ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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家元の娘って大変だよね……お母さんの苦労が良く分かるよByみほ      アナタが言うと説得力あるわね……Byエリカ      お家騒動の渦中にありますからねみほさんはBy小梅


Panzer113『五十鈴家の彼是――新たな門出です』

Side:みほ

 

 

マジノ女学園との練習試合は、激闘の末に勝つ事が出来た。

其れ自体はマッタク問題は無いね――大洗の皆は試合の楽しさと、何にも代え難い『勝利の美酒』の味を知る事が出来た訳だから。勝った経験の有無って言うのは、試合でも大きく作用して来るから、全国大会前に1勝出来たのは僥倖だったよ。

 

だけど、その試合直後に現れた角刈りのお兄さん……華さんの知り合いみたいだけど、なんか厄介事の予感がしてならないんだよねぇ……

 

 

 

「華、誰そのイケメンさん!!私知らないよ!?」

 

「五十鈴家に奉公している新三郎です。以前に家に来た時は、丁度暇を出している時だったので、知らないのも仕方ありませんよ沙織さん。」

 

「新三郎と言います。皆さんはお嬢のご友人で?」

 

「えぇ、その通りよ新三郎。」

 

 

 

沙織さん食いつき過ぎだよ……確かにこの人は『漢らしいイケメン』って言う感じだけど、反応良すぎじゃないかな?

沙織さんてば、ドレだけ恋人が欲しいんだろう?……其の内、陸に上がった時に悪いナンパとかに引っ掛かるんじゃないかって、ちょっと心配になって来たんだけど……

 

 

 

「心配するだけ無駄だぞ西住さん。

 沙織は口ではあぁ言ってるが、実際に異性との交際は出来ないと思っている――口では色々言っているが、大洗女子学園は読んで字の如く女子校だから、異性との出会いなど皆無だからな。

 仮に陸に上がった時にナンパされても、照れながらはっきり断るタイプだ沙織は……と言うか、沙織が誰かと付き合ったら、私の面倒を見てくれる奴が居なくなるから困る。」

 

「麻子さん、その理由は如何かと思うよ?」

 

「だけど、私は微妙に納得したわ。」

 

「沙織さんは、お母さんキャラですからね~~……其れも典型的な。」

 

 

 

エリカさん、小梅さん……まぁ、確かに言えてるかも知れないけどね。

それにしても華さんの実家で奉公してるって言う新三郎さんが此処に居るって言う事は、華さんの親族が此処に居る確率は決して低くないだろうから、絶対に何かあるだろうね、これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer113

『五十鈴家の彼是――新たな門出です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、新三郎さんに挨拶をした後に、適当な雑談をして、流れで華さんの実家に行く事になって、あんこうチーム+エリカさんと小梅さん、偶然通りかかった梓ちゃんを加えての計8名は新三郎さんの引く人力車に乗って、大洗の街中を疾走中!

8人も乗った人力車を、これだけのスピードで引く事が出来るだなんて、新三郎さんのパワーとスタミナは相当なんだね?……見た目は若干細身に見えるけど、実は脱いだら凄いのかも知れないね此れは。

 

 

 

「新三郎は、アレで可成り力がありますからね……やろうと思えば、片手で中身の入ったビールケースを2箱は軽く持てると思いますよ?」

 

「イケメンな上に力も有るって、新三郎さんパーフェクトじゃない!?」

 

 

 

うん、確かにそこだけを聞くとパーフェクトかもしれないけど、西住のスーパー家政婦である菊代さんには敵わないと思うよ?

パワーだけなら新三郎さんの方が上だろうけど、菊代さんは現役時代は凄腕の戦車乗りだったし、西住の家政婦になっても仕事は完璧に熟す上に、門下生の指導まで行うからね……しかも美人だし。

 

 

 

「みほ、菊代さんは比較対象にしちゃダメじゃない?あのスーパー家政婦に勝てる人なんて、多分この世に居ないわ。」

 

「みぽりんの家って家政婦さんが居るの?

 確か会長さんが、天下の西住流とかなんとか言ってたけど、みぽりんの家って戦車道の道場かなんか経営してるのかな?」

 

「アレ、そう言えば言ってなかったけ沙織さん?

 そうだよ、私の実家は戦車道の一大流派『西住流』の宗家で、お母さんが師範を務めてるんだ。――自慢じゃないけど、実家は熊本では有名だし、周りは田園風景だけど家其の物は結構大きいからね?

 ……と言うか、敷地内に普通に戦車の練習場があるし。其れも、規模だけなら大洗の練習場よりも大きいのが。」

 

「えぇ!?凄いじゃん其れ!みぽりんってお嬢様だったんだ!!」

 

 

 

お嬢様って言うのとは違うと思うよ沙織さん?って言うか、私は多分お嬢様とは最も縁遠いと思うから――まぁ菊代さんは私の事を『みほお嬢様』って呼ぶけど、其れって家政婦としての呼び方だしね。

 

「それ以前に沙織さん、お嬢様って言うのは、子供の頃に姉妹で遊びに行くのに戦車とか使わないから。」

 

「あ、遊びに行くのに戦車って……」

 

「事実よ沙織。

 子供2人で戦車に乗ってるのを見たのが、私と西住姉妹のファーストコンタクトだしね……まさか、其処から強引に戦車に乗せられて、其れが切っ掛けで戦車道をやるようになるとは夢にも思ってなかったけれど。」

 

「いやぁ、フリフリゴスロリ衣装のエリカさん可愛かったなぁ~~。」

 

「なんだ、逸見さんはゴスロリ趣味か?」

 

「昔の話よ。今はそれ程でもないわ……まぁ、嫌いじゃないけど。」

 

 

 

だよね。

今のエリカさんは、子供の頃みたいなコテコテのゴスロリファッションはやらないけど、ゴスロリのパーツをさり気なく自然に私服に取り入れるタイプだからね。……しかも其れがとっても良く似合ってるから何とも言えないんだよ。

 

時に優花里さん、何か静かだけど如何したの?考え事?

 

 

 

「いえ……つかぬ事をお聞きしますが、西住殿の言う菊代さんとは、若しかして『井手上菊代』殿でありましょうか?」

 

「へ?そうだけど、其れが如何かした?」

 

「やっぱりでありますか!

 如何したもこうしたも、井手上菊代殿と言えば、西住殿の母上である西住しほ殿の現役時代に、常に副官として活躍していた超凄腕の戦車乗りであります!

 当時は、黒森峰の『鬼の副長』として恐れられていた方であります!」

 

 

 

鬼の副長って、新選組の土方歳三じゃないんだから……でも、そんな異名が付くほど菊代さんは凄い戦車乗りだったんだ――まぁ、あのお母さんが副官に選んだんだから、相当の実力者なのは間違いないか。

そして、現役時代は副官としてお母さんを支え、引退後は家政婦としてお母さんを支えてる菊代さんには頭が下がるよ本当に……菊代さんも熊本の女の例外に漏れずにお酒好きだから、今度大洗の地酒でも送っておこうっと。

 

所で華さん、華さんの実家って大洗にあるの?――私の記憶が確かなら、華さんは水戸市の出身だったよね?

 

 

 

「えぇ、確かに生まれは水戸なのですが、私が小学生の頃に水戸の実家を大洗に移しまして、以降は其処で華道教室も開いているんです。

 母が言うには、『水戸は花を生けるには少し賑やかすぎる』との事でしたが……大洗に移ってからの方が五十鈴流華道の門を叩く方が多くなったので、大洗に移ったのは良かったのかも知れません。」

 

「成程、確かにその可能性は捨てきれないね。」

 

西住流も、九州が生まれなのは間違い無いけど、本拠地が熊本になったのって明治年鑑に入ってからだって聞いたからね……そう考えると生まれた地と現在の実家の場所が違うって言うのはそれほど珍しい事じゃないのかも知れないなぁ。

それにしても五十鈴流か……華さんも私と同じで、一つの流派の娘だったんだ。

 

 

 

で、大洗シーサイドステーションを出発してから人力車で移動する事30分……何やら立派なお屋敷に到着。

戦車の練習場の分だけ家の方が敷地面積は大きいけど、母屋の大きさから言ったら略互角――若しかしたら、こっちの方が若干大きいかも知れないよ……此処が華さんの御実家……大きいね?

 

 

 

「大きいのだけが取り柄ですよみほさん。

 此れだけの大規模な屋敷では、新三郎を始めとした使用人が居なかったら、維持管理もままなりませんから……貴方のおかげで五十鈴家は綺麗で居られる、ありがとう新三郎。」

 

「自分には勿体ねぇお言葉ですお嬢。

 自分は、お嬢の役に立てるなら、どんな事でもしやす。其れが、自分の覚悟っすから!」

 

「ふふ、貴方は何時も其ればかりね新三郎。」

 

 

 

新三郎さんは、五十鈴家と言うよりは華さんに心を寄せてるみたいだね?――でも、逆に言うと其れって、華さんがどんな状況に陥っても新三郎さんだけは絶対に味方になってくれるって言う事だろうから、其れは頼もしい感じだよ。

 

 

 

「其れでは、皆さんどうぞ。」

 

「「「「「「「お邪魔しますーーー!!」」」」」」」

 

「お帰りなさいませ華お嬢様、新三郎から連絡は受けております故、奥で奥様がお待ちですよ。」

 

「分かりました、下がりなさい。」

 

「御意に。」

 

 

 

うわぁ、一言で使用人と思われる女の人を下がらせるとは凄いね華さん……私やお姉ちゃんとは違って、華さんは本物のお嬢様なんだね?

其れも、一般的なお嬢様のイメージである、金髪蒼眼縦ロールとは違う黒髪ストレート黒目の純大和撫子な和風お嬢様って言う可成りの希少種だったんだ……ちょっと驚きだよ。

 

 

 

「其れでは皆さん、此方に。」

 

「床は檜張りで、壁には漆喰……豪華だね此れは。」

 

全室和室なのも凄いけど、欄間とかに施された彫刻もスッゴク細かくて、其れを見るだけでも五十鈴家がドレだけ凄い家なのかって事が嫌でも分かるよ……おまけにチラッと見えた床の間の花瓶は、小信楽の名品だったからね。

 

そんなこんなで華さんに案内されて辿り着いた、一番奥の間――『百合の間』……この扉の先に華さんのお母さんが居る訳だね。

 

 

 

「お母様、五十鈴華、ただいま戻りました。」

 

「……入りなさい。」

 

 

 

襖を開けて現れたのは、綺麗な畳張りの和室と、その和室の上座に正座している黒目黒髪で和服を着た女の人――この人が、華さんのお母さんだね。

そして、五十鈴流の家元って言った所かな……同じ家元でも、お婆ちゃんとは随分と雰囲気が違う感じだなぁ……

 

 

 

「お久しぶりですね華、息災なようで何よりです。」

 

「はい、日々健やかに過ごしています、お母様。」

 

「そう、其れは何よりね。

 沙織さんとは久しぶりに会うけれど、他の方々も華のお友達かしら?」

 

「はい。今年から出来た新たな友人です。」

 

 

「初めまして、西住みほです。」

 

「お久しぶりです、百合叔母様♪」

 

「秋山優花里であります!」

 

「赤星小梅です、宜しくお願いします。」

 

「初めまして。逸見エリカと言います。」

 

「……冷泉麻子……」

 

「冷泉先輩、もう少しちゃんと挨拶した方が良いと思います!あ、私は澤梓です!私だけ1年生です!」

 

「初めまして皆さん、華の母である五十鈴百合と言います。五十鈴流華道の家元を務めているわ。どうぞ宜しくね。」

 

 

 

「(家元としてのオーラはあるモノの、威圧的な感じは一切なく、上に立って人を教える立場を理解してる……同じ家元なのに、どうして私の御祖母ちゃんと此処まで違うんだろう?)」

 

「(戦車道と華道の違い……って訳じゃないわよね?

  大学選抜のメンバー候補になった姉さんから聞いた話だけど、大学戦車道の総元締めである島田流の家元は上品な貴婦人だって言ってたし……人間性の違いじゃない?)」

 

「(その可能性は大ですねエリカさん。

  と言うか、あの家元から如何して師範のような娘が生まれたのかすごく不思議です……ぶっちゃけ、西住流を存続させるために、師範と養子縁組したって言われても信じる位に似てませんから。)」

 

 

 

華さんのお母さん――百合さんの挨拶を聞いて、思わず小声でこんな会話をしちゃった私とエリカさんと小梅さんは絶対に悪くない。

だって、本当に家元って言う立場にありながら、御祖母ちゃんとは全然違うんだもん……此のまま御祖母ちゃんが家元を続けてたら、本気で西住流の名は地に堕ちるって確信しちゃった位だよマッタク。

 

 

 

「ふふ、皆良い人そうね?――其れで、この方達とは部活か何かの仲間なのかしら?

 同学年だけならば同じクラスと言う事も有り得るけれど、学年の違う澤さんが居る事を考えると、部活動か同好会の様なモノでの仲間と言う感じでないと、少し無理があると思うのだけれど……」

 

「お母様の仰る通りです……みほさん達は、必修選択科目である戦車道の仲間です。」

 

「戦車道ですって!?」

 

 

 

華さん、思い切りぶっちゃけたね?

其れを聞いて百合さんが驚いてるけど、まぁ其れは当然かな――華道の家元の娘が、畑違いの戦車道なんてやってるって知ったら驚いて然り……お母さんだって、私が戦車道じゃなくて仙道とか忍道の道に進んだら驚くだろうし。

 

「戦車道を御存知なんですか?」

 

「えぇまぁ……高校の頃の友人が、当時の大洗女子学園で戦車道の隊長を務めていましたから。

 その戦車道は20年前に廃止になった筈だけど……今年から復活したと言う噂は本当だったのね――そして、華は其の戦車道を行っているのですか……」

 

「はい。私が指揮する隊長車の砲手として、何時もお世話になっています。」

 

「そう……華、貴女は五十鈴流の娘です。にも拘らず、戦車道を選んだ理由は何です?」

 

 

 

……厄介事の予感的中かな此れは?

華道の家元の娘が戦車道をやってるとなれば、当然家元は其れが何故かを問うよね……華さんは、如何するんだろう?

 

 

 

「確かに戦車道と華道はマッタクの別物であり、私からしたら畑違いも甚だしいでしょう。

 ですが、実を言うと私は、最近自分の生ける花に疑問を感じてしまっていたのです……確かに、綺麗に美しく纏まっていますが、ですが其れだけで、花本来が持つ『美しい花を咲かせる力強さ』をマッタク感じる事が出来ないのです。」

 

「スランプと言う事かしら?」

 

「そう、であるのかも知れません。

 そんな折に、私は戦車道と出会い、主砲を放った瞬間に今まで感じた事のない感覚を覚えました――そして、同時に此の感覚を華道に生かす事が出来れば、私の作品は花の美しさと強さの両面を表現できる物になるのではないかと、そう考え戦車道の道を邁進する事を決めたのです、お母様。」

 

「自分の殻を破る為に敢えてと言う訳ですか。

 ……その向上心は評価しましょう――ですが、戦車道は他のスポーツと違い危険性は可成り高い事は分かっているでしょう?……こんな事は言いたくはないけれど、西住さんの左腕が無いのも、戦車道のせいでは無いの?」

 

 

 

あ、其れは違います。

私の左腕は、小学生の時に交通事故で失ったモノですから、戦車道は無関係です――そもそもにして、砲弾位は余裕で避けられないと、キューポラから身を乗り出して指揮なんて出来ませんから♪

 

 

 

「みほさんなら、避けるだけじゃなくて砲弾素手で止めそうですよね?」

 

「いや、やろうと思えば殴り返せるんじゃない?」

 

「軍神オーラがATフィールドの如く砲弾を無効化する可能性が否定できない気が……」

 

「いや、流石に其れは無理だからね?

 と、言う訳で私の左腕が無い事に戦車道は全く関係ないのでご安心ください――そもそもにして砲手が車外に出る事は有りませんから、特殊なカーボンで保護されてる車内にいる限り危険はありませんよ。」

 

「ならばいいけれど……ですが華、母としては貴女の向上心は喜ばしい事ですが、五十鈴流の家元としては認める事が出来ません。

 五十鈴流家元の娘が、何の相談も無しに戦車道に手を出し、そして其れをお咎めなしとしてしまったら五十鈴流の門下生に示しが付きませんから……よって華、今この時より、貴女が戦車道で見つけた華道の可能性を私に示すその時まで、五十鈴の敷居を跨ぐ事を禁じます。」

 

「……元より、其れは覚悟していました。」

 

 

 

って、其れって事実上の勘当勧告だよね!?

家元としては示しがつかないって言う事だけど、勘当って言うのは相当だよ……だって其れは破門よりも重い処分だから――家元として示しが付かないとは言え、幾ら何でも此れは……!!

 

 

 

「ですが華、貴女ならば必ずや己の殻を破り、私とは違う新たな五十鈴流の花を見せてくれると私は信じています……だから、精進なさい?」

 

「はい、お母様。」

 

 

 

と思ってたら、百合さんは華さんの可能性を信じてたんだ……そう言えば『母としては喜ばしい』って言ってたっけ――百合さんとしても、断腸の思いだったって言う事かな此れは……

 

 

 

「そして、皆さん、娘を……華を宜しくお願いします。」

 

「「「「「「「はい……!!」」」」」」」

 

 

華さんが五十鈴流を勘当されるって言うのは、其れだけを見れば厄介事の極みだったけど、だけど其れは只の厄介事じゃなくて、五十鈴流の家元が、娘の成長を信じての愛のある勘当……言うなれば『愛のムチ』って言うモノだった訳か。

だからこそ、華さんも前を向いていける訳か……華さんからも、百合さんの期待に応えようって言う思いが感じられるからね。……此れが愛のある勘当と、愛のない破門の差かな……私もエリカさんも小梅さんも、御祖母ちゃんの期待に応える気は毛頭ないからね。

 

まぁ、華さんと私達とじゃ、そもそもの理由が違うから仕方ないのかも知れないけど……ホントに御祖母ちゃんは救いようがないよ――いっその事、お母さんが一騎打ち挑んで実力で家元の地位を奪っても良いって思えるもん。

 

 

 

「まぁ、其れをやったら間違いなく師範が勝つでしょうね……常夫さんが魔改造した黄金のティーガーⅠが家元のティーガーⅠを撃滅する未来しか見えないわ。」

 

「うん、間違いなくお母さんが勝つと思う。」

 

なんて事を言いながら、百合さんに一礼して私達は五十鈴家を後にした――大洗港までは、来た時と同様に新三郎さんの人力車だけどね。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ、お嬢~~~~!!」

 

「泣いては駄目よ新三郎……此れは、五十鈴華の新たな門出なのだから。」

 

 

 

その道中、新三郎さんが号泣しながら人力車を引いてたのは凄い光景だったと思う……と言うか、号泣してる方が引く力が強かったのか、五十鈴家から大洗港までは行きの半分の15分で到着したからね――新三郎さんハンパないよ。

 

 

 

「あ~~!先輩達帰って来た~~!!」

 

「何処行ってたんですか~~?」

 

 

 

で、大洗港で待ってたのは、戦車道履修者の1年生達――私達を待っててくれたのかな?

だとしたら待たせてゴメンね?ちょっと華さんの実家に行って来たんだ。其れで、遅れちゃった。

 

 

 

「そうだったんですか~~?」

 

「うん、ゴメンね待たせたみたいで。」

 

「其れは大丈夫です西住隊長、私達が好きで待ってただけですから――梓もお疲れ様。」

 

「うん、ありがとうあゆみ。待たせてゴメンね。」

 

 

 

所で、皆は何で此処で待ってたのかな?

此処じゃなくて、学園艦の甲板で待ってる事だって出来たと思うんだけど……何か特別な理由があったのかな?

 

 

 

「あい~~!実はマジノの隊長さんから、これを預かってたんです!」

 

「マジノ特製のフランス菓子の詰め合わせらしいんですけど、是非とも隊長さんに渡してくれって……だから、どうしても少しでも早く渡したくて此処で待ってたんです。」

 

「マジノからの……!」

 

聖グロが紅茶のセットを好敵手に送るように、マジノは好敵手と認めた相手にフランス菓子を送る習慣がある……つまり、大洗はエクレールさんからライバル認定されたって事だよね?

 

古豪から、強豪へとランクアップしたマジノからライバル認定された大洗の実力は生半可な物じゃないって、自信を持って言う事が出来るよ!

 

 

 

「聖グロとマジノ、全国大会常連組の内2校にライバル認定されたんなら、大洗の実力は間違い無く低くない――否、大洗は強い!でしょ?」

 

「大会まではまだもう少しだけ時間がありますから、大洗の実力は大会までに更に伸びると思いますからね?」

 

「そして、大会の試合でのレベルアップも考えられますから、決勝まで駒を進める事が出来れば、黒森峰を倒す事だって夢じゃありません!!

 と言うか、西住隊長なら、きっとそれを出来る筈です!」

 

 

 

うん、勿論それをやる心算だよ梓ちゃん。

何よりも私とエリカさんと小梅さんは、黒森峰の戦い方をよく知ってるし、私は誰よりもお姉ちゃんと近坂先輩の戦い方を知ってるから、戦術的アドバンテージは此方に有るからね。

 

まぁ、其れも先ずは1回戦を勝たないとなんだけどさ。

 

でも、私達は誰が相手でも負ける心算は毛頭ない――だから、てっぺんだけを目指して行くよ!!

マジノ戦での勝利を足掛かりに、目指せ全国制覇!!

 

「Panzer Vor!!」

 

「「「「「「「「「「Jawohl!」」」」」」」」」」

 

 

 

これで、大会前にすべき事は全てやった――後は大会を勝ち抜くだけ……だけど、大洗と戦う学校は覚悟を決めておいた方良いかな?

無名の弱小校と侮ってたら、大洗の大波に呑まれるからね……まぁ、誰が相手でも大洗の大波はその全てを飲み込むモノなのかも知れないけどね。

 

先ずは1週間後の対戦抽選会――出来るだけそこで良い番号を引かないとだね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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・・・・・・

 

・・・

 

 

 

其れから1週間後、遂に高校戦車道全国大会の抽選会の日がやって来た――今年の抽選会場は日本武道館だね?

あの甲子園の抽選会も行われる此の場所で、戦車道の大会の組み合わせ抽選が行われるって言うのは、其れだけ戦車道が盛り上がってる証だから悪い気はしないからね。

 

この抽選会場には、戦車乗り独特の闘気が此れでもかって言う位に蔓延してるけど、これ位の闘気は秘めてないと話にならないから、寧ろ此の闘気には心地よさすら感じるからね。

 

そして抽選会に集まったのは、いずれ劣らぬ強敵ばかり……どこもかしこも一筋縄でいく相手じゃないけど、だからこそ燃えてくるよ!!

 

 

 

「貴女なら、そう言うと思ったわみほ――なら極めてやりましょう、戦車の頂点!!」

 

「元より、その心算だよエリカさん!!!」

 

何よりも、無名の弱小校が、常勝不敗の黒森峰を倒したとなれば絶対に話題になるからね――この大会、絶対に制して見せるよ!!

 

隻腕の軍神の力、見せてあげる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

キャラクター補足

 

 

 

・五十鈴百合

 

五十鈴華の母親で、五十鈴流華道の家元。

華同様の美しい黒髪と黒目の持ち主で、この上なく和服が似合う生粋の日本美人。――華の母親ではあるが、華の様な凄まじい食欲の持ち主ではない。

 

 

・新三郎

 

五十鈴家に奉公している使用人。

細身でありながら其の力はすさまじく、女子高生が8人乗った人力車を軽々と引く位のモノ。

幼少の頃から華を知ってるせいか、五十鈴家よりも華に思い入れが強い様子。

 

 

 

 

 




キャラクター補足



・五十鈴百合

五十鈴華の母親で、五十鈴流華道の家元。
華同様の美しい黒髪と黒目の持ち主で、この上なく和服が似合う生粋の日本美人。――華の母親ではあるが、華の様な凄まじい食欲の持ち主ではない。


・新三郎

五十鈴家に奉公している使用人。
細身でありながら其の力はすさまじく、女子高生が8人乗った人力車を軽々と引く位のモノ。
幼少の頃から華を知ってるせいか、五十鈴家よりも華に思い入れが強い様子。




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