ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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此れは、この戦車道は西住の血が滾るよ……Byみほ        みほの血の封印が解かれた!?Byエリカ      殺意の波動の目覚めと血の封印の解除、どっちが上なのでしょうか?By小梅     ……蝶野By紗希     ガッデム!By黒のカリスマ@蝶野正洋


Panzer186『鈴壁vs知波単学園!大激戦です』

Side:みほ

 

 

エミちゃん率いるベルウォールと、西さん率いる知波単の試合が始まった訳だけど、此れってある意味で今大会最注目の試合なんじゃないかな?

今迄無名であり、シードだったとは言え三回戦まで駒を進めて来たベルウォールと、西さんの下で生まれ変わった新生知波単の試合って言うのは、戦車道ファン……特に玄人の人にはそそられる試合だと思うんだ。

 

 

 

「でしょうね。

 目の肥えた玄人ほど、此の試合を面白いと感じると思うわよみほ――かくいう私も、此の試合がどうなるのか、楽しみで仕方ないわ……貴女の幼馴染って言う子が、如何戦うかも興味あるしね。」

 

「ふふ、エミちゃんは強いよエリカさん。其れだけは確実に言えるよ。」

 

「其れについては疑ってないわ――貧弱な戦力でありながら、三回戦まで駒を進めて来た彼女の戦車乗りとしての能力は本物以外の何者でもないからね。

 もしも彼女が貴女と同じチームになったら、誰も勝てる人はいなくなるでしょうね。」

 

 

 

其れはちょっと言い過ぎかもしれないけど、確かにエミちゃんと同じチームだったら、誰も敵じゃない気がする――既に今の大洗は最強モード状態だけど、其処にエミちゃんが加わったら、正に鬼に金棒だからね。

 

 

 

「鬼に金棒?違うだろみぽりん!グレート・ムタにハルク・ホーガンだろ!!」

 

「其れは其れで違う気がします蝶野さん。でも、そのタッグは確かに強そうです。」

 

「みぽりんが生まれる前に、実は一度だけ実現してんだオラ!スゲェだろ!」

 

 

 

アハハ、黒のカリスマは今日も今日とて絶好調ですね♪

……それはさておき、果たしてどんな試合になるのか――オーロラビジョンに映し出されたベルウォールと知波単の動きを見る限りでは、先ず遭遇戦となるみたいだけど、其れでは終わらない気がする。

エミちゃんも西さんも、きっと可成りの戦術を用意しているだろうからね。――此れは若しかしたら、此の試合は無限軌道杯のベストバウトにノミネートされるかもしれないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer186

『鈴壁vs知波単学園!大激戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

知波単との試合が始まった訳だけど、最初は間違い無く遭遇戦になるでしょうね……知波単の新たな戦術であるゲリラ戦をする為には、アタシ達のスタート地点に近い方にある林か岩場に行くしかない訳だから、その途中で確実に遭遇する事になるだろうし。

この遭遇戦でフラッグ車を撃破出来るとは思わないけど、最低一輌、可能なら三輌位は撃破しておきたい所だわ……ゲリラ戦を展開されたら、フィールド破壊をするにしても、こっちだって無傷では済まないと思うからね。

 

 

 

「エミちゃん、知波単の戦車はまだ見えない?」

 

「まだよ瞳。だけど全軍に通達、何時でも攻撃が出来るように準備だけはしておきなさい。」

 

「おうよ、了解したぜマネージャー。」

 

「「任せろメスゴリラ!!」」

 

 

 

あの双子は……いい加減人の事メスゴリラって呼ぶの止めなさいよ?

ったく、一度本気で絞め上げてやろうかしら……自慢じゃないけど、アタシのアイアンクローは効くわよ?アタシの握力は五十八kgだし。

 

 

 

「ドイツハーフのエミちゃんがアイアンクロー……ピッタリだね♪アイアンクローの考案者はドイツ系のアメリカ人だった筈だから。」

 

「そうらしいわね?アタシは良く分からないけど。」

 

そんな事よりも、先ずは遭遇戦で一発かますわ。

隊員の練度は知波単の方が上だけど、主力四輌に限って言えば、戦車性能はこっちの方が上だから、遭遇したら挨拶代わりに主力の火力をブチ込む。

無論その程度で知波単の連中が怯むとは思えないけど、最初の流れをこっちに引き寄せる事が出来るからね。

 

『突撃馬鹿』とまで言われていた知波単を、僅か数カ月で改革した『猛将』西絹代――お手並み拝見させて貰うわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

試合が始まって数分後、エミの読み通りに、知波単が林に差し掛かる手前でベルウォールと知波単の部隊は遭遇した――遭遇したのならば如何するか?

 

 

「先手必勝、ブチかましなさい!!」

 

「見敵必殺!的を絞らせないようにしながら応戦しろ!」

 

 

答えは至極簡単、戦うだけだ。

主力四輌の火力で攻撃して来たベルウォールに対し、知波単は部隊を散開させ、的を絞らせないようにして応戦する――戦車道の教科書の様な火力vs機動力の展開だと言えるだろう。

だが、あくまでも其れは遭遇戦の最初の攻防に過ぎない――本番は最初の一撃のその後だ。

 

 

「Ⅱ号部隊、機動力で知波単を攪乱させなさい。撃破する必要はないから、兎に角掻き乱して。」

 

「「分かったぞメスゴリラ!」」

 

「アンタ等、次にアタシの事をメスゴリラって呼んだら、チョップで首切り落とすわよ?」

 

「「ベルリンの赤い雨!?」」

 

 

エミは知波単の部隊が散開したのを見るや否や、Ⅱ号部隊に機動力で知波単を攪乱する事を命じる――双子と何やらあったみたいだが、其れはこの際些細な事なので無視しておこう。

エミの命を受けたⅡ号部隊は知波単の部隊を攪乱しようと、機動力に物を言わせた挑発染みた攻撃を開始――Ⅱ号戦車の豆鉄砲では日本戦車の紙装甲も抜けないのだが、やられた方からしたらムカつく事この上ない。

 

考えてみて欲しい、大したダメージにならないとは言え、エアガンやガス銃ではない玩具のピストルでBB弾を何発もぶつけられたら、痛くはないけどだんだんムカついては来ないだろうか?

少なくとも作者はムカつく。大体二十発を超えたあたりでブチキレて、やった相手にウェスタンラリアットをブチかまして、ダウンした所をラーメンマン先生のキャメルクラッチで絞め上げる――又は強制的に立たせた上で、ストーンコールドスタナーの刑に処す。

 

 

 

……失礼、話題が其れたが、ダメージにならずともちょこちょこした攻撃と言うのは非常に神経を逆撫でするモノだ――其れこそ、今までの知波単だったら、即座に激高してⅡ号を撃破しようとしていただろう。

 

 

「Ⅱ号の攻撃ならば決定打にはならない!履帯を切られないように注意しながら、ティーガー達の方に集中しろ。」

 

 

だが、今の知波単は嘗ての知波単とは一線を画す存在だ――隊長の絹代が、Ⅱ号の役割を看破し、挑発に付き合う必要は無いと言い、全軍にエミ率いる主力に集中するように言う。

知波単の隊長と言う肩書だけで、不当に低い評価を受ける事の多かった絹代だが、隊長としての能力はケイやダージリンと比較しても引けを取らないレベルであり、戦車道評論家の中には、絹代が黒森峰以外の三強に進学していたら、黒森峰の一強時代は大洗が出てくる前に終焉してたと言う者もいる位だ。

そして、同時に西が大洗に進学していたら、みほとのコンビがえげつない事になっていたと言う声もある――えげつないコンビとは一体如何いう事なのか少々問い詰めたいが、絹代の戦車乗りとしての能力はそれ程までに高いと言う事なのだろう。

 

 

「挑発には付き合わないって?猛将と渾名されてる割に、意外とクールなのね西隊長?」

 

「指揮官が熱くなって冷静さを欠いてしまっては、部隊が総崩れになってしまいますからなぁ……私も精神修業をして、冷静な精神を手に入れた次第であります!!」

 

「成程ね……其れは、何とも倒し甲斐があるわ!」

 

 

Ⅱ号の挑発を完全無視してベルウォールの主力に戦力を向けて来た絹代に対し、しかしエミは焦る事はなく迎撃態勢に入る――所有戦車八輌の内、四輌は戦車戦性能皆無のⅡ号である事を考えると、ベルウォールの戦力はティーガーⅠ、ヤークトパンター、エレファント、T-44の四輌で、対する知波単の戦力は八輌全てが一応の戦車戦性能を有する戦車であり単純な戦力差は二倍と言える。

だが、知波単の戦力は性能面では決して優秀とは言えない日本戦車である事を考えれば、ドイツ戦車三両とソビエト戦車一輌と言うベルウォールの主力との戦力比は此れで互角と言った所だ。

 

 

「こっちの火力なら何処に当てても撃破出来る!細かい狙いはいらないから、兎に角命中させる事を最優先にしなさい……三発以上外したらペナル茶の刑が待ってるからその心算で!!」

 

「マネージャー、其れ下手すりゃ死人が出るぞ!?」

 

「回避された場合はカウント外!なお十発以上外した奴は言峰麻婆とリンディ茶の刑に処すわ!!」

 

「ヤッベー、ペナルティに殺意しか感じねぇ!!」

 

 

……中須賀エミと言う戦車乗りは、みほの幼馴染と言う事もあるのか、中々に容赦がなかった、敵にも味方にも。

だが、エミの指示は最も的確と言えるだろう――ティーガーⅠを筆頭に、ベルウォールの主力四輌の主砲は全てが長砲身88mm以上の高火力なのだから、最大装甲厚が25mmの日本戦車ならば何処に当てても撃破は確定なのだから、細かい狙いを付ける事は敢えて放棄し、取り敢えず当てる事を最優先にと言うのは効率面でも間違いではないのだ。

 

だが、無論絹代とてそんな事は分かり切っている。

 

 

「エミ殿……先ずは此れにてゴメン!!」

 

 

 

――バガァァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

ベルウォールの主力が攻撃しようとしたその瞬間に、主砲で地面に攻撃――と同時に、着弾点から黒煙が上がり、ベルウォールの視界を完全にシャットアウトしてしまった。

一見すると大洗お得意の発煙筒を使った目潰しに似ているが、発煙筒の煙が白なのに対し、此方は真っ黒であり、明らかに別物だ――と言うか、戦車砲が地面に当たった瞬間に黒煙が上がってる時点で別物以外の何者でもない。

 

 

「ケホッ……此れは、まさか黒煙弾!?」

 

 

そう、知波単が使ったのは黒煙弾。黒炎弾ではなく黒煙弾。

基本的は榴弾なのだが、通常の榴弾とは違い内部に黒色火薬が詰められており、着弾と同時に炸裂した瞬間に黒色火薬が爆発して大量の黒煙を発生させると言う戦車砲だ。

目くらましに使える砲弾ではあるが、白煙よりも煙が濃い黒煙では味方の視界も殺してしまうと言う理由から殆ど使われる事の無かった砲弾であるが、絹代は敢えてそれを使用して来た――殆ど使われる事が無かったからこそ対策されにくいと考えたのだ。

 

実際にその効果は抜群で、黒煙が晴れるまでのおよそ十分間、ベルウォールはその場から動く事が出来なかったのだから。

そしてその間に知波単の部隊はまんまとこの場を離脱してゲリラ戦を展開出来る林に……第一ラウンドは互いに損害はなかったモノの、自軍が得意とする戦い方に持ち込む事に成功した知波単に軍配が上がった形だろう。

 

 

「アイツ等、やってくれるじゃない……上等よ、叩き潰してやるわ!!」

 

「お~~……マネージャーがキレた。こりゃ知波単死んだな。」

 

 

黒煙が晴れた頃には、ベルウォールの面々は見事なまでに煤塗れになっていた……まぁ、黒色火薬の黒煙に十分近く晒されれば煤塗れは回避出来ないからね。

だが、煤塗れになりながらもエミの顔に浮かんでいるのは猛獣の笑みだ――如何やら、この遭遇戦がエミの中に眠る野生の本能を完全に解放してしまったようだ。

 

 

「全軍進撃!目標は少し戻った所にある林……知波単のゲリラ戦に付き合ってやろうじゃないの!」

 

「まぁ、そう来るよな……了解した、行くぜマネージャー!!」

 

 

先手は取られたが、だからと言って何方に流れが傾いたと言う事でもないのであれば、今度は自分達がやる番だと言わんばかりにベルウォールの部隊は知波単が向かったであろう林に向けて進軍!

ゲリラ戦を仕掛けてくるのは間違い無いだろうが、ゲリラ戦に適当に付き合った上で其れを潰す――其れがエミの作戦だった。

 

 

「Ⅱ号部隊先行して!機動力を駆使して林内部の状況を調べて来て。」

 

「「アイサー!!」」

 

 

更に小回りの利くⅡ号部隊を先行させて林の内部の状況を調べさせる――林の内部がどうなってるかが分かれば、其処から如何戦うかを考える事が出来るから、此れは当然の命令と言えるだろう。

 

 

『知波単の部隊は、林の中に固まってる感じがするんだけど、迷彩柄のせいで正確な数が分からない……取り敢えず最低でも四輌はいると思うんだけど……て、のわぁ!?』

 

「ちょ、如何したの!?」

 

 

だが、その偵察の最中にまさかの悲鳴。

エミも何事かと確認しようとするが、一体何が起きたのかは場内のアナウンスが教えてくれた。

 

 

『ベルウォール、Ⅱ号戦車一号車、二号車、走行不能!』

 

 

そう、偵察に出ていたⅡ号は知波単の攻撃で撃破されてしまったのだ――だが、林の中に固まってた筈なのに、何故Ⅱ号が撃破されてしまったのか?

其れこそが、知波単のゲリラ戦の真骨頂だからだ。

 

 

「撃破されたって、如何言う事?知波単の部隊は林に集まってるんでしょ!?」

 

『そう見えたけど、後から攻撃された~~!流石に此れは避けられないって!!』

 

「後ろからですって?」

 

 

同時に其れは、エミに一種の驚愕を与えていた――其れはそうだろう、正確では無いとは言え、林の中心に略集まってると聞いた次の瞬間に偵察のⅡ号が背後からの一撃で撃破されたのだから。

だが、同時に其れはエミにある事実を知らしめる事でもあった。

 

 

「知波単は部隊を二つに分けていた……そして、一方の部隊は林に潜んで、迷彩柄をもってして相手の偵察に正確な数を教えないようにして、本隊とは別の部隊が茂みに隠れてた訳か――成程、車体の小さな日本戦車の特性を十二分に活かして来たか、やるわね西!

 ゲリラ戦を展開するなら此れ位はやってくれないとね――だけど、こっちだってアンタ達のゲリラ戦に本気で付き合ってやる道理はマッタクない!

 ……だから、ゲリラ戦のフィールドを破壊させて貰うわよ!!」

 

 

そう、知波単は部隊を二つに分け、片方を林に、もう片方を林のちょうど反対側にある茂みに隠して居たのだ――相手が林に入って来なくともゲリラ戦を仕掛ける事が可能な二段構えは、絹代が只の猛将ではなく知将の面がある事を伺わせてくれるものと言えよう。

 

Ⅱ号は戦車戦では全く戦力として期待出来ないが、小型で小回りが利く分偵察や攪乱には持って来いの戦車でもあるので、其れを二輌失ったと言うのは決して安いモノではない。

だが、そのお陰で知波単の現在の布陣が分かったのならば、Ⅱ号は充分にその役目を果たしたと言えるだろう――故に、エミは撃破されてしまったⅡ号が齎してくれた知波単の情報を最大限に利用するだけである。

 

 

「エレファントとT-44とヤークトパンターは林を集中攻撃!フィールドごとフッ飛ばしなさい!

 アタシ達は茂みの中に潜んでる奴等をぶっ倒す!日本戦車は鋼鉄の獅子とも言うらしいけど、ドイツ戦車は獅子すら凌駕する体躯を誇る虎の名を冠してるのよ!

 獅子と虎、本当に強いのはどっちかを教えてやるわ!」

 

 

なので即座にエミは自分が乗るティーガーⅠ以外の主力に林の撃滅を厳命し、自身は茂みに隠れてる知波単の別動隊に単騎で突撃!其れこそ知波単のお株を奪うレベルでの突撃だ。

此れにはⅡ号を撃破した知波単の別動隊の面々も驚きを隠せない。

 

 

「ひぃぃぃ!?赤毛の鬼が突撃してきたでありますぅ!如何しますか細見殿ぉ~~!!」

 

「狼狽えるな福田!……と言いたいが、アレは確かにとっても怖い!

 西隊長は仰った……最後に勝つ為に退くのは撤退ではなく『勝利の為の前進である』と――ならば今は最後の勝利に向かって進むとき!!」

 

 

福田が涙目になるのは仕方ない。

だって想像してみ?赤毛のツインテールが犬歯剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべながら、ティーガーⅠのキューポラから身を上半身を出して突撃して来たら怖いでしょ?少なくとも、並の戦車乗りだったら其れを見た時点で敵前逃亡する可能性は高いと思う。因みに、作者も逃げる。

 

だが其れでも細見は冷静さを保って、無理に応戦せずにこの場からは撤退する事を選択した――此れもまた、嘗ての『突撃馬鹿』だった頃では絶対にあり得ない事だっただろう。

『勇猛果敢に前進こそが戦車道』の知波単に於いて、撤退は『敵に背を見せた臆病者の証』として忌み嫌われてきたモノだったから――が、大学選抜戦を経験した絹代は、『勝利の為には時には退く事も大事』と知り、其れを戦術に取り込む事にしたのだ。

無論それは簡単な事ではなかったが、此処でも絹代は知波単の気質を最大限に利用した――戦略的撤退を勝利の為の前進の一種と言って、隊員達に必要ならば退く事を教えたのだ……この人マジで知波単以外の学校に進学してたら黒森峰の脅威になってたんと違うだろうか?

兎に角その甲斐あって、知波単の面々は状況次第では退く事を覚えたのである。

 

 

さて、別動隊の方はエミの迫力に圧されてこの場から撤退したが、林に潜んでいた絹代率いる本隊はと言うと……

 

 

「なんと、林その物を攻撃してくるとは……流石はみほ殿の幼馴染、やって来る事のスケールが大きいでありますなぁ?

 とは言え、このままではジリ貧故、全軍反転!林を抜けて荒野のフィールドに出る!急げ、遅れたら倒木の下敷きになるぞ!!」

 

 

林が攻撃されていると見るや否や、即座に撤退開始!その判断力も見事です絹代隊長。

だが、如何に素早く撤退しようとも、入り組んだ林の中を進むのは簡単ではなく……

 

 

 

――ドガァァァァァン!

 

――キュポン!

 

 

『知波単学園、九七式中戦車、九五式軽戦車、行動不能。』

 

 

新砲塔搭載型の九七式中戦車と、フットワークの良い九五式軽戦車が倒木のダイレクトアタックを喰らってライフポイントがゼロになって退場となった……フィールド破壊恐るべしだ。

エミは『戦車は無視してフィールド破壊を行う』と言っていたが、それはフィールド破壊を行えば戦車を狙わずとも自然と何輌かは撃破出来ると思ったからだろう。

何にしても、此れで残存車輌数は同じになった訳だが、この展開に観客は大盛り上がり!

新規参戦校の中で唯一、三回戦まで駒を進めたベルウォールと、万年一回戦負けの汚名を返上した知波単の試合が盛り上がらない筈ないのだから、此れはある意味で当然の事だと言えるだろう。

 

 

「Wunderbar!最高だぜ!

 まさか大洗の試合以外でこんなに暑い戦車道が見れるとはな……隻腕の軍神は幼馴染もハンパねぇえなみぽりん!面白くなって来たぜ!!」

 

「ふふ、本番はこれからですよ蝶野さん?」

 

「んだと?グァッデム!

 出し惜しみしてんじゃねぇぞオラ!持てる力の全部を出し切ってみろ!それが戦車道ってモンだろ!アイム、チョーノ!ガッデメファッキン!!」

 

 

そして観客席は今日も今日とて絶好調だった。物凄く絶好調だった。カウンターのケンカキックからSTFのコンボを流れる様に極めちゃう位に絶好調だった。

其の手に大洗謹製の日本酒、蝶野亜美教官がプリントされたラベルが目を引く『撃破率120%』が握られていた事は突っ込んではいけないだろうきっと。

 

 

さてさて、観客席での盛り上がりは他所に試合は進む。

試合開始直後の遭遇戦では知波単が黒煙弾でベルウォールの視界を奪った上で、林に逃げ込み、第2ラウンドでは茂みに隠れた別動部隊を使ってのゲリラ戦でベルウォールのⅡ号を二輌撃破するも、ベルウォールはカース・オブ・ドラゴンと燃え盛る大地のコンボ攻撃もビックリのフィールド破壊を行い、倒木によって知波単の九七式と九五式を撃破し、両校とも残存車輌は六輌と言う状況。

そして次なる第3ラウンドの舞台は岩場だ。

隠れる場所の多い岩場は、知波単がゲリラ戦を展開出来るフィールドでもあるが、ベルウォールの部隊が居たのはそう言った物陰となる岩が多い場所ではなく、戦車を隠すことが出来ない程度の大きさの岩しかない、比較的開けた場所だった。

 

 

「ねぇ、此処は流石に目立ち過ぎじゃないかなエミちゃん?」

 

「いえ、此れで良いのよ瞳。これならすぐに知波単はアタシ達を『見つけて』くれるから。

 フィールド破壊を喰らった以上、ゲリラ戦は仕掛けて来ないでしょうし、仮にゲリラ戦を仕掛けようにも、アタシ達が此処に留まってる限りはゲリラ戦なんて仕掛けようもないから、此処で待っていれば相手の方から姿を見せてくれるわよ。」

 

「つまり、俺等は餌……差し詰めミミズか?」

 

「ゴカイじゃないの?」

 

「私としてはイソメが良いんじゃないかと……」

 

「餌ってのは間違ってないけど、なんで揃いも揃って虫系なのよ……」

 

 

エミが此処で部隊を止めていたのは、そうすれば知波単の方から攻めて来てくれると思ったからからだ――ベルウォールの主力戦車の性能は知波単の戦車の性能を遥かに上回っているから、その性能差をもってして確実に勝利する為にこの場で待つ作戦に出たのだ。

 

 

一方で……

 

 

「むぅ……此処に来てから既に三十分は経つが、一向に動く気配はなしか――此方に攻めて来たら巨岩落としで撃破する心算だったが、来てくれぬのでは其れも無理と言うモノ――さて、如何したモノか?」

 

 

遠方からベルウォールの部隊を視察していた絹代は思わず溜め息を吐いた。

林でのゲリラ戦はフィールド破壊で突破されてしまったが、この岩場ではそのフィールド破壊を逆に利用したゲリラ戦を展開しようと思っていたのだが、ベルウォールの部隊は開けた場所に留まったまま一向に動こうとしないからだ。

このままでは埒が明かないから、そうであるのならば自ら攻め込んだ方が良いのでは?とも考えるが、絹代には気になる点があった。

 

 

「其れにベルウォールの部隊、エレファントと残りの二輌のⅡ号が居ないのは如何なる事か?」

 

 

其れは開けた場所に居るベルウォールの戦車が、ティーガーⅠ、ヤークトパンター、T-44の三輌だけだと言う点である……残るエレファントと二輌のⅡ号の姿が無いのだ。

移動中にマシントラブルが発生したとも考えられるが、そうであるのならば審判団から『走行不能』のアナウンスが入るはずなので、其れがない事を考えるとマシントラブルで走行不能になった可能性は先ず無い。

だからこそ絹代は考える、此れは罠ではないかと。

 

 

「(普通に考えれば此れは私達を誘い込むための罠……下手に突っ込めば挟撃される可能性が高い――だが、逆に言うのならば挟撃を喰らってもⅡ号は無視できるレベルなので、実質的な脅威はエレファントのみ。

  しかもエレファントはその巨体故に動きは愚鈍……なれば、此方の機動力を駆使すればフラッグ車への零距離攻撃を敢行する事も可能か。)

 ……諸君、如何やらベルウォールの皆さんは、私達の事を待っているらしい――ならば我々は其れに応えようではないか!

 此れより、ベルウォールの部隊に向けて進軍する!そして、彼女達との距離が百mまで縮まったら、全力で突撃せよ!!」

 

 

だが其れでも、エレファントの機動性の低さを考慮すれば、機動力で分のある自分達ならば挟撃されても背後からの攻撃を回避出来ると判断した絹代は部隊を進撃させる事を選択!

そして数分後には、ベルウォールの待つ開けた場所へを到着し……

 

 

「来たわね絹代……ケリを付けましょうか?」

 

「そうですね、決着と行きましょう……貴女の敗北をもって!」

 

 

其処から一気に戦車戦が展開!!

攻撃力で勝るベルウォールは細かい狙いを付ける事を捨て、兎に角当たれば良いとの感覚で砲撃を行い、逆に知波単はその機動力をもってして砲撃を回避しながらベルウォールの部隊との距離を縮めていく。

此処までは、知波単の回避力の方が上で、遂に距離は百mを切り……

 

 

「今だ、突貫!!」

 

 

絹代の号令で全軍突撃!!

戦車戦に於いては至近距離である百mからの突撃は、例えそれを行ったのが低性能の日本戦車であったとしても効果は充分にあり、知波単はこの方法で一回戦と二回戦を制して来たのだ。

 

 

「……其れを待っていたわ。」

 

 

其れを見たエミの顔には笑みが浮かんでいた――そう、エミは此れを待っていたのだ。

 

 

「機は満ちたわ!ブチかませ!!」

 

「「アイサー!!」」

 

 

――ブオン!

 

――ドガシャァァァァァァン!!!

 

――……キュポン!

 

 

『知波単学園、九七式中戦車三号車、二号車、行動不能!』

 

 

エミの号令と共に知波単の九七式の上に何かが降り注ぎ、其のまま押し潰して撃破判定に――一体何が降って来たのか?

其れは、残った二輌のⅡ号戦車だ。

その車体の小ささを活かして岩の陰に身を潜めていたⅡ号がエミの号令と共に飛び出し、岩をジャンプ台にして飛び上がり、大洗の十八番である戦車プレスを敢行したのだ。

尤も、Ⅱ号戦車の戦車プレスでは破壊力が微妙なのだが、装甲厚が紙の日本戦車には其れでも充分な攻撃だったらしい。

 

更に――

 

 

「巨像に踏み潰されたい奴からかかって来なさい?」

 

 

此処でエレファントが参戦!

此れもまたエミの作戦だ――知波単が突撃を行うまでエレファントを温存しておいたのだ……一度突撃を敢行した知波単は極端に回避率が下がる事を見越して。

確かに知波単の日本戦車は機動力に長けるが、だがしかし、突撃をしてる最中に放たれた攻撃を咄嗟に回避出来るかと問われれば其れは殆ど無理と言わざるを得ない――だって、真っ直ぐ前進してる状態からのクイックターンは戦車では略不可能だからだ。

よしんばドリフトで回避しても、戦車ドリフトを行えば履帯は切れて転輪が吹っ飛ぶので、回避したとしても白旗判定待ったなしだ。……其処まで見越してエミはエレファントをギリギリまで温存していたのだ。

 

 

「矢張りこれは罠でありましたか……ですが、勝利は譲りません――エミ殿、いざ尋常に勝負!!」

 

「絹代、その勝負受けて立つわ!!」

 

 

結果として追い込まれた形となった知波単は、此処で絹代がエミに仕掛け、フラッグ車でのタンクジョストに切って出た――フラッグ車同士の一騎打ちならばティーガーⅠの弱点を抜けば勝てると考えたのだろう。

そしてエミも、其れに応えてティーガーⅠを進撃させ、絹代の九七式に向かう。

 

両者が激突する瞬間に、絹代の九七式は戦車ドリフトを行い、エミのティーガーⅠの背後を取ろうとするが、其れはエミも読んでいたので砲塔を回転させて、九七式を追う。

 

 

「「撃て!!」」

 

 

同時に主砲が火を噴き、辺りには白煙が立ち込めるが……

 

――キュポン!!

 

 

『知波単学園、フラッグ車行動不能!ベルウォール学園の勝利です!!』

 

白煙が晴れた先で白旗を上げていたのは絹代の九七式。

ティーガーⅠの砲撃も、九七式の砲撃も夫々相手に突き刺さっていたのだが、九七式の砲撃は、僅かにティーガーⅠの弱点から外れて居た為にティーガーⅠを撃破出来なかったのだ。

そして、反対にティーガーⅠの砲撃は九七式の装甲を抜いていたのである……もしもティーガーⅠの弱点を正確に撃ち抜いていたら、勝ったのは知波単だったかもしれないが、今回はベルウォールに勝利の女神が味方する結果となった。

だが、その結果に対し会場からは割れんばかりの拍手喝采が!――ベルウォールの勝利を賞賛し、知波単の健闘を労う拍手が鳴り響いてた。

 

 

「はは……負けた身であっても、この万感の拍手は心に沁みますなぁ……」

 

「其れはそうよ――此の拍手は、アタシ達ベルウォールにだけじゃなくて、貴女達知波単にも向けられてるんだから――其れだけ、アタシ達の試合は良い試合だったって事よ。

 ……ありがとう絹代、とても楽しかったわ。」

 

「いえ、礼を言うのは此方でありますエミ殿……此の西絹代、とても素晴らしい経験をさせて頂きました!機会があれば、何れまた。」

 

「そうね……約束よ――でも、次もアタシ達が勝つわ。」

 

「ふふふ、そうは行きません――今度は私達が勝って借りを返させて頂きます!」

 

 

そんな中で、両校のリーダーであるエミと絹代は再戦を誓ってガッチリと握手を交わす――その瞬間に、また観客席から歓声と拍手が湧いたのは当然の事だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エミ

 

 

ふぅ、三回戦を突破したから次はいよいよ準決勝ね。

準決勝はみほ率いる大洗であってほしいんだけど……

 

 

『ヴァイキング水産高、フラッグ車行動不能!大洗女子学園の勝利です!』

 

 

アタシの心配が馬鹿馬鹿しくなるレベルで大洗の圧勝……試合開始から四輌のビハインドがある状態であっても、其れをものともせずに勝っちゃう大洗は流石としか言いようがないわね。

で、大洗以外はプラウダと黒森峰が順当に準決勝に進んだか。

 

だけど、其れもまた今のアタシには如何でも良い事ね――だって、次の準決勝でみほと戦う事が出来るんだから!!

 

「準決勝進出おめでとうみほ――次はアタシ達とね?悪いけど、勝利は譲らないわ。」

 

「勝利は譲るモノじゃなくて捥ぎ取るモノだよエミちゃん――だから、エミちゃんの考え付く最強の戦術で掛かって来てくれるかな?……私達大洗が、其れを粉砕するからね。」

 

「言うじゃないみほ……なら、望み通りアタシの思い付く最高の戦術で、貴女を叩き飲めてやるわ!」

 

「言うねエミちゃん……でも、其れ位じゃないと面白くない――全力を出して、最高の試合をしようね?」

 

「そんな事言われるまでもないわ――アタシ達で最高の戦車道をやりましょうみほ!」

 

 

 

――コツン!

 

 

 

試合が終わって引き上げて来たみほと言葉を交わした後に、拳を合わせて全力で試合する事の誓いってね――次の準決勝、楽しみにしてるわ!

隻腕の軍神の戦車道、堪能させて貰うわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 


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