サイレンススズカ:私の走る理由   作:あーふぁ

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ツイッターのクリスマスリクエスト募集で書いた話。
2話と3話の間の出来事。


閑話 クリスマス

 冷たい雨が降っていた日にサイレンススズカというウマ娘の女の子と出会って3ヶ月。

 親から離れたいというだけで1人暮らしをし、大きな目的もなく生きてきた俺に人生の鮮やかさを増やしてくれた彼女。

 見た目はクールで落ち着いた子の彼女だが、実際は天然すぎる子だった。

 友達になってから月日はそれほど経ってはいないが、気楽にいられるからか妹と言いたくなるほどに馴染んできている。

 12月24日の今日だってそうだ。美人な女の子であるスズカから、チームでやるパーティ後に来るとメールに書かれても胸はときめかない。

 

 別に女性に慣れたということではない。テレビで美人な女優やウマ娘を見ればいいなと思う事はある。

 ただ、スズカは別だ。出会い方が変わっていたから、手のかかる妹という印象が強い。

 スズカと会うことは、もう日常の一部となっている。

 

 今だってスズカが来ることを待ち、パジャマに着替えることもしないで待っている。

 今日までスズカにあげるプレゼントが決まらず、今日になって決まって昼の間にプレゼントを買いに行ったときと同じ、灰色の細身であるズボンと黒のフリースを来たままだ。

 その状態で面白さを感じないテレビ番組をぼぅっと見ていると、午後9時を少し過ぎた頃にメールが来た。

 メールの内容は『私、スズカ。アキくんの後ろにいるの』というホラーなものだ。それを見ると、怖くなって勢いよく後ろを見てしまうのは仕方がないと思う。

 

 そして、俺が後ろに何もいないことを確認して安心した瞬間にチャイムを鳴らしてくるのはやってはいけない。

 すげぇ心臓に悪いから。あと、出てこないからと続けてチャイムを押すのはうるさい。

 ホラーな恐怖で心臓がバクバクとなっているのを深呼吸して抑え、立ち上がっては玄関へ行く。

 ドアののぞき窓から見えるのは、制服の上に深緑のジャンバーを羽織っているスズカだ。

 スズカが来たことに嬉しさを覚えると同時に、脅かしてくれたことに少し腹が立つ。

 でもプレゼントを渡すことは忘れていなく、いったん部屋に戻ると包まれたプレゼントをフリースのポケットに入れてからスズカに何かしてやろうと思いながらドアを開けた。

 

「アキくん、メリークリスマス」

 

 外からの寒い空気が入ってくると同時に、俺の顔を見て笑顔になったスズカに対して俺はスズカのおでこを軽くデコピンした。

 それも1回ではない。連続して3回だ。

 デコピンを受けたスズカはおでこを両手で押さえながら後ろへと下がる。

 

「痛いよ、アキくん……」

「お前な、クリスマスの日になんであんなメールを送ってくるんだ」

「待たせちゃったから、楽しんでもらおうと思って」

「すごく驚いたんだが」

「ほんと? アキくんの驚いた顔が見たいから、今度は一緒にいるときにやろうかな」

 

 スズカを家の中へと入れ、ドアを閉めながら楽しそうに言うスズカの頭に俺は手をやると、両手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜていく。ただし、繊細な耳にはさわらないようにして後頭部側の髪だけを。

 俺にひどいこと宣言をする奴の髪なんて乱れてしまうがいい!!

 そうしてスズカは俺にいじめられているというのに、なんだか嬉しそうだ。ぼさぼさの髪になっていくのを見るとやりすぎたかとちょっとだけ反省し、手でスズカの髪を整えていく。

 整えていく中で、スズカに返事をしていないことを思い出す。

 

「メリークリスマス、スズカ」 

 

 と、俺は普段の挨拶をするようになんでもなく言うとスズカはジャンバーのポケットか青の水玉模様をした紙袋を俺へ渡してくる。

 手の平より大きい袋は少し重さがあり、紙袋の中の感触はやわらかさと固さがあった。

 

「プレゼントはアキくんに似合いそうな手袋と、あと私の手作りクッキーが入っているの」

「ありがとな。しかし、料理ができないスズカが作ったとは……」

 

 食べるのが専門と言っていたのに、お菓子を作っただなんて。

 俺が料理を作るのを手伝おうとして電子レンジは爆発し、切った野菜は大きさも厚さもばらばらで調味料の淹れ間違いが多くて結局は見るだけになったスズカが!!

 成長したことに感動して震えているとスズカは耳を左右ばらばらに動かしながら、すまなそうな顔になる。

 

「チームの人に教えてもらいながら作ったんだけど、上手にはできなくて……」

「作ってくれたということが嬉しいよ。ほら、お返しのプレゼントだ」

 

 俺はスズカから受け取ったプレゼントを部屋の中に置くと、プレゼントのお返しにポケットから手のひらサイズの大きさの物を出す。

 高校生が買えるくらいの値段だが、時間をかけて選んだ尻尾を手入れするラベンダーの香り付きオイルだ。

 包装されたそれをスズカに手渡すと、スズカの耳と尻尾はぐんと上へ上がったので喜んでくれたらしい。

 スズカは何も言わずにきらきらとした目で持っているプレゼントを見つめると、両手で持ったプレゼントを小さな胸の中で抱きしめた。

 

「ありがとう、アキくん!」

「それだけ喜んでくれたのなら悩んだ甲斐があった。中身を見てがっかりしないのなら、もっと嬉しいが」

「がっかりなんてしない。だってアキくんが私のために悩んで選んでくれたものだもの」

 

 にっこりと素敵な笑顔を見せるスズカに、そんなにもまっすぐに好意をぶつけられると恥ずかしい。

 今になって送ったプレゼントの中身が心配になる。友達のウマ娘に、尻尾の手入れをするのは重すぎなんじゃないかと。

 食べ物のほうがよかったとも思うがもう遅い。今までと関係が変わらないのをウマ娘の神様に祈っておこう。

 

「来てすぐだけど、もう帰らないと。今日は外泊届けを出していないし、パーティの途中で勝手に抜け出しているから」

「それなら途中まで送っていくよ」

 

 喜ぶスズカに背を向けると部屋の中に置いてあるボアジャケットを着て、スズカのイメージカラーでもある緑色のマフラーを首に巻き、スズカと一緒に家から出る。

 家の鍵を閉めたあとは夜道を歩いていく。空は雲が薄く、半分の月がある夜。

 外に出た途端、雪が降っていないのに身震いがするほどの寒さだ。

 住宅街の夜は歩いている人はとても少なく、道沿いのアパートやマンションからはカーテンの隙間から見える明かりと楽しそうな喋り声が聞こえる。

 友達とのパーティや家族と過ごす穏やかな時間。

 どちらも俺にはないものだが、今日という日にスズカと会えたことで寂しさは少なくなってきた。

 横に並んで歩き、冬風に栗色の綺麗な髪がなびく美しい姿のスズカといれるのは嬉しい。

 

「ねぇ、アキくん」

「どうした。腹が減ったのか」

「私に送り狼をするの?」

 

 ただ純粋に聞いてきたスズカ。その言葉にからかいや恐れ、心配と言った感情は感じられない。

 だが、しかし。なんで俺がそれをすると思ったのか。俺の家でシャワーを入っていたときに襲うこともなく、写真を撮って脅迫もしない。

 いたって善良で無害な男だというのに。

 そう言われると、信頼が足りていないのかと落ち込む。

 

「そんなことはしない。意味をわかって言っているのか、お前は」

「一般的な男の人は、女の子に優しくして帰り道に乱暴をするって私のトレーナーさんが言っていたから」

「お前は美人だからそう思う奴もいるだろう。けどな、筋力が高くて強いウマ娘には手を出さないと思うが」

「……アキくんは美人の私に手を出さないの?」

 

 さっきと違い、からかうような笑みを浮かべるスズカを見るとかわいくは思う。

 そうは思うが、スズカのトレーナーは男に対する正しい距離感を教えたほうがいい。

 スズカが所属するチームリギルは女性トレーナーだとは聞くが、その人は1度惚れた男に対して表面的には愛情を隠しているが深い愛情を持っているんじゃないかと感じてしまう。

 その人の人生経験の影響を受けて、今のスズカは俺を無意識で誘っているんじゃないかと思ってしまう。

 まったく、スズカのことを妹にしか思えない俺でよかったな!!

 俺が恋人を作るとしたら、明るくて胸が大きくて男友達のような気楽に接することができる女性にしよう。170㎝を越える高身長でスズカのような栗色の髪だとさらにいい。

 

 理想の恋人を考えてスズカの言葉をわざと無視していると、スズカは尻尾で俺をバシバシと力を強くいれて叩いてきた。

 無視が一番だ。どう返事をしてもスズカがからかってくる。

 無視する俺をからかえなかったからか、スズカは不機嫌な顔をして尻尾で叩いてくる。

 意外と尻尾は痛く、何度か叩かれたてから止めるために尻尾を押さえようとしたが、手がすべって尻尾の付け根をさわってしまう。

 

「ぅひゃぅっ」

 

 触った瞬間、文字にできないような難しい言葉を出し、体を震わせたスズカは即座にポカポカと俺を両手で叩きまくってくる。

 

「ごめ、ごめんって! わざとじゃないんだ!」

「アキくんのえっち、すけべ、変態!」

 

 ウマ娘の尻尾の付け根、そこはくすぐったく敏感な部分であると聞いた。

 わざとじゃないとはいえ、俺の罪悪感が物凄い。

 俺を叩いてきたスズカは2分ぐらいの時間をかけて落ち着きを取り戻した。

 

「初めて仲良くなった男の子がアキくんでよかった」

「なんだ、急に。褒めてもコンビニスイーツしか買ってあげられないぞ」

「それじゃあ今度ロールケーキを買ってもらおうかな。……うん、やっぱりアキくんが1番ね。男の人は下心があって危ないって聞くし、アキくんは私が迷惑をかけても許してくれるから」

「お前な、迷惑をかけている自覚があったら改善しろ」

「でもそんな私が気に入っているでしょう?」

「……まぁ、そう言えなくもない。高校にいる女子たちと違ってスズカと一緒にいるのは気楽で楽しい」

 

 人間関係が面倒というのではなく、スズカみたいに目標へ向かって頑張る子は素敵に見える。

 その中でもスズカの走りたいという願いは強く純粋で、俺はそれをたくさん応援したい。

 とは言っても高校生である俺ができるのはスズカの遊び相手と飯を食べさせることだけだが。

 スズカとなんでもない話さえも楽しく、いつの間にか結構な距離を歩いていた。

 大きな道の横断歩道で立ち止まると、スズカは俺の前へと回り込んでくる。

 

「見送りはここまででいいよ。あとは走って帰るから」

「そうか。次に会うときは来年だな」

「うん。実家に帰るからお土産を楽しみに待っててね」

「俺はあのアパートにいるから何もあげられないが」

「ううん、いいの。アキくんが元気なら私はそれだけで――くちゅんっ!」

「おいおい、風邪にならないでくれよ?」

 

 かわいらしいくしゃみをしたスズカに、俺は自分のマフラーを素早く外すとスズカの首へと巻いていく。

 自分の首元はすごく寒いが、帰る間に風邪になってしまうと困る。

 スズカは俺に巻かれたマフラーの感触を手で確かめ、そのマフラーの位置を調整すると満足そうに笑みを浮かべた。

 

「また来年ね、アキくん!」

 

 胸元で小さく手を振って、横断歩道を渡っていくスズカ。

 俺も手を振り返し、歩いていくスズカの背中を見る。

 ある程度距離が離れ、スズカの背中が遠くなってから自宅へと帰る。

 

 今年が終わるまではまだ日はあるが、スズカと会えたのならもう終わった気分だ。

 来年の4月で高校3年生になり、大学受験または専門学校、就職かでいまだ悩む俺だが、来年も今年と同じかそれ以上に充実した時間となるだろう。

 あのどこかぬけていて、つい構いたくなるウマ娘のスズカと一緒に過ごす生活は。

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