ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~   作:吉良/飛鳥

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仲間の命も、勝利も、私は両方手にする!Byみほ     両方を手にしてこそよね!Byエリカ     一方だけでは満足できませんから!By小梅


Panzer95『This is The Final Battleです!』

Side:みほ

 

 

決勝戦の試合中に、突然降り出した雨は豪雨となって会場を襲い、現在試合は中断中。

試合が中断して彼是30分ほど経つけど、雨が止む気配は一向に無い……少し勢いが弱まって来てるみたいだけど、最悪の場合は試合が中止になって、後日再試合って事になるかも知れないね?

 

私としては安全な状況で試合をしたいから、此処で試合が強制的に終わりになっても良いんだけど、連盟が試合中止を決定する可能性っていうのは、可成り低いと思うんだよね。

 

 

 

「あ~~……その可能性は否定できないわみほ……正直、連盟の危機意識ってどうなってるのか疑いたくなる事があるわ。」

 

「確か一昨年でしたっけ?

 サンダースとプラウダの試合で、猛吹雪が発生したにもかかわらず、連盟は試合続行を決めましたからね……此の豪雨で試合が中止になるって言うのは期待できないと思いますよみほさん?」

 

「だよねぇ……」

 

其れなら其れで、1分でも早く雨が止んでほしいモノだよ……豪雨の中での試合なんて言うのは良いモノじゃないし、何よりも気が滅入って仕方ないからね。

 

 

 

「でも、晴れたら一気に攻勢をかけてプラウダを倒す心算なんでしょみほ?」

 

「勿論、言われずともその心算だよエリカさん?……プラウダの横っ腹を食い破って一気に攻め立てる!!」

 

「顔に似合わず、過激ですねぇみほさん?……まぁ、私もエリカさんも其れに惹かれた訳ですから何も言えませんが……なら、試合が再開されたら、一気に行きましょう、みほさん!!」

 

 

 

うん!!

まぁ、其れは此の雨が無事に上がってくれたらの話だけどね。

 

――だけどこの大雨と、お御籤の『水難の相』……何か、嫌な予感がするなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer95

『This is The Final Battleです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、雨が降り始めてから1時間……漸く雨が上がって青空が見えて来たよ。

雨が降ってる間も、運営本部から『試合中止』のアナウンスが流れなかったから、試合は続行なんだろうけど……隊長、停戦状態は解除されたんでしょうか?

 

 

 

『みほか?あぁ、今し方、停戦状態は解除された。

 つまり此処から試合再開だ……今のゲリラ豪雨でフィールドは更に黒森峰に不利になったが、だからと言って負けて良い理由にはならん。

 勝利を捥ぎ取りに行く。遊撃隊の働きに期待するぞ?』

 

「了解しました隊長。その期待には応えて見せます。」

 

確かに今の大雨でフィールド状態は、悪いを通り越して最悪って言える状態……私達が今いる場所は、岩と草原のフィールドだから兎も角として、本隊が進行してるのは、予定通りなら荒野だから可成りぬかるんでる筈だからね?

これは、1秒でも早くプラウダの本隊を強襲して、市街地に誘導しないとヤバいかも。

 

 

 

「みほの言う通りかもしれないわね~?

 プラウダの別動隊をパーフェクト勝利して、車輌数では有利になったとは言え、フィールドアドバンテージはプラウダの方にある訳だからな?

 逆に市街地戦に持ち込めばフィールドアドバンテージは黒森峰――って言うかみほに有るからね?」

 

「何言ってんのよ直下?

 フィールドアドバンテージがみほに有るですって?……違うわ、市街地はみほが有利なんじゃなくて、みほのフィールドなのよ!!」

 

「恐らく、市街地戦オンリーで試合をしたら、大学生や、下手したら社会人チームや海外のプロでも、みほさんに勝つ事は出来ないんじゃ……」

 

「えぇ?流石に其れは言い過ぎだよ小梅さん!?」

 

「いいえ、これは小梅が正しいわね。

 市街地戦でのみほは、ハッキリ言って『隻腕の狂戦士』って言っても過言じゃないし。……ぶっちゃけ、市街地戦で繰り出されるであろう戦術をドレだけ予測しても、その予測の斜め上を普通に選択してくる相手に如何しろってのよ!!」

 

「いや、そう言われても困るよエリカさん?」

 

まぁ、車長専任免許を取る為に勉強してた時に、お姉ちゃんから『市街地戦を行う場合は、戦車での攻防だけでなく、フィールドの全てを利用して戦え』って教わったし。

西住流らしからぬ教えだとは思ったけど、西住流だけで戦車専任免許を取る事は出来ないから、其れを考えての事だったんだと思うけどね?

 

……尤も、『剛の戦車道』である西住流よりも、戦略と策略を巡らせて、搦め手上等な戦車道が肌に合ってたみたいだけど。

 

 

 

「……搦め手上等の戦車道が肌に合ってるのは兎も角、それでいて正統的な西住流も出来るみほに隙は無いと思う人挙手。」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「はーーーーい!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

……直下さんの質問に対して、私以外の遊撃隊の全員が手を挙げてるって如何言う事?

私なんてまだまだだと思うんだけどなぁ……まだ、自分の戦車道を本当の意味で見つける事は出来てないし――私の戦い方は、ソコソコ形になって来たとは思うけどね。

 

だけど、皆が『隙が無い』って言ってくれるなら其れに応えないとだよ!!

ふふ、否が応でも市街地戦に付き合って貰うよプラウダ?

……折角の決勝なんだから楽しもう?――そもそも、戦車道は楽しまないと損だからね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

 

突然のゲリラ豪雨で中断された決勝戦だが、雨が止むと同時に試合は再開――尚、現在の天気は、先程までの豪雨が嘘のような晴天だ。

序でに、如何でも良い事だが此の試合を観戦していた西住しほは、あの雨の中でも傘を差さずにモニターを睨みつけており、其れを見かねた菊代と島田千代が傘を差し出していたりした。

 

其れは其れとして、試合が再開された訳だが、プラウダの隊長のメドヴェージョワの心中は穏やかではなかった。

 

 

「(馬鹿な、別動隊として編成した5輌が、黒森峰の遊撃隊と遭遇し、何も出来ずにパーフェクト撃破されただと!?只の1輌も道連れにする事すら出来ずに――!!

  黒森峰の遊撃隊は、其処までの練度に達していると言うのか?……そう言えば遊撃隊の隊長は西住みほ――隻腕の軍神!!)

 く……此の部隊運用は試験的な物だと思い込んでいたが、既に試験運用は終わっていたと言う訳か……そして、西住まほは、己の妹が隊長を務めている遊撃隊に絶対の信頼を寄せていると言う事か……!!」

 

 

黒森峰の部隊に風穴を開ける心算で編成した別動隊が、みほ率いる遊撃隊によって、一方的に蹂躙されたのだから当然かもしれないが、だからこそメドヴェージョワは己の失策に気付いた。

黒森峰の部隊が、試験運用ではなく、既に完成された部隊であった事を見抜けなかった事を――まぁ、此れまでとは全く異なるドクトリンが僅か3ヶ月ちょっとで機能していると言うのは、普通なら有り得ない事なので仕方ないかも知れないが。

 

 

「(だが、遊撃隊を野放しにするのは危険だな……とは言え、更に5輌出すのは下策か。

  此処で5輌出してしまったら、5輌のビハインドを背負った状態で、黒森峰の本隊とやり合わねばならないからな……ならば、信頼できる同志を向かわせるか……西住みほを撃破出来れば良いのだしね。)

 カチューシャ、これよりノンナと共に別行動をとりなさい!……黒森峰の遊撃隊の撃破を命じます――遊撃隊の全車輌を倒せずとも、西住みほを撃破する事が出来ればその時点で勝ちが確定します……やれますね、カチューシャ、ノンナ?」

 

「了解!行くわよノンナ!」

 

「はい、カチューシャ。」

 

 

其れでもメドヴェージョワは、遊撃隊を真っ先に撃破すべきだと判断し、副隊長であるカチューシャのT-34/76と、ノンナのIS-2に別行動を命じて、遊撃隊の撃破を――可能ならばみほの撃破を厳命する。

 

その命を受けたカチューシャとノンナも、其れを快諾し遊撃隊を撃破する為に別動を開始。――ゲリラ豪雨が終わったら終わったで、試合は大きく動こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、みほ率いる黒森峰の遊撃隊は、プラウダの本隊を強襲する為のルートを探っていたのだが……

 

 

「此れは、ちょっと危ないかな?」

 

「昨日までの雨と、さっきのゲリラ豪雨で川が完全に濁流と化してるわね此れは……ぶっちゃけ、落ちたら只じゃ済まないわよ絶対に。」

 

「下手したら……いえ、下手しなくても人生のエンディングまっしぐらでしょうね落ちたら……」

 

 

最短コースとして想定していた場所は、すぐ傍を流れる川が昨日の雨と、先刻のゲリラ豪雨で増水し、陸のギリギリまで濁流が迫っていたのである――氾濫はしていないので通る事は可能だろうが、若しも川に落ちてしまったら、只では済まないだろう。

 

故にみほは迷う。

強襲するには此処を通るのが最善だが、若しも何かあった場合は取り返しのつかない事になりかねないのだから。

 

 

「危険は回避できるならするにした事は無いっしょ?

 みほ、確か2番目として想定してたルートがあったわよね?ちょっとそっちの状況を見てくるわ。」

 

「理子さん……うん、おねがい。」

 

「アイサー!」

 

 

だから此処は安全策を採る事にした。

想定していた最短ルートが使えそうにない場合、2番目に距離の短いルートを使う事にしていたのだ……とは言え、其方のルートの状況が今し方のゲリラ豪雨でどうなってるか分からない為に、直下が偵察に出た訳なのだが。

 

 

「それにしても、此処まで増水してるとは……さっきのゲリラ豪雨と言い、貴女のお御籤の『水難の相』って当たってんじゃないの?」

 

「言わないでエリカさん、私もちょっとそう思ってるから。」

 

「水難じゃなくて『吸い難』だったら、格闘ゲームで投げハメ喰らいそうですけどね~~~?

 所でみほさん、第2ルートの方が使えなかったらどうするんですか?」

 

「……その場合は、仕方ないから細心の注意を払って此処を進むしかないよ小梅さん。

 此処と、第2ルート以外だと大回りになって、プラウダを強襲するのは難しいし、よしんば強襲出来たとしても、プラウダが黒森峰の本隊と近付き過ぎるから、本隊から引き剥がして市街地に誘導するのが難しくなるからね。」

 

 

だが、その第2ルートが使用不能だった場合は、このルートを危険を冒してでも進むしかないのも事実だ。

みほとしては危険を冒したくはないが、遊撃隊としての任を果たせずに試合が終わってしまったら絶対に後悔するし、自分の策が使えなかったのでは面白くない。

何よりも、此の試合で勝てば黒森峰は前人未到の10連覇の偉業を達成し、その偉業を達成した黒森峰の隊長であるまほの戦歴に大きな華を添える事が出来るのだ――大好きな姉の為にも、みほはこの試合絶対に勝ちたいと思っているのだ。

 

そして、直下が状況確認に出てから凡そ5分後……直下のヤークトパンターが戻って来た。

車長である直下は、キューポラから身を乗り出し、頭の上で大きくバツ印を作って見せている。

 

 

「ダメだみほ、第2ルートはさっきのゲリラ豪雨でぐっちゃぐちゃになってる上に、倒木が多くてとてもじゃないが通る事は出来ないっぽい!

 戦車砲でフッ飛ばせば入り口は確保できるだろうけど、その先はどうなってるか分からないから、こっちのルートは止めた方が良いと思う。」

 

「理子さん……確かに、ルート上に倒木があったら、其れをどかす為に砲弾を消費する事になるし、その分だけ時間がかかるからね。

 ふぅ……仕方ない、少し危険だけど、川沿いの最短ルートを行く事にするよ!」

 

 

つまり第2ルートは使用不可能。

其れを聞いたみほは、危険を承知で川沿いの最短ルートを進む事を決断し、指示を出して行く。

 

 

「万が一にもプラウダからの攻撃を受けた時の為に、攻撃力と防御力の高いティーガーⅠとヤークトパンターが先行し、其の後を私達のパンターが追走する形で行こうと思うんだけど如何かな?」

 

「良いんじゃない?

 ルート的に後ろから狙われる確率は略ゼロなんだから、前面の攻防力を強化しておくのは悪くないと思うわ……もしも目の前に現れた時には、その喉笛喰いちぎってやるわ!」

 

「……相変わらずだな逸見は?……そんなんだから『狂犬』って言われんだよオメーは……」

 

「あはは……まぁ、其れだからこそ頼りになるんだけどね?

 で、其れに続く形で3輌目は私、4輌目は小梅さん、そして殿はサトルさんにお願いしても良いかな?」

 

「はい、お任せくださいみほさん!」

 

「殿か……大役だけど、務めさせて貰うわみほ!」

 

 

みほが己を中央に配置したのは、其方の方が指示を出す上で好都合だったからだろう。

指揮官が部隊の中央に居れば、司令官からの指示を、略タイムラグ無しで伝える事が出来るのだから――万が一にも通信機が使えなくなった場合をも、みほは想定していたのだろう。

 

ともあれ隊列が編成され、遊撃隊は濁流の側を通っての進軍を開始!!

重戦車が楽々通れるだけの道幅はあるとは言え、すぐ傍には落ちたら人生エンディングの濁流が轟々と音を立てて流れているのだから、気を抜く事は出来ない……尤も、其れでも一糸乱れぬ見事な縦列で進んで行くのは、流石黒森峰と言う所だが。

 

 

「此れなら、何とか無事に目的地に着けそうね……」

 

「だと良いんだが、な~~んか嫌な予感がするんだよな?……其れこそ、履帯が切れる以上の嫌な予感が……」

 

 

順調に進みながらも、しかし嫌な予感と言うのは消えないモノだ。

口にしたのは直下だが、直下だけでなくみほも、エリカも、小梅も、そして狭山もこの嫌な予感は感じていた――此のまますんなり行くとは思えないと言う、漠然とした嫌な予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、無情にもその嫌な予感は的中する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方に敵影!……T-34/76とIS-2!!」

 

「まさか……読まれていた!?」

 

 

もう少しでゴールと言う所で、眼前にT-34/76とIS-2が――プラウダの副隊長であるカチューシャと、その腹心であるノンナが現れたのだ。

みほは戦術を読まれたのかと思ったが、そうではない。

カチューシャがショートカットをしようとしてこのルートを選択した結果、偶々黒森峰側からのゴール地点直前でエンカウントしただけなのだ。

 

が、エンカウントした以上は戦闘は避けられない。

 

 

「見つけたわよ西住みほ!!けっちょんけちょんにしてあげるから覚悟なさい!!」

 

「生憎と、けっちょんけちょんにされる訳には行かないので、逆にボッコボコにさせて貰いますカチューシャさん!

 其れこそ、ボコがドン引きする位にボッコボコに!!」

 

 

避けられないのならば戦うしかない。

車輌数はみほ陣営が5で、カチューシャ陣営が2で、みほが有利だが、フィールドアドバンテージで言うのならば、みほ達よりも高い場所に陣取っているカチューシャ達の方が有利――付け加えるなら、縦列を崩す事の出来ないみほ達よりも、ある程度の自由が利くカチューシャ達の方が有利なのは火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「ノンナ、徹底的に西住みほを狙いなさい!

 アレがフラッグ車なんだから、アレを倒せば私達の勝ちよ!!」

 

「分かっていますよカチューシャ……まぁ、簡単に撃破出来る相手ではありませんが。」

 

 

だが、そうであっても遊撃隊は撃破されていない。

前後の移動しか出来ないが、其れを最大件に駆使し、カチューシャとノンナの猛攻を躱していたのだ。

 

 

「エリカさん、理子さん、ブチかまして!!」

 

「了解!絶対王者を舐めるんじゃないわよプラウダ!!」

 

「序にコイツも持って行け!!」

 

 

そして、躱すだけでなく、反撃も行うのだからトンデモないだろう。

 

だが、何度目かの攻防の際に、其れは唐突に起きた。

 

 

「いい加減に、落ちて下さい!!」

 

「そっちこそ、大人しくくたばりなさいよ!」

 

 

ノンナのIS-2が放った砲撃と、エリカのティーガーⅠが放った砲撃は、夫々狭山のパンターの足元と、ノンナのIS-2の足元に着弾し……

 

 

 

――ドッガァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

弩派手に足場を崩す!!

其れだけならば如何と言う事は無いが、足場を崩されたパンターとIS-2は、磁石に引き寄せられるように濁流に向かって滑って行き……そして、落ちた。

 

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

この濁流に落ちれば、最悪の場合は命を落としかねなない。

そんな濁流に、黒森峰の戦車とプラウダの戦車が落ちた……此れは、戦車道の大会における最大にして最悪レベルの事故と言えるだろう。

 

その事故に、皆が唖然とする中でみほの判断は早かった。

 

 

「エリカさん、緊急用の照明弾を!」

 

「みほ!?……了解!!照明弾……てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

連盟から搭載を義務付けられている緊急用の照明弾の発射をエリカに命じ、エリカも即座にティーガーⅠの主砲を射角限界まで上げてから緊急用の照明弾を発射!

 

次の瞬間には、上空に緊急事態を知らせる赤色の証明が続けざまに3つ光り、緊急事態が発生した事を会場全体に伝達する。

 

 

 

『緊急事態発生!緊急事態発生!両校は、直ちに戦闘行為を停止してください。

 繰り返します!緊急事態発生!緊急事態発生!両校は、直ちに戦闘行為を停止してください。』

 

 

その直後に運営からのアナウンスが入り、決勝戦は再び中断。

 

だが、みほは其れでは終わらなかった。

パンツァージャケットを脱ぎ捨ててタンクトップとスパッツだけの状態になると、パンターを降りて川岸に近寄って行ったのだ。

 

 

「ちょ!貴女、何をする心算なのみほ!?」

 

「狭山さん達を助けに行く!

 特殊なカーボンで砲撃は防げても、浸水までは防げないし、連盟の救助を待ってたんじゃ助からないから!!」

 

 

当然エリカは何事かと問うが、みほから返って来たのは、ぐうの音も出ない位の正論だった。

確かに競技用の戦車は特殊なカーボンコーティングが施され、実弾を喰らっても死に至る事は無いが、しかし特殊なカーボンでも隙間からの浸水をシャットアウトする事は出来ない……其れを考えると、連盟の救助を待っていたら、滑落した戦車の乗員の命は無い。

だからこそみほは、彼女達を助ける為に濁流に飛び込もうとしていたのだ。

 

 

「~~!!

 ったく馬鹿なんだから!!小梅、直下、私とみほに続け!!残りの隊員は、私達の命綱が流されないように握って居なさい!!」

 

 

無論それを黙って見て居られるエリカではなく、己もタンクトップとスパッツだけになると、小梅と直下に続くように言い、命綱を腰に巻いて、みほと共に濁流にダイブ!!

そして、小梅と直下も其れに続いて濁流にダイブ!

 

 

 

 

 

 

当然、この光景は会場のオーロラビジョンにも映し出され、観客達は空前の救出劇に、声を揃えて声援を送る――其れこそ、己の身を顧みずに、濁流に飛び込んで仲間を救出に向かう乙女達への祈りを込めてだ。

 

 

「西住先輩!!」

 

「西住殿!逸見殿!!赤星殿ぉ!!!」

 

 

そんな中でも澤梓と、秋山優花里の声は特に大きい。

みほに心酔している梓と、みほとエリカと小梅の大ファンである優花里の声は自然と大きくなり、他の観客の声をも上回る程だ……

 

 

「みほ……」

 

「お嬢様……」

 

 

無論、観戦しているしほと菊代もまたみほ達の身を案じている……が、過剰な心配をしないのは、みほを信じてる証なのだろう――そうであっても、しほの肩は僅かに震えているが。

 

 

 

 

 

 

 

そんな心配をよそに、みほ達は滑落したパンターの乗員達を全員救助する事に成功していた。

少し水を飲んだ者は居たが、全員意識はハッキリしており、危険はない様だ。

 

だが、其れで終わりではない。

 

 

「まだ、プラウダの人達が残ってる!!助けなきゃ!!」

 

「まぁ、そう来るわよね!!」

 

 

狭山のチームを助け出したみほは、続いて川に落ちたIS-2の乗員達を救助すべく再び濁流に飛び込み、エリカ、小梅、直下も其れに続く。

その結果として、落ちたIS-2の乗員も無傷で救出する事が出来た。(この時、ノンナが『何故敵を助けるのですか?』とみほに言って来たが、みほは『命の価値に敵も味方もない……其れに戦車道は戦争じゃないから』と返して、ノンナを黙らせた。)

 

その結果、滑落した戦車の乗員は全員無事だった。

だが、これだけの事故が起こったにもかかわらず、運営は試合中止を選択せずに、試合続行を宣言して来た――戦車道は1試合ごとに可成りの金がかかるので仕方ないのかも知れないが。

 

 

「試合続行ですって?……上等じゃない、勝ちに行くわよみほ!!」

 

「言われずとも其の心算だよエリカさん……お姉ちゃんだけじゃなく、撃破判定になったサトルさん達の為にも勝たないとだからね!!」

 

「勝利を我が手に……一気に行きましょう!!」

 

「言っとくが、此処からの私達はちょ~っと強いぜ?覚悟するんだな!!」

 

 

だが、試合続行の報が遊撃隊に火を点けた!!

 

 

……其処からの試合は、言ってしまえば一方的だった。

遊撃隊は残ったカチューシャを撃破すると同時に、プラウダの本隊を強襲し、其のまま市街地戦へとシフトし、徹底的に市街地戦でのトリックを駆使してプラウダを翻弄しイライラを高めて行く――イライラは冷静な判断を奪うので効果的と言えるだろう。

 

そのイライラを感じていたメドヴェージョワは、単騎でまほに挑んだのだが……

 

 

「中々に出来ると思ってたが……この程度だったか……」

 

「此れで終わりです!!」

 

 

簡単にあしらわれた上で、その背後にはみほが回り込んでいる……此れはもうチェックメイトだろう。

 

 

「如何やら、私達の勝ちのようだな?……私とみほが組んだ以上は敵は無い。

 精々、私達の戦いを目に焼き付けて散るが良い……うてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「此れでお終いです!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

 

――バッガァァァァァァァァァァァァン!!

 

――キュポン!!

 

 

 

その攻撃は苛烈にして最強!

柔と剛の戦車道が入り混じった攻撃を避ける事は出来ず、ティーガーⅠとパンターの砲撃を受けて撃沈――同時に、この瞬間に黒森峰の10連覇が達成されたのだった。

 

 

『プラウダ、フラッグ車行動不能!

 黒森峰女学園の勝利です!!』

 

 

瞬間、アナウンスが黒森峰の10連覇を伝え、観客も其れに同調するかのように馬鹿騒ぎだ!――そう、黒森峰は前人未到の大記録を打ち立てたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:みほ

 

 

はぁ、はぁ……水難の相って言うのが戦車の濁流への滑落だったって言うのは予想外だったけど、サトルさん達だけじゃなく、プラウダの人達も助け出す事が出来て良かったよ。

 

しかもその上で勝つ事が出来たんだから、最高の勝利だよ!!お姉ちゃんに10連覇の偉業をプレゼントする事が出来たしね。

 

 

 

「何言ってんのよみほ!今大会のMVPは間違い無く貴女よ!!」

 

「うむ、エリカの言う通りだな。

 みほが――みほ率いる遊撃隊が居なかったら、10連覇を達成する事は出来なかったかも知れないからな?……良くやってくれた、みほ。」

 

「私は、私のすべき事をしただけだよお姉ちゃん。」

 

今大会は黒森峰が前人未到の10連覇を達成する形で幕を下りた――だけど、この優勝こそが終わりの始まりだったなんて事は、きっと誰にも予想できなかった筈だよ。

 

 

まさか勝利上等主義のお婆ちゃんが、難癖付けてくるとは思わなかったからね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 


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