り、呻き声を上げたガゾートを見て、パンチの威力が上がっている……つまり自分が憎悪に呑まれかけていることを自覚し、深呼吸。

 理性を強め、闇を抑えて、上昇しそうになる自分の身体能力を抑え込む。

 

(やれるだろ、御守竜胆)

 

 それでも、じりじりとティガのスペックは上昇していく。

 心の闇が膨らんでいく。

 竜胆が自分を抑えられなくなるのが先か、ガゾートが死ぬのが先か。

 どちらが先か、竜胆にすら分かっていない。

 

 少年は正気が飛びそうになるたび、仲間を想う。

 千景が見ている、球子が見ている、だから暴走したくない。

 若葉が居る、介錯はしてくれるはず、と考える。

 若葉が今は変身不可だというところに思考が及ばない程度には、正常な思考が吹っ飛んでいた。

 

(やるんだ)

 

 気合いで、正常な思考を徐々に取り戻していく。

 ガゾートを蹴ってダメージを与え、ガゾートに殴られまた正気が薄れ、正気が薄れた分上がった身体能力で時間を稼いで、正気を取り戻す、そんな繰り返し。

 本当の戦いの場所は、竜胆の心の中にある。

 

(何百人も、自分の心の闇に従って、殺してしまった。

 何百人守ったって、帳消しになんてならない。

 何百人救ったって、殺した過去がなくなるなんてことはない)

 

 抉るような巨人の右ボディーブローがガゾートに突き刺さり、追撃の左アッパーがガゾートの顎をカチ上げる。

 

(だけど!)

 

 ガゾートのプラズマ光弾が、ティガの左足と右脇腹に炸裂した。

 左足と右脇腹が、高熱で表面は焦げ、中まで焼ける。

 

(人を、殺したく、ない。殺させたくない! どんな人にだって死んでほしくない……!)

 

 守ろうとする心と、壊そうとする心。

 二つが竜胆の中で拮抗し、ティガダークはなおも敵だけを攻撃する。

 仲間には、街を覆う樹海には、一切攻撃することはない。

 むしろガゾートのプラズマがそちらに流れそうになるたびに、体を張って受け止める。

 

「あ、バカ!」

 

 球子の方に行きそうになったプラズマ光弾の流れ弾も、体を張って受け止める。

 体が焼ける音がしたが、それでも巨体を盾として全てを守った。

 

(辛い、苦しい、だけど、止まってなんかやるもんか)

 

 ……本当は。

 本当は、竜胆は、他者を殴ることも蹴ることも、嫌いなのだ。

 昔から人を守るための喧嘩はできるわんぱく少年だったけれども、それでも他者を殴って傷付けるということが、嫌いで仕方なかった。

 だから竜胆は、あの村でも、村の誰にも直接的な暴力で反撃などしなかった。

 ゆえに、彼は千景の盾になり続けていたのだ。

 

 殴ることも、蹴ることも、嫌いだけど。

 それでも戦わないと守れないから。

 殴れ、蹴れ、殺せ、壊せと、心の闇が叫ぶけど。

 本当は嫌いな暴力行為をするたびに、心の闇が膨らんでしまうけど。

 守るためには、歯を食いしばって行くしかない。

 

 叫んで、殴って、敵の体と自分の心を傷付ける。

 肉を殴れば殴るほど、殴り潰した子供の肉のことを思い出し、自分が殺した妹や罪の無い人達のことを思い出すけれど。

 それで心の闇に負けてしまえば、本当に何も守れなくなってしまう。

 

(巨人の顔が、表情の出ない顔で良かった)

 

 高嶋友奈は、本当に竜胆をよく見ていたと言える。

 竜胆が表情を誤魔化していても、彼女は泣いてるみたいだと感じた。

 竜胆の闇塗れの咆哮を、彼女は泣いているようだと言った。

 巨人の涙は流れない。

 巨人の表情は動かない。

 自らの苦しみが理解されないことこそが、それを伝えない巨人の顔こそが、竜胆にとってはとても喜ばしいものだった。

 

(僕が戦いの中で泣いても、苦しい顔をしても、変身してれば誰にもバレやしない―――!!)

 

 苦しくて泣いても、辛くて泣いても、誰にもバレない。それが嬉しい。

 竜胆は拳を握りしめ、ガゾートの顔面を殴り抜く。

 だが、それは罠だった。

 ガゾートは顔面狙いの攻撃を待っていたのだ。

 そして、飛んで来た巨人の拳を、噛んで止めた。

 ティガの拳に、ぐちゅりとガゾートの牙が食い込んで、バキバキと拳の骨が悲鳴を上げる。

 

『ぐあっ!?』

 

 痛みに悶えるティガのボディを、ガゾートの両手が連続で殴打する。

 拳を噛まれているためにティガは逃げられず、片腕が噛みで封じられているので防御の手も足りない。

 よってガゾートの連続殴打をモロに食らうしかない。

 ガゾートの腕力には十分な殺傷力が宿っているため、ピンチもピンチだ。

 

『こい、つっ……!』

 

 ティガの左手に八つ裂き光輪が発生し、竜胆はガゾートの喉を狙う。

 だがガゾートは反射的に拳を噛んでいた口を離し、プラズマを吐き出してきた。

 突き出した左手の八つ裂き光輪とプラズマがぶつかり、爆発する。

 

『ッ!』

 

 そして、吹っ飛ばされたティガに、またガゾートがプラズマ光弾を連打する姿勢に入り―――ガゾートの全身を切った七つの刃が、その光弾発射を中断させた。

 

「間に合ったわね」

 

『……ちーちゃん!? どうして!?』

 

 ガゾートIIのEMP攻撃で勇者の端末は、球子のものを除けば全部潰れていたはずだったのに。

 千景は今、勇者の衣装を身に纏い、ガゾート体表を切り裂いている。

 何故か?

 千景の端末は確かに停止していたはずなのに、何故動いているのか?

 

「乃木さんが叩いて直したわ。直ったのは私のスマホだけだったけど」

 

『アナログ!?』

 

 どうやら叩いたら直ったらしい。

 奇跡中の奇跡と言うべきか、神樹の力が入っていた端末だからこその奇跡と言うべきか。

 が、千景のスマホも嫌な音を立てているので、そう長くは保ちそうにない。

 しかし、何故、千景のスマホだけが動いたのだろうか?

 

(……はぁ)

 

 千景は心中で大きな溜め息を吐く。

 EMP攻撃を防ぐ有効手段は、金属箔などで包むこと等である。

 要は電磁波というエネルギーを余計な部分で使わせればいいのだ。

 そう考えれば、戦いの直前の千景を見ることで、何故彼女の端末のダメージが他端末よりも少なかったかその理由も分かる。

 

 千景は、()()()()()()()()()()()

 ポケットに端末とゲーム機を一緒に入れていたことで、ゲーム機が盾になってくれたのだ。

 おかげで千景愛用のゲーム機はぶっ壊れたが、その分だけ端末へのダメージは軽減され、若葉の脳筋対処によってスマホが奇跡的に・一時的に甦った、ということである。

 それでも、相当に端末にダメージは入っていたようであるが。

 

 千景はプラズマ爆発で吹っ飛ばされた竜胆が立て直すまでのほんの数秒の時間を、ガゾートの周りを跳び回って稼ごうとする。

 

「ニンゲン、トモダチ! トモダチ、ゴチソウ!」

 

 ガゾートの基本は、共食い、友食い。

 人間=友人という天の神のインプットに従い、人間を自然と食べようとする習性を持つ。

 ガゾートは千景を捕まえ、噛み砕いた……が、噛み砕かれた千景の体が霧散する。

 

「怪物に喰われてやる気はないわ」

 

 いつの間にか、"六人の千景"がガゾートを取り囲んでいて、その六人が七人になる。

 竜胆は千景の分身を見て、自らの目を疑った。

 

『増え……た!?』

 

「『七人御先』」

 

 千景の切り札は、精霊・七人御先。

 有する能力は偏在。

 七つの場所に七人の千景が同時に存在し、七人が完全に同時に倒されない限り、千景は死ぬことも傷付くこともないという極めて強力な能力だ。

 

 七人の内一人が生き残っていれば、近辺のどこかに一瞬で六人が再生される。

 その再生速度は、例えば矢の雨で千景を殺そうと考えた場合、矢の数がどんなに多くとも矢である以上殺すことは不可能である、と断言できてしまうレベルだ。

 精霊使用時の千景を殺し切るには、それこそ強力な隙間無き範囲攻撃が必要となるだろう。

 

 若葉のような巨獣も翻弄する速度もなく、球子のような怪獣にも通用する火力も出せないが、事実上不死身の複数存在であるという一点のみで、極めて強力な運用が可能であると言える。

 更には"人間を捕食する習性を持つ"タイプの怪獣型バーテックスに対し、千景の能力は極めて強力なアンチ能力として機能する。

 つまりは、要するに。

 

「私を殺したいのなら―――七人同時に屠ってみなさい」

 

 千景は、自分の肉体をいくら喰わせても死なない。

 自分の肉体を餌としていくらでも使うことができるのだ。

 

「できるわけ、ないけれど」

 

 彼岸花の勇者、情熱の赤が宙を舞う。

 千景は常に自分の肉体一つをガゾートに食わせ続け、四つの肉体による攻撃でガゾートの動きを調整し、二つの肉体でガゾートの両目を切り裂いた。

 

「ギャッ」

 

「今よ! 大技を!」

 

『サンキュー、ちーちゃん!』

 

 千景の作った隙を突く。

 されど竜胆が持っている技など、自覚している範囲では八つ裂き光輪しかない。

 暴走による強化がない状態で、ガゾートIIを一撃で仕留められるほどの大技?

 そんな技があるとすれば……"ティガの力"の中にしかない。竜胆がそこから引っ張り出して来る以外に無い。

 ガゾートは目が潰れた状態で、痛みの声と歓喜の声を交互に上げ、聴覚だけでティガダークの位置を把握し飛び込んで来る。

 

「トモダチ、タベモノ!」

 

『……友達は、守るものだ。食べものじゃない』

 

 竜胆は思わず、そう呟いた。

 思わず呟いたその言葉に、自己嫌悪した。

 怪物に正道を説いている自分に、"どの口で言ってんだ"と思わずにはいられなかった。

 

『―――ああ、ちくしょう。僕にこんな台詞言う資格無いんだよ。言わせんなこの野郎』

 

 ティガとしての力の中から、竜胆の心が彼にもっとも適した力を発現させる。

 飛び込んで来たガゾートを、ティガダークは抱きしめるように受け止めた。

 

 ティガの全身が真っ赤に染まっていく。

 色が変わっているのではない。

 光が発されている。

 赤い熱線がティガの全身から猛烈な勢いで放射され、そのせいでティガの全身が真っ赤に染まっているように見えているのだ。

 

 巨人の全身から放射された膨大な熱線が、ガゾートIIの全身を焼き、規格外のエネルギーをガゾートの体内に注ぎ込み――

 

『うっらぁぁぁぁっ!!』

 

 ――ガゾートの体を、体内から爆発させた。

 

 この技の名は、『ウルトラヒートハッグ』。

 敵に組み付き、巨人の全身から熱線を叩き込み、相手を内部から爆発させる技。

 至近距離で敵を爆発させるがために、爆発は発動者であるティガにもダメージを与え、技に費やしたエネルギーとティガが受けるダメージもまた比例する。

 すなわち、これは。

 ティガが発現可能な技の中で唯一無二の、『捨て身の自爆技』である。

 

「じ……自爆技……! ぶっタマげた!」

 

「……竜胆くん」

 

 理性を持った状態の竜胆が初めて発現させた"まともな技"が『自爆技』であったことに、球子は驚愕し、千景は悲しそうに納得した。

 

 ティガダークに、基本的に必殺光線技は無い。

 光の戦士ではないから、だろうか?

 ティガの力から竜胆が本能的に編み出した最初の技は、八つ裂き光輪。

 彼の中の殺意と憎悪の具現だ。

 そして今発現したのは、自爆技ウルトラヒートハッグ。

 これは彼の中にある、基本的思考の具現である。

 

 つまり竜胆は、"他者を一方的に傷付ける"ことを嫌ったのだ。

 他者を傷付ける立場になるからには、自らも傷付かねばならないという思考。

 自分が傷付かない立場から、相手を一方的に攻撃するのは、確かに楽しいのだろう。

 だが、それを嫌う彼の心こそが、この技を発現させた。

 

 そこには露骨に、()()()()()()()()()()()()()あの村の人間に対する彼の感情と、あの村の人間に対する竜胆の『感情の解答』が見て取れた。

 一方的に人々を虐殺した三年前の自分への決別と、もうあの頃の自分には戻らないという、彼の決意の現れでもあった。

 

 そして、もう一つ。

 これは"嫌いなものを壊したい"という心の具現でもある。

 敵も嫌い、自分も嫌い。

 だからこそ()()()()()()()()()()()

 そんな心がそのまま現れたからこその技である、とも解釈できる。

 この技の行き着く先は、発動するだけで敵と自分が粉々に爆散する技なのだろうから。

 

 総じて、この自爆技は、竜胆の心そのものであると言えた。

 

『ぐぅっ』

 

 身体強度が下がる竜胆のティガダークの特性とこの技の特徴は、合理的に見れば最悪に噛み合っていないが、竜胆の志向からすれば最高に噛み合っている。

 脆くなった体はボロボロになり、いたるところが焼け付いていた。

 二発、三発と連続で撃っていたら、反動だけでティガダークの全身はバラバラになってしまっていたかもしれない。

 

「おい、大丈夫か! 今の爆発、肝っタマが冷える威力だったぞ!」

 

『大丈、夫。グレートの方の助けに行こう……!』

 

「声が大丈夫じゃないわよ……あ、端末とうとう壊れちゃった……」

 

 とうとう変身維持が不可能になった千景と、精霊使用の消耗から多少回復した球子を抱え、ティガダークは飛翔する。

 そしてグレートの背中に超高熱の炎を浴びせかけようとしていたソドムに、飛行の勢いを乗せた飛び蹴りをかました。

 

『グレート!』

 

 ボブ/グレートが、アメリカンに笑った。

 

いいところで来たな(Good timing)

 

 グレートは両手を銃の形にし、左右から襲いかかるゴモラの眉間と鳩尾に光弾を撃ち込んだ。

 二丁銃がゴモラを怯ませ、グレートが手の形を変える。

 手の形を変えた、次の瞬間。

 グレートの両手から発生した二本の光の剣が、左右のゴモラを一刀両断していた。

 

 『ダブルフィンガービーム』を撃ち、『ダブルグレートスライサー』で切る、銃撃技から斬撃技に綺麗に繋ぐ武の極み。

 恐ろしいのは、銃の技と剣の技が、ごく自然に空手の動きの中に組み込まれていることだ。

 二丁銃に二刀流。

 見栄えのする二つの異質な技を、彼は空手の動きの中に綺麗に組み込んでいる。

 見ているだけで惚れ惚れしそうな、巨人の力で行使される"人間の技"だった。

 

 ティガは飛び蹴りをかましたソドムに更にもう一発蹴りを打ち込み、その背後から星屑が迫る。

 星屑の接近に気付いていないティガの背中を、球子が守った。

 投げられた旋刃盤が星屑を切り裂き、球子の手元にまた戻る。

 

「背中がお留守になってるぞ、うっかり屋さんめ」

 

『悪い、助かった』

 

 身体強度が下がったティガダークならば、星屑の攻撃力でも殺せる。

 されど、背中を守る者さえいれば、星屑ではティガダークを殺せない。

 勇者と巨人が、互いの背中を守っていた。

 

 これは生半可な攻撃では突破できない。

 そう考えたソドムが何体も横並びに並び、ティガと球子に向け炎を吐き出す。

 炎による圧殺攻撃。しかし、それは割って入ったグレートに防がれる。

 グレートはソドムの炎を全身で受け止め、手の間に圧縮し、力を上乗せして解き放った。

 

 爆裂した炎が放出され、ゴモラや星屑が蒸発し、炎に強いはずのソドム達にもダメージが入っていく。

 ひと目で分かる恐ろしい性能の"反射技"に、竜胆は目を剥いた。

 

『なっ……今のは』

 

「マグナムシュート。グレートが得意とする反射技だ……何でも跳ね返せるんだぞ!」

 

『なんで他人の技なのにタマちゃんが得意げにしてんだよ』

 

「仲間は誇らしいもんだろ。っと、もうそろそろ、二分だな」

 

 グレート、ティガのカラータイマーが点滅を始める。

 活動時間残り一分。

 敵はダメージを受けたソドム数体と、まだ無傷の十二星座が一体。

 星屑は十体も残っていなそうだ。

 

「気を付けろよ、あと一分だ!」

 

『ああ!』

 

 ティガは球子を肩に乗せ、丸亀城近くのソドムから掃討に行く。

 球子が囮になってソドムの前を跳び、吐き出された火炎弾を跳んでかわすと、生まれた隙にティガダークが切り込んだ。

 闇の八つ裂き光輪がソドムの首を切り飛ばす。

 ふぅ、と一息吐いたティガに、丸亀城から若葉が声をかけた。

 

「新手のガゾートに大分手こずったようだな」

 

『その声は乃木? 良かった、生身でも無事だっ……た……えっ』

 

 そして若葉の方を振り向いた竜胆は、ぎょっとする。

 変身していない若葉が、勇者システムの加護を受けていない若葉が、生身の若葉が。

 飛んでいた星屑に飛びかかり、太刀にて怪物を一刀両断していた。

 "勇者は変身して強くなってこそ"という思い込みを持っていた竜胆は心底ぎょっとする。

 

 迫り来る新手の星屑の噛みつきを紙一重でかわし、若葉は星屑を一本背負い。

 路面に星屑を叩きつけ、足で抑えて、刀で急所を狙って突き刺す。

 そして突き刺した刀を足で蹴り、足の力で星屑の体を切り裂いた。

 腕で刺して、蹴りで裂く。

 自分の体を完全に理解し、制御し、身体の各部筋力をきちんと把握しているからこその技巧。

 

 三体目の星屑の突撃をさらりと避けて、側面を蹴り、鞘で殴る。

 蹴りと鞘打ちで突撃の軌道を変えられた星屑は、そのまま丸亀城の壁に激突。

 一瞬動きが止められたその瞬間、若葉の斬撃が横薙ぎに走り、星屑は真っ二つに両断された。

 技。

 技だ。

 若葉のこの強さは、神の刀の力のみならず、洗練された技の強さに起因する。

 

 勇者に変身しなくとも、乃木若葉は十分過ぎるほどに強い。

 

『……!』

 

 その技の美しさに、竜胆は息を呑んだ。

 球子は逆に、いつも通りの若葉の強さに「うへぇ」と声を漏らす。

 

「若葉はヤバいぞ。

 『星屑は人間を食べ殺してきたんだから同じ仕返しをしてやる』

 って理屈で星屑ぶっ殺しながら星屑食ってたことあるからな……

 タイマンならたぶん勇者の中で一番強いサムライガールだ」

 

『こいつが勇者で一番ヤバい……』

 

「竜胆、球子、聞こえているぞ……いつからそんなに仲良くなった?」

 

 納刀した若葉が呆れたように言う。

 竜胆はその言葉に生真面目に返した。

 

『まだ仲良くはないぞ。信頼を勝ち取るのはここからだ』

 

 それを聞いた球子は吹き出す。

 

「だってさ。やらかしタマまの自分で居たくない、そういう奴だったみたいだ。まったく」

 

 千景が丸亀城に隠れたことを確認し、丸亀城と変身できない勇者達を守ることを意識して、ティガダークと球子はソドム数体に挑みかかった。

 残り時間は少ないが、弱った量産型のソドムが相手なら問題はない。

 球子と共闘する竜胆を見て、丸亀城の友奈は何故か、ほっとした様子で胸を撫で下ろす。

 

「……良かった」

 

 高嶋友奈は、勇者の中ではとびっきりに他人の感情の機微に敏い。

 そんな彼女にだけ、見えているものがあるようだ。

 友奈は安心した様子でティガの戦いを見守っている。

 

 ほどなくソドムは殲滅され、竜胆はグレートの方を見る。

 グレートは一人、大きな十二星座のバーテックスと戦っていた。

 ティガが53m。グレートが60m。だがそのバーテックスは、100mはあるように見える。

 

『デカいな……』

 

「お前が来る前には800mのヴァーサイトって怪獣とかタマが殴った覚えあるぞ、ぶっタマげた」

 

『デカいな!?』

 

 グレートと対峙している敵の名は、『レオ・スタークラスター』。

 十二星座のバーテックスの筆頭、獅子座のバーテックスだ。

 巨体、頑強、高火力と高水準のスペックを持つ大型バーテックスである。

 その巨体を、グレートは空手の技で圧倒していた。

 

 巨人とレオの距離、1000m。この距離から、グレートは拳を突き出した。

 

 まず、空手の右正拳突き。

 突き出した拳から放たれた『ナックルシューター』なる拳状の光線が、レオの放った炎の弾と衝突し、相殺された。

 続いて左の正拳突き。

 飛ぶ拳状の光線が、レオに直撃して怯ませる。

 更に右の正拳突き。

 またしても強烈な光線が、ズドンとレオの体に突き刺さった。

 

 右、左、と強烈な正拳突きを凄まじい速度で繰り返す。

 そのたびに放たれる光線が、レオを絶え間なく打ち据えていく。

 これが空手の強みだ。

 そしてグレートの強みだ。

 基礎がしっかりした空手家であるからこそ、基本の技を巨人の技と組み合わせることで、極めて強力な連撃を一つの技として成立させることが可能なのである。

 

 これぞまさしく、人の歴史全てを否定した天の神に反抗する、『研鑽された武術』という名の、人の歴史そのものだった。

 人を滅ぼす怪物に抗う、人の技の継承と伝承、そのものだった。

 

『すげえ、流れるように……』

 

 レオも弱くはないはずなのに。

 倍近い体格差があり、空手が直接的に活かせない遠距離戦だったはずなのに。

 グレートは鍛えた自分の強みを叩きつけ、押し切った。

 

 だが、ダメージは与える傍から回復されていく。

 グレートが押しているのは間違いないのだが、獅子座はかなりの頑丈さを持っており、それで攻撃に耐えながら再生を繰り返している様子だ。

 グレートの残り活動時間が、残り20秒を切る。

 レオは時間切れによる勝利も視野に入れていたようで、途中からはグレートの攻撃が急所に当たらないよう立ち回り、耐久戦を選択していた。

 ここで確実にレオを一撃で潰せる大威力攻撃さえ、あれば。

 

 その頃、ソドムを片付けたティガダークがグレートに合流する。

 今再び並び立つ、白の巨人と黒の巨人。

 ここで決める、とグレートは判断した。

 

さあ、共に決めるぞ!(Let's finish together!)

 

『タマちゃん通訳頼む!』

 

「一緒にトドメ刺すぞ、だってさ!」

 

 グレートの両手に光の剣が現れる。構えられるダブルグレートスライサー。

 ティガの両手に闇の光輪が現れる。構えられるダブル八つ裂き光輪。

 白と黒の二人が踏み込み、四つの刃が空を走った。

 

『くたばれッ!』

 

 二剣二輪、合計四つの斬撃が、文字通りにレオを"八つ裂き"にし、消滅させた。

 

 敵の全滅を確認し、ティガダークが膝をつく。

 

『はぁ、はぁ……くそっ、あの自爆のダメージが響く……

 戦いの最後に一発使って終わり、って形にしないとダメだな……』

 

「大丈夫か? 大丈夫だって言われてもタマは信じないぞ? ヤバくないか?」

 

『うん、もう無理』

 

「えっ」

 

 巨人の変身が解除され、竜胆の体が空中に放り出される。

 ウルトラヒートハッグのダメージもあって、三分の経過を待たず、彼は人間に戻ってしまった。

 そんな彼が落ちる前に、空中で球子がキャッチする。

 

「おっとと」

 

 竜胆は気絶していたが、そんな彼の姿を、球子は情けないとは思わなかったし、男らしくないと思うこともなかった。

 

「お疲れ」

 

 ふと、球子は戦いの中で見ていたティガの背中と、千景が叫んでいた言葉を思い出す。

 

―――違う! そんなはずない!

 

―――憎い敵を殺す時だけ強いなんてこと、あるわけない!

―――彼が……彼が一番強い時は! 私が見た、彼の一番強い背中は……!

 

―――違う……そんなんじゃない……そんな人じゃないのにっ……!

 

 竜胆を善と見た千景も、竜胆を悪と見た球子も、どちらも間違ってはいなかった。

 だが、球子は。

 千景の言っていたことの方が正しかったと、思い始めていた。

 千景の主張の正当性を論理的に認めた、とかではなく。

 タマの心が、そう思いたいと思っていたからだ。

 

「……事情は知らないけど、千景に後で謝っといた方が良いか」

 

 竜胆を背負って、球子は丸亀城に向かって歩き始める。

 球子の身長は147cm。気絶している竜胆の身長は176cm。

 ちょっとどころでなく、背負い辛そうであった。

 

「くそっ、タマにも少し身長分けろバカ!」

 

 樹海化が解ける、光の中。

 

 球子は背が伸びないことを嘆きながら、少年を背負い走るのであった。

 

 友に優しく背負われる竜胆の寝顔は、とても安らかなものであったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜胆は夢を見た。

 自爆技を使って、敵の全てを巻き込んで、自分も死ぬ夢を見た。

 敵は消え、自分も消え、世界に幸福と平和が戻ってくる。

 恐ろしく強大なものが、世界から残らず消え去る結末。

 

 とても素敵な夢だと、竜胆は思った。

 

 

 

 

 

 目覚めた時、竜胆は医務室に居た。

 包帯が全身に巻かれている。

 ティガダークに変身していた時の残り香のような後遺症で、衝動的にまた自傷や破壊をしそうになるが、それを必死に抑え込む。

 少しずつだが、竜胆は自分を制御するすべを身に着けていた。

 

 竜胆はベッドから降りようとして、両手の手錠がベッドに鎖で繋がれているのを見て、"まあそりゃそうか"と思い、ベッドに寝転がった。

 

「起きられましたか」

 

 物音に気付いたのか、医務室に少女がやって来る。

 綺麗な黒髪、赤いリボン、落ち着いた雰囲気、少し年齢不相応な色気。

 乃木若葉の幼馴染、上里ひなたであった。

 

「……上里、ひなた。上里で合ってるよな?」

 

「はい、合ってます、御守さん」

 

 ひなたは竜胆のベッドの横に椅子を置き、そこに座る。

 そして彼の怪我の治り度合いを、目算で軽く測り始めた。

 こうして見ると、勇者の誰と比べてもひなたは落ち着きがあるように見えるし、一番に大人っぽく見えると、竜胆は思った。

 竜胆は問いかける。

 

「怪我した人はいる? 全員無事? 誰も死んでない?」

 

「怪我人は一名です」

 

「誰!?」

 

「あなたです」

 

「……あっ、そっかぁ」

 

 ちょっとバカっぽいやり取りに、ホッとした様子の竜胆。

 元よりひなたは竜胆を、千景ほど好意的にも見ておらず、球子ほどに敵意的にも見てはいなかったが、会話を重ねるたびに竜胆の良い部分やちょっとバカっぽい部分が見えてくるので、彼の性格を読みあぐねているところがあった。

 

(露骨にホッとしてる……しかしこのちょっとお馬鹿な風味はいったい)

 

 とりあえず、皆が無事なことにホッとしている竜胆は、悪人には見えなかった。

 球子と竜胆が並び立って共闘し、球子が無傷で、竜胆が傷だらけだったという時点で、察する人は察している。

 

「その傷、本来なら全治五ヶ月……だというのが、医者の見立てですが……」

 

「うん」

 

「経過を見る限り、2、3日で完治するそうです。恐るべきことに」

 

「ふーん」

 

「人間離れした回復力です。他の巨人変身者と比べても、桁違いに」

 

「良いことじゃないか」

 

「でも……御守さんは、自分の体が"そう"であることに不安を抱かないんですか?」

 

 竜胆の体はとても即死しやすく、即死さえしなければ急速に傷が治るため、すぐにまた戦場に行くことができ、ゆえに即死の機会が増え、更に死にやすくなる。

 それはひなたにとって異常であり、竜胆にとっては今更なことだった。

 

「僕がまともな人間の体してるだなんて、なんでそんな風に思ったんだ?」

 

「―――」

 

「闇を食って生きていられる人間が、まともな生き物なわけないだろう」

 

 何年も、何も食べず何も飲まず、闇だけを食べてきた子供の精神性。

 "自分はまともな人間ではない"という確信が前提にある心。

 そんな生き方をしてきた子供が、自分の命をどういう風に見るのか。

 ひなたは少し、そこへの想像と理解が足りていなかった。

 

「だから僕は戦死しやすいし、死んでも良いんだよ。大社からそう言われなかったのか?」

 

 言われていない。

 と、いうか、大社は竜胆に非人道的な拘束や首輪付けはしたものの、竜胆が死んでもいいだなんて言ったことは一度もない。

 ひなたは少々目眩を覚えた。

 竜胆が死んだら本気で悲しむ人物に、心当たりがありすぎる。

 

「少しは周りが見えるようになったと聞きましたが、本当に少しだけなんですね」

 

「え?」

 

「若葉ちゃんもそうですけど、こういうのは自分で気付かないと意味が無いのが何とも……」

 

 千景が居るのに「死んでも良い」と言い切る竜胆を見ると、でっかい溜め息を吐き出したくなるひなたであった。

 

(なんというか……本当に、若葉ちゃんの対のような人ですね。

 自分に厳しく、生真面目。

 他人の心情が分からないわけではないのに、時々肝心な部分に鈍く。

 仲間の好意には絶対に報いを返し、敵には憎悪の応報をぶつけ。

 何かを守ろうとする善の芯が何があろうと折れることなく。

 過去に"殺された"人のことを忘れない。

 気丈そうに見えるのに、どこか寄りかかれる他人を求めているような……)

 

 どちらかと言えば、若葉と長所が似ているのではなく、短所が若葉に似ているタイプだと、ひなたは思った。

 少し前の若葉と、今の竜胆の戦闘スタイルは、脳筋突撃型早死にタイプというそっくりさんだったりしたから。

 

(けど……若葉ちゃんも変わっていくことができた、この場所なら)

 

 ひなたは巫女である。

 戦場には同行できない。

 戦場で誰かを助けることはできない。

 彼女にできることは、戦いの前後で戦う者達に助言をすることくらいだ。

 

「死んではいけません」

 

「ん? そりゃ、死ぬ気は無いけど」

 

「そんな

 『どちらかといえば死にたくない』

 くらいの気持ちではなく。もっと必死に思った方が良いです。

 あなたがもし、誰にも悲しんでほしくなく、誰にも泣いてほしくないのなら」

 

「む」

 

 ひなたは医務室を出ていった。

 釘を刺された、と感じた竜胆が腕を組む。

 ひなたの釘刺しはかなり深く彼に刺さった。

 竜胆も、自分が死んだ時に泣きそうな子がいることくらいは薄々分かっている。

 千景を悲しませたくないのなら……竜胆はそうそう死ねないのだ。

 

 友の悲しみを嫌がる気持ちと、自分に対する死んでしまえという気持ちが、二律背反になって衝突してしまう。

 ひなたの言葉は、上手い具合に竜胆の心に楔となって刺さっていた。

 

「……人を甘やかすタイプに見せかけて、厳しくするタイプだなありゃ。ああ、くそっ」

 

 上里は僕が口喧嘩挑んでも一生勝てそうにないタイプだな、と竜胆はちょっと捻くれた褒め言葉を心中でひなたに贈っていた。

 はぁ、と溜め息一つ。

 考えるべきことが本当に多くて、心が下を向く。

 気分が落ち込む。

 気分が落ち込むと、心の闇が顔を出して来る。

 巨人の闇の力が隙あらば闇側に誘惑してくるのが嫌になって、竜胆は特に意味もなく、ブラックスパークレンスを放り投げた。

 

「邪魔だ、どっか行ってろ」

 

 それで心の闇がどこかに行くわけでもなく。

 闇の力がどこかに行ってくれるわけでもなかったが。

 竜胆は感情的に、その行動を選択していた。

 床に転がったブラックスパークレンスを、新たな来訪者が拾い上げる。

 

「おいおい、変身の神器を投げ捨てるとかタマげたやつだな」

 

「! タマちゃん……」

 

 球子の手の中で、ブラックスパークレンスが回る。

 少女の手でも握ることができる大きさのブラックスパークレンスであったが、拾うだけで球子が嫌なものに触れた感触を覚えるほどに、内部に闇の力が詰め込まれていた。

 

「やなことでもあったのか?」

 

「……いや、別に。特筆して嫌だと思ったことは、最近は起きてないかな」

 

 これは本当だ。"特に嫌なこと"を竜胆が挙げようとすると、少し時間を遡りすぎるから。

 

「医務室で出されるメシはマズいとか聞くけど、最近何か食ってるか?」

 

「闇を少々」

 

「美味いのか?」

 

「水より癖がなくて空気よりは癖がある。水の方が美味しいかな」

 

「味無しじゃないか……」

 

 ひなたがそのままにしていったベッドの横の椅子に――行儀の悪い男の子のように背もたれを前にして――球子は座った。

 

「タマには美味いもんでも食った方がいいぞ」

 

「そうかな?」

 

「タマなら美味しい食べ物食えなくなったら発狂するぞ。

 食べなくても良い、と食べない、は別だろ。

 飯食わなくてもいいとしても、美味い飯は食った方が気合いが入るんじゃないか?」

 

「それは……そうかもしれないけど」

 

「はっ、そうか。お前が妙に辛気臭いのは、三年は美味い飯を食ってないからか……」

 

「おいちょっと無理な主張に説得力持たせてくるのやめろ」

 

「美味い飯食ってちゃんと腹一杯になったら元気が出る。

 美味しいごはんをたらふく食べたら上を向ける、前を向ける。

 落ち込んだ時は何か良いもの食べてぐっすり寝る。

 そういうことしてないからお前は妙に陰気なんじゃないか?」

 

「分かった、分かった、たまにはそういう食事も取るよ。正直変わらねえだろって思うがな」

 

 まったく、と竜胆は微笑んだ。

 

「ちなみにオススメは?」

 

「うどんだな! うどん!」

 

「おお、即答……そういえば香川(ここ)ってうどん県だったか」

 

「あれは忘れもしない、三年前のこと。

 香川出身の若葉とひなたに連れられ、とっておきの店を紹介されたんだ。

 あの日、一緒に店に行った全ての勇者とウルトラマンはうどんの虜になったんだよ……」

 

「何その洗脳の想い出じみた想い出語り」

 

「香川のうどんはそれほどまでに美味しいんだ。

 食えば分かる。お前の妙に陰気なところも吹っ飛ぶレベルだぞ」

 

「陰気陰気うるせー! そんなに陰気かよ僕は!」

 

「時々だ時々。陰気じゃない時はやや明るくて面白い奴だから目立つんだよ」

 

 球子は会話の途中、ふと、今朝のニュースのことを思い出した。

 

「あ、そうだ。一人称がみょーに女々しいからそういうの感じるのかも」

 

「ぬっ、『僕』がいけないってのか」

 

「タマの同級生だったガキンチョ男子だけでも『俺』ばっかだしなぁ。

 なんとなくだけど『僕』ってちょっとなよっちいイメージある気がするぞ」

 

「むぅ」

 

「今朝のニュース見たか?」

 

「いや僕TV気軽に見れる立場じゃないし……」

 

「っと、ごめんな。今のはタマが悪かった」

 

「気にすんな。タマちゃんは悪くないぞ。で、ニュースが何?」

 

「男性の一人称割合一位がぶっちぎり『俺』で、次『私』で、その次が『僕』なんだとさ」

 

「へぇー……」

 

「『俺』の男らしさ力は中々高いと思うんだ、タマは」

 

「……確かに。言われてみれば男らしさ力高いな。

 うじうじしてる人間は『僕』、堂々としてる人間は『俺』ってイメージもある……」

 

「いやまあタマはウジウジしてる俺野郎も知ってるけどな。

 一人称『俺』に変えたらメンタル成長したぜフッフーなんてなるわけないし」

 

「お前は僕をどうしたいんだよ!」

 

「でも、一人称変えて、

 『生まれ変わったつもりで』

 自分を変えていく誓いを立てる……ってのは、なんかそれっぽくないか?」

 

「……!」

 

 球子は何気なく言った言葉であったが、その言葉は、竜胆の好みにがっつりと突き刺さる台詞であった。

 

「生まれ変わったつもりで、か」

 

「お前、自分嫌いとかあんま言うなよ。

 見てるとちょっと悲しいし、ウザいし、心配になる。

 そんなこと言ってるくらいなら、ちょっとでいいから変わればいいと思うんだ」

 

「……ああ、本当に、そりゃ正論だよ」

 

 後悔は消えない。

 過去はなくならない。

 闇はいつも胸の奥に在る。

 罪はいつも想い出に在る。

 だが、三年前のあの惨劇を、もう二度と繰り返したくないのなら。

 竜胆は過去の自分とは違う、全く新しい自分に変わって行かなければならない。

 

 この人達と、この場所で。

 

「分かった。今日からは『俺』にしよう。その代わり簡単な交換条件がある」

 

「交換条件? なんぞ?」

 

「御守先輩と呼べ、中学二年女子」

 

「……そうきたかー」

 

「既に呼び捨てにしてる乃木はいいや。

 あれはそういうキャラじゃねえし。

 でもタマちゃんはほっとくと呼び捨てで来そうだからな」

 

「へいへい、御守先輩、っと」

 

「たまには俺が先輩ってこと思い出せよ、タマっち先輩」

 

「そう呼ぶのはあんずしかいないんだけどなあ」

 

「そういえばなんでちーちゃんのこと誰も先輩付けで呼んでないんだ?」

 

「だって先輩感無いじゃん……」

 

「お、お前……無いけど、可愛いだろ」

 

「……取って付けたようなフォローすんのな先輩」

 

 球子は、ブラックスパークレンスを竜胆に手渡す。

 その力が彼の手の中にあるという意味を、よく理解した上で。

 

「ま、その内タマが美味しいうどん屋に連れてってやるよ、御守先輩」

 

「じゃあ俺は楽しみに待たせて貰うかな。タマちゃん」

 

 竜胆は、ブラックスパークレンスを受け取る。

 土居球子がそれを自分に手渡したことの意味を、よく理解した上で。

 

 竜胆の過去の所業を今でも許してはならないと認識していて、竜胆に対する嫌悪感をまだ完全に拭い去ってはいない、そんな球子に手渡された闇の力だ。

 これで暴走してしまったら、球子の想いをいくつ裏切ってしまうか分からない。

 二度と暴走できないと、竜胆は改めて自分を戒める。

 

「うん、先輩は俺って言い切った方が男らしくてかっこいい気がするな。気のせいかもだけど」

 

「その最後の一言本当に必要だった? なあ本当に必要だったか? タマちゃん?」

 

 その場の軽い思いつきで先輩呼びさせてみた竜胆だが、それがきっかけで、ふと気付く。

 勇者とは無垢なる少女が選ばれるもの。

 そのため、千景だけが竜胆と同い年であり、他の勇者は皆竜胆より歳下である。

 誕生日の順序を考慮すれば、千景でさえ厳密には竜胆より歳下である。

 勇者に対し守りたいという想いを自然に抱いていた竜胆は、自分を見つめ直す。

 

(……もしかして、俺は)

 

 勇者は皆、竜胆よりも歳が下の女の子。

 

(花梨を殺した贖罪を、しようとしてるのか? 償えないと分かった上で)

 

 必然的に、竜胆が自分自身の心を分析すれば、それは妹の存在に行き着く。

 

 妹を殺してしまったから、妹の代わりに守ろうとしているのか?

 竜胆は自分自身の心に問いかけてみるが、分からない。

 そうでないとも言い切れず。

 そうであるとも言い切れず。

 竜胆は自分の善性を全く信じていないから、自分が純粋な善意で仲間を守ろうとしているだなんてことを、そう簡単には信じられないのだ。

 

(分からない……俺は、何を考えてるのか、何を思ってるのか。

 俺のことなんて、いつも俺が一番よく分かってないんだ。最悪なことに)

 

 竜胆が、欠伸をしている球子を見やる。

 欠伸の瞬間をじっと見られていたことに気付いた球子が少し顔を赤くした。

 

(……俺は、この子をどう思ってるんだろう)

 

 竜胆は、ちょっと悩んで。

 "三年前の彼らしく"、バカのようにスパッと思考を決定した。

 

(いや、好きだな。普通に好きだ。ちーちゃんと同じくらいには)

 

 昔の彼のように、シンプルな理屈で、竜胆の戦う理由がまた増える。

 

(よく考えたら花梨のこと抜きにしても俺は普通にこの子を守りたいと思ってるな。

 なんだ面倒臭いこと考えなくて良かったのか。うん、好きなものは守りたいと思うもんだ)

 

 彼の心は、また光の側に寄る。

 

(―――命に替えても、守りたいと思うものだ)

 

 だがそれは、光の巨人が持つべき精神性であって、闇の巨人に相応しいものではなかった。

 

「どうした先輩? 何考えてるんだ?」

 

「誰も死なずに終われたら良いな、って。そう思ったんだ」

 

「あー、分かる。タマも時々そういうこと思うぞ!」

 

「頑張らないとな」

 

「おうっ!」

 

 竜胆と球子が拳を打ち合わせ、笑い合う。

 

 そこに突然! 窓を開けて飛び込む男! サンタクロース・ボブのエントリーだ!

 

「Merry,Merry,Merry―――Christmas」

 

「ぼ……ボブ!」

 

さあ存分に楽しもうぜ子猫ちゃん達(Let's completely enjoy this time.baby)

 

「あ、そういえば今日クリスマスだったっけ……」

 

 サンタクロースボブは突如医務室に飛び込んで来たかと思えば、プレゼント袋の中から取り出したデカいチョコレートを「プレゼントだ」とばかりに二人の前に置く。

 そしてギターを引きながら、クリスマスの歌を歌い始めた。

 

「~♪」

 

「う……上手い! 演奏も歌も上手い!」

 

「ボブは歌うウルトラマンなんだ! タマげたろ!」

 

「そりゃタマげるわ!」

 

 筋肉ムキムキ黒人ドレッドヘア巨漢のボブと、強力なウルトラマンであるグレートと、サンタクロース・ボブの華麗なる演奏が全部マッチしない。

 彼はインパクトの塊であった。

 更にはボブと打ち合わせていたのか、ボブの演奏に合わせてぞろぞろと仲間達が医務室にやって来る。

 その手には食べ物があったり、飲み物があったり、クリスマスツリーがあったりした。

 ……どうやら、医務室に鎖で固定された竜胆のために、皆が『クリスマス』を持って来てくれたようだ。

 

「なっ……!」

 

「友奈が、クリスマスと歓迎会を兼ねちゃおう、と言い出してな」

 

「乃木」

 

「今日はここがクリスマスパーティー会場、っていうことで!」

 

「……高嶋」

 

 鶏肉の皿を持った若葉が居て、その横で飲み物を沢山抱えた友奈が笑っていて、二人の後ろでひなたが鶏肉の皿と野菜の皿を持ったまま苦笑していた。

 竜胆を除いて皆でパーティーをするという手もあっただろうに。

 竜胆を気遣い、わざわざ色んなものを持って、ここに来てくれたようだ。

 

 若葉が竜胆の健闘を称える。

 

「今日はよくやってくれた。ゆっくり休め。ちなみに私のオススメはこれだぞ」

 

「おお、鶏肉……」

 

「私は骨付鳥が好きでな。親も、親の親も好きだった。きっと私の子孫も好きだろう」

 

「子孫の好きな食べ物断言する人初めて見たぞ……どんだけ好きなんだよ」

 

「ちなみにひなたも好きだぞ、骨付鳥」

「まあ、若葉ちゃん、それは私が自分から教えたりするものですよ」

 

「なんで二人して同じ鶏肉の大皿持ってんのかと思ったらそういうことかい」

 

 若葉は鶏肉が好き。竜胆は覚えた。

 ひなたは先程の竜胆との会話がなかったかのようにしれっと会話を行い、会話の輪を作り、竜胆に対しまだ怯えている杏と竜胆の間に入ったりして、なごやかな空気を作っていた。

 

(自然体というか、雰囲気や物腰が柔らかいというか、本当に空気を和らげる人だな)

 

「今年もクリスマス、乗り切ったぞー!」

 

「三ノ輪さんと鷲尾さんはいつ帰って来るんでしょう」

 

 友奈とひなたがいるだけで、空気が柔らかくなっていく。

 とはいえ、いい感じになるのは空気だけだ。

 竜胆はまだ関係が冷え切ってる杏と、ウルトラマンパワードの変身者・ケンと目が合った。

 

「ど、どうも。伊予島(いよじま)(あんず)です。改めまして」

「ドーモ、ケン・シェパードデス。ヨロシク」

 

「あ、お疲れ様っす……御守竜胆です、これからよろしく」

 

「お、ケン、あんず! こっち座れこっち! タマの横だぞ!」

 

 幸い、球子と仲の良い二人であったために、球子に呼ばれるとそっちに行ってくれた。

 竜胆はちょっとホッとする。

 竜胆と球子は友達で、球子と杏は友達だが、竜胆と杏は友達ではない。ケンも然り。

 

(友達の友達、それも良く思われてないメンツとの間に気不味い空気が流れるあの感じ。

 トークしろって言われたら死んでも嫌どすって叫びたいレベルの空気であった。うん)

 

 そう考えたところで、竜胆は球子に気を使われ、助け舟を出されていたことに気付いた。

 球子が杏やケンと話している途中に、竜胆の方を見て少年のように笑む。

 めっちゃいい子だ……ありがとう……と竜胆は思った。

 そして球子の方を見ていたので、幽霊のように接近して来た千景の存在に気がつかない。

 

「大丈夫? 大丈夫じゃないわよね、こんなに包帯が……」

 

「ちょ、ちーちゃん?」

 

「痛い? 痛くない? 正直に答えて!」

 

「痛いから包帯の上からペタペタ触んないで!」

 

「……あっ、ご、ごめんなさい!」

 

「いや別にいいけどさ。というか本当は今の全然痛くなかったから気にするな」

 

「……そういうところよ」

 

 包帯だらけの少年と、それを見て動揺して包帯に触ってしまった少女と、本当は痛かったけど痛くなかったという小学生並みの誤魔化しを始めた少年と、全部見抜いている少女。

 千景が微笑む。

 竜胆が誤魔化す。

 少しだけ、昔の二人の空気に戻れた、そんな気がした。

 

「高嶋、無言でニヤニヤしてるのは気持ち悪く思われても仕方ないと俺は思うんだが」

 

「え、気持ち悪い!? ……あ。御守さんが初めて自分から話しかけてくれた!」

 

「あっ、やべっ」

 

 そんな二人を見て微笑みが止まらない友奈が居たりした。

 

「御守さんはケーキ食べる? ほら、真っ白なクリスマスケーキだよ」

 

 友奈はケーキを切り分けて、皿に乗せて竜胆に手渡す。

 

「きっと闇より美味しいよ。私達の手作りだもん」

 

「……かも、な」

 

 黒い闇と、白いケーキ。

 こんなものは食べなくても、闇を食っていれば竜胆は死ぬことはない。

 食べる必要はない。

 闇の力は常に働いていて、ケーキを投げ捨てて善意を踏み躙りたいという気持ちすら湧く。

 けれど、竜胆は。

 必要だから食べるのではなく、他人の暖かな気持ちに応えようとする『性格』で、心を込めて友奈達が作ってくれたものを、食べるという選択をした。

 

 料理は愛情、料理は心、そんな風に言う者も居る。

 料理は気持ちを伝えてくれる、と主張する者も居る。

 少なくとも今この瞬間において、それは真実である。

 "愛情を込めて作られた料理"なんてずっとずっと食べていなかった竜胆に、料理から伝わってくれた気持ちはあった。

 

「―――美味いなぁ」

 

 竜胆には今の自分の表情が見えていない。

 だが、ケーキを食べた竜胆の表情を見た友奈が、嬉しそうにとびっきりの笑顔を見せたという話を聞けば、彼がどんな表情をしていたかなんて、どんなバカにも分かるというものだ。

 

「クリスマスに美味しいケーキを食べると、幸せな気持ちになれるよね!」

 

「……ああ、そういえば、そうだった。そうだったな。俺もすっかり忘れてたな、そんなこと」

 

 三年前から変わらないもの、変わったもの。

 失われたもの、残ったもの。

 忘れていた"当たり前"。

 竜胆の両親が死んで、竜胆が色んなものを壊して殺して、三年が経って。

 

(そうだ、俺も、父さんと母さんが生きてた頃は……家族四人だった頃は……)

 

 友奈の行動は三年前の惨劇の時に失われたものどころか、それより前、両親の死の悲しみが竜胆の内から失わせた"当たり前"ですらも、取り戻させていた。

 高嶋友奈は勇者である。

 彼女の強さは、強大な敵を砕く時にのみ発揮されるものではなく。

 誰かの中の悲しみを砕く時にも、遺憾なく発揮される。

 

 彼女のケーキは、どこか優しく、暖かった。

 

「ずっと気遣ってもらってたのに、悪かった、高嶋。ありがとう」

 

「! うん、うんうんっ! ぐんちゃん今の聞いた!?」

 

「聞いてるわ。良かったわね、本当に」

 

 友奈はとても嬉しそうにして、気難し屋の竜胆と友好を結べたことを、若葉に報告しに行った。

 友達に報告しに行くとは、よっぽど嬉しかったらしい。

 竜胆と千景は、二人並んでベッドに座り、友奈が置いていったケーキを食べる。

 初出現時からずっとギターと歌をBGMに提供しているボブが、無駄に気を利かせてムードの出る感じのクリスマスソングに切り替えた。本当に無駄な気の利かせ方であった。

 

「竜胆君、私ね、家でクリスマスを祝ったことなんてなかったの」

 

「え……そうだったのか」

 

「私がクリスマスを初めて祝ったのは、ここに来てから。

 その時も言い出しっぺは高嶋さんだったわ。

 皆でクリスマスパーティーしよう、ってね。

 まだ仲間が結束していなかった頃、まだ私が仲間の誰にも心を開いてなかった頃」

 

「へぇー……」

 

「高嶋さんが皆を引っ張って、クリスマスパーティーを開いて。

 私の名字の(こおり)(ぐん)と高嶋さんが読み間違えてたことが話に出て。

 高嶋さんが私を"ぐんちゃん"と呼ぶのが定着して……そんな、初めてのパーティー」

 

「ちーちゃんの幸せな話を聞いてると、こっちまで幸せな気持ちになるよ」

 

「……そういうところよ、竜胆君。

 だから今は、クリスマスは良い日だと思っているわ。

 クリスマスが他の日と違う特別な日になったのは、ここで皆と出会ってからだから」

 

「……うん」

 

 神様ってやつはいるのかもしれない、と竜胆は思った。

 とても辛い目にあっていた、とてもひどい毎日を送っていた少女が、過去の不幸を帳消しにしていけるくらい、良い出会いを得た。新しい居場所を得た。信じられる仲間を得た。

 幸せを、得られたのだ。

 まだ過去の全てを帳消しにできるほどではないけれど、それでも千景は、報われていた。

 

 竜胆は千景が幸福なら幸せを感じる。

 千景は大切な友達が皆ちゃんと笑えていて、自分の価値を認めてくれる友達が傍に居てくれたなら、幸せを感じる。

 かつて竜胆が一方的に千景を守る関係であった二人の関係性は、もうない。

 ガゾートとの戦いがそうであったように、もう一方的に守られるということはない。

 二人は助け合える。

 守り合える。

 竜胆が知らない今日までの日々の中で成長した千景なら、それができる。

 

 助け合える、守り合える仲間として、竜胆(ともだち)と並んで座っているこの時間が嬉しくて、千景は自然と微笑みを浮かべていた。

 

「なんだか、嬉しい。

 こうやって、あなたと一緒にクリスマスが祝えているのが嬉しい。

 こんな日が来るなんて、あの頃は思ってもみなかったから」

 

 三年前の惨劇と三年の月日が変えたものがあり、変えられなかったものがあった。

 二人の間にあった友情だけは、何も変わってはいなかった。

 

「僕は、俺は、何も変わってない。

 まだ闇色の自分のままだ。

 幸せがあると壊したいって思いが自然に湧いてくる。

 こんな自分が……御守竜胆が、ここに居ていいんだろうか」

 

「居ていいかどうかなんて私には分からない。

 でも、ここに居てほしいって、私は思ってる。

 ……これは、それが正しいことかどうかとは関係のない、私の願い」

 

 上里ひなたの言葉が、竜胆の記憶から浮かび上がる。

 

―――死んではいけません

―――あなたがもし、誰にも悲しんでほしくなく、誰にも泣いてほしくないのなら

 

 ひなたは他人をよく見ていて、その上で安易に答えを示さない。

 その人が自然と答えに辿り着くことを望む。

 ひなたの望んだ通りに、竜胆は一人で答えに辿り着いた。

 竜胆には自分の死を望む理由が山ほどあり、死を受け入れる理由が無数にあったが、その反対側に……『死ねない理由』が一つ、とても大きな理由が一つ、置かれた。

 

 千景の笑顔を見て、それを曇らせたくないという気持ちが、彼の中に強く根付いていた。

 

「そっか」

 

 ボブは竜胆と千景を見て笑む。

 

よくやった(Great job)

 

 先の戦闘における竜胆の健闘を褒めているのか、今いい感じに女の子を扱えたことを褒めているのか、その両方なのか。

 ボブはこういう奴であった。

 ちょっと鬱陶しい兄貴ヅラをしたがるところがあった。

 弟や妹の宿題をちょっと鬱陶しいくらい手伝いたがるタイプである。

 

 だが、楽器を弾いて歌っている間は、何一つとして鬱陶しくないスーパーシンガー……そんな男であった。

 千景と竜胆が、その演奏に聞き惚れる。

 

「グレートな演奏ね」

 

「グレートな演奏だな……」

 

「あ、でもボブの歌は英語の歌しかないのに、竜胆君はボブの歌の意味が分かるの?」

 

「歌詞の意味分からなくても、英語の歌詞の歌ってなんかかっこよくて素敵じゃん」

 

「……そう」

 

 そういえば昔から、時々すっごく頭悪そうなこと言ってたなあ、と、思い出して。

 

 千景はとても懐かしい気持ちになった。

 

 

 




【原典とか混じえた解説】

●レオ・スタークラスター
 獅子座の怪物、十二星座のバーテックスの頂点。全長100m。
 攻防共に高い能力を持つ、レオ・バーテックスの強化系。
 炎弾一つとっても、強力かつ高速の直射弾、複数の敵を圧殺する追尾弾の連射、太陽を思わせる巨大弾の溜め撃ちなどを器用に使い分ける。
 その大火球の威力は、四国から放てば、瀬戸内海を突っ切って、海の水も本州も深く抉ったように消し飛ばしてしまうほどである。
 他バーテックスを吸収して強化形態となる能力や、星屑に炎をエンチャントして強化し砲弾として使うなど、最も強い十二星座でありながらかなり器用でもある。
 また、真に完成した十二星座は共通で凄まじい再生能力を持つため、極大威力で一気にダメージを与えきらなければ倒せない。現代の人類の技術力でこの特性に対応する"儀式"は不可能。

※余談
 その特性上、身体強度が低く遠距離攻撃が貧弱な現状のティガダークの天敵。
 一対一の戦いになった場合、追尾弾だけで圧殺されかねなかったりする。

●マドカ・ダイゴ
 原作ウルトラマンティガの主人公にして、ウルトラマンティガの変身者。
 闇の者の策略でティガダークに変身し、闇の力で暴走して罪なき女の子を叩き潰すビジョンを見せられた後にもかかわらず、揺らがない光の心で一切の暴走と闇堕ちをしなかった光の主人公。
 その心は光であり、人である。
 闇の最強戦士と言われたティガダークが最弱の戦士になってしまうほど、闇の巨人の力を喪失させてしまう、光り輝く心を持ち合わせていた『本物』の光の英雄戦士。

 遺伝子形質だけを見れば竜胆はダイゴにそれなりに近い。
 ダイゴは原作ウルトラマンティガにて『俺』と『僕』の両方を使っている。
 ファン間の考察では、この『俺』『僕』は『ウルトラマン』か『人』かで揺れるダイゴの心の動きも表していて、終盤に『人』であることを選んだダイゴが、それ以後『俺』を使わず『僕』で統一した……なんて考察するものもある。

・おまけ
 ダイゴさんは色っぽい話を振られても察しが悪いので「勘は鋭いが鈍いのよねえ」と隊長に言われてます

【自爆技】
 タロウの自爆技は、自分を爆発させて不死身の心臓から再生する技。
 メビウスの自爆技は、自分を爆発させてブレスレットの機能で再生する技。
 オーブの自爆技は、タロウとメビウスの自爆技の力を借り、抱きついた相手を爆発させて自分もそれに巻き込まれてしまう技。
 ウルトラヒートハッグはオーブのそれが近い。
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