とある過負荷の上条さん   作:あきしょう

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遅れながら何とか書けた…



7月23日(後)

 結論から言おう。上条はやっぱり負けていた。

 

 やっぱり? なぜかって?

 それは上条当麻は不幸と敗北の星の下、生まれた男だからだ。

 道を歩けば犬に噛まれ、石につまずき財布を落とす。ポーカーでフラッシュを揃えても相手はフォーカード何てことはザラ。席替えのくじでは可愛い女の子の隣になるなんてこともなく、いつも教壇の真ん前だ。そして戦えばカブトムシにすら劣る。それが上条当麻という男。

 

「『まったく 開幕と同時に敗北シーンだなんて』

 『ワンパターンにもほどがあるよ… 』

 『神様ってやつがいたら』

 『もうちょい考えて欲しいもんだぜ』」

 

 軽口をたたいてはいるものの、もはや全身は切り傷だらけで、服は血でべっとり染まっており、満身創痍のなにものでもない。立つのもやっとなようで足はぶるぶると情けなく震えている。

 それでも彼の目には光があり、膝はまだ地に着いてはいない。

 膝がつかなければ負けてないといわんばかりに斬られてもきざまれても殴られても殺されようが倒れようとはしなかった。

 

「もう…いいのではないのでしょうか。今ここで倒れても誰もあなたを責めたりしません。負けを認めるというのも勇気です」

 

 だが、そんな覚悟も神裂の前では意味がない。

 隙をつくとか、工夫をするとか、そんなものでは補え切れない圧倒的な力の差。

 負けることを義務付けられた彼と、勝つことを約束された彼女。

 この光景は始まる前から分かりきっていたものだった。

 

「『いやいやまだ負けたわけじゃないぜ』

 『ほら 痛みもなくなってきた』

 『これって治ったってことなのかな』

 『それとも壊死する前兆かな』」

 

 と、上条は再び新たな螺子を取り出して神裂に向かって突撃し

 

「『ま』

 『どっちでも同じか』」

 

 あっけなく神裂の七つの斬撃によって迎撃された。

 

「七閃」

 神裂火織が使用する戦術の一つであり、ワイヤーを使った中遠距離用の格闘術である。その威力はコンクリートすら一瞬で砕くほどであり、上条は7方向からのこの一斉攻撃に太刀打ちできずにいる。

 

「あなたが罠を張ろうが知恵を絞ろうが策を練ろうが仕掛けを打とうが方法を考えようが意表を突こうが計画を立てようが裏をかこうが無駄なことです。それを許せるから私たちは聖人なんて呼ばれている」

 

「『聖…人……?』」

 

「世界に20人といない、生まれた時から神の子の力を持って生まれた人間のことです。彼らはみな『神の力の一端』をその身に宿し、人間を超えた力を使うことができます。そしてそれがそのままあなたが負ける理由でもあります」

 

「『だから』

 『負けてないって』

 『それも』

 『君みたいな罪もない女の子をいじめるような人にはね』」

 

「………ッ、」

 

「『神裂さん 君は知っているのかい?』

 『俺もつい最近聞いた話なんだけど彼女は一年前から記憶がないんだ!』

 『そんな風になるまで女の子を追い回すようなやつらに俺は絶対に負けたりしないよ!』」

 

 上条は涙を流しながら大げさな手ぶりで非難する。

 

「『そんな聖人なんていうとんでもない力をもっているのに』

 『どうしてそんなひどいことができるんだ!』」

 

「私だって好きでこんなことわけではありません‼」

 

 神裂は上條の言葉に我慢できずに告白する。

 自分とインデックスは同じ組織に属しており、大切な友人であったと。

 そして、彼女がそのことを覚えていないのは、自分が記憶を消してしまったからだと。

 

「こんなこと私だってしたくなかった‼ こんな、あの子を傷つける力なんて!」

 

 しかしそれは

 

「いらなかった‼」

 

 上条の、過負荷にとって地雷をふみぬく行為だった。

 

「『ふざけるなよ!』」

 

「…え?」

 

 地獄の底から這いよってくるような恐ろしい声。

 歯を砕けんばかりにかみ締め、眉間をよせ、こちらを睨みつけている。

 

 彼は誰から見ても分かりやすいほど激怒していた。

 いつもなにがあってもへらへらこちらを馬鹿にしているように笑っている上条から想像できないほどのその豹変振りにさすがの神埼も言葉が出ない。

 

「『神裂さんがどんな理由でインデックスちゃんの記憶をうばったのか知らないし、興味もない』

『でもこれだけは言わせてもらう』」

 

「『奪った(勝った)やつが』

奪った(勝った)ことを』

『嘆くな‼』」

 

 それは敗者としての矜持であり、それを踏みにじった神裂の先の言葉は許せるものではなかった。

 

「『インデックスちゃんは記憶を失おうが苦しかろうがいつだって笑ってたぞ!』

『それに比べて君はなんだ!』

『どんなきれいごとを並べたてたところで』

『君は所詮俺たち過負荷以下の』

『薄汚い勝者にすぎない』

『神裂さんの魔法名--救われぬものに救いのてをだっけ?』

『ばーか』

『誇りなき勝者が意志ある敗者を救えるわけがねえだろが!」」

 

 上条は怒りに任せて喋り続ける。

 

「『あんまなめんなよ』

『勝負を』

『そして人生を』」

 

「……だったら」

 

 もしも、の話をしよう。

 例えば、今ここに立っているのがインデックスのことを本気で心配している正義感ある少年だったなら。

 神裂の行為を許せないと感じる正しい男だったなら。

 神埼は彼の言葉を流していただろう。

 

 だが、あくまでもそれはもしもの話。今ここにいるのは、最低(マイナス)で最凶(マイナス)な過負荷(マイナス)、上条当麻。そして彼の過負荷(マイナス)は最悪(マイナス)なことに周囲にも大きな影響を与えてしまう。

 そう、たとえ相手が彼女のような聖人だったとしてもそれは例外ではない。

 

「だったら! どうしたらよかったって言うんですか!!」

 

 いや、彼女だからこそその影響は大きかったのかもしれない。

 理性的な彼女だからこそ、発散されることなく数年間ただ貯まる一方だったストレス、鬱憤、不満。

 行き場がなかったそれらは、ステイルが危惧していた通りに、今爆発する。

 

「私だってこんなことしたくなかった!」

 

 上条という、正しい行き場を見つけて。

 

「でも! そうしなければあの子は死んでしまう!!」

 

 神裂は言葉を発しながらも、それは上条に伝えようとか、説明しようとか、自分のやっていることを正当化しようとか、そういった意図は全くない。

 

「彼女の脳のほとんどは! 10万3千冊の魔道書の記憶のために使われてしまっている!!」

 

 それは、ただの感情の発露で、暴力で、いってしまえば八つ当たりであった。

 

「残りの容量は15%程度! 並みの人間と同じように記憶していけばすぐに脳がパンクしてしまう!!」

 

 もやは理性というコントロールを失った彼女は、感情の赴くままに無抵抗な上条を殴る。殴る。ひたすら殴る。

 

「しかも! あの子には完全記憶能力がある!! 無駄な記憶も忘れられない彼女では、一年も持たない!!」

 

 肉は裂け、骨は骨折を通り越して粉砕し、内臓は破裂している。

 圧倒的な力の前に、すでに彼の体で無事な場所など存在しない。

 

「だから!定期的にあの子の記憶を完全に消去しなければならない!!」

 

 それでも彼女は殴り続ける。上条はどうせ死なないからとか、そんなことは記憶に残っているかも定かではない。

 

「そんな絶望的な状況で! 私はいったいどうすればよかったっつぅんだよおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そこに、イギリス正教、必要悪の教会に属する聖人の姿はどこにもない。

 

 あるのは泣きながら八つ当たりで暴力をふるう、1人の少女と

 

「答えてみろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」

 

 それでも倒れずに不気味な笑みを浮かべている少年だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなことでも終わりというのは必ず来る。

 だから、いつまでも続くと思われた神裂の虐殺が終わるのも当然のことではあった。

 数分後か、数十分後か、数時間後か。

 肉がつぶれ、骨が砕ける音が止む。

 それは神裂が冷静になったから、というよりも怒りがようやく収まった、というほうが正しい。

 

 神裂の、聖人の暴力を一方的にひたすら受けた上条は悲惨だった。

 生きているのを疑う、いや生きているほうがおかしいと目を背けたくなるほどにそれは人間の形をしていない。

 

「わ…私は……」

 

 ここでようやく、彼女は自分がしでかしたことを理解し、頭が多少冷えた彼女は上条を見る。

 それは異常な光景だった。すでに耳は聞こえず、口は利けず、目は見えず、息はできず、血は足りず、物は握れず、痛みすら感じない体で、彼は確かに二本の足で立っていた。

 

「……見事です、上条当麻。あなたのその勝利に対する貪欲さだけは評価に値します。あなたは私が戦ってきた中で最も強い敵でした」

 

 そういってきびすを返す神裂。

 結局彼女は上条を地に伏せることはできず、ふたりに大きな傷と気まずさを残したこの戦いに、勝者なんてものはない。

 

 ………………

 ………

 …

 

「『なーんてそんなきれいな結末を上条さんが許すわけないだろう?』」

 

 神裂が振り替えると、上条がケロッした顔で立っていた。その姿に先ほどの悲惨な様子は欠片もないが、事前にステイルに聞いていた神裂には驚きはない。だがなぜ今まで能力を使わなかったのかという疑問は残る。

 

「『いやーようやく準備が完了だ。』

『俺の能力って細かいコントロールが効かないんでね』

『さすがに時間をかけざるを得なかったよ。』

『だって、一歩間違えたら世界そのものを消してしまうからね』」

 

 そんなかの神裂の考えをよそに、分けの分からないことを言いながら足元の地面に刺さっている()()を片足でいじる上条。

 

「『ずっと負けないためにどうすればいいか考えてたんだ』 

『神裂さん』

 『君に殴られたショックで思いついたんだ ありがとう!』」

 

「あなたはさっきから何を…」

 

「『さてこっからは第二ラウンドの時間だ。』

 『だからちょっと場所も変えさせてもらうよ』」

 

 上条は螺子を踏み足に力をこめ始める。

 なにをやろうとしているのかは神裂には分からない。だがろくでもないことだというのは分かっていた。それも先ほどから神裂の戦士として培われてきた生存本能が大音量で警鐘をあげるほどの何かを。

 

「やらせません!」

 

 神裂は刀を抜き上条へと駆け寄るが一歩遅く、

 

「『あ』

『それでは皆さんご唱和ください』」

 

 螺子が完全に地面に突き刺さった。

 

「『It's All Fiction!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒後、

 

 唐突な暗闇。

 急速な落下感。

 

 そんな感覚のなか、神裂はかろうじて現状を理解した。

 

 --自分は今、墜落していると。

 

(なにが起きたというのです!?)

 

 神裂は動揺を押さえ、なんとか落下速度減速のための魔術を行使した。自分が落ちている大穴の深さによってはその行為に意味は持たないが、その心配は杞憂に終わる。

 穴に落ちた神裂を待ち受けていたのは、数十メートルほどの深さにあった地下ショッピングモールの一角。彼女は持ち前の身体能力を使ってなんなく着地した。

 自身の無事を確認し、見上げてみるとモールの天井に大きな穴がぽっかりと開いている。しばらくしてようやく自分はあそこから落ちてきたのだと認識できた。

 

「……ありえません」

 

「『何があり得ないんだい?』」

 

 呆然とする神裂に、いつの前にか現れた上条が声をかける。

 

「こんな……こんなことどうしたらできるって言うんですか! 一瞬で地面に大穴を空けるなど…聖人にだってできません。いえこんなことできるとしたら…それは!」

 

「『おいおい』 

『神裂さん』 

『それは買い被りが過ぎるってもんだぜ』

『俺はただなかったことにしただけさ』 

『俺が伏して負けるはずだった地面をね』」

 

「地面を……なかったことにした……?」

 

「『そう』

大嘘憑き(オールフィクション)

 『現実(すべて)を虚構(なかった)ことにする能力。』

 『ただそれだけの下らない過負荷(マイナス)さ』」

 

「すべてをなかったことにする!? でたらめにもほどがあります! それこそあり得ません!」

 

「『現実を見ないことは過負荷(マイナス)の専売特許だぜ』

『権利侵害はいけないな。』

『でもよかった』

『運よくちょうど下にショッピングモールがあって』  『じゃなきゃ今頃ブラジルまでまっさかさまだ』」

 

「! あなたは真下にこの空間があると知って使ったのではなかったのですか!?」

 

「『あはは 買いかぶりすぎだぜ』 

『神裂さん』

『俺がそんなこと知っているわけがないじゃないか』 

『俺はただ好きなだけさ』 

『スリルとリスクで神経削る分の悪い賭けってやつがさ!』」

 

 上条の能力と考えなしの無鉄砲さに今度こそ絶句する神裂。

 

「『さてこれでようやく心置きなく戦えそうだ』」

 

「…だからどうだというのですか? あなたと私の力量の差は身を持って分かったことでしょう。場所を変えようと何をしようと無意味です」

 

 神裂の言うとおり上条の行動に意味はない。

 確かに面を食らったがそれだけだ。自分は今、こうして五体満足でほとんど傷もなくたっている。

 ゆえに、地面をなかったことにするという行為は意味はなく、むしろ下手すれば自分が死にかねない上条の行動には首を傾げるしかない。

 

「『確かに過負荷は無意味で無価値だけれども』

『今回ばかりは意味はあるさ。』

『インデックスちゃんを遠ざけるっていうね』」

 

「え!」

 

 いや、意味はあった。

 インデックスを近づけさせないという重要な意味が。

 

「『俺は反省ができる男でね。』

『前回みたいにインデックスちゃんに途中で勝負に割り込まれてうやむやになってしまうことだけは避けたかった』」

 

「あなた…まさか、そのためだけにこれほどのことをしたというのですか!?」

 

 彼は、初めから神裂のことなど見てすらいなかった。

 彼はずっと戦う前からインデックスだけを警戒していた。

 だって彼が戦うのはいつだって弱者(涙を流す子)ではなく

 

「『【君が次になにかとんでもないことをしようとしたら、私が絶対に止めてみせる】…か』

 『そんな恐ろしいことを言われたら地面に大穴空けて逃げるしかないじゃないか』」

 

 強者(涙を流さない子)なのだから

 

「『だから俺は悪くない』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見くびられたものですね。インデックスがいなければ勝てるとでも?」

 

「『何をいっているんだい? 君もさっき知っただろう? 大嘘憑き(オールフィクション)。それさえあれば君のインデックスちゃんを救いたいっていう思いをかなえてあげられる。ほら、俺たちが戦う理由なんてもうどこにもない』」

 

 その通りだ。上条の大嘘憑き(オールフィクション)はインデックスを救う確かな方法であるはずだ。彼に頼んで完全記憶能力をなかったことにしてもらえばいい。イギリス正教からの介入は間違いなくあるだろう。しかし、それは自分たちが守ればいい。命懸けになるだろうが、これまでと違って希望はある。

 

なのに、神裂はさっきから自分の中でまとわりついて離れないある考えが上条に頼るのを躊躇させていた。

 

「『インデックスちゃんの完全記憶能力と魔道書の知識をなかったことにすればいい。』

 『それでオールオーケーさ』

 『あ』

 『ついでにインデックスちゃんが神裂さんたちに追われていた記憶も消しておこう!』

 『インデックスちゃんの記憶は戻ることはないけれど』

 『なに悲しむことはない』

 『俺たちで一緒に新しい記憶を造っていけばいいことさ』」

 

 上条の語る誰も争わず傷つくことのない未来像。

 たぶんそれは理想的な光景なんだと思う。

 それはずっと自分が思い描いてきたものだ。

 

 だがこうも思ってしまう。

 記憶も、能力も、信念も、今もっているなにもかもを剥ぎ取られたインデックス。

 

「それは…」

 

 それは、もう、インデックスではないのではないか。

 

 考えたくないのに、そんな呪いの言葉が頭から離れない。

 

「あなたは、自分が何を言っているのか分かっていっているのですか?」

 

「『だからさ-』」

 

 しかし、上条は何でもないようにきって捨てる。聞き分けのない子供にあきれているように

 

「『インデックスちゃんみたいな形をしてインデックスちゃんみたいにしゃべってインデックスちゃんみたいに笑う』

 『1/1等身大インデックスちゃん人形を用意してやるから』

 『そいつの尻でも追いかけていろ』

 『ていってるんだよ』」

 

 今のインデックスを助けるのは難しいから、インデックスにそっくりなもっと助けやすいやつを助けて自己満足に浸っていろと、彼はこともなしげに言う。

 当然、神裂はそんな悪魔の言葉を受け入れることなど到底できない

 

「そんなことできるわけ!」

 

「『できるよね』

 『だって』

 『それは君がいつもやってきたことじゃないか』」

 

 しかし上条は有無も言わさず否定する。お前が今までやって来たこと、そして今からやろうとしていることとなにが違うのかと。

 

「『君たちは』

 『これまで何人のインデックスちゃんを殺してきたんだい?』」

 

「わ、私たちは……」

 

 

 遺伝子的には全く同じ2人の人間がいても、歩んできた人生が違えば、それはもう全くの別人だ。記憶を奪うとは、1人の人間を殺すことと同義である。

 

 上条はその事を、悪意をもって神裂が最も傷つく表現で伝えた。

 

 

「『握手をしよう』」

 

 上条は右手を差し出す。何気ない普通の動作だが、神裂の背筋に生理的な嫌悪感が走る。まるでギチギチに箱につめられた蟲を見せられている気分。こいつと握手を交わすぐらいなら、腕をこの場でぶった切ったほうがいいと感じてしまうほどだった。

 

「『俺たちはもう敵じゃない。』

 『いや 同じ志をもった仲間といってもいい』

 『大丈夫 神裂さんにはいろいろとやられたけれど おこってないよ』

 『ぜーんぶ 水に流してなかったことにしてある』

 

 そう言いながら上条は神裂に向かって歩き出す。

 ゆっくりとした速度。まるで神裂に自分が一歩一歩近づいているのを見せつけるかのように歩く上条。

 神裂ならばそんな彼を近づけさせないのは分けもない。

 

「『だから』」

 『最後に握手して仲直りしようじゃないか』」

 

 だが神裂は動かない。いや動けない。

 なぜなら神裂を縛るものは絶望でも過負荷でもない、ほかならぬ神裂自身がずっと望んでいた、インデックスをこれ以上傷つけなくてすむ、という希望(マイナス)だからだ。

 

 上条は歩みを止める。もう上条と神裂との距離はほとんどない。

 

「『さあ神裂さん』

 『汚れきった君に似合わないその美しい手を』

 『自分で差し出して』

 『僕の手を握り返すんだ』」

 

 それは、一緒にインデックスを助けようという誘いであり

 同時に、一緒にインデックスを殺そうという提案でもあった。

 

 彼が美しいといった自分の手を見る。確かに傷一つない真っ白な手だ。だが神裂にはもはやそれは何度も他人を傷つけた汚れきったものにしか見えなかった。

 

 もう、彼女を傷つけなくてもすむのなら

 すでに自分の手は汚れきっているから

 

 そんな過負荷(マイナス)な思考が彼女の心に侵食し始める

 もう彼女の心は折れかかっていた。あとなにか1つの決め手で完全にぽっきりいってしまうほどに。

 

「『決めてるんだ』

 『争いごとが起こったとき 俺は善悪問わず』

 『一番弱い子の味方をするって』

 『だから俺はきみの味方だ』

 『頼ってくれていいよ』

 『神裂さん』」

 

「わ……私は」

 

 そろそろと、ゆっくりと、だが確実に神裂は手を伸ばしていく。

 上条はその彼女の弱弱しい姿に、自分の勝利を確信した。

 

 

 だがここであえてもう一度あの言葉を言わせてもらう。

 上条当麻は、敗北と不運の星の下、生まれてきた男であると。

 

「え!」

 

 それを証明するように、上条が何かにつまずいた。

 それは普段なら気にも留めないような、小さなくぼみ。

 予想外のことでバランスを大いに崩した上条は、そのまま前に倒れこんだ。

 そう、前にいる神裂へと。

 

「どいてええええええええええ!!」

 

「へ!? きゃああああああああああああ!」

 

 勢いよく神裂に倒れた上条だったが神裂がクッション代わりになったらしく怪我はない。

 だがおかしい。上条は思う。口にあるこのやわらかい感触はなんだろう?と。

 

 上条が恐る恐る目を開けると神裂の真っ赤な顔が目に映る。

 そしてその感触の正体は神裂の唇であり、上条と神裂は互いに唇を交わした状態で倒れていた。

 

 慌てて離れた上条だったが、しばらくさっきまでとは別の意味で気まずい空気が二人の間に流れる。

 

「上条当麻」

 

「『…………はい』」

 

「あなたの提案に私は今返答することはできませんし、あなたには色々とひどいことをしてしまいました。しかし、あと一発だけ」

 

「『いや』

 『皆まで言わなくてもいい』」

 

 と神裂の言葉を遮って素直に顔を差し出す上条。その顔どこか達観しているように見える。

 

「…わかりました。ではせめて痛みも感じさせないよう一撃で沈めて差し上げましょう」

 

「『うん 神裂さん』

『でも最後にこれだけは言わせて』」

 

「歯ァくいしばれええええええええええええ!!」

 

「『不幸だああああああああああああああああ!!』」

 

 神裂の思いが込められた本気の一撃になす術もなく吹き飛ばされ、そのまま地に伏す上条当麻。

 

 今日もまた、彼の勝てるかも知れないという幻想はぶち壊されたのであった。

 

「『そげぶ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




敗北と不幸の星「2名様ブラジルまでごあんなーい」
神裂さんの幸運「させるかーーーーー!!」



敗北と不幸の星「ラッキースケベ。好きだろう?」
神裂さんの幸運「ぜえぜえ、すんません! 神裂さん。もう無理っす!」


 といったことをイメージして書きました。
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