ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

38 / 226
楽しい……うん、とっても楽しい。楽しきかな闘争は!Byみほ      乗ってるわねみほ?良い感じよ!Byナオミ      このまま波に乗るわよ!Byつぼみ


Panzer37『互いに譲らない互角の戦いです』

Side:まほ

 

 

 

ふむ……序盤はみほが稜線を取りに行ったが、安斎が其れを包囲する形で攻め、包囲されるのは危険と見たみほが、敢えて有利な地形を手放して中央突破を敢行して市街地戦に持ち込んだか。

 

恐らく此れはみほの思い通りなのだろうが、現在の車輌数は同数とは言え、先手を取ったのは安斎の方だったから、如何にみほが得意とする市街地戦であっても、一方的な展開にはならないだろうね。

 

 

それにしても、みほも安斎も良い顔をするじゃないか?

 

安斎は私との試合でもあの顔だったが、みほにあれだけの良い顔をさせてしまうとは、少し安斎に嫉妬してしまうな……出来れば、決勝戦でみほと戦いたかったからね。

 

 

 

 

「如何しました隊長?」

 

 

「いや、何でもないよエリカ。」

 

 

マッタク、私を押しのけての最強決定戦か……私を倒した安斎にも負けて欲しくないが、みほにも勝ってほしい――我ながら、中々優柔不断な性格をしているみたいだな私は。

 

 

だが、月並みかもしれないが、みほと安斎の戦いは何方が勝ってもオカシクない……何方も其れだけの実力者なのだからね。

 

 

ふふふ、ならば卑怯かも知れないが、私は両方を応援するとしようかな?――エリカと小梅は、何方かと言うとみほの事を応援してるみたいだからな。

 

 

みほ、安斎、何方も頑張れ!決勝戦に相応しい、最高の戦車道と言う物を見せてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer37

 

『互いに譲らない互角の戦いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

序盤の草原から一転して、次なる戦いの舞台は市街地。

 

状況としては、みほ率いる明光大が先に市街地入りを果たして各所に陣取った所に、安斎率いる愛和学院が攻め入って来たと言う所だが、先に市街地入りした明光大が、愛和学院が到着するまでにどんな罠を市街地に仕掛けたかは分からない。

 

故に、攻め入ったとは言え、愛和学院は慎重にならざるを得ないのである――下手に特攻したら、罠に嵌ってジ・エンドと言う事に成り兼ねないのだから。

 

 

 

「試合の為とは言え、住民が全員立ち去ってしーんとした街中と言うのは、何とも言えない寒気を感じるモンだな?

 

 ……尤も、此の寒気を感じるのは街が静まり返ってると言うだけじゃないだろうけどな。」

 

 

「相手が何をしてくるか分かりませんからね?」

 

 

 

そして、千代美の戦車乗りの勘が告げていた『何かある』と――其れは、みほが仕掛けた罠なのか、それとも市街地戦そのものに有るのかは分からないが、この市街地戦は、間違いなく一筋縄では行かないだろうことを感じ取っていたのだ。

 

或は其れは、まほから『みほは私よりもお前に近いタイプだ』と聞かされていたからか……策士にとっての一番の強敵は、策を喰い破って来る剛の者ではなく、策を策で喰らう相手なのだ。

 

 

みほも千代美も策士だが、みほが並みの策士と違うのは『普通は思いついても実行しない』作戦を、平然と選択できる事にある。(此れについてはまほも同意しており、千代美もそうだと考えている。)

 

つまり、『あり得ない一手』を選ぶ事が出来る分だけみほに分があるのである。

 

 

 

「とは言え、行かない訳にもいかないだろう。

 

 奴等は此処から動く気はないだろうし、そうなればこちらから攻め入って、何とか敵フラッグ車を撃破する以外には手が無いからな。

 

 よし、行くぞお前等!だが、気は抜くなよ?準決勝で戦った西住まほは勇猛な猛虎だったが、妹の方は狡猾なる女豹みたいだからな……

 

 喉笛を食い千切られない様に警戒しながら行くぞ!」

 

 

 

だがしかし、千代美もまた並の戦車乗りではない。と言うか、並の戦車乗りでは、幾ら研究しつくした所で西住まほの牙城を崩す事は到底不可能なのだ――にも拘らず、千代美は其れを成し遂げた。

 

其れはつまり、あり得ない一手を打つ事は出来ないが、まほですら倒した策を練る事が出来るという事だ。

 

だから、この市街地にはみほが、明光大が潜んでいても怯みはしない。――千代美も並の策士ではないのだ。

 

 

虎穴に入らずんば虎子を得ずではないが、此処で攻め入らなければ明光大の首を取る事は出来ないと判断した千代美は、警戒しながらも全軍を進軍させ市街地に突入!

 

攻守力に長けたIS-2を戦闘と殿に配置している当たり、この市街地戦での警戒度が見て取れるが、此れは最良の布陣と言えるだろう。

 

市街地の道路を進む場合、基本的には前後からの挟撃が最大の脅威となるのだから――故に、市街地戦に於いては、左右の守りよりも前後の守りを固めるのが定石なのである。

 

 

だがしかし、みほに定石など通じるだろうか?――其れは断じて否だ!!

 

 

 

「いらっしゃいませ!!」

 

 

「ご注文は長砲身75mmでよろしかったですか!!」

 

 

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

 

民家が連なる場所に差し掛かった途端に、両翼からの砲撃が愛和学院に対して炸裂!!

 

撃破こそされなかった物の、今の一撃が途轍もないカウンターとなったのは間違いないのだから――要は、明光大のⅢ突2輌が、車高の低さを利用して、民家の塀に隠れて機を窺い、愛和学院が目の前に来たところで砲撃をブチかましたのだ。

 

 

そして、此れは『偶々愛和学院が、明光大の待ち伏せ部隊の前に現れた』のではない――みほは、事前にこの市街地の詳細な地図と地形データを頭の中に叩き込み、自分だったら先に市街地に入った相手をどう攻めるか、それを徹底的に考えてこのルートに伏兵を配置したのである。

 

 

みほの作戦は大当たりだった訳だが……しかし、奇襲を仕掛けて来たⅢ突は、それ以上の攻撃は行わずに、その場から全速力で離脱し、あっと言う間に愛和学院の前から姿を消したのだ――其れが千代美には引っ掛かっていた。

 

 

 

「此処で退いただと?Ⅲ突の主砲ならば、T34シリーズを撃ち抜く事は出来る――もちろん私のフラッグ車だって……其れなのになんで?」

 

 

 

長砲身搭載型のⅢ突F型以降は、旧ソ連のT-34シリーズに衝撃を受けたドイツがⅢ突を強化した結果生まれた物であり、長砲身搭載型のⅢ突ならば、T-34シリーズが相手であっても撃破する事は難しくないのだ。

 

であるにも関わらずに此処で退いたのが解せないのだろう。

 

 

何処かに誘導するにしても、攻撃が単発すぎるだけに誘導と言うには余りにも稚拙としか言いようがない……であるにも関わらず、千代美の胸の中では、凄まじいまでの警鐘が鳴っていた――目の前の光景が真実だと思うなと。此れはあくまで見せ技に過ぎないと。

 

 

 

「他に策が有るという事か?……面白いじゃないか、楽しませて貰うぞ西住妹!!」

 

 

 

其れでも、千代美は進軍を選んだ。

 

相手がどんな策を使ってくるからは分からないが、どんな策を打ってきた所で、其れに対処する事が出来れば、事実上相手の策を潰す事だって出来るのだから。

 

 

 

その一方で……

 

 

 

『こちら椿姫、取り敢えず一発かましたわよ隊長?』

 

 

『敵戦車を撃破する事は出来ませんでしたけど………』

 

 

「其れで充分です、椿姫さん、有波さん。

 

 ――この攻撃は、相手を撃破するのが目的じゃなく、相手に此方の存在を認識させるのが狙いですから。――其のままB地点に向かって下さい。」

 

 

『『了解!』』

 

 

 

明光大もまた、仕込を続けていた。

 

千代美の前に現れたⅢ突は、あくまで囮――千代美を確実に市街地に引き込むための罠だったのだ……尤も、誘われた形になった千代美の顔には、笑みが浮かんでいた訳なのだが――戦車乗り特有の、戦車道の試合時にのみ見せる独特な『笑み』を。

 

そして、此れはみほが浮かべていた笑みと同じモノであった。――隻腕の軍神と、愛和の総統の激突は、市街地戦が始まった今こそが真の試合開始だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:エリカ

 

 

 

策と策がぶつかり合う戦いって言うのは分かるけど……其処で此処まで拮抗するかしら?――ちょっと見には五分に見えるかも知れないけど、先に市街地に入ったみほの方が陣形を整えられた分だけ有利ね。

 

 

それだけに、市街地戦での明光大の『先手』に疑問が湧くわね?

 

長砲身のⅢ突なら、愛和のT-34シリーズだって撃破出来るのに、如何して敢えて撃破せずに自分の存在を相手に認識させるような事をしたのかしら?

 

其れ以前に、横からの奇襲じゃなくて愛和が通り去った後で後ろから仕掛ければ間違いなく1~2台は撃破出来た筈なのに……。

 

市街地戦がみほの十八番って言うのは、小学生の時に嫌でも思い知らされたから、愛和が市街地に入って来たら、間違いなく地形を利用しての大立ち回りが始まる物だと思っていたけど……

 

 

「妙に大人しいわね……」

 

 

「エリカさん?大人しいって、みほさんの事ですか?」

 

 

「そうよ小梅。実際にあの子と市街地戦をやったから言えるんだけど、先に市街地押さえたあの子は本気でトンでもないわよ!?

 

 小学校時の大会で、あの子を追って市街地に入ったら、途端に路地裏から戦車が飛び出してきて攻撃してくるわ、電柱を倒して行く手を塞ぐわ、体当たりして来て水を抜いた用水路に叩き落してくるわで、本当に何をしてくるか分からなかったのよ!

 

 其れなのに、今回はⅢ突での先制攻撃のみ、しかも撃破せずにさようならって、此れを大人しいと言わずして何なのよ!!」

 

 

「あ~~~……確かに、其れと比べたら大層大人しいですねみほさん。」

 

 

「今は、大人しくしているだけかも知れないがな……市街地戦はみほの十八番だ、如何に安斎でも一瞬の判断ミスで負けるぞ?

 

 ただ、安斎は対応力がとても高いから、みほの策はある程度対処してしまう事も考えられる――勝負の分かれ目は、みほの作戦を安斎が全て対処するか、其れとも安斎の対処力が追い付かないほどにみほが奇策を連発するか……かな?」

 

 

 

 

確かに、隊長の言う通りかも知れないわ。

 

でも、負けるんじゃないわよみほ!貴女が、私と隊長以外の誰かに負ける事は許さない――貴女には、私の最強のライバルで居て欲しいんだからね。

 

 

 

――ドゴォォォォォォン!!

 

 

 

 

そんな、私の考えなんかは関係なしに試合は進み、試合の様子を映し出しているモニターには、愛和の前に現れた明光大のパンター2輌が電柱を倒して愛和の戦車の動きを止めんとしている所だった。

 

尤も、流石は隊長を倒しただけあって、安斎さんは難なくそれを躱して、逆にパンターを追い始めた――んだけど、追いかけた先で待って居たのは明光大の本隊……此れも、みほらしい戦い方ではないけれど、きっと裏があるわ。

 

何よりも、市街地戦での必殺技『電柱倒し』が炸裂した以上、みほのエンジンがフル回転してるのは間違い無いんだから!

 

 

 

 

「此処からが本番か。

 

 だが、みほが市街地戦をやるとなると、可也本気で連盟は頭が痛いだろうな……みほが市街地戦を行った場合、最低でも民家レベルが1つ、ホテル・高層ビルクラスが1つは壊れるからなぁ?

 

 市街地戦に於いては、使えるものを何でも使って戦えと教えたのは私だが、まさかそれを額面通りに受け取って、本当に何でも使うようになるとは思わなかったよ……」

 

 

「あはははは……其れは何とも……」

 

 

「家一軒保証できる連盟の資金源てどうなってるんでしょうかね?」

 

 

「さぁな。」

 

 

 

 

まぁ、幾ら壊しても連盟が何とかしてくれるから、思い切りやっちゃいなさい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

明光大の本隊の前に引き摺り出された形になった愛和学院だが、隊長の千代美は全く慌てる事は無かった――Ⅲ突の先制攻撃の意味こそ分からなかったが、パンターでの電柱倒しは『誘導』だと分かっていたから。

 

 

 

「私達を誘い込んだ心算だろうが、誘導だという事は百も承知だ!

 

 だが、良い場所を選んだじゃないか西住妹?……駅前ならば場所も開けているから、両校が激突するには持って来いの場所だからな?

 

 此処で、決着をつけてやる!」

 

 

「焦らないで下さいよ安斎さん……決着の場所は此処じゃありません。此処はあくまでも、決勝戦のクライマックスの第1幕に過ぎません。

 

 雌雄を決する舞台は、別に用意していますから。」

 

 

「其れは楽しみだ――ならば、そのクライマックス第1幕、演じさせて貰うぞ!Avanti!!」

 

 

「Panzer Vor!!」

 

 

 

みほも千代美も、瞳の奥に宿る闘志を隠そうともせずに、寧ろそれを全開にして突撃命令を下す!

 

その瞬間に、エンジンを吹かして両校の戦車は交戦を開始し、砲弾が飛び交う!そして、止まって居たら的になるので各車輌は動き回りながら、攻撃できそうな相手を見つけ次第攻撃!

 

 

だが、此の乱戦ならば少しばかり明光大に理があると言えるだろう。

 

その理由は愛和学院のIS-2だ。

 

IS-2はティーガーⅡの超長砲身88mmを上回る、長砲身122mmを搭載しているが、弾丸と装薬を別々に装填する分離装薬式である為に如何しても射撃の間隔があいてしまうのだ。

 

無論、それをT-34シリーズがカバーしているのだが、通常と比べておよそ1.5倍の装填時間によって生じる隙を見過ごすみほではない。

 

 

 

「梓ちゃん、狙って!部長、やっちゃってください!!」

 

 

『了解しました!!』

 

 

『取り敢えず今の内に謝っとくわ……連盟の方々、負担をかけてごめんね!』

 

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

――ドゴォォォォン!……ガラガラガラ!!!

 

 

 

 

『愛和学院、IS-2 1号車及び3号車行動不能。』

 

 

 

梓と凛に命令を下すと、梓のティーガーⅡが装填の隙を突いてIS-2の正面装甲を貫くと、凛のティーガーⅠが何と駅前の歩道橋を砲撃で崩し、瓦礫の雨を降らせてIS-2を沈黙させる。

 

 

更にそれだけではなく、千尋のティーガーⅠが街路樹を砲撃で圧し折り愛和学院の戦車へと倒す。

 

が、流石に其れは躱される。

 

 

 

「装填の隙を狙うのは見事だが、まさか砲撃じゃなくて瓦礫を降らせて撃破して来るとはな……だが、私達を舐めるな!!

 

 一度喰らった手は二度は喰らわん!もう上からの攻撃は通じんぞ!IS-2の礼だ、吹き飛べⅢ突!!!」

 

 

 

――ドゴォォォォン!!

 

 

 

『明光大付属、Ⅲ号突撃砲1号車、2号車行動不能。』

 

 

 

更に、其処から千代美のT34/85が凄まじい動きを見せて明光大のⅢ突を続けざまに2輌撃破し、あっという間に車輌数をイーブンに戻す。

 

正に一歩も譲らないとはこの事だろう。

 

 

 

「(凄いなぁ安斎さん……上からの障害物攻撃が1回しか通じないなんて――流石は、お姉ちゃんがライバルと認めただけはあるよ。)」

 

 

「(強い……今は未だ対処出来るが、お前は次はどんなカードを切って来る?どんな戦術を繰り出してくるんだ?

 

  そしてクライマックスの最終幕は、何処で上げてくれるんだ――其れを考えただけでも、ワクワクして来るじゃないか!!)」

 

 

 

それでも、みほと千代美の両隊長は、この戦いを純粋に『楽しい』と感じていた。

 

みほにとっても千代美にとっても、この戦いは此れまで自分達の中で最強であった『西住まほ』との戦い以外では味わう事がなかったワクワク感を感じていたのだ。

 

 

だからこそ、何方も負けないと闘志を燃やすが――此処で先に仕掛けたのはみほだった。

 

千代美のT34/85の上に落ちるように、駅舎2階入り口付近のオブジェを砲撃し、狙い通りに千代美の戦車の上にそれを降らす。

 

直撃したら白旗判定は間違いないだろうが、千代美はそれを躱し白旗判定を回避。(其れでも完全には避けきれず、砲塔側面の装甲を僅かにへこませる事にはなったが。)

 

 

だが、みほは其れで止まらずに、千代美の車輌の足元ギリギリを砲撃すると、その脇を抜けて、重戦車がギリギリ通れる位の細い路地に入

 

って行く。

 

 

 

誘導――其れは千代美にも分かっているが、フラッグ車であるみほのアイスブルーのパンターが其処に逃げ込んでしまった以上は追う以外の選択肢は無い。其れも、己のフラッグ車でだ。

 

 

他の車輌に追わせても良いが、此の乱戦の中にフラッグ車を残すのは得策ではない――乱戦故に、何時流れ弾が有効弾にならないとも限らないのだから。

 

だから、此処は誘いと分かっていてもフラッグ車で追うのが正解なのだ。

 

 

 

「そっちがクライマックスの最終幕の舞台と言うのならば、乗ってやる!!」

 

 

 

置いて行かれない様に、即座に千代美のT-34/85がみほのパンターを追って路地に入る。

 

ならば当然、他の車輌も続こうとするが、其れは叶わない物だった。

 

 

 

 

――ドガァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「此処から先は通行止めさね。」

 

 

「此処から先に進みたいのなら、私達を倒して行って下さい!」

 

 

 

パンターの砲撃が愛和の足を止めると、即座に千尋のティーガーⅠと梓のティーガーⅡが、みほと千代美が進んだ路地の入口を塞ぐように陣取り、他の車輌をシャットダウン!

 

 

ならば回り道と思うだろうが、実はこの路地は可成り特殊で、横道は何本かある物の、それらは全て民家に入るためのモノで必ず何処かで一方通行になっている――つまり、路地が終わる場所に行きつくまでは回り道が出来ないのである。

 

更に、駅前からこの路地を使わずにその場所に行くのは市街の道路を使わなくてはならず、結構な大回りなのだ。

 

 

だが、路地も、そして駅前の道路を行くにしても明光大の戦車を撃破しなくてはならない――ティーガーⅠとティーガーⅡのみならず、パンターも、駅前の道路を通せんぼする形で愛和学院を囲っていたのだから。

 

 

愛和学院が千代美を追うには、この鋼鉄の虎と豹の軍団を何とかしなくてはならないのだが、其れは可也難しいと言えるだろう。

 

T-34は確かに優れた中戦車だが、より高いレベルで攻守速を揃えたパンターには性能面で敵わないし、ティーガーに対しては攻撃力と防御力で圧倒的に負けてしまうのだ。

 

 

つまり、事実上愛和学院が千代美を追うのは無理と言える訳で、となると千代美がみほとの一騎打ちを制する事が出来るかどうかが勝敗の分かれ目となるだろう。

 

 

 

「此処から先には行かせない……西住隊長から、通しちゃダメって言われてるからね。」

 

 

 

そして、この道を守る任を受けた梓の瞳の奥にはうっすらとだが、みほと同じ闘気の炎が揺らいでいた。――如何やら、此の決勝戦は梓の中に眠る闘争本能をも目覚めさせてしまったらしい。

 

 

何れにしても、状況を考えると、みほと千代美の一騎打ちで勝負が決まるのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

うん、巧く誘導で来たね……って言うか、あの乱戦の中でフラッグ車である私達が路地に逃げ込んだら、フラッグ車で追ってくる以外の選択肢は無いからね――お姉ちゃんにタイマン挑んだ安斎さんなら、きっと乗ってくれるとは思っていたけど。

 

 

さて、路地は此処で終わりだから、此処がクライマックス最終幕の舞台だよ安斎さん!!

 

 

 

 

「港の倉庫街か……確かに悪くない選択だ西住妹。

 

 しかし、まさかタイマン勝負を挑んでくるとは思わなかったぞ?市街地に入り込んだから、てっきり市街地って言う場所をフル活用して攻撃してくると思ってたんだがな……」

 

 

「フル活用しましたよ?

 

 民家に電柱に歩道橋、果ては駅のオブジェまで使いましたからからね……でも、それらをフル活用した上で、私は安斎さんとの一対一の勝負を選んだんです。」

 

 

「可愛い顔して、意外に性格は苛烈だな?若しかしたら姉以上か――だが面白い、受けてやる!

 

 姉には私からタイマンを仕掛け、逆に妹は私にタイマンを仕掛けて来た……ならば、其れに応えないのは戦車乗りとして無礼だからな!

 

 この勝負、受けて立つぞ西住みほ!!」

 

 

「ありがとうございます安斎さん――貴女なら、そう言ってくれると思ってました。」

 

 

だから、この戦いが決勝戦の最終幕だよ!

 

安斎さんはお姉ちゃんを倒した強敵だけど、私は負けないから――此れが最後、力を貸して貰うよ皆!!!

 

 

 

 

「任せなさい、相手が誰であろうと撃ち抜いてあげるわ。」

 

 

「装填速度を上げろってんなら遠慮なく言えよ?今のアタシなら、最高で1秒装填速度を上げる事が出来るからな!」

 

 

「明光大一の俊足からは逃れられない――其れを教えてあげるわ!!」

 

 

 

 

うん、頼もしいね♪

 

とは言え、安斎さんは中学戦車道最強と謳われたお姉ちゃんを倒した猛者だから、一筋縄で行く相手じゃない――私達の持てる全ての力を出し切って行かないとね!!

 

 

覚悟して下さい安斎さん、此処からは戦車長レベルMAX120%で行かせて貰いますから!!――勝つのは、私達です!!!

 

 

「行きますよ、安斎さん?」

 

 

「来い、西住妹!!受けて立つぞ!!」

 

 

「全力で行きます……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――轟!!!

 

 

 

「軍神招来、来た此れーーー!!」

 

 

「此れは勝てるわ!!」

 

 

「隻腕の軍神降臨……悪いけど、私達に負けは無くなったわね。」

 

 

 

 

解き放たれた、私の中の『眠れる本能』……其れを全開にして、安斎さん、貴女を倒します!!覚悟して貰いますよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。