今回で第一部完です
______フェイスレスは、朦朧とする意識の中でラッテンの行方を捜していた。
アルマには勝利した。
が、殺してはいない。
勝負を見届けさせる為に足の腱を斬るに留めた。
”天叢雲剣”のリスクはあれだけでは無い。
使用時間が長ければ長いほど、ゴーストナイトである彼女が箱庭にいられる時間が擦り減ってしまうからだ。
ラッテン程致命的では無いが消耗はあるのだ。
(本当に何をやっているんでしょうね、私は)
心の中で思いながら自嘲する。
決闘するまではらしくは無いとはいえ許容範囲だ。
だが、因縁の相手でも無いラッテン相手に”天叢雲剣”を使うのは明らかにおかしい。
手としては有効だ。
それは確かにある。
けれど、わざわざ自身が箱庭にいる時間を擦り減らしてでも使う意味があったかと言えば別だ。
確かにラッテンは気に入らない。
因縁の相手、自身の双子になるはずだった存在。
それを見付けることすら出来ずに女王とのゲームの期限が迫り、半ば自棄になっていた部分もあった。
心の中で諦めていた部分もあった。
自身の事をろくに理解もしてないラッテンがずけずけと踏み込んで分かった様な事を言ってくるのにイラついたのも事実だ。
それでも、それでも、幾ら理由を並べようが此処までの事になる理由は見当たらなかった。
まるで、何か
頭を押さえながら考えていると鍾乳洞、否、鉱山そのものが大きく揺らいだ。
それによって鍾乳石が天井から落ちてくる。
「______ッ」
笛の音が聞こえて来たのはその時だった。
相変わらず不意を狙ってくる。
とはいえ、フェイスレスは別に警戒を解いているわけではない。
何が起きようが対処するつもりだった。
そして、予想通り風が吹き始める。
笛の音に共鳴するように風は捻じれ、落下する鍾乳石や岩石を包み込んでいく。
そのままフェイスレスに向けて鍾乳石や岩石が飛んでくる。
「ハッ!!」
フェイスレスは剛槍を振るい、それらを撃ち落していく。
風に包まれる中で視界の端にラッテンを捉えた。
ラッテンはハーメルケインを口から離し、声を上げる。
「”ノーネーム”所属、ラッテン。最後になるだろうし、名前を教えてくれる?」
「”女王騎士”所属、…………………………
一瞬躊躇う様にしながらも名乗った。
ラッテンは名を聞いた途端に苦笑するがすぐに気を取り直してハーメルケインを口に添える。
すると、風が更に強まった。
まるで、フェイスレスを拘束するような暴風だった。
風の種自体はラッテンにとっては簡単だった。
風を起こす恩恵を宿した宝珠を遠隔で軌道させてるに過ぎない。
ラッテンの左腕の義手の掌にはギフトカードが仕込んである。
それを利用して接近戦で目を引きながら宝珠をばら撒いていたわけである。
更にアルマとも霊格を同調させたラッテンの霊格はそこそこ大きくなっている。
それにより、出来ることの幅も広がっている。
その一つが単純な音に魔力を乗せることだった。
髪飾りの硝子玉には宝珠起動用の式を刻んでいた。
その状態で弾く事によって音叉の様に宝珠と硝子玉が共鳴して起動するというわけである。
とはいえ、そこまで簡易化するとただ起動させるだけしか出来ない。
だが、今はハーメルケインによって遠隔で操作している。
そうする事で複雑な指示も出せるというわけだ。
岩陰に元々宝珠を仕込んでいたのでフェイスレスは罠の中に飛び込んできた事になる。
けれども、ある意味においては仕方ない事でもあった。
宝珠のサイズはビー玉と同じ程度である。
種も割れて無い状態でそれに気付けと言うのも酷である。
そして、風による拘束も囮に過ぎない。
「DeeeeeeeeeeeNNNNNN!!」
フェイスレスの背後からディーンが鋼の拳を放つ。
フェイスレスは風の拘束を引き離し、右に跳ぶ。
何か来るかまでは読んでいた。
「何故、鉄人形が……………」
ディーンが隠れているのは予想外だった。
それゆえに躱し切れなかった。
ディーンの拳はフェイスレスの左腕を掠めていく。
ディーンの巨体では鍾乳洞内を動けない。
それどころか、自重で足場が崩れていくはずだ。
そこまで、考えてディーンが小型化しているのに気が付く。
(しまった………………!!神珍鉄は巨大化するだけの恩恵じゃ無かった………………!!)
そう、ディーンは小型化も可能だった。
それを失念していた事を悔やみながら左腕を押さえる。
掠めた部分は鎧が剥がれ、血が流れていた。
だが、動かせない程では無い。
此処から先の展開は読めていた。
ゆえに武器を剛槍から持ち変える。
着地と同時に足元が崩れていく。
メルン三姉妹の力だろう。
此処までは分かっていた。
ラッテンのやりそうな手である。
だから、フェイスレスは弓に持ち変えていた。
ディーンが体の向きを変えて、二発目の拳を放つまでまだ時間はある。
倒れていく自分の体の軌道、風、その他諸々の計算を一瞬で終わらせて矢を放とうとした瞬間だった。
「がっ…………!?」
フェイスレスの視界が真紅に染まった。
頭が割れるような痛みを感じ、平衡感覚も狂う。
手で目を拭って夥しい量の血が眼球から流れているのを認識する。
おそらく耳からも血が流れているだろう。
しかし、フェイスレスには何が起きたか分からなかった。
「可聴域外音はもちろん知ってるわよね?」
「まさか…………………」
「そのまさか、可聴域外音に魔力を込めてあんたの脳に直接ダメージを与えさせて貰ったわ」
よく見ればラッテンの左手には風切り笛があった。
ハーメルケインによる演奏で風を巻き起こすという派手な行動はフェイスレスを拘束する以外にも意味はあったのだ。
その派手な行動に目を向けさせて左手の風切り笛で可聴域外音を奏でていたわけである。
こんな大きな隙をラッテンが見逃すわけが無く、ディーンと共にフェイスレスへ飛び掛かる。
フェイスレスはプライドも何もかも捨て去った。
こんな形で、こんな所で、ラッテンなどに敗れるわけにはいかないのだ。
フェイスレスはギフトカードに手を伸ばす。
「神秘を断ち切れ、”天叢雲剣”!!」
ギフトカードより再び神剣が引き抜かれる。
ディーンは二発目の拳を放つ前に自重に耐えられずに崩れていく。
ラッテンも再び全身が激痛に襲われ、多量の血を吐き出す。
たとえ、平衡感覚が狂っていようと騎士の勘は狂わない。
リーチと位置関係からしてフェイスレスが振り抜いてラッテンを斬り裂く方が速い。
そして、恩恵によって現世に繋がれているラッテンにとって”天叢雲剣”に斬られ、数日間霊格が回復しないのはチェックメイトに等しい事だった。
神剣を振り抜く直前にフェイスレスはラッテンの右手にハーメルケインが無い事に気付く。
(何処に_____ッ、)
気付いた時には手遅れだった。
ハーメルケインはギフトカードに収納される
つまり、収納し切る前にギフトカードの恩恵も無効化されたというわけだ。
ギフトカードに収納されるはずだった長物の質量が一気に解放される。
「カハ………ッ、!?」
一瞬で距離の優位も何も無くなる。
解放されたハーメルケインはフェイスレスの右腕を貫く。
そのまま、神剣を振り抜くよりも速く右腕を押さえる。
そこからフェイスレスがギフトカードに手を伸ばした瞬間に宙に放り投げていた風切り笛を掴み取り、フェイスレスの胸に突き刺す。
加減はせずに深々としっかりと刺す。
そうでもしなければ返す刀で真っ二つにされていただろう。
「まさか、”天叢雲剣”の恩恵をそんな風に利用するとは思いませんでしたよ」
「こんな物一度限りの手よ」
「………………私の負け、ですね」
「こんな勝ち方で悪いけど、私の勝利ね」
互いに苦笑しながら同時に崩れ落ちる。
両者共に限界だった。
それでも、致命傷かどうかの違いはあった。
フェイスレスは間違いなく致命傷を受けていた。
「これで貴女の主張を受け入れる事になるわけですが、死んではどの道意味が無いじゃないですか」
「それは悪かったわね。詫びに一曲サービスしてあげるわよ」
ラッテンは壁に凭れ掛かりながら、ハーメルケインを手に取り口に添える。
そして、フェイスレスに捧ぐ曲を奏でる。
◇◇◆◇◇
ラッテンの演奏は一時の夢をフェイスレスに見せた。
優しい父がいて、優しい母がいて、そして______姉妹のいる夢を。
籠の外の世界で、両親と姉妹と一緒に、何に縛られることも無く笑顔で走り回る光景。
ハロウィンの夢を、家族と共に見る。
それに加えて別の世界線の情景も何故か流れ込んできた。
違う形で”彼ら”と関わり、姉妹と争い、敗北した光景を。
まるで自身が敗れるのが世界の歯車のように感じて苦笑する。
◇◇◆◇◇
フェイスレスも壁に凭れ掛かりながら静かに演奏を聞いていた。
その頬には血とは別に透明の液体も流れ落ちていた。
「ご静聴ありがとうございました」
「此方こそ礼を言っておきます。最期に良い夢が見れましたよ…………」
その言葉を最期にフェイスレスは、久遠彩鳥は消えていった。
唯一つ_______彼女の魂を模したような、白銀色のギフトカードを残して。
それをラッテンが拾い上げると同時に_____閉幕を知らせる銅鑼が、舞台一帯に鳴り響いた。
◆◆◆◆◆
____ゲームのオチを話すのであれば。
優勝者は、二人分のギフトカードを確保したラッテンに決定した。
逆廻十六夜と門矢士はゲーム終了を無視して戦い続けた。
やがて、互いに体力が尽きたのか同時に倒れて引き分けに終わった。
それから、数日後士は忽然と姿を消した。
元々士は無所属であり、目的が一致していたから行動を共にしていた形だ。
おそらく旅に出たのだろう。
「俺もしばらく”ノーネーム”を離れるよ」
士に続く様に映司も軽い身支度をして旅に出た。
何でもクロアの依頼もあるようで止める者はいなかった。
同時にアンクも姿を消していた。
確実に映司の旅に同行したのだろう。
「あんたは旅に出ないのか?」
「さすがに俺まで離れるわけにもいかないだろ?それに、俺の旅は一区切り付いてるからな」
晴人は”ノーネーム”に残って霧崎達のサポートに回るようだ。
魔法は便利なのでサポートにはちょうどいい塩梅だ。
「仲介頼むはずの仮面の騎士も消えちゃったし、自力で女王に会いに行ってみるわ」
一番意外だったのはラッテンも旅に出ることだった。
彼女は白銀色のギフトカードを眺めながら届けないといけない物も出来たしね、と呟いていた。
「安心して、私はすぐに戻ってくるから」
明るくそう言って少量の荷物を持ってアルマと共に旅立った。
霧崎に対する視線に未練がたらたらだったので本当にすぐに戻ってくるかもしれない。
◆◆◆◆◆
そして、逆廻十六夜だが。
特に誰に告げるわけでもなく。
鞄一つ分の荷物を持って、名前も知らない川の岸で釣りなど嗜んでいた。
帰る場所が決まっているのだから、仰々しい別れなど必要無い。
ふらりと旅に出て、ふらりとまた戻る。
そういう生活を続けたくなったのだ。
しかし、その後を黒ウサギとグリーが大荷物を持って追い掛けていた。
二人の話を聞いて、十六夜は付いてくることを特に止めはしなかった。
旅は道連れ世は情けという。
ならば箱庭の何処までも付き合って貰おう。
「差し当たって夕食を確保するところから始めたいんだが…………この川は駄目だな。近くの街まで行こう。ひとっ飛び頼むぜ、
『ああ。此方こそよろしく、我が騎手よ』
「く、黒ウサギも忘れちゃいやですよ!!」
ヤハハと笑って手綱を握る。
黒ウサギが十六夜の後ろに座るのを確認すると、
空を踏みしめて走る彼は、追い風が来るのを確認して呼びかける。
『強い追い風が吹くぞ!!一気に飛ばすから掴まれ!!』
「おうよ、好きなだけ飛ばせ!!今なら世界の果てでも付き合うぞ!!」
「YES!!対岸の果ては未だ未知の領域と聞き及んでいます!!きっと素敵な土地もございますよ!!」
そりゃあいいと、三人は共に笑いながら天を翔ていく。
沈む夕日を大空から眺める。
天と地が左右対称になって染まるその絵は正に幻想の世界の物だ。
彼らは同じような景色を、あるいはこれ以上の景色を追い求め、幾度も見ることになるだろう。
時の果て、世界の果て、異世界の果てまで彼らの手は届くに違いない。
彼ら問題児たちが綴る神話は_______まだ、始まったばかりなのだから。
第一部完でした!
具体的に脳をどう傷付けたかはスルーで!
ネクストプロローグの前に幾つか短編挟む予定です
それでは、質問があれば聞いてください
感想待ってます!