kalmia’s short stories   作:ゐろり

1 / 4
みょんきちです。久しぶりにハーメルンに小説を投稿させて頂きます。
今回は主催者のゐろり様がツイッターで呼び掛け、それに応じた私含め4名の作家様がラブライブ又はラブライブサンシャインのキャラをメインに据えた小説をキャラに合わせて書く、という企画になっております。
私の後にも素晴らしい作家様方が続いているので、是非ともそちらにも目を通して頂ければな、と思います。

私は今回、初めて百合、GLという界隈に挑戦してみました。色々と拙い所はあると存じますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


らしくなくても。

「ことり、好きだ」

 

 ああ、言ってしまった。

 

 こんなところで言うつもりじゃなかったのに。

 

 いや、これから先一度だって、言おうだなんて思わなかったのに。

 

 一度堰を切ったものは抑えることができずに、感情が、薄れて消えるまで心に留めておく筈だった台詞が、胸から喉にすうっと通った。

 

「私は、うん。………あなたの事が好きなんだ」

 

 今まで、こんな感情を抱くのはおかしいと思っていた。私とあなたは、女の子同士で、好きになっちゃいけない相手だと考えていた。しかし、まあ、一度出てしまったものは戻らないわけで。覆水盆に返らず、とはよく言ったものである。

 

言葉にしてしまった実際の感想は、誇らしい気持ちと、嬉しいような恥ずかしい気持ち。不安は、少しだけあるような、ないような。

 

ことりのまん丸な瞳がゆっくりとこちらを向いた。赤が差した頬に、瑞々しい唇が私に向けられた。見ているだけで身も心も蕩けてしまいそうな、顔。それが、私の視線を釘付けにする。

 

見つめられただけで、心臓がばくりと一段と大きく鐘を鳴らした。顔面に血液が集中していくのがわかる。きっと私の顔は耳まで真っ赤に違いない。

 

でも、見届けなければいけない。告白には返事がつきもの。それが如何にせよ先延ばしにせよ、しっかりと相手の言うことは聞いていたい。恋ゆえのエゴなどと、今までは鼻で笑って蹴飛ばすくらいに馬鹿にしていたけれど、いざ自分の身になってみるととんでもない。

 

しばらく目をぱちくりとしていたことりが、ようやく口を開いた。長い数秒だった。生唾を喉の奥に押し込んで、じっと答えを聞く。

 

なにしろ、人を好きになったのも初めてだ。大学生になってまで恋なんて知らなかったから、恋は人生に片手で数える程しかなく、告白というのは一世一代の大勝負のようなものだと思っていた。

 

だから、絶対に負けられなかったのに。

 

負けないために、胸にしまっておくはずだったのだ。

 

「なにそれ」

 

ことりが、へにゃりと笑う。

 

このままじゃだめだ。うん、だめだ。笑い飛ばされてしまう。あふれてこぼれた想いも、長く胸に秘めていた思いも、なにもかも全部冗談にされてしまう。

 

でも、私は。

 

だめだとわかっているのに。

 

「なに? ことりは私のこと、嫌い?」

 

「えー? あー、はいはい、好き。好きだよー」

 

「なにそれ、てきとー」

 

「ほんとだってば」

 

「あはは」

 

なんにもなかったように、笑う。合わせるように、二人の笑い声が響きあう。

 

告白なんてなかったことにして、再びこの感情に鎖を付ける。二度と顔を見せないよう、今度こそ完全に消えるまで。

 

ああ、私は、とんでもない────

 

「はは……」

 

───臆病ものだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ことり」

 

わたしの名前が呼ばれる。愛しくて、愛しくて大好きなあなたの声。あなたの声でわたしの名前を呼ばれることに、わたしは嬉しくなって跳ね上がりそうになる。

 

知り合ったのは大学からだったけれど、今ではもうすっかり穂乃果ちゃんや海未ちゃんと私にとってなくてはならない人になっていた。……二人とはちょっとニュアンスが違うけれど、それはそれ。

 

進学先の学校で、デザインのセンスに始まり人格否定、果ては友人関係にまで口を出してきた先生に打ちのめされて、ちょっと自暴自棄になっていた時、優しく頭を撫でてくれたあなたが好きだ。

 

ことりは頑張ってるよ、なんて無責任に言われたから少しばかりムッと来て、あなたにわたしの何がわかるの。と強く当たってしまったのを、今はかなり後悔している。

 

『私は、ことりが夜遅くまで、寝る時間を削ってデザインを何度も何度も書き直してるの知ってるから。あれも違うこれも違う、って。あれだけ服に真摯であろうとしてることりが頑張ってないわけない』

 

あなたが半分怒りながら言ってくれた言葉を、一字一句まで覚えている。わたしは、あなたにどれだけ救われたかわからない。今だって、あなたが隣にいるだけでわたしは救われているんだよ。

 

すき、好きだ。

 

南ことりはあなたの事が───

 

「好きだ」

 

………。

 

 

……………。

 

 

時間が止まった。呼吸も止まった。

 

遅れて心臓が騒ぎ出した。

 

待って。

 

好きだ? 誰を? ……わたしを?

 

いや、まさか。だって、わたしもあなたも女の子だし。いや、わたしはあなたをそういう対象として見ているけれど、まさかあなたは女の子が好きな人な訳がないだろう。雑誌とか見てこの人かっこいーとか言っているくらいだし。ああでもそれは男の人に限った話じゃないか。

 

なるほど、遅れて理解した。友情とか親愛だとか、そういう意味での「好き」だ。わたしはなにを舞い上がっているんだろうか、少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。

 

慌てて平常心を取り戻して、友人とふざけ合うふうを装って、優しく笑う。

 

この場合、どう言うのが正解なんだろうか。

 

ああ、あまり時間をかけ過ぎてもだめだ。変に思われてしまう。急いでそれっぽい事を口にしろ南ことり───

 

「なにそれ」

 

よし。それらしい事が言えただろう。あくまで女友達どうしのふざけ合いだ。これに乗じて好意を伝える、なんて馬鹿らしい行為をしなかった自分を褒めてやりたい。もししていたら、引かれに引かれて、絶縁なんてのもありえたかもしれない。ああ、そんなこと考えただけで背筋が凍る。

 

「なに? ことりは私のこと、嫌い?」

 

好きだ。好きだよ。すごく好き、大好き、愛してる。

 

浮かれるな南ことり。これは、ちょっとした友情確認だ。こういうのは、あまり真面目にせず適当に流すと相場が決まっている。

 

「えー? あー、はいはい、好き、好きだよー」

 

冗談でも、好きだと言うのはかなり毛恥ずかしい。なにしろ本当に相手に恋しているのだから、躊躇いもなくという訳にはいかなかったが、それでもなんとか声に出す。

 

「なにそれ、てきとー」

 

あなたがちょっと拗ねたような、つまらなそうな声と表情で、返事を返してくる。そういう風に返事したのだから、当たり前だけど。

 

「ほんとだってば」

 

冗談めかして言う。

 

でも、冗談なんかじゃないんだよ。

 

わたしは、本当の本当にあなたの事が好きで。恋人に、それこそ結婚だって可能ならしてしまいたいくらいにあなたの事が大好きなんだよ。

 

でも、この想いは伝える訳にはいかない。

 

あなたは、きっと素敵な男の人を見つけて、その人と恋愛をして、結婚して、子供ができて。幸せに人生を過ごしていくんだろうから。

 

だからわたしは、それを遠くで眺めていられればそれで幸せかな。

 

でも、結婚式のスピーチはわたしに任せてね。ちょっとだけ泣いてしまうかもしれないけど、それだけはやらせてほしいな。

 

あなたのウェディングドレス、きっと綺麗なんだろうなあ。そうだ、ドレスのデザインも出来たらやらせてほしいな。デザインと言わず縫製まで出来たら、うん。文句なしにすっぱり諦めきれる気がする。

 

「あはは……」

 

でも、今はやっぱり。

 

諦めなきゃいけない恋っていうのは、……かなしいなあ。

 

 

◇◇◇

 

 

 

雪が降りている。雲を窓から覗くと、私はすうと肺の空気を入れ替えた。すると文字通り、頭が冷えていく感覚。それと共に思考が鮮明になってきた。

 

私以外誰も知ることのなかった黒歴史となっているあの告白から、もう四年が経つ。あの頃は楽しかったな、なんて感傷に浸るのは、それだけ年を取ったからかもしれない。

 

ことりと私とで、半分ずつ家賃を出し合ってルームシェアをしていた家は、いつしか私一人で家賃を払うようになっていた。

 

私は兼ねてよりの夢だった小説家へ。ことりも自分の夢を追いかけて海外へ。

 

親友と言ってもいいほどの仲でも、もちろん同じ場所で働き、給金を貰えるわけではなかった。他人は他人と言って仕舞えばそこまでだが、なんとなくその言い方はしたくない。お互いの夢を追いかけた故の別離、とでも言っておこうか。

 

ジリリ、と突然に電話が鳴る。おそらくは締め切りの件で、出版社からの「あなたに会いたいよ」という旨のラヴコールだろう。生憎だが、その愛には答えられない。仕方なく電話をとった。

 

「もしもし、げんこ」

 

「進捗ダメです」

 

「は?」

 

「すまん」

 

担当のひーちゃんからとても怒られた。くすん。とてもとても怒られた。ぐすんぐすん。ひどいや。

 

「あのね、私だって暇じゃないの、わかる?」

 

「承知しております……」

 

お小言、ここから実に30分。これだけあれば多分500文字は書けただろうなあ、あーあひーちゃんのせいで尊ぶべき時間が失われていくー、あーあーもったいなーい。

 

「ら、来週! 来週までには必ず! 用意してみせる!」

 

「あんたそれよく言えるよね、それ何度目よ?」

 

「まだ一度目だと記憶している」

 

「記憶容量皆無かよ!? 作家やめちまえもう!」

 

「ヒッ……す、すまんて。で、でも今こうして話している時間の方が無駄では」

 

「ほんとよく言えるよね!? あー、わかったわかった、来週ね」

 

「神よ、あなたは私を見捨ててはいなかったのですね」

 

「来週、ないとは言わせないからね。出来なかったら契約切るまで考える」

 

「……任せてくれ。私にかかればあと一作程度、すぐに仕上げてみせよう」

 

ふははー、と高笑いしながら通話をおしまいにする。我ながらよくやった、完璧な大勝利だとも。すぐとか言いつつ半年以上待たせているとか記憶にない。ああ全くない。

 

ともかくとして、人間、急かされたり強要されたりすると活力は削がれるものだ。今日は暖かなこの部屋で、ゆっくりドラマでも嗜むとしようか。

 

こうして一人でこの家にいると、寂しさからかどうも彼女のことを思い出す。楽しかった日々、イライラした時、ドキドキした事。様々な時間がぎゅっと凝縮された素晴らしい時間だった、と私が胸を張って言える数少ないものの一つ。

 

「ことりに、会いたいな……」

 

胸がずくんと苦しくなった。何年もひとりの事を想い続けるなんて、昔の私に言えばまず鼻で笑われる。純愛など信じない、捻くれた学生だったのだ。

 

あれ?

 

そもそも私は、学生時代に恋だ愛だと考えたことがあったか?

 

男子から「あの子おっぱいデカくね」と言われ、「それな、なんかエロいわ」と返していたのではなかったか?

 

女子とはなんだっただろう。私にわかるのは、普通の女子は男子からそんな事は言われないという事だけだ。胸がなくて悪かったな。今になって嫌味だと気づいたぞ。

 

……深く考えるのはやめよう。これ以上考えると、何か別のものまで掘り起こしてしまいそうだ。

 

とにかく、今の自分が自分でも信じられないほどにことりに焦がれているという事だ。ことりがこの家を出て行ってからというもの、連絡もないし訪ねて来る事もない。いよいよ持って禁断症状という奴だろうか。

 

電話を恐る恐る手に取る。

 

「いい頃合いだ、うん。多分。

懐かしくなって電話した、それでいいじゃないか。

いや、でもいきなりかけてきて迷惑ではないだろうか。なんならことりは私のことなんて忘れているんじゃ」

 

「……繋がってるぞー」

 

「嘘だろ承太郎」

 

承太郎もといひーちゃん。慌てて携帯電話を確認すると、先ほどの通話時間に五分ほど延長がされていた。しっかり電話は切ろうな、お互いに。

 

「ていうか、あんたことりと知り合いだったんだ」

 

「ん? ことりって、え? 南ことり?」

 

「多分その南ことり。意外な繋がりだ。私ね、高校一緒だったんだ」

 

「マジか、えっ、マジか。じゃあ穂乃果とか海未とかも知り合い?」

 

「知り合いも知り合い、なんならよく喋ってた」

 

「すげえ! 世界は狭いな!?」

 

「で、何? あんた、レズなわけ?」

 

空気が凍った。いや主に私の反応だけど。いや何、言葉にされたら少し戸惑ってしまっただけだ、支障は無い。

 

「……ノーマル、だと思ってた」

 

「あっはは、なに今更隠そうとしてんの。恥ずかしい事じゃないじゃん」

 

いや恥ずかしい。普通に恥ずかしい。

 

「……………そうかな」

 

「そうだよ」

 

でも、なんとなしに言われた言葉が妙に嬉しかった。なんとなしに言われたからかもしれない。口をついて出る言葉は本心だ、というのをどこかの本で見た。なら、綺麗事でなく、私のこの恋をひーちゃんは肯定してくれているのだ。そう考えただけで悩んでいたものが少しだけ、救われた気がした。

 

「……ありがとう」

 

「ん、お礼言われるような事したかな」

 

「私が言いたいんだよ」

 

「うん、いや、ならいいけど………。ってアンタ、泣いてない!? どうした!? らしくないよ!?」

 

「うるさい、それと泣いてないし。これは鼻声なだけだし」

 

らしくない、なんて自分が一番わかっている。だけど、まあ。今日ぐらいはらしくなくなってもいいだろう。人間とは考える葦であるというくらいだし。意味合いが微妙に違う気がするけれど、そこはそれ。

 

「うん、じゃあ。私切るわね」

 

「えっなんで」

 

「これから感動の告白でしょーが。昔からあの子達の面倒見るのは慣れてたし、ここでいつまでも出しゃばるほど無粋でもないわよ」

 

「……うん、そっか。ありがとう。ちゃんと気持ち、伝えてくるね」

 

「はいはい。ことりもことりでなんていうか、変わらないよね本当……それじゃあ、後で結果と進捗だけ教えてね」

 

「前者はともかく後者はわからん」

 

それだけ言って反論が来る前に切ってやった。今度焼肉でも奢ってやろう、安い店でだけど。と心に誓った。

 

……。

 

 

さあ。電話を手に取って、今こそ想いをしっかり伝える時だ。

 

思い立ったら即行動、後悔なんて後ですればいい。いつだったかお酒の席で、穂乃果が昔零していた言葉を思い出した。

 

不思議と、あの子が言うと妙な説得力がある。心を鷲掴みにされて、ぐいっと引き寄せられるような力。そういうものが、あの子にはあるんだろう。

 

勇気を借りた。

 

覚悟も決めた。

 

よし。

 

 

短いコール音も長く感じた。それは偽物にしてしまったあの日の言葉と想いによく似ている。今度こそは、と息巻いて言葉を紡ぐ。

 

「もしもし」

 

私が知っている声よりも幾分か落ち着きを感じる声に、またどきりとした。また深呼吸。ことりの心配する声に大丈夫、と返してまた深呼吸をした。

 

大事な話だから、よく聞いてね。

 

うん。

 

突然で驚くかもしれないけど、どうしても今日伝えたかった。

 

 

 

 

 

あの日の言葉と一字一句同じ言葉を、ことりに伝えた。

 

 

 

 

今度は、今回こそは絶対に、偽物にしない。本気なんだ、と伝えた。

 

 

簡潔に、あまりにも飾りっ気のない言葉。普段の、今までの私ならば臆病で、笑い飛ばさなければやっていられないような言葉。

 

でも、今日ぐらいは。背中を押されたんだ、黙っていれば女が廃る。しどろもどろになりながらも、丁寧に、きちんと想いを込めて。

 

「ことり、好きだ」

 

ああ、言ってしまった。うん、後には引けない。なぜだか自然と、さっきよりも涙が溢れてきて。

 

 

たった3文字の短い言葉だけど、私達が心を通わずには十分すぎた。

 

電話越しに、ことりも私も二人で、その日の夜まで、今までの思いや想いを伝え合った。

 

ここに、繋ぐ手がないのが残念だけれど、臆病な私達にはそれくらいが、丁度いいのかもしれない。

 




一言だけ言いたいので言わせてください。


「荒野行動ドン勝卍」


私の後続の断魂さんにこれを書けと強制されたのでお伝えしました。
では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。