藍緋反転ストラトスフィア   作:しばじゃが

2 / 30


 落ち着いていて、何事にも動じない様。




主題 ~他愛ノ無イ兵器ノ御話~
泰然自若(たいぜんじじゃく)


「ここ最近の情勢は、どうなった?」

 

 団服のほつれた糸を引き千切りながら、俺はそう尋ねた。

 灰色の雲が覆う、薄暗い空。このシュレイド王国の中枢であるシュレイド城。その城下町を見下ろしつつ、煙草を一つ口に咥えて。

 同じく城下を見下ろす、金髪の竜人族の青年。彼は、そんな俺の問いに、快く応じた。

 

「ローグさん、しばらく『結晶の地研究所』に行ってましたもんね。『ゲイボルギア』の話は、まだ聞いてませんか?」

「だからこうしてお前に聞いてるんだろ。あの国、また領土侵害でも起こしたのか?」

「いやー、いつそうなってもおかしくない状態ですね。それこそ、今そんな報告が入ってきそうなくらいに」

「ふーん、それくらい緊迫した状況……なのかねぇ。マジで、今来てもおかしくないレベル?」

「はい。ここんとこその調査してましたけど、今日にでも武力衝突するんじゃないですかねぇ」

「よし、じゃあ賭けしようぜ。俺は来ない方に一食分賭けるわ」

「いいですよ。じゃあ僕は、来る方に一食分」

「……いつもは歯切れの悪いお前がそこまで言うなら、相当なもんなんだな。ラムダ」

 

 ラムダ、と呼ばれた目の前の青年は、困ったような表情ながらも小さく頷く。無造作に首元まで伸ばした髪からは、長い耳が伸びており。金の髪の中に、銀色のパーツが垣間見える。それは、彼もまた兵器であることの証でもあった。

 吸い上げた煙を、口の中から鼻へ、喉へと撒き散らす。胸のうちがすっと軽くなるその煙を、充分に味わっては勢いよく吐き出した。先日のクシャルダオラの如く、猛烈に。先日といっても、あれは既に数か月前の出来事なのだが。

 

「領土内のモンスターの扱いで、いつも揉めてます。特に飛竜(ワイバーン)なんかは、領土の中を行ったり来たりしますからね。それがどちらの国の資源かって争ってて、武力衝突の一歩手前なんです」

「相変わらずめんどくせぇなあの国……」

 

 ゲイボルギア。

 それは、シュレイドの東側に位置する広大な軍事国家だ。規律ある騎士団が国を統治し、多くの領土と国民を従えている。その領土は大陸の東側のほとんどを覆うほどとなり、シュレイド王国にとって目の上のたんこぶとも言える存在だ。

 シュレイド王国と、ゲイボルギア。この大陸の覇権を争うこの二大強国は、常に戦火の火種が音を立てている状態である。周辺にはいくつか中小国家が存在するものの、その国々も各々でシュレイド、もしくはゲイボルギアと協定を結んでいる。つまり、多くの飼い犬を従えた飼い主同士が火花を散らしている状態。今の状況を例えるなら、まさにそんな状態なのだ。

 

 シュレイド王国の領土は、森と丘が豊かな大陸の西側。また、西の大洋からその奥にあるあの結晶の地を有する大陸へと手を伸ばし、南部の大砂漠の国々とも着々と提携を進めていた。

 一方で、ゲイボルギアという国は湿地帯を境に大陸東部を広く統治している。北の雪山や、中央部の火山、さらに東の端の密林までと、非常に広い領土を有しているのだ。

 

「今仮に武力衝突したら、どうなるんだろうな」

「彼らは騎士団が主力、僕たちは弩の技術による中遠距離戦に秀でた兵士たちが主力です。彼らとの間合いを保つことができれば、我々の方が強いとは思いますけど……」

 

 そう言ったものの、彼は表情を曇らせる。彼は穏やかで気の良い青年だが、自分に自信を持てない傾向にある。そのため、歯切れの悪い発言をすることは珍しくない。先程言い切ったことの方が、むしろ珍しいくらいだ。

 

「けど?」

「けど、何だか不穏な雰囲気といいますか、なんていうか……」

「――――彼らの動向に不審な点があるのだよ」

 

 突然、そこに割って入ってきた人物。俺やラムダよりも背は低く、言っては何だが小太りなその男が、ラムダの言葉を補足するかのように言葉を繋ぐ。

 

「以前より騎士団で構成されていた彼らの宿舎に、妙に大きな建物が建造されるようになってね。そう、まるで馬小屋のようなものだ。それが、明らかに馬のためではないような大きさになっている。非常に不審なことだ。……君はどう考える? ローグ君」

「……エンデさん。お久しぶりです。馬小屋……ですか? 納屋とかではなくて?」

「そうだ。例えるなら、あれは馬小屋だよ。まるで何かを飼育しているかのような」

 

 葉巻を口から離しては、独特の香りのする煙を吐くその男。頬と擦れそうなほど寄った眼鏡が、光を淡く反射させた。

 彼――エンデは、このシュレイド王国の軍部を取りまとめる人物の一人である。その階級は、シュレイド兵団のナンバーツー。つまり、兵団副長だ。俺やラムダからすれば、超がつくほどの上司。それを証明するかのように、ラムダはといえば、緊張で岩のように固まってしまっている。

 

「……飼育、ですか。一体何を企んでいるのやら。して、貴方は何用で?」

「いやなに、こちらに君が戻ったと聞いてな。元気かどうか気になってね」

「それはどうも、この通り元気ですよ」

「しかし君、その隈はなんだね。睡眠や休息はしっかりとっているかね。君が担当している計画は、このシュレイドを左右する重大なものだ。ベストな状態を維持して欲しい」

「……善処します」

 

 そんなに隈が出ていたかな。なんて思いながら、目元を擦る。最近はしっかり休息をとっているつもりなのだが。睡眠をとる際も、ミューに邪魔されない限りは多く時間をとっている――――。

 が、あくまでもつもりなのかもしれない。

 一方で、彼は矢継ぎ早に質問を並べ始めた。その様子は、まるで好奇心を抑えられない子どものようだった。

 

「結晶の地研究所はどうかね? ミュー計画、及びラムダ計画の進行は? そう、ラムダ。お前の計画のことだよ」

「へっ!!? は、はい! が、頑張っております!」

「……えーっと、どちらも順調です。自分がこのシュレイドに帰還する際、二機とも移送させました。……といっても、ラムダ。君のは大きすぎるからパーツごとだけど」

「えっ、あっ、はい! 光栄であります!」

 

 緊張のあまり、俺にまで凝り固まった応対をし始めるラムダ。こんな彼も竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)の一人なのだが、大丈夫だろうか。何だか、妙に心配になってくる。

 

「ということは、ミュー計画はもう?」

「はい。ミューなら、いつでも出動できますよ」

「そうか。はは。いや、そうか。それは素晴らしい。重畳(ちょうじょう)、重畳」

 

 そう言って、彼は満足そうに微笑んだ。

 二重顎が二つの曲線を描き出す様子。これが見える時は、大抵彼がご機嫌な時である。

 

「研究所の方も、順調ですよ。火山の地熱も、結晶のエネルギーも十分です。第三機目の竜機兵も、作成しております。……と言っても、こちらはやや難航気味ですが」

「うむ、うむ。おそらく、この流れが歴史を変えるだろう。やはり、この件を君に託したのは正解だったようだ。これからも期待しているよ」

 

 いつもは薄笑いを浮かべている彼が、今日は珍しく満足そうに微笑んでいた。ラムダのことといい、今日は不思議な日だ。普段のようにはいられないほど、激動の時期が近い――なんて、考え過ぎだろうか。

 そんな淡い思考に耽っていると、兵団副長は突然、革の靴を鳴らしながら踵を返した。そろそろ会議の時間だ、と葉巻を据え置きの灰箱に落としては、小さな一歩を重ね始める。

 そんな後姿を見ながら、ラムダは俺に小さく声をかけてきた。ひそひそ話でもするかのような、そんな素振りで。

 

「……どうしてローグさんって、副長と物怖じせずにそんな話せるんですか? 僕緊張しっぱなしなんですけど」

「お前と俺だって、付き合い長いだろ? それと一緒だよ。俺が今の地位にいられるのはあの人の後押しのおかげだし、随分長いこと世話になってるんだ」

 

 かつての父と同様に、故郷にいた俺を抜擢したエンデ副長。俺のことを高く買い、この竜機兵計画の中核へと推薦してくれた。彼なくして、今の俺はない。彼には感謝しかないのだ。

 一方で、気難しい顔のまま目を伏せるラムダ。根本的な部分で違う。そう言わんばかりに重い感情を乗せた溜息を、彼は小さく吐き出した。

 

「そういうもの……ですか。僕は、いつまで経ってもあの人が苦手です。僕ら竜人を見る目が、怖いです」

「あー……まぁ、それは、な」

「ローグさんは、僕らを道具として見ませんから。だから、ローグさんとは接しやすいんですけどね」

「……むしろ、俺の方が少数派な気もするけど」

 

 竜人は、出自が出自なだけ(・・・・・・・・)に、扱われ方に大きな差がある。俺と彼が、そのいい例なのかもしれない。

 なんて思いながら言葉を返したものの、しばらくの沈黙が俺たちの間に走る。城を吹き抜ける風の音と、空を駆ける飛空船の駆動音だけが耳を揺さぶっていた。

 少し、空気が重くなってしまっただろうか。ここは、話題を変えた方がいいかもしれない。なんて思った俺より早く、ラムダは新たな話題を口にする。そう思っていたのは、彼も同じだったようだ。

 

「……にしても、三機目の竜機兵、難しいんですか? ベータ計画でしたっけ」

「あー……そう、だな。二種類の属性の混合があれのテーマなんだけど、そう簡単にはいかなくてな。結局現段階の竜機兵は二機だけだ。いや、正確にはミューのしか完成してないけど」

「僕のって、どうなってます? パーツごととか何とか言ってましたけど」

「各パーツは完成したよ。今はそれをこっちに持ってきてるから、近いうちに結合させるわ。その時、お前にも試運転してもらうからな」

「は、はい……! 楽しみです!」

 

 嬉しそうに微笑む彼の様子を見ながら、俺も頬を綻ばせる。昔から変わらない邪気のないその笑みに、俺は心のどこかで安心しているのかもしれない。

 

 結晶の地研究所は、今も絶賛稼働中だ。

 シュレイドの海洋進出計画。大陸には多くの国が存在するため領土を軽々と広げることはできないが、海域ならまた別だ。それも、未開拓の海――さらにその先の未開の地ならなおのこと。

 そうして我々が進出した先が、あの新大陸である。人類未踏のあの地には、長大な蛇の亡骸が横たわっていた。まるで山に巻き付かんが如きそれを苗床にすることで、あの大陸は独自の生態系を有することとなったらしい。

 成分から察するに、あれは間違いなく古龍(ドラゴン)である。その他にも、あの地には数多くの古龍が訪れ、また果てていることが分かった。その結果、大地に染み付いた龍のエネルギーが溢れ、奥地の火山で結晶化したもの。それが、あの大地を埋め尽くす結晶の正体だ。

 古龍を含めた数多くの生き物が集まり、強大なエネルギーを有する大規模な火山があり、古龍の力を濃縮した結晶がある。あの地は、竜機兵を作るのにこれ以上ないほど適している環境だったのだ。

 

 

 

 

 

「……あべ、もう煙草ねぇや」

「相変わらずのヘビースモーカーっぷりですねぇ。体に悪いですよ」

「うるせぇな。家じゃミューが嫌がるから吸えないんだよ。こんな時くらい気ままに吸わせろ」

「口が寂しいなら、飴玉でも舐めます?」

 

 差し出された飴を渋々受け取って、包み紙を開ける。その瞬間だった。

 シュレイド城の鐘が、高らかに鳴り響く。それも、時刻を告げる鐘の音ではない。緊急時に鳴る鐘の音。何か異常事態に陥った際にだけ鳴る、召集の合図だった。

 

「……これって」

「もしかすると、もしかするかもですね」

「……はぁ。何を奢ってほしい?」

「揚げ物の美味しい店が、西通りにあるんですよ。そこでお願いします」

 

 軽口を交わしながら、踵を返す。先程エンデが消えていった回廊に向けて、俺とラムダは歩き出した。

 

 ――――集まった先で伝えられた内容は、ラムダの予想そのもの。とうとう、ゲイボルギアとの武力衝突へと、事態は発展したのだった。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「ミュー! ミュー! どこだ!」

 

 召集の鐘が鳴り響いていたというのに、全く姿を現さないミュー。彼女の整備やメンテナンスを任されている俺は、必然的に彼女の捜索も任されることとなった。そのまま、シュレイドの街を東奔西走。インドア派の俺が、ここまで走らされることになるなんて。

 もしや、未だに自宅にいるのではないだろうか。なんて嫌な予感が走り、俺は自宅へと一直線に駆け出して。我が家の扉を、勢いよく手にかけた。

 玄関はもちろんのこと、リビングにその姿はない。トイレも空で、キッチンにも人の気配はなかった。ここでもないのか、なんて思いながら寝室のドアを開けた時、俺の体は思わず急停止する。

 

 ベッドにばら撒いた銀色の髪。あの青い瞳を、長いまつげと小振りな瞼で包み込んでは、幸せそうに眠る少女。陽も昇り切ったというのに、彼女――ミューは自宅で惰眠を貪り続けていたのだった。

 

「……マジかこいつ。いや、元々今日は訓練も入ってなかったもんな……あーでも今は非常時だしな……つか、こいつ」

 

 藍色の我が髪を掻き乱しながら、目の前の銀色の塊に目を向ける。

 むにゃむにゃと言葉にならない寝言を漏らしながら、寝返りをうつ彼女。そんな彼女が着ているのは、俺が今朝脱ぎ捨てたはずの寝間着用のシャツであって。

 ――どうして、こいつが着てやがる。

 

「おい、ミュー! ミュー! 起きろ!」

「……んぁ。……むぅぅ、おはよぅ……ろーぐ……」

「なーにがおはようだ、もう昼だぞ。ほら起きろ」

「うー……眠い……」

 

 何とか起こして、ベッドの上に彼女を座らせた。座らせたのだが――。

 それでも、彼女の意識は未だに朦朧としているようで、首をかくんと振り下ろす。サイズが合ってないためか、シャツの首元はどんどんずり下がり、左肩が露わになった。

 

「非常事態だ。ゲイボルギアの騎士軍とドンパチやるんだとさ」

「うぁー」

「奴ら、どうやらシュレイドの領内のモンスターに手を掛けたらしい。モンスターは、国の重要な資源。それの強奪は領土侵害に等しい行為だ。後は分かるな?」

「はにゃー」

「……とにかく、お前の出番だぞ。竜機兵の力、見せてやれ」

「…………くぅ」

 

 ぱたんと、俺に倒れ込むように。ミューは意識をなくしては、再び夢の世界へとダイヴする。

 

「だああぁぁ! 起きろぉ! 寝るなぁ! 大体お前、何で俺の寝間着着てやがんだ!」

「むぅー……うるさいなぁ……。だって、ローグいなくてつまらなかったんだもん」

「つまらないからって、人の寝間着着るか普通!? いいから起きろ! 顔洗え!」

「うー、分かったよぉ……」

 

 気だるげに起き上がり、洗面所に向けて歩き始めるミュー。起き上がったはいいものの、ここからが長かった。

 顔を洗わせ、髪を整えて、戦闘着へと着替えさせ。人形のように無抵抗な彼女をあれこれと世話をしていると、俺は竜機兵の整備士なのか、それとも彼女の保護者なのか、分からなくなってくる。

 ――出動が大幅に遅れてしまったのは、言うまでもないだろうか。

 

「パパー。歯磨き粉、もうないよ」

「誰がパパだ、誰がッ!!」

 

 






 時代設定って、難しいですよね。


 モンハン世界の各地で見られる古代文明。その現役時代が、本作品の時代設定となっているんですけど、これがまた難しい。スーパーサイバーチックなのは何だか似合わないし、どれくらいの科学水準なのかが何とも言えない。
 個人的には、遺伝子工学や生物学系の科学技術だけ異様に発達した、現実とはまた違った文明ってイメージです。だから町並みとかは欧州ファンタジー的かなぁ。ジブリ版ゲド戦記の街並みとか、あんな感じのが好きです。
 現代的なビルとかがあれば、それが残ってるはずですもんね。遺跡とか見る限り、そんな文明ではなかったのかな? あと旧時代らしく、古龍はドラゴン、飛竜はワイバーンって呼んでて欲しいです。文字数嵩むから、表記は漢字のまま書きますけども。
 本作における竜大戦は、人対竜ではありません。人対人、国家間の戦争です。それについて、これから少しずつ語っていければと思います。
 次回からは、ちゃんと竜機兵らしくいきたいなぁ。

 あっ、この世界の地図作りました。イメージの助けになれば幸いです。

【挿絵表示】

 周辺諸国は、多分作品内ではほとんど明記されないとは思います。まぁこんな感じの名前って捉えていただければ。名前の元ネタに気付いてもらえたら、嬉しいな。イタさましましなのが少し辛いけど(´・ω・`)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。