夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 森があった。

 木々はない。草もなく獣も虫も居ない。

 緑の欠片もない、無数に蠢く触手の森があった。

 

 2mほどの触手が地面から生え、人間や動物を捕食しようと蠢いている。

 50mほどの触手が海の底から生え、ウルトラマンを捕食しようと蠢いている。

 空を流れ、大気に満ちる闇を土壌とし、空中の何も無いはずの場所から触手が群立する。

 それは侵略する闇の世界。

 外宇宙の理そのもの。

 世界を侵す、世界を陵辱する暗黒の法則。

 それが森のように見えるだけのものだった。

 

 風が吹くと、触手の合間や触手の穴を通り過ぎ、音が鳴る。

 ただの音のはずだ。

 それが声に聞こえてくる。

 正気であればあるほどただの音に、狂気の側に近付けば近付くほど声に聞こえる、風の音。

 

『いあ いあ いあ いあ いあ』

 

 その合間に、何かが見える。

 空を飛ぶ肉の球塊。

 目玉が17個ある虫。

 貝殻のような甲殻でその身を包んだ強酸のスライムのようなもの。

 かつて人間の死体であったはずの、溶けた肉と固形化した体液の異形。

 

 それらが踊っている。

 人間には絶対に理解できない"楽しい"を表すように踊っている。

 踊って、踊って、踊って、踊って。

 踊る度に肉が潰れる。

 踊る度に闇が吹き出す。

 踊る度に肉と肉が溶けて混じり合い、大きくなり、巨大な獣になっていく。

 

 その体の節々から音が鳴り、それが声に聞こえてくる。

 肉が潰れる音、肉が溶け合う音、奇形生物が鳴らす羽音、全てが声に聞こえてくる。

 正気であればあるほどただの音に、狂気の側に近付けば近付くほど声に聞こえる、風の音。

 

『いあ いあ いあ いあ いあ いあ いあ いあ いあ いあ』

 

 闇の中から、巨体が這い出る。

 地に這い出るは『ゴルザ』。

 空に這い出るは『メルバ』。

 やがて新型の、地球の鉱物を取り込んだ超高硬度怪獣『ガルラ』まで混じり出す。

 それらの合間を、疾走する、あるいは飛翔する『ゾイガー』が埋める。

 その更に残った僅かな隙間を、無限の闇が埋めていく。

 

 怪獣の洪水だった。

 闇の洪水だった。

 雲の上から地面までひと繋がりで、地平線の右から左までひと繋がり、そのくらいの巨大な闇の壁……いや、壁に見えるだけの闇と怪獣の大洪水。

 大陸すら容易に飲み込むであろう、星喰らいの闇だ。

 闇は超高密度の破滅的エネルギーであり、その中に怪獣がぎっしりと詰まっている。

 星一つ程度の総力では敵うはずもない、宇宙規模の邪神の脅威が在る。

 

 地球星警備団の現地防衛戦力がそれに対抗する。

 空中に滞空する空中戦艦、空中要塞が数え切れないほどの荷電粒子砲を放った。

 それは闇に飲まれ、闇の表面を剥がすことすら叶わない。

 

 地上に並べられた千を超えるレールガンが火を吹き、一つ一つが精密狙撃という前提の、虎の子のレアメタル弾頭を一斉に発射した。

 ゴルザが破壊超音波を、メルバが破壊光線を、ガルラが消滅光線を放ち、それらを消す。

 怪獣は闇を撒き散らし、闇が怪獣を強化し、相互にそれらは高め合い、この星の全ての光を消し去らんと進んでいく。

 

 ここまでの攻撃を陽動とし、人間達は空間転移装置で闇の中に反物質爆弾を出現させた。

 威力は原子力爆弾の数万倍。それが十数個、闇の中で起爆する。

 その瞬間、それら全てを、闇の中で何かが食べた。

 指揮官級の怪獣か。怪獣を超えた何かか。それが、起爆した反物質爆弾の光を捕食する。

 ケタケタケタと、歯が打ち鳴らされる音がした。

 

 音がする。

 声のように聞こえる音が。

 声ではないはずの音が。

 声に、聞こえる。

 

「くそったれが」

 

 攻撃を指揮していた男……名もなき軍人のリーダーは歯噛みする。

 平和な時代になったはずだったのに。

 この星はずっと皆が笑える世界になっていたはずだったのに。

 戦争も紛争も卒業して、人間同士で争うこともなくなって、皆で手を取り合って、次の時代に進んで行けるはずだったのに。

 そこに、この『闇』が降ってきた。

 

 存在価値の無い軍として、ずっと訓練をしてきた。

 仕事ねーな、と皆で笑い合った。

 でもいつかどこかで守るための力が要るかもしれない、と頑張ってきた。

 その結果がこれだ。

 闇に対して何もできない。

 何一つ歯が立たない。

 彼らがずっとずっと積み上げてきた何もかもが、無価値になっていく。

 闇に無価値にされていく。

 彼らの人生にあったはずのあらゆる光が、闇によって消し去られていく。

 

 彼方より来たる闇を見た人間の、心が次々と折れていく。

 

 されど。彼方より来たのは、闇だけではない。

 光を纏った無数の巨人が、空の果てより飛来した。

 巨人達が解き放った光が一瞬、闇の洪水をその場に留める。

 その一瞬で地の神、天の神が動いた。

 闇の侵攻方向に、神樹ギジェラが無数の光の樹を立て、そこに天之御中主神が光の炎を灯し、天地の神の力によって光の防衛ラインが構築される。

 

 光が、来たのだ。

 

『通常戦力部隊は下がれ!』

 

「……ウルトラマン!」

 

 それは数え切れないほどのウルトラマン達。

 光の巨人。

 希望の光。

 ざっと数えても50は超えていて、それぞれが膨大な光を持っていた。

 神の闇が怪獣群を強化するように、神の光は巨人達を強化する。

 彼らが一斉に腕を十字に組むと、そこから星を貫通する威力の光線が放たれ、闇の洪水の先端――全体の1%弱、1000平方メートルほどの範囲――が吹き飛ぶ。

 そして、怪獣達の姿がようやく露わになる。

 

 「瓶にぎゅうぎゅうに詰められた虫のようだ」と、軍人がつぶやいた。

 

 ウルトラマン達が立ち向かう。

 光線がメルバを撃ち抜き、墜落させ、約5万tの墜落に大地が揺れる。

 ゴルザの豪腕に押されたウルトラマンの腕が折れた。

 ティガを真似したウルトラマンの必殺光線が、地球の鉱石を奪い変質させたガルラの強固な表皮に弾かれる。

 人々を守るため相打ち狙いのウルトラマンが捨て身の攻撃を仕掛け、ゾイガー一体を倒すもその場で動けなくなるが、その周囲を無傷のゾイガー五体が囲む。

 怪獣が死に、ウルトラマンが倒れ、空中の戦艦が落ちていく。

 

 あっという間に、戦えるウルトラマンの数が減っていく。

 

『撤退だ! 撤退! ウルトラマンが援護してくれる! 市民を収容しつつ撤退!』

 

 ウルトラマンが負傷したウルトラマンや、人間を助けながら撤退する。

 軍人達もそれをサポートしつつ、ウルトラマンの巨体が見逃しがちな瓦礫の合間の怪我人などを見つけ、救助していく。

 撤退していくウルトラマン達の代わりに数十体の新たなウルトラマン達が参戦したが、そのウルトラマン達も時間稼ぎにしかならない。

 

 そうしてまず、一つの街が飲み込まれた。

 草も虫も獣も死んでいく。

 木々が屍肉が、異形に変わっていく。

 建物が踏み潰され、公園の遊具が、子供達が笑い合っていた学校が、友達と歩いた通学路が、家族との思い出のある家が、父に貰った自転車が……誰かにとって大切なものがなくなっていく。

 怪獣に踏み潰され、怪音波に砕かれ、闇に飲まれて消えていく。

 

 それら全てが、人間に光をもたらすものであるがゆえに。

 

 ウルトラマンの一人が、泣きそうな声を漏らした。

 

『クソッ、私達の街を……私の育った街を……!』

 

 今の地上に溢れている、特筆することもない、なんてことのない日常の一幕だった。

 

 

 

 

 

 そして、いつものように、ティガ達はその戦場へ駆けつける。

 地球の裏側であった戦いの援護に行って、そこで勝って、現文明の最速機に乗り返す刀で地球を半周して駆けつけたのである。

 休みはない。いや、あるにはあるし、ティガは休んだと言うだろうが、それは常識的に見れば休息だなんて言えない程度の短時間でしかなかった。

 それでも戦うしかない。

 それでも勝つしかない。

 誰も彼もが戦っている。

 彼らは希望なのだから。

 

 ティガ達より休んでいない戦士など何千人もいる。

 戦ったことのない人間すら、隣に生きる誰かのために戦っている。

 シノクニを除けば、誰も彼もが今の戦いを他人事だと思っていなくて、自分達の世界を皆の力で守ろうとしている。

 休んでなんていられるわけがない。

 

 ティガは臨時作成前線基地とも言えるテントの集まりの一つの内で、神の光を浴びていた。

 少女の姿をした神の名は、天照大神(あまてらすおおかみ)

 最近ティガも正式な名前を覚えた、現在天の神群において最新参にカテゴライズされる神であり……時代の神々の筆頭候補であるという。

 

 アマテラスは太陽神。

 多くの神話体系において主神に数えられる神性である。

 その権能の多くは『照らす』ことであり、神罰の象徴である雷や大火なども使えなくはないが、その本質は恵みをもたらす陽光だ。

 その光に当てられれば、心臓に穴が空いた人間すら立ちどころに傷一つなくなるだろう。

 アマテラスの本質は破壊ではなく祝福であり、宗教において人間の信仰を集める主神に求められるもの―――『人間を救う何かを与える』というものなのである。

 

 そう、つまり。

 神の恵み以外の応急処置がもう何もかも効果を見込めないほどに、ティガはボロボロだった。

 体の内も、外も、あるいはもっと奥にあるものすらも、ボロボロだった。

 

『これでおそらく少しは マシになります』

 

「ありがとう、アマテラス。どうか後方に下がっていてください」

 

『うん』

 

 アマテラスが消え、ティガはテントの中で深呼吸を何度か繰り返す。

 

 そこに、カミーラが入って来た。

 

「食事を作ってきたわ」

 

「お、ありがとう……わぁ……蕎麦! 鴨のお肉とネギが入ってる! でっかい!」

 

「一番頑張ってる人には暖かいご飯を食べてもらわないといけないもの」

 

 がつがつと蕎麦を食べ始めるティガを見て、カミーラは安心したように息を吐く。

 

「……よかった、気のせいだったみたい」

 

「もぐもぐもぐ……ん、にゃにが?」

 

「今日のティガが一瞬、なんだかとても弱々しく見えた時があったから、心配だったの」

 

「ふっふっふ。僕は無敵のウルトラマンだからね。安心して待ってていいよ」

 

「そうみたいね。だって、ティガだもんね。ティガはいつも強いから」

 

「照れるなー。チィちゃんにはかっこいいところしか見せたくなくなっちゃうよ」

 

「大丈夫よ。ティガにはかっこいいところしかないもの」

 

 ふふふ、あはは、と二人は笑い合う。

 空気が柔らかく、暖かかった。

 ティガの負けられない理由、カミーラの頑張る理由がそこにあった。

 その笑顔のためなら、なんだってできる気がした。

 

 ティガは食べ終わり、立ち上がり、そして。

 

「ごちそうさま。よし」

 

「―――え」

 

 カミーラを、抱きしめた。

 

 10秒か、20秒か、そのままそうしていた。

 

 ティガは何も言わず、カミーラは思考のブレーカーが落ちている、そんな沈黙の時間。

 

 抱きしめていたカミーラを、ティガは優しく突き放し、離れる。

 

「よっし、エネルギー満タンだ。ありがとうチィちゃん。これでまた三分戦える」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「じゃ、行ってくるね」

 

「……いってらっしゃい! 無事に帰って来てね!」

 

 ティガはいつも光だった。

 カミーラはそれに照らされるだけ。

 みんなみんなティガを頼り、どうしようもなくなってからティガに任せ、世界の命運をティガに預けていく。

 そんなティガをダーラムとヒュドラが助けていく。

 カミーラはその脇役で、大切なたった一人も、優しくしてくれる仲間にも、何もできない。

 傷だらけになって帰って来る彼らを待ち、美味しいご飯を出すことくらいしかできない。

 

 光が欲しいと、カミーラは思った。

 

 自分のためではなく、彼のために。

 

 

 

 

 

 カミーラを置いてテントを出て、少し歩いたところの物陰で、ティガは倒れた。

 いや、倒れかけた。

 倒れたティガを、左右から二人の男が支える。

 

「ヒヒッ、楽しそうじゃねえか? ああ?」

 

「……」

 

「……ヒュドラ。ダーラム。ありがとう」

 

 抱き止めてくれた二人を、ティガは力強く突き放し離れる。

 それが戦士同士の信頼の証だと思うから。

 ヒュドラは両腕に包帯がぐるぐると巻かれていて、ダーラムは頭に包帯が巻かれていて首が固定具と包帯で処置されている。

 先程までのティガと比べれば比較にならないほど軽症だが、それでも病院で手当してもらうのが妥当なレベルの負傷だ。

 だが、二人の眼光に陰りはない。

 ただただ、戦士のそれである。

 

 ダーラムは止めない。

 ヒュドラは止めない。

 ティガの負担が一番大きいことなど分かっている。

 戦場で背中を預け合っている彼らが気付かないわけがない。

 それでも止めない。

 止めても聞かないことなどとうに理解している。

 いつか死ぬとしても、その時は戦場で共に死にたいと、願っている。

 ウルトラマンティガは負けはしないと、信じている。

 "俺達で世界を救おう"と、誓っている。

 だから止めない。お互いに。

 

 そうして彼らは、地と天の間に在る物ことごとくを飲み込む闇を目にした。

 

「負担は大きいけど、短時間とはいえ休みは入れた。二人共、行けるね?」

 

「ヒャハハッ! 誰に言ってやがる!」

 

問題はない(No problem)

 

 松葉杖をつき歩いて来る者。

 傷だらけで上体を起こす者。

 今援軍に来たばかりの者。

 血が漏れ落ちる包帯を抑え、手当の途中に無理に出て来た者。

 

 それら全員の手の中に、それぞれの色のスパークレンスがあった。

 

 絶望がにじむ彼らの前で、ティガが声を張り上げる。

 

「さあみんな! 顔を上げよう! 大逆転の時間だ!」

 

 それは、希望だった。

 誰もが指針とする光だった。

 夜空に輝き、旅人を導く空の星だった。

 誰の心にも響き、誰の魂にも染み込む、心に希望をもたらす演説だった。

 

「光は闇に負けはしない!

 いつだって光は闇に勝ってきた!

 僕ら人間は光だ!

 これまでも、これからも!

 闇を乗り越え、光として勝つ!

 皆の頑張りがここまで保たせてくれた!

 僕達が駆けつけるのが間に合った!

 だから先に言わせてもらうよ! 皆のおかげで勝てた、ありがとう!!」

 

 ティガが変身し、ダーラムが、ヒュドラが続く。

 

 自然と皆も続いていた。ウルトラマン達がごく自然に、どこから湧いてきたかも分からない力と光を振り絞る。

 

 その光に。

 その背中に。

 その勇気に。

 見ていた誰もが、心から不安を無くしていた。

 

「―――ウルトラマン―――ティガ―――?」

 

 誰かがそう呟いた、その時には、ティガは闇の中に突っ込んでいた。

 

 風速を超えた光速。爆発的な加速で怪獣に反応すらさせずに闇の中に入り込む。

 

『タイマーフラッシュスペシャルッ!!』

 

 そして、光が炸裂した。

 

 宇宙から地球を観測していた古代文明の衛星が故障する。

 地球の何割かを光が照らし出す。

 闇が消え去る。一つ残らず。

 全ての命を傷付けず、全ての闇を消し去る慈悲の光が闇が広がる海へも伸び、後の時代のユーラシア大陸程度のサイズまで広がっていく。

 かくして、闇が優位の戦場は、世界を飲み込む闇と共に消滅した。

 

 しかし、消耗が大きいようだ。

 その上、ティガの優しさは全ての命を傷付けず……怪獣もまた、倒してはいなかった。

 肩で息をして膝をついているティガを狙い、怪獣達が殺到する。

 その先鋒を、空を舞うヒュドラが切り刻んで肉片へと変えた。

 もういい加減、ここ最近の敵の攻勢にはうんざりのヒュドラである。溜まりに溜まったストレスを、思い切り怪獣にぶつけていった。

 

『あークソしんどいしんどい。ヒャハハハッ! 週に12回も死にに来てんじゃねーよ!』

 

 ダーラムが地面を叩き、地面を海へと変える。

 海になった地面の中で怪獣達は溺死し、地面に戻った地球で溺死していく。

 ティガが立ち上がり、ヒュドラ、ダーラムと背中を預け合う。

 

これで終わりか?(Ends with it?) ……砕けろ、邪悪』

 

 途方も無い数の怪獣が、疲弊している三人に殺到した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴルザとメルバが合体した怪獣が次々と生え、戦線が押されていく。

 崩壊した戦線を、ティガ達が支えていく。

 崩壊は目に見えていた。

 もう余裕はない。時間もない。戦力もない。

 ここで負ければ、人類絶滅が急速に近付くことだろう。

 

 遠目に皆の無事を祈るカミーラの目に、ティガ達を援護するべく生身で切り込んだユザレの姿が見えた。

 そこに、カミーラは嫉妬を覚える。

 自分と違う、神に選ばれた子。勇者として並べる女。

 けれどすぐに嫉妬よりも大きな心配を抱き、ユザレの無事も願い始めた。

 既に無数に立っていた神の樹は腐り、神の炎は錆びて朽ち果てていた。

 

 カミーラはただ、皆の無事を祈る。そして、自分にできることを探す。

 

「光が」

 

 もうできることは何もない。

 それでも探さずには居られない。

 あそこに駆けつけて皆を助けたいと……そう思う自分を止められない。

 

「光が欲しい」

 

 ティガが傷付くのをもう見ていたくない。

 彼を近くで守りたい。

 大切な人を傷付ける戦いを終わらせたい。

 人を救う光の近くで寄り添いたい。

 この闇を許せない。

 ティガの影響で彼女の中に芽生えた光の欲求が、どんどん大きくなっていく。

 

「私を照らしてくれた人に、光を返したい……そのくらいの光でいいから、あれば……」

 

 そして。

 

 『光』は、彼女を選んだ。

 

「お、おい!」

「見ろあれ!」

「『光』だ……」

「嘘だろ、このタイミングで!?」

「記録装置回せ!」

「生まれるぞ……『新しいウルトラマン』が!」

 

 宇宙の彼方から飛来した大きな光が、眩しくもなく目を焼きもしない滑らかな光が、カミーラの目の前で静止した。

 その光は黄金。

 白銀のティガと対になる光。

 

「え……あ、あなたは……」

 

『私は光。今よりはあなた。此れよりは希望』

 

「え」

 

『あなたを見ていた。

 あなたは強き者ではない。

 強きは男、強きは巨人、強きは怪物。

 それがこの星のルール。

 しかし、あなたは弱い。

 十代半ばに届くか届かぬかという少女。

 されどいつだって、神に見初められるのは無垢なる少女であると言う』

 

 記録していた者達は少し驚く。同化の際、ここまで饒舌だった『光』は例がなかったから。

 

『だから、あなたを選んだ。

 ……こんな少女の想いが大切な人と世界を救ってしまうなんて、素敵じゃないですか?』

 

 『光』の口調が、少し砕けて。

 

『少女が勇者に相応しい、なんて思ってませんけど。

 少女が勇者であれば、巨人であれば、とは思います。

 ……どうかその想いを真っ直ぐに。

 いえ、間違ってもいい。

 どうか、最後まで後悔しない選択を。その短い命を走り切ってください』

 

 カミーラの中に、溶けていった。

 

 

 

 

 

 その時。

 ティガを囲む怪獣を倒し、ティガを助けたのは、ヒュドラでもダーラムでもなかった。

 白い体皮に黄金のラインが走る、誰も知らないウルトラマンだった。

 

『……チィちゃん?』

 

 ティガのその言葉に、そのウルトラマン――ウルトラウーマン――は、嬉しそうにする。

 

『あなたはいつも、私を誰より速く見つけてくれる』

 

 ヒュドラが察し、ダーラムも察した。

 最前線で、四人のウルトラマンが並び立つ。

 あの日三人と一人で交わした誓いを、今此処に。

 三人と一人で……否、四人で。

 世界に平和をもたらす光と成らんとする。

 

『……愛の力ってやつかぁ? ヒヒヒ。たまげんねえ。いや、すげーわ、ヒヒッ』

 

最高だな(Very Good)

 

 カミーラが氷のような光を振りまくと、それが戦場で追い込まれていたウルトラマン達に、ガラスに降った雪のように張り付いていく。

 皆に張り付き終わってから数秒後、戦線が押し上げられ始めた。

 

『こいつは……他者強化!? 他人に自分の光を取り憑かせて強化してんのか!』

 

『光を通して指示を出すわ。

 ティガの思考から私が指示として皆に伝える。

 皆、ティガに合わせて! 一番強い戦士を最大限に活かして、勝つのよ!』

 

 一も二もなくウルトラマン達は頷いて、カミーラの指揮に従い始めた。

 

 カミーラは自己評価が低く、ティガと出会い、ティガを見て光に至った。

 彼女は自分のことだけを考えるということがない。

 むしろ自分以外の者のことばかり考えている。

 あのウルトラマンは猪突猛進、あのウルトラマンは優しく防衛に長ける、ヒュドラは最速、ダーラムが最硬……一人一人の個性をよく見て、それを重んじた指揮ができる子だ。

 誰かの長所を光と見て、自分と比べてその長所を明確に見ることができるカミーラは、自己評価の低さゆえに他人を活かすすべに長ける。

 

 『誰よりも他人を愛する才能』。

 それこそが、地上最強の光であったティガが「僕を光にしてくれる女の子」であると、カミーラを手放しに称賛してきた理由だ。

 自分を愛するのではなく、他人を愛する。それによって己を定義する。

 他人を愛する才能が誰よりもあるカミーラは、不器用で無愛想だけれども誰より献身的になることができて、誰よりも他人を使う才能があった。

 

 ゆえに、戦場の味方全てを操ることで、ティガの戦力を10倍にも100倍にもできる。

 頭が良いからではなく、他人を愛しているがゆえに、最高の采配者となれる女。

 ティガの仲間に必要だった、最後の一人。

 彼の白銀を輝かせる黄金だった。

 

 敵側の、ゴルザとメルバとガルラが融合した怪獣が、口を開く。

 周囲の闇がその口に集まっていく。

 攻撃に使われた闇を集めて撃つ、環境利用収束攻撃の一種のようだ。

 ティガが叫ぶ。

 

『あれを撃たせるな! さっきはあれで大勢やられたんだ!』

 

 カミーラは頷き、"できる"がゆえに、それと同じことをした。

 周囲の光、ティガが使い終わった光の残滓を集める。

 最強のウルトラマンの光を集めて、自分の中に溜め、融合し、昇華させ、強大な一つの光の塊にしていく。

 集めて、集めて、集めて、集めて……そして、放った。

 敵よりも一瞬速く撃ち、発射直前の口に命中、膨大な光と闇を怪獣体内で爆発させ、合体怪獣を体内から爆発させた。

 

 ティガはぽかんとして、思わず笑ってしまう。

 そして、思い知るのだ。

 もうカミーラ・チィグリスは、自分が守ってあげるだけの女の子じゃないのだと。

 

『周囲の光を集めて、利用する力……

 他人の力を継承する能力のロジック……

 他人の光と自分の光を合わせる力……

 ははっ、僕よりチィちゃんの方が、ずっと英雄……いや、勇者っぽいや』

 

『そんなことはないわ。私のヒーローは……ずっとあなただから』

 

『……こりゃかっこ悪いところ見せられないな。行こう!』

 

『ええ』

 

 白銀のティガを白銀の光が包み、カミーラの白を黄金の光が包む。

 放たれた二人の合体光線が、また数体の怪獣を消し飛ばした。

 

 カミーラがウルトラマンの光を得た時点で、もうこの戦場の勝敗は決していた。

 戦いの天秤は一気に傾き、ティガ、カミーラ、ダーラム、ヒュドラが更にそれを傾ける。

 今日もまた、光が勝利するようだ。

 

 少し離れたところで怪獣を切り倒していたユザレが、ぐっと拳を握る。

 カミーラに"よかったね"と心中で賛辞を送る。

 そして、気付いた。

 何気なく、気付いてしまった。

 

「……ホワイトカミーラ?」

 

 白いカミーラを見て。

 

「ホワイトカミーラの花言葉は……『危険な恋』、だったっけ」

 

 少女は何気なく。

 

 『運命の中身』を、口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで打ち上げである。

 全員ボロボロだ。

 最後に参戦し、ティガに守られていたカミーラだけが軽傷である。

 全員が最前線で戦い、絶望的な戦いに勝ったのだ。

 こうもなるだろう。

 されどそれと引き換えに、今日も世界は守られて、今日も彼らは笑っている。

 

「「「 乾杯! 」」」

 

 やんややんやと皆で騒ぐ、ダーラムが持ってきた豚の肉のバーベキューが始まった。

 

 わいわいとくっちゃべりながら、ユザレはティガに大事な話題を振っていく。

 

「正式に私達がウルトラマンの小隊として認められました。権限大分増えましたよ」

 

「そうなんだ。書類よくわかんないからユザ島に任せていいかな」

 

「ユザ島ではないですがいいですよ。あ、正式にチーム名は決めないといけないそうです」

 

「名前かあ……まだ決まってないんだよね……僕らのチーム……」

 

「じゃ、私が案を出してもいいですか?」

 

 いいよ、とティガが言い、では、とユザレが名前案を出す。

 

「ダーラム(Durham)からRを抜く。

 ヒュドラ(Hýdrā)からRを抜く。

 カミーラ(Camela)からEを抜く

 ティガ(TIGA)に三つの文字を合わせて……

 TRIGER(トリガー)なんてどうですか。『チーム・トリガー』で」

 

「スペル揃ってねえぞ。ヒヒッ」

 

「そのくらいの個性はある方がいいわ。どうです? ティガ先輩」

 

 うんうんと、ティガが"それすき"と言いたげな顔で頷いている。

 それをカミーラがじーっと見ている。

 どうやらティガの好みに対する理解においては、まだユザレが一番のようだ。

 

「ユザ島のセンス好き……採用!」

 

「知ってました。ユザ島ではないですが。

 採用者がティガ先輩で提案者が私な時点で出来レースでしたね、ふふん」

 

「ヒャハハ! 無効ー! 贔屓は無効だぁー!」

 

黙ってろ(Be quiet)

 

「ダーラムくん!? オレに辛辣じゃねぇ!?」

 

 手を重ねる。

 ティガが手を出し、カミーラが重ねて、ダーラムが重ねて、ユザレが重ねて、ヒュドラが重ねて……今度は、五人で。

 五人の勇者で世界を救う誓いを立てる。

 その筆頭は、光の勇者ウルトラマンティガ。

 されどユザレはティガだけでなく、この場の全員を信じている。

 

「世界を救う引き金はあなた達が引くと信じます。

 あなた達ならできると、心から信じられます。

 未来を任せます。

 全員で帰って来てください。

 一応言っておきますけど……

 世界を救うために死んだりとかしないでくださいね。

 皆さんが命をかけて戦う理由は……またここで、皆で、笑顔で会うために」

 

 皆で、思い思いの言葉を返した。

 

 皆で、改めて誓いを立てた。

 

 より良き未来を、この手に取り戻すために。

 

「じゃー本題始めますか」

「Oh」

「そうだな」

「ティガ先輩はせっかちですね」

 

「え?」

 

 他四人が示し合わせたように頷いて、カミーラが首を傾げる。

 そして、笑った。

 

「誕生日おめでとう! チィちゃん!」

 

「……え?」

 

「シノクニの戸籍調べてきたんだ。君の誕生日なんだよ、今日は」

 

「た、誕生日……? わ、私祝われたことなくて……

 祝われたことがないからいつかなんて私も知らなくて……」

 

「2の節の3の句。それが君の誕生日なんだよ、チィちゃん」

 

「わ……私……その……嬉し……嬉しいどころじゃなくて、ええと……!」

 

「ヒャハハ。オイ、ユザレ、ケーキ持ってこいよ。ダッシュでな」

 

「ヒュドラ。取ってきなさい。あなた速さしか褒められるところないんだから」

 

「あ、はい、すみません」

 

 ユザレの凄みを食らいダッシュでケーキを取りに行ったヒュドラが戻ってきた頃、パーティーの第二部が始まった。

 光に包まれたパーティーだった。

 "楽しい"しか無くて、"幸せ"しかない時間だった。

 

「これ私から。ドレスを何着か、カミーラのサイズには合ってると思う」

 

「いいの? 高そうだけど」

 

「いいのいいの。私が友達に上げたかっただけだから」

 

「……ありがとう。ずっと大事にするわ、ユザレ」

 

 ユザレはプレゼントに、センスのいい華美なドレスを何着か。

 

「ダーラム……?

 ちょっと、何か言って?

 もしかしてバーベキューのために豚を一頭取ってきたの?

 プレゼントは牛一頭ということなの?

 待ってなんで丸ごと一頭焼こうとしてるの、食べろということ!?」

 

 ダーラムは打ち上げの食事用に豚一頭、カミーラへのプレゼントに牛一頭。

 

「これなんだったかしら……切れた時に願いが叶う手首の紐飾り、よね? ヒュドラ」

 

「そーそー」

 

「いやこれ超高分子融体紐じゃ……

 量子技術で作られた分子の重なってる素材よね?

 分子と分子結合が重なってるから物理的に切れないっていう。

 こんなものに願いをかけたら私の願いが一生叶わないわよね……?」

 

「そういうことだよヒャハハハッ! ヒャッハハッ!」

 

「ちょっと……この男……私の誕生日に願いの妨害を……?」

 

「ユザ島」

「ティガ先輩が出るまでもありません、ここは私が。ユザ島は訂正しておいてください」

 

 口では皆最低なヒュドラにあれこれ言っていたが、皆本当は分かっていた。

 そのミサンガのような紐飾りは、白と黒の紐で編まれていた。

 言うまでもなく、髪を連想させる紐で二色を編むことで、ティガとカミーラの髪をモチーフにしているのだろう。

 ティガの白の髪。カミーラの黒の髪。

 絶対に切れない、一生離れない白と黒。

 

「僕からはこれ」

 

「……白銀のティアラ?」

 

「うん。似合うかなって思って」

 

「ありがとう。嬉しい。とっても嬉しい。私……幸せ、みたい」

 

「喜んでもらえてよかった。あ、付けてあげるね。ちょっと髪に触れるけど、失礼して……」

 

「……んっ」

 

 白銀のティアラで額を覆って、カミーラはとても幸せそうな笑顔を浮かべる。

 

 ただそれだけで、彼女のためになんだってできそうだと―――ティガは思える。

 

「生まれてきてくれてありがとう、チィちゃん。君と出会えてよかった。」

 

 ティガが素直な気持ちを口にする。

 

「誕生日おめでとう。来年も祝おうね」

 

 ユザレが友達らしいことを言って。

 

「お前が生まれた日を祝う。それもまた悪くない。俺は自分の意志でそうし続けよう」

 

 ダーラムが珍しく長台詞を言って、皆が驚いて。

 

「あー知らん知らん知らねぇ! ティガみてえな臭いこと言えるかバーカ!」

 

 そして、照れたヒュドラが逃げ出して、皆が笑って。

 

 笑顔の中にカミーラはいた。

 

 幸せの中にカミーラはいた。

 

 こんな日々がいつまでも続いていって欲しいという気持ちと、こんな戦いの日々は終わって欲しいという気持ちの両方が、皆の中にあって。

 

 カミーラを幸せにしたいという気持ちが、ティガの中に確かに根付いていた。

 

 

 




 光を集めて自分の中で融合・昇華させる力が反転すると、ガタノゾーアの闇を取り込んでデモンゾーアになるスキルになります


・ホワイトカミーラ
 ディフェンバキアという観葉植物の一種。
 ディフェンバキア・カミーラという呼称が使われることが多い。
 葉に光差すような白色の模様があるのが特徴。
 しかし光差すような模様をしているものの、『光に弱く』、直射日光に当たると変色して光の模様が失われてしまう。
 より強い光に当たると光ではなくなってしまう光模様の草。
 また、そのままであれば無害だが、内液に毒性があるため、カミーラを傷付けた者はその毒で傷付くことになる。
 近似種の名は『トロピック・スノー』など、その模様を雪にたとえられている。
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