とある過負荷の上条さん   作:あきしょう

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7月20日④

「『不幸だ』」

 

 結局あの騒ぎの後、小萌先生にこんな時間までお叱りをうけるはめになり(顔は最後まで真っ赤なままだった)、そのせいで最終バスも乗りすごしたので昨日に引き続き今日も歩いて帰るはめになった。

 まったく不幸としかいいようがないよ!

 

 ちなみに青髪ピアスは初めは小萌先生にしかられると荒い息を吐きながら喜んでいたようだったけど、学生が禁止されている店に入ったということで生活指導のゴリラ教師から厳重注意(ガチ)を受けていた。実にいい気味である。

 

 見上げれば空は夕焼けで真っ赤にまぶしく輝いている。もう少したてばあたりは真っ暗になるだろう。

 いや、この都市には本当の夜なんてこない。どこに行っったって街灯が立ち並び、人工の灯りが足元を照らし、闇という恐怖から俺たち学生を守ってくれている。

 

 それはとても便利で安心なことだけれども、俺はあんまり好きじゃない。だってなかったことにするのは俺の専売特許だからね。

 

「『あいた!』」

「ん?」

 

 考えごとをしながら歩いていたせいで、向こうから歩いてきた人に気づかずぶつかってしまった。

 相手は肩まで届く短めの茶髪の、中学生くらいのかわいらしい女の子だった。

 女の子とぶつかるなんてこれぞジャンプの王道のヒロインとの出会い方だ。だが生憎とぶつかった拍子に倒れたのも手をさしのばされたのは俺のほうだった。いや、これはこれで文通り逆にありかもしれないな。

 

「ごめんごめん。ちょろーと考え事しててさー。大丈夫?」

 

 そういって女の子は俺のことを持ち上げる。しかもまさかの片手で

 

「しっかしあんた軽いわねー。しっかりご飯食べなさいよね。ま、前見てなかったそっちも悪いんだしこれでチャラってことで」

 

 やめてくれ! 俺のライフはもうゼロよ! 違うんだ。聞いてくれ。俺は別にヒョロイわけじゃない。 ただ、食べても食べても体重が増えないだけなんだ。

 

 そんなことを考えている間に彼女はどこかにいなくなってしまった。あたりを見回してもどこにもいない。

 

 やれやれ

 

 勝手にぶつかって、勝手に助けて、勝手に去っていく。実に超能力者(エリート)らしいね。

 

「『相変わらずなようで嬉しいよ。』

 『美琴ちゃん』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わる。

 

 インデックスを追っていた魔術師の片割れ、ステイル=マグヌスはいつも以上に険しい顔で歩いていた。

 それは見ただけで人を殺してしまいそうなほど恐ろしい形相だった。

 

 タイムリミットが近づいているにもかかわらずインデックスがいまだ保護できず、

 

 こんな神秘を冒涜したような町に来るはめになり、

 

 そしてなにより自身の相方である神裂からの報告が彼をこれほどまでに苛立たせていた。

 

 少し前のこと。

 普段の姿からは想像できないほど神裂は取り乱した様子で現れた。何があったのか聞いても要領を得ない返答ばかり。それでもあせらず落ち着かせながら少しずつ質問し、なんとか全体像をつかむことができた。

 

 どうやらインデックスを見つけた神裂は逃げる彼女を捕まえるために斬りかかったらしい。もちろん殺す気も傷つける気など全くないただの牽制。インデックスが着ている「歩く教会」をその程度の攻撃では簡単に突破できない……はずだった。

 

 だが結果として、その牽制以外なんの意味もないはずの一撃は彼女の体を深く切り裂いた。

 

 予想外の事態に対して神裂はしばらく我を忘れ、気がつけばインデックスがいなくなってしまったのだという。彼女はまだ混乱している頭をなんとか回転させ、探索と治癒の魔術がある程度使えるステイルを頼ってきたというわけだった。

 

 神裂にはいってやりたいことがたくさんあったが、事態がさっ迫っていることも理解した。怒りを自分の胸のうちに押さえ、探索魔術でインデックスの場所を突き止め急いで迎えに行く。

 

(どうかまだ無事でいてくれ、インデックス!)

 

 右のまぶたの下にバーコードのような刺青を入れ、教会の神父のような真っ黒な修道服を着た赤髪の大男、ステイル。

 

 だがその中身は、好きな女の子(インデックス)を守るために奮闘する一人の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ステイルがインデックスを発見したのは、どこにでもありそうなアパートの通路だった。

 インデックスが倒れているあたりにはまるで凄惨な殺人現場を思わせるほどのおびだたしい血が流れている。だが幸運にもこのアパートの住人はほとんど出かけているらしく、騒ぎになっていなかった。

 

 ステイルは急いで駆け寄りインデックスに群がる清掃ロボットを消し炭に変えると、血で汚れるのも気にせず抱きかかえる。意識はなく呼吸は弱々しいがまだ死んではいない。ステイルはほっと息を吐き、初めてその険しい顔を解いた。

 

 一応出血だけは止めたが、まだ予断を許さない状況に変わらない。インデックスをつれ急いでこの場から立ち去ろうとするが

 

「『うわあああああ』

 『なっ』

 『なにが起きているっていうんだ!?』

 『早く警備員に連絡しなくちゃ!』

 『そ そこの君!』

 『状況を説明してくれないか!?』」

 

 そのなんとも間抜けな声にチッとひとつ舌打ちを鳴らす。

 ステイル=マグヌスは今、非常に苛立っていた。

 少なくとも自分の邪魔をするものは、一般人だろうがなんだろうが灰に変えることに一切の躊躇を持たない程度には。

 

灰は灰に(AshToAsh)塵は塵に(DustToDust)!」 

 

「『……へ?』」 

 

吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」

 

 何が起きているのか理解していない顔のまま、さけようとするそぶりもせず、通りがかっただけの少年は炎に呑み込まれた。

 

「恨むんだったら、不用意に首を突っ込んできた自分の不注意を恨むんだね」

 

 そういいながら自分の軽率な行動を少し反省する。それは人1人の命を奪った罪悪感からではなく、騒ぎになって周囲に人が集まるのが面倒だからだ。

 

「『おいおい出会い頭に襲ってくるだなんて』

 『これだから最近の若者は』

 『とかなんとか言われちゃうんだぜ』」

 

 予想だにしなかった後ろから聞こえてくる声。

 ステイルが驚いてとっさに振りかえると

 

「『残像さ!』」

 

 なぜか満足そうな、どや顔全開の上条がいた。

 

 残像もなにも肉を焼いた感触がまだ手に残っている。だが目の前の男は五体満足の状態で焼けあと1つない。あまりにも非現実的な光景にステイルは少年への警戒度を数段階上昇させる。

 

「『ひょっとしてその子はインデックスちゃん? 』

 『インデックスちゃんじゃないか!?』」

 

「……この子のことを知っているみたいだね。君は何者だい?」

 

「『俺は上条当麻。』

 『ここのアパートに住むただの学生だ』

 『彼女とは一晩1つ同じ屋根の下ともに過ごし、あまつさえ下着まで見せてもらった間柄さ』

 『そういう君は…』

 『インデックスちゃんがいってた悪い魔術師だな!』」』

 

「……君の聞くに絶えない戯れ言は聞き流すとして。僕は()()を運ぶのに今とても忙しくてね。見逃してあげるからどこにでもいってくれないかな」

 

「『そいつは聞けねえ相談だな』

 『俺は女の子に暴力をふるうやつが』

 『この世で一番ゆるせないんでね』」

 

 ステイルは抱えていたインデックスを優しく床におろし、やれやれとばかりに首をふると、殺意をこめた目で睨み、詠唱を始める。

 お前に構っている時間はないと言わんばかりに。

 

炎よ(kenaz)巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!」

 

 巨大な炎の塊が上条に迫るが、慌てることなく笑ってそのまま受け止める。当然上条の体は高熱で肉が焼けただれ、黒炭に変わっていくのがわかるが、先ほどの光景を再現したように次の瞬間何事もなかったかのようにその場で立っていた。

 

「『暴力でしか人と関われないなんて』

 『なんてかわいそうな人なんだ』

 『だけどきっと君も』

 『子供の頃はお母さんの言うこと何でもきくようないいこだったにちがいない』

 『俺は君を見放したりはしないよ』

 『だから安心して何度でも攻撃しててくるがいい!』」

 

(嫌なところをついてきたな…… )

 

 今の状況、ステイルが一方的に上条を攻撃しているようにみえるが、実際追い詰められているのはステイルの方だ。

 上条という男はどうやら体を消し炭に変えてやっても即座に元通りになる回復能力のようなものを持っているのだろうとステイルは推測する。これではいくら攻撃しても無意味だ。

 

 一方、上条はステイルに攻撃する必要はない。このまま戦いが長引けばそう遠くないうちに騒ぎをききつけた誰かがやって来るだろう。上条はただこのままステイルの魔法を受け続けているだけで目的を達成できる。

 

 ステイルは追い詰められている。まずその事実を素直に認めた。

 

世界を構築する五大元素の一つ(M T W O  T F F T O)偉大なる始まりの炎よ(I I G O I I O F)

 

 ゆえに出し惜しみすることなく切り札を切る。

 

それは生命を育む恵みの光にして(I   I   B   O   L)邪悪を罰する裁きの光なり(A  I  I  A  O  E)

 

 呪文の詠唱と同時に大量のルーン文字がかかれた紙がばらまかれる。それらは生き物のように飛び回り壁にぴったりと張り付いた。

 

それは穏やかな幸福を満たすと同時(I    I     M     H)冷たき闇を罰する凍える不幸なり(A  I  I  B  O  D) その名は炎(I I N F)その役は剣(I I M S) 顕現せよ(I C R)我が身を喰らいて力と為せ(M   M   B   G   P)

 

 ステイルの魔法名、Fortis931。その名の意味は

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 必ず殺す。

 魔女だろうが不死者だろうが、邪魔するものは例外なく焼き殺す!

 

 そのために生まれた魔王が咆哮をあげ、上条に向かっていく。

 

「『はー』

 『長々と噛みそうな呪文ご苦労様』

 『すごいすごい』

 『でも無駄だってまだ分かんないかなー』」

 

 さっきまでなにも仕掛けず黙って詠唱を聞いていた上条はあきれた様子でステイルを見ていた。

 

「言ってろ化け物」

 

 摂氏三〇〇〇度の炎の巨人と、そんなとんでもないものが近づいてもニタニタ嗤っている不死の男。化け物同士が相対する吐き気を催す異様な光景。

 

 ところで、化け物退治にはそれぞれ定石というものがある。魔女は火炙り、ドラゴンは酒。そして不死者はひたすら殺し続ければいい。生き返ったそばから殺していけば、それは死んでいることと変わらない。

 

 ステイルはその事をよく知っていた。

 

「ああ、そうだ。1つ君に忠告してあげる」

 

「『ん?』」

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)は人間の体なんて近づいただけで塵にする、自動追尾機能つきの僕の切り札さ」

 

「『ふーん?』

 『そりゃすごーい』」

 

「そしてなにより、このアパートじゅうに貼られた計10000枚のルーンを()()()消さない限り、魔女狩りの王(イノケンティウス)が消えることはない」

 

「『…………え?』」

 

「まあ、それでも君は死なないんだろうが…、一生死に続けていろよ、化け物」

 

「『ちょ!』

 『ま!』」

 

 

 その言葉に嘘はないと感じた上条は逃げようとするが、時すでに遅し。周囲の壁と魔女狩りの王(イノケンティウス)によって上条は囲まれていた。

 

「一応僕も神父だから、最期に言いたいことがあるんだったら聞いてあげるよ」

 

その言葉に上条は

 

「『…………』

 『いやだよ』

 『死にたくない』

 『あやまるから許して』

 『俺が悪かった』」

 

涙を浮かべて命乞いした。

 

「やれやれ。最期がそんな言葉なんて」

 

 ステイルはやれと魔女狩りの王(イノケンティウス)に指示すると、インデックスを背負って上条とは反対方向に歩きだす。

 

 

「君って本当に道化だね」

 

「『◼◼◼◼◼◼◼!!』」

 

 叫び声が後ろから聞こえてきたが、ステイルは振り向きさえせず立ち去っていった。

 

 

 




今日中にもう一本あげたいなあ
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