ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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まさかの搦め手……やってくれるね?Byみほ      まぁ反則ではないけど……なら、其れを越えてやろうじゃない?Byエリカ      隻腕の軍神の真の搦め手、ですねBy小梅


Panzer117『One round of incandescenceです』

Side:みほ

 

 

いよいよ試合開始だね?

サンダースは4強の一角だし、過去には黒森峰と決勝を争った事も有る猛者だから、戦車の性能的には此方が有利だと言っても油断は禁物だよね――M4だけなら未だしも、ファイアフライが出てきてる事を考えると、ティーガーⅡ以外の戦車はファイアフライの餌食になる可能性があるからね。

ファイアフライの砲手がナオミさんだって言う事を考えると、余計にね。

 

 

 

「確かにナオミがファイアフライの砲手だって言うのは驚異よね。

 何と言っても、中学時代は隻腕の軍神の片腕だった訳だし……もっと言うなら、ナオミの砲手としての実力は、サンダースに入学してから更に向上してるからね――正直言って、ナオミが砲手のファイアフライは高校戦車道界最強レベルじゃないかって思うわよみほ。」

 

「ナオミさんの砲手の腕前を考えると、必中のファイアフライって事になるからね。」

 

つまりはサンダース最強の戦力な訳で、ナオミさんのファイアフライは真っ先に撃破しておきたい所だよ――だから、ファイアフライの方を任せても良いかなエリカさん?

ティーガーⅡならファイアフライが相手でも装甲を抜かれる事は先ず無いし、ティーガーⅡの超長砲身88mmならファイアフライを撃破するには充分な攻撃力だからね。

 

 

 

「OK、任されたわみほ。

 黒森峰の狂犬改め、大洗の狂犬の牙で、ファイアフライの喉笛を喰いちぎってやるわ!――狂犬の牙は、狙った獲物を喰い殺すまで止まる事は無いわ!」

 

 

 

あはは……去年の大会でもサンダースとは戦ったけど、あの時のエリカさんは遊撃隊の一員として参加してたせいか何処かセーブしてた感じがしたんだけど、今はセーブする必要がなくなったから、エリカさん本来の凶暴性を発揮してくれちゃって構わないよ!

 

 

 

「鎖は外されたって訳ね?なら、貴女の望み通りに思い切り暴れてやろうじゃない!!」

 

「……こんなエリカさんは、黒森峰の時は見た事ないです。

 規律の厳しい黒森峰の戦車道は、みほさんにとってだけでなく、エリカさんにとってもある種の枷だったのかもしれないですね。」

 

「その可能性、微妙に否定できないかもね小梅さん。」

 

でも、だとしたら今のエリカさんは、自分でも気付いてない潜在能力が解放された状態とも言えるから、中学の時に決勝戦で私と戦った時と同じ状態になってるかもね?

これは、サンダースにとっては有り難くない事かもしれないけど♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer117

『One round of incandescenceです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

ついに始まった大洗女子学園とサンダース大学付属高校の試合。

布陣としては、大洗が隊長車を要とした扇型の陣形を展開しているのに対し、サンダースは陣形らしい陣形は取らずに、各所に戦車が点在していると言う布陣だ。

決して大洗を舐めた布陣ではなく、寧ろ大洗を警戒しているからこその布陣であるのだこれは。

 

現在のサンダースの隊長であるケイと副隊長であるアリサは、みほと試合相手として戦った経験があり、もう一人の副隊長であるナオミに至っては、仲間としても相手としても戦った事がある為にみほの凄さと言うモノをサンダースでは誰よりも知っている――故に形らしい形を取らずに迎え撃った方が良いと判断したのだ。

 

 

「ティーガーⅡ……エリカが単身でファイアフライを狙ってくる可能性があるって、其れって信じて良いのアリサ?」

 

『あら、最大公約数的な考え方だけど確率としては80はあるって自信を持って言えるわよ?

 だって考えても見なさいよ?幾ら大洗に、元黒森峰遊撃隊の3人が居て、西住みほの一番弟子が居るとは言っても、他は素人みたいなモンでしょ?――まぁ、聖グロと引き分け、マジノに勝った訳だから舐めると痛い目を見るけど。

 だけど、此方に対して有利な戦車はパンターとティーガーⅡとⅢ突だけ――Ⅳ号がF2以上の仕様だったら兎も角としてね。

 だとしたら一番の脅威となるであろうファイアフライを真っ先に撃破しようとするのは当然で、攻守力では有利なティーガーⅡがその任を務めるのは当然の事よ――単身でって言うのは……アレよ、車長の性格的によ。』

 

「最後の最後で一気に胡散臭くなったな……だがまぁ、お前の勘は当たるからなアリサ――取り敢えず見つかる前に下がっておくよ。」

 

 

そんな中で、ナオミはアリサから『大洗はファイアフライを真っ先に狙ってくる』と言う事を聞き、現在陣取っている場所から後方へと下がる事にしたようだ。

アリサの言う事は確かに当たっている――実際に大洗の本隊からは、エリカ率いるティーガーⅡが離脱し獲物を求めて狩りを始めていたのだから。……見事な読みと言う他は無いだろう。

 

 

 

「エリカさん、多分ファイアフライが居るのは其処から更に北東に進んだD50地点――若しかしたらもっと先になるかも知れないけど、ナオミさんは10時の方向からの砲撃を最も得意としていたから略間違い無いと思う。」

 

『了解したわみほ……逃がさないわよナオミ!!』

 

 

だが、それ以上に驚くべきはみほだ。

ナオミと3年間共に戦ってきた経験からファイアフライが陣取っているであろう場所を予測してエリカに伝え、その方向はドンピシャズバリでファイアフライが先程まで陣取って居た場所だったのだから。

加えて言うなら、『もっと先になる』と言うのも、結果としてファイアフライが後ろに下がった事で現実となっているのだからお世辞抜きに凄まじく素晴らしいとしか言いようがないだろう。

 

 

 

 

「何かを感じ取って後ろに下がったファイアフライと、的確にそのファイアフライへの進路を進むティーガーⅡ……先ずは互いに読み合いと言うところかしらねエクレールさん?」

 

「その可能性は否定できませんわダージリン様。

 いえ、ですが如何やら読みの深さはサンダースの方が上?ファイアフライが突然進路を変えて全く別の方向へ前進し始めたようですわね?」

 

「そうね。

 でも、こんな言葉を御存知かしら?『鋭すぎる勘は、イカサマの証である』。」

 

「そのものズバリではありませんが、似たような物を聞いた事は有りますわダージリン様……ですが、其れが試合と何か関係がありますの?」

 

「其れは、見て居れば分かりますわエクレールさん。」

 

 

 

 

客席の一角では、大会前に大洗と戦った聖グロリアーナとマジノの隊長による、試合の簡単な分析も行われているようだが、モニターに映し出されている両校の戦車の動きから、ダージリンは何かを感じたらしく、思わせぶりな事を言うと再び紅茶を片手に両校の戦車の動きが映し出されているモニターへと目を向ける。

 

そのモニター上では、的確にサンダースの戦車を狙って動いている大洗と、其れを有り得ない程の動きで躱しているサンダースの戦車の動きが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:アリサ

 

 

クックック……此処まで巧く行くとは思わなかったわね?

大洗、そして西住みほ、アンタ達の動きは手に取るように分かるわ――でも、アンタ達からしたら其れが不気味な筈よね?だって、尽く自分の考えが読まれてるって事になる訳だから。

 

っと、新たな情報が……成程、副隊長が状況を打開するためにクルセイダーをお供に偵察に出たと――此方アリサ、如何やら大洗はⅢ号とクルセイダーが偵察に出たみたいですよ?

 

 

 

『Ⅲ号って副隊長車よね?――其れってつまりはみほの右腕……みほなら左腕って言うのが正しいのかも知れないけど、みほが一番信頼してる子でしょ?

 そんな子が自ら偵察に出るかしら?』

 

「だからこそですよ隊長。

 西住みほは自分の仲間に絶対の信頼を置いている隊長です――そして、それは自分が手塩にかけて育てた弟子に対してはより一層です。

 なら、彼女が副隊長である澤梓に偵察を任せたとしてもオカシイ事は有りません。」

 

『成程ね……だけど、何だって其処まで詳しく分かるのかしら?』

 

「女の勘です。」

 

『ん~~~……OK、アリサがそう言うなら間違いないでしょうね。貴女の勘は当たるからね♪――今日は特に冴えわたってるみたいだし♪』

 

 

 

そりゃ冴えわたってますよ隊長――比喩じゃなくて、今のアタシには物理的に大洗の事は丸分かりなんですから。

 

 

 

「通信傍受……ルールブックでは禁止されてないけど、其れってどうなんですか副隊長?」

 

「問題ないわ。

 ドローンで空撮って言うのはNGだろうけど、通信傍受の気球は大戦期にも使われていた物だから45年ルールには抵触しないし、ルールブックに記載されていない以上、少なくとも今年の大会では合法よ――まぁ、来年からは規制が入るかも知れないけどね。」

 

隊長の言う『フェアプレイ』の精神には反するのかも知れないけど、西住みほに勝つには此れ位の事をしないとダメなのよ!――何よりも、どんな手を使っても勝てばいいって思ってたアタシを変えてくれた隊長に優勝をプレゼントしたいのよ!

隊長に、ケイに最高の勝利をプレゼントできるなら、アタシは蛇蝎の如く忌み嫌われようとも、どんな事だってしてやるわ!!

 

 

 

「すっごい覚悟だね~?……其れじゃあアリサ、一言どうぞ。」

 

「只の戦車道には興味ありません!この中に、宇宙人、未来人、超能力者の戦車乗りが居たらアタシの所に来なさい、以上!――って、何言わせんのよ!!」

 

「涼宮団長乙。」

 

「竜玉改のデンデ、らき☆すたのこなたも可。」

 

「流石は平野ボイス。」

 

 

 

訳の分からない事言ってんじゃないわよ!!

兎に角これで、情報アドヴァンテージに関してはこっちが圧倒的に有利なんだから、其れを最大限に活用して勝ちを捥ぎ取るわよ!――必ず優勝の栄光をケイに、隊長に渡すんだから!!

 

 

 

「隻腕の軍神なら、通信傍受に気付くんじゃないかと言う件について。」

 

「まぁ、気付くんじゃないかぁ?……ぶっちゃけ、あの人がサンダースに来てくれたら良かったと思ってるアタシが居る。」

 

 

 

通信傍受に気付くかどうかは兎も角として、アイツがサンダースに来てくれてたらって言うのには諸手を挙げて賛成ね――隻腕の軍神の異名を持つ西住みほがサンダースに来てたら、サンダースの戦車道はより厚みのあるモノになってただろうから。

 

でも、西住みほはサンダースを選ばずに黒森峰に行って、そんでもって今年は無名の大洗の隊長ですって!?……舐めんじゃないわ!!

アタシを圧倒的に倒した隻腕の軍神が、無名の弱小校の隊長だなんて絶対に許さない――だから、弱小校の隊長じゃないって言う事を、この試合で証明して見せなさい。

 

まぁ、其れは其れとしても勝ちは譲らないけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

……オカシイ。幾ら何でも此れはオカシイ。

私の予測地点に居る筈のサンダースの戦車が1輌もないなんて言うのは幾ら何でもオカシイよ!――此処に居た痕跡を、マッタク残さないで撤収したって言うのは、幾ら何でも有り得ないからね?

 

其れが1回2回なら兎も角、連続8回ともなれば相手がイカサマをしてるんじゃないかって考えてもおかしくないよ……まぁ、ケイさんはイカサマなんてする人じゃないから、他の隊員の誰かが何かやったんだろうけどさ。

 

でも、此処まで読まれてるって言うのは何かカラクリがある筈だよ――何処かにカラクリが……

 

 

 

「カラクリとは言いましても一体全体……西住殿の考えを完璧にトレースしていないと無理なこの状況――見晴らしの良い高台や、高層ビルでもあれば、複数の隊員を其処に配置する事で此方の動きを逐一把握する事は可能だと思いますが……」

 

「周囲にその様な場所は有りません……若しかして、先程のパーティの時に盗聴器でも服に仕掛けられてしまったのでしょうか?」

 

「!!」

 

盗聴器……まさか!!

 

 

 

――アレだ!空に浮かぶバルーン……通信傍受機が打ち上げてある!それなら!

 

「一度作戦を練り直すから、全員一度車外に出て。」

 

「へ?何で作戦練り直すのに外に出なきゃならないのみぽりん?」

 

「狭い車内で考えるよりも、外のフレッシュな空気吸った方が頭がクリアになるからだよ沙織さん。」

 

「ふむ……西住さんには西住さんの考えがあるのだろう。何よりも、私達は平隊員に過ぎないのだから、隊長の命令は聞かねばだしな。」

 

 

 

其れが基本ではあるけど、皆の意見も取り入れられる物が有ったらバンバン取り入れていくから遠慮しないで意見を言ってね♪

 

さて、これで全員外に出たね?――外に出た本当の目的だけど、上をご覧あれ。

 

 

 

「なんか浮かんでいるな?」

 

「アレは、気球……でしょうか?」

 

「あの気球は、阻塞気球!

 大戦期に低空飛行をする戦闘機への対策として使われていた気球ですが、あのワイヤーに取り付けられているのは無線通信を傍受する機器でありますよ!」

 

「えぇ、其れってこっちの作戦を盗み聞ぎしてたって事じゃん!幾らお金があるからって、こんな物使ってくるなんてズルいよ!

 作戦が筒抜けだなんて、そんなの答え見ながらテストやってる様なモノだよ!そんなの反則だよ~~!抗議しようよみぽりん!!」

 

「抗議は無駄だと思うよ沙織さん。多分厳重注意はされるかもしれないけど、反則負けには至らないと思う。」

 

「その可能性が高いでありますね……ルールブックにも通信傍受が違反であるとは書かれていません――まぁ、合法だとも書いてない、所謂グレーゾーンではありますが。」

 

 

 

明確にルールで定義されてないグレーゾーンはルールの抜け穴だから、其れを使うのは勿論悪い事じゃないし、今回使ってる気球と無線傍受機は大戦期に実際に使用されてた物だから、45年ルールにも違反はしてない――ギリギリではあるけど、規制されてない今大会中に限っては合法って事だよ。

 

でも、ケイさんがこんな事を命令するとは思えないから、やったのはアリサさんだね?

まぁ、同じグレーゾーンでも中学の時のドローン空撮よりは遥かにマシかなぁ?……少なくとも最新機器を使わず、45年ルールの範囲内での無線傍受機を使用してる訳だから。

 

 

 

「でも、如何するのみぽりん?作戦が全部筒抜けじゃ、幾ら何でも不利なんてもんじゃないよ?」

 

「普通に考えればそうだろうけど、其処は逆の発想だよ沙織さん――そして、状況の打開には、沙織さんの十八番である高速メール打ちが鍵になるんだよ。」

 

「へ?私の高速メール打ちが?でも何で?」

 

 

 

それは『      』て『        』から。

だから沙織さんには『        』で皆に伝えて欲しいんだ――他の誰でもない、沙織さんにしか出来ない事だから、少し大変かも知れないけど、お願いできるかな?

 

 

 

「他の誰でもない、私にしか出来ない事だなんて……やだも~、みぽりん其れって殺し文句だよ!

 そんな風に言われたら断れないじゃん!って言うか、断る気なんてなかったけどさ!――って言うか、今のみぽりんカッコ良すぎ!男の人だけじゃなくて、これじゃあ同性でも惚れちゃうかもだよ!!

 若しかして、前の学校では結構ラブレター貰ってたりして~~~!!」

 

「貰ってたよ?女子校だったから、全部女の子からだったけど。」

 

「や~だも~~!モテモテじゃんみぽりん!」

 

「沙織、煩い。」

「沙織さん、落ち着いて。」

 

 

 

……取り敢えず頼んだよ沙織さん。

 

さてと、此方の手の内が尽く読まれていたカラクリは暴いたから、此処からは反撃と行かせて貰おうかな?

隻腕の軍神を搦め手で混乱させたのは大したモノだったけど、ネタが割れてしまえばもう脅威じゃない……だから、今度は私の十八番を、搦め手の真骨頂と言うモノを見せてあげるよアリサさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

「通信傍受……よもやフェアプレイを掲げるサンダースが、この様な事をしてくるとは思いませんでしたわ……」

 

「そうね。

 でも、ケイがあの様な事を指示するとは思えないから、恐らくは隊員の誰かが独断で行ったのでしょうけれど。」

 

 

みほが通信傍受を見破ったその頃、観客席ではエクレールもまた通信傍受に気付き、先程ダージリンが言った『鋭すぎる勘は、イカサマの証である』と言う言葉の意味を理解していた。

 

観客席から全体を見ていたからと言う事も有るだろうが、この会場内で誰よりも早く通信傍受に気付いていたのだダージリンは。

この視野の広さが彼女の最大の武器であると言える訳だが、通信傍受があると知って尚、ダージリンは大洗が敗北する事は無いだろうと考えていた。

 

 

「こんなジョークを知ってる?

 アメリカ大統領が自慢したそうよ、『我が国にはなんでもある』って。

 そしたら外国の記者が質問したんですって。『地獄のホットラインもですか?』って。」

 

「地獄のホットライン……中々にブラックなジョークですわダージリン様。」

 

「此れが分かるとは、中々博識ねエクレールさん。」

 

 

勿論エクレールもまた、通信傍受程度でみほ率いる大洗が負けるとは微塵も思っていない――むしろ、みほならば其れすら利用してしまうのではないかと思っている。

 

少なくとも英国淑女と仏蘭西貴女はそう考えていたのだが――

 

 

「グァッデーム!

 通信傍受だぁ!舐めた事してんじゃねぇぞオラァ!ガッデメラサンダース!!

 手加減なんざ必要ねぇ!やっちまえみぽりん!サンダースも通信傍受も蹴散らしちまえ!大洗とみぽりんだけ見てりゃいいんだオラァ!!」

 

 

何時の間にかダージリンとエクレールが観戦していた場所に移動して来ていたonsの総帥の怒りが爆発し、何故かこの場に有った長テーブルをケンカキックで粉砕していた。

 

 

「……絶好調ですわね黒のカリスマ。

 こんな格言を知っている?『俺はテメーのその甲高い声と黄色いパンツが気に入らねぇんだオラ!』」

 

「其れは格言ではなくて、あの黒いカリスマが、現文部科学大臣の馳浩氏が現役レスラーだった頃に言った一言でしょう……」

 

「……正解。」

 

 

此れには流石のダージリンも驚いたらしく、思わず意味不明な事を言ってしまったが、直ぐに落ち着きを取り戻してモニターに目を向ける。

 

そのモニターには、今までとは全く異なり、大洗の動きに対応してるとは言えないサンダースの戦車の動きが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、実際に試合を行っている現場では……

 

 

『こちらウサギチーム。敵戦車発見できませんでした。』

 

『了解。其れじゃあウサギチームとアヒルチームは一度本隊に合流して。

 ライガーチームはファイアフライ発見できた?』

 

『まだよみほ……ったく、何処に隠れてるのやらだわ!』

 

『なら、ライガーはそのままファイアフライを探していて――でも、1輌だとアレだから、此方からカメチームを送るよ。車輌が増えれば探しやすくなると思うしね。』

 

『その心遣い、痛み入るわみほ。』

 

『此れ位はね。

 其れじゃあ此れより本隊は、ポイントD38に移動して陣形を立て直すから、迅速に行動して。』

 

 

 

「フッフッフ……アンタ等の行動は全てお見通しよ!」

 

 

相変わらずアリサの通信傍受が行われており、傍受した通信をアリサがケイに伝えて、大洗を倒す為の最善の一手を打っていく――今この時も、傍受した通信から、大洗の本隊が移動する場所を掴み、其れをケイに伝えていたのだから。

 

だが――

 

 

『ねぇアリサ、言われた場所に来たんだけど、大洗の戦車なんて何処にもいないんだけど?』

 

「へ?」

 

 

通信先のケイから聞かされたのは、件の場所に大洗の戦車は居ないとの事だった。

到着していないのかとも思えるだろうが、サンダースの本隊は大洗の本隊よりも件の地点から離れた場所に居たため、大洗の本隊よりも先に到着すると言うのは普通は有り得ないのだ。

 

この事態にアリサは思わず間抜けな声を出してしまったが、其れは仕方ないだろう。

通信傍受によって大洗の動向を完全に把握していた筈なのに、其れが外れたのだから、驚くなと言うのが無理がある――が、アリサを驚かせるのは此れだけではなかった。

 

 

「みーつけた……こんな所に居たんですね、アリサさん?」

 

「見つけた!根性で倒すぞ!!」

 

「「「はい、キャプテン!!」」」

 

 

「はぁ!Ⅲ号とクルセイダー!?」

 

 

藪の中に隠れていた所を、突如梓率いるⅢ号と、典子率いるクルセイダーが強襲して来たのだ――通信傍受では言っていなかった事が行われたのである。

 

 

「な、何で!?どうして……アンタ達はポイントD38に移動したんじゃなかったの!?なのに、如何してここに居るのよ!!」

 

 

其れに驚いて緊急離脱したアリサだが、なぜここがバレたのか、そしてどうして通信傍受に引っ掛からなかったのかが分からなかった……否、分かりたくなかったと言った方が正しいのかも知れない。

分かってしまったら、自分の中の悪い予感が的中してしまうから。

 

 

だが――

 

 

『サンダース副隊長の一人、アリサ……貴様聞いているな!』

 

「んな!?」

 

 

その悪い予感を的中させるかのように、傍受している無線からはみほの無情な一言が放たれた――アリサの策は、完全に看破されて通信傍受を利用して居る事が告げられたのである。

 

通信傍受に気付いたみほは、傍受されている事を逆手にとって、偽の作戦を無線で伝え、本当の作戦はスマホのラインを使って沙織に伝え、其れを受けた沙織が高速メール打ちで『命令書』を作成し、一斉メール送信で他のチームに伝えていたのだ。

 

正に逆転の発想!通信が駄々洩れなら、其れを利用してしまえと言う、普通なら思い付いても実行はしないであろう作戦を、みほは迷わず選択した――相手の搦め手を利用した、更なる搦め手をやってのけたのだ。

 

 

「さて、本番は此処からだよ……これで漸く条件が対等だからね――でも、対等な条件なら負けないよ!!」

 

 

そして、其れは同時に試合が動いた事を意味していた。

此れまで肩透かしを食らっていた大洗が、本格的に攻勢に出たのだから……そして、其れはつまり、大洗が反撃に出た事の証明でもある。

 

 

「此処からは大洗のターン……そして、二度とサンダースのターンは来ないよ!」

 

 

白熱する大洗vsサンダース……通信傍受が意味をなさなくなった此処からが本番であると言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 


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