夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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 小規模で散発的な戦いは常時続いていた。

 しかしチーム・トリガーは強く、強いだけに留まらず加速度的に多様性を増し、無数のフォーメーションと連携を獲得していった。

 その一つが変身の継投。

 邪神側が戦力の逐次投入で戦闘を長期化させ、逐次投入を波状攻撃と化し、ウルトラマンの三分を潰しに来る戦略に対する対策であった。

 

 カミーラ、ダーラム、ヒュドラが誰か変身し、誰かの三分が切れたなら次のウルトラマンが変身する。

 それぞれのウルトラマンには通常戦力や他のウルトラマンもつけ、怪獣戦力にぶつける。

 怪獣を小出しにして時間稼ぎをしてくるならば、これで押し切れる。

 戦力が足りないようであればウルトラマンも逐次追加すればいい。

 

 ウルトラマン達に押し切られれば、天地の神の樹と火によって領域を光に制圧される。

 それを嫌がって怪獣を更に多く出せば、逐次投入が継続できなくなり、ウルトラマンの三分を使い切らせる前に怪獣の在庫が尽きてしまう、というわけである。

 計画的に動けば四桁のウルトラマンを容易に動員できる現文明のウルトラマン達は、戦術と戦略という人間の強みを、神と巨人の力を乗せて最大限に押し付けることができるのだ。

 

 ましてここには、ティガが居る。

 ティガを初手で戦わせるのは簡単だ。

 しかしティガを温存しておけば、怪獣側はそれを警戒した進軍にならざるを得ない。

 どんなに怪獣側が有利でもティガが出てくればひっくり返る。

 ダーラムとヒュドラに追い詰められた怪獣側がクトゥルフ系の新顔を奥の手として出しても、ティガが出てくれば即座に負ける。

 奥の手を二体用意しても、カミーラの目、あるいは超古代技術の観測機によって存在がバレてしまえばティガを温存され、先の一体をダーラムとヒュドラ、後の一体をティガに倒される。

 ティガはすぐには出てこないとだろうと油断していたところに、虚を突く形でいきなりティガが出てくればそこで終わりだ。

 

 ウルトラマンティガが居る。

 ただそれだけで、最近指揮官役がすっかり板についてきたカミーラは、いとも容易く戦術的優位を取り、戦う前から戦略的勝利を勝ち取ることができた。

 居るだけで勝てる。

 なればこそ象徴。

 ゆえに光。

 太陽がそこにあるだけで全てを照らすように、彼はそこにいるだけで勝利をもたらすのだ。

 

 ……もっとも、根本的に勢力の戦力差がありすぎて、小規模で散発的な戦いとは言っても人類は楽勝と言える戦力差を作れず、ティガが戦いに出ないことはほとんどなかった。

 多くの戦いは、最後にティガが死闘を繰り広げての勝利となることがほとんどだった。

 それでも、カミーラの指揮のおかげでティガが比較的楽になったことは事実であったが。

 

 桜が、咲いていた。

 

 戦場に咲いていた桜があった。

 綺麗な花を咲かせるまでに30年はかかる桜が何百本と咲き誇っていた。

 それらが蹴られ、踏まれ、散華していく。

 無事に残った桜も真っ黒に染まっていく。

 光を照り返し淡い色を魅せるはずの桜が、闇によって光を奪われ、人々の心を明るくする力を喰われ、真っ黒になって枯れていく。

 

 そんな光景を、まだ戦闘に参加していないユザレとティガが見ていた。

 桜にすら同情と共感を覚え、痛めつけられる桜を見ながら歯を食い縛るティガの横で、ユザレはティガのその顔を見ないようにしてあげていた。

 

「今日もややギリギリですが勝てそうですね」

 

「そうだね」

 

「なんだか、まだ戦いは先が長そうですよね。ティガ先輩もそう思いません?」

 

 ユザレの問いかけに、ティガは真面目な表情で少し考え込む。

 二人きりなら雲のような微笑みを見せる必要のない相手というのは居て、取り繕わなくてもいい相手というのは居て、そういう相手にだけ漏れる言葉もある。

 たとえばおぼろげな、直感が囁く"何か"の予感などがそうだった。

 

「本当に、終わる気配はないのか?」

 

「え?」

 

「こう感じてるのは僕だけかな。

 勝機が見えてないだけで。

 もうとっくに、盤面は終盤に入ってるんじゃ……」

 

「ティガ先輩?」

 

「……いや、冗談だよ。ふっふっふ。仮に冗談で無いとしても気のせいだって」

 

「大丈夫ですか? 疲れてませんか? 休んでも……」

 

「休んで良くなったら休むよ。安心するが良い、ユザ島よ」

 

「ユザレ! ……あのですね。

 不安は後生大事に抱え込むものではなく、吐き出して整理をつけるものなんですよ」

 

「……んにゃ。そうするね」

 

「本当にかっこつけたがりなんですから」

 

 ティガが何気なく漏らした不安を聞くのはこれは初めてではなかった。

 その不安を消し去ってやるのも初めてではなかった。

 不安を拭い去ったティガが、他人のために最悪の事態を独力で覆したのも何度も見てきた。

 その前提を踏まえた上で、ユザレは知っている。

 ティガの嫌な予感は、ほぼ確実に当たるということを。

 

「何かあったら私が助けに行きますよ。約束です」

 

「ユザ島……」

 

「Not ユザ島」

 

 ユザレは呆れた表情で頭を掻く。

 

 そうしてその日も、鬼神じみた無双を見せたティガにより、本隊と伏兵のゾイガー達による完璧な奇襲は、より完璧な対応に粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダーラムはルルイエの街を歩いていた。

 彼は根っからの戦闘者である。

 殺害よりも戦闘を好み、全力の攻撃の結果として殺害があるタイプである。

 仕事は戦闘で趣味は鍛錬。今は平日も休日も殺し合い、その合間に鍛錬ばかり。

 あまり器用に生きられていない自覚はあった。

 

 そんなダーラムだが、世界最高の発展と言われる街、ルルイエにチームの拠点を移したことで仲間から街のことを聞く機会が増え、話題合わせのために珍しく街に降りてきていた。

 どうせダーラムはノリのいい会話などできない。

 これは気持ちの問題である。

 仲間に合わせようとする気持ちくらい、ダーラムにもあった。

 ダーラムが何も喋らなくても内心を悟って会話してくれるティガ、最近はティガ同様の察しを見せてくれるユザレがいるから、なおさらに。

 しかし現在のダーラムの様子は、たいそう失敗の雰囲気を漂わせていた。

 

 海は黒い。闇に汚染され、生きている通常の生物など誰も居ない。

 空は明るいが、それはルルイエが小山のような島の中にあり、岩の鎧に覆われた岩中都市だからである。

 島の内部では光を放つ真菌の一種が壁の内側にびっしりと貼られ、太陽の代わりを務めている。これらは光を放つ過程で電力を産み街に流す、永久機関じみた人工生命だった。

 しかし島の外側の空はいつも薄暗い。

 この地域は『闇』の端の端に触れており、空に雲が浮かぶことはなく、真っ昼間でももう太陽が照らし切ることが難しくなっていた。

 明るいのは、この街のようなシェルター型の街だけだ。

 その違和感のせいで、ダーラムにはこの街がどうにも不自然に感じてしまう。

 

 地球の一部地域はとうとう完全無生物地帯や、完全無酸素地帯が出来ているというのに、この街だけは"これまで通りの日常の景色を"というこだわりをもって、踏ん張っているのが分かった。

 

 街の人々にはあまり活気がない。

 修行相手になる野生動物もほとんど見ない。

 疲れ切った戦士達を見ると戦いを挑む気にもならない。

 辛うじて熱意のある街の住人や、ウルトラマン達が頑張って笑うようにしているようだ。

 戦闘基準でしか街を見ることができないダーラムにとっては、ティガ達のように、この街のいいところをたくさん見つけることは難しかった。

 あるのは分かる。

 だが見つけられない。

 ダーラムは自分には戦いしかないということを改めて思い知り、暗い寂しさを覚えていた。

 

「……?」

 

 ぶらぶらと歩いていたところ、ダーラムは見知った少女の背中を見つける。

 それはかの神、天照大神であった。

 アマテラスは何かを見ていて、その視線を追うと、視線の先にはティガとカミーラが居た。

 どうやらデート中のようで、デートをしている二人をアマテラスが見張っているようだ。

 ダーラムは納得するが、すぐにその納得が疑問に変わる。

 

 神は千里眼を持つ。

 神の世界『高天原』からでも、見ようと思えば地上は見れる。もちろんデートもだ。

 『闇』に邪魔されない普通の人間のデートなど、神の眼をもってすれば未来まで含めて一瞬で全てを視聴完了できるだろう。

 神の本体がここに来る理由など何も無い。

 自分の目でデートを見に来る理由など、人間的思考で考える分には、妥当な理由が何一つ思い浮かばないのである。

 

 自分で来た理由が、その目で見に来た以外に思いつかない。

 ならば、"その目で確かめる"という気概で何かを見に来たということなのだろうか。

 首を傾げるダーラムを、アマテラスは振り向かないまま当然のように知覚していた。

 

『力の闘士 ダーラム』

 

 距離を無視して届く神の声―――天啓の一種がダーラムの耳に届く。

 

『あなたも 来ますか』

 

 ダーラムはよく分からなかったが、頷いた。

 二人してこそこそと、デート中の二人の後をつける。

 

 ティガとカミーラがカフェに入り、ティガが椅子を引いてあげるなどの紳士的行動を何気なくいくつも取るのを見て、ダーラムは"やるな"と思う。

 カフェに慣れていないカミーラがメニューを見て、四苦八苦して"ああティガを待たせてしまう"となる前に、ティガが「そういえば……」と自然と話を振り、カミーラが迷いなく好きな味を選べるよう自然に誘導しているのを見て、ダーラムは"流石だ"と思う。

 最終的にケーキをあーんしてカミーラの顔を真っ赤にさせているティガを見て、"強いな……"と思いつつ腕を組んで頷くダーラムであった。

 

『ティガ・ゲンティアこそはこの時代を象徴する存在

 偶然この時代に生まれ

 必然この時代の代表となった

 生きとし生けるもの皆が選んだ人類の総意の代行者

 天之御中主神は判断しました

 人間はこの戦いを経て 悪性を脱ぎ捨て 我々神を超えゆく 善良なるものとなると』

 

 色んな花が並ぶ植物園にティガとカミーラは移動し、花にたとえてカミーラをずっと褒めるティガ、ティガに褒められて褒め返そうとして上手く行かないカミーラを見つつ、アマテラスはダーラムにそんなことを言い出した。

 

『人はあと少しで 種族として到達します

 次の段階 次の人類の形へと

 人が悪と定義するものは

 総体と社会としての人類 その阻害となるもの

 殺人 傷害 窃盗 不義 裏切 終わり 消えゆくもの

 シノクニの人間が眠るように終わる時 その頃にはもう移行は終わるはず』

 

 神々がティガを評価していることは、ダーラムも知っていた。

 幼い神とは言え、その口から出るのは現在の文明への称賛……そして、それに結び付けられたティガへの称賛だった。

 個人と文明への称賛・評価の同義化。

 おそらくは、このアマテラスなる神は、文明への高評価がティガへの高評価にもなり、ティガを好ましく思っているからこそ文明も好ましく思うのだろう。

 まさしく、神の判断基準。

 人間の価値観の外側にある考え方だ。

 素晴らしき個人が人間の価値を見せつければ、そのまま許せなかった文明も許してしまいそうな同一化・同義化がある。

 ゆえにこそ、多大なる称賛。

 

 ダーラムはそれを、()()()()()()と思う。

 ティガはもっと凄いやつだぞと思う。

 そして植物園で転んだカミーラを咄嗟に腰抱きに抱きかかえたティガを見て、"そこだ!"と思いながら立ち上がり、"口づけしろ!"と思いながら拳を握り、何も無かったので無言でそのまま座ってまた隠れた。

 

『私はティガを見守ってきました ずっと』

 

 そうだったのか、とダーラムは思う。

 

『光を操る異能 光との親和性 戦闘の才

 生まれた時から神の知覚に触れる存在の規模

 彼は生まれた時から特別でした

 私は生まれた時から今に至るまで 彼の生涯を見守ってきたのです』

 

 生まれた時から??? とダーラムは思う。

 

『その生涯は平凡にして閃光

 倒すべき"闇"が現れるからこそ生まれたのか

 "闇"が来ずとも生まれたのか

 彼は星が生み出した存在なのか

 それはわかりません しかし

 平凡な時代に生まれたとしても 皆の光だったことは確か

 皆に必要とされる存在として生まれてきたことは確かです

 いえ いずれ主神となるとされる私にこそ 必要だったのかもしれない』

 

 普通に怖いなこの女神、とダーラムは思った。

 

『神とは自然 自然の化身 あるいは信仰の先に立つ者

 人はそれを崇める存在であり また自然の一部である

 人間の中に神の如き者が生まれることもある

 私は天神の最新参 彼は人類最新の現人神

 その光は優しく 強く 穏やかで 救うためだけにあり

 太陽の神として生まれた私は 神としての光しか持たぬがゆえ

 私が持たない光を持つ彼を見守りながら その光に学びを得ていった』

 

 話を聞きつつ"カミーラ……お前……自分からティガの手を握って……成長したな……"とダーラムは感動で口元を抑えていた。

 

『ティガが神々に好かれるのは

 彼が神々にとって望ましい人間の倫理を持っているから

 それを周りにも伝染させていくから

 人が神を敬い 神が人を救い

 人は神を軽視せず 神も人を侮蔑してはならない

 神と人は車輪の両輪であり 天地の上下があるのみ

 彼は神を友と扱い しかし軽視せず 軽んじない

 神に不躾な命令も申し出もせず 礼節をもって神に接し

 されど彼の中の最上の尊敬であり好意である 友情をもって接してもいる』

 

 動物園に入りきゃっきゃと哺乳類を撫でているティガとカミーラを追いかけ、アマテラスとダーラムも動物園に入っていく。

 

『そして私が間違った時 彼がおそらくそれを止める

 人間として それが人間の責任でもある

 彼は神殺しにだって到れる どんな神にも手が届く

 神を殴って止めてあげることができる人間だから

 その拳がきっと 神の思考において間違えた 私を正道に戻してくれる

 私は人の標の光の神 彼が私の標である光の人

 そう 私は 彼に崇められることで 彼に認められることで 神として在れるのです』

 

 ティガとカミーラが二人で密着し、一匹の馬のようなものに乗って牧場を走り始めたので、アマテラスを肩に乗せたダーラムが全力で走ってその後を追った。

 木々で体を隠しつつ、とにかく全力で走る。

 

『そう 私は

 人類が神の庇護を必要とする最後の時代に生まれた

 人を見送るための神 人に最後の光を与えるもの

 原始の時代がとうに終わった後の時代の太陽神

 もう 私を崇めることで 生きていく人間はいない

 彼こそが私に 私が見たい最後の光景を見せてくれる

 私はティガ・ゲンティアが世界を救うその瞬間を

 この目で見届けるために 生まれてきたのかもしれません』

 

 動物園を出てゲームセンターに入る二人を……正確にはカミーラを見て、アマテラスはすっと目を細める。

 

『しかしカミーラという あの女性 彼女を伴侶に選んだのはいただけない』

 

 ダーラムは突然のdisrespect(ディスり)にかなりびっくりしてしまった。

 アマテラスはいつもの表情がよく見えない存在不明瞭のまま、淡々とした語りを続ける。

 

『御覧ください 来ました ユザレです』

 

 アマテラスとダーラムが見る先で、ティガとカミーラがばったりユザレと出会う。

 ティガとユザレが気安いやり取りをして、カミーラに気を使ったユザレがそそくさと消えて、ティガの後ろで服の背中を掴んでいたカミーラが、羨ましそうにユザレを見ていた。

 

『あれは愛憎だというものなのだそうです

 愛する 憎む その二つが分けられない

 愛ゆえに生まれる闇

 愛を光としてのみ扱えない欠陥

 人間がもって生まれた善の機能すら闇に繋げてしまう悪の癖

 嫉妬 劣等感 自己嫌悪 それらに繋がり増やすもの

 それは今の人間が捨て去ろうとしているもののはず なぜそんなものを持つ者を 彼は』

 

 神は不可解なものを見る目で、カミーラに景品の可愛い人形を取ってあげているティガを見ている。

 生まれた時からティガを見守ってきた神だからこそ出る言葉。

 生まれて間もない幼き神だからこそ言う言葉。

 きっとアマテラスから見れば、ずっと優等生だった息子が初めて連れてきた彼女がめっちゃ黒ギャルだったりした気分か。

 あるいは、幼馴染の男がクソビッチを彼女として紹介してきた女幼馴染の気分かもしれない。

 神の感情を人でたとえても正確な例示にはならないのだが。

 ダーラムはゆっくりと、力強く、口を開いた。

 

「そういうものだ。それが人だ。

 好ましいという気持ちを止めることはできん。

 人は魂の叫びを無視できない。

 カミーラはティガが好きで……ティガもまた、カミーラが好きなのだろう」

 

 その時。

 ダーラムは初めて、神が表情に浮かべた感情を、おぼろげながら見た気がした。

 理解は出来ない神の感情を、神性の陽炎の向こうに見た気がした。

 人の"愛"とは、神が尊重するものでありながら、神には無いものなのかもしれない。

 

『私のティガは そのように理解できないものではありません

 その行動は倫理と論理に即し

 決して不合理な間違いをすることはない

 この時代の象徴 人々の希望 神々の寵児

 弱きを知り 弱きを理解し ゆえに強く 強さを学ぶ者

 光を体現し 人が神の先へ 神と並び立つ以上の 次の人の時代を創る者』

 

 ダーラムは首を横に振る。

 

『もっと相応しい相手がいます

 彼にはもっと

 彼の献身に見合うような

 彼の偉大さが似合うような

 彼が頑張った報酬に見合うような

 彼の光に見合うだけの光がある そんな人が』

 

 ダーラムは首を横に振る。

 

『私が』

 

 アマテラスはティガとカミーラを見る。"好き"なるものに焦点を当てる。

 

『私が まだ未熟だから分からないのですか

 愛を知らぬから

 彼女が知るものも知らぬから

 ユザレへの妬みも捨てられない あんなものに なぜ惹かれるのか』

 

 ダーラムは頷く。視線の先で、ティガがカミーラに何かを囁いて、カミーラが赤い顔でこくこくと頷いているのが見えた。

 

『愛憎

 弱き人に 芽生える光

 その弱き人の 闇ではなく

 弱さと闇より 生まれる強さ そして光を駆逐するもの』

 

 アマテラスからすれば、二人の関係は随分と一方的に見える。

 

『それはもうなくなるもの。カミーラもなくなっていくものの一つ』

 

 ティガが照らし、カミーラが照らされている。

 ティガが与え、カミーラが受け取っている。

 ティガが幸せにしていて、カミーラが幸せにしてもらっている。

 アマテラスは一方的な関係を助け合いの関係だとは思わなかった。

 しかし、ダーラムは一方的な関係だとは思わない。

 

 こんな、悪が絶え、善が満ち、それを闇が喰らおうとしている時代だというのに。

 そんな中でカミーラがティガに見つけられ、ティガに愛され、二人で未来に歩んでいくことが……とても奇跡的なことだと、ダーラムは思うのだ。

 

『私は 今の人間が好きです』

 

 本音だろうと、ダーラムは思う。

 神の思考は分からない。

 こうして話してみてなお、神の倫理には理解が及ばない。

 人が頑張れば大枠で理解することはできるかもしれないが、感覚的な共感が無いため本質的に理解することは不可能だ。

 

 三千万年前。それは神話の時代。

 神と人がもっと近かった時代。

 そんな時代でも、神はまだ人の理解が及ばぬ上位の次元の生命体。

 ただし、互いの言葉が届くがゆえに、西暦と比べれば少しだけ意思が通じ合ってはいた。

 

『今の人が好きだから 滅びてほしくないのです

 隣人に優しくすること

 弱者をいじめないこと

 相手を思いやり愛すること

 無意味な争いをやめること

 人間以外の命と共存すること

 得た大きな力を他の生命種のためにも使うこと

 全て出来ている

 全ては神々の夢

 遠き日に人を見て 期待し 見た夢でした

 神の夢は人が叶える 人は正しく歩めば自然とそれを叶えている

 それが摂理

 人は変わりました 長き年月をかけて

 ならば 私も ティガを信じるべきなのでしょうか

 奇跡を掴み 不可能を超え カミーラの運命も 彼ならば変えていけるのだと』

 

 神が穏やかに笑った、ような気がした。ダーラムは、そう感じた。だから笑ったのだと、そう信じることにした。

 

『この時代に生まれてよかった

 私は神々が長らく望んでいた世界の実現を

 きっとこの目で見ることができます

 人が作り上げる

 哀しみなんてない世界を

 微笑みを繋いでいける世界を

 この人類ならきっと いや 必ず それが神々の信頼です』

 

 それは、何万年の悲願なのか。

 何万年の期待なのか。

 何万年の信頼なのか。

 人とはスケールが大きすぎて、人に対してどんな感情を抱いているか、想いの方向性は分かってもその重みと中身が分からない。

 

 だからダーラムは、大雑把に信じてみることにした。

 今も、未来も。

 この人間を愛してくれる神が、人間に寄り添ってくれることを。人間を愛してくれることを。

 今の人間だけでなく、未来の人間もまた、この神様に応えられる人間であることを。

 

『ティガはきっと そんな人達を守るために生まれてきた 運命の光の勇者』

 

 ダーラムは小難しいことなんて考えられないから、神は大雑把に崇めてるし、人間は大雑把に大切にしている。神への不敬などそこにはない。

 そして今また、神への好意の理由が一つ増えた。

 

俺が誇りに思う友だ(My proud friend)

 

 同じ人間のことが好きなら、男も女神も、人間も神も関係がない。

 

 きっと、戦友になっていける。

 

 バカみたいな思考で、ダーラムはアマテラスというよくわからんものを友とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、戦いの日が来る。

 チーム・トリガーが出撃しないわけがない。

 彼ら抜きで守りきれるほど、この世界の守りは盤石でないのだ。

 全身揃ったチーム・トリガーを、大岩の後ろからまたアマテラスが覗いている。

 

 そんな彼女にティガが手招きをした。

 

「アマテラス。どうぞこちらへおいでください」

 

 アマテラスが不思議そうにして、彼らの下に行く。

 するとティガとその仲間達が、一斉に跪き、所作をした。

 それはこれまでティガとユザレしか習得していなかったはずの、神への最大の敬意を表す儀礼であった。

 五人が同様の儀礼を行い、ティガが全種暗記している祝詞を読み上げ、また儀礼に則った所作を行う。

 

 神はアマテラス。

 祭礼者は五人の戦士。

 その形は、まさしく。

 

『崇神祭式』

 

「そうです」

 

 神に無事を願う儀礼。

 神に勝利を祈る儀礼。

 神に加護を請う儀礼。

 古今東西過去未来、どの時代にもどの地方にも存在する、大きな戦いの前に神に祈り、あるいは神に誓う儀礼作法。

 アマテラスにとって、生まれて初めての、自分が崇められる儀であった。

 ティガが万の言葉でアマテラスを褒めるより、遥かに大きな喜びをアマテラスが包む。

 アマテラスは、神の倫理で動くがゆえに。

 

 アマテラスはそれぞれの前に立ち、頭を上げない彼ら五人それぞれに、"言葉の刻銘"による加護を与えていく。

 

『灰雪の勇者』

 

 ユザレに、一つ。

 

『紫風の勇者』

 

 ヒュドラに、一つ。

 

『赤海の勇者』

 

 ダーラムに、一つ。

 

『黄金の勇者』

 

 カミーラに、一つ。

 

『白銀の勇者』

 

 ティガにはこっそりと、一つに重ねて三つ。

 

『その矮小にして気高き命を 勇者と認める 其方らは我が希望を託した 五人の勇者』

 

 その加護は、今の戦場においては気休め程度にしかならないもの。

 生存率を一割も上げることはないだろう。

 けれど、それでも。

 アマテラスは精一杯の力で、自分への敬意を表する彼らに、生存の加護を刻んだ。

 

『我が力は未だ微微なれど

 この僅かな力が 其方らを助けることを願います

 勝利を約束はできなくとも 生還を約束し それぞれのその未来へ幸を』

 

 そして言葉を切り、アマテラスは手を前に差し出した。

 

 儀礼はここまでで終わり。

 人は神を尊重した。その後は神が人を尊重する。それがルール。

 人が神のやり方に歩み寄ったがために、神も人のやり方に歩み寄る。

 

『手を』

 

 アマテラスが前に差し出した手の意味に気付き、驚き、ティガは笑う。

 そうして、ティガがアマテラスの手の上に己の手を重ねた。

 次にカミーラが。ユザレが。ヒュドラが、ダーラムが、手を重ねる。

 重ねた手に力を込めて、皆で誓いの声を上げる。

 

「「「「「 またここで、全員で、笑顔で会うために! 」」」」」

 

 そして、彼方の闇を見つめ。

 

 四つのスパークレンスと、一つの聖剣が引き抜かれた。

 

「チーム・トリガー! Sally Go!」

 

 ティガの掛け声に合わせ、全員が各々の声を上げた。

 

 敵は開幕から全力だ。闇の全力に合わせ、光もまた全力をぶつけていく。

 

 闇を切り裂く銀色の光が、敵味方全ての目に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、彼らは負けた。

 

 決定的に。

 

 絶対的に。

 

 言い訳のしようもないほどに負けた。

 

 ウルトラマンティガ、初の敗戦。

 ……いや、ティガにだけは、誰も勝てなかった。

 ティガ以外の全員が脱落し、全ては壊され、一つの国が闇に飲み込まれた。

 ウルトラマンティガだけが無敗のまま、ウルトラマンティガは敗戦を迎える。

 

 防衛は失敗し、街は放棄され―――ティガの両親含む500名が死亡。『闇』により肉塊化。

 

 その肉塊は後日、別地域で幼い子供達を捕食しているところを発見された。

 

 次世代の主神の祝福により、チーム・トリガーは全員生還したと……記録されている。

 

 

 

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