夏空の下、ウルトラマンは、友をいじめた子供達を虐殺した 作:ルシエド
竜胆は千景を部屋まで送ったが、千景は部屋から出てこなくなった。
千景は竜胆にも若葉にも何も言わず、あの村を離れてから一度も口を開かなかった。
寄宿舎の部屋にこもって鍵を掛け、千景は竜胆の呼びかけにも応じない。
「ちーちゃん、大丈夫?」
彼女の内側に、何かがある。
普通の人間では感じられない、その存在が感じられた時点で人間でないことが保証される、ティガダークの闇に似て非なる何かが。
それが良くないものであることは、竜胆にも理解できていた。
大社に連絡用端末で一報を入れ、とりあえず竜胆はその場を離れる。
今の時刻は昼の11時前。
昼時になったら食事に誘うとか考えるか、と竜胆は思考しつつ、押して駄目なら引いてみろの理屈で一旦千景の説得を後回しにする。
どの道、千景と直接話せなければ、彼女の状態は分からない。
寄宿舎から離れていく途中、竜胆の身体がふらりと揺れる。
「うっ……」
故郷で叩きつけられた言葉が、感情が、竜胆の中の闇を引き出す。
首輪の存在も無視して、今すぐにでも変身して皆殺しにしたいという衝動が湧く。
竜胆は必死に自分を抑えた。
誰も許したくない。誰も生かしたくない。全て壊したい。
感情の奔流に耐えようとする竜胆が、腕よりも太い鉄の手すりを握り潰し、肉体が出していい上限値を遥かに超えた力を出してしまった手の骨にヒビが入る。
半暴走状態にある肉体が急速に骨のヒビを治し、また鉄の手すりを握る力のせいで手の骨にヒビが入り、治るとまた繰り返し、そのたびに手に凄まじい激痛が走る。
「ぐ……うッ……ギッ……!」
"見境が無くなって"来た。
"我を忘れ"そうになる。
"魔が差す"瞬間が無数に連続して訪れている気がする。
あの時村で竜胆が与えられたものは、とても大きかったようだ。
これでまた、竜胆の心の闇は大きくなった。
暴走時のティガダークは強化され、平時のティガダークのスペックも高まり、竜胆は更に暴走しやすくなったと言えるだろう。
人々の幸せを願う心を、人々の死を願う闇が乗り越えた瞬間、全ては終わる。
竜胆は信念をどこまで貫けるのか。
心の闇にあと何度打ち勝てるのか。
いつまで自分の願いを見失わずにいられるのか。
彼自身が変わっていけなければ、限界は近いのかもしれない。
「……ぐ……ふぅ……」
竜胆は自らの闇になんとか打ち勝ち、立ち上がった。
ふらふらと、丸亀城の敷地内を歩いていく。
こんなザマでは千景にとやかく言えない。
千景が自らの内の何かに突き動かされている内は、止める立場でいなければならないのに、これでは本末転倒だ。
「……ん?」
歩いていく内に、竜胆はベンチに座っている球子を見つけた。
それは、球子と初めて腹を割って話し合った、あのベンチ。
球子は竜胆を見つけるやいなや、駆け寄ってくる。
どうやら彼女は、彼を待っていたらしい。
「よっ」
「おっす」
「竜胆先輩、暗い顔してんな」
「タマちゃんはいっつも明るいよな、表情」
「最近さー、なんかタマにもちょっと分かってきたぞ。
先輩がよく笑うようになってから、よーく分かってきた。
陰気な顔してたのもちょっとは意味があったんだな。
普段から陰気な顔してると、辛そうな顔しててもバレにくいのか」
「……タマちゃんには勝てねえなあ。それと、別に陰気な顔で隠してたわけじゃないっての」
球子は竜胆の表情を覗いて、彼の心境をそれとなく察したらしい。
竜胆の心が球子とちょっと話したことで少し晴れたことも、察したようだ。
そも、彼女は何故ここで彼を待っていたのか。
竜胆は球子が要件を切り出すのを待ったが、いつまでも球子は話題を切り出してこない。
「んー、あー」
「言いにくいことならゆっくりでいいぞ、タマちゃん。俺はいつまでも待つから」
「……うん、ありがと。タマは……うん」
球子の竹を割ったような性格でこれほど言い淀むとは、よほど聞きにくいことなのか。
「そうだ、ここでタマの恥ずかしい話をしよう」
「なんで? なんで?」
「タマは今からめっちゃ聞きにくい話を聞こうとしてるから。
タマも聞かれたくない大恥の話をしないと、きっとフェアじゃない……!」
「いいんだよフェアとか気にしなくて!」
「タマはな、先生を先生と呼ぶべき朝の会で……」
「お母さんと呼んだとか?」
「な、何故分かった!」
「いや、そうだったらタマちゃんっぽいなって……」
数えるほどしか会話したことがなかったあの頃とは違う。
二人はそれなりに互いのことを理解してきていた。
球子は恥を知られてもいいと思うくらいには彼を信頼し、竜胆は断片的な情報から球子の過去の恥を想像できるくらいには、彼女のことを分かっていた。
球子の恥の話は続く。
「―――そしてタマは、醤油差しに間違えて墨汁を入れたことがバレ。
醤油かけようとして墨汁かけちゃった母親に、こっぴどく怒られたのだ」
「お前の眼球ガバガバかよ」
「せめて節穴って言え!」
「でもなんかタマちゃんっぽいな……こう、微妙に雑に生きてる感じが。嫌いじゃないよ」
「雑!? ってかええっ……笑われるかと思ったら、先輩の感性なんかズレてないか?」
「タマちゃんに感性ズレてるとか言われたら俺もぶっタマげるわ」
「あー! ちょっ、勝手にパクんなよ『タマ』を!」
球子は思い出したくもないような大恥を次々と語っていったようだが、そのどれもが微笑ましくて、何故か自然と笑顔を浮かべてしまうようなものばかりだった。
「はい、これでタマの恥ずかしい話終わり! 終わりだかんな!」
「うん、それで、聞きたいことは?
正直感想としては"面白かった"なんだけど……
自分の恥を語るのは勇気が要るもんだし、その心意気には極力応えたいところだ」
「……うっ、やっぱ聞きたくないな、タマ」
「聞きたいことがあるから自分の恥晒してたんじゃないの!?」
球子は躊躇い、竜胆は待つ。
話下手の千景と竜胆の会話が良く成立していたのは、こうして竜胆が他人の言葉を辛抱強く待ってくれるタイプであるというのもあった。
竜胆は変に急かさない。
だからこそ、球子は何度も躊躇し葛藤しながらも、"聞くべきかどうか本気で迷った"その事柄を……竜胆に、問いかけた。
「竜胆先輩、話したくないなら、話さなくていいけどさ」
「うん、何?」
「先輩は……なんで、どういう経緯があって、人殺したんだ」
「―――」
「誰も殺してない、全部嘘なんだ、って言うなら言ってもいい。タマは信じる」
「……タマちゃん」
「もーなにがなんだか分からん。
何を読んでも、誰の話を聞いても混乱しそうだ。
だからタマは、先輩の話聞いて、それを全面的に信じることにした。決め打ちだ」
「決め打ち、って……いいのかよ、それで」
「考えるのが面倒臭くなってきたからな!」
「おい!」
「それなら、信じてる仲間の言ってることを信じてやりたい。それだけなんだ」
「……っ」
「考えんの止めて決め打ちするなら、先輩本人の話を信じてそうしたいんだよな」
球子は頭の後ろで手を組んで、にししと笑っていた。
それは一種バカの理屈で、竜胆には天才の理屈に見えるもの。
球子の語る道理は、大体の場合竜胆が好ましく思う理屈で構成されているようだ。
「タマちゃんそんなかっこいいとクラスメイトとか惚れたりしない?」
「惚れるかばーか……って前にもタマこんなこと言った気がするぞ」
「気のせい気のせい。さて……そうだな。話すのはいいけど、どう話そうか」
こんなにも簡単に話してもらえると球子は思っていなかったから、内心少し驚いていた。
こんなにも簡単に話せるだなんて竜胆は思っていなかったから、内心少し驚いていた。
竜胆の様子は穏やかだ。
球子と竜胆の予想以上に、彼は落ち着いて自分の過去を話せる状態にある。
二人の内心を覗ける者がいたら、きっと吹き出していただろう。
何故、そんなに簡単にあの過去を話す気持ちになれたのか。
それは、球子が思っている以上に、竜胆自身が思っている以上に、竜胆が球子に対し心を開いていたから。それだけなのだ。
ある者は"この人なら話してもいいか"という気持ちで。
ある者は"この人にはもっと自分を知ってもらいたい"という気持ちで。
ある者は"この人はどう思ってくれるのだろう"という気持ちで。
ある者は"この人なら許してくれるかもしれない"という気持ちで。
友に自分の辛い過去を語る。
人それぞれのその気持ちを、人は時に『友情』と呼ぶのだ。
竜胆が話の切り出しを考えていると、そこに新たな来客がやって来た。
友奈と杏を連れた若葉が、やって来ていた。
「その話、我々にもしてもらっていいか?」
「……乃木」
「お前の口から、お前が見てきたものを、お前の言葉で聞きたい」
ただでさえ話し辛いことだ。
多人数相手だとなおさら話し辛い、ということは若葉にも分かっている。
それでも、『仲間』には話してほしかった。
そして、若葉が思っていたほど、竜胆はこの仲間達全員に過去を話すことに、忌避感を覚えてはいなかった。
「聞いても楽しい話じゃないと思うぞ」
「聞いて楽しい話かどうかは、この際問題じゃない」
「ん?」
「私達がお前に過去を語ってもらうのに足る仲間かどうか。それだけだ」
「……一々かっこいいこと言う奴だな。まったく」
話さないなら話さないでいい、仲間全員がお前から信頼を勝ち取るまで積み重ねるだけだ、と言わんばかりだ。
若葉の中の基準ではどうやら、"話し辛い話をどう話させるか"ではなく、"話し辛い話をしてくれるくらいの信頼をどう勝ち取るか"という話であるらしい。
勇者はそれぞれ違う理屈、違う信念、違う心を持っていて、そのどれもが竜胆には好ましく感じられる。
ボブやケンに対しては憧れのような気持ちを持っている竜胆であったが、勇者に対する好感は、他ウルトラマンに対する敬意とは、また違うものであるように感じた。
「最初に言っておく。どうか、気を遣ったりせず、軽蔑してくれ」
竜胆は穏やかな語調で語り出す。
親を亡くして村を訪れた日から、全てが終わったあの日までの、悪夢のような想い出話を。
竜胆の性格を知っている者ならば、"この手の話"をする竜胆の話にどれほど真実が含まれるか、そこが心配になるだろう。
何せ御守竜胆だ。
自分の功績は最小に、罪悪は最大に、周りの功績は最大に、罪悪は最小に語るに違いない。
彼の罪悪感が、そこに必ずフィルターをかけると思うのは当然のこと。
が。
思ってもみないところで、ちょっと想定していなかった本音が漏れて、周りにそれがバレたりするのが竜胆君である。
竜胆は自分の功績は最小に、罪悪は最大に、周りの功績は最大に、罪悪は最小に語った。
だが、彼の想定通りにはいかなかった。
結論から言おう。
彼は、『皆に千景に同情し優しくしてほしかった』のだ。
するとどうなるか。
千景が受けた酷い仕打ちを細かに語ることになる。
結果、村の人間の悪行を精細に語ることになる。
竜胆は村の人間をあまり悪く言わないようにしていたが、皆が千景に優しくしてくれるようにしたいあまりに、結果的に村の人間のしたことを沢山語ることになっていたのである。
そうなると勇者皆、千景が竜胆にあれだけの感情を抱いている理由を察する。
竜胆の性格から、竜胆がどういうことをしていたのかを察する。
千景を竜胆がどれだけ懸命に守っていたかを、言動の断片から察する。
特に最近は、"仲間を攻撃されるだけで暴走する"という特性をティガダークが発現していたがために、竜胆が暴走した理由を皆がすんなりと推測できていた。
皆が辿り着いた結論は若葉と同じ。
自分が攻撃されても暴走しないくせに、仲間や友達を攻撃されると暴走しやすい、そんな竜胆の一面が、そのまま答えになっていた。
村の人間を過剰に悪者にしないよう気遣っていた竜胆だが、その偽装はガバガバだった。
竜胆が千景に向ける想いが、竜胆の偽装に穴を空けていた。
その穴から覗き込み、勇者達は真実を見る。
真実を見たからこそ……竜胆が抱いている罪悪感の詳細、千景に対する想い、たった一人の家族だった妹を殺した罪を実感できてしまい、お通夜じみた空気が広がっていた。
「……」
友奈は口元を抑えて絶句した。
杏は竜胆に対する恐怖の中に憐憫が混じった。
若葉は歯を食いしばった。
球子は苛立たしげに髪を掻いた。
「タマは……知らん内に、酷いこと言ってたんだな。ごめん」
「いや、酷いことなんて言ってないぞ。
俺は少なくともあれで、君が正しい義憤を持てる人間だって確信できた」
「だけど、タマはな」
「俺は正しくないことをした。それで済む話なんだ」
竜胆に同情するようにして、球子は怒った。
「そうじゃないだろ!
何が正しいとか正しくないとかじゃなくて!
村の人間はクソむかつくし、先輩と千景がかわいそうだってタマは言ってんの!」
「……タマちゃん」
「タマっち先輩……」
竜胆が困った顔をして、杏も言外に球子に同意して、友奈も声を上げた。
「そうだよ! だって……だって!
痛いことも辛いことも苦しいことも、何も無くなってないよ!」
「友奈。無くなってないけど、過去になったことだ」
「思い出して辛くなることなら、過去になんてなってない!
どうしてそう、無理して平気そうな顔しようとするの……弱音くらい、吐いてもいいのに」
「んー、なんていうか……弱さは見せるより、乗り越えたいんだ。
結局、戦いの場所は俺の心の中だから……
最後の最後は、結局俺一人で勝たないといけないんだよな、この闇は」
「っ」
「……皆が居てくれるおかげで本当に助かってる。
暴走しかけた時、皆の存在が俺の心の支えだ。
でもさ、仲間を心の支えにするのはいいけど……
甘えたらそこでおしまいなんだ。支えられた上で、俺自身が勝たないといけないんだよ」
竜胆は弱音を吐く時もあるだろう。
だが友奈は、竜胆の過去を鑑みて、もっと弱音を吐くべきだと主張する。
されど竜胆は、自分が強く在らねばならない理由を言う。
巨人が勇者に全体重をかけて寄りかかれるような関係は、まだ彼らの間には無い。
「優しい奴から死んでいく、か……
そんな言葉があったな。
お前の話を聞いていると、その理由が少し分かる気がする」
若葉が溜め息を吐き、そう言うと、竜胆はそれに反論する。
「優しい人も優しくない人も等しく死ぬよ。
優しい人が死ぬと悲しいから、それが印象に残ってるだけなんじゃないかな」
「ああ、それもあるだろう」
「俺達は知ってるはずだよ。
悪人だから踏み潰されない、善人だから殺されない、そんなことはない」
ティガダークも、バーテックスも、相手の善悪など一々考えずに殺し尽くしたのだから。
「だから優しい人は懸命に守らないと。俺達にしか守れないんだからさ」
「竜胆はこう言っているが……こいつは村の人間も守ると言っていた。皆、どう思う?」
若葉がそう言うと、勇者は全員揃って唸った。
そして四者四様の表情で竜胆を見た。
友奈は"言いそう……"といった顔で。
杏は"ええ……?"といった顔で。
若葉はやや呆れた顔で。
球子は"殺したのそんなに後悔してんのか"と言いたげな顔で。
竜胆のこの部分にまず、勇者は個々に個別の感情を抱く。
友奈がうーんと悩んで、口を開いた。
「罪を憎んで人を憎まず、ってやつなのかな……?」
「そんな聖人じゃねえよ、俺は。
憎んでたし、怒ってたし、恨んでた。
それがあの闇なんだ。0から発生したわけじゃない。
少なくとも始点には……許せないっていう憎しみがあった」
「……」
「俺が何も悪くないとか、闇の力が全部悪いとか、そういうことは絶対にない。悪いな」
「……なんで謝るの?」
「友奈はそういう励ましをしようとしてくれてんのかなって、そう思った」
「……」
「俺が俺を許せる理屈を友奈が探してくれてることは、それ自体は、嬉しい」
竜胆も薄々、自分の憎悪が巨人の闇の起点であり、その闇の力が自らの心の闇を増幅する、相互の汚染関係にあることは理解している。
どんな人の心にも闇はあり、光はある。
闇を完全に持たない人の心など、それこそ壊れた心以外にはありえない。
だから、竜胆を苦しめるこの闇も、彼の中の一部。
闇のせいで壊したもの、殺したものは、誰のせいにもできない。
竜胆のこの考えを変えさせられるだけの理屈は、友奈の中には無かった。
「あー、リュウくんの内心が面倒臭い!」
「本人の前でよくそんな直球なこと言えるな!
否定はしねえよ! こんな面倒臭い奴と友達付き合いしてくれてありがとう!」
「どういたしまして! 私も毎日楽しいよ!」
お前達を見てるのが楽しいよ、と若葉が心中で思う中、杏が手を上げ口を開く。
「あの……前から少し気になっていて、聞けなかったことなんですけど……
暴走しそうな時、暴走している時って、感覚的にはどういう感じなんですか?」
「苦しい。辛い。痛い。自分が自分がじゃない感じ。どうしても抽象的な話になっちゃうな」
「そうなんですか……」
「こう、俺の中で何かが爆発してるような。何かが暴れてる、みたいな。
普段ある、自分が自分である感覚、自分を操作できてる感覚が薄くなるんだよな。
で、普段とは違う自分が出て来る。
壊すとか殺すのが楽しい自分が出て来る。
徐々にあれ? どっちが俺だっけ? ってなってくる。
ここで"楽な方に、楽しい方に"とか欲求に流されたら完全暴走だな。
あとはこう、必死に自分を操作してる感覚を手探りで探して、自分の手綱を握るような……」
「……抽象的なのに、大変な感じが伝わってきますね……」
「せめてもうちょっと俺の心が強ければな……
ああ、そうだ。もう一つ感覚的に似てるものがあった」
「なんですか?」
「夢だ、夢」
「夢……?」
「夢ってさ、思ったらそのまま反映されるじゃん。
夢の中の光景が、思考に沿って変わったり。
ちょっと思っただけで夢の中の自分がその通りに動いたり。
暴走状態はあれだ。嫌なことを頭が考えて、考えた瞬間には体が動いてる感じ」
「あ、そう言われると分かります」
「踏み潰したい、と思った瞬間には踏み潰そうとしてるから、本当に心臓に悪いんだよな」
杏がうんうんと頷いている。
少しは仲間として親しんでもらえたかな、と竜胆は心中で願望を呟く。
相も変わらず、杏とはまだ大して仲良くはない。
しかしこいつ他の勇者と違って濃過ぎる変な個性が無いから一人だけ正統派美少女やってんな……と、竜胆は杏に対し益体もなく思った。
「闇って怖いね……若葉ちゃん」
「そうだな。
古来より闇は"よくないもの"の象徴だ。
本当は人の胸の内に物理的な闇なんてものはない。
だが大昔の人間は、人の心の負の面に、『闇』と名を付けた。そこには相応の意味がある」
「闇の力が恐ろしいのか、人の心の闇が恐ろしいのか、俺にも本当は分かってない」
竜胆がブラックスパークレンスを取り出す。
近くでブラックスパークレンスを見たことのない勇者はまじまじと見つめたが、なんだか見ているだけで嫌な感じがする、そんな黒い神器であった。
「ただこれは、あまり良くない力ではあると思う」
「だよなぁ。先輩がそう思うのも、タマには頷けるってもんだ」
うんうん、と球子が頷く。
話の流れで杏は気付いた。
"友達だからな"といった風の雰囲気が滲み出ている。
ちょっと杏はほんわかした。
球子は竜胆の理解者気取りもしたりするが、杏の理解者気取りもしたりするので、そういうところが子供っぽくて、微笑ましくて可愛いからだ。
杏がそんなことを考えている前で、竜胆はブラックスパークレンスを強く握る。
「なんでこんな力が、俺に渡されたんだろう。他に的確な人間はいくらでもいたはずなのに」
竜胆のその問いに、正しい答えを返せる勇者はいなかった。
「警察ですら振り切って、気に入らない人間を簡単に殺せてしまう力。
癇癪を起こせば、街でも人でも全部まとめて壊せてしまう力。
ハッキリ言って、俺には自分が選ばれた理由が分からない。なんなんだ、この力は」
『何故自分が選ばれたのか』。
竜胆は考えずにはいられない。
戦いで苦戦するたび、暴走して大惨事を起こしそうになるたび、自分が殺してしまった人のことを思い出すたび、そう考えずにはいられない。
そもそも竜胆の視点では、"光に選ばれた"のか、"闇に選ばれた"のかすらも、本当は分かってはいないのだ。
「俺はグレートやパワードみたいに、意志ある巨人と一体化したわけでもない。
力は突然俺の手の中に現れてて、闇の力は俺といつの間にか一体化してた。
ティガの力が何故ここにあるのか、誰も教えてくれそうにない。
ティガダークは喋らないし、そもそも多分意志がない。本当に、なんで俺だったんだろう」
竜胆が苦悩を語ると、竜胆を勇者がじっと見つめる。
何故だろうか。
竜胆は勇者達のその視線に、大なり小なり"共感"が込められているように感じた。
若葉が頷き、口を開く。
「それは、私も……私達も、おそらくどこかで一度は考えたことだ。
私も、友奈も、千景も、球子も、杏も。ウルトラマンになった人間達も」
「……え」
「何故自分なのか。何故選ばれたのか。この力はどう使えば良いのか。
何が間違いで、何が正解で、自分はどう生きるべきなのか。答えを教えてもらいたかった」
勇者なら、心のどこかで大なり小なり一度は考えることだ。
何故自分なのか。
何故神様は自分を選んだのか。
勇者なんてものに、何故自分が?
だが、神様は勇者の選考基準を人間に伝えたことは一度もない。
特に自己評価が低かった千景、初陣で全く動けないほどに女の子らしい臆病さをみせた杏等は、竜胆のこの本音に強く共感することだろう。
神に選ばれた理由は不明。
力の行使は勇者の意志に委ねられる。
何のために戦うか、戦う理由は誰も与えてくれないので、自分で見つけないといけない。
若葉もまた、戦う前ではなく、戦いの中で仲間と共に戦う真の理由を見つけた者だった。
「だが、その答えは、きっと自分で見つけなければ意味がない。私は友にそう教わった」
若葉が仲間に微笑みかけると、友奈は嬉しそうに笑顔を浮かべ、杏は微笑み返し、球子は照れたのかちょっと恥ずかしそうに顔を逸らした。
勇者は誰もが、"自分だけの戦う理由"を持っている。
若葉は過去の妄執に囚われず、今を生きている命を守るために。
友奈は仲間も人々も皆、皆が大好きだから、大好きな皆を守るために。
球子は人を守るのが当たり前の人間で、"自分が絶対になれない人種"である杏を守るために。
杏は拠り所である居場所を守るため、"自分が絶対になれない人種"である球子を守るために。
千景は無価値な自分に勇者という価値を加え、皆に必要とされる自分で居続けるために。
ウルトラマン達もそうだ。五人のウルトラマンが全員、異なる戦いの理由を持っている。
ハッキリと言ってしまえば、彼ら彼女らは同じ場所を目指しているだけで、同じ感情と同じ気持ちを抱えて戦っている者など、一人も居ない。
全員が違う動機を持ち、全員が違う心をもって戦っていた。
……その上で。
全員が一丸となって、同じ目標に向かい、同じ未来を勝ち取るために力を合わせていた。
これは正義だ、悪だ、という話を超越している。
ここにあるのは絆であり、助け合いであり、友情であり、生きるという意志だ。
仮に天の神に正義があったとしても、その裁きを「知るか」と拒んで、「滅びてたまるか」の一言でその全てを粉砕しようとする意志だ。
例えば、千景を例に挙げてみる。
本当なら、陰気な千景とガサツな球子は友達になりにくい。
だが、仲間として助け合い、信頼し合っている。
アグルの鷲尾と千景は、友奈の友人として嫉妬が少し入るので、仲が悪いところもある。
だが互いに敬意を払い、互いの命を守り合ったことも一度や二度ではない。
千景と若葉は、千景の側が若葉に対し嫉妬や嫌厭の気持ちを抱いている。
だが、千景は若葉を嫌っているが、嫌っているのと同じくらい憧れていて、嫌っているのと同じくらい好ましく思っていた。
世界を守る、勇者と巨人の混合チーム。
彼らは綺麗なだけの気持ちで繋がっていない。
だが、強い絆で結ばれている。
それぞれが違う自分のまま、光も闇も混ぜ合わせて、一つになって滅びへ立ち向かうのだ。
「私達のこの世界は滅びたりしない。絶対に」
若葉の言葉には、力があった。
バーテックスがもたらす根源的破滅への抵抗。
それは一種の生存競争である。
天の神に正義があろうとなかろうと、絶対に滅びを受け入れないという、生物として当たり前の生き足掻く意志。
竜胆は理不尽に与えられる滅びに抗うその心にこそ、かつての自分が求めた『正義』に近い輝きを見た。
滅びを前にしても諦めない勇者の心の輝きは、本当に美しい。
「俺も全力で力を貸すよ、乃木」
「若葉でいい。お前に他人行儀にされるのは何だかむず痒い気持ちだ」
「そっか。じゃあ若ちゃんで」
「……む、そう来たか」
「だから、本気で戻れない暴走をやらかす前に、介錯頼むぞ」
「ああ、任せろ。お前はちゃんと私が斬る」
物騒な掛け合いのはずなのに、何故か友奈には、その二人のやり取りが、とても暖かで優しいものであるように見えた。
「お前を止めるのはこの私だ。
お前が死ぬべき時は、ちゃんと見極めてやる。
だから……バーテックスにも、殺されるな」
「ああ」
この空気好きかも、と友奈は思った。
「俺はちゃんと、償えるだけ償ってから死ぬよ」
「なら、長生きしなければな」
「……」
あ、変な空気になってきた、と友奈は感じた。
「すぐに死ぬつもりも無いが、そんなに長生きすること許されてないだろ、俺は」
「罪があるなら長生きして償え。私は間違ったことは言っていないだろう?」
「俺が長生きすることを許さないだろ、被害者の遺族は」
「なら私はお前が償い切る前に早死にすることを許さない。そう言ったらどうだ?」
「そのくらい許してくれよ」
「許さん」
「許せよ」
「許さん」
「……"名前ひっくり返したら『バカ』だなお前"とか言うぞ」
「……"名前にうどんが入ってるとか愉快な名前だなお前"とか言うぞ」
「……」
「……」
「面倒臭い頑固さだなお前」
「面倒臭い頑固者はお前だ」
バカわ……否、若葉も引かない。
うどんり……否、竜胆も引かない。
どことなく鍔迫り合いのような言葉の応酬。
友奈・球子・杏はちょっと懐かしい記憶を思い出していた。
昔、竜胆が来る前、皆で温泉旅館に行った時のこと。
ゲーム機やらトランプやらで、皆で勝負したことがあった。
最初はゲーム分野で最強だった千景が無双していたが、真面目で負けず嫌いの気があった若葉が初心者ながらに真剣に打ち込み、とうとう千景に勝ち越しそうなところまで行った。
ひなたのイタズラで最後は千景に負けたものの、もしかしたらあのまま行けば、最終的に若葉には誰も勝てなかったかも、と思わせるほどのものがあった。
「若ちゃんさあ、俺が長々と生きてたら最悪お前にも迷惑かかるっての分かってる?
正直俺の味方とかしてもらえんの嬉しいけど、俺庇ってたら絶対迷惑被るぞ、バカタレ」
「お前は何も分かっていないな。
たかだかお前一人程度受け入れる度量はある。
仲間としても、友としてもだ。
私は何度でも同じ事を言う。お前は生きていていいんだ」
(一度決めたことは絶対に曲げないんだなこいつ……)
(一度決めたことは絶対に曲げないのかこの男は……)
中学生らしい、子供のような張り合い。
それは信念のぶつかり合いとも言えるし、生き方の主張のぶつけ合いだったとも言えたし、ただの対抗心と言うこともできれば、子供の意地の張り合いだということもできた。
説得という言葉からは程遠い、頑固者の言葉の殴り合いであった。
球子が呆れて、杏が苦笑する。
「この二人、もしかしてちょっとバカっぽいことやってる時は似た者同士なのでは……?」
「ま、まさかぁ……いやでも、うーん……あ、そっか。
熱血・真面目・負けず嫌いの度合いが若葉さんといい勝負な仲間って、初めてなんだ……」
竜胆が伝家の宝刀「俺に生き方を押し付けるな」を抜く前に、若葉が禁断の魔剣「そう言えば何故お前は私の下着を」を抜く前に、友奈が二人の間に割って入った。
「まーまー、二人共落ち着いて! 二人共頑固者だから大丈夫だよ!」
「「 !? 」」
「二人共柔軟にふにゃっと対応できないわけでもないんだから、ほら、ふにゃっと!」
竜胆相手に限らないが、友奈は一貫して竜胆に対して優しかった。
彼女の対人行動は優しく、暖かく、柔らかい。
高嶋友奈がいるだけで、その場所の空気は格段に居心地の良いものになるのだ。
若葉の凛々しさと強さと迷わなさは、皆を引っ張るリーダーに向いている。
その代わり、弱った人間を励ましたり、人と人の衝突を折衝したりするのには向いていない。
対し、友奈は皆の間に立って仲良くさせたり、衝突を防いだりするのに向いている。
その代わり、何があっても迷わず揺らがず、皆を引っ張っていくのには向いていない。
この二人が常に人の輪の中にいれば一切問題は起きないが、逆に片方が欠けるだけでも将来的に問題が発生しやすくなる。
そういうものなのだ。
今また、友奈の行動が、竜胆と若葉が張っていた意地をどこかにやって、二人の間にあった空気を柔らかなものにしてくれていた。
「ちっ、また今度な、若ちゃん」
「いいだろう。次は竜胆、お前の部屋でだ。一対一で朝まで論議してやる」
「二人は仲が良いねー」
「「 友奈、お前…… 」」
「なんでそこで私に対しての気持ちで息合わせるかなもう!」
友奈は花咲く笑顔を浮かべていた。見ている方まで笑顔になりそうな、そんな笑顔だった。
「竜胆、最後に一つ」
「何?」
「二つ正義があるとする。相容れない正義だ。お前はどちらかの味方をしないといけない」
「ふむ」
「片や、"ルールと治安を守る"という正義を掲げる男がいる。
男は『犯罪者になってまで勝手に人を殺すな』と叫ぶ。
片や、"法で裁けない悪を裁く"という正義を掲げる男がいる。
男は『法で裁けない悪を野放しにするのか』と叫ぶ。
そうなった時、お前ならどちらの味方をする?」
「……」
竜胆は考える。
考えに、考えて。
答えは出なかった。
「……あれ」
前者の正義は、法で裁けない悪を裁けない。
例えばあの村の人間達のような悪を裁けない。
そういった悪を野放しにしてしまう。
ルールに縛られてしまう。
後者の正義は、どう言い繕っても犯罪者のそれで、人々を不安にさせる。
法律に逆らっての殺人を正義だと主張する。
その人が個人的な判断で善悪を決め、法で裁かれない悪を裁くことになる。
こちらは逆に、個人が勝手に感情で善悪を決め、それで人を裁くことになりかねない。
法に沿った正義は、時に無能になりかねない。
法を無視する正義は、半ば暴虐である。
言い換えれば、平和な社会というものは、法に沿った正義にしか作れないということ。
法に裁かれない悪を潰せるのは、法を無視する正義だけであるということだ。
ならば、竜胆はどちらなのか。
「あれ……?」
法で裁けぬ悪を裁きたいのであれば、村人なんて皆殺しにしてよかった。
千景だけの味方をして、法律や社会に守られた村の悪を、正義で潰せば良かった。
だが、彼はそうできなかった。
法に沿うなら、何も思う必要はなかった。
個人に一々何も思わず、社会のルールと法に沿うことだけ考えて、一人の千景の幸福よりも村の人間達全員の幸福でも考えていればよかったのだ。
だが、彼はそうできなかった。
こうして見ると、竜胆は個人と集団、その両方を尊重してしまっているのが分かる。
若葉が挙げた相反する二つの正義の両方が、竜胆の中にはあったのだ。
それは時に、竜胆の中で喧嘩していた正義だった。
「私は、正義について多く語られるほど立派な人間でもない。
完全な正義について論議できるほど人生を重ねたわけでもない。
だが、お前の苦しみの源泉はここにもあるということは、話を聞いていて分かった」
「若ちゃん……」
「集団、秩序、法を重んじる正義。
個人、幸福、善を重んじる正義。
お前が二つをいっぺんに求める欲張りな男であるというのは、分かった」
「欲張りってお前」
「一人で二兎を追うのは辛かろう。困難な時がくれば、私も力を貸してやる」
「え?」
「……知ってしまったからな。
三年前と同じことがあれば、私はお前と千景の味方になる。
もう二度と、お前に石は投げさせない。―――私とお前は、仲間だからだ」
「―――」
もう、あの時のようなことにはならない。不思議と、竜胆は、そう確信していた。
「かっけー……」
「おい、からかうな」
「からかってねえよ。いや本当に。
今俺若ちゃんの頼みなら大抵聞いてやれるくらいの気持ちになってるぞ」
「お、おい、からかうなと」
「いや本当に感動した。マジで嬉しい。かなり好きだぞ、お前のこと」
「おっ、おい、待てっ」
「おっまえこれ、俺がちょろくない男だったからいいものの。
そうじゃなかったら、ここでお前にベタ惚れになってたぞ……」
(リュウくん……)
(竜胆先輩……)
(御守さん……)
うろたえる若葉と、熱い気持ちをぶつける竜胆の顔がなんだかおかしくて、三人は一斉に吹き出してしまった。
ちーちゃん昼飯に誘ってくるよ、と言って、竜胆は皆から離れていった。
「あんな人が人をいっぱい殺したなんて、信じられないよね……」
友奈が呟く。
それは過去形だけで語るべき事柄ではない。
今もまだ、竜胆は虐殺を行う可能性はあるのだ。
竜胆の奇妙な人生を噛み締め、友奈の声に同情が交じる。
杏はそこに、冷静な評価を加えた。
「でも、それでも。
何の罪もないのに、あの人に殺されてしまった人は、いるんです。
今日、若葉さんが見た人達には、御守さんがバーテックスと同じに見えていたんです。
きっと、人殺しの化物に見えていたんです。
理不尽な、人を殺して回る人類の敵に、見えていたんです。
それを忘れてしまったら……何かが、間違ってしまう気がします……何かが……」
杏はまだ竜胆とさほど親しくない。
感情的にではなく、理性的に物事を見れる知能があるのもあって、彼女の指摘は正しかった。
「そう、だよな。タマんないなぁ……あぁやだやだ」
タマが愚痴をこぼす。
殺された人のことを想って、竜胆を責めた球子の気持ちは、まだ彼女の中にある。
竜胆が何も悪くないだなんて、球子は口が裂けても言えない。
もしも、あの村の人間に対し竜胆や千景が暴走したとして。
他の勇者達は、それを必ず止めるだろう。
仲間に罪を犯させないため、凄惨な殺人を行わせないために。
仲間が復讐心から一般人への攻撃を始めた場合、それを止めない勇者は千景くらいのものだ。
悲惨な過去があれば殺人が許されるなどという蛮族の主張が許されるなら、日本が法治国家として成立できるわけがない。
「だけどな、あんず」
だから、球子の選択は、決まりきっている。
「もうタマ達とあいつは、仲間なんだぞ。守り合う仲間なんだ」
いじめだとか、復讐だとか、嫌な過去だとか、苦しい人生だとか。
そんなものが渦巻いている場所から、千景や竜胆を引っ張り上げる。球子はそう決めた。
「あいつをもう一度いじめようとする誰かがいるなら。
タマは絶対にあいつをいじめさせない。
そう決めた。今日決めた。今決めたんだ。
竜胆先輩が竜胆先輩をいじめようとしても、タマは止める」
「タマっち先輩……」
「千景と竜胆をいじめんのが正しいって言うなら、タマはそれに反抗する不良で良いや」
球子のその言葉に、一も二もなく友奈が飛びついた。
「うん、そうだよ!」
彼女の声が、一気に空気を明るく暖かなものにする。
「ここで、いっぱい楽しい想い出あげないと! 昔辛かった分、たっくさん!」
若葉が、ふっと笑った。
「そうだな」
短い言葉のくせに、友奈の言葉への絶対的な賛成の意志が、言葉の中に満ち溢れていた。
「そう、ですよね。私もいつまでも怖がっていたり、嫌っていたりするのは失礼ですよね」
杏もまた、皆に賛同していた。
勇者が一致団結し、手を重ね、心を一つにして――
「
「ぼ……ボブ!」
――ボブがどこかから生えてきた。
「ナイタワ……ウチノムスメタチヨ、コンナニリッパニナッテ……」
そうしたらケンもやって来ていた。
なんというか、その。
若葉が皆を連れて竜胆から話を聞こうとした時点で察知し、竜胆の過去の話を丸々聞きつつ、ずっとその辺に隠れていたらしい。
「
ボブは強引に勇者の皆の手の中にお小遣いをねじ込み始めた。
一人一万円。
くしゃくしゃになった一万円が皆の手の中やポケットにねじ込まれていく。
それに乗じてケンは飴玉をもりもり皆の手やポケットにねじ込んでいった。
「ちょ、こんなに、こんな理由で貰えないって!」
「
「オイデ、ミンナ、アメチャンヤルゾ。アメリカダケニ、アメ、ッテナ!」
「あーもうっ!」
今日も、丸亀城は騒がしい。
次話から修行、そしてバーテックス戦、そして……