ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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1回戦でも本気で行くよ!Byみほ     其れ位は当然でしょ?Byエリカ     本気で勝ちに行きましょう!By小梅


Panzer86『黒森峰vs聖グロは此れでも1回戦です』

Side:まほ

 

 

 

会敵してから10分経つが、未だに黒森峰も聖グロも、1輌も撃破されていないとは……完全に攻める黒森峰と、守る聖グロだな。

 

障害物を巧く使って隠れてくれる上に、装甲が厚いせいで有効打を与える事は出来ないが、逆に聖グロは主砲の威力が足りなくて、黒森峰の戦車を撃破することが出来ない……互いに、別行動をしている3輌の戦車がどうなるかで状況は変わるか……

 

 

しかし、聖グロがシークレット枠を使ってクルセイダーを使って来たのには純粋に驚いたぞアールグレイ?――聖グロには、苔むした様なOG会の派閥と言うものが存在してる故に、使用車両はチャーチルかマチルダだと思ってたからね。

 

どうやってOG会を黙らせたかは知らないが、随分と思いきった事をしたモノだな?――尤も、そのお陰で去年の準決勝よりも楽しい戦いが出来るのは間違いないのだが。

 

 

 

 

「戦車道とは、互いに持てる力の全てを出して戦う武道……でも、勝利以前に勝負を楽しまなければ本末転倒でしょうまほ?

 

 聖グロリアーナの戦車道は、いつ如何なる時でも優雅である事が身上だけど、だからと言って優雅である事が第一じゃない……エレガントでありながら勝利してこそなの。

 

 だけど、OG会の小母さま達は下らない派閥争いをしてたから、私が隊長権限を発動してクルセイダーの運用に踏み切ったのよ。

 

 ――尤も、ローズヒップとルクリリの可能性、そして聖グロにとってクルセイダーは絶対に必要になると言っていたのはダージリンだったけど。」

 

 

「成程、ダージリンは先を見通していたと言う事か。」

 

 

尤も、後輩の進言を即座に受け止めるお前も大概だと思うぞアールグレイ?

 

普通はその意見を持ち帰って検討する所だが、お前はダージリンの提案をその場で受け入れたのだろう?……だからこそ、黒森峰の本隊と、聖グロの本隊が真正面から遣り合う展開になっているのだからね。

 

 

恐らくはダージリンはみほと交戦中なんだろうな……だが、みほは負けんぞアールグレイ!!

 

 

 

 

「大した自身ねまほ……如何してそう言いきれるの?」

 

 

「みほを甘く見るなよアールグレイ?

 

 みほは戦車道に於いて天才的な力を発揮する――こう言っては何だが、私とみほが同じ戦車に乗ってタイマンしたら、10回戦って9回は負けるだろうな……其れ程にみほは強いんだ。」

 

 

加えて其処にエリカと小梅が加わるのだから、正に隙なしだ。――そしてあの3人ならば、早々撃破される事も無いだろうからね。

 

とは言え、遊撃隊と別動隊の戦いばかりが注目されても面白くないのでな……私達は私達で派手に行こうかアールグレイ?

 

……私を楽しませてくれるのだろう?――持てる力の全てを掛けてかかって来い!私の戦車道が其れを粉砕する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer86

 

『黒森峰vs聖グロは此れでも1回戦です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

エリカさんがダージリンさんを(二流悪役全開の)挑発してくれたおかげで、チャーチルとクルセイダーを分断する事が出来た……ダージリンさんはエリカさんを倒す事に躍起になってるから、お陰で私と小梅さんは、目の前の2輌のクルセイダーに集中する事が出来るよ。

 

何よりも私の相手のクルセイダーの車長兼操縦士は、つぼみさん――改め、ローズヒップさんだったんだから!

 

こう言ったらアレだけど……中学時代の頼れる仲間が、今度は強敵として現れるって言うのは燃えて来るよね?

 

 

 

 

「マッタク持ってその通りでごぜーますわみほさん!!いざ、尋常に勝負ですのよ!!」

 

 

「勿論、全力で行くよローズヒップさん!」

 

 

この別動隊の要は、ローズヒップさんのクルセイダーだろうからね……逆に言うなら、その要を壊してしまえば、恐れるモノは何もなくなるって言う事だよね?――だから、全力で撃破させて貰うから!!

 

 

尤も、ローズヒップさんの操縦の腕前は凄まじいから、簡単に撃破させてはくれないだろうけどね。――遊撃隊隊長、西住みほ、行きます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

 

ドイツの誇る最強中戦車であるパンターG型と、イギリス生まれの快速の巡航戦車クルセイダーMk.Ⅲのエンジンが唸りを上げると同時に、みほとローズヒップの戦いが幕を上げた。

 

戦車の性能差で言えば、クルセイダーの主砲ではパンターの装甲を抜く事は難しいが、パンターの主砲ならばクルセイダーの何処に当てても撃破する事が出来るのだからみほが絶対有利と言えるのだが……

 

 

 

「オーッホッホ!!聖グロ一の俊足を捉える事は出来ませんのよ!!」

 

 

「うげっ!何つー変態軌道をするんだあのクルセイダーは……妹様の嘗てのお仲間はバケモンか!?

 

 ってか、何であんな無茶な動きをして履帯が切れないんだろうか?」

 

 

「多分、ローズヒップさんが任されたクルセイダーは、レギュレーションギリギリまで足回りが強化されてるんだろうね。多分エンジンも。

 

 如何に快速が自慢のクルセイダーだからって、あんな無茶な動きを連発してたらエンジンと足回りが悲鳴を上げる筈だから。」

 

 

 

ローズヒップのクルセイダーは凄まじい機動力を駆使して、パンターからの攻撃を悉く、まるで軽業師が飛び回るかの如き動きで躱しに躱していたのだ。

 

みほは中学時代にローズヒップと共に戦っていたので、ローズヒップの操縦士としての腕前は知っているが、其れを知らない者達からしたら、クルセイダーの変態的とも言える動きに驚くのは無理もないだろう。

 

 

 

「(ローズヒップさん、中学の時よりも操縦の腕前が上がってるなぁ?

 

  幾らクルセイダーじゃパンターを倒すのは難しいって言っても、こうも尽く避けられたんじゃ、無駄弾を撃つ事になっちゃうから……此処は攻め方を変えた方が良いね。)

 

 ヒカリさん方向転換してくれる?此のままじゃ無駄弾を撃つ事になるから、別の手で行こうと思うんだ。」

 

 

「敵に背を向けるって本気か妹様?――そんな事したら隊長や師範やOG会に怒られるんじゃ……『王者らしくない!』『西住流に撤退の文字はない』って。」

 

 

「其れは大丈夫。西住流に於いて敵前逃亡は御法度だけど、勝つための戦略的撤退は全然OKだから。

 

 其れに隊長であるお姉ちゃんと、師範であるお母さんが咎めないなら、OG会が強く出る事は出来ないと思うし――勝てば文句は言わないと思うからね。」

 

 

 

そして、みほ自身もローズヒップの操縦の腕が上がっている事を認識し、同時に『此のまま戦っても無駄に砲弾を消費する事になる』と考え、次の一手を打つ。

 

操縦士であるヒカリに方向転換を命じると、180度向きを変えて、クルセイダーの前から走り去ろうとする。

 

敵戦車からの撤退とも取れるこの行動は、まほやしほは兎も角、ヒカリの言うように黒森峰のOG会は煩く口を出してくる可能性はあるかもしれないが、結果的に勝てば問題ないとみほは考えていた。

 

黒森峰のOG会は勝利至上主義に染まっている故に、勝てば官軍負ければ戦犯であり、勝ちさえすれば戦術に彼是言ってくる事は無いのだ。

 

 

其れに、この撤退はみほの作戦でもある。

 

 

 

「逃げますの?逃がしませんわ!リミッター外しちゃいますのよ!!」

 

 

 

撤退するパンターを見たローズヒップは、変態軌道を止めて撤退するパンターを追いかけて来た――通常ならば最高速度はパンターの方が上だが、リミッターを解除したクルセイダーならばパンターを上回る事が出来る。

 

逃げるパンターを追うために、ローズヒップはクルセイダーをリミッター解除し、その機動力をマックスまで引き上げる!

 

 

 

「やっぱり乗って来たねローズヒップさん。」

 

 

 

だが、此れこそがみほの狙いだった。

 

みほはローズヒップの性格から、自分達が撤退行動を始めれば、必ず追いかけて来ると考え、彼女を誘い出す為に撤退行動をとったのだ――そして、其れは大当たりだ。

 

みほの読み通りにローズヒップはクルセイダーのリミッターを解除して追いかけて来たのだから。

 

 

 

「京子さん、撃って!!」

 

 

「任せて!喰らえ!!」

 

 

 

「当たりませんわ!反撃ですのよ!!」

 

 

「お任せをローズヒップさん。」

 

 

 

そしてこの追いかけっこの間にも戦闘は行われている。

 

パンターもクルセイダーも互いに行間射撃を行い、相手を撃破せんとするが、パンターの砲撃は躱され、クルセイダーの砲撃は弾かれると、どちらの攻撃も決定打にはなっていない。

 

 

が、其れはみほの予想の範疇だ。――みほの狙いは追いかけっこの間にローズヒップのクルセイダーを撃破する事ではない。

 

この追いかけっこもみほのシナリオの一つに過ぎないのだ……そう、ローズヒップのクルセイダーを『確実』に撃破する為の一手でしかないのである。

 

 

 

「くっそー!やっぱりパンターは堅いですわねぇ!

 

 中学の頃は頼もしい仲間でしたけれど、敵に回すと此処まで厄介だとは思っても居ませんでしたわ!!でも、負けませんわよ!!」

 

 

 

砲撃は命中しているのに撃破判定にならないパンターに、ローズヒップは歯噛みする……確かに命中しているのに撃破出来ないとなれば、ストレスも溜まるだろう。

 

ローズヒップの場合は、操縦士でありながら車長である為、操縦と指示を同時に行わなければならない為に負担も大きい故に余計に撃破出来無いストレスは蓄積するだろう。

 

或いは、みほはそれすらも織り込んでいたのかも知れない。

 

 

 

「見えて来た……ヒカリさん!!」

 

 

「アイサー!」

 

 

「此処で急旋回ですの!?ま、曲がり切れませんのわわわわわわわわわ~~~~~!?」

 

 

 

しかし、この追いかけっこは唐突に終わりを迎える事になる。

 

バンカーを目前にしてパンターがドリフト張りの急旋回を行い、軌道を大きく変えたのだ。無論、ローズヒップのクルセイダーも其れを追いかけようとするが、パンター以上の速度で走っていたクルセイダーは完全に方向転換する事は出来ず、横滑りを起こしてバンカーに落下!

 

 

此れだけでも大成功だが……

 

 

 

「みほさん?」

 

 

「小梅さんもこっちに来てたんだ?」

 

 

 

もう1輌のクルセイダーとやり合っていた小梅がこの場に居た――奇しくも、クルセイダーの動きに苦戦していた小梅は、みほ同様、クルセイダーをバンカーに誘導していたのだ。

 

小梅の方も策が巧く嵌り、ゴルフ場のバンカーにはクルセイダーが2輌嵌った状態となったと言う訳だ。

 

 

 

「ぐぬぬ……やりますわねみほさん!でも、この程度で聖グロ一の俊足は……止まりませんのよーーーー!って、あら?」

 

 

 

無論そのまま的になる心算などなく、2輌のクルセイダーはバンカーから脱出しようとするが、出る事が出来ない。

 

頑張って登ろうとしても、履帯が空転してしまい巧く動く事が出来ないのだ。

 

これこそが、みほと小梅の狙いだった。

 

クルセイダーは開けた場所ではその快速を発揮するが、逆に入り組んだ地形や窪地では其の力を発揮する事が出来ない。

 

もっと言うのならば如何にレギュレーションギリギリの改造を施したとは言っても、元々の機関系の問題点を完全に解消する事は出来ず、また、機動力はあっても馬力に欠けるエンジンのせいで鋭角なバンカーの壁を上がる事が出来ないのだ。

 

 

 

「……若しかして私達、やっちまいましたのバニラ?」

 

 

「盛大にやらかしてしまいましたわローズヒップさん……」

 

 

「うん、盛大にやっちまいましたねローズヒップさん?」

 

 

「操縦士としての腕前は超一流でも、車長としてはまだまだでしたね?」

 

 

 

こうなってはクルセイダーは如何する事も出来ない。

 

快速が売りの巡航戦車もバンカーに嵌って動きを止められては只の的であり、同時にパンターの砲撃に耐えられるほどの装甲がある訳でもないのだから。

 

 

 

「くぬぅ……此れは、帰ったらアールグレイ様やダージリン様から車長としての彼是をご教授願わねーとですわ!!

 

 次に戦う時は負けませんのよみほさん!!それから、小梅さんも!!」

 

 

「隻腕の軍神だけでなく、貴女も見事でしたわ赤星小梅さん……ですが次に戦う時は……!」

 

 

「うん、次に戦う時を楽しみにしてるよ♪」

 

 

「ですが、今回は私達の勝ちです。」

 

 

 

「「Feuer!!(撃て!!)」」

 

 

 

――ドゴォォォォォォォン!!

 

 

――キュポン×2

 

 

 

動けぬ的となったクルセイダーに、パンターの砲撃が炸裂し、2輌のクルセイダーは敢え無く白旗を上げる。

 

機動力で掻き乱しに来たクルセイダーだったが、みほと小梅の巧さが快速を潰しての見事な勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻り、みほと小梅が2輌のクルセイダーと交戦を開始したころ。

 

ダージリンの乗るチャーチルをクルセイダーから分断する事に成功したエリカは……

 

 

 

「そう言えば姉さんから聞いたんだけど、貴女って本物のイギリス人もビックリのバカ舌ってホントなの?

 

 姉さんから聞いた話だと、カップに最高級のアールグレイとリプト○のアールグレイストレートティーを入れて『効き茶』させてみたら、正解はしたけどかなり悩んでたって聞いたんだけど?」

 

 

「最近のペットボトルの紅茶は可成りレベルが高いのですわ!!」

 

 

 

相変わらずダージリンを煽っていた。寧ろ弄り倒していた。

 

勿論この間も戦車戦は行われ、チャーチルの砲撃がティーガーⅠに放たれるのだが、チャーチルの主砲では高威力の徹甲弾を500m以内の距離から放っても75mmの装甲までしか抜けない。

 

つまり正面装甲厚100mmを誇るティーガーⅠに『食事の角度』を取られてしまっては如何足掻いても撃破出来ないのである。

 

その証拠に、彼是10発ほどの砲弾を喰らってるにも拘らず、エリカのティーガーⅠは殆ど無傷に近いのだから。

 

 

 

「効か~ぬ!効か~~ぬわ~~っはっは!!」

 

 

「本気で腹が立ちますわね……!」

 

 

 

序に言うと、エリカはチャーチルの攻撃を態と喰らっていた。

 

後面を曝さない限り撃破される事は無いから出来た事だが、敢えて攻撃を受けて其れを弾く事で『お前では私を倒す事は出来ない』と言う事を演出した上で、更に相手の神経を逆撫でするのだから見事なモノだろう。

 

 

 

「と言うか貴女本当にアールグレイ様の妹なのですか?あのお方の妹君にしては口が悪過ぎますわよ?」

 

 

「間違いなく妹よ?何なら出生届け見せようか?其れとも私と姉さんの髪の毛でDNA鑑定でもする?

 

 って言うか、その口振りだと姉さんはアールグレイとして聖グロでは猫被ってるみたいね?……こう言っちゃなんだけど、私の口の悪さは姉さん譲りだからね。」

 

 

「そんな事を言って、其れもまた嘘なのでしょう?」

 

 

「ところがどっこい此れは本当の事なのよね。

 

 今でも忘れないわ、小学校の時に戦車道クラブの紅白戦で私にいちゃもん付けて来た6年生を、姉さんが罵詈雑言の雨霰で叩きのめした時の事を……放送禁止用語上等だったわあれは。」

 

 

「ま、まさかそんな……!」

 

 

「まぁ、今のは実際にあった事を私が話を120%ほど盛ったモノなんだけどね?」

 

 

「其れは殆ど捏造じゃありませんの!?」

 

 

「捏造だなんて人聞きの悪い……事実を基にしたフィクションよ。」

 

 

「逆に悪いですわ!!!」

 

 

 

一応言っておくが、此れでも戦車道の試合である。

 

会話だけを聞いてると、非常に下らない口喧嘩にも思えるが、此れでも全国大会における絶対王者黒森峰と伝統ある強豪校聖グロリアーナの公式試合なのだ。

 

 

だが、エリカとて分断してからも無駄に挑発を繰り返していた訳ではない。

 

ダージリンを自分にクギ付けにする事で、分断されたクルセイダーの援護に向かう事を阻止する事が目的だったのだ――みほと小梅がクルセイダーを撃破するまで。

 

 

 

「ところで紅茶格言さん、一緒に居たクルセイダーは何処に行ったのかしらね?」

 

 

「え?ローズヒップ、バニラ!……しまった!!!」

 

 

 

そして気付いた時にはもう遅い。

 

 

 

 

『聖グロリアーナ、クルセイダー1号車、2号車、行動不能!』

 

 

 

 

ローズヒップとバニラが操るクルセイダー2輌が撃破されてしまったのだ。

 

当然この結果にダージリンは歯噛みする……エリカの挑発に乗ってしまった結果、シークレット設定をし、此の試合のキーマンになる筈だったクルセイダーを2輌とも失ってしまったのだから。

 

 

 

「此れが目的……おやりになりますわね?」

 

 

「言葉もまた兵法、覚えておくと良いんじゃない?

 

 何にしても此れで目的は果たしたから、私はみほと小梅と一緒に本隊に合流するわ。そう言う訳で、アディオース!!」

 

 

「に、逃がしませんわ!!」

 

 

「は~っはっは!アバヨとっつぁ~ん!」

 

 

 

そして最後の最後までエリカはダージリンを煽るのを忘れない。

 

何れにしても、このゴルフ場での攻防で黒森峰の遊撃隊がドレだけのモノかと言うのは観客と、そして偵察の為に試合を観戦しに来ていたライバル校には伝わっただろう。

 

特に、言葉巧みに聖グロの副隊長であるダージリンを手玉に取ったエリカの実力は高く評価される事になる筈だ。

 

 

 

「さてと……クルセイダーは片付けたみたいだから、このまま一気に畳み掛けるわよみほ、小梅!」

 

 

「勿論その心算だよエリカさん!」

 

 

「新生黒森峰の底力、味わって貰いましょう!」

 

 

 

そしてみほと小梅とエリカは合流すると、そのまま黒森峰の本隊と聖グロリアーナの本隊が交戦している場所を目指して邁進!!

 

3年連続で高校戦車道の準決勝を飾った、ある意味で黄金カードの黒森峰vs聖グロリアーナの戦いも、いよいよ佳境に入ってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰の遊撃隊が、聖グロリアーナの別動隊と交戦していた頃、本隊の戦いにも動きがあった。

 

 

 

「遮蔽物である茂みが邪魔か……ならば!

 

 ヤークトパンターに通達!此れより、ティーガーⅠが放った砲弾を狙うようにして主砲を放て!!」

 

 

『いぃ、其れはマジっすか!?』

 

 

「本気と書いてマジだ!拒否権は無い!!」

 

 

『ですよね~~!!』

 

 

 

茂みを利用しての強襲浸透戦術を見事に使ってくる聖グロリアーナに対し、まほは此処で西住流お得意の超攻撃的戦車道に打って出たのだ。

 

自車の放った砲撃を追って砲撃しろと言うのは可成りの無茶があるが、まほは出来ない事を命令はしない。

 

つまり、まほが命令した以上は、如何に難易度の高いモノであっても成功する確率が高いのだ。

 

 

そして、其れは今回も例外ではなく、ティーガーⅠの砲撃を追うように発射されたヤークトパンターの砲撃は、最初に放たれたティーガーⅠの砲弾が薙ぎ払った茂みを通過して、隠れていたマチルダにダイレクトアタック!

 

マチルダはチャーチルと比べれば防御力が劣るモノの正面も側面も75mmの装甲を纏っている堅牢さがあるが、そうであっても茂みと言う緩衝材が無い状態でヤークトパンターの88mmを喰らったら堪ったのモノではなく、敢え無く白旗判定に。

 

 

無論タダでやられる聖グロリアーナではなく、アールグレイの乗るチャーチルは、黒森峰のパンターを2輌撃破しているのだが、其れでも分が悪いのは否めないだろう。

 

何よりもクルセイダー2輌を失ったのは痛すぎる。

 

 

 

「遊撃隊、此れより本隊と共に行動を開始します!」

 

 

「さぁ、かかって来なさいお嬢様……狂犬の牙に喉元を噛み千切られる覚悟があるならね!!」

 

 

「軍神の軍刀と、狼の牙から逃れたからって安心は禁物ですよ?……その隙を、隼は目敏く狙ってるんですから。」

 

 

 

更に此処で遊撃隊が本体に合流し、聖グロリアーナの部隊を挟み撃ちする形になる。

 

こうなっては、地形を利用した防御型の布陣である強襲浸透戦術は意味を成さない……聖グロリアーナが伝統として来たこの戦術は、あくまでも正面から挑んでくる相手だからこそ光るのだから。

 

 

 

「姉さん……そっちの副隊長さんなんだけど、もう少し精神を鍛えた方がいわよ?てか、私の挑発に乗るのはどうかと思うから。」

 

 

「エリカ……確かにアンタはダージリンにとっての天敵だったわね……アンタが遊撃隊の隊員だってのをもっと重く見とくべきだったわ……!!」

 

 

 

なので、挟撃を受けた聖グロリアーナの部隊は大混乱。

 

みほもエリカも小梅も、全速力で此処にやってきたため、最高速度で劣るチャーチルのダージリンは置き去りにして来たのだ――で、実の姉に対して、開口一番エリカがかます。

 

其れにアールグレイは一瞬頭を悩ませるが、即座に今が試合中だと言う事を思い出し、エリカを睨みつける。――余りの鋭さに、エリカは少しばかり怯むが、しかし退きはしない。

 

 

 

「そして其れだけじゃないわ姉さん……此の試合、貴女の首は私が取る!」

 

 

「上等じゃない……やってみなさいエリカ!」

 

 

 

己の手でフラッグ車を狩ると言ったエリカに対して、アールグレイもまた挑発的に返し、そのまま姉妹対決に発展!!

 

放たれたチャーチルの砲撃を避けて、ティーガーⅠの主砲が火を吐くが、其れでもチャーチルの正面装甲を抜く事は出来ない――否、出来なくはないが、可成り難しいだろう。

 

 

逆に言うなら、チャーチルも威力不足でティーガーⅠを撃破出来ないでいる……このまま行けば泥仕合は避けられないが……

 

 

 

 

「後ろがガラ空きです!」

 

 

「油断大敵ですよ!!」

 

 

「此れで、終わりにするわ。」

 

 

「何時の間に!!!!」

 

 

 

何度目かのエリカ車からの攻撃に耐えたチャーチルだが、移動した先でみほと小梅のパンター、そして鈴のティーガーⅠに包囲される形となっ

 

てしまった。

 

 

そして――

 

 

 

「……Zu toten!(殺れ!)」

 

 

「「「「Jawohl!(了解!)」」」」

 

 

 

まほの号令の下、2体の鋼鉄の豹と、2体の鋼鉄の虎から必殺の砲撃が火を噴き、其れは寸分違わずアールグレイのマチルダに着弾し――

 

 

 

 

――キュポン!

 

 

 

 

『聖グロリアーナ、フラッグ車行動不能!黒森峰女学園の勝利です!!』

 

 

 

アールグレイが搭乗するチャーチル――フラッグ車撃破のアナウンスが入って試合終了。

 

高校戦車道全国大会に於いて黄金カードとも言われる黒森峰vs聖グロリアーナの試合は、絶対王者黒森峰が勝利をもぎ取る結果となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

 

ふぅ……先ずは1回戦突破だね。

 

今回は倒す事が出来たけど、ローズヒップさんが指揮官としての能力を開花させたら、聖グロのクルセイダー部隊は可成り厄介な相手になるのは間違いないか……まぁ、其れは追々対処していくとして、次はアンツィオ戦か……高校戦車道では毎年1回戦負けでも、隊長がお姉ちゃんを倒してた安斎さんである以上油断は禁物だよ。

 

 

可成りの激戦区だけど、其れを生き残らなきゃ全国制覇は出来ないからね。

 

 

 

――Pin!新規メールを受信しました。

 

 

 

 

っと、此処でメール?……送り主は……梓ちゃん!!

 

 

 

 

『1回戦突破おめでとうございます西住隊長もとい、西住先輩。

 

 明光大も全国大会の1回戦を難なく突破しました!!――今年も必ず優勝して見せます!楽しみにしていてください!』

 

 

「そっか、梓ちゃんも1回戦を突破したんだね……お見事だよ。」

 

 

そう言えばトーナメント表見たけど、黒森峰と当たるのは決勝戦だよね?

 

……ツェスカちゃんの能力を考えたら楽に行ける相手じゃないけれど其れでも付け入る隙はあると思うから諦めないで自分の戦車道を貫いてね?――送信っと。

 

 

 

『はい!!精進します!』

 

 

 

 

うん、良い答え!メールだけどね。

 

取り敢えず明光大の3連覇と、黒森峰の10連覇を阻む相手は誰であろうとも散らすだけかな?――1回戦で聖グロを撃破出来たのは僥倖だったけど大会は始まったばかりだからね。

 

 

取り敢えず、私も持てる全力を出すから、梓ちゃんも頑張ってね?――今年の中学大会の決勝戦日程と、高校の決勝戦の日程がずれてるお蔭で梓ちゃんの試合を見に行く来が出来るかもだからね。

 

 

いずれにせよ強敵だった聖グロと初戦で当たったのはある意味で幸運だったのかもしれないよ――尤も、此処から先に待ってる相手は1回戦の聖グロ以上なのは間違いないけどね。

 

初めての全国高校戦車道大会だけど、何とも楽しむ事が出来そうだよ♪――楽しんだ上で勝って得た優勝じゃなきゃ意味はないモン。

 

この大会は、中学の時とは比べ物に成らない位にドキドキワクワクしてるから、可成り楽しめると思うんだ……だから、次の2回戦も勝って勢いの波に乗らないとだよね、エリカさん、小梅さん。

 

 

 

 

「それ以外に何があんの?」

 

 

「誰が相手でも全力で行く、其れだけですから♪」

 

 

「だよね♪」

 

 

目指すは10連覇只一つ!その栄光に向かってぱんつぁーふぉ~~!だね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 




キャラクター補足




・アールグレイ

聖グロリアーナ戦車チーム隊長。聖グロリアーナの隊長を務める少女であり、エリカの実の姉。

綺麗なプラチナブロンドの髪は染めているのではなく、エリカの銀髪と同様に天然もの。

指揮官としての能力が高いほか、聖グロリアーナの改革を推し進めるなど、歴代の隊長と比べるとアグレッシブな部分が目立つ。

エリカとの姉妹中は良好で、偶に実家に帰省に一緒に帰省した際には、よく構っているらしい。


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