蛇蝎の剣閃を左腕で受け止める。
火花が散る中でラッテンはそれでも前に駆け込む。
蛇蝎の剣閃は捻じれ、背後から襲い掛かるが、それはアルマに任せていた。
「ハァァァァァァァァァァァ!!」
「だから、狙いが露骨なんですよ!!」
ハーメルケインによる突きをフェイスレスは蹴り上げる事で対処する。
更に素早く剛槍に持ち替え、槍撃を放つ。
だが、それは魔法陣によって防がれる。
ラッテンは何時の間にか左手に風切り笛を持ち、口元に当てていた。
それによる演奏とハーメルケインを共鳴させて直接ハーメルケインを吹かなくても魔法を発動させたのだ。
だが、遠隔操作ゆえに脆く、既にヒビが入り始めている。
それでも、フェイスレスは踏み込まずに一撃入れると後退する。
あのまま懐に入ればラッテンの思う壺だと判断したのだ。
本来は後方支援型のラッテンがフェイスレス相手に接近戦を挑む事自体が何かを狙っている様に考えているのだ。
おそらく、その内一つはメルン三姉妹による足場崩しだろう。
カウンターを狙ったフェイスレスの足場を崩して大きな隙を作るのを狙っているのだ。
それに加えてアルマティアの城塞が積極的に動かないのも不気味ではあった。
そして、未だに原理不明な風の恩恵の事もある。
ハーメルケインを吹いて起こすのならばまだ分かる。
だが、あの風は髪飾りを弾くという単純動作で発生する。
それのロジックが一切分からないのだった。
ラッテンも余裕は見せながら一定のペースは崩さない。
「さて、そろそろ仕掛ける?」
『今此方から仕掛けるのは愚策ですよ』
「まぁそれは分かってるけどね!!」
ラッテンはそう言うと口にハーメルケインを添えて、演奏を始める。
魔力を伴った音が周囲に響いていく。
「ッ!?」
フェイスレスは直感的に何かヤバいのを感じ取る。
そのまま放っておけば致命的な事態に繋がりかねないと判断する。
弓を持つとラッテンに向けて矢を放っていく。
それも自動防御するアルマティアの城塞に防がれていく。
同時に大きくヒビ割れる様な音が周囲に響き始める。
それに加えて体の動きが鈍く感じる。
ラッテンの本来の霊格はネズミと人を操る悪魔だ。
今は霊格の強化と拡大に伴い、”笛吹道化”としての面が大きくなっている。
それゆえに魔力を込めた演奏によって魔法を発動させるハーメルケインと相性が合致して自在に使いこなせる。
とは言っても、本来の力の方が使えなくなったわけではない。
むしろ、使う機会が無かっただけで強化されているくらいだ。
そう、人を操る力も強化されている。
さすがにフェイスレスを操るレベルでは無いが、動きを鈍くするくらいなら容易い。
ついでに、メルン三姉妹の霊格を魔力を込めた演奏によって強化する。
先程の足場崩しとは比べ物にならない事が起きる。
フェイスレスの足場とその頭上の天井、それら全てを崩壊させたのだ。
大量の瓦礫が動きが鈍ったフェイスレスへと襲い掛かる。
大質量で広範囲の崩落はさすがのフェイスレスでも動きが鈍った上では回避は出来まい。
あとは押し潰れるだけだ。
「さーて、やったかしら?」
『それ、フラグですよ』
「分かってても言いたくなるものよ。仮面の騎士様がこんな力技でやられるとは思えないのよね~」
冷や汗流しながらラッテンは瓦礫の山を眺める。
これは相手が警戒して近付いてこなかった場合の為に用意していた策ではあるが、此処まで上手く行くと逆に心配になるのだ。
アルマもその点に関しては同感なようで警戒は解かない。
そんな二人の警戒に応える様に何かを砕く様な音が瓦礫の山から響く。
「これは……………」
『えぇ、来ますね』
二人が言うや否や瓦礫の山が内から弾けてフェイスレスが姿を現す。
フェイスレスが出てきた場所からは見事にトンネルが出来ていた。
崩落が起きる程度に脆くしたのに加えて落下によるダメージもあってフェイスレスなら砕ける程度の強度ではあったのだろう。
フェイスレスが崩落の中で生き残ったのは彼女の技量ゆえだった。
彼女は足場と天井が崩れる中で瓦礫の崩れ方と落下位置を計算した。
その上で足場を確保しながら剛槍による槍撃を瓦礫に叩き込んだ。
それによって軌道をズラし、ちょうどフェイスレスが避難できる程度の空間が発生する様に調整したのだ。
後は岩を再度崩落させないように気を付けながら瓦礫を砕き、奪取したわけだ。
しかし、それでも無傷では済まなかったようで鎧は傷付き、所々血が流れている個所もあり、仮面にもヒビが入っていた。
「無茶をしますね、貴女は」
「確実に倒すならこれくらいしなきゃでしょう?」
「いいでしょう。どうやら、私は貴女を甘く見ていた様だ。それに詫びるのも兼ねて私の根元たる権能を見せてあげますよ」
言いながらフェイスレスは剛槍をギフトカードに仕舞った。
素手で戦うとは思えなかった。
何より”権能”という言葉の時点で嫌な物しか感じなかった。
なので、ラッテンは短期決戦を仕掛ける為にアルマに跳び乗る。
「仕掛けるわよ、アルマ!!こうなれば力技で押し切る!!」
『了解ですよ、マスター!!どうなろうが知りませんからね!!』
鍾乳洞が崩れるのではないかというほどの稲妻が迸る。
実際に先程の崩落もあってポロポロと破片が落ちてくる。
ラッテンはハーメルケインを吹き、アルマの霊格を更に強化する。
これがフェイスレスの思惑通りの行動だとしても力技で押し切るという気迫を持って叫ぶ。
「この一撃を持って、あんたの面倒くさいしがらみごと吹き飛ばしてやるわよ!!」
雷霆と成った山羊座の星獣が嘶きを以て応える。
大気が熱膨張を起こして雷鳴を響き渡る。
ギリシャ神群最強の楯は、今正に最強の矛となってその頭角を向ける。
一度この迅雷が奔れば、万象の全てが灰燼に帰すことは必定だ。
この星獣の一撃は原子すら残さず仇敵を討ち滅ぼすだろう。
(雷霆に比する一撃。此れは流石に躱せませんね)
守ることなど出来はしない。
いなすことなど以てのほか。
ならばどうすればいいのか_________そんなのは、決まっている。
「イージスは砕けない。それに任せた猪突猛進さが貴女の敗因ですよ」
視線に憂いが灯る。
それと同時に、彼女はギフトカードから一振りの銅剣を取り出した。
それが何なのかを悟った瞬間、アルマは絶望的な悲鳴を上げた。
『っ、いけないッ!!』
一直線に腹部を貫くはずだった突進は、その銅剣を避けるかのように体を反らして滑って行く。
乾竹割りに一刀両断するつもりだった銅剣は、最強の楯の腹部を裂く偉業をなす。
敵対していた両者は、互いが必殺の念を込めて振りかぶった一撃を外したことに舌打ちを漏らした。
フェイスレスもまた、今の一撃で勝負を付けるつもりだったのだ。
だが、ラッテンにとってはそれどころでは無かった。
「グッ…………ガバッゴハ、ガアアアアァァァァァァァ!?」
「マスター!?」
ラッテンは血を吐きながらのたうち回る。
全身が引き裂かれるような痛みに襲われていた。
人型になったアルマが声を掛けるが反応する余裕も無かった。
どうして人型になったのか、どうしてアルマの体から
「ッ、しまった。そういうことですか。その神剣_____”天叢雲剣”はマスターにとって致命的な存在ということですか」
ラッテンを庇うようにしてフェイスレスの前に立つアルマ。
神剣の名に反応する余裕もラッテンには無い。
何故なら今の彼女は存在そのものが危うくなっているのだから。
「えぇ、どうやらその様ですね。周囲全ての異能や
その権能はまさしくラッテンにとって致命的だった。
恩恵によってその身に宿した異能や霊格を、不能にする。
それはつまり、ラッテンをこの世に繋ぎ止めている術すら無効化しているという事だ。
そうなれば彼女の体が崩壊していくのは必然だ。
もはや、太刀打ちするどころか勝負を続けることすら不可能かと思われた。
その時、アルマとフェイスレスの間に何かが転がってきた。
それに二人が気付いた時には破裂し、大量の煙を吐き出していた。
「煙幕ですか…………ッ、ぐぶ__ッ!?」
煙に気を取られた隙を付くかのように煙を突き破って蹴りが放たれる。
いきなりの事に対応し切れずに蹴りはフェイスレスの腹に突き刺さる。
フェイスレスはそのまま耐え、踏み留まろうとはせずに背後に自ら跳ぶことでダメージの軽減を試みる。
「悪魔を舐めんじゃないわよ」
ラッテンは口に溜まった血を吐き捨て、口元の血を拭いながら呟く。
全身を襲う激痛はまだあるが、耐えて立っているのだった。
アルマが支えるように背中に手を添えるとラッテンは吹き飛んだフェイスレスを指差す。
「とりあえず範囲外まで逃げるから時間稼ぎよろしく」
「分かりましたよ」
囮扱いではあるが、今ラッテンに消えられてはアルマも困るので苦笑しながら引き受ける。
ラッテンは壁に持たれ掛かりながら歩いていく。
隠し持っていた煙玉を使い、フェイスレスに蹴りを入れるまでは良かったがそれはそれで無茶をしているのは確かだった。
体を引きずるようにしてその場を離れていく。
アルマはその姿を見ながら溜息を吐く。
呆れたような表情をしながらフェイスレスを先に行かせない為にも立ち塞がる。
フェイスレスは咳き込みながら立ち上る。
その姿からアルマは”天叢雲剣”のリスクを察するのだった。
煙が晴れ、フェイスレスとアルマは向き合う形になる。
フェイスレスは、真っ直ぐアルマを見て剣を構える。
アルマは斬られた腹部を押さえながら仁王立ちし、冷や汗を掻きながらも不敵に笑う。
「マスターの蹴りがそれなりに効いたようですね。私を置いて、マスターを追ってもいいんですよ?」
「意地悪な物言いですね、山羊座の女神。この神剣は周囲にある全ての神秘を断ち切る権能。それは使用者である私も例外ではない」
そう___即ち、所有者であるフェイスレスもまた霊格が減衰し身体能力が只の少女のものに成り下がっているのだ。
ゆえに先程悪魔の膂力を持つラッテンの蹴りが耐えれずに吹き飛ばされ、咳き込む程にダメージを受けていた。
しかし、女王騎士である彼女には霊格を失って尚、卓越した剣技がある。
先程のはあくまで虚を付いて不意討ちが出来たからこその結果である。
この状況で彼女を倒すには、彼女以上の技量を持つ者が圧倒してみせるしかない。
(それはあくまで正面から相手をした場合の話。マスターならあの手この手足掻くでしょう。とはいえ、私も私でやれる事はやりますか)
武芸百般とまでは言わないが、アルマティアもかなり高度な武術を修めている。
それでもフェイスレスに勝てるかどうかは怪しかった。
それでも、時間稼ぎで済まさずに自分で片付ける程度には気合いをいれてアルマはフェイスレスに挑む。
らしくは無いと思っていた。
共有する記憶に影響されたのかもしれないが今は構わなかった。
笑みを浮かべながらアルマは仮面の騎士に向かっていく。
ラッテン&アルマvsフェイスレス一色でした!
後方支援型がフェイスレスと戦えてるのはあえて接近戦を仕掛けた上で随所で搦め手使う事で罠を警戒させて深く切り込まれるのを防いでいるからです
接近戦出来るのは大体アルマのおかげです
それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます!