問題児と000と弱者の箱庭物語   作:天崎

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スピーチと軍神の答えと逃げない者

 

 

________”金剛の鉄火場”・本戦当日。

舞台を映し出す巨大な壁と観客席。

黒ウサギは舞台の壇上に上がると、観客席に向かって笑顔で手を振った。

 

「いよいよ”金剛の鉄火場”の本戦開始まで半刻となりました!!今回の審判役は”ノーネーム”所属の黒ウサギと!!第三桁”忉利天”よりゲスト審判で来ていただいた、御門釈天様の実況で進行させていただきます!!」

 

____雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!

黒ウサギが壇上に上がると、鉱山全体を揺らす歓声が起きた。

この舞台で正式に”サウザンドアイズ”専任の審判ではなくなった彼女だが、ファンにとっては関係の無いことである。

何時もの横断幕もバッチリ靡いている。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

控室にて霧崎カブトは頭を抱えて座り、ダラダラと汗を流していた。

結局流されるまま此処まで来てしまった。

 

「俺が頭首ねぇ…………向いて無いはずなんだけどな……………………」

 

顔を引き攣らせながら呟く。

そして、仲間達ならどうするか思い浮かべる。

夜科アゲハならきっぱり断って我の道を行くだけだろう、雨宮桜子ならアゲハの後をついていくだろう。

朝河飛龍も断るだろう、望月朧は…………引き受けても断っても好きにしかやらないだろう。

結局のところ参考になるタイプなど周囲にはいないのだった。

あえて言えば八雲祭なのだが、彼女の場合はカリスマと経験から来る物が大きい。

それを自分に期待できるとは思えないのだった。

その時、控室の扉をコンコン、と叩く音が聞こえてきた。

 

「カブトさん。少しよろしいでしょうか?」

 

「黒ウサギか。いいけど」

 

首を傾げながら霧崎は答える。

黒ウサギは控室に入ると霧崎の様子に苦笑するのだった。

 

「心中お察しいたします。ですが、黒ウサギもカブトさんは頭首に向いていると思いますよ?」

 

「十六夜はともかく映司さんの方が適任だと思うけどな………………」

 

「十六夜さんが向いて無いのは分かっているのですね」

 

「あいつは自由にやらせておいた方がいいタイプだろ。似たような奴を(```````)見てきたからな(```````)。とはいえ、自由にやらせ過ぎると壊れるタイプでもあるから俺達でそこらへんサポートしてやるのがちょうどいいんだよ」

 

「黒ウサギからしたら映司さんもそういう傾向があると思いますよ?」

 

「映司さんはそうなる前に周りを頼れるタイプだと思うけど」

 

十六夜の場合は一人で全部抱え込んで三頭龍に一人で挑んだような事をまたやるだろう。

そこらへんは天戯弥勒に一人で挑み、ミスラを片付けた後にぶっ倒れたアゲハに重なる部分がある。

だけど、映司の場合は違う。

普段から言っている通りに助け合うのが大事だと理解してるし、アンクの様に心から信頼してる味方もいる。

晴人や士などのように同じような力を使う味方もいる。

それに昨日聞いた話から一人で抱え込んだらどうなるかを経験している。

だからこそ、無茶はしないと思えるのだ。

 

「けれど、映司さんも自由に動くべき人材だと黒ウサギは思うのです」

 

「そこは同意だけど、あの人なら自由にやりながらも何だかんだ纏めてくれそうな気がするんだよな~」

 

「期待し過ぎな面があると思います。それに黒ウサギはカブトさんも纏めるのに向いてると感じますよ?」

 

「何処が?」

 

「カブトさんは周囲をよく見ているじゃないですか。その上で慎重に動けるタイプです。大きな組織を動かすには必要な物です」

 

「そうかねぇ………………」

 

「カブトさんは映司さんも向いてると言いましたが、黒ウサギとしては映司さんは少数の集団を纏めるのに向いていますが、規模が大きくなると違うと思います」

 

「………………………だよなぁ」

 

そこで霧崎は観念する。

結局言い訳を挙げていたに過ぎないのだ。

後は受け入れるか、どうかだけの話だった。

 

「黒ウサギはカブトさんなら大丈夫だと思います。ラッテンさんやアルマさんが困った時に支えてくれるでしょうし、そこそこ信頼があるのですよ?」

 

「それ初耳なんだけど」

 

「三頭龍との戦いの時に正面切って言い返して恐慌状態に陥るのを防いだのはカブトさんとラッテンさんです。それにあの時、カブトさんに助けられた人はかなりいるのです」

 

それは事実だった。

あの戦いの時、霧崎は三頭龍の正面で戦い続けていた。

流石に全てとは言い切れないが、多くの攻撃を霧崎が受け止めていたゆえに守られた人は多い。

その姿に魅せられた人は多数いるのだ。

 

「分かったよ。やるよ、頭首」

 

「いいんですね?」

 

「しょうがないだろ?皆して外堀を埋めていくんだから。でも、あんまり期待しないでくれよ」

 

霧崎は諦めた様に、顔を引き攣らせ頭首になることを受け入れる。

これから先苦労するだろうが、それもまたしょうがないと思うのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

______そして、開幕の時間となった。

観客席は一つの空席も作る事無く埋まっていた。

千客万来とは正にこの事だろう。

相変わらず売り子として走り回っていた狐娘のリリは、狐耳をひょコン!!と立てながら品物を捌いている。

今回は他の年長組の少年少女も同じように売り捌いている。

これから先、”ノーネーム”が単独主催するゲームも増えてくるだろう。

少しでも彼らに経験を積ませてやろうという黒ウサギの親心だった。

ちなみに、大ショッカーへの警戒も兼ねて映司と晴人も観客席の陰にいる。

彼らも年長組の様子を微笑ましく見守っているのだった。

 

(十六夜様たちの戦いを見て、将来的に参加者(プレイヤー)を目指す子たちも出て来るかもしれない。そんな時の為に、私がしっかりしないと!!)

 

ひょコン!!と狐耳を立てて握り拳を作るリリ。

丁度、品物が半分ほど捌けたその時。

開幕の銅鑼が一つ鳴り響いた。

 

「大変お待たせいたしました!!”金剛の鉄火場”の本選を始めさせていただく前に、我ら”ノーネーム”の新しい頭首_______霧崎カブトさんから開幕の言葉をいただきます!!」

 

____雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!

割れんばかりの喝采の中、霧崎カブトが進み出る。

壇上に立った霧崎は、マイクを渡されると、冷や汗を流しながら観客の前に立つ。

”六本傷”と”ペルセウス”と、そして旧”      ”の名残を残す赤い布地の旗。

緊張によってバクバクしている胸を落ち着かせる為に掲げられる旗を、そして観客席を見渡す。

 

(ん?)

 

よく観客席を見ると見知った顔があった。

望月朧が笑顔で手を振っていたのだ。

あの顔はこの状況を明らかに楽しんでいる顔だ。

それは霧崎としてはイラッとする物であった。

その苛立ちのおかげか、緊張はすっかり消えた。

下手をして朧に笑い話にされるのも癪である。

霧崎は静かにマイクを近付け、第一声を口にした。

 

「俺は………………………”ノーネーム”の中じゃ弱い方だ。いや、弱いというより守りに特化してる分戦闘じゃ役に立たないだな。アジ=ダカーハの時も正直俺がどんだけ役に立ったかなんて怪しいレベルだ。あの勝利は他の奴らが命を懸けたからこその勝利だとは思う」

 

「________、」

 

そんなことは無いと、観客席の一部から声が上がる。

霧崎が前線にいなければ犠牲の数は大幅に増していただろう。

 

「俺より頭首に向いている奴はそれなりの数がいるだろうし、俺が頭首になる事に不満を感じる奴もいるだろう。俺としても正直他に任せたいところであったんだ。でも、一人はまだ悩んでるしこういう立場を押し付けるべきでは無い奴だ。もう一人は俺より頼りになるけど、自由にしているのが一番な人だ。結果的に俺に回ってくるわけだけど、文句を言いたい奴もいるとは思う」

 

自嘲的に言う霧崎に観客席がざわついてくる。

霧崎はそれでもまっすぐ前を見て続ける。

 

「でも、俺は逃げない(````)。逃げて後悔するのはもう御免なんだ。だから、俺は逃げずに受け入れる。文句を言いたいなら言えばいい。俺はそれを受け止めた上で前に進む。決まった運命なんて無いんだからせめて良い運命へと進めるように俺は頑張りたい。それには、俺じゃ力が足りないかもしれない。だけど、俺には支えてくれる仲間がいる。仲間がいるからこそ逃げずにいられるんだ。仲間を頼ることは別に恥じることじゃないんだ」

 

それは観客以外に、いまだ悩む仲間に向けた言葉でもあった。

霧崎は笑みを浮かべて言い切る。

 

「俺に出来ることは守る事くらいだ。だから、それで全力でやっていこうと思う。頭首として、一人の人間として俺は守りたい物を守っていく。それはコミュニティであり、仲間であり、今いる様な愉快な連中でもあり……………大切な人でもある。でも、俺だけじゃ出来ることも限りがある。だから、その時は力を貸してくれると助かるぜ」

 

対魔王、対”ウロボロス”、対”大ショッカー”の同盟の頭首だからこそそう言うのだった。

観客は同意する様に、賞賛するように拍手を送るのだった。

朧も面白い物を見れたのか笑みを浮かべながら拍手するのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

その時、十六夜は御門釈天と会ってはいた。

つまり、霧崎のスピーチは聞いていないのだが、それでも想いは伝わっていた。

十六夜は恥も外聞も捨て釈天に自分がどれほどの実力か、アジ=ダカーハにどうやったら一人で勝てるようになるか聞いているのだった。

それに対して釈天は弾けるような哄笑で答えるのだった。

 

「そればかりは自分で探せ。此処で見つからない様なら旅にでも出て探して来い。”ノーネーム”はお前が一人がいなくなったくらいでどうにかなっちまうほど、弱くねぇだろ?」

 

御門釈天は十六夜に背を向ける。

これ以上答える気はない、ということだろう。

 

「まあ、不名誉な勝利とはあのアルジュナにして涙させるほどの痛みを伴う。簡単に乗り越えられるものではないよな。ましてや死闘の果てに理解した相手なら尚のことだ。______全く。正義(アレ)(コレ)を背負わされて、さぞかし重たかったろうに」

 

「っ、……………」

 

最後の言葉は、魔王アジ=ダカーハに捧げられた手向けだった。

この善神と悪神の両側面をもつ大神は、誰よりも深くかの魔王のことを理解していたのだ。

 

「なあ、十六夜。駄神の自覚のある俺だが……………お前の痛み、正しく理解しているつもりだ。だからこそ腐らないで欲しいとも思っているぞ。何と言ってもお前の神話は、まだ始まってすらいないのだから」

 

それだけ告げると、御門釈天は笑いを噛み殺して実況席に戻って行く。

後はもう十六夜が決めることだ。

門矢士はまだ口出しするつもりのようだが、後押し程度の物だろう。

それにピースは揃っていた。

あとは十六夜が答えを出すだけなのだ。

歴史の歯車となって世界を救うことになるか。

或いは別の戦いに身を投じることになるのか。

どちらに転んでも……………最高に楽しいに違いないのだから。

 

 





本戦開幕でした!
新頭首は霧崎という事になりました

次回はいよいよバトル開始です

それでは、質問があれば聞いてください
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