ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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梓ちゃんとツェスカちゃん…私達を楽しませてよ!Byみほ      持てる力の全てをぶつけてきなさい?Byエリカ      私達が、其れを粉砕します!By小梅


Panzer41『此れが軍神の本気です』

 

Side:みほ

 

 

 

先手を取られちゃった上に、煙幕攻撃で視界まで奪われちゃったか――如何やら梓ちゃんは、私が思ってる以上に戦車長としての力を身に付けているみたいだね?

 

自分とツェスカちゃんの得意分野を敢えて交換して来るなんて事は、全く持って考えても居なかった――完全に裏をかかれた感じだなぁ。

 

 

 

 

「確かに裏をかかれた感じなのは否めないけど、その割には随分と楽しそうじゃないのよみほ?」

 

 

「楽しそうじゃなくて楽しいんですよエリカさん。

 

 私が教えた子が、言うなれば愛弟子が、私の予想を超えて来たんですよ?此れを楽しいと言わずして何て言うんですか♪楽しい以外に形容仕様がないじゃないですか。

 

 其れにエリカさんだって、ツェスカちゃんの意外な成長を喜んでるでしょ?」

 

 

「……否定はしないわ。

 

 隊長から、ツェスカの訓練と教育に関しては一任されたから、徹底的に鍛えてあげたんだけど、其れがこの戦いで発揮されてるって言うのは悪い気分ではないわね。」

 

 

 

 

素直に嬉しいって言えばいいのに素直じゃないなぁエリカさんは……まぁ、其れがエリカさんの個性って言う物なんだろうけどね。

 

 

 

 

「で、此処から如何動く心算なの隊長?

 

 別動隊の合流には最低でも10分はかかるから、其れを待ってたら、相手に策を巡らす時間を与える事に成るんだけど……」

 

 

「分かってるよエリカさん――だから、本隊は此のまま1年生チームを追撃します。

 

 だけど、先の煙幕に乗じて、1年生チームが散開して藪に隠れた可能性も排除できないので、お姉ちゃんの小隊と部長の小隊は、手近な藪などを探して、見つけたら攻撃して下さい。

 

 そうすれば、隠れていた相手をあぶりだす事が出来ますから。」

 

 

 

『『了解!!』』

 

 

 

さあ、本番は此処からだよ梓ちゃん――見せて貰うよ、貴女が持っている力って言う物をね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer41

 

『此れが軍神の本気です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

合宿最終日の1年vs2、3年連合の模擬戦は、1年生チームが先手を、其れもみほ率いる小隊の戦車を撃破しての先手を取って流れを自分に引き寄せた展開となった。

 

 

無論撃破したのは1輌のみなので、その程度の差はないと考えた方が良いのだが、其れでも先手を取れたと言うのは大きい事に代わりはないだろう。

 

 

 

「序盤は、何とかこっちのペースで出来た……1輌撃破出来たのは御の字だよ――多分、同じ手は二度は通じないだろうからね……」

 

 

「でも、貴女の作戦はバッチリだったと思うわアズサ。

 

 貴女の策が、結果として初手を取る事に繋がったんだから自信を持っていいんじゃない?――流石、私を倒しただけの事はあるわね♪」

 

 

「もう、止めてよツェスカ!次にやったら結果は分からないんだから。」

 

 

 

で、1年生チームは現在小規模な雑木林に身を潜めていた。

 

みほ小隊を煙幕で足止めすると、全速力でこの場所まで移動して来たのだ――隊長であるツェスカと副隊長である梓の部隊の動かし方が見事だったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

「其れで、此れから如何しようかしら?

 

 問題は相手の出方なのよねぇ……まほ隊長やエリカ先輩だったら、小隊と合流してから全軍で進撃して来るんだろうけど、妹隊長ってそう言うタイプじゃないでしょ?」

 

 

「妹隊長って……まぁ、確かに西住隊長はそう言うタイプじゃないかな?

 

 多分小隊は小隊で別に動かしながら、自分は自分で私達の事を追って来てるんだと思う。

 

 隊長が、このティーガーⅡに乗ってたなら全軍進撃もあり得たかもしれないけど、今日乗ってるのは元祖隊長車のパンターだから蹂躙戦術は使ってこないと思う……多分。」

 

 

「其処は言い切れないんだ?」

 

 

「言い切れない。って言うか無理。

 

 西住隊長の考えを完全に読み切れる人なんて居るのか疑問だよ?まほさんを倒した安斎さんですら、西住隊長の策を読み切る事は出来なかったんだから。」

 

 

「まほ隊長をして『策に手足が生えて服着てるような奴だ。』って称した安斎隊長でも読み切る事が出来ないって、妹隊長ハンパないわ。

 

 でもまぁ、ある程度アタリを付ける事が出来れば御の字ね――簡素ではあるけど、此処に至るまでのルートに罠は仕掛けたし。」

 

 

「其れに引っ掛かってくれるかは分からないけどね。」

 

 

 

そして、みほ達が此処に到達するまでの時間を使って、此れから如何動くかを詰めていく。

 

基本的には、この雑木林の中からの攻撃を仕掛けるのだが、如何やら此処に来るためのルートに罠を仕掛けていたらしく、其れを使った戦術も考えて居る様だ。

 

 

 

「其れじゃあ手筈通りにお願いするわアズサ。」

 

 

「任せてツェスカ――私にとっても、この模擬戦は良い機会だから、西住隊長に全部ぶつけて来るよ!」

 

 

「私も、逸見先輩に持てる力の全てをぶつけるわ――善戦じゃなくて、勝ちに行くわ!!」

 

 

「だよね♪」

 

 

 

そして1年生チームはツェスカ率いる中隊が雑木林に潜み、梓率いる中隊がみほ小隊への攻撃を敢行する布陣であるらしい――初手で功を奏した『力の梓』と『策のツェスカ』をとことん貫き通す心算で居るらしい。

 

普通に考えれば得意分野の交換などと言う物は、中途半端な物になってしまうのだが、梓は全国大会の決勝戦で重戦車での戦い方を、略完璧に覚えており、ツェスカもまた黒森峰に編入する前は本場仕込みの電撃戦や待ち伏せ戦と言った戦い方を学んでいた為に、得意分野を交換しても、あまり問題はなかったのだ。

 

 

更に言うのならば、梓もツェスカも己の師の事は尊敬しているが、同時に其れは尤も超えたい相手でもあるのだ――尊敬しているが故に越えたいのだろう。

 

 

 

「勝つわよ、アズサ。」

 

 

「勿論だよツェスカ――最初から、勝つ心算だったんだから。」

 

 

 

だから、相手が遥かに格上の相手でもこの2人に恐れや怯えと言う物は全く見えない――それどころか、その瞳には苛烈なまでの闘志が炎となって燃えているのだ。

 

此れならば、勝てずとも簡単に負ける事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、一方で梓達を追撃していたみほ小隊は、まほ小隊や凛小隊との連絡を密に行いながら、1年生チームが待ち構えているであろう雑木林へと向かっていた。

 

 

そしてその選択はドンピシャリだ。――みほ達が目指しているのは、正に1年生チームが逃げ込んだ雑木林なのだから。

 

恐るべき鋭さと思うかも知れないが、此れは別に難しい事ではない。

 

抑々にして梓に戦車道を叩き込んだのはみほなのだから、自分の教えを受けた梓が視界を奪った後でどんな一手を打って来るのか位は予想が出来るのである。

 

もっと言うのならば『自分だったら、同じ状況で如何するか』と言うシミュレートを行った結果が、バッチリと1年生チームが潜んでいる雑木林へのルートを選択させたのだ。

 

 

 

「このルートで良いの隊長?」

 

 

「うん、多分このルートで合ってる筈――私だったら、間違いなくあそこを選ぶから、梓ちゃん達があそこに向かった確率は90%以上だよ。

 

 如何に得意分野の交換をして来たって言っても、作戦まで一から考えたとは思えない。恐らくは梓ちゃんがツェスカちゃんに、ツェスカちゃんが梓ちゃんに戦い方の概要を伝えて、互いにそれを実行しただけだろうからね。

 

 其れでも、先手を取って来たんだから、梓ちゃんとツェスカちゃんは大したモノなんだけど……まだ、勝ちって言う花丸をあげる事は出来ないかな。」

 

 

「厳しいですねぇみほさん――其れならば、如何しますか?」

 

 

「相手は雑木林に潜みながら此方を牽制し、別動隊が此方を叩くために動いて来る筈です。

 

 なのでフラッグ車の正面よりも、後部や側面を守るように陣形を展開して進みましょう――その布陣なら、目的に到着する前に攻撃されても、耐える事が出来ますから。」

 

 

 

更にみほは、ルートを進みながらもリアルタイムで作戦を組み立てて、其れを隊員たちに伝えていく。

 

そして其れは、電流が流れるかのように各車に伝わり、みほ小隊は小隊全軍で1年生チームが待ち構えている雑木林まで進撃を開始!!

 

 

真面な戦車戦に持ち込めば、其れはもう圧倒的にみほ小隊が有利だ。

 

梓もツェスカも、1年生としては破格の能力を持っているが、其れでも夫々の師であるみほとエリカと比較すれば、今は未だ圧倒的な差が存在しているのだから。

 

 

だからと言ってみほは決して、相手を侮らないし、エリカと小梅もまた然りだ。

 

奇しくもこの3人は、まほから『油断はするな。慢心こそ、既に己に負けた証だ』との教えを受けており、其れが一切の油断を彼女達から取り払っていた。

 

 

 

いたのだが――

 

 

 

「のわぁ!?行き成り地面が陥没したぁ!?」

 

 

「ちょ、大丈夫直下!?」

 

 

 

此処で、同チームのヤークトパンターが、突如として陥没した地面に嵌まり、一行は進軍を一時止める事を余儀なくされてしまった。否『突如陥没した』と言うのは語弊があるだろう。

 

此処は西住流の演習場、演習場の整備は常に万全に行われており、戦車戦で傷付いた場所や砲弾で抉れた地面も常に直しているのだから、整備不良での陥没などまず考えられないのだ。

 

 

 

「此れは……自然に出来た物じゃない。明らかに戦車の砲弾で抉られた跡!

 

 その上に折れやすい枝を置いて、更に沢山の草で穴をカムフラージュした即席の落とし穴――後退しながら、確りと罠を張ってたって言う訳だね梓ちゃん。」

 

 

「あの子がティーガーⅡに乗ってたのって、若しかして此れをやる為でもあったのかしら?って言うか大丈夫直下?

 

 そんなに深くないから、頑張れば出れると思うんだけど……」

 

 

「無理ポ。つーか、落ちた時の衝撃で履帯切れたっぽいから!」

 

 

「またですか!?

 

 黒森峰での練習の時から思ってましたけど、直下さんの乗る戦車って、何故か試合中に履帯が良く切れますよねぇ?…若しかして呪い。」

 

 

「怖い事言うな赤星ぃ!!

 

 てか隊長、私等は自分で何とか履帯直して行くから、隊長達は先に進んで!此処で私等の復帰を待ってたら、其れこそ1年チームの思う壺だと思うから!」

 

 

 

それらを総合的に判断し、地面の抉れ方から、此れが戦車の砲弾による簡易落とし穴だと見抜いたみほだが、其処に落ちたヤークトパンターは、運が悪い事に履帯が切れて動く事が出来なくなっていたのだ。

 

尤も履帯が切れたくらいでは白旗判定にはならないが、動く事が出来ない味方と言うのは重荷になるのも事実だ。

 

だからヤークトパンターの車長である直下は、みほに先に進むように進言した。動く事が出来ないのはキツイが、だからと言って自分達が動ける様になるまで待っていたら1年生チームにアドバンテージを与えてしまうかもしれないから。

 

 

 

「でも……」

 

 

「大丈夫、絶対追い付くから。

 

 それに、仮にこっちに敵部隊が来ても、流石に履帯直す為に搭乗員が外に出てる所に攻撃はしてこないでしょ?つーか、攻撃されたら普通に死ぬし。」

 

 

「……其れは、確かにそうですね――分かりました。

 

 でも、必ず合流するって約束して下さい。直下さん達も、このチームの大事なメンバーなんですから。」

 

 

「了解!」

 

 

 

仲間を置いていく事を渋ったみほだが、其処は直下の口八丁。

 

履帯を直してる所を攻撃はしてこないと言う理屈で、みほを納得させて進軍を選ばせた――代わりに、必ず合流すると言う約束をさせられてしまった訳だが……まぁ、何とかなるだろう。

 

 

再び進軍を開始したみほ達だが、今度は不思議と誰も罠には引っ掛からなかった。

 

みほとエリカ、小梅も注意深く周囲を探しながら進んでいたのだが、草が積み重なった場所や、土が少し盛り上がった場所――つまり落とし穴の特徴を備えた場所が見当たらなかったのだ。

 

 

 

「みほさん、若しかして罠はあの1個だけだったんでしょうか?」

 

 

「ん~~~……フィールドに仕掛けたのはそうなのかも。

 

 若しかしたら、雑木林の方にも罠が仕掛けてあるかもね――そばを通りかかったら木が倒れてきたりとか、上からハチの巣が落ちて来たりとか雑木林ならではの罠が……」

 

 

「倒木は兎も角、ハチの巣って色々ヤバすぎでしょ其れ?スズメバチの巣とかだったら、下手したら搭乗員死ぬわよ?」

 

 

「其れなら大丈夫。演習場内のスズメバチの巣は業者に頼んで駆除して貰ってるから。」

 

 

 

ならば、雑木林内に罠が仕掛けてあると考えるのが普通だろう――尤も、みほが上げた罠の数々は矢張り普通の罠ではなく、並の戦車乗りの斜め上を行くモノであったのだが。

 

 

 

「なら大丈夫ね……で、此のまま進軍してどうするの?私達の小隊だけじゃ、数では完全に負けてるからアドバンテージは相手にあるわ。

 

 別動隊の隊長――もとい西住先輩達に合流して貰わなくても良いの?」

 

 

「其れは大丈夫だよ?お姉ちゃんと部長には、既に『ある作戦』を伝達しておいたからね。

 

 だけど、多分フラッグ車であるツェスカちゃんのパンターは雑木林に身を潜めて出て来ないと思う――恐らくは、梓ちゃんのティーガーⅡ率いる部隊が、私達とやり合う為に来るだろうからね。」

 

 

「つまり、フラッグ車が丸見えになってるこっちの方が不利だから、相手のフラッグ車を雑木林からあぶり出す必要が有るって言う事ですか。

 

 だったら、私に任せて貰えませんかみほさん?」

 

 

 

エリカの指摘を受けたみほは、まほと凛には既に『ある作戦』を伝えてあるから大丈夫だと言う。普通ならば納得できない回答だが、エリカはみほの強さを小学校の頃から知っているから、みほがそう言うのならば大丈夫だと納得していた。

 

続いて浮上した1年生チームのフラッグ車が雑木林内に居て、簡単に攻撃できないと言う問題に対しては、意外にも小梅が其れを如何にかしようと名乗りを上げた。

 

 

 

「小梅さん、何か策が?」

 

 

「隠れてる相手をあぶり出すのは、実は得意なんです。だから――――と言う感じで如何でしょうかみほさん?」

 

 

「……良いね、此れなら間違いなく雑木林からツェスカちゃんを引っ張り出せるし、お姉ちゃんと部長に伝えた作戦がやり易くなるから、お願いします小梅さん。」

 

 

「任されました隊長♪」

 

 

 

そして小梅はみほに何かを伝えると、部隊から離脱して別ルートで雑木林へと進行して行った。

 

 

 

一方のみほ達が、此れまで通りのルートで雑木林に進行している所で、其れは前方から現れた――最早言うまでもないだろう、梓のティーガーⅡが率いる部隊だ。

 

その数は、1年生チームの半分よりも多い……部隊の凡そ3/4を注ぎ込んだ戦力だ。

 

大胆な戦力分配だが、此処は梓の勘が冴えたと言う所だろう。みほから直接指導を受けた梓は、その影響で『みほならば如何するか?』との予想をある程度つける事が出来るようになっていた。(尤も、其れはあくまで模擬戦レベルに限られるのだが。)

 

 

だから、みほが他の小隊との合流を成してから進軍して来る可能性を排除し、逆にみほの小隊で進軍して来る事を予測して、この大胆な戦力分配をツェスカに進言したのだ。

 

 

果たして其れは巧く行ったと言えるだろう。

 

みほの小隊は最初に撃破された1輌に加えて、履帯修理中のヤークトパンターと別行動中の小梅のパンターが居ない事で、初期状態よりも3輌も少ない状態であり、対する梓の部隊はみほ小隊の3倍近い戦力なのだ――普通に考えれば分が悪い所ではないだろう。

 

 

 

「此処で勝負をかけて来たか……良い読みだよ梓ちゃん、此れだけの大胆な戦力分配は中々出来る物じゃない――よく考えたね?」

 

 

「西住隊長にみっちり鍛えられましたから、其れが功を奏して隊長だったら如何来るのかって言うのがある程度は予測出来たんです……尤も、今回は私の予測が巧い具合に当たったって言う事は否めないですけど!」

 

 

「其れでもみほの考えを読んだ貴女は大したモノよ澤――だけど、其処までね。

 

 3倍近い戦力差だけど、その程度の戦力差で私とみほを倒せると思ったら大間違いよ?――隻腕の軍神の剣と、黒森峰の狂犬の牙、味わうと良いわ!」

 

 

 

だが、みほもエリカも怯まない。

 

特にエリカは、まるで猛獣さながらの獰猛な笑みを浮かべると、軍帽を投げ捨て、みほと同様にパンツァージャケットの上着を外套の様に肩に引っ掛け、そして腕を組んで鋭い睨みを梓に突き刺す!

 

まほの『ラスボスの視線』と比べたら、まだまだ温いが、其れでもエリカのメンチギリは、並の戦車乗りなら縮こまってしまう程の迫力がある。

 

 

 

「確かに、私達じゃ隊長達にはまだ勝てないかもしれないけど、だけど勝てる可能性は0じゃないから、絶対に退きません!!」

 

 

「うん、よく吠えたよ梓ちゃん!!」

 

 

 

其れでも梓は怯まずに、みほ小隊との交戦を開始!

 

そしてみほもそれに応じ、雑木林前の平原では、ドイツ製の戦車が入り乱れる、若しかしたら全国大会でもお目にかかる事は出来ないのではないかと言う位の戦車戦が展開されていた。

 

 

梓の部隊は、梓のティーガーⅡの圧倒的な火力をメインに、ヤークトパンターやティーガーⅠの火力で真正面からの押せ押せ戦術でみほ小隊を攻め立て、みほは自身の乗るパンターの総合力と、エリカの乗るティーガーⅠの攻防力の高さを生かして、梓の押せ押せ戦術を捌くが如く対処して、その隙に攻撃を叩き込む。

 

 

だが、其れはほぼ拮抗し、互いに決定打にならない――梓からしたら、3倍近い戦力差を以てしても、フラッグ車であるみほのパンターを倒す事が出来ないでいると言う事でもあった。

 

決して梓が弱いのではない――みほが異常なのだ。

 

自分に向かってくる砲撃は、全てギリギリで回避して決定打を打たせずに、それどころか変態じみた軌道で動いて1年生チームの戦車を撃破して行く。

 

 

正にその姿は鋼鉄の豹にまたがる軍神の如し!

 

 

だからと言って、梓も諦めたかと言われれば其れは否――梓は、みほの単騎駆けはある程度予想していたのだ……数で劣るのならば、先ずは数の利を潰しに来ると考えていた。

 

数の利を潰しに来ると予測していたから、逆に此れだけの大胆な戦力分配を行ったのだ梓は。――数の暴力と言うと、言葉が悪いかも知れないが、如何にみほが強くとも、3倍近い戦力差を簡単に埋める事は出来ない。例え、エリカと言う存在が一緒であったとしてもだ。

 

 

ならば、攻撃していればいつか必ず隙が生まれる。その隙を突けば、みほのフラッグ車だって撃破出来る筈だと、そう考えてのこの攻撃だ。

 

狙いは悪くないだろう。

 

如何にみほが中学戦車道界隈にて破格の能力を持っているとは言え、全く隙を無くして戦う事など不可能に近いのだから。

 

 

だから、このまま行けば勝てる。そう思った梓の耳には、突如予想していなかった通信が入る事に成る。

 

 

 

『こちらツェスカ!アズサ、拙い……私達の作戦は完全に読まれてたっぽい!

 

 後方から凄い砲撃が……雑木林の中に居るから直撃は喰らってないけど、此のままじゃこっちは缶詰にされて包囲されるわ!!』

 

 

「ツェスカ!?まさか、部長達の部隊が……!」

 

 

 

其れは雑木林に潜んでいたツェスカからの通信だった。

 

自軍が後方から砲撃を受けていると言う通信が入ったのだ――と同時に、梓の顔には苦虫を噛み潰した様な表情が浮かぶ。……完全にやられたと言う所だろう。

 

 

フラッグ車の撃破に、みほのパンターに意識が向いていたのは否めないが、まさか雑木林の中にいるツェスカが攻撃を受けるとは思って居なかった――と言うよりも、可能性から排除していたのだ。雑木林に潜む相手を攻撃するのは費用対効果が見合わないからと。

 

 

だが、ツェスカからの通信を聞く限り、みほはその戦術を行って来たのは間違いないだろう。

 

なれば、雑木林の中に潜んでいるのは得策ではない――此のまま留まって居たら、砲弾で倒れた木の下敷きになって白旗判定を喰らいかねないのだから。

 

 

 

「ツェスカ!今すぐ雑木林から出て!」

 

 

『だよねぇ?……こうなったら、身を曝してとことんやってやるわ!』

 

 

 

だからツェスカの部隊は、雑木林から出て、梓の部隊と共にみほ小隊との戦車戦に加わる。

 

ツェスカの部隊が合流したと言う事は、1年生チームとみほ小隊との戦力差は4倍近くになった――のだが、2・3年チームの隊長であるみほには一切の焦りがない。

 

それどころか、その口元には笑みを湛えているくらいだ。

 

 

 

「ありがとう梓ちゃん、自分から殻を割ってくれて。」

 

 

「え?」

 

 

「此れで終わりです!!お姉ちゃん!!近坂部長!!」

 

 

『此れで終わりだな……沈め!!』

 

 

『目標を狙い撃つ!!』

 

 

 

其れが示すのは、決着の合図。

 

みほが指示を出すと同時に、別動隊として動き、そして1年生チームをティーガーⅠの射程ギリギリ圏内に捉えていたまほと凛の一撃が、ツェスカの乗るパンターに向かって炸裂!!

 

 

 

「緊急回避ーーー!!!」

 

 

 

だが、其処は流石のドイツ仕込みのツェスカ。ギリギリでティーガーⅠの砲撃を回避するが……

 

 

 

 

「は~っはっは!約束通り戻って来たぞ隊長!復活記念に一発ブチかます!!」

 

 

「私もやりますよーーー♪」

 

 

 

其処に、履帯の修理を終えたヤークトパンターと、別行動を取っていた小梅のパンターが仕掛け、ツェスカのパンター目掛けて砲撃開始!

 

 

 

「ツェスカ!!……やらせない!!」

 

 

「其れはこっちのセリフよ!」

 

 

 

このままではやられると思った梓が、援護に向かおうとするが、其れはエリカのティーガーⅠが車体をブロックする事で防ぐ。攻防力ならば兎も角、戦車同士の押し合いになったらティーガーⅠはティーガーⅡに負けはしないのだ。

 

 

 

「邪魔しないで下さい逸見先輩!」

 

 

「だが断る!!」

 

 

 

鋼鉄の虎二匹の押し合いはどちらも譲らない――が、其れは同時に、ツェスカの援護がない事にもなる訳で……

 

 

 

「小梅さん、直下さん……やっちゃってください。」

 

 

「「Jawohl.(了解。)」」

 

 

 

みほの死刑宣告と共に、小梅のパンターと、直下のヤークトパンターの主砲が火を噴き、ツェスカのパンターを襲う。

 

単体ならば兎も角、2輌同時の攻撃を受けたら、如何に大戦期最強の中戦車と呼ばれるパンターであったとしても堪った物ではないだろう。

 

更にアウトレンジから、まほと凛の援護砲撃があるとするならば尚更だ。

 

 

 

――キュポン

 

 

 

敢え無くツェスカのパンターは白旗を上げる事に成ったのだから。

 

 

合宿最終日の模擬戦は、みほ率いる2・3年チームの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……何とか勝つ事が出来たけど、思った以上に薄氷を踏むような戦いだったね――序盤での奇襲が、思いのほか効いていたのかもね。

 

だけど、良い戦いだったよ梓ちゃん、ツェスカちゃん――まさか得意分野の交換なんて言う事をしてくるとは思わなかったからさ。

 

 

 

 

「そうでもしないと勝てないって思いましたから……結局勝てませんでしたけど。」

 

 

「隻腕の軍神……その二つ名の凄さを実感したわ。」

 

 

 

 

あはは……まぁ、そう思うのは仕方ないよ――だけど、それ以外に、梓ちゃん達は無意識のうちに焦りと油断を持ってたみたいだね?

 

私とお姉ちゃん達が合流するんじゃないかって言う焦りと、数の上では自分達の方が上って言う油断をしてたんじゃないかな――無意識に。

 

加えて、ツェスカちゃんが攻撃を受けた時に、かなり焦ったよね?

 

アレは実を言うと本当の砲撃じゃなくて、回り込んだ小梅さんが閃光弾と音響爆弾を併用して行ったトリックプレイで、ツェスカちゃんを雑木林からあぶり出す為の物だったんだけど……其処まで気が回らなかったみたいだね。

 

 

 

 

「言われたら、そうかも……」

 

 

「こんな事で……ドイツのジュニア代表が聞いて呆れるわ――此れじゃあ、逸見先輩に申し訳も立たないわ!」

 

 

 

 

……だからと言って、重く捉えないでね?あくまでも、そう言う部分があったて言う指摘に過ぎないし、其れを克服できれば、次のステップに進む事は出来るからね。

 

模擬戦の結果は確かに悔しかったかもしれないけど、本当に大切なのは『敗北から何を学ぶか』って言う事だから、この負けを無駄にはしないでね?

 

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

うん、良い返事。

 

此れなら、梓ちゃんとツェスカちゃんは、此れからも間違いなく伸びる筈だよ――其れこそ、将来的には日本の戦車道を背負って立つ存在になるのかも……少し大げさかもだけどね。

 

 

ともあれ、此れで合宿の全日程はお終い!今年も良い合宿が出来たよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:梓

 

 

 

合宿最終日の模擬戦も終わって、皆でお風呂の後に、合宿の打ち上げパーティが開催されたんだけど……

 

 

 

 

「あはははは、楽しいねぇエリカさん♪」

 

 

「そうねぇ、楽しいわねぇみほ~~~♪」

 

 

 

 

顔を赤らめながら肩を組んでる隊長と逸見先輩の姿が……飲み物は多種多様用意されてましたけど、少なくともビールは黒森峰のノンアルだった筈なのになんで!?

 

 

 

 

「あっれー?アタシ、若しかして今年もやっちまった?……なはは、ノンアルにはノンアルのラベルはっといてくれよ……アタシは悪くねぇ!」

 

 

「今年も犯人はお前か辛唐ーーー!って言うか、何故に間違えるラベルのビールを冷蔵庫で冷やしてるんですかお母様ーーー!!!」

 

 

「だって、其れが一番美味しいし。」

 

 

「其れを言われたら、反撃が出来ない!!」

 

 

 

どうやら、辛唐先輩がノンアルコールと間違って冷蔵庫に入れた普通のビールを、隊長と逸見先輩が飲んで、ハイな状態になっちゃってるみたいだね此れは……うん、関わり合いにならないようにしておこう。――赤星先輩は、完全に潰されましたから。

 

 

合宿の打ち上げは、予想外の事が待っていたけど、この合宿で私は更に強くなれたって実感できてるから、合宿に参加した意味はあった。

 

私自身がそう感じてるんだから、多分間違いではないと思う――って言うか、この合宿に参加した皆がきっと思ってる筈だよ。

 

 

この合宿で学んだ事を全て身にして、更に上を目指さないとだからね――必ず辿り着いてみせまよす西住隊長、貴女が居るその領域まで!

 

 

何にしても、この合宿が最高のモノだったって言う事は変わらないよ――この合宿は、とっても充実した日々だったって、そう言えるからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 


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