問題児と000と弱者の箱庭物語   作:天崎

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温泉回です


男湯と湯煙と運命の悪戯

 

十六夜が湯殿に入ると御門釈天、ルイオス、グリーが酒盛りをしていた。

釈天の周囲には接待の為に集められた女性が集まっていた。

釈天が武勇伝を語っていたようである。

その後、ゲームを交えつつ釈天とアジ=ダカーハの正体に関する考察について話す。

そして、湯から出る直前に釈天は酔った勢いで十六夜に褒美をやると言い出す。

十六夜は少し悩むとグリーを親指で指し。

 

「この男______鷲獅子(グリフォン)の英雄に、相応しい獣王の翼を」

 

______願いを口にした瞬間。

”サウザンドアイズ”の湯殿は、眩いほどの極光に包まれた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

時は少し遡る。

温泉街の旅館にて霧崎とラッテン達は一旦別れた。

ラッテン達が温泉に行くので霧崎は別行動というわけである。

ラッテンに振り回されていた黒ウサギとアーシャが解放されたのは、十六夜が参加していたギフトゲームの終了を告げる銅鑼が鳴らされた頃だった。

アーシャはくたくたになった様子で宿に戻り、黒ウサギはウサ耳を萎れさせてラッテンとアルマの背後を歩く。

初めて仕事をサボタージュしてしまった黒ウサギは、心の底から恨めしそうにラッテンを睨む。

 

「うう…………憂鬱なのです。十六夜さんになんと言われるか…………」

 

「マスター言われてますよ」

 

「え~別に何とかなってたようだし良くない?」

 

「全然良くありませんよ!!」

 

スッパーン!!とハリセンと同時にウサ耳を伸ばしてラッテンの頭を叩く黒ウサギ。

どうもどうやら新しくなって伸縮ツッコミ機能が追加されたらしい。

 

「まぁ何はともあれ温泉よ!!温泉!!」

 

「そうですね。土埃も落したいところですし」

 

「YES!!”ノーネーム”お風呂女子会を開くのですよ!!」

 

ウサッ!!とウサ耳を伸ばして提案する黒ウサギ。

特にアルマとはまだこういう場を設けていなかった。

加入したのが最近なので仕方なくはあるのだが。

しかし、女湯の入口に着くと、”本日貸切”の札が出ていた。

 

「あやや?どなたかが借り切っているご様子なのですよ?」

 

「ん~?たぶん接待じゃない?」

 

耳を澄ませてラッテンが軽い調子で言う。

男湯から歓声が響いているのは聞こえるが具体的なところは分からない。

けれど、ラッテンの耳は少々特殊なので会話も多少は聞けるのだ。

おそらく”六本傷”が貸し切っているのだろうとして一同は中に入って行く。

女湯の脱衣所に入ったラッテン達は各々の衣服を脱いで籠に入れる。

途中で誰かの衣服がある事に気付くがあえてスルーするラッテン。

脱ぎ捨てるように全裸になり、さっさと湯殿に向こうとした所でアルマに止められる。

 

「何よ?」

 

「せめて、タオルくらい巻いてください」

 

「女だけだし別にいいでしょ」

 

「女性だけでも最低限という物があるんですよ」

 

渋々と言った感じでラッテンは布を体に巻く。

それぞれ用意して湯殿に入ると、全員が感嘆の声を上げた。

 

「これは素晴らしい…………!!」

 

「いいわね~これ!!」

 

一番に声を上げたアルマが早足で進み出る。

西欧出身の彼女にとって露天風呂という文明は物珍しいのだろう。

物静かな彼女には珍しく熱の籠った声だった。

その隣でラッテンもテンションを上げる。

割とさっぱりしているラッテンではあるがこういう物は好んでいるのだった。

 

「お二人とも楽しそうですね」

 

「そうねぇ…………こういう質がいい物は私の好みにストライクなのよね~」

 

「屋内の浴室とは違った趣があってとても良いです。マスターの記憶で知識はありましたが想像以上です。少し湯気が濃いので足元には気を付けねばなりません_________っ、マスター下がって!!」

 

突如声を荒げて二人を庇うアルマ。

ラッテンも風切り音で察していたが体は魔に合わない。

右手から稲光を発したアルマは湯煙の向こうから伸びる蛇蝎の剣閃を弾き飛ばす。

一拍遅れてラッテンは、義手の掌に仕込んでいるギフトカードからハーメルケインを取り出し構える。

視界が不明瞭な為に何者の斬撃か定かではないが、その剣の冴えにアルマは瞳を尖らせる。

今の剣閃は直撃を狙った物では無い。

恐らくは、彼女達の肢体を隠している布だけを切り裂こうとしたのだ。

 

「連接剣………!!此れだけの剣技を持ちながら婦女子の素肌を晒そうとするとはなんという破廉恥な!!一体何者です!?大衆浴場とはいえ許されぬ行為があります!!……………………………ありますよね、マスター?」

 

「いや、別にいいんじゃない?どうせ風呂だし」

 

「聞く相手を間違えました。…………ありますよね、黒ウサギ殿?」

 

「え、ええ。そうですね」

 

「にしても、今の剣どっかで覚えがあるような」

 

アルマの問いに空返事で答える黒ウサギ。

それを他所にラッテンは記憶を遡る。

薄布一枚を的確に狙う蛇蝎の剣閃。

どこかでそれを見た気がしていた。

そして、辿り着く。

それを見たのは”ヒッポカンプの騎手”開幕直後だった。

というよりも、連接剣を使い研ぎ澄まされた剣技をこんな馬鹿な行為に使う騎士は一人しか思い当たらなかった。

湯煙の向こうを見つめながら、ラッテンは適当な調子で問うた。

 

「もしかして女王騎士の仮面の人?確か………………フェイスレスだっけ?こんな所で何してるわけ?」

 

「_______それは、此方の台詞です。この時間帯は私が貸し切っていたはずですが?」

 

華蘭、と桶を叩き付ける音が湯殿に響く。

湯煙の向こうで姿は確認できないが、その声は紛れもなく女王騎士フェイスレスの物だった。

ラッテンはハーメルケインをギフトカードに戻す。

何処か静謐な雰囲気を漂わせるフェイスレスだが、今の声音には焦燥らしきものが感じられた。

そして、ラッテンは息遣いから何か別の感情を押し殺しているような何かも感じていた。

何はともあれ、珍しい声音だとは思われた。

とはいえ、勘違いして入って来たのはラッテンたちだ。

一応入浴していいかどうかを問うべきなのだろう。

ラッテンは後頭部を掻きながら湯煙の奥へと進む。

すると、また連接剣による蛇蝎の剣閃が放たれた。

 

「これはどういう意味かしら?」

 

「そのまんまですよ」

 

金属音と共にラッテンは問う。

今度は義手の左腕で防いだのだった。

切断する気の剣閃ならともかく布を剥ぐ為の剣閃なので義手でも防げたのだ。

だが、今の剣閃は殺気が微量だが混じっているのを感じた。

今の言葉にも何処か自嘲するような色を感じた。

具体的には何も分からないのでそこは聞かないが何やら近付いて欲しく無い理由があるようだ。

 

「背中くらい流すけど?」

 

「いりませんよ」

 

「黒ウサギはフェイスレス様には助けられた覚えがございます!!お礼になるかどうかは分かりませんが、背中の一つでも流させてくださいな!!」

 

「結構です」

 

「あら、意外と冷たいのね」

 

「そんな事はどうでもいいので人の話を聞いてください!!」

 

何やら慌てて湯水を掻き湧けて離れていく音がした。

女王騎士の慌ただしい姿などレア中のレアでは無いだろうか。

ラッテンの悪戯心に火が付くと同時に一つの可能性に思い当たる。

もしやと思い湯煙の向こうへと問いかける。

 

「貴女……………もしかして、仮面外してる?」

 

「______ッ!?」

 

その瞬間。

湯殿に居合わせた全員に衝撃が走る。

そう、それ故の貸切なのだ。

どんな時でも仮面を外さなかったフェイスレスが今、姿を晒している。

この美味し過ぎる状況にラッテンの悪戯心は最高に高まる。

口の端が釣り上がる。

その笑みのまま叫ぶ。

 

「アルマ、邪魔しないでよね?」

 

「分かっていますよ」

 

「よし」

 

言うなりに緑色の硝子玉を湯煙に向けて投げる。

そして、霧崎から貰った硝子玉を指で弾く。

直後に緑色の硝子玉を中心に小規模とはいえ、風が発生し、湯煙が薄くなる。

 

(風の恩恵!?何故彼女が?)

 

フェイスレスは内心で叫びながら正面を警戒する。

あくまで小規模なので完全に湯煙は晴れてはいなかった。

なので、場所は分かっても顔は見えない状況だ。

少しずつ後退しながら近付いてくる物音に警戒する。

だが、その警戒は不意討ちによって破られる。

 

「ひゃッ!?」

 

「意外と可愛い声出すじゃない」

 

いきなり、尻を撫でられて思わず声を上げてしまう。

体を震わしてしまうが、一瞬で我に返る。

反射的に振り向こうとする体を押さえ込み、逃れる様に走ろうとする。

それよりラッテンの手の方が速かった。

曲がりなりにも悪魔であるラッテンは音を立てずに水面を歩ける。

なので、踏み出しの音すらも無い。

反応し切れず、手が脇を通り抜け、胸をまさぐる。

 

「うひゃあッ!?」

 

慣れない刺激にまたも声を上げてしまうフェイスレス。

その声にゾクゾクしながらラッテンはフェイスレスに足払いを掛ける。

まさぐられる胸に意識が集中していたフェイスレスは避けることすら出来ずに足払いを受けてしまう。

フェイスレスの体が浮くのと同時にラッテンは自分の方に正面が向いて倒れる様に調整を入れる。

激しい音と共にフェイスレスは尻餅を着くような形で倒れる。

つまり、ラッテンと向き合う形となる。

 

「_______ッ!!」

 

「え?」

 

フェイスレスは恨めしそうにラッテンを睨む。

しかし、ラッテンはその視線に反応することは出来なかった。

フェイスレスの素顔を見た瞬間にラッテンは固まっていた。

端整な顔付きに蒼い瞳、それ自体は何の問題も無い。

ただ、その”顔”がラッテンを固まらせた。

見覚えなどあるはずも無い。

なのに、何故か運命的な何かを感じさせるのだった。

 





温泉回前編でした
え?全然温泉じゃないって?
まだ前編ですから!(笑)

ラッテンの反応については次回で!


それでは、質問があれば聞いてください
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