「まだダメか。此処の環境が合わないってわけじゃないようだけど……………」
アスカ・シンはリーフラッシャーを見ながら呟くのだった。
箱庭に来てから何故か一回変身するとしばらくの間、変身出来なくなっていた。
理由が分からず、首を傾げながら使える様になるまで待つのだった。
◆◆◆◆◆
「そういえば、“これ”をコウメイから預かっていた」
「これは猫耳ヘッドホンか」
アカレッドは、クロアにコウメイから預かっていた猫耳ヘッドホンを渡した。
だが、クロアは理由が分からず首を傾げるのだった。
「これを私に渡してどうしろと?」
「十六夜君にでも渡しておけばいいんじゃないか?コウメイは[少しでも“ズレ”は修正しとくべきだ]とか言っていたが」
「“ズレ”の修正か。まぁ確かにどんな小さな“ズレ”だろうと消しておくにこした事は無いが………これでそうなるかどうか…………」
「まぁ、あいつが言うのだし試しておけばいいだろ」
「そうだな。霧崎君辺りにでも渡しておいて貰うか」
「直接私が渡すのは違う気がするからな」
「そういう物か」
言いながら二人は決戦への準備を進めるのだった。
◆◆◆◆◆
空中城塞・最上階のテラス。
夜明け前の風が吹き抜け、城の上に掲げられた旗印を揺らす。
あと一時間もすれば地平線から太陽が昇り、夜の終わりを告げるだろう。
召喚された時は主力コミュニティである三つの旗印しかなかったが、今は違う。
参戦を表明した全てのコミュニティの旗印が雄々しくなびいている。
何十もの旗印が最強の神殺しを前にして不退転を鼓舞する様は、壮観の一言に尽きる。
名を上げるのにこれ以上の効果があるだろうか。
正に一世一代、華の舞台と呼ぶに相応しいだろう。
なのにその旗印の戦列に…………一つ、足りない旗があった。
「………………」
黒ウサギは最上階のテラスに一人佇み、旗印を見上げていた。
柄にもなく少し寂しげな表情を浮かべる彼女は、柄にもない溜め息を吐いて柵にもたれ掛かっていた。
「…………これから命がけの大決戦だっていうのに、鼓舞できる旗が無い。締まらない話なのです。皆さんは、本当にそれでよろしいのですか?」
黒ウサギは視線をテラスの入り口に向ける。
逆廻十六夜、霧崎カブト、ラッテンの三人は、三者三様の表情を浮かべ頷いた。
「俺達は所詮“名無し”のコミュニティ。大舞台で命を賭けたとしても、後世に名を残すことは難しいだろうな」
「まぁそんな事は今更な部分があるしな」
「私的には名が売れようと、売れなかろうとどうでもいいけどね」
霧崎と一緒なら、とラッテンは付け加える。
霧崎は、首に下げていたカメラで旗印が並ぶ光景を撮る。
「まぁ人知れず戦うって事がどういう事かは、今ここにいない奴らが一番知ってるんだろうが」
十六夜が呟く。
名誉の為ではない戦い、為すべきを為し、討つべきを討つための戦い、それらを経験してる者達こそが今ここにいない士達なのだろう。
彼らは何時でも世界の敵と戦っていた。
街を守る為、後悔を繰り返さない為、友人を守る為、人を絶望から救う為、理由は様々だろう。
世界を巡り、悪魔と呼ばれようと戦いを続ける者もいる。
彼らが戦うのは正義の為では無い。
自由を守る為に戦うのだ。
実際に何をどうしたかは分からないが、見ていれば乗り越えた物の重さも伝わる物である。
「まぁ……今はあいつらがいないんだ。その分、俺達が戦うそれだけだ。言ってしまえば、これまで通りだしな。魔王を倒す為に旗揚げし直したのが今の“ノーネーム”だ」
「とは言っても、連盟旗が作れてたらとは多少は思うわね」
「連盟旗があれば、これに並べたもんな。タイミングが悪かったって事だな」
全くだ、と十六夜とラッテンも同時に頷く。
普段なら此処で黒ウサギが「ふざけてる場合ですかお馬鹿様!!」とハリセンをはしらせている所だ。
しかし、今の黒ウサギは少々過去をモノログしていた。
「そういや、ラッテン。義手になったようだが大丈夫なのか?」
「別に平気よ。急場凌ぎの物だけど、馴れてきたし、今まで通りに動かすくらいは出来るわよ」
十六夜に見せるように軽く左腕の義手を動かすラッテン。
出来がいい義手とはいえ、馴れるのがこうも速いのはラッテンの能力もあるのだろう。
「急場凌ぎって事はこの戦いが終わったら変えるのか?」
「そうよ~調整とかもあるけど、改造して色々と仕込んで貰う気よ」
「そりゃ楽しみだな」
ラッテンの言葉に霧崎は苦笑いし、十六夜は楽しそうに笑うのだった。
最終作戦まであと一刻ほどである。
それまではこうして英気を養うとしよう。
そこで霧崎はクロアから渡された物を思い出した。
「そういや、十六夜。これをお前に渡して置いてくれと頼まれてた」
「ん?ヘッドホンか?」
それは十六夜の持っていた物とよく似たヘッドホンだった。
ただし、ネコミミではあったが。
「…………おい、これを渡せと言ったのは誰だ。死神の奴か?」
「いや、渡せと言われたのはクロアさんだが用意したのは別らしい。確か…………コウメイだったか?」
「知らねぇ名だな。何だって俺にこんな物を渡そうと思ったんだ?確かに俺のと似てはいるが………」
「まぁまぁいいじゃない、そんな事は。それよりちょっと付けてみなさいよ、それ」
困惑する十六夜に対し、ラッテンが面白そうに言ってくる。
否、言った時には行動は開始されていた。
即座にヘッドホンを掠め取ると、十六夜の頭に装着させるのだった。
「いきなり何すんだよ!?」
「…………プッ、ハハハハ!!結構似合うじゃない!!霧崎もそう思うでしょ?」
「………まぁ…そうだな」
試しに付けさせた割りと似合っていて、ラッテンは逆に笑えてくるのだった。
ラッテンに聞かれた霧崎は、適当に流しはしたが意外に似合っているなとは思っていた。
「何をしているのですか、あなた達は……な…………な……………………!?」
騒がしい声を聞いて此方を向いた黒ウサギだが、ネコミミヘッドホンを装着した十六夜を見て、思考を真っ白にさせた。
抜群に似合っているその組み合わせに、黒ウサギの胸の奥から未知の衝撃が掘り起こされていた。
「な、何でしょう、この胸の高鳴りは……………!!ウサ耳代表としては断固として物申さねばならないはずのこの状況に、何故か身を任せてしまいたい自分がいるのです………!!こ、この未知の衝動は一体…………!!」
「それが萌えよ、黒ウサギ!!貴女も分かってきてるじゃない!!」
ラッテンは何故かノリノリであった。
ちなみに、箱庭事典:萌えとは、新芽が地より出でて生長する様子を指す。
それは即ち新世界を作り天地創造に繋がる新境地。
一種の宇宙観である。
「な、なんということでしょう……………黒ウサギも遂に己の宇宙観を手にするほどの悟りを開いたのですね……………!!しかしその切っ掛けがライバルであるネコミミとは、何という皮肉…………!!何という屈辱……………!!」
「何かよく分からないけどまぁいいわ!!それより、霧崎!!写真よ、写真!!」
「___分かったから、黒ウサギもラッテンもそろそろ異世界から帰ってこい」
呆れた様に溜め息を吐く十六夜。
霧崎はもうほとんどスルー状態である。
さすがにネコミミ十六夜の写真を、大量に撮る気は無かった。
十六夜は、こんな馬鹿な付き合いを何時までも続けられたらいいと、以前までの自分からは考えられない弛んだ思いがあった。
願えるのなら…………この戦いの後も、この日々が続けばいいと。
◆◆◆◆◆
一方、子供たちは仕事をしながら、その間に“ある話”をしていた。
それは希望の種であった。
「何の話をしているの?」
「映司さんや士さん、晴人さんから聞いた話を皆にしているんだ」
“ノーネーム”の子供達だけではない。
避難民の子供達へもその話は伝わっていた。
「映司さん達の世界にいたヒーローの話だよ」
「箱庭の外のヒーローの話なら僕もアスカっていうお兄さんから聞いた事があるよ」
話をする時の子供達はこんな状況であれ、明るかった。
その子供達を見て、周囲の大人達も少し心に暖かさを取り戻すのだった。
「映司さんが言っていたよ。こうやって、皆で手を繋いでいけば何時か何処までも届く腕になるって」
手を繋ぎ、微笑む。
それはまるで希望が繋がるようだった。
「大丈夫だよ。諦めなければ大丈夫なんだ」
「諦めなければきっと、どんな危機も乗り越えれるんだ」
“仮面の戦士”、“光の戦士”、“戦隊”、それ以外にも様々な“話”を聞いていた。
その“話”と城の上に掲げられた数々の旗印が子供達を支えているのだった。
◆◆◆◆◆
誰かが言った。
時代が求める時、“ ”は必ず甦る。
◆◆◆◆◆
____そして、長い夜が明けようとしていた。
三頭龍との最後の戦いが始まる。
次回より開戦!!
今回開戦まで行きたかったですがそれはそれとして。
広がる話の内容は色々とあります。
士、映司、晴人が知ってる範囲の話ではありますが。
話しているのは“ノーネーム”の子供達ではありません。
アスカから聞いたなどは別のコミュニティの子供達です。
士に関しても、それなりに箱庭を旅してるのでその影響もあります。
それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。