Side:しほ
無限軌道杯の準決勝第一試合――みほ率いる大洗女子学園と、エミさん率いるベルウォール学園が激突する時が遂にやって来たと言う訳ね。
ベルウォールの戦力は底上げしておいたから、みほでも簡単に勝つ事は出来ないでしょうね――何よりも、エミさんの実力は、ドイツで相当に鍛えられたみたいで、みほに勝るとも劣らない感じだもの。
「だからこそ、戦車の性能差と戦車数で負けるのをよしとしなかった訳か……実に貴女らしいと思うわよしほ。」
「褒め言葉と受け取っておくわ千代――だけど、貴女だって同じ立場だったらそうしたのではないかしら?――戦車道をやっている母親にとっては自分の娘には常に全力を出してほしいと思うのは当然でしょう?」
「其れに関しては否定しないわ……私だって同じ立場ならそうするもの――それに、しほが選んだ短期転校のメンバーは全員が無限軌道杯から参加した新参校のメンバー。
其れが意味するのはつまり、ベルウォールを含めた無限軌道杯から参加した新参校の強化も目指してるのよね?」
……其れは否定しないわ。
ベルウォール以外の新規参加校は全て一回戦で負けてしまったけど、短期転校の裏技を使えばみほと戦う機会を得る事が出来る訳だから、そうすれば各校とも確実にレベルアップする筈よ。
みほの力は、最早全国レベルを超えているし、あの子の戦車道は実際に戦った相手に言葉では言い表せない『何か』を与えるのだからね。
「この親バカが!って言いたい所だけど、否定する要素がないのが悲しいわ――何にしても、此の試合は目が離せないわね?」
「えぇ、目が離せないわ――目を離したら、その目玉抉るわよ千代。」
「何てバイオレンス!!!」
まぁ、冗談だけどね――其れは其れとして、みほとエミさん、貴女達の戦車道を、見せて貰うわ……楽しみにしてるわね!!
ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer188
『幼馴染対決に手加減は不要です』
No Side
準決勝の第一試合である大洗女子学園vsベルウォール学園の、ある意味で玄人好みの此の試合だが、先ずは両校のオーダーを見てみよう。
・大洗女子学園
パンターG型×2(アイスブルーカラーは隊長車兼フラッグ車、パールホワイトカラーは副隊長車)
ティーガーⅡ×1
Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)×1
Ⅳ号戦車F2×1
Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)×1
クルセイダーMk.Ⅱ×1
38(t)改(ヘッツァー仕様)×1
ルノーR35改(R40型仕様)×1
ソミュアS35×1
ポルシェティーガー×1
・ベルウォール学園
ティーガーⅠ×3(中須賀エミ車は隊長車兼フラッグ車)
ヤークトパンター×1
エレファント×1
T-44×1
Ⅱ号戦車F型×4
パンターG型×1
Ⅲ号突撃砲F型×1
Ⅲ号戦車L型×3
大洗は現在投入できる全戦力である一四輌ではなく十一輌だが、此れは単純に残るⅣ号F2二輌と、梓がパンターに乗り換えた事で空枠となったⅢ号戦車J型改(L型仕様)の乗組員が見つからなかったからだ。
学園艦の無法地帯を仕切るお銀率いるサメチームの急遽参戦はあったが、それ以外の搭乗員は見つからなかったのだ――まぁ、見つかったとしても僅かな期間で実戦レベルで使える戦車乗りにしろと言うのは可成り無理であるが故に仕方ないのだ。戦車道復活から一ヶ月足らずで聖グロと引き分けた大洗にだって無理な事はあるのだ。
対するベルウォールは、しほの援助と短期転校での搭乗員確保により、準決勝で使える最大車輌数に迫る十四輌と言う構成であり、真面な戦車戦性能を有しないⅡ号以外は高性能な戦車が揃っていると言えるだろう。
特に傑作重戦車と言われているティーガーⅠが三輌もあり、中戦車の最高傑作と言われてるパンターが一輌、ドイツがパンターを開発する要因になったT-34を発展させたT-44は格別だ。
無論、回転砲塔こそないが機動力と攻撃力を備えたヤークトパンター、動きは重いが最強クラスの攻撃力と防御力を誇るエレファント、待ち伏せ最強のⅢ突、特化した能力は無いが攻守速をバランス良く備えたⅢ号、そして戦車戦性能は皆無でも、車体の小ささと機動力の高さで偵察なら任せろのⅡ号と戦力バランスは可成り良いと言えるだろう。
そして、この両チームと言うか、ベルウォールのオーダーには、多くの観客が驚いていた――まぁ、其れも仕方ないだろう、三回戦までは実質四輌と言う状況で戦っていたのだから。
それが、大洗との試合で行き成り倍近い戦力を、其れも只の数合わせではなく実際に戦力になる戦車を投入して来たとなれば驚くなと言うのが無理と言えるだろう。
同時に観客の中には、ベルウォールに対してある疑念を持つ者も少なからず居た――其れはつまり、『本当は此れだけの戦力を持っていたのに、此れまでは其れを投入してこなかった……ベルウォールは三回戦までは全力を出していなかったのでは?』と言うモノだ。
実際にはベルウォールはギリギリでカツカツな状態だったのだが、其れが準決勝で行き成り戦力が潤沢になっていた事で、そう言った誤解が生まれていたのだ。
そして、其れは同時に『ベルウォールは準決勝まで勝ち進んだけど、軍神率いる大洗には何も出来ずに負けるだろう』と言う下馬評にも変化を齎していた――ベルウォールが実力を隠してたと勘違いした連中によって、エミの能力が勝手に上方修正されて、『実はみほと同レベル』になった事が原因で、略略『大洗の勝利100%』だったのが、『勝率は五分』と言うまでになっていたのだ。
「お母さん、本当に粋な事をしてくれたよ……お母さんがベルウォールを援助してくれたおかげでエミちゃんは其の力の全てを出す事が出来る。私も本気でエミちゃんと戦えるからね。」
「そうよね……貴女の幼馴染である中須賀エミ、是非ともその血の色を見てみたい相手だったけど、其れも全力が出せてないんじゃ意味がないからね――家元はGJだったとしか言えないわ。」
だが、其れは大洗にとっては喜ぶべき物だったようだ――何せ、隊長であるみほは女子高生とは思えない位の妖艶な笑みを浮かべており、大洗の狂犬ことエリカもまた犬歯を剥き出しにして獰猛を通り越して凶暴な笑みを浮かべているのだから。
時に、好戦的な笑みを浮かべてる女子って良くないですか?作者的にはとっても良いと思います。だって、カッコいいし――って、そんな事は如何でも良い。ソーセージロールのソーセージがウィンナーではなく魚肉ソーセージだったのと同じ位如何でもいい。
まぁ、それ程までに大洗の面々の戦車闘気はのっけからパワーマックスだと言う事だ。
「此の試合、昂るね。」
「そうですね、西住隊長。」
更に此処でみほと梓がパンツァージャケットの上着を肩掛けにした通称『軍神モード』になり、其れと同時に会場のボルテージは戦車戦が始まっても居ないのに最高レベルだ。
まぁ、隻腕の軍神であるみほと、軍神の一番弟子であり、軍神を継ぐ者とまで言われている梓が同時に『軍神モード』に入ったとなれば盛り上がるのも仕方ないだろう。寧ろ盛り上がって然りだ。
「アイアム・チョーノ!みぽりんと梓ちゃんの軍神モードとか誰得だ!?言うまでもねぇ俺得だ!!」
観客席の黒のカリスマも、若干と言うか盛大に暴走しているみたいだからね――何だろう、何時の日か大洗のパンツァージャケットの上着が漆黒に染め上げられて、胸元に銀で『nOs』と刻印されている気がする。
……其れは其れとして、互いに進軍していた大洗とベルウォールは先ずは草原フィールドでエンカウントしていた――準決勝第一試合のフィールドは、小さな林と小高い丘のある草原と、市街地で構成されているのだが、試合開始時の陣地の関係で、如何やったって草原でのエンカウントを避ける事は出来ないのである。
なので、このエンカウントはみほもエミも予想の範囲だったのだが――
――ダン!!
ベルウォールの部隊と相対したその瞬間に、みほがキューポラの縁に右足を叩きつけて立膝状態になって、その膝に右の肘を乗せて顔を伏せる。
『その状態でキューポラに立膝とか、スカートの中身見えんじゃね?』と思った奴は、速攻で瞬獄殺かましに行くのでその心算で。
其れだけでも充分に絵になるのだが、副隊長の梓もまた、みほと同じ事を左右反転させた状態でやってくれていた――隻腕の軍神と、軍神を継ぐ者によるパフォーマンスは此処からが本番だ。
「バカで勝手で笑われようと、意地が大事な戦車道。」
「墓穴掘っても掘り続け、突き抜けちまえば私の勝ち……お前等私を――」
「いや、私達大洗女子学園を!」
「「一体誰だと思って居やがる!!」」
はい、決まった。文句の付けようがない程に決まった――『誰って、大洗女子学園だろ?』と言う回答すら粉砕!玉砕!!大喝采!!!してしまう位に決まった!異論は受け付けない。って言うか、異論なんぞ異界送りする。
兎に角、ベルウォールとエンカウントした大洗の闘気はのっけからギガマックスなのだが……だからとってベルウォールだって負けてはいない。
「隻腕の軍神と、その一番弟子か……上等、やってやるわ!!!」
エミも負けじと、トレードマークであるツインテールを解くと同時に闘気を解き放ち、その影響で赤い髪が逆立っているようにも見える――エミもまたみほとの戦いに己の全力を、或いはそれ以上の何かを注ぎ込むのだろう。
其れは其れとして、ファーストコンタクトのフィールドは草原だったが、最初の天運はベルウォールに味方したようだ――なぜなならば、戦車戦を有利にしてくれる稜線は、大洗よりもより近い場所に居たベルウォールが得る事が出来たのだから。
尤も、『最悪稜線はみほにくれてやる』と思っていたエミからしたら肩透かしを食らった気分かもしれないが、稜線を取った方が有利と言う事を考えるのであれば此れは最高に良い状況であると言えるだろう。
「みほは敢えて稜線を取らせたのかしら?……普通なら舐めやがってって思う所なんだけど、みほの場合は舐めプとかじゃなく、これも作戦の内なのが怖いのよね。
全国大会の黒森峰戦に、夏の大学選抜戦、そのどっちでもまずは稜線を取ってからだった訳だし……だけど、地形的有利を得たなら其れを活かさない手はないわ。
全軍、攻撃開始ぃ!!」
簡単に稜線を取れた事をエミが警戒するのも当然だ――もしもみほが『敢えて稜線を取らせた』のならば、其れは間違い無くみほの作戦に嵌められたと言う事になるのだから。
だがしかし、エミにとっては其れもまた上等と言う所なのだろう。警戒しつつも、地形的有利を得る事が出来たのならば、其れは活かすべきだと、即攻撃を開始!
稜線上から大洗の部隊に向かって戦車砲の雨が降り注ぐが――
「全軍散開!そして包囲!!」
みほの号令一発、大洗の部隊は散開してベルウォールの稜線上からの攻撃を回避し、其のまま稜線をグルッと囲むようにして包囲する陣形を取り始めた。
其れも、只取り囲むだけではなく稜線を登りながらだ。
エミが警戒した通り、みほは敢えて稜線を取らせたのだ――稜線上と言う狭い場所にベルウォールの部隊を閉じ込める為に。
「ヤッパリ作戦だったわねみほ……アタシ達を稜線上に釘付けにした上で包囲してって事か――だけど、そう簡単には行かないわ!
悪いけど、掟破りの逆軍神戦術と行かせて貰うわ……出番よⅡ号部隊!!」
「任せろメスゴ……マネージャー!!」
「ま~たメスゴリラって言おうとしたわね?……ハンブルグの黒い霧を喰らいたいのかしら?」
「遠慮しとくぞ!行くぞ、ヤロー共!!」
「「「おーーーー!!」」」
包囲されたとなれば、普通はピンチなのだが、エミは慌てる事なくⅡ号部隊を稜線上から出撃させる――何だか少々アレなやり取りがあったが特に問題はなくⅡ号部隊は出撃。
「はいはい、アタシ等登場~~!!」
「履帯を切りに来ました~~!!」
Ⅱ号部隊はそのまま包囲して来る大洗の部隊に突撃!
勿論十一輌全ての戦車にではなく、パンターやティーガーⅡ、ポルシェティーガーと言う火力のある戦車を狙ってだ――軽戦車で尚且つ戦車戦性能皆無のⅡ号で、最強の中戦車と言われるパンター、高性能ながら残念な部分がある為『最強の失敗兵器』と言われるティーガーⅡやポルシェティーガーに挑むのは無謀を通り越して只の阿呆なのだが、撃破が目的ではなく、狙いが履帯であると言うのならば話は別だ。
ドイツ戦車は元々足回りがあまり強くはない。
パンターは兎も角として、ティーガーⅡとポルシェティーガーの足回りの弱さは致命傷レベルであり、レギュレーションギリギリの改造を施して居るとは言え、その弱点を完全に克服できている訳ではない。……まぁ、大洗のティーガーⅡとポルシェティーガーは、本当にレギュレーションの限界とも言えるレベルで改造が施され、更にはルールで認められている部材によってルールに違反しない範囲での補強もされているのだが。
其れでも大洗の戦車の主力であるパンターとティーガーⅡ、ポルシェティーガーの履帯を切る事が出来れば包囲網の完成を防ぐ事が出来る。
何よりも包囲網の完成を防ぐ事が出来れば、その僅かな綻びから稜線を降りる事が可能になるのだから。
そして此れは、全国大会の決勝戦で大洗が黒森峰に対してやった事のオマージュでもある――エミの言っていた『逆軍神戦術』とはそう言う意味だったのだ。
「誰の履帯を切りに来たですって?……舐めんじゃないわよ小童が!!」
だが、だからと言って大人しく履帯を切らせてやる奴は何処にもいない。
そう簡単に履帯が切れるのは黒森峰の直下だけだろう……まぁ、彼女もまほと凛による『五回は脱皮した』程の猛訓練を受けた事と、黒森峰の新隊長に就任した事で獲得した『隊長補正』で『履帯の呪い』を封じ込めているのだが。
兎に角、簡単に履帯を切らせる心算は無く、寧ろあからさまな履帯切りに、エリカのティーガーⅡの砲撃がカウンター気味に炸裂してⅡ号を文字通り吹っ飛ばす!
ウィークポイントは外れていたために撃破には至らなかったが、弩派手に吹き飛ばされたⅡ号の搭乗員はさぞ驚いた事だろう。
「状況不利と見て、履帯切りで状況を好転させようとした訳か……私のお株を奪うだなんて、やってくれるねエミちゃん――けど、そう来なくちゃ!
全軍に通達……『ブラックモクモク作戦』開始!!」
みほもまた自分を狙って来たⅡ号を履帯を切らせないようにあしらいながら、次の作戦の開始を指示。
作戦開始の通信を受けた大洗の部隊は、全戦車の車長がキューポラから身を乗り出して、其処から大洗お得意のスモークボムを投擲し稜線付近を一気に煙で覆い尽くす。
しかも今回のスモークボムは、何時も使われる白煙ではなく黒煙が発生する代物だ――スモークボム……発煙筒の煙は白が基本だが、日差しが強い場合には白煙では分かり辛いと言う理由から、より目立つ黒煙を発生させる物も少量ではあるが存在するのだ。
本来ならば其れを購入するのは難しいのだが、そこは地元茨城県との結びつきが強い大洗女子学園――新生徒会長である五十鈴華が、みほからの頼みを受けて、地元の花火会社に頼んで『黒い煙の出る発煙筒』を此の試合の為に百本ほど作って貰ったのだ。
尚、この発煙筒の代金は大洗女子学園の予算からではなく、五十鈴家からの援助金で支払ったと言うのだから驚きだ……矢張りお嬢様が居ると色々と有り難い事があるようだ。
尤も、此れを喰らったベルウォールの方は堪ったモノではない……大洗の目潰しは有名だから警戒していたとは言え、まさかの黒煙弾では対処も難しい。
白煙以上に視界が潰される黒煙に覆われた中で下手に動くのは致命傷であるからだ。
無論黒煙に包まれてしまっては大洗だって攻撃する事が出来ないのだが、逆に言うのならばこの場所から離脱するには充分な時間が稼げると言えるだろう。
序に言うなら、このカウンターの目潰しでⅡ号部隊の思惑を潰せたのも大きい。
で、大洗の黒煙弾が放たれてからたっぷり二十分かかって、漸く稜線の黒煙は晴れたのだが、黒色火薬の煙に包まれたベルウォールの面々は、戦車内に居た者は兎も角、キューポラから身体を出していた者は、見事なまでに煤塗れだ。
其れは当然エミもであり、三回戦の知波単戦に続いて撃破されても居ないのに煤塗れになってしまった、やーだー。……そう言えば『灰塗れ』はシンデレラだけど、煤塗れだと如何なるのか?……灰と煤って似たようなモノだから、此れもまたシンデレラか。
戦車に乗るシンデレラ……何だろう、勝てる気がしない。
そんでもって、黒煙が晴れた時には大洗の部隊は完全に稜線から居なくなっていた……まぁ、二十分もあれば離脱には充分だからね。
「ふふ……ふふふふふ……アハハハハハハハハハハ!!!」
状況だけを見るならば完全に大洗にしてやられたと言う所なのだが、其れでもエミはこの状況を見るや否や、腹を抱えて笑い出した……その姿に親友の瞳が『エミちゃんが壊れた!?』と言う位に。
あまりに笑い過ぎてその目には涙まで浮かべる始末だ。
「ちょ、大丈夫エミちゃん!?」
「大丈夫じゃないわ瞳……ふざけんじゃないわよ、笑わせろっての!
何よ此れ?此れがみほの見つけた戦車道?映像を見て、トンでもないモノだってのは理解してた心算だったけど、実際にこの身で受けてみるとその理解がドレだけ甘かったかを認識させられたわ!
敢えて稜線を取らせて包囲しようとして来たから、機動力に定評のあるⅡ号を使って履帯切り――掟破りの一発を喰らわせようとしたら黒煙弾のカウンターとか、そこまで読み切れるかっての!
トンデモないけど、其れ以上に面白すぎるじゃないの此れ……相手の作戦を喰らって笑ったなんてのは初めてよ!――改めて、西住みほと試合をしていると実感させて貰ったわ!」
一しきり笑ってからエミは目元の涙を拭うが、その顔に浮かんでいたのは『強者と戦える事に歓喜する笑み』だ――闘争心全開の獰猛な笑みとも違う、心の底から戦いを楽しむ者が浮かべる笑みだ。
もっと言うのならば、エミはみほが初っ端から全力で来てくれた事が嬉しくてならなかったのだ……まぁ、幼馴染みが全力で来てくれた事を喜ばない人は居ないだろうが。
まぁ、何にしても大洗の部隊はもう此処に居ない以上は、探さねばならないのだが――
「おーいマネージャー、こんな物が地面に突き刺してあったよ?」
「此れって看板?え~と……『エミちゃんへ。市街地で待ってるよ。――西住みほ』……成程、そう来たか。」
Ⅱ号部隊の一人が持って来た看板によって、探す必要は無くなってた――だってその看板にはみほからエミに向けてのメッセージが記されていたのだから。
普通に考えれば、此れは罠と思うだろうが、市街地戦を最も得意としているみほが『市街地で待ってる』と言った以上、此れが罠である可能性は0だと言えるだろう。
何故ならばみほは己の市街地戦の強さに絶対の自信を持っているからだ――そんなみほが、市街地戦を囮にする事など先ず有り得ないのだ。
エミも其れは理解しているので、此れが罠であるとは思わなかったが、逆に言うのならば市街地に突入すると言うのはみほの掌の上で戦うのも同じであるのもまた事実であり、普通ならば如何すべきか悩むだろう。
「上等、市街地戦を望むって言うのならば其れに応えてやろうじゃないのよみほ……悪いけど、アタシ等だって戦力が貧弱だったから、ある物は全部使う市街地戦は貴女ほど得意じゃなくとも苦手じゃないわ。
全軍前進、このまま市街地に向かうわよ!!」
しかしながらエミは、迷わずに部隊を市街地に向けて進軍!行軍!!大撃軍!!
市街地戦はみほの十八番だと言っても、其れが如何した……逆に其れを喰らって倒してやると言う気持ちなのだろうエミは――だから、普通なら絶対にしないであろう選択肢を選んだのだ。
とは言っても其処は流石の軍神みほ。
簡単には市街地に辿り着けないように、市街地への道中に様々な細工を施して居た――倒木での通せん坊は序の口で、戦車砲で拵えた大口径のクレーターに破壊された橋。
しかもそれらの場所全てに、デフォルメされたみほがヘルメットを被ってお辞儀をしているイラストが描かれた『工事中につきご迷惑をおかけします』の看板が置かれている辺り芸が細かいとしか言いようがない。
「こんな物まで……芸が細かいわねみほ。――時に瞳、アンタもこの看板要る?」
「記念に一枚貰っておこうかな?」
「普通のヘルメットバージョンと、大洗女子学園カラーヘルメットバージョンと、ボコヘルメットバージョンのどれがいい?」
「其れは勿論、ボコヘルメットバージョンで♪」
その看板は、エミがガッチリと回収し、大洗女子学園カラーヘルメットバージョンをエミが、ボコヘルメットバージョンを瞳が夫々持って行く事にしたしたようだ……何やってんだい君達は。
尚、残ったノーマルヘルメットバージョンは『資金稼ぎ』と称して、ベルウォールが後日ネットオークションに出品した結果、マニアによる購入合戦が発生し、最終的には落札額が、ステンレス製の『カオス・ソルジャー』をも上回る『十二億八千万』の値を付けた、アメリカのマニアが手にして、ベルウォールには多額の資金が舞い込む事になったのだが、其れはまた別の話。
第一ラウンドの稜線での攻防は、大洗の判定勝ちと言った所だが、互いに撃破数がゼロである事を考えれば何方が有利だと言う事は出来ないけれど、舞台が市街地へと移った第二ラウンドこそが本番だと言えるだろう。
「ウォーミングアップは出来たから、本番は此処からよねみほ……軍神との市街地戦は本来なら避けるべき何でしょうけど、貴女との市街地戦を楽しみたいと思ってるアタシが居るのも事実なのよね。
だから、堪能させて貰うわよみほ――隻腕の軍神の市街地戦をね!!」
エミもまた、ツインテールを解いて赤い髪を風になびかせながら市街地の入り口に部隊を纏める――此処から先の市街地は、何処で何が起こるか分からないパンデモウムだから進軍は慎重にならざるを得ないが、兎も角決戦の舞台は出来上がった事は間違い無いだろう。
――――――
Side:みほ
私達の包囲作戦に対して、まさかⅡ号を使っての履帯切りをやって来るとは思わなかったよエミちゃん――おかげで、黒煙弾を使って市街地に向かう事をせざるを得なかったからね。
私としては、敢えて稜線を取らせて、逆に包囲して追い詰めようと思ってたんだけど、その思惑はエミちゃんによって見事に看破された……エリカさん以外で私の思惑を読んだのはエミちゃんだけだよ。
ふふ、嬉しいなぁ……エミちゃんの強さは偽物じゃなくて本物みたいだからね。
其れじゃあ次は根気比べと行こうかエミちゃん?
私が市街地戦を得意としてる事はエミちゃんだって分かってるだろうから、そうおいそれと市街地に入って来るとは思えないけど、私達が討って出ない限りは、エミちゃん達の方から市街地に入ってこない限りは試合は成立しない。
さっきの掟破りの意趣返しじゃないけど、今度は私達がベルウォールに対して『待ち』を行わせて貰うよ――互いに我慢比べで、我慢が出来なかった方が負けるゲーム。
私もエミちゃんも我慢強い方だから、お互いに先に動くって事はないかもだけど――先に動かないって言うのなら、先に動かせば良いだけの事なんだよね。
既に市街地の外には狂犬を放ってるから一カ所に留まってると危険だよエミちゃん――血に飢えた狂犬は敵とみなした者は問答無用で喰い殺すって言うからね。
エリカさんに襲われる前に市街地に入るのが上策だと思うよ……首輪の外れたエリカさんは、私でも苦戦は免れない位のバーサーカーだから、敵と見たら速攻で撃滅しようとするだろうからね。
タイムリミットは三分……三分が経ってもエミちゃん達がその場を動かなかったら、エリカさんが強制的に市街地にベルウォールを叩き込む準備も出来ているからね。
エミちゃん、私達の戦いは此処からが本番――隻腕の軍神の本領を、見せてあげるよ!!此れが、、私の戦車道だからね!!
「みぽりんの戦車道?最高に決まってんだろオラ!!
文句があるなら言えやガッデム!!俺が直々に相手になるぞファッキン!!!」
「確かに最高だな……みほちゃん、君の戦車道愛は、俺の『プロレスLove』に匹敵するものを感じたぜ……戦車道の美味しい所、全部もってけ。」
あはは……うん、観客席がなんか凄い事になってるけど……私達は私達の試合をするだけ。
エミちゃん、ドイツで得た其の力、堪能させて貰ったど、私はまだ満足できないから、もっともっと満足させてよ?―エミちゃんとの戦うのを楽しみにしていたから……此処からは、隻腕の軍神の真骨頂で行かせてもらうから!
勝っても負けても言いっこなし!!――市街地戦は私の十八番だけど、だからと言って一方的な戦いにはならないだろうからね――市街地で待ってるよエミちゃん!!――持てる力の全てをぶつけあおう……其れが、私達の望みでもあるんだからね!!
To Be Continued…