三頭龍は四つん這いのまま臨戦態勢に入っていた。
霧により、視界は不明瞭。
先に仕掛けられるのは主催者側のみ。
朝日さえ遮る霧の中では三頭龍でさえ、視界が不明瞭である。
奇襲を仕掛けるにはちょうど良すぎる。
三つの首は全包囲を常に確認し、ピット機関で熱も探知している。
が、予想外の方角から、大量の爆撃が三頭龍を襲った。
『___!?』
遥か上空から三頭龍めがけて大量の投榴弾が落とされていく。
命中精度は相当だ。
濃霧の中で、ピンポイントに狙いを付けてくるという事は、この瞬間も監視し続けている者がいるという事だ。
気配は無い。
明らかに何かの恩恵を行使した追跡者がアジ=ダカーハを監視しているのだろう。
三頭龍は姿を晒さない為にも瓦礫の中を走り回る。
主催者側に優秀なゲームメイカーが居るの感じていた。
だから、まずは敵の急所であるメイカー、そして追跡者を叩く事にするのだった。
人類の悪意の具現である彼はその知識量も人類の総決算に相当する量を与えられている。
微塵の悪意も無く使われる技術などこの世には存在しないからだ。
千の魔術に等しいと称された知識量を用いて模索する三頭龍。
考察が終わった彼は、突如として足を止めて姿の見えない追跡者に語りかけた。
『_____フム。しかし調べるまでも無かったな。ここまで完全に条件が符合する恩恵は一つしかない。そうだろう、ギリシャの英傑よ』
「っ………………!?」
右方向から僅かに漏れる僅かな悲鳴。
どうもどうやら術者の声を断ち切る事は出来ないらしい。
三つの頭と六つの瞳で一斉に睨んだ三頭龍は、挑発するように首をゴキリと鳴らす。
『どうした?私の首を獲らんのか?貴様の所有する鎌___星霊殺しのハルパーなら、万が一という可能性もある。そう考えて此処まで接近したのだろう?』
真ん中の首を伸ばして語りかけるアジ=ダカーハ。
逃げる事も出来ず、戦う勇気も無く、動くことすらままならない。
そんな彼_____“ペルセウス”の長ルイオスは、半ギレになって叫んでいた。
「_____おっせぇんだよ!!」
怒号一喝。
瓦礫の陰からまるで弾き出された様に飛び出た影が三つあった。
濃霧と追跡者に気を取られていた三頭龍は僅かに反応が遅れる。
街の造形は凡そ把握していた三頭龍だが、榴弾によって街の地形が変わり、崩れた煉瓦の陰が死角になっていた。
火龍達は闇雲に上空から攻撃していたわけではない。
主力である彼らが戦える場所まで誘導するように計算していたのだ。
「三頭龍、覚悟ッ!!」
叫んだのはアカレッド、フェイスレス、ジャックの三名。
三人は各々が鋭利な刃を持つ武器を手にして三頭龍に斬り掛かる。
共に右腕と左足の数ヵ所を裂傷させ、三頭龍を鮮血で濡らす。
『待ち伏せか_____小賢しい!!』
翼である龍影を嵐の様に激しく暴れさせる。
一撃でも当たれば、彼らの身体は砕け散るだろう。
ジャックは短剣と俊足で避け、フェイスレスは蛟魔王さえ舌を巻いた絶技で捌き、アカレッドは数々の“赤”の武器と能力で対処する。
アカレッドその場にいる全員に叫ぶ。
「血を流させる事には成功した!!全員、距離を取るんだ!!」
ルイオスを含めた全員が散開してその場を離脱。
すかさず追い打ちをかけようとした三頭龍。
しかし天空に輝く雷光が、三頭龍の追撃を阻んだ。
そこで三頭龍は己を襲う稲妻の霊格から帝釈天か考える。
そして、少しして己が一手遅れた事に気付く。
(分身を吐き出させることが目的というのなら、次の手段は間違いなく___)
「_____“霊格共鳴・四重奏”、重なり響け、我が演奏よ」
直後に“笛の音”が戦場に響き渡る。
その途端、三頭龍の上空は核熱にも等しい榴弾の雨によって覆われた。
やはりそう来たか、と三頭龍は身構える。
奇襲によって分身体を吐き出させ誕生した直後に大火力で包囲殲滅。
それが主催者側が取った作戦。
主力を温存する為に構築した一撃離脱のゲームメイクである。
千体の火龍が放出した気焔によって双頭龍は殲滅されていく。
三頭龍は龍影でそれを阻む。
散雨の様な榴弾の後に残ったのは、無傷のアジ=ダカーハだけだった。
上空からラプ子llを通して地上を確認していたラッテンと霧崎は、思わず口をヒクつかせる。
「………ったく、本当に化け物ね。あれだけ撃って傷一つ無いとか」
「まぁ分身体を殺れただけ十分だろ。化け物なのは初めから分かってる事だし」
「せんか!!すごいせんか!!らってんすごい!!」
ヒョコリ、とラッテンの胸の谷間から地精のメルンが歓声を上げる。
彼女一人だけ本拠に置いてくるわけにも行かず、空中城塞まで連れてきたのだが、それがちょうどよかった。
正直、彼女を戦いに参加させるのはどうかと思ったが、それはメルンの意思でもあった為にこの場に連れてきた。
彼女の存在も実は結構重要なのである。
ラッテン単体ならば疑似神格を付与するに近いレベルまでの強化は不可能なのだが、霊格を共鳴させる事で強引にそのレベルまで上げていた。
とはいえ、共鳴させるにはそれなりに繋がりが必要なので“契約”を結んでいる霧崎とその契約を用意したメルン及びディーンくらいしか今は共鳴出来ない。
共鳴するには、ある程度近くにいる必要があるのでラッテンの護衛役である霧崎はもちろん、メルンも此処にいるのだ。
ディーンは、さすがに火龍の背に乗れないので地上を火龍の動きに合わせて移動している。
ラッテンは、胸元のメルンを少しだけ撫でる。
「メルン、今はちょっと忙しいから大人しくしてなさい」
「わかった!!」
そう言って、メルンを谷間に押し込むのだった。
火龍の背に座る彼女の後ろに立つ霧崎が溜め息を吐く。
「共鳴とか言って、無理に霊格の力を引き出して大丈夫なのか?」
「別に、むしろ分散して軽いくらいよ?」
ラッテンは軽く答え、演奏を再開する。
霧崎はラッテンの代わりに次の指示を出していく。
「一次作戦は成功した様だ。榴弾で威嚇しつつ、地上の動きを待ってくれ」
『心得た!!』
『吸血鬼化した“サラマンドラ”の同志が間に合えば更なる攻勢に出られる。今は着実に敵の戦力を削ぐぞ!!』
おおと鬨の声を上げる火龍達。
彼らの言葉は一切分からないので霧崎は、ラプラスに通訳してもらって状況を把握する。
(………ったく、“禁人種”といい、何でそういう道を外れた力を手にしたがるのかね)
理由分かっている。
今回の戦いでは必要な事とも分かっている。
それでも、霧崎は“あの世界”を見たからこそ、そう思ってしまう。
全ての火龍が吸血鬼化するわけじゃない。
子持ち、老龍、マンドラだけだ。
戦いで勝利した所で彼らの試練はそこで終わらない。
ならばせめてこの戦いを穏便に勝ち抜けれたらいいな、と霧崎は思う。
そして、“守れる”だけの力を振るえない事を歯痒く思うのだった。
小さく祈る様に一枚、写真を撮る。
◆◆◆◆◆
一方、アカレッド、フェイスレス、ジャックは嫌がるルイオスを説得し、再度追跡を任せるのだった。
◆◆◆◆◆
カブトパワー!!
ザビーパワー!!
ドレイクパワー!!
サソードパワー!!
オールゼクターコンバイン!!
「はぁぁ!!」
パーフェクトゼクターに三つのゼクターを装着し、数十体の天使を一度に消し飛ばす。
「………天使が俺に一斉に押し寄せてきた理由はこれか」
周囲を見回すとまだ天使は残っていた。
だが、それだけだった。
“繭”は破られ、マクスウェルの姿が消えていた。
どうやら数十体………少なくとも五十体は越える数の天使が天道を一度に襲い掛かり、それを相手にしている内に姿をくらましたらしい。
とはいえ、行き先は大体分かっている。
近くで天使と戦う“者”には悪いが天道はマクスウェルを追い掛けるのだった。
◆◆◆◆◆
一方、空中城塞ではマクスウェルが中へと落下していき、大騒ぎになっていた。
そして、主力陣が迎え撃とうとしたその時、誰かが叫んだ。
「み、見ろッ!!空から………空から“契約書類”が___!!」
ハッと、全員が息を呑む。
それが意味をするのは二つしかない。
一つは新たなるゲームの開催。
新たなる魔王が出現したのだから、誰もがそう考えるだろう。
だが、違った。
“契約書類”の羊皮紙の下地に捺されている旗印は、誰もがよく知る証が刻まれていた。
“龍角を持つ鷲獅子”の旗印。
そこに記された内容に、誰もが戦慄した。
『ギフトゲーム “GREEK MYTHS of GRIFFIN”
上記のゲームがクリアされたことをお知らせします。
勝者:アジ=ダカーハ。
達成条件:宝の奪取。
主催者側の責任者・サラ=ドルトレイクは速やかに恩恵の授与に移行してください』
◆◆◆◆◆
「へぇ……これは大変だね。僕の方も急がないといけないかもね」
マクスウェルの襲来と“契約書類”に気を取られ、誰も“彼”の侵入に気付く事は無かった。
彼は彼で、決着を付けに。
そして、目的を果たす為に歩を進める。
開戦でした!!
原作とそう変わらない所はだいぶけずっていますが。
霊格共鳴に関しては霊格的に深い繋がりがある相手としか成立しません。
メルンや霧崎とは、ラッテンをこの世に繋げる為の契約などをしてますので条件を満たしています。
それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。