「俺の一番の後悔はあの時、あの子を助けられなかった事だ」
映司は己の始まりから話し始める。
中東の紛争地帯で女の子を救えず、目の前で死んだ事を。
その後家族の政治的利用の為に自分だけが救い出された事を。
あれが始まりではあった。
あれによって映司の中での様々な事が変わったのだ。
十六夜も、霧崎も黙って話を聞いている。
二人も紛争地帯に行ったことはあるし、その凄惨さも知っている。
だからこそ分かる物もある。
晴人も察しはしていた。
「それから旅を続けて、久し振りに日本に帰って来た時にアンクに出会い、オーズの力を手にしたんだ」
今朝出会った刑事と異形の腕を助ける為に映司は戦いに身を投じたのだ。
そして、映司の欲望は満たされた。
その時は自覚は無かったが戦いを続けていく内に理解する事になる。
それからはグリードとヤミーとのオーメダルを巡った戦いが続く。
その裏で動いていたのが鴻上会長だ。
鴻上ファウンデーションという巨大企業の会長であり、オーメダルを錬金術師たちに作らせた先代オーズの子孫。
欲望こそが進化を促すエネルギー、欲望こそが人を輝かせる素晴らしい物という信念に基き行動する鴻上会長は悪意は無い。
だが、悪意が無いからこそ問題を起こす。
元を正せばノブナガも、恐竜メダルも、アンクロストも、錬金術師ガラも、ポセイドンも悉くが鴻上会長が原因であった。
鴻上会長とは別に暗躍する者いた。
真木清人、鴻上ファウンデーションの研究員である。
彼の思想は美しい物は美しいままに終わらせるべき、つまり終末を信念とする物だ。
カザリに裏で協力し、グリードを使った実験を繰り返していた。
全てはグリードの暴走を利用して世界に終末を齎す為に。
様々な想いと欲望が乱れる中で大きな変化が起きるのは恐竜メダルが解放された時だった。
「恐竜メダル、紫のメダルの欲望は”無”。だから、俺の空っぽだった欲望の器に共鳴して俺の体内に潜り込んだんだ」
更にアンクの半身であるアンクロストも動き出し状況は巡り巡り変化していった。
映司は体内に入った紫のメダルによってグリード化が進行する。
同時期に真木も体内に紫のメダルを取り込みグリード化をしていた。
そして、全ての転機はアンクがアンクロストに取り込まれた時だった。
アンクを取り戻す為に映司はアンクロストと戦い、勝利した。
その際に紫のメダルの真の力が判明する。
無の欲望の力は欲望の塊であるコアメダルを破壊する事が出来たのだ。
グリード達は肉体を失ってもセルメダルさえあれば復活出来る不死の存在ではあった。
だが、紫のメダルはそのグリードに死を与える。
アンクは失われていた半身を取り戻すが、同時にコアメダルを三枚失っていた。
グリードにとってそれは致命的だった。
それゆえにアンクは失われた物を取り戻す為にメダルの器になることを決断した。
アンクはグリード側に付いたのだった。
それからグリード達との戦いは苛烈になっていく。
九枚のメダルを揃えて完全体になるグリードも現れた。
その圧倒的な力の前に映司たちも押され始めるが映司のグリード化が進行した事によって辛くも勝利していく。
グリード達が散っていく中で映司は遂にアンクと直接対峙する。
ぶつかり合う中で映司は自身の欲望を自覚する。
「俺は力が欲しかったんだ。力が、何処までも届く腕がね。全てを守る為の力をずっと欲していたんだ。だから、アンクにオーズの力を貰った時には叶っていたんだ。俺の欲望は満たされていたんだ」
アンクの望みは”命”を得ること。
グリードは五感が薄い。
それゆえに求める。
人間の欲望を喰らう事で自身の欲望を満たす。
だが、アンクの欲望は簡単に満たせる物ではなかったのだ。
ゆえに欲望の器になろうとしていたのだ。
ぶつかり合い、映司は遂に完全にグリード化する。
その暴走を止めたのはアンクだった。
だが、トドメを刺す事は出来なかった。
共に戦う内に情が移っていたのだ。
それを見た真木はアンクを見限る。
そして、最後に残ったグリード、ウヴァをメダルの器にして暴走させて全ての終末を始める。
和解した映司とアンクはそれを止める為に真木と戦う。
アンクの力を使ったコンボで真木を打ち破り、欲望の器を破壊する。
欲望の器崩壊の余波によって映司の体内にあった紫のメダルは全て砕けた。
それによって映司のグリード化も消える。
しかし、同時に真木によってヒビを入れられていたアンクのコアも割れてしまうのだった。
アンクの意志、仲間達の呼び掛けによって映司は人の手を掴むという事を理解する。
何でも一人で出来るという事は強いというわけでは無い。
何処までも届く腕、それは人と人が手を取り合っていく事で出来る物だと気付く。
「それから、俺はアンクのメダルを直す方法を探す為に世界を旅したんだ」
鴻上ファウンデーションの研究員という扱いで映司は世界を巡った。
真木との決戦でメダルは失われたがそんな物は関係無かった。
そして、真木との決戦から時が経った後に未来からの敵が現れる。
それは真木との決戦の時に出現したワームホールによって未来に送られたメダルをその身に取り込んだ存在だった。
突如現れたアンクと共闘し、敵からメダルを奪いオーズの力を再び手にする。
未来の仮面ライダーと共闘し、敵を倒すとアンクも姿を消した。
アンクは未来で復活した存在であり、敵が発生させたワームホールによって現代に来ていたのだ。
映司は頑張ればまたアンクに会えると確信し、再び旅に出る。
「それからは知っての通りだよ。箱庭に来て、アンクを復活させる事が出来たというわけさ」
「望みは叶ったというわけか。………………お前、もう”ノーネーム”に、箱庭にいる理由が無いんじゃないか?」
「いや、あるよ。黒ウサギちゃんとの約束はちゃんと果たさないといけないからね。それに大ショッカーを放置したら俺の世界も危ないし他の世界も危ないんだ。放っておけるわけが無いだろ?」
「何処までも他人の為か」
「いや、俺の為でもあるさ。もう誰かが悲しむ顔は見たく無いし、あの子のような事は起こしたくないからね」
「そうか、そうだよな。お前はそういう奴だ」
「十六夜君ももっと俺達を頼っていいんだよ?」
「………………」
「晴人君も言った通り、一人で抱え込んでもどうにもならない時はある。俺達は仲間なんだから頼ってくれないとむしろ困るよ」
「善処する」
そう言いながら十六夜は時計を見る。
長話を聞いていた事もあってそれなりに時間は経っていた。
御門釈天の食事もそろそろ済んだ頃だろう。
「そろそろ戻るか」
「そうだね」
「ラッテン達も風呂上がった頃だろうしな」
「これから予定はあるのか?」
「釈天の奴に話を聞きに行く予定だけど、お前らも来るか?」
映司達は頷く。
一行は宿に戻る為に会計を済まして店を出る。
「確かに一人で悩んでても仕方ねぇし、色々見る必要はあるよな」
誰にも聞こえ無いような小さな声で十六夜は密かに呟く。
ピースはあらかた揃った。
後は自分で答えを出すだけだった。
◆◆◆◆◆
釈天、クロア、ラプ子Ⅲはアジ=ダカーハと十六夜の関係性、その霊格の正体、そしてディストピアについて語っていた。
第三永久機関がそれらの中核である事が分かり、彼らの正体の推測も立てられたのだった。
「真の理想郷は閉鎖世界を超えた先に在ったのかもなあ。俺達は
「…………そうか。他に方法があったのかもしれないのか」
釈天、クロア、ラプ子Ⅲは共に苦々しい顔で黙り込む。
如何せん魔王ディストピアは強過ぎた。
神殺しという点に於いて奴はアジ=ダカーハを上回っていただろう。
とてもではないが手段を選んでいる余裕も時間も無かったのだ。
しかしそんなことは、病の大流行の犠牲者たちには関係無い。
彼らの怨嗟が世界から消えることは決してないだろう。
「………………キハハ。まあ”人類最終試練”は滅んだんだ。此れからは時間がたっぷりある。機を見て違う方法や年代記がないか、また考察し合おうじゃねえか」
「そうですね。その時は”
「ああ。この件はあの娘こそ時代の生き証人だ。あの時代の支柱となる可能性を秘めているのは間違いない。何としても奴らの手から取り戻さねば」
三人の神霊と悪魔は共に頷き合う。
かつて彼らは、己の未熟を人類に押し付けてしまった。
人が人の手で滅ぶだけならばそれは必定だが、神々の世界の干渉で命が零れるのは間違っている。
今はまだ予断を許さぬ状況が続いているため動けないが、全てが落ち着いてから救いを齎す事を共に誓い合う。
そして、釈天は振り向かずに背後に向けて言葉を掛ける。
「何時まで盗み聞きしているつもりだ?」
「何だ気付いていたのか」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている?」
「酔っ払いのおっさんだろ」
「まぁ、今はそういう事にしておいてやるか。世界の破壊者ディケイドよ」
「今の話を聞いてたらお前らの方が世界の破壊者に見えるけどな」
「痛いとこを突いてくれるな。だがまぁ、今は危害を加えるつもりは無いから出てきたらどうだ」
「まぁ戦うつもりなら傷を治したりはしないよな」
士は物陰から姿を現す。
釈天達は近くに来るように促しながら御猪口を渡す。
士は受け取りながら座る。
「それで?わざわざ声を掛けたって事は何かあるんだろ」
「そうだな。お前と情報を共有して警戒しておきたい事があってな」
酒を口に含みながら話し合いを始めるのだった。
ほぼ映司の語りでした
神魔の誓いを士が盗み聞きしていたのは情報収集目的に近いです
ラッテンはペストの実体験までは知らない扱いです
それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます!