ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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練習試合でも全力で行くのが基本だよ!Byみほ      戦車道に手加減は不要って事よね?Byエリカ     全力じゃないとおもしろくありませんしね♪By小梅


Panzer80『VS継続戦、練習試合決着です!』

 

Side:みほ

 

 

 

可能性の一つとして考えてはいたけど、実際にミカさんが別動隊として仕掛けて来たって言うのには驚いたよ――しかもあろう事か、戦車の性能でも、数でも劣る編成で来たんだからね。

 

 

其れだけでも驚きなのに、慢心していたとは言え、サトルさんのパンターを撃破した訳だから……やっぱりミカさんの戦車乗りとしての実力を侮る事は出来ないよ。

 

一昨年の中学大会では、梓ちゃんも苦戦させられた訳だし……流石は島田流の長女って感じかな?尤も、ミカさんには流派なんて、関係ないだろうけど。

 

 

 

 

「その辺は貴女に似てるわねみほ?

 

 戦車道の一大流派の娘でありながら、流派の型には捕らわれない……だけど、勝つのは私達の方でしょ、みほ?」

 

 

「愚問だねエリカさん……負ける心算は毛頭ないよ?――如何に相手が強くても、だからと言って絶対に勝つ事の出来ない相手は存在しないから。

 

 ここでミカさんを倒して、そして本隊の支援をしつつ継続の部隊を挟み撃ちにしてフラッグ車を討つ!其れに変わりはないよ。」

 

 

「なら、尚の事頑張らないとダメですね!!」

 

 

「寧ろ上等だ――継続の連中に、アタシ等が本気を出したらどうなるのかって言う事を、教えてやるのも一興だからな。」

 

 

 

 

其れはまた、何とも頼りになる事を言ってくれるね理子さん?

 

でも、其れを成す為には、先ずはミカさんを何とかしないとどうしようもない――さっきの通信から既に5分が経過してる……となれば、そろそろ継続の部隊が此処に差し掛かる事になるからね……その前に、ミカさんを倒さないと継続の部隊を挟み撃ちにする事は出来なくなる。

 

 

だから貴女の事は、何が何でも速攻で倒させて貰いますよ、ミカさん!

 

 

 

 

「其れは楽しみだが……君達の戦車乗りとしての力がドレだけのモノか、楽しませて貰おうかな?――丁度、良い風も吹いて来たからね……」

 

 

「その風は、台風かも知れないのでに流されないようにしてくださいよミカさん?――風って言うのは、割と気紛れな物なんですから……!!」

 

 

さぁ、再戦と行きましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer80

 

『VS継続戦、練習試合決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

みほ率いる遊撃隊の残存戦力が、パンターが2輌に、ティーガーⅠとヤークトパンターが1輌の計4輌なのに対し、ミカ率いる別動隊の残存戦力はミカの乗るBT-42とⅣ号戦車J型が1輌ずつと言う物であり、数でも戦車の性能でもみほ達の方が圧倒的に有利なのは誰の目にも明らかだろう。

 

 

実際に、この練習試合を観戦していた人々も、ミカ率いる別動隊はパンターを1輌撃破したモノの、それから後は瞬殺されるだろうと思っていたに違いない――其れこそ、目の肥えた戦車道ファンでも、そう考えた筈だ。

 

 

 

「コンのぉ、ちょこまかと……そんなバランスの悪い戦車で、よくそれだけ動けるモノだと逆に感心するわ!!」

 

 

 

だが、実際にはそうならず、ミカの別動隊はみほ率いる遊撃隊の進軍を完全に抑え込んでいた。

 

付かず離れずの距離を保ちながら、『ギリギリ当たらない』ように動き回り先に進ませず、その時々で砲撃も行い、Ⅳ号もソコソコある機動力を生かして攻撃を仕掛ける。

 

とは言え、Ⅳ号J型の長砲身75mmでは至近距離でないとパンターやティーガーの装甲は抜けないし、BT-42は114mm砲を搭載しているモノの、短砲身である事と、使用砲弾の性質のせいで100mmの装甲を貫通するのも難しいので決定打にはなり得ない。

 

が、ミカの目的は遊撃隊の撃破ではなく足止めなので、決定打にならなくとも、此の場所に釘付けにする事が出来れば良いのだ――最低でも継続の本隊が、この高台の下を完全に通過するまでは。

 

 

とは言え、ミカが本気を出していない訳ではない。

 

ギリギリの間合いで放たれる砲撃は、可成り高い確率で、パンター、ティーガーⅠ、ヤークトパンター夫々の最も装甲の薄いウィークポイントを狙っているのだから。

 

其れでも撃破出来ないのは、相手がみほ率いる遊撃隊だからだろう。

 

 

みほの実力は今更疑いようもないが、エリカも去年の中学全国大会の決勝戦以降、急激に力を伸ばし、今やその力はみほに匹敵するレベルであり、小梅は此の2人には僅かに劣るモノの黒森峰1年のナンバー3なのは間違いないし、直下も此処の所急激に力を伸ばし、1年トップ3に肉薄する実力をつけてきているのだ。

 

そんな4人が集い、そしてみほの指揮の下で戦っている以上、そう簡単に撃破されはしない。

 

 

 

「そうはさせないわよ、ミカ!!」

 

 

「どうやら、さっきのパンターが特殊だったようだね?そう簡単に、遊撃隊の首は取らせてはくれないか……」

 

 

 

ミカがウィークポイントを狙って来た時には、必ず誰かがフォローして、撃破を防いでいるのだ。

 

そして、其れはみほの命令ではなく、夫々が己の考えで動いている結果であり、遊撃隊の車長達の判断能力の高さが伺える事だろう――とは言え、此のまま続けていても泥仕合になるばかりであり、此処での戦いが長引けば、継続に有利になるのは間違いない。

 

 

だからだろうか?此処で小梅と直下が仕掛けた。

 

 

 

「いい加減、大人しくしてください!!」

 

 

「履帯が切れる恐ろしさを、其の身で味わえ!!!」

 

 

 

小梅のパンターがⅣ号の履帯を斬り、直下のヤークトパンターがBT-42の履帯を斬る。

 

履帯を切られた戦車は動く事が出来ない故にⅣ号は直後にみほのパンターの砲撃を受けて沈黙し、同じく履帯を斬られたBT-42には、エリカのティーガーⅠの88mmが放たれる。

 

長砲身の88mmは、破壊力と実用性の両方を満たした戦車砲であり、大抵の戦車を撃破する事が出来る一撃だ――正面の装甲厚が15mmしかないBT-42が喰らったら撃破される事は間違いないだろう。

 

 

 

「天下のクリスティ式を、舐めんなよ!!」

 

 

 

だがしかし、砲撃が当たる直前にBT-42は急発進して砲撃から逃れる――履帯が切れてるにも関わらずにだ。

 

 

 

「履帯がないのに走るですって!?」

 

 

「BT-42は履帯が無くても走れるクリスティ式を採用してる戦車だったっけ……しかも、転輪走行時の方が機動力は上がる――BT-42相手に履帯を斬るのは、悪手だったかもね。」

 

 

 

そう、BT-42は履帯が切れても転輪で走行する事の出来る『クリスティ式』が採用されてる戦車であり、機動力の事を言うのなら、寧ろ履帯が無い方が向上する位なのだ。

 

 

実際に、履帯を斬られたBT-42は、その機動力を持って、これまで以上に動き回ってみほ達を足止めしている――其れこそ、一対四の状況をモノともしない位にだ。

 

 

このまま行けば、遊撃隊を足止めできると、ミカが思ったその時だった。

 

 

 

 

『隊長、継続の部隊が見えたよ。』

 

 

「本隊との通信から凡そ7分……少し遅れたけど、大体予定通りに現れたね。」

 

 

 

みほに継続の部隊を目視したとの報告が入る。

 

だが、其れは本隊からのモノではなく、そして今戦っている遊撃隊のメンバーからのモノでもない……では一体誰が、みほに此の通信を寄越したのだろうか?

 

 

 

「よく見ていてくれたね?助かったよサトルさん。」

 

 

『まぁ、先走ってしくじっちゃったからね?……罪滅ぼしに此れ位はね。』

 

 

 

その正体は、先走って撃破されてしまったサトルだった。

 

慢心して撃破されたサトルだが、其れが逆に彼女に冷静さを取り戻させ、己が何をすべきかを考えさせ、その考えた結果として、サトルは継続の部隊の動きを観察していたのだ。

 

 

戦車道の試合に於いて、白旗の上がった戦車は戦う事は出来ないが、逆に言うのならば撃破されたらそれ以上攻撃される事は無い上に、回収車が来るまでは、その場に留まる事が出来る――其のルールを最大限利用した頭脳プレイと言えるだろう。

 

そして、サトルが齎した情報は、遊撃隊にとっては有り難い事この上ないモノだ。

 

ミカ率いる別動隊と戦闘状態にあっては、どうしても継続の本隊の動きを掴むのは困難になって来る――下手をしたら、気付かぬ内に継続の本隊が、下を通過してしまったかもしれないだろう。

 

 

だが、ある意味で自由になったサトルのおかげで継続の動きを把握する事が出来た――ならば、みほの判断は一択だった。

 

 

 

「エリカさん、小梅さん、理子さんは継続の本隊を足止めして!ミカさんは、私が抑えるから!!」

 

 

「了解よみほ!……これ以上先には行かせないわ!絶対にね!!」

 

 

「お願い!それから、此れより一時、遊撃隊の指揮権をエリカさんに譲渡するから、頼んだよ副隊長?」

 

 

「任された。

 

 って言っても、私は貴女ほど『指揮官としては上手くない』から、出来るだけ早くミカを倒して指揮権を元に戻してよ?」

 

 

「うん、出来るだけ早く倒せるように頑張ってみるよ。」

 

 

 

自分がミカの相手をする事を決めると、エリカ、小梅、直下に対して、本隊の支援をするように指示を出し、更に自分がミカの相手をしている間の指揮権を、遊撃隊副隊長のエリカに譲渡。

 

この判断は自分の実力に自信があり、そしてエリカの実力を信じていなければ出来ない事だ。

 

そして指揮権を譲渡されたエリカもまた、『指揮官としてはみほ程上手くない』と言いながらも、其れを快諾したあたり、みほの信頼に応えようとする気持ちと、己の実力への自信があるのだろう。

 

 

 

「行くわよ小梅、直下!継続の連中を足止めするわ!」

 

 

「そして、隙を見て、裏から回り込んで挟み撃ちですね!!」

 

 

「いいねぇ、燃えて来たぁ!!1年だからって、遊撃隊を舐めるなよ!!」

 

 

 

「一騎打ちかい?……望む所だよみほさん。」

 

 

「一騎打ちで抑え込まないと、私達の方が引っ掻き回されてしまいそうですからね……何より、遊撃隊の初対外試合は白星で飾りたいので!」

 

 

 

そして、エリカ、小梅、直下の戦車は高台からの砲撃を始めて継続の部隊を足止めし始め、みほはミカとの一騎打ちに突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、この攻撃に驚いたのは、継続の隊長であるトウコだ。

 

ミカがみほの部隊を抑え込むと言っていたからこそ、安心して黒森峰から距離を取り、そしてキルゾーンへと誘導しようとしていた矢先に上からの砲撃が来れば、其れは驚くだろう。

 

 

 

「(砲撃~~!?ななな、何で砲撃が?

 

  まさか、ミカがやられたって?……いんや、其れはかな~り考え辛いし――高台に居る戦車は3輌って事を考えると、1輌は撃破したモノのお供のⅣ号はやられて、今は1輌と一騎打ちって所かいな?

 

  状況としては、かな~~り拙いんだけど……でも、こう言う所からの逆転てのが楽しいんだわな。)

 

 フヒヒヒ、ミカが行っても抑えきる事が出来ないとは、向こうの遊撃隊ってのは本当に優秀なもんだね~?羨ましい位さね。

 

 しかも、たった3輌ながら、砲撃のタイミングを絶妙にずらす事で、ほぼ連射に近い砲撃をしてると来たもんだ――此のままだと足止めされて、更に黒森峰の本隊に追い付かれてジリ貧て所なんだけど……そ~簡単には行かないんだよね~此れが。」

 

 

 

しかし、驚きながらもすぐさま思考の修正が出来るのがトウコの凄い所と言えるだろう。

 

即座に状況がどうなっているかを予測し、可成り拙い状況であると認識しながらも、其処からの逆転劇が楽しいと考えているのだ――或は、この思考の切り替えの速さが、彼女をトリックスターとさせているのかも知れない。

 

 

 

「下から上の戦車を撃破するのは難しいけど、足場を崩すのなら難しくないからね?

 

 遊撃隊の皆さんの足元を崩してやんな~~?流石に、足元を崩されたら高台の上からの砲撃だって難しくなるだろうし、後退してくれればその分だけ、こっちは黒森峰の本隊を誘導出来っからね~~?」

 

 

 

その上で考えた戦術は、先ずは高台からの砲撃を行っている戦車の足元を崩す事だ。

 

単純な事ではあるが、状況を考えれば最も理に適った方法だろう――足元を崩されてしまったら、砲撃を続行するよりもまず、体勢を立て直す事が先決となる為、攻撃の手を強制的に止める事が出来るのだから。

 

同時に、攻撃が止まれば自分達は目的地に向けて動き出す事が出来る。動く事さえできれば、黒森峰の本隊に追い付かれようとも、なんら問題ないのである。

 

 

 

 

そう、攻撃の手が止まった後だったならば。

 

 

 

 

「履帯を斬ってから撤退するとは……私の妹も良くやるから、姑息等と言う気はないが、其れで私達の進軍を止める事が出来ると思ったら大間違いだぞトウコ!!」

 

 

「げぇ!?もう追い付いてきた!?」

 

 

 

継続が遊撃隊の足場を崩しにかかるよりも早く、まほ率いる黒森峰の本隊が継続の部隊に追い付いてしまったのだ。

 

此れはトウコにとっては予想外。少なくとも、重戦車の履帯を直すのにはもっと時間が掛かる筈だと考えていたのだから当然だが……此処に、トウコの誤算があった。

 

ドイツ戦車は足回りが弱いくせに履帯が重いと言う弱点がある故に、黒森峰の機甲科に於いては、履帯の修理もまた必須能力として1年の頃から徹底的に鍛えられるのだ。

 

そのお陰で、履帯の修理に関しては、機甲科の生徒は整備科の生徒以上に速く正確に行う事が出来る――ヤークトティーガーやマウスの様な化け物戦車の履帯でなければ、大体5分もあれば修理できてしまうのである。

 

 

そしてその修理のスピードがトウコの誤算だったのだ。

 

 

 

「なんちゅー修復速度……だ・け・ど、逃げ切る!高台に向かって攻撃ぃ!!」

 

 

 

其れでもトウコは慌てずに、高台への攻撃を敢行!と、同時に、黒森峰の本隊に向けても牽制攻撃を行って、少しでも進軍を止めようとする。

 

黒森峰の戦車の性能を考えれば、牽制攻撃はあまり意味を成さないかも知れないが、其れでも無いよりはマシなのだろう――実際に、牽制していた事で、足元崩しは巧く行ったのだから。

 

 

 

「よっしゃ~~、今の内に駆け抜けろ~~!!」

 

 

「逃がすか。(キルゾーンに誘い込む心算だろうが、そうはさせん……みほ達がそうさせない。)」

 

 

 

その隙を突いて継続の部隊は前進し、黒森峰は其れを追いかける。

 

そしてまほは、トウコが自分達をキルゾーンに誘導しようとしていると言う事を見切りつつも、敢えてそれに乗る形を取り、遊撃隊が其れを喰い止めると信じていた。

 

 

 

 

その遊撃隊で継続の部隊の足止めを任されたエリカ達は、足場を崩された事で高台の際から後退する事を余儀なくされていた。

 

此のまま並走して前に出て、再び足止めと言う事が出来なくはないが、それではまた足元を崩されて同じ事の繰り返しになり、何れは継続が、黒森峰をキルゾーンに誘い出してしまうだろう。

 

其れをさせない為には、一刻も早く挟み撃ちにするしかないが、だからと言って大きく回り込んでいる時間はない。

 

 

 

「此れは、此のままじゃ拙いですね?継続をこのまま進行させたら、間違いなくキルゾーンに……」

 

 

「いっそ、此処からフラッグ車狙うか?撃破するのは難しいかもだけど。」

 

 

「……えぇ、確かに不味いわ。だから……此の斜面を滑り降りて、強引に継続を挟み撃ちにするわよ!!」

 

 

 

だが、その状況が、エリカにとんでもない判断をさせる事になった。

 

エリカが選んだ策は、なんと高台の急斜面を滑り降りて、継続の前に出て本隊と挟み撃ちにすると言う物だ――まぁ、この高台は以前は多くの木が茂っていた場所故に、斜面は可成り勾配がきつくても断崖絶壁ではないので、滑り降りる事は可能なのだが、普通ならこんな事は絶対に考えないだろう。

 

しかし、其れをアッサリ選択する辺り、エリカは確りとみほの影響を受けて居る様だ。

 

 

 

「此の斜面を滑り降りるって……クレイジーな事言ってくれるなぁ逸見?――だが、その策乗ったぁ!!」

 

 

「鵯越の逆落としの戦車版ですか?……良いですね、それで行きましょう!!」

 

 

「馬で崖を駆け降りるよりも、戦車で勾配のきつい斜面を滑り降りる方が遥かに安全よ――新制黒森峰の象徴である遊撃隊、その心意気のある奴は、私に続けぇ!!」

 

 

 

そして、その提案をあっさり受け入れる小梅と直下も大概だろう。

 

そのままエリカの号令で、ティーガーⅠ、パンター、ヤークトパンターの3輌は斜面を滑り降りて強引に継続の前に姿を現し、その侵攻を強制停止させる。

 

 

 

「悪いけど、アンタの首は此処で刈らせて貰うわよ、継続の隊長さん?」

 

 

「あの角度の斜面を滑り降りるって、正気かお前!?……とんでもないな、黒森峰は!!」

 

 

 

その無茶のお陰で進行を止められたトウコからしたら、此れは拙い事だろう――完全に前後の挟み撃ち状態になってしまったのだから。

 

目の前には一時的に指揮権を譲渡されたエリカが率いる遊撃隊、後にはまほが率いる本隊……今の継続は正に『前門の虎、後門の狼』所か『前門に虎を引き連れた狼、後門に豹と虎を引き連れた虎の長』と言った状況なのだから。

 

 

 

「だが、上等じゃないの?此れ位の逆境を跳ね返せなきゃ、大会では勝てないからね~~!」

 

 

 

其れでもトウコは諦める事はせずに、頭の中でありとあらゆる戦術と作戦を計算しながら、まほとエリカに戦いを挑み、その戦いは見事な戦車戦の様相を呈して来ていた。

 

 

戦車の性能で勝る黒森峰が継続の戦車を次々と撃破していく中で、トウコの乗る隊長車はギリギリで攻撃を躱して決定打を受けずに居て、隙があれば、まほが乗っているフラッグ車も狙っているのだから。

 

 

だが、この時は誰も気付いていなかった――エリカの目からハイライトが消え、瞳が極端に収縮していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、みほとミカの一騎打ちは、加熱の一歩を辿っていた。

 

カタログスペックでは、転輪走行時の最高が70kmを越えるBT-42が相手では、如何に攻守速に優れ、大戦期最強と謳われたパンターであっても、その動きを捉える事は難しい。

 

 

だが、同時にBT-42の主砲が大口径であるとは言え、至近距離からでないと100mm装甲を抜く事は出来ないのだ。

 

 

 

「やっぱり、君は素敵だねみほさん……君との戦いは、私の魂を熱く燃やしてくれる……此れは、島田流の訓練や、君以外の相手との試合では感じなかった感覚だ。

 

 君が吹かせる風を、もっと感じさせてくれみほさん。」

 

 

「勿論ですミカさん!――と、言いたい所なんですけど、これ以上私を釘付けにされては困りますからね?……だから、次で決めます!!」

 

 

 

其れでも両者がヒートアップしてるのは間違いないだろう――みほの目からはハイライトが消え、瞳孔が極端に収束した状態になっているのだから。

 

 

つまり、今のみほは去年のエリカとの決勝戦で至った究極の極限状態になっているのである。

 

そして、この状態になったみほに敵は無いと言っても過言ではないだろう――その証拠に、みほは砲撃を命じると同時に、砲撃と同時に急発進して、ミカのBT-42の横をすり抜け、そして電柱に向かって砲撃!!

 

 

此処は伐採が進んだ嘗ての杉山だが、太陽光発の為に太陽光パネルが設置されている場所だ。

 

そして太陽光パネルで発電した電気を送電する為の電線や、電柱は既に設置されていると言う場所なのだ此処は。

 

 

みほは、その電柱に砲撃を行って叩き折り、ミカの乗るBT-42の頭上に落としたのだ。

 

当然、此れはBT-42の車長であるミカが回避を命じるが、次々と倒れて来る電柱は躱しきれるものではなく、遂に完全回避出来ずに砲身が倒れた電柱に挟まれて身動きが取れなくなってしまう。

 

 

だが、此れはみほにとっての最大の好機だ。

 

 

 

「此れで終わりですね、ミカさん?」

 

 

「如何やら今回も、勝利の女神は私には微笑んでくれなかったらしいね?

 

 ……今回は、完敗だよみほさん……機会があれば、また戦ってくれるかい?」

 

 

「その時は喜んで。」

 

 

 

――ズガァァァァァァァン!!……キュポン!

 

 

 

 

『継続高校、BT-42行動不能。』

 

 

 

直後にミカの戦車は白旗判定となり、沈黙……そして、其れはみほが解き放たれた事の証だ。

 

 

 

 

「一気に行くよ?ヒカリさん、全速力で行って!!」

 

 

「あいさーーー!任せとけ妹様!!」

 

 

 

そこからみほは最大出力加速すると、一気に崖から飛び出して、継続の部隊に必殺の戦車プレスをお見舞いした上で2輌の戦車を撃破し、更に、操縦士であるヒカリが類稀な力を発揮し、隊長車の護衛を務めていた戦車部隊を鎧袖一触!!

 

 

 

「今です近坂先輩!!」

 

 

「ブチかませ、凛!!」

 

 

「天下の西住流に言われたら断れねーわ……此れで終いだ!!88mmの一撃で沈め、継続高校隊長、トウコ!!」

 

 

 

そしてその隙を逃さずに、凛の戦車が躍り出て、まるで流れるかのような動きでトウコの戦車を撃破――トウコの戦車はフラッグ車だったので、これで勝負ありだ。

 

中学時代に全試合でのフィニッシャーと言う前人未到の記録を打ち立てた凛の強さは健在だったようである。

 

 

 

『継続高校、フラッグ車走行不能――黒森峰女学園の勝利です。』

 

 

 

「あ~~負けたか~~……もうちょっと食い下がれるかとおもったけど、お宅の遊撃隊にやられたわ……完敗だったけど、楽しかったよ。

 

 西住姉妹が組んだら無敵と言う話は聞いていたけど、よもやこれ程とは思わなかった……だけど、大会で会ったら負けないわよまほ隊長!」

 

 

「ふ、其れを楽しみにしているぞ。――良い試合だったな。」

 

 

 

この練習試合の結果は黒森峰の勝利に終わったが、継続の隊長であるトウコと、BT-42の車長であるミカは最重要人物として各校からマークされる事になったのはまた別のと言う事にしておこう。(語られるかどうかは不明だが。)

 

 

ともあれ練習試合は黒森峰の勝利であり、遊撃隊の初対外試合も、白星で飾る事が出来たのだ――此れは、幸先の良いスタートだと言えだろう。

 

 

只一つだけ確実に言えるのは、『今年の黒森峰は、西住まほのワンマンチームではない』と言う印象は与える事が出来たと言う事だ。

 

それが、大会で大きな武器となるのは間違いないだろう――ワンマンチームではないと聞けば、どうしても周囲に目を回す時間が長くなり、注意が疎かになるから、其処に付け入る隙がある。

 

なんにせよ、新制黒森峰の初の対外試合は、みほ率いる遊撃隊がその能力を発揮して、勝利を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ、練習試合を勝利で飾って、今は港近くのお寿司屋さんなんだけど……流石に、100名超って言うのは無理があったのではないかと愚考する次第ですが、如何なのお姉ちゃん?

 

 

 

 

「2階席も使って居るから大丈夫だろ?――其れよりも、此処の寿司を味わえ。

 

 此れだけの上等な寿司は、中々食べられるものではないからね?……大将、この穴子は素晴らしいな?蒸し加減と言い、ツメの味と言い文句無しだ。

 

 お世辞抜きに、此れまで食べた穴子の握りの中で最高だと評価するよ。」

 

 

「ありがとうございます。

 

 天下の黒森峰さんが来るってんで、魚を厳選した甲斐が有ったってもんです。是非とも、心行くまで味わってください。」

 

 

「うん、そうさせて貰おう。」

 

 

 

 

……すっかり馴染んでるねお姉ちゃん?店の大将とのやり取りも様になってるしね。

 

でも、心行くまで味わってくれって言うなら、そうさせて貰うのが道理だから、お高い店だと思って抑えて来たけど、行くよエリカさん、小梅さん、理子さん!!

 

 

 

「「「「リミッター解除!!!」」」」

 

 

 

と言う訳で、美味しいお寿司をお腹いっぱい頂きました。

 

因みに、ミカさんがさらっと加わってたけど、其れについてあれこれ言うのは野暮って言う物なんだろうね?――お姉ちゃんも、気付いて居ながらも、ミカさんの分も払ってたからね。

 

 

何にしても、遊撃隊の初の対外試合を白星で飾る事が出来たのは、最高の結果だったね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 


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