とある科学の異能干渉≪アビリティジャック≫   作:どうも厨二です

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2話 「初日からレベル5にケンカを売られてただと……!?」by夜衣

少女が電撃を放つ瞬間、夜衣をある感覚を支配していた。

 

身体を何かが駆け巡るような、周囲に見えない力が蠢いているような、とにかく普通とは違う、世界からずれたような感覚。

 

そして迫りくる恐怖を、夜衣は明確に予知することが出来た。

 

 

このままここにいれば、自分には確実に危険が迫る。だが、避けることも出来ない。

 

だから、彼は目を瞑り、頭の中で強く思った。

 

――こっちに来るな!

 

辺りを轟音が包み込む。そして目を開けた時に、夜衣が見たものは驚いたようにこちらを見る少女と、焼けた地面と不良達だった。

 

それを見て、恐怖が身体を支配した。

恐い。一瞬で、あれだけの数の人間を昏倒させる少女が、恐くて仕方なかった。

 

この学園都市では、能力を使って人を傷つけるのは、当たり前の光景なのかもしれない。しかし、今日ここに来るまで超能力なんてものを見たこともなかった夜衣には、今の光景は震え上がるほどに恐かった。

 

逃げなきゃ。そう思った時には、足は全力で動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「はっ、はっ、はっ……ちくしょうっ、今日は追いかけられるのが多いなっ」

 

路地裏にしてはそこそこ開けた走りながら、夜衣は今日という日を嘆く。窮地に立たされそれを打開しようとすればするほどどんどん危険な目にあっているのは何故なんだろう?

 

後ろからバチッという音が聞こえるのと同時に、背筋に冷や汗が流れる。

 

分かる。何故かは分からないが、夜衣には分かった。次の瞬間に、自分の上半身に向かって電撃が放たれると。

 

「っ!」

 

夜衣はとっさに、右に一歩ずれた。

 

瞬間、自分の真横を紫電が横切った。

 

「あぁ〜もう避けるな!」

 

「無茶言うんじゃねぇ!」

 

先ほどからこれの繰り返しだ。少女が電撃を放ち、夜衣がそれを避ける。

 

夜衣からすれば、たまったものじゃなかった。

 

そもそも追いかけられる理由というのも、少女の言葉から夜衣が彼女の電撃を防いだからだと推察出来るが、夜衣本人からすれば、

(ただ単に自分のノーコン棚に上げてるだけじゃねぇか!)

 

と涙目になりながら叫び出したい気分だった。

 

(くっそ、このままじゃじり貧だ!いつか絶対に当たる!その前になんとか手を……)

 

何かないかと探し回っていると、ふとあることを思い付く。

 

そしてすぐさま、方向転換して脇道に逸れた。

 

「ちっ、チョロチョロと……!」

 

後ろからの悪態なんて無視して、必死に走る。

 

ちょくちょく飛んでくる電撃をしゃがんだり、転がっている空き缶を誘導体としてのデコイに使ったりしてやり過ごしながら、ただひたすら前を目指した。

 

そして、目的の場所に辿り着く。

 

表通りだ。それも、人が大勢行き交うような。

 

表通りに出るや否や、夜衣は作戦を実行する。

 

同じく表通りに現れた少女に向かって大声で叫んだ。

 

「こんなところで電撃使ったら、辺りの電子機器がぶっ壊れるし、他人に飛び火するぞ!」

 

「なっ!」

 

驚いた少女が足を止めた隙を逃さず、人通りの間を縫うように駆け抜ける。

 

こうすれば迂闊に電撃は放てない(と思いたい)し、人混みに紛れて撒ける確率があがる。

 

肩や足がぶつかる度に迷惑そうな顔をされるが気にしない。後ろから聞こえる「卑怯者ーっ!」なんて叫びも気にしない。

ある程度離れたと判断してから、バレないように気をつけながらこっそり路地裏に戻った。

 

(よしっ、後はただ全力で走るのみ!さらばだ電撃少女よ!)

 

いくつもの曲がり角を曲がり、十分に離れたところでようやく一息つく。

 

「ふぅ、なんとか逃げ切った」

 

「誰から?」

 

ぎゃーす、と叫びそうになるのを必死に押さえる。

 

恐る恐る、顔をあげるとそこには笑顔の電気女。

 

「な、なんでここが……」

 

「私の能力って、レーダーみたいな使い方もあるのよ」

 

マジか、最悪だ。

 

慌てて退路の確保を計るが、後ろはふくろこうじで前には電撃。逃げ場のないこの場所で、きっと自分はビリビリ焼かれて土に還るのだろう。

「……んなことになってたまるかぁっ!」

 

「んなっ!?」

 

半ば自暴自棄になった夜衣は、少女にタックルをかまして押し倒した。

 

もはや相手が子供などということは頭の端から追い出している。

 

「ったぁ〜」

 

少女が痛がっている間に立ち上がり、何度目かわからない全力疾走。

 

「待てやゴラァッ!」

 

すぐさま追いかけてくる少女の声は、先ほどよりもドスのきいた声だった。

 

(どこまで逃げればいいんだよ!)

 

時刻は四時半。昼寝のためにベッドに寝転がって上条の悲鳴に起こされてから、まだ一時間しか経っていない。なのにもう、数日分の経験をもらった気がする。全くありがたくはないが。

 

あの時、上条の悲鳴を無視してれば、今ごろのんきに夢の中を漂ってたんだろうなぁ。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

三十分後。

 

あれから何度も表通りと路地裏の往復を繰り返した(一方的に)電撃飛び交うチェイスに、決着がつこうとしていた。

 

夜衣の敗北という形で。

 

「はぁ、はぁっ……あ、あんた……もう、逃げ場、ないわよ……」

 

息も絶え絶えな少女の表情は、疲れてはいるがその目は爛々と輝いている。

 

対する夜衣も、息は切れ既に走る体力もほとんどないが、しかしなんとか逃げる策を練っていた。

二人がいるのは、既に廃墟となった建物が並ぶ一角だ。

 

辺りに人気はまるでなく、開けたこの場所に逃げ場はなかった。

 

(くっそぉ、なんて執念なんだよこいつ……ここまで怒るなんて、俺が何をしたってんだよ……!)

 

小学生扱いしたこととは露知らず、夜衣にとっての死神の鎌となりえる電撃ビリビリの刑を受ける時間は、刻一刻と迫っている。

 

(こうなりゃノーコンを期待するしか……)

 

そこで夜衣は、また危険を感じた。何もない空間に生じる、波のような歪み。

 

しかしその波は、自分ではなく少女へと伸びていた。

 

気づけば、今まで逃げていた相手に向かって一心不乱に走っていた。

その表情はこれまでの情けないものではなく、真剣そのものだった。

 

「ふん、ようやくやる気になったのね……!」

 

それを勘違いした少女が臨戦態勢に入ろうとするのを、夜衣は制止する。

 

「バカッ!後ろだ!」

 

「え!?」

 

少女が振り返ると、もうあと数メートルにまで迫った火球が。

 

(やばっ!あいつに気をとられすぎた!)

 

普段の少女ならば、無意識に周囲に放つ電磁波がレーダーの役割を為して、なんなく気づくことが出来たが、意識を夜衣に集中させすぎたせいで、注意されるまで気づかなかった。

 

急いで電撃で撃ち落とすよりも先に、後ろから夜衣が少女を押し倒したことにより、火球は二人の真上を通りすぎていった。

 

すぐに立ち上がり火球の来た方向に目を向けると、ガラの悪そうな男達が暗がりの路地からぞろぞろと出てきた。

 

「なんなのよ、あんた達!」

 

遅れて立ち上がった少女が、男達に叫ぶと、一番前にいたリーダーっぽい奴が応対した。

 

「ただのレベル5狩りだよ」

 

「レベル5狩り?」

 

首をかしげる夜衣の横で、少女は全てを納得したようにため息を吐いた。

 

「あー、そういえばそんなのあったわねー」

 

「どういうことだ?」

 

「単純なことよ。学園都市に七人しかいないレベル5。そいつを倒せば、自分もその座につけるって勘違いした奴らの間で流行ってる下克上よ」

「??」

 

未だにクエッションマークが消えない夜衣に、少女は「ああ」と頷き、

 

「私、レベル5なのよ。序列は第三位」

 

「はぁああああああああああああああああああっ!?」

 

あまりのぶっちゃけに目が飛び出るんじゃねぇの? と思いたくなるほど驚く夜衣。

 

(嘘だろ!?レベル5!?あの軍隊を正面から潰す力を持つ!?そんな相手に取り柄勉強の一般人たる俺は追いかけ回されていたのか!?ありがとう名も知らぬ男達!君たちのおかげで標的が移ってくれたよ!せめて安らかに電撃に焼かれてくれたまえ!)

 

男達に静かに合掌していると、先ほどのリーダーが手のひらに火球を作った。

 

他の人間もナイフや鉄パイプなどの武器を手に握っている。

 

「……え、えっと、あれ確実に人を殺す気満々な集団にしかないんだけど、本当に大丈夫か?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。あの程度なんてことないから」

 

さっきはあれだけいがみ合っていたのに、普通に会話してるなんて不思議だなー、なんてのんきに考えている間に、戦闘は開始された。

 

決着は二秒。少女が極大の電撃を放って終わった。

 

「…………さっきは加減してくれてありがとう」

 

「これでもかなり手加減してるわよ」

 

マジか、と黒焦げた集団を見て、再び少女の方に向く。

そして恐る恐る尋ねた。

 

「な、なぁ……ま、まだヤる気だったりするか?」

 

「……はぁ。もうそんな気分じゃないわよ」

 

ほっ、と一息つく。ようやく電撃地獄から解放された。

 

「あ、そういやなんであんなに怒ってたんだ?」

 

「あんたが私を小学生扱いしたからでしょうが!!」

 

「えっ、もしかして中学生!?」

 

「なんかレベル5って知った時より驚いてない?」

 

「気のせいです」

 

ジリジリと近づいてくる少女と同じだけ後退する。

 

そんな風にじゃれていると、再びあの感覚が夜衣を支配した。

 

空間に生じる歪み。それは自分たち二人を斜線上に捉えていた。

 

慌ててそれを辿って視線を向けると、そこには今にも気絶しそうなほど意識が朦朧としたリーダーの男が、火球の作った手のひらをこちらに向けていた。その大きさは大きくなったり小さくなったり、形を歪めたりと、まるで暴走しているようにも見えた。

 

そして、放たれる。

 

咄嗟に、夜衣は少女の肩を押して斜線上から逃がした。

 

いくらレベル5でも、不意討ちには対応出来ないところを、つい先ほど見たばかりだからだ。能力がなければただの女子中学生。あんなものをくらって一生残る火傷でも負ったら洒落にならない。

(うわぁ……これもう絶対に避けれないよ。しかもあのリーダー男、暴走してるっぽいし。……はぁ、初日から火傷とか、最悪だ)

 

初日の不運を嘆く夜衣。そんな夜衣に、ふとした光景が思い出される。

 

(そういや公園の時も、もう駄目だって思ったのに無事だったよなぁ。あの時は確か……)

 

その時の感覚が、甦ってくる。そしてまた、あの電撃を放たれた瞬間と同じように、本能が叫んだ。

 

――こっちに来るんじゃねぇっ!

 

次の瞬間、あり得ない光景が目の前で起こった。

 

真っ直ぐ自分に向かっていた火球が、突如としてその進行方向を曲げ、夜衣の横を通りすぎていったのだ。

 

「……は?」

 

意味不明な現象を目の前にして、呆然となる少女。

 

そんな少女が見ている夜衣は、少女以上に訳がわからないという顔をしていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「……で、結局あんたの能力はなんなのよ?」

 

夕暮れの中、まだ春休みだからか、私服姿の学生がほとんどの大通りを歩きながら、少女は夜衣に尋ねた。

 

あの場所から離れる時から、なんとなく一緒に歩いている二人は、ようやくといった具合で話を始める。

 

「知らないっての。こっちが教えて欲しいぐらいだ」

 

夜衣が学園都市に来たのは本日が初めてであり、この人生十五年の間に『頭の開発』なんてものを受けた覚えは一度たりとも記憶の片隅にも引っ掛からないのだ。

 

先ほどの不可思議な現象の心当たりなどあるはずもなく、むしろ夜衣本人が教えて欲しいぐらいだった。

 

「んなわけないでしょ。あんだけ強力なら、自覚なしに使えるはずが――」

 

「俺は今日学園都市に来たばっかなんだよ。つまり、カリキュラムを一度も受けてない人間だ。能力の心当たりなんて微塵もねぇよ」

 

「…………はぁ?」

 

自分の言葉を遮られる形で語られた言葉の意味が理解できないといった様な、乙女が出してはいけない声音が返ってくる。

 

「うわー、めんどうなことになりそー」なんて夜衣の嘆きの予想通りに、少女は詰め寄ってきた。

 

「嘘でしょ!?あんなこと出来るんだから、レベル4以上のはずよ!」

 

「いや、ですからわたくしめは今年から学園都市に通うことになったピッチピチの新入生なのですよ、はい。故に能力なんてものとは無縁な一般ピープル略してパンピーだと主張します」

 

「……あんた、私の相手が面倒だからって適当に言ってんじゃないでしょうね?」

 

「だったらさっさと能力の詳細話しておさらばするっての」

 

さらりと嘘をつく夜衣。もし能力のことをわかっていても、後日対抗策を練ってきた少女に再び勝負を申し込まれる未来しか思い浮かばないから、絶対に言うことはないだろう。

 

そんな思惑を知らない少女はそれで納得したのか、「それもそうか……」なんて呟いている。

 

「って、じゃあさっきのって能力じゃなくて何かトリックでも使ってたの?」

 

「いんや、俺は本当に何もわからないよ。誰かが影から能力使ってくれたんじゃねーの?」

 

「誰かって誰よ?」

 

「……正義のヒーロー?」

 

「アホくさ。そもそも、それだと公園からさっきの廃墟までずっと付き添ってたってことになるわよ?半分ストーカーじゃない」

 

「うわっ、それは確かに嫌すぎる」

 

結局、先ほどのことはわからず終いのまま、「ま、いっかー」という結論に至った。少女は納得していないが、夜衣がごり押しして無理やり話を終わらせた。

 

「あ、そういや上条ってどうなったんだ……?」

 

今さらながら学園都市の記念すべき友達一号を思い出す。今ごろは不良を撒き終わって、自分を探しているかもしれない。

 

しかし学園都市用の携帯を持っていない夜衣と数時間前に壊した上条の間に、連絡手段はない。合流場所を決めていた訳でもない上、夜衣は現在位置すらわからないので完全に手詰まりだった。

 

うーん、と悩んでいたところで思い出す。自分の隣に、ガイドにふさわしい人物がいるではないか。

 

「なぁ、頼みがあるんだけど」

 

「なに?ナンパだったらお断りよ」

 

「迷子なので道案内プリーズ」

 

「…………………………」

 

哀れなものでも見るような目線に耐えれず、視線を明後日の方に逸らす。

 

その後、二人は気まずい空気をしばらく味わい、

 

「……どこ行きたいの?」

 

「……第七学区の高校生の住宅エリアでお願いします」

 

何事もなかったかのように、歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「あっ!ここからならもう分かるよ」

 

歩くこと十五分。ようやく見知った道に来たことで、ホッとため息をつく。

 

「そ、良かったわね」

 

「ああ、ありがとな」

 

「別に、私のせいなんだから気にしないでいいわよ」

 

少女と会った時点で迷子だったことは、言わぬが華であろう。

 

「じゃ、機会があればまたな」

 

別れの挨拶をして、立ち去ろうとしたところでふと気づく。

 

「そういやお前、名前は?」

 

「御坂美琴よ。そっちは?」

 

「夜衣真琴。じゃ、またな御坂」

 

「またね。次はあんたの能力を絶対に突き止めるから」

 

是非とも遠慮したいと思いながら御坂と別れた夜衣は、このまま上条が寮に戻っていることに賭けて帰るか、それとも迷わない範囲で探すか。

 

少し迷ってから、夜衣は日が沈み暗がりの町に背を向け、学生寮に向かった。

 

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