ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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絶対的に相手に有利なフィールド……Byみほ        貴方にとって、其れ位はOKよねByエリカ      此処だけ聞くとブラック企業ですよねBy小梅


Panzer128『ピンチを演出し、華麗に勝利!です』

Side:みほ

 

 

さてと、此処からの逆転劇を此れから行う訳なんだけど、優花里さん達の偵察の結果得られた情報を基に考えると、勝つ可能性は限りなく低いと考えるのが普通だろうね。

此方は周囲を囲まれて、カチューシャさんが意図的に用意している『地獄の非常口』に突っ込むしかない状況だからね――単純に戦局を見るなら、大洗絶体絶命って所だろうね。

 

だけど、私達はまだ負けてないんだから、やるだけの事をするだけだよ。

 

「優花里さん、この廃墟の裏手の方にはちょっとした林が存在してるんだけど、その林の中や向こうにもプラウダの部隊は展開されてたかな?」

 

「いえ、廃墟の裏手には戦車を展開していないであります。」

 

 

 

そっか……と言う事はプラウダの意表を突く事にしようかな?

カチューシャさんが私が考えるであろう戦術を想定していたとしても、完璧に私をトレースするのは多分無理だから、必ずどこかで綻びが出来る筈だから、其処に付け入る隙が出てくるからね。

 

 

 

「ねぇみほ、貴女なんかトンデモナイ事考えてない?

 正直貴女がその顔……お転婆娘が物凄く愉快なイタズラを思いついた時みたいな笑顔をしてる時って、大抵トンデモナイ作戦を思いついた時なんだけど……」

 

「トンデモナイだなんて心外だよエリカさん。

 この状況を引っくり返せる妙案を思いついただけだよ?……まぁ、失敗したら其れまでの大博打である事は間違いないんだけどね。」

 

「伸るか反るかって、やっぱりトンデモナイじゃないの!」

 

 

 

だって、普通のやり方じゃこの状況をひっくり返す事は略不可能なんだもん。

だったら、誰も思いつかないような作戦で行くしかないでしょ?――何よりも、プラウダみたいな強豪が相手だからこそ通じる策だと思うからね此の大博打は。

 

さて、其れじゃ反撃と行こうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer128

『ピンチを演出し、華麗に勝利!です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

降伏勧告から、猶予の3時間が経ち、カチューシャが改めて大洗に答えを聞きに行かせた隊員から聞いた報告は『降伏はしないとの事』で、あくまでも最後まで戦うと言う事だった。

 

 

「降伏はしないのね?

 まぁ、ミホーシャ達が降伏なんて選択する筈がないとは思ってたからあんまり驚かないけど、あの廃墟はプラウダの精鋭達が包囲しているわ。

 如何にミホーシャ達であってもこの包囲網を抜けるのは不可能よ!――たった、一カ所を除いてね。」

 

「待ち伏せの重戦車を配置した『地獄への非常口』ですね。

 あからさまな罠であるのは火を見るより明らかですが、その罠に飛び込まねば包囲されて終わり……もしも仮に偵察を出してこの事を知ったとしたら、並の戦車乗りならばその時点で降伏を選択したでしょうね。」

 

「でも、ミホーシャ達は選ばなかった。

 偵察を出していないのか、其れとも偵察を出してこの陣形を知っても尚、其れを上回る戦術を思いつく事が出来たのか……何れにしても此処からが本番よノンナ。」

 

「了解ですカチューシャ。」

 

 

みほが、大洗が降伏しないであろう事はカチューシャも予想していた事だった――去年の決勝戦でのアクシデントの時も、諦める事なく全員救助をやってのけた、みほとエリカと小梅が絶対的不利な状況であったからと言って諦めるとは到底思えなかったからだ。

しかし、そうであるのならば一見完璧に見えるこの包囲網をいとも簡単に突破してくる可能性は決してゼロではない……故に、大洗が潜伏している廃墟に神経を集中してし過ぎる事は無いのである。

 

廃墟の入り口は一つなので、如何やったって其処から出てくるより方法はないのだが、降伏はしないとの回答から数分が経った頃――

 

 

 

――ドゴォォォォォン!!

 

――ドガァァァァァン!!

 

――ドバガッァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

行き成り、廃墟の出入り口からプラウダの部隊目掛けて連続で砲撃が放たれた!

此れは、廃墟から飛び出してくると考えていたプラウダの隊員にとっては完全なる奇襲であり、カチューシャとノンナですら一瞬呆気に取られてしまったくらいだ。

 

いや、其れもまた仕方ないだろう。

大洗の部隊が逃げ込んだ廃墟は、一応屋根はあるモノの、壁はボロボロ、ガラスは割れたり罅が入ってたりと、所謂『幽霊屋敷』の様な建物であり、強度など聞くだけ無駄だ。

そんなオンボロ屋敷の中で連続で戦車砲などぶっ放したら、その衝撃と音で廃墟が崩れかねない。下手をすれば自滅の一手となるのである。

 

 

「ミホーシャ、一体如何言う心算?

 そんな事をしたら、廃墟が崩れて最悪自滅よ?……でも、やるって言うなら相手になってあげるわ!」

 

 

だが、其れでもカチューシャは『撃って来るなら相手になってやる』と言わんばかりに、包囲している部隊に攻撃を命令!

大洗の戦車が出て来ない限りは廃墟を攻撃する事になり、そうなれば廃墟は崩れ去るだろうが、戦車内部に居ればオンボロ廃墟の瓦礫の下敷きになっても死ぬ事は無い。

その代わり完全に身動きが取れなくなって、瓦礫の当たり方によっては白旗判定も上がるだろうし、仮に上がらなかった場合は、其れこそ瓦礫ごとフラッグ車を吹き飛ばしてやれば良いだけの事なのだ。

この状態が続くだけ、勝利は自分達に引き寄せられる――カチューシャはそう判断したのだ。

 

当然プラウダの隊員達は、カチューシャの命令を忠実に熟して行く。

カチューシャの『大洗の戦車が1輌も出て来ない状態で廃墟が潰れれば、カチューシャ達の勝ちよ!』との言葉に鼓舞されたと言うのもあるだろう――形は小さくとも、カチューシャはプラウダの隊長として絶対的な信頼を寄せられているのである。

 

 

「小さいは余計よ!!」

 

「カチューシャ?誰と話しているのですか?」

 

「作者と言う名の神よ!……って、何言ってるの私!?」

 

 

地の文に突っ込むと碌な事にならないと言う教訓であった。

其れは兎も角、この攻防が続く中で、カチューシャとノンナが感じたのは強烈な違和感――廃墟に立て籠もって攻撃していると言う事とはマッタク異なる違和感……即ち、大洗の攻撃がマッタク持ってプラウダの車輌に掠りもしていないと言う事だった。

素人集団なんだから命中率は期待できないと言えばそれまでだが、あんこうチームの五十鈴華、ウサギチームの山郷あゆみ、ライガーチームのリイン・E・八神、アヒルチームの佐々木あけび、カバチームの左衛門佐と大洗の戦車隊の砲手は素人であるにも関わらず、玄人顔負けの腕前の砲手が揃っている――1、2回戦を見て、カチューシャもノンナも其れを知っているからこそ、一発も掠りもしないと言うのが信じられないのである。

 

 

「ノンナ、此れって流石にオカシイわよね?」

 

「えぇ、オカシイですよカチューシャ。」

 

「なら、如何言う事か確かめるわ!

 全車撃ち方止め!此れより、大洗が潜伏している廃墟を調べに行くわ!」

 

 

感じてしまった強烈な違和感。

其れを確かめるべく廃墟に向かったカチューシャ達だったが、其処で見たのはマッタク持って予想外の――完全にしてやられた光景だった。

 

 

「な、何よ此れぇ!?」

 

「此れは、完全にしてやられましたね。」

 

 

カチューシャ達が廃墟で目撃したモノ、其れは大音量で戦車砲の砲撃音を無限再生しているポータブルCDプレイヤー(コンパクトデジタルスピーカー付き)と、自動点火で連続発射出来るようになっているマグネシウムリボンを巻きつけた閃光弾と、音に合わせてフラッシュするLED照明と、入り口とは反対側の壁に開けられた大きな穴、そして砲撃によって無理矢理薙ぎ倒された林の木々だった。

 

そう、此れまでの大洗の攻撃は全てがフェイクだったのだ。

最初の数発は本物だったが、其れはあくまで裏壁をぶち破る音と林の木が倒れる音を察知されない為のカムフラージュであり、裏壁をぶち抜いた其の後は、此のトリックをセットして、プラウダが偽の相手と戦っている間に、まんまと廃墟の裏手の林を通って包囲網を抜けていたのである。

 

カチューシャとて廃墟の裏手の林の存在は知っていたが、廃墟の裏壁をぶち抜いて、林の中を突っ切るなどと言う事は想像もしていなかった事であり、完全に予想外だった――故に、其方に戦車を配置してなかったのが完全に裏目に出てしまっていた。

 

 

「廃墟の裏手だけじゃなく、林の一部を戦車砲で吹き飛ばして強引に道を作って包囲網を突破するってドンだけよミホーシャ!?

 って言うか、林を破壊するって良いの此れ!?」

 

「まぁ、戦車道の試合で発生した破壊に対する保証は連盟の方が行ってくれるので問題ないのでしょう……と言うか、みほさんの場合は其れを分かった上で意図的に破壊を行っているような気もしますが。」

 

 

このみほの戦術に驚くが、驚いてばかりはいられない――この包囲網を抜けたと言う事は、大洗の部隊は全戦力を持ってしてプラウダのフラッグ車を探すだろうから、即大洗を追撃しなくてはならないのだ。

 

 

「流石はミホーシャ、普通じゃ考えない事をやってくれるわね?

 だけど、此方が優勢なのは未だ変わらないわ――ノンナ、貴女は直ぐにIS-2に乗り換えて。大洗の連中にプラウダの力を思い知らせてやるのよ!!」

 

「了解しました、カチューシャ。」

 

 

カチューシャは即座に命令を下すと、予想外の方法で包囲網を抜けた大洗の追跡を開始――みほの考えた大博打は、取り敢えず大成功であったと言っても差し支えないだろう。

プラウダを完全に出し抜き、まんまと包囲網から逃げおおせたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダが大洗の追跡を始めた頃、大洗の部隊は雪原をひた走っていた。

圧倒的不利な状況で勝つには、ターゲットをフラッグ車1輌に限定し、其れを的確に撃破する以外の方法はない――が、優花里とエルヴィンの偵察で分かったプラウダの包囲網の中にフラッグ車は存在していなかった。

 

ならば、どこか別の場所に潜んでいると考えるのは当然の事だろう。

 

 

「西住隊長、プラウダのフラッグ車は何処に潜んでるんでしょうか?

 この広大な雪原の中から、戦車1輌を探し出すなんて不可能に近いんじゃないかと思います……加えてプラウダの戦車は雪原仕様のホワイトですから、スノーステルス状態ですし。」

 

「何とか包囲網を抜けたけど、あのトリックで稼げる時間はそう多くは無いわ……直に追撃されるでしょうね。

 私と小梅に足止めをしろって言うならするけど、IS-2とKV-2が出て来たら、長時間の足止めは自信無いわよ?」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 

だが、梓の言うように、此のだだっ広い雪原の中から白い戦車1輌を探し出すなんて言うのは、正に『九牛の一毛』!

しかも、プラウダが追撃して来る事を考えるとフラッグ車の捜索に時間を掛ける事も出来ない――包囲網を抜けたとは言え、大洗が不利な状況は変わっていないのだ。

 

 

「フラッグ車、一体何処に……?」

 

 

一刻も早くフラッグ車を発見したいのだろう。みほは少しでも視界を広げようと、キューポラの上に立ち周囲を観察する。

揺れる戦車の上に微動だにしないで立って居られるのも凄いが、キリっと前を見据えた表情で、ジャケットの左袖をたなびかせながらキューポラの上にシャンとたったその姿は正に軍神の威風を感じさせる。(軍神モードで肩に掛けていたジャケットの上着は3時間の間に、寒かったのでちゃんと着直した。)

 

タイミング良くこの姿が観客席のオーロラヴィジョンに映し出され、観客が沸いたのは当然の事であっただろう。

菊代と、試合を見に来ていたダージリンとケイ、資金稼ぎに来ていたアンツィオの面々はデジカメやスマホで写真を撮っていた位である。

尚、このみほの姿は後に『軍神立ち』と呼ばれ、その姿を収めた写真が戦車道ファンの間で高額取引されるようになるのだが、其れはまた別の話である。

 

 

兎も角、フラッグ車を見付けられないままプラウダに追い付かれては、今度こそ勝機は無くなってしまうだろう。

 

 

「此処は、ちょっと大胆に行ってみるしかないかな?うん、そうしよう。

 此れから部隊を2つに分けるよ。――あんこうチームとカバさんチームは此のままフラッグ車の捜索&撃破を担当するから、残りは全てプラウダの部隊を引き付けてくれるかな?」

 

 

だからみほは、此処で包囲網を抜けたとき以上の大胆な戦術に打って出た。

パンターとⅢ突のみでプラウダのフラッグ車を探す代わりに、大洗のフラッグ車であるⅢ号までをも囮にしてプラウダの部隊を捜索組から引き剥がそうと言うのだ。

みほ達がプラウダのフラッグ車を発見して撃破するのが早いか、其れともプラウダの部隊が大洗に追い付いてフラッグ車を撃破するのが先かと言う、正に綱渡り勝負なのだが……

 

 

「了解しました西住隊長!我ら全員、気合と根性でプラウダの注意を引き付けます!!」

 

「やるかやられるかのギリギリの勝負……良いじゃない、そう言うのは嫌いじゃないわよみほ?

 其れに引き付けるだけじゃなくて、必要なら喰い散らかしちゃっても構わないんでしょ?……この黒虎は、そろそろ空腹も限界みたいだしね。」

 

「フラッグすらも囮にする……相変わらず大胆な戦術を考えますねみほさん?」

 

「でも、確かに其れならプラウダの部隊を『敵フラッグ車の居る部隊』に集中させる事が出来ますから、プラウダのフラッグ車捜索組は、自分の仕事に専念出来ますね。

 了解しました西住隊長、プラウダの部隊は此方で引き付けますので、プラウダのフラッグの方をお願いします。」

 

 

既に大ピンチを一度脱出して、テンションが上がっている今の大洗にとってこの程度の事は大した事ではない。

アヒルチームの典子が口火を切ると、そのノリを広げるかのようにエリカと小梅と梓が続き、『勝つためにはこの方法が最もベターである』と言う雰囲気を蔓延させ、其れがテンションの上がっている隊員達に伝わって、『綱渡り勝負がナンボのモンじゃい!』と言った感じになったのだ。

 

大洗の隊員はノリがいい、若しかしたらアンツィオの隊員以上に。

そして、戦車道未経験者が殆どであるが故に、言い方は悪いが『経験者がやるって言うならやってやらぁ!』的な所もあり、綱渡り勝負であっても恐怖する事は無いのだ。

 

 

「うん、任せたよ!!」

 

「西住隊長も御武運を!」

 

 

無論此の部隊分けは戦力分配だってちゃんと行われている。

プラウダを引き付ける部隊にエリカと小梅と梓を残したのだから――みほと梓が互いにサムズアップしたのを合図に、大洗の部隊は2輌と6輌の2つに分かれてプラウダとの最終決戦のスイッチを押したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数分後、遂にプラウダの部隊は大洗の部隊に追い付き、攻撃を開始。

数も、フィールドも有利となればフラッグ車を仕留めるのは難しくない――筈だったのだが、此れが中々如何して思ったようにいかないモノだ。

 

 

「もう、なんで当たらないのよ!!」

 

「当たらないんじゃなくて、全部避けられてるべやな此れ……」

 

 

そう、プラウダの砲手達の狙いは完璧なのだが、その正確な砲撃を大洗の部隊は尽く躱しているのだ――みほの鬼の回避訓練によって会得した超回避能力は、準決勝でも発揮されたのだ。

 

 

「避けられると言うのならば、避ける先を予想して撃てばいい、其れだけです。」

 

 

だがしかし、プラウダには現在の高校戦車道に於いてトップ3に数えられる砲撃手であるノンナが居る。

百戦錬磨の彼女にとって、敵戦車の逃げる先を予測して撃つなどと言う事は朝飯前なのである。

 

 

 

――バガァァァァァァァン!!

 

――キュポン!

 

 

 

『大洗女子学園、ルノーR-35、行動不能!』

 

 

その針の穴をも抜く砲撃がカモチームに炸裂し、白旗判定に!――まぁ、砲撃を回避した先に新たな砲撃が飛んできては、避けろと言うのが無理なので此れは仕方ないのだが。

だが、此の撃破に誰よりも反応した者がいた……言うまでもない、エリカだ。

 

 

「IS-2での此の正確な砲撃……ノンナね?

 確かに貴女の腕なら、こっちの戦車を悉く撃ち抜いてくれるんでしょうけど、生憎と易々と其れをさせる気は無いのよね――澤、小梅、ちょっとIS-2に喧嘩売って来るわ。」

 

 

黒森峰時代は自ら『狂犬』を名乗っていた程に、エリカは気性が激しい。

短気ではないが、目の前に強い相手、もしくは倒すべき敵が現れた時にはその牙を剥く事を躊躇しない部分がある――其れが、今回はノンナが砲手となったIS-2に向かっただけの事なのだ。

 

 

「へ?逸見先輩!?」

 

「あぁなったエリカさんはみほさんでも止められませんから言うだけ無駄ですよ澤さん。

 そして、自称『狂犬』となったエリカさんは、狙った獲物は必ず倒します――例え相討ちになろうとも。

 それに、IS-2がティーガーⅡに集中してくれるなら二大火力の片方を封じる事が出来る訳ですからフラッグ車の生存率も上がりますからね。」

 

「そう言う事よ。

 私達はIS-2を倒しに行ってくるから、アンタ達は死ぬ気でフラッグ車を護りなさい?って言うか、フラッグ車の盾となれ!フラッグ戦はフラッグ車が生き残っている状態で相手のフラッグ車を撃破すれば其れで勝ち!

 極端な事を言うなら、他は全滅しても相手のフラッグ車を撃破した時に、自軍のフラッグ車が生存してればいのよ。

 兎に角、IS-2を撃破したらKV-2も滅殺してくるから、みほ達がプラウダのフラッグを撃破するその時まで、フラッグ車を死守しなさい!!」

 

 

大洗の部隊に指示を出しつつ、エリカの顔に浮かぶのは肉食獣の如き壮絶な笑み。

その笑みは、エリカの整った容姿と相まって、『危険な美しさ』を演出している――更に目からハイライトが消え、瞳孔が極端に収縮した『超集中状態』こと『種割れ状態』(命名:みほ)になっているのだから、今のエリカならばIS-2が相手でも負けはしないだろう。

 

 

「逸見先輩……分かりました、お願いします!!」

 

「任せときなさい副隊長……プラウダの喉笛を、狂犬の牙で喰いちぎってやるわ!!」

 

 

そのまま、言うが早いかエリカはノンナの乗るIS-2に向かって突撃!!

 

 

「真正面から向かってくるとは、正気ですか逸見さん……!!」

 

「正気よ、少なくとも私の中ではね!

 って言うか、私みたいな『狂犬』に正気を尋ねるのは意味が無いわよノンナ――『狂犬』は、自分が狂ってるとは思ってないんだからね!」

 

「そう来ましたか……良いでしょう、相手になります逸見エリカさん!」

 

 

其れを皮切りに、ドイツとソ連が夫々誇る最強の重戦車による一騎打ちが勃発!!――白い雪のフィールド上で始まった黒き虎の王と白き重騎士の戦いは、貨客を大いに盛り上げる事になったのだった。

 

 

「ノンナ、片付けてやるわ。」

 

「やってみなさい、狂犬風情が。」

 

 

大洗の狂犬こと逸見エリカと、プラウダの副隊長であり『ブリザードのノンナ』の二つ名を持つノンナの戦いは、のっけから手加減なしの戦車戦となって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、みほの部隊はプラウダのフラッグ車が隠れている場所に、大体の当たりを付けてその周辺を捜索していた――只捜索するだけでなく、再び優花里とエルヴィンを偵察に出しての詳細捜索を行っているのだ。

 

直ぐには見つからなかったが、其処で優花里が機転を利かして、一際高い『火の見櫓』の様な物に上ったのが予期せぬ好機となった。

 

 

『西住殿、プラウダのフラッグ車を発見したであります!!』

 

『二時の方向の民家の裏手……成程、考えたな。あそこならば隠れるのに適しているからな。』

 

「了解したよ優花里さん、エルヴィンさん!」

 

 

優花里とエルヴィンがプラウダのフラッグ車を発見したのだ。

フラッグ車が見つかってしまえばしめたモノだ――後は其れを撃破すればいいのだから。

とは言え、其れは決して簡単な事ではない――パンターは装填手である優花里が偵察に出て行ってしまったために、パンターの攻撃は機銃だけとなってるのだ……主砲が撃てないのでは高いスペックを生かす事は出来ないのだ。

つまりは、Ⅲ突に全てが掛かって来るのである。

 

 

「そこを右に……うん、良い感じ。

 華さん、機銃で相手の戦車を誘導する事って出来るかな?」

 

「……出来るかどうかは分かりませんが、やってみましょう――」

 

 

だが、機銃は決定打にならなくとも牽制に使う事は出来る――其れこそ、敵フラッグをキルゾーンに誘導する位の事は可能なのである。

華の巧みな機銃捌きによって、進路を誘導されたプラウダのフラッグ車は、民家の脇を右折した所で……

 

 

「今だ、もんざ!!」

 

「えぇい、もんざと呼ぶな!!」

 

「左衛門佐さん、やっちゃってください!!」

 

「……隊長命令とあれば仕方なかろう――左衛門佐、敵フラッグ車を狙い撃つ!!」

 

 

戦車の下からⅢ突の砲撃が炸裂!!

何とカバチームは、みほ率いるあんこうチームがプラウダのフラッグ車を追い回している間にⅢ突を隠せるだけの穴を掘り、Ⅲ突を雪で埋めた上で待っていたのだ、プラウダのフラッグが目の前に現れるのを。

 

そして訪れた好機を逃さずⅢ突に主砲の発射を命令!!!

其れは寸分違わずにT-34/86の下部装甲を貫通し、

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

『プラウダ高校、フラッグ車行動不能――大洗女子学園の、勝利です!!』

 

 

「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」

 

 

響き渡るのは観客の声援――ここ数年で、マンネリ化して来ていた『黒森峰vsプラウダ』の決勝戦に風穴を開けたと言うのも大きいかも知れないだろう。

何れにしても、大洗女子学園は、去年の準優勝校であるプラウダを討ち破って決勝戦へと駒を進めたのだった。

 

 

 

「はぁ……負けちゃったわね――でも、私達に勝ったのなら絶対に優勝しなさいよミホーシャ!!」

 

「其れは、勿論削心算ですよ。」

 

 

だがしかし、戦車道は礼に始まって礼に終わるが基本だから、試合が終われば互いの健闘を称えるのがマナーなのだ。――みほとカチューシャも其れを知っているからこその会話をしながら、笑みを浮かべているのだから。

此の準決勝は、大洗にとっても得るモノは大きかっただろう――少なくとも、決勝戦で黒森峰と相対しても気圧される事だけは無くなる筈だ。

 

 

「次はいよいよだね……その首、取らせて貰うよお姉ちゃん。」

 

 

みほは闘気を解放し、ジャケットの上着を脱ぎ棄てて観客席に向かってサムズダウン!!

其れを見た観客席のまほもまた、首を掻っ切る動作からサムズダウンを行い、みほを挑発する――この挑発の応酬は姉妹でしか分からない意味があるのだ。

 

みほとまほは、互いに不敵な笑みを浮かべると、そのまま会場からフェードアウト!

だが、何れにしてもこの姉妹が本気を出した以上、決勝戦が荒れるのは間違いないだろう――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:まほ

 

 

ギリギリではあるが、大洗が勝利したと言うのは正確ではないな……恐らくはみほは此処まで織り込み済みだったのだろうからね。

殆ど素人の集団を率いてプラウダを倒すとは流石だ……

 

 

 

「ふん、今回はたまたま運が良かっただけじゃ!――何時もこうなるとは思えぬわ!!」

 

「左様ですか。」

 

まぁ貴女が人を見極められるようになるとは誰一人思っていませんから今更ですがね……ですが、今回の勝利はみほが仲間達と共に掴んだ栄冠であり、勝利です。

其れは誰にも真似出来るモノではないでしょう?

 

まぁ、在籍中は貴女の言う戦車道を邁進する心算ですが、いい加減貴女のその古い考え方には辟易してたのでな……今大会を持ってして、私は貴女の戦車道をみほと共に粉砕する。

此れで最終章の幕を上げる準備が出来た――後は、本番あるのみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 


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