華蘭、と鹿威しの音が湯殿に鳴り響く。
一騒ぎはあった物の今は落ち着き、静かに寛いでいる。
黒ウサギは背筋とウサ耳を伸ばし、蕩けそうな声を漏らす。
「何とも麗らかな時間なのです。最近の激務が嘘の様なのですよ」
「確かにね~。素晴らしいと言えるレベルの湯ね。どっかの騎士様は今の状況が不満なようだけど」
「………………そんなことは無いですよ」
横目でフェイスレスを見ながら言うラッテンに、イラッとした様に否定するフェイスレス。
どうやらまだ怒っているらしい。
とはいえ、ラッテンが見る限り先程の件よりも一人になりたいのを邪魔されたのが原因っぽく思えはしたが。
湯桶を被っているせいで顔は見えないが息遣いなどである程度は察せるのだった。
表面上は落ち着いているが、内心ではかなり溜め込んでいると感じていた。
それを察しながらもアルマは、コホン、と咳払いをして注目を集める。
「外部の方がいますが、こうして裸の付き合いが出来る場を設けられたのも何かの縁。此処は一つ、”ノーネーム”の現状について少し話し合いませんか?」
「現状といいますと?」
小首を傾げる黒ウサギ。
素振りだけで耳を傾けるフェイスレス。
アルマは指を三本立てて問題を提議した。
「まず、”ノーネーム”は長らくリーダーが不在の状態です。此れによって滞っている執務が多々あります。一番大きい案件は、新たに加盟したいという申し出を保留にさせていただいていることでしょうか?」
「YES。対魔王、対”ウロボロス”を目的とした大連盟の案件でございますね」
ピッとウサ耳を立てる黒ウサギ。
「此方は盟主を”ノーネーム”とし、”六本傷”、”ペルセウス”、”ウィル・オ・ウィスプ”を中心に締結。保留とさせていただいているのが”サラマンドラ”、”
「まったく”
”鬼姫”連盟は四桁の下部組織が集まって出来た少し特殊なコミュニティなのだ。
事情が込み入っている故に仕方ない面があるというわけである。
「そして此方から誘いを掛けているのが”
「は?」
此処で
そこから白夜叉が不在な今、下層の秩序を守る為には三桁の
それならば、三頭龍の戦いにおいていち早く立ち上がった女王に話を通すのが良案ではないかという話があること。
フェイスレスが
などをフェイスレスに話した。
それに対してフェイスレスは自身が実力で第三席に身を置いているのでは無く、とある恩恵を持っているからという事を話し、自身が女王に勅命を受けており自身が
それに加えて槍使いのメイドが派遣されたら逃げることを勧めるのだった。
話が一段落するとアルマが手を上げる。
「女王の件はわかりました。ですがその返答を受け取ったとしても、対応できる者が今の”ノーネーム”には居ません。頭首不在となれば女王の機嫌を損ねる事も考えられます。………………黒ウサギ殿。私が言わんとしていること、理解していただけますか?」
直接的な言葉を避けてアルマが告げる。
本題に入ろうとしていることを察した黒ウサギは、ウサ耳を伸ばして頷く。
「………………此れ以上、ジン坊ちゃんの帰りを待つことは出来ない。そういうことでございますよね?」
「ええ。此れだけ巨大な大連盟を築くとなれば、盟主は代行を立てるわけにもいかないでしょう。新たな頭首を選出する段階に移らねばなりますまい」
厳しいアルマの言葉に、一同は黙り込む。
ジンとアルマは出会ったことは無いが、ラッテンの記憶にはあるので知ってはいる。
だからこその言葉である。
捕虜の交換に一縷の望みを託してはいたが、”ウロボロス”から連絡を受けないことには動きようが無い。
大連盟の盟主に代行を立てることは容易いが、ジンが帰って来た時に改めて頭首に戻ることは不可能だろう。
「ジン殿は己の意志で”ウロボロス”に残ったと聞き及んでいます。きっと彼にしか成せぬ
「…………YES。少なくとも今の様にコミュニティの動きが停滞することをジン坊ちゃんは望んではいないのです」
そこで黒ウサギは一旦言葉を切る。
確かに新たな盟主は必要だ。
しかし、それを誰にするかという問題があった。
候補としては十六夜、映司、霧崎の三人が有力ではあるが選び難い部分もあった。
そこでしばらく黙っていたラッテンが口を開く。
「それなら、霧崎が頭首でいいでしょ」
「何故霧崎さんなんですか?」
「基本的には消去法ね。まずは映司だけどアレは上に置くべき奴じゃないでしょ。上に置いておくより自由にさせた方がいい人材よ。というより、下手に上に置いたら暴走しそうな気がするし。十六夜に関しては
「そう……………ですね」
「それに霧崎は意外に全体を見れるし、無茶はしないから割と安牌ではあるのよね」
「まぁ………そこには同意ですね」
アルマも黒ウサギもその部分には納得した様に頷くのだった。
しかし、それはそれでどう頭首と認めさせるかという問題はある。
けれど、そこらへんはクロアが当てがあるとは言っていた。
何でも前頭首の推薦に加えて各方面に調整を加える準備自体はあるらしい。
何はともあれ一先ず話は纏まりはするのだった。
だが、本人が了承するかどうか別ではあったが。
◆◆◆◆◆
「くしゅん」
「どうした?」
「いや、たぶん何でもない」
何処かで噂をされているのか霧崎は前触れも無くくしゃみをするのだった。
鼻を啜りながらコーヒーを口に含む。
十六夜と霧崎は宿近くのカフェにいるのだった。
「それで、何処から話したものかね………………」
「お前が話しやすい様にしてくれればいいが」
「まぁ、まずは俺が最初に参加したゲーム辺りかね」
そう切り出して自分が体験した事を順次語り始める。
ワームの様な禁人種との戦い、”
十六夜は静かにそれを聞いていく。
「一、二年の内にそんだけ経験するとかお前も結構な人生してるんだな」
「本当にそうだよな~」
霧崎は苦笑するように同意する。
霧崎自身もとてもでは無いが良い思い出とは言え無い体験ばかりだった。
「まっ、何はともあれ生き残れただけで御の字みたいなもんだよ」
「そういうもんか」
「思うとこも変わるとこもあったとは思うけどそんなもんさ。逃げてばっかだったツケを払わされた分もあるだろしな」
「それで何で戦場カメラマンになったんだ?」
「見てみたくなったんだよ。あんな糞みたいな気分を、人を殺した気分を好き好んで味わってる馬鹿の顔をさ。色んな理由はあるんだろうけど、
溜息を吐くようにしながら言う。
十六夜も戦場は一度見た。
それゆえにその凄惨さも経験している。
だが、霧崎はそれよりも多くの物を見てきたのだろう。
霧崎は胸のポケットからボロボロになった宝くじを取り出す。
「なんだそれ?」
「絶対に当たるはずだったけどハズレちまった宝くじさ。俺のお守りだ。これがハズレた時はメチャクチャがっかりしたんだけどさ、同時に嬉しかったんだよな。この先どうなるかなんて決まってないから好きにすればいいって言われたような気がしてな」
笑ながら言う。
どこかの刑事に似たような話をしたような気がするが特に気にしてはいない。
十六夜の方を見ながら付け加えるように言う。
「”運命”なんてそんな程度なもんじゃねぇかと思うんだよ。だから、お前も何時までも悩んでる必要は無いと思うぞ?お前はお前らしくお前の道を進めばいんだよ。とはいえ、一人で抱え込み過ぎるのも駄目だけどな。それで待ってるのは破滅に近い物だからな。それで泣くのは女の子だし、そんな涙は見たく無いしな」
「…………そうか。確かに悩んでも仕方ないのかもな。けど、
「
逃げて逃げて後悔しまくった過去を思い出しながら霧崎は言う。
とはいえ、自分の言葉が合っているとも思ってはいない。
どう答えを出すかなんて個人による物なのだから。
温泉回終了~かな?
え?温泉回らしいきゃっきゃっうふふが無かった?
あのメンバーで期待出来るとでも?
冗談として話の流れ的に仕方なかったのですよ
それでは、質問があれば聞いてください
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