万象を撃ち抜くかのような、赤い閃光だった。
落下中だった良太郎、士、映司、晴人の前をNEW電王が操るデンライナーがレッコウと連結して走っていく。
この為に幸太郎は待機していたのだ。
レッコウの斧で凶刃の幾つかは阻まれる。
その隙にアンクが怪人態になって、駆け付け凶刃を炎弾などで弾き、良太郎をデンライナーに放り投げて回収させる。
ディフェンド、プリーズ!!
その間に晴人が防御の魔法を発動させる。
だが、凶刃はそれだけでは止まらなかった。
隙間を縫う様にして迫ってきていた。
そこに燃える様な瞳を宿した人影が彼らの前に現れる。
或いはそれは、本当に炎と情熱の化身だったのかもしれない。
衣服だけでなく髪と瞳も炎上し、地獄の住人かと見紛うような険しい横顔。
それが自分達の知るジャックだと、彼らは気付く。
「お前、ジャックか?」
「ええ。そうですよ、晴人殿」
晴人の言葉に頷きながらジャックは映司の方を見る。
「…………映司殿。最期に一つ、お願いがあります」
最期の願い。
それが比喩でも何でもなく、本当に最期の願いだと悟る。
映司が無言で頷くと、ジャックは何時かの陽気な笑顔で告げた。
「“ウィル・オ・ウィスプ”を…………あの子たちをお願いします。悲しい過去を持つ子たちです。だから貴方達の手で、正道に導いてあげてください」
「あぁ、分かった。約束するよ」
全てを覚悟した笑みに、同じ覚悟を込めた瞳で返す。
映司の脳裏には“あの時”助けられ無かった少女が浮かんでいた。
ジャックは安堵したように軽快な笑い声を上げた。
____ヤホホホホッ!!
全ての子供たちの福音を願う様に笑い上げる。
そのジャックの背に士が一言だけ言葉を掛ける。
「ジャック、お前は“悪”じゃない。世界の破壊者と呼ばれる俺が言うんだから間違いない」
士の言葉にジャックは一瞬驚いた様な反応をし、また一瞬微笑んだ様にも見えた。
直後にジャックは炎のスプリングで待大気を蹴る。
その姿は正に赤い閃光。
それは比喩ではない。
ジャックの虚空を蹴る速度は既存の最高速度_____第六宇宙速度にまで到達し、アジ=ダカーハの脇腹を深く抉り抜いた。
『ガァ!?』
三頭龍はこの戦いが始まって以来初めて、明確な苦悶を含んだ声を上げた。
今のジャックは純粋に速く、防ぎ切れぬほど鋭かった。
それを受けて三頭龍は、ジャックが魔王の領域に踏み込んだ事を察する。
そして、それは最悪な堕ち方だった。
主催者が無条件で有利になる様なルールを大量に盛り込む、そんな事を詩人以外がすれば、膨大なロジックエラーが発生し、数分も持たずにゲームその物が強制終了される。
加えて膨張した霊格は自壊し、死後も天界から罰を受け続ける事になる。
既に天軍による征伐対象にリストアップされていることだろう。
それらを全て振り切って、ジャックは二撃三撃と跳び回る。
「神罰は全て覚悟の上ッ!!この身は元より悪道を生きてきた!!ならばその悪道の果てに“絶対悪”を滅ぼせるというのならば本望ッ!!」
_____“悪を以て巨悪を討つ”。
ジャックは瞳でそう訴える。
幾ら士に“否定”されても、そうそう受け入れる事は出来ないのだ。
そんな様子を彼らは離れた所で見ていた。
映司はアンクに支えられて無事着地し、士は晴人が使ったグラビティの魔法で一緒に着地する。
ジャックの身体は星辰体となって光の粒子に酷似した存在になっていた。
膨大なエネルギーを得て、後は消費していくだけのものだった。
アジ=ダカーハが着地するまでに二百に近い傷が付けられた。
そして、着地してからも片翼による全方位殲滅を行うが、今のジャックには当たらなかった。
そのジャックに三頭龍が問う。
『………“悪を以て巨悪を討つ”。それは、貴様が地獄を見るのに値する願いか?』
「当然だ。だからこそこうして堕ちた。その代償が何であれ、私に後悔はない」
口元の血を拭って魔王に吠える。
全てを承知して、全てを投げ捨てた。
今日まで重ねてきた善行を。
積んできた信頼を。
向けられてきた笑顔の数々を。
もう二度と、素敵な道化師と呼ばれなくたっていい。
人生の幕を殺人鬼として終えても構わないという覚悟を決めて、ジャックは魔王になったのだ。
そして、三頭龍は問答を噛み締める様にする。
其処にどのような感情があったのかは定かではない。
三頭龍はその隙を攻める訳でなく静かに見定め、次に口にした言葉は…………とても、静謐な響きを含んでいた。
『よかろう。“ならば許す”』
「………なに?」
踏み込もうとした足が止まる。
何を突然と思うジャックに、三頭龍は理路整然と告げた。
『神の一人として、お前を許す。悪を討つのが悪であるなら、死闘の果てに残るのも悪しかない。……………それではあまりに救いがなかろう。故に私が、悪神として認めよう。お前の歩んだ軌跡にも一欠片の正義があったということを。この“絶対悪”に突きつけた刃の輝きを、この私が保証する』
それは静謐でありながら、これ以上ないくらいに力強い神託だった。
_____“我、絶対悪なり。故に、正義は汝に在り”。
踏み越えよ、我が屍の上こそが絶対正義である。
その人生がどれだけ血塗られていても。
今日までの輝きを手放したとしても。
今この一瞬にある汝の正義を保証すると、この悪神は告げたのだ。
破壊者に“悪”を否定され、悪神に“正義”と肯定された。
ジャックは生きていた頃の哄笑をあげる。
許されるはずの無い過去を他人として割り切り、俺と私はは違うものだと逃げ続けていたジャックは今、ようやく全ての己を統一する。
「今こそ我が王号を名乗ろう!!俺は魔王“南瓜の王冠”ッ!!大魔王アジ=ダカーハの心臓………このジャックが貰い受けるッ!!」
赤い閃光となった怪人が第六宇宙速度で駆け抜ける。
三頭龍は“絶対悪”の旗をなびかせ、静かな声で死刑宣告を告げた。
『“アヴェスター”起動。相剋して廻れ、“疑似創星図”…………!!』
同じく星辰体となることで迎え撃つ。
五分の戦いになった両者は共にお互いの身体を砕き合い、肉を抉り合う。
ジャックのゲームのタイムリミットは残り数秒も無かった。
星の光の如く駆け抜けたジャックはそのままの速度を維持したまま光の粒子となって散って逝く。
両者の戦いが終わった後に残ったのは、三頭龍のみ。
ジャックの霊格は一欠片も残さず消えた。
その証として_____悪神の心臓を剥き出しにして。
◆◆◆◆◆
その光景を彼らは見ていた。
何も出来る事無く見ていた。
士は罪と血で汚れた手を見て、映司とアンクは救えなかった各々別の少女を思い浮かべ、晴人は自ら置いてきた“指輪”とその“持ち主”を思い浮かべる。
各々が各々に辿ってきた道があり、物語があり、想いがあった。
そして、いつの間にか何処かへ消えていた天の道を行く男と怪盗もその光景を見ているのだった。
◆◆◆◆◆
別の所で霧崎もそれを眺めていた。
自らを犠牲にして道を開く様はかつての“記憶”を呼び起こす。
そんな霧崎に背中から手を回してラッテンは抱くのだった。
少しでも霧崎の気が晴れる様に。
◆◆◆◆◆
空中城塞の断崖絶壁。
「……………ジャック」
その戦いの全てを。
十六夜は無感情な瞳で見届けた。
時間にすれば一分にも満たない死闘。
ジャックが三頭龍に残した傷の数々は紛れもない、希望そのものだ。
だがそれでも。
十六夜は一言、血を吐く様に告げる。
「この…………この、大馬鹿野郎が…………!!」
ジャックは満足して逝ったのかもしれない。
霧崎達はその様を肯定するかもしれない。
しかし十六夜は彼を糾弾した。
それは何も己を犠牲にした事を糾弾しているのではない。
今日まで大事に積み上げてきたはずの人生の全てを、財産を台無しにした事に怒りを感じているのだ。
クロアは彼の肩を掴み、いさめるように首を振る。
「十六夜君。彼を責めたい気持ちは分かる。だが今はそんな場合ではない」
「…………分かってる」
有りっ丈の苦渋を奥歯で噛み潰し、十六夜はラプ子IVに視線を向ける。
「最終作戦決行だ。今度こそ、あの魔王を仕留める」
◆◆◆◆◆
ほぼ同時刻。
アカレッドは龍角の双頭龍、純白の双頭龍の相手をしていた。
出来るだけ血を流させない様に打撃技を中心に、それでいて確実にダメージを与えていた。
吹き飛ばされた双頭龍達は瓦礫の中に倒れている。
途中から何かを違和感があったが、今はその正体を察していた。
そこにラプ子から最終作戦決行の知らせを受ける。
「どうやら時間が無いらしい。最終作戦に置いて邪魔なお前達は“切り札”で片付けさせてもらう。どうやら“同士”の意思も此処にあったらしく、その残留も上手く使えるようだからな!!」
そう言ったアカレッドのマスクの奥にある眼光が強まった気がする。
何か危険な気配を感じ、双頭龍達は瓦礫から抜け出て警戒する。
だが、もう遅い。
何処からか流れてきた赤い粒子を吸収しながら構える。
すると、アカレッドの胸のバッジが輝き始める。
「“ソウル降臨”完全起動。受け継がれし赤の魂集り廻れ、“疑似創星図”………!!」
輝きが更に大きくなる。
アカレッドの体から幾つもの赤い光が放たれる。
光は人型となり、アカレッドの背後に並んでいく。
ジャック魔王化でした!!
“悪と正義”、罪、過去などは色々と思うところがあるのが多数。
アカレッドに関しては詳しくは次回ですが、オリ設定を加えていきます。
それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。