ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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フラッグ戦なのにこうなるって事は、実力が拮抗してるって事?Byみほ      まぁ、そう言う事でしょうね……Byエリカ      だからこそ、楽しめますね♪By小梅


Panzer61『全力全壊?そんな物は基本です!』

Side:みほ

 

 

 

互いに全力を出した結果、残る車輌は、私達が2輌で、黒森峰が3輌……数の上では負けてるけど、私が最も得意としてる市街地戦での戦言って言う事を考えると状況は五分五分って言う所だろうね。

 

何よりも相手は、今や中学戦車道界隈に於いて、最強の一角に数えられてるエリカさんと小梅さんだからね――加えて、ドイツのジュニアでバリバリのトップを張ってたツェスカちゃんの実力も計り知れないモノが有るから、此処はバッチリ行かないとだよ。

 

 

 

 

「なら、バッチリ行きましょう西住隊長!!

 

 ガツンと行って、とことんやり合って、その上で勝ちましょう!!

 

 ツェスカの方は私が相手になりますから、西住隊長は逸見先輩と赤星先輩に集中して下さい!!

 

 ツェスカを撃破したら、直ぐに援軍にむかいますから!!」

 

 

「うん、その時は頼りにしてるよ梓ちゃん!」

 

 

キャリアで言うならツェスカちゃんの方が上だけど、梓ちゃんもこの1年で、普通では考えられない位に強くなってるし、実際に此の決勝戦でも、そのポテンシャルを爆発させて、此処まで残ってくれた訳だからね。

 

 

そう言う意味では、此処で梓ちゃんと合流したのは正解だったかな?

 

もしも残る3輌が纏まって行動してた場合、こっちもバラバラに動いてたら1対3の圧倒的に不利な状況で戦う事になってただろうからね。

 

 

2対3の状況なら、少しは楽になるし、梓ちゃんがツェスカちゃんを抑えていてくれれば、私はエリカさんと小梅さんに集中できる――最高なのは、梓ちゃんがツェスカちゃんを倒して加勢してくれる事だけど、其ればかりはどうなるか分からないからね。

 

 

 

 

「大丈夫です!勝ちます!!」

 

 

「ふふ、頼もしいね――其れじゃあ行こうか!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

エリカさん達が如何来るかは分からないけど、そろそろ試合も終盤戦。悔いが残らない様に、最高の戦車道をして楽しまないとね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer61

 

『全力全壊?そんな物は基本です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほと梓が、駅前の広場に差し掛かった時、ほぼ同時にエリカと小梅とツェスカも駅前の広場にその姿を現していた。勿論示し合わせた訳ではなく、本当にマッタク偶然にこの場でエンカウントしたのだ。

 

 

普通ならば、即戦車戦に入る所だが、互いに此れから探そうと思っていた相手と突然エンカウントした事で虚を突かれ、所謂お見合い状態になってしまう。

 

人間、予想してなかった事態に陥ると動きが止まると言うが、それは同い年の普通の女子以上の胆力やら何やらを備えている戦車乙女であっても変わりはなかったらしい。

 

 

 

「……こんな所で出会うとは奇遇ねみほ?

 

 此方から迎えに行ってあげる心算だったんだけど、まさかそっちの方から出てきてくれるとは思わなかったわね?まぁ、お陰様で広い市街 地を探し回らなくて済んだけど。」

 

 

「其れはこっちのセリフかなエリカさん?

 

 エリカさんなら、遮蔽物の少ない海岸線のエリアで待ってると思ったのに、まさか此処まで来てくれるとは思わなかったよ――駅前広場は開けてる場所とは言え、駅前特有の障害物も多いから、どっちかって言うと私達の方が有利なのに。」

 

 

 

だが、其れも一瞬の事であり、みほもエリカも笑みを浮かべると、互いに挑発とも取れるやり取りを始めた。

 

特に意識した訳ではないが、自然と言葉が出て来たとかそう言う事なのだろう。実際にみほとエリカの言った事は、夫々が思っていた事であるのは本当の事なのだから。

 

同時にこの状況は、序盤の稜線での攻防の時の様に、エリカの行動がみほの予測を裏切った事でもあった。

 

みほは、エリカならば自身の攻撃力を最大限に生かしつつ、自分の奇策を封じる為に、遮蔽物の少ない海岸線エリアの何処かで只管自分達を待っていると考えていたが、実際にはこうして駅前まで進行して来ていたのだから。

 

 

 

「確かに、最初は其れが一番だって私もエリカさんも思っていたんですけど、みほさんだったら其れすらも読んで、その対抗策を考えちゃうんじゃないのかって思いまして、其れならフィールドアドバンテージを捨てて、みほさんの予想を崩す方が効果があるって思いまして♪」

 

 

「うん、実際効果あり。此処でエンカウントしたせいで、頭の中で考えてた作戦が全部おじゃんになっちゃったからね。

 

 だけど、其れで私達を倒せると思ってるのかな?――市街地戦は私の十八番。此処は、私のフィールドと言っても過言じゃないから、1輌程度の差は無いに等しいよ。」

 

 

「そんな事は分かってるわ……だけどね、私も小梅も貴女の最も得意とする市街地戦で貴女に勝ちたい。

 

 戦車乗りとしての力が120%発揮された西住みほと戦って勝ちたいのよ――中学戦車道最強と謳われる、隻腕の軍神の本気を越えて掴んだ勝利こそ、究極にして至高の勝利だと言えるんだから。」

 

 

 

しかし、予想を崩した程度ではみほは揺るがない。それどころか、その場で新たな作戦を思いついてしまう程の鬼才なのだ。

 

無論そんな事はエリカと小梅も分かっている。分かっている上で、敢えて進軍して市街地戦での戦いをみほに挑んだのだ――みほが最大の力を発揮する市街地戦で勝ってこそ本物だと考えて。

 

 

普通なら、その判断を愚かだと断じる所だろうが、みほは其れを聞いて嬉しくなっていた。

 

 

 

「(態々自分達に有利なフィールドを捨てて、逆に私に有利なフィールドで戦おうとするなんて、とってもいい感じだね。

 

  エリカさんも小梅さんも、一昨年の準決勝の時とはまるで別人……若しかしたら、此の試合中にさらに成長する事が無いとも言い切れない……やっぱり、決勝戦はこうでなくちゃね!)」

 

 

 

2年前ならば、自分の方が圧倒的に上だったが、今のエリカと小梅の実力は、みほには勝てずとも、しかし劣らないと言うレベルにまで到達している故に、同世代で互角のライバルが居なかったみほにとって、エリカと小梅が強くなっていると言う事は、素直に有り難かった。

 

 

そして、其れとは別に闘志を燃やしているのが……

 

 

 

「此れが3回目の邂逅……日本の諺では『三度目の正直』って言うんだったかしら?――今度こそ、決着を付けてやるわアズサ!!」

 

 

「1回目は戦闘無し、2回目はドロー……確かに三度目の正直だねツェスカ。

 

 状況的に、此処で決着を付ける事になるんだろうけど、負けないよツェスカ――うぅん、絶対に勝つ!勝って、西住隊長の勝利を導く!!」

 

 

「上等!私だって絶対に勝ってやる!勝って、隻腕の軍神の首も掻っ切ってやるわ!!」

 

 

 

明光大の副隊長の梓と、黒森峰の次代のエースであるツェスカだ。

 

去年の合宿にて、親友兼ライバルとなった梓とツェスカは、合宿中は互いに切磋琢磨して研鑽を積んだが、同時にお互いに模擬戦ではない大会の場で戦う事になったら如何戦うかをシミュレーションしていたのである。

 

その成果を発揮できる最高の舞台での、3度目の邂逅に、梓とツェスカの闘気が燃え上がらない道理はないのだ。

 

 

そしてその闘気は、当然みほとエリカ、小梅にも伝わり、それに触発されるように、みほとエリカと小梅の闘気も一気に燃え上がる!!

 

其れこそ、活火山が噴火してマグマを噴き上げるかのように強烈にだ。

 

 

 

 

「其れじゃあ始めましょうか、エリカさん、小梅さん――決着を付けましょう!!」

 

 

「貴女の敗北を持ってね――行くわよみほ!!」

 

 

「勝たせて貰いますよ、みほさん!!」

 

 

 

 

「貴女はドイツのジュニアリーグでもトップで活躍できるだけの実力がある。

 

 だから、戦車道を始めて1年程度の相手とは思わずに、ドイツのトップ選手と戦う心算で行くわアズサ――!!」

 

 

「其処までの高評価をしてくれるって言うのは光栄だよツェスカ。

 

 だけど私だって負けない!絶対に勝って見せる!!私の持てる力の全てを持ってして貴女と戦わせて貰うよツェスカ!!!」

 

 

 

夫々闘気は120%!!

 

其れこそ、溢れ出た闘気が地面を揺るがしているのではないかと錯覚しているくらいに強烈なモノだ――が、その渦中にいる彼女達からすれば、そんな事は些事に過ぎないのだろう。

 

 

 

「此れがラストバトル……行くわよみほ!!」

 

 

「受けて立つよエリカさん!!」

 

 

 

 

「「Panzer Vor!!」」

 

 

 

 

そんな中で発せられた『戦車前進』の号令。

 

弱小校の汚名を返上した明光大付属中学校と、絶対王者から陥落しながらも、今再び王者となるべく再起した黒森峰による決勝戦は、ここからがクライマックスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのクライマックスの舞台で、明光大の副隊長である梓と、黒森峰の次代のエースであるツェスカ、次期隊長候補である2人の戦いは、戦闘開始直後から、手加減無用の戦車戦が展開されていた。

 

 

 

「く……流石はティーガーⅠ――食事の角度で対応されたら、如何にパンターの超長砲身の75mmでも撃ち抜くのは難しわ。」

 

 

「何処でも良いから確実に当てる事が出来れば勝てるとはいえ、ティーガーⅠでパンターの機動力について行くのは難しい――如何に、此のティーガーⅠが東雲工場で魔改造を施されていると言ってもね。」

 

 

 

戦車の性能で言えば、梓の乗るティーガーⅠは、ドイツの傑作重戦車と言われるだけの事があり、重戦車としては攻守速のバランスが素晴らしく、大戦期最強の重戦車であったのは間違いない事から、梓の方が上だと思うだろう。

 

 

だが、ツェスカのパンターも、攻守速を高いレベルで纏めた傑作中戦車であり、特に機動力に限ればティーガーⅠを遥かに凌駕するのだ。

 

鋼鉄の虎と、鋼鉄の豹の戦いは、文字通り力と機動力の勝負になると言えるだろう。

 

 

実際に、梓とツェスカの戦いは、セカンドコンタクトの時よろしく、『避けるツェスカ』と『弾く梓』と言う状況になっているのだから。

 

しかし、此れでは決定打を与える事にはならないと言う事は、梓もツェスカも理解している。其れ故に勝つ為には、此れまでとは異なった戦い方をする以外の方法はない。

 

 

だが、そんな事ですら、今の梓とツェスカにとっては『如何でも良い事』だ。

 

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「デヤァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

そんな事を頭の片隅に置いておけるほどの余裕もない位に、互いに目の前の敵を倒さんと全神経を集中しての、年間ベストバウトに、ノミネート確実な戦いが繰り広げられているのだ。

 

ティーガーⅠの砲撃を悉く避けるパンターと、パンターからの砲撃を『効かぬ!』とばかりに弾くティーガーⅠの攻防はドンドンと激しさを増し、戦車道の俄ファンをも魅了する凄まじい戦車戦が展開されているのだ。

 

 

ティーガーⅠの性能を駆使して一気呵成に攻める梓に対して、パンターの運動能力を全開放して被弾を避けながら攻撃するツェスカ――戦車乗りの能力的には、略互角と言って間違いないだろう。

 

 

 

「クロエ、機動力では負けるけど、絶対に後ろを取られない様にして。常に背後に何かを背負う形で移動してくれる?」

 

 

「了解。可成り難しいけど、頑張ってみるヨ!」

 

 

 

「兎に角足を止めるな!止まったら虎の牙に喰いちぎられて終わりよ!

 

 常に動き回って攻撃して、何としてでもティーガーの後部を取る!後部さえ取れれば、最悪でも相討ちに持ち込む事は出来るんだから!

 

 アズサを、副隊長車を倒せば此方が俄然有利になるんだから、絶対に倒すわよ!」

 

 

「りょ~かい。いやぁ、車長がライバル同士だと、燃えて来るわぁ!」

 

 

 

梓もツェスカも次々と指示を出し、隊員達も其れに応える。それが、可也無茶な軌道や、厳しい装填速度であってもだ。

 

だから、どうしても互いに決定打に欠く展開となってしまうのは仕方ない。観客からすれば、何方が勝つのか手に汗握る戦いと言う所なのだろうが、戦ってる側からすれば此のままでは泥仕合は必至だ。

 

 

決定的な一手を打つ必要がある――梓もツェスカも、そう考えていたのは当然だろうが、此処で先に動いたのは梓だった。

 

 

 

「撃て!!」

 

 

 

何度目になるか分からない砲撃は、しかしツェスカのパンターには向かわず、その頭上にある歩道橋に命中し、瞬く間に歩道橋が破壊されコンクリートの礫が、ツェスカのパンターの上に降って来る。

 

 

 

「何時来るかと思ってたけど、此処で来たわね、妹隊長直伝と思われる裏技が!」

 

 

 

だが、梓が絶対にみほ直伝の裏技を使ってくる事はツェスカも予想済みだったので、慌てる事なく即時その場から離脱してコンクリートの雨を躱す。

 

可能性の1つとして考えておけば、該当する事態が起きた時にも対処は容易いと言う事だ。

 

 

しかし、梓の狙いはコンクリートで押し潰して撃破する事ではない。

 

本当の目的は、パンターを自分達の方向に向けて走らせる事・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だった。

 

多くの車が前進と後退ならば、前進の方がスピードが出るのと同じで、戦車もまた前進する方が最大限のスピードを出す事が出来る故に、上からの障害物が降って来た場合には略間違いなく前進してその場を離脱する物だ。

 

後退して避ける事がない訳でもないが、その場合は態々目の間に障害物が出来る事になり、其れを越えて戦いを続けると言うのは、あまり得策ではない――瓦礫の山を乗り越えようとした所を狙い撃ちにされる危険性があるから。

 

ツェスカもまた、後退して避けるのはリスクが大きいと判断し、前進する事でコンクリートの雨を避けたのだが、同時に其れは、梓の狙いにまんまと乗っかってしまった事でもあった。

 

 

 

「そう避けるのは読んでたよ!なのは!!」

 

 

「全力全壊!!」

 

 

 

――ドガァァァァァァァァァァァァン!

 

 

 

前進して来たパンターに向けて、ティーガーⅠの88mmが炸裂!

 

しかし其れは、パンターではなく、パンターの手前に着弾し、道路にクレーターを穿つ。

 

車が急には止まれない様に、戦車も急には止まれない。ならばどうなるか?――答えは簡単だ。前進していたパンターは、突如出現したクレーターに車体の右半分を落っことす結果になり、これ以上の進行が不可能になってしまったのである。

 

時間を掛ければ抜け出す事も出来るだろうが、目の前にティーガーの主砲が待ち構えている以上、脱出は不可能な上に、動く事が出来なくなってしまえば、其れはもう只の的でしかない。

 

 

 

「此れで終わりだよツェスカ!撃て!!」

 

 

「転んでもただでは起きないわアズサ!撃てぇ!!!」

 

 

 

動けなくなったパンターに対して梓はトドメとなるであろう砲撃を命じるが、ツェスカも只でやられる心算は無く、最後の砲撃を放つ!!

 

 

 

――ドガァァァァァァァン!

 

 

――キュポン!

 

 

 

『黒森峰、パンター1号車、行動不能!』

 

 

 

その攻撃は梓の方が有効打となり、此れで数の上では互角になった。

 

互角になったのだが――

 

 

 

「履帯がやられるなんて……!!」

 

 

「履帯切りは、明光大の専売特許じゃないのよ。」

 

 

 

梓のティーガーは、パンターの最後の砲撃で履帯を切られてしまっていた。

 

自分は此処で撃破されると判断したツェスカは、せめて梓がみほと合流するまでの時間を遅らせようと、履帯を切ると言う選択をしたのだ。

 

梓の合流が遅れれば、其れだけエリカと小梅のタッグがみほを攻める事が出来る時間が延びるのだから。

 

 

梓とツェスカのライバル対決は、戦車を撃破したのは梓だが、最後の最後でチームの為の一撃を喰らわせたツェスカと言う事を考えると、引き分けよりの、梓のギリギリ優勢勝ちと言った所だろう。

 

 

何にしても梓達は、1秒でも早くみほ達と合流すべく、ティーガーⅠの重い履帯の修理をする事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓とツェスカが凄まじい戦車戦を繰り広げていた頃、みほvsエリカ&小梅の戦いも、最初からヒートアップしていた。

 

通常の戦車性能で言うのならば、ティーガーⅡは、ティーガーⅠよりも攻防力で圧倒的に上回る代わりに、足回りが非常に弱いのだが、明光大のティーガーⅡは、防御力を若干下げる事で、弱点の足回りの弱さを克服している。

 

故に、戦車の性能的には有利になると思うだろうが……

 

 

 

「この動き……ティーガーⅠのカタログスペックを上待ってる?――若しかして、そっちもかな?」

 

 

「正解よみほ。

 

 黒森峰の全車輌とは流石に行かなかったけど、隊長車と副隊長車のティーガーⅠには、レギュレーションギリギリの魔改造を施させて貰ったわ。」

 

 

「OGのおば様達が、王者の云々なんて口喧しかったんですけど、『西住みほ』に勝つには、そんな事言ってられないってエリカさんが一喝したら渋々ですが許可して貰えたんですよ。」

 

 

 

エリカと小梅のティーガーⅠもまた、エンジンと足回りをレギュレーションギリギリまで魔改造を施してあるらしく、明光大の最強戦車である魔改造ティーガーⅡと互角に張り合っているのだ。

 

だが、其れでもみほの方が戦車性能で勝っているのは変わらない。

 

ティーガーⅡの超長砲身88mmならば、ティーガーⅠが食事の角度を取ったとしても正面装甲を楽に抜く事が出来る――逆にティーガーⅠの長砲身88mmで事実上200mm近い装甲となる、ティーガーⅡの正面傾斜装甲110mmを抜くのは難しいのだから。

 

 

しかし、状況は1対2のハンディキャップマッチ状態故に、戦車の性能差では勝負が決まらない。

 

みほの戦車乗りとしての能力は、間違いなく現在の中学戦車道では最強だろうが、エリカと小梅のコンビもまた、中学戦車道最強のタッグとして認識されつつある。

 

それだけに、この3人の戦いは、何方も退かない激しい物となっているのだ。

 

 

 

黒森峰は、エリカが持ち前の攻撃力を持ってしてみほに攻撃を仕掛け、小梅がエリカの攻撃の隙を補う形で動く『静と動』のコンビネーションで、対するみほは、エリカの攻撃を避け、そして弾きながら小梅のティーガーⅠを狙う。

 

この状況でエリカのティーガーⅠを狙って撃破するのは難しいと考え、先に小梅のティーガーを撃破する事を選択したのだ。

 

 

 

「う~~ん……小梅さんを撃破するのも難しいね……」

 

 

「天パを撃破しようとすれば、こっちが撃つ前に銀髪が撃ってくっからなぁ……正直ウザってぇ!

 

 てか、此のままだとジリ貧だろ?如何すんだよみほ!!」

 

 

 

しかし其れも、小梅を攻撃しようとした瞬間に、エリカからの攻撃が来るので難しい物となっていた。

 

エリカと小梅は、この2年間で、合宿の効果もあって急成長し、更には決勝戦前に、此れまでのみほの試合の映像を何度も見直し、徹底的にみほの事を研究して来たのだ――その成果が十二分に発揮され、みほを防戦一方の状態にしていたのだ。

 

 

 

その最中に、ツェスカのパンターが撃破されたアナウンスが入るが――

 

 

 

 

『すみません西住隊長、ツェスカは倒したんですけど、履帯を切られちゃいました――合流には、時間が掛かります。』

 

 

「……履帯を……分かった、決して焦らないでね梓ちゃん。」

 

 

『了解です!』

 

 

 

同時に梓から『履帯を切られた』との通信が入る。

 

ティーガーⅠの履帯は重く、ドレだけ急いで修復しようとも、修復には最低でも5分はかかる――寧ろ、5分ジャストで直す事が出来たら、褒章モノだろう。

 

 

とは言え、此れはみほにとっては有り難くない。

 

梓が合流してくれれば状況が好転すると考えていたみほにとって、梓との合流が遅れると言う事は、その分だけエリカと小梅の2人を相手にする時間が増えると言う事なのだから。

 

 

ライバル同士の戦いは、確かに楽しいが、己に勝るとも劣らない力を持った2人を同時に相手にすると言うのは、存外疲れる物であるが故にみほとしては、梓の合流が遅れると言うのは嬉しくない事だった。

 

 

 

「つぼみさん緊急回避!青子さん、装填速度を0.5秒上げて!ナオミさん、出来るだけ相手の足元を狙って!!」

 

 

「了解よみほさん!!」

 

 

「0.5秒か……少しきついがやってやらぁ!!」

 

 

「鋼鉄の虎の王の牙からは逃れられない――目標を狙い撃つわ!」

 

 

 

其れでも、次々と指示を飛ばして、1対2の状況であるにも拘らず、互角の戦いを展開する。――此れだけでも、西住みほと言う戦車乗りが現在の中学戦車道界隈で、ドレだけ特出しているのか分かるだろう。

 

 

しかし、エリカと小梅もまた現在の中学戦車道に於いてはみほに続く強者であり、中学戦車道のトップ3に名を連ねているのだ。

 

実力の差はコンビネーションで埋めると言わんばかりに、エリカと小梅は互いの長所を生かしたコンビネーションを持ってしてみほを攻め立てる――相手がみほでなければとっくに決着はついていただろう。

 

 

みほvsエリカ&小梅の戦いもまた、観客が手に汗握る展開となっていたのだが、此処で事態が動いた。

 

 

 

「取りました!!」

 

 

「しまった!!」

 

 

 

エリカからの攻撃を避けたみほの後に回り込む形で小梅のティーガーⅠが移動し、みほのティーガーⅡの後を取ったのだ。

 

如何に最強の攻防力を持つティーガーⅡと言えど、後面を88mmで撃たれては堪った物ではない――、喰らったら撃破は免れないのだ。

 

砲塔を回転しようにも、その時間すらない――急発進した所で、致命傷は免れない。

 

此処までかと、ティーガーⅡの搭乗員全員が思ったその時だった。

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

――ズドォォォォォォォン!!

 

 

 

「んな!?」

 

 

「梓ちゃん!!」

 

 

 

突如小梅のティーガーⅠに砲撃が撃ち込まれ、試合を決めるであろう一撃を放つのを止めた。

 

その砲撃を放ったのは、言うまでもなく梓の乗るティーガーⅠ!最速で履帯を修理し、全速力で駆けつけた結果、みほが撃破されるかも知れないギリギリのタイミングで戦線に加わったのだ。

 

 

そして、この砲撃で虚を突かれた小梅の一瞬の隙を突いてみほはその場から離脱!

 

当然小梅は離脱したみほを攻撃しようとするが、其れよりも早く梓のティーガーⅠが全速力での体当たりを食らわし小梅の攻撃を封じる。

 

 

此れだけの至近距離なのだから砲撃を撃ち込めばいいと思うだろうが、梓のティーガーⅠは、先程の砲撃で砲弾が尽きてしまい、体当たりで攻撃をするしか攻撃手段が残されていなかったのだ。

 

 

しかし、其の効果は覿面だ。

 

正面からぶつかったのならば兎も角、側面から押された小梅のティーガーⅠは殆ど抵抗する事は出来ず、梓のティーガーⅠにグングン押し込まれているのだ。

 

 

 

「此のまま押し込めぇ!!」

 

 

「砲塔を回して!撃てぇ!!」

 

 

 

そしてそのまま梓は小梅を花火店に押し込み、其れと同時に小梅のティーガーⅠから砲撃が放たれる!

 

が、その爆炎を受けた店内の花火は一斉に点火し――

 

 

 

――ドパパパパパパパパパパパパパパ!!

 

 

――ブシュオォォォォォォォォォォ!!

 

 

――シュゥゥゥゥ……ドパァァァァァン!!!

 

 

 

 

「「た~まや~~~……」」

 

 

 

手持ち花火、噴出花火、果ては打ち上げ花火まで炸裂して、お祭り顔負けの事態に――みほとエリカが、思わず花火お決まりのフレーズを口にしてしまったのも無理ないだろう。

 

 

 

 

『黒森峰ティーガーⅠ2号車、明光大ティーガーⅠ1号車行動不能!』

 

 

 

 

其れと同時に、梓と小梅の車輌が白旗判定となった事を示すアナウンスが入る。

 

弩派手な相討ちとなったが、両車輌の搭乗員は、全員が煤塗れになりながらも降車して来たので、取り敢えず無事なようであり、其れについては、みほもエリカも胸をなでおろす。

 

 

 

「何て無茶苦茶な……師が師なら、弟子も弟子ねみほ?」

 

 

「あははは……否定できないよエリカさん……」

 

 

 

だが此れで、決勝戦は、フラッグ車以外が全滅した上で、フラッグ車同士の一騎打ちと言う異例の事態になったのである。

 

 

一騎打ちとなればみほに分があると思うだろうが、みほ自身はそうは考えていなかった。

 

 

 

「(エリカさんにとってはこの状況は不利な筈だけど、不利な状況でこそ人は其の力を発揮する――私が菊代さんに初めて勝った時も、圧倒的に不利な状況からの逆転だったからね。

 

  確実に、エリカさんは此処で自分の殻を割って来る――!)」

 

 

 

この戦いでエリカが更に強くなると言う事を確信していたのだ。

 

 

 

「此れで残るは私達だけか……隊長車にしてフラッグ車の一騎打ち――勝たせて貰うわよみほ!」

 

 

 

其れを示すかのように、一騎打ちと言うシチュエーションになったにもかかわらず、エリカの顔には笑みが浮かんでいた――純粋な戦いを求める者が浮かべる獰猛な笑みが。

 

 

だが、其れを見てもみほは怯まない。

 

 

 

「私だって、負けませんよエリカさん!!」

 

 

 

怯まない所か、エリカに勝るとも劣らない獰猛な笑みを浮かべてエリカと対峙する。

 

第61回中学戦車道全国大会の決勝戦は、異例の残存車輌がフラッグ車のみでの一騎打ちと言う事態になっていたが、其れは同時にみほとエリカの完全決着戦でもあった。

 

 

 

「行くわよみほ!!」

 

 

「行くよエリカさん!!」

 

 

 

隻腕の軍神が軍刀を抜き、黒き森に生きる銀狼がその牙を剥く――隻腕の軍神と、シュバルツバルトの銀狼の文字通りの一騎打ちの火蓋が切って落とされた。

 

 

今此処に、決勝戦の最終幕の幕が上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 


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