問題児と000と弱者の箱庭物語   作:天崎

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今回で十一巻終了です





灰と勇気と完全なる敗北

 

「ガジ=ザババザザヂダダバ。ボセゼバゼサボゲゲルロ、ロンザギバブググレサセスバ」

 

何かを感じた“彼”は呟き、雪山を進んで行くのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「オビション“ディンジュジョエオシュ”ショ。フォショフォショデョムフェフォブジョジョショエジョンジュジョフィ」

 

“植物”を使い、“戦い”を眺めていた“彼女”は楽しそうに呟くと姿を消すのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

箱庭であって、箱庭では無い何処か。

その奥底で佇む“それ”も何かを感じていたか。

 

「アジ=ダカーハは死んだか。まぁ予定の範囲内だ。計画に支障は無い」

 

「捕らえた分身体に関してはどうしましょうか?」

 

「一匹残して全てネオ生命体に吸収させるのだ」

 

少し離れた所で指示を待っていた大ショッカーグリードは、聞くや否や姿を消すのだった。

そのまま“それ”は何かを眺める様にしているのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

幻の街、ロンドンが砕け散る。

煉瓦の小道も尖塔群も跡形も無くなり、此処に至るまでの全てが夢か幻だったのではないかと誰もが錯覚を抱く。

だが、彼らの流した血潮と死の山河がこの戦いが現実だったことを雄弁に語っている。

時間にすると小一時間も無かったであろう攻防だった。

巨人族と“ウロボロス”が攻めて来たのが昨夜のこと。

それから三頭龍の復活、マクスウェルの強襲、アポロガイスト率いる軍団との戦い、そして再戦。

廃都となった“煌焔の都”は、二日振りに平穏を取り戻した。

まるで数年に渡る戦争をしたかのように面影もない。

もしも幸いなことがあるのだとしたら、散って逝った火龍たちが故郷の土で眠れるということぐらいだ。

 

(……………)

 

静寂が訪れた。

誰もが微動だにせずその光景を見守っている。

 

「さすがに魔力切れだな………」

 

晴人も魔力切れで起き上がる事も出来ず、地面に仰向けになりながら、その光景を見ていた。

 

「…………」

 

月龍の上で士は無言で十六夜の背を見ていた。

三頭龍の心臓には、黒ウサギの投げた槍が芯々と食い込んでいる。

その槍を握りしめる少年、逆廻十六夜の姿がある。

それが士の目の前にある光景だ。

それがどういう事なのか。

あの一瞬の攻防で何があったのか。

士はそれを見ていた。

士自身は何もしていない。

否、間に合わなかった。

だが、故に何があったのかを目撃していた。

三頭龍が自身の心臓を深々と貫いた槍を見て、感慨深く頷く。三つ首がそれぞれ違う物を眺める。

心臓を貫いた槍を。

満身創痍の主催者を。

そして、槍を握る逆廻十六夜を。

紅玉の瞳を細めた三頭龍は、してやられたとばかりに笑って頷いた。

 

『…………やられたぞ。まさか…………まさか、第六宇宙速度で飛翔する槍を、“受け止めよう”などと考える大馬鹿者が実在しようとは……………!!』

 

それは怪物の物とは思えないほど穏やかで晴れ晴れとした笑顔だった。

____発動した神槍を受け止め、三頭龍に生まれた僅かな安堵の隙を突く。

言うは易いが、投げる側も、受け止める側も、この一投に賭けた覚悟と勇気は並の物ではなかったはずだ。

或いは、黒ウサギの一投は逆廻十六夜を殺していたかもしれないのだから。

だが彼女はそんな懸念を微塵も感じさせない覚悟の一刺しで応じた。

そしてそれに応えようと十六夜は命を懸けた。

どちらの信頼が欠けても成り立つはずも無かった最高の不意打ちである。

 

「………っ……」

 

十六夜は奥歯を噛み締める。

倒れ落ちようとした三頭龍は、そこでふと、心臓を貫く槍を握る手が小刻みに震えていたことに気が付く。

今まさに滅ぼそうとしていた三頭龍は己を打倒した勇者に、最後の加護を授けるかのように手を握りしめて告げた。

 

『…………恥じることはない。知らぬならば此処で学べ。“その震えこそ恐怖だ”』

 

「っ、違うッ!!」

 

『違わぬ。そして忘れるな。恐怖に震えても尚、踏み込んだ足。____“それが勇気だ”』

 

違うと、駄々を捏ねる様に激しく首を振る。

そんな十六夜を見ながらも首の一つは、ある意味に置いて“同類”と言えなくも無い男に視線を向けていた。

士は三頭龍の最期の姿を写真に納める手を止めて、その目を合わせる。

だが、何かを言う前に、十六夜の声を最後まで聞くことなく炎上して灰となった。

純白の総身、三つの首、紅玉の瞳。

誰もが恐れたその姿は、まるで線香花火の炎の様に燃え上がって消えた。真紅の布地の“絶対悪”の旗印はその紋様を変え、封印の鍵となった本来の旗印_____自由を象徴とする少女と丘の旗印、“アルカディア”大連盟の物に書き換わる。

途端、火山が噴火したのではないかというような大歓声が起きた。

天地を揺るがす声は神仏だけではないのだと訴えるかのような雄々しい声が廃都を満たしていく。

生き残った事を素直に喜ぶ者。

仲間が生き残ってくれたことに涙する者。

喪ってしまった友を悼んで涙する者。

未来を達観して空を見上げる者。

 

「結局……やれた事は少なかったな」

 

三頭龍の最期の姿を撮り、今は人々の写真を撮っている霧崎が呟く。

返事は無い。

ラッテンは戦いが終わると気力も尽きたのか意識を失った。

今は霧崎に背負われている。

守れた物、守れなかった物を思いながら霧崎は写真を撮っていく。

 

「それでお前はこれからどうする気だ?」

 

「そうだな………お前も戻ってきたし…………」

 

アンクの問いに考える様にする映司。

抱えているレティシアを見て、結論を出す。

 

「黒ウサギちゃん……それにジャックさんとの約束もあるしな。しばらくは箱庭で暮らすかな。お前はどうするんだ?」

 

逆にアンクに聞き返す。

すると、アンクは何処か遠くの空を眺める様にしてから映司の方に向き直る。

 

「お前には借りがあるしな…………しばらく付き合ってやるよ」

 

「そうか…………ありがとな、アンク」

 

映司の言葉に、気に入らないといった感じで顔を反らすアンクだった。

千差万別の声が響き渡る中で、逆廻十六夜は月龍の背の上で、悔し涙を一滴流した。

 

「…………“違う”……………“違うんだ”、アジ=ダカーハ……………!!」

 

勝利を噛み締める主催者たちの声とは裏腹に、十六夜は悔恨の声を上げて泣いた。

その涙を知る者は、あの攻防に何があったのかを知る者だけ。

背を貸していた月龍_____蛟劉は、全てを見届けた龍の姿のまま優しい声音で告げた。

 

『……………それでも君は勝った。今はそれでええんよ』

 

自由の旗印を握りしめ、左胸を押さえる十六夜を、蛟劉は鬣を器用に操って慰める。

士も無言で十六夜の背を叩く。

雄々しい勝利の雄叫びが響く中、十六夜は何度も首を振ってそれを否定した。

万人が沸き立つ勝利の歓声の中で、彼らだけが知っていた。

十六夜の涙の訳を。

逆廻十六夜が経験した、完全なる敗北を。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

士は三頭龍が最期に伝えようとした事について考えていた。

“絶対悪”である三頭龍が“破壊者”である士に伝えようとした事。

完全には伝わっていないが、士は口の動きで少しは分かっていた。

 

_____“アレ”は違う。“アレ”は……

 

その先を言おうとして、三頭龍は灰となった。

何を伝えたかったのか、それは分からない。

 

「“何”が違うって言うんだ、アジ=ダカーハ。忠告なのかもしれないが………俺達は“アレ”とは必ず戦う事になる」

 

何時もの調子で呟く。

だが、何時もの調子なのは言葉だけで内心は自分が持つ“主催者権限”、そして“大ショッカー”の事を思い浮かべているのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

某所。

中年の男は戦場から離れた所で“戦い”を眺めていた。

 

「おのれ、ディケイド!!生きていたか!!だが、貴様はこの箱庭にいる限り、消える運命から逃れられないのだ!!」

 

叫び、声を響かせる。

そして、人の気配を感じると帽子を押さえ、銀色のオーロラへと消えていくのだった。




燃えて灰となって死ぬ…………オルフェノクか!?

…………という冗談は置いといて、エピローグでした!!
冒頭の謎言語については後々。
次巻が出ないと未定な部分もありますが。
十六夜辺りは獅子座の太陽主権云々推測出来ない事も無いですが、明確な事は分からないので。


それでは、質問があれば聞いてください。
感想待ってます。

次の更新は次巻が出てからになりそうです。
おそらく十二月辺りかと。
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