夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した   作:ルシエド

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第一幕 赤の章
心傷 -トラウマ-


 2019年、1月末。

 ティガダークの参戦から一ヶ月以上の時間が流れた。

 ブルトンの捜索と討伐を当座の目標に設定し、竜胆が仲間との連携と、戦闘者としての正式な訓練を始めてから約一ヶ月。

 ティガダークは強く……は、なっておらず。

 むしろ弱くなっていた。

 

 一月の何度目かも分からない襲撃に、竜胆は対応していた。

 

『うらぁっ!』

 

 ゴモラの顎を、ティガがアッパーでカチ上げる。

 だが一発で片付かないことなど分かっているから、ゴモラの腕による反撃を予測してかわし、腹に追撃のボディブロー。

 更に噛みつきも回避して、鳩尾に肘打ちを叩き込む。

 ゴモラは痛そうにして、咆哮を上げた。

 

 竜胆は暴走しそうになる自分の心を抑え、自分と戦いながらゴモラとの戦闘にも思考を割き、同時に敵の戦力を再分析するという器用なことをしていた。

 ゴモラは古代恐竜。

 その強みはいくつかあるが、警戒すべきは太い足の筋力を活かした踏みつけと、太い尻尾による強力な一振りである。

 馬鹿げた腕力も、鋭利な牙による噛みつきも、冷静に向き合えば対処できないほどではない。

 

 よって、殴る。

 蹴りは使わず、ゴモラの懐に入って殴る。

 ゴモラの腹に密着するくらいの位置で戦えば、踏みつけと尻尾攻撃が飛んで来ることはない。

 小賢しい小細工だが、よく考えた人間らしい創意工夫のスタイルだった。

 

 問題は、ここから仕留めきれないほどに、ティガが弱体化していることだった。

 

(ヤバいか、最近は腕力も落ちて来てる……!)

 

 ティガの右手に発生する闇の八つ裂き光輪。

 巨人の右腕、ゴモラの左腕が同時に互いのボディに突き刺さる。

 八つ裂き光輪がゴモラの体表を裂き、恐竜の腕がティガを吹っ飛ばした。

 絶叫するゴモラの皮膚に深い切り傷が刻まれるが、致命傷にはまだ足りない。

 

 怒り狂うゴモラが、跳ぶ。

 そして前方宙返り。

 恐竜の前方宙返りにビックリした竜胆は頭上で腕をクロスし、防御の姿勢を取るが、ガードの上から落ちて来た尻尾に叩きのめされ、地面に叩きつけられた。

 

 地面を覆う樹海が震え、少し樹海にダメージが入る。

 

『ぐ……そうか、人間と違って、尻尾があるから、前方宙返りすら攻撃になるのか!』

 

 ティガダークは53m、4万4000t。

 対しゴモラは、40m、2万t。

 ゴモラは恐竜で、パワーファイターではあるが、実はヘビーファイターではない。

 軽業も不可能というわけではないのだが、まさかこんな技を隠し持っていたとは。

 ティガが強打のダメージでフラつき、攻撃の痛みに「冷静になれ」「よくもやってくれたな」と光陰極端な二つの思考が走り、竜胆は激情を抑え込む。

 

 弱体化してもまだ、ティガダークは強力なウルトラマンではある。

 だが三年近い激戦をくぐり抜けた他のウルトラマンと比べれば、竜胆に戦闘技術が無いこともあり、相対的に弱者になってしまう。

 バーテックスサイドも、グレート達に対応した戦力であるがために、弱いはずもなく。

 ティガはゴモラ相手に一対一で勝率八割、程度の勝率で推移していた。

 つまり、初戦のように30体怪獣が出てくれば、大体負ける程度であるということである。

 

(冷静に、冷静に……感情に身を任せるな……街を、樹海を、守りながら戦え!)

 

 だが、間違いなく成長はしている。

 戦いの中で闘争心が高まっても、敵の攻撃に痛みを覚えても、暴走の気配はない。

 精神的には間違いなく成長しているのだ。

 まだ闇を乗りこなせてはいないものの、闇を抑え込むことには成功している。

 

 友が、仲間が、くれた心の光がある。光が闇を押し込んでいる。

 心は強くなっている。力は弱くなっている。

 竜胆は強くなっているのに、ティガダークが弱くなっている。

 

(弱体化して初めて分かる。

 明確に弱いのは星屑だけで、その星屑だって油断すればこっちが殺される……!)

 

 ティガはゴモラの尻尾がギリギリ届かない位置取りを選び、攻めあぐねる。

 

「任せて!」

 

 そこに、仲間が飛び込んだ。飛び込んだ勇者が、嵐の精霊を身に纏う。

 

『高嶋!』

 

「てやあああああっ!!」

 

 暴風を具現化した精霊―――『一目連』。

 

 その特性は、竜巻の勢いと力を友奈の拳に与えること。

 友奈の精霊たる一目連のエネルギーは、"核兵器に匹敵する"とたとえ話に使われるほどのエネルギー量を誇る。

 他勇者の精霊とエネルギー量では変わらないが、そのエネルギーが拳撃の威力上昇と攻撃速度に使われており、単体の敵に対する瞬間ダメージでは他の追随を許さない。

 

 『義経』の移動速度強化によって、副産物として攻撃速度や攻撃力を上げる、汎用性の高い精霊使いの若葉とは違う。

 友奈の精霊は、手数を増やすことで極限まで近接攻撃力を高めるものだった。

 

 ゴモラが迎撃に尻尾を振るが、友奈は軽やかに跳んでそれを回避し、拳を引き絞る。

 暴風の激しさと、疾風の速さを併せ持つ拳が放たれた。

 ほんの一息の間に、数百発の拳がゴモラの眉間に叩き込まれる。

 ゴモラの眉間の骨に当たる部分の表面が砕け、ヒビが入った。

 

 怯んだゴモラの眉間に、竜胆は渾身の八つ裂き光輪を投げ込んだ。

 普段よりも遥かに威力を込めた闇の光輪が、ゴモラの額に刺さり、絶命させる。

 

『悪い、助かった』

 

「仲間は助け合いでしょ!」

 

 友奈を踏み潰したいと思う自分の心の動きを抑え、ティガは友奈と共に構える。

 ゴモラを倒したティガと友奈を、ゴモラ一体、ソドム三体、星屑約二百体が包囲する。

 

「!」

 

 ティガはその瞬間、敵の攻撃ではなく、遠方からの仲間の攻撃を見ていた。

 遠方で構える、伊予島杏のボウガンの銃口の先が、こちらを向いているのに気が付いていた。

 最近球子から聞いた、杏の精霊攻撃の特性の話を思い出す。

 とっさに、竜胆は友奈に手を伸ばした。

 

『高嶋、手に乗れ!』

 

 友奈が迷わず手に乗り、竜胆は優しく友奈を手で包み――友奈を握り潰そうとする闇の衝動を抑え――友奈を守る。

 杏の身に精霊が宿り、途方もない冷気が放出された。

 真っ白な吹雪が、ティガも友奈も、彼らを囲んでいた敵も、諸共に包み込む。

 

「―――『雪女郎』」

 

 精霊の名は雪女郎。あらゆるものを凍らせる雪と冷気の具象化にして、死の象徴。

 拡散すれば、星屑をまたたく間に凍死させる威力と丸亀市を覆い尽くすほどの攻撃範囲を実現させることも可能で、収束すれば、その冷気の威力は一気に高まる。

 他の精霊と違い、これは杏の得意分野や精霊との相性上、後衛火力砲台しかできない。

 その代わりに、その攻撃力と汎用性は極めて高い。

 

 杏は敵周りの冷気密度を引き上げ、ティガと友奈の周りの冷気密度は極端に引き下げ、竜胆が友奈を手で包んで僅かな冷気からすらも守る。

 これなら巨人は冷気で倒れず、友奈に至っては寒さをほとんど感じない。

 空間を埋め尽くす猛吹雪は、ティガでも目を凝らさないと敵が見えないほどの密度で、バーテックス達を襲っていた。

 

『凄いな……人間体の目だったら1m先も見えなそうだ』

 

 球子の回る炎の巨大旋刃盤、のような攻撃も竜胆は結構好きだったが、こういういかにもな超強力広範囲必殺技は、それはそれで憧れるものだった。

 友奈が竜胆の手の中でもぞもぞ動く。

 

『氷技かっこいいな……使ってみたいけど無理かな……』

 

「氷技好きって、男の子だね。御守さん」

 

『え、女の子って氷技好きじゃねえの?』

 

「高嶋友奈、個人的意見ですが!

 男の子って女の子よりずっと炎技とか氷技とか好きな気がします、はい」

 

『マジか、タマちゃんと伊予島のロマン砲は"これ選ぶとか分かってるな"って思ってたのに』

 

 バーテックスの陣容は、時期によってかなり左右される……が。

 最近のバーテックスの主力メンツは、かなり杏との相性が良かった。

 訓練でティガとの連携が計画的に成立するようになった最近は、杏の精霊も時たま見られるようになったので、それがよく分かる。

 

 ゴモラは恐竜。

 つまり寒さに弱い。

 ソドムは高熱怪獣。

 なら寒さに強い……と思いきや、実は体温が下がっただけですぐ風邪を引く怪獣だったりする。

 星屑ならばすぐに凍って砕ける。

 しからば、こんな吹雪攻撃をしたらどうなるか?

 

 吹雪が止んだその頃には、凍りついた怪物と、冷気によって弱りきった怪物しか残っていなかった。

 

『……本当にすげえよなあ、相性が良いとはいえ』

 

 友奈と竜胆が、力を合わせてトドメを刺し、あっという間に敵を全滅させていった。

 冷気攻撃は、敵の主力の弱点に突き刺さる。

 この時期のバーテックス迎撃において、伊予島杏は信じられないくらい頼りがいのある大活躍勇者であった。

 

「アンちゃーん! かっこいいよー!」

 

「ゆ、友奈さん! 大声でそんな、恥ずかしいです!」

 

『凄いな伊予島は』

 

「……あ、は、はい。ありがとうございます……」

 

 コミュ力おばけの友奈と、未だに杏と距離が詰まっていない竜胆と、分かりやすく杏の対応に差が出たので竜胆はちょっと悲しかった。

 けれども、納得もする。

 勇者はちょっと寛容で優しい子が多すぎると思っていた竜胆にとって、普通の子な反応をして、自分に怯える杏の対応は、少し安心すら覚えるものだった。

 

 竜胆は預かり知らぬことだが、勇者の初陣においてバーテックスを恐れたのは千景と杏だけだったという。

 恐れとは当たり前の感情だ。

 それを乗り越えられるから勇者である、とも言えるが、だからといって恐れたならば勇者ではないというわけでもない。

 

 杏が見せる"普通の少女らしい"恐れや、たくましい他の勇者とは違う"か弱さ"のようなものを見ていると、竜胆には男の子らしく"守ってやりたい"という感情が湧いてくる。

 なお、竜胆は"いや俺が嫌われるのは当然だろ"が基本思考なので、杏の諸感情に対する悪感情は特に無い。

 

(周りを見る、周りを見る、と……)

 

 杏に対して悪感情を抱いていない竜胆の理性もあれば、こんな些細なことで杏に不快感と殺意を覚える心の闇もあり、竜胆は心の手綱を握りながら周りを見る。

 グレートは珠子と、パワードが千景と若葉と連携している。

 どこも距離が近い。

 どこに援軍に行ってもいい―――そう思考した、その瞬間。

 

 純然たる『幸運』が、ティガの目に、樹海の合間を通る『星屑』の姿を捉えさせた。

 

「―――」

 

 バーテックス側の9割成功する策略を、生来幸薄いせいで本当に少ない幸運を使い切る勢いで、竜胆は幸運にも察知することができた。

 

 その瞬間、ティガは駆け出し。

 ティガが杏の下に辿り着く前に、ゴモラが杏の背後に現れた。

 防御も、回避も、ボウガン使いで打たれ強くもない純後衛型の杏では、間に合わない。

 

「―――え」

 

 樹海化は、神樹の根や蔦が街を覆うことで完了する。

 樹の根が戦いの地盤を作り、その下の街を、時間の停止も合わせて守護するのだ。

 だからこそ。

 星屑であれば、根の合間を通っていくことは、不可能ではない。

 小さな星屑を意図して作ればなおさらだ。

 

 やや小さめの星屑が生産され、それが戦いの最中に樹海の根の下と合間を通り、勇者や巨人に気付かれないように移動し、杏の背後で集合・融合・変異をし、即席ゴモラとして出現した。

 この突然の出現は、つまりはそういうことだった。

 

 戦いの中で進化していった勇者システムは多様な機能を備え、こういった敵戦術などに幅広く対応するため、バーテックスを感知するレーダーシステムも実装している。

 だからこそ。だからこその、先の"包囲攻撃"は行われた。

 ティガと友奈を囲み、杏に精霊を使わせ、その隙に星屑を樹海の合間から杏の背後まで一気に進軍させたというわけだ。

 

 吹雪は多少なりレーダーの精度にも悪影響を与えるし、吹雪が吹いている間は星屑など見えるはずもなく、攻撃中と攻撃の前後は精霊の制御のために杏は端末を覗いている余裕が無い。

 杏に気取らせないための工夫がそこかしこに見えた。

 そう、これは。

 ここ一ヶ月に何度かあった襲撃の中で、ゴモラやソドムに対し"活躍しすぎた"杏に対応した、バーテックスの戦術の『進化』であった。

 杏を殺すためだけの戦術だった。

 

 バーテックスには、生来"厄介な敵個体を封殺するための戦術進化を行う"という、本能的な習性がある。

 

「アンちゃん!」

 

 友奈も遅れて気付き、駆け出すが到底間に合わない。

 ティガが杏の危機に気付いて飛び出してから一秒未満のその刹那。

 杏が状況を完全に理解しきるよりも早く、ティガダークは割って入って彼女を守る。

 

「え……えっ……?」

 

 杏を噛み潰そうとしたゴモラの噛みつきを、腕を盾にして止める。

 ティガの腕に牙が食い込み、杏の命は守られる。

 だが、代償は大きかった。

 

 仲間が殺されるかもしれない、と思った瞬間。

 竜胆の中に"また殺すのか"と怒りが湧き上がり、それが連鎖的に心の闇を励起させた。

 幸か不幸か、それが完全に良い方向に噛み合った。

 

 ティガダークは瞬間的に速度は十倍以上、腕力は十倍以上に跳ね上がり、感情の爆発に沿った暴走が杏を救った。

 暴走したからこその速度であり、その速度があったからこそ杏を守れた、とも言える。

 

『■■■―――』

 

 杏を殺そうとしていたゴモラは、両手両足をティガダークに一本ずつ掴まれ、一本ずつ力任せに引っこ抜かれて、両手足の無いダルマにされた上で、首を折られた。

 ゴモラに絶叫させる時間さえ与えない、瞬間の解体。

 圧倒的な力の差が為す『瞬殺』と、残酷な嗜好が生み出す『必要以上の残酷な破壊』の両立に、杏は思わず後ずさった。

 

「あっ……うっ」

 

 仲間を攻撃されてカッとした、ただそれだけで、暴走する。

 大変問題であり、大変危険である。

 ……一ヶ月前の竜胆は、ここまで低いハードルで暴走はしないはずだったのだが。

 仲間と触れ合うたびに。

 仲間のことを知るたびに。

 仲間に対する好感が積もるたびに。

 それに対して攻撃した存在への抱く"許せない"という感情は大きくなってしまった。

 

 憎悪は人の繋がりから生まれやすい感情だ。

 孤独な人間より、他人との繋がりを持つ人間の方が憎悪は抱きやすい。

 皮肉にも、仲間が増え、仲間との繋がりが増えたことで、竜胆の心の闇が抑え込まれて弱体化してしまい、竜胆の憎悪のスイッチが増えるという極端に面倒臭い事態が発生していた。

 

 ゴモラを惨殺したティガダークの両手から、八つ裂き光輪が発射される。

 何個も、何個も。

 異常な威力と連射力で放たれた八つ裂き光輪が、ティガダークの視界内の二十を超える大型バーテックス達を次々と八つ裂きにしていった。

 

 ティガの足元の杏が、恐ろしいものを見る目でティガを見上げる。

 人間の心の光と闇は相殺されるのか、といえばそうではない。

 過去のトラウマがいつまでも心のどこかに残るのと同じように、心に光が増えれども、心の闇が消えてなくなるわけもなく。

 通常時のティガダークが、心の光で弱体化することはあっても、暴走時のティガダークが弱くなることはありえない。

 

 怪獣を殲滅したティガは、またしても、近場に居た仲間……杏を攻撃しようとして、止まって、踏み潰そうとして、踏み留まって、殴り潰そうとして、自分を止めて。

 自分で自分を止めきれないティガを、一番近くに居たウルトラマンが止めてくれた。

 

『ストップ』

 

 そのウルトラマンは、竜胆を気遣っていたボブよりも先に、ティガを止めてくれる。

 

 攻撃しそうになるティガを、優しく押して吹っ飛ばす。

 ほぼ暴走状態にあるティガはそのウルトラマンにも攻撃しそうになってしまうが、そのウルトラマンはティガの攻撃を見切ってかわし、その腹を再度手の平でぐっと押す。

 優しく押されたティガの腹には痛みすらないのに、そのウルトラマンの腕力があまりにも規格外すぎるせいで、ティガの巨体は軽々と吹っ飛んだ。

 完全暴走状態のティガの腕力と同等か、それ以上かという凄まじい腕力が、ティガに傷一つ付けない優しい心によって行使されていく。

 

『■■■―――!?』

 

 このウルトラマンは"押す"ウルトラマン。

 拳で殴れないわけではない。足で蹴れないわけではない。

 それでも、その性根が優しすぎるために、敵をあまり傷付けない"押す"という攻撃手段を多く選んでしまう、とても優しいウルトラマン。

 で、あるからこそ。

 押されただけのティガダークの体には、痛みすら走らない。

 

 彼の名は、『ウルトラマンパワード』。

 ティガ、グレートに続く、今の人類戦力において戦える三人目のウルトラマンだ。

 

パワード!(Powered!) そっちは任せた!(I'll leave it to you!)

 

『テキノホウ、マカゼルゾ、グレート』

 

ああ、任せろ(I got this)

 

 ティガが大半を消し飛ばした後の残りの敵を任せ、パワードはゆらりと構えた。

 勇者達もパワードではなく、グレートの方と連携すべくそちらに向かう。

 

 パワードは瞳は青く、全身の筋肉はマッシブで、腕には手首から肘までヒレが付いており、カラータイマーの周りにはメーターが付いているという独特のウルトラマンだ。

 そしてその強さの質も、極めて異質である。

 雷と見紛うレベルの超高速移動でパワードに飛びかかったティガを、パワードの手の平が優しく押して、空に舞い上がらせる。

 ティガは飛行能力で立て直し、空からまたパワードに襲いかかるが、パワードは優しく強くティガを押し、傷一つ付けずに黒き巨体を転がした。

 

『……ヤツザキコーリン、ツカワナイアタリ、ショウキ、ケッコウ、ノコッテソウネ』

 

 万年単位の大昔、地球で数々の怪獣を打ち倒した怪獣退治の専門家・初代ウルトラマン。

 彼が地球で無双していた時、彼の腕力は十万トンのタンカーを持ち上げられたという。

 それを比較に使ってみよう。

 なら、パワードの腕力はどのくらいあるのだろうか?

 

 ()()()()だ。

 

 パンチの威力は一億トン、キックの威力は二億トン。

 飛行速度も初代ウルトラマンがマッハ5であるのに対し、パワードはマッハ27。

 信じられないレベルの、規格外身体スペックだ。

 ただしこれはかつてのウルトラマンと比較して、であり、今のウルトラマンの能力であればパワードに圧倒されるということもない。

 

 腕力で勝っているなら、グレートほどの技を持たないパワードでも、ティガの暴走を抑え込めるというのは道理である。

 ティガはまた押されて飛んで、暴走もかなり収まってきた。

 

『オチツケ、ショウネン。オチツキノ、ナイヤツハ、モテナイゾ』

 

 パワードの身体能力はとても高い。が。

 実は、強いイメージを周囲に持たれているかというとそうでもない。

 

 パワードは優しい。

 ケンも優しい。

 そのせいで、拳や足を相手にぶつけて傷付けるという手段があまり好きではなく、攻撃手段がついつい優しく押して吹っ飛ばす、というものになりがちなのである。

 もちろん、パワードは怪獣を倒すことを迷ってなどいないし、光線技で爆発四散させてきた怪獣は数え切れない。

 

 だが、その上で。

 数え切れないほどの命を殺してきたが、その上で。

 パワードとケンの戦い方は、"基本的に誰も傷付けないようにする"という生き方を体現する。

 それは、見方を変えれば、ある意味では。

 パワードとケンの生き方はそれ自体が、『沢山の命を殺した後でも優しい生き方を選んで良い』という、竜胆へのとても優しい応援になるということでもあった。

 

 優しすぎるがゆえに、規格外に高いスペックを最大限に活かしきることができず、最終的にかなり強力なウルトラマン、くらいの位置に落ち着く。それがパワードであった。

 

『ソコマデ、ネ?』

 

『■■■ッ』

 

 パワードが押して転がした時間で、竜胆は自分の中の心の闇と戦い、ようやく止まる。

 暴走した状態から停止状態まで持ち直せたところに、竜胆の成長が垣間見えた。

 止まったティガダークに向け、パワードは祈るように両手を合わせた。

 

『ヘイ、モドッテコイ、モドッテコイ、カモン』

 

 パワードはテレパシー能力を持ち、その能力はこの構えにて一気に効果を引き上げる。

 祈るような構えからのテレパシーと、それによる精神抑制効果は、かつて"地球の警告"とも言われたパワードザンボラーをなだめて返したほどである。

 

『……うっ、くっ……と、止め、られた……』

 

『ヨシヨシ』

 

 なんと、驚くべきことに。

 パワードとケンは、グレートのような技量による制圧ではなく、特殊能力を通した対話にて、ティガダークを鎮めることに成功したのだ

 竜胆の自制力の急激な成長を考慮しても、目を剥くような解決の仕方であった。

 とても優しい抑制であった。

 

『ボブ、テキノイチ、イイカンジ。キョウハ、ココデ、オワラセヨウ』

 

 ティガダークの暴走も終わった。

 グレートと勇者達の巧みな連携により、敵の残りも一箇所にまとめられている。

 そっちを見たパワードは、仲間に声をかけ、無造作に光線の構えを取った。

 あまり敵を殺すという行為に乗り気でないケンが、パワードと一緒に闘争本能を高め、戦意を高めると―――精神の高揚に従い、パワードの青い瞳が、赤く染まった。

 

 パワードの腕のヒレ"パワードスタビライザー"と、カラータイマー周辺にある"みなぎりメーター"。この二つは、光線の威力を高める効果を持つ。

 更には、「何だそりゃ」と思われるかもしれないが、パワードは気功の使い手である。

 気功術により、光線の威力を高める異色のウルトラマンなのだ。

 

 各ウルトラマンの光線技の、威力ではなく、単純な温度を比べてみよう。

 初代ウルトラマンのスペシウム光線は、35万度。

 ウルトラマンタロウのストリウム光線は、40万度。

 ウルトラマンメビウスのメビュームシュートは、10万度。

 ウルトラマンジードのレッキングバーストは、70万度。

 現在ウルトラの星・光の国最高威力の光線技であるM87光線が、87万度。

 しからば、パワードの光線『メガ・スペシウム光線』は何度なのだろうか?

 

 ()()()である。

 

 ここまで来ると、「威力と熱量は比例関係にないだろう」という正論をぶつけても、「いやこれだけの熱量で低威力なわけあるか」という反論が返って来るレベル。

 グレート達がまとめていた敵に、パワードのメガ・スペシウム光線が着弾。

 規格外の熱量により、怪獣・十二星座・星屑が、一瞬でまとめて蒸発した。

 

『うわぁ……』

 

『ヘイ、オワリ』

 

 竜胆は、グレートの最強光線・バーニングプラズマを見た上で、自分の最強技・ウルトラヒートハッグと比べた上で、確信する。

 ちょっと、必殺技の威力の格が違いすぎる、と。

 

「残存している敵は……居ないか。何とか今日も乗り切れたな。竜胆、ちょっと来い」

 

『乃木』

 

「反省会だ」

 

『……知ってた』

 

 これにて、敵は全滅。

 

 樹海化が解除され、竜胆は丸亀城に正座させられていた。

 

「まいったな、タマったもんじゃないぞ、あれ」

 

「本当に申し訳ない……最近暴走してなくて油断してたんだろ、って言われたら俺何も言えない」

 

「待て待て、タマは別に責めてるわけじゃないんだ。ただどうしたもんかなと」

 

 球子に、千景に、友奈に、ボブに、ケン。皆が頭を悩ませる。

 竜胆は正座した状態で、皆に何度も頭を下げていた。

 杏はまだティガダークの残虐ファイトが尾を引いている様子で、若葉は顎に手を当て口を開く。

 

「仲間との交友が深まってくると、仲間を攻撃した敵も許せなくなるのか……

 まいったな。その感情自体は悪くないものだから、私もどう対処すればいいのか分からない」

 

「……ごめん、乃木。本当にごめん。伊予島は特に怖かったろ」

 

「え、あ、あの、その、怖がってないので、目を付けないでくださると嬉しいというか……」

 

「いや本当にごめんなさい」

 

 竜胆は杏に向けて特に深く頭を下げる。

 杏は竜胆が憎いわけではない。ただ、怖いのだ。

 竜胆の過去の所業に対し、嫌悪感を抱く者もいれば、警戒心を抱く者も居て、敵愾心を抱く者もおり、杏のように純粋に恐怖する者もいる。

 

 恐れている相手を好きになることはないし、信じられることもない。

 厳密に言えば、竜胆と杏は、まだ仲間ではないのだ。

 

「竜胆については解決策を考える必要があるかもしれない。だが、そうか」

 

「……?」

 

「お前の憎悪と優しさは、時に同じ所から湧き上がるものなのかもしれないな」

 

 若葉の指摘に、竜胆は目を剥き、千景と球子と友奈が「あー」と声を漏らす。

 

 優しいからこそ、他人想いだからこそ発生する心の闇もあるというのが、人間の心の難しさを如実に表していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 竜胆は相変わらず、外から誰かが開けないと開かない自室で、自分を縛り付けていた。

 目を瞑り、何度目かも分からない昨日の反省を行う。

 

「あー……ちくしょう。どうすりゃいいんだ」

 

 竜胆があんなに簡単に正気に戻って来れたのは、竜胆にとって杏が()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 例えば、杏が殺されたなら竜胆は激怒するが、千景が殺されたなら絶望する。

 あの時攻撃されたのが杏ではなく千景や球子だったなら、竜胆は簡単には正気を取り戻せなかったかもしれない。

 

 問題は一つではない。

 暴走すれば強すぎる人類の敵になってしまうのもそうだが、暴走しないならしないで日々弱くなっている、というのも問題だった。

 

「このままじゃ暴走しやすい厄介者な上に、一番弱い巨人とかいう役立たず……

 迷惑はあっても利益を生まない、控え目に言ってゴキブリの死体以下の存在……

 シューマイの上に乗ってる要らないグリーンピースより価値が無い……

 最悪仲間を殺して、バーテックス側に利することにもなりかねない……どうすりゃいいんだ」

 

 そんなこんなで、竜胆は悩んでいたのだが。

 

 そこに"休日に部屋でゴロゴロしている息子を家事に引っ張り出す"くらいの気軽さで、ケン・シェパードがやって来た。

 

「ワルイ、ソウジ、テツダッテオクレ」

 

「え、あ、はい。え? 掃除?」

 

「アリガトナス」

 

 竜胆は引っ張り出されて、箒を持たされ、丸亀城の清掃に駆り出された。

 時刻は六時と七時の間。

 気持ちの良い塩梅の朝日と、一月の肌寒さに、葉が綺麗に落ちた木々が風情を感じさせる。

 枯れ葉や小さなゴミなどが地面に落ちてはいたが、普段からケン・シェパードがこまめに掃除しているらしく、丸亀城の敷地内は綺麗なものだった。

 

 よーし綺麗にするか! と気合いを入れた竜胆が箒を振るおうとして、変な具合に箒の柄が手錠の鎖に引っかかり、箒の柄先が竜胆の額を強打した。

 

「おあだっ……手錠くんめ、こいつめ」

 

 手錠の存在自己主張を無視し、竜胆は丸亀城の掃除を始めた。

 とにかく広いので掃除の仕方はよく考えて、人の目に映る場所を意識してやっていかないといけない。

 その点ケンの掃除は、すいすいと流れるような手際の良さが見て取れた。

 

「キョウハ、チト、ヨウジガ、ツマッテテ。アサノウチニ、ソウジ、オワラセタカッタノダ」

 

「そうなんですか。いつも掃除とかされてるんですか?」

 

「イツカラカ、カジハ、ケッコウ、ボクガヤルヨウニナッタ」

 

「へぇー……」

 

「タイシャガ、ハケンシテイル、ヒトモイル。ボクガ、ゼンブ、ヤッテルワケデモナイ」

 

 話しながらも掃除は続く。

 

「ケンさんの光線技、凄かったですね。単独で撃つ技であの威力とは」

 

「ノゥ、ノゥ」

 

「?」

 

「コウセンハイカニイリョクヲダスカ、デハナク、ドウタオスカガ、カンジン。

 コウセンノ、タヨウサナラ、グレートイチバン。

 コウセンノ、セイギョリョクナラ、アグルイチバン。

 コウセンヲ、カクトウニマゼルノハ、ガイアがイチバン。ダイタイソンナカンジネ」

 

「そうなんですか」

 

 片言の日本語は聞き取りづらかったが、竜胆は頑張って一言一句を聞き取った。

 

「ああ、そうだ。ちょっと相談なんですけど―――」

 

 竜胆は、ケンに相談してみることにした。

 解決したいのは、仲間を攻撃されるだけで暴走しかねない今の自分と、希望を得るたびに弱くなっていく今の自分。

 ケン・シェパード。ウルトラマンパワードの変身者。

 竜胆が相談相手に選ぶ者としては、さほど不自然な者ではなかった。

 

 ケンは年齢30代後半の白人である。

 金の髪に、青の瞳。球子の話によれば、巨人と勇者の中では最年長。

 日本語を勉強して片言だが喋れるようになり、仲間からも信頼されている様子だ。

 竜胆の現在身長が177cm、ボブの身長が180半ばなら、ケンの身長は2mを超えている。

 

 勇者と並び立てば長身で頼りがいがあるように見える竜胆も、ケンと並び立てば親に見下される子のようにしか見えなかった。

 ケンは、竜胆の相談にすっぱり答える。

 

「ジセーシン、キタエロ」

 

「自制心、本当に鍛えないとですね……」

 

「タダ、ココロノセイギョハ、イツノジダイモムズカシイ。キミハ、ガンバッテル」

 

「ありがとうございます」

 

 ケンはスパッと名案を出してはくれなかったが、掃除をしながら、竜胆と一緒に真剣に悩んでくれていた。

 

「ブドウ、ッテ、テモアルヨネ」

 

「葡萄?」

 

「ソウ、ブドウ。ボブモ、ワカバモ、ヤッテルヤツ」

 

「……ああ、武道!」

 

『ブドウハ、セーシンシューレン、シンギタイ。ジブンヲ、キタエルモノ』

 

「精神修練、心技体、心も体も鍛えるもの……なるほど」

 

 そして、竜胆とはまた違った視点から案を出してくれた。

 武道。

 それは力のみならず、心も鍛えることを目的とするもの。

 ボブは空手、若葉は抜刀術を修めた者だが、その技にはひと目で分かる武道の精神性が見て取れた。

 ケンは武道やれば何でもかんでも上手く行くってわけでもないぞ、と考えていて。

 竜胆は、それを全ての問題を解決できるナイスな名案だと受け止める。

 

「なんて合理的な提案なんだ……ありがとうございます! 一石二鳥で解決だ!」

 

「ウーン、ノーミソ、タンジュン」

 

「え、今何か言いました? すみません、小声だったもんで聞こえなかったみたいです」

 

「ワカバ、ミタイダナ、ッテイッタ」

 

「えっ……そんな褒められるようなこと、俺何か言いましたっけ」

 

「……キミ、ソウイウトコヤゾ、ッテ、チカゲ二、イワレテソウ」

 

「ケンさんすげー。ドンピシャっす。チームの皆の理解者って感じですね」

 

 はぁ、とケンは心配そうに溜め息を吐いた。

 ボブが少年少女にとって兄のような位置にいるとすれば、ケンは父のような立場にいる。

 ケンは皆をよく見ていた。

 竜胆のこともよく見ていた。

 だから分かる。

 この少年の各問題は、心の根っこの部分から湧いてきているのだ、ということを。

 

「キミニ、タリンノハ、アゾビゴコロト、エガオダナ」

 

「え?」

 

「キマジメナコジャ、キミハ、カエキレナイカ。ツギ、センタクモテツダッテオクレ」

 

「洗濯ですね、はい」

 

 竜胆の諸問題は、竜胆の心に起因する。

 戦いのことを度外視しても、竜胆の心に根付いている幾多の歪みを解消しなければ、竜胆が幸せになることはない。

 ケンは、竜胆が弱くなっても良いやと思った。

 少年が幸せになれるなら良いやと思った。

 代わりに自分が戦えば良いやと、そう思った。

 ケンのその思考を、ケンと一体化しているウルトラマンパワードが、"それでいい"と肯定してくれていた。

 

 ケンが洗濯物カゴの中から乃木若葉のブラジャーを引っ張り出し、指に引っ掛け回した。

 

「ヘーイ、ノギコプター」

 

「―――!?!?!?!?!?!?!?」

 

 パワードは"いやこれは流石に肯定しないぞ"とケンの心中にて呟いた。

 竜胆の思考がショートする。

 思考が停止する。

 思考が再起動する。

 再起動した直後、若葉のブラジャーを指に引っ掛けてぶん回して遊んでるケンを見て、竜胆は顔を真っ赤にして思考を再ショートさせた。

 少年は首が取れそうな勢いで顔ごと目を逸らし、口をパクパクさせる。

 

「な、なっ、ななななななな」

 

「ソーラハ、ジユウーニ、トベネーナ。イガイト、オオキイヤロ。ワカバチャン」

 

「なにやってんだこのド変態ウルトラマン! 性欲解放して恥ずかしくないのか!」

 

「ナニヲイウカ。

 ユウシャニ、セイヨクナンテイダカンワ。

 ミナ、ボクノカワイイムスメ、ミタイナモンダゾ」

 

「父親は娘の下着オモチャにしねーからっ!」

 

「ボクハシテタゾ。

 ジツノムスメニモ、シテタゾ。

 イキテタラワカバタチトオナジトシノ、カワイイムスメダッタノダ。

 コノイッパツゲイヤルト、ウチノムスメハバカウケダッタノダゼ」

 

「やべえ、頭が徐々にケンの台詞を受け入れるのを拒否し始めてる……!」

 

「ハッハッハ。

 ユウシャゼンイン、オトナニナッテヨメイリスルマデハ、ボクモシネンナ」

 

 ケンは、勇者達を娘のように見ている。

 女性扱いではなく、娘扱いしている。

 勇者達もまた、ケンを家族のように扱い、家事好きの父のように扱っている。

 

 ケンのこの竜胆に対する接し方は、思い詰めて自分を責めやすい生真面目な少年に、ふざけた態度で接する父親のような、そんな接し方だった。

 からかって、ふざけて、竜胆の頭の中にあった悩み事を一旦全部消し飛ばして、インパクトのある会話で頭の中を洗い流し、一度頭の中を空っぽにさせる。

 

「コノシタギ、ミテミ。

 タマコ、アレ、ブラジャー、イラネーナ。

 アワレナヘイタン。

 モットメシクワセテ、ナイスバディニ、ソダテテヤラントイカン」

 

「追撃やめろっ……!」

 

「アンズハ、イイカンジニセイチョウシテテ、アンシンデキル」

 

 竜胆は必死に目を逸らし、目を瞑り、ケンが見せつけてくるものから逃げる。

 そう、自らの心の闇から目を逸らし、逃げるかのように!

 酷い。

 こうして見ると酷いが、竜胆が色んな事柄に対し簡単に心を動かしてしまうのも事実で、ケンが大抵のことに動揺しない大人の男であるのも、また事実であった。

 

「オンナノ、シタギクライデ、ナニオタオタシテルンデス。

 セメテ、シタギノ、ナカミミテ、オタオタシロヤ。

 ハズカシガルジブンノヨワサト、ムキアイ、タチムカイ、ノリコエルノダ」

 

「さては俺で遊んでるなテメーッ!」

 

「シュウチシンニスラ、カテナイノニ、ココロノヤミ二、カテルカ!」

 

「え……え、いや、それはもしかしたらそうなのかもしれないけど」

 

「ドウヨウシナイ、ココロ、ホシカッタンジャナイノカ!」

 

「そ……それはそうなんですけど!

 仲間が攻撃されても動揺しない心は確かに必要なんですけど!」

 

「ブラ、パンツ、ソンナモノヲミタダケデ、ユラグココロ、ヨワイトオモワンノカ!」

 

「弱い……確かに俺の心が弱いってのもあるかもしれませんけど、いや、立ち向かうって」

 

 竜胆は勇気を出そうとする。

 羞恥心を勇気で踏破しようとする。

 人は、勇気があれば勇者になれる。

 竜胆は今、やらしい意味で勇者になろうとしていた。

 勇気を出して、硬く閉じた瞼を開けてケンがノギコプターでぶん回している若葉のブラジャーを見ようとして―――膝を折って、両目を地面に押し付けた。

 

 何が何でも、見ないために。

 

「すみません、無理です……勘弁してください……許して……」

 

「ナサケナイヤッチャメ」

 

「俺には……そんな仲間を裏切るような真似……恥知らずで恥ずかしい真似、無理っ……!」

 

 駄目かー、とケンは下着を洗濯カゴにしまって、竜胆の性格へのアプローチを切り上げた。

 

「デモ、ソウイウノ、キライジャナイゼ」

 

「……ケンさん」

 

「チョット、カラカイスギタ、ゴメンナ。

 デモナ。

 ナニゴトニモ、ドウヨウシナイ、ツヨイココロガナイノハ、ジジツダロ」

 

「……それは、そうなんですが」

 

「ユウナノブラ、チカゲのパンツヲミテモ、ドウジナイココロガアレバ、モンダイハナクナル」

 

「それを事実として受け入れるの心底嫌なんですけど?」

 

「パンツカラ、ニゲルナ。ココロノヤミカラ、ニゲルナ」

 

「並べないでその二つっ……!」

 

 ケンは、こう考えている。

 心の闇とは真剣に立ち向かうものではない。

 笑っている内に、幸せを感じている内に、自然とどうでもいいものになっていくもの。

 で、あれば、真面目に自分の心の闇について考え込むのもよろしくない。

 それは光の者の理屈だ。

 まず笑わせ、肩の力を抜かせて、それから。

 

 その結果として何か不都合が起きたなら、自分がそのケツを拭く。それがケンの思考。

 

「カタニチカラ、ハイリスギルト、ナンデモ、シンコクニミエル。

 テキトウ二、タイオウスル、ダイジ。

 シャニカマエル、ダイジ。

 チャカシテ、キラクニコナス、ダイジ。

 マジメニンゲン、ハヤジニスル。

 チョットクライ、フザケテ、モノゴトニブツカル。ソレクライデイイ」

 

「……それは……そうなのかも、しれませんね」

 

「フザケテ、ワラッテタホウガ。ココロノヤミヲ、ノリコエヤスイト、オモウノダヨネ」

 

「……それは」

 

「シカシ、パンツミタガラナイショウネントカ、キミホントウニヘンナヤツダヨナ。ホレ」

 

「!?」

 

「ノギコプター」

 

 最後に奇襲が見事に決まり、掃除が終わって、洗濯が終わって、竜胆はケンと別れた。

 さあ朝御飯でも食べるか、と竜胆は歩き出したが。

 心は光でもなく闇でもなく下着のことでいっぱいになっていた。

 

(ボブといい、ケンといい。

 ふざけてるとかおかしいとかそんな一言で語りきれる人じゃない。底が見えない……)

 

 真面目なことを考えようとするが、そうしようとするたびに先程見たものを思い出し、思考が全部吹っ飛んで、顔を赤くして動きを止めてしまう竜胆。

 ケンの目論見は成功していた。

 とりあえず、今の竜胆が思いつめて鬱々としてしまう可能性はなさそうだ。

 

(あ、うん、駄目だ。真面目なこと思考できる状態じゃないわ俺)

 

 若葉のブラとパンツを両手の指でダブルコプターしていたケンの顔が蘇る。

 全くいやらしい気持ちを抱いていなかったケンの表情と、今の自分を対比してしまう。

 竜胆のハートはケンの策略によりぐわんぐわん揺れていた。

 恐るべし、ウルトラマンパワード。

 

(乃木に合わせる顔がねえ……くっ、忘れようとしてるのに忘れられない。なんでだ)

 

 少年はドキドキしている。

 普段服の下に隠されていたものを見てしまったことで、かなりドキドキしている。

 今までそういう目で見たことがない若葉の下着を見てしまったのだ。

 そりゃもうドキドキである。

 今の竜胆なら、誰が見てもごく普通の中学三年生に見えるだろう。

 

 若葉に対しドキドキしてしまっていることに、竜胆はとても罪悪感を覚えていた。

 

(俺はとんだスケベ野郎だったわけだ……

 高知が生み出してしまった性欲の化身……

 友人に対していやらしい気持ちを制御できない人間のクズ……

 "誰か受粉してくれるだろ"的な軽い気持ちで子種を撒き散らす杉の木に等しい屑野郎……)

 

 これは恋愛感情ではなく、パンツを見るだけで心動かされ、ちょっと意識したらズルズルと好意を持ちかねない、少年特有の感情であり。竜胆はそれこそを恥じていた。

 しかも、このタイミングで。

 歩いていた竜胆の向かいの方向から、乃木若葉がやって来る。

 

「おはよう、竜胆。今迎えに行こうと思っていた所だったのだが」

 

「ごめんな、乃木。めっちゃごめんな。心底ごめんな」

 

「ん、んん? 先の戦いのことか? 私は迷惑を被っていない。気にするな」

 

 若葉が苦笑する。竜胆が謝る理由を全く理解できていないので、当たり前である。

 

「それより、杏だな。あいつも早くお前と打ち解けてほしいものだ」

 

「いや、昨日の一件があるし、そんなに早くは無理だろ」

 

「お前はもう私達の仲間だ。仲間とは信じ合い、支え合うものだろう?」

 

「乃木……」

 

「お前を守るのも、暴走したお前を切って止めるのも、お前の仲間だ。お前は孤独じゃない」

 

 若葉の言葉はかっこよく、その姿は綺麗で、浮かべられた笑みは可愛かった。

 そんな彼女を見て、竜胆は自分を恥じる。

 

(こんなに真面目で凛とした彼女に……クソ、なんて俺は最低なんだ!

 もっと誠実で綺麗な気持ちで接しなきゃ駄目だ。

 忘れろ、忘れろ。ドキっとするな。純粋な仲間意識と信頼で……)

 

 いっぱいいっぱいの竜胆から、脳内の言葉がそのままふっと、口から出た。

 

「そういや乃木、お前意外と可愛いパンツ穿()いてたんだな」

 

 めっちゃ怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっかり口を滑らせたことの代償は、乃木若葉のお叱りであった。

 鞘での眉間打ちに始まり、若葉の顔が赤くなくなった頃に終わった、乃木式お説教。

 それが終わった頃に、竜胆はまた朝飯を食べに歩き出した。

 

「うひぃー……」

 

 ケンが竜胆の頭の中の面倒臭いものを一旦全て押し流して、ケンが残したピンク色を若葉のお叱りが洗浄し、竜胆はかなりフラットな精神状態に戻っていた。

 ケンも若葉も竜胆も、誰も深く考えての行動をしていなかったのに、熟慮の末の行動よりも遥かに良い結果をもたらしていた。

 

(ケン、愉快な親父ポジションで定着してんのか……

 俺に対して、今日限定で、格別はっちゃけてくれたのか……

 うーん、これがすぐに判断できてないって時点で、会話が足りてないんだよな。

 やっぱり自分の意志で部屋から出られないと、能動的に会話ができない)

 

 ケンに積極的に会話をしに行けなかった部屋環境もあり、竜胆とケンの会話はあまり足りておらず、少年はケンの真意を読みかねていた。

 ケンの真意なんて、全部ケンの言葉の中にあるのだが。

 

 ともかく。

 竜胆は下着を見たくらいで動揺し、冷静さを失い、ちょっと自分を見失ってしまった。

 メンタル強度は凄まじいのだが、予想外の方向からつつかれるとすぐ揺れるのは、ちょっとバランスの悪い鉄塊の如しである。

 

(俺いっつも自分見失ってない?)

 

 ちょっと笑い話ではない。

 このままでは竜胆は、勇者がちょっと襟元を引っぱって胸元をチラッとさせるだけで確定敗北してしまうスケベ童貞中学生に等しい弱さを抱えたまま。

 心の制御力を次のステージに上げるためには、大抵のことでは揺らがない不動のハートを身に着けなければならない。

 

 それが駄目なら、もっと直接戦闘力を高めなければ。

 仲間に一切の攻撃を通さないくらい、強くならなければ。

 そうでなければ、仲間への攻撃で暴走するリスクが常に付き纏ってしまう。

 心か、力か、両方か。

 竜胆は、速やかに強化しなければならないだろう。

 

 食堂に辿り着き、竜胆は白米と卵と醤油を貰い、一人で食べ始める。

 卵かけご飯オンリーで朝御飯を済ませる辺り、自分のことは適当に済ませる彼の性格が窺えた。

 

「かかる手間の割に美味しすぎる……」

 

 ただし、竜胆は卵かけご飯だけの朝飯を本気で絶賛していたりする。

 

「あ」

「あ」

 

「あ」

 

 そこで食堂に入ってくる、伊予島杏と上里ひなた。

 三人が同時に声を漏らし、杏が反射的にひなたを庇った。

 竜胆を警戒した、というわけではなく。

 "怖いものを見た"瞬間に、杏は感情の赴くままに反射的に、戦う力を持たないひなたを庇ったのだ。

 恐れに身を震わせることがあっても、彼女は勇者。

 細かな所作に、杏の『強さ』と『勇気』は見て取れるのである。

 

 が、反射的に取ったその行動に、杏は竜胆に対する申し訳無さを少し感じている様子だ。

 杏は竜胆を恐れている。

 竜胆を恐れ、敵のように反応してしまったことに罪悪感を覚えている。

 前にも後にも進めなくなった杏を、ひなたが引っ張り、食堂から離れていった。

 竜胆が窓越しに外を覗くと、ひなたが杏のフォローをしているのが見える。

 

 あのままあそこに杏を置いていても悪化しかしないと判断し、即座に竜胆と杏を引き離し、杏の精神的なフォローに回る。

 あの状況では最適解だったと言えるだろう。

 ひなたらしい状況把握と気遣いが、竜胆には本当に頼もしく感じられた。

 

 竜胆は食堂の窓越しに、ひなたに向かって頭を下げる。

 

(悪い、上里)

 

 ひなたがそれに気付き、杏に気付かれないよう、竜胆に向けて小さく手を振っていた。

 

(早めに食い切るか、他に誰か来ない内に……)

 

「ぶっかけうどん一つお願いします!」

 

 そんな中、ひなたの方に意識を向けていた竜胆は、注文の声が上がるまで近くに来ていた仲間の存在に気が付いていなかった。

 

「!? た、高嶋?」

 

「御守さん、隣座ってもいいかな?」

 

「……いいけど」

 

 竜胆は卵かけご飯をかっこもうとして、一瞬"乃木はああだったけど高嶋ってどんな下着付けてんだろ"と一瞬何気なく思ってしまい、羞恥心その他諸々の感情の爆発で、思わずむせこんだ。

 

「ぶっ」

 

「わっ、だ、大丈夫!?」

 

 明日には影も形も残らず消えているだろうが、今日一日竜胆はこんな感じかもしれない。

 中三らしい同年代の女の子への興味を竜胆は嫌悪し、抑え込み、押し込み、胸の鼓動を必死に静かにさせていく。

 いい子な友奈に対しそんなことを思ってしまったことで、竜胆は自殺したくなった。

 心の闇は自己嫌悪をブーストする。

 自殺衝動もブーストする。

 一瞬、竜胆はガチで自殺しそうになった。

 しなかったが。

 

「大丈夫? 顔赤いよ? 私が医務室に運んで行こうか?」

 

「大丈夫だ。あと、ごめんな高嶋……」

 

「え?」

 

「俺は最低だ……」

 

「御守さんは最低じゃないよ!」

 

「最低だから償いに乃木の言うことも高嶋の言うことも何でも聞くぞ……」

 

「え? 今何でもって言った?」

 

「言った言った」

 

「うーん、どうしよう……私迷っちゃいますな」

 

 友奈はちょっと考えて、カウンターでうどんを受け取り、竜胆の横の席に座って、お願いを思いついた顔をした。

 

「あ、そうだ。名前で呼んでほしいな。私も名前で呼ぶから」

 

「そんなことでいいのか? 死ねと命令されてもちょっとは考慮するぞ」

 

「これそんなに重いことなの!? あ、でも考慮するだけなんだ……それでも十分重いけど」

 

「死ねと言われてもしょうがないんだ、俺は」

 

「うわぁ、何だかまた変な思考してる。

 仲間らしく名前で呼び合えたら、私はそれでいいんだよ」

 

 竜胆の横でうどんを食べている友奈は、とても幸せそうな顔をしていた。

 

「『友奈』。これでいいか?

 久しぶりだな、あだ名でお茶濁さないで、女の子の名前ちゃんと呼ぶの」

 

「おお、特別枠?」

 

「お願いだからな。友奈は特別枠だ」

 

「よーしじゃあ、私は『リュウくん』って呼ぶね!」

 

「え?」

 

「名前を短く切って、リュウくん!」

 

「いや俺の名前の読みリンドウだけど」

 

「……え?」

 

「リンドウ」

 

「……」

 

「……」

 

「……周りの人がリンドウって呼んでるの、あだ名だと思ってた」

 

「俺の下の名前、何て読んでたんだ今日まで」

 

「りゅうきもくん」

 

「読み方微妙にキモい!」

 

 高嶋友奈に()()()()()()()()。押し花をする人間のような花の知識はない。竜胆の字が読めないのも当然だ。

 

「『ぐんちゃん』の呼び名聞いた時点で想像しておくべきだったよ」

 

「あー、うー、ごめんなさい」

 

「いいよ、リュウくんで」

 

「え?」

 

「友奈だけならまあいいや。呼んでいいよ、その呼び名で」

 

 その言い草を聞いて、友奈はずっと前のことを思い出した。

 

―――ううん……いいの。高嶋さんだけは……そう呼んでいいよ

 

 昔自分が、千景のことを"ぐんちゃん"と呼び、名字を読み間違えていたことを知り、千景に対しての呼び名が"ぐんちゃん"に固定された日のことを、思い出した。

 友奈が微笑む。

 

「ぐんちゃんとおんなじこと言ってる。仲が良いんだね」

 

 竜胆も笑みを零した。

 

「そうだな。まだ仲良くしてもらってる。ありがたい話だ」

 

「……仲良くしてもらってる、仲良くしてあげてる、っていうのはないんじゃないかな」

 

「?」

 

「リュウくんも、ぐんちゃんも。お互いに仲良くしたいから仲良くしてるんじゃないかな」

 

「それは……うん」

 

「今のぐんちゃんが聞いてたらちょっと傷付いてたかもしれないよ?」

 

「うっ」

 

「もう」

 

 竜胆が卵かけご飯を食べ切り、友奈がうどんを食べ切り、同時に食べ終わった二人の食器が、同時にテーブルに降ろされた。

 

「なんだかなぁ……目を離すのが怖いよ、リュウくんは。全然年上に見えない」

 

「切れ味鋭い言葉を反論できない感じに投げつけるのやめてくれ」

 

「食堂で食べる時は、いつもこういう時間に一人でご飯食べてる人、放っておけない」

 

「―――」

 

「若葉ちゃんの提案で、私達は大抵の場合一緒にご飯を食べてる。

 皆で一緒にご飯を食べると、とっても美味しいんだよね。

 でも……でも。リュウくんは。

 皆がご飯食べてる時間を計算して、皆が滅多に来ない時間を選んで、ご飯食べてるよね?」

 

「普通だろ」

 

「ズバリ当ててみせようか? "俺がいると皆の飯が不味くなる"でしょ?」

 

「……むぅ」

 

「なので言います。私が今あなたと一緒に食べてるうどん、とっても美味しいです」

 

「……友奈」

 

「大事な友達で、大事な仲間。そんな人と一緒に食べてるから、美味しいんだよ」

 

 友達と食べるご飯は美味しい。それもまた、竜胆の人生から失われていた"当たり前"。

 

「俺も」

 

「え?」

 

「俺も、友奈が来てから食べてたものの方が、美味しく感じた」

 

「―――っ!」

 

「ありがとうな」

 

「うん!」

 

 光は絆だ。

 心の光は、絆によってももたらされる。

 竜胆は光で幸福になり、光によって弱体化する。

 

「そうだ、友奈。明日、ちょっと付き合ってくれ」

 

「何に?」

 

「特訓。修行だ」

 

「特訓……修行!」

 

「普段の戦闘訓練じゃ足りない。特訓だ。ティガダークの弱体化は、俺自身の修行で補う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな二人を、見つめる少女の影があった。

 少女の中にあるのは、不安。

 そして恐怖。

 嫉妬。

 羨望。

 感謝。

 祝福。

 絶望。

 悔恨。

 心痛。

 友情。

 憐憫。

 独占。

 

「……そうよね」

 

 郡千景は、遠くから仲良く話す竜胆と友奈を見て、底冷えのする声で呟いた。

 

「二人なら、仲良くなるに決まってる。

 二人共良い人で、こんな私に良くしてくれて、優しくて、友達を大切にしてて……」

 

 千景の内側で、感情と理性がぶつかり合っている。

 

「私、要らない? ……あの二人だけでとても仲良くなったら、間に私は入れない?」

 

 竜胆と仲良くする友奈に嫉妬し。

 友奈と仲良くする竜胆に嫉妬し。

 高嶋さんを取られる、と思い。

 竜胆くんを取られる、と思い。

 私を置いていかないで、と心が痛みを叫びそうになり。

 それら全てを、友奈と竜胆に対する好意と思いやりでねじ伏せる。

 

 けれど竜胆がそうであるように、心の闇は無くならない。

 

「いや……私を除いた人達で、仲良くなってしまうのは……

 私が置いていかれたら……あの二人が仲良くなって、私が疎遠になったら……

 また一人になったら……でも……だけど……ううん、これはただの不安、ただの不安……」

 

 竜胆が参戦してから一ヶ月。

 

 ほぼ毎戦闘で竜胆を守るために精霊を多用していた郡千景の体と心には、誰よりも早く、精霊による異常症状と悪影響が発生していた。

 

 

 




●ウルトラマンパワード
 遠き彼方、どこかに存在するM78星雲ウルトラの星・光の国からやって来た光の巨人。
 青き瞳の光の巨人。
 人間との一体化によりなんとか、地球における三分間の活動時間を確保している。
 その戦闘能力は最強のウルトラマンの一人に数えられる初代ウルトラマンと比較して、単純計算で五倍とされる。

 必殺技のメガ・スペシウム光線も初代ウルトラマンのスペシウム光線の威力の五倍。
 単純な温度でも一億度以上という設定を持ち、一兆度の熱に耐える耐熱マントをぶち抜くM87光線の87万度、初代ウルトラマンのスペシウム光線35万度、ウルトラマンメビウスのメビュームシュートの10万度と比べると、文字通り桁違いの熱量を持っている。
 更にこの威力で文字通り『針の穴を通すような収束』を行いピンポイントで撃ち抜くことすらする。

 ただし、この実力を性格のせいで発揮しきれていない(当作独自設定)。
 拳や蹴りを激しく敵にぶつける戦闘が好きではなく、生物を殺すことに躊躇いがあるわけでもないのに、性根が優しいせいで掌底で押すなどの攻撃が基本になってしまっている。
 よって、スペックが高い割にそこまで強さを発揮できていない。

 彼は優しい者でありながらも地球を守る地獄の戦いに身を投じた。
 別に理由なんて無い。ずっと昔からそうやってきた、ただそれだけだ。

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