とある科学の異能干渉≪アビリティジャック≫ 作:どうも厨二です
自信は全くないですがそれでもいいならどうぞ!
『学園都市』
総人口約230万の、東京西部の未開拓地を切り取って作られた、完全独立教育機関。
住人の八割が学生で構成されており、彼らは日々、学園都市の指定する特殊カリキュラムである能力開発に生を出している。
その学園都市の並び立つビル群を見ながら、夜衣(やい)真琴(まこと)は感嘆のため息をついた。
「やっぱ凄いなぁ……外とは技術の発達が違うや」
今日初めてこの都市に来た夜衣は、見るもの全てが珍しかった。
街中を徘徊しているドラム式清掃ロボ。運転手なしの電車やバス。外とは比べものにならないほど高い建造物。
どれもこれも新鮮で、見ていて飽きることがない。
清掃ロボをじっくり眺めたり、そろそろと触ったり、周りから見れば不審者丸出しだが、夜衣はそんなことには気づかないほどはしゃいでいた。
「っと、そろそろ行くかな」
一通り清掃ロボで遊んだ夜衣は、背負っているリュックサックから地図を取りだし、目的地の確認を行う。
彼は、この春からこの都市の高校に通う新入生だ。
手続きなどは既に済ませているのだが、用意されている夜衣の部屋にはまだ一度も踏み入れていない。つまり、送られているはずの荷物は手付かずのまま、部屋に段ボールの山として詰まれている。
夜衣としては、夕食の買い物などもあるので、せめて眠るスペースが出来るくらいにはさっさと片付けたいのだ。
地図を見て、道行く人に訊ね、歩きに歩いてたどり着いた時には既に一時間ほど経っていた。
「広すぎだろ学園都市……」
外とは勝手が全く違うことに戸惑うが、それも直に慣れるだろう。
寮の管理人に軽く挨拶をし、エレベーターで自分の部屋のある七階まで移動。
かなりの高度なので普通は見晴らしがいいはずなのに、学園都市のバカみたいにでかい建物のせいで、ここから見えるのは精々隣接する道路までだった。
その事に落胆を覚えつつ、与えられた部屋の前まで移動する。
どうやら、夜衣の部屋は一番端らしい。
「お隣さんは上条って人か……後で挨拶しないとな」
挨拶の品もちゃんと用意してある。夜衣の地元で知らぬ人はいない、みそピーだ。これ本当に上手いから好評間違いなし。絶対に。
そんなみそピーに絶対の信頼をおきながら、渡されていたカギでこれからお世話になる部屋に入り、まず最初に思ったことは、
「……汚っ!」
段ボールが詰まれているのは予想通り。しかしこの部屋、しばらく使っている人間がいないのか埃が舞っていて、息を吸うと咳き込んでしまうレベルだった。
ベランダに続く窓を開け、換気扇を回し、荷物の中にあった掃除用具で埃と格闘し、落ち着いた頃には夜衣は疲れて片付けをする気力がなくなっていた。
ただでさえ長い移動で疲れているのに、初めて見るものにはしゃいで、ピカピカの部屋を期待していたのに埃まみれで、なんかもう色々な意味で疲れていた。
ふと時計を見てみると、針は午後三時半を指していた。
「……寝よう」
幸いベッドだけは新品同然の清潔さだったので、もう今日は片付けなくていーや。
(そんなわけで夢の国へ行ってきまーす)
夜衣が目を閉じ、今にも意識が外界から遮断されようとした時、
「不幸だぁああああああっ!!」
「っ!? な、なんだぁっ!?」
突然聞こえた叫び声に飛び起き、何が起きたのかと右左と首をふる。心臓がばくばくと鳴り、頭が混乱する。
「い、今の声、外からか……」
何があったのか確認しようと、部屋を出てすぐのところで、隣の上条さんの扉の前で、うずくまっている少年を見かける。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ると、ツンツンとウニの様に尖った髪型の少年は、涙目で夜衣に振り返った。
「あ、あぁ……だ、大丈夫です、本当……うん、ダイジョブ……」
段々と声が沈んでいく少年に、なんと声をかければいいかわからなくなる。ふいに、夜衣はその少年の手に持っている、見慣れないものに気づいた。
「あの、それは……?」
少年が両手で水を掬うように持っていた小さな円柱状のものは、もう完璧に壊れてはいるが、配線があることや材質から機械であることだけはわかった。
「あぁ、携帯だよ。さっき高校にあがった記念に、ちょっと奮発して買ったばっかりなのに……不幸だ」
「あ、あはは……」
学園都市の携帯の形状に驚く以上に、気の毒さが勝った。
「あ、そうだ。もしかして上条さんですか?」
「? そうだけど?」
「ちょっと待っててください」
夜衣は部屋に戻ると、荷物の中からみそピーを一袋取りだし、上条のところに戻った。
「俺、今日隣に引っ越してきた夜衣真琴っていいます。これ、良かったらどうぞ」
「えっ!? いいのか!?」
「はい」
「サンキュー!」
先ほどのどん底オーラが嘘のように喜ぶ上条を見て、不運に慣れているんだろうか? などと考えて、更に気の毒になる。
「あ、俺は上条当麻。今度高校一年になる」
「俺も今年で高一です」
「同い年なら、敬語で話さなくていーだろ」
「それもそうか」
そのまま話をしていると、上条と夜衣の通う高校が同じだとわかり、二人はそのまま上条の家にあがって話すことにした。
「へぇ、夜衣はここに来たばっかなのか」
「うん。今まで住んでたとこと技術が違いすぎて驚いたよ」
学園都市の技術は、外に比べて二、三十年は進んでいるため、夜衣からすればちょっとしたタイムスリップをした気分だった。
「そのうち慣れるよ。そうだ、今から街を案内しようか?」
夜衣はそのありがたい申し出を二つ返事で頷いた。
◆◆◆
いやぁ、初日から上条みたいないい人と友達になれるなんて、ついてるなぁ。
そう思っていた時期があったなぁ、と夜衣は全力疾走しながら遠い目で思いを馳せていた。現在彼は、不良から絶賛逃走中だった。
「くっそ、しっつけぇなぁ!」
後ろを確認すれば、鬼の形相で追ってくる不良達。もうかれこれ三十分は走っているので、本当にしつこい。
そもそもなぜこうなったのかというと、原因は上条にあった。といっても、別に彼が悪いわけではない。
ただ不良に女の子が絡まれていたので、それを助けようと介入。四人くらいなら夜衣と二人でなんとかなるかと踏んでいれば、後からぞろぞろとお仲間が登場。どさくさ紛れに女の子が逃げたのを確認した後、すぐに逃走し、現在に至る。なお上条は、逃げている途中にはぐれた。
生来ビビりの夜衣は、泣きたくなるような気持ちで必死に足を動かす。
(捕まってたまるか捕まってたまるか捕まってたまるか捕まってたまるか捕まってたまるかっぁあああああああああ!!)
路地裏の複雑な通路を利用し、何度も曲がり角を曲がり、息も絶え絶えになった頃にようやく不良をまくことに成功した。
「はっ、はぁ、はぁっ……に、逃げきったぞ……」
近場の公園にあったベンチに腰掛け、一息ついたところでふと気づく。
「……どこだここ?」
不良とのチェイサーの次は迷子ときた。初日にして激動しすぎだろ、とため息を吐く。
……喉乾いた。何か飲むかと目についた自販機にいくと、先客がいた。
茶色い髪を肩まで伸ばした、綺麗な顔立ちの少女だった。少女は何かの構えをとると、「チェイサー!」のかけ声とともに、紺のブレザーのよく似合うその細い体躯からは想像も出来ない鋭い回し蹴りを自販機にお見舞いした。
「……」
呆然とする夜衣の前で、少女は出てきた缶ジュースを礼儀もなにもない一気飲みのような姿勢で飲み始めた。
(……もしかして、学園都市じゃあれが普通の自販機の使い方か?)
もしそうじゃなければ、立派な窃盗罪だ。こんな白昼堂々と年端もいかない女の子が、そんなことするはずがない。
そう結論付けて、夜衣は自販機の前に立ち深呼吸。息を吐いて一拍、気合いをいれて回し蹴りを放った。
「チェイサー!」
かけ声ももちろん忘れない。
ガンっ、と鈍い音が響く。横にいた少女がなにやら驚いたようにこちらを向くが、夜衣は気にせず取りだし口に落ちてきた缶ジュースを手に取った。
書かれていた文字は、みかんコーヒー。
「……」
誰だよ、これ作ったの。
飲みたくはないが、貧乏学生にとってはたとえ缶ジュース一本でも捨てるなどという選択肢は論外だ。それに、もしかすれば、万が一にでも意外と上手いという可能性が残っているかもしれない。
プルタブを開け、恐る恐る口を近づける。
大丈夫、大丈夫だ……。
そして一口、口に含んだ感想は、
「うぇっ」
予想通りの不味さに思わずそんな声を出してしまう。
(なにコレ、典型的な上手いものと上手いもの混ぜて失敗したパターンだよチクショウが。さっさとこんなもん廃棄しやがれ)
「ぷっ、あはははっ!」
これから一缶丸々飲まないといけないことを憂鬱に思う夜衣の耳に、いきなり横から吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
顔を向ければ、そこには先ほどの回し蹴り少女。お腹を抱えて大笑いする様は、女子がしていいものなのだろうか?
「……んだよ」
ジト目で夜衣が睨むと、それに気づいた女の子は笑いをおさめて話しかけてきた。
「いやーごめんごめん。あんたの反応が面白くってさー」
「謝る気ないだろ」
女の子の言葉にため息を吐き、みかんコーヒーをもう一口。今度は心構えが出来ていたのでさっきのように声をあげることはなかった。ただ、あまりのまずさに衝撃を受けていた最初よりも冷静にクソまずい味を味わうことになり、余計に飲む気が失せた。
捨てるわけにもいかず、さてどうしようかと思ったところで少女のことを思い出す。
「…………いる?」
「いらない」
デスヨネー、と即座に少女に押しつけるのを諦め、次の選択肢を探す。
……ちょくちょく飲んでも口の中を長時間最悪の味わいが支配するだけ。ここは男らしく一気飲みしたほうが、被害は少ないんじゃないか? さっさと上条を探して合流したいし、いつまでもここにいるわけにはいかない。
迷子のときはあまり動かないことが鉄則だが、先ほど不良を撒いた場所からたいして離れていないここにいるのも不安だ。
結論、一気飲みしよう。
一つ息を吐き、勢いよく缶の中身を煽る。
三口目辺りで口を離しそうになるのを気合いで押しとめ、七口目には吹きそうになったのを女子が目の前にいるのを思い出し留まり、最後の一口を飲み終えるころには吐きそうになるのをただ必死に耐えていた。
「……あー、あんた大丈夫?」
「大丈夫。暑くもないのに汗が止まらないとか吐きそうとか少し目眩がするけど、きっと大丈夫……」
「……人ってあまりにまずいものを摂取すると体調壊すのね」
駄目だ。少女の哀れな者に向ける目が耐えられない。
夜衣は無言でみかんコーヒーの缶をゴミ箱に放り、公園を後に――
「見つけたぞオラァッ!」
しようとしたところで、先ほどの不良どもに見つかった。しかも数が増えている。どうやら増援を呼んだようだ。
(うわっ、最悪だ。見つかっちまった。数はえっと、ひーふーみー……げっ、十人もいやがる。勝ち目がねぇ)
状況を即座に理解した夜衣はすぐさま反対方向に逃げようとするが、既に数人が回り込んでいた。
他に逃げ場はないかと首を巡らせるが、右も左も不良だらけ。つまり囲まれた。
不良達で出来た輪の中に、夜衣と先ほどの少女という構図。
「…………詰んだ」
ここはもう、潔く土下座でもしようかな。乱闘になったらこの子も巻き込んじゃいそうだし。なんて考えていたら、不良の一人が話しかけてきた。
「んだよテメェ。俺らから逃げてたのは彼女との待ち合わせがあったからか、あァ?」
は? と夜衣と少女が呆気にとられていると、不良達は次々にまくし立ててきた。
「彼女持ちのくせに他の女助けるなんざぁカッコいいですねぇ」
「もしかして、さっきの子狙ってたりしてたんじゃねぇの?」
「二股かぁ?最低だなぁ!」
うぜぇ! 不良達の非モテが彼女持ちに対する怨嗟の声に、思わずそう叫びそうになる。隣の少女も顔をヒクヒクと痙攣させているところを見る限り、ご立腹のようだ。
延々ともはや愚痴のような言葉を投げかけられるこの状況に辟易として、もう砕け散る覚悟で不良達に突っ込もうかなーと考えたところで、一つの変化が起きる。
「お?よく見りゃこの子可愛くね?」
「確かに、こりゃかなりの上玉だぞ」
不良達が少女に絡み始めたのだ。
(くそっ、人を助ける為に他人巻き込んじゃ本末転倒だ)
この状況を作ってしまった自分に苛立ちながら、打開するために最も効率のいい方法を頭の中で算出する。
善は急げとばかりに、今考え付いた作戦を即実行に移す。
「おいコラクズども。何小学生相手に盛ってやがる。発情期か?」
「……あ?」
夜衣のさもバカにしたような口調に、少女に注目していた奴らが、一斉に彼に視線を移す。その目は、血走しるほどの怒りをはらんでいた。
(よし、こっちに注意がいったな)
夜衣の考えた作戦とは、自分に怒りを向けさせ、自分がボコボコにされている間に逃げてもらうという単純なものだ。なお、その後のことは全く考えていない。
(もっともっと煽って煽って煽りまくってやる!)
しかし後先考えないバカは、現在に必死すぎて己の悲惨な未来にまで視野にいれる余裕はなく、どんどん自ら崖っぷちへと駆け抜けていく。
「こんだけ数揃えないとこんな子供もナンパできないんですかぁ?不良で草食でロリコンって、お前ら救いようがなさすぎだろ」
拳をならし、血管が浮かび上がらせ、今にも飛びかからんばかりの不良達。しかしその中に、不自然な音が混じる。そう、まるで火花を散らすようなバチバチというような音だ。その音に気づかない夜衣は、更なる暴言を吐く。
「こんな礼儀も知らない小学生の子供に女としての魅力を感じるような変態ども相手には、負ける気がまるでしねぇなぁ」
ぶちっ、と血管の切れる音がした。ただし不良達からではない。すぐ側でだ。
そこに来てようやく、夜衣は自分のすぐ後ろにいる少女の身体から、青白い紫電が爆ぜているのに気がついた。
「あ、あれ……?」
ナニコレ、人間の身体から稲妻が? 万国びっくりショーの人でしたか?
そんなアホな考えをしている間にも、紫電は大きくなっていく。
「あんた……そんだけ人をバカにしたんだから、覚悟は出来ているわよね?」
「え?な、なんでこっちを睨んでるの?」
何かしただろうか? などと考える夜衣は、少女の来ている制服が、学園都市でも五本の指に入る常磐台『中学』のものであることを知らない。故に、小学生扱いされた少女の怒りを、理解出来るはずもない。
なので夜衣は、無難な言葉を使うことにした。
「お、怒ると肌に悪いぞ?」
ブッチぃっ、と今度こそ完全に血管がキレた。
「あ・ん・た・の、せいだろうがぁあああああああああっ!!」
少女が叫びと共に電撃を放つ。その範囲は膨大で、夜衣はおろか周りの不良達すら巻き込み、辺り一帯を焼き払った。
「ったく、こんなことに能力使うなんて――」
呆れたように自分が焼いたものを見ていた少女は、途中で言葉を途切れさせた。
あり得ない、そう語るかのように見開かれた目には、黒焦げの地面に立つ、傷一つない夜衣の姿が映っている。
(嘘、今のを無傷……?一体どんな能力を――)
そこまで考えたところで、夜衣に動きがあった。
少女に背を向け、全力で走り出したのだ。
「あっ、ま、待ちなさいよぉっ!」
慌てて、少女も夜衣を追いかける。
夜衣にとって、命懸けの追いかけっこが始まった。