kalmia’s short stories   作:ゐろり

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しゅーゐちです。前回のみょんきちに引き続き久し振りに小説を投稿させていただきます。
最近Twitterでは絵ばっかり描いておりハメ作家であることを私自身が忘れそうになる始末です。今回はリハビリの意味も兼ねて短編を書きました。拙い文章ではありますが見てくださると幸いです。

なお注意としましては今回の話にはμ'sのfinal後の世界について私自身の解釈を多分に含んでおります。気を付けて読み進めていただきますようお願いいたします。


四月一日病

 大学三年生の僕には同い年でロシアと日本のクォーターの彼女がいる。

それもかつて日本で知らない人はいないと言われた伝説のスクールアイドルグループ「μ's」の元メンバーだ。

 街を歩けば誰もが振り向き彼女の一挙一動に魅了される。本当に僕なんかの彼女でいいのだろうかと思ってしまうくらいに完璧な女性だ。

しかしそう言うと彼女は決まって「君はちょっと自己評価が低すぎよ」と言って静かに笑う。僕個人としては思ったことをそのまま口にしているだけなので多分彼女が過大評価しているのだ。

 

 さて、そんな僕らだが恋人関係になったきっかけは今から三年前の春。四月一日の事だった。アキバドームでのファイナルライブを終えた彼女は丁度家路についていたらしい。僕自身も元々μ'sのファンだったためライブの余韻に浸りながらアキバドームから家に帰る途中だった。

 柄にもなく涙を流しながら歩いていた僕は近くの児童公園に寄ってしばらく自分の涙が止まるのを待っていた。その時だった。彼女が初めて僕の前に現れて、四月一日病を発症したのは。

 

「あっ……!!」

 

 後ろから女性の苦しむ声が聞こえ何事かと振り向くと右足を抱えながら蹲る金髪の彼女がいた。この時は事態の深刻さに僕自身が慌てていたため彼女がμ'sのメンバーだとは少しも思わなかった。

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

「は、はい。大丈夫です…いたっ…!」

 

「ああもう…ほら、とりあえず荷物持ちますので僕の肩に掴まって!」

 

「え、えぇ……?」

 

「そこにベンチがあるので一度休みましょう。ええっとこの時間はもう病院空いてないはずだからコンビニで応急処置できるものを…」

 

「すみません、見ず知らずの私にここまでしていただいてしまって…」

 

「いいんですよ。困った時はお互い様ですから」

 

「あの、助けていただいてこんな事を聞くのも申し訳ないのですが一ついいでしょうか?」

 

「は、はい。なんでしょう?」

 

「あなた、私達のファンの方ですか?」

 

「えっ…私達というと…」

 

「だって、あなたの肩にかかっているタオルにμ'sってロゴがあるから」

 

「ってことは……えっ嘘でしょ…?」

 

「こんな格好で申し訳ないけれどさっきまでライブやっていたμ'sの一人、絢瀬絵里です」

 

 改めて顔をあげて肩を貸していた彼女の顔をよく見てみる。目が醒めるような美しい金髪、サファイヤのような碧眼、雪のように白くしかし微かに赤みを帯びた肌、間違いなく僕のμ'sでの一番の推しの「絢瀬絵里」その人だった。

 

 

 

「いやしかしまさかあ、あ、絢瀬さんだったとは…」

 

 一先ず児童公園についた僕は絢瀬さんをベンチに座らせコンビニで応急処置出来そうな道具を一式買ってきた。

 

「私はてっきり正体がバレているものだとばかり思っていました」

 

「いやもうなんていうかすごい痛そうにしてたから誰か確認とる余裕なかったです…」

 

「優しいんですね」

 

「そんなんじゃないですよ。今こうして話してるのだってほぼ奇跡のようなものですし…あっそういえば足は大丈夫ですか?」

 

「はい、さっきよりはだいぶマシになったんですけど…まだズキズキします」

 

「まさかさっきのライブでなにかあったんじゃ…」

 

「いえ、そういうわけでは……たださっき急に右膝が痛み始めて……」

 

「急に……生憎僕は医療系の知識はほぼ無いのでなにもいいアドバイスができなくて申し訳ないです…」

 

「あっいえいえ!本当に介抱していただいただけでも本当に感謝しかありません」

 

 

 

 しかし不謹慎ではあるがこうして足を痛めているおかげでエリーチカと間近で話せる日が来るなんて。絵里推しの人に見つかったら多分死ぬまでタコ殴りにされそう…

 

 

 

「あの」

 

 

 一人で歓喜に浸っていると隣にいた絵里さんに話しかけられた。

 

 

「あ、はっはい!なんでしょう!?」

 

「あなたは、いつからμ'sを好きでいてくれているんですか?」

 

「えっ…と、オープンキャンパスで歌っている映像をネットで見てからです」

 

「あ、私が加入してから初めてのやつですね。ふふっ嬉しいなぁ」

 

「はい。それで、その、PVで初めてあなたを見た時一番輝いているというかキラキラしていて。凄く、綺麗だと思いました…」

 

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいです」

 

「しかし、どうして急に?」

 

「なんでですかね…誰かの声が聞きたいと思ったんです。ついさっき今が最高って歌ってきて、もう何も悔いは無い。それは本当です。でもお客さんやファンから見た私達って、どう映っていたのかなって思っちゃったんです」

 

「どうって…」

 

「あ、ご、ごめんなさい!いきなり聞かれてもびっくりしちゃいますよね…」

 

彼女の質問の意図がこの時の僕には理解できなかった。でもそれは今まで僕がμ'sのみんなからたくさんのものを貰ってきた事へのお礼を言える絶好のチャンスでもあった。

 

「…僕は、今日まで画面越しのあなたたちだけをしか見てこれませんでした。ライブに参加したのもこれが初めてです。でも、でもですね。僕はμ'sを知った時からずっとあなた達から勇気や希望、元気、励まし、数え切れないほどの大切なものを貰いました。たくさんの人達が僕と同じようにたくさんの物をあなたたちから貰ったんです。

今日のあなた達がどう見えていたか気になるって言ってましたよね。そんなの決まってますよ。世界で一番、今が最高!でした。」

 

「あっあれ、その…、おかしいな…もうとっくに涙は枯れてるはずだったのに、なんで…」

 

 

 僕の話を聴き終わった彼女は静かに涙をこぼしていた。僕も驚いたけれど、多分彼女が一番驚いていたと思う。まさかライブで全部出し切った後に泣くとは思わなかったのだろう。

 ふと、泣いていた彼女は僕の背中に頭をもたれてきた。憧れのアイドルに何をされているのか理解出来ず一瞬固まってしまった。

 

 

「あなたの言葉、本当に、本当に、心の底から嬉しかった。でも、今だけこうさせて下さい。胸がいっぱいになっちゃって、どうにかなっちゃいそうで」

 

「わ、わかりました」

 

 

 どれくらいこうしていただろうか。色々落ち着いたらしい彼女は顔を上げた。

 

 

「えっと、急にこんなことしてごめんなさい…」

 

「あ、え、え、っと、大丈夫ですよ気にしないでください」

 

 一方僕はというとさっき感謝を述べた時とは打って変わってさっきよりガチガチに緊張していた。

 

「あの…一つお願いがあるのですが、よろしいですか?」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「少しの間だけどあなたと話せてすごく楽しかったです」

 

「それはもちろん、僕の方こそこれ以上ないくらいに幸せな時間でした!」

 

「それで、またこうしてあなたとお話できたら嬉しいなぁと、思ったのですが…」

 

 

 そう言いながら彼女は顔を真っ赤にしながら携帯の画面を見せてきた。そこには某メッセージアプリのQRコードが出されていた。それが何を意味するか、すぐにわかった。

 

 

「えっ!?ぼ、僕なんかとまた話してくれるんですか…!?」

 

「はい、あの、嫌でした…?」

 

「そんなわけありません!僕なんかで良かったらまた是非お話ししてください!」

 

「よかった…今までずっと女子校に通っていたのでこうして男性に自分の連絡先を教えるなんて生まれて初めてで、緊張しちゃいました」

 

「僕も女性に連絡先を教える日が来るとは思っていませんでした」

 

 そう言って二人で笑った。

 

「そういえば足の方は大丈夫ですか?」

 

「あ、そういえば…すっかり忘れてました。もう痛くないので大丈夫です」

 

「それはよかったです!それじゃあ夜も遅いですし、そろそろ帰りましょうか」

 

「そう、ですね」

 

 

 そうして僕らは小さな児童公園の前でまた会って話すことを約束して別れた。

 

 あの出来事があってから僕らは色々な事を話した。実は同い年だった事、お互い家に両親がいない事、好きな食べ物、その日あった面白い出来事、弱音、愚痴。気づけばお互いに話し、話されいつの間にか世間で言う恋人関係になっていた。

 

 

 

 

 

 大学二年の四月一日、あの日と同じ時間に僕に電話してきた。

 

『ま、また痛くなってきちゃって…!どうしよう…!?』

 

「落ち着いて。今すぐ君の家行くからちょっと待ってて!」

 

『うん……お願いだから早く。来てっ…!』

 

 

 家から痛みを止めるのに使えそうな道具をあらかた引っ張り出した僕は自転車で彼女の家に行った。僕らが会うきっかけとなった彼女の足の痛み。あの時は知らない間に足の痛みが引いていてその後も大した痛みも無かったためそれほど気に留めてはいなかった。しかし去年の今日、それも同じ時刻に連絡して来たということが偶然にしてはできすぎているような気がしてならず一抹の不安が消えないまま彼女の家に自転車で向かった。

 

 それから5分ほどで彼女の家に着いた。どうやら妹の亜里沙ちゃんはスクールアイドル部の友達と遊びに行っているらしく家にいなかった。そのため俺に白羽の矢が立ったというわけらしい。

 

「取り敢えず応急処置するから患部を見せてみて」

 

「う、うん…」

 

 そういうと彼女はおっかなびっくり痛む場所を俺に見せてきた。

 

「去年と同じ。赤くなっているわけでも内出血しているわけでもなさそうだ。」

 

「そ、そうなの…?」

 

「そうなのって…そのくらいは自分でも確認していると思ってたんだけど」

 

「だ、だって本当に痛くて痛くてパニックになっちゃったんだもん…」

 

「はいはい、じゃあ次は痛むところ押してみるから痛かったら痛いって言ってよ」

 

 そう言って僕は傷んでいるであろう右膝をグイグイっと押してみた。

しかしどういうわけか彼女は痛がる素振りを見せない。

 

「どう?痛い?」

 

「ええっと…痛いことは確かに痛いけどあなたに押されてるから痛いわけではないというか…」

 

「つまり俺に押されて痛いわけでは無いんだな?」

 

「そういうこと、だと思う」

 

「えーマジで処置のしようがないじゃんかこれ…」

 

 時刻は午後9時を回った。もう病院も空いてる時間はとうに過ぎている。

これからどうしようか悩んでいたその時だった。

 

「いっ……!?あっ、ぐっ…あああああっ!?」

 

「お、おいどうした!?」

 

「痛い、痛いのっ…!ものすごく痛っ…たぁっ…!」

 

「っ…!わかった、すぐ救急車を!」

 

「うんっ…はやくし…」

 

 突然痛みを訴え出した彼女だったが急に声を発しなくなってしまった。

 

「おい、絵里!大丈夫か!?返事をしてくれ!絵里!」

 

 なにがなんだか分からず呼びかけてみるも返事がない。

 いよいよおかしい。携帯に119を打ち込みコールボタンを押そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと私は真っ白な世界に立っていた。足は相変わらず痛いけれど歩けないほどではない。一体どうしてしまったというのだろうか。

 取り敢えず周りに何もないのか確認するために真っ白な世界を見渡してみる。すると遠くに人が立っているのが見えた。もしかしたら何かわかるかもしれない、話しかけてみるためにそこに向かった。

 

 そこに立っていたのは一人の小柄な女性だった。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 話しかけてみるも返事がない。聞こえていないのだろうか。

 

「すみません!ちょっとよろしいですか!」

 

 今度はもっと大きな声で話しかけてみる。しかし結果は変わらず彼女は微動だにしない。あまりに返事がないので肩を少し叩いてみることにした。

 しかしそこで気付く。彼女には触れることができなかったのだ。多分これはホログラムのようなものなのかもしれないと自分を納得させていると彼女の周りにたくさんの映像が流れてきた。

 そこには様々な女の子がいた。警察官みたいな子、ちょっとエッチだけど頭がいい子、武装しながら歌っている子、誰が誰かなんてさっぱりわからないけどなんとなく他人には思えなかった。

 他にも色々な人の映像が流れてきたけれど最後に流れてきた映像にはこれまでの子とは違う女性が写っていた。他でもない目の前の目を瞑っている女性だった。

 

 その女性がどういう人なのかは全くわからなかった。でもどういうわけか私がμ'sだった頃に着ていた衣装と同じ衣装を着てアキバドームで踊って歌っている姿が映し出された。どういうことなんだろうか、全く意味がわからない。

 

「えっあれは一体何…?本当に何!?私…では絶対ないわよね…彼女黒髪だし…」

 

 しばらくぼうっと流れている摩訶不思議な映像を眺めているととあることに気付いた。

 

「あっ…彼女右足にテーピングを巻いている…しかもあんなに…」

 

 それに気付いた瞬間ホログラムだった彼女がこちらに歩いてこちらに向かってきた。

 何をするのかと見ていたら突然私の右足の前で跪いた。そしてそっと膝に手を当てたかと思ったら彼女は急に光の粒子になった。そしてその粒子は私に降り注いだ。

 その刹那、たくさん流れていた映像は全て閉じられ真っ白だった世界には水色の光が降り注いだ。それと同時に私の頭の中には、私ではない誰かの、それも恐ろしくリアルな記憶が流れてきた。

 膝の半月板が外れてしまったこと、手術によりどうにか良くなったこと、激しい運動ができないということを知ったこと、膝のせいで出るはずだった大舞台に二度も三度も出れなかったこと、それでも最後に笑ってありがとうを伝えるために様々な努力をしたこと。そして笑いながら、泣きながら、「今が最高」と言えたこと。

 

 これは紛れもない彼女の記憶だ。彼女が経験してきたことだ。

 

 そのことにやっと気付くことができた。

 そして、確信があるわけではないけれど彼女の正体も分かった気がする。

       

       

       彼女の正体はーーーー

 

 

 

 いよいよコールボタンを押そうとしたその時、絵里は急に俺の手を掴んできた。

 

「ちょっと待って!」

 

「絵里!?目が覚めたのか!」

 

「うん、膝ももう痛くない」

 

「それは良かった…でも一応なにかあるかもしれないから明日一緒に病院行くよ」

 

「あら、もしかしたらもう痛くなることはないかもよ?」

 

「なんでわかるんだよ」

 

「なんでもー!でも、もしまた私の膝が痛くなったら君が支えてくれる??」

 

「そりゃあもちろん、当たり前だよ」

 

「ふふっそっかぁ……」

 

 そう言って彼女は笑った。そしてこの笑顔を最後に彼女の足の痛みは発症しなくなった。結局僕には痛みの原因がわからず終いだったけど、絵里はそうでないらしくそれとなく聞いてみたけど彼女は笑って誤魔化された。

絵里曰く「この痛みが無かったら君とも出会わなかったからね」とのことらしく案外嫌な経験ではなかったとよく話す。

 そして彼女はいつも決まって四月一日にのみ発症していたこの痛みに「四月一日病」と名付けた。

 




いかがでしたでしょうか??
私以外の三人はもっと素晴らしい作品を書いておりますのでそちらの方も期待していてください!
評価、感想などは随時受け付けております。
次回の担当「kalmiaで一番のイケメン-断魂-」(☆5)です、お楽しみに!!
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