夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した 作:ルシエド
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ある日、『闇』が落ちてきた。
自壊する要素を尽く廃絶してきた地球人類にとって、それは数万年ぶりに訪れた、『人類を終わらせるかもしれないもの』だった。
『闇』の正体は依然知れず、されど人は立ち向かう。
だが、『闇』は強大だった。
西暦が一万年を過ぎても追いつけそうにないほどの高度な文明をもってしても、『闇』に太刀打ちすることは不可能だった。
無限の闇。
無数の獣。
二つは『闇』より生まれ、ありえない速度で星を侵略し始めた。
それこそ、田舎者では事態に気付いてもいないほどに、速攻だった。
星は怪獣に蹂躙され、闇が世界を覆う……かに、見えた。
そこに、『光』が落ちてきた。
『光』は戦士を選び、それぞれと同化した。
伝承に曰く、『光』が与えたものは三つ。
勇気と、希望と、力。
『光』と一体化した戦士達は光の巨人となり、『闇』との闘争に身を投じた。
そうして『光』に選ばれた一人がティガ・ゲンティア……ウルトラマンティガであった。
『光』は『闇』に並び称されるほどに強力で、地球という星の上で光と闇は拮抗する。
かくして、闇が星を覆うことはなく、されど光は闇を追い出せない、光と闇の大戦争は始まったのだった。
それは地球に根付いていたどの神性の在り方とも違い、また、どの神性にとっても絶対的に相容れない星の外敵であった。
三千万年前の神々――現代ではほとんど生き残っていない神々――は星の外敵を前にして、基本的に不干渉だった人類に全面的に協力した。
鬼神神群の代表、スクナ鬼。
動物神群の期待の若手、ガーディー。
地に属する神々の母にして植物神、神樹ギジェラ。
始まりの天神の一人、
三千万年前とは神話の更に前の時代。神々と人間の距離がまだ近かった時代であり、神々の多くがその姿と名をありのままに人間に認知されていた。
星の理そのものが別物であった時代であり、神と人の関係性が別物だった時代と言える。
そうした神に認められ、選ばれ、力の後押しを受けた人間を、神々は勇者と呼んだ。
この時代は勇者も、巫女も、英雄も、何もかもが区別されていなかった。
遠い未来の西暦の時代とは、世界を構築する理そのものが違う時代。
天照大神すらまだ生まれたばかりであり、天の神々も地の神々も西暦と比べると、まるで顔ぶれが違っていたほどであった。
光の巨人。
闇の怪獣。
神の勇者。
全てが入り乱れる原初の混沌。
人間カミーラは、巨人ティガ、勇者ユザレ、そしてその仲間達と出会い、彼らに同行した。
それは事情を知ったティガが哀れみから少女を保護したということであったが、カミーラは同情であっても、救ってもらったことが嬉しかった。
彼の隣に入れたらなんだって嬉しかった。
なんでもいいから彼に「ありがとう」と言われたら、それだけで嬉しかった。
『地球星警備団』なる組織の飯炊き女になって、生活が良くなったところはあっても、悪くなったところは何一つなかった。
問題があったとすれば、ただ一つ。
「……お話したい時に、どうやって話しかけたらいいんだろう……」
内弁慶だったカミーラが友好的なティガやユザレと話せるようになるまでは一年ほどかかり、出会ってから一年が経って初めて、カミーラはティガが同い年の13歳であること、ユザレが一つ年下の12歳のくせにバリバリタメ口だったことに気付いたのだった。
纏うは風。
紫電の疾風。
銀色の巨人ウルトラマンティガが風を纏えば、いかなる怪獣も相手ではなく、また犠牲になる人間が出ることもなかった。
幼くして神と光に選ばれたのは伊達ではなく、他の警備団の戦士達も、守られている人々も、口々にティガを讃えていた。
『ティガ一人がその気になれば文明は滅ぶ。
また文明を滅ぼすほどの敵であっても、ティガ一人にも敵わないだろう』
神をも殺す領域の強さ。
他の巨人とは隔絶した強さ。
文明の存亡を一人で決定できるほどの強さ。
そして、それほどの強さを持ちながらも、弱き人々に受け入れられる善性。
無限に怪獣を吐き出す名状し難き邪神相手に戦線を維持できていたのは、ティガが小学生相当の年齢からずっと戦い人を守っていたというのが大きかった。
ゆえに皆、彼を信じている。
そういうのとは特に関係なく、ほぼ一目惚れに近い出会いをし、それから毎日ティガの優しさに好感度が爆発的に上がり続け、ティガ好き好き信じてる状態になっていたカミーラは、ティガと並んでベンチに座り『小さな神』の頭を撫でていた。
くすぐったそうに、生まれたばかりの神は身を捩る。
「神って、増えるのね」
「そりゃ、増えるとも。神だって結婚するし子供も作るんだから」
「新しい神……まだまだ生まれてくるのかしら。天体や自然の擬人化、いや擬神化……ね」
牛なのか鬼なのか外見的には判別がつかない神を撫でながら、カミーラはぽつりと呟く。
世界の形は変わりつつあった。
光が生まれ、神が降り、人と中から選ばれし者達が戦いに向かい、理想郷は瞬く間に絶え間なき戦乱に飲み込まれる。
多くの人にとって、それは不幸でしかなかっただろう。
だが、カミーラにとってそれは福音と成るものでしかなかった。
彼と出会って、彼に救われて、カミーラの人生は幸せでいっぱいになっていたから。
「これから生まれてくる天の神も居るさ。
そして、その神々にも人間を選ぶ権利はある。
好きにすればいいんだよ。
皆好きになったやつの味方をすればいい。僕がチィちゃんの味方をしたように」
「! ……そ、そうよね……うん。何を好きになるかは自由だわ。うん」
生まれた時から、誰にも味方してもらえなかった。誰にも褒められてこなかった。誰にも好きになってもらえなかった。
そんなカミーラに、彼はいつだって欲しいものをくれる。
カミーラがずっと欲しかったものも、カミーラ自身が『自分が欲しがっているもの』だと気付いていなかったものも、すぐにくれる。
それはきっと、彼が
「あ、そうだ。
チィちゃん、いつも美味しいご飯をありがとう。
ごめんね、忙しくて最近言おうと思っても言えなかったんだ」
「!! そ、そのくらいのこと……私は守ってもらってるんだから、このくらいは……」
「それを言うなら君の美味しいご飯のおかげでもあるよ。
僕らもご飯を食べないと数日で確実に戦えなくなるからね。
君が食べる人のことを考えてご飯を作ってくれてるから、僕らは強いんだ」
「……あ、あの……その……ティガは、何か好きな食べ物はある……?」
「お蕎麦かな。あ、もしかして作ってくれるのかい? わぁ、素直に嬉しいな」
「う、うん。頑張る」
「ありがとうね、チィちゃん」
カミーラは頬を赤く染めて俯く。
ティガに見えないように頬をぱんぱんと叩いて冷やして、いつも無愛想な自分が変な顔を彼に見せていないか気にしながら、彼と向き合う。
幸せにする天才なのね、とカミーラは思っていた。
話すたび、言葉を交わすたび、楽しくなっていく気持ちがあったから。
彼が自分に微笑んでくれるたび、心臓が跳ねて、口元が変な動きをし始めるから。
ティガと向き合っているだけで、幸せになっていく自分を、カミーラは嬉しく思っていた。
それにはふさわしい名前がある。
誰もが知っている。
思春期に気になる異性ができたら、誰だって知る。
一文字で終わる、簡潔で素敵な名前がある。
けれどこれまで誰もがカミーラに『その名前』を教えてこなかったから、カミーラはその気持ちに与えられた、その名前を知らなかった。
「君は新しい環境に必死に適応しようとしてる。
そして人を助けられる仕事を選んだ。
今君が真摯に過ごしている毎日の全てが、君の素晴らしさだよ」
「そんな……人助けなら、ティガのほうが凄いし……」
「いやいやいや!
凄いよ! 僕なんて家が厳しいところだったからね。
大昔に貴族だったとかで、貴人の責務がどうたらこうたら。
今じゃ普通の家だっていうのに、時代錯誤にもほどがある。
僕は自分の意志じゃなくて実家の意思で人助け始めた人間だからさ。
酷い環境で生きてて、自分から人助けしようと動けるチィちゃんは凄いよ。尊敬する」
「……そうかな?」
「君に僕が嘘をついたことはないだろ? 尊敬してるよ」
「……えへへ」
カミーラがはにかんで、ティガが微笑む。
ティガは地球星警備団最前線構築部隊の隊員。
カミーラは随伴兵糧部隊志願兵チーム見習い。
地球単位の危険に対し、地球レベルの案件を処理する部隊が動く。その中には前線で戦う戦士も居れば、戦地の後方で食事を用意する者達も居る。
カミーラは無口無愛想コミュ障の三重苦がありつつも、周囲の人間の誰も彼もが寛容な善性の者達であったことで、失敗続きながらもなんとかティガの助けになれていた。
皆、カミーラを怒らないが、カミーラにちゃんと指導はしてくれる。
そして上手く行ったら褒めてくれる。
だからカミーラは今が楽しい。
それはきっと、ティガの役に立てているから……というだけではないのだろう。
「本当に、他人に教わったことは一度は疑うべきだね」
「?」
「子供の頃から教わってたんだ。シノクニには鬼が棲む、って」
「ああ」
「シノクニから特定の遺伝子を持たない、"乗り越えた"者が出たら受け入れる。
シノクニの者が何かをやらかしても、限りなく人道的な処置を。
遠くない内に消えていくシノクニの者達の最後を、安らかに……
これが常識だと教わってきた。
シノクニに居る人間は、遺伝子的にも別物だから、そう思えと。
善人であることを期待してはいけない、でも同じ人間のように扱えと。
年間統計や遺伝子の研究データを見せられてきたんだ。
そうして僕は、"シノクニには救えない人間しかいない"という話を信じていた」
「ええ、そうね」
「気を悪くしたらごめんね、チィちゃん」
「? 事実だと思うわ。そういう土地だと思う」
「……」
「そして……私は……そこの出の人間。
ティガの後押しがなかったら。
私がどこかで一度でも適当な仕事をしていたら。
周りの人達は私に、きっと今みたいに接してはくれなかった」
カミーラは特に気にした様子もなくそう言う。
シノクニの内と外の両方を見て、カミーラは外の人間の善良さと、命を慈しむ善良さがありながら他者の安寧のために怪獣を倒そうとすることができる強さを見た。
カミーラは明確に地元の人間を過小評価していたが、それを差し引いてもシノクニの内側と外側には明確な民度の差が存在していた。
ティガは偏見を恥じ、カミーラは偏見を肯定している。
外の人間なのに内の人間を肯定するティガ。
内の人間なのに内の人間を否定するカミーラ。
不思議な逆転に、カミーラは首を傾げていた。
ティガの語り口に混ざるなんらかの意図が、カミーラにはよくわからない。
「その偏見を……僕の瞼にかかる闇を晴らしてくれたのは君だ」
「え?」
「正直に言えば、僕も本心では君にあまり期待はしてなかったと思う。
だから君に何をして欲しいとも僕は言わなかった。
そうしたら君は自分から進んで人の助けになることを始めた。
危険もある僕らの戦いに付いて来てくれた。
皆の未来のために。
一日二日で飽きるでもない。
ずっとそれを真摯に続けてきた。
君は皆に認められる素晴らしい女の子で、僕はそれに感動を覚えたんだ」
「え、あ、いや、その……そうね」
「今でも昔の僕と同様の偏見を持った人間は多い。
遺伝子に絶対の悪性と反社会性があるんだ、ってね。
でも違う。
君は違うんだ。
君は
「……そういう私が、好ましい?」
「もちろん」
「ふふふ……そうね……よし……頑張らないと」
「無理は駄目だよ」
「ん」
"できるだけあなたの近くに居たかっただけ"なんて、今更言えやしない。
カミーラはティガに褒められるのが嬉しいから、そのちょっとの勘違いは正さない。
「君が教えてくれたんだ。人間は誰だって、自分自身の力で光になれるって」
「そ……そんなこと……別に……」
「そんなことあるって! あるある!」
真っ直ぐなティガの目を見ていられなくて、頬を紅潮させたカミーラが目を逸らす。
「……私は。
何も、何も持ってなくて。
何もできなくて。
何の価値もない女で。
ずっと、そう言われてて。
今でも、そう思ってて。
でも……その……ティガが……
ティガが、褒めて、信じてくれるから、頑張れて……
いつも頑張ってるティガに、何かしてあげたくなるの。
だから私が頑張れるのは、それはティガのおかげで……
ええと、つまり……いつもありがとう。うん、いつも優しくしてくれて、ありがとう」
その言葉はたどたどしくて、口を開く前に言いたいことが何も整理できていなくて、相手を褒めたいのについ自虐に走ってしまう悪癖が出ていて、声量が小さく発音がハッキリしないためところどころが擁護できないほどに聞き取り辛い。
それでも、伝わるものはある。
ティガは急かさず、茶化さず、聞き返さずに一言一句を正確に聞き取り、雲の微笑みをそこに湛える。
「ありがとう。チィちゃんのおかげで、僕はいつだって光になれる」
「う、うん。うん、うん……」
褒められれば褒められるだけ、大好きが止められなくなりそうになる。
彼の気持ちを受け止めるたび、指先まで血が巡ってぽかぽかとした気持ちになる。
彼がいればもう他に何も要らないと思えるくらいに、カミーラはティガが好きだった。
ふと、カミーラは気付いた。
カミーラが出会ってからしばらくしてから、彼の偏見が拭われたというのなら。
出会った時、まだティガの中に偏見が残っていたというのなら。
何故あの日、彼はシノクニのどこかの声を聞き届け、助けを求めるシノクニの人間を迷いなく助けに来て、偏見があったにもかかわらず、カミーラという少女を救い、連れて行ったのか。
まあ今が幸せだからいいか、とカミーラは思考を投げ捨てた。
ティガが好き過ぎるカミーラからすれば、ティガをどんな形であれ疑うということ自体精神衛生上よくなかったのである。
「少し歩こうか。このへんの街はチィちゃんもあまり慣れてないだろうし」
「ん……一人で外出とか、しないから」
「そっか。じゃあ、女の子に必要なところ……服屋さんから行こう!」
ティガは忙しい中でも時間を作って、カミーラに会いに来てくれた。
この時代の大英雄の筆頭であるティガの一秒は、カミーラの一秒より遥かに重い。
されどそんなことをきちんと理解せずとも、カミーラは彼との一分一秒を宝石の如く扱った。
彼が特別な地位を持つ存在だから、共に過ごす時間に価値があったのではない。
彼がカミーラにとって特別だったから、共に過ごす時間が全て特別だったから、全ての時間が宝石だった。
二人で服屋に行って、カミーラに似合う服を選んでみた。
同じ味のアイスクリームを買って、同じ味に違う感想を言い合って、公園を歩いた。
海を二人で眺めて、砂浜を走る甲殻類を捕まえた。
森の中、日差しが差すベンチの下、なんでもないことを語り合った。
月夜の下、互いのことを教え合って、笑い合って、歩み寄った。
戦いの後、廃墟になった街で俯くティガの手を引いて、カミーラは不器用に日の当たる場所へと歩いて行った。
そんなことを、世界を守りながら、一年くらい繰り返していた。
ティガはいつだって時間を作って、カミーラと一緒の時間を過ごしてくれていた。
春風の中、花が踊る景色を見て、冗談を投げ合った。
夕立の中、傘を鳴らす雨を見つめて、二人で一つの傘の下にいた。
街路樹が赤に染まる中、カミーラが紅葉よりもずっと赤い顔で少年の手を握っていた。
綿雪が降り積もる中、すくい上げた雪を丸めて、二人と仲間達で雪合戦をした。
戦いは終わりの気配も無いまま、二人は14歳になっていた。
今日もまた、二人は戦いの合間の僅かな時間に心を通わせる。
「僕の名前は接尾系のアナグラムなんだよね。
ゲンティア家はリンドウ花を家紋とする。
リンドウ(Gentia)の頭文字を後ろに回して『TIGA』。
ティガ・ゲンティアです。どうぞよろしく、カミーラさん……というわけですな」
「い……いい、名前だと思うわ」
「ありがとう。チィちゃんの名前も可愛くてかっこよくて好きだよ」
「んっ」
ティガの言動に、カミーラは慣れない。
というか、"好き"が日々大きくなって、どんどん平気じゃなくなっていた。
『勘違いしちゃ駄目』『彼は誰にだって優しい』とカミーラは何度も何度も自分に言い聞かせるも、それでもなお心がふらふらと揺れてしまう。
懸命に平静を保って、カミーラは彼が振った話題に乗る。
「私、自分の名前が好きじゃなかったわ」
そうなんだ、とティガは相槌を打つ。
「好きでもないし嫌いでもない。
記号でしかないと思ってた。
個人を識別する記号、それだけのものだと思ってた」
「うん。それも間違ってない」
「……名前を使ってバカにする人は好きじゃなかった。
バカミーラとか言われてる内は、まだマシだったから。
名前を呼ばれて嬉しかったことなんてなかった。
でも、今は。なんだろう。うん。……名前を呼ばれて、嬉しい時があるわ」
「うん」
「きっとね、誰に呼ばれるかが大事だったの。
どんな気持ちで呼ばれるかが大事だったの。
私を好きになってくれる人。
好意を込めて私の名前を呼んでくれる人。
私の名前を呼んで、私という個人を認めてくれている人。
そういう人達が、私の名前を呼んでくれて……私の名前に価値をくれたんだと、思う」
ティガは、とても優しい微笑みを浮かべる。
雲の微笑みは、カミーラの前でとても優しい色を帯びる。
その微笑みはティガの美点だとカミーラは思っているが、実際のところ、彼からその微笑みを引き出しているのはカミーラだった。
「君はまた、光を見つけたんだね」
「そ、そんなこと……」
「素敵なことだ。
君が見つけた光を、僕もまた道標にできる。
君が素敵な人だから見つけられるのかもしれないね」
「……うぅ」
普段、クールな美女という体で振る舞っているカミーラは、ティガの前だといつもこうして無愛想の仮面を引き剥がされてしまう。
カミーラが顔を逸らして遠くを見て頬の火照りをごまかしていると、そこにいつものように光の者――現代で言う巫女にして勇者――たる、ユザレが迎えに来る。
「ティガ先輩、カミっち先輩、そろそろ会議に集合です」
「あ、もうそんな時間か。ここまでだね、チィちゃん」
「……」
いつもユザレは、カミーラの楽しい時間を終わらせに来る。
ユザレは優れた知性・飛び抜けた異能・神々とも繋がる才能をもって、多くの巨人、特にウルトラマンティガの手綱を握っている。
13歳にして次代の地球星警備団団長に推挙されているほどだ。
生真面目な彼女に手綱を握られることを、ティガも悪く思っていないように感じられる。
カミーラはユザレが嫌いなわけでも、憎いわけでもない。
尊敬もしているし、優しい娘であるがためにむしろ好きだ。
ただカミーラは、ティガとユザレが話しているのを見ると、ほんの少しだけ妬ましかったし、ほんの少しだけ怖かった。
「あの、ユザレ。ちょっと今更だけど。
私にまで先輩と付けなくていいんじゃないかしら。
私よりユザレの方が先に地球星警備団に居たわけだし……」
「先輩はまだ14歳だわ。
皆さんにとっては子供だけど、私にとっては一つ年上の人。カミっち先輩もそう」
「それは、そうだけど」
「ティガ先輩は地球星警備団の先輩だけども……
私にとっての人生の先輩は皆先輩だから。そう心がけているわ」
「まじめ……」
「……ティガ先輩が感染ってない?」
そんな目で見られているとは露知らず、ユザレはティガの影響を受けてきたカミーラを見て呆れつつ、同時に嬉しいという気持ちも抱いていた。
カミーラが日々明るくなっていくことを、友人として素直に喜んでいた。
その心こそ、光の者の気質。
そんなユザレだからこそ、カミーラは友人だと思えたし、妬ましく思っていた。
「先輩お二方も油断召されぬよう。
邪神、ガタノゾーア。
無限の闇と無限の獣を生み出す、海の底の神。
未だその姿を表す気配はありませんが……
最前線のルルイエが落ちたら終わりだと思ってください」
「ああ」
「ええ」
ユザレの聖剣が腰元でカチャリと音を立て、ティガがポケットの中の青銅のスパークレンスを握りしめ、カミーラが拳を握ってふんすと気を引き締める。
巨人の戦士。
人間の戦士。
人間の少女。
皆それぞれすべきことは違うが、向かう先は同じ。
望む未来は同じだ。
闇を打ち払い、この世界に平和と未来を取り戻す。
「ティガ先輩、道すがら読んでおいてください。次回の作戦の叩き台を作っておきました」
「信頼してるよ、ユザ島」
「ユザレ! ユザレと呼んでくださいと! 何度も!」
「わかったわかった、ユザレ。打ち合わせしよ、ね?」
三人で歩き、ユザレとティガの掛け合いを、カミーラは少し後ろから無言で眺めている。
二人で居る時は、赤面しながらあんなにも自然に話せていたのに。
ユザレが来ると途端に、カミーラは二人の会話に入れなくなってしまう。
「何回私が先輩の無理無茶無謀の尻拭いをしてるのか、数えてほしいくらいですね」
「ごめん、ごめんて、ユザレ」
「デート一回でチャラにしてあげますよ? もちろん先輩が全部奢りで」
「そりゃお安い。安くない女筆頭ユザレにしては珍しいね」
「そんな日もありますよ。ふふっ」
カミーラは自分の髪を手ですくう。
黒髪だった。
穢れ果てたように見える黒髪だった。
楽しげに話し前を歩く二人を見る。
陽の光を受けて輝く、白銀の髪だった。
穢れ一つないように見える、光の髪だった。
二人は天の神々、そして空の果てから飛来した光に選ばれた、光の人間。
カミーラとは違う。
カミーラとは違って、二人はお揃いで、お似合いだ。
カミーラですらそう思ってしまう。
ぼそりと、カミーラは呟く。
「……欲しいな……私も……光……」
空を見上げ、カミーラは羨む。
日々空から光が訪れ、一人、また一人とウルトラマンになっていく。
光に選ばれる者達が現れ、地球星警備団に加わっていく中、カミーラはただの人間のまま。
誰も、彼女を選ばない。
昔はそうではなかった。
救われたいだけだった。
助かりたいだけだった。
誰かに手を差し伸べてほしかっただけだった。
そんなカミーラが今は、選ばれたいと思っている。
光にも、ティガにも。
それは本当に些細な、乙女心と言って差し支えない、カミーラの中に生じた生まれて初めての『願い』だった。