ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

59 / 226
本気で行くわよみほ!Byエリカ      受けて立ちます!エリカさん!Byみほ      頂上決戦開始ですね!By小梅


Panzer58『決勝戦は序盤から白熱してます』

Side:みほ

 

 

 

黒森峰のオーダーは、ちょっと意外だったかな?

 

私は、エリカさんなら攻撃力重視で、強力な重戦車部隊を持って来ると思ったんだけど、蓋を開けてみれば重戦車は4輌で、他は中戦車のパンターが4輌で、あと2輌はラング……多少の差はあるけれど、此れはどう見ても私達に戦力を合わせて来たのは間違いない。

 

 

そうでないと、ヤークトパンターよりも性能で劣るラングを投入した説明がつかないからね。

 

此れは完全に予想を外された形だなぁ……

 

 

「でも、だからこそ燃えて来るんだけどね?戦車の性能差が殆どないなら、カギとなるのは戦略と戦術だから。」

 

 

「だな。

 

 つかマジ燃えてるよなみほ。

 

 試合開始直後から、行き成り鬼神状態かって位にオーラが溢れ出してたからなぁ?……其れこそ、戦車乗りじゃない奴が喰らったらKO必至のオーラだったからな。」

 

 

 

 

そんなに凄いオーラ出てた?まぁ、エリカさんも小梅さんも、前とは比べ物にならない位に強くなってるから私のオーラでKOされる事はないと思うんだけど。

 

何れにしても、先ずは予定通りに稜線を取りに行こうか?

 

当然黒森峰だって稜線を簡単には取らせてくれないと思うので、進行中に強襲してくる可能性は充分にあります――ティーガーを外側に、パンターとⅢ突を内側に配置する形で進んで行きましょう。

 

 

 

 

『『『『『『『『『了解。』』』』』』』』』

 

 

 

 

何もなければ、あと10分くらいで目的地に到着できるかな。

 

試合は始まったばかりだけど、だからこそ序盤で戦果を挙げて波に乗りたい所……さて、先ずは決勝戦の第一幕を始めるとしましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer58

 

『決勝戦は序盤から白熱してます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほ達、明光大の部隊は、稜線を目指して進行を続け、やがて目標となる稜線のふもとに近付いて来た。

 

此処までは何もなく来る事が出来たのだが、だからこそみほは警戒を強めていた。――余りにも順調過ぎるのだ。此れまでのルート上には、戦車が隠れられそうな茂みや、小規模な林が幾つか存在しており、其処を通る時は突然の襲撃に警戒しながら進んで来た。

 

だが、此処に至るまで、そう言った事が一切なかったのだ。

 

 

 

「西住隊長、なんかアッサリ稜線取れそうですよ?」

 

 

「ん~~~……このまま行くと、そうなりそうだねぇ?

 

 でも、まだ取った訳じゃないから警戒は怠らない様にね梓ちゃん。」

 

 

「はい、了解です!」

 

 

「(エリカさんにしては大人しすぎるし、此方が有利になる状況をみすみす作り出すとも思えないんだよね?…一体何を狙ってるんだろう?)」

 

 

 

無論、簡単に稜線を取る事が出来るのに越した事はない。稜線を取れば、上からの攻撃が可能になり、下から撃ってくる相手に対してのアドバンテージは可成りな物なのである。

 

そんな事は、みほは勿論、戦車道に身を置く者ならば分かり切って居る事であり、当然エリカと小梅も熟知している事だ。だからこそ、此処まで順調に進軍出来た事が不可解でならない。

 

 

此れがもし、準決勝のつくばガーディアンの様に、超長距離砲撃が可能な戦車を、黒森峰が使っているのならば『敢えて稜線を取らせておいて、其処を超長距離砲撃で仕留める』と言う戦術もあるだろうが、黒森峰のオーダーにそんな戦車はない。

 

其れ以前に、最大射程がティーガーⅠの黒森峰では、ティーガーⅡを運用している明光大の射程外から攻撃する事は不可能なのである。

 

 

 

「(考えられる作戦は2択……もうすぐ差し掛かる、稜線直前の最期の小規模林に潜んでの待ち伏せか、此れまで通り過ぎた茂みや林に隠

 

  れていて、後から強襲する不意打ち。)」

 

 

 

それ等の状況を踏まえて、みほは考える。

 

車長専任免許を取るために学んだ、古今東西ありとあらゆる戦術の中から、この状況で考えられる戦術を割り出して、どんな攻撃を仕掛けて来るかを予測し、対抗策を考える。

 

 

 

「(或は……よし!)もうすぐ稜線のふもとに到着しますが、その直前の小規模林に黒森峰の部隊が隠れている可能性があります。

 

 全車、左手と後方に注意しながら進んで下さい。

 

 其れから、後方の副隊長車と右舷のティーガーⅠは、砲塔を後ろに向けて、背後からの強襲にも備えておいてください。」

 

 

『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』

 

 

 

その考えが纏まったのだろう。

 

みほは全車に通達を終えると、其のまま一気に進軍し、序盤の攻防の始まりを告げるであろう小規模林の側面に到達し――その瞬間に、其れは来た。

 

 

 

――ドォォォォォォォン!!

 

 

 

小規模林から砲撃が放たれ、明光大の部隊を襲ったのだ。

 

幸いにも、その砲撃が明光大の戦車に直撃する事は無かったが、その砲撃を皮切りに、連射砲とでも言うべき砲撃が小規模林から放たれ、明光大の部隊を蹂躙せんとする。

 

 

無論明光大とて負けてはおらず、パンターとⅢ突は持ち前の回避力の高さで其れを避け、ティーガーⅡとティーガーⅠは回避能力+高い防御力で其れを凌ぎ、反撃を行う。

 

 

 

「撃て!!」

 

 

「姿を現して貰おうかしら?」

 

 

 

中でも、みほの乗るティーガーⅡは、決勝戦に出場している戦車の中で最強の攻撃力を誇る戦車であり、超長砲身から放たれる88mm砲弾は、小規模林の樹木を薙ぎ倒しながら、黒森峰の部隊を襲う。

 

尤も、樹木を圧し折って進む過程で威力は減衰しているので、当たった所で決定打にはならないのだが、しかしティーガーⅡの攻撃によって樹木は圧し折られ、潜んでいた黒森峰の部隊が姿を現す事になった。

 

 

 

「もっと早い段階で仕掛けて来るかと思ったんだけど……部隊編成に続いて、意外だったよエリカさん。」

 

 

「早い段階で仕掛けるのは、絶対に読まれると思ったから、敢えてギリギリまで仕掛けなかったのよ――其れでも、こうして対処しちゃうんだから大したものと言わざるを得ないけれどね。――でも、待ち伏せだけじゃないわ!!」

 

 

 

姿が顕わになった黒森峰の部隊……エリカは、みほの能力に改めて賛辞を送りつつ、しかしその口元の笑みは消えてはいなかった。

 

 

 

「頼むわよ小梅!!」

 

 

『お任せ下さい、エリカさん!』

 

 

 

直後、明光大の部隊はエリカ率いる部隊とは、別の攻撃を受ける事になった。

 

其れは言わずもがな、黒森峰の副隊長である赤星小梅が率いる別動隊だ。――待ち伏せと別動隊による波状攻撃は、みほも可能性の1つとして考えていた。

 

 

しかし、小梅が現れたのは、みほの予想外の場所からだった。

 

みほは、『此れまで通り過ぎた林や茂みに隠れていた部隊が後方から仕掛けて来る』と予測していたのだが、何と小梅の部隊は明光大の右舷から現れて攻撃して来たのだ。

 

 

 

「右舷から!?……まさか、小梅さんの部隊はスタート地点から大回りして、私達に気付かれない様に側面を取りに来てたって言うの!?

 

 ……これは、完全にやられたね――だけど、挟み撃ちにされて負けるような明光大じゃない!」

 

 

 

完全に予想外だった攻撃にみほは驚くも、すぐさま気を取り直して部隊を立て直す。

 

みほ自身は、ティーガーⅠ1輌とパンター2輌、Ⅲ突1輌をお供にエリカの部隊と交戦し、副隊長の梓もまた同様の戦力を持って小梅の部隊と交戦し、序盤の攻防は何方も退かない苛烈な戦車戦が展開される形となった。

 

 

 

「勝負よアズサ!!」

 

 

「ごめんツェスカ、今はまだその時じゃないから。また後で!」

 

 

 

そんな中で、ツェスカが梓に勝負を挑んだが、梓は『今は受けるべきではない』と判断して、ツェスカとの交戦を回避――如何にライバルとの戦いが楽しみとは言っても、其れだけに固執したらチームの為にならないと考えたのだろう。この梓の考えは正しかったと言えるだろう。

 

 

其れは其れとして、現在の状況がどちらが有利かと言えば、其れは間違いなく黒森峰だ。

 

如何に明光大の回避能力が高いと言っても、挟撃を受けては、持ち前の回避能力で避け続けるのにも限度がある……一方向からならば兎も角、左右から挟まれた状態では尚更だ。

 

 

普通なら、此処でゲームエンドだが、みほが相手な場合に限ってはそうは問屋が卸さない。

 

 

 

「全車『爆音モクモク作戦』を開始して下さい!!」

 

 

 

だから、みほがそう命じた次の瞬間……

 

 

 

 

――ブシュッゥゥゥゥゥ!!

 

 

――ズギャァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

「んな、此れは!!」

 

 

「スモークと爆音のダブル攻撃!?」

 

 

 

視界を覆うスモークと、戦車砲とは異なる爆音が発生し、黒森峰の部隊は攻撃の手が止まってしまった。

 

エリカも小梅も、此れまでの明光大の戦い方から、閃光弾とスモーク弾の対策はしていたのだが、此処に来て音響弾が来るのは完全な予想外だった。

 

だから、普段戦車砲で大きな音には慣れている筈なのに、普段聞かない類いの爆音に虚を突かれ、攻撃の手が止まってしまったのだ。

 

序に、キューポラから上半身を出していた、車長ポジションの者には一時的な耳鳴りまで発生するおまけつきである。

 

 

 

「効果あり……この機に一気に稜線を上ります!!」

 

 

 

そして、この機を逃すみほではない。

 

黒森峰の攻撃の手が緩んだを確認すると、部隊を一気に進めて丘の頂上を目指す。――視界は兎も角、エリカ達が正常な聴覚を取り戻すまでに、稜線を抑える事は出来るだろう。

 

明光大の隊員は、作戦開始と同時に車内に引っ込んだので無事であり、みほ自身も耳栓をしていたので聴覚は問題ないのだ。

 

 

逆に黒森峰は、閃光対策としてサングラスを、煙幕対策としてサーモグラフィーを用意していたのだが、視覚以上に耳を潰しに来るとは思って居なかったので、明光大の音響攻撃には完全にやられていた。

 

 

聴覚と言うのは、戦いに於いて視覚の次に大事な要素である。それが、一時的に役に立たなくなったと言うのは、黒森峰にとっては、痛手以外の何者でもないだろう。

 

 

現に、スモークが晴れ、聴覚が効くようになった時には、明光大の部隊は稜線を抑えていたのだから。

 

 

 

「視覚だけじゃなく、聴覚まで奪って稜線を取るとは、見事よみほ……隻腕の軍神の二つ名は伊達じゃないわ!!」

 

 

「流石はみほさんですね……挟撃を受けて尚、部隊を立て直しちゃうんですから、本当にお見事です。

 

 ――でも、本番は此処からです。絶対に逃がしません、みほさん。」

 

 

 

だが、稜線を取られてもエリカと小梅は冷静だった。

 

2人共、みほならば確実に稜線を取りに来るだろうと予測し、最初から『稜線は取られる』事を前提にして作戦を立てて居たのだ。故に、其処からの部隊展開も素早い。

 

 

 

「黒森峰の部隊が散開していく?隊長、此れは……!」

 

 

「流石はエリカさんと小梅さんだって言うべきかな?稜線を取られたのならば、逆に稜線を取った事が有利に働かないようにすればいい。

 

 下から上に攻撃する場合は、停止射撃が基本で部隊をある程度纏めて行うのが基本だけど、常に動いて攻撃すれば、命中率こそ下がる物の、動けるスペースが限られてる稜線上の相手にはプレッシャーになる。

 

 加えて、動ける場所が限られてる稜線上の戦車では、広く展開して動いてる相手を狙うのは難しいからね。」

 

 

 

黒森峰の部隊は、稜線を取り囲むように散開し、更に足を止めずに行間射撃でもって明光大の部隊を攻撃して来たのだ。

 

行間射撃で、しかも下から上に向かって攻撃するせいで命中率こそ下がるが、代わりにプレッシャーを与える事が出来る。

 

加えて、明光大が動ける範囲が限定されているのに対し、黒森峰が動ける範囲は可成り広く、稜線上からの砲撃を躱すのも、其れ程難易度が高い訳ではないのだ。

 

 

エリカと小梅は見事に、みほに対して『アドバンテージを取らせておいて、其れをディスアドバンテージに変える』と言う事をして見せたのだ。

 

 

有利な状況を取ったと思ったら、其れが有利に働いていないと言うのは、通常あらば由々しき事態であるのだが、そんな状況であるにも関わらず、みほの顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「(やるなぁ、エリカさんも小梅さんも……まさか、こう来るとは思わなかったよ。

 

  2人とも一昨年の準決勝で戦った時とはまるで別人――やっぱり、決勝戦はこうでないとね!!)」

 

 

 

みほはエリカと小梅が立てた作戦に、純粋に驚き、そして其れが楽しかった。完全に予想外の展開だったからだ。

 

稜線を取れば序盤のアドバンテージを得られると思っていたみほにとって、稜線を取った事がディスアドバンテージになると言うのは、初めての経験だったのだ。

 

本来ならば、有利な状況を不利な状況に変えてしまったエリカと小梅の作戦は、みほにとっても新鮮だったのである。

 

 

だが、同時に其れはみほの中に眠る『西住の血』を目覚めさせる物でもある。

 

みほは普段は天真爛漫の明るい女の子であるが、其の内には『西住』特有の闘争本能が眠っており、其れが目覚めた際には猛獣の如き攻撃性が表に出て来る。

 

それでいて、冷静な思考は保たれているのだから凄まじいとしか言いようがない。

 

 

 

「コイツは結構厳しいが、如何するよみほ?」

 

 

「こうなった以上、此処に留まるのは得策じゃないから、稜線を捨てて市街地に向かうよ。

 

 なので、全車『ドッカン作戦』を開始して下さい!!」

 

 

 

西住の闘争本能が覚醒したみほは、すぐさま稜線を捨てる選択をし、2年前の準決勝で使った『ドッカン作戦』を展開!

 

普通に撃つのではなく、主砲を上に向けて撃つ事で、砲弾を敵戦車の上から降らす作戦であり、可成り有効な作戦だが、稜線の上から其れを行えば、更に効果は高くなる。

 

相手が動き回ってる事で、命中率は下がるが、真上から落ちて来る砲弾は撃破が目的ではないので問題ない。

 

稜線上から正面切って撃たれるのと、砲弾が真上から降って来るのは別物であり、戦車の上部フラット部分の装甲は薄いために、真上からの攻撃を喰らったら、其れだけで白旗が上がるのは確実。

 

故に、上からの攻撃が始まったら、己の攻撃の手を止めて回避に専念せざるを得ない――そして、其処がみほの狙い目だ。

 

 

 

「今です!一気に稜線を駆け降りて!!」

 

 

 

黒森峰の攻撃が止まった瞬間に、一気に稜線を駆け降りる。

 

無論この間も、ドッカン作戦は展開しており、黒森峰の攻撃の手を止める事を忘れていない――にも拘らず、エリカ車と小梅車、ツェスカ車だけは、回避しながらも行間射撃で攻撃をして来た。

 

 

回避行動をしながらの行間射撃なので精度は低いが、それでも明光大の部隊にとっては嫌な物だろう。命中率が低いとは言え、どんな幸運打が有るか分からないのだから。

 

 

 

――ドォォォォン!!

 

 

――ドガァァァァァン!!

 

 

 

――キュポン×2

 

 

 

『明光大、Ⅲ突1号車、Ⅲ突2号車行動不能。』

 

 

 

そして、其れは起きてしまった。

 

エリカと小梅の乗るティーガーⅠが、明光大のⅢ突2輌を撃破したのだ。

 

此れは、明光大にとっては結構痛手だ。火力で言うのならば同じ75mmでもパンターの方が上だが、Ⅲ突には極端に低い車高を利用した待ち伏せが出来る――此れから市街地戦を考えていたみほにとって、Ⅲ突の離脱は大打撃だろう。

 

 

 

「Ⅲ突が……でも、只ではやられないんだよね?」

 

 

『当然!直前にシュルツェンパージして、ラングの履帯を切ってやったわ!』

 

 

 

しかし、Ⅲ突は撃破される直前にシュルツェンをパージして其れを飛ばし、ラングの履帯を切っていたのだ。

 

撃破されても只ではやられぬ。Ⅲ突は、撃破されても確りと仕事はしていたのである。――尚、履帯を切られたラングに乗っていたのは直下であった。如何やら、彼女には、本当に『履帯が切れる呪い』が掛かって居るのかも知れない。

 

 

何にしても、Ⅲ突2輌を失ったとは言え、明光大は稜線を駆け降り、市街地に一目散に向かって行く。

 

黒森峰もそれを追いたい所だが、ラングの履帯修復の為の時間があり、即座に追撃と言う形をとる事は出来ないで居た……履帯の修復と言うのは、結構時間が掛かる物であり、同時に其れは明光大が市街地に到達するのは確実な物になると言う事だった。

 

 

此れはエリカにとっては有り難くない。

 

市街地戦におけるみほの強さは身に染みて知っているだけに、絶対に市街地にはいかせたくなかったのだが、そうはならなかった――稜線での攻防では、優位に事を薦められたが、2輌を撃破したとは言え、市街地戦と言うアドバンテージをみほに与えてしまったのだ。

 

 

だが、だからと言ってエリカの闘志が萎えるかと言えば其れは否だ。

 

 

 

「上等じゃない……貴女の得意とする市街地戦で、貴女を倒してやるわみほ!全軍、全速で明光大を追うわよ!」

 

 

「いや、ゆっくりでいーよ♪」

 

 

「うっさいわよ!!」

 

 

 

寧ろ闘気を全開にして、明光大を追撃する。

 

その中で、軽口を叩いたⅢ突の椿姫に、黒森峰の略帽を投げつけたのは御愛嬌と言う所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、稜線から離脱した明光大は、みほ率いる隊長部隊と、梓率いる副隊長部隊の2つに分かれて市街地を目指していた。

 

みほの部隊は最短距離で市街地を目指し、梓の部隊は2番目に速いルートを進んで市街地に向かっている――普通ならば、全軍最短距離を進む所で、何故別々に進んでいるのか?

 

 

其れは――

 

 

 

「それじゃあ、此処は此れで通行止めです!」

 

 

 

「橋の修理中に付き、迂回願いますっと!」

 

 

 

――ドォォォォォン!!

 

 

 

2つのルートを黒森峰に利用させない為だ。

 

最短ルートは去年の決勝戦同様に、木を倒して進路を塞ぎ、2番目に短いルートは、市街地直前にある橋を落として入って来れないようにする。……これで、黒森峰の部隊が市街地に入って来るのを遅らせようと言うのだ。

 

因みに、塞いだルートと、落とした橋の入り口には黄色いヘルメットを被ったSDみほが頭を下げているイラストが入った看板を設置すると言う入念ぶりであった。

 

 

 

そして、みほ達が市街地に入ってから遅れる事5分、黒森峰の部隊は漸く最短ルートでもって市街地に入ろうとしたのだが、其処は倒木で塞がれて通る事が出来なくなっていた。

 

普通ならば迂回を選択するだろう。(去年の決勝でも、安斎千代美は迂回を選択した。)

 

だが、エリカは迂回を選択しなかった。

 

 

 

「邪魔よ……ブチかませ!!」

 

 

 

迷う事無く、看板ごと倒木を戦車砲で吹き飛ばして強引に進軍して行く。ベクトルは違うが、エリカもまたみほと同様に結構常識が通用しない戦車乗りであるらしい。

 

 

 

「大胆ですぇ、エリカさん。――尤も、其れ位じゃないとみほさんに勝つ事は出来ないかも知れませんけれど。」

 

 

「その通りよ小梅。

 

 みほは、此れで私達の進行を遅らせると思ったんだろうけど、そうは行かないわ――あの子のやりそうな事は、合宿のお陰で予想が付く。

 

 此のまま市街地に攻め込んで、みほが態勢を整える前に叩くわよ!」

 

 

「了解です!」

 

 

 

そしてエリカは、みほが最も得意とする市街地戦の舞台に向けて進軍!

 

Ⅲ突2輌を撃破したとは言え、2輌のビハインドは、市街地に入ったみほにとっては有ってないような物であり、逆にみほの主戦場に押し入る黒森峰の方が不利と言っても過言ではない。

 

 

であるにも拘らず、エリカの口元には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

「(貴女が最も得意とする市街地戦……其れで私達が勝ったら、最高にショッキングよね?――悪いけど、勝たせて貰うわよみほ!)」

 

 

 

エリカの中に眠る獰猛な戦闘本能が、此処で目を覚まし、孤高の銀狼の牙を研ぎ澄ましたのだ。

 

市街地戦は、此れまではみほの独壇場だったが、此の決勝戦に限っては、どうやらその限りでな無くなりそうである――隻腕の軍神と、孤高の銀狼の戦いは、此処からが本番なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

まさか、稜線を取ったにもかかわらず、先手を取られるとは思わなかったよ――序盤で2輌のビハインドを背負う事になっちゃったしね。

 

だけど、市街地に入った以上、今度はこっちのターンだよエリカさん、小梅さん!

 

最短ルートと、準最短ルートは潰したけど、エリカさんならきっと強引にでも最短ルートを通って来る筈――だから、黒森峰が市街地に入ってからが勝負だよ!

 

 

「梓ちゃん、首尾は如何?」

 

 

『上々です西住隊長!全車、配置につきました!』

 

 

 

 

OK!其れで良い、其れがベスト!

 

第一幕では完全にしてやられたけど、この第二幕では、市街地戦ではそうは行かないから覚悟しておいてねエリカさん、小梅さん?――この決勝戦、勝つのは私達明光大付属中学校だよ!

 

 

 

 

『ですね!其れじゃあ行きましょうか、西住隊長!!』

 

 

 

 

そうだね梓ちゃん!

 

決勝戦は此処からが本番だから気合を入れていくよ!!Panzer Vor!!

 

 

 

 

『『『『『『『『『Jawohl Kapitan!!(了解、隊長!!)』』』』』』』』』

 

 

 

さぁ、此処からが決勝戦の本番――お楽しみは此れからだよ!エリカさんも小梅さんも、バッチリついて来てね!!最高の試合を、此の試合を観戦してる人達に見せてあげよう!!

 

 

さぁ、行くよ、エリカさん、小梅さん!!

 

私のフィールドである市街地戦で、私の全力を味わって貰うよ!!――隻腕の軍神と呼ばれる私の力を見せてあげるからね!

 

 

ふふ、此の決勝戦は、思った以上に楽しい物になりそうだね?――だからこそ勝ちたい!勝って真紅の優勝旗を持ち帰りたいんだ……だから、勝たせて貰うよ此の試合!

 

 

とは言っても、エリカさんと小梅さんは簡単に勝てる相手じゃないから、苦戦は必至だけどね。

 

だけど、其れを越えて私は勝って見せる!――さぁ、始めようか、決勝戦の第2幕って言うモノを!お楽しみは、此れからだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。